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特許7282801複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-19
(45)【発行日】2023-05-29
(54)【発明の名称】複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20230522BHJP
   G01N 30/46 20060101ALI20230522BHJP
   G01N 30/24 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
G01N30/86 F
G01N30/46 E
G01N30/24 M
G01N30/24 L
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020558419
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2019045240
(87)【国際公開番号】W WO2020105624
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018217157
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】秋枝 大介
(72)【発明者】
【氏名】野上 真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 巌
(72)【発明者】
【氏名】河原井 雅子
(72)【発明者】
【氏名】緒方 いずみ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸也
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-224559(JP,A)
【文献】特開2017-138248(JP,A)
【文献】特表2004-524518(JP,A)
【文献】特表2004-515770(JP,A)
【文献】特開2006-084308(JP,A)
【文献】国際公開第17/216934(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0033793(US,A1)
【文献】液クロ虎の巻 誰にも聞けなかったHPLC Q&A,筑波出版会,2001年11月22日,第8頁,Question 5
【文献】液クロ犬の巻 誰にも聞けなかったHPLC Q&A,筑波出版会,2004年12月10日,第145頁,Question 74
【文献】液クロ龍の巻 誰にも聞けなかったHPLC Q&A,筑波出版会,2002年11月30日,第42-43頁,Question 23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、
前記装置制御部は、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料と測定対象試料とが前記検出器によって検出され、前記データ処理部によって処理されたデータに従って、前記測定対象試料のピーク分離性能と、前記非保持成分試料の保持時間の変動に基づいて前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定するものであって、
出力部を備え、前記装置制御部は、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を前記出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフを有する分析装置。
【請求項2】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、
前記装置制御部は、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料が前記検出器によって検出され、前記データ処理部によって処理されたデータに従って、前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定するものであって、
前記データ処理部は、前記非保持成分試料の保持時間に基づいて、前記非保持成分試料が前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入されてから前記検出器までの容量を算出し、算出した前記容量と基準容量値との差分から補正値を算出し、前記装置制御部は、前記補正値に基づいて、前記非保持成分試料及び測定対象試料の前記複数の液体クロマトグラフへの導入タイミング及び前記データ処理部のデータ収集タイミングを調整し、
出力部を備え、前記装置制御部は、測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を前記出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフを有する分析装置。
【請求項3】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、
前記装置制御部は、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料と測定対象試料とが前記検出器によって検出され、前記データ処理部によって処理されたデータに従って、前記測定対象試料のピーク分離性能と、前記非保持成分試料の保持時間の変動に基づいて前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定するものであって、
出力部を備え、前記装置制御部は、前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料及び前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を前記出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフを有する分析装置。
【請求項4】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、
前記装置制御部は、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料が前記検出器によって検出され、前記データ処理部によって処理されたデータに従って、前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定するものであって、
前記データ処理部は、前記非保持成分試料の保持時間に基づいて、前記非保持成分試料が前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入されてから前記検出器までの容量を算出し、算出した前記容量と基準容量値との差分から補正値を算出し、前記装置制御部は、前記補正値に基づいて、前記非保持成分試料及び測定対象試料の前記複数の液体クロマトグラフへの導入タイミング及び前記データ処理部のデータ収集タイミングを調整し、
出力部を備え、前記装置制御部は、前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料及び前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を前記出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフを有する分析装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、
前記複数の液体クロマトグラフの1又は複数が接続される複数のクライアントPCと、前記複数のクライアントPCが接続されるサーバーPCとを備えることを特徴とする複数の液体クロマトグラフを有する分析装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、
前記検出器は、質量分析計であることを特徴とする複数の液体クロマトグラフを有する分析装置。
【請求項7】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフの分析方法において、
前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料と測定対象試料とを前記検出器によって検出し、検出したデータに従って前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定する分析方法であって、
前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフの分析方法。
【請求項8】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフの分析方法において、
前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料を前記検出器によって検出し、検出したデータに従って前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定する分析方法であって、
前記非保持成分試料の保持時間に基づいて、前記非保持成分試料が前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入されてから前記検出器までの容量を算出し、算出した前記容量と基準容量値との差分から補正値を算出し、前記装置制御部は、前記補正値に基づいて、前記非保持成分試料及び測定対象試料の前記複数の液体クロマトグラフへの導入タイミング及びデータ収集タイミングを調整し、
前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフの分析方法。
【請求項9】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフの分析方法において、
前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料と測定対象試料とを前記検出器によって検出し、検出したデータに従って前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定する分析方法であって、
前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料及び前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフの分析方法。
【請求項10】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフの分析方法において、
前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料を前記検出器によって検出し、検出したデータに従って前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定する分析方法であって、
前記非保持成分試料の保持時間に基づいて、前記非保持成分試料が前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入されてから前記検出器までの容量を算出し、算出した前記容量と基準容量値との差分から補正値を算出し、前記装置制御部は、前記補正値に基づいて、前記非保持成分試料及び測定対象試料の前記複数の液体クロマトグラフへの導入タイミング及びデータ収集タイミングを調整し、
前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料及び前記測定対象試料を前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入し、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力することを特徴とする複数の液体クロマトグラフの分析方法。
【請求項11】
請求項7から請求項10のうちのいずれか一項に記載の複数の液体クロマトグラフの分析方法において、
前記複数の液体クロマトグラフの1又は複数を複数のクライアントPCに接続し、前記複数のクライアントPCをサーバーPCに接続することを特徴とする複数の液体クロマトグラフの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ(LC、Liquid Chromatograph:LC)は、試料を分離する分離カラムに送出される移動相に液体を用いたクロマトグラフであり、測定対象を含む液体試料は移動相によって分離カラムまで送液され、分離カラムに充填された固定相と移動相との親和性の差を用いて試料に含まれる各成分に分離し、分離された各成分を、紫外・可視吸光光度計、蛍光光度計、質量分析計などの検出器を用いて検出する分析装置である。
【0003】
液体クロマトグラフの測定データは、試料の分離時間(保持時間)と、検出器の検出信号強度の関係を示すピークで表示され、保持時間はピークトップの時間であり、分析条件が同一であれば試料成分毎にほぼ同一の値を示すため、分離成分を同定するための情報として使用される。
【0004】
一方で検出信号強度は試料濃度と相関関係があり、分離成分の濃度を算出するための情報として使用され、液体クロマトグラフでは、分離された成分のピークの保持時間と信号強度で分離成分の同定と濃度を決定することを可能にする。
【0005】
高性能液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatograph: HPLC)と呼ばれる液体クロマトグラフは、分析時間の短縮や分離性能の向上を目的として、分離カラムの充填材の粒子径を小さくし、送液装置により高圧圧縮された溶媒を用いて分析を行うことを特長とし、HPLCの分析性能の向上と分析時間の短縮化を目的として、粒子径2μm以下の充填材を使用した分離カラムを用いた超高性能液体クロマトグラフ(UHPLC、 Ultra High Performance Liquid Chromatograph)と呼ばれる液体クロマトグラフもある。
【0006】
近年、HPLCやUHPLCに検出器として質量分析計(Mass Spectrometry: MS)を接続した液体クロマトグラフ質量分析計(Liquid Chromatograph-Mass Spectrometry: LC-MS)が生体試料中の薬剤成分や代謝物の測定などの臨床検査分野に使用される機会が増えている。このような測定目的とした分析では、より高い感度、再現性、スループット性能などが求められており、例えば特許文献1に記載されているような質量分析計を検出器とし、複数の液体クロマトグラフを並列接続させることでスループット向上を実現するシステムが提案されている。
【0007】
しかしながら、LC-MSシステムに求められるような送液流量が小さい送液条件で分析する場合には、同一構成の異なる分析装置間で目的試料の分離性能の差が機差として確認されることがあり、これら機差の主な原因は送液装置から検出器までの配管公差による容量のばらつきや、送液装置の送液性能の機差、高耐圧部品の消耗以外に、カラム間の性能差、分析装置の周囲環境の影響などが考えられている。
【0008】
前述したように、液体クロマトグラフにおいて保持時間などの分離性能は、分離成分を同定・定量するための情報として用いられるため、装置やカラム間の機差は存在しないことが望ましく、装置を安定して運用するために多くの場合、測定目的に応じて許容される機差または分離性能の差を設定し、その性能を達成できるように装置メンテナンスを実施、必要に応じて補正パラメータ等を設け、また分析結果からカラム交換タイミングを判断している。
【0009】
例えば、特許文献2には、装置間の保持時間のばらつきを補正する手段が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4372419号
【文献】特開2017-138248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、保持時間の機差を解決するひとつの手段として、分析条件に流路体積の差分や測定結果から算出される分離成分の保持時間の差分を入力し分析開始タイミングを調整しているが、この方法では流路体積の差分や測定結果からばらつきの原因を考慮せずに補正してしまうため、例えば高耐圧部品のシール消耗やカラムの性能変化等の改善すべきシステムの不具合を補正値に取り込んでしまう可能性を含んでいる。
【0012】
また、仮に装置が健全な状態で補正値を取得した場合でも、液体クロマトグラフシステムを使用する中で分離カラムの性能変化や装置の部品消耗により機差が発生するだけではなく、分離カラムの変更や装置の保守作業によって補正値が不適切になる場合も考えられる。
【0013】
そのため、機差を適切に管理し装置を運用するためには、補正値を適切な方法とタイミングで取得するだけではなく、分離カラム性能や装置状態を正確に把握し適切な状態を維持することが求められる。よって、使用者は分離カラムの分離性能の変化を継続的に監視し、分析結果の信頼性が失われるような分離性能変化が発生する前に適切なタイミングでカラムや消耗部品の交換を行い、必要に応じて補正値を更新することが望ましい。
【0014】
特に複数の液体クロマトグラフまたは液体クロマトグラフの分離部を並列に接続させたLCシステムでは、並列に接続された液体クロマトグラフ間の機差が存在すると、1つの測定装置内で異なる分析結果が出力される可能性がある。
【0015】
本発明の目的は、適切なタイミングで、分離性能等を判定して早期に分析性能を向上可能な複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成される。
【0017】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、前記装置制御部は、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料が前記検出器によって検出され、前記データ処理部によって処理されたデータに従って前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定する。
【0018】
試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフを有する分析装置において、前記装置制御部は、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料と測定対象試料とが前記検出器によって検出され、前記データ処理部によって処理されたデータに従って、前記測定対象試料のピーク分離性能と、前記非保持成分試料の保持時間の変動に基づいて前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定するものであって、出力部を備え、前記装置制御部は、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を前記出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力する
【発明の効果】
【0019】
また、試料が導入され、導入された試料を各成分に分離する分離カラムを有する複数の液体クロマトグラフと、前記液体クロマトグラフから送液された試料の成分を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出データを処理するデータ処理部と、前記液体クロマトグラフ及び前記検出器を制御する装置制御部とを備える複数の液体クロマトグラフの分析方法において、前記複数の液体クロマトグラフのいずれかに導入された前記分離カラムに保持されない非保持成分試料と測定対象試料とを前記検出器によって検出し、検出したデータに従って前記複数の液体クロマトグラフの装置状態を判定する分析方法であって、前記測定対象試料のピーク分離性能がピーク分離許容範囲内か否かを判定し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではない場合は、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内であれば、分離カラム交換指示を出力部に出力し、前記ピーク分離性能がピーク分離許容範囲内ではなく、前記非保持成分試料の保持時間の変動量が変動量許容範囲内でない場合は、装置メンテナンス指示を前記出力部に出力する。

【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明が適用されるLCシステムの全体概略構成図である。
図2】分離カラムに対して非保持成分の有無によるクロマトグラムの概略図である。
図3A】クロマトグラムの各ピークの保持時間について装置状態を判定するパラメータとして仮定した場合の概略図である。
図3B】クロマトグラムの各ピークの保持時間について装置状態を判定するパラメータとして仮定した場合の概略図である。
図4】分離カラムの非保持成分を添加し取得したクロマトグラムから装置状態を判定するプロセスの一例におけるフローチャートである。
図5】分離カラムの非保持成分を添加し取得したクロマトグラムから装置状態を判定するプロセスの他の例におけるフローチャートである。
図6】実施例2において装置間機差を補正する補正パラメータの取得プロセスのフローチャートである。
図7図6に示したフローチャートにより算出された装置容量の補正値を用いて試料注入タイミングを自動調整するプロセスについてのフローチャートである。
図8図7に示した自動調整プロセスをクロマトグラム上の概略として示した図である。
図9】実施例3の概略構成図であり、互に離れた場所に位置する複数のLCシステムがクライアントPC及びサーバーPCによって互いに接続される例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法の実施形態として前処理機能を有するLCシステムについて説明する。
【0022】
なお、本発明の実施形態は実施例に限定されるものではなく、例えば検出器として可視・紫外吸光度検出器やフォトダイオードアレイ検出器、蛍光検出器、質量分析計等を使用するなど、その技術思想の範囲において応用が可能である。
【実施例
【0023】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1が適用されるLCシステムの全体概略構成図である。
【0024】
図1において、LCシステムは、移動相を高圧送液する送液装置107、108、及び109と、試料導入部110、111及び112と、試料を各成分に分離する分離カラム113、114及び115から構成される複数のLCユニット(液体クロマトグラフ)101、102及び103を備える。また、LCシステムは、各LCユニット101、102、103の試料導入部110、111、112に試料を導入する試料分注機構104と、LCユニット101、102、103と流路で接続された切換バルブ105と、切換バルブ105の下流側に流路で接続された検出器である検出器106とを備える。検出器106は、LCユニット101、102、103から送液された試料の成分を検出する。
【0025】
また、LCシステムは、各LCユニット101、102、103、試料分注機構104、切換バルブ105、検出器106を制御する装置制御部116と、検出器106から出力された測定結果(検出データ)を処理するデータ処理部121とを備える。
【0026】
LCユニット101、102及び103と、検出器106とを接続する流路は設計上の配管容量が等しくなるように接続されている。試料分注機構104は、分離カラム113、114、115に対して非保持成分(保持されない成分)である非保持成分試料を測定対象試料に添加し調整した混合試料を試料導入部110、111、112から、LCユニット(液体クロマトグラフ)101、102、103の分析流路に導入し、導入された混合試料は分離カラム113、114、115にて化学的特性によって各成分に分離される。このとき、分離カラム113、114、115はカラム内温度を一定に保つためにカラムオーブンに収容されることがある。
【0027】
また、装置制御部116は、システム容量算出部117と、注入タイミング調整部118と、グラジエントタイミング調整部119と、保守タイミング判定部120とを備える。また、データ処理部121は、ピーク情報取得部122を備え、出力部123が接続されている。
【0028】
図2は、分離カラム113、114、115に対して非保持成分の有無によるクロマトグラムの概略図であり、縦軸は信号強度を示し、横軸は時間を示す。図2の(a)は、非保持成分を添加しない場合のクロマトグラムを示し、測定対象試料が分離カラムとの相互作用により分離した成分ごとの保持時間tR1及びtR2が検出器106にて検出される。
【0029】
これに対し、図2の(b)は非保持成分を添加した場合のクロマトグラムを示し、添加されたカラム非保持成分は分離カラムとの相互作用がないため流路及び分離カラムのデッドボリュームの体積を通過する時間(t)で検出される。
【0030】
このように、非保持成分は分離カラムと相互作用しないため、配管や分離カラムのデッドボリュームや溶媒の送液流量が変わらない限りは時間tや非保持成分のピーク形状は変化しないため、液体クロマトグラフの装置状態を判定するパラメータとして用いることができる。
【0031】
図3A及び図3Bは、クロマトグラムの各ピークの保持時間について装置状態を判定するパラメータとして仮定した場合の概略図である。図3Aは、使用時間の経過が異なり、経過時間ごとに測定した3つのクロマトグラムを示す。3つのクロマトグラムが示す測定結果は、測定対象試料の分離成分tの保持時間tR1が変動し、それぞれ異なっているが、非保持成分の分離カラムの通過時間tは3つのクロマトグラフで変動していない。これは、送液流量の変化や配管からの液漏れなどの装置側に問題があるわけではなく、分離カラムの性能が変化している可能性を示唆している。
【0032】
図3Aに対して、図3Bに示した例では、測定対象試料の分離成分tの保持時間tR1と非保持成分の通過時間tの全てが互いに変動しているため、送液流量の変化や配管からの液漏れなどの可能性があり装置のメンテナンスが必要であることが判断できる。なお、本願明細書においては、非保持成分の通過時間tは非保持成分の保持時間tとも表現する。
【0033】
図3A及び図3Bでは各ピークの保持時間及び通過時間を、装置状態を判断するための指標と仮定したが、それ以外のピークの分離情報、たとえばピーク面積や高さ、シンメトリー係数や理論段数など、を用いることでより正確な判定を実現することができる。
【0034】
図4は、分離カラム113、114、115への非保持成分(例えばウラシル)を測定対象試料に添加し、複数のLCユニット(液体クロマトグラフ)101、102、103のいずれかに導入し、取得したクロマトグラムから液体クロマトグラフの装置状態を判定するプロセスの一例におけるフローチャートである。
【0035】
図4において、分析開始の信号が、装置制御部116に入力される(ステップS401)。試料分注機構104は、分離カラム113、114、115に導入する測定対象試料に非保持成分を添加し混合試料を調整する(ステップS402)。このとき、混合試料の調整作業は、測定試料が収められた容器に非保持成分を添加し混合する方式や、測定試料と非保持成分を異なる容器に分注し混合する方法でも良い。非保持成分は、測定対象試料に対して、例えば10~20%でよい。
【0036】
混合試料の調整が終了した後に、混合試料は試料分注機構104により分析に必要な容量が計量され(ステップS403)、試料導入部110、111、112から分析流路へ導入される(ステップS404)。分離カラム113、114、115により各成分に分離された後に、検出器106にてクロマトグラムデータとしてデータ処理部121に出力され(ステップS405)、分析が終了する(ステップS406)。
【0037】
データ処理部121のピーク情報取得部122は、検出器106から出力されたクロマトグラムから保持時間を始めとする各成分のピーク情報を取得し(ステップS407)、装置制御部116は、それらの測定結果が設定されたピーク分離許容範囲内であるか(分離した成分ごとの保持時間tR1とtR2との分離時間が許容範囲内か否か等)を判定し(ステップS408)、許容範囲内であれば装置制御部116により次の分析へ移行される(ステップS409)。
【0038】
許容範囲の判定作業(ステップS408)においてピークの分離性能が許容範囲外であった場合は、装置制御部116は、添加した非保持成分の通過時間tが設定された許容値からのシフト量を確認する(ステップS410)。
【0039】
ステップS410において、装置制御部116は、通過時間(保持時間)tの変動量が、変動量許容範囲内であればLCユニット101、102、103の装置状態は正常と判断し分離カラム交換の指示を出力部123に出力(表示等)する(ステップS411)。
【0040】
ステップS410において、装置制御部116は、通過時間tの変動量が許容範囲外であった場合は、装置のメンテナンスの指示を出力部123に出力(表示等)する(ステップS412)。
【0041】
図4に示したプロセスでは、装置状態を監視する目的で非保持成分を添加する必要があり分析コストを増大させる要因の1つになる可能性がある。このため、通常の分析プロセスにおいては不要な試料であるカラム非保持成分は必要なタイミングでのみ添加されることが望ましい。
【0042】
図5は、図4に示したフローとは異なるフローによる装置状態を判定するプロセスのフローチャートである。
【0043】
図5に示した例は、測定対象試料のピーク分離性能が許容範囲外と判定された場合にのみ、カラム非保持成分を添加剤として用いた性能確認モードへ移行するプロセスである。このプロセスでは装置が正常状態であるとき、例えば、装置導入時や装置メンテナンスを実施した後に基準となる通過時間tを取得しておく必要がある。
【0044】
図5において、通常の分析プロセスでは非保持成分を添加しないため、装置制御部116から入力される分析開始信号が装置の各部に入力される(ステップS501)。試料分注機構104は分析に必要な容量の測定対象試料を計量する(ステップS502)。計量された試料は試料導入部110、111、112から分析流路へ導入されて分析が開始され(ステップS503)、分離カラム113、114、115により各成分に分離された後に検出器106にてクロマトグラムデータとしてデータ処理部121に出力され(ステップS504)、分析が終了する(ステップS505)。
【0045】
データ処理部121のピーク情報取得部122は、検出器106から出力されたクロマトグラムから保持時間を始めとする各成分のピーク情報を取得し(ステップS506)、装置制御部116は、それらの測定結果(ピーク分離性能)が設定された許容範囲内であるかを判定し(ステップS507)、許容範囲内であれば装置制御部116により次の分析へ移行される(ステップS508)。
【0046】
ステップS507において、ピーク分離性能が許容範囲外と判定された場合、LCシステムは、性能確認モードへ移行し(ステップS509)、試料分注機構104はカラム非保持成分を測定対象試料に添加し混合試料を調整する(ステップS510)。
【0047】
図5に示したプロセスでは非保持成分は必要に応じて添加するため、測定試料と非保持成分を異なる容器に分注し混合する方式が望ましい。試料分注機構104は調整された混合試料については分析に必要な容量を計量し(ステップS511)、試料導入部110、111、112から分析流路に導入されて分析を開始する(ステップS512)。
【0048】
そして、検出器106にてクロマトグラムデータとしてデータ処理部121に出力され(ステップS513)、データ処理部121のピーク情報取得部122においてピーク情報が取得される(ステップS514)。装置制御部116は、算出されたピーク情報から得られた通過時間tとあらかじめ取得し記憶しておいた基準となる通過時間tとを比較し変動量が許容範囲内か否かを判定する(ステップS515)。測定値となる通過時間tの変動量が許容範囲内である場合は、装置状態は正常であると判定しカラム交換の指示を出力部123に出力する(ステップS516)。
【0049】
ステップS515において、基準値の通過時時間tに対して測定値となる通過時間tの変動量が許容範囲外である場合は、装置状態が適切ではないと判断し装置メンテナンス指示を出力部123に出力する(ステップS517)。
【0050】
以上のように、本発明の実施例1によれば、測定対象試料のピーク分離性能と、非保持成分の通過時間の変動量とを判定して、分離カラムの交換指示、LCシステムの装置メンテナンスの指示を早期に適切に行うことができる。
【0051】
よって、適切なタイミングで、分離性能等の劣化を判定して早期に分析性能を向上可能な複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法を実現することができる。
【0052】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0053】
LCシステムは、実施例1と実施例2は同様な構成となっているので、図示及び詳細な説明は省略する。
【0054】
実施例2は、図1に示す複数のLCが接続されたLCシステムにおいて、LCシステムを構成する装置が正常であり、同じ種類の分離カラムにより分析を実施しているにもかかわらず発生する装置間の保持時間の機差を分離カラムの非保持成分の保持時間である通過時間tから補正する例である。
【0055】
補正パラメータは、装置が正常状態で取得する必要があるため、LCシステムの装置導入時またはメンテナンス実施後に取得するのが望ましい。
【0056】
図6は、実施例2において、装置間機差を補正する補正パラメータの取得プロセスのフローチャートである。
【0057】
図6において、補正パラメータ取得プロセスが開始されると(ステップS601)、装置制御部116は、補正パラメータ算出モードへ移行し(ステップS602)、試料導入部104は測定対象試料に非保持成分を添加し混合試料を調整する(ステップS603)。
【0058】
ステップS603にて調整された混合試料は補正パラメータ取得に必要な容量分を計量され(ステップS604)、試料導入部110、111、112から分析流路へ導入される(ステップS605)。そして、分離カラム113、114、115にて各成分に分離され、検出器106にてクロマトグラムデータとして検出されて(ステップS606)、分析が終了する(ステップS607)。
【0059】
データ処理部121は取得したクロマトグラムデータからカラム非保持成分の保持時間(通過時間)tを算出し(ステップS608)、分析に用いた送液流量Qを算出条件とした次式(1)を用いることで試料導入部110、111、112から検出部(検出器)である検出器106までの容量(VRS)を算出する(ステップS609)。容量VRSは、接続されたLCユニット101、102、103の機差を補正する必要があるため、各LCユニット101、102、103についてクロマトグラムを取得し算出する。補正パラメータVは、次式(2)を用いてあらかじめ装置構成と使用する分離カラムによって定められた容量の基準値Vと算出されたVRSとの差分から算出される(ステップS610)。
RS=t[min]×Q[mL/min] ・・・ (1)
=V[mL]-VRS[mL] ・・・ (2)
【0060】
装置制御部116により、算出された補正パラメータVは、あらかじめ設定された許容値と比較され許容範囲内か否か判定され(ステップS611)、許容範囲内の場合にのみ、パラメータ取得時に使用した分離カラムを用いた際の装置容量の補正値(補正パラメータ)として記憶され(ステップS612)、補正パラメータ取得プロセスを終了する(ステップS613)。
【0061】
ステップS611において、算出された補正パラメータVが許容値範囲外の値となった場合は、装置または分離カラムが不適切な状態にあると判断し、エラーが出力部123から出力される(ステップS614)。装置または分離カラムが不適切な状態の例としては、流路配管の接続ミスがある。
【0062】
図7は、図6に示したフローチャートにより算出された装置容量の補正値Vを用いて試料注入タイミング(試料導入タイミング)を装置制御部116により自動調整(制御)するプロセスについてのフローチャートである。
【0063】
図7において、分析開始の信号が入力されると、装置制御部116は分析開始準備として(ステップS701)、記憶された各LCユニット101、102、103の補正値Vの読み込みを開始し、補正値Vがあらかじめ設定されている仕様範囲内にあるかどうかを判定する(ステップS702)。
【0064】
ステップS702において、補正値Vが仕様範囲内にあると判定した場合は、試料導入タイミング補正の必要なしと判断し(ステップS703)、試料導入及びデータ収集を開始し分析を開始する(ステップS704)。
【0065】
ステップS702において、補正値Vが設定された仕様範囲外にあると判定した場合は、試料導入タイミングの補正が必要と判定し試料導入タイミングの補正プロセスを開始させる(ステップS707)。試料導入タイミングの補正プロセスでは、最初に補正値Vについて正負の判定を行い(ステップS708)、補正値Vが0より大の値である場合は、容量VRSは基準となるシステム容量よりも小さく保持時間tが早い時間帯に検出されていることを示しているため、試料導入タイミングを遅くし(ステップS709)、設定されたデータ収集の開始(ステップS710)した後に試料を導入する(ステップS711)。これにより、調整を実施する。
【0066】
ステップS708において、補正値Vが0以下の値である場合は、容量VRSは基準となるシステム容量よりも大きく保持時間tが遅い時間帯に検出されていることを示しているため、試料導入タイミングを早くして(ステップS712)、設定されたデータ収集が開始(ステップS714)される前に試料を導入する(ステップS713)。これにより、保持時間の調整を実施する。
【0067】
そして、ステップS704、S711、S714の終了後にクロマトグラムデータの取得が行われ(ステップS705)、分析が終了される(ステップS706)。
【0068】
本実施例2では試料注入タイミングを調整することで保持時間の機差調整を行っているが、送液装置107、108、109が送液溶媒の濃度比を変更しながら送液するグラジエント送液で動作する場合、グラジエント送液開始点(濃度比変更の開始点)を調整することで同じように保持時間の機差調整を実現することができる。
【0069】
図8は、図7に示した自動調整プロセスをクロマトグラム上の概略として示した図である。
【0070】
図8において、図8の(a)は、補正値Vが0を超える場合であり、図8の(b)は、補正値Vが0以下の場合を示す。
【0071】
あらかじめ設定された分析開始点801と分析終了点802と分析区間803に対し、補正値Vが0を超える場合は、試料導入タイミング804が分析開始点801よりも後に設定される。また、補正値Vが0以下の場合は、試料導入タイミング805が分析開始点801よりも前に設定されることで、保持時間の機差調整が実現される。
【0072】
本発明の実施例2によれば、非保持成分の通過時間tから、複数のLCユニット101、102、103間の保持時間の機差を補正するように構成したので、分析性能を向上することができる。
【0073】
よって、実施例1と同様に、適切なタイミングで、分離性能等の劣化を判定して早期に分析性能を向上可能な複数の液体クロマトグラフを有する分析装置およびその分析方法を実現することができる。
【0074】
なお、上述した実施例1と実施例2とを組み合わせることが可能である。つまり、実施例2に基いて、保持時間の機差を補正し、記載が補正されたLCユニットについて、実施例1のように、測定対象試料のピーク分離性能と、非保持成分の通過時間の変動量とを判定して、分離カラムの交換指示、LCシステムの装置メンテナンスの指示を行うことも可能である。
【0075】
また、本実施例2では分離カラム113、114、115を接続した状態で取得したカラム非保持成分の保持時間を補正値(補正パラメータ)Vとして用いているため、補正値Vには分離カラム113、114、115のデッドボリュームが考慮されているが、分離カラム113、114、115を接続しない状態で保持時間を取得することで分離カラム113、114、115のデッドボリュームを排除した装置固有の補正パラメータを算出することも可能である。
【0076】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0077】
図9は、実施例3の概略構成図であり、互に離れた場所に位置する複数のLCシステム(液体クロマトグラフ)910、923、928がクライアントPC及びサーバーPCによって互いに接続される例を示す図である。
【0078】
つまり、従来独立していたLCシステムに対してサーバーPC901と、複数のクライアントPC902、915を介在して、複数のLCシステム910、923、928を制御することで、実施例1によるLCシステムの状態確認および実施例2による機差の補正値を算出することが可能になる。
【0079】
本実施例3によるシステムでは、データを保管・共有するためのサーバーPC901に、独立したLCシステム910、923、928を操作するためのクライアントPC902、915が接続されており、クライアントPC902、915は複数のLCシステムを接続することも可能である。
【0080】
LCシステム910は、このLCシステム910を操作するための装置制御部903に接続され、LCシステム923及び928は、それぞれを操作するための装置制御部916に接続されている。
【0081】
また、クライアントPC902はデータ処理部908を有し、クライアントPC915はデータ処理部921を有する。LCシステム910は、移動相を送液するための送液装置911、測定試料を分析流路に導入するための導入部を有する試料分注機構912、測定試料を化学的特性に応じて各成分に分離する分離カラム913、分離した成分を検出する検出器914で構成されている。
【0082】
また、LCシステム923は、移動相を送液するための送液装置924、測定試料を分析流路に導入するための導入部を有する試料分注機構925、測定試料を化学的特性に応じて各成分に分離する分離カラム926、分離した成分を検出する検出器927で構成されている。
【0083】
また、LCシステム928は、移動相を送液するための送液装置929、測定試料を分析流路に導入するための導入部を有する試料分注機構930、測定試料を化学的特性に応じて各成分に分離する分離カラム931、分離した成分を検出する検出器932で構成されている。
【0084】
分離カラム913、926、931はカラム内温度を一定に保つためにカラムオーブンに収容されることがあり、検出器914、927、932は可視・紫外吸光度検出器やフォトダイオードアレイ検出器、蛍光検出器、質量分析計等を選択することができる。
【0085】
装置制御部903は、システム容量算出部904、注入タイミング調整部905、グラジエントタイミング調整部906、保守タイミング判定部907を有し、データ処理部908はピーク情報取得部909を有する。
【0086】
装置制御部916は、システム容量算出部917、注入タイミング調整部918、グラジエントタイミング調整部919、保守タイミング判定部920を有し、データ処理部921はピーク情報取得部922を有する。
【0087】
本実施例3によるシステム構成では、クライアントPC902、915が、実施例1と同様にカラム非保持成分を使用したシステム状態の確認プロセスや実施例2と同様に機差を補正するための補正値の取得プロセスと試料導入タイミングの調整プロセスを行う。また、サーバーPC901は、異なるクライアントPC902、915間で制御されるLCシステム910、932、928の測定データを保管すると共に、クライアントPC902、915がカラム交換や装置メンテナンスのタイミングを判定するのに必要な判定基準値、ピーク分離性能の許容範囲、通過時間tの変動量の許容範囲や、補正値を算出する際に必要な基準値Vを保管する。
【0088】
クライアントPC902、915は、分離カラム913、926、931の保持時間の機差を補正する補正値を算出する際に、サーバーPC901から基準値Vを取得し、補正値の算出を行い、試料分注機構912、925、930による試料導入タイミングや送液装置911、924、929によるグラジエント送液の開始タイミングを調整することで保持時間の調整を実施する。
【0089】
また、クライアントPC902、915は、サーバーPC901から、カラム交換や装置メンテナンスのタイミングを判定するのに必要な判定基準値、ピーク分離性能の許容範囲、通過時間tの変動量の許容範囲を取得し、カラム交換や装置メンテナンスの指示を行う。カラム交換や装置メンテナンスの指示は、データ処理部908、921に接続された出力部により行う。図9には図示していないが、図1に示した出力部123と同様な出力部がデータ処理部908、921に接続されている。
【0090】
以上のように、本発明の実施例3によれば、互に離れた場所に位置する複数のLCシステム910、923、928のクライアントPC902、915が、サーバーPC901に接続され、サーバーPC901に保管されたカラム交換や装置メンテナンスのタイミングを判定するのに必要な判定基準値、ピーク分離性能の許容範囲、通過時間tの変動量の許容範囲や、補正値を算出する際に必要な基準値Vを用いて、保持時間の調整等を行うように構成されている。
【0091】
したがって、互に離れた場所に位置する複数のLCシステム910、923、928で統一した許容範囲等により、分離カラムの交換指示等を行うことができ、互に離れた場所に位置する複数のLCシステム910、923、928において、適切なタイミングで、分離性能等の劣化を判定して早期に分析性能を向上可能となる。
【0092】
なお、複数のLCシステム910、923、928のそれぞれが、別箇のクライアントPCに接続されていてもよいし、任意の複数のLCシステムが一つのクライアントPCに接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
101、102、103・・・LCユニット、104・・・試料分注機構、105・・・切換バルブ、106・・・検出器、107、108、109、911、924、929・・・送液装置、110、111、112・・・試料導入部、113、114、115、913、926、931・・・分離カラム、116、903、916・・・装置制御部、117、904、917・・・システム容量算出部、118、905、918・・・注入タイミング調整部、119、906、919・・・グラジエントタイミング調整部、120、907、920・・・保守タイミング判定部、121、908、921・・・データ処理部、122、909、922・・・ピーク情報取得部、123・・・出力部、901・・・サーバーPC、902、915・・・クライアントPC、910、923、928・・・LCシステム
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9