(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ガラス基体および車載表示装置
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20230523BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20230523BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G09F9/00 302
C03C15/00 Z
C03C19/00 Z
G09F9/00 313
G09F9/00 362
(21)【出願番号】P 2019093387
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】玉田 稔
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰宏
【審査官】新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064874(JP,A)
【文献】特開2017-129827(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208995(WO,A1)
【文献】特開2018-005964(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049958(WO,A1)
【文献】特開2017-165643(JP,A)
【文献】特開2018-197183(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207555(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/00
C03C 15/00
C03C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の主面、前記一対の主面に対して直交する方向に沿って配置された端面、及び前記主面と前記端面との間に配置された接続面を有するガラス基体であって、前記接続面は複数のポアを有し、前記ポアは、前記主面より20μm離れた部分での50%粒子径と前記端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差が10μm以下であるガラス基体
を用いた印刷層付きガラス基体であって、前記接続面が存在する側の主面及び前記接続面の少なくとも一部に印刷層が設置されており、前記印刷層の外周端の少なくとも一部は前記接続面にあり、前記外周端の直線性が100μm以下である、印刷層付きガラス基体。
【請求項2】
前記主面と前記接続面の成す角度が40度以上55度以下である、請求項1に記載の
印刷層付きガラス基体。
【請求項3】
前記主面と前記接続面の境界曲線の曲率半径Rが350μm以下である
、請求項1または2に記載の
印刷層付きガラス基体。
【請求項4】
前記接続面の表面に存在するポアの粒子径の分散が5μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
印刷層付きガラス基体。
【請求項5】
前記ポアの90%粒子径が10μm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の
印刷層付きガラス基体。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか1項に記載の印刷層付きガラス基体を用いた機能層付きガラス基体であって、前記印刷層が設置されている側と反対側の主面と前記端面の間に第2の接続面を有し、前記第2の接続面は複数のポアを有し、前記ポアは、前記反対側の主面より20μm離れた部分での50%粒子径と前記端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差が10μm以下であり、前記反対側の主面と前記第2の接続面の少なくとも一部には機能層が設置されており、前記反対側の主面の機能層と前記第2の接続面の機能層の
下記式によって表される色の差
ΔEが0以上10以下である機能層付きガラス基体。
ΔE=√[(Δa
*
)
2
+(Δb
*
)
2
]
ここで、
Δa
*
は、前記機能層が設置された前記主面と前記機能層が設置された前記接続面とのa
*
の差であり、
Δb
*
は、前記機能層が設置された前記主面と前記機能層が設置された前記接続面とのb
*
の差である。
【請求項7】
請求項
1~5のいずれか1項に記載の印刷層付きガラス基
体が設置された車載表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基体および車載表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表示装置においては、液晶パネル等の表示パネルを保護するためのカバー部材が用いられている。
【0003】
表示パネルの視認性の向上のために、カバー部材には反射防止層や防汚層などの機能層が設置されることが多い。
また、意匠性の向上や配線の隠蔽のために、カバー部材の外周部には遮光層が設置されることが多い。
【0004】
ところで、自動車等の車両には、カーナビゲーション装置などの車載表示装置や、リアシート用車載表示装置(具体的には、リアシートの乗員が映像等を視聴するためのリアシートエンタテインメント(RSE)装置)が搭載されている。RSE装置は、フロントシートの背面側に取り付けられて使用されることが多い。
【0005】
これらの車載表示装置においても、表示パネル保護の観点から、カバー部材が設けられており、近年では、質感の観点から、フィルム製のカバー部材ではなく、ガラス製のカバー部材の使用が望まれている。
【0006】
車載表示装置のカバー部材として使用されるガラス基体には、安全性の観点から、車両の衝突事故などの交通事故が発生したときに、乗員の頭部等が衝突しても割れないほどの高い耐衝撃性が要求される。
特に、カバー部材の主面に対して垂直方向ではなく斜め方向から、乗員の頭部が、カバー部材の端部に衝突した場合、この端部を起点として、カバー部材に割れが発生する場合がある。
【0007】
特許文献1では、主面と側面の間に配置された境界面が複数の凹部を有し、上記凹部の底部の曲率の頻度分布における最大曲率の頻度が3%未満であるようにすることで、斜め方向からの衝突に対する端部耐衝撃性を高められることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この技術を適用した場合、以下の問題があることを、本発明者らは見出した。
すなわち、上記特許文献1に記載の技術を適用したガラス基体の主面の外周部および境界面に印刷層を設置した場合、印刷層の外周端の直線性が悪化し、外観を損なう場合があることを見出した。
【0010】
また、上記特許文献1に記載の技術を適用したガラス基体の主面および境界面に、機能層を設置した場合、機能層が設置された主面と、機能層が設置された境界面の色味が異なり、外観を損なう場合があることを見出した。
【0011】
したがって、本発明は、斜め方向からの衝突に対する端部耐衝撃性を高め、かつ印刷層または機能層の外観も向上するガラス基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。
すなわち、一対の主面、上記一対の主面に対して直交する方向に沿って配置された端面、及び上記主面と上記端面との間に配置された接続面を有するガラス基体であって、上記接続面は複数のポアを有し、上記ポアは、上記主面より20μm離れた部分での50%粒子径と上記端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差が10μm以下であるガラス基体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、斜め方向からの衝突に対する端部耐衝撃性を高め、かつ印刷層または機能層の外観も向上するガラス基体を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は従来例における接続面付近の構成を例示したものである。
【
図3】
図3は接続面と主面の角度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本実施形態に至った経緯についてさらに詳しく説明する。本発明者らは、特許文献1に記載の技術を適用したガラス基体の主面の外周部および境界面に印刷層を設置した場合、印刷層の外周端の直線性が悪化し、外観を損なう場合があることを見出した。
また、上記特許文献1に記載の技術を適用したガラス基体の主面および境界面に、機能層を設置した場合、機能層が設置された主面と、機能層が設置された境界面の色味が異なり、外観を損なう場合があることを見出した。
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の要因を推定した。
すなわち、特許文献1に記載の技術を適用したガラス基体の主面および境界面に印刷層を設置した場合、上記境界面の一部が平滑すぎるため、上記印刷層の外周端とガラス基体との接触角が低下し、上記境界面を印刷層の外周端の一部が滑落することで直線性が損なわれると推定した。
【0017】
また、特許文献1に記載の技術を適用したガラス基体に機能層を設置した場合、上記ガラス基体の境界面の一部が平滑すぎるため、上記機能層が光学干渉を起こし、主面と境界面の色味が異なるようになると推定した。
【0018】
一方で、境界面が粗すぎると斜め方向からの衝突に対する端部耐衝撃性が低下してしまう。
【0019】
本発明者らは、上記推定に基づき、以下の技術によれば、斜め方向からの衝突に対する端部耐衝撃性を維持し、かつ印刷層または機能層の外観も向上できることを見出した。
すなわち、一対の主面、上記一対の主面に対して直交する方向に沿って配置された端面、及び上記主面と上記端面との間に配置された接続面を有するガラス基体であって、上記接続面は複数のポアを有し、上記ポアは、上記主面より20μm離れた部分での50%粒子径と上記端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差が10μm以下であるガラス基体である。
【0020】
上記主面と上記接続面の成す角度は40度以上55度以下が好ましい。この範囲にあれば、印刷層の直線性をより向上できる。
【0021】
上記主面と上記接続面の境界曲線の曲率半径Rは50μm以上350μm以下が好ましい。この範囲にあれば、印刷層の直線性をさらに向上できる。
【0022】
上記接続面に存在するポアの粒子径の分散は1μm以上5μm以下が好ましい。この範囲にあれば、端部耐衝撃性のバラツキを抑制できる。また、機能層の光学干渉が低減され、主面と接続面の色の差が低減できる。また、ポア径がそろいすぎることによって散乱光が配向することを低減できる。
【0023】
上記ポアの90%粒子径は10μm以上が好ましい。この範囲にあれば、端部耐衝撃性のバラツキをさらに抑制できる。
【0024】
以下、本実施形態にかかる各構成について、詳細を説明する。
【0025】
(ガラス基体)
ガラス基体として用いられるガラスとしては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスからなる基体が挙げられる。
【0026】
ガラス基体の組成は、成形や化学強化処理による強化が可能な組成が好ましく、ナトリウムを含んでいることがより好ましい。
【0027】
ガラス基体の組成は特に限定されず、種々の組成を有するガラスを使用できる。例えば、酸化物基準のモル%表記で、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスが挙げられる。
(i)SiO2を50~80%、Al2O3を2~25%、Li2Oを0~20%、Na2Oを0~18%、K2Oを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%、Y2O3を0~5%およびZrO2を0~5%含むガラス
(ii)SiO2を50~74%、Al2O3を1~10%、Na2Oを6~14%、K2Oを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrO2を0~5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス
(iii)SiO2を68~80%、Al2O3を4~10%、Na2Oを5~15%、K2Oを0~1%、MgOを4~15%およびZrO2を0~1%含有するガラス
(iv)SiO2を67~75%、Al2O3を0~4%、Na2Oを7~15%、K2Oを1~9%、MgOを6~14%およびZrO2を0~1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71~75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
【0028】
ガラス基体の製造方法は特に限定されない。所望のガラス原料を溶融炉に投入し、1500~1600℃で加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造できる。なお、ガラス基体の成形方法は特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等を使用できる。
【0029】
ガラス基体の強度を高めるために、化学強化処理を施すことが好ましい。
化学強化処理を施す場合は、後述する面取りおよびエッチング処理の後に行うことが好ましい。
【0030】
化学強化処理の方法は特に限定されず、ガラス基体の主面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、基体の主面近傍のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス基体の主面に圧縮応力が残留し、ガラス基体の強度が向上する。
【0031】
ガラス基体は、以下に示す条件を満たすことが好ましい。なお、このような条件は、上記した化学強化処理を行うことで満足できる。
すなわち、ガラス基体の表面圧縮応力(以下、CSという。)は400MPa以上1200MPa以下が好ましく、700MPa以上900MPa以下がより好ましい。CSが400Pa以上であれば、実用上の強度として十分である。またCSが1200MPa以下であれば、自身の圧縮応力に耐えられ、自然に破壊してしまう懸念が無い。ガラス基体のCSは700MPa以上850MPa以下がさらに好ましい。
【0032】
さらに、ガラス基体の応力層の深さ(以下、DOLという。)は15~50μmが好ましく、20~40μmがより好ましい。DOLが15μm以上であれば、ガラスカッター等の鋭利な冶具を使用しても、容易にキズがついて破壊される懸念がない。またDOLが40μm以下であれば、基体自身の圧縮応力に耐えられ、自然に破壊してしまう懸念がない。ガラス基体のDOLは25μm以上35μm以下がさらに好ましい。
【0033】
ガラス基体がLi2Oを含有している場合、化学強化処理を2回以上施すことで、さらに強度を向上できる。
具体的には、例えば、1回目の処理では、例えば硝酸ナトリウム塩を主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、NaとLiのイオン交換を行う。次いで2回目の処理で、例えば硝酸カリウム塩を主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、KとNaのイオン交換を行う。このようにすることで、DOLが深く、表面応力の高い圧縮応力層を形成でき、好ましい。
【0034】
ガラス基体の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。例えば、0.1~5mmが好ましく、0.2~2mmがより好ましく、0.7mm~1.5mmがさらに好ましい。
ガラス基体に上記化学強化処理を行う場合は、これを効果的に行うために、ガラス基体の厚さは通常5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0035】
また、ガラス基体での寸法は、用途に応じて適宜選択できる。カーナビゲーション装置などの車載表示装置に使用する場合は、50mm×100mm~2000×1500mmで、厚さは0.5~4mmが好ましい。
RSE装置などに使用する場合は、100mm×100mm~400×600mmで、厚さは0.5~4mmが好ましい。
【0036】
ガラス基体の形状は、平坦な形状のみでなく、一か所以上の屈曲部を有する基体のような曲面を有する形状であってもよい。最近では、表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。
【0037】
ガラス基体が曲面を有する場合、ガラス基体の表面は、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。表面全体が曲面で構成される場合の例として、たとえば、ガラス基体の断面が円弧状である場合が挙げられる。
【0038】
ガラス基体が曲面を有する場合、その曲率半径(以下、「ガラス基体のR」ともいう。)は、ガラス基体の用途、種類等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、25000mm以下が好ましく、1mm~5000mmがより好ましく、5mm~3000mmがさらに好ましい。ガラス基体のRが上記の上限値以下であれば、平板に比較し、意匠性に優れる。ガラス基体のRが上記の下限値以上であれば、曲面表面へも均一に機能層を形成できる。
【0039】
本実施形態のガラス基体の少なくとも一方の面は、防眩処理(「アンチグレア処理」、「AG処理」とも称する。)されていてもよい。防眩処理方法は特に限定されるものではなく、ガラス基体の主面に表面処理を施し、所望の凹凸を形成する方法を利用できる。
【0040】
具体的には、ガラス基体の第1の主面について化学的処理を行う方法、例えばフロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス基体を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することで実施可能である。
【0041】
また、このような化学的処理による方法以外にも、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス基体の表面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたもので磨く等の物理的処理による方法も利用できる。
【0042】
特に、フッ化水素等の薬液を用いて化学的に表面処理するフロスト処理を施す方法では、被処理体表面におけるマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じ難いため、ガラス基体の表面処理を施す方法として好ましく利用できる。なお、ガラス基体の防眩処理により凹凸が形成された表面に、最大深さ3μm未満のマイクロクラックを有してもよい。この程度であれば、機械的強度の低下を引き起こしにくいためである。
【0043】
このようにして化学的表面処理(フロスト処理)または物理的表面処理により凹凸を作成した後に、表面形状を整えるために、ガラス表面を化学的にエッチングすることが一般的に行われている。こうすることで、エッチング量によりヘイズを所望の値に調整でき、サンドブラスト処理等で生じたクラックを除去でき、またギラツキを抑制できる。
【0044】
エッチングは、フッ化水素を主成分とする溶液に、被処理体であるガラス基体を浸漬する方法が好ましく用いられる。フッ化水素以外の成分は、塩酸・硝酸・クエン酸などの酸を含有してもよい。酸を含有することで、ガラスに入っている陽イオン成分とフッ化水素とが反応して析出反応が局所的におきることを抑制でき、エッチングを面内均一に進行できる。
【0045】
AG処理後の表面形状について、表面粗さ(RMS)は0.01~0.5μmが好ましく、より好ましくは0.01~0.3μm、さらに好ましくは0.01~0.2μmである。
RMSはJIS B 0601(2001)で規定される方法に準拠して測定できる。具体的には、レーザー顕微鏡(キーエンス社製 商品名:VK-9700)により、試料の測定面に対して、270μm×200μmの視野範囲を設定し、基板の高さ情報を測定し、カットオフ補正を行ない、得られた高さの二乗平均を求めることで算出した。この測定を行う際にはカットオフ値は0.08mmを使用することが好ましい。また試料表面に観察されるポアの大きさは10μm以下が好ましい。このような範囲にあることにより、ギラツキ防止と防眩性とが両立可能となる。
【0046】
防眩処理を実施する場合には、後述する面取りの前に実施することが好ましい。
【0047】
(接続面)
本実施形態のガラス基体は、一対の主面、一対の主面に直交する方向に沿って配置された端面、及び上記主面と上記端面との間に配置された接続面を有する。
ここで、「直交する方向」とは上記主面の上記端面付近での接平面と、上記端面を含む平面の成す角度がほぼ90度となる位置関係を意味するものとする。
【0048】
上記接続面は上記主面及び上記端面と0度超180度未満の角度を有して交わってもよい。この場合、上記接続面と上記主面の交わる角度は、40度以上、55度以下が好ましく、42度以上52度以下がより好ましく、44度以上、49度以下がさらに好ましい。この範囲にあれば、印刷層の外周端と、上記接続面の接触角が小さくとも、印刷層の端部が接続面を滑落することが抑制でき、印刷層の直線性を維持しやすくなる。
【0049】
上記接続面は上記主面と滑らかに接続されていてもよい。この場合、上記主面と上記接続面の境界部の曲率半径(以後、「境界部のR」とも言う)は、50μm以上400μm以下が好ましく、70μm以上350μm以下がより好ましく、90μm以上、300μm以下がさらに好ましい。このような範囲にすることで、印刷層の外周端と、上記接続面の接触角が小さくとも、印刷層の端部が接続面を滑落することを抑制でき、印刷層の直線性を維持しやすくなる。
【0050】
上記接続面の粗さ(JIS B0601で規定されるRa)は、0.05μm以上0.5μm以下が好ましく、0.07μm以上0.45μm以下がより好ましく、0.1μm以上0.4μm以下がさらに好ましい。この範囲にあれば、端部耐衝撃性を維持し、かつ印刷層の外周端と接続面との接触角を高く維持でき、または機能層の接続面での光学干渉を低減できる。
【0051】
上記接続面は複数の凹部(ポア)を有する。ポアは、接続面を法線方向から見た時に、略円状となっていてもよい。各ポアの境界部は鋭利な突起形状(リッジともいう)となっていてもよい。ポアの粒子径はレーザー顕微鏡の測定結果に基づき、以下の手順で算出する。先ず、接続面の表面の各測定点の基準面からの高さを求める。基準面は、傾き補正がなされたものであり、表面の最小二乗平面に対し平行なものである。次いで、高さの累積分布(数基準)において累積数90%に対応する高さを基準高さとする。すなわち、基準高さは、測定点を高さの順番で並べ、高さの低いものから高さの高いものへ順番に測定点の累積数を数えたときに、その累積数が測定点の総数の90%になるときの高さのことである。
【0052】
次いで、レーザー顕微鏡の画像を、高さが基準高さを超える部分と、高さが基準高さ以下である部分とに二値化する。そうして、高さが基準高さ以下である部分であって、つながっている部分ごとにポアと定義する。ポアごとに、長手方向寸法(長径)および長手方向寸法に直交する方向の寸法(短径)を求め、長径および短径の二乗平均平方根(長径の二乗と短径の二乗との平均値の平方根)を算出する。算出した二乗平均平方根を、各ポアのポア径とする。
【0053】
ポア径の累積分布(数基準)において累積数90%に対応するポア径は、40μm以下が好ましい。
【0054】
ポアの粒子径の分散は5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましい。この範囲にすることで、端部耐衝撃性のばらつきを低減するという効果が得られる。また、ポアの粒子径の分散は1μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。この範囲にあることでポア径がそろいすぎ散乱光が配向することを低減するという効果が得られる。
【0055】
上記接続面の表面に存在するポアについて、上記主面より20μm離れた部分での50%粒子径と上記端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差は10μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましい。この範囲にあることで、端部耐衝撃性を有しつつ、色味を均一にできるという効果が得られる。
ここでいう50%粒子径とは、ポア径の累積分布(数基準)において累積数50%に対応するポア径のことを言う。
【0056】
上記接続面は、上記端面の両側にあることが好ましい。両側に設置することで、端部耐衝撃性をより向上できる。
【0057】
上記接続面が上記端面の両側にある場合、形状は両側で異なっていてもよい。例えば、表示装置に組み付けたときに人側になる主面の側にある接続面に対しては曲線状(R面取り)とし、筐体側になる主面の側にある接続面に対しては直線状(C面取り)としてもよい。
【0058】
上記接続面の製造方法は特に限定されないが、例えば、端面を砥石で研磨する面取りを実施したのちに、酸を含むエッチング液を用いてエッチング処理を実施することで得られる。
【0059】
面取りでは、ガラス基体に端面および接続面を形成する。
面取り方法は、特に限定されず、公知の方法を使用でき、例えば、砥石を用いた研磨による方法が好適に挙げられる。砥石としては、例えば、回転砥石などが用いられる。
回転砥石は、一例として、周方向に延びる環状の研削溝が形成されており、研削溝の壁面は、アルミナ、炭化ケイ素、ダイヤモンドなどの砥粒を含む。
砥粒は400番以下が好ましく、600番以下がより好ましい。このようにすることで、後述するエッチング処理の後のポアの形状を容易に所定の範囲できる。
【0060】
面取りによって、端面および接続面に細かな傷が形成されやすい。この傷が端部耐衝撃性を低下させると考えられる。そのため、この細かな傷を低減し、端部耐衝撃性を向上させるために、エッチング処理を実施することが好ましい。
【0061】
エッチング処理は、端面および接続面を、酸を含むエッチング液に接触させる処理である。このエッチング処理によって、面取りで生じた細かな傷が広がり、接続面において複数の凹部(ポア)が形成される。
【0062】
エッチング液としては、ガラス基体をエッチングできるものであれば特に限定されないが、フッ化水素(HF)含有するエッチング液が好適に挙げられる。このようなエッチング液の具体例としては、フッ化水素と硫酸、硝酸、酢酸およびケイフッ酸の少なくとも1種の酸とを含む混酸等が挙げられる。
【0063】
エッチング量は、液に対する接触時間で制御される。ガラスの種類やエッチング量によって、エッチング量によって、エッチング液におけるフッ化水素の濃度が調整される。エッチング量は25μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上90μm以下がより好ましい。エッチング量をこの範囲とすることにより、端部耐衝撃性を有しながら、印刷の直線性を維持できる。
【0064】
エッチング液には、端面および接続面が優先的に処理されるようにするために、エッチング処理の前に、1対の主面に保護フィルムを貼合しておくことが好ましい。このようにすることで、主面がエッチングされることを防ぎ、例えば防眩処理を主面に実施している場合、防眩効果を維持できる。
【0065】
保護フィルムはエッチング液に対する耐性を有するものであれば特に限定されず、例えばポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムが好適に用いられる。保護フィルムには、ガラス基体に粘着できる粘着剤が設置されていることが好ましい。粘着剤の材料は特に限定されないが、例えばシリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤が好適に用いられる。
【0066】
保護フィルムの面積は、ガラス基体の面積よりも大きいことが好ましい。保護フィルムの外周端と、ガラス基体の端面との距離は、0.3mm以上1.5mm以下が好ましい。このようにすることで、主面に対してエッチング液が回り込むことを防ぎつつ、端面および接続面を均一にエッチングできるという効果を得られる。
【0067】
保護フィルムの厚さは、50μm以上200μm以下が好ましい。この範囲にすることで、保護フィルムのガラス基体よりも突出した部分が垂れることを抑制でき、エッチング処理を接続面全域にわたって均一に進行できる。
【0068】
接続面および端面をエッチング液に接触させる方法は、例えばエッチング液に浸漬させる方法、エッチング液を接続面および端面に向かって噴霧させる方法等が挙げられる。
【0069】
本実施形態において、接続面のポアは、主面より20μm離れた部分での50%粒子径と上記端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差が10μm以下であることが好ましい。すなわち、接続面全域にわたって、均一にエッチング処理が進行することが好ましい。従来技術(特許文献1)においては、接続面全域の均一性について特段考慮されていなかった。したがって、端部耐衝撃性を向上するために、エッチングされにくい箇所が十分処理される必要があった。そのため、それ以外の箇所が平滑になりすぎ、例えば印刷層を設置した場合にインク垂れが発生し外観を損ねたり、機能層を設置した場合に光学干渉が生じ、接続面と主面で色が異なる現象が生じたりすることが明らかとなった。
【0070】
上記のポアの均一性は、例えば、エッチング液を接続面および端面に向かって噴霧させることで達成できる。その際、噴霧条件は、端面の法線方向から噴霧され、かつ噴霧量が単位平方cmあたり毎分50ml以上300ml以下とすることが好ましい。このようにすることで、接続面の主面近傍部まで十分にエッチング液が行きわたり、かつ主面を保護するフィルムが剥離し、主面側にエッチング液が侵入することを防げるため、ポアが均一に形成される。
【0071】
また、エッチング液に接触させる前に、端面および接続面を純水、ポリアクリル酸水溶液あるいは0.5%フッ酸水溶液に接触させておくことでも達成できる。このようにすることで、主面を保護するフィルムと接続面の間に空気泡が入りエッチングが阻害されることを防ぎ、ポアが均一に形成される。
【0072】
(印刷層)
ガラス基体は、主面および接続面に印刷層を備えていてもよい。印刷層は、表示パネルの外側周辺部に配置された配線回路のような、表示を見るときに視界に入り邪魔になる部分を遮蔽し、表示の視認性と美観を高める光遮蔽部であってもよいし、文字や模様等の印刷層であってもよい。
【0073】
印刷層は、インクを印刷する方法で形成されたものである。印刷法としては、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法、インクジェット法等があるが、簡便に印刷できるうえ、種々の基材に印刷でき、また基材のサイズに合わせて印刷できることから、スクリーン法またはインクジェット法が好ましい。
【0074】
インクは、特に限定されない。インクとしては、セラミックス焼成体等を含む無機系インクと、染料または顔料のような色料と有機系樹脂を含む有機系インクが使用できる。
【0075】
無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等がある。印刷層は、上記セラミックスとシリカからなるインクを溶融し、所望のパターンで印刷した後、焼成して得られる。この無機系インクは、溶融、焼成を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
【0076】
有機系インクは、染料または顔料と有機系樹脂を含む組成物である。有機系樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、透明ABS樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマー、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。また、染料あるいは顔料は、遮光性を有するものであれば特に限定なく使用できる。
無機系インクと有機系インクとでは、焼成温度が低いことから、有機系インクの使用が好ましい。また、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクがより好ましい。
【0077】
印刷層の外周端の少なくとも一部は接続面にあることが好ましい。上記外周端が接続面にあることで、ガラス基体の端まで有効に遮蔽でき、美観上好ましい。
【0078】
ここで、
図1を参照されたい。印刷層15の外周端の少なくとも一部が接続面14にある場合、接続面14の性状によっては、印刷層15のインク16と接続面14の接触角が低く、インク16が局所的に滑落し、印刷層15の外周端の直線性が悪化する場合があった。
図1は、そのような場合の接続面付近を例示したものである。
【0079】
ここで言う直線性は、次のように定義する。まず、光学顕微鏡(例えばキーエンス社製VHX-5000)を用いて倍率1000倍で印刷層の外周端を観察し、視野範囲にある1mm長さの外周線において、印刷層側から外周線に接する直線Lを引く。次に、直線L1を、直線Lの位置から、直線Lに垂直方向で印刷層の外側の方向に移動させていき、直線L1と印刷層の外周端が1点で接する位置まで移動させる。直線性を、直線Lと直線L1との距離と定義する。直線性が0の場合、印刷層の外周端は完全な直線であり、0より大きい場合、接続面から端面に向かう方向に、印刷層が局所的に突出している部分があることになる。このような突出部分が視認できる場合、印刷層の美観を損ねるため、問題がある。
【0080】
本実施形態では、接続面のポアの粒子径を調整することで、インクとガラス基体との接触角を比較的高く保つことが可能になる。すなわち、いわゆるCassie-Baxterの式あるいはWenzelの式により、凹凸によって接触角を比較的高くでき、インクの局所的な滑落を抑制できる。
【0081】
直線性は、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。100μm以下であれば、目視で視認することが難しく、直線性は良好と視認される。
【0082】
(機能層)
ガラス基体の主面、接続面および端面の少なくとも一部には、機能層が形成されていることが好ましい。機能層は、単層または複数の層が積層された積層体である。機能層としては例えば、防汚層、防眩層、反射防止層、密着層などが挙げられる。以下、各機能層について詳細を説明する。
【0083】
[防汚層]
防汚層は、表面への有機物、無機物の付着を抑制する膜、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす層のことである。
防汚層は、後述する密着層の表面上に備えられることが好ましい。防汚層としては、ガラス基体に防汚性を付与できるものであれば特に限定されないが、含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応させることで硬化させて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。
【0084】
また、防汚層の厚さは、特に限定されないが、防汚層が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、2nm~20nmが好ましく、2nm~15nmがより好ましく、2nm~10nmがさらに好ましい。防汚層の厚さが2nm以上であれば、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。また、防汚層の厚さが20nm以下であれば、防汚層が形成された状態でのガラス基体のヘイズ値等の光学特性が良好である。
【0085】
防汚層を形成する組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、乾式成膜法による防汚層形成が可能な組成物であれば、特に制限されない。防汚層形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本実施形態の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下「非フッ素加水分解性ケイ素化合物」という。)、触媒等が挙げられる。
【0086】
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物、および、任意に非フッ素加水分解性ケイ素化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
【0087】
また、2種以上の加水分解性ケイ素化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。ただし、用いる部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物は、乾式成膜法によって形成可能な程度の重合度のものとする。以下、加水分解性ケイ素化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
【0088】
本実施形態の含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が、撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであれば特に限定されない。
【0089】
具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してまたは直接結合する含フッ素有機基として存在する。市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)として、KP-801(商品名、信越化学工業社製)、X-71(商品名、信越化学工業社製)、KY-130(商品名、信越化学工業社製)、KY-178(商品名、信越化学工業社製)、KY-185(商品名、信越化学工業社製)、KY-195(商品名、信越化学工業社製)、Afluid(登録商標)S-550(商品名、旭硝子社製)、オプツ-ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。上記したなかでも、KY-195、オプツ-ルDSX、S-550を用いることがより好ましい。
【0090】
[密着層]
密着層は、防汚層の耐久性向上のために、ガラス基体と上記防汚層の間に設置される。密着層の最表層は、防汚層との密着性の観点から、酸化ケイ素を主成分とすることが好ましい。また、密着層を単数または複数の層を積層して形成することで、反射防止性能等を同時に得ることもできる。
なお、ここでいう「主成分」とは、当該層に80質量%以上含有されているものを指す。
【0091】
また、密着層は、積層体からなる場合、後述する低屈折率層と高屈折率層が積層され、防汚層と接する層が酸化ケイ素(SiO2)からなる低屈折率層として構成される低反射層としても構成できる。この場合、当該低反射層は、積層体からなる密着層として機能する。
【0092】
密着層の防汚層と接する層における表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で、3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1.5nm以下がさらに好ましい。Raが、3nm以下であれば、布等が防汚層の凹凸形状に沿って変形できるため、防汚層表面全体に略均一に荷重がかかる。そのため、防汚層の剥がれが抑制され、耐摩耗性が向上されると考えられる。
【0093】
なお、密着層の算術平均粗さ(Ra)を測定する際には、主面が凹凸形状を有する場合、当該凹凸形状を拾わないように測定領域を設定すればよい。前述のポアの径や二乗平均粗さ(RMS)が前述の好ましい範囲にあれば、測定領域を例えば凹凸の稜線を除く領域に設定するなどして、密着層のRaを測定することが可能である。
【0094】
ガラス基体の主面が凹凸形状を有する場合、密着層の防汚層と接する層における二乗平均粗さ(RMS)は、下限値として10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。上限値として1500nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。RMSが上記範囲であれば、防汚層の剥がれが抑制され耐摩耗性が向上されるだけでなく、ギラツキ防止性や防眩性も両立できる。凹凸形状のRMSの測定に際しては、上述の密着層の算術平均粗さ(Ra)の測定とは反対に、測定領域にポアが十分多く含まれるように測定領域を選べばよい。また、上述のように、密着層や防汚層の表面粗さは十分平滑なので、密着層や防汚層がある状態で、上記の方法で測定されたRMSの値は、凹凸形状のRMSと同値であると考えてよい。
【0095】
[低反射層]
低反射層とは、反射率低減の効果をもたらし、光の映り込みによる眩しさを低減するほか、表示装置等からの光の透過率を向上でき、表示装置等の視認性を向上できる膜のことである。
本実施形態のガラス基体は、主面、接続面および端面の少なくとも一部と防汚層との間に、低反射層を備えることが好ましい。低反射層の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成にできる。また、低屈折率層は1層のみの構成でもよい。
【0096】
低反射層における高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態が好ましい。
【0097】
低反射性を高めるためには、低反射層は複数の層が積層された積層体が好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上10層以下の層が積層されていることが好ましく、2層以上8層以下の層が積層されていることがより好ましく、4層以上6層以下の層が積層されていることがさらに好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体が好ましく、高屈折率層および低屈折率層の各層数を合計したものが上記範囲であることがより好ましい。
【0098】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される低反射性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、窒化ケイ素(Si3N4)から選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択された1種以上を好ましく使用できる。
【0099】
生産性や、屈折率の観点から、高屈折率層が酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素か
ら選択される1種を主成分とする層であり、低屈折率層が酸化ケイ素を主成分とする層である構成が好ましい。
また、上述したように、低反射層の最表層を、酸化ケイ素を主成分とすることで、密着層としても使用できる。
【0100】
[機能層の形成方法]
本実施形態の機能層は、乾式成膜法によって形成される。乾式成膜法としては、蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法が挙げられる。その中でも、蒸着法またはスパッタリング法が好ましく用いられる。
【0101】
機能層が複数の層からなる場合、上記した方法を組み合わせて形成してもよい。例えば、密着層をスパッタリング法で形成し、その後、防汚層を蒸着法で形成してもよい。
【0102】
防汚層を形成する場合は、蒸着法を用いることが好ましい。蒸着法の中でも、抵抗加熱方式や電子線蒸着方式がより好ましく用いられる。
【0103】
密着層または低反射層を形成する場合は、蒸着法またはスパッタリング法を用いることが好ましい。より緻密な膜を得るために、蒸着法の中でも、プラズマを形成しながら蒸着するイオンアシスト蒸着や、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
スパッタリング法では、マグネトロンスパッタリング法が一般的に用いられ、その中でもパルスマグネトロンスパッタリング法、ACマグネトロンスパッタリング法および後酸化マグネトロンスパッタリング法がさらに好ましい。
このような方法を使用すれば、緻密で厚さが精密に制御された機能層が得られる。
【0104】
機能層は、上記したようにナノメートルの厚みのため、機能層が平滑であれば膜内で光学干渉が生じる。一般的に、光学干渉が生じると、機能層を見る角度によって色が変化する。主面と接続面に機能層が設置されている場合、接続面の一部と主面は、0度より大きい角度を有する。この場合、接続面の色と主面の色が著しく異なって見え、美観上問題となる。
【0105】
上記したように、特許文献1では、接続面全域の均一性について特段考慮されておらず、端部耐衝撃性を向上するために、エッチングされにくい箇所が十分処理される必要があった。そのため、それ以外の箇所が平滑になりすぎ、接続面において膜内で光学干渉が生じ、主面との色が著しく異なるという課題を有することが判明した。
【0106】
本実施形態では、ポアの粒子径を10μm以上とすることにより、接続面が著しく平滑になることを抑制し、機能層の膜内での光学干渉を低減する。これによって、主面と接続面との著しい色の違いを抑制できる。
【0107】
また、本実施形態では、接続面の表面に存在するポアについて、主面より20μm離れた部分での50%粒子径と端面より20μm離れた部分での50%粒子径の差は10μm以下が好ましい。このようにすることで、接続面が均一なポア径を有するので、全域で均一な色味となる。
【0108】
なお、ここでいう色味とは、JIS Z 8781において規定されている色味(a*、b*)を言う。
主面の色味の測定は、ASTM E 1164に規定された測定器を用いて、SCIモードでおこなう。
【実施例】
【0109】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0110】
以下、例1~例5は実施例であり、例11および例12は比較例である。
【0111】
まず、全例において、ガラス基体は、サイズが130mm×280mmで、厚みが1.3mmのアルミノシリケートガラス(AGC社製、登録商標ドラゴントレイル)を用いた。
【0112】
(例1)
まず、ガラス基体の側面を砥石により面取り加工した。面取り形状はC面取りとし、面取り幅は0.15mmとした。使用した砥石は電着ダイヤモンド砥石であり、番手は粗加工が325番、仕上げ加工が700番であり、回転速度は6000rpmとした。
次に、PETを基材とし、アクリル糊を塗布した厚さ70μmの保護フィルム(スミロン社製)を131mm×281mmに切り出したものを準備した。
次に、上記保護フィルムを、ガラス基体の両方の主面の全面に、ガラス基体の外周端から0.5mm迫り出す様にラミネーターで貼合し、保護フィルム付きガラス基体を得た。
次に、上記保護フィルム付きガラス基体に、フッ酸5質量%、塩酸2質量%を混合したエッチング液を150ml/(分・cm2)となる流量で、噴霧し、エッチング量が60μmとなるようにエッチングを行った。
この時、エッチング液の、上記ガラス基体に対する噴霧角度は90度とし、噴霧ノズルと上記ガラス基体の距離は2cmとし、噴霧ノズルから噴霧される水量は150ml/分とした。
また、エッチング量は基板に二点アラインメントマークを配置し、エッチング処理の前後のガラス形状を三次元測定機(ミツトヨ社製)で測定し、差分を求めることで測定した。
次に、両面の保護フィルムをガラス基体から剥離し、基板端部がエッチングされたガラス基体を得た。
【0113】
(例2)
エッチング液の塩酸2質量%を、硝酸2質量%に変更した以外は、例1と同様にして処理した。
【0114】
(例3)
エッチング量を80μmとした以外は、例1と同様にして処理した。
【0115】
(例4)
例1と同様にして作成した保護フィルム付きガラス基体を、フッ酸5質量%、塩酸2質量%を混合したエッチング液に浸漬してエッチングを行った。その際、事前に上記ガラス基体の端部に純水を噴霧し、基板端部が被覆されるように処理した。また、浸漬時間は、エッチング量が60μmとなるように調整した。
このようにして、端部がエッチング処理されたガラス基体を得た。
【0116】
(例5)
例1と同じ保護フィルムを130.6mm×280.6mmのサイズに切り出し、例1と同様に面取りをしたガラス基体に貼合した。その際、保護フィルムの外周がガラス基体の外周から0.3mm迫り出すように貼合した。
それ以外は例1と同様にして処理した。
【0117】
(例11)
例11は、特許文献1に記載の例4に対応するものである。まず、例1と同じ保護フィルムを134mm×284mmのサイズに切り出し、例1と同様に面取りをしたガラス基体に貼合した。その際、保護フィルムの外周がガラス基体の外周から2mm迫り出すように貼合した。次に、フッ酸2質量%、塩酸18質量%を混合したエッチング液に浸漬してエッチングを行った。その際、例4でおこなったような事前の噴霧は行わなかった。また、浸漬時間は、エッチング量が40μmとなるように調整した。
【0118】
(例12)
ガラス基体の側面をR面取りした以外は、例1と同様に処理した。具体的には、砥石は電着ダイヤモンド砥石を使用し、番手は粗加工を325番、仕上げ加工を700番とし、回転速度は6000rpmとした。また、面取り部の曲率半径は0.5mmとし、接続面と主面がなす角は68°とし、面取り幅は0.55mmとした
【0119】
下記表1に例1~例5、例11および例12の処理条件をまとめて一覧にして示す。
【0120】
【0121】
上記手順で作成した各例に対して、以下の評価を実施した。
【0122】
(ポア径の測定)
レーザー顕微鏡(キーエンス社 VK-9700)を用いて、接続面を1000倍に拡大した270μm×200μmの範囲の画像に対して高さ測定を行った。その際、横(X)方向、縦(Y)方向の測定間隔は0.1μmで、高さ(Z)方向の精度は0.001μmとした。次いで、得られた高さの累積分布(数基準)において累積数90%に対応する高さを基準高さとした。基準高さは、測定点を高さの順番で並べ、高さの低いものから高さの高いものへ順番に測定点の累積数を数えたときに、その累積数が測定点の総数の90%になるときの高さのことである。
次いで、上記レーザー顕微鏡の画像を、高さが基準高さを超える部分と、高さが基準高さ以下である部分とに二値化した。
このようにして、高さが基準高さ以下である部分をポアとした。
次いで、ポアごとに、長手方向寸法(長径)および長手方向寸法に直交する方向の寸法(短径)を求め、長径および短径の二乗平均平方根(長径の二乗と短径の二乗との平均値の平方根)を算出する。算出した二乗平均平方根を、各ポアのポア径とした。
次いで、各ポアのポア径を用いて、ポア径の小さいほうからの累積分布(数基準)において、累積数90%に対応するポア径を90%ポア径とした。
【0123】
また、同様の二値化画像を主面から20μm付近と、側面から20μm付近で取得し、ポア径の小さいほうからの累積分布(数基準)において、累積数50%に対応する50%ポア径をそれぞれ取得し、その差を求めた。
【0124】
(主面と接続面のなす角の測定)
まず、主面の法線と接続面の法線の両方に直交する線の方向から、光学顕微鏡(キーエンス社製VHX-5000)によって、100倍の画像を取得した。
図2に例1で得られた測定画像を例示する。以下、
図2に基づいて説明する。
次に、主面12と接続面14の接続点に対して、主面12側に200μm離れた点Aと700μm離れた点Bを通る直線を直線1とした。次に、接続面14側に80μm離れた点Cと180μm離れた点Dを通る直線を直線2とした。これら2直線の成す角度を主面12と接続面14の成す角度を180度から減じた値として定義した。
【0125】
(印刷直線性)
ガラス基体の一方の主面の外周端から20mm幅の領域に、スクリーン法によって黒色インクを塗布して印刷層を形成した。その際、印刷層の外周端が、主面と接続面の交わる線に一致するように印刷版を調整して塗布した。
その後、上記印刷層付きガラス基体を乾燥炉に入れて、130度で60分乾燥させた。
次に、上記印刷層付きガラス基体の外周端部を以下のように観察して、印刷直線性を評価した。
まず、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)を用いて、外周端を1000倍に拡大した画像を取得した。
図3に例1で得られた画像を例示する。以下、
図3に基づいて説明する。
次いで、上記画像の視野範囲にある1mm長さの印刷層15の外周線において、印刷層15側から上記外周線に接する直線を引き、直線Lとした。次に、直線L1を、上記直線Lの位置から、上記直線Lに垂直方向でかつ印刷層15の外側の方向に移動させていき、直線L1と印刷層15の外周端が1点で接する位置まで移動させる。直線性を、直線Lと直線L1との距離と定義した。
【0126】
(色味分布)
各例で得られたガラス基体に、以下の方法によって反射防止層を一方の主面および接続面に形成した。
【0127】
まず、各例のガラス基体をチャンバ内に導入した。次に、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、長さ1000mm×外径150mmの酸化ニオブ円筒ターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.5Pa、周波数40kHz、電力15kWの条件でACロータリーデュアルマグネトロンスパッタリングを行い、厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層(第1層)を形成した。
【0128】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、1000mm長さ×外径150mmのシリコン円筒ターゲット(AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.3Pa、周波数40kHz、電力10kWでACロータリーデュアルマグネトロンスパッタリングを行い、上記高屈折率層上に厚さ35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層(第2層)を形成した。
【0129】
次いで、第1層と同様にして、第2層の低屈折率層の上に厚さ115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。次いで、第2層と同様にして、厚さ80nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)層と酸化ケイ素(シリカ)層が総計4層積層された密着層(低反射層)を形成した。
このようにして、反射防止層付きガラス基体を得た。
【0130】
次に、得られた反射防止層付きガラス基体の主面および接続面の色の測定を実施した。測定装置として、顕微分光測定器(オリンパス社製、USPM RUIII)により、分光反射率を取得した。なお、測定を行う際には、あらかじめ反射率が最大となる基体の位置を求めておいて、正反射率が取得できるように調整した。その分光反射率より主面および接続面の色味(a*、b*)を求めた。
【0131】
次に、以下の式によって、主面と接続面の色の差を求めた
ΔE=√[(Δa*)2+(Δb*)2]
ここで、Δa*(Δb*)はそれぞれ、主面と接続面とのa*(b*)の差である。
【0132】
(ヘッドインパクト試験)
特許文献1に記載のヘッドインパクト試験と同様にして、試験を行った。
ヘッドインパクト試験の結果、ガラス基体が割れなかった場合には「A」を、ガラス基体が割れた場合には「B」とした。「A」であれば、斜め方向からの衝突に対する端部耐衝撃性に優れると評価できる。
【0133】
以上の評価結果を、表1にまとめて示した。
例1~例5では、端面付近と主面付近のポア径の差が4.8~8.2μmと少ないため、インクの直線性も40μm~90μmとなっており、視認されない範囲のため良好であった。
これに対して例11では、端面付近と主面付近のポア径の差が17μmと大きく、そのためインクの直線性が320μmと視認できる程度となっており、外観上問題のあるものであった。なお、例11は特許文献1の例4に対応している。
【符号の説明】
【0134】
11:ガラス基体
12:主面
13:端面
14:接続面
15:印刷層
16:インク