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特許7283555熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに半導体装置、半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに半導体装置、半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20230523BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K5/541
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021548752
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2020033738
(87)【国際公開番号】W WO2021059936
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019177423
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴大
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018416(WO,A1)
【文献】特開2013-091683(JP,A)
【文献】特開2012-077256(JP,A)
【文献】特開2012-069783(JP,A)
【文献】特表2015-523456(JP,A)
【文献】特開2009-286855(JP,A)
【文献】特開平07-228779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 -101/16
C08K 3/00 - 13/08
H01L23/36
H01L23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(E)成分:
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~20の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは10以上の整数である。)
(B)下記一般式(2)で示され、1分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサン:150~600質量部、
【化2】
(一般式(2)中、R1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基である。X1及びX3は独立にR1又は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、X2は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、分子中に少なくとも1つの-R2-SiR3 g(OR43-gを有する。R2は酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R4は独立に炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~4のアルコキシアルキル基、アルケニル基若しくはアシル基であり、gは0~2の整数である。a及びbはそれぞれ1≦a≦1,000、0≦b≦1,000である(但し、X1及びX3がいずれもR1である場合、bは1≦b≦1,000である)。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
(C)1分子中に1個の、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基及び炭素数6~8のアリール基からなる群から選ばれる非置換の1価炭化水素基を有し、かつ3個の加水分解性基を有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である架橋剤成分:0.1~100質量部、
(D)平均粒子径が0.1μm以上2μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布における粒子径10μm以上の粗粉の含有割合が(D)成分全体の1体積%以下である酸化亜鉛粒子:1,500~6,500質量部、及び
(E)(C)成分を除く粘着促進剤:0.01~30質量部
を含有し、(B)成分の含有量が組成物全体に対して20~40体積%であり、(D)成分の含有量が組成物全体に対して55~70体積%であって、ホットディスク法での25℃における熱伝導率が1.3W/mK以上であり、かつ厚さ10μm以下への圧縮が可能である熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
ホットディスク法での25℃における熱伝導率が1.3~2.0W/mKである請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
(A)成分100質量部に対して、更に(F)反応触媒:0.01~20質量部を含有する請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
(A)成分100質量部に対して、更に(D)成分以外の(G)充填剤:1~1,000質量部を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項5】
レーザーフラッシュ法で測定した25℃での熱抵抗が5mm2・K/W以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項6】
スパイラル粘度計で測定した25℃、ずり速度6s-1での絶対粘度が3~600Pa・sである請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項7】
ヒートサイクル試験後のズレ性を抑制できるものである請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記(D)成分が(B)成分で表面処理されてなる請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、前記(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)成分を混合する工程を有する熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、前記(B)成分、又は前記(A)及び(B)成分を、前記(D)成分とともに100℃以上の温度で30分以上混合する工程と、これに少なくとも(C)及び(E)成分を混合する工程とを含むことを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
【請求項11】
発熱体と冷却体の間に形成された厚み10μm以下の間隙に請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物が層状に充填され、この組成物層が前記発熱体と冷却体とを熱的に介在していることを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
前記発熱体が絶縁ゲートバイポーラトランジスタであることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
発熱体と冷却体の間に形成された厚み10μm以下の間隙に熱伝導性充填剤が層状に充填され、この熱伝導性充填剤層が前記発熱体と冷却体とを熱的に介在している半導体装置において、前記熱伝導性充填剤として請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物を用いることを特徴とする半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン組成物に関する。詳細には、電子部品を効率的に冷却する熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに半導体装置、半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品は使用中の発熱及びそれによる性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として、様々な放熱技術が用いられている。一般的に、発熱部付近に冷却部材(ヒートシンク等)を配置し、両者を密接させたうえで冷却部材から効率的に除熱することにより放熱を行っている。その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の悪い空気が介在することにより熱抵抗が増大し、発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。このような現象を防ぐため、熱伝導率がよく、部材の表面に追随性のある放熱材料、例えば液状放熱材料や放熱シートが用いられている。特に、装置によっては間隙が10μm以下と非常に狭い場合もあり、10μm以下に圧縮することが可能な液状放熱材料が使用される(特許第2938428号公報、特許第2938429号公報、特許第3580366号公報、特許第3952184号公報、特許第4572243号公報、特許第4656340号公報、特許第4913874号公報、特許第4917380号公報、特許第4933094号公報、特開2008-260798号公報、特開2009-209165号公報、特開2012-102283号公報、特開2012-96361号公報(特許文献1~13))。
【0003】
また、発熱部と冷却部材との間は電気的に絶縁状態を確保しなければならない場合が多く、熱伝導性材料に絶縁性が求められることがある。この場合、熱伝導性充填剤としてアルミニウムや銅、銀等の金属粒子を用いることができず、多くは水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)等の絶縁性熱伝導性充填剤が用いられることが多い。水酸化アルミニウムやアルミナは、それ自体の熱伝導率が低いためにこれらを用いて、高熱伝導性を有する熱伝導性材料を得ようとすると多量に充填しなければならない。その結果、熱伝導性材料の粘度が非常に高くなり塗布が困難となったり、十分な圧縮ができなくなったりし、あるいは熱伝達距離が厚くなるなどの問題が生じる(特開2017-226724号公報、特開2017-210518号公報(特許文献14、15))。
【0004】
更に、発熱部と冷却部材は発熱・冷却を繰り返すため、部材が熱収縮を繰り返すことが知られている。これによって、熱伝導性シリコーン組成物のオイル成分と熱伝導性充填剤の分離が促される。また、熱伝導性シリコーン組成物が発熱部と冷却部材の間から押し出されるポンプアウトといった現象が起こる。その結果、熱抵抗が上昇し効率的に発熱部を冷やすことができなくなる。このような現象を防ぐために増粘剤を添加して熱伝導性シリコーン組成物の粘度を高める手法が提案されている。しかしながら、粘度が非常に高くなり、塗布が困難であるといった問題があった(特開2004-91743号公報(特許文献16))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2938428号公報
【文献】特許第2938429号公報
【文献】特許第3580366号公報
【文献】特許第3952184号公報
【文献】特許第4572243号公報
【文献】特許第4656340号公報
【文献】特許第4913874号公報
【文献】特許第4917380号公報
【文献】特許第4933094号公報
【文献】特開2008-260798号公報
【文献】特開2009-209165号公報
【文献】特開2012-102283号公報
【文献】特開2012-96361号公報
【文献】特開2017-226724号公報
【文献】特開2017-210518号公報
【文献】特開2004-91743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、高い熱伝導率と厚さ10μm以下への圧縮性を両立し、高耐久性(パワーサイクル耐性、耐ポンプアウト性)を有する熱伝導性シリコーン組成物の開発が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来の熱伝導性シリコーン組成物に比べ、高い熱伝導率を有し、かつ厚さ10μm以下に圧縮可能であり、更に高耐久性を兼ね備える熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに半導体装置、半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、水酸基を有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有する特定構造のオルガノポリシロキサンと、1分子中に1個の、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基及び炭素数6~8のアリール基からなる群から選ばれる非置換の1価炭化水素基を有し、かつ3個の加水分解性基を有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と、特定範囲の平均粒子径を有し、かつ粒子径10μm以上の粗粉の含有割合が特定の範囲にある酸化亜鉛を含むシリコーン組成物が、従来のシリコーン組成物に比べて高い熱伝導率を有し、かつ厚さ10μm以下への圧縮性が良好なものであり、なおかつ、高耐久性(パワーサイクル耐性、耐ポンプアウト性)を発現できるものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の熱伝導性シリコーン組成物及びその製造方法、並びに半導体装置、半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法を提供する。
1.
下記(A)~(E)成分:
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~20の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは10以上の整数である。)
(B)下記一般式(2)で示され、1分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサン:150~600質量部、
【化2】
(一般式(2)中、R1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基である。X1及びX3は独立にR1又は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、X2は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、分子中に少なくとも1つの-R2-SiR3 g(OR43-gを有する。R2は酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R4は独立に炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~4のアルコキシアルキル基、アルケニル基若しくはアシル基であり、gは0~2の整数である。a及びbはそれぞれ1≦a≦1,000、0≦b≦1,000である(但し、X1及びX3がいずれもR1である場合、bは1≦b≦1,000である)。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
(C)1分子中に1個の、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基及び炭素数6~8のアリール基からなる群から選ばれる非置換の1価炭化水素基を有し、かつ3個の加水分解性基を有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である架橋剤成分:0.1~100質量部、
(D)平均粒子径が0.1μm以上2μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布における粒子径10μm以上の粗粉の含有割合が(D)成分全体の1体積%以下である酸化亜鉛粒子:1,500~6,500質量部、及び
(E)(C)成分を除く粘着促進剤:0.01~30質量部
を含有し、(B)成分の含有量が組成物全体に対して20~40体積%であり、(D)成分の含有量が組成物全体に対して55~70体積%であって、ホットディスク法での25℃における熱伝導率が1.3W/mK以上であり、かつ厚さ10μm以下への圧縮が可能である熱伝導性シリコーン組成物。
2.
ホットディスク法での25℃における熱伝導率が1.3~2.0W/mKである1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
3.
(A)成分100質量部に対して、更に(F)反応触媒:0.01~20質量部を含有する1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
4.
(A)成分100質量部に対して、更に(D)成分以外の(G)充填剤:1~1,000質量部を含有する1~3のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
5.
レーザーフラッシュ法で測定した25℃での熱抵抗が5mm2・K/W以下である1~4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
6.
スパイラル粘度計で測定した25℃、ずり速度6s-1での絶対粘度が3~600Pa・sである1~5のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
7.
ヒートサイクル試験後のズレ性を抑制できるものである1~6のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
8.
前記(D)成分が(B)成分で表面処理されてなる1~7のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
9.
1~8のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、前記(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)成分を混合する工程を有する熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
10.
1~8のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、前記(B)成分、又は前記(A)及び(B)成分を、前記(D)成分とともに100℃以上の温度で30分以上混合する工程と、これに少なくとも(C)及び(E)成分を混合する工程とを含むことを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物の製造方法。
11.
発熱体と冷却体の間に形成された厚み10μm以下の間隙に1~8のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物が層状に充填され、この組成物層が前記発熱体と冷却体とを熱的に介在していることを特徴とする半導体装置。
12.
前記発熱体が絶縁ゲートバイポーラトランジスタであることを特徴とする11に記載の半導体装置。
13.
発熱体と冷却体の間に形成された厚み10μm以下の間隙に熱伝導性充填剤が層状に充填され、この熱伝導性充填剤層が前記発熱体と冷却体とを熱的に介在している半導体装置において、前記熱伝導性充填剤として1~8のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物を用いることを特徴とする半導体装置の熱伝導性充填剤層の耐ポンプアウト性を改善する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の熱伝導性シリコーン組成物に比べ高い熱伝導率を有し、かつ厚さ10μm以下への圧縮性が良好であり、高耐久性(パワーサイクル耐性、耐ポンプアウト性)も兼ね備える熱伝導性シリコーン組成物を提供することができる。
なお、本発明において、『厚さ10μm以下への圧縮性』とは、2枚の基材の間に所定の厚みで熱伝導性シリコーン組成物をはさみ、所定の圧力で加圧・圧縮した際に得られる2枚の基材間に充填された当該熱伝導性シリコーン組成物の最少の厚みが10μm以下であることを意味するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の熱伝導性シリコーン組成物が絶縁ゲートバイポーラストランジスタと冷却フィンの間隙に介在する半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したように、高い熱伝導率を有し、かつ10μm以下への圧縮性が良好であるシリコーン組成物の開発が求められていた。
【0012】
即ち、本発明は、
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化3】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~20の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは10以上の整数である。)
(B)下記一般式(2)で示され、1分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサン:150~600質量部、
【化4】
(一般式(2)中、R1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基である。X1及びX3は独立にR1又は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、X2は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、分子中に少なくとも1つの-R2-SiR3 g(OR43-gを有する。R2は酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R4は独立に炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~4のアルコキシアルキル基、アルケニル基若しくはアシル基であり、gは0~2の整数である。a及びbはそれぞれ1≦a≦1,000、0≦b≦1,000である(但し、X1及びX3がいずれもR1である場合、bは1≦b≦1,000である)。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
(C)1分子中に1個の、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基及び炭素数6~8のアリール基からなる群から選ばれる非置換の1価炭化水素基を有し、かつ3個の加水分解性基を有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である架橋剤成分:0.1~100質量部、
(D)平均粒子径が0.1μm以上2μm以下であり、かつレーザー回折型粒度分布における粒子径10μm以上の粗粉の含有割合が(D)成分全体の1体積%以下である酸化亜鉛粒子:1,500~6,500質量部、及び
(E)(C)成分を除く粘着促進剤:0.01~30質量部
を含有し、更に、任意に、
(F)反応触媒成分:0.01~20質量部、
(G)(D)以外の充填剤成分:1~1,000質量部
を含有してもよく、(D)成分の含有量が組成物全体に対して45~70体積%であって、ホットディスク法での25℃における熱伝導率が1.3W/mK以上であり、かつ厚さ10μm以下への圧縮が可能である熱伝導性シリコーン組成物である。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
-(A)成分:オルガノポリシロキサン-
(A)成分は、下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンである。該オルガノポリシロキサンは、分子鎖の両末端が、ケイ素原子に結合した水酸基、即ち、シラノール基あるいはジオルガノヒドロキシシロキシ基で封鎖された構造である。当該構造の直鎖状のオルガノポリシロキサンは、本発明の組成物において主剤(オルガノポリシロキサン架橋構造の主鎖を構成するベースポリマー)として作用するものである。
【0014】
【化5】
(一般式(1)中、Rは炭素数1~20の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、複数のRは互いに同一であっても、異なっていてもよい。nは10以上の整数である。)
【0015】
上記式(1)中、Rの非置換又は置換の1価炭化水素基の炭素数は、1~20であり、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~8である。
【0016】
Rの非置換の1価炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基が挙げられる。また、Rの置換された1価炭化水素基としては非置換の1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基が挙げられる。このような基としては、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。Rとしてはこれらの非置換又は置換の1価炭化水素基の中でも、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましく、入手の容易さ、生産性、コストの面からメチル基、フェニル基が特に好ましい。
【0017】
また、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が10~1,000,000mPa・sのものが好ましく、より好ましくは50~500,000mPa・sのもの、特に好ましくは100~200,000mPa・sのもの、更に好ましくは500~100,000mPa・sのものである。25℃における前記オルガノポリシロキサンの粘度が10mPa・s以上であれば、物理的・機械的強度に優れたコーティング塗膜を得ることが容易であるため好ましい。1,000,000mPa・s以下であれば、組成物の粘度が高くなり過ぎず使用時における作業性が良いので好ましい。本明細書で説明する粘度は、組成物を構成する各成分の粘度(絶対粘度)であり、特に明示しない限り、いずれも回転粘度計で測定された数値である(実施例において同じ)。回転粘度計としては、例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等のものが挙げられる。なお、後述するように熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度を測定する方法は、各成分の粘度の測定方法とは異なり、スパイラル粘度計(共軸二重円筒回転式粘度計)により一定のズリ速度6s-1で測定した値である。
【0018】
上記一般式(1)におけるnの値は、分子中に存在する2官能性ジオルガノシロキサン単位の数又は重合度である。(A)成分のオルガノポリシロキサンが上記の好ましい範囲内の粘度を取り得る態様では、一般式(1)中、nで表される2官能性ジオルガノシロキサンの単位数又は重合度は、10~2,000の整数であり、好ましくは50~1,800であり、より好ましくは100~1,700であり、更に好ましくは200~1,600である。なお、本明細書で説明する重合度(又は分子量)は、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めたものである。(A)成分のオルガノポリシロキサンは1種又は2種以上を併用することができる。
【0019】
-(B)成分:オルガノポリシロキサン-
(B)成分は、下記一般式(2)で示される、1分子当たり、分子鎖末端及び/又は側鎖(非末端)に少なくとも1個のアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基を有する加水分解性オルガノポリシロキサンである。(B)成分は後述する(D)成分の酸化亜鉛粒子(熱伝導性充填剤)の表面処理剤(分散剤又はウェッター)として作用する。そのため、(B)成分と(D)成分の酸化亜鉛粒子の相互作用が強くなる結果、(D)成分の酸化亜鉛粒子を熱伝導性シリコーン組成物中に多量に充填しても、熱伝導性シリコーン組成物が流動性を保つことができると同時に、経時でのオイル分離やポンプアウトに起因する放熱性能の低下を抑えることができる。
【0020】
【化6】
(一般式(2)中、R1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基である。X1及びX3は独立にR1又は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、X2は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であり、分子中に少なくとも1つの-R2-SiR3 g(OR43-gを有する。R2は酸素原子又は炭素数1~4のアルキレン基、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R4は独立に炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~4のアルコキシアルキル基、アルケニル基若しくはアシル基であり、gは0~2の整数である。a及びbはそれぞれ1≦a≦1,000、0≦b≦1,000である(但し、X1及びX3がいずれもR1である場合、bは1≦b≦1,000である)。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0021】
上記式(2)中、R1は独立に非置換又は置換の、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~3の1価炭化水素基であり、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基が挙げられる。R1として、メチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0022】
2の炭素数1~4のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。R3は独立に脂肪族不飽和結合を含有しない、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~3の非置換又は置換の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された基等が挙げられる。
【0023】
上記R4は独立に炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数2~4のアルコキシアルキル基、アルケニル基若しくはアシル基である。上記R4のアルキル基としては、例えば、R1について例示したものと同様の、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、炭素数2~4のメトキシエチル基、メトキシプロピル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、R1について例示したものと同様の、炭素数2~4のアルケニル基が挙げられる。上記R4のアシル基としては、例えば、炭素数2~4のアセチル基、プロピオノキシ基等が挙げられる。R4はアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。
【0024】
一般式(2)において、X1及びX3は独立に、R1又は-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であるが、X1及びX3のうち、いずれか一方がR1であり、他方が-R2-SiR3 g(OR43-gで示される基であること(即ち、(B)成分の加水分解性オルガノポリシロキサンが分子鎖の片末端に加水分解性シリル基を有するものであること)が好ましい。
【0025】
a、bは上記の通りであるが、好ましくは10≦a≦1,000、0≦b≦100であり、より好ましくは10≦a≦300、0≦b≦30であり、更に好ましくは12≦a≦100、0≦b≦10であり、最も好ましくは14≦a≦50、b=0である。また、好ましくはa+bが10~1,000であり、より好ましくは10~300であり、更に好ましくは12~100であり、最も好ましくは14~50である。gは0~2の整数であり、好ましくは0である。なお、分子中にOR4基は1~6個、特に3又は6個有することが好ましい。なお、括弧内に示される各シロキサン単位は、ランダムに結合されていてよい。また、(B)成分の加水分解性オルガノポリシロキサンは、分子鎖末端及び/又は側鎖(非末端)にアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基を有するものであるが、少なくとも分子鎖末端(両末端又は片末端)に加水分解性シリル基を有するものであることが好ましく、特には分子鎖の片末端のみに加水分解性シリル基を有するものであることが好ましい。
【0026】
(B)成分の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【化7】
【0027】
(B)成分は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物におけるシリコーンマトリックスの主成分(即ち、組成物全体中に含まれるオルガノポリシロキサン成分の中で最も多量に含まれる成分)であり、その含有量は(A)成分100質量部に対して150~600質量部、好ましくは160~500質量部である。また、(B)成分の含有量は、熱伝導性シリコーン組成物全体に対して好ましくは20~40体積%であり、より好ましくは25~35体積%である。この範囲の(B)成分を含有することで良好な圧縮性を保ちつつ、オイル分離やポンプアウトに起因する熱抵抗の悪化を防ぐことができる。
【0028】
(B)成分の熱伝導性シリコーン組成物全体に対する含有量(体積%)は、当該組成物に占める体積割合であり、(B)成分の配合量(質量)と密度から(B)成分の体積を求め、全成分のそれぞれの配合量(質量)と密度から求めた熱伝導性シリコーン組成物全体の体積の総和を算出し、{(B)成分の体積}/{熱伝導性シリコーン組成物全体の体積の総和}×100(%)により(B)成分の熱伝導性シリコーン組成物全体に対する含有量(体積%)を求めることができる。
また、(B)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて配合してよい。
【0029】
-(C)成分:架橋剤成分-
(C)成分は、1分子中に1個の、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基及び炭素数6~8のアリール基からなる群から選ばれる非置換の1価炭化水素基を有し、かつ3個の加水分解性基を有する(即ち、3官能性の)(B)成分以外の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(該オルガノシラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する分子中に残存加水分解性基を3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマー)であり、該加水分解性オルガノシラン化合物としては、式;
Y-SiX3
(上記式において、Yは炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基及び炭素数6~8のアリール基からなる群から選択されるいずれか1つの非置換の1価炭化水素基である。Xは加水分解性基である。)
で表される。
【0030】
ここで、上記式;Y-SiX3における非置換の1価炭化水素基;Yとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等の炭素数2~4のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基等の炭素数6~8のアリール基が挙げられるが、炭素数1~4のアルキル基としてはメチル基、エチル基が好ましく、炭素数2~4のアルケニル基としてはビニル基、アリル基が好ましく、炭素数6~8のアリール基としてはフェニル基、トリル基が好ましく、特にメチル基、ビニル基、フェニル基がより好ましい。
【0031】
(C)成分は、架橋剤(鎖延長剤)として使用される。また(C)成分となる上記の縮合物には、アミノ基は存在しない。なお、(C)成分の上記3官能性加水分解性オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物と共に、加水分解性基が2個のもの(Y2-SiX2)及び/又は加水分解性基が4個のもの(SiX4)を任意成分として必要に応じて更に含んでもよい。
【0032】
(C)成分に含まれる加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2~40、好ましくは炭素数2~10、より好ましくは炭素数2~4のアルコキシ置換アルコキシ基;ビニロキシ基、アリロキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10、より好ましくは炭素数2~5のアルケニルオキシ基;ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~10、より好ましくは炭素数3~6のケトオキシム基;アセトキシ基等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10、より好ましくは炭素数2~5のアシルオキシ基などが挙げられる。
【0033】
(C)成分の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン等の3官能性オルガノアルコキシシラン化合物、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、フェニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等の3官能性オルガノ置換アルコキシシラン化合物、メチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等の3官能性オルガノアルケニルオキシシラン化合物、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン等の3官能性オルガノアシルオキシシラン化合物、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等の3官能性オルガノケトオキシムシラン化合物などの3官能性オルガノ加水分解性シラン化合物や、これらの加水分解性オルガノシラン化合物の部分加水分解縮合物(分子中に残存加水分解性基を3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマー)等が挙げられる。ただし、(C)成分はこれらの具体例に限定されるものではない。(C)成分としては、該当する化合物を1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0034】
上記(C)成分の含有量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~100質量部、好ましくは0.1~25質量部、より好ましくは0.5~18質量部の範囲で使用されるものである。当該(C)成分の含有量が0.1質量部未満では十分に架橋せず、目的とする粘性の組成物が得難い。100質量部を超えると、得られる組成物による物性の機械特性が低下し、更に経済的に不利となるという問題が発生する。
【0035】
-(D)成分:酸化亜鉛粒子-
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤として(D)酸化亜鉛粒子を含む。酸化亜鉛は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物と同等に高い熱伝導率を有する。したがって、必要十分量の充填ができれば、比較的高い熱伝導率を有する熱伝導性シリコーン組成物を得ることができる。(D)成分の酸化亜鉛粒子の平均粒子径は、0.1μm以上2μm以下であり、好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。(D)成分の酸化亜鉛粒子の平均粒子径が2μmを超える場合、得られる熱伝導性シリコーン組成物の圧縮性が著しく悪化する。また、(D)酸化亜鉛粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、熱伝導性シリコーン組成物の粘度が著しく上昇する。
【0036】
前記平均粒子径はマイクロトラック(レーザー回折散乱法)による体積平均粒子径(累積平均径D50(メディアン径)であり、例えば、日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXにより測定できる。
【0037】
(D)成分のレーザー回折型粒度分布における粒子径10μm以上の粗粉(粗粒子)の含有量(含有割合)は(D)成分全体の1体積%以下である。当該粗粉の含有量が1体積%を超えると、熱伝導性シリコーン組成物を圧縮した時の厚みを10μm以下とすることができない。このような粗粉の含有量とするためには、従来公知の手段により予め分級処理することが好ましいが、あるいは、このような粗粉の含有量となった酸化亜鉛粉末((D)成分)は、酸化亜鉛1種、2種、3種などのグレードで市販品として入手可能である。
当該粗粉(粗粒子)の含有量は、レーザー回折散乱法により、例えば、日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXを用いて(D)成分全体の粒度分布を測定し、それから容易に求めることができる。
【0038】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(D)成分の酸化亜鉛粒子を(A)成分100質量部に対して1,500~6,500質量部、好ましくは2,000~6,000質量部配合するものであり、なおかつ、熱伝導性シリコーン組成物全体に対して(D)成分を45~70体積%、好ましくは55~65体積%含むものである。(D)酸化亜鉛粒子の含有量が1,500質量部未満又は45体積%未満であると熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率が低下し、6,500質量部又は70体積%を超えると、熱伝導性シリコーン組成物が均一にならない。
【0039】
(D)酸化亜鉛粒子の熱伝導性シリコーン組成物全体に対する含有量(体積%)は、当該組成物に占める体積割合であり、(D)成分の配合量(質量)と密度から(D)成分の体積を求め、全成分のそれぞれの配合量(質量)と密度から求めた熱伝導性シリコーン組成物全体の体積の総和を算出し、{(D)成分の体積}/{熱伝導性シリコーン組成物全体の体積の総和}×100(%)により(D)成分の熱伝導性シリコーン組成物全体に対する含有量(体積%)を求めることができる。
【0040】
なお、本発明の熱伝導性シリコーン組成物では、前記(D)成分が(B)成分で表面処理されてなることが好ましい。
【0041】
-(E)成分:粘着促進剤-
(E)成分の粘着促進剤は、(C)成分を除くものであり、本発明の熱伝導性シリコーン組成物に必要な粘着性を与えるために使用される。(E)成分の粘着促進剤としては、公知のシランカップリング剤が好適に使用される。シランカップリング剤の例としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能性基を含有する1価炭化水素基(炭素官能性基)を分子中に有する炭素官能性基含有加水分解性シラン(いわゆるカーボンファンクショナルシラン)等が好適に使用され、(メタ)アクリルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、イソシアネートシランカップリング剤などが例示される。
【0042】
具体的には、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類;β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン類;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類(但し、グアニジル基含有加水分解性シランを除く);γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネートシラン類並びにこれらが部分的に加水分解され縮合した化合物(分子中に残存加水分解性基を有する炭素官能性基含有オルガノシロキサンオリゴマー)が例示される。
【0043】
これらの(E)成分の具体例の内、特にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネートシラン類が好ましい。
【0044】
(E)成分の含有量は、前記(A)成分100質量部に対して0.01~30質量部であり、特に0.1~20質量部であることが好ましい。(A)成分100質量部に対し、(E)成分の含有量が0.01質量部未満と少なすぎると、本発明の組成物に対して十分な密着性を与えることができない。30質量部を超えると、得られる組成物による物性の機械特性が低下し、更に経済的に不利となるという問題が発生する。
【0045】
-(F)成分:反応触媒-
(F)成分の反応触媒は必要に応じて配合してもよい任意成分であり、この(F)成分の反応触媒としては非金属系有機触媒及び/又は金属系触媒を用いることができる。(F)成分は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化(粘度上昇)を促進する作用を有する。
【0046】
(F)成分の反応触媒のうち、非金属系有機触媒は特に制限されないが、熱伝導性シリコーン組成物の硬化(粘度上昇)促進剤として、公知のものを使用することができる。例えば、N,N,N’,N’,N'',N''-ヘキサメチル-N'''-(トリメチルシリルメチル)-ホスホリミディックトリアミド等のホスファゼン含有化合物;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等のアミン化合物又はその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン;N,N,N’,N’-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、N,N,N’,N’-テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、N,N,N’,N’-テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシラン及びシロキサン等が挙げられる。また、非金属系有機触媒は1種使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
(F)成分の反応触媒のうち、金属系触媒は特に制限されないが、熱伝導性シリコーン組成物の反応(粘度上昇)促進剤として公知のものを使用することができる。例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジネオデカノエート、ジ-n-ブチル-ジメトキシスズ等のアルキルスズエステル化合物;テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物;ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛-2-エチルオクトエート;アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムセカンダリーブチレートなどのアルコレートアルミニウム化合物;アルミニウムアルキルアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート等のアルミニウムキレート化合物;ネオデカン酸ビスマス(III)、2-エチルヘキサン酸ビスマス(III)、クエン酸ビスマス(III)、オクチル酸ビスマス、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエート、マンガン-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト;等の有機金属化合物;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩が挙げられる。金属系触媒はこれらに限定されない。金属系触媒は、1種使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0048】
(F)成分の含有量は少量の触媒量でよい。(F)成分の反応触媒を含有する場合、その含有量は、前記(A)成分100質量部に対して0.01~20質量部であり、特に0.05~10質量部が好ましく、更に0.05~5質量部が好ましい。(F)成分の含有量が0.01質量部未満であると良好な反応(粘度上昇)性を得ることができないため、反応速度が遅くなる不具合を生じる。20質量部を超えると、組成物の反応速度が速すぎるため、組成物塗布後の作業できる時間が短くなったりするおそれがある。
【0049】
-(G)成分:充填剤-
(G)成分の充填剤は必要に応じて配合してもよい任意成分であり、この(G)成分は前記(D)成分の酸化亜鉛粒子以外の充填剤(無機質充填剤及び/又は有機樹脂充填剤)であり、この組成物に十分な機械的強度を与えるために使用される。(G)成分の充填剤としては公知のものを使用することができる。例えば、微粉末シリカ、焼成シリカ、煙霧質シリカ(乾式シリカ)、沈降性シリカ(湿式シリカ)、ゾル-ゲルシリカ、これらのシリカ表面を有機ケイ素化合物で疎水化処理したシリカ;ガラスビーズ;ガラスバルーン;透明樹脂ビーズ;シリカエアロゲル;珪藻土、酸化鉄、酸化チタン、煙霧状金属酸化物などの金属酸化物;湿式シリカあるいはこれらの表面をシラン処理したもの;石英粉末(結晶性シリカ)、タルク、ゼオライト及びベントナイト等の補強剤;アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛などの金属炭酸塩;ガラスウール、微粉マイカ、溶融シリカ粉末、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成樹脂粉末等が使用される。上記に例示する充填剤のうち、シリカ、炭酸カルシウム、ゼオライトなどの無機質充填剤が好ましく、特に表面を疎水化処理した煙霧質シリカ、炭酸カルシウムが好ましい。
(G)成分の充填剤の平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上2μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上1.5μm以下である。
なお、(G)成分の充填剤には、前述の(D)成分として定義される所定の平均粒子径と所定の粗粒含有量の要件を満足する酸化亜鉛は包含されない。
【0050】
(G)成分を含有する場合、その含有量は、前記(A)成分100質量部当たり、1~1,000質量部であり、3~500質量部とすることが好ましく、特に5~300質量部とすることが好ましい。1,000質量部よりも多量に使用すると、組成物の粘度が増大して作業性が悪くなる。(G)成分の含有量が1質量部より少ないと、得られる組成物の機械的強度を十分高くすることができない。なお、(G)成分の充填剤についても前記(D)成分の酸化亜鉛粒子と同様に、レーザー回折型粒度分布における粒子径10μm以上の粗粉(粗粒子)の含有量(含有割合)が(G)成分全体の1体積%以下であることが好ましい。(G)成分中において当該粗粉の含有量が1体積%を超えると、熱伝導性シリコーン組成物を圧縮した時の厚みを10μm以下とすることが困難となる場合がある。(G)成分を含有する場合、(D)成分の含有量の2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
-オルガノポリシロキサン-
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記(A)~(G)成分に加えて、更に(H)下記一般式(3)で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサン(いわゆる無官能性シリコーンオイル)を必要に応じて配合できる任意成分として含有してもよい。
【化8】
【0052】
一般式(3)中、R5は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族不飽和結合を含有しない1価炭化水素基であり、pは1~2,000の整数である。
【0053】
上記式(3)中、R5の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない1価炭化水素基としては、その炭素数が1~20であり、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~8である。複数のR5は互いに同一又は異なっていてもよい。式(3)のR5の非置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基を例示することができる。また、置換された1価炭化水素基としては、これらの非置換の1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基が好ましく、入手の容易さ、生産性、コストの面からメチル基、フェニル基がより好ましい。特に、式(3)におけるR5はいずれもメチル基であることが好ましく、分子鎖の両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンであることが好ましい。
【0054】
式(3)中、pは、(H)成分の重合度を示す数値で、1~2,000の整数であり、特に、2~2,000が好ましく、20~2,000がより好ましい。pが、上記の範囲内の数値である場合、(H)成分のジオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、1.5~1,000,000mPa・s、好ましくは30~100,000mPa・sとなる。
【0055】
(H)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは(A)成分100質量部に対して0.01~100質量部であり、より好ましくは10~80質量部である。(H)成分の量が上記範囲内にあると本発明の熱伝導性シリコーン組成物の機械特性や難燃性を損なわない点で好ましい。また当該組成物を施工上取り扱い易い弾性率や粘度に調整することができる。
【0056】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、熱伝導性シリコーン組成物の劣化を防ぐために、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等の従来公知の酸化防止剤を必要に応じて配合してもよい。更に、チクソ性付与剤、染料、顔料、難燃剤、沈降防止剤、チクソ性向上剤等を必要に応じて配合することができる。
【0057】
[熱伝導性シリコーン組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法について説明する。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法は、上述した本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、前記前記(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)成分を混合する工程を有することを特徴とするものである。
【0058】
この製造方法の一例としては、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の各成分を常圧下又は減圧下、好ましくは0.09~0.01MPaの減圧下で(一括して同時に)混合後、該混合物を、非加熱下、好ましくは60℃以下で、30分~3時間程度更に混合することによって製造することができる。上記の製造方法で(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の各成分以外の成分を配合する場合は、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の各成分の常圧下又は減圧下での混合を開始する時に配合すればよい。
【0059】
あるいは本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法は、上述した本発明の熱伝導性シリコーン組成物の製造方法であって、上記(B)成分、又は(A)及び(B)成分を、(D)成分とともに100℃以上、好ましくは150℃以上250℃以下の温度で30分以上、好ましくは40分以上6時間以下混合する工程を含むことを特徴とするものである。
具体的には、上記(B)成分、又は(A)及び(B)成分と、(D)成分を上記のように混合する工程と、これに少なくとも(C)及び(E)成分、必要に応じてその他任意成分を混合する工程とを含むことが好ましい。
【0060】
即ち、予め(B)成分と(D)成分、又は(A)と(B)と(D)との各成分を減圧下で混合し、加熱下、具体的には100℃~250℃で、30分~6時間程度混合する。続いて、該混合物に(C)、(E)の各成分、及び必要に応じて配合される他の成分を配合し、常圧下又は0.09~0.01MPaの減圧下で更に混合する。非加熱下、好ましくは60℃以下で、通常30分~3時間程度混合することによって本発明の組成物を製造できる。
【0061】
混合装置としては特に限定されず、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリーミキサー(いずれも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機を用いることができる。また、熱伝導性充填剤である(D)酸化亜鉛粒子の凝集を解砕するために3本ロール仕上げ処理などを施してもよい。
【0062】
この製造方法により、従来の熱伝導性シリコーン組成物に比べ高い熱伝導率を有し、かつ厚さ10μm以下への圧縮性が良好な熱伝導性シリコーン組成物を製造できる。
また、上記(B)成分、又は(A)及び(B)成分と、(D)成分を混合する工程の際に100℃以上の温度で30分以上混合することで、(D)成分が(B)成分によって十分に表面処理され、経時での熱抵抗の悪化を抑えることができる。
【0063】
[シリコーン組成物の物性]
以上のようにして得られる本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、従来の熱伝導性シリコーン組成物に比べ高い熱伝導率を有し、かつ厚さ10μm以下への圧縮性が良好なものである。
【0064】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物のホットディスク法での25℃における熱伝導率は1.3W/mK以上である。なお、熱伝導率の測定方法の詳細は、例えば後述する実施例の方法である。
【0065】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、良好な圧縮性を有するものである。4.1MPaの加圧を2分間行った時の熱伝導性シリコーン組成物の厚さは10μm以下となり、0.5~10μmの範囲にあることが好ましく、0.5~5μmにあることがより好ましい。なお、加圧を行った時の厚さの測定方法は、例えば後述する実施例の方法である。
【0066】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、高い熱伝導率と良好な圧縮性を両立しているため、低い熱抵抗を持つものとなる。熱伝導性シリコーン組成物の熱抵抗はレーザーフラッシュ法で測定した25℃で5mm2・K/W以下が好ましく、更に好ましくは3mm2・K/Wである。下限については特に制限はないが、物理的な問題として例えば0.1mm2・K/Wとすることができる。前記熱抵抗が所定の値以下であると、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率が更に高くなる。なお、熱抵抗の測定方法の詳細は、例えば後述する実施例の方法である。
【0067】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の25℃にて測定される絶対粘度は3~600Pa・sであることが好ましく、10~600Pa・sであることがより好ましい。絶対粘度が3Pa・s以上であると、形状保持が容易で作業性が良くなる。一方、絶対粘度が600Pa・s以下である場合にも吐出が容易となるため作業性が良くなる。絶対粘度は、上述した各成分の配合により調整できる。本発明において、絶対粘度は例えばマルコム(株)製スパイラル粘度計により測定した25℃、ズリ速度6s-1での値である。
【0068】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などの発熱体と冷却体との間に形成された厚み10μm以下の間隙に本発明の熱伝導性シリコーン組成物が層状に充填され、この組成物層が前記発熱体と冷却体とを熱的に介在していることを特徴とするものである。本発明の熱伝導性シリコーン組成物は厚さ10μm以下まで圧縮される。これにより従来の熱伝導性シリコーン組成物と比較して、冷却効率の向上が期待できる。
代表的な構造を図1に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
図1に示される半導体装置は、発熱体1と冷却体3との間の間隙に本発明の熱伝導性シリコーン組成物からなる熱伝導性シリコーン組成物層2が介在しているものである。なお、冷却体3は、熱伝導性シリコーン組成物層2と接する面に設けられた絶縁層3aを有する。
【0070】
ここで、発熱体1は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)であることが好ましい。発熱体1がIGBTであると、この半導体装置はIGBTが効率的に冷却されるものとなる。
冷却体3は、熱伝導のよい材料からなる冷却フィン(平板及び平板の一方の主面に設けられた放熱用の突起からなるもの)であることが好ましい。
絶縁層3aは、冷却体3(冷却フィン)の熱伝導性シリコーン組成物層2が設けられる面(冷却フィンの平板)上に形成された、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンドなどの熱伝導性のよい絶縁材料からなる厚さ10~1,000μmの薄膜である。
また、熱伝導性シリコーン組成物層2は、発熱体1(IGBT)の裏面側と冷却体3(冷却フィン)の平面側との間の間隙に、本発明の熱伝導性シリコーン組成物が層状に設けられたものである。熱伝導性シリコーン組成物層2の厚さは10μm以下であり、0.5~10μmの範囲にあることが好ましく、0.5~5μmにあることがより好ましい。
このような半導体装置の構成とすることにより、発熱体1で発生した熱は熱伝導性シリコーン組成物2を介して冷却体3に伝わり、外部へ、図1の場合は冷却体3と接する冷却水4へ放熱される。
【0071】
本発明の半導体装置の製造方法は特に限定されないが、熱伝導性シリコーン組成物の厚さを10μm以下にするため、好ましくは0.1MPa以上の圧力で、更に好ましくは4.0MPa以上の圧力で組み立てられる。熱伝導性シリコーン組成物の加圧時の圧力を上げることで圧縮にかかる時間を低減できる。
【0072】
また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は電気電子部品の接点障害を生じさせることがないので、電気電子部品用絶縁材や接着剤として有用である。
【実施例
【0073】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、(D)酸化亜鉛粒子の平均粒子径及び該(D)成分における粒子径10μm以上の粗粉の含有量(体積%)は、例えば、日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXを用いてレーザー回折型粒度分布測定法(レーザー回折散乱法)により測定した。
【0074】
使用した成分は以下のとおりである。
[(A)成分]
(A-1)25℃における粘度が700mPa・sの分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(式(1)におけるn=約268)
(A-2)25℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(式(1)におけるn=約615)
(A-3)25℃における粘度が50,000mPa・sの分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(式(1)におけるn=約886)
(A-4)25℃における粘度が100,000mPa・sの分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(式(1)におけるn=約1,589)
【0075】
[(B)成分]
(B-1)下記式で示される片末端トリメトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン
【化9】
(B-2)下記式で示される片末端トリメトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン
【化10】
(B-3)下記式で示される片末端トリメトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン
【化11】
【0076】
(B’)下記式で示される加水分解性官能基を有さないジメチルポリシロキサン(比較品)
【化12】
【0077】
[(C)成分]
(C-1)フェニルトリイソプロペノキシシラン
(C-2)ビニルトリイソプロペノキシシラン
(C-3)メチルトリメトキシシラン
【0078】
[(D)成分]
(D-1)平均粒子径1.0μmで、10μm以上の粗粉が0.1体積%以下の酸化亜鉛粒子
(D’)平均粒子径40.0μmで、10μm以上の粗粉が80体積%以上の酸化亜鉛粒子(比較用)
【0079】
[(E)成分]
(E-1)3-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0080】
[(F)成分]
(F-1)N,N,N’,N’-テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン
【0081】
[(G)成分]
(G)BET比表面積が130m2/gの乾式シリカ(10μm以上の粗粉が0.1体積%以下)
【0082】
[実施例1~20、比較例1~4]
〈熱伝導性シリコーン組成物の調製〉
上記(A)~(G)成分を、下記表1~5に示す含有量に従い、下記に示す方法で配合して熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
5リットルのプラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)に(A)、(B)及び(D)成分を加え、170℃で1時間混合した。常温になるまで冷却した後、(C)、(E)成分を加え均一になるように混合し、熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
更に、(F)成分、(G)成分については必要に応じて添加し、混合した後、熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
上記方法で得られた各熱伝導性組成物について、下記の方法に従い、粘度、熱伝導率、圧縮性、及び熱抵抗を測定した。結果を表1~5に示す。
【0083】
[絶対粘度]
熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度を(株)マルコム製スパイラル粘度計を用い、25℃、回転数(ずり速度)6s-1の条件で測定した。
【0084】
[熱伝導率]
熱伝導性シリコーン組成物をキッチンラップに包み、巾着状にした試験片の熱伝導率を京都電子工業(株)製TPA-501で25℃の条件でホットディスク法により測定した。
【0085】
[圧縮性]
製造した熱伝導性シリコーン組成物を直径1mmの円にカットされた2枚の金属板(シリコーンウエハ)の間に厚さ75μmとなるように挟み、SHIMAZU製オートグラフAG-5KNZPLUSを用いて4.1MPaで2分間の加圧を行った後に最小厚みを測定した。最小厚みは、金属板2枚を用い、金属板の間に何もない状態で圧縮した際の金属板2枚の合計の厚みを初期値とし、初期値を測定した後の金属板2枚の間に熱伝導性シリコーン組成物を挟んで圧縮した際の厚みを測定した後、当該厚みから初期値(金属板2枚の合計の厚み)を差し引くことにより熱伝導性シリコーン組成物の最小厚みを測定した。
【0086】
[熱抵抗]
上記の試験片を用いてレーザーフラッシュ法に基づく熱抵抗測定器(ネッツ社製、キセノンフラッシュアナライザー;LFA447NanoFlash)により25℃にて測定した。
【0087】
[ヒートサイクル後の熱抵抗]
上記の試験片を(株)エスペック製冷熱衝撃試験機TSE-11Aを用い、-40℃×30分→150℃×30分を1サイクルとする冷熱衝撃試験を1,000サイクル行った後、熱抵抗を25℃にて測定した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
表1~5の結果より本発明の要件を満たす実施例1~20では高い熱伝導率を有し、同時に厚さ10μm以下への良好な圧縮性を有する熱伝導性シリコーン組成物が得られた。一方、本発明の(B)成分を用いていない比較例1では均一な熱伝導性シリコーン組成物が得られなかった。また、(B)成分が20体積%より少なく、熱伝導性充填剤(酸化亜鉛粒子)が70体積%より多い比較例2でも均一な熱伝導性シリコーン組成物が得られなかった。更に熱伝導性充填剤として平均粒子径が40μmの酸化亜鉛粒子を用いた比較例3では圧縮性が低下し、熱抵抗値が著しく悪化した。また、熱伝導性充填剤(平均粒子径が40μmの酸化亜鉛粒子)の含有量が比較例3よりも少なく40体積%未満の比較例4では熱伝導率が大きく低下し熱抵抗値が更に悪化した。比較例5では、(B)成分の含有量(配合質量及び体積%)が少ないために、十分な圧縮性が得られず、最小厚みと熱伝導率の要件を同時に満足することができない。
【0094】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0095】
1 絶縁ゲートバイポーラストランジスタ(IGBT)
2 熱伝導性シリコーン組成物層
3 冷却フィン
3a 絶縁層
4 冷却水
図1