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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】Fe基アモルファス合金粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/04 20060101AFI20230523BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230523BHJP
   B22F 1/08 20220101ALI20230523BHJP
【FI】
B22F9/04 C
B22F9/04 E
B22F1/14 650
B22F1/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022507040
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010225
(87)【国際公開番号】W WO2021181512
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】中田 慎一
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0357118(US,A1)
【文献】特開平05-335129(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107578877(CN,A)
【文献】特表2015-527413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F9/00-9/30
B22F1/00-8/00;10/00-12/90;C22C1/04-1/059;33/02-33/02,103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箔状のFe基アモルファス合金の塊状体を加熱して脆化させる脆化工程と、
前記脆化した塊状体を粗く破砕させる解砕工程と、
得られた解砕体を、選別手段で所定の大きさに選別してFe基アモルファス合金の小片を得る選別工程と、
前記Fe基アモルファス合金の小片を、粉砕手段で乾式粉砕する粉砕工程とを備え、
前記選別手段は、多数の貫通孔を有する円筒体を備え、
前記円筒体の内側に前記解砕体を投入した状態で前記円筒体を軸周りに回転させ、前記解砕体を解して箔状に分離するとともに、小片に分割し、前記円筒体に形成された貫通孔を通過させる、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項2】
箔状のFe基アモルファス合金の塊状体を加熱して脆化する脆化工程と、
前記脆化した塊状体を粗く破砕させる解砕工程と、
得られた解砕体を、選別手段で所定の大きさに選別してFe基アモルファス合金の小片を得る選別工程と、
前記Fe基アモルファス合金の小片を、粉砕手段で乾式粉砕する粉砕工程とを備え、
前記選別手段は、多数の貫通孔を有する板状体を備え、
前記板状体の上に前記解砕体を投入した状態で前記板状体を振動させ、前記解砕体を解して箔状に分離するとともに、小片に分割し、前記板状体に形成された貫通孔を通過させる、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記円筒体に形成された貫通孔の直径が30~150mmである、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記板状体に形成された貫通孔の直径が30~150mmである、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記粉砕工程で、粉砕粉の平均粒径を50~240μmとする、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記粉砕工程の粉砕手段がピンミル又はハンマーミルである、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記脆化工程の前に、箔状のFe基アモルファス合金を塊状体とする塊状化工程を備える、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記粉砕工程が第1粉砕工程と第2粉砕工程とからなり、
前記第1粉砕工程で、所定の大きさで選別されたFe基アモルファス合金の小片を粗粉砕し、
前記第2粉砕工程で、前記第1粉砕工程で得られた粉砕粉を微粉砕する、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記第1粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を0.5~10mmとし、前記第2粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を50~240μmとする、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記第1粉砕工程が、第1-1粉砕工程と第1-2粉砕工程とからなり、
前記第1-1粉砕工程で、所定の大きさで選別されたFe基アモルファス合金の小片を粗粉砕し、
前記第1-2粉砕工程で、前記第1-1粉砕工程で得られた粉砕粉を中粉砕し、
前記第2粉砕工程で、前記第1-2粉砕工程で得られた粉砕粉を微粉砕する、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記第1-1粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を2~10mmとし、前記第1-2粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を0.5~4mmとし、前記第2粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を50~240μmとする、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記第1粉砕工程の粉砕手段を破砕整粒機とし、前記第2粉砕工程の粉砕手段をピンミル又はハンマーミルとする、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記粉砕工程後に、粉砕粉の表面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程を備える、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記Fe基アモルファス合金粉末の合金組成が、FeaSibBcCdMe(但し、MはCr、Mo、Mn、Zr及びHfからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、50≦a≦90、2≦b≦15、5≦c≦30、0≦d≦3、0≦e≦10、a+b+c+d+e=100)で表される、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【請求項15】
請求項1から13のいずれかに記載のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、
前記Fe基アモルファス合金粉末の合金組成が、Fe100-x-yAxXy(ただし、AはCu及び/又はAu、XはB、Si、S、C、P、Al、Ge、B、Sn及びCrからなる群から選ばれた少なくとも一種類の元素)で表され、原子%で、0<x≦5、10≦y≦24により表される、Fe基アモルファス合金粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体急冷法で得られた箔状のFe基アモルファス合金を粉砕して得られるFe基アモルファス合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファス合金は、優れた軟磁気特性を有するため、電源回路など、各種電子・電気機器のインダクタ、リアクトルやトランス、又はフィルタといった電子部品に磁心としてコイルと組み合わせて用いられている。アモルファス合金は、合金の溶湯を急冷凝固させる液体急冷法によって得られる。アモルファス合金は厚みが薄くて箔状で、106℃/秒程度、又はそれ以上の冷却速度が得られる単ロール法や双ロール法と呼ばれる方法により長尺に連続する帯(リボン又はフィルム)の状態で得られ、その形態から薄帯状、テーブ状、シート状等と呼ばれる。本願において、以降は、箔状のアモルファス合金で、長尺で帯状の形態を有するものを薄帯と称する。その厚みはアモルファス化の点から50μm以下が好ましい。なおアモルファス化とは、合金がアモルファス単相の場合の他に、結晶相を極力含まず、得られる磁気特性がアモルファス単相に近い状態である場合を含む。
【0003】
公知の手段で製造された箔状のアモルファス合金は、例えば薄帯を巻き回してリング状の巻磁心としたり、薄帯を切断したり打抜いたりして二次加工を施し、所定の形状として、それを積層してなる積層磁心として利用されている。しかし、薄帯の形態では、積層磁心の形状に合わせて二次加工して使用するにしても形成する磁心形状が制限され、高い自由度で様々な形状の磁心を形成することが困難である。
【0004】
また数十kHzまで周波数領域で使用される磁心や、高い直流電流が重畳する条件で使用される磁心では、周波数や直流重畳電流に対して透磁率の減少を抑え変化を少なくするように、磁心の磁路に空隙(ギャップ)を設けることが行われる。例えば、巻磁心や積層磁心などの磁心では磁路長の0.5~5%程度の空隙が形成される。このような空隙からは磁束が漏れ出や易い。空隙を覆うようにコイルを配置する場合に、コイルを構成する導線側に漏れた磁束(漏洩磁束)によって渦電流が生じ、それにより電子部品の渦電流損失を増加させるといった問題が生じる。
【0005】
このような問題に対しては、アモルファス合金を粉体の形態として利用することが行われている。アモルファス合金粉末としては、薄帯を粉砕した粉砕粉が知られている。
【0006】
特公昭60-401号は、アモルファス合金の溶融体を急冷して得られたリボン等の形態のアモルファス合金を、脆化状態に焼鈍して、脆化したアモルファス合金を粉末状に粉砕するアモルファス合金粉末の製造方法を記載している。脆化のための焼鈍温度はアモルファス合金のガラス転位温度より150℃から50℃低い温度範囲内が好ましいこと、粉砕に適した粉砕装置として、ロッドミル、ボールミル、ハンマーミル等の衝撃ミル、ディスクミル、スタンプミル、クラッシャー類、ロール等が含まれることが記載されている。得られる粉末の粒度の限定は無いが、ボールミルでの粉砕処理によって、リボン状のアモルファス合金から約25~100μmの粒度のアモルファス合金粉末が得られたと記載している。
【0007】
特開2005-57230号は、予備熱処理しFe系非晶質金属リボンを粉砕して非晶質金属粉末とし、得られた非晶質金属粉末にバインダーを加えて混合した後、コアを成形し、成形されたコアを焼鈍処理する非晶質軟磁性コアの製造方法を記載している。しかしながら、粉砕については粉砕機を使うと記載しているのみで具体的な方法は言及していない。
【0008】
国際公開2015/008813号は、アモルファス合金薄帯の粉砕粉末の製造方法を開示しており、(a)粉砕する前に、アモルファス合金薄帯を320℃以上380℃以下の脆化熱処理を行うことで粉砕性を高めることができること、(b)所望の粒径にするために、粉砕工程は、少なくとも粗粉砕及び微粉砕の2工程、好ましくは粗粉砕、中粉砕及び微粉砕の3工程に分けて行い、段階的に粒径を落とすのが粉砕能力及び粒径の均一性の点で好ましいことを記載している。国際公開2015/008813号は、前記脆化処理は、薄帯を巻回したスプールの状態、巻回されていない状態の薄帯、又は箔体を所定形状にプレスして整形された塊の状態として行うのが好ましいこと、薄帯をスプールの状態又は整形された塊の状態とした場合には、粗粉砕の前に解砕するのが望ましいことを記載している。さらに、解砕から粉砕の各工程では異なる機械装置を用い、拳の大きさまでの解砕は圧縮減容機で行い、2~3 cm角の薄片とする粗粉砕はユニバーサルミキサで行い、2~3 mm角の薄片とする中粉砕では破砕整粒機で行い、100μm角程度の薄片とする微粉砕にはピンミルを用いるのが望ましいことを記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アモルファス合金は、硬度が高く、塑性変形し難いことが知られている。そのためアモルファス合金薄帯を粉砕処理する際に粉砕機に大きな負荷がかかるため、過負荷となった状態で処理できない粉砕粉が内部に溜まり、粉砕機が停止する場合がある。また、粉砕に長い時間を要した場合には、得られる粉砕粉に大きな内部応力が蓄積され、磁気特性に劣る粉砕粉となりやすい。このような問題を避けるように、予め鋼刃や金型等で切断したり、せん断したりして細かくした処理物を粉砕機へ供給し、粉砕機の負荷を低減する方法がある。しかしながらアモルファス合金を切断及びせん断処理する場合、鋼刃や金型などに摩耗や欠けが生じ易く、その耐久寿命は比較的短くなる。特に、処理物を細かくするほど耐久寿命に対する処理量が低下するため、製造コストの上昇を招くといった問題がある。
【0010】
特公昭60-401号、特開2005-57230号、及び国際公開2015/008813号に記載されたように、アモルファス合金に対して脆化のための熱処理(脆化処理)を行い、粉砕をし易くする対応が有効である。また国際公開2015/008813号は、前述したように、アモルファス合金薄帯を多量に粉砕処理しようとする場合に、薄帯を巻回したスプールの状態とする方法を記載している。脆化処理においてはアモルファス合金に熱がムラなく均一に加わるのが好ましいが、スプールの状態とされ一塊が大きく、それが稠密である程、表面側と内部側で温度差が大きくなり、内部側は表面側と比べて相対的に低温で脆化処理された状態となり易い。また表面側と内部側で温度分布が均一になるように所定の温度で一定時間保持しても良いが、表面側と内部側とでは所定の温度で保持される時間は異なってしまう。つまり粉砕機は、粉砕し易い部分と粉砕し難い部分が混在したものを粉砕することが必要となる。この場合もまた、粉砕機に大きな負荷を発生させる場合がある。
【0011】
脆化処理にムラがあると、脆化が不足した部分の粉砕に時間を要し、得られる粉砕粉末の内部応力が大きくなる傾向は一層顕著となり易い。アモルファス合金薄帯を粉砕して粉砕粉を得る際、粉砕時にかかる応力により、粉砕粉に加工歪が蓄積される。別の言い方をすれば、粉砕粉の内部に溜まる応力(内部応力)が大きくなる。加工歪(内部応力)が大きくなると保磁力が大きい粉砕粉となる。特にFe基アモルファス合金においては、合金の磁歪の影響を受けて、保磁力が大きい粉砕粉となってしまう傾向がある。保磁力が大きいとヒステリシス損失の増加から、粉砕粉を用いて磁心とした場合の磁心損失が大きくなり易い。したがって、加工歪が小さい粉砕粉が得られる粉砕方法が望まれている。
【0012】
従って、本発明の目的は、加工歪が小さく、保磁力の小さいFe基アモルファス合金末を得るための最適な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、多数の貫通孔を有する円筒体又は板状体を用いた選別手段でFe基アモルファス合金の解砕体を、解して箔状に分離するとともに、小片に分割し、選別することにより、粉砕粉に与える歪みを抑制することができ、加工歪が小さく、保磁力の小さいFe基アモルファス合金末が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、Fe基アモルファス合金粉末を製造する本発明の方法は、箔状のFe基アモルファス合金の塊状体を加熱して脆化させる脆化工程と、
前記脆化した塊状体を粗く破砕させる解砕工程と、
得られた解砕体を、選別手段で所定の大きさに選別してFe基アモルファス合金の小片を得る選別工程と、
前記Fe基アモルファス合金の小片を、粉砕手段で乾式粉砕する粉砕工程とを備え、
前記選別手段は、多数の貫通孔を有する円筒体を備え、
前記円筒体の内側に前記解砕体を投入した状態で前記円筒体を軸周りに回転させ、前記解砕体を解して箔状に分離するとともに、小片に分割し、前記円筒体に形成された貫通孔を通過させることを特徴とする。
【0015】
Fe基アモルファス合金粉末を製造する本発明のもう一つの方法は、箔状のFe基アモルファス合金の塊状体を加熱して脆化する脆化工程と、
前記脆化した塊状体を粗く破砕させる解砕工程と、
得られた解砕体を、選別手段で所定の大きさに選別してFe基アモルファス合金の小片を得る選別工程と、
前記Fe基アモルファス合金の小片を、粉砕手段で乾式粉砕する粉砕工程とを備え、
前記選別手段は、多数の貫通孔を有する板状体を備え、
前記板状体の上に前記解砕体を投入した状態で前記板状体を振動させ、前記解砕体を解して箔状に分離するとともに、小片に分割し、前記板状体に形成された貫通孔を通過させることを特徴とする。
【0016】
前記円筒体又は板状体に形成された貫通孔の直径は30~150 mmであるのが好ましい。
【0017】
前記粉砕工程で、粉砕粉の平均粒径を50~240μmとするのが好ましい。
【0018】
前記粉砕工程の粉砕手段がピンミル又はハンマーミルであるのが好ましい。
【0019】
前記脆化工程の前に、箔状のFe基アモルファス合金を塊状体とする塊状化工程を備えるのが好ましい。
【0020】
前記粉砕工程は第1粉砕工程と第2粉砕工程とからなり、前記第1粉砕工程で、所定の大きさで選別されたFe基アモルファス合金の小片を粗粉砕し、前記第2粉砕工程で、前記第1粉砕工程で得られた粉砕粉を微粉砕するのが好ましい。
【0021】
前記第1粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を0.5~10 mmとし、前記第2粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を50~240μmとするのが好ましい。
【0022】
前記第1粉砕工程は第1-1粉砕工程と第1-2粉砕工程とからなり、前記第1-1粉砕工程で、所定の大きさで選別されたFe基アモルファス合金の小片を粗粉砕し、前記第1-2粉砕工程で、前記第1-1粉砕工程で得られた粉砕粉を中粉砕し、前記第2粉砕工程で、前記第1-2粉砕工程で得られた粉砕粉を微粉砕するのが好ましい。
【0023】
前記第1-1粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を2~20 mmとし、前記第1-2粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を0.5~4 mmとし、前記第2粉砕工程で粉砕粉の平均粒径を50~240μmとするのが好ましい。
【0024】
前記第1粉砕工程の粉砕手段を破砕整粒機とし、前記第2粉砕工程の粉砕手段をピンミル又はハンマーミルとするのが好ましい。
【0025】
前記粉砕工程後に、粉砕粉の表面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程を備えるのが好ましい。
【0026】
前記Fe基アモルファス合金粉末の合金組成は、FeaSibBcCdMe(但し、MはCr、Mo、Mn、Zr及びHfからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、50≦a≦90、2≦b≦15、5≦c≦30、0≦d≦3、0≦e≦10、a+b+c+d+e=100)で表されるのが好ましい。
【0027】
前記Fe基アモルファス合金粉末の合金組成は、Fe100-x-yAxXy(ただし、AはCu及び/又はAu、XはB、Si、S、C、P、Al、Ge、B、Sn及びCrからなる群から選ばれた少なくとも一種類の元素)で表され、原子%で、0<x≦5、10≦y≦24により表されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、加工歪が小さく、保磁力の小さいFe基アモルファス合金粉末を得るための最適な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、製造工程の一例を示すフローチャートである。
図2】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法で使用する選別装置の一例を示す模式図である。
図3図2に示す選別装置において円筒体の構造を説明するための模式図である。
図4】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法で使用する選別装置の他の例を示す模式図である。
図5】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、製造工程の他の例を示すフローチャートである。
図6】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、製造工程のさらに他の例を示すフローチャートである。
図7】Fe基アモルファス合金粉末からなる圧粉磁心の製造工程を示すフローチャートである。
図8】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、巻き体を脆化熱処理炉に配置した状態を模式的に示す正面図である。
図9】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、巻き体を脆化熱処理炉に配置した状態を模式的に示す平面図である。
図10】本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法において、脆化熱処理炉の設定温度、並びに上段右奥及び下段左前に設置した巻き体の温度を経過時間に対してプロットしたグラフである。
図11】本発明の実施例1の粉砕粉のSEM観察像である。
図12】脆化処理の温度と平均粒径との関係を示す図である。
図13】本発明の実施例2の粉砕粉のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。また図の一部又は全部において、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書中において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0031】
[1]Fe基アモルファス合金粉末の製造方法
本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法を以下に説明する。図1は、本発明のFe基アモルファス合金粉末の製造方法における製造工程のフローチャートである。図1に示す通り、箔状のFe基アモルファス合金を素材として所定の大きさの塊とし、それを加熱して脆化させたものを乾式粉砕して所望の粒径としたFe基アモルファス合金粉末を得る。必要に応じて、さらにFe基アモルファス合金粉末の表面に酸化膜を形成する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0032】
(1)素材
本実施形態で素材となる箔状のアモルファス合金には、例えば、単ロール法のように合金溶湯を急冷することによって得られる急冷凝固薄帯を用いる。Fe基アモルファス合金薄帯として、1.4 T以上の高い飽和磁束密度Bsを有するFe基アモルファス合金薄帯を用いるのが好ましい。例えば、Metglas(登録商標)2605SA1材に代表されるFe-Si-B系等のFe基アモルファス合金薄帯を用いることができる。さらに他の元素を含むFe-Si-B-C系、Fe-Si-B-C-Cr系等の組成を採用することもできる。Feの一部をCo、Ni等で置換してもよい。本発明の実施形態に用いるFe基アモルファス合金薄帯の合金組成の一例としては、FeaSibBcCdMe(但し、MはCr、Mo、Mn、Zr及びHfからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、原子%で、50≦a≦90、2≦b≦15、5≦c≦30、0≦d≦3、0≦e≦10、a+b+c+d+e=100)で表されるものが好ましい。合金組成はこれを特に限定するものではなく、必要とされる特性に応じて選定することができる。
【0033】
本実施形態で素材となる箔状のアモルファス合金には、熱処理によりナノ結晶組織を発現するアモルファス合金を使用しても良い。これは、ナノ結晶合金と呼ばれるものであり、急冷凝固時はアモルファス状態であるが、その後熱処理することによりナノ結晶組織となり、優れた軟磁気特性を示すものである。この場合も箔状のアモルファス合金の形態で製造され、それを粉砕して粉砕粉とし、磁心材料として用いることができる。この場合、1.2 T以上の高い飽和磁束密度Bsを有するFe基ナノ結晶合金薄帯となるアモルファス合金薄帯を用いるのが好ましい。具体的には、例えば、Fe-Si-B-Cu-Nb系、Fe-Cu-Si-B系、Fe-Cu-B系、Fe-Ni-Cu-Si-B系等のFe基ナノ結晶合金用のアモルファス合金薄帯を用いることができる。これらの元素の一部を置換した系及び他の元素を添加した系を用いてもよい。本発明の実施形態に用いる合金組成の一例としては、Fe100-x-yAxXy(ただし、AはCu及び/又はAu、XはB、Si、S、C、P、Al、Ge、B、Sn及びCrからなる群から選ばれた少なくとも一種類の元素)で表され、原子%で、0<x≦5、10≦y≦24により表されるものが好ましい。なおナノ結晶組織とは、粒径が100 nm以下の微結晶組織である。
【0034】
ナノ結晶を発現させるための熱処理は、例えば、磁心形状とした後、又は磁心形状とする前であって、粉砕の後に行うことができる。この熱処理によりナノ結晶組織を発現するアモルファス合金を用いる場合、最終的に得られる圧粉磁心等において粉砕粉がナノ結晶組織を有していればよい。したがって、粉砕に供する時点では、熱処理によりナノ結晶組織を発現するアモルファス合金であってもよい。
【0035】
本実施形態の箔状のアモルファス合金の厚さは、10~50μmの範囲が好ましい。10μm未満では、機械的強度が低くて、安定に長尺の合金薄帯を鋳造することが困難である。また、50μmを超えると合金の一部が結晶化しやすくなる。本実施形態では合金の一部が結晶化していても良いが、保磁力が大きくなる等、磁気特性が劣化する場合があるため、磁気特性への影響を考慮すれば、合金組織に結晶相を極力含まず、得られる磁気特性がアモルファス単相に近い状態であるのが好ましい。箔状のアモルファス合金の厚さは、より好ましくは13~35μmである。
【0036】
箔状のアモルファス合金は、長尺の形態をなし、大きな巻き体として流通しているアモルファス合金薄帯や、薄帯を切断したり打抜いたりして、必要な部分以外として生じる切れ端部分である端材であっても良い。
【0037】
薄帯とする場合の幅は、これを特に限定するものではなく、市場に流通している程度の幅のものを用いることができるし、市場に流通している程度の幅のものからスリットした幅のものを用いることもできる。例えば、100~300 mm程度の幅のものを用いることができる。
【0038】
(2)塊状化工程a1
アモルファス合金粉末用の素材として、箔状のFe基アモルファス合金をアモルファス合金薄帯として大きな巻き体のまま使用したり、端材を使用したりすることは可能である。端材は所望の形状のアモルファス合金薄帯を取り除いた残りであり、その大きさや形状は多種多様で、バラバラの状態では非常に嵩張り、取り扱いが容易でない。一方でアモルファス合金薄帯は長尺の形態をなし、大きな巻き体、典型的には外径が直径1~2 m程度の巻き体として流通していて、その重量は数百 kgを超えるため、この場合もまたそのままでは取り扱いが容易でない場合がある。そのため、箔状のFe基アモルファス合金を取り扱いが容易な程度の大きさ、重量の塊状体とするのが好ましい。
【0039】
本実施形態のアモルファス合金粉末の製造方法では、素材としてアモルファス合金薄帯を使用する場合に、まず大きな巻き体からアモルファス合金薄帯を引き出し、それを巻き直した小さな巻き体とした塊状体を用意する。設備的な要因で、大きな巻き体のままでは、取り扱いが困難である場合、好適な大きさの巻き体を適宜作製して塊状化を行うのが好ましい。大きな巻き体から円環状又は円柱状の小型の巻き体(塊状体)に巻き直す場合、その好適な質量は好ましくは5~50 kg、より好ましくは10~20 kgであり、巻き体の外径としては好ましくは100~400 mm、より好ましくは120~150 mmである。また、巻き体の作製方法としては、アモルファス合金薄帯を巻き回す通常の巻き方を用いればよい。例えば、巻き回す際の張力は10~100 kPaが好ましく、巻き取り速度は50~150 m/分が好ましい。
【0040】
素材が端材である場合、端材を型に入れ、プレスして一体化して、端材の塊を成形する塊状化を行うのが好ましい。これにより取り扱いが容易になる。端材の塊を作製するには、例えば、三方締めプレス機、二方締めプレス機などの金属圧縮機を用いることができる。また、一方締めプレス機を用いてもかまわない。このようなプレス機を用いて端材をプレスすることにより、端材の塊状体とすることができる。塊状体の大きさとしては、例えば、一辺が20 cm程度の直方体とすれば良く、一辺の大きさは10~30 cm程度が好ましく、15~25 cm程度がより好ましい。塊状体が小さ過ぎると取り扱いが煩雑となり、大き過ぎると質量が増加し取り扱いが困難となる。塊状体の形状は必ずしも直方体とする必要はなく、多角形体でもよく、円柱体でも良いし、それらに近しい形状であっても構わない。取り扱いしやすい形状、質量であれば、その形態は適宜選択できる。アモルファス合金薄帯の端材をプレスして一体化する際の加圧力は、1~500 MPaとするのが好ましい。1 MPa未満であると、塊とすることが困難であり、500 MPaを超えると、プレスが大型化して効率的でないし、アモルファス合金に対して大きな歪を生じさせて、得られるアモルファス合金粉末は磁気特性が劣るものとなる場合がある。加圧力の下限は、より好ましくは5 MPaであり、更に好ましくは10 MPaである。加圧力の上限は、より好ましくは200 MPaであり、更に好ましくは100 MPaである。
【0041】
(3)脆化工程a2
本実施形態では、塊状体に対し、脆化のための熱処理を行うのが好ましい。この脆化処理は、Fe基アモルファス合金の薄帯や端材を塊状体とせずにそのまま利用する場合は必須ではないが、その場合でも脆化処理を施した方が粉砕性を高めることができるので好ましい。熱処理は大気中でも良いし、非酸化性雰囲気中でも良い。Fe基アモルファス合金はその組成にもよるが、250℃以上の熱処理により脆化が起こり、粉砕しやすくなる性質を持っている。脆化処理の温度を上げると、より脆化し、粉砕しやすくなる。ただし、温度を上げすぎると結晶化が始まり、粉砕粉の著しい結晶化は、例えば圧粉磁心として使用する場合に、保磁力の増加や磁心損失の増加に影響するので好ましくない。このため脆化処理の温度は、Fe基アモルファス合金であれば、その結晶化温度よりも100~220℃低温とするのが好ましく、300~400℃の温度であるのが好ましい。脆化処理の温度は、より好ましくは300~380℃であり、さらに好ましくは320~380℃であり、最も好ましくは340~380℃である。
【0042】
本発明においては塊状体がこの脆化処理の温度範囲に達していれば、その温度で長時間保持する必要はなく、保持時間は1時間以下で十分であり、好ましくは30分以下である。複数個の巻き体を同時に脆化処理する場合、全ての巻き体が上記の温度に達していれば、それぞれの保持時間や到達温度は異なっていても良い。つまり、熱処理炉内の位置によって温度に差が生じる場合があるが、その場合は、全ての巻き体が所定の脆化処理の温度範囲に達していればよく、それぞれの到達温度又は保持時間は異なっていても良い。一つの塊状体でも全体で温度が均一になっていなくても良く、少なくとも一部が脆化処理の温度範囲となっていれば良い。アモルファス合金の組成よっては、脆化処理を省略してもよい。
【0043】
(4)解砕工程a3
本実施形態では、脆化処理後又は未処理の塊状体に対して解砕処理を行うのが好ましい。この解砕工程は主に塊状体を対象に行い、塊になっている箔状のアモルファス合金の塊状体を粗く破砕させる。解砕は解砕用プレス機やハンマーを用い外力を作用させて行うことができる。このとき、解砕用プレス機の加圧方向は塊状体が巻き体であれば、その巻軸方向が一致する状態で、塊状体をプレスして解砕するのが好ましい。端材から得られる塊状体であれば加圧はいずれの方向からでも良いが、加圧方向に平坦な面があるのが好ましい。プレスの加圧力は、塊状体の質量あたり0.3 ton/kg以上とするのが好ましい。この加圧力は解砕用プレス機で解砕する際の最大加圧力を投入する巻き体の質量で除した数値と定義する。この加圧力が0.3 ton/kg未満であると、解砕力が弱く十分に解砕されない。加圧力が5 ton/kgより大きい場合は、プレス機が大型化し効率的でない。従って、解砕工程でのプレスの加圧力は、塊状体の質量あたり0.3~5 ton/kgであるのが好ましい。
【0044】
(5)選別工程a4
塊状体の解砕工程を終えた後の解砕体の形態は、不定形で大小に分割された箔状の破片の状態や、箔が多層に重なりそれらが密着して多層体を形成した状態となっている。特に、アモルファス合金薄帯を巻き直して小さな巻き体とした塊状体を用いた場合、解砕体には多層体が多く存在している。解砕体は、大きなものでは平面視で人の拳よりも大きな形状のものも含んでいる。大きな解砕体のままでは次の粉砕工程の粉砕機に供給できない場合や、粉砕機に大きな負荷がかかり過負荷となって、処理できない粉砕粉が粉砕機の内部に溜まり、粉砕機が停止する可能性がある。また、粉砕に時間を要するため、得られる粉砕粉末は内部応力が大きく磁気特性に劣るものとなり易い。選別工程a4では、多層体の状態の解砕体を解して分離させ、箔の重なりを減じ、更には小片に分割し、Fe基アモルファス合金の小片を篩って所定の大きさに選別して分離する。このようにして選別して分離した小片を次の粉砕工程に供給する。
【0045】
箔状のFe基アモルファス合金の解砕体の分割、特にこれらの箔が多層に重なった多層体の分離は、例えば、人手で行うこともできるが、大量のFe基アモルファス合金の解砕体を処理しようとする場合には効率的でない。そこで、本実施形態では、解砕体の分割、分離及び選別は、図2に示すような選別装置100を用いた選別手段で行う。選別装置100は、有底の円筒体101を備え、円筒体101は、その中心軸線CLが装置の水平な設置面に対して平行か、底側が低くなるように45度以下の角度で傾斜して、中心軸線CLに回転自在に支持されている。円筒体101は中心軸線CL周りに、例えば、モーター(図示せず。)によって回転させることができる。円筒体101は、多数の貫通孔107が貫通形成された側面105を有しており、各貫通孔107の直径は好ましくは3~15 cmである。貫通孔107は、側面105の単位面積(1 m2)あたり20個以上形成されているのが好ましく、図3に示すように、千鳥状に配置されるのが好ましい。
【0046】
円筒体101の上側(図では左側)の開口部から円筒体101の中に、解砕工程a3で得られた解砕体15を投入し、円筒体を回転駆動させることにより、解砕体15の分割、分離及び選別を行う。回転中の円筒体101の内側では、解砕体15同士が衝突することによる衝撃や、解砕体15が円筒体101の側面105の内側にそって滑ったときの接触による摩擦抵抗によって、多層体が解されて重なった箔が分離され、破片が更に小片に分割される。投入された解砕体15の内、円筒体101の側面105に形成された貫通孔107を通過できる大きさとなったFe基アモルファス合金の小片が貫通孔107を通過し、貫通孔107を通過できない大きさの解砕体15が円筒体内に残され、引き続き解し及び分割が行われる。このような選別手段により、側面105に形成された貫通孔107の孔径に応じた大きさのFe基アモルファス合金の小片20を選別し分離することができる。
【0047】
他の好ましい本実施形態では、箔状のFe基アモルファス合金を、図4に示すように、多数の貫通孔107を有する板状体201の上に投入し、板状体201を振動させてFe基アモルファス合金を小片として貫通孔107を通過させ篩う振動篩200からなる選別装置を選別手段として使用する。板状体201の上では、解砕体15どうしの衝突による衝撃や、解砕体15と板状体201との接触による摩擦抵抗によって多層体が解され、重なった箔が分離され、破片が更に小片に分割される。投入された解砕体15の内、板状体201に形成された貫通孔107を通過できる大きさとなったFe基アモルファス合金の小片が貫通孔107を通過し、貫通孔107を通過できない大きさの解砕体15が板状体状201に残され、引き続き解し及び分割が行われる。このような選別手段より、板状体201に形成された貫通孔107の孔径に応じた大きさのFe基アモルファス合金の小片20を選別し分離することができる。貫通孔107の孔径や、単位面積(1m2)あたり形成数、配置は前述の円筒体101と同様で良い。円筒体101及び板状体201は、鉄鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム等から作製されるパンチングメタル、エッチングメタル、エキスパンドメタル等で形成されるのが好ましい。
【0048】
(6)粉砕工程a5
次に、本実施形態では、選別工程a4で得られたFe基アモルファス合金の小片を粉砕する。粉砕は、ピンミル又はハンマーミルを用いて行うのが好ましい。ピンミルは向かい合った2枚の円板とその表面に互いにかみ合うよう植えられた多数のピンを備える機器である。ピンミルに投入されたFe基アモルファス合金の小片は、円板中心に供給され、片方の円板、又は両方の円板が高速回転することで生じる遠心力で円周方向に移動しながら、ピンによる衝撃力、せん断力によって破砕、粉砕される。ハンマーミルは、高速回転するハンマーによる衝撃力、せん断力によってFe基アモルファス合金の小片を破砕及び粉砕する。
【0049】
ピンミル又はハンマーミルによる粉砕によれば、得られるFe基アモルファス合金粉末は、エッジがシャープで表面も薄帯状態に近い平坦な面を有し、そのほぼ全体が平面と破断面の側面を備える薄片状体となる。これらの方法により、おおよそ平均粒径が240μm以下で、加工歪が小さい粉砕粉を得ることができる。本実施形態では、粉砕粉の加工歪を小さくできるので、保磁力の小さいFe基アモルファス合金粉末を得ることができる。保磁力の小さい粉砕粉は、圧粉磁心に利用した場合、磁心損失が小さくて磁気特性に優れた磁心を得ることができるので好ましい。なお粉砕手段としては、加工歪を受ける粉砕時間が短いピンミルを使用するのがより好ましい。
【0050】
図5に示すように、本実施形態では、粉砕工程a5を第1粉砕工程a5-1と第2粉砕工程a5-2とに分けて行っても良い。本実施形態の第1粉砕工程a5-1では、粉砕整粒機を用いて粉砕を行うのが好ましい。粉砕整粒機とは、カッターやナイフと呼ばれる1つ以上の粉砕刃を備えた羽根と、それを内部に納める円筒形のスクリーンを持つ粉砕機である。粉砕整粒機に投入されたFe基アモルファス合金の小片を、羽根の回転軸の周囲に設置されたスクリーンに形成された多数の貫通する孔を通過するまで、高速で回転する羽根に配設された粉砕刃によりせん断力又は切断力によって破砕、粉砕する。スクリーンの孔は丸や角に形成されていて、スクリーンが丸孔であれば、選別工程a4でFe基アモルファス合金の小片が通過する孔よりも小径であって、直径1.5~12 mmとするのが好ましい。
【0051】
第1粉砕工程a5-1での粗粉砕により得られた粉砕粉は、第2粉砕工程a5-2で微粉砕する。第2粉砕工程a5-2では粉砕機にピンミル又はハンマーミルを使用するのが好ましく、ピンミルを用いるのがより好ましい。ピンミル又はハンマーミルを用いて行う微粉砕では、平均粒径が50~240μmの粉砕粉とするのが好ましい。更に、平均粒径が50~180μmの粉砕粉とするのが好ましい。粉砕粉の平均粒径を小さくすることは、それだけ粉砕に時間を要し、よって粉砕粉に導入される加工歪が大きくなり易く、ヒステリシス損失の増加の原因になる。しかしながら本実施態様では、粉砕工程a5を複数の工程に分けることで、粉砕効率の高い条件で粉砕可能として粉砕機への負荷を低減し、粉砕粉への内部応力の蓄積を抑制する。それによって、平均粒径が小さい粉砕粉であってもヒステリシス損失の増加を抑えることができる。一方、平均粒径が大きい粉砕粉は、流動性が低下して、成形時の金型への充填性が悪くなり圧粉磁心の高密度化がしにくくなる。本実施形態で得られる粉砕粉は実用的な流動性を備えるが、粉砕粉が扁平であるとその流動性が低下する傾向があるから、良好な流動性を得ようとすれば、平均粒径は箔状のアモルファス合金の厚さに対して2倍超から6倍以下とするのが好ましい。
【0052】
前述したように、粉砕工程a5を第1粉砕工程a5-1と第2粉砕工程a5-2とに分けて行うことにより、第1粉砕工程a5-1で粗粉砕による粉砕を行って粒径をある程度小さくし、第2粉砕工程a5-2での粉砕における負荷を低減しているが、更に図6に示すように、第2粉砕工程a5-2の前に第1-1粉砕工程a5-1-1の粗粉砕と第1-2粉砕工程a5-1-2の中粉砕とに分けた2回の粉砕を行っても良い。更に第1粉砕工程a5-1を3回以上の粉砕に分けて行って段階的に粒度を落としてもよい。それぞれの粉砕で粉砕効率の良い条件で粉砕を行うことができれば、一層粉砕粉への内部応力の蓄積を抑制することができる。
【0053】
第1粉砕工程a5-1、第1-1粉砕工程a5-1-1、及び第1-2粉砕工程a5-1-2の粉砕では、それぞれ破砕整粒機を粉砕に使用するのが好ましい。第1-2粉砕工程a5-1-2の中粉砕で用いるスクリーンの孔は、第1-1粉砕工程a5-1-1の粗粉砕で用いるスクリーンの孔よりも小さい穴が設定される。スクリーンが丸孔であれば、直径0.3~5 mmとするのが好ましい。第1-1粉砕工程a5-1-1の粗粉砕で用いるスクリーンの孔は、第1粉砕工程a5-1の設定と同じで良い。
【0054】
本発明の実施形態において、保磁力Hcが2000 A/m以下の粉砕粉を得ることができる。粉砕粉の保磁力Hcは、好ましくは1500 A/m以下であり、更に好ましくは1000 A/m以下である。なお、この保磁力Hcは歪み取りの熱処理を行っていない、粉砕後の粉砕粉の値である。
【0055】
粉砕粉の粒径を、粉砕粉が使用される圧粉磁心の各種用途において適切な粒径とするために、得られた粉砕粉に分級を行っても良い。分級の方法は特に限定するものではないが、篩による方法が簡易であり、特に振動篩が好適である。例えば、粉砕を終えた粉砕粉を目開き106μm(対角150μm)の篩に通し、篩に残った大きな粉砕粉を取り除くことにより、平均粒径が100μm以下の粉砕粉を得ることができる。目開き106μm(対角150μm)の篩に通し、篩に残った大きな粉砕粉を再度ピンミルに投入して微粉砕することもできる。微小な粉砕粉を取り除きたい場合は、例えば、目開き32μm(対角45μm)の篩により通過する粉砕粉を除去することもできる。これら篩の大きさは、適宜、所望の粉砕粉の大きさに合わせて設定すれば良い。
【0056】
(7)酸化被膜形成工程a6
粉砕工程a5を経た粉砕粉の表面に酸化被膜を形成しても良い。酸化被膜の形成は必須ではないが、防錆や絶縁のため形成するのが好ましい。酸化被膜を形成するのに、アンモニアを触媒としてTEOS(テトラエトキシシラン)を加水分解して粉砕粉の表面にSiO2被膜を形成するのが好ましい。また酸素を含む雰囲気中で加熱することによって粉砕粉の表面を酸化して、表面に合金組成に由来する酸化被膜を形成するのも好ましい。酸化のための熱処理は、例えば、大気中で、100~350℃の温度で2~6時間保持するのが好ましい。
【0057】
(8)歪み取り熱処理
本実施形態により得られた粉砕粉(粉砕工程a5を経たもの)は、上記したとおり、2000 A/m以下の保磁力Hcを有している。この粉砕粉に対し、歪み取り熱処理を行うことにより、保磁力を一層小さくすることができる。なお歪み取り熱処理は粉砕粉を使用して圧粉磁心とした後で行われることが多く、粉砕粉にあらかじめ歪み取り熱処理を行うことは必須ではない。この歪み取り熱処理は、箔状のアモルファス合金が前述のFe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-C-Cr系等のFe基アモルファス合金薄帯であれば、それらが結晶化しない温度条件で、結晶化温度未満の温度で行うのが好ましい。好ましくは350℃以上の温度であり、より好ましくは360℃以上であり、更に好ましくは380℃以上である。歪み取り熱処理は温度が高いほど効果が得られるので結晶化温度に近い温度350~420℃で行うのが好ましく、360~410℃で行うのがより好ましく、380~400℃で行うのが最も好ましい。歪み取り熱処理によって、粉砕粉の保磁力を200 A/m以下とすることができる。歪み取り熱処理後の粉砕粉の保磁力は、好ましくは180 A/m以下であり、さらに好ましくは160 A/m以下であり、最も好ましくは150 A/m以下である。この歪み取り熱処理は、例えば、昇温時間を1~6時間程度、保持時間を0.5~4時間程度として行えばよい。
【0058】
ナノ結晶組織を発現するアモルファス合金を用いる場合は、歪み取り熱処理とナノ結晶組織を発現させる熱処理とを合わせて行っても良い。熱処理の温度は結晶化温度以上であるのが好ましく、Fe2Bなどの強磁性の結晶が生じない温度とするのが好ましい。熱処理の温度は好ましくは400~600℃であり、より好ましくは450~550℃であり、最も好ましくは500~530℃である。
【0059】
なお歪み取り熱処理は、粉砕粉への酸化被膜の形成の後でも良い。
【0060】
本実施形態のFe基アモルファス合金粉末は圧粉磁心に好適に用いることができる。図7は、Fe基アモルファス合金粉末を使った圧粉磁心の製造工程のフローチャートである。Fe基アモルファス合金粉末とバインダーとを混合し造粒粉を得る造粒工程cと、得られた造粒粉を加圧成形して成形体を得る成形工程dと、得られた成形体を熱処理して成形体の歪み取りを行う熱処理工程eとを有し、得られた圧粉磁心は、薄片状のFe基アモルファス合金粉末どうしがバインダーで結着されたものとなる。バインダーは成形体の強度を得るのに、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール等を用いるのが好ましい。熱処理後の圧粉磁心の強度を得るために低融点ガラスやシリコーンレジンを用いるのが好ましく、それらを適宜組み合わせて使用するのが好ましい。造粒粉は、成形金型を用いて、トロイダル形状、直方体形状等の所定形状に加圧成形されるが、典型的には1~3 GPaの圧力で、数秒程度の保持時間で成形すればよい。成形工程においては5.3×103 kg/m3 以上に圧密化しておくのが好ましい。得られた成形体を、Fe基アモルファス合金の結晶化温度よりも低温で熱処理するのが好ましい。熱処理によって、成形工程で加えられた圧力によるFe基アモルファス合金粉末の歪みが低減され、優れた軟磁気特性が得られる。
【0061】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
実施例1
(a)素材及び塊状化処理
箔状のアモルファス合金として、厚さ25μm及び幅213 mmの長尺の日立金属株式会社製Metglas(登録商標)2605SA1材を用いた。この2605SA1材は、Fe-Si-B系材料のFe基アモルファス合金薄帯である。このFe基アモルファス合金薄帯は合金の溶湯を急冷凝固させる液体急冷法により、溶湯を高速回転する単ロール上で連続鋳造し、得られた薄帯をスプールに巻き取ることにより製造されたものである。このFe基アモルファス合金薄帯をスプールから巻き出し、巻き直して質量が約10 kg及び外径が150 mmの巻き体(塊状体)を18個作製した。
【0063】
(b)脆化処理
この18個の巻き体をそれぞれステンレスの容器(図示せず)に入れ、乾燥した大気雰囲気の熱処理炉内に適宜積み込み、脆化のための熱処理(脆化処理)を行った。積み込み状態を図8及び図9に模式的に示す。図8は正面から見た模式図であり、図9は平面的に見た模式図ある。図8及び図9に示すように、巻き体1を熱処理炉内に、一面に3列で各列に3個、縦に2段に配置した。縦方向は設置台(図示せず)を設けており、巻き体1同士は離れている。なお図8及び図9では、各巻き体1の位置関係のみを示すため、ステンレスの容器及び設置台の図示は省略した。
【0064】
脆化処理は、大気雰囲気中で行い、熱処理炉の温度設定は、室温から最高温度までの昇温時間を2時間とし、最高温度を320℃、340℃、360℃及び380℃の4条件とし、最高温度での保持時間を4時間とし、その後加熱を止め炉内で冷却した。炉内は循環式となっており、加熱を止めると熱風温度が低下して徐々に空冷される。図10に、熱処理炉の設定温度、並びに上段右奥及び下段左前に設置した巻き体の温度を経過時間に対してプロットしたグラフを示す。各巻き体には熱電対を付けて温度を測定した。熱電対は、巻き体のアモルファス合金薄帯の積層方向の中間で、薄帯の幅方向の中間となる位置に挿入した。各巻き体は熱処理炉内の位置が異なることにより、温度変化は多少異なるものの、ほぼ設定温度に達していることがわかる。これらの巻き体は、その後の解砕及び粉砕において、粉砕され方に大差ないことが確認されており、巻き体の粉砕が支障なく行うことができた。
【0065】
(c)解砕処理
次に、脆化処理した巻き体に解砕処理を行った。解砕工程は、巻き体を解砕用プレス機に、巻き体の軸方向がプレス機の加圧方向と同じになるように配置し、巻き体に対し1 ton/kgの加圧力でプレスして解砕した。巻き体を解砕した解砕体は、箔状のアモルファス合金が多層に重なり部分的に密着したような多層体の状態となっている部分があった。
【0066】
(d)選別処理
解砕処理によって得られた解砕体に含まれる多層体部分を、解して重なった箔を分離するとともに、破片となった箔状のアモルファス合金を更に小片に分割して、以下の選別処理を行った。本実施例では、図2に示すように、直径が約10 cmの多数の貫通孔107が形成された側面105を有し、φ600の開口部を有する有底の円筒体101の中に解砕体15を投入し、円筒体101を軸周りに回転させ、円筒体101の側面105に設けられた貫通孔107を通過させることでFe基アモルファス合金の小片を篩い分けた。貫通孔107から落ちるFe基アモルファス合金の小片20は、ベルトコンベアで次の粉砕工程へ送った。Fe基アモルファス合金の小片20の大きさ(この大きさとは、薄帯の厚さ方向に垂直な方向における幅方向の最短部分の寸法のことであり、長方形状であれば短い側の幅寸法に相当する)は、概ね3~10 cm程度であり、更に細かな小片も含んでいた。なお、Fe基アモルファス合金の小片は変形可能であるので、屈曲していたりすると10 cmの貫通孔107は通過するものの、偏平形状に伸ばすと最長部分の寸法は10 cmを超えるものも存在していた。得られたFe基アモルファス合金の小片20は、偏平状の最長部分の寸法をLとし、その最長部分に直交する方向の最長部分の寸法をMとしたとき、おおむねL≦1.5Mの関係にあった。
【0067】
(e)粉砕工程
次に、粗粉砕、中粉砕及び微粉砕を順次行う粉砕工程を行った。なお、粗粉砕は第1-1粉砕工程a5-1-1、中粉砕が第1-2粉砕工程a5-1-2に相当し、微粉砕が第2粉砕工程a5-2に相当する。第1-1粉砕工程a5-1-1の粗粉砕は、粉砕整粒機を用いた。直径4 mmの穴を施したスクリーンを設置した粉砕整粒機に解砕体を連続して投入し、粉砕刃を高速回転させて粉砕処理した。この粗粉砕により得られた粉砕粉の大きさは、直径4 mmの穴を通過することができる大きさである。
【0068】
第1-2粉砕工程a5-1-2の中粉砕は、同じく粉砕整粒機を用い、粗粉砕により得られた粗粉砕粉を直径1.5 mmの穴を施したスクリーンを設置した粉砕整粒機に連続して投入し、粉砕刃を高速回転させて粉砕処理した。この中粉砕により得られた粉砕粉の大きさは、直径1.5 mmの穴を通過することができる大きさである。
【0069】
第2粉砕工程a5-2の微粉砕は、ピンミルを用い、中粉砕粉を連続して投入し、数百本のピンを備えるディスクを高速回転させて粉砕処理した。これにより、アモルファス合金粉砕粉末を作製した。このピンミルにより得られた粉砕粉(脆化処理360℃)のSEM観察像を図11に示す。このピンミルにより粉砕された粉砕粉はエッジがシャープで表面も元の薄帯の状態に近い平坦面を有していた。
【0070】
得られたアモルファス合金粉砕粉末(第2粉砕工程a5-2で粉砕処理して得られた粉砕粉)の平均粒径を求めた。粉砕粉の粒径測定は、約20 gの粉砕粉を用いて、所定の粒径区分に篩分けし、各粒径区分の質量を測定することによって行った。粒径区分は篩分に使用した篩のJIS試験用ふるい(JIS Z8801-1:2006)の公称目開きに基づき、各粒径区分は、45μm以下、45μm超63μm以下、63μm超90μm以下、90μm超125μm以下、125μm超180μm以下、180μm超355μm以下、355μm超425μm以下の最小粒径超及び最大粒径以下の範囲とした。各粒径区分に含まれる粒子は全てその粒径区分の平均径であるとして、(平均径×質量)の総計を合計質量で割って、平均粒径とした。本発明において「平均粒径」は、いずれもこの算出方法によるものである。
【0071】
実施例1で得られた粉砕粉は、脆化処理320℃で184μm、脆化処理340℃で107μm、脆化処理360℃で88μm、及び脆化処理380℃で75μmの平均粒径を有していた。いずれの場合の粉末も目開き425μmの篩を通過し、篩に残る粉末は無いか、あっても平均粒径を決めるのに実質的に影響のない程度の、ごく僅かの量であった。図12に脆化処理の温度と平均粒径との関係を示す。本実施例では、脆化熱処理温度を高くすると平均粒径が小さくなった。これは、脆化熱処理の温度が高い方が粉砕され易いことを示している。本実施例では、平均粒径が75~184μmのFe基アモルファス合金粉末が得られた。
【0072】
実施例2
第2粉砕工程a5-2において、粉砕機としてディスク型振動ミルを用いた以外は、実施例1の粉末C(脆化処理360℃の条件)と同様にしてFe基アモルファス合金粉末を得た。ディスク型振動ミルは、モーターによって揺動する試料容器内のリングとストーンとが遊星運動を起こすことで、容器内の試料を圧力と摩砕とによって粉砕するものである。粉砕は50 gの粉砕粉を投入し1分間運転して行った。得られたFe基アモルファス合金粉末の大きさは、粉末Cとほぼ同様であった。実施例2の粉砕粉のSEM観察像を図13に示す。実施例2の粉砕粉は、ピンミルで粉砕した粉末Cより角が丸まった形態で、表面も荒れた状態となっている粉砕粉を多く含んでいた。粉末C及び実施例2の粉砕粉の保磁力を、それぞれ歪み取り熱処理を行っていない粉砕後の粉砕粉と、420℃で歪み取り熱処理を行った後の粉砕粉との両方で評価した。結果を表1に示す。
【0073】
なお、保磁力は、東英工業株式会社製の振動試料型磁力計(型式:VSM-5-20)を用い、外径7 mmφ、内径6 mmφ及び高さ5 mm(試料充填高さ2 mm)の試料ケースに粉砕粉を100 mg充填し、測定磁界10 kOe(800k A/m)で測定した。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例2の粉砕後の粉砕粉は、実施例1(粉末C)の粉砕後の粉砕粉に対して、保磁力が4倍程度と大きい。ディスク型振動ミルでの粉砕は粉末をすり潰す力が常時働き、粉末内部の残留応力がピンミルで粉砕する場合よりも大きくなったものと推察され、ピンミルでの粉砕は粉砕粉に与える歪みが小さいので好ましいことが分かる。なお実施例2の保磁力Hcは歪み取り熱処理によって応力緩和され大きく改善された。
【0076】
実施例3
脆化処理を、熱処理炉の温度設定として、最高温度を300℃、最高温度での保持時間を2時間として行い、粉砕工程a5として、第1粉砕工程a5-1の粗粉砕(直径4 mmの穴を施したスクリーンを設置した破砕整粒機による粉砕;実施例1で行った第1-1粉砕工程a5-1-1の粗粉砕と同条件)と、三種類の粉砕機(ディスク型振動ミル、ハンマーミル、及びピンミル)を用いた第2粉砕工程a5-2の微粉砕とを行った以外、実施例1と同様にして、それぞれ三種類のアモルファス合金粉砕粉末を作製した。得られた三種類の粉砕粉を粒径150μm通過の篩いを通過し、粒径75μm通過の篩いを通過しない粉砕粉となるように分級した。歪み取り未熱処理の粉砕粉と、歪み取り熱処理を360℃、380℃及び400℃で行った粉砕粉を準備し、実施例2と同様にして保磁力Hcを測定した。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2に示すとおり、ハンマーミル又はピンミルを用いて微粉砕を行った粉砕粉は、ディスクミルに比較し、粉砕後(歪み取り熱処理を行っていない)においても、歪み取り熱処理後においても、保磁力Hcが著しく小さいことがわかる。すなわちハンマーミルとピンミルとは、加工歪の小さい粉砕粉が得られる粉砕機であることがわかる。Fe基アモルファス合金薄帯を用いた場合、粉砕後の粉砕粉(歪み取り熱処理を行っていない)において、保磁力Hcが2000 A/m以下の粉砕粉を得ることができる。また、歪み取り熱処理後において、保磁力Hcが200 A/m以下の粉砕粉を得ることができる。
【0079】
なお、粉砕に用いたFe基アモルファス合金薄帯(日立金属株式会社製Metglas(登録商標)2605SA1材)の保磁力を測定(5試料を測定した平均)したところ、保磁力は60 A/mであった。保磁力の測定は、粉砕粉の測定と同様であって、試料ケース入る大きさに切断した薄帯を、試料ケースに積み重ねて充填して行った。Fe基アモルファス合金粉末は、粉砕前の薄帯に比較し保磁力が大きくなっている。しかしながら、歪み取り熱処理によって保持力は改善され、本発明によれば保磁力の上昇が抑制されていることがわかる。
【0080】
実施例4
アモルファス合金薄帯の端材として、日立金属株式会社製Metglas(登録商標)2605SA1材(厚さ25μm)の端材を用いて、Fe基アモルファス合金薄帯の端材の塊状態を以下のようにして作製した。約10 kgの端材を、二方締めプレス機で圧縮し、約20×15×25 mmの直方体を複数個作製した。この直方体は表面に凹凸が形成された状態である。この直方体を端材の塊状態とする。この端材の塊状態を、乾燥した大気雰囲気の熱処理炉内に適宜積み込み、脆化熱処理を行った。脆化熱処理は、最高温度を360℃とした以外実施例1と同様にして行った。
【0081】
次に、脆化熱処理した端材の塊状態に解砕処理を行った。解砕工程は、端材の塊を解砕用プレス機に配置し、1 ton/kgの加圧力でプレスして解砕した。解砕処理で得られた解砕体を、実施例1と同様にして、直径が約10 cmの多数の貫通孔が形成された側面を有する円筒体に投入し、円筒体を軸周りに回転させ、Fe基アモルファス合金の小片に分割し、選別した。得られた小片の大きさ(この大きさとは、薄帯の厚さ方向に垂直な方向における幅方向の最短部分の寸法のことであり、長方形状であれば短い側の幅寸法に相当する)は、3~10 cm程度であった。このFe基アモルファス合金の小片を実施例1で行った粉砕工程と同様にして粉砕し、Fe基アモルファス合金の粉砕粉を得た。得られた粉砕粉の平均粒径は86μmであった。また粉砕粉の保磁力は実施例1の粉末Cとほぼ同じであった。
【0082】
比較例1
実施例4と同様にして、アモルファス合金薄帯の端材から塊状化処理、脆化処理、及び解砕処理を行って得られた解砕体を、手で粗く解してディスク型振動ミルに投入し、粉砕粉の平均粒径が88μmとなるまで粉砕してFe基アモルファス合金の粉砕粉を作製した。得られた粉砕粉の大部分は角が丸まった形態で、表面も荒れた状態となっていた。粉砕粉の保磁力は4140 A/mと大きかった。この粉砕粉に340℃で歪み取り熱処理を施したが、保磁力の改善程度は本発明の実施例と比べて劣っていた。
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図13