(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-22
(45)【発行日】2023-05-30
(54)【発明の名称】音波センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20230523BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20230523BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/24
H04R31/00 330
(21)【出願番号】P 2019130025
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177493
【氏名又は名称】長谷川 修
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-014652(JP,A)
【文献】特開2013-093637(JP,A)
【文献】特開2010-040655(JP,A)
【文献】特開2009-044600(JP,A)
【文献】特開2018-032896(JP,A)
【文献】特開2004-037287(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111581(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0311679(US,A1)
【文献】特開2020-134229(JP,A)
【文献】特開2008-005464(JP,A)
【文献】特開2002-345062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01H 17/00
H01L 21/78
H10N 30/088
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象から放出される音波が通過する集音空間を形成し、接着部材を介して前記検知対象に接着する音波センサの製造方法において、
複数のセンサチップ搭載部と、該センサチップ搭載部をそれぞれ取り囲むように配置された接着部材形成部とを備えた集合基板を用意する工程と、
前記センサチップ搭載部のそれぞれにセンサチップを実装する工程と、
前記接着部材形成部のそれぞれに前記接着部材を形成する工程と、
少なくとも前記センサチップを取り囲む前記接着部材を備えた前記集合基板を切断して個片化する工程と、を含むことを特徴とする音波センサの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の音波センサの製造方法において、
前記集合基板は
、前記センサチップ搭載部に凹部が形成されていることを特徴とする音波センサの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載の音波センサの製造方法において、
前記接着部材を形成する工程は、前記接着部材形成部上に、接着部材の集合体を形成する工程であることと、
前記個片化する工程は、前記集合基板とともに前記接着部材の集合体を切断して個片化する工程であることを特徴とする音波センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置などの検知対象から放出される音波を検知するのに好適な音波センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等を製造する工場には多くの機械装置が設置されている。ところで、これらの機械装置が故障し突然停止することを防ぐため、停止に至る前に異常状態であること検知してメンテナンスできるのが望ましい。
【0003】
例えば、機械装置の多くはモーター等の回転機構を備えており、回転機構に異常が生じると、これらの機械装置から放出される超音波領域の音波の強度や周波数帯域が変化することが知られている。そのため機械装置から放出される超音波領域の音波を監視し、異常状態に達したことを検知する装置が用いられている。この種の異常予知装置は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に音波センサを用いた異常検知は、機械装置などの検知対象と音波センサとの距離を常に一定とし、検知対象から放出される音波の経時変化をモニターすることで行われる。ここで検知対象と音波センサとの距離のばらつきをなくすために、検知対象に固定しておくのが好ましい。
【0006】
また、検知対象に大きな音波センサを固定した場合、検知対象と音波センサとの間の集音空間が大きくなり、この空間で検知信号の周波数帯域と近い周波数帯域の音響共振が生じてしまい異常予知のための検知信号が検出しにくくなるという問題があった。本発明はこのような問題点を解消し、検知対象から所定の寸法だけ離れた位置に確実に接着することが可能で、所望の検知信号を得ることができる小型の音波センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、検知対象から放出される音波が通過する集音空間を形成し、接着部材を介して前記検知対象に接着する音波センサの製造方法において、複数のセンサチップ搭載部と、該センサチップ搭載部をそれぞれ取り囲むように配置された接着部材形成部とを備えた集合基板を用意する工程と、前記センサチップ搭載部のそれぞれにセンサチップを実装する工程と、前記接着部材形成部のそれぞれに前記接着部材を形成する工程と、少なくとも前記センサチップを取り囲む前記接着部材を備えた前記集合基板を切断して個片化する工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の音波センサの製造方法において、
前記集合基板は、前記センサチップ搭載部に凹部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本願請求項3に係る発明は、請求項1または2いずれか記載の音波センサの製造方法において、前記接着部材を形成する工程は、前記接着部材形成部上に、接着部材の集合体を形成する工程であることと、前記個片化する工程は、前記集合基板とともに前記接着部材の集合体を切断して個片化する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、音波センサと音波の発生源との相対的な位置関係を常に一定に、ばらつきなく接着可能で、このばらつきに起因する検出信号のばらつきを抑えることができる音波センサを容易に形成することが可能となる。
【0011】
また、音波センサの大きさを小さく形成することができるので、検知対象と音波センサとの間の集音空間が小さくなり、この空間内の音響共振の周波数が高周波数帯側に移動させることができる。その結果、検知信号を確実にセンシングする高感度の音波センサを形成することが可能となる。特に、検知対象が機械装置の場合、検知対象から放出される超音波領域の音波まで検出可能となるため、異常予知のための音波センサとして好適な音波センサを提供可能となる。
【0012】
本発明の音波センサの製造方法は、集合基板上に複数の音波センサを形成した後、個片化する簡便な工程のみで構成することができ、安価に音波センサを形成することができるという利点がある。特に接着部材の集合体を用意し、この集合体を集合基板に貼り付ける方法とすると、個別に接着部材を所定の位置に配置する方法と比較し、作業時間が短縮でき好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施例の音波センサの製造方法の説明図である。
【
図2】本発明の第2の実施例の音波センサの製造方法の説明図である。
【
図3】本発明の第3の実施例の音波センサの製造方法の説明図である。
【
図4】本発明により形成した音波センサの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、集合基板上に複数の音波センサを形成し、その後個片化することで、接着部材を備えた小型の音波センサを形成することができる音波センサの製造方法である。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1の実施例について、超音波領域の音波を検知する音波センサの製造方法について説明する。まず、集合基板1を用意する。集合基板1は、一般的な半導体装置の製造工程で使用される平板状の有機基板を用いることができる。集合基板1は、後述するようにセンサチップ等を搭載するセンサチップ搭載部とその周囲を取り囲む接着部材形成部とがマトリックス状に配置するように、音波センサチップ等に接続する配線や電極が形成されている。なお以下の説明では、配線や電極等の図示を省略している。
【0016】
集合基板1のセンサチップ搭載部上にセンサチップ2を実装する。センサチップ2は、所望の周波数帯域、すなわち本実施例では超音波領域に感度を有するMEMSマイクロフォン素子となる。
図1(a)に示す例では、MEMSマイクロフォン素子の出力信号を処理する集積回路を形成したICチップ3もセンサチップ搭載部上に実装している。また、集合基板1上には3個のセンサチップ搭載部が形成されており、そのそれぞれにセンサチップ2とICチップ3が実装されている。なお出力信号を処理する集積回路は、センサチップ2と一体化することも可能であるし、あるいは音波センサ内に備えない構造とすることもでき、集合基板1上に実装しない場合もある。
【0017】
次にセンサチップ2等を取り囲むように接着部材形成部上に接着部材4を形成する。この接着部材は、検知対象となる機械装置等に接着させるため磁石を用いることができる。例えばこの磁石は、センサチップ搭載部を開口してその周囲を取り囲むような所望の形状に成型した焼結マグネットやプラスチックマグネットを用意し、接着部材形成部上に接着させればよい。焼結マグネットのような個片化の際に切断するのが難しい場合には、
図1(b)に示すように、隣接する接着部材4間に間隙が形成される構造とし、接着部材4間に集合基板1の表面を露出させておけば良い。
【0018】
接着部材4で囲まれた領域は、防水、防塵等のために開口する上面を保護カバー5で覆う(
図1b)。この保護カバー5には、電磁遮蔽のために金属のメッシュ構造を付加することもできる。保護カバー5上に別の磁石を配置し、別の接着部材4aとすることで保護カバー5を固定することもできる。あるいは鉄のような軟磁性体材料により別の接着部材4aを構成しても良い。あるいはまた保護カバー5を、接着剤で接着部材4に接着し、別の接着部材4aも保護カバー5に接着剤で接着することもできる。この別の接着部材4aは、保護カバー5を固定する機能を有するだけでなく、音波センサを検知対象に接着させた状態で、保護カバー5の表面を検知対象の表面から離して配置する機能も有している。ただし、その高さが高くなると音響空間を大きくしてしまうため、所望の特性が得られるように適切な高さに設定する必要がある。
【0019】
なお本実施例の音波センサは、使用時にはその表面を検知対象に接着させた状態となる。そのため保護カバー5は必ずしも必要ではなく、保護カバー5のない状態、あるいは電磁遮蔽効果のみが得られる金属メッシュで覆う構造とすることも可能である。保護カバー5のない状態では、別の接着部材4aも不要となる。
【0020】
次に個片化を行う。ダイシングソー7を用いて個片化を行う場合、複数の音波センサを形成した集合基板1の表面側をダイシングテープ6に貼り付ける。その後、ダイシングソー7を接着部材4の間を通るように格子状に走行させ、集合基板1の一部を切断することで個々の音波センサに個片化することができる(
図1c)。
【0021】
このように形成した音波センサを
図4(a)に示す。本実施例によれば、非常に小型の音波センサを容易に形成することが可能となる。
【0022】
本発明により形成した音波センサは、接着部材4および別の接着部材4aにより検知対象に接着させて使用すると、音波センサと検知対象との間の空間(集音空間)は非常に小さくなり、検知信号を検知し難くする音響共振を検知信号より高周波帯側に移動させることが可能となり、超音波帯域の検知信号の感度向上が可能となる。
【実施例2】
【0023】
次に第2の実施例について説明する。上述の第1の実施例同様、集合基板1のセンサチップ搭載部上にセンサチップ2を実装する。集積回路を形成したICチップ3も実装する。
図2(a)に示す状態は、第1の実施例で説明した
図1(a)と同じ状態である。
【0024】
次にセンサチップ2等を取り囲むように接着部材形成部上に接着部材4を形成する。この接着部材4は、検知対象となる機械装置等に接着するように磁石を使用することができる。本実施例ではこの磁石を、センサチップ搭載部を開口してその周囲を取り囲むような所望の形状に成型したプラスチックマグネットとする。
図2(b)に示すようにセンサチップ搭載部を除く領域に接着部材4が配置される。この接着部材4は、センサチップ搭載部に相当する位置に貫通孔が形成された接着部材4の集合体として、シート状とすることができる。そのため、集合基板1上にシート状の接着部材4を積層して接着させることで接着部材4を簡便に形成できることが可能となる。
【0025】
接着部材4で囲まれた領域を保護カバー5で覆う。保護カバー5は、上述の第1の実施例同様、別の接着部材4aを用いて接着部材4に接着させる。別の接着部材4aを磁石で構成する場合には、プラスチックマグネットで構成するのが好ましい。別の接着部材4aもシート状にすることが可能である。保護カバー5および別の接着部材4aは必ずしも必要ではないことも、第1の実施例と同様である。
【0026】
次に個片化を行う。複数の音波センサを形成した集合基板1の表面側をダイシングテープ6に貼り付ける。その後、ダイシングソー7を格子状に走行させ、集合基板1、接着部材4、保護カバー5および別の接着部材4aの一部を切断することで個々の音波センサに個片化することができる(
図2c)。
【0027】
このように個片化の際、接着部材4および別の接着部材4aをダイシングソー7で切断するため、接着部材4等は切断が容易なプラスチックマグネットで構成した。したがって、個片化が可能であれば、プラスチックマグネットに限定されるものではなく、焼結マグネットとしても良い。また別の接着部材4だけを焼結マグネットで構成したり、焼結マグネットであってシート状ではない分離された状態のものを用いることも可能である。
【0028】
このように形成した音波センサを
図4(b)に示す。本実施例においても、上記第1の実施例同様、非常に小型の音波センサを容易に形成することが可能となる。本実施例により形成した音波センサも、音波センサと検知対象との間の空間(集音空間)は非常に小さくなり、検知信号を検知し難くする音響共振を検知信号より高周波帯側に移動させることが可能となり、超音波帯域の検知信号の感度向上が可能となる。
【0029】
本実施例では、上記第1の実施例では個片化の際に隣接する接着部材4間を正確にダイシングソー7が走行するように制御する必要があったのに対し、比較的幅の広い接着部材4を切断すればよいので切断工程が容易になる。
【実施例3】
【0030】
次に第3の実施例について説明する。上述の第1および第2の実施例では、平板状の集合基板1上に接着部材4を接合して接着部材形成部を形成していた。これに対して本実施例は、平板状の集合基板1の表面の一部に凹部8を形成し、この凹部8内をセンサチップ搭載部とし、壁部9を構成する集合基板1を接着部材形成部としている(
図3a)。つまり、壁部9は有機基板で構成されることになる。
【0031】
凹部8内のセンサチップ搭載部上にセンサチップ2を実装する。集積回路を形成したICチップ3も実装する。その後、壁部9で囲まれた領域を保護カバー5で覆う。この保護カバー5はシート状のものを使用する。保護カバー5は、接着剤を用いて壁部9に接着させる。保護カバー5上には接着部材4bを接着剤で接着させる。本実施例ではこの接着部材4bを磁石とし、プラスチックマグネット、あるいはマグネットシートで構成する。接着部材4bもシート状にすることができる。本実施例でも保護カバー5は必ずしも必要ではないが、保護カバー5がない場合でも接着部材4bは必須となる。この接着部材4bによって検知対象となる機械装置等に接着させるためである。
【0032】
次に個片化を行う。複数の音響センサを形成した集合基板1の表面側をダイシングテープ6に貼り付ける。その後、ダイシングソー7を格子状に走行させ、集合基板1の壁部9、保護カバー5および接着部材4bの一部を切断することで個々の音波センサに個片化することができる(
図3c)。
【0033】
このような個片化の際、接着部材4bをダイシングソー7で切断するため、切断が容易なプラスチックマグネットで構成した。したがって、個片化が可能であれば、プラスチックマグネットに限定されるものではなく、焼結マグネットとしても良い。また焼結マグネットであってシート状ではない分離された状態のものを用いることも可能である。
【0034】
このように形成した音波センサを
図4(c)に示す。本実施例においても、上記第1および第2の実施例同様、非常に小型の音波センサを容易に形成することが可能となる。本実施例により形成した音波センサも、音波センサと検知対象との間の空間(集音空間)は非常に小さくなり、検知信号を検知し難くする音響共振を検知信号より高周波帯側に移動させることが可能となり、超音波帯域の検知信号の感度向上が可能となる。本実施例の音波センサは、表面のみに接合部材4bを配置する構成となるが、検知対象物に接着させるためには何ら問題はない。
【実施例4】
【0035】
次に第4の実施例について説明する。上記第1乃至第3の実施例では、検知対象の表面に硬い材料からなる接着部材4、4a、4bを配置する構成について説明した。ところで、検知対象の表面も硬い材料からなる。硬い材料同士が接合すると隙間が生じ、この隙間から雑音が侵入したり、この隙間により雑音が発生する等の不具合が発生することが懸念される。そこで、検知対象の表面と直接接着する音波センサの表面、具体的には接着部材4、4a、4bの表面に粘弾性材料からなる層を形成してもよい。
図4(d)には、上記第3の実施例の音響センサに粘弾性材料からなる層10を付加した例を示す。あるいは接合部材4aに替えて粘弾性材料からなる層を形成しても良い。なお、ダイシングソーを用いて粘弾性材料からなる層10を切断することが難しい場合は、通常の印刷法を用いて粘弾性材料からなる層10を形成して切断したり、切断後に粘弾性材料からなる層10を形成することもできる。
【0036】
以上本発明について説明したが本発明はこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。例えば本発明の音波信号は、超音波領域の信号を検知するものに限らない。集合基板は有機基板に限定されるものでもない。
【0037】
また音波センサを検知対象に接着する方法は、磁力に限るものではなく、接着部材等周知の接着方法を採用することができる。また検知対象の表面形状によっては、隙間なく音波センサを接着できない場合もある。その場合は、センサチップ2が所望の方向を指向するような部品を追加して隙間なく検知対象に接着させるようにすれば良い。さらにセンシングする方向以外からの雑音を遮断する部材を追加することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1: 集合基板、2:センサチップ、3:ICチップ、4、4a、4b:接着部材、5:保護カバー、6:ダイシングテープ、7:ダイシングソー、8:凹部、9:壁部、10:粘弾性材料からなる層