(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】防錆剤の製造方法、防錆方法、及び、鉄筋コンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20230524BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20230524BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C23F11/00 F
E04B1/64 Z
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2019062546
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515213722
【氏名又は名称】株式会社フォーシェル
(73)【特許権者】
【識別番号】518147334
【氏名又は名称】株式会社グリーンドゥ
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】安藤 重裕
(72)【発明者】
【氏名】宮薗 泰子
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 照男
(72)【発明者】
【氏名】武若 耕司
(72)【発明者】
【氏名】小池 賢太郎
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-227968(JP,A)
【文献】特開2004-010685(JP,A)
【文献】特開昭55-078764(JP,A)
【文献】特開昭55-125281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
E04B 1/64
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋をはつり出す工程と、
はつり出した鉄筋の浮き錆を除去する工程と、
請求項1~4のいずれか一つに記載の
方法により防錆剤を製造した後、はつり出した鉄
筋に該防錆剤を塗布する工程と、
を含む、鉄筋コンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆剤、該防錆剤を用いた防錆方法、及び、前記防錆剤を用いた鉄筋コンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の内部に埋設された鉄筋は、本来、その表面が不動態被膜で覆われているため、腐食されにくい。しかしながら、コンクリート構造物内の隙間やコンクリート構造物の表面に発生した亀裂等を通じて雨水や空気が侵入すると、鉄筋の表面に形成された不動態被膜が破壊されるため、鉄筋には錆が発生する。その結果、鉄筋の体積が膨張し、これにより、鉄筋周辺のコンクリートが押し出される。重度の場合は、コンクリートが剥がれ落ち、鉄筋が露出することがある。
【0003】
近年、このような鉄筋コンクリート構造物を補修する際には、まず、押し出されたコンクリートをはつり取って除去し、錆が発生した鉄筋を露出させる。そして、鉄筋の錆を除去した後、鉄筋の表面に防錆剤を塗装する。最後に、モルタル系材料からなる断面修復材を塗装することにより、はつり部分を埋めるという作業が行われる。
【0004】
従来、鉄筋、鋼板等の鋼材に用いられる防錆剤としては、有機系樹脂と亜鉛粉末とを混合したジンクリッチペイント、エポキシ樹脂等の樹脂系防錆剤が広く知られている。また、特許文献1では、亜鉛、二酸化ケイ素、酸化カルシウムを含む粉末体と、水ガラスを含む硬化剤と、水溶性合成樹脂と、を混合して得られる防錆塗料が開示されている。さらに、特許文献2では、偏平状亜鉛粉末と、結合材としてケイ酸ナトリウム又はケイ酸リチウムとを含む防錆被覆組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-10685号公報
【文献】特開昭52-151635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
補修された鉄筋コンクリート構造物において、防錆剤と、コンクリートやモルタル系材料からなる断面修復材との付着力が弱いと、隙間から雨水等が侵入しやすくなるため、鉄筋に再び錆が発生する虞があった。そのため、鉄筋コンクリート構造物の補修に用いられる防錆剤には、鉄筋における錆の発生を抑制するだけでなく、コンクリートやモルタル系材料からなる断面修復材との付着性が良好であることが求められる。ところが、従来の防錆剤では、コンクリートやモルタル系材料からなる断面修復材との付着性については全く検討されてこなかった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、鉄筋における錆の発生を抑制するとともに、コンクリートやモルタルとの付着性に優れた防錆剤、該防錆剤を用いた防錆方法、及び、前記防錆剤を用いた鉄筋コンクリート構造物の補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る防錆剤は、コンクリート構造物中の鉄筋に塗布され、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムを含むケイ酸塩液(A)と、亜鉛粉末及び二酸化ケイ素を含む亜鉛粉末体(B)と、を含み、前記ケイ酸塩液(A)において、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムの合計含有量に対するケイ酸リチウムの含有量の割合が、0.3以上2.3以下であり、前記亜鉛粉末体(B)において、二酸化ケイ素の含有量が、亜鉛粉末100重量部に対して、1.0重量部以上7.0重量部以下である。
【0009】
前記防錆剤は、ケイ酸塩液(A)としてケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムを含み、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムの合計含有量に対するケイ酸リチウムの含有量の割合が、0.3以上2.3以下であることにより、含有亜鉛の犠牲防食効果が鉄筋における錆の発生を抑制するとともに、ケイ酸塩のナトリウム、カリウム、リチウム及びケイ素が水酸化カルシウムと反応して結晶化するため、コンクリートやモルタルとの付着性に優れる。
【0010】
また、前記防錆剤は、亜鉛粉末体(B)として亜鉛粉末及び二酸化ケイ素を含み、二酸化ケイ素の含有量が、亜鉛粉末100重量部に対して、1.0重量部以上7.0重量部以下であることにより、鉄筋の表面に硬い塗膜を形成するため、骨材による擦過傷等を防ぐとともに、含有亜鉛の犠牲防食効果で鉄筋における錆の発生を抑制することができる。
【0011】
本発明に係る防錆剤は、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムの合計含有量に対するケイ酸リチウムの含有量の割合が、1.0以上2.3以下であることが好ましい。
【0012】
前記防錆剤は、斯かる構成により、鉄筋との付着性にも優れる。
【0013】
本発明に係る防錆剤は、前記亜鉛粉末体(B)に対する前記ケイ酸塩液(A)の重量比が、0.1以上0.7以下であることが好ましい。
【0014】
前記防錆剤は、斯かる構成により、コンクリートやモルタルとの付着性がより優れる。
【0015】
本発明に係る防錆剤は、前記亜鉛粉末体(B)に対する前記ケイ酸塩液(A)の重量比が、0.1以上0.4以下であることが好ましい。
【0016】
前記防錆剤は、斯かる構成により、鉄筋との付着性にも優れる。
【0017】
本発明に係る防錆方法は、コンクリート構造物中の鉄筋を防錆する方法であって、上述の防錆剤を鉄筋に塗布する。
【0018】
前記防錆方法は、斯かる構成により、コンクリートやモルタルとの付着性に優れた防錆剤を塗布することができる。その結果、鉄筋に再び錆が発生することを抑制する。
【0019】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物の補修方法は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋をはつり出す工程と、はつり出した鉄筋の浮き錆を除去する工程と、はつり出した鉄筋に、上述の防錆剤を塗布する工程と、を含む。
【0020】
前記鉄筋コンクリート構造物の補修方法では、斯かる構成により、コンクリートやモルタルとの付着性に優れた防錆剤を塗布することができる。その結果、鉄筋に再び錆が発生することを抑制する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鉄筋における錆の発生を抑制するとともに、コンクリートやモルタルとの付着性に優れた防錆剤、該防錆剤を用いた防錆方法、及び、前記防錆剤を用いた鉄筋コンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態に係る防錆剤、該防錆剤を用いた防錆方法、及び、前記防錆剤を用いた鉄筋コンクリート構造物の補修方法について説明する。
【0023】
<防錆剤>
本実施形態に係る防錆剤は、ケイ酸塩液(A)としてケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムを含み、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムの合計含有量に対するケイ酸リチウムの含有量の割合が、0.3以上2.3以下である。前記割合は、鉄筋との付着性を良好にする観点から、1.0以上2.3以下であることが好ましい。
【0024】
ケイ酸ナトリウムとしては、例えば、メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4)、二ケイ酸ナトリウム(Na2Si2O5)、四ケイ酸ナトリウム(Na2Si4O9)等が挙げられる。ケイ酸カリウムとしては、例えば、メタケイ酸カリウム(K2SiO3)、オルトケイ酸カリウム(K4SiO4)、二ケイ酸カリウム(K2Si2O5)、四ケイ酸カリウム(K2Si4O9)等が挙げられる。ケイ酸リチウムとしては、例えば、メタケイ酸リチウム(Li2SiO3)、オルトケイ酸リチウム(Li4SiO4)、オルト二ケイ酸六リチウム(Li6Si2O7)、二ケイ酸リチウム(Li2Si2O5)、七ケイ酸四リチウム(2Li2O・7SiO2)、四ケイ酸リチウム(Li2Si4O9)、九ケイ酸四リチウム(2Li2O・9SiO2)、十五ケイ酸四リチウム(2Li2O・15SiO2)等が挙げられる。
【0025】
ケイ酸カリウムに対するケイ酸ナトリウムの含有量の割合は、0.3~3.0であることが好ましい。
【0026】
ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムの合計含有量は、造膜効果を向上させる観点から、前記ケイ酸塩液(A)全体に対して、5~40重量%であることが好ましく、10~25重量%であることがより好ましい。
【0027】
前記ケイ酸塩液(A)は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウム以外のその他のケイ酸塩を含んでいてもよい。その他のケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。また、前記ケイ酸塩液(A)は、上述のケイ酸塩以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。前記ケイ酸塩液(A)のその他の添加剤としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る防錆剤は、ケイ酸塩液(A)としてケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムを含み、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムの合計含有量に対するケイ酸リチウムの含有量の割合が、0.3以上2.3以下であることにより、鉄筋における錆の発生を抑制するとともに、コンクリートやモルタルとの付着性に優れる。
【0029】
本実施形態に係る防錆剤は、亜鉛粉末体(B)として亜鉛粉末及び二酸化ケイ素を含み、二酸化ケイ素の含有量が、亜鉛粉末100重量部に対して、1.0重量部以上7.0重量部以下である。
【0030】
亜鉛粉末としては、球状、鱗片状等の形状のものを用いることができる。球状の亜鉛粉末を用いる場合、平均粒子径は3μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。特に、亜鉛の反応性を高めて防錆効果を向上させる観点から、粒子径の異なる亜鉛粉末が混合された亜鉛粉末を用いることが好ましく、平均粒子径が3μm以上5μm未満の球状亜鉛粉末と、平均粒子径が5μm以上8μm以下の球状亜鉛粉末とが混合された亜鉛粉末を用いることがより好ましい。この場合、平均粒子径が5μm以上8μm以下の球状亜鉛粉末の含有量に対して、平均粒子径が3μm以上5μm未満の球状亜鉛粉末の含有量は、15~20重量%であることが好ましい。なお、平均粒子径とは、光回析散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定したメジアン径(粒度の累積が50%となる径)を意味する。
【0031】
亜鉛粉末の含有量は、防錆効果を向上させる観点から、前記亜鉛粉末体(B)全体に対して、60重量%以上99重量%以下であることが好ましく、80重量%以上95重量%以下であることがより好ましい。
【0032】
前記亜鉛粉末体(B)は、亜鉛粉末及び二酸化ケイ素以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。前記亜鉛粉末体(B)のその他の添加剤としては、例えば、希釈剤、アクリル樹脂、石灰石等が挙げられる。
【0033】
前記防錆剤は、亜鉛粉末体(B)として亜鉛粉末及び二酸化ケイ素を含み、二酸化ケイ素の含有量が、亜鉛粉末100重量部に対して、1.0重量部以上7.0重量部以下であることにより、鉄筋の表面に硬い塗膜を形成するため、鉄筋における錆の発生を抑制することができる。
【0034】
本実施形態に係る防錆剤は、前記亜鉛粉末体(B)に対する前記ケイ酸塩液(A)の重量比が、0.1以上0.7以下であることが好ましい。また、前記重量比は、鉄筋との付着性を良好にする観点から、0.1以上0.4以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係る防錆剤は、前記亜鉛粉末体(B)に対する前記ケイ酸塩液(A)の重量比が、0.1以上0.7以下であることにより、コンクリートやモルタルとの付着性により優れる。
【0036】
このような防錆剤は、鉄筋コンクリート構造物を補修する際、はつり出した鉄筋に塗布することができる。また、このような防錆剤は、コンクリートやモルタル中に埋設する鉄筋に塗布することができる。
【0037】
<防錆方法>
本実施形態に係る防錆方法は、コンクリート構造物中の鉄筋を防錆する方法であって、上述の防錆剤を鉄筋に塗布する。前記防錆方法は、亜鉛のイオン化傾向による犠牲防食効果によって防錆する方法である。
【0038】
防錆剤を鉄筋に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、刷毛、ローラー、吹付け等による塗布が挙げられる。防錆剤の塗布量は、100~400g/m2であることが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る防錆方法では、上述の防錆剤を鉄筋に塗布することにより、コンクリートやモルタルとの付着性に優れた防錆剤を塗布することができる。その結果、鉄筋に再び錆が発生することを抑制する。
【0040】
<鉄筋コンクリート構造物の補修方法>
本実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物の補修方法は、鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋をはつり出す工程と、はつり出した鉄筋の浮き錆を除去する工程と、はつり出した鉄筋に、上述の防錆剤を塗布する工程と、を含む。防錆剤を塗布した後は、セメントモルタル等で埋め戻す工程を行ってもよいし、前記埋め戻す工程を行わずに放置してもよい。
【0041】
鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋をはつり出す工程、及び、はつり出した鉄筋の浮き錆を除去する工程は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて行うことができる。
【0042】
はつり出した鉄筋に、上述の防錆剤を塗布する工程は、上述の塗布方法及び塗布量で行うことができる。
【0043】
本実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物の補修方法は、はつり出した鉄筋に、上述の防錆剤を塗布する工程を含むことにより、コンクリートやモルタルとの付着性に優れた防錆剤を塗布することができる。その結果、鉄筋に再び錆が発生することを抑制する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<防錆剤の作製>
表1及び2に示す配合のケイ酸塩液(A)及び亜鉛粉末体(B)を混合することにより、各実施例及び各比較例の防錆剤を作製した。なお、比較例5の防錆剤では、ケイ酸ナトリウムを含まないケイ酸塩液(A)を用いた。比較例6では、エポキシ系防錆剤(ローバルシルバー、ローバル社製)を用いた。比較例7では、セメント系防錆剤(α防錆ペースト、住友大阪セメント社製)を用いた。また、比較例6,7を除き、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム及びケイ酸リチウムの合計含有量は、ケイ酸塩液(A)全体に対して、15重量%とした。
【0046】
【0047】
【0048】
表1及び2に示す各原料の詳細を以下に示す。
ケイ酸Na:ケイ酸ナトリウム、トクヤマセメント社製
ケイ酸K:ケイ酸カリウム、日本曹達社製
ケイ酸Li:ケイ酸リチウム、日本化学社製
亜鉛粉末:東洋亜鉛社製
二酸化ケイ素:東ソーシリカ社製
【0049】
<試験1:コンクリート及びモルタルとの付着性試験>
まず、幅300mm×長さ300mm×厚さ60mmのコンクリート平板上面のレイタンスを、カップサンダーを用いて除去した。次に、コンクリート平板上面に各実施例及び各比較例の防錆剤を塗布し、20℃RH60%環境下で7日間養生した。ここで、各実施例及び比較例2の防錆剤の塗布量は300g/m2、比較例6の防錆剤の塗布量は500g/m2とした。なお、比較例1,4,5の防錆剤は、ゲル化して塗膜を形成することができなかったため、その後の工程を行わなかった。また、比較例3の防錆剤は、塗膜が硬化しなかったため、その後の工程を行わなかった。
【0050】
続いて、霧吹きで防錆剤の表面を湿潤とし、モルタル系材料からなる断面修復材(リフレモルセットSP、住友大阪セメント社製)を厚さが10mmとなるように塗布した。最後に、断面修復材の表面をラップで覆い、20℃RH60%環境下で7日間静置することにより、各実施例及び各比較例の供試体を作製した。
【0051】
次に、各供試体について、建研式付着試験を実施した。各供試体における付着強度を表1及び2に示す。本試験では、付着強度が1.00N/mm2以上の供試体を合格と判定した。
【0052】
表1及び2の結果から分かるように、実施例1~13の供試体は、いずれも付着強度が1.0N/mm2以上であり、コンクリート及びモルタル系材料からなる断面修復材との付着性に優れる。一方、比較例2,6の供試体では、コンクリート及びモルタル系材料からなる断面修復材との付着強度が充分に得られなかった。
【0053】
<試験2:鉄板との付着性試験>
まず、幅70mm×長さ150mm×厚さ5mmの鉄板を用意し、該鉄板表面の錆をワイヤーブラシで除去した後、アセトンを用いて油分を除去した。次に、鉄板表面に各実施例及び比較例1~5の防錆剤を塗布することで、各実施例及び各比較例の供試体を作製した。ここで、防錆剤の塗布量は300g/m2とした。なお、比較例1,4,5の防錆剤は、ゲル化して塗膜を形成することができなかったため、その後の工程を行わなかった。また、比較例3の防錆剤は、塗膜が硬化しなかったため、その後の工程を行わなかった。各供試体の建研式付着試験は、試験1と同様の方法で行った。各供試体における付着強度を表1及び2に示す。本試験では、付着強度が0.30N/mm2以上の供試体を合格と判定した。
【0054】
表1及び2の結果から分かるように、実施例1~4,7,8,11~13の供試体は、鉄板との付着性にも優れる。
【0055】
<試験3:防錆剤塗膜の硬化確認>
まず、幅70mm×長さ150mm×厚さ5mmの鉄板を用意し、該鉄板表面の錆をワイヤーブラシで除去した後、アセトンを用いて油分を除去した。次に、鉄板表面に実施例2,9,10及び比較例3,4の防錆剤を塗布することで、各供試体を作製した。ここで、防錆剤の塗布量は300g/m2とした。なお、比較例4の防錆剤は、ゲル化して塗膜を形成することができなかった。
【0056】
各供試体における防錆剤塗膜の硬化確認は、下記の基準に基づき行った。結果を表1及び2に示す。
○:防錆剤を塗布後、30分以内に塗膜が硬化した。
×:防錆剤を塗布後、30分が経過しても塗膜が硬化しなかった。
【0057】
表1及び2の結果から分かるように、実施例2,9,10の供試体では、鉄板表面に防錆剤の硬い塗膜が形成された。一方、比較例3の供試体は、防錆剤を塗布後、30分が経過しても塗膜が硬化しなかった。
【0058】
<試験4:防錆性試験>
まず、φ10mm×長さ200mmの磨き丸棒を用意し、アセトンを用いて油分を除去した。次に、磨き丸棒の一方の端部から長さ50mmまでの部分にエポキシ樹脂を塗布し、他方の端部から長さ150mmまでの部分に実施例2,6,7及び比較例6,7の防錆剤をそれぞれ塗布し、20℃RH90%環境下で7日間養生することにより、実施例2,6,7及び比較例6,7の供試体を作製した。ここで、実施例2,6,7の防錆剤の塗布量は300g/m2、比較例6の防錆剤の塗布量は500g/m2、比較例7の防錆剤の塗布量は1.85kg/m2とした。
【0059】
次に、各供試体について、防錆性試験を行った。具体的には、各供試体を3%食塩水に1日間浸漬した後、20℃RH60%環境下で6日間静置するサイクルを合計3サイクル行った。この際の発錆の有無を表1及び2に示す。
【0060】
表1及び2の結果から分かるように、実施例2,6,7の防錆剤は、従来知られている比較例6,7の防錆剤と同等の防錆性を有する。