IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

特許7284518テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤
<>
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図1
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図2
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図3
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図4
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図5
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図6
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図7
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図8
  • 特許-テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 217/92 20060101AFI20230524BHJP
   C07C 225/22 20060101ALI20230524BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230524BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230524BHJP
   C07C 323/37 20060101ALN20230524BHJP
【FI】
C07C217/92 CSP
C07C225/22
A61K31/136
A61P35/00
A61P43/00 111
C07C323/37
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020508284
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010480
(87)【国際公開番号】W WO2019181714
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018052087
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん研究シーズ戦力的育成プログラム(01) 「がんエヒ゜ゲノム異常を標的とした治療・診断法の開発(テロメア・マイクロRNAによるがんのリスク診断とマイクロRNAによるエピゲノム調節治療法の開発)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】田原 栄俊
(72)【発明者】
【氏名】城間 喜智
(72)【発明者】
【氏名】武田 敬
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 道子
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-507504(JP,A)
【文献】特開2001-072592(JP,A)
【文献】特表2004-524349(JP,A)
【文献】国際公開第01/030771(WO,A1)
【文献】特開平07-238066(JP,A)
【文献】国際公開第02/044120(WO,A1)
【文献】国際公開第09/093667(WO,A1)
【文献】Database REGISTRY,2001年,RN 352638-37-0,Retrieved from STN international [online] ;retrieved on 24 April 2019
【文献】城間 喜智 他,テロメア結合タンパク質TRF2の結合阻害剤ががん細胞に及ぼす影響,第76日本癌学会学術総会抄録集,2017年,J-3119
【文献】城間 喜智 他,DSE-FRET assayを用いたテロメア結合タンパク質阻害剤開発と機能解析,日本生化学会大会,2017年,2P-1435
【文献】城間 喜智 他,DSE-FREAT assayを応用して得られたTRF2-telomere DNA結合阻害剤,第21回日本がん分子標的治療学会学術集会プログラム・抄録集,2017年,W7-5
【文献】城間 喜智 他,DSE-FRET法を用いて得られたテロメア結合タンパク質TRF2阻害剤,第20回日本がん分子標的治療学会学術集会プログラム・抄録集,2016年,P24-2
【文献】城間 喜智,DSE-FRET法を用いたテロメア結合タンパク質 TRF2阻害剤の探索,第19回日本がん分子標的治療学会学術集会プログラム・抄録集,2015年,P3-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式で示される化合物であって、
【化1】
上記化学式中において、
は、酸素であり、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子数が1~6のアルコキシ基、炭素原子数が1~6のアシル基、及びニトロ基のうちから選択されることを特徴とする化合物。
【請求項2】
上記化学式中において、
は、酸素であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基である、
ことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
【化2】
上記化学式のいずれかで示されることを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
下記化学式で示される化合物を含むテロメア結合タンパク質がテロメアに結合することを阻害するためのテロメア結合タンパク質阻害剤であって、
【化3】
上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子数が1~6のアルコキシ基、炭素原子数が1~6のアシル基、及びニトロ基のうちから選択される、テロメア結合タンパク質阻害剤。
【請求項5】
上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基である、請求項4に記載のテロメア結合タンパク質阻害剤。
【請求項6】
【化4】
上記化学式のいずれかで示される化合物を含む請求項4に記載のテロメア結合タンパク質阻害剤。
【請求項7】
前記テロメア結合タンパク質は、TRF1、TRF2又はPOT1であることを特徴とする請求項4に記載のテロメア結合タンパク質阻害剤。
【請求項8】
下記化学式で示される化合物を含む癌の治療又は予防用医薬組成物であって、
【化5】
上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子数が1~6のアルコキシ基、炭素原子数が1~6のアシル基、及びニトロ基のうちから選択される、癌の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項9】
上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
【化6】
上記化学式のいずれかで示される化合物を含む請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
癌の治療又は予防用医薬組成物を製造するための化合物の使用であって、
【化7】
上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子数が1~6のアルコキシ基、炭素原子数が1~6のアシル基、及びニトロ基のうちから選択される、化合物の使用。
【請求項12】
上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基である、
ことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
【化8】
上記化合物は上記化学式のいずれかで示される化合物である請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テロメア結合タンパク質を阻害する化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの染色体DNAの末端には、テロメアとよばれる5’-TTAGGG-3’の繰り返し配列からなる二本鎖DNAが存在する。テロメアの最末端は、3’末端が突出しており、Gテイルと呼ばれる75~300塩基の一本鎖DNA部分が形成されている。通常、Gテイルは、テロメア延長酵素であるテロメラーゼがアクセスする場合やDNAの複製時以外は、ループを形成して保護された状態となっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来から、テロメアのうち大部分を占める2本鎖部分は、細胞分裂が繰り返される度に短くなり、これが細胞老化に関与することが知られている。また、近年、二本鎖テロメアDNAには結合しないがGテイルには結合するタンパク質であるPOT1やそれらに結合するタンパク質PIP1などが発見された。さらに、テロメアのGテイルが、2本鎖部分とは全く異なる機能、例えば、下記のように細胞死の直接的シグナルや様々な細胞応答等に関係していることが明らかになってきた。
【0004】
テロメアにはそれに結合するテロメア結合タンパク質が存在し、該テロメア結合タンパク質は、TRF1(Telomere repeat binding factor)及びTRF2等が知られているが、癌細胞では、TRF2がないと、Gテイルのループ形成ができなくなり、Gテイルの短縮が起こることが明らかとなっている(例えば、非特許文献2参照)。この場合、テロメア全長には変化が見られないにもかかわらず、Gテイルの短縮がみられ、さらには染色体末端の融合を引き起こしている。正常細胞の場合も、TRF2の機能を細胞内で消失させるとGテイルの短縮がおこり細胞増殖が停止して、老化することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。この場合も、テロメア全長は変化しないことから、Gテイルの短縮が老化の引き金になっていると考えられている。
【0005】
上記TRF1やTRF2のみならず、ATM、NBS1、MRNなど様々なタンパク質がGテイルのループ形成に要求されることが分かってきている。様々なDNA傷害剤や放射線によるDNAの傷害に感受性のシグナルでは、テロメアの短縮が見られなくてもGテイルの短縮がみられる。これは、DNAの修復に必要なタンパク質(ATM、NBS1及びMRNなど)がリクルートされてくることからも明らかである。ATMは、血管拡張性疾患の原因遺伝子、NBS1は、ナイミーヘン症候群の原因遺伝子である。なお、ナイミーヘン症候群は、高発ガン性、免疫不全、染色体不安定性、放射線感受性を特徴とする稀な常染色体劣性遺伝疾患である。これらのタンパク質がGテイルにリクルートされることは、上記各疾患との関わりを示している。実際に、Gテイルのループののり付けとして機能しているTRF2の機能を阻害すると、ATMに依存したアポトーシスが誘導される(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
さらに、Gテイルに特異的に作用する抗癌剤は、テロメアの短縮を伴わずにGテイルの短縮を引き起こし、癌細胞を死に至らしめることも分かってきている(例えば、非特許文献4参照)。これらの結果から、DNA障害をもたらす薬剤やストレスが、Gテイルを介して細胞にシグナルを伝え、様々な細胞応答を引き起こしているものと考えられる。また、多くの癌で変異が知られている癌抑制遺伝子産物p53は、Gテイルに結合していることもわかっており(例えば、非特許文献5参照)、癌及び老化に伴う疾患でもGテイルの変化がシグナルとなっていることが明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5652850号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】グリフィス・ジェイ・ディー,コミュー・エル,ローゼンフィールド・エス,スタンセル・アール・エム,ビアンチ・エー,モス・エイチ及びデ・ランジェ・ティ(Griffith JD,Comeau L,Rosenfield S,Stansel RM,Bianchi A,Moss H and de Lange T.),Cell: 97(1999),503-14.
【文献】ファン・スティーンセル・ビィ,スモゴルゼウスカ・エイ及びデ・ランジェ・ティ.(van Steensel B,Smogorzewska A and de LangeT.),92(1998),Cell :401-13.
【文献】カールセダー・ジェイ,ブロッコリ・ディ,ダイ・ワイ,ハーディ・エス及びデ・ランジェ・ティ.(Karlseder J,Broccoli D,Dai Y,Hardy S and de Lange T.),Science: 283(1999),1321-5.
【文献】ゴメス・ディー,パテルスキ・アール,レマルテリュー・ティー,シン‐ヤ・ケイ,メルグニージェイ・エル及びリュオウ・ジェイ・エフ.(Gomez D,Paterski R,Lemarteleur T,Shin-Ya K,Mergny JL and Riou JF.),J Biol Chem:279(2004),41487-94.
【文献】スタンセル・アール・エム,サブラマニアン・ディー及びグリフィス・ジェイ・ディー.(Stansel RM,Subramanian D and Griffith JD.),J Biol Chem: 277(2002),11625-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、テロメア結合タンパク質がGテイルの維持に重要であるため、テロメア結合タンパク質を阻害することが種々の疾患の診断や治療薬開発などに利用できる可能性があると考えられる。しかしながら、テロメア結合タンパク質を阻害するような化合物は知られていない。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、テロメア結合タンパク質を阻害する化合物を得ることにあり、また、当該化合物を疾患の診断や治療等に適用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、テロメア結合タンパク質を阻害する化合物を見出して本発明を完成した。
【0012】
具体的に、本発明に係る化合物は、下記化学式で示される化合物であることを特徴とする。
【0013】
【化1】

上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子数が1~6のアルコキシ基、炭素原子数が1~6のアシル基及びニトロ基から選択される。
【0014】
また、本発明に係る化合物は、上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る化合物は、下記化学式のいずれかで示されることがより好ましい。
【0016】
【化2】


【0017】
本発明に係る化合物によると、テロメア結合タンパク質がテロメアDNAに結合することを阻害できるため、Gテイルにおけるループ形成を阻害できる。その結果、Gテイルの短縮を促すことができて、細胞老化や細胞死を誘導することができる。従って、本発明に係る化合物は、細胞老化や細胞死を誘導する試薬として利用できる可能性があり、さらには、癌等の種々の疾患の治療薬開発等への応用の可能性もある。
【0018】
本発明に係るテロメア結合タンパク質阻害剤は、上記化合物のいずれかを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るテロメア結合タンパク質阻害剤において、テロメア結合タンパク質は、例えばTRF1、TRF2又はPOT1等である。
【0020】
本発明に係るテロメア結合タンパク質阻害剤によると、上記化合物を含むため、上述の通り、テロメア結合タンパク質がテロメアDNAに結合することを阻害できる。このため、Gテイルにおけるループ形成を阻害でき、Gテイルの短縮を促すことができて、細胞老化や細胞死を誘導することができる。
【0021】
以上から、本発明に係る上記化合物は、癌の治療や予防に利用できると考えられ、このため、本発明は上記の化合物を含む癌の治療又は予防用医薬組成物に関し、癌の治療又は予防用医薬組成物を製造するための上記化合物の使用にも関する。さらに、本発明は、上記の化合物を癌患者の癌を治療又は予防するために投与することを含む方法にも関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質阻害剤によると、テロメア結合タンパク質がテロメアDNAに結合することを阻害できるため、Gテイルにおけるループ形成を阻害できる。その結果、Gテイルの短縮を促すことができて、細胞老化や細胞死を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例におけるDSE-FRETアッセイを説明するための図である。
図2】本発明の実施例におけるDSE-FRETアッセイを説明するための図である。
図3】本発明に係る化合物である化合物#198によるTRF2のテロメア結合阻害効果を検討したクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果を示す図である。(a)はChIPアッセイの結果を示すメンブレンの写真であり、(b)は(a)に示す結果について、画像解析ソフトを用いてシグナルを定量し、10%inputに対するTRF2抗体による免疫沈降物中のテロメアDNA量を算出した結果を示すグラフである。
図4】本発明に係る化合物である化合物#198によるTRF2のテロメア結合阻害効果を検討した蛍光免疫染色試験の結果を示す図である。(a)は蛍光顕微鏡で得られた写真であり、(b)は(a)示す結果について、画像解析ソフトを用いて核内のTRF2foci数を計測した結果を示すグラフである。
図5】本発明に係る化合物である化合物#198によるTRF2のテロメア結合阻害効果を検討したテロメアFISH試験の結果を示す図である。(a)は蛍光顕微鏡で得られた写真であり、(b)は(a)示す結果について、画像解析ソフトを用いてテロメアに局在している53BP1(TIF)を計測した結果を示すグラフである。
図6】本発明に係る化合物である化合物#198による細胞のアポトーシスの誘導効果を検討したFACS試験の結果を示す図である。
図7】本発明に係る化合物である化合物#198による細胞のアポトーシスの誘導効果を検討したウエスタンブロット試験の結果を示す図である。
図8】本発明に係る化合物である化合物#198による細胞増殖抑制効果を検討した細胞増殖試験の結果を示す図である。
図9】本発明に係る化合物である化合物#198による細胞増殖抑制効果を検討したコロニーフォーメーションアッセイの結果を示す図である。(a)は各条件での培養プレートを示す写真であり、(b)は(a)に示す結果からコロニー数を計測した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
本実施形態に係る化合物は、テロメア結合タンパク質を阻害する化合物である。また、本実施形態に係る化合物は、下記化学式で示される。
【0026】
【化3】

なお、上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
~Rは、互いに独立して、水素、炭素原子数が1~6のアルキル基、炭素原子数が1~6のアルコキシ基、炭素原子数が1~6のアシル基及びニトロ基から選択される。
【0027】
また、本実施形態に係る化合物は、上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基であることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、テロメア結合タンパク質は、例えばTRF1、TRF2及びPOT1等である。また、本実施形態において、上記化合物は、特に当該テロメア結合タンパク質がテロメアに結合することを阻害する。
【0029】
本実施形態における化合物はこのような特徴を有するため、テロメア結合タンパク質阻害剤に利用することもでき、さらに、癌の治療又は予防用の医薬組成物に利用することもできる。
【実施例
【0030】
以下に、本発明に係る化合物、及びそれを含むテロメア結合タンパク質を詳細に説明するための実施例を示す。
【0031】
まず、DSE-FRETアッセイ(上記特許文献1の特に第一の態様を参照)を用いて、テロメア結合タンパク質を阻害する化合物をスクリーニングした。なお、候補化合物には、独立行政法人産業技術総合研究所が保有する化合物ライブラリーの12212種の化合物を用いた。DSE-FRETアッセイの原理は特許文献1に記載されているが、以下にも簡単に説明する。
【0032】
特許文献1に示すように、DSE-FRETアッセイは、二つの核酸二本鎖部分(核酸二本鎖A及び核酸二本鎖B)がそれらの末端配列において互いに結合してなる複合体(核酸二本鎖複合体)の構造変化により生じる新たな核酸二本鎖の量を測定することを特徴とする方法である。本願の図1に示すように、核酸二本鎖Aは、核酸一本鎖である核酸A1と核酸一本鎖である核酸A2とからなり、かつ、末端配列において核酸二本鎖Bと結合し得る核酸二本鎖である。核酸二本鎖Bは、核酸一本鎖である核酸B1と核酸一本鎖である核酸B2とからなり、かつ、末端配列において核酸二本鎖Aと結合し得る核酸二本鎖である。
【0033】
核酸A1、核酸A2、核酸B1、核酸B2はそれぞれ、以下のように設計することができる。
・核酸A1:第一のヌクレオチド配列および第二のヌクレオチド配列(末端配列)を有する核酸一本鎖。
・核酸A2:第一のヌクレオチド配列に対応する配列および第三のヌクレオチド配列(末端配列)を有する核酸一本鎖。
・核酸B1:第二のヌクレオチド配列に対応する配列(末端配列)および第四のヌクレオチド配列を有する核酸一本鎖。
・核酸B2:第三のヌクレオチド配列に対応する配列(末端配列)および第四のヌクレオチド配列に対応する配列を有する核酸一本鎖。
【0034】
核酸A1、核酸A2、核酸B1及び核酸B2の具体的な構造の一態様は、本願の図1に示すとおりである。
【0035】
核酸A1、核酸A2、核酸B1、核酸B2については、核酸結合タンパク質の結合部位を有するように設計される。本実施例では、テロメア結合タンパク質のテロメア配列への結合及びその阻害を評価することを目的とするため、上記核酸結合タンパク質の結合部位は、テロメア結合タンパク質、特にTRF2の結合配列とした。配列の詳細は後に説明する。
【0036】
当該方法は、核酸二本鎖間の構造変化が、核酸結合タンパク質の結合により阻害されることを利用するものである。核酸A1及び核酸A2で構成された核酸二本鎖Aと、核酸B1及び核酸B2で構成された核酸二本鎖Bがそれらの末端配列において互いに結合してなる核酸二本鎖複合体は、鎖交換反応により構造変化をする。具体的に、図2(a)に示す核酸二本鎖A及び核酸二本鎖Bの末端配列が互いに結合する核酸二本鎖複合体が、鎖交換反応により図2(b)に示す構造に変化し、さらに図2(c)に示す構造に変化する。なお、図2(a)~(c)の構造変化は可逆的変化である。図2(c)に示す構造から、さらに鎖交換反応が進行することにより、図2(d)に示すように、核酸A1及び核酸B1で構成された核酸二本鎖Cと、核酸A2及び核酸B2で構成された核酸二本鎖Dとが生成される。なお、図2(c)から(d)への構造変化は不可逆反応である。これに対して、核酸結合タンパク質(テロメア結合タンパク質)が核酸二本鎖A又は核酸二本鎖Bのいずれかに結合すると上記構造変化は阻害される。具体的に、図2(e)に示すように、核酸二本鎖A及び核酸二本鎖Bで構成された核酸二本鎖複合体に核酸結合タンパク質が結合した場合、図2(f)に示すように鎖交換反応によって、ある程度の構造変化が進むものの、タンパク質が結合した部分においてタンパク質が鎖交換反応を阻害する。よって、この部分において鎖交換反応が中断されて、その結果、図2(g)に示す構造には変化することができない。
【0037】
従って、核酸二本鎖A、Bと、核酸二本鎖C、Dとの量を測定することによって、上記鎖交換反応による構造変化の程度、すなわち、テロメア配列へのテロメア結合タンパク質の結合の程度を測定することができる。このような測定は、核酸二本鎖を標識することにより容易に行うことができる。以下の方法に限られないが、例えば核酸A1の5’末端を蛍光物質で標識し、核酸B1の3’末端を消光物質で標識し、当該蛍光物質の蛍光強度を測定することによって、テロメア配列へのテロメア結合タンパク質の結合程度の測定が可能となる。
【0038】
例えば、核酸A1のうち、5’末端を蛍光物質で標識し、核酸B1のうち、3’末端は前記蛍光物質を消光する物質で標識した場合、図2(a)に示すように核酸二本鎖A、Bにより核酸二本鎖複合体が形成されている時は蛍光を発する。一方、鎖交換反応が進行し、図2(b)、(c)に示すように、核酸A1の5’末端と核酸B1の3’末端とが近づく、すなわち蛍光物質と消光物質とが近づくに従って、蛍光強度が低減する。さらに、鎖交換反応が進行し、図2(d)に示すように、最終産物である核酸二本鎖C及び核酸二本鎖Dを形成すると、核酸B1の標識によって消光される。このため、蛍光値を測定することにより、容易に核酸二本鎖複合体と、核酸二本鎖C及び核酸二本鎖Dの量を測定することができる。なお、蛍光物質及び消光物質で標識する位置の組合せは、上記位置の組合せに限らず、鎖交換反応の進行で蛍光物質と消光物質との距離が近接する又は離間する位置であればよい。また、消光物質と蛍光物質は入れ替えることもできる。
【0039】
以上の通り、TRF2結合部位を有する上記核酸のいずれかにTRF2が結合しない場合(結合が阻害されている場合)は、上記鎖交換反応が進行して蛍光物質と消光物質の位置が近接することにより消光され、一方、TRF2が結合する場合は、上記鎖交換が進行せず、蛍光物質と消光物質とが離間しているため蛍光が発せられる。すなわち、本方法によると、蛍光強度により、TRF2の結合又はその阻害の程度を測定することが可能となる。
【0040】
以下に、本実施例で行ったDSE-FRETアッセイの方法及び結果を説明する。
【0041】
まず、上記核酸A2に対応する合成オリゴヌクレオチドTLM-06と、5’末端をFAM(蛍光物質)で標識した上記核酸A1に対応する合成オリゴヌクレオチドTLM-01-5Fとを、20μLの二本鎖形成溶液(10mM HEPES-NaOH(pH7.9)、50mM KCl、30mM NaCl、0.1mM EDTA、2.5mM DTT、10% Glycerol、0.05% IGEPAL CA-630)中に混合した。その後、加熱変性とアニーリングによって末端に一本鎖を持つ上記核酸二本鎖Aに対応する二本鎖T01F/06を調製した。T01C/06はTRF2結合配列を持つ。また、上記核酸B2に対応する合成オリゴヌクレオチドTLM-05と、3’末端をDabcyl(消光物質)で標識した上記核酸B1に対応する合成オリゴヌクレオチドTLM-02-3Dとを、20μLの二本鎖形成溶液(10mM HEPES-NaOH(pH7.9)、50mM KCl、30mM NaCl、0.1mM EDTA、2.5mM DTT、10% Glycerol、0.05% IGEPAL CA-630)中に混合した。その後、加熱変性とアニーリングによって末端に一本鎖を持つ上記核酸二本鎖Bに対応する二本鎖T02D/05を調製した。T02D/05はTRF2結合配列を持つ。合成オリゴヌクレオチドは全て20pmol使用した。なお、以後すべての標識については、日本バイオサービス社に合成を依頼して作製されたものを使用した。
【0042】
加熱変性とアニーリングは以下の温度条件で行った。
95℃ 120秒 - 90℃ 30秒 - 85℃ 90秒 - 80℃ 90秒 - 77℃ 90秒 - 75℃ 90秒 - 72℃ 90秒 - 70℃ 90秒 - 67℃ 90秒 - 65℃ 90秒 - 62℃ 90秒 - 60℃ 90秒 - 57℃ 90秒 - 55℃ 90秒 - 52℃ 90秒 - 50℃ 90秒 - 47℃ 90秒 - 45℃ 90秒 - 42℃ 90秒 - 40℃ 90秒 - 37℃ 90秒 - 35℃ 90秒 - 32℃ 90秒 - 30℃ 90秒。
【0043】
使用した配列は以下の通りである。なお、下線を引いた部分はTRF2結合配列であり、小文字の部分は核酸複合体を形成した際に一本鎖となる配列である。
TLM-01-5F:
5’ FAM- AGTTGAGTTAGGGTTAGGGT TAGGGTTAGG GCAGGcggtg tctcgctcgc 3’(配列番号1)
TLM-02-3D:
5’ gcgagcgagacaccgCCTGC CCTAACCCTA ACCCTAACCC TAACTCAACT -Dabcyl 3’(配列番号2)
TLM-05:
5’AGTTGAGTTA GGGTTAGGGT TAGGGTTAGG GCAGGcacca caccattccc 3’(配列番号3)
TLM-06:
5’gggaatggtg tggtgCCTGC CCTAACCCTA ACCCTAACCC TAACTCAACT 3’(配列番号4)
【0044】
100fmolのT01F/06と50μMの候補化合物を反応溶液(10mM HEPES-NaOH pH7.9、150mM KCl、0.1mM EDTA、5mM DTT、10% glycerol、0.05% IGEPAL CA-630、20μL)中に混合して、25℃で30分間反応させた。その後、T01F/06に、100fmolのT02D/05をそれぞれ加えて50μLとした後、25℃で120分間反応させた。Cy3の蛍光値の測定は、蛍光プレートリーダーEnVision(Perkin elmer社)を用いた。
【0045】
候補化合物のスクリーニングの結果、検出された蛍光強度が大きく、すなわち、TRF2がその結合部位に結合することを阻害する化合物として下記化学式をもつ化合物#10が得られた。
【0046】
【化4】
【0047】
また、得られた化合物#10の構造に基づいて、これと類似する構造を有する化合物を合成し、上記スクリーニングを行った。その結果、検出された蛍光強度が大きく、TRF2がその結合部位に結合することを阻害する化合物は以下の表1に示すとおりである。なお、候補化合物を反応溶液に混合していないコントロールの場合の蛍光強度を基準として、各化合物を反応溶液に混合した場合の蛍光強度の低減率を阻害率として算出した。
【0048】
【表1】




【0049】
上記表1に示した化合物は、下記化学式を共通の骨格として有していることが分かる。
【0050】
【化5】

なお、上記化学式中において、
は、酸素又は硫黄であり、
及びRは、互いに独立して、水素又はニトロ基であり、
は、水素、ニトロ基、メチル基、メトキシ基又はブチル基であり、
は、水素、メチル基、メトキシ基又はアセチル基であり、
は、水素又はブチル基である。
【0051】
また、上記各化合物は、通常の合成法にて合成されるものである。例として、以下に化合物#198の合成方法を示す。
【0052】
【化6】
【0053】
その他の化合物においても、当業者であれば上記化合物#198の合成法の部分的変更、すなわち原料であるアミノフェノール誘導体およびハロゲン化アリールとして適当な置換其を有するものを用いることによって容易に合成可能である。例えば化合物#207では、上記化合物#198の合成法のうち[化6]中の2から3への合成を、2,4,6‐トリニトロクロロベンゼンの代わりに4-ヨードアニソールを用いることは、当業者には容易に想到可能である。
【0054】
ここで、本実施例で用いた他の化合物の具体的な合成法を以下に示す。
【0055】
【化7】




【0056】
次に、上記スクリーニングの結果において、比較的に高いTRF2の阻害効果が認められた化合物#198を用いて、TRF2の阻害効果についてさらに検討した。そのために、TRF2抗体を用いたクロマチン免疫沈降試験(ChIPアッセイ)を行った。その方法及び結果を以下に説明する。
【0057】
HeLa1.2.11細胞に化合物#198(20μM)又はコントロールとしてのDMSOを24時間処理後、1%ホルムアルデヒドで固定した。その後、細胞をLysisbuffer(1%SDS、10mM EDTA(pH8.0)、50mM Tris-HCl(pH8.0))で溶かし、超音波によりクロマチンを断片化した。その後、TRF2抗体(santacruz社,sc-8528)又はnormalmouse IgG(santacruz、sc-2025)を用いてクロマチン免疫沈降を行い、Hybond N+ メンブレン(Amersham社、RPN82B)にDNAを吸着後、DIG標識テロメアプローブ(Digoligo nucleotide Tailingkit(Roche社、03 353 583910)を用いて、100pmolの3’-(CCCTAA)-5’オリゴヌクレオチドの3’末端に、Digoxigeninを標識したもの)を反応させ、ルミノアナライザー(ImageQuant社、LAS4000)にてシグナルを検出した。画像解析ソフトImageJを用いてシグナルを定量し、10%inputに対するTRF2抗体による免疫沈降物中のテロメアDNA量を算出した。その結果を図3に示す。なお、図3(a)はHybondN+ メンブレンの写真であり、(b)は上記シグナル定量をしてテロメアDNA量を算出した結果を示すグラフである。
【0058】
図3に示すように、DMSOを用いたコントロールと比較して、化合物#198を処理した場合ではテロメアDNAの検出は50%以下に抑制された。この結果から、化合物#198によって、TRF2がテロメアDNAに結合することが阻害されることが示唆される。
【0059】
次に、化合物#198の処理の有無によるTRF2の細胞内局在を蛍光免疫染色法で検討した。その方法及び結果を以下に説明する。
【0060】
8well組織培養用カルチャースライド(松波硝子工業、scs-008)に播種したHeLa1.2.11細胞に化合物#198(20μM)又はコントロールとしてのDMSOを24時間処理した。その後、PBS(-)で2回洗浄し、0.25%TritonX-100(WAKO社,591-12191)/PBS(-)を氷上で2分間処理し、4% パラホルムアルデヒド(MERCK社,1.04005.1000)/PBS(-)を室温で15分間処理した後、PBS(-)で2回洗浄した。さらに0.5%TritonX-100/PBS(-)を氷上で10分間処理した後、PBS(-)で5回洗浄した。次に、3%BSA/0.05%Tween/PBS(-)で200倍希釈したTRF2抗体(Novus社、NB100-56506)を37℃で1時間反応させた後、PBS(-)で2回洗浄した。次に、3%BSA/0.05%Tween/PBS(-)で500倍希釈したAlexaFluor 488 Goat anti-mouse IgG(invitrogen, A11001)を室温で45分間反応させ、PBS(-)で3回洗浄し、0.25μg/mLのDAPI(同仁化学研究所、340-07971)を室温で5分間反応させ、PBS(-)で3回洗浄した。スライドガラスを封入後、蛍光顕微鏡(Zwiss社、Axiovert 200M)にて観測した。画像解析ソフトColumbusを用いて核内のTRF2foci数を計測した。その結果を図4に示す。なお、図4(a)は、蛍光顕微鏡を用いて得られた細胞の写真であり、図4(a)において、白い四角の領域を拡大したもの「Enlarged」で示し、「Enlarged」中の矢印は核外に存在するTRF2を示す。図4(b)は、蛍光顕微鏡を用いて核内のTRF2foci数を計測し、コントロールを1.00としたときのTRF2foci数の割合を示すグラフである。
【0061】
図4に示すように、DMSOで処理されたコントロールでは、DAPIにより染まった核内にTRF2が存在し、TRF2が核内のDNAに結合していると考えられる。一方、化合物#198により処理された細胞では、TRF2の多くが細胞の核の外側に存在している。この結果から、化合物#198によってTRF2が核内でDNAのTRF2結合部位に結合することを阻害することが示唆される。
【0062】
次に、テロメアFISH法を用いて、テロメア異常における化合物#198の影響について検討した。具体的に、テロメアにおいて異常が生じると、テロメアにおける53BP1の局在を特徴とするTIF(telomere-inducedDNA damage foci)が生じることが知られているため、テロメアFISH法を用いて、化合物#198がテロメアにおける53BP1の局在化に影響するか否かを検討した。以下にその方法及び結果を説明する。
【0063】
8well組織培養用カルチャースライドに播種したHeLa1.2.11細胞に化合物 #198(10μM)又はコントロールとしてのDMSOを24時間処理した。その後、PBS(-)で2回洗浄し、0.25%TritonX-100(WAKO社,591-12191)/PBS(-)を氷上で2分間処理し、4%パラホルムアルデヒド(MERCK社,1.04005.1000)/PBS(-)を室温で15分間処理した。その後、PBS(-)で2回洗浄し、0.5%TritonX-100/PBS(-)を氷上で10分間処理した後、PBS(-)で5回洗浄した。次に、Blockingsolution (1mg/ml BSA,3% goatserum,0.1% Triton X-100, 1mMEDTA pH8.0)を室温で30分間処理し、Blocking solutionで1000倍に希釈した53BP1抗体(Novus,NB100-304)を37℃で1時間反応させた後、PBS(-)で2回洗浄した。次に、Blockingsolutionで500倍に希釈したAlexa Fluor488 Goat anti-RabbitIgG(invitrogen,A11008)を室温で45分間反応させ、PBS(-)で3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド/PBS(-)を室温で5分間処理し、PBS(-)で2回洗浄した。その後、70%,95%,100%EtOHを順に3,2,2分間処理した。風乾後、Cy-3標識3’-(CCCTAA)-5’プローブ(PANAGENE社,F1002)を80℃で3分間反応させた。その後、washingsolution(70%formamide,10mM Tris-HCl(pH 7.2)) で洗浄し、PBS(-)で3回洗浄後、0.25μg/mLのDAPIを室温で5分間反応させ、さらにPBS(-)で3回洗浄した。スライドガラスを封入後、蛍光顕微鏡(Zwiss社、Axiovert200M)にて観測した。画像解析ソフトColumbusを用いてテロメアに局在している53BP1(TIF)を計測した。核1個あたりTIFが4個以上あったものをTIF陽性細胞とした。その結果を図5に示す。なお、図5(a)は蛍光顕微鏡を用いて得られた細胞の写真であり、矢印はテロメアと53BP1との共局在が見られる部分を示す。図5(b)は、蛍光顕微鏡を用いてその共局在が生じている、すなわちTIFが生じている細胞数を計測し、その割合を算出した結果を示すグラフである。
【0064】
図5に示すように、コントロールでは、テロメアと53BP1との共局在はほとんど見られなかったが、化合物#198で処理した細胞では、テロメアと53BP1との共局在が認められた。すなわち、化合物#198で処理した細胞では、TIFが生じており、テロメアに異常が生じていると考えられる。これは、化合物#198がTRF2のテロメアへの結合を阻害していることに起因していると考えられる。
【0065】
上記の通り、化合物#198がテロメア異常を促すと考えられる。ここで、テロメア異常は細胞老化や細胞死に関連することが知られているため、化合物#198により細胞のアポトーシスを引き起こすか否かについてFACSを利用して検討した。その方法及び結果を以下に説明する。
【0066】
HeLa1.2.11細胞を20μMの化合物#198又はDMSOで48時間処理した後に、上清ごと細胞を15mLチューブに回収し、1000rpmで3分間遠心し、上清を取り除いた。5mlのPBS(-)で細胞を再懸濁し1000rpmで3分遠心し、上清を除いた。500μlの1×Bindingbuffer(MBL社、4695-300) で細胞を再懸濁し、このうち90μlを5mLチューブ(BDFalcon社、352052)へ移し、10μlのAnnexinV-FITC(MBL社、4700-100)を加え染色した。遮光した状態で15分インキュベートし、解析を行った。Cellsorter(SONY社、SH-800)にてAnnexin V陽性細胞を検出した。結果を図6に示す。
【0067】
図6に示すように、DMSO処理したコントロールと比較して、化合物#198で処理した場合では多くの細胞がAnnexinV陽性であった。すなわち、化合物#198によって細胞のアポトーシスが誘導されることが示唆される。
【0068】
さらに、別の方法により化合物#198によって細胞のアポトーシスが誘導されることを証明するために、アポトーシスの極めて重要な因子として知られている切断型カスパーゼ3の発現が化合物#198により促進されるか否かをウエスタンブロット法によって解析した。その方法及び結果を以下に説明する。
【0069】
HeLa1.2.11細胞を20μMの化合物#198又はDMSOで48時間処理した後に、上清と共に細胞を15mLチューブに回収し、1000rpmで3分間遠心し、上清を取り除いた。細胞ペレットを2×Samplebuffer(117mM Tris-HCl(pH6.8),13%Glycerol,3.7%SDS,200mM DTT,0.004%Bromo Phenol Blue)で溶解し、95℃で5分間熱変性を行った。8%アクリルアミドゲルに10μgのサンプルをRunningbuffer(25 mM Tris、192mM Glycine、0.1%(w/v)SDS)中、定電圧(120V)で泳動した。その後、PVDFメンブレンフィルター Immobilon-P(MILLIPORE)に転写し、抗原抗体反応を用いて目的のタンパクを検出した。用いた抗体は一次抗体にB-actin(SIGMA社、A5441)又はCleavedcaspase3(CST社、D175)、二次抗体にPeroxidase標識Goat抗マウス/抗ラビット二次抗体(JacksonImmuno Research、111-035-003/115-035-003)を用い、シグナルの検出はルミノアナライザー (ImageQuant社、LAS4000)を用いて検出した。その結果を図7に示す。
【0070】
図7に示すように、DMSOを処理したコントロールでは、切断型カスパーゼ3はほぼ見られなかったが、一方、化合物#198を処理した細胞では切断型カスパーゼ3が検出された。この結果から、化合物#198によって、切断型カスパーゼ3の生成が促進され、すなわち細胞のアポトーシスが誘導されると考えられる。
【0071】
次に、化合物#198の細胞増殖に対する影響を検討した。その方法及び結果を以下に示す。
【0072】
HeLa1.2.11細胞を1×10cells/35mmdishで播種し、その翌日に、化合物#198(5μM、10μM、20μM)又はコントロールとしてのDMSOを処理し(処理日を1日目とする)、1日目、3日目、5日目及び7日目に細胞を計数した。その結果を図8に示す。
【0073】
図8に示すように、化合物#198の処理濃度依存的に、細胞増殖が抑制された。
【0074】
また、#198以外における上記各候補化合物によるHeLa1.2.11細胞の増殖に対する抑制効果を上記と同様に測定し、IC50を算出した結果を以下の表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示すように、化合物#198以外の候補化合物も細胞増殖の抑制効果を奏することが明らかである。
【0077】
次に、HeLa1.2.11細胞を1×10cells/100mmdishに播種した翌日に化合物#198(5~20μM)又はコントロールとしてのDMSOを処理し、播種してから10日後、形成されたコロニーを100%EtOHで固定後、4%ギムザ染色液(武藤化学株式会社、1500-2)/PBS(-)を用いて染色し、計測した。その結果を図9に示す。なお、図9(a)は上記ギムザ染色をしたプレートの写真を示し、図9(b)コロニーの生成割合を算出した結果を示すグラフである。
【0078】
図9に示すように、化合物#198の処理濃度依存的にコロニーの生成が抑制された。
【0079】
以上、各実施例の結果から、本発明に係る化合物は、テロメア結合タンパク質のテロメア結合を阻害し、その結果、テロメアにおけるGテイル形成を阻害して、Gテイルを短縮させると考えられる。これにより、本発明に係る化合物は、細胞の増殖抑制及びアポトーシスの誘導を引き起こすと考えられる。従って、本発明に係る化合物は、細胞老化や細胞死を誘導する試薬として利用できる可能性があり、さらには、癌等の種々の疾患の治療薬開発等への応用の可能性もある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
0007284518000001.app