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特許72847191,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/04 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
C07F7/04 N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020001082
(22)【出願日】2020-01-07
(65)【公開番号】P2021109834
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 透
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/142252(WO,A1)
【文献】特開2001-294593(JP,A)
【文献】特開平08-143581(JP,A)
【文献】特開平07-224072(JP,A)
【文献】特開2003-055386(JP,A)
【文献】J. Beckmann,et. Al.,tert-Butoxysilanols as model compounds for labile key intermediates of the sol-gel process: crystal and molecular structures of (t-BuO)3SiOH and HO[(t-BuO)2SiO]2H,Appl. Organometal. Chem.,2003年,17,52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)及び工程(b)を含む1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法であって、
(a)下記式(I)中のトリクロロシラン(1)をジアルコキシ化した後、二量体化により1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)を得る工程、
(b)前記1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)をハロゲン化した後、塩基性加水分解により下記式(I)中の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール(3)を得る工程、
を経ることを特徴とする、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に炭素数3~10の不飽和結合を含んでもよい炭化水素基である。)
【請求項2】
前記式(I)中の前記Rが、tert-ブチル基であることを特徴とする請求項1に記載の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トリアルコキシヒドロキシシランや1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール化合物が配位した金属錯体を無機酸化物に担持させた担持金属錯体を触媒活性成分として、不均一触媒反応系に使用される手法が報告されている(特許文献1)。これらのシロキサン化合物は、例えば、テトラクロロシランやヘキサクロロジシロキサンを出発原料として、アルコールのアルカリ金属塩等によるアルコキシ基置換反応の後、残留クロロ基の加水分解を経て合成される(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1は、1,1,3,3-テトラtert-ブトキシジシロキサン-1,3-ジオールの合成法が記載されている。ヘキサクロロジシロキサンに四等量のカリウムtert-ブトキシドを反応させ、得られるテトラアルコキシジクロロジシロキサン化合物を公知の方法により加水分解し、短ステップで合成している。しかし、出発原料であるヘキサクロロジシロキサンは高価であり、またテトラクロロシラン等の単量体から選択的に大量合成する方法は知られていない。さらに、嵩高い置換基を導入するにあたり、0℃から溶媒の沸点温度まで反応温度を上げる必要がある等、コスト的な観点から、当手法による1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール化合物は工業生産には適していないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6090759号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Appl.Org.Chem. 2003,17,52.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを収率よく工業的に合成するためには、上記の合成方法では困難を伴う。例えば、ヘキサクロロジシロキサンは高価である上、テトラクロロシラン等の単量体から選択的に収率良く合成するのは非常に困難である。また、中間体として単離されるジクロロジシロキサン化合物は反応性が高いため、取り扱いが容易ではない。このようにこれまでの合成例では、十分量を経済的かつ工業的に製造するのは困難である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを短ステップで選択的、効率的かつ低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、下記工程(a)及び工程(b)を含む1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法であって、
(a)下記式(I)中のトリクロロシラン(1)をジアルコキシ化した後、二量体化により1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)を得る工程、及び
(b)前記1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)をハロゲン化した後、塩基性加水分解により下記式(I)中の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール(3)を得る工程、
を経ることを特徴とする、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法を提供する。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に炭素数3~10の不飽和結合を含んでもよい炭化水素基である。)
【0009】
このような製造方法であれば、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを短ステップで選択的、効率的かつ低コストで製造することができる。
【0010】
このとき、前記式(I)中の前記Rが、tert-ブトキシ基であることが好ましい。
【0011】
このようなものであれば、本発明の効果をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、金属錯体の配位子として有用な1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを短ステップで選択的、効率的かつ低コストで製造することができる。
従って、本発明により、十分な量の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを、経済的かつ工業的に製造することが可能となる。
本発明の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを配位子として有する金属錯体は、高効率な不均一触媒としてシリカ担持金属錯体に容易に変換でき、様々な有機化学反応の触媒として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述のように、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール化合物を低コストで製造する方法が求められていた。
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、工業的に容易に実現可能な試薬や条件を選択することにより、不安定なクロロシラン化合物の中間体の単離を必要としない、低コストかつ高効率で1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール化合物を製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明は、
下記工程(a)及び工程(b)を含む1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法である。
(a)下記式(I)中のトリクロロシラン(1)をジアルコキシ化した後、二量体化により1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)を得る工程、
(b)前記1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)をハロゲン化した後、塩基性加水分解により下記式(I)中の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール(3)を得る工程。
【化2】
(式中、Rは、それぞれ独立に炭素数3~10の不飽和結合を含んでもよい炭化水素基である。)
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
本発明は、下記に示す工程(a)、(b)を順次経ることを特徴とする。
【0018】
[工程(a)]
工程(a)は、トリクロロシラン(1)をジアルコキシ化した後、二量体化により1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)を得る工程である。
【0019】
一実施形態によれば、工程(a)では、下記式で示されるように、トリクロロシラン(1)のジアルコキシ化反応(a-1)及び二量体化反応(a-2)により1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)を得る事ができる。この時、中間体としてジアルコキシクロロシラン(4)を経由する。
【化3】
(式中、Rは、上記と同じである。)
【0020】
Rは炭素数3から10の不飽和結合を含んでもよい炭化水素基であり、鎖状、分岐状、又は環状の炭化水素基であってもよい。
炭素数が3未満であると、反応中にゲル化が起こりやすく、炭素数が10を超えると、反応性が低下する場合がある。
【0021】
Rの例としては、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、5-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、9-デセニル基、1,3-ブタンジエニル基、1,3-ペンタジエニル基、1,5-ヘキサジエニル基等の直鎖状炭化水素基、イソプロピル基、2-エチルプロピル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-アミル基、ネオペンチル基、1-メチルブチル基、1-プロピルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-メチルペンチル基、1-エチルペンチル基、イソプロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-1-ブテニル基、1,1-ジメチル-3-ブテニル基、1-エチル-1-ペンテニル基、2,6-ジメチル-5-ヘプテニル基、2,6-ジメチル-1,5-ヘプタジエニル基、2,6-ジメチル-1,6-ヘプタジエニル基、6-メチル-2-メチレン-5-ヘプテニル基、6-メチル-2-メチレン-6-ヘプテニル基、4-メチル-1-ペンテニル-3-ペンテニル基等の分岐状炭化水素基、シクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、2,2,3,3-テトラメチルシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロペンチルメチル基、2-シクロペンチルエチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基、3-シクロヘキシルプロピル基、4-シクロヘキシルブチル基、1-メチルシクロヘキシル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、ノルボルニルメチル基、イソボルニル基、メンチル基、フェンキル基、アダマンチル基、1-シクロペンテニル基、2-シクロペンテニル基、1-シクロヘキセニル基、1-メチル-2-シクロヘキセニル基、2-メチル-2,5-ジシクロヘキサジエニル基、フェニル基、ベンジル基、1-フェニルシクロプロピル基、2-フェニルシクロプロピル基、1-フェニルシクロペンチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-メチル-2-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基、2-フェニルプロピル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、1,2,3,4-テトラヒドロ-2-ナフチル基、2-フェニルエテニル基、3-フェニル-2-プロペニル基、1-メチル-3-フェニルエテニル基、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基、4-エチルフェニル基、4-プロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の環状炭化水素基等が挙げられ、特にtert-ブチル基が好ましい。
【0022】
ジアルコキシ化反応(a-1)は、トリクロロシラン(1)を塩基存在下、対応するRを有するアルコール(ROH)と溶媒中で攪拌することで行われる。
【0023】
ジアルコキシ化反応工程で使用する塩基としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のアルカリ金属塩、又は水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属塩、又はピリジン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン類が挙げられる。中でも、トリクロロシランは強塩基性下で不均化しやすく、発火性のあるモノシラン等を副生する可能性があるため、入手容易性、取扱性、溶解性、反応性及び反応系中の化合物の安定性から、特に好ましくはピリジンである。塩基の使用量は、トリクロロシラン1モルに対して、好ましくは1.5モル以上であり、より好ましくは2モルから2.5モルである。
【0024】
アルコールの使用量は、種々の条件を考慮して任意に決められるが、置換されうるクロロ基が三つあるため、トリクロロシラン(1)1モルに対して、好ましくは1.5モルから3モル、副反応を抑えるため、より好ましくは2モルから2.5モルである。なお、収率の点から2モル以上の使用が好ましい。
【0025】
ジアルコキシ化反応(a-1)に用いる好ましい溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等の塩素系溶剤類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N-ジメチルプロピオンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられ、これらを単独又は混合して用いる。溶媒の使用量は特に限定されないが、トリクロロシラン(1)100部に対し、好ましくは10部から100,000部であり、より好ましくは100部から10,000部であり、更に好ましくは500部から5,000部である。
【0026】
反応温度は、選択する溶媒によって任意に設定できるが、好ましくは-78℃から溶媒の沸点温度であり、より好ましくは-20℃から25℃である。反応時間は任意に設定でき、ガスクロマトグラフィー(GC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常30分から12時間が好ましい。
【0027】
二量体化反応(a-2)は、アルコキシ化反応(a-1)により得られた、ジアルコキシクロロシラン(4)に塩基と水を添加して攪拌することで行われる。なお、二量体化反応(a-2)は、アルコキシ化反応(a-1)の後、生成物を単離することなく同じ反応容器で行うワンポット合成であってもよい。
【0028】
二量体化反応(a-2)に用いる塩基としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のアルカリ金属塩、又は水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属塩、又はピリジン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン類が挙げられる。中でも、入手容易性、取扱性、反応性及び反応系中の化合物の安定性から、好ましくはピリジンである。塩基の添加量は、トリクロロシラン1モルに対して好ましくは1モル以上であり、より好ましくは1モルから5モルである。
【0029】
水の添加量は、ジアルコキシクロロシラン(4)100部に対して好ましくは100部から10,000部であり、より好ましくは300部から1,000部である。
【0030】
反応温度は、任意に設定できるが、好ましくは-78℃から溶媒の沸点温度であり、より好ましくは-20℃から25℃である。反応時間は任意に設定できるが、通常30分から4時間が好ましい。
【0031】
上記の反応で得られた1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサンは蒸留や各種クロマトグラフィー、再結晶等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0032】
[工程(b)]
一実施形態によれば、工程(b)では、下記式で示されるように、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)をハロゲン化反応(b-1)及び加水分解反応(b-2)により1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオール(3)に変換することができる。この時、中間体として1,1,3,3-テトラアルコキシ-1,3-ジハロジシロキサン(5)を経由する。
【化4】
(式中、Xはハロゲン原子であり、Rは、上記と同じである。)
【0033】
前記式(b-1)、(b-2)中の前記Xのハロゲン原子としては、好ましくは塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子である。
【0034】
ハロゲン化反応(b-1)は、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)にハロゲン化剤を添加し、溶媒中で攪拌することで行われる。
【0035】
ハロゲン化剤としては、例えばトリクロロイソシアヌル酸、N-クロロスクシンイミド、1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン、トリブロモイソシアヌル酸、N-ブロモスクシンイミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、トリヨードイソシアヌル酸、N-ヨードスクシンイミド、及び1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン等からなる群より少なくとも1つを選択することができる。価格、取り扱いの容易さ、反応性、反応後の除去の容易さから、好ましくはトリクロロイソシアヌル酸である。
ハロゲン化剤の使用量は、種々の条件やハロゲン化剤の構造を考慮して任意に決められるが、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン1モルに対して、好ましくは0.7モルから10モルであり、より好ましくは1.1モルから3モルである。
【0036】
ハロゲン化反応(b-1)に用いる好ましい溶媒としては、ジエチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等の塩素系溶剤類、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル及びトルエンからなる群より選ぶことができ、これらを単独又は混合して用いる。好ましくは、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、アセトン、酢酸エチルであり、より好ましくはtert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフランである。更に好ましくはtert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルである。溶媒の使用量は特に限定されないが、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン(2)100部に対し、好ましくは10部から100,000部であり、より好ましくは100部から10,000部であり、更に好ましくは500部から5,000部である。
【0037】
反応温度は、選択する溶媒によって任意に設定できるが、好ましくは-40℃から溶媒の沸点温度であり、より好ましくは-20℃から50℃である。反応時間は、ガスクロマトグラフィー(GC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常30分から12時間が好ましい。
【0038】
加水分解反応(b-2)は、ハロゲン化反応(b-1)により得られた、1,1,3,3-テトラアルコキシ-1,3-ジハロジシロキサン(5)に塩基と水を添加して攪拌することで行われる。なお、加水分解反応(b-2)は、ハロゲン化反応(b-1)の後、生成物を単離することなく同じ反応容器で行うワンポット合成であってもよい。
【0039】
加水分解に用いる塩基としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のアルカリ金属塩、又は水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属塩、又はピリジン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン類が挙げられる。中でも、入手容易性、取扱性、反応性及び反応系中の化合物の安定性から、好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ピリジン、トリエチルアミンであり、より好ましくはピリジン及びトリエチルアミンである。塩基の添加量は、ジハロジシロキサン1モルに対して、好ましくは2モル以上であり、より好ましくは3モルから10モルである。
【0040】
水の添加量は、1,1,3,3-テトラアルコキシ-1,3-ジハロジシロキサン(5)100部に対して、好ましくは0.1部から1,000部であり、より好ましくは10部から100部である。
【0041】
反応温度は、任意に設定できるが、好ましくは-78℃から溶媒の沸点温度であり、より好ましくは-20℃から25℃である。反応時間は任意に設定できるが、通常30分から6時間が好ましい。
【0042】
上記の反応で得られた1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールは各種クロマトグラフィーや再結晶等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。工業的経済性の観点から、特に再結晶が好ましい。
【0043】
以上のようにして、簡便で、かつ効率的な1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサン-1,3-ジオール等の1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールの製造方法が提供される。特にハロゲン化体等の不安定な中間体を単離することを必要とせず、ワンポットで高収率、高純度の生成物を製造することが可能であり、工業的経済性に優れている。
【0044】
本発明のシリコーン化合物を配位子とした金属錯体は、種々の有機合成反応、例えば、ヒドロシリル化反応、水素還元等の触媒として好適に使用することができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
以下の実施例において、Buはtert-ブチル基を表す。また、分子構造はAVANCE III(ブルカー・バイオスピン株式会社)を用いて、核磁気共鳴分光法(H-NMR)により決定した。
【0047】
[実施例1]
工程(a):1,1,3,3-テトラtert-ブトキシジシロキサン(2a)の合成
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロート、窒素導入管を装着したフラスコに、トリクロロシラン27.1gと、トルエン160.0gを加え、内温を20℃以下に保ちながら、ピリジン32.4gを攪拌しながら滴下した。反応混合物を25℃で1時間攪拌した後、再び内温を20℃以下に保ちながら、tert-ブチルアルコール31.6gを滴下した。反応混合物を25℃で1時間攪拌した後、内温を20℃以下に保ちながら、ピリジン15.8gを加えた。水20.0gを滴下し、25℃で1時間攪拌した後、濾過し、濾過液に水を加えた後、目的物をトルエンで抽出した。分離した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過を行い、濾液を減圧下(140℃、1kPa)にて揮発成分を留去し、25℃において無色透明液体の生成物20.88gを得た。生成物をH-NMR測定により同定したところ、下記式(2a)で示される化合物であった。収率は57.0%であった。H-NMR(400MHz,CDCl):δ 1.34(s,36H)、4.48(s,2H)
【化5】
【0048】
工程(b):1,1,3,3-テトラtert-ブトキシジシロキサン-1,3-ジオール(3a)の合成
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロート、窒素導入管を装着したフラスコに、上記工程(a)で得られた1,1,3,3-テトラtert-ブトキシジシロキサン(2a)36.7gと、tert-ブチルメチルエーテル200mLを加え、25℃で攪拌し、これにトリクロロイソシアヌル酸25.6gを加えた。25℃で12時間攪拌後、氷冷しながら、トリエチルアミン50.6gと水100mLの混合物を滴下した。反応混合物を25℃で1時間攪拌した後、有機層を分離した。この有機層を1N塩酸と飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後、濾液を濃縮して白色固体の粗生成物を得た。塩化メチレンとペンタンの混合溶媒で再結晶し、25℃において白色固体の生成物37.9gを得た。生成物をH-NMR測定により同定したところ、下記式で示される化合物(3a)であった。収率は95.0%であった。H-NMR(400MHz,CDCl):δ 1.35(s,36H)、2.68~2.86(br,2H)
【化6】
【0049】
[比較例1]
窒素雰囲気下、温度計、滴下ロート、窒素導入管を装着したフラスコに、トリクロロシラン27.1g、トルエン160.0gを加え、氷冷後、内温を20℃以下に保ちながら、ピリジン32.4gを攪拌しながら滴下した。反応混合物を25℃で1時間攪拌した後、再び氷冷し、内温を20℃以下に保ちながら、エタノール18.4g滴下した。再び、反応混合物を室温にあげ、1時間攪拌した後、内温を20℃以下に保ちながら、ピリジン15.8gを加えた。水20.0gを滴下し、25℃で攪拌している間に反応液はゲル化した。
【0050】
上記実施例1からは1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールが得られたが、上記比較例1では反応液がゲル化し、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールは得られなかった。
【0051】
このように、本発明であれば、1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサン-1,3-ジオールを短ステップで選択的、効率的かつ低コストで製造できる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。