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特許7284733銅を浸出させるための設備及び方法、並びにこれらを利用した電気銅の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】銅を浸出させるための設備及び方法、並びにこれらを利用した電気銅の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20230524BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C22B15/00 105
C22B3/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020075000
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021172832
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 彰
(72)【発明者】
【氏名】ロニー・ウイナルコ
(72)【発明者】
【氏名】ウエニング・リウ
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-189687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0048736(US,A1)
【文献】特開2015-078414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 15/00
C22B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
を含む鉱物から銅を浸出させるための設備であって、前記設備は、
浸出反応用リアクターと、
酸化還元電位コントローラーと、
を備え、
前記リアクターは、ヨウ素と鉄とを含み、尚且つ、硝酸イオンと亜硝酸イオンとチオカルボニル官能基を有する試薬とを含まない浸出液が供給されるように構成され、
前記リアクターは、浸出反応時に密閉可能に構成され、
前記酸化還元電位コントローラーは、浸出反応時に、浸出液の酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持することが可能となるように構成される、
設備。
【請求項2】
銅を含む鉱物から銅を浸出させるための設備であって、前記設備は、
浸出反応用リアクターと、
酸化還元電位コントローラーと、
を備え、
前記リアクターは、PTFE製の蓋を備え、
前記リアクターは、ヨウ素と鉄とを含む浸出液が供給されるように構成され、
前記リアクターは、浸出反応時に密閉可能に構成され、
前記酸化還元電位コントローラーは、浸出反応時に、浸出液の酸化還元電位を540mV(Ag/AgCl基準)以上、570mV(Ag/AgCl基準)以下に維持することが可能となるように構成される、
設備。
【請求項3】
請求項1又は2の設備であって、前記設備は、pHコントローラーを更に備え、
前記pHコントローラーは、浸出液のpHを1.0~2.0の範囲に制御することが可能なように構成される、
設備。
【請求項4】
請求項1の設備であって、前記リアクターがPTFE製の蓋を備える、設備。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の設備を使用して銅を含む鉱物から銅を浸出させるための方法であって、
前記方法は、
リアクターに、前記銅を含む鉱物前記浸出液とを導入する工程と、
浸出反応を進行させる工程とを含み、
浸出反応を進行させる工程は、前記リアクターを密閉状態にして、浸出反応を進行させることを含み、
浸出反応を進行させる工程は、前記浸出液の酸化還元電位を540mV(Ag/AgCl基準)以上、570mV(Ag/AgCl基準)以下に維持することを含む、
方法。
【請求項6】
請求項の方法であって、浸出反応を進行させる工程は、pHを1.0~2.0の範囲で、浸出反応を進行させることを含む、方法。
【請求項7】
電気銅を製造するための方法であって、請求項又はに記載の方法を実施する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅を浸出させるための設備及び方法、並びにこれらを利用した電気銅の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱石は、酸化銅鉱、二次硫化銅鉱、一次硫化銅鉱などに分類することができる。酸化銅鉱は、酸による作用のもとで浸出しやすい。二次硫化銅鉱については、フェリックリーチング等によって浸出させることができる。その一方で、一次硫化銅鉱については、浸出が困難な銅鉱として知られている。しかし、一次硫化銅鉱は銅鉱石に占める割合が多い。従って、リーチングにより一次硫化銅鉱を浸出させることができれば有益である。特許文献1では、一次硫化銅鉱を浸出により回収するための方法として、ヨウ化物イオンと鉄(III)イオンとを含有する溶液にて浸出することを開示している。
【0003】
また、特許文献2では、浸出液が、ヨウ素分子、ヨウ化物イオン及び/又はヨウ素酸イオンを含むこと、及び、更に硝酸イオンと亜硝酸イオンとを含むことを開示している。更に、特許文献2では、浸出液中の鉄イオンの形態はほぼ全てが鉄イオン(III)であることが望ましい旨を開示している。そして、鉄イオンに関連して、特許文献2では、標準水素電極(SHE)に対する25℃での浸出液中の酸化還元電位が710mV超であれば、浸出反応は良好に進行することを開示している。
【0004】
また、浸出液に含まれるヨウ素に関連して、特許文献3では、浸出後液において、ヨウ素の揮発によるロスを抑制するため、酸化還元電位を浸出後液の電位を450mV以下(銀-塩化銀電極基準)に制御することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-189687号公報
【文献】特開2015-078414号公報
【文献】特開2016-169425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、浸出液にヨウ化物イオンと鉄イオン(III)とを利用した反応系について開示しているものの、酸化還元電位についての言及はない。特許文献2では、酸化還元電位について言及しているものの、特許文献2が開示しているのは、浸出液に、硝酸イオンと亜硝酸イオンとを添加して、これらを利用した反応系である。したがって、特許文献1に記載されているような、浸出液にヨウ化物イオンと鉄イオン(III)とを利用した反応系とは異なる。特許文献3では、浸出反応終了後において(即ち浸出後液において)、ヨウ素の揮発によるロスを抑制することを目的としており、浸出反応中のヨウ素の揮発によるロスについては言及していない。
【0007】
以上の事情に鑑み、本発明は、浸出反応中において、ヨウ化物イオンと鉄イオン(III)とを使用した浸出方法のより優れた条件を提供し、これにより、効率的な銅の浸出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討したところ、酸化還元電位を所定の値以上にすることで、浸出反応が良好に進行する可能性があることを見出した。しかし、実際には、酸化還元電位を高くすることで、ヨウ素の揮発によるロスが顕著となるため、浸出反応が、予想よりも向上しなかった。そこで、リアクターを密閉することで、ヨウ素の揮発によるロスを抑制させた。これにより、浸出反応が良好に進行することを見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
銅を浸出させるための設備であって、前記設備は、
浸出反応用リアクターと、
酸化還元電位コントローラーと、
を備え、
前記リアクターは、ヨウ素と鉄とを含む浸出液が供給されるように構成され、
前記リアクターは、浸出反応時に密閉可能に構成され、
前記酸化還元電位コントローラーは、浸出反応時に、浸出液の酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持することが可能となるように構成される、
設備。
(発明2)
発明1の設備であって、前記設備は、pHコントローラーを更に備え、
前記pHコントローラーは、浸出液のpHを1.0~2.0の範囲に制御することが可能なように構成される、
設備。
(発明3)
発明1又は2の設備であって、前記リアクターがPTFE製の蓋を備える、設備。
(発明4)
発明1~3のいずれか1つに記載の設備を使用して銅を浸出させるための方法であって、
前記方法は、
リアクターに、銅を含む物質と浸出液とを導入する工程と、
浸出反応を進行させる工程とを含み、
浸出反応を進行させる工程は、前記リアクターを密閉状態にして、浸出反応を進行させることを含み、
浸出反応を進行させる工程は、浸出液の酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持することを含む、
方法。
(発明5)
発明4の方法であって、浸出反応を進行させる工程は、pHを1.0~2.0の範囲で、浸出反応を進行させることを含む、方法。
(発明6)
電気銅を製造するための方法であって、発明4又は5に記載の方法を実施する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
一側面における本発明の設備において、リアクターは、浸出反応時に密閉可能に構成される。更には、酸化還元電位コントローラーは、浸出反応時に、浸出液の酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持することが可能となるように構成される。これらの構成によって、浸出反応が良好に進行する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態における銅を浸出させるための設備を示す。
図2】一実施形態において、酸化還元電位とCuの浸出率との関係を表す。縦軸は、Cuの浸出率を表し、横軸は浸出反応の日数を表す。
図3】比較例として、ヨウ素が無い場合の酸化還元電位とCuの浸出率との関係を表す。縦軸は、Cuの浸出率を表し、横軸は浸出反応の日数を表す。
図4】一実施形態において、ヨウ素濃度とCuの浸出率との関係を表す。縦軸は、Cuの浸出率を表し、横軸は浸出反応の日数を表す。
図5】一実施形態において、温度とCuの浸出率との関係を表す。縦軸は、Cuの浸出率を表し、横軸は浸出反応の日数を表す。
図6】電位・pH図を示し、具体的には、pH(横軸)及び酸化還元電位(縦軸)とヨウ素の状態との関係を示す。当該図の上に、実施例1で検証したリアクターでの実際のpH・ORPをプロットして示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0013】
1.対象となる浸出反応
一実施形態において、本発明は、銅を浸出させるための設備及び方法に関する。銅は、銅を含む鉱物から浸出させることができる。なお、本明細書で述べる用語「鉱物」は、原材料としての鉱物(Ore)だけでなく、精鉱(Concentrate)も含まれる。精鉱は、例えば、原材料としての石を粉砕したり、及び/又は選鉱(例えば、浮遊選鉱)を行うことにより得ることができる。
【0014】
銅を含む鉱物としては、酸化銅鉱、二次硫化銅鉱、及び一次硫化銅鉱等が挙げられる。一次硫化銅鉱の例として、例えば、Bornite、Chalcopyrite等が含まれる。一実施形態における銅を浸出させるための設備及び方法は、Chalcopyriteに好適である。
【0015】
銅を浸出させるために用いる浸出液には、ヨウ素(例えば、ヨウ化物イオン等)と鉄(例えば、鉄イオン(III))を含む。これらの元素は、鉱物中の銅の化合物と反応して、銅をイオン化させて、溶液中に浸出させる役割を果たす(反応の詳細については後述)。
【0016】
なお、鉄の供給源については、硫酸鉄n水和物(Fe2(SO43・nH2O)等の化合物を用いることができる。あるいは、二価の鉄イオン(例:第一硫化鉄)の溶液を供給し、その後、鉄酸化細菌等により三価の鉄イオンに変換してもよい。
【0017】
また、ヨウ素の供給源については、任意の形態であってもよい。例えば、ヨウ素単体(溶液中で、化学反応してヨウ化物イオンを生じる)、ヨウ化物(例:ヨウ化カリウム)などの形態で添加してもよい。
【0018】
浸出液中のヨウ素の濃度(即ち、ヨウ素分子(I2)、ヨウ化物イオン(I-)、三ヨウ素イオン(I3-)等のあらゆる形態を含めた総ヨウ素濃度)は特に限定されないが、少なくとも50mg/L以上であってもよく、好ましくは、100mg/L以上であり、更に好ましくは、150mg/L以上であってもよい。上限値は特に限定されず、典型的には、300mg/L以下であってもよい。
【0019】
浸出液中の鉄の濃度(即ち、鉄イオン(II)、鉄イオン(III)等のあらゆる形態を含めた総鉄濃度)は特に限定されないが、少なくとも1g/L以上であってもよく、好ましくは、2g/L以上であり、更に好ましくは、5g/L以上であってもよい。上限値は特に限定されず、典型的には、10g/L以下であってもよい。
【0020】
また、浸出液は、ヨウ素と鉄以外の成分を含んでもよい。例えば、後述する酸化還元電位の調節の結果として、浸出液は、酸化剤、及び/又は還元剤を含んでもよく、更には、これらの反応結果物を含んでもよい。別の例では、浸出液は、後述するpH調節の結果として、H+イオン、OH-イオン、及び/又はこれらの対イオンを含んでもよい。
【0021】
一実施形態における銅を浸出させるための設備及び方法では、特許文献2等に示されるような硝酸イオン及び亜硝酸イオンを、浸出液に添加する必要がない。
【0022】
以下では、Chalcopyriteを例にして、銅を浸出させるための設備及び方法について説明する。
【0023】
2.銅鉱石から銅を浸出させるための設備
図1は、銅を浸出させるための設備を概念的に示す。前記設備は、少なくとも浸出反応用リアクター90と、酸化還元電位(ORP)コントローラー10とを備える。
【0024】
2-1.浸出反応用リアクター
浸出反応用リアクターは、銅を浸出する反応が発生する場所である。一例として、図1に示すように、リアクター90はジャケットを備えてもよい。更に、リアクター90は、密閉可能な構造となっており、浸出反応時には、リアクター90の内外のガスの出入りを遮断することができる。これにより、ヨウ素の揮発によるロスを防止できる。そして、リアクター90の材料は、密閉性およびヨウ素との反応性の観点から、ガラス製もしくはガラスで被覆したグラスライニング材、又はPTFE(PolyTetraFluoroEthylene)製が好ましい。リアクター90の上部には、密閉性を実現するための蓋70が設けられてもよい。リアクター90の材料と同様、蓋70の材料もガラス製もしくはガラスで被覆したグラスライニング材、又はPTFE製が好ましく、特に接合部はPTFE製が望ましい。
【0025】
リアクター90は、ヨウ素と鉄とを含む浸出液が供給されるように構成される。ヨウ素及び鉄は、後述した浸出反応などの要因により、任意の形態に変わり得る。例えば、ヨウ素は、ヨウ素分子(I2)、ヨウ化物イオン(I-)、三ヨウ素イオン(I3-)等に変わり得る。また、鉄は、鉄イオン(II)、鉄イオン(III)等に変わり得る。
【0026】
図示しないが、設備は、リアクター90内部に浸出液を供給するための浸出液供給部を備えてもよい。浸出液供給部の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、浸出液を供給するための配管、及びタンクを含んでもよく、場合によっては、浸出液の供給コントローラーを含んでもよい。
【0027】
また、リアクター90内部の浸出液を撹拌する目的で、設備は、撹拌機50を備えてもよい。撹拌機50の撹拌翼部分の材料は、PTFE製が好ましい。その他、液量を調節する等の目的で、設備は、ウォーターバス100及び送液ポンプ110を備えてもよい。
【0028】
2-2.酸化還元電位コントローラー
酸化還元電位(ORP)コントローラー10は、浸出反応の最中における浸出液の酸化還元電位を調節する。この目的に関連して、設備は、酸化還元電位(ORP)電極60と、酸化剤のタンク20を備えてもよい。酸化還元電位コントローラーは、ORP電極が測定した浸出液の酸化還元電位に基づいて、酸化剤のタンク20からの酸化剤の供給量をコントロールすることができる。酸化還元電位コントローラー10は、酸化還元電位を任意の値にコントロールできるが、銅の浸出反応を良好に促進する目的から、酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持する。好ましい酸化還元電位は520mV以上であり、更に好ましくは、540mV以上である。上限値は特に限定されないが、典型的には、700mV以下であってもよい。
【0029】
2-3.pHコントローラー
上記浸出反応用リアクター90、酸化還元電位コントローラー10等に加えて、設備は、更に、pHコントローラー10を備えてもよい。pHコントローラー10は、浸出反応の最中における浸出液のpHを調節する。この目的に関連して、設備は、pH電極40と、pH調節剤タンク30とを備えてもよい。pHコントローラー10は、pH電極40が測定した浸出液のpHに基づいて、pH調節剤タンク30からのpH調節剤の供給量をコントロールすることができる。好ましくは、pH調節剤タンク30は、酸性側に調節するためのpH調節剤と、アルカリ性側に調節するためのpH調節剤とを収容することができる。pHコントローラー10は、pHを任意の値にコントロールできるが、銅の浸出反応を良好に促進する目的から、pHを1.0~2.0の範囲に制御することが好ましく、1.3~1.7の範囲が更に好ましい。pHコントローラー10は、上述した酸化還元電位コントローラーと独立して存在してもよく、或いは、図1に示すように一体化して存在してもよい。
【0030】
3.銅鉱から銅を浸出させるための方法
上述した設備を利用して、銅を浸出させることができる。より具体的には、銅を浸出させる方法は、以下の工程を含む。
・リアクターに、銅を含む物質と浸出液とを導入する工程
・浸出反応を進行させる工程
以下各工程について詳述する。
【0031】
3-1. リアクターに、銅を含む物質と浸出液とを導入する工程
上述したように、設備は、浸出反応用リアクター90を備える。前記リアクター90に、銅を含む物質と浸出液とを導入する。銅を含む物質は、上述したように銅を含む鉱物であってもよい。また、浸出液は、上述したように、ヨウ素と鉄とを含む。
【0032】
3-2. 浸出反応を進行させる工程
【0033】
以下の説明は本発明を限定することを意図するものではないが、例えば、浸出は、下記(式1)と(式2)に示す一連のヨウ素による触媒反応によって進行する。
2I-+2Fe3+→I2+2Fe2+(式1)
CuFeS2+I2+2Fe3+→Cu2++3Fe2++2S+2I-(式2)
【0034】
更には、(式2)の反応では、硫化銅鉱が、鉄(III)イオンと、(式1)の反応で生じたヨウ素(I2)とにより酸化されて銅イオン(Cu2+)が生成する。また、上記三ヨウ素イオン(I3-)もまたヨウ素(I2)と同様に(式2)の反応に触媒として作用する。
【0035】
浸出反応を進行させる工程は、リアクター90を密閉状態にして、浸出反応を進行させることを含む。例えば、銅を含む物質と浸出液とを導入した後は、リアクター90に蓋70を装着して、リアクター90を密閉してもよい。
【0036】
また、浸出反応を進行させる工程は、浸出液の酸化還元電位を500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持することを含む。500mV(Ag/AgCl基準)以上に維持することにより、浸出時の触媒として関与する三ヨウ素イオン(I3-)が安定して存在することができ、結果として浸出量が増える。好ましい酸化還元電位は520mV以上であり、更に好ましくは、540mV以上である。上限値は特に限定されないが、典型的には、
700mV以下であってもよい。
【0037】
酸化還元電位を維持する際に、酸化剤を使用することができる。酸化剤は、特に限定されないが、例えば、過マンガン酸カリウム等を使用してもよい。
【0038】
浸出反応を進行させる工程は、pHを1.0~2.0の範囲で、浸出反応を進行させることを含むことができる。当該範囲に維持することにより、浸出反応を良好に促進することができる。また、浸出時の触媒として関与する三ヨウ素イオン(I3-)の量が増える。1.3~1.7の範囲が更に好ましい。
【0039】
pH調節剤の種類は特に限定されず、当分野で典型的に使用される物を使用することができる。例えば、酸性側に調節するpH調節剤として、硫酸(H2SO4)、塩酸(HCl)等が挙げられる。例えば、アルカリ性側に調節するpH調節剤として、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0040】
浸出反応を進行させる際の温度については、特に限定されず、常温以上(例えば25℃以上)であってもよく、30℃以上であってもよく、35℃以上であってもよい。温度が高ければ高いほど、一般的には反応が進行する。上限値は特に限定されないが、高すぎても効果がプラトーに達するため、上限値として、典型的には60℃以下である。
【0041】
浸出反応の時間についても、特に限定されず、168時間以上であってもよく、336時間以上であってもよい。上限値は特に限定されないが、長すぎても効果がプラトーに達するため、上限値として、典型的には514時間以下である。
【0042】
浸出反応を良好に進行させる重要なポイントとして、リアクター90を密閉状態にしながら、浸出液の酸化還元電位を所定の値以上に維持する点にある。上述したように、浸出液の酸化還元電位を上昇させることで、理論上では、浸出反応を良好に進行させるが、実際には、ヨウ素が揮発して時間と共に減少する。そして、ヨウ素の減少に伴って、浸出反応の進行速度が低下する。しかし、リアクター90を密閉空間にすることで、ヨウ素の揮発を防止することができる。従って、ヨウ素の揮発を原因とする浸出反応の進行速度の低下を防止することができる。
【0043】
4.電気銅を製造する方法
一実施形態において、本発明は、電気銅を製造するための方法に関する。前記方法は、上述した工程を実施することを少なくとも含むことができる。これらの工程を経て、銅の浸出後液を得ることができる。得られた浸出後液から、銅イオンを溶媒抽出(SX、Solvent Extraction)によって選択的に回収-濃縮することができる。そして、濃厚銅液から電解採取(EW、Electrowinning)により電気銅を生産することができる。
【実施例
【0044】
以下、実施例により、上述した本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
5.実施例1(酸化還元電位)
次に、酸化還元電位と、銅の採取率との関係を検証した。硫酸酸性の水溶液1Lと黄銅鉱を主体とする銅精鉱2gとをリアクターに導入した。硫酸酸性の水溶液中の鉄濃度は5g/Lにした。供給源として、硫酸第一鉄(Fe(II))と硫酸第二鉄(Fe(III))を使用した。なお、所望の酸化還元電位に設定する目的から、両者の添加量を表1に示す様に設定した。
【0046】
【表1】

そして、硫酸酸性の水溶液中のヨウ素濃度を、150mg/Lにした。水溶液中のpHは、硫酸を用いて1.5に制御した。温度は、25℃に維持した。サンプルはリアクターから約3ml採取し、0.2μmのフィルターでろ過し、溶液中の銅濃度をICP-OES(SEIKO社製SPS7700)で分析した。酸化還元電位(ORP)の制御には酸化剤として過マンガン酸カリウム溶液を使用した。
【0047】
制御するORPを470mVから570mVまで変化させて、Cu採収率推移を測定した。結果を、図2に示す。酸化還元電位を470mVに制御した場合にはCu採収率が20%であった。しかし、酸化還元電位を500mV以上に制御した場合には、Cu浸出が50%超となった。更に、酸化還元電位を526mV以上に制御することで、90%以上のCu採収率が得られた。
【0048】
6.比較例
ヨウ素を浸出液に添加せず、且つ、制御するORPを2パターンにした(470mV及び570mV)。他の条件は実施例2と同じであった。結果を図3に示す。いずれの酸化還元電位も、Cu採収率が10%であった。
【0049】
7.実施例2(ヨウ素濃度)
ヨウ素濃度を0~200mg/Lの範囲で変化させた。ORPを570mVに制御した。他の条件は実施例1と同じであった。結果を図4に示す。100mg/L以上の濃度で100%近いCu採収率が得られた。
【0050】
8.実施例3(温度)
ヨウ素濃度を150mg/Lにした。制御するORPを2パターンにした(470mV及び570mV)。温度を、25℃~45℃の範囲で変化させた。他の条件は実施例1と同じであった。結果を図5に示す。ORPが570mVの場合、温度が高いほどCu浸出が促進された。また、ORPが470mVの場合、温度を45℃にしてもCu採収率は約40%にとどまった。
【0051】
9.参考例(酸化還元電位と、ヨウ素のイオン形態)
図6は、酸化還元電位及びpHが変化したときの、液中のヨウ素状態を示す。ここに、実施例2で測定した、リアクターでの電位・pHの実測値をプロットした。
【0052】
pH1.5付近において、酸化還元電位が、500mVを超えると三ヨウ素イオン(I3 -)の状態になっており、黄銅鉱の共存下では上述した式2の反応が促進されると推定された。
【0053】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
【符号の説明】
【0054】
10 pH及びORPコントローラー
20 酸化剤のタンク
30 pH調節剤タンク
40 pH電極
50 撹拌機及び撹拌翼
60 ORP電極
70 蓋
80 定量ポンプ
90 リアクター
100 ウォーターバス
110 送液ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6