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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230524BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230524BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230524BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230524BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230524BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20230524BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20230524BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
H01M10/0525
C01B32/21
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021028850
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2021136239
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0022999
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(74)【代理人】
【識別番号】100159042
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 徹二
(72)【発明者】
【氏名】金 秦 圭
(72)【発明者】
【氏名】李 キュリン
(72)【発明者】
【氏名】李 正 惠
(72)【発明者】
【氏名】趙 柄 奎
(72)【発明者】
【氏名】韓 相 日
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125150(JP,A)
【文献】特開2001-135356(JP,A)
【文献】特開平11-354122(JP,A)
【文献】特開2003-346786(JP,A)
【文献】特開2011-023221(JP,A)
【文献】特開2010-272380(JP,A)
【文献】特開2014-107029(JP,A)
【文献】特開2016-100069(JP,A)
【文献】特開2020-027701(JP,A)
【文献】特開2019-114525(JP,A)
【文献】特表2015-513185(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02913299(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層と、を含み、
前記負極は、平均粒径(D50)が10μm超過20μm以下である天然黒鉛を含み、
前記天然黒鉛は、非晶質炭素コーティング層を含み、
前記天然黒鉛は、ペレット密度が1.9g/cm以上である、全固体二次電池。
【請求項2】
前記天然黒鉛の縦横比は、0.5ないし2である、請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
前記天然黒鉛の縦横比は、0.7ないし1.4である、請求項1または2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記天然黒鉛は、鱗片状黒鉛一次粒子が組み合わされた球形黒鉛二次粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記天然黒鉛は、平均粒径(D50)が14ないし20μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記負極は、ガラス転移温度(T)が-55℃超過であるバインダをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項7】
前記バインダは、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)を含む、請求項6に記載の全固体二次電池。
【請求項8】
前記負極は、固体電解質をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項9】
前記固体電解質は、平均粒径(D50)が0.1ないし3μmである、請求項8に記載の全固体二次電池。
【請求項10】
前記固体電解質は、硫化物系固体電解質である、請求項8または9に記載の全固体二次電池。
【請求項11】
前記硫化物系固体電解質が、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは、ハロゲン元素である)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正数であり、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち一つである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは、正数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち一つである)、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上である、請求項10に記載の全固体二次電池。
【請求項12】
前記硫化物系固体電解質が、LiPSCl、LiPSBr及びLiPSIからなる群から選択される1以上を含むアルジロダイト型の固体電解質である、請求項10または11に記載の全固体二次電池。
【請求項13】
前記アルジロダイト型の固体電解質の密度が1.5ないし2.0g/cmである、請求項12に記載の全固体二次電池。
【請求項14】
前記負極は、前記天然黒鉛を前記負極の総重量を基準に、50重量%以上含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項15】
前記負極は、導電剤を含まない、請求項1~14のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項16】
前記固体電解質層は、硫化物系固体電解質を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【請求項17】
前記負極は、固体電解質を含み、
前記負極に含まれる固体電解質と、前記固体電解質層に含まれる固体電解質とは、互いに同一であるか、あるいは異なる、請求項1~16のいずれか1項に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウム二次電池は、使用される液体電解質が空気中の水分に触れると発火しやすく、安定性問題が常に提起されてきた。そのような安定性問題は、電気自動車の登場により、さらに深刻な問題になっている。そこで、最近、安全性向上を目的にし、無機材料を含む固体電解質を利用した全固体二次電池(all-solid-state secondary battery)の研究が活発になされている。該全固体二次電池は、安定性、高エネルギー密度、高出力、長寿命、製造工程の単純化、電池の大型化、コンパクト化、及び低価格化などの観点において、次世代二次電池として注目されている。
【0003】
該全固体二次電池は、正極、固体電解質及び負極によって構成され、そのうち、固体電解質は、高イオン伝導度及び低電子伝導度が要求される。該全固体二次電池の固体電解質には、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などがある。そのうち、硫化物系固体電解質は、高温及び高圧の条件において、加圧によって活性化される。ところで、加圧時、スプリングバック(spring back)現象により、界面抵抗が大きく増大し、電池容量の確保が困難である。
【0004】
また、該全固体二次電池の電極板には、活物質と固体電解質とが含まれるが、活物質と固体電解質との界面抵抗が、電池性能を低下させる大きな原因である。
【0005】
従来、界面抵抗を低減させるために、圧力印加に係わる研究が主に進められてきたが、効果が良好なものではない。
【0006】
従って、界面抵抗を低減させるための研究への必要性が高いのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、新規の構造の全固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面により、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層と、を含み、
前記負極は、天然黒鉛を含み、
前記天然黒鉛は、平均粒径(D50)が10μm超過20μm以下であり、非晶質炭素コーティング層を含む全固体二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の全固体二次電池によれば、リチウムの挿入と脱離とが安定している素材である黒鉛を負極として使用しながらも、黒鉛と固体電解質との界面抵抗を低減させ、優れた電池容量特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一側面による全固体二次電池の構造を示した図である。
図2A】実施例1で使用された天然黒鉛と、比較例1で使用されたメソカーボンマイクロビード(MCMB)につき、体積変化を測定した結果を示したグラフである。
図2B】実施例1で使用された天然黒鉛と、比較例1で使用されたメソカーボンマイクロビード(MCMB)とにそれぞれ硫化物系固体電解質を混合させた後、体積変化を測定した結果を示したグラフである。
図3】実施例6、並びに比較例4及び5の電池において、充放電特性を測定したグラフである。
図4】実施例6及び比較例6の電池において、界面抵抗を測定した結果を示したグラフである。
図5】実施例6及び比較例6の電池において、充放電特性を測定したグラフである。
図6】実施例6及び比較例6の電池において、寿命特性を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で説明される本創意的思想(present inventive concept)は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有することができるが、特定の実施形態を図面に例示し、詳細に説明する。しかし、それらは、本創意的思想につき、特定の実施形態について限定するものではなく、本創意的思想の技術範囲に含まれる全ての変換、均等物または代替物を含むと理解されなければならない。
【0012】
以下で使用される用語は、単に特定の実施形態についての説明に使用されたものであり、本創意的思想を限定することを意図するものではない。単数の表現は、文脈上、明白に示していない限り、複数の表現を含む。以下において、「含む」または「有する」のような用語は、明細書上に記載された特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、成分、材料、またはこれらの組み合わせが存在するということを示すものであり、1またはそれ以上の他の特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、成分、材料、またはこれらの組み合わせの存在または付加の可能性を事前に排除するものではないと理解されなければならない。以下で使用される「/」は、状況により、「及び」とも解釈され、あるいは「または」とも解釈される。
【0013】
図面において、さまざまな層及び領域を明確に表現するために、厚みを拡大または縮小させている。明細書全体を通じ、類似した部分については、同一の符号を付した。明細書全体において、層、膜、領域、板のような部分が、他の部分の「上」または「上部」にあるとするとき、それは、他の部分の真上にある場合だけではなく、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。明細書全体において、第1、第2のような用語は、多様な構成要素についての説明にも使用されるが、該構成要素は、用語によって限定されるものではない。該用語は、1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみに使用される。本明細書及び図面において、実質的に同一機能構成を有する構成要素については、同一の符号を参照することにより、重複説明を省略する。
【0014】
以下において、例示的な実施形態による全固体二次電池につき、さらに詳細に説明する。
【0015】
一実施形態による全固体二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配置された固体電解質層と、を含み、負極は、天然黒鉛(natural graphite)を含み、天然黒鉛は、平均粒径(D50)が10μm超過20μm以下であり、非晶質炭素コーティング層を含む。
【0016】
前述のように、所定平均粒径範囲を満たし、非晶質炭素コーティング層を含む天然黒鉛を負極活物質として使用する場合、高圧力をかけても、負極活物質と固体電解質との間の抵抗が低く、高い電池容量を得ることが可能である。
【0017】
一実施形態において、天然黒鉛は、鱗片状(flake)黒鉛一次粒子が組み合わされた球形黒鉛二次粒子であってもよい。
【0018】
一実施形態において、天然黒鉛は、平均粒径(D50)が14ないし20μmであってもよい。例えば、天然黒鉛は、平均粒径(D50)が14ないし18μmであってもよい。例えば、天然黒鉛は、平均粒径(D50)が14ないし17μmであってもよい。
【0019】
前述の範囲を外れ、天然黒鉛の平均粒径(D50)が14μm未満であるか、または天然黒鉛の平均粒径(D50)が20μmを超える場合、Liイオンの移動制約による容量低下、及びレート特性低下が示される問題点がある。
【0020】
一実施形態において、天然黒鉛のペレット密度(pellet density)は、1.9g/cm以上であってもよい。例えば、天然黒鉛のペレット密度は、1.9ないし2.5g/cmであってもよい。
【0021】
前述の範囲を外れ、天然黒鉛のペレット密度が1.9g/cm未満である場合、電池容量特性が良好ではない問題点があり、一方、天然黒鉛のペレット密度が2.5g/cmを超える場合、リチウムイオンの吸蔵及び放出が不可能であるという問題点がある。
【0022】
一実施形態において、天然黒鉛の縦横比(aspect ratio)は、0.5ないし2であってもよい。例えば、天然黒鉛の縦横比は、0.7ないし1.4であってもよい。例えば、天然黒鉛の縦横比は、0.7ないし1.3であってもよい。例えば、天然黒鉛の縦横比は、0.8ないし1.3であってもよい。
【0023】
前述の範囲を外れ、天然黒鉛の縦横比が0.5未満である場合、電池容量特性が良好ではない問題点があり、一方、天然黒鉛の縦横比が2を超える場合、固体電解質との接触(contact)不足によって生じる容量低下及びセル性能不足の問題点がある。
【0024】
一実施形態において、負極は、ガラス転移温度(T)が-55℃超過であるバインダをさらに含んでもよい。
【0025】
例えば、バインダのガラス転移温度は、-55℃超過-20℃未満であってもよい。バインダのガラス転移温度が前述の範囲を満たすことにより、適切な極性基によって固体電解質との副反応を減らすことができる。
【0026】
例えば、バインダは、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)を含んでもよい
【0027】
一実施形態において、負極は、固体電解質をさらに含んでもよい。
【0028】
このとき、固体電解質は、平均粒径(D50)が0.1ないし3μmであってもよい。固体電解質の平均粒径(D50)が前述の範囲を満たすことにより、負極極板内において、Liイオン伝達が可能であるという効果を発揮することができる。
【0029】
このとき、固体電解質は、硫化物系固体電解質であってもよい。前述のように、硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池において、負極活物質としてリチウム金属を使用する場合、負極/電解質/正極積層体に高温加圧が加えられると、リチウム金属の柔らかい性質のためにリチウムが液化し、電極板が変形してしまう可能性がある。また、リチウムの一部が硫化物系固体電解質内部に浸透し、充電時に短絡したり、内部クラック及び短絡により、電池の寿命が短くなってしてしまう。
【0030】
なお、負極活物質としてLiフリー(free)高分子または炭素系物質を導入する場合には、電池製造工程中において、短絡は、発生しないが、電池内Li含量限界のために、全固体二次電池の長寿命を期待することができない。
【0031】
しかし、前述のような所定平均粒径範囲を満たし、非晶質炭素コーティング層を含む天然黒鉛を負極活物質として使用する場合、硫化物系固体電解質を含んでも、非晶質層の安定したLiイオン移動により、優れた電池寿命特性を発揮することができる。
【0032】
このとき、硫化物系固体電解質は、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは、ハロゲン元素である)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正数であり、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち一つである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは、正数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち一つである)、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上であってもよい。
【0033】
例えば、硫化物系固体電解質は、LiPSCl、LiPSBr及びLiPSIからなる群から選択される1以上を含むアルジロダイト型(argyrodite-type)の固体電解質であってもよい。
【0034】
アルジロダイト型の固体電解質の密度は、1.5ないし2.0g/cm であってもよい。
【0035】
一実施形態において、負極は、天然黒鉛を、負極の総重量を基準に、50重量%以上含んでもよい。
【0036】
一実施形態において、負極は、導電剤を含まなくてもよい。
【0037】
一実施形態において、固体電解質層は、硫化物系固体電解質を含んでもよい。このとき、硫化物系固体電解質に係わる説明は、前述の記載を参照することができる。
【0038】
一実施形態において、負極は、固体電解質を含み、負極に含まれる固体電解質と、固体電解質層に含まれる固体電解質は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0039】
添付された図面を参照しながら、以下において、例示的な全固体二次電池について、さらに詳細に説明する。
【0040】
[全固体二次電池]
図1によると、全固体二次電池1は、正極10と、負極20と、正極10と負極20との間に配置された固体電解質層30と、を含み、正極10が、正極集電体11、及び正極集電体11上に配置された正極活物質層12を含み、負極20が、負極集電体21、及び負極集電体上に配置され、リチウム金属複合体を含む負極活物質層22を含む。
【0041】
[正極:正極集電体]
正極集電体11は、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、またはこれらの合金からなる板状体(plate)またはホイル(foil)などを使用することができる。正極集電体11は、設けなくてもよい。
【0042】
[正極:正極活物質]
正極活物質層12は、例えば、正極活物質及び固体電解質を含む。正極10に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質と性質が類似していてもよいし、あるいはそれとは異なっていてもよい。固体電解質に係わる詳細な内容は、固体電解質層30の記載を参照することができる。
【0043】
該正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる正極活物質である。該正極活物質は、例えば、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケル酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムマンガン酸化物、リチウムリン酸鉄酸化物などのリチウム遷移金属酸化物;硫化ニッケル;硫化銅;硫化リチウム;酸化鉄または酸化バナジウムなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、正極活物質として使用するものであるならば、いずれも可能である。該正極活物質は、それぞれ単独であってもよいし、あるいは2種以上の混合物であってもよい。
【0044】
リチウム遷移金属酸化物は、例えば、Li1-bB’(化学式において、0.90≦a≦1及び0≦b≦0.5である);Li1-bB’2-c(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiE2-bB’4-c(化学式において、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiNi1-b-cCoB’α(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’α(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’α(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’α(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1である);LiNiCoMnGeO(化学式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦0.1である);LiNiG(化学式において、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiCoG(化学式において、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMnG(化学式において、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMn(化学式において、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);QO;QS;LiQS;V;LiV;LiI’O;LiNiVO;Li3-f(PO(0≦f≦2);Li3-fFe(PO(0≦f≦2);LiFePOの化学式からなる群から選択されるいずれか一つで表現される化合物であってもよい。このような化合物において、Aは、Ni、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり、B’は、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり、Dは、O、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり、Eは、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり、F’は、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり、Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組み合わせであり、Qは、Ti、Mo、Mn、またはこれらの組み合わせであり、I’は、Cr、V、Fe、Sc、Y、またはこれらの組み合わせであり、Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、またはこれらの組み合わせである。このような化合物表面にコーティング層が付加された化合物の使用も可能であり、前述の化合物と、コーティング層が付加された化合物との混合物の使用も可能である。このような化合物の表面に付加されるコーティング層は、例えば、コーティング元素のオキシド、コーティング元素のヒドロキシド、コーティング元素のオキシヒドロキシド、コーティング元素のオキシカーボネート、またはコーティング元素のヒドロキシカーボネートのコーティング元素化合物を含んでもよい。このようなコーティング層となる化合物は、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよい。該コーティング層に含まれるコーティング元素としては、例えば、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr、またはこれらの混合物であってもよい。コーティング層形成方法は、正極活物質の物性に好ましくない影響を与えない範囲内において選択される。該コーティング方法は、例えば、スプレーコーティング法、浸漬法などである。具体的なコーティング方法は、当該分野の当業者に周知されている内容であるので、詳細な説明は、省略する。
【0045】
該正極活物質は、例えば、前述のリチウム遷移金属酸化物のうち、層状岩塩型(layered rock salt type)構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んでもよい。「層状岩塩型構造」は、例えば、立方晶岩塩型(cubic rock salt type)構造の<111>方向に、酸素原子層と金属原子層とが相互に規則的に配列され、それにより、それぞれの原子層が、二次元平面を形成している構造である。「立方晶岩塩型構造」は、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型(NaCl type)構造を示し、具体的には、陽イオン及び陰イオンがそれぞれ形成する面心立方格子(fcc:face centered cubic lattice)が、互いに単位格子(unit lattice)のリッジ(ridge)の1/2ほどずれて配置された構造を示す。そのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、例えば、LiNiCoAl(NCA)またはLiNiCoMn(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)のような三元系リチウム遷移金属酸化物である。正極活物質が層状岩塩型構造を有する三元系リチウム遷移金属酸化物を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー密度及び熱安定性がさらに向上する。
【0046】
該正極活物質は、前述のように、被覆層によっても覆われている。該被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知されたものであるならば、いずれでもよい。該被覆層は、例えば、LiO-ZrO(LZO)などであってもよい。
【0047】
該正極活物質が、例えば、LiNiCoAl(NCA)またはLiNiCoMn(NCM)のような三元系リチウム遷移金属酸化物であってもよく、ニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態において、正極活物質の金属溶出の低減が可能である。結果として、全固体二次電池1の充電状態におけるサイクル特性を向上することができる。
【0048】
該正極活物質の形状は、例えば、真球形、楕円球形のような粒子状であってもよい。該正極活物質の粒径は、特別に制限されるものではなく、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であればよい。正極10の正極活物質の含量も、特別に制限されるものではなく、従来の全固体二次電池の正極に適用可能な範囲であればよい。
【0049】
[正極:固体電解質]
正極活物質層12は、例えば、固体電解質を含んでもよい。正極10に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質と同一であっても、異なっていてもよい。該固体電解質に係わる詳細な内容は、固体電解質層30の記載を参照することができる。
【0050】
正極活物質層12に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質に比べ、平均粒径(D50)が小さくてもよい。例えば、正極活物質層12に含まれる固体電解質の平均粒径(D50)は、固体電解質層30に含まれる固体電解質の平均粒径(D50)の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下または20%以下であってもよい。
【0051】
[正極:バインダ]
正極活物質層12は、バインダを含んでもよい。該バインダは、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであってもよい。
【0052】
[正極:導電剤]
正極活物質層12は、導電剤を含んでもよい。該導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック(CB:carbon black)、アセチレンブラック(AB:acetylene black)、ケッチェンブラック(KB:Ketjen black)、炭素ファイバ、金属粉末などであってもよい。
【0053】
[正極:その他添加剤]
正極10は、前述の正極活物質、固体電解質、バインダ、導電剤以外に、例えば、フィラ(filler)、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤のような添加剤をさらに含んでもよい。
【0054】
正極10に含まれるフィラ、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤などとしては、一般的に、全固体二次電池の電極に使用される公知の材料を使用することができる。
【0055】
[固体電解質層]
[固体電解質層:硫化物系固体電解質]
図1によると、固体電解質層30は、正極10と負極20との間に配置された硫化物系固体電解質を含んでもよい。
【0056】
該硫化物系固体電解質は、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは、ハロゲン元素である)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正数であり、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち一つである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは、正数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち一つである)、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上であってもよい。該硫化物系固体電解質は、例えば、LiS、Pのような出発原料を、溶融急冷法や機械的ミリング(mechanical milling)法などによって処理して作製される。また、このような処理後、熱処理を行ってもよい。該固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよいし、あるいはこれらが混合された状態であってもよい。また、該固体電解質は、例えば、前述の硫化物系固体電解質材料のうち、少なくとも構成元素として、硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものであってもよい。例えば、固体電解質は、LiS-Pを含む材料であってもよい。該固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料として、LiS-Pを含むものを利用する場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50ないし90:10ほどの範囲であればよい。
【0057】
該硫化物系固体電解質は、例えば、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上を含むアルジロダイト型の化合物であってもよい。特に、該硫化物系固体電解質は、LiPSCl、LiPSBr及びLiPSIからなる群から選択される1以上を含むアルジロダイト型の化合物であってもよい。
【0058】
該アルジロダイト型の固体電解質の密度が、例えば、1.5ないし2.0g/cm であってもよい。該アルジロダイト型の固体電解質が、1.5g/cm 以上の密度を有することにより、全固体二次電池の内部抵抗が低減し、Liによる固体電解質層の貫通(penetration)を効果的に抑制することができる。
【0059】
固体電解質の弾性係数は、例えば、15ないし35GPaであってもよい。
【0060】
[固体電解質層:バインダ]
固体電解質層30は、例えば、バインダを含んでもよい。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであってもよいが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして使用するものであるならば、いずれも可能である。固体電解質層30のバインダは、正極活物質層12と負極活物質層22とが含むバインダと同じであっても、異なっていてもよい。
【0061】
[負極]
[負極層:負極活物質]
負極活物質層22に係わる説明は、前述の記載を参照することができる。すなわち、負極活物質層22は、天然黒鉛を含み、天然黒鉛は、平均粒径(D50)が10μm超過20μm以下であり、非晶質炭素コーティング層を含んでもよい。
【0062】
非晶質炭素コーティング層の非晶質炭素は、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック(FB:furnace black)、ケッチェンブラック(KB)、グラフェンなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、非晶質炭素に分類されるものであるならば、いずれも可能である。該非晶質炭素は、結晶性を有さないか、あるいは結晶性が非常に低い炭素であり、結晶性炭素または黒鉛系炭素と区分される。
【0063】
例えば、負極は、金属負極活物質または準金属負極活物質をさらに含んでもよい。
【0064】
金属負極活物質または準金属負極活物質は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1以上を含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウムと合金または化合物を形成する金属負極活物質または準金属負極活物質として使用するものであるならば、いずれも可能である。例えば、ニッケル(Ni)は、リチウムと合金を形成しないので、金属負極活物質ではない。
【0065】
[負極層:バインダ]
負極活物質層22に含まれるバインダは、前述のようなガラス転移温度の範囲を満たすものであるならば、特別に限定されるものではない。
【0066】
例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして使用するものであるならば、いずれも可能である。該バインダは、単独または複数の互いに異なるバインダによって構成されてもよい。
【0067】
負極活物質層22にバインダが含まれることにより、負極活物質層22が、負極集電体21上において安定化する。また、充放電過程において、負極活物質層22の体積変化、及び/または相対的な位置変更にもかかわらず、負極活物質層22の亀裂が抑制される。例えば、負極活物質層22にバインダが含まれない場合、負極活物質層22が、負極集電体21から容易に分離されることが可能である。負極集電体21から負極活物質層22が離脱することにより、負極集電体21が露出された部分において、負極集電体21が固体電解質層30と接触することにより、短絡が発生する可能性が上昇する。負極活物質層22は、例えば、負極活物質層22を構成する材料が分散されたスラリーを、負極集電体21上に塗布して乾燥させて作製される。バインダを負極活物質層22に含めることにより、スラリー内に、負極活物質の安定した分散が可能である。例えば、スクリーン印刷法により、スラリーを負極集電体21上に塗布する場合、スクリーンの詰まり(例えば、負極活物質の凝集体による詰まり)を抑制することが可能である。
【0068】
[負極層:その他添加剤]
負極活物質層22は、従来の全固体二次電池に使用される添加剤、例えば、フィラ、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤などをさらに含むことが可能である。
【0069】
[負極層:負極活物質層22]
負極活物質層22の厚みは、例えば、正極活物質層の厚みの50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下または5%以下であってもよい。負極活物質層22の厚みは、例えば、1μmないし20μm、2μmないし10μm、または3μmないし7μmであってもよい。負極活物質層22の厚みが過度に厚ければ、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下し、負極活物質層22による全固体二次電池1の内部抵抗が増大し、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。
【0070】
負極活物質層22の厚みが薄くなれば、例えば、負極活物質層22の充電容量も低減する。負極活物質層22の充電容量は、例えば、正極活物質層12の充電容量に比べ、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下または2%以下であってもよい。負極活物質層22の充電容量は、例えば、正極活物質層12の充電容量に比べ、0.1%ないし50%、0.1%ないし40%、0.1%ないし30%、0.1%ないし20%、0.1%ないし10%、0.1%ないし5%、または0.1%ないし2%であってもよい。負極活物質層22の充電容量が過度に少なければ、負極活物質層22の厚みが非常に薄くなるので、反復される充放電過程において、負極活物質層22と負極集電体21との間に形成されるリチウムデンドライトが負極活物質層22を崩壊させ、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。負極活物質層22の充電容量が過度に多くなれば、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下し、負極活物質層22による全固体二次電池1の内部抵抗が増大し、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。
【0071】
正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、正極活物質層12における正極活物質の質量を乗じて得られる。正極活物質が多種類使用される場合、正極活物質ごとに、充電容量密度×質量値を計算し、その値の和が正極活物質層12の充電容量である。負極活物質層22の充電容量も同じ方法によって計算される。すなわち、負極活物質層22の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、負極活物質層22における負極活物質の質量を乗じて得られる。負極活物質が多種類使用される場合、負極活物質ごとに、充電容量密度×質量値を計算し、その値の和が負極活物質層22の容量である。ここで、正極活物質及び負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を相対電極として使用した全固体半電池(half-cell)を利用して推定された容量である。全固体半電池を利用した充電容量測定により、正極活物質層12と負極活物質層22との充電容量が直接測定される。測定された充電容量を、それぞれ活物質の質量で除算すれば、充電容量密度が得られる。または、正極活物質層12と負極活物質層22との充電容量は、初回サイクル充電時に測定される初期充電容量としてもよい。
【0072】
[負極層:第2負極活物質層]
全固体二次電池1は、充電により、例えば、負極集電体21と負極活物質層22との間に配置される第2負極活物質層をさらに含んでもよい。該第2負極活物質層は、リチウムまたはリチウム合金を含む金属層である。該金属層は、リチウムまたはリチウム合金を含む。従って、該第2負極活物質層は、リチウムを含む金属層であるので、例えば、リチウム貯蔵庫(reservoir)として作用する。該リチウム合金は、例えば、Li・Al合金、Li・Sn合金、Li・In合金、Li・Ag合金、Li・Au合金、Li・Zn合金、Li・Ge合金、Li・Si合金などであってもよいが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウム合金として使用するものであるならば、いずれも可能である。該第2負極活物質層は、このような合金のうち一つからなってもよくリチウムからなってもよく、あるいは、多種類の合金からなってもよい。
【0073】
該第2負極活物質層の厚みは、特別に制限されるものではないが、例えば、1μmないし1,000μm、1μmないし500μm、1μmないし200μm、1μmないし150μm、1μmないし100μm、または1μmないし50μmであってもよい。該第2負極活物質層の厚みが過度に薄ければ、第2負極活物質層によるリチウム貯蔵庫の役割を行い難い。該第2負極活物質層の厚みが過度に厚ければ、全固体二次電池1の質量及び体積が増大し、サイクル特性がかえって低下する可能性がある。該第2負極活物質層は、例えば、そのような範囲の厚みを有する金属ホイルであってもよい。
【0074】
全固体二次電池1において第2負極活物質層は、例えば、全固体二次電池1の組み立て前、負極集電体21と負極活物質層22との間に配置されるか、あるいは全固体二次電池1の組み立て後、充電により、負極集電体21と負極活物質層22との間に析出される。全固体二次電池1の組み立て前、負極集電体21と負極活物質層22との間に第2負極活物質層(図示せず)が配置される場合、該第2負極活物質層がリチウムを含む金属層であるので、リチウム貯蔵庫として作用する。例えば、全固体二次電池1の組み立て前、負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムホイルが配置される。それにより、第2負極活物質層を含む全固体二次電池1のサイクル特性がさらに向上する。全固体二次電池1の組み立て後、充電により、第2負極活物質層が析出される場合、全固体二次電池1の組み立て時、第2負極活物質層を含まないので、全固体二次電池1のエネルギー密度が増大する。例えば、全固体二次電池1の充電時、負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極活物質層22を過充電する。充電初期には、負極活物質層22にリチウムを吸蔵させる。負極活物質層22に含まれる負極活物質は、正極層10から移動してきたリチウムイオンと合金または化合物を形成する。負極活物質層22の容量を超えて充電すれば、例えば、負極活物質層22の背面、すなわち、負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出され、析出されたリチウムにより、該第2負極活物質層に該当する金属層が形成される。該第2負極活物質層は、主にリチウム(すなわち、金属リチウム)によって構成される金属層である。このような結果は、例えば、負極活物質層22に含まれる負極活物質が、リチウムと合金または化合物を形成する物質によって構成されることによって得られる。放電時には、負極活物質層22及び第2負極活物質層、すなわち、金属層のリチウムがイオン化され、正極層10側に移動する。従って、全固体二次電池1において、リチウムを負極活物質として使用するのが可能である。また、負極活物質層22が第2負極活物質層を被覆するために、第2負極活物質層、すなわち、金属層の保護層の役割を行うと共に、リチウムデンドライトの析出成長を抑制する役割を行う。従って、全固体二次電池1の短絡及び容量低下を抑制し、結果として、全固体二次電池1のサイクル特性を向上させることができる。また、全固体二次電池1の組み立て後、充電により、該第2負極活物質層が配置される場合、負極集電体21、負極活物質層22、及びそれら間の領域は、例えば、全固体二次電池の初期状態または放電後状態において、リチウム(Li)を含まないLiフリー領域である。
【0075】
[負極層:負極集電体]
負極集電体21は、例えば、リチウムと反応しない、すなわち、合金及び化合物をいずれも形成しない材料によって構成されてもよい。負極集電体21を構成する材料は、例えば、銅(Cu)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)などであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、電極集電体として使用するものであるならば、いずれも可能である。負極集電体21は、前述の金属のうち1種で構成されるか、あるいは2種以上の金属の合金、または被覆材料によって構成されてもよい。負極集電体21は、例えば、板状またはホイル状であってもよい。
【0076】
全固体二次電池1は、例えば、負極集電体21上に、リチウムと合金を形成することができる元素を含む薄膜をさらに含んでもよい。該薄膜は、負極集電体21と負極活物質層22との間に配置される。該薄膜は、例えば、リチウムと合金を形成することができる元素を含んでもよい。リチウムと合金を形成することができる元素は、例えば、金、銀、亜鉛、スズ、インジウム、ケイ素、アルミニウム、ビスマスなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウムと合金を形成することができる元素であるならば、いずれも可能である。該薄膜は、これら金属のうち一つによって構成されても、あるいは多種金属の合金によって構成されてもよい。該薄膜が、負極集電体21上に配置されることにより、例えば、該薄膜と負極活物質層22との間に析出される第2負極活物質層の析出形態がさらに平坦化され、全固体二次電池1のサイクル特性をさらに向上することができる。
【0077】
該薄膜の厚みは、例えば、1nmないし800nm、10nmないし700nm、50nmないし600nm、または100nmないし500nmであってもよい。該薄膜の厚みが1nm未満になる場合、該薄膜による機能が発揮され難くなる。該薄膜の厚みが過度に厚ければ、薄膜自体がリチウムを吸蔵し、負極において、リチウム析出量が低減し、全固体電池のエネルギー密度が低下し、全固体二次電池1のサイクル特性が低下してしまう。該薄膜は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、メッキ法などにより、負極集電体21上にも配置されるが、必ずしもこのような方法に限定されるものではなく、当該技術分野において、薄膜を形成することができる方法であるならば、いずれも可能である。
【0078】
次に、一実施形態による全固体二次電池の製造方法について述べる。
【0079】
一実施形態による負極を形成する段階と、正極を形成する段階と、負極と正極との間に固体電解質を形成し、積層体を準備する段階と、積層体を加圧(press)する段階と、を含む。
【0080】
前述の加圧は、25ないし90℃の範囲で実施し、圧力は、550MPa以下、例えば、400ないし500MPa範囲で加圧し、全固体二次電池を完成する。加圧時間は、温度及び圧力などによっても異なり、例えば、30分未満である。そして該加圧は、例えば、静水圧(Isostatic press)、ロール加圧(roll press)または平板加圧(plate press)であってもよい。
【0081】
一実施形態による全固体二次電池は、中大型電池または電力保存装置(ESS:energy storage system)に適用可能である。
【実施例
【0082】
以下の実施例及び比較例を通じ、さらに詳細に説明する。ただし、実施例は、例示するためのものであり、それらだけによって限定されるものではない。
【0083】
<実施例1:天然黒鉛を使用したLi・Inトルクハーフセル製造>
ペレット密度が1.93g/cmであり、平均粒径(D50)が17μmである天然黒鉛60mg、カーボンブラック5mg、及び硫化物系固体電解質30mgを混合し、カーボンブラックがコーティングされた天然黒鉛を得た。
【0084】
硫化物系固体電解質100mgを用いて、電解質層をトルクセル中に製造し、電解質層上に、負極の合剤(10mg)を均一に広げておいた。
【0085】
反対側に、基準電極として、厚み70μmのリチウムインジウム合金(Li・In)を置き、40kNの圧力を印加した後、Liハーフセルを製造した。
【0086】
<比較例1>
天然黒鉛の代わりに、メソカーボンマイクロビード(MCMB)を使用したことを除いては、実施例1と同一方法でハーフセルを製造した。
【0087】
<比較例2>
カーボンブラックを含まないことを除いては、比較例1と同一方法でハーフセルを製造した。
【0088】
<比較例3>
カーボンブラックを含まないことを除いては、実施例1と同一方法でハーフセルを製造した。
【0089】
[評価例1:トルクセル(torque cell)容量分析]
25℃、0.05Cの定電流、-0.61Vカットオフ(cut-off)電圧条件下で、充電反応を実施し、25℃、0.05Cの定電流、1.41Vカットオフ電圧条件下で、放電反応を実施するサイクルを2回実施した。
【0090】
2回目サイクルが過ぎた後のトルクセル容量を、充放電器を利用して測定した結果を、下記表1に図示した。
【0091】
一方、別途、実施例1で使用された天然黒鉛と、比較例1で使用されたメソカーボンマイクロビード(MCMB)と、において、6.6T(ton)の圧力を掛け、15分過ぎた後のスプリングバック現象が生じたとき、体積変化を測定した結果を、図2Aに図示し、天然黒鉛またはメソカーボンマイクロビード(MCMB)に、それぞれ硫化物系固体電解質を混合させた後、同一に体積変化を測定した結果を、図2Bに図示した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1によると、実施例1のハーフセルは、比較例1ないし3のハーフセルに比べ、優れたトルクセル容量を発揮することを確認することができる。
【0094】
なお、図2A及び図2Bによると、実施例において天然黒鉛を使用する場合、固体電解質を含まないにしても、体積変化率が約15~20%の範囲であり、固体電解質を含む場合、スプリングバックによる体積変化率が約10%レベルに低下することを確認することができる。一方、比較例において人造黒鉛(メソカーボンマイクロビード(MCMB))を使用する場合、固体電解質を含むか否かということにかかわらず、体積変化率が20%以上であるということを確認することができる。
【0095】
前述のように、体積変化率が大きいメソカーボンマイクロビード(MCMB)を全固体電池素材として使用する場合、高い界面抵抗などの問題が発生し、容量特性に良好ではない影響を及ぼしうる。
【0096】
<実施例2:天然黒鉛を使用したLiハーフセル製造>
ペレット密度が1.93g/cmであり、平均粒径(D50)が17μmである天然黒鉛60mg、カーボンナノファイバ(CNF)5mg、及び硫化物系固体電解質30mgを混合し、カーボンナノファイバがコーティングされた天然黒鉛を得た。
【0097】
硫化物系固体電解質100mgを用いて、電解質層をトルクセル内に製造し、電解質層上に、負極の合剤(10mg)を均一に広げておいた。
【0098】
反対側に、基準電極として、厚み70μmのリチウムインジウム合金(Li・In)を置き、40kNの圧力を印加した後、Liハーフセルを製造した。
【0099】
<実施例3>
ペレット密度が1.83g/cmであり、平均粒径(D50)が16.2μmである天然黒鉛を使用したことを除いては、実施例2と同一方法でハーフセルを製造した。
【0100】
<実施例4>
ペレット密度が1.87g/cmであり、平均粒径(D50)が17μmである天然黒鉛を使用したことを除いては、実施例2と同一方法でハーフセルを製造した。
【0101】
<比較例7>
ペレット密度が1.9g/cmであり、平均粒径(D50)が7.7μmである天然黒鉛を使用したことを除いては、実施例2と同一方法でハーフセルを製造した。
【0102】
[評価例2:トルクセル容量分析]
25℃、0.05Cの定電流、10mVカットオフ電圧条件下で、充電反応を実施し、定電流充電容量を測定し、25℃、0.05Cの定電流、0.1Cカットオフ電圧条件下で、放電反応を実施し、放電容量を測定した。
【0103】
実験によって生じた充電値と放電値とを利用し、効率を測定した。
【0104】
測定結果を下記表2に図示した。
【0105】
【表2】
【0106】
表2によると、同一の非晶質炭素コーティング層を含む天然黒鉛を使用しても、平均粒径(D50)や、ペレット密度の差により、容量特性と効率特性とが異なることを確認することができる。
【0107】
<実施例6:天然黒鉛/負極バインダを使用したフルセル製造>
(負極の製造)
CVD(chemical vapor deposition)方法を用いて、3%濃度のカーボンブラックがコーティングされたペレット密度が1.93g/cmであり、平均粒径(D50)が17μmである天然黒鉛を得た。
【0108】
コーティングされた天然黒鉛、硫化物系固体電解質、及びガラス転移温度(T)が-35℃のバインダであるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を、80/20/2の重量比で混合し、負極スラリーを製造した。
【0109】
負極スラリーを、負極集電体である銅集電体(厚み:約10μm)上に、約120μm厚にコーティングして負極を製造した。
【0110】
(正極の製造)
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、固体電解質として、アルジロダイト、導電剤として、カーボンナノファイバ(CNF)、カーボンブラック(CB)、バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、89/8.8/1.2/1の重量比で混合し、正極スラリーを製造した。
【0111】
正極スラリーを、正極集電体であるAl集電体(厚み:30μm)上に、120μm厚にコーティングして正極を製造した。
【0112】
(固体電解質シートの製造)
固体電解質、アルジロダイト、4.2wt%含量のバインダ(アクリレート系)溶液を混合し、固体電解質スラリーを製造した。
【0113】
固体電解質スラリーを、不織布(厚み:10μm)上に、70~80μm厚にコーティングし、電解質シートを製造した。
【0114】
(フルセルの製造)
負極、固体電解質(アルジロダイトシート、厚み(60~70μm))及び正極の順に積層し、それをポーチに真空包装し、400~550MPaの静水圧プレス(WIP:warm isostatic press)で加圧し、負極/固体電解質/正極のフルセルを製造した。
【0115】
<比較例4>
負極バインダとして、ガラス転移温度(T)が-55℃であるバインダを使用したことを除いては、実施例6と同一方法でフルセルを製造した。
【0116】
<比較例5>
負極バインダとして、ガラス転移温度(T)が-60℃であるバインダを使用したことを除いては、実施例6と同一方法でフルセルを製造した。
【0117】
[評価例3:電池容量分析]
25℃、0.05Cの定電流、10mVカットオフ電圧条件下で、充電反応を実施し、25℃、0.05Cの定電流、0.1Cカットオフ電圧条件下で、放電反応を実施した。
【0118】
充放電器によって容量を測定し、測定結果を下記表3に示し、充放電グラフを図3に図示した。
【0119】
【表3】
【0120】
<比較例6>
負極において、天然黒鉛の代わりに、メソカーボンマイクロビード(MCMB)を使用したことを除いては、実施例6と同一方法によってフルセルを製造した。
【0121】
[評価例4:電池容量分析]
実施例6と比較例6との電池に対し、25℃、0.05Cの定電流、10mVカットオフ電圧条件下で、充電反応を実施し、25℃、0.05Cの定電流、0.1Cカットオフ電圧条件下で、放電反応を実施し、容量測定結果を下記表4に示した。
【0122】
EIS測定(solartron)によって界面抵抗を測定した結果を、図4に図示した。
【0123】
充放電器によって容量を測定し、充放電グラフを図5に図示した。
【0124】
【表4】
【0125】
[評価例5:寿命特性]
実施例6と比較例6との電池に対し、25℃、0.1C、4.2V(定電流(CC)/定電圧(CV))、0.025Cカットオフ条件下で、充電反応を実施し、25℃、0.1C、2.5V(CC)、2.5Vカットオフ条件下で、放電反応を実施した。該サイクルを繰り返した。
【0126】
サイクルの繰り返しによる寿命維持率(%)の変化を図6に図示した。
【0127】
<実施例7:縦横比限定された天然黒鉛を使用したLi・Inハーフセル製造>
縦横比が1である天然黒鉛に、CVD方法を用いて、3%濃度のカーボンブラックをコーティングした。
【0128】
天然黒鉛60mg、カーボンナノファイバ(CNF)5mg、及び硫化物系固体電解質30mgを混合し、カーボンブラックがコーティングされた天然黒鉛を得た。
【0129】
硫化物系固体電解質100mgを用いて、電解質層をトルクセル内に製造し、電解質層上に、負極の合剤(10mg)を均一に広げておく。
【0130】
反対側に、基準電極として、厚み70μmのリチウムインジウム合金(Li・In)を置き、40kNの圧力を印加した後、Liハーフセルを製造した。
【0131】
<参照例1>
天然黒鉛の代わりに、縦横比が0.67である天然黒鉛を使用したことを除いては、実施例7と同一方法でハーフセルを製造した。
【0132】
<参照例2>
天然黒鉛の代わりに、縦横比が0.76である人造黒鉛(メソカーボンマイクロビード(MCMB))を使用したことを除いては、実施例7と同一方法でハーフセルを製造した。
【0133】
[評価例6:トルクセル容量分析]
25℃、0.05Cの定電流、-0.61Vカットオフ電圧条件下で、充電反応を実施し、25℃、0.05Cの定電流、1.41Vカットオフ電圧条件下で、放電反応を実施するサイクルを2回実施した。
【0134】
2回目サイクルが過ぎた後のトルクセル容量を、充放電器を用いて測定した結果を、下記表5に示した。
【0135】
【表5】
【0136】
前述によると、全固体二次電池は、リチウムを安定に吸収および脱着することができる材料である非晶質炭素コーティング層を有する天然黒鉛を負極として使用することにより、負極と固体電解質との間の界面抵抗を低減することができる。したがって、全固体二次電池は優れた電池容量特性を備えることができる。
【0137】
以上においては、図面及び実施例を参照し、一実施形態について説明したが、これらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において当業者であるならば、これらから多様な変形、及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定められるものである。
【符号の説明】
【0138】
1 全固体二次電池
10 正極
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 負極
21 負極集電体
22 負極活物質層
30 固体電解質
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6