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特許7285425高圧酸浸出処理を行うオートクレーブ装置
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  • 特許-高圧酸浸出処理を行うオートクレーブ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】高圧酸浸出処理を行うオートクレーブ装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 3/04 20060101AFI20230526BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20230526BHJP
   C22B 3/02 20060101ALI20230526BHJP
   B01J 3/00 20060101ALI20230526BHJP
   B01F 27/85 20220101ALI20230526BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20230526BHJP
【FI】
B01J3/04 G
B01D11/02 Z
C22B3/02
B01J3/00 A
B01F27/85
C22B23/00 102
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019093899
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020185560
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋一
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特公昭42-012343(JP,B1)
【文献】特開2014-025143(JP,A)
【文献】特開2008-036594(JP,A)
【文献】特開2016-041019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 3/00- 3/08
B01D 11/02
C22B 3/02
B01F 21/00-25/90
B01F 27/00-27/96
C22B 23/00-23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によって複数の区画室に内部が区画され、該複数の区画室にそれぞれ複数の撹拌機が設けられた横型円筒形状の反応容器からなるオートクレーブ装置であって、前記撹拌機及びその電動機は全て同一の仕様からなり、各々の撹拌機の回転数はインバータによって、出力電力回転数制御ループの出力が出力電流回転数制御ループの設定値として入力されるカスケード制御により制御されることを特徴とするオートクレーブ装置。
【請求項2】
高温高圧の鉱石スラリーが硫酸と共に前記複数の区画室のうち最も上流側の区画室に導入され、前記隔壁をオーバーフローすることで隣接する下流側の区画室に順次移送された後、最も下流側の区画室から抜き出されることを特徴とする、請求項1に記載のオートクレーブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石を装入して連続的に高圧酸浸出処理を行う反応容器からなるオートクレーブ装置に関し、より詳しくは、隔壁により区画された複数の区画室の各々にインバータによって回転数が可変制御される撹拌機を備えた横型円筒形状の反応容器からなるオートクレーブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性のスラリーを高温高圧下で処理する反応容器に適した耐食性材料が開発されたことにより、ニッケル酸化鉱石を含んだスラリーに対して、硫酸を添加して高温加圧下で処理する高圧酸浸出法(HPAL:High Pressure Acid Leach)による湿式製錬法が既に実用化されている。この湿式製錬法は、ニッケル酸化鉱石の一般的な製錬方法である乾式製錬法とは異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程で処理を行うのでエネルギー的及びコスト的に有利であるという利点を有している。
【0003】
上記の湿式製錬法においては、原料のニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを反応容器に装入して撹拌しながら高温加圧下で酸浸出処理することが一般的に行われている。その際、該酸浸出処理によって該反応容器内で生成した浸出液の酸化還元電位及び温度を制御することにより、主たる不純物である鉄をヘマタイト(Fe)の形態で浸出残渣に固定できるので、鉄に対して有価金属であるニッケル及びコバルトを選択的に浸出できるという非常に大きなメリットが得られる。
【0004】
上記のニッケル酸化鉱石の酸浸出処理を行う反応容器には、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを高い浸出率で浸出すべく、オートクレーブ装置と称する圧力容器が用いられている。例えば特許文献1には、ニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーを内部が6~7室程度に区画された反応容器からなるオートクレーブ装置に連続的に装入し、各区画された区画室に設けられた撹拌機で撹拌しながら高温高圧下で反応させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-88620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、ニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーに対して高圧酸浸出処理を行うオートクレーブ装置は、内部が複数の区画室に区画されており、最も上流側の区画室に装入された該鉱石スラリーは、高圧酸浸出されながら順次下流側の区画室に移送される。この場合、被撹拌流体である鉱石スラリーの組成、装入量、スラリー濃度、粘度等の条件が区画室毎に変化していくため、インペラの吐出量等の仕様や型番が各々異なる複数の撹拌機を上記複数の区画室にそれぞれ設置し、個別に回転数等の運転条件の設定を行っていた。
【0007】
すなわち、撹拌機の撹拌能力は、基本的には該撹拌機が設置される各区画室における鉱石スラリーの高圧酸浸出処理に必要な諸条件に基づいて個別に設計することが行われる。従って、原料のニッケル酸化鉱スラリーの濃度や組成が変化したり、硫酸の添加量等が変動したりすると、撹拌能力に過不足が生じ、例えば撹拌能力の不足時は浸出率が低下して浸出不良を発生させることがあった。この浸出不良が発生すると、該浸出不良のスラリーによってオートクレーブ装置の容器内面や撹拌機のインペラに摩耗を発生させる問題が生じたり、該浸出不良のスラリー中の固形分が沈降して堆積したりする問題が生じることがあった。逆に、ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーの濃度が設計値よりも低いと過剰撹拌となり、この場合もオートクレーブ装置の容器内面や撹拌機のインペラの摩耗を進行させることがあった。
【0008】
本発明は上述した従来のオートクレーブ装置が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを装入して高圧酸浸出処理を行うオートクレーブ装置において、撹拌機を備えた区画室毎の被撹拌流体の組成、装入量、スラリー濃度、粘度等の条件に変動が生じても安定的に該高圧酸浸出処理を行うことが可能なオートクレーブ装置を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る高圧酸浸出処理を行うオートクレーブ装置は、隔壁によって複数の区画室に内部が区画され、該複数の区画室にそれぞれ複数の撹拌機が設けられた横型円筒形状の反応容器からなるオートクレーブ装置であって、前記撹拌機及びその電動機は全て同一の仕様からなり、各々の撹拌機の回転数はインバータによって、出力電力回転数制御ループの出力が出力電流回転数制御ループの設定値として入力されるカスケード制御により制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを装入して高圧酸浸出を行うオートクレーブ装置において、撹拌機を備えた区画室毎の被撹拌溶液の組成、装入量、スラリー濃度、粘度等の条件に変動が生じても安定的に該高圧酸浸出処理を行わせることができる。よって、撹拌能力の過不足によって生じるオートクレーブ装置の容器内面や撹拌機のインペラの摩耗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のオートクレーブ装置を用いて行われる浸出工程を有する湿式製錬法の工程フロー図である。
図2】本発明の実施形態に係るオートクレーブ装置の縦断面図である。
図3図2のオートクレーブ装置が具備する撹拌機の制御ループ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.湿式製錬法
先ず、本発明の実施形態に係るオートクレーブ装置を用いて行われる浸出工程を有するニッケル酸化鉱石の湿式製錬法について図1を参照しながら説明する。この図1に示す湿式製錬方法は、所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、該浸出工程S1で生成した浸出液及び浸出残渣からなる浸出スラリーを好適には直列に接続された複数基のシックナーで固液分離することで、ニッケル及びコバルトの有価金属に加えて鉄等の不純物イオンを含む浸出液を浸出残渣から分離する固液分離工程S2と、該浸出液にpH調整剤を添加することで鉄を含む殿物を生成し、これを殿物スラリーの形態で分離除去してニッケル回収用の母液を得る脱鉄工程S3と、該母液に硫化水素等の硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成した後、固液分離により該混合硫化物を回収する硫化工程S4と、該混合硫化物の固液分離時に液相側に排出される貧液を中和処理する最終中和処理工程S5とを有している。以下、これら工程の各々について説明する。
【0013】
(1)浸出工程S1
浸出工程S1では、先ず原料のニッケル酸化鉱石を粉砕機及びスクリーンに装入して粉粒体にした後、水を加えて湿式で分級することで所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを篩下側に回収する。この鉱石スラリーを内部が隔壁(堰)により複数の区画室に区画され、複数の撹拌機が該複数の区画室にそれぞれ設けられた横型円筒形状の反応容器からなるオートクレーブ装置に硫酸と共に装入し、圧力3~4.5MPaG程度、温度220~280℃程度の高温高圧条件下で浸出処理を施す。これにより、浸出反応及び高温熱加水分解反応が生じさせ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化とを行い、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
【0014】
上記の原料に用いるニッケル酸化鉱石には、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は一般に0.8~2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。このニッケル酸化鉱石は、鉄の含有量が10~50質量%であり、これは主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態を有しており、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含まれている。浸出工程S1の原料には、上記のラテライト鉱のほか、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する例えば深海底に賦存するマンガン瘤等の酸化鉱石が用いられることがある。
【0015】
上記オートクレーブ装置に装入する硫酸の添加量には特に限定はないが、上記ニッケル酸化鉱石中の鉄が良好に浸出されるように過剰に添加するのが好ましい。なお、浸出工程S1では、生成したヘマタイトを含む浸出残渣によって後工程の固液分離工程S2における分離性が低下することがないように、浸出液のpHを0.1~1.0程度に調整することが好ましい。また、この浸出工程S1で生成した浸出スラリーは、該固液分離工程S2で固液分離する前に、予備中和処理を行ってフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸であり、遊離硫酸とも称する)を中和処理してもよい。
【0016】
(2)固液分離工程S2
上記浸出工程S1で得られる浸出スラリーは、次に固液分離工程S2において固液分離により浸出残渣が除去され、ニッケル及びコバルトに加えて鉄等の不純物イオンを含む浸出液が得られる。この固液分離には、直列に連結した複数基のシックナーに上記浸出スラリーと洗浄液とを互いに向流になるように連続的に導入することによって、多段洗浄しながら重力沈降分離を行うCCD(Counter Current Decantation)法とも称する向流洗浄法を採用するのが好ましい。これにより、より少ない量の洗浄液で効率よく浸出液を回収することが可能になる。なお、上記洗浄液にはpH1.0~3.0程度の水溶液を用いることが好ましく、後工程の中和処理工程S5から排出される上記条件を満たす中和終液を上記洗浄液として用いるのが好ましい。
【0017】
(3)脱鉄工程S3
上記固液分離工程S2で得られる浸出液は、次に脱鉄工程S3において炭酸カルシウム等のpH調整剤が添加され、好適にはpHを2.0~4.0程度に調整することによって、該浸出液に含まれる不純物イオンのうち主に3価の鉄イオンやアルミニウムイオンから含鉄殿物が生成される。上記の含鉄殿物を含むスラリーは、好適にはシックナーで沈降分離を行うことでシックナーの底部から該含鉄殿物が濃縮スラリーの形態で排出され、一方、シックナーの上端部からはオーバーフローにより有価金属としてのニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用の母液が抜き出される。上記のシックナー底部から排出される含鉄殿物スラリーは、必要に応じて一部が抜き取られて固液分離工程S2に繰り返され、残りは無害化処理等を経て系外に排出される。
【0018】
(4)硫化工程S4
上記脱鉄工程S3で得られるニッケル回収用の母液は、次に硫化工程S4において加圧下の硫化反応槽に装入され、ここに硫化水素ガス等の硫化剤を添加することによって、硫化反応を生じさせてニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成させる。この混合硫化物はフィルタープレスなどの固液分離装置により回収され、その際、液相側に硫酸水溶液からなる貧液が排出される。なお、上記の母液に亜鉛が含まれている場合は、上記の混合硫化物の生成前に該母液を微加圧された脱亜鉛反応槽に導入し、その気相中に硫化水素ガスを吹き込むことでニッケル及びコバルトに対して亜鉛を選択的に硫化し、これにより生成される亜鉛硫化物を分離除去するのが好ましい。
【0019】
(5)最終中和処理工程S5
上記硫化処理S4において固液分離装置から排出される貧液は、最終中和処理工程S5において石灰石等の中和剤の添加によって中和処理され、これにより該貧液中に不純物金属イオンとして含まれる鉄、マグネシウム、マンガン等の残留金属イオンから中和殿物が生成され、この中和殿物を固液分離で除去することにより無害化された中和終液が得られる。
【0020】
2.オートクレーブ装置
次に、上記浸出工程S1において鉱石スラリーの高圧酸浸出を行う本発明の実施形態のオートクレーブ装置について図2を参照しながら説明する。この図2に示す本発明の実施形態のオートクレーブ装置1は、両端部に略半球状又は略皿型の鏡板が設けられた横型円筒形状の反応容器10からなり、その内部は該反応容器10の中心軸に対して垂直な面を有する5枚の隔壁(堰)11a~11eによって6つの区画室12a~12fに区分されている。これら6つの区画室12a~12fには、6台の撹拌機20a~20fがそれぞれ設置されている。
【0021】
上記の6つの区画室12a~12fのうち、図2の紙面左側の最上流に位置する区画室12aには、鉱石スラリー供給配管13と硫酸供給配管14が接続している。一方、図2の紙面右側の最下流に位置する区画室12fには、高圧酸浸出処理により生成される浸出スラリーの抜き出しを行う抜出配管15が接続している。また、上記の5枚の隔壁11a~11eは、上流側から下流側に向うに従って徐々に高さが低くなっている。
【0022】
かかる構成により、上記の最も上流側の区画室12aに硫酸と共に導入された鉱石スラリーは、この最も上流側の区画室12aに備えられた撹拌機20aによって撹拌されながら高圧酸浸出処理が施された後、隔壁11aをオーバーフローして隣接する下流側の区画室12bに移送され、同様に撹拌されながら高圧酸浸出処理が施される。以降、最も下流側の区画室12fに至るまで同様に順次隣接する下流側の区画室にオーバーフローにより移送されて高圧酸浸出処理が施された後、浸出スラリーとして抜出配管15により抜き出される。
【0023】
上記した本発明の実施形態のオートクレーブ装置1においては、上記の撹拌機20a~20fの各々は、そのインペラにおいて所定の吐出量の下降流が形成されるように上から見て例えば時計回りに所定の回転数で回転するように設計される。上記6台の撹拌機20a~20f及びそれらをそれぞれ回転駆動する電動機21a~21fは、予備部品を共有化して保有資産を削減すべく、全て同一の仕様からなる。このため、これら撹拌機20a~20fの回転は、それぞれインバータ22a~22fで制御が行われている。
【0024】
すなわち、インバータ22a~22fによって撹拌機20a~20fの回転数を区画室毎に個別に制御することによって、例えばニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーの高圧酸浸出の際、該オートクレーブ装置1の区画室毎に被撹拌流体である鉱石スラリーの組成、装入量、スラリー濃度、粘度等の条件に変動が生じても、安定的に該高圧酸浸出処理を行うことができる。これにより、撹拌不足や撹拌過剰によるオートクレーブ装置1の反応容器10の内面や撹拌機20a~20fのインペラの摩耗を防止することができる。
【0025】
次に上記の撹拌機20a~20f及びそれらの電動機21a~21fの選定方法ついて説明する。オートクレーブ装置1の各区画室において良好な浸出反応条件が得られるように、例えば既設装置の運転データやパイロットプラントの運転データに基づいて、各区画室に設けた所定の形状及びサイズの撹拌機のインペラにおいて所定の吐出量を達成するために必要な撹拌機の回転数を求め、その回転数で撹拌機を回転駆動させるための電動機の撹拌動力を一般的な動力計算式を用いて計算する。前述したように、本発明の実施形態のオートクレーブ装置1は全ての区画室に同一仕様の撹拌機20a~20f及び電動機21a~21fを備えるため、上記にて各区画室毎に計算することで得た電動機の撹拌動力のうち最大の撹拌動力を選定する。
【0026】
このようにして各区画室に設けられた撹拌機20a~20f及びその電動機21a~21fに対して、インバータ22a~22fを用いてそれぞれ制御を行う。これらインバータ22a~22fを用いた制御は全て同様に行われるので、以下、代表として撹拌機20aの電動機21aを制御するインバータ22aをとり挙げて具体的に説明する。先ず被撹拌流体としてオートクレーブ装置1に導入される鉱石スラリーのスラリー濃度を演算計器30に入力し、該鉱石スラリーの十分な撹拌に必要な撹拌動力を求める。この撹拌動力の設定値が出力電力回転数制御ループ28に入力されて撹拌機電力25により回転数制御が行われる。
【0027】
ところで、上記鉱石スラリーのスラリー濃度が著しく上昇した場合は、上記の撹拌動力が定格動力を超えてオーバーロードする可能性があるため、このインバータ22aを用いた制御はカスケード制御になっており、上記の出力電力回転数制御ループ28の出力は出力電流回転数制御ループ29に設定値として入力され、撹拌機電流26により回転数制御が行われる。すなわち、電力及び/又は電流によって撹拌機20aを所望の回転数で回転させるために必要な電動機21aの撹拌機周波数27が決定される。
【0028】
このように、本発明の実施形態のオートクレーブ装置を採用することで、原料のニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーのスラリー濃度や組成等に変動が生じても、該オートクレーブ装置に設けた複数の撹拌機の各々に対してその回転数をインバータにより個別に可変制御できるので、好適な撹拌状態が確保できる。よってより好ましい浸出反応条件が安定的に得られるので、該鉱石スラリー中の固形分が沈降したり撹拌機のインペラや反応容器内部が過度に摩耗したりする問題を生じにくくすることができる。また、オートクレーブ装置に設置する全ての撹拌機の回転軸、インペラなどの仕様を統一することで、それらの予備部品の保有資産を削減することが可能になる。
【実施例
【0029】
図2に示すように、5枚の隔壁11a~11eにより区画された6室の区画室12a~12fを有するオートクレーブ装置1に、全て同一仕様の撹拌軸及びインペラを有する撹拌機20a~20fを設置すると共に、それらの電動機21a~22fも同一仕様のものを採用した。そして、これら電動機21a~21fの各々を図3に示すようなインバータを用いてカスケード制御することで、各区画室毎に最適な回転数で撹拌機が回転するようにした。そして、オートクレーブ装置1内において、圧力4.7MPaG、温度250℃、鉱石中のNi品位1.0~1.4質量%、原料の鉱石スラリーの装入量300~700m/hrの条件で高圧酸浸出処理を行った。
【0030】
このように、各区画室毎に組成、装入量、スラリー濃度、粘度等の条件が変動しても、安定的に高圧酸浸出処理を行うことができた。また、高圧酸浸出処理の完了後に開放点検したところ、オートクレーブ装置1の反応容器内面や撹拌機のインペラの過度摩耗は特に認められなかった。これは撹拌過剰が抑えられたためと思われる。なお、撹拌機20a~20fの予備部品の共有化により、保有資産を削減することができた。
【0031】
比較のため、上記オートクレーブ装置1の区画室12a~12fにそれぞれ設置する6基の撹拌機及び電動機を区画室毎に最適な仕様となるように個別に選定することで全て同一仕様の撹拌軸及びインペラとはせず、また、電動機も同一仕様とはしなかった。更にインバータを用いずに固定の回転数で撹拌機を回転した。これら以外は上記と同様にして高圧酸浸出処理を行った。
【0032】
その結果、各区画室毎の組成、装入量、スラリー濃度、粘度等の条件の変動に良好に対応できず、浸出率が上記のインバータを用いた場合に比べて低下した。また、浸出不良により生じた浸出不良スラリーによると思われるオートクレーブ装置1の反応容器内面や撹拌機のインペラの過度摩耗が高圧酸浸出処理の完了後の開放点検時に認められた。更に、全ての撹拌機及び電動機が同一仕様ではないため、予備部品が各仕様毎に必要となるので、上記の全て同一仕様の撹拌機及び電動機を用いた場合に比べて保有資産が増加した。
【符号の説明】
【0033】
S1 浸出工程
S2 固液分離工程
S3 脱鉄工程
S4 硫化工程
S5 最終中和処理工程
1 オートクレーブ装置
10 反応容器
11a~11e 隔壁
12a~12f 区画室
13 鉱石スラリー供給配管
14 硫酸供給配管
15 抜出配管
20a~20f 撹拌機
21a~21f 電動機
22a~22f インバータ
26 撹拌機電流
27 撹拌機周波数
28 出力電力回転数制御ループ
29 出力電流回転数制御ループ
30 演算計器
図1
図2
図3