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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】皮膚由来多能性前駆細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20230526BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20230526BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230526BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20230526BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230526BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/074 ZNA
C12N5/10
C07K14/78
C07K14/47
C07K19/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020132547
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2021023293
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019144899
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中桐 頼子
(72)【発明者】
【氏名】関口 清俊
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-213495(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137970(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088501(WO,A1)
【文献】谿口征雅他, 再生医療用細胞培養基質の開発, 生物工学, 2018, Vol.96, No.6, pp.328-332
【文献】LEE, G. et al., Derivation of neural crest cells from human pluripotent stem cells, Nature Protocols, 2010, Vol.5, No.4, pp.688-701
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚由来多能性前駆細胞の作製方法であって、
神経堤幹細胞を、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養して皮膚由来多能性前駆細胞へと分化させること、
を含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ラミニンのフラグメントが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521から選択されるラミニンのE8フラグメントを含むラミニンフラグメント、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種である
方法。
【請求項2】
前記神経堤幹細胞を作製する工程をさらに含み、
該工程は、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で多能性幹細胞を培養して神経堤幹細胞へと分化させることを含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ラミニンのフラグメントが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521から選択されるラミニンのE8フラグメントを含むラミニンフラグメント、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種である
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種が、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下での神経堤幹細胞の培養が、該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で該細胞を培養するか、又は該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培地で該細胞を培養することを含む、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下での多能性幹細胞の培養が、該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で該細胞を培養するか、又は該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培地で該細胞を培養することを含む、請求項2~のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記神経堤幹細胞の培養が、Wntシグナルアゴニストを含有する分化培地で該細胞を培養することを含む、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記多能性幹細胞の培養が、TGFβシグナル阻害剤及びBMPシグナル阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する分化培地で該細胞を培養することを含む、請求項2~のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記皮膚由来多能性前駆細胞がネスチン及びフィブロネクチンを共発現する、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記神経堤幹細胞がヒト由来神経堤幹細胞である、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
神経堤幹細胞の作製方法であって、
パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で、多能性幹細胞を培養して神経堤幹細胞へと分化させること、
を含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ラミニンのフラグメントが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521から選択されるラミニンのE8フラグメントを含むラミニンフラグメント、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種である
方法。
【請求項11】
前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下での細胞の培養が、該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で該細胞を培養するか、又は該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培地で該細胞を培養することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記多能性幹細胞の培養が、TGFβシグナル阻害剤及びBMPシグナル阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する分化培地で該細胞を培養することを含む、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
前記多能性幹細胞がヒト由来多能性幹細胞である、請求項10~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記細胞の培養がフィーダー細胞を用いることなく行われる、請求項1~13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記細胞の培養が異種由来成分の非存在下で行われる、請求項1~14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ラミニンのフラグメントが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521から選択されるラミニンのE8フラグメントを含むラミニンフラグメント、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種である
足場材。
【請求項17】
前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種が、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントである、請求項16記載の足場材。
【請求項18】
パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種であり、
該ラミニンのフラグメントが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521から選択されるラミニンのE8フラグメントを含むラミニンフラグメント、ならびにこれらのいずれかに対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり且つインテグリン結合活性を有するポリペプチド、からなる群より選択される少なくとも1種である
足場材。
【請求項19】
請求項16又は17記載の、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材を含有する、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための培養基材。
【請求項20】
請求項16又は17記載の、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材を含有する、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための細胞培養キット。
【請求項21】
請求項18記載の、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材を含有する、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための培養基材。
【請求項22】
請求項18記載の、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材を含有する、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための細胞培養キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚由来多能性前駆細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工的に培養した細胞や組織を用いた再生医療が注目されている。例えば、毛包の再生による脱毛症の治療は、外見面(社会的側面)、健康面などから人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上に重要である。
【0003】
細胞や組織の人工的な培養に用いる細胞源の1種として、皮膚由来多能性前駆細胞(skin-derived precursor cells:以下、本明細書において「SKPs」ともいう)がある。SKPsは毛乳頭に存在し、神経細胞、グリア細胞(神経膠細胞)、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、真皮線維芽細胞、毛乳頭細胞などに分化することが可能な細胞である。またSKPsは、真皮環境の維持、組織修復、毛包形成等に重要な機能を果たす細胞である(非特許文献1及び2参照)。
【0004】
現在、再生医療分野で様々な臨床及び非臨床での研究が進んでいる。それらの研究のため、SKPsを効率よく大量に入手する方法の開発が求められている。これまでに報告されているSKPsの入手方法としては、ヒト又はヒト以外の動物組織から浮遊細胞塊として採取培養する方法(例えば非特許文献1参照)、ヒト又はヒト以外の動物組織から培養した接着細胞より作製する方法(例えば非特許文献3参照)が報告されている。特許文献1には、ヒト由来の多能性幹細胞に由来する神経堤幹細胞をWntシグナルのアゴニストを含有する分化誘導培地で培養してSKPsに分化させることを含むSKPsの作製方法が開示されている。
【0005】
ES細胞やiPS細胞等の多能性細胞の培養は、通常フィーダー細胞の共存化で行われる。一方、ヒトの再生医療に用いる人工培養細胞は、フィーダー細胞を使用しないフィーダーフリー、さらには異種由来成分を含まない(ゼノフリー)条件下で培養されることが望ましい。フィーダー細胞の代わりに細胞接着分子を用いて、フィーダーフリー条件で多能性細胞を培養する方法が開発されている。特許文献2には、ラミニン511のE8フラグメント又はラミニン332のE8フラグメントがコーティングされた培養基材を用いるヒト多能性幹細胞の培養方法が開示されている。特許文献3には、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等の増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン又はラミニンフラグメントからなる改変ラミニンの存在下でES細胞やiPS細胞等の幹細胞を培養することを含む、哺乳動物細胞の培養方法が開示されている。特許文献4には、ラミニン421、ラミニン121又はそれらの断片を多能性幹細胞と接触させることを含む、多能性幹細胞の培養方法が開示されている。特許文献5にはラミニンE8フラグメントとヘパラン硫酸プロテオグリカンの増殖因子結合部位を含むフラグメントが連結したコンジュゲートをヒト多能性幹細胞に接触させることを含む、多能性幹細胞の分化誘導方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-213495号公報
【文献】特開2011-078370号公報
【文献】国際公開公報第2012/137970号
【文献】国際公開公報第2018/038242号
【文献】国際公開公報第2018/088501号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nature Cell Biology, 2001, 3:778-784
【文献】Cell Stem Cell, 2009, 5:610-623
【文献】PLoS One, 2012, 7(11):e50742
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるような神経堤幹細胞からのSKPsの分化誘導における、SKPsの収率の向上が望まれる。また、再生医療のための細胞源として好適な、フィーダーフリー条件で培養したSKPsが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、神経堤幹細胞からのSKPsの分化誘導培養において、特定のラミニン種を培養足場材として用いることにより、フィーダーフリーでの細胞培養が可能であることを見出した。また本発明者は、当該培養条件下で、神経堤幹細胞からSKPsへの分化が促進され、SKPsの収率が向上することを見出した。
【0010】
したがって一態様において、本発明は、皮膚由来多能性前駆細胞の作製方法であって、 神経堤幹細胞を、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養して皮膚由来多能性前駆細胞へと分化させること、
を含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
方法、を提供する。
別の態様において、本発明は、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
足場材、を提供する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、神経堤幹細胞の作製方法であって、
パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で、多能性幹細胞を培養して神経堤幹細胞へと分化させること、
を含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
方法、を提供する。
さらに別の態様において、本発明は、
パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
足場材、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、神経細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、毛乳頭細胞などに分化可能なSKPsを効率的に作製することができる。また本発明によれば、フィーダーフリーでの多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導、及び神経堤幹細胞からSKPsへの分化誘導が可能となる。したがって、本発明によれば、再生医療のための細胞源として好適なSKPsを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ラミニンフラグメント存在下でのNCS細胞からSKPsへの分化誘導。iPS-NCS:分化誘導の開始直前の細胞、iPS-SKPs P0:分化誘導4日後の細胞、iPS-SKPs P1:継代培養後の細胞(全て倍率:40倍)。最下段は、iPS-SKPs P1でのネスチン及びフィブロネクチンの蛍光染色像(倍率:50倍)を示す。
図2】ラミニンフラグメント存在下でのiPS細胞からSKPsへの分化誘導。写真は継代培養後のSKPsを示す(全て倍率:40倍)。上:非修飾ラミニンフラグメント存在下での培養、下:パールカン修飾ラミニンフラグメント存在下での培養。
図3】パールカン修飾ラミニンフラグメント存在下で分化したSKPsにおけるマーカー遺伝子の発現。iPS-SKPs P0:分化誘導後の細胞、iPS-SKPs P1:継代培養後の細胞。
図4】パールカン修飾ラミニンフラグメント存在下で分化したSKPsにおけるマーカータンパク質の発現。免疫組織染色した細胞の蛍光顕微鏡写真。A:ネスチンの発現、B:フィブロネクチンの発現、C:αSMAの発現。
図5】パールカン修飾ラミニンフラグメント存在下で分化したSKPsの組織細胞への分化。染色細胞の顕微鏡写真。A:脂肪細胞、B:骨細胞、C:シュワン細胞。
図6】ゼノフリー条件におけるラミニンフラグメント存在下でのiPS細胞からSKPsへの分化誘導。iPS-NCS(上):分化誘導の開始直前の細胞、iPS-SKPs P0(中):分化誘導4日後の細胞、iPS-SKPs P1(下):継代培養後の細胞(全て倍率:40倍)。
図7】ラミニンフラグメント存在下で分化したNCS細胞におけるマーカー遺伝子の発現。
図8】ラミニンフラグメント存在下で分化誘導されたSKPs数。LM:非修飾ラミニンフラグメント、P-LM:パールカン修飾ラミニンフラグメント。各バーの下のラベルはラミニン種を表す。エラーバー=SD、*:P < 0.0005、**:P < 0.0001(t検定)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0015】
本明細書において「多能性幹細胞」とは、成体を構成する種々の組織に分化できる多能性と自己複製能を有する未分化細胞を指す。本発明で用いる多能性幹細胞は適宜選択することができ、多能性幹細胞の具体例としては、胚性幹細胞(以下、「ES細胞」ともいう)、胚性腫瘍細胞(以下「EC細胞」ともいう)、胚性生殖幹細胞(以下、「EG細胞」ともいう)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、などが挙げられる。これらの細胞は常法により調製してもよいし、市販の細胞を用いてもよい。本発明で用いる多能性幹細胞は、好ましくはES細胞又はiPS細胞であり、より好ましくはiPS細胞である。また、本発明で用いる多能性幹細胞は、哺乳動物由来の多能性幹細胞であればよく、好ましくはヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、及び非ヒト霊長類由来の多能性幹細胞であり、より好ましくはヒト由来多能性幹細胞である。なかでも、ヒト由来のES細胞又はiPS細胞が好ましく、ヒト由来のiPS細胞がより好ましい。
【0016】
本明細書において「皮膚由来多能性前駆細胞(skin-derived precursor cells;SKPs)」とは自己複製能を有する未分化細胞であり、神経細胞、グリア細胞(例えば、マイクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、シュワン細胞、衛星細胞など)、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、真皮線維芽細胞、毛乳頭細胞などに分化する能力を有する細胞をいう。SKPsは、ネスチン、フィブロネクチン、αSMA等のマーカータンパク質の発現に基づいて同定することができ、好ましくは、ネスチン及びフィブロネクチンの共発現に基づいて同定することができる。あるいは、SKPsは、Nestin遺伝子、Snail遺伝子、Slug遺伝子、Sox9遺伝子、Dermo-1遺伝子、BMP-4遺伝子、Wnt-5a遺伝子等のマーカー遺伝子の発現に基づいて同定することができる。
【0017】
本明細書において「神経堤幹細胞」(neural crest stem cell;以下「NCS細胞」ともいう)とは、自己複製能と多分化能を有する多能性の幹細胞であり、脊椎動物の発生過程で神経管の背側から体中に移動し、様々な組織の形成に寄与する細胞をいう。神経堤幹細胞は、paired box 6(PAX6)、nerve growth factor receptor(p75)等の公知のマーカーの発現に基づいて同定することができる。
【0018】
細胞におけるマーカータンパク質又はマーカー遺伝子の発現は、常法に従って検出することができる。例えば、細胞におけるマーカータンパク質の発現は、該マーカータンパク質に対する抗体を用いた免疫組織染色、ウェスタンブロット、ELISAなどにより検出することができる。また例えば、細胞におけるマーカー遺伝子の発現は、PCR、マイクロアレイ、シーケンシングなどにより検出することができる。
【0019】
本明細書において、「Wntシグナル」は、Wntタンパク質の受容体への結合により惹起される、β-カテニン経路、PCP経路、及びCa2+経路の3つの経路を活性化する一連の経路をいう。Wntシグナルの活性化は、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御する。好ましくは、本明細書における「Wntシグナル」は、β-カテニン経路(Canonical cascade)をいう。この経路では、Wntタンパク質の受容体への結合によりβ-カテニンが安定化し、核内へと移行して転写因子として働いて遺伝子の転写を活性化する。またβ-カテニンは細胞接着にも関与すると考えられる。一方、該β-カテニン経路がオフの場合、β-カテニンは、複数のタンパク質からなる分解複合体を形成し、該複合体中のセリン/スレオニン・キナーゼであるGlycogen synthase 3(GSK-3)やCasein kinase 1α(CK1α)によるリン酸化の後に分解され、それによって細胞内β-カテニンは低レベルに維持される。
【0020】
本明細書において、「Wntシグナルアゴニスト」とは、上述したWntシグナルを活性化する因子をいい、好ましくは上述したβ-カテニン経路(Canonical cascade)を活性化する因子をいう。β-カテニン経路を活性化する因子の例としては、GSK-3などのβ-カテニンのリン酸化酵素を阻害することによりβ-カテニンの核内移行を促進することで遺伝子の転写を活性化する因子が挙げられる。したがって、β-カテニンのリン酸化酵素阻害剤であるGSK-3阻害剤は、β-カテニン経路を活性化する因子の例として挙げられる。
【0021】
ラミニンは、主要な細胞外マトリックスの1つであり、細胞の接着、移動、増殖等に関与するタンパク質である。ラミニンは、3つの異なるサブユニット(α鎖、β鎖、γ鎖)を有するヘテロ3量体分子である。これまでに、5種類のα鎖(α1、α2、α3、α4、α5)、3種類のβ鎖(β1、β2、β3)及び3種類のγ鎖(γ1、γ2、γ3)が見出されており、それらの組み合わせの違いによって、ラミニンには多数のアイソフォームが存在する。ラミニンファミリーのメンバーは、サブユニットの種類に従って命名される。例えば、α5鎖、β1鎖、γ1鎖からなるラミニンはラミニン511と称される。
【0022】
本明細書において、「ラミニンのE8フラグメント」(以下、単に「ラミニンE8」ともいう)は、ラミニンα鎖のC末端フラグメントから球状ドメイン4及び5が除かれたフラグメント(以下「α鎖E8」という)、β鎖のC末端フラグメント(以下「β鎖E8」という)及びγ鎖のC末端フラグメント(以下「γ鎖E8」という)の3量体からなるフラグメントをいう。この3量体の分子量は約150~約170kDaである。α鎖E8は通常約770個のアミノ酸からなり、N末端側の約230アミノ酸が3量体形成に関わる。β鎖E8は通常約220~約230個のアミノ酸からなる。γ鎖E8は通常約240~約250個のアミノ酸からなり、C末端部から3番目のグルタミン酸残基はラミニンE8のインテグリン結合活性に必須である(The Journal of Biological Chemistry, 2007, 282:11144-11154を参照)。
【0023】
哺乳動物のラミニンのα鎖、β鎖、γ鎖のアミノ酸配列及びこれらをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、公知のデータベース(GenBank[www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/]等)から取得することができる。表1に、ヒトのラミニンを構成する各鎖のGenBankのアクセッション番号を示す。ラミニンは、例えば、ラミニン高発現細胞から精製する方法、組換えタンパク質として製造する方法など、公知の方法に従って製造することができる。またラミニンフラグメントは、全長ラミニンをタンパク質分解酵素で消化する方法、組換え体としてラミニンフラグメントを直接発現させる方法など、公知の方法に従って製造することができる。あるいは、ラミニン又はそのフラグメントは、市販品を購入することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
一態様において、本発明は、皮膚由来多能性前駆細胞(SKPs)の作製方法を提供する。当該方法では、神経堤幹細胞(NCS細胞)をSKPsへ分化誘導する。より詳細には、当該方法は、NCS細胞を、ラミニン及び/又はそのフラグメントの存在下で培養してSKPsへと分化させることを含む。
【0026】
当該SKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニンとしては、ラミニン111(α1β1γ1)、ラミニン121(α1β2γ1)、ラミニン332(α3β3γ2)、ラミニン421(α4β2γ1)、ラミニン511(α5β1γ1)、及びラミニン521(α5β2γ1)からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、ラミニン111、ラミニン332、ラミニン421、及びラミニン511からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
該ラミニンとそのフラグメントは、いずれか一方を用いてもよく、又は両方を組み合わせて用いてもよい。したがって、該SKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニン及び/又はそのフラグメントとは、好ましくは、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種であり得、より好ましくは、ラミニン111、ラミニン332、ラミニン421、及びラミニン511、ならびにそれらのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
該ラミニンフラグメントの例としては、上記に挙げたラミニン種の全長タンパク質と同様の細胞接着活性を有するラミニンのフラグメントであればよく、その分子量及び構造は特に限定されない。該SKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニンフラグメントの好ましい例としては、インテグリン結合活性を有する、上記に挙げたラミニン種のフラグメントが挙げられ、より好ましい例としては、上記に挙げたラミニン種のE8フラグメントを含むフラグメントが挙げられ、さらに好ましい例としては、上記に挙げたラミニン種のE8フラグメントが挙げられる。
【0027】
当該SKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニン及び/又はそのフラグメントは、ヒト由来ラミニン及び/又はそのフラグメントであっても、非ヒト哺乳動物由来ラミニン及び/又はそのフラグメントであってもよい。好ましくは、該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、作製されるSKPsと同種由来のラミニン及び/又はそのフラグメントであり、より好ましくはヒトラミニン及び/又はそのフラグメントである。
【0028】
当該SKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニン及び/又はそのフラグメントは、天然型ラミニン及び/又はそのフラグメントであっても、その変異体であっても、あるいはそれらの組合せであってもよい。当該ラミニン及び/又はそのフラグメントの変異体の例としては、親となる天然型ラミニン又はそのフラグメント(例えばラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、ラミニン521、又はそれらのフラグメント)において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつインテグリン結合活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、数個とは、例えば、2~10個であってもよく、2~8個であってもよく、2~6個であってもよく、2~4個であってもよい。よって本明細書において、ラミニンは、天然型ラミニン及びその変異体を包含する。ラミニンフラグメントについても同様である。
【0029】
さらに、当該SKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニン及び/又はそのフラグメントは、上述したラミニン及び/又はそのフラグメントにさらなる改変を加えた改変ラミニン及び/又はそのフラグメントであってもよい。該改変ラミニン及び/又はそのフラグメントの例としては、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、該ラミニン及び/又はそのフラグメント(本明細書において「パールカン修飾-ラミニン/フラグメント」ともいう)(特許文献3、5参照)が挙げられる。SKPsへの分化誘導の効率の観点からは、本発明においてSKPsへの分化誘導培養に用いられる該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、パールカン修飾-ラミニン/フラグメントであることが好ましい。該修飾に用いるパールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントは、ラミニン又はそのフラグメントと同種由来のものが好ましく、より好ましくはヒトパールカン(GenBank:NP_005520、NM_005529)、もしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントである。パールカンの増殖因子結合部位としては、パールカンのドメインI~III(例えば、ヒトパールカンのアミノ酸配列のN末端より22番目のバリンから1676番目のプロリンまでの領域)(The Journal of Biological Chemistry, 2003, 278:30106-30114)が挙げられ、このうち、このうちドメインI(Gly25-Pro196)が好ましい。該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントは、例えば、それを高発現する細胞から精製する方法、組換えタンパク質として製造する方法など、公知の方法に従って製造することができる。
【0030】
当該パールカン修飾-ラミニン/フラグメントにおいて、該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントは、ラミニン又はそのフラグメントのα鎖のN末端、α鎖のC末端、β鎖のN末端、及びγ鎖のN末端のうちの少なくとも1箇所に結合していればよい。したがって、該パールカン修飾-ラミニン/フラグメントは、該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントを1個、2個、3個、又は4個有し得、その各々は、全てパールカンであっても、全て増殖因子結合部位を含むパールカンフラグメントであってもよく、又は一部がパールカンで一部が増殖因子結合部位を含むパールカンフラグメントであってもよい。本発明に用いられる該パールカン修飾-ラミニン/フラグメントは、好ましくは、ラミニン又はそのフラグメントのα鎖のC末端にパールカンもしくはその増殖因子結合部位を1個結合したものであり、より好ましくは、ラミニンフラグメントのα鎖のC末端にパールカンの増殖因子結合部位を1個結合したものである。該パールカン修飾-ラミニン/フラグメントに含まれるラミニン、ラミニンフラグメント、ならびにパールカン及びその増殖因子結合部位の好ましい例は、上述したとおりである。
【0031】
当該パールカン修飾-ラミニン/フラグメントは、公知の遺伝子組換え技術を用いて、例えば特許文献3に記載された手順に従って調製することができる。より詳細には、ラミニン又はそのフラグメントをコードするDNAと、パールカン又はその増殖因子結合部位を含むフラグメントをコードするDNAとを連結して、パールカン又はその増殖因子結合部位を含むフラグメントとラミニン又はそのフラグメントとの融合タンパク質をコードするDNAを構築する。該融合タンパク質をコードするDNAを含むベクターを宿主細胞に導入して発現させることで、目的のパールカン修飾-ラミニン/フラグメントを調製することができる。あるいは、ラミニン又はそのフラグメントの適切な位置にパールカン又はその増殖因子結合部位を含むフラグメントを化学的に結合させることによって、目的のパールカン修飾-ラミニン/フラグメントを合成することができる。
【0032】
上述した本発明で利用可能なラミニン及び/又はそのフラグメントは、それらの構築、分離、精製、又は前述したパールカンもしくはそのフラグメントとの結合に用いられる配列、例えばタグ配列、リンカー配列等、を含んでいてもよい。
【0033】
本発明のSKPsの作製方法においては、当該ラミニン及び/又はそのフラグメントの存在下で、NCS細胞を培養してSKPsへと分化させる。本工程において、該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、NCS細胞からSKPsへの分化誘導培養の際の培養足場材として使用される。したがって、本発明の方法においては、従来のSKPs分化誘導培養方法のようにフィーダー細胞を用いる必要がなく、フィーダーフリーでの培養が可能となる。
【0034】
本発明のSKPsの作製方法で用いられるNCS細胞は、公知の方法により調製することができる。例えば、NCS細胞は、初期胚からNCS細胞を採取し、必要に応じて増殖させること、多能性幹細胞から分化誘導することなどによって調製することができる。本発明の方法で用いられるNCS細胞は、好ましくは、多能性幹細胞から分化誘導された、多能性幹細胞に由来するNCS細胞であり、より好ましくは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化誘導された、人工多能性幹細胞(iPS細胞)に由来するNCS細胞である。
【0035】
したがって、一実施形態において、本発明のSKPsの作製方法は、多能性幹細胞からNCS細胞を分化誘導して、多能性幹細胞に由来するNCS細胞を作製する工程をさらに含んでいてもよい。好ましい実施形態において、該多能性幹細胞に由来するNCS細胞を作製する工程は、ラミニン及び/又はそのフラグメントの存在下で多能性幹細胞を培養してNCS細胞へと分化させることを含む。
【0036】
さらに必要に応じて、上記NCS細胞への分化誘導を行う前に、多能性幹細胞を前培養してもよい。該前培養もまた、ラミニン及び/又はそのフラグメントの存在下で行われることが好ましい。該前培養の後、多能性を維持している幹細胞を、該NCS細胞への分化誘導に用いることができる。
【0037】
当該NCS細胞の作製工程で使用されるラミニン及び/又はそのフラグメントの種類としては、特に限定されず、上述したSKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニン及び/又はそのフラグメント;特許文献2~5に記載される多能性幹細胞の培養に用いられるラミニン、ラミニンフラグメント及び改変ラミニン、などが挙げられる。好ましくは、本工程で使用されるラミニン及び/又はそのフラグメントは、上述したSKPsへの分化誘導培養に利用可能なラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種であり得る。本工程で使用されるラミニン及び/又はそのフラグメントは、上述したSKPsの分化誘導に用いられるラミニン及び/又はそのフラグメントと同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。好ましい実施形態において、当該NCS細胞の作製工程で使用されるラミニン及び/又はそのフラグメントは、上述したSKPsへの分化誘導培養に利用可能なパールカン修飾-ラミニン/フラグメントである。パールカン修飾-ラミニン/フラグメントを用いることで、NCS細胞への分化誘導の効率を向上させることができる。本発明の好ましい実施形態においては、上述したSKPsへの分化誘導培養に利用可能なパールカン修飾-ラミニン/フラグメントの存在下で、多能性幹細胞を培養してNCS細胞へと分化させた後、続けて該NCS細胞を培養してSKPsへと分化させる。
【0038】
当該NCS細胞の作製工程において、当該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養の際の培養足場材として使用される。したがって、本工程においては、従来の多能性幹細胞の培養方法のようにフィーダー細胞を用いる必要がなく、フィーダーフリーでの培養が可能となる。
【0039】
本発明における多能性幹細胞の前培養、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養、及びNCS細胞からSKPsへの分化誘導培養は、好ましくは、ex vivoで行われ、生きたヒト又は動物の個体上又は個体内での培養を含まない。したがって、本発明で培養足場材として使用される該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、好ましくは、ex vivoで使用され、生きたヒト又は動物の個体上又は個体内での培養には使用されない。
【0040】
本発明において、当該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、培養足場として機能する限り、いかなる方法で使用されてもよい。例えば、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養基材上で細胞を培養してもよい。該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養基材の例としては、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含有するコーティングを有する培養基材(例えばプレート、メッシュ、ディッシュ等)が挙げられ、その例としては、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含むコーティング剤によりコートすることで該ラミニン及び/又はそのフラグメントが吸着している培養基材が挙げられる。このような培養基材における該ラミニン及び/又はそのフラグメントの含有量は、該培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであればよい。例えば、コーティングする面積1cm2あたり、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μg含むコーティング剤により、該培養基材をコーティング処理し、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを該培養基材に吸着させればよい。
【0041】
あるいは、本発明においては、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを添加した培地で細胞を培養してもよい。該培地に該ラミニン及び/又はそのフラグメントを添加する場合、細胞の播種に先立って培地に該ラミニン及び/又はそのフラグメントを添加してもよく、あるいは細胞と一緒に培地に該ラミニン及び/又はそのフラグメントを添加してもよい。該培地における該ラミニン及び/又はそのフラグメントの含有量を、培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgになるように調整するとよい。
【0042】
当該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養基材やコーティング剤、培地には、該ラミニン及び/又はそのフラグメント以外の足場材又は細胞接着分子が含まれていてもよい。該足場材又は細胞接着分子の例としては、ゼラチン、コラーゲン、マトリゲル、フィブロネクチン、ポリ-L-リジンなどが挙げられる。
【0043】
NCS細胞からSKPsへの分化誘導培養に用いる培地、及び多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養に用いる培地には、いずれも、幹細胞の分化誘導に通常用いられる分化培地を使用することができる。また多能性幹細胞の前培養には、幹細胞の維持培養に通常用いられる維持培地を使用することができる。これらの培地の基礎培地は、幹細胞の培養に通常用いられる基礎培地から適宜選択することができ、かつ市販品を使用することもできる。該基礎培地の例としては、MEM培地(Minimum Essential Medium)、BME培地(Basal Medium Eagle)、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハム培地、RPMI培地(Roswell Park Memorial Institute medium)、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地が挙げられる。このうち、DMEM/Ham’s F12培地(以下、単に「DMEM/F12培地」ともいう)が好ましい。フィーダーフリーでの培養の場合は、幹細胞のフィーダーフリーでの培養用に調製された基礎培地から適宜選択することができ、市販品を使用することもできる。その例としては、StemFit(登録商標)AK02N(味の素(株))などが挙げられる。
【0044】
当該培地は、血清含有培地であっても、無血清培地であっても、血清代替物を含有する培地であってもよいが、好ましくは無血清培地又は血清代替物を含有する培地である。該血清代替物は、血清中に含まれる成分である、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン等)、栄養因子(EGF(上皮成長因子)、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)等)などの成分が含まれる組成物であり、その組成は細胞増殖能がある限り限定されない。具体的な例として、B-27(商標)サプリメント、N2サプリメント、ノックアウトシーラムリプレースメントなどが挙げられる。さらには、必要に応じてビタミン、緩衝剤、無機塩類、抗生物質(例えば、ペニシリン、カナマイシン、ストレプトマイシン)、2-メルカプトエタノール等、幹細胞の培地に通常用いられる成分を培地に含有させてもよい。好ましくは、該培地は、培養する細胞に対して異種の生物由来の成分を含まないゼノフリー培地である。なおフィーダーフリー、好ましくはさらにゼノフリーでの培養を実現できる限りにおいて、該培地は市販品を用いてもよい。
【0045】
当該NCS細胞からSKPsへの分化誘導培養に用いる分化培地は、血清代替物、EGF、及びbFGFからなる群より選ばれる少なくとも1種の栄養因子を含有していることが好ましく、血清代替物、EGF及びbFGFを含有していることがより好ましい。血清代替物としては、上述のB-27(商標)サプリメント、N2サプリメント、又はノックアウトシーラムリプレースメントが好ましく、B-27(商標)サプリメントがより好ましい。これらの栄養因子は、常法に従い調製してもよく、又は市販品を用いてもよい。該分化培地における該栄養因子の含有量は、培養条件、使用する多能性幹細胞の種類、阻害剤の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、該培地中における血清代替物の濃度は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、かつ20質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、あるいは濃度範囲0.5~20質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい。また例えば、該培地中におけるEGF及びbFGFの濃度は、それぞれ、1ng/mL以上が好ましく、10ng/mL以上がより好ましく、かつ100ng/mL以下が好ましく、50ng/mL以下がより好ましく、あるいは濃度範囲1~100ng/mLが好ましく、10~50ng/mLがより好ましい。
【0046】
さらに、該分化培地にWntシグナルアゴニストを含有させることで、NCS細胞のSKPsへの分化誘導が促進され、SKPsの収率が向上する。本発明で用いられるWntシグナルアゴニストは、上記で定義したとおりであるが、好ましい例としては、上述したβ-カテニン経路を活性化する因子、及びGSK-3阻害剤等の細胞内β-カテニンの分解を阻害する因子が挙げられる。GSK-3阻害剤が好ましい。
【0047】
GSK-3阻害剤の例としては、アミノピリミジン化合物(例えばGSK-3 Inhibitor XVI、商品名CHIR99021など;CAS 252917-06-9)、ビス-インドロ(インジルビン)化合物(以下、「BIO」ともいう)(例えば、(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム;CAS 667463-62-9)、BIOのアセトキシム化合物(以下、「BIO-アセトキシム」ともいう)(例えば、(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)化合物(例えば、4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、オキソチアジアゾリジン-3-チオン化合物(例えば、2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、チエニルα-クロロメチルケトン化合物(例えば、2-クロロ-1-(4,4-ジブロモ-チオフェンー2-イル)-エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(例えば、α-4-ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(例えば、N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)ユレア)、1H-ピラゾロ[3,4-b]キノキサリン-3-アミン:商品名NSC693868(CAS 40254-90-8)、(2,4ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ビロール-2,5-ジオン:商品名SB216763(CAS 280744-09-4)、3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ビロール-2,5-ジオン:商品名SB415286(CAS 264218-23-7)、GSK-3β inhibitor XII:商品名TWS119(CAS 601514-19-6)、GSK-3βペプチド阻害剤(例えばH-KEAPPAPPQSpP-NH2)、等が挙げられる。このうち、GSK-3 inhibitor XVI(CAS 252917-06-9)、(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(CAS 667463-62-9)、1H-ピラゾロ[3,4-b]キノキサリン-3-アミン(CAS 40254-90-8)、(2,4ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ビロール-2,5-ジオン(CAS 280744-09-4)、3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ビロール-2,5-ジオン(CAS 264218-23-7)、及びGSK-3β inhibitor XII(CAS 601514-19-6)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、GSK-3 inhibitor XVIがさらに好ましい。
【0048】
上記に挙げたWntシグナルアゴニストは、常法に従い調製してもよく、又は市販品を用いてもよい。分化培地に含まれるWntシグナルアゴニストの含有量は、培養条件、使用するWntシグナルアゴニストの種類等に応じて、Wntシグナルが活性化され、かつ細胞増殖が停止しない範囲で適宜設定することができる。例えば、WntシグナルアゴニストとしてGSK-3 inhibitor XVIを用いる場合、培地中の該Wntシグナルアゴニストの濃度は、0.5μM以上が好ましく、2μM以上がより好ましく、かつ5μM以下が好ましく、4μM以下がより好ましい。あるいは、培地中の該Wntシグナルアゴニストの濃度範囲は0.5~5μMが好ましく、2~4μMがより好ましい。さらに好ましくは、培地中の該Wntシグナルアゴニストの濃度は3μMである。
【0049】
一方、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養に用いる分化培地は、TGFβシグナル阻害剤及び/又はBMPシグナル阻害剤を含有していることが好ましい。これにより、NCS細胞への分化誘導が促進され、結果として目的とするSKPsの収率が向上する。該TGFβシグナル阻害剤の例としては、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド(例えば、SB431542(商品名);CAS 301836-41-9)等が挙げられる。該BMPシグナル阻害剤の例としては、nogginやLDN193189(CAS 1062368-24-4)等が挙げられる。これらのTGFβシグナル阻害剤及びBMPシグナル阻害剤は、常法に従い調製してもよく、又は市販品を用いてもよい。該NCS細胞の作製に用いる分化培地における該TGFβシグナル阻害剤及びBMPシグナル阻害剤の含有量は、培養条件、使用する多能性幹細胞の種類、阻害剤の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、該培地中におけるSB431542の濃度は、1μM以上が好ましく、5μM以上がより好ましく、かつ30μM以下が好ましく、20μM以下がより好ましく、あるいは濃度範囲1~30μMが好ましく、5~20μMがより好ましい。また例えば、該培地中におけるnogginの濃度は、10ng/mL以上が好ましく、100ng/mL以上がより好ましく、かつ1000ng/mL以下が好ましく、700ng/mL以下がより好ましく、あるいは濃度範囲10~1000ng/mLが好ましく、100~700ng/mLがより好ましい。
【0050】
多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導のための培養条件は、使用する細胞の種類等に応じて、適宜設定することができる。例えば、多能性幹細胞としてiPS細胞を用いる場合、NCS細胞への分化誘導のための培養期間は、好ましくは1~20日間である。NCS細胞からSKPsへの分化誘導のための培養条件もまた、適宜設定することができる。例えば、Wntシグナルアゴニストを含有する分化誘導培地で、好ましくは3~5日間NCS細胞を培養することで、効率的に細胞をSKPsに分化させることができる。本発明において、細胞の培養の手法は、接着培養及び浮遊培養のいずれであってもよいが、好ましくは接着培養が選択される。
【0051】
好ましい実施形態においては、上記の分化させたSKPsに対して、1回又は2回以上の継代培養を行う。継代培養を行うことで、純度の高い細胞集団としてSKPsを得ることができる。SKPsの継代方法及び継代回数は、培養条件などに応じて通常の継代方法から適宜選択することができる。例えば、接着培養系細胞については酵素等による細胞の剥離後、希釈培養により継代を行い、浮遊培養系細胞については希釈培養により継代を行う。
【0052】
分化したNCS細胞又はSKPsは、上述した各々の細胞についてのマーカータンパク質又はマーカー遺伝子の発現に基づいて同定することができる。あるいは、顕微鏡観察下での細胞形態などに基づいて細胞のNCS細胞又はSKPsへの分化を確認することができる。
【0053】
本発明のSKPsの作製方法では、NCS細胞からSKPsへの分化が高確率で起こるため、培養後の細胞からのSKPsの分離回収は必ずしも必要ない。一方、SKPsの純度をより高めるために、培養物からのSKPsの分離回収を行ってもよい。SKPsの分離回収は、常法により行うことができ、例えば、セルソーターを用いた方法、磁気ビーズを用いた方法などにより行うことができる。
【0054】
上述したように、本発明において、当該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養、及びNCS細胞からSKPsへの分化誘導培養において、培養足場材として使用される。したがって、さらなる一態様において、本発明は、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを有効成分とする、NCS細胞のSKPsへの分化誘導培養のための足場材を提供する。さらに本発明は、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを有効成分とする、多能性幹細胞のNCS細胞への分化誘導培養のための足場材を提供する。好ましい実施形態において、該多能性幹細胞のNCS細胞への分化誘導培養のための足場材に含まれるラミニン及び/又はそのフラグメントは、上述したパールカン修飾-ラミニン/フラグメントである。
【0055】
一実施形態において、該本発明の足場材は、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養基材、例えば、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含有するコーティングを有する培養基材(例えばプレート、メッシュ、ディッシュ等)、より具体的には、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含むコーティング剤によりコートされることで該ラミニン及び/又はそのフラグメントが吸着している培養基材;該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含むコーティング剤;該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養培地、などの形態で提供される。該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養基材、コーティング剤、及び培養培地は、上述した該ラミニン及び/又はそのフラグメント以外の足場材又は細胞接着分子を含有していてもよい。また該コーティング剤は、通常の培養基材のコーティング剤に含有される他の成分(例えば溶媒として緩衝液)を含有していてもよい。また該培養培地は、通常の培養培地に含有される他の成分(例えば、上述したような基礎培地、血清、血清代替物、栄養因子等)を含有していてもよい。該培地がNCS細胞からSKPsへの分化誘導培養に使用される場合、該培地は、好ましくは、上述したWntシグナルアゴニストを含有し、より好ましくは該Wntシグナルアゴニストと、血清代替物、EGF及びbFGFを含有する。一方、該培地が多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養に使用される場合、該培地は、好ましくは、上述したTGFβシグナル阻害剤及び/又はBMPシグナル阻害剤を含有する。
【0056】
一実施形態において、該本発明の足場材は、該ラミニン及び/又はそのフラグメントからなるものであってもよい。この場合、該本発明の足場材は、好ましくは、培養基材のコーティング剤に添加するか、又は培地に添加することによって使用される。
【0057】
本発明の足場材が該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培養基材である場合、該培養基材における該ラミニン及び/又はそのフラグメントの含有量は、該培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであればよい。本発明の足場材が該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含むコーティング剤である場合、該コーティング剤における該ラミニン及び/又はそのフラグメントの含有量は、該コーティング剤がコーティングする面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであればよい。本発明の足場材が該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含む培地である場合、該培地中の該ラミニン及び/又はそのフラグメントの含有量は、該培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgであればよい。該本発明の足場材を培養基材のコーティング剤に添加して使用する場合、その使用量を、該コーティング剤における該ラミニン及び/又はそのフラグメントの含有量が上述の範囲になるように調整するとよい。あるいは、該本発明の足場材を培地に添加して使用する場合、その使用量を、該培地1mLあたりの該ラミニン及び/又はそのフラグメントの最終濃度が上述の範囲になるように調整するとよい。
【0058】
さらに別の一態様において、本発明は、該本発明の足場材を含有する、NCS細胞からSKPsへの分化誘導培養のための培養基材を提供する。また本発明は、該本発明の足場材を含有する、NCS細胞からSKPsへの分化誘導培養のための細胞培養キットを提供する。
さらに別の一態様において、本発明は、該本発明の足場材を含有する、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養のための培養基材を提供する。また本発明は、該本発明の足場材を含有する、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養のための細胞培養キットを提供する。好ましい実施形態において、該多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導培養のための培養基材又は細胞培養キットにおける、本発明の足場材に含まれるラミニン及び/又はそのフラグメントは、上述したパールカン修飾-ラミニン/フラグメントである。
好ましい実施形態において、該本発明の培養基材は、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含有するコーティングを有する培養基材(例えばプレート、メッシュ、ディッシュ等)であり、より好ましくは、該ラミニン及び/又はそのフラグメントを含むコーティング剤によりコートされることで該ラミニン及び/又はそのフラグメントが吸着している培養基材である。好ましい実施形態において、該本発明の細胞培養キットは、該ラミニン及び/又はそのフラグメントに加えて、必要に応じて、培養基材、多能性幹細胞からNCS細胞への分化誘導もしくはNCS細胞からSKPsへの分化誘導のための分化培地やその添加剤、多能性幹細胞の維持培養のための培地やその添加剤、などを含んでいてもよい。該本発明の細胞培養キットに含まれる該ラミニン及び/又はそのフラグメントは、培養基材にコーティングされていてもよく、又は培養基材をコーティングするためのコーティング剤もしくは培地に含有されていてもよい。
【0059】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0060】
〔1〕皮膚由来多能性前駆細胞の作製方法であって、
神経堤幹細胞を、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で培養して皮膚由来多能性前駆細胞へと分化させること、
を含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
方法。
〔2〕好ましくは、前記神経堤幹細胞を作製する工程をさらに含み、
該工程は、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で多能性幹細胞を培養して神経堤幹細胞へと分化させることを含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
〔1〕記載の方法。
〔3〕好ましくは、予めラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で前記多能性幹細胞を維持培養することをさらに含む、〔2〕記載の方法。
〔4〕前記ラミニンフラグメントが、
好ましくは、インテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントであり、
より好ましくは、ラミニンE8フラグメントを含むラミニンフラグメントである、
〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種が、
好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントを含み、
より好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントである、
〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが、
好ましくは、パールカンのドメインI~IIIのいずれかを含むフラグメントであり、
より好ましくは、パールカンのドメインIを含むフラグメントである、
〔5〕記載の方法。
〔7〕好ましくは、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下での神経堤幹細胞の培養が、該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で該細胞を培養するか、又は該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培地で該細胞を培養することを含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕好ましくは、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下での多能性幹細胞の培養が、該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で該細胞を培養するか、又は該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培地で該細胞を培養することを含む、〔2〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕好ましくは、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用量は、前記培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであるか、又は、前記培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgである、あるいは、
前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を前記培養基材のコーティング剤に添加して使用する場合、該コーティング剤における該ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、コーティングする面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgである、
〔7〕又は〔8〕記載の方法。
〔10〕好ましくは、前記神経堤幹細胞の培養が、Wntシグナルアゴニストを含有する分化培地で該細胞を培養することを含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔11〕前記Wntシグナルアゴニストが、
好ましくは、β-カテニン経路を活性化する因子であり、
より好ましくは、β-カテニンのリン酸化酵素阻害剤であり、
さらに好ましくは、GSK-3阻害剤であり、
さらに好ましくは、アミノピリミジン化合物、ビス-インドロ(インジルビン)化合物(BIO)又はそのアセトキシム化合物、チアジアゾリジン(TDZD)化合物、オキソチアジアゾリジン-3-チオン化合物、チエニルα-クロロメチルケトン化合物、フェニルαブロモメチルケトン化合物、チアゾール含有尿素化合物、1H-ピラゾロ[3,4-b]キノキサリン-3-アミン、(2,4ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ビロール-2,5-ジオン、3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ビロール-2,5-ジオン、GSK-3β inhibitor XII、及びGSK-3βペプチド阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、
さらに好ましくは、GSK-3 Inhibitor XVI、(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(CAS 667463-62-9)、1H-ピラゾロ[3,4-b]キノキサリン-3-アミン、(2,4ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ビロール-2,5-ジオン、3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ビロール-2,5-ジオン、及びGSK-3β inhibitor XIIからなる群より選択される少なくとも1種であり、
さらに好ましくはGSK-3 Inhibitor XVIである、
〔10〕記載の方法。
〔12〕前記分化培地における前記Wntシグナルアゴニストの濃度が、好ましくは0.5~5μM、より好ましくは2~4μMである、〔10〕又は〔11〕記載の方法。
〔13〕好ましくは、前記神経堤幹細胞の培養が、栄養因子を含有する分化培地で該細胞を培養することを含み、
該栄養因子が、
好ましくは血清代替物、EGF、及びbFGFからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
より好ましくは血清代替物、EGF及びbFGFである、
〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の方法。
〔14〕前記分化培地における前記血清代替物の濃度が、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~5質量%であり、
前記分化培地における前記EGF及びbFGFの濃度が、それぞれ、好ましくは1~100ng/mL、より好ましくは10~50ng/mLである、
〔13〕記載の方法。
〔15〕好ましくは、前記多能性幹細胞を培養して分化させる工程が、TGFβシグナル阻害剤及びBMPシグナル阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する分化培地で該細胞を培養することを含む、〔2〕~〔14〕のいずれか1項記載の方法。
〔16〕好ましくは、前記TGFβシグナル阻害剤が4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミドであり、前記BMPシグナル阻害剤がnogginである、〔15〕記載の方法。
〔17〕好ましくは、前記皮膚由来多能性前駆細胞がネスチン及びフィブロネクチンを共発現する、〔1〕~〔16〕のいずれか1項のいずれか1項記載の方法。
〔18〕好ましくは、前記神経堤幹細胞がヒト由来神経堤幹細胞である、〔1〕~〔17〕のいずれか1項記載の方法。
〔19〕好ましくは、前記神経堤幹細胞が多能性幹細胞に由来する神経堤幹細胞である、〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法。
〔20〕好ましくは、前記神経堤幹細胞の培養がフィーダー細胞を用いることなく行われる、〔1〕~〔19〕のいずれか1項記載の方法。
〔21〕好ましくは、前記神経堤幹細胞の培養が異種由来成分の非存在下で行われる、〔1〕~〔20〕のいずれか1項記載の方法。
【0061】
〔22〕神経堤幹細胞の作製方法であって、
パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で、多能性幹細胞を培養して神経堤幹細胞へと分化させること、
を含み、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
方法。
〔23〕好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下で、前記多能性幹細胞を予め維持培養することをさらに含む、〔22〕記載の方法。
〔24〕前記ラミニンフラグメントが、
好ましくは、インテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントであり、
より好ましくは、ラミニンE8フラグメントを含むラミニンフラグメントである、
〔22〕又は〔23〕記載の方法。
〔25〕前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが、
好ましくは、パールカンのドメインI~IIIのいずれかを含むフラグメントであり、
より好ましくは、パールカンのドメインIを含むフラグメントである、
〔22〕~〔24〕のいずれか1項記載の方法。
〔26〕好ましくは、前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の存在下での細胞の培養が、該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培養基材上で該細胞を培養するか、又は該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含む培地で該細胞を培養することを含む、〔22〕~〔25〕のいずれか1項記載の方法。
〔27〕好ましくは、前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用量は、前記培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであるか、又は、前記培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgである、
あるいは、
前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を前記培養基材のコーティング剤に添加して使用する場合、該コーティング剤における該パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合したラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、コーティングする面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgである、
〔26〕記載の方法。
〔28〕好ましくは、前記多能性幹細胞を培養して分化させる工程が、TGFβシグナル阻害剤及びBMPシグナル阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する分化培地で該細胞を培養することを含み、
より好ましくは、該TGFβシグナル阻害剤が4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミドであり、前記BMPシグナル阻害剤がnogginである、
〔22〕~〔27〕のいずれか1項記載の方法。
〔29〕好ましくは、前記多能性幹細胞がヒト由来多能性幹細胞である、〔22〕~〔28〕のいずれか1項記載の方法。
〔30〕好ましくは、前記多能性幹細胞の培養がフィーダー細胞を用いることなく行われる、〔22〕~〔29〕のいずれか1項記載の方法。
〔31〕好ましくは、前記多能性幹細胞の培養が異種由来成分の非存在下で行われる、〔22〕~〔30〕のいずれか1項記載の方法。
【0062】
〔32〕ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
足場材。
〔33〕パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
足場材。
〔34〕前記ラミニンフラグメントが、
好ましくはインテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントであり、
より好ましくは、ラミニンE8フラグメントを含むラミニンフラグメントである、
〔32〕又は〔33〕記載の足場材。
〔35〕前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種が、
好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントを含み、
より好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントである、
〔32〕~〔34〕のいずれか1項記載の足場材。
〔36〕前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが、
好ましくは、パールカンのドメインI~IIIのいずれかを含むフラグメントであり、
より好ましくは、パールカンのドメインIを含むフラグメントである、
〔33〕~〔35〕のいずれか1項記載の足場材。
〔37〕好ましくは、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有する培養基材であるか、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有するコーティングを有する培養基材であるか、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有するコーティング剤であるか、あるいは前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有する培地である、〔32〕~〔36〕のいずれか1項記載の足場材。
〔38〕前記培養基材における前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、該培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであるか、
前記培地における前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、該培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgであるか、あるいは、
前記コーティング剤における前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、該コーティング剤がコーティングする面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgである、
〔37〕記載の足場材。
〔39〕前記〔32〕、〔34〕~〔38〕のいずれか1項記載の足場材を含有する、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための培養基材。
〔40〕前記〔32〕、〔34〕~〔38〕のいずれか1項記載の足場材を含有する、神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための細胞培養キット。
〔41〕前記〔33〕~〔38〕のいずれか1項記載の足場材を含有する、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための培養基材。
〔42〕前記〔33〕~〔38〕のいずれか1項記載の足場材を含有する、多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための細胞培養キット。
【0063】
〔43〕神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材の製造における、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
使用。
〔44〕多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材の製造における、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
使用。
〔45〕神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材としての、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
使用。
〔46〕多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材としての、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の使用であって、
該ラミニンが、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である、
使用。
〔47〕前記ラミニンフラグメントが、
好ましくは、インテグリン結合活性を有するラミニンフラグメントであり、
より好ましくは、ラミニンE8フラグメントを含むラミニンフラグメントである、
〔43〕~〔46〕のいずれか1項記載の使用。
〔48〕前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種が、
好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、前記ラミニン又はそのフラグメントを含み、
より好ましくは、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、該ラミニン又はそのフラグメントである、
〔43〕~〔47〕のいずれか1項記載の使用。
〔49〕前記パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが、
好ましくは、パールカンのドメインI~IIIのいずれかを含むフラグメントであり、
より好ましくは、パールカンのドメインIを含むフラグメントである、
〔44〕、〔46〕~〔48〕のいずれか1項記載の使用。
〔50〕好ましくは、前記足場材が、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有する培養基材であるか、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有するコーティングを有する培養基材であるか、前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有するコーティング剤であるか、あるいは前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種を含有する培地である、〔43〕~〔49〕いずれか1項記載の使用。
〔51〕前記培養基材における前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、該培養基材が培養物と接触する面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgであるか、
前記培地における前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、該培地1mLあたりの最終濃度として、好ましくは0.1~100μg、より好ましくは0.2~20μgであるか、あるいは、
前記コーティング剤における前記ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種の含有量が、該コーティング剤がコーティングする面積1cm2あたり、好ましくは0.05~50μg、より好ましくは0.1~10μgである、
〔50〕記載の使用。
〔52〕神経堤幹細胞の皮膚由来多能性前駆細胞への分化誘導培養のための足場材として用いるための、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種、ここで該ラミニンは、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である。
〔53〕多能性幹細胞の神経堤幹細胞への分化誘導培養のための足場材として用いるための、パールカンもしくはその増殖因子結合部位を含むフラグメントが結合した、ラミニン及びそのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種、ここで該ラミニンは、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、及びラミニン521、ならびにそれらの変異体からなる群より選択される少なくとも1種である。
〔54〕ex vivo方法である、〔1〕~〔31〕のいずれか1項記載の方法。
〔55〕前記培養が生きたヒト又は動物の個体上又は個体内での培養を含まない、〔1〕~〔31〕のいずれか1項記載の方法。
〔56〕ex vivoにおける使用である、〔43〕~〔51〕のいずれか1項記載の使用。
〔57〕前記使用が生きたヒト又は動物の個体上又は個体内での使用を含まない、〔43〕~〔51〕のいずれか1項記載の使用。
【実施例
【0064】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
参考例1 ラミニンの調製
足場用のラミニンフラグメントとして、ラミニン111のE8フラグメント(LM111E8)、ラミニン121のE8フラグメント(LM121E8)、ラミニン332のE8フラグメント(LM332E8)、ラミニン421のE8フラグメント(LM421E8)、ラミニン511のE8フラグメント(LM511E8)、及びラミニン521のE8フラグメント(LM521E8)を国際公開公報第2014/103534号に記載の方法に従って調製した。
【0066】
参考例2 パールカン修飾ラミニンの調製
(1)パールカン修飾LM511E8(P-LM511E8)の調製
ヒトパールカンのドメインI(Gly25-Pro196)(以下、Pln-D1ともいう)フラグメントがヒトラミニンα5鎖E8フラグメントのC末端部に融合したラミニン511E8フラグメント(以下、パールカン修飾LM511E8、又はP-LM511E8ともいう)を、国際公開公報第2014/199754号に記載の方法に従って下記の手順で調製した。
【0067】
(1-1)ヒトラミニンα5鎖、β1鎖、γ1鎖の各E8フラグメント発現ベクターの作製
最初に、クローニング用プラスミドpBluescript KS(+)(Stratagene)を鋳型として、以下の3種類のプライマーセットを用いてPCRを行い、プラスミドのマルチクローニング部位内のEcoRVの5’側に6×Hisタグ(HHHHHH)をコードするDNA配列、HA(ヘマグルチニン)タグ(YPYDVPDYA)をコードするDNA配列、又はFLAGタグ(DYKDDDDK)をコードするDNA配列が挿入された3種類のpBluescript KS(+)をそれぞれ作製した。
(i) 6×Hisタグ導入用プライマー
5’-ATGATGATGAAGCTTATCGATACCGT-3’(forward、配列番号1)
5’-CATCATCATGATATCGAATTCCTGCA-3’(reverse、配列番号2)
(ii) HAタグ導入用プライマー
5’-ATCATATGGATAAAGCTTATCGATACCGT-3’(forward、配列番号3)
5’-GTGCCAGATTATGCAGATATCGAATTCCT-3’(reverse、配列番号4)
(iii) FLAGタグ導入用プライマー
5’-ATCCTTGTAATCAAGCTTATCGATACCGT-3’(forward、配列番号5)
5’-GATGATGATAAGGATATCGAATTCCT-3’(reverse、配列番号6)
【0068】
次に、ヒトラミニンα5鎖、β1鎖、γ1鎖の全長ヌクレオチド配列を含むプラスミド(The Journal of Biological Chemistry, 2004, 279:10946-10954)を鋳型として、以下のプライマーを用いたPCRを行い、α5鎖E8フラグメント(Ala2534-Ala3327)、β1鎖E8フラグメント(Leu1561-Leu1786)、及びγ1鎖E8フラグメント(Asn1362-Pro1609)に相当する領域を増幅した。
(iv) α5鎖E8フラグメント増幅用プライマー
5’-GCTGCCGAGGATGCTGCTGGCCAGG-3’(forward、配列番号7)
5’-CTAGGCAGGATGCCGGGCGGGCTGA-3’(reverse、配列番号8)
(v) β1鎖E8フラグメント増幅用プライマー
5’-CTTCAGCATAGTGCTGCTGACATTG-3’(forward、配列番号9)
5’-TTACAAGCATGTGCTATACACAGCAAC-3’(reverse、配列番号10)
(vi) γ1鎖E8フラグメント増幅用プライマー
5’-AATGACATTCTCAACAACCTGAAAG-3’(forward、配列番号11)
5’-CTAGGGCTTTTCAATGGACGGGGTG-3’(reverse、配列番号12)
【0069】
増幅したDNA断片を、タグ配列を付加したpBluescript KS(+)のマルチクローニング部位のEcoRV部位に挿入した後、5’側のタグをコードする配列を含めて増幅したDNA断片を制限酵素EcoRIとHindIIIで切り出し、哺乳細胞用発現ベクターpSecTag2B(Invitrogen、マウスIg-κ鎖V-J2-CシグナルペプチドをコードするDNA配列を内在に有する)に挿入し、ヒトα5鎖E8フラグメント(N末端側に6×Hisタグを含む)、ヒトβ1鎖E8フラグメント(N末端側にHAタグを含む)、及びヒトγ1鎖E8フラグメント(N末端側にFLAGタグを含む)の発現ベクターをそれぞれ作製した。
【0070】
(1-2)パールカンドメイン融合ラミニンα5鎖E8フラグメント発現ベクターの作製 ヒトラミニンα5鎖E8フラグメント発現ベクターを鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRを行い、ヒトラミニンα5鎖E8フラグメントのC末端部分(Leu570-Pro772)とヒトラミニンα1鎖G3-G4ドメイン間リンカー配列(DAEDSKLLPEPRAFP、配列番号13)をコードするDNA断片を増幅した。
(vii) リンカー配列導入のための増幅用プライマー
5’-CCTCAAGCGGCTGAACACGACAGGCG-3’(forward、配列番号14)
5’-ATATGGATCCTGGAAAAGCCCGGGGCTCTGGCAAGAGCTTGCTGTCCTCTGCATCAGGCCCCAGGCCCGG-3’
(reverse、配列番号15、制限酵素BamHI認識配列が含まれている)
得られたDNA断片を制限酵素AscI(この制限酵素の認識配列はヒトラミニンα5鎖E8フラグメントのC末端部分をコードするDNA配列内に存在する)とBamHIで消化し、DNA断片1とした。
【0071】
ヒトパールカン発現ベクター(Journal of Biological Chemistry, 2010, 285(47):36645-36655)を鋳型として、以下のプライマーを用いてPCRを行い、ヒトパールカンのドメインI(Pln-D1)(Gly25-Pro196)にHisタグをC末端に付加した配列をコードするDNA断片を増幅した。
(viii) Pln-D1配列増幅用プライマー
5’-ATATATATGGATCCGGGCTGAGGGCATACGATGGCTTGTCTCTG-3’
(forward、配列番号16、制限酵素BamHI認識配列が含まれている)
5’-ATATATATGCGGCCGCCTAATGATGATGATGATGATGTGGGAACTGGGGCACTGTGCCCAG-3’
(reverse、配列番号17、制限酵素NotI認識配列が含まれている)
得られたDNA断片を制限酵素BamHIとNotIで消化し、DNA断片2とした。
【0072】
ヒトラミニンα5鎖E8フラグメント発現ベクターを制限酵素AscIとNotIで消化して得られたヒトラミニンα5鎖E8フラグメントのN末端部分(Met1-Asp610)を含む発現ベクター断片に、上記のDNA断片1及び2を挿入し、Pln-D1融合ヒトラミニンα5鎖E8フラグメント発現ベクターを作製した。
【0073】
(1-3)Pln-D1融合ラミニンフラグメントの発現及び精製
Pln-D1融合ヒトラミニンα5鎖E8フラグメント発現ベクターを、ヒトβ1鎖E8フラグメント(N末端側にHAタグを含む)発現ベクター及びヒトγ1鎖E8フラグメント(N末端側にFLAGタグを含む)発現ベクターと混合して、ヒト腎臓由来293F細胞にトランスフェクトし、72時間培養を行った後、培養液を回収し、Ni-NTA agaroseとANTI-FLAG M2 affinity Gel(シグマ)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、Pln-D1が融合したラミニン511のE8フラグメント(P-LM511E8)を精製した。
【0074】
(2)パールカン修飾LM111E8(P-LM111E8)の調製
α5鎖E8をα1鎖E8に変更した以外は(1)と同様の手順で、Pln-D1が融合したラミニン111のE8フラグメント(P-LM111E8)を調製した。
【0075】
(3)パールカン修飾LM121E8(P-LM121E8)の調製
α5鎖E8をα1鎖E8に、及びβ1鎖E8をβ2鎖E8に変更した以外は(1)と同様の手順で、Pln-D1が融合したラミニン121のE8フラグメント(P-LM121E8)を調製した。
【0076】
(4)パールカン修飾LM332E8(P-LM332E8)の調製
α鎖、β鎖及びγ鎖にα3鎖、β3鎖及びγ2鎖を用いた以外は(1)と同様の手順で、Pln-D1が融合したラミニン332のE8フラグメント(P-LM332E8)を調製した。
【0077】
(5)パールカン修飾LM421E8(P-LM421E8)の調製
α鎖、β鎖及びγ鎖にα4鎖、β2鎖及びγ1鎖を用いた以外は(1)と同様の手順で、Pln-D1が融合したラミニン421のE8フラグメント(P-LM421E8)を調製した。
【0078】
(6)パールカン修飾LM521E8(P-LM521E8)の調製
β1鎖E8をβ2鎖E8に変更した以外は(1)と同様の手順で、Pln-D1が融合したラミニン521のE8フラグメント(P-LM521E8)を調製した。
【0079】
実施例1 ラミニン足場の構築
(1)ラミニン足場の構築
参考例1で準備した各種ラミニン又は参考例2で調製したパールカン修飾ラミニンは、予め培養基材にコーティングするか、又は細胞と同時に培地に添加した。予めコーティングする場合は、Dulbecco’s phosphate-buffered saline (DPBS)(Life Technologies社製、カタログ番号:14190-250)に各種ラミニンを溶解させ、得られたラミニン溶液(ラミニン2.5μg/mL含有)を培養基材(35mm径ディッシュ)の表面に広げ(ラミニン最終濃度:約0.5μg/コーティング面積cm2)、37℃で1時間静置した後、DPBSで洗浄し、該培養基材にコーティングを形成した。培地に添加する場合は、培地中の最終濃度が1.25μg/mLの範囲になるように、培地への各種ラミニンの添加量を調整した。これらのラミニン足場を含む培養環境下で、以下の実施例での細胞培養を行った。
【0080】
実施例2 皮膚由来多能性前駆細胞(SKPs)の作製
(1)iPS細胞の培養
多能性幹細胞として、ヒト由来のiPS細胞(クローン名:1231A3、京都大学iPS研究所CiRAより購入)を用いた。なお、1231A3株は、African Americanの女性の末梢血単核球にエピソーマルベクターを用いてpCE-hOCT3/4、pCE-hSK、pCE-hUL、pCE-mp53DD及びpCXB-EBNA1 を導入して得られたiPS細胞である。iPS細胞は入手機関が推奨する培養方法に従って維持培養した。すなわち、ヒトiPS細胞用培地としてStemFit(登録商標)(AK02N、味の素(株))を用いて、37℃、5%CO2のインキュベーターで、Sci. Rep, 4, 2014, 3594; DOI:10.1038/srep03594に記載の方法に従って、細胞を培養した。足場用のラミニンフラグメントとしては、LM111E8、LM121E8、LM332E8、LM421E8、LM511E8、及びLM521E8(実施例1記載の手順で事前にディッシュにコーティングした)を用いた。
【0081】
(2)ヒトiPS細胞由来神経堤幹(NCS)細胞の調製
Nature Protocols, 2010, 5:688-701、又はCell Reports, 2013, 3:1140-1152に記載の方法に基づいて、(1)で培養したiPS細胞をNCS細胞へと分化させた。該iPS細胞を、noggin(R&D Systems社製、カタログ番号:6057-NG-100/CF、500ng/mL)及び/又はSB431542(TOCRIS社製、カタログ番号:1614、10μM)を含むStemFit(登録商標)AK02N(添加剤C無添加)培地で5日間~2週間培養することにより、NCS細胞への分化を誘導した。なお、分化誘導培養における足場としては、iPS細胞からNCS細胞への分化誘導時には継代しないことから、iPS細胞培養時にコーティングしたラミニンフラグメントがそのまま存在している。
【0082】
(3)NCS細胞からSKPsへの分化誘導
B-27(商標)サプリメント(Life Technologies社製、カタログ番号:17504-044、2質量%)、EGF(R&D Systems社製、カタログ番号:336-EG-200、20ng/mL)、bFGF(Wako社製、カタログ番号:064-04541、40ng/mL)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、50U、50μg/mL)、及びCHIR99021(Cayman社製、カタログ番号:13122、3μM)を含むDMEM/F12培地(Life Technologies社製、カタログ番号:10565-018)により、(2)で調製したNCS細胞を3~5日間培養して、NCS細胞からSKPsへの分化を誘導した。なお、分化誘導培養における足場としては、NCS細胞からSKPsへの分化誘導時には継代しないことから、iPS細胞培養時にコーティングしたラミニンフラグメントがそのまま存在している。次いで、SKPsへ分化した細胞を培養細胞分離/分散溶液(商品名:Accutase、BD Biosciences社製、カタログ番号:561527)を用いて、ラミニンフラグメント足場なしで継代培養し、次いでB-27(商標)サプリメント(2質量%)、EGF(20ng/mL)、bFGF(40ng/mL)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、50U、50μg/mL)を含むDMEM/F12培地でさらに培養した。
【0083】
(4)マーカータンパク質の発現
(3)で分化誘導された細胞におけるマーカータンパク質の発現を調べた。ラミニン存在下で分化誘導した継代培養後の細胞(iPS-SKPs P1)について、SKPsに特有のマーカータンパク質(ネスチン及びフィブロネクチン)の発現を免疫組織蛍光染色により調べた。細胞をD-PBS(-)で洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した。固定した細胞をD-PBS(-)で洗浄後、Triton X-100(0.5質量%)のPBS溶液で5分間処理し、再びD-PBS(-)で洗浄後、10%ヤギ血清(ニチレイ社製、カタログ番号:426041)にて室温で1時間ブロッキングした。その後、表2に示す1次抗体(室温、2時間)及び2次抗体(室温、1時間)で細胞を処理し、Hoechst33258(同仁化学研究所製、カタログ番号:H341)で核を染色後、フルオロマウントG(Southern Biotech社製、カタログ番号:0100-01)に包埋し、マーカータンパク質の発現を蛍光顕微鏡下で観察した。
【0084】
【表2】
【0085】
(5)結果
NCS細胞からSKPsへの分化の誘導を示す顕微鏡写真を図1に示す。iPS-NCS(図1、1段目)は分化誘導の開始直前の細胞の顕微鏡写真を示し、iPS-SKPs P0(図1、2段目)は分化誘導4日後(継代前)の細胞の顕微鏡写真を示し、iPS-SKPs P1(図1、3段目)は継代培養後の細胞の顕微鏡写真を示す(全て倍率:40倍)。また、得られた細胞におけるSKPsのマーカータンパク質(ネスチン、及びフィブロネクチン)の発現が蛍光顕微鏡下で観察された。なお同時に行ったHoechst染色により、マーカー発現が観察された位置に生細胞が存在することが確認された(図1、4段目)(全て倍率:50倍)。図1に示すように、ラミニン111、121、332、421、511及び521のフラグメントを含む培養環境下では、NSCからSKPsへの分化が観察された。特にラミニン111、332、421及び511のフラグメントの存在下で高効率にSKPsへの分化が誘導された。
【0086】
実施例3 修飾ラミニンフラグメント存在下でのSKPsの作製
(1)SKPsの作製
実施例2の(1)~(3)と同様の手順で、iPS細胞からNCS細胞を調製し、得られたNCS細胞からSKPsを分化誘導した。SKPsへの分化誘導培地におけるCHIR99021の濃度は3μMとした。SKPsへの分化誘導の培養期間は4日間とした。iPS細胞の維持培養、NCS細胞への分化誘導、及びSKPsへの分化誘導における足場用のラミニンフラグメントとしては、LM111E8、LM121E8、LM332E8、LM421E8、LM511E8、及びLM521E8、ならびにパールカン修飾ラミニンフラグメント P-LM111E8、P-LM121E8、P-LM332E8、P-LM421E8、P-LM511E8、及びP-LM521E8(いずれも実施例1記載の手順で事前にディッシュにコーティングした)を用いた。分化誘導したSKPsは、ラミニンフラグメント足場なしで継代培養した。iPS細胞からSKPsを得るまでの培養の総日数は9日間であった。
【0087】
(1)の手順で得られたSKPsを示す顕微鏡写真を図2に示す。図2に示すように、パールカン修飾ラミニンフラグメントの存在下では、非修飾ラミニンフラグメント存在下での培養と比べて、NSCからSKPsへの分化誘導効率の上昇が認められた。
【0088】
(2)マーカー遺伝子の発現
(1)で分化誘導された細胞におけるマーカー遺伝子の発現を調べた。パールカン修飾ラミニンフラグメント(P-LM111E8)存在下で分化誘導した細胞について、分化誘導後かつ継代培養前(iPS-SKPs P0)、及び継代培養後(iPS-SKPs P1)における表3に示すマーカー遺伝子の発現をPCR法により調べた。表3に示すマーカーのうち、Nestin遺伝子、Slug遺伝子、Sox9遺伝子、Dermo-1遺伝子、BMP-4遺伝子、及びWnt-5a遺伝子はSKPsマーカーであり(Nat Cell Biol, 2004, 6:1082-1093, Stem Cell, 2005, 23,:727-737)、Versican遺伝子及びCD133遺伝子は毛乳頭細胞マーカーである(J Dermatol Sci,39, 2005, 147-154)。GAPDH遺伝子はコントロールとして用いた。
【0089】
細胞サンプルからRNeasy Mini kit(QIAGEN社製、カタログ番号:74104)を用いて全RNAを抽出した。抽出した全RNAの濃度を測定し、一定量の全RNAを用いてHigh capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems社製、カタログ番号:4387406)により逆転写反応を行った。得られたcDNAサンプル1μLを鋳型とし、表3に示すプライマーセットを用いて、50μLの系でPCR反応を行った。酵素はKOD-Plus-Ver.2(TOYOBO社製、カタログ番号:KOD-211)を用いた。PCRは[94℃、2min→(98℃、10秒;63℃、30秒;68℃、30秒)×25~35サイクル]の反応プロトコールで実施した。反応液5μLを1.5%アガロースゲル(タカラバイオ社製、カタログ番号:50071)/TBEバッファー(関東化学社製、カタログ番号:46510-78)を用いて100Vで電気泳動した。
【0090】
【表3】
【0091】
電気泳動の結果を図3に示す。図3に示すように、分化誘導後の細胞にSKPsマーカー遺伝子の発現が検出された。これらのSKPsマーカーのほとんどが、P0とP1で発現が変わらないか、又はP1で発現が増加していた。したがって、(1)で分化誘導された細胞がSKPsであることが確認された。
【0092】
(3)マーカータンパク質の発現
(1)で分化誘導された細胞におけるマーカータンパク質の発現を調べた。パールカン修飾ラミニンフラグメント(P-LM111E8)存在下で分化誘導した継代培養後の細胞(iPS-SKPs P1)について、実施例2(4)と同様の手順で、SKPsに特有のマーカータンパク質(ネスチン、フィブロネクチン及びαSMA)の発現を免疫組織蛍光染色により調べた。用いた1次抗体及び2次抗体は表4のとおりであった。
【0093】
【表4】
【0094】
結果を図4に示す。ここで、図4(A)、(B)及び(C)は、それぞれネスチン、フィブロネクチン及びαSMAの発現を示す蛍光顕微鏡写真である。図4に示すように、継代培養後の細胞のほぼ全てでSKPsに特有のマーカータンパク質の発現が認められた。したがって、(1)で分化誘導された細胞がSKPsであることが確認された。
【0095】
実施例4 SKPsから組織細胞への分化誘導
実施例3で得られたパールカン修飾ラミニンフラグメント(P-LM111E8)存在下で分化誘導した継代培養後のSKPsについて、組織細胞への分化誘導能を調べた。
【0096】
(1)脂肪細胞への分化の誘導
継代培養後のSKPsを、3×105cellsで35mm径ディッシュに播種した。24時間培養後、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:I7018、0.45nM)、インスリン(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:I3536、2.07μM)、デキサメタゾン(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:D4902、100nM)、ウサギ血清(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:R4505、15%)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、100U、100μg/mL)を含むMEM培地(Life Technologies社製、カタログ番号:42360-032)に交換し、さらに2週間培養した。その後、Oil Red O staining Kit(ScienCell Research Laboratories社製、カタログ番号:0843)を用い、添付のプロトコールに従って、細胞のOil Red O染色を行った。
【0097】
(2)骨細胞への分化の誘導
継代培養後のSKPsを3×105cellsで35mm径ディッシュに播種した。24時間培養後、デキサメタゾン(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:D4902、100nM)、β-glycerophosphate(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:G9422、10mM)、L-Ascorbic acid-2-phosphate(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:A8960、50μM)、ウシ血清(Hyclone社製、カタログ番号:SH30070.03、10質量%)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122、100U、100μg/mL)を含むMEM培地(Life Technologies社製、カタログ番号:42360-032)に交換し、さらに2週間培養した。その後、Alkaline Phosphatasee Substrate Kit(Vector Laboratories社製、カタログ番号:SK-5300)を用い、添付のプロトコールに従って、細胞のアルカリフォスファターゼ染色を行った。
【0098】
(3)シュワン細胞への分化の誘導
継代培養後のSKPsを、SKPs培養用培地〔2% B-27(商標)サプリメント(Life Technologies社製、カタログ番号:17504-044)、20ng/mL EGF(R&D Systems社製、カタログ番号:336-EG-200)、40ng/mL bFGF(Wako社製、カタログ番号:064-04541)、50Uペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン(Life Technologies社製、カタログ番号:15140-122)を含むDMEM/F12培地(Life Technologies社製、カタログ番号:10565-018)〕を用い、予め25倍希釈したラミニン111(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:L4544)及び0.1mg/mL Poly-L-lysine(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:P4707)でコーティングした培養皿(35mm径ディッシュ)に、4.8×104cellsで播種した。24時間培養後、5μM Forskoline(Sigma Aldrich社製、カタログ番号:F3917)、50ng/mL Heregulin-1β(Peprotech社製、カタログ番号:100-03)、2% N2サプリメント(Life Technologies社製、カタログ番号:17502-048)、1%ウシ血清(Hyclone社製、カタログ番号:SH30070.03E)を含むDMEM/F12培地(Life Technologies社製、カタログ番号:10565-018)に交換し、さらに2~3週間培養した。培養中、培地は2~3日に1回交換した。得られた細胞をD-PBS(-)で洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した。固定した細胞をD-PBS(-)で洗浄後、0.5% Triton X-100のPBS溶液で5分間処理し、再びD-PBS(-)で洗浄後、10%ヤギ血清(ニチレイ社製、カタログ番号:426041)にて室温で1時間ブロッキングした。次いで、1次抗体(抗S100β抗体、Sigma Aldrich社製、カタログ番号:S2532、室温、2時間)、及び2次抗体(Alexa Fluor 488 goat anti-mouse IgG(H+L)、Life Technologies社製、カタログ番号:A11029、室温、1時間)で細胞を処理した。その後、DAPI(DOJINDO社製、カタログ番号:FK045)で核を染色後、フルオロマウントG(Southern Biotech社製、カタログ番号:0100-01)に包埋し、シュワン細胞に特有のマーカータンパク質(S100β)の発現を蛍光顕微鏡下で観察した。
【0099】
(4)顕微鏡観察
染色した細胞の顕微鏡観察像を図5に示す。図5(A)では、細胞中に染色された脂質が観察され、SKPsが脂肪細胞に分化したことが示された。図5(B)では、アルカリフォスファターゼ陽性細胞が認められ、SKPsが骨細胞に分化したことが示された。図5(C)では、S100β陽性細胞が認められ、SKPsがシュワン細胞に分化したことが示された。したがって、実施例3で得られた細胞が、脂肪細胞、骨細胞、及びシュワン細胞などのグリア細胞に分化可能なSKPsであることが確認された。
【0100】
実施例5 ゼノフリー条件でのSKPsの作製
実施例2の(1)~(3)と同様の手順のゼノフリー条件下で、iPS細胞からNCS細胞を調製し、得られたNCS細胞からSKPsを分化誘導した。ゼノフリー試薬としては、noggin(SIGMA社製、カタログ番号:H66416-10UG、500ng/mL)、B-27(商標)サプリメント XenoFree CTS(Life Technologies社製、カタログ番号:A14867-01、2質量%)、EGF(ヒゲタ醤油社製、カタログ番号:REG100UG、20ng/mL)、bFGF(ReproCell社製、カタログ番号:RCHEOT005,006、40ng/mL)を用いた。SKPsへの分化誘導培地におけるCHIR99021の濃度は3μMとした。SKPsへの分化誘導の培養期間は4日間とした。iPS細胞の維持培養、NCS細胞への分化誘導、及びSKPsへの分化誘導における足場用のラミニンフラグメントとしては、LM111E8、LM511E8、ならびにパールカン修飾ラミニンフラグメント P-LM111E8、及びP-LM511E8(いずれも実施例1記載の手順で事前にディッシュにコーティングした)を用いた。
【0101】
得られたNCS細胞からSKPsへの分化誘導を示す顕微鏡写真を図6に示す。iPS-NCS(図6上)は分化誘導の開始直後の細胞の顕微鏡写真を示し、iPS-SKPs P0(図6中)は分化誘導4日後(継代前)の細胞の顕微鏡写真を示し、iPS-SKPs P1(図6下)は継代培養後の細胞の顕微鏡写真を示す(全て倍率:40倍)。図6に示すように、ラミニンフラグメント及びパールカン修飾ラミニンフラグメントの存在下では、ゼノフリー条件においてもSKPsへの分化が可能であった。
【0102】
実施例6 ヒトiPS細胞由来神経堤幹(NCS)細胞の同定
実施例2の(1)~(2)の手順で得られたラミニンフラグメント及びパールカン修飾ラミニンフラグメント(LM111E8及びP-LM111E8)存在下で分化誘導したNCSの性質を調べた。実施例2(2)の手順によるNCS細胞への分化培養の直前(分化0日、0d)から8日培養後(8d)までの細胞を用いて、実施例3(2)と同様の手順で、cDNAサンプル2μLを鋳型とし、表5に示すプライマー及びプローブを用いて、20μLの系でPCR反応を行った。PCRにはTaqman Fast Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems社製、カタログ番号:4352042)を用いた。NCSへの分化の指標としては神経成長因子受容体(Nerve Growth Factor Receptor:p75)の遺伝子発現を検出した。内部標準としてRPLP0を用いた。遺伝子発現の変化は、内部標準で標準化した発現量に基づいて、分化0日(0d)での各遺伝子の発現量を1とした場合の相対的な発現量として示した。
【0103】
【表5】
【0104】
結果を図7に示す。分化誘導が進むに従い、NCS細胞のマーカー遺伝子であるp75の発現上昇が認められた。従って、ラミニンフラグメント及び修飾ラミニンフラグメント上においてNCS細胞への分化誘導が可能であることが分かった。
【0105】
実施例7 ラミニンフラグメント存在下でのSKPsの分化誘導率
実施例3(1)と同様の手順でSKPsを分化誘導した。足場用のラミニンフラグメントとしては、ラミニンフラグメントとして、LM111E8、LM121E8、LM332E8、LM421E8、LM511E8、及びLM521E8、ならびに、パールカン修飾ラミニンフラグメントとして、P-LM111E8、P-LM121E8、P-LM332E8、P-LM421E8、P-LM511E8、及びP-LM521E8を用いた。分化誘導したSKPs(継代培養前:iPS-SKPs P0)を、同希釈率で48ウェルプレートに継代した(iPS-SKPs P1)。継代培養は、ラミニンフラグメント足場なしで行った。継代3日後の培養物の細胞数を、Cell Counting Kit-8(DOJINDO LABORATORIES、カタログ番号:347-07621)を用いて測定した。培養物にキットの試薬溶液を加え、37℃、5%CO2のインキュベーターで一定時間(1~3時間)培養した後、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定することで、培養物の呼吸活性(生細胞数)を評価した。
【0106】
結果を図8に示す。いずれの種類のラミニンフラグメントにおいても、非修飾フラグメントと比較して、パールカン修飾ラミニンフラグメントを用いた場合、分化誘導された細胞数が統計学的に有意に多かった(t検定、P < 0.0005)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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