IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許7285532芳香族ポリエーテルケトン基材の表面改質方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】芳香族ポリエーテルケトン基材の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20230526BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C08J7/04 B CEZ
C08J7/00 303
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018084817
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019099786
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017227906
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 医療分野研究成果展開事業、戦略的イノベーション創出推進プログラム、研究題目「マテリアル光科学の創成を基盤とする超バイオ機能表面構築技術の開拓」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彦
(72)【発明者】
【氏名】深澤 今日子
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127551(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074238(WO,A1)
【文献】特開2010-059346(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003822(WO,A1)
【文献】特開2017-213218(JP,A)
【文献】特開平06-025450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00- 7/18
B29C 71/04
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマーを塗布し、これに250nm~480nmの波長で光照射することを特徴とする芳香族ポリエーテルケトン基材の表面改質方法であって、
炭化水素系ポリマーが、次式(1):
【化1】
[式中、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化2】
で示される基を表し、Rは、単結合、又は置換基を有していてもよいフェニル基、若しくは-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、次式(12):
【化3】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し(但し、a+b≧2である。)、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。 ]
で示されるもの、
次式(2):
【化4】
[式中、X、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、R、R、R及びRは前記と同様であり、Rはフェニルボロン酸、フェニルスルホン酸基、ペンタフルオロフェニル基、アミノフェニル基及びニトロフェニル基から選ばれる置換芳香環、又は次式(24):
【化5】
(式中、R51は、単結合、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、R52は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、又はグリシジル基を表す。)で示される基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表し(但し、a+b+c≧2である。)、Xを含む構造単位、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]で示されるもの、
次式(3):
【化6】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、pは2以上の整数を表す。)で示されるもの、又はセグメント化ポリウレタン若しくはポリイソブチレンである、前記方法。
【請求項2】
芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマーを塗布し、これに250nm~480nmの波長で光照射することを特徴とする、芳香族ポリエーテルケトン基材と炭化水素系ポリマーとのポリマー複合体の製造方法であって、
炭化水素系ポリマーが、次式(1):
【化7】
[式中、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化8】
で示される基を表し、Rは、単結合、又は置換基を有していてもよいフェニル基、若しくは-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、次式(12):
【化9】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し(但し、a+b≧2である。)、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。 ]
で示されるもの、
次式(2):
【化10】
[式中、X、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、R、R、R及びRは前記と同様であり、Rはフェニルボロン酸、フェニルスルホン酸基、ペンタフルオロフェニル基、アミノフェニル基及びニトロフェニル基から選ばれる置換芳香環、又は次式(24):
【化11】
(式中、R51は、単結合、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、R52は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、又はグリシジル基を表す。)で示される基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表し(但し、a+b+c≧2である。)、Xを含む構造単位、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]で示されるもの、
次式(3):
【化12】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、pは2以上の整数を表す。)で示されるもの、又はセグメント化ポリウレタン若しくはポリイソブチレンである、前記方法。
【請求項3】
芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン又はポリエーテルエーテルケトンエーテルケトンケトンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトンである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
を含む構造単位が、次式(13):
【化13】
(式中、R21は 水酸基、炭素数1~20の炭化水素基、又は次式(11):
【化14】
で示される基を表す。)で示されるもの、又は次式(13-2):
【化15】
で示されるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
を含む構造単位が、次式(21):
【化16】
(R40は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、又は次式(12):
【化17】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基を表す。)、
次式(22):
【化18】
次式(23):
【化19】
で示されるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマー薄膜が水素引き抜き反応に基づく共有結合で固定化されたポリマー複合体であって、
炭化水素系ポリマーが、次式(1):
【化20】
[式中、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化21】
で示される基を表し、Rは、単結合、又は置換基を有していてもよいフェニル基、若しくは-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、次式(12):
【化22】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し(但し、a+b≧2である。)、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。 ]
で示されるもの、
次式(2):
【化23】
[式中、X、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、R、R、R及びRは前記と同様であり、Rはフェニルボロン酸、フェニルスルホン酸基、ペンタフルオロフェニル基、アミノフェニル基及びニトロフェニル基から選ばれる置換芳香環、又は次式(24):
【化24】
(式中、R51は、単結合、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、R52は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、又はグリシジル基を表す。)で示される基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表し(但し、a+b+c≧2である。)、Xを含む構造単位、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]で示されるもの、
次式(3):
【化25】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、pは2以上の整数を表す。)で示されるもの、又はセグメント化ポリウレタン若しくはポリイソブチレンである、前記複合体。
【請求項8】
芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン又はポリエーテルエーテルケトンエーテルケトンケトンである請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトンである請求項7に記載の複合体。
【請求項10】
を含む構造単位が、次式(13):
【化26】
(式中、R21は 水酸基、炭素数1~20の炭化水素基、又は次式(11):
【化27】
で示される基を表す。)で示されるもの、又は次式(13-2):
【化28】
で示されるものである請求項7に記載の複合体。
【請求項11】
を含む構造単位が、次式(21):
【化29】
(R40は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、又は次式(12):
【化30】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基を表す。)、
次式(22):
【化31】
次式(23):
【化32】
で示されるものである請求項7に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエーテルケトン基材の表面を他のポリマーで光固定して当該基材の表面を改質する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーエンジニアリングプラスチックの一つである芳香族ポリエーテルケトン(以下「ポリアリールエーテルケトン」又は「PAEK」ともいう)は、十分な機械的強度を有し、化学薬品などに対して安定なために、その加工性の容易さと相成り金属材料を代替する素材として期待されている。
一方、表面に官能基を導入して、表面機能化を行う際には、化学的安定性のために、強酸による酸化処理やプラズマ照射やコロナ放電などの高エネルギー処理が不可欠となっており、導入される官能基にも制限があった。
最近、表面に重合性化合物をグラフト重合する方法が報告されているが(WO2010/58848)、反応系からの酸素の除去や重合性化合物の精製などのプロセスが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2010/58848号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリアリルエーテルケトン基材の表面に他のポリマーを化学結合させ固定することによる表面改質方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)基材の表面に炭化水素系ポリマー薄膜を成形し、これに光照射することでPAEK基材の表面を改質し得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマーを塗布し、これに光照射することを特徴とする芳香族ポリエーテルケトン基材の表面改質方法。
(2)芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマーを塗布し、これに光照射することを特徴とする、芳香族ポリエーテルケトン基材と炭化水素系ポリマーとのポリマー複合体の製造方法。
(3)芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン又はポリエーテルエーテルケトンエーテルケトンケトンである(1)又は(2)に記載の方法。
(4)芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトンである(1)又は(2)に記載の方法。
【0007】
(5)炭化水素系ポリマーが、次式(1):
【化1】
[式中、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化2】
で示される基を表し、Rは、単結合、又は置換基を有していてもよいフェニル基、若しくは-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、次式(12):
【化3】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し(但し、a+b≧2である。)、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。 ]
で示されるもの、
次式(2):
【化4】
[式中、X、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、R、R、R及びRは前記と同様であり、Rはフェニルボロン酸、フェニルスルホン酸基、ペンタフルオロフェニル基、アミノフェニル基、ニトロフェニル基などの置換芳香環、又は次式(24):
【化5】
(式中、R51は、単結合、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、R52は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、又はグリシジル基を表す。)で示される基を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表し(但し、a+b+c≧2である。)、Xを含む構造単位、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]で示されるもの、
次式(3):
【化6】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、pは2以上の整数を表す。)で示されるもの、又はセグメント化ポリウレタン若しくはポリイソブチレンである、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)Xを含む構造単位が、次式(13):
【化7】
(式中、R21は 水酸基、炭素数1~20の炭化水素基、又は次式(11):
【化8】
(11)
で示される基を表す。)で示されるもの、又は次式(13-2):
【化9】
で示されるものである(5)に記載の方法。
(7)Xを含む構造単位が、次式(21):
【化10】
(R40は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、又は次式(12):
【化11】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基を表す。)、
次式(22):
【化12】
次式(23):
【化13】
で示されるものである(5)又は(6)に記載の方法。
(8)芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマー薄膜が形成されたポリマー複合体。
(9)芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン又はポリエーテルエーテルケトンエーテルケトンケトンである(8)に記載の複合体。
(10)芳香族ポリエーテルケトンが、ポリエーテルエーテルケトンである(8)に記載の複合体。
(11)炭化水素系ポリマーが、次式(1):
【化14】
[式中、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化15】
で示される基を表し、Rは、単結合、又は置換基を有していてもよいフェニル基、若しくは-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、次式(12):
【化16】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し(但し、a+b≧2である。)、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]
で示されるもの、
次式(2):
【化17】
[式中、X、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、R、R、R及びRは前記と同様であり、Rはフェニルボロン酸、フェニルスルホン酸基、ペンタフルオロフェニル基、アミノフェニル基、ニトロフェニル基などの置換芳香環、又は次式(24):
【化18】
(式中、R51は、単結合、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、R52は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、又はグリシジル基を表す。)で示される基を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表し(但し、a+b+c≧2である。)、Xを含む構造単位、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]で示されるもの、
次式(3):
【化19】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、pは2以上の整数を表す。)で示されるもの、又はセグメント化ポリウレタン若しくはポリイソブチレンである、(8)~(10)のいずれか1項に記載の複合体。
(12)Xを含む構造単位が、次式(13):
【化20】
(式中、R21は 水酸基、炭素数1~20の炭化水素基、又は次式(11):
【化21】
で示される基を表す。)で示されるもの、又は次式(13-2):
【化22】
で示されるものである(11)に記載の複合体。
(13)Xを含む構造単位が、次式(21):
【化23】
(R40は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、又は次式(12):
【化24】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基を表す。)、
次式(22):
【化25】
次式(23):
【化26】
で示されるものである(11)又は(12)に記載の複合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、PEAKの表面処理方法が提供される。本発明の方法によれば、PAEKの機械的特性と化学的安定性を担保しながら、表面に形成される炭化水素系ポリマーの表面特性を有する新規複合材が提供される。その結果、PAEKの機能材料としての応用範囲を飛躍的に高めることができるほか、従来の方法よりも簡便な方法であるため成形加工した後においても本発明の表面処理法により基材を機能化させることができる。表面に形成される炭化水素系ポリマーは官能基を担持させることも容易であるため、本発明の方法は、PAEKに高密度で特定の官能基を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】Captive bubble法の概略図である。
図2】各種ポリマーで表面処理後の濡れ特性を示す図である。
図3】ポリマー未処理のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図4】光照射を行なった後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図5】2-メタクリロイルオキシエチルホスプリルコリン(以下MPC)とn-ブチルメタクリレート(以下BMA)との共重合体(PMB30)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図6】MPCとBMAとの共重合体(PMB80)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図7】ポリメタクリル酸メチル(以下PMMA)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図8】ポリビニルピロリドン(以下PVPy)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図9】MPCとn-ステアリルメタクリレート(以下SMA)との共重合体(PMS90)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図10】ポリ(BMA)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図11】MPCとn-ドデシルメタクリレート(以下DMA)との共重合体 (PMD70)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図12】MPCと2-エチルヘキシルメタクリレート(以下EHMA)との共重合体 (PMEH30)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図13】ポリスチレン(以下PS)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。。
図14】MPCと2-ブチルウレタンエチルメタクリレート(以下MEBU)との共重合体(PMBU30)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図15】セグメント化ポリウレタン(以下SPU)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図16】細胞の接着挙動を示す図である。
図17】各種ポリマーのIRスペクトルを示す図である。
図18】各種ポリマーで表面処理した後の濡れ特性を示す図である。
図19】n-ブチルメタクリレート(BMA)とメタクリル酸(MA)の共重合体 (PBMA) で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図20】n-ブチルメタクリレート(BMA)とグリシジルメタクリレート(GMA)の共重合体 (PBGMA)で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図21】n-ブチルメタクリレート(BMA)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の共重合体 (PBHEMA) で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図22】n-ブチルメタクリレート(BMA)と3-メタクリロイルオキシプロピルトリトトキシシラン (TMSPMA)の共重合体 (PBTMSPMA) で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
図23】n-ブチルメタクリレート(BMA)とN-スクシンイミジルメタクリレート(NHS-MA)の共重合体 (PB) で表面処理した後のPEEK基板表面をXPS測定により分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマーを塗布し、これに光照射することを特徴とする芳香族ポリエーテルケトン基材の表面改質方法等に関する。本発明は、炭化水素系ポリマー化合物の薄膜を芳香族ポリエーテルケトン基材表面に化学的に固定するというものであり、光反応を利用することにより実施できる。本発明によれば、芳香族ポリエーテルケトンの機械的特性を活かしたまま、簡便かつ安全な方法で芳香族ポリエーテルケトンの表面を機能化させることができる。
【0011】
本発明の一態様では、表面に塗布するためのポリマーを、芳香族ポリエーテルケトンを十分に濡らす溶媒に溶解し、この溶液を芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に塗布する工程、その後溶媒を揮散させることで薄膜を形成する工程、及びその表面に光照射する工程を含む。光照射により、ポリマー薄膜は芳香族ポリエーテルケトンの表面に共有結合で固定化される。これにより、芳香族ポリエーテルケトンの表面が、修飾したポリマーの特性に変わるため、親水性、接着性、潤滑性などの、芳香族ポリエーテルケトン基材のみでは得られない特徴が生じる。
【0012】
1.芳香族ポリエーテルケトン基材
本発明において使用される芳香族ポリエーテルケトン基材は、スーパーエンジニアリングに使用されているものであり、その種類に限定されるものではない。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン又はポリエーテルエーテルケトンエーテルケトンケトンなどが挙げられるが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が好ましい。
【0013】
2.炭化水素系ポリマー
本発明において使用される炭化水素系ポリマーは、炭化水素基を有する限り特に限定されるものではない。ポリマー薄膜が芳香族ポリエーテルケトンの表面に共有結合する原理は、光照射により炭化水素系ポリマーからラジカルが生じ、相手側(芳香族ポリエーテルケトン基材)の水素を引き抜くことで共有結合するというものである。この原理を利用できる限り炭化水素系ポリマーの種類は限定されず、任意に選択することができる。炭化水素系ポリマーは、一元系、二元系、三元系などいずれのものでもよい。
【0014】
本発明の一態様では、炭化水素系ポリマーとして以下のものを例示することができる。
<式(1)に示すポリマー>
次式(1):
【化27】
[式中、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化28】
で示される基を表し、Rは、単結合、又は置換基を有していてもよいフェニル基、若しくは-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、グリシジル基、次式(12):
【化29】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表し、mは、2~20の整数を表し、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し(但し、a+b≧2である。)、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。]
で示されるポリマー。
【0015】
式(1)において、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表す。X及びXは、例えば、ビニル系モノマー残基、アセチレン系モノマー残基、エステル系モノマー残基、アミド系モノマー残基、エーテル系モノマー残基及びウレタン系モノマー残基等が挙げられ、これらの中でも、ビニル系モノマー残基(例えばプロピレン系主鎖)が好ましい。また、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位は、ランダムな順序で結合している。
【0016】
は、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、好ましくは-C(O)O-で示される基である。
【0017】
は、水素原子、水酸基、又は次式(11):
【化30】
で示される基を表し、好ましくは上記(11)で示される基である。
また本発明においては、例えばRが-C(O)O-で示される基、Rが水素原子であり、mが4である。
【0018】
は、単結合でもよく、あるいは、置換基を有していてもよいフェニル基、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基である。
【0019】
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、又は置換基を有していてもよい複素環式官能基であり、複素環式官能基としては、例えばピロリドン基、スクシンイミジル基、フラン環、ピリジン環、モルホリン環、エポキシ環、プリン環、ピリミジン環などが挙げられる。
またRは、次式(12):
【化31】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基、又は炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基を表すものが挙げられる。
【0020】
mは、2~20の整数を表し、好ましくは2~10である。
a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表すが、a+b≧2である。従って、例えばXを含む構造単位がないとき(a=0のとき)は、Xを含む構造単位が2以上のポリマーとなる。
【0021】
式(1)において、Xを含む構造単位の具体例としては、限定はされないが、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-(2-メタクリルアミド)エチルホスホリルコリン、4-メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6-メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10-メタクリロイルオキシデシルシルホスホリルコリン、4-スチリルオキシブチルホスホリルコリン、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート、2ートリメチルアンモニウムエチルメタクリレート、3-カルボキシプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート等に由来する構造単位が好ましく挙げられる。
【0022】
<式(2)に示すポリマー>
次式(2):
【化32】
【0023】
式(2)において、X、X及びXは、それぞれ独立して、重合した状態の重合性原子団を表す。X及びXは前記と同様である。Xも、X及びXと同様にビニル系モノマー残基、アセチレン系モノマー残基、エステル系モノマー残基、アミド系モノマー残基、エーテル系モノマー残基及びウレタン系モノマー残基等が挙げられる。
、R、R及びRは前記と同様である。
はフェニルボロン酸、フェニルスルホン酸基、ペンタフルオロフェニル基、アミノフェニル基、ニトロフェニル基などの置換芳香環を表す。RはPEEK表面への反応には無関係な官能基を採用することができ、例えばイオン交換機能、超撥水機能、生体分子固定化機能などを有する官能基である。
また、Rは、上記置換芳香環以外にも、次式(24):
【化33】
で示される基とすることもできる。
式(24)において、R51は、単結合、又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-CONH-若しくは-NHCOO-で示される基を表す。
52は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環式官能基、又はグリシジル基を表す。
a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表し(但し、a+b+c≧2である。)、Xを含む構造単位、Xを含む構造単位及びXを含む構造単位はランダムな順序で結合している。
a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表す。但し、a+b+c≧2である。
【0024】
<式(3)に示すポリマー>
次式(3):
【化34】
(式中、R11及びR12は、それぞれ独立して炭素数1~20の炭化水素基を表し、pは2以上の整数を表す。)で示されるポリマー。
【0025】
<その他のポリマー>
本発明においては、上記ポリマーのほか、セグメント化ポリウレタン、ポリイソブチレンなども使用することができる。
【0026】
<炭化水素基、置換基等について>
【0027】
炭化水素基は、飽和又は不飽和の非環式又は環式であるが、飽和の非環式であることが好ましい。炭化水素基が非環式の場合には、直鎖状でも分岐状でもよい。炭化水素基には、炭素数1~20(「C1-20」と表記する。他の炭素数の場合も同様。)アルキル基、C2-20アルケニル基、C2-20アルキニル基、C4-20アルキルジエニル基、C6-18アリール基、C7-20アルキルアリール基、C7-20アリールアルキル基、C3-20シクロアルキル基、C3-20シクロアルケニル基、C1-20アルコキシ基、C6-20アリールオキシ基、C7-20アルキルアリールオキシ基、C2-20アルコキシカルボニル基などが含まれる。
【0028】
1-6アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
1-20アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
2-20アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基、2-ブテニル基等が挙げられる。
【0029】
2-20アルキニル基としては、例えばエチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
4-20アルキルジエニル基としては、例えば1,3-ブタジエニル基等が挙げられる。
6-18アリール基としては、例えばフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0030】
7-20アルキルアリール基としては、例えばo-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,3-キシリル基、2,5-キシリル基、o-クメニル基、m-クメニル基、p-クメニル基、メシチル基等が挙げられる。
7-20アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、トリメチルベンジル基、エチルベンジル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基、ジエチルベンジル基等が挙げられる。
【0031】
3-20シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
3-20シクロアルケニル基としては、例えばシクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
1-20アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
6-20アリールオキシ基としては、例えばフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ビフェニルオキシ基等が挙げられる。
7-20アルキルアリールオキシ基としては、例えばメチルフェニルオキシ基、エチルフェニルオキシ基、プロピルフェニルオキシ基、ブチルフェニルオキシ基、ジメチルフェニルオキシ基、ジエチルフェニルオキシ基、ジプロピルフェニルオキシ基、ジブチルフェニルオキシ基、メチルエチルフェニルオキシ基、メチルプロピルフェニルオキシ基、エチルプロピルフェニルオキシ基等が挙げられる。
【0033】
2-20アルコキシカルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2‐メトキシカルボニル基、t‐ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0034】
、R、R及びRにおける置換基の具体例としては、例えば、ハロゲン原子(F,Cl,Br,I)、水酸基、チオール基、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、シリル基、トリメチルシリル基、トリメトキシシリル基、メタンスルホニル基、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-8シクロアルキル基、C6-10アリール基、C1-6アルコキシ基、C1-7アシル基又はC2-7アルコキシカルボニル基などを挙げることができる。
【0035】
及びRは同一であっても、異なっていてもよい。重合反応性の点では同一であることが、得られる共重合体のモノマーユニット組成を制御する観点から好ましい。
式(1)で示されるポリマーにおいて、a及びbは、それぞれ独立して、0又は1以上の整数であればよいが(但し、a+b≧2である。)、ここで、b/(a+b)の値は0.01~1.0であり、好ましくは0.05~1.0、さらに好ましくは0.1~1.0である。
【0036】
式(2)で示されるポリマーにおいて、a、b及びcはそれぞれ独立しており、a及びbは0又は1以上の整数を表し、cは1以上の整数を表す(但し、a+b+c≧2である。)。本発明においては、bの部分が全体の反応性を決定し、b/(a+b+c)の値は0.01~1.0であり、好ましくは0.05~1.0、さらに好ましくは0.1~1.0である。
【0037】
上記式(1)及び(2)で示されるポリマーの重量平均分子量は、限定はされないが、例えば分子量の範囲は、1000から500000であり、好ましくは10000から100000である。1000未満では、光反応する前の基材への被覆性が悪いために、表面被覆が完全になされない可能性がある。また500000よりも大きいときは、ポリマー溶液の粘性が高くなりすぎて被覆が困難になる。
【0038】
式(1)及び式(2)で示されるポリマーの合成については、モノマー化合物の調製及びそれらの重合を含め、基本的には、当業者の技術水準に基づき、常法により行うことができる。
【0039】
<炭化水素系ポリマーの具体例>
ここで、Xを含む構造単位としては、次式(13):
【化35】
(式中、R21は 水酸基、炭素数1~20の炭化水素基、又は次式(11):
【化36】
で示される基を表す。)で示されるもの、又は次式(13-2):
【化37】
で示されるものが挙げられる。
【0040】
また、Xを含む構造単位としては、次式(21):
【化38】
(R40は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環式官能基 、グリシジル基、又は又は次式(12):
【化39】
(式中、R41及びR42は、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)で示される基を表す。)、
次式(22):
【化40】
次式(23):
【化41】
で示されるものが挙げられる。
さらに詳しくは、実施例に記載のポリマーを挙げることができる。
【0041】
3.表面改質方法及び複合体の製造方法
本発明の方法は、前記の通り、芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマーを塗布し、これに光照射することを特徴とする。
塗布工程においては、前記炭化水素系ポリマーを主要成分として含む溶液を用いて行えばよい。本発明において使用可能な溶媒としては、炭化水素系ポリマーを溶解し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えばエタノール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0042】
光照射工程は、芳香族ポリエーテルケトン基材に塗布した炭化水素系ポリマー溶液が乾燥した後、光を照射すればよい。照射光としては、ラジカルを生じさせることができるものがよいため、紫外線(UV光)が好ましい。照射光の波長は250nm~480nmである。250nmより低波長の光ではエネルギーが高くPEEK基材表面を障害する危険性があり、一方、480nm以上では光エネルギーが弱いために、ポリマーの表面での反応効率が悪くなる。なお、適切な増感剤を利用して、波長領域を変更することも可能である。照射光の線量は、限定はされず、当業者の通常の技術常識に基づいて、適宜設定することができる。
【0043】
このようにして、芳香族ポリエーテルケトン基材の表面に炭化水素系ポリマー薄膜が形成されたポリマー複合体を得ることができる。
上記工程により、芳香族ポリエーテルケトン基材に塗布されたポリマーは、基材の表面を被覆して、芳香族ポリエーテルケトン基材の表面の特徴を改変する。
【0044】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
表面処理
表面処理には下記のポリマーを用いた。
1. 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とn-ブチルメタクリレート(BMA)の共重合体 (MPC/BMA=3/7)(PMB30)
日油(株)製品
【化42】
【0046】
2. MPCとBMAとの共重合体(MPC/BMA=8/2)(PMB80)
日油(株)製品
【化43】
【0047】
3. ポリメチルメタクリレート(PMMA)
市販品
【化44】
【0048】
4. ポリビニルピロリドン(PVPy)
市販品
【化45】
【0049】
5. MPCとステアリルメタクリレート(SMA)の共重合体(MPC/SMA=9/1)(PMS90)
ガラス製のアンプルに2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)およびn-ステアリルメタクリレート(SMA)をモル比90:10で秤量した。これに開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、溶媒としてエタノールを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて65℃にて5.5時間行なった。反応終了後、エーテル:クロロホルム=9:1の溶媒を用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥後、得られた粉末を蒸留水に再溶解し、48時間透析を行った後、凍結乾燥により白色粉末のPMSを得た。得られたPMSのモル分率はH-NMR測定の結果、MPC: 91 mol%, SMA: 9 mol%であった。収率は67%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により分子量を求めた結果、数平均分子量(Mn)は1.8 x 104、重量平均分子量(Mw)は6.1 x 104、多分散度は3.4であった。
【化46】
【0050】
6. ポリブチルメタクリレート(PBMA)
市販品
【化47】
【0051】
7. MPCとドデシルメタクリレート(DMA)の共重合体(MPC/DMA=7/3)(PMD70)
実施例1のSMAの代わりに、ドデシルメタクリレート(DMA)を用いて、MPCと共重合反応を行い、PMDを得た。ガラス製のアンプルにMPCおよびDMAをモル比80:20で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてエタノールを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて9.0時間行なった。反応終了後、エーテル:クロロホルム=9:1の溶媒を用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥後、得られた粉末を蒸留水に再溶解し、60時間透析を行った後、凍結乾燥により白色粉末のPMDを得た。得られたPMDのモル分率はH-NMR測定の結果、MPC: 88 mol%, DMA: 12 mol%であった。収率は64%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により分子量を求めた結果、数平均分子量(Mn)は2.7 x 104、重量平均分子量(Mw)は8.6 x 104、多分散度は3.1であった
【化48】
【0052】
8. MPCと2-エチルヘキシルメタクリレート(EHMA)の共重合体(MPC/EHMA=3/7)(PMEH)
実施例1のSMAの代わりに、2-エチルヘキシルメタクリレート(EHMA)を用いて、MPCと共重合反応を行い、PMEHを得た。ガラス製のアンプルにMPCおよびEHMAをモル比30:70で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてエタノールを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は1.0 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて12時間行なった。反応終了後、エーテル:クロロホルム=8:2の溶媒を用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。得られたPMEHのモル分率はH-NMR測定の結果、MPC: 33 mol%, EHMA: 67 mol%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により分子量を求めた結果、数平均分子量(Mn)は4.4 x 104、重量平均分子量(Mw)は1.2 x 105、多分散度は2.7であった。
【化49】
【0053】
9. ポリスチレン(PS)
市販品
【化50】
【0054】
10. MPCと2-(n-ブチルウレタン)エチルメタクリレート(MEBU)の共重合体(MPC/MEBU=3/7)(PMBU30)
実施例1のSMAの代わりに、2-(n-ブチルウレタン)エチルメタクリレート(MEBU)を用いて、MPCと共重合反応を行い、PMBUを得た。ガラス製のアンプルにMPCおよびMEBUをモル比30:70で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてエタノールを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は1.0 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて12時間行なった。反応終了後、エーテル:クロロホルム=8:2の溶媒を用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。得られたPMEHのモル分率はH-NMR測定の結果、MPC: 30 mol%, MEBU: 70 mol%であった。
【化51】
【0055】
11. セグメント化ポリウレタン(SPU)
市販品
【化52】
【0056】
12. MPCとBMAとp-ビニルフェニルボロン酸(VPBA)の共重合体(MPC/BMA/VPBA=6/2/2)(PMBV622)
実施例1のSMAの代わりに、n-ブチルメタクリレート(BMA)とp-ビニルフェニルボロン酸(VPBA)を用いて、MPCと共重合反応を行い、三元共重合体(PMBV)を得た。ガラス製のアンプルにMPC、BMAおよびVPBAをモル比60:20:20で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてエタノールを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.5 mol/L、開始剤濃度2.5 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて65℃にて6時間行なった。反応終了後、エーテル:クロロホルム=8:2の溶媒を用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥後、得られた粉末を蒸留水に再溶解し、48時間透析を行った後、凍結乾燥により白色粉末のPMBVを得た。得られたPMEHのモル分率はH-NMR測定の結果、MPC: 72 mol%, BMA: 11 mol%, VPBA: 17 mol%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により分子量を求めた結果、数平均分子量(Mn)は1.5 x 104、重量平均分子量(Mw)は9.1 x 105、多分散度は1.7であった。
【化53】
【0057】
1, 2, 4, 5, 7, 8, 10, 12はエタノール、3, 6, 9はテトラヒドロフラン、11はクロロホルムを溶媒として用いてポリマー濃度が0.50 wt%となるように溶液を調製した。
PEEK基板を各種ポリマー溶液に10秒間浸漬し、風乾した。その後、サンプルにUV光(波長:300~450 nm, 最大輝度:365 nm, 強度:18 mW)を30 分間照射した。未反応のポリマーを基板から除去するため、各ポリマーの溶解に利用した溶媒に浸漬し、一晩振とうさせながら洗浄した。
【実施例2】
【0058】
表面処理後の濡れ性の評価
図1に示すcaptive bubble法を用いて、水中における表面の濡れ性を評価した。水中における気泡の接触角(θ)を180°から引いた値を図2に示す。PEEK基板が80°程度であるのに対し、親水性のポリマーで処理した基板(No.1, 2, 5, 7, 8, 10)では0~40°の値を示した。
【実施例3】
【0059】
表面処理後の元素分析
各種ポリマーで表面処理した後のPEEK基板表面をX線光電子分光(XPS)測定により分析した。XPSのチャートを図3~15に示す。その結果、各種ポリマーに特有の元素ピークが確認された。
【実施例4】
【0060】
細胞接着を利用したポリマーの安定性評価
PMBV622 (No.12)の5.0 wt%エタノール溶液を調製し、PEEK基板にスピンコートした。乾燥後、サンプルの特定領域にのみUV光を15分間照射し、エタノール中で超音波洗浄を1分間行った。表面処理後のPEEK基板を直径35mmのディッシュにいれ、L929細胞(播種密度:105 cells/cm2)を37°Cで24時間培養した。
【0061】
L929の接着挙動を図16に示す。MPCポリマーで覆われた表面では、細胞の接着が抑制されることが知られている(K. Fukazawa, et al, ACS Applied Materials & Interfaces 8巻、36号、24949頁-24998頁、2016年)。超音波洗浄していない基板上では、UV光照射の有無にかかわらず細胞が接着しなかった。これは、PEEK表面がPMBVで覆われているためである。超音波洗浄した基板上では、UV光を照射していない領域にのみ細胞が接着した。UV光を照射していない領域では、超音波洗浄によりPMBVがPEEK基板から溶出し、未処理のPEEK表面が露出したためである。一方、UV光照射した領域では、細胞接着が抑制された。これは、PMBVがPEEK基板表面に光反応により共有結合で結合しているため、超音波洗浄後でも安定であることを示している。
【実施例5】
【0062】
表面処理
表面処理には下記のポリマーを用いた。
【0063】
1. n-ブチルメタクリレート(BMA)とメタクリル酸(MA)の共重合体 (PBMA)
ガラス製のアンプルにn-ブチルメタクリレート(BMA)およびメタクリル酸(MA)をモル比70:30で秤量した。これに開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて24時間行なった。反応終了後、n-ヘキサンを用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥により白色粉末のPBMAを得た。得られたPMBAのモル分率はH-NMR測定の結果、BMA: 81 mol%, MA: 19 mol%であった。
【化54】
【0064】
2. n-ブチルメタクリレート(BMA)とグリシジルメタクリレート(GMA)の共重合体 (PBGMA)
実施例5のMAの代わりに、グリシジルメタクリレート(GMA)を用いて、BMAと共重合反応を行い、PBGMAを得た。ガラス製のアンプルにBMAおよびGMAをモル比70:30で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて24時間行なった。反応終了後、メタノールを用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥により白色粉末のPBGMAを得た。得られたPBGMAのモル分率はH-NMR測定の結果、BMA: 71 mol%, GMA: 29 mol%であった。
【化55】
【0065】
3. n-ブチルメタクリレート(BMA)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の共重合体 (PBHEMA)
実施例5のMAの代わりに、2-ヒドロキシメタクリレート(HEMA)を用いて、BMAと共重合反応を行い、PBHEMAを得た。ガラス製のアンプルにBMAおよびHEMAをモル比70:30で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて24時間行なった。反応終了後、ヘキサンを用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥により白色粉末のPBHEMAを得た。得られたPBGMAのモル分率はH-NMR測定の結果、BMA: 70 mol%, HEMA: 30 mol%であった。
【化56】
【0066】
4. n-ブチルメタクリレート(BMA)と3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン (TMSPMA)の共重合体 (PBTMSPMA)
実施例5のMAの代わりに、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(TMSPMA)を用いて、BMAと共重合反応を行い、PBTMSPMAを得た。ガラス製のアンプルにBMAおよびTMSPMAをモル比70:30で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて24時間行なった。反応終了後、ヘキサンを用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥により白色粉末のPBTMSPMAを得た。得られたPBTMSPMAのモル分率はH-NMR測定の結果、BMA: 70 mol%, TMSPMA: 30 mol%であった。
【化57】
【0067】
5. n-ブチルメタクリレート(BMA)とN-スクシンイミジルメタクリレート(NHS-MA)の共重合体 (PB)
実施例5のMAの代わりに、N-スクシンイミジルメタクリレート(NHS-MA)を用いて、BMAと共重合反応を行い、PBNHS-MAを得た。ガラス製のアンプルにBMAおよびNHS-MAをモル比70:30で秤量した。これに開始剤としてAIBNを加え、溶媒としてテトラヒドロフランを用いて所定濃度に希釈した。この際、モノマー濃度は0.50 mol/L、開始剤濃度5.0 mmol/Lとした。十分に溶液中の酸素をアルゴンで除去後、アンプルを封管した。反応はシリコーンオイルバスを用いて60℃にて24時間行なった。反応終了後、メタノールを用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去した。減圧乾燥により白色粉末のPBNHS-MAを得た。得られたPBNHS-MAのモル分率はH-NMR測定の結果、BMA: 68 mol%, TMSPMA: 32 mol%であった。
【化58】
【0068】
上記ポリマーはテトラヒドロフランを用いてポリマー濃度が0.50 wt%となるように溶液を調製した。
PEEK基板を各種ポリマー溶液に10秒間浸漬し、風乾した。その後、サンプルにUV光(波長:300~450 nm, 最大輝度:365 nm, 強度:18 mW)を30 分間照射した。未反応のポリマーを基板から除去するため、各ポリマーの溶解に利用した溶媒に浸漬し、一晩振とうさせながら洗浄した。
【実施例6】
【0069】
ポリマーの構造解析
各種ポリマーの構造をFT-IR測定により分析した。図17にIRスペクトルを示す。全てのポリマーについて、メタクリル酸エステルのC=Oに由来するIR吸収が1720-1730 cm-1に確認できた。また、各種ポリマーに特徴的な官能基に由来するIR吸収が確認できた。これらのことは、この表面処理法によりPEEK基板にBMA系ポリマーが被覆されたことを示す。
【実施例7】
【0070】
表面処理後の濡れ性の評価
Captive bubble法を用いて水中における表面の濡れ性を評価した。水中における気泡の接触角(θ)を180°から引いた値を図18に示す。
表面の液滴の接触角は、界面に関わる様々な現象や機能を考える上で簡便で効果的なパラメーターとなる。これは、表面自由エネルギーと大きく関わり、表張力の異なる液滴の接触角を測定することで、液滴の表面張力との関連から臨界表面張力を得ることが可能であることを意味する。未処理PEEK表面の水接触角は85°となり、これは非常に疎水的な表面であることを示している。親水的な2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)ユニットを持つポリマー(PB-HEMA)では、表面の水接触角が72°へと低下することが認められた。
【0071】
これらの結果より、PEEK基板表面に簡便な方法で炭化水素系ポリマーを固定化できることがわかった。これに伴い、多様な官能基の導入が可能である。
【実施例8】
【0072】
表面処理後の元素分析
各種ポリマーで表面処理した後のPEEK基板表面をX線光電子分光(XPS)測定により分析した。XPSのチャートを図19~23に示す。各種ポリマーに特有の元素ピークが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23