(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】ゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物及び靴底用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 15/00 20060101AFI20230526BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230526BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230526BHJP
C08C 19/00 20060101ALI20230526BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230526BHJP
A43B 13/04 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L21/00
C08K3/36
C08C19/00
B60C1/00 Z
A43B13/04
(21)【出願番号】P 2021546969
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035409
(87)【国際公開番号】W WO2021054429
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019172170
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 慶和
(72)【発明者】
【氏名】神原 浩
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敦
(72)【発明者】
【氏名】高井 順矢
(72)【発明者】
【氏名】馬 昭明
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-135506(JP,A)
【文献】特開平01-297412(JP,A)
【文献】特開平11-029660(JP,A)
【文献】特開2002-012702(JP,A)
【文献】特開2019-002028(JP,A)
【文献】特開2018-115239(JP,A)
【文献】特開2010-126540(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041631(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/123163(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00、301/00
C08C 19/00-19/44
B60C 1/00-19/12
A43B 1/00-23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系分岐共重合体(A)を含有するゴム組成物であり、前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、1,4-結合で結合している共役ジエン単位の含量(1,4-結合含量)が異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントを2種以上含んでおり、1,4-結合含量が最も高い共役ジエン単位を含む重合体セグメント(α1)の1,4-結合含量モル% D
14(α1)と、
1,4-結合含量が最も低い共役ジエン単位を含む重合体セグメント(α2)の1,4-結合含量モル% D
14(α2)との差 Δ
14=D
14(α1)-D
14(α2)が、5モル%以上で
あり、
前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、分岐点を介して重合体セグメントの少なくとも一方の末端が結合したスター型ブロック共重合体であり、
前記スター型ブロック共重合体を構成する3以上の重合体セグメントのうち、1つ以上が重合体セグメント(α1)であり、1つ以上が重合体セグメント(α2)であるか、
前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、主鎖となる重合体セグメントの末端以外の部分に、直接又は間接的に分岐点が結合しており、その分岐点に直接又は間接的に側鎖が結合したグラフト共重合体であるか、主鎖となる重合体セグメントの末端以外の部分に、側鎖が直接結合したグラフト共重合体であり、
かつ以下の3つの態様のうちのいずれかであるグラフト共重合体である、ゴム組成物。
前記グラフト共重合体の主鎖が重合体セグメント(α1)であり、側鎖として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;
前記グラフト共重合体の主鎖が重合体セグメント(α2)であり、側鎖として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)を有する態様;または
前記グラフト共重合体の主鎖が重合体セグメント(α1)及び(α2)とは異なる重合体セグメントであり、側鎖として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)及び少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物を含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記共役ジエン系分岐共重合体(A)の共役ジエン単位を含む重合体セグメントが、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、及びミルセンからなる群より選ばれる少なくとも1種の共役ジエン単位を含む請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、共役ジエン単位を含む重合体セグメントの主鎖(a)に、分岐点を介して、主鎖の1,4-結合含量とは異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントの側鎖(b)を少なくとも1種以上有する共役ジエン系グラフト共重合体(A1)である、請求項2又は3に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の前記分岐点がSi、Sn、Ge、Pb、P、B、Alからなる群より選ばれるヘテロ原子1つからなる、請求項4に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の前記分岐点がSiである、請求項5に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの前記分岐点に直接結合する側鎖(b)の平均本数Wと共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの分岐点の平均個数Yが下記式(6);
0.5≦(W/Y) (6)
の関係を満たす、請求項4~6のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
固形ゴム(B)(ただし、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含まない)100質量部に対して、共役ジエン系分岐共重合体(A)を0.1~100質量部、シリカ(C1)を20~200質量部含有する請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のゴム組成物を含有する靴底用ゴム組成物。
【請求項10】
前記共役ジエン系分岐共重合体(A)の共役ジエン単位を含む重合体セグメントが、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、及びミルセンからなる群より選ばれる少なくとも1種の共役ジエン単位を含む請求項9に記載の靴底用ゴム組成物。
【請求項11】
前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、共役ジエン単位を含む重合体セグメントの主鎖(a)に、分岐点を介して、主鎖の1,4-結合含量とは異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントの側鎖(b)を少なくとも1種以上有する共役ジエン系グラフト共重合体(A1)である、請求項9又は10に記載の靴底用ゴム組成物。
【請求項12】
固形ゴム(B)(ただし、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含まない)、共役ジエン系分岐共重合体(A)及びフィラー(C)としてシリカ(C1)を含有する請求項9に記載の靴底用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共役ジエン系分岐共重合体を含むゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物及び靴底用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム組成物から得られる架橋物の物性を改善する目的で、共役ジエン単位を含む低分子量の重合体を添加することが検討されてきている。
タイヤ用ゴム組成物から得られるタイヤのアイスグリップ性能、靴底用ゴム組成物から得られる靴底の寒冷条件で使用する場合のアイスグリップ性能など、ゴム組成物又はその組成物から得られる架橋物を含む物品のアイスグリップ性能を高める手法としては、例えば、オイルを多量にゴム組成物に含有させ、前記物品のアイスグリップ性能を向上させる手法も知られている。しかし、この場合、破壊特性の低下により耐摩耗性が低下してしまう。
【0003】
上記問題を解決するために、低分子量スチレンブタジエン共重合体をタイヤ用ゴム組成物に用い得るゴム組成物に配合する手法が提案されている。しかし、このゴム組成物から得られるタイヤの耐摩耗性とアイスグリップ性能のバランスが充分ではなく、改善の余地がある。また、特許文献1には、軟化点が50℃以下のクマロン・インデン樹脂を含むゴム組成物が記載され、そのゴム組成物から得られるタイヤの氷上グリップ性能及び耐摩耗性をバランスよく改善できることが記載されている。特許文献2には、特定の結合スチレン量とビニル含量を有するスチレンブタジエンゴムと特定のシス-1,4-構造の含有量と重量平均分子量を有する低分子量ブタジエンゴムとシリカとを特定の配合の範囲で含有するゴム組成物が記載され、そのゴム組成物から得られるタイヤのアイスグリップ性能及びウェットグリップ性能を改善されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-139522号公報
【文献】特開2002-60549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記いずれの特許文献の場合も、タイヤ、靴底などのゴム組成物又はその組成物の架橋物を含む物品の耐摩耗性及びアイスグリップ性能の向上を両立させることは困難であった。
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、前記課題を解決し、タイヤ、靴底などのゴム組成物又はその組成物の架橋物を含む物品の耐摩耗性及びアイスグリップ性能の向上を両立できるゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物及び靴底用ゴム組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、鋭意検討を行った結果、特定の共役ジエン系分岐共重合体をゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に含有させることにより、その組成物又はその組成物から得られる架橋物から作製されたタイヤ、靴底などの物品では、耐摩耗性及びアイスグリップ性能の向上を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下〔1〕~〔12〕に関する。
【0007】
〔1〕共役ジエン系分岐共重合体(A)を含有するゴム組成物であり、前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、1,4-結合で結合している共役ジエン単位の含量(1,4-結合含量)が異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントを2種以上含んでおり、
1,4-結合含量が最も高い共役ジエン単位を含む重合体セグメント(α1)の1,4-結合含量モル% D14(α1)と、
1,4-結合含量が最も低い共役ジエン単位を含む重合体セグメント(α2)の1,4-結合含量モル% D14(α2)との差 Δ14=D14(α1)-D14(α2)が、5モル%以上である、ゴム組成物。
【0008】
〔2〕〔1〕に記載のゴム組成物を含有するタイヤ用ゴム組成物。
〔3〕前記共役ジエン系分岐共重合体(A)の共役ジエン単位を含む重合体セグメントが、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、及びミルセンからなる群より選ばれる少なくとも1種の共役ジエン単位を含む〔2〕に記載のタイヤ用ゴム組成物。
〔4〕前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、共役ジエン単位を含む重合体セグメントの主鎖(a)に、分岐点を介して、主鎖の1,4-結合含量とは異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントの側鎖(b)を少なくとも1種以上有する共役ジエン系グラフト共重合体(A1)である、〔2〕又は〔3〕に記載のタイヤ用ゴム組成物。
〔5〕前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の前記分岐点がSi、Sn、Ge、Pb、P、B、Alからなる群より選ばれるヘテロ原子1つからなる、〔4〕に記載のタイヤ用ゴム組成物。
〔6〕前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の前記分岐点がSiである、〔5〕に記載のタイヤ用ゴム組成物。
〔7〕前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの前記分岐点に直接結合する側鎖(b)の平均本数Wと共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの分岐点の平均個数Yが下記式(6);
0.5≦(W/Y) (6)
の関係を満たす、〔4〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
〔8〕固形ゴム(B)(ただし、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含まない)100質量部に対して、共役ジエン系分岐共重合体(A)を0.1~100質量部、シリカ(C1)を20~200質量部含有する〔2〕に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【0009】
〔9〕〔1〕に記載のゴム組成物を含有する靴底用ゴム組成物。
〔10〕前記共役ジエン系分岐共重合体(A)の共役ジエン単位を含む重合体セグメントが、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、及びミルセンからなる群より選ばれる少なくとも1種の共役ジエン単位を含む〔9〕に記載の靴底用ゴム組成物。
〔11〕前記共役ジエン系分岐共重合体(A)が、共役ジエン単位を含む重合体セグメントの主鎖(a)に、分岐点を介して、主鎖の1,4-結合含量とは異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントの側鎖(b)を少なくとも1種以上有する共役ジエン系グラフト共重合体(A1)である、〔9〕又は〔10〕に記載の靴底用ゴム組成物。
〔12〕固形ゴム(B)(ただし、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含まない)、共役ジエン系分岐共重合体(A)及びフィラー(C)としてシリカ(C1)を含有する〔9〕に記載の靴底用ゴム組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られる特定の共役ジエン系分岐共重合体を含有するゴム組成物又はその組成物から得られる架橋物からは、耐摩耗性及びアイスグリップ性能の向上を両立したタイヤ、靴底などの物品が作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、最大強度が1になるように規格化した温度分散曲線、この温度分散曲線で示されるデータのうち、強度が0.5以上であるデータのみを用いて最小二乗法によってガウス関数にフィッテイングしてなる近似曲線、この温度分散曲線と近似曲線の差分からなる曲線を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、下記共役ジエン系分岐共重合体(A)を含有する。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、該ゴム組成物を含有する。また、本発明の靴底用ゴム組成物は、該ゴム組成物を含有する。
【0013】
[共役ジエン系分岐共重合体(A)]
本発明で用いられる共役ジエン系分岐共重合体(A)は、1,4-結合で結合している共役ジエン単位の含量(1,4-結合含量)が異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントを2種以上含んでおり、1,4-結合含量が最も高い共役ジエン単位を含む重合体セグメント(α1)の1,4-結合含量モル% D14(α1)と、1,4-結合含量が最も低い共役ジエン単位を含む重合体セグメント(α2)の1,4-結合含量モル% D14(α2)との差 Δ14=D14(α1)-D14(α2)が、5モル%以上である。なお、本発明では、共役ジエン単位のみから構成され、かつその共役ジエンが1種である重合体であっても、その共役ジエン単位として、結合形式(1,4-結合、1,2-結合など)が異なる共役ジエン単位を含む場合は、この重合体も含めて共重合体と称する。
【0014】
本発明において分岐共重合体とは、複数の重合体セグメントを有し、これらセグメントが分岐点を介して、直接若しくは間接的に結合をしている共重合体、又はこれら重合体セグメント同士が分岐点を介さずに結合している共重合体を意味する。ここで、分岐点を介して直接結合とは、分岐点にそれぞれの重合体セグメントが直接結合していることを意味し、分岐点を介して間接的に結合とは、分岐点に少なくとも一つの重合体セグメントが連結鎖を通じて分岐点に結合していることを意味する。
分岐共重合体としては、例えば、分岐点を介して重合体セグメントの少なくとも一方の末端が結合したスター型ブロック共重合体、主鎖となる重合体セグメントの末端以外の部分に、直接又は間接的に分岐点が結合しており、その分岐点に直接又は間接的に側鎖が結合したグラフト共重合体、主鎖となる重合体セグメントの末端以外の部分に、側鎖が直接結合したグラフト共重合体、などが挙げられる。
【0015】
上記重合体セグメント(α1)及び(α2)には、共役ジエン単位が含まれる。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニルブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ミルセン、ファルネセン、及びクロロプレンが挙げられる。これら共役ジエンの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、及びミルセンが好ましい。また、共役ジエンとしては、ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つが含まれることが好ましい一態様である。上記共役ジエンは1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0016】
上記重合体セグメント(α1)及び(α2)におけるブタジエン単位及びイソプレン単位の合計含有量は、その重合体セグメントを構成する全単量体単位のうち、50~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましく、70~100質量%であることがさらに好ましい。なお重合体セグメント(α1)又は(α2)が、ブタジエン単位及びイソプレン単位からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位のみからなっていてもよい。
【0017】
重合体セグメント(α1)及び(α2)は、他の単量体単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、例えば、芳香族ビニル化合物が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。これら芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、及び4-メチルスチレンが好ましく、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましい。上記芳香族ビニル化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0018】
上記重合体セグメント(α1)及び(α2)におけるブタジエン単位及びイソプレン単位以外の単量体単位の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であってもよい。
【0019】
上記重合体セグメント(α1)及び(α2)における芳香族ビニル化合物単位の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であってもよい。
【0020】
共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメントのうち、重合体セグメント(α1)は、1,4-結合で結合している共役ジエン単位の含量(以下、単に1,4-結合含量ともいう。)が最も高い重合体セグメントである。
本発明において、「1,4-結合含量」とは、共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる、共役ジエン単位の合計100モル%中、1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)(1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位以外の共役ジエン単位)の合計モル%を意味する。1,4-結合含量は、1H-NMRを用いて1,4-結合(ファルネセンの場合1,13-結合)で結合している共役ジエン単位由来のピークと、1,2-結合及び3,4-結合(ファルネセンの場合、3,13-結合)で結合をしている共役ジエン単位由来のピークとの面積比から算出する。
【0021】
重合体セグメント(α1)の1,4-結合含量モル% D14(α1)は、40~95モル%が好ましく、50~90モル%がより好ましい。
【0022】
共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメントのうち、重合体セグメント(α2)は、1,4-結合で結合している共役ジエン単位の含量(以下、単に1,4-結合含量ともいう。)が最も低い重合体セグメントである。
【0023】
重合体セグメント(α2)の1,4-結合含量モル% D14(α2)は、20~85モル%が好ましく、30~85モル%がより好ましく、40~80モル%がさらに好ましい。
【0024】
上記重合体セグメント(α1)の1,4-結合含量モル% D14(α1)と、上記重合体セグメント(α2)の1,4-結合含量モル% D14(α2)との差 Δ14=D14(α1)-D14(α2)は、5モル%以上であり、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましい。上記Δ14は、通常70モル%以下であり、60モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましい。
【0025】
共役ジエン系分岐共重合体(A)中への重合体セグメント(α1)及び重合体セグメント(α2)の含まれ方は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はない。
例えば、共役ジエン系分岐共重合体(A)がスター型ブロック共重合体の場合には、そのブロック共重合体を構成する3以上の重合体セグメントのうち、1つ以上が重合体セグメント(α1)であり、1つ以上が重合体セグメント(α2)であればよい。
また、共役ジエン系分岐共重合体(A)がグラフト共重合体である場合には、
そのグラフト共重合体の主鎖が重合体セグメント(α1)であり、側鎖として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;
そのグラフト共重合体の主鎖が重合体セグメント(α2)であり、側鎖として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)を有する態様;
そのグラフト共重合体の主鎖が重合体セグメント(α1)及び(α2)とは異なる重合体セグメントであり、側鎖として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)及び少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;などが挙げられる。
中でも、共役ジエン系分岐共重合体(A)がグラフト共重合体である態様が好ましい。
【0026】
<共役ジエン系グラフト共重合体(A1)>
上記共役ジエン系分岐共重合体(A)の中でも、共役ジエン単位を含む重合体セグメントの主鎖(a)に、分岐点を介して、主鎖の1,4-結合含量とは異なる共役ジエン単位を含む重合体セグメントの側鎖(b)を少なくとも1種以上有する共役ジエン系グラフト共重合体(A1)が好ましい一形態である。
【0027】
ここで主鎖(a)が分岐点を介して側鎖(b)を有するとは、主鎖(a)が直接又は連結鎖を通じて分岐点と結合し、この分岐点にさらに側鎖(b)が直接又は連結鎖を通じて結合していることを意味する。ここで直接分岐点に結合とは、主鎖(a)又は側鎖(b)を構成する単量体単位に由来する部分に、分岐点が直接結合していることを意味する。連結鎖を通じて分岐点と結合とは、主鎖(a)又は側鎖(b)を構成する単量体単位に由来する部分に、連結鎖となる一方の末端が結合し、その連結鎖の他方の末端に、分岐点が直接結合していることを意味する。例えば、1,2-結合をしたブタジエン単位に分岐点が結合する場合、下記式(III-1)で示される場合が、主鎖に直接分岐点と結合している場合であり、下記式(III-2)で示される場合が、主鎖に連結鎖を通じて分岐点と結合している場合である。
【0028】
【0029】
上記式(III-1)及び(III-2)中、Z0は分岐点であり、R2aは連結鎖である。R2aは2価の有機基であるが、ヘテロ原子を有していてもよいアルキレン基が好ましい。
【0030】
側鎖(b)は直接分岐点に結合していることが好ましい一態様である。
【0031】
前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の前記分岐点はSi、Sn、Ge、Pb、P、B、Alからなる群より選ばれるヘテロ原子1つからなることが好ましく、Si原子1つからなることがより好ましい。分岐点が上記ヘテロ原子1つであり、ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)にフィラーが含まれる場合には、そのフィラーとして一般的に使用される、シリカなどと親和性がよく、分散性の改良が期待され、そのゴム組成物又は該組成物から得られる架橋物から得られるタイヤ、靴底などの物品のアイスグリップ性能、転がり抵抗性能、耐摩耗性などの向上を期待できる。
【0032】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)中への重合体セグメント(α1)及び重合体セグメント(α2)の含まれ方は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はない。
例えば、(i)共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の主鎖(a)が重合体セグメント(α1)であり、側鎖(b)として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;
(ii)共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の主鎖(a)が重合体セグメント(α2)であり、側鎖(b)として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)を有する態様;
(iii)共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の主鎖(a)が重合体セグメント(α1)及び(α2)とは異なる重合体セグメントであり、側鎖(b)として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)及び少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;などが挙げられる。
なお、上記(i)の場合、側鎖として重合体セグメント(α1)が含まれる場合があり、上記(ii)の場合、側鎖として重合体セグメント(α2)が含まれる場合がある。
中でも、態様(i)が好ましい。
【0033】
側鎖(b)が直接分岐点に結合している場合、前記主鎖(a)が分岐点を介して側鎖(b)と結合した、主鎖(a)からの分岐部分の化学式としては、下記式(III-3)のように主鎖(a)に直接分岐点が結合した形態を含む分岐部分、及び下記式(III-4)のように連結鎖を通じて分岐点と結合している形態を含む分岐部分が好ましい一態様である。これらの中でも、式(III-4)のように連結鎖を通じて分岐点と結合している形態を含む分岐構造が望ましい。
【0034】
【0035】
上記式(III-3)及び(III-4)において、波線部分は主鎖(a)、Z1は分岐点(典型的にはヘテロ原子1つ)、Pは側鎖(b)、R2bは連結鎖である。また、Vは、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)に含まれていてもよい官能基(c)である。Nは前記Z1の価数を示し、m及びnは各々独立して下記式(1)を満たす整数である。
0≦m≦N-1, 0≦n≦N-1 (1)
mが2以上の場合、Pは同一でも異なっていてもよく、nが2以上の場合、Vは同一でも異なっていてもよく、N-m-nが2以上の場合、R3は同一でも異なっていてもよく、側鎖が主鎖に対し、複数含まれる場合には、Z1は同一でも異なっていてもよい。ただし、上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)に含まれる少なくとも1つの分岐点(Z1)においてはP(側鎖(b))が結合している必要がある。この場合、共役ジエン系グラフト共重合体は、後述する式(2)の関係を満たす。また、本発明の共役ジエン系グラフト共重合体では、主鎖1本に対して1本以上の側鎖があればよいため、側鎖が結合していないZ1(mが0であるZ1)が含まれ得るが、その場合もZ1を分岐点と定義する。
【0036】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)に含まれ得る連結鎖、例えば、上記式(III-3)及び(III-4)中のR3は、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキル基、又は水素原子を示す。これらの中でも、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、n-ブチル基、sec-ブチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、エチル基、メチル基がより好ましい。R3は上記群より選ばれる1種単独でもよく、2種以上が含まれていてもよい。R3は1種単独の基であってもよく、2種以上の複数の基であってもよい。
【0037】
R2bとなり得るヘテロ原子を有する炭素数1~12のアルキレン基としては、Sを有する炭素数1~12のアルキレン基が好ましく、SR2b'(R2b'は炭素数1~12のアルキレン基を示す)がより好ましい。
【0038】
上記官能基(c)としては、アルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基が好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。上記官能基(c)の中では、ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に含まれ得るフィラー(C)(例えばシリカ)との親和性の観点から、メトキシ基、エトキシ基、及び水酸基が好ましい。官能基(c)は1種単独の基であってもよく、2種以上の複数の基であってもよい。
【0039】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)では、側鎖(b)が1つの分岐点に直接結合している場合、そのグラフト共重合体に含まれる分岐点であるヘテロ原子に着目すると、そのヘテロ原子の価数をNとし、1つの分岐点に対して直接結合する側鎖(b)の平均本数をBとした場合に、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。この条件を満たすことで、分岐点は、直接又は連結鎖を通じて、主鎖(a)に結合し、上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)には、少なくとも側鎖(b)が含まれることになる。
N-1≧B, B>0 (2)
【0040】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、上述のとおり、上記分岐点にアルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(c)が結合していてもよい。共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の側鎖(b)が1つの分岐点に直接結合する場合、1つの分岐点に結合する前記官能基(c)の平均個数をCとした場合、上記分岐点(典型的にはヘテロ原子)の価数N及び上記側鎖(b)の平均本数Bとの間で、下記式(2')の関係を満たすことが好ましい。
N-1≧B+C, B>0, C>0 (2')
【0041】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する官能基(c)の平均個数Xは、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。また上記Xは0であってもよい。
【0042】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する官能基(c)の平均個数Xは、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の官能基当量(g/eq)と標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(3)より求める。
(共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する官能基(c)の平均個数X)=[(数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)×(共役ジエン及び必要に応じて含まれる共役ジエン以外の他の単量体単位の平均分子量)]/(官能基当量) (3)
【0043】
なお、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の官能基当量は、官能基1個あたりに結合している共役ジエン及び必要に応じて含まれる共役ジエン以外の他の単量体の質量を意味する。官能基の当量は、1H-NMRを用いて官能基由来のピークと重合体主鎖に由来するピークの面積比から算出する。なお、官能基由来のピークとは、アルコキシ基、及び水酸基由来のピークを指す。
【0044】
上記Xが10を超えると、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の熱安定性,耐候性が低下する傾向がある。
【0045】
ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に含まれ得るフィラー(C)(例えばシリカ)との親和性に優れる観点からは、Xは0.01以上9.9以下の範囲であることが好ましく、0.02以上9以下の範囲であることがより好ましい。
【0046】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に直接結合する官能基(c)の平均個数Xと共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの分岐点の平均個数Yが下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。
0<(X/Y)<1 (4)
上記(X/Y)が0であると、共役ジエン系グラフト共重合体はゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に含まれ得るフィラー(例えばシリカ)との親和性に劣る傾向があり、上記(X/Y)が1以上であると、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の安定性が低下する傾向がある。本発明において、(X/Y)(共役ジエン系グラフト共重合体に含まれる分岐点1つあたりの官能基(c)の平均個数)は、例えば、ZがSiの場合には、共役ジエン系グラフト共重合体の29Si-NMRを測定した結果から求める。具体的には、官能基(c)が1個結合しているSi、官能基(c)が2個結合しているSiなどの積分値に官能基の個数を乗じたものを合計し、積分値の単純合計と比較することにより算出する。ZがSi以外のヘテロ原子の場合も同様にして共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの該ヘテロ原子の平均個数を求めることができる。
【0047】
ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に含まれ得るフィラーとの親和性及び安定性により優れる観点からは、上記(X/Y)は0.01以上0.99以下の範囲であることが好ましく、0.01以上0.9以下の範囲であることがより好ましく、0.01以上0.5以下の範囲であることが特に好ましい。
【0048】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの分岐点の平均個数Yは、分岐点が特定のヘテロ原子(Si、Sn、Ge、Pb、P、B、又はAl)である場合には、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により測定した共役ジエン系グラフト共重合体(A1)中の該ヘテロ原子の含量(質量%)と標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(5)より求める。
(共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの分岐点の平均個数Y)=[(ヘテロ原子の含量(質量%))/100]×[(数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)×(共役ジエン及び必要に応じて含まれる共役ジエン以外の他の単量体単位の平均分子量)]/(ヘテロ原子の原子量) (5)
【0049】
なお、上記分岐点に結合する側鎖(b)の平均本数及び官能基(c)の平均個数は、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する際の工程(A-1)における上記活性末端重合体(I)と官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量のモル比や、工程(A-2)におけるアルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの残存する官能基(未反応で存在する官能基V)の少なくとも一部を不活性化するために使用する試薬の使用量や反応時間、及び必要に応じて使用される極性化合物の種類や添加量により、所望の範囲に調整することができる。
【0050】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する側鎖(b)の平均本数をW、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの分岐点の平均個数をYとしたとき、(W/Y)が下記式(6)の関係を満たすことが好ましい。
0.5≦(W/Y) (6)
【0051】
上記(W/Y)は、0.6以上(0.6≦(W/Y))がより好ましく、0.8以上(0.8≦(W/Y))がさらに好ましい。
【0052】
また、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する側鎖(b)の平均本数Wは、後述する製造方法の工程(A-1)における、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の側鎖(b)となる活性末端重合体(I)の活性末端あたりの仕込み量(モル数)と官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量(モル数)を用いて下記式(7)より求める。
(共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する側鎖(b)の平均本数W)=(側鎖(b)となる活性末端重合体(I)の活性末端あたりの仕込み量(モル数))/(官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量(モル数)) (7)
上記(W/Y)が0.5未満であると、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の流動性が低下し、加工性と力学特性のバランスに劣る傾向がある。
【0053】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の分岐の度合いは、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の絶対法による重量平均分子量(Mw)に対して、その回転半径(R)を両対数プロットしたときの傾き(αs)、又は共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の絶対法による重量平均分子量(Mw)に対して、その固有粘度(η)を両対数プロットしたときの傾き(αη)から判断することができる。通常の直鎖状重合体のランダムコイル鎖は、αs、αηのいずれも0.6~0.8程度の値を示し、0.6未満であると分岐鎖の存在が示唆される。上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)のαs又はαηの値は、0.6未満であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましく、0.50以下であることがさらに好ましい。なお、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の絶対法による重量平均分子量(Mw)と回転半径(R)又は固有粘度(η)の両対数プロットは、例えばSEC-MALS-VISCO法により取得することができる。SEC-MALS-VISCO法は、分子サイズ(流体力学的体積)の違いにより高分子鎖の分離を行う液体クロマトグラフィー(SEC)の一種であり、示差屈折率計(RI)、多角光散乱検出器(MALS)、粘度検出器(VISCO)を組み合わせることで、SECでサイズ分別された高分子溶液の分子量ごとの回転半径、固有粘度を算出できる。上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)のαs又はαηの値が上記の範囲であると、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の流動性が向上し、加工性と力学特性との両立に優れる傾向にある。
【0054】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に結合する側鎖(b)の平均本数Wは、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。分岐点に対する側鎖(b)の平均本数が上記範囲にあることにより、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を含むゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)の加工性の向上が期待されるとともに、そのゴム組成物又は該組成物から得られる架橋物の力学特性の向上が期待できる。
【0055】
なお、上記側鎖(b)の平均本数Wは、後述する製造方法の工程(A-1)における活性末端重合体(I)と官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量の比により、所望の範囲に調整することができる。例えば、(活性末端重合体(I)の仕込み量(モル数))/(官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量(モル数))=10/1の場合、側鎖(b)の平均本数Wは10本となる。ただし、Wの上限は、官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりが有する官能基Vの個数である。
【0056】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、その重合体を構成する全単量体単位のうち、50質量%以上がブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位であることが好ましい一態様である。ブタジエン単位及びイソプレン単位の合計含有量は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の全単量体単位に対して60~100質量%であることがより好ましく、70~100質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)における、ブタジエン単位及びイソプレン単位以外の他の単量体単位の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。例えば、芳香族ビニル化合物単位が上記範囲以下であると、ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)の加工性が向上する傾向にある。
【0058】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)における主鎖と側鎖の質量比は、10/90~90/10の範囲が好ましく、15/85~80/20の範囲がより好ましく、20/80~70/30の範囲がさらに好ましい。主鎖と側鎖の質量比が上記範囲であると、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を含むゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)の加工性が向上する傾向にある。
【0059】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、上述したように主鎖(a)を有する。この主鎖(a)とは、主鎖を構成する全単量体単位に由来する部分全体を指す。例えば、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する場合には、その製造に使用する官能基変性共役ジエン系重合体(F)の前駆体である未変性の共役ジエン系重合体(F')に由来する部分全体を指す。例えば、その未変性の共役ジエン系重合体(F')にビニル結合をしたブタジエン単位が含まれる場合、重合体骨格(-(C-C)n-)中の炭素原子に接合する-CH=CH2部分(変性する化合物が付加した場合には、-CH-CH2-となる部分)までを含めて主鎖という。
【0060】
主鎖(a)は、その重合体セグメント中に、共役ジエン、芳香族ビニル化合物などのビニル単量体に由来するビニル単量体単位以外のユニット(例えば、カップリング剤の残渣に由来するSi原子やN原子を有するユニット)を含まないことが好ましい。主鎖骨格中に前記ビニル単量体単位以外のユニットが含まれると、後述する分岐点であるヘテロ原子と炭素の結合が切断されるような条件下、又はせん断や熱によって主鎖骨格が開裂するため、物性が低下しやすい傾向にある。なお、主鎖となる重合体セグメント末端には、単量体単位以外の基を有していてもよい。
【0061】
主鎖(a)は、その重合体を構成する単量体単位として共役ジエン単位を含む。主鎖(a)を構成する単量体単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、及び主鎖(a)に含まれる単量体単位の具体例及び好適態様の説明は、共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメント(α1)及び(α2)に関する説明と同様である。
【0062】
主鎖(a)の重量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上500,000以下がより好ましく、3,000以上100,000以下がさらに好ましい。本発明において主鎖(a)のMwは、例えば、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する場合には、後述する主鎖の構成要素となる官能基変性共役ジエン系重合体(F)、又は未変性共役ジエン系重合体(F')のMwである。上記主鎖(a)のMwが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本発明において、特に断りがない限り、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0063】
主鎖(a)の1,4-結合含量は主鎖(a)が重合体セグメント(α1)となるか、重合体セグメント(α2)となるか、又はこれら以外の重合体セグメントとなるかに応じて適切な値となるようにすればよい。
【0064】
主鎖(a)の1,4-結合含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、1,4-結合含量が50モル%以上であると、後述する主鎖(a)のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の流動性、該共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を含むゴム組成物から得られるタイヤ、靴底などの物品の耐摩耗性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の固形ゴムに対する反応性に優れる傾向にある。
【0065】
なお、主鎖(a)の1,4-結合含量は、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する場合には、例えば、主鎖(a)の構成要素となる未変性共役ジエン系重合体(F')を製造する際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0066】
主鎖(a)のガラス転移温度(Tg)は、ブタジエン単位、イソプレン単位及びブタジエン単位、イソプレン単位以外の共役ジエン単位の1,4-結合含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ、取り扱いが容易になる。なお、本発明において、Tgは示差走査熱量測定(DSC)測定により求めた、DDSCのピークトップの値である。
【0067】
側鎖(b)は、その重合体を構成する単量体単位として共役ジエン単位を含む。側鎖(b)を構成する単量体単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、及び側鎖(b)に含まれる単量体単位の具体例及び好適態様の説明は、共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメント(α1)及び(α2)に関する説明と同様である。
【0068】
側鎖(b)はその重合体セグメントが、共役ジエン単位1種のみからなる単独重合体セグメント、又は1つの共役ジエン単位とこの共役ジエンとは異なる他の単量体単位とを含む共重合体セグメントのいずれであってもよい。また、上記側鎖(b)を構成する重合体は1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
【0069】
側鎖(b)を構成し得る共役ジエン単位の比率は特に制限されず、目的に応じて設計することが可能であるが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。共役ジエン単位の比率が50質量%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の加工性が向上する傾向にある。
【0070】
側鎖(b)を構成し得る芳香族ビニル化合物単位の比率は特に制限されず、目的に応じて設計することが可能であるが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。芳香族ビニル化合物単位の比率が50質量%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の力学特性が向上する傾向にある。
【0071】
側鎖(b)は、その重合体セグメント中に、共役ジエン、芳香族ビニル化合物などのビニル単量体に由来するビニル単量体単位以外のユニット(例えば、カップリング剤の残渣に由来するSi原子やN原子を有するユニット)を含まないことが好ましい。側鎖(b)の重合体セグメント中に前記ビニル単量体以外のユニットが含まれると、後述する分岐点であるヘテロ原子と炭素の結合が切断されるような条件下、又はせん断や熱によって側鎖(b)の重合体セグメント骨格が開裂するため、物性が低下しやすい傾向にある。なお、側鎖となる重合体セグメント末端には、単量体単位以外の基を有していてもよい。
【0072】
側鎖(b)の重量平均分子量(Mw)は1,000以上1,00,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上80,000以下がより好ましく、3,000以上50,000以下がさらに好ましい。本発明において側鎖(b)のMwは、例えば、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する場合には、後述する側鎖の構成要素となる活性末端重合体(I)のMwである。上記側鎖(b)のMwが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。
【0073】
側鎖(b)の1,4-結合含量は側鎖(b)が重合体セグメント(α1)となるか、重合体セグメント(α2)となるか、又はこれら以外の重合体セグメントとなるかに応じて適切な値となるようにすればよい。側鎖(b)の1,4-結合含量は、例えば、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する場合には、後述する側鎖の構成要素となる活性末端重合体(I)の1H-NMRスペクトルにより、共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメントの場合と同様にして算出する。
【0074】
側鎖(b)の1,4-結合含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、1,4-結合含量が50モル%以上であると、後述する側鎖(b)のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の流動性、該共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を含むゴム組成物から得られるタイヤ、靴底などの物品の耐摩耗性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の固形ゴムに対する反応性に優れる傾向にある。
【0075】
なお、側鎖(b)の1,4-結合含量は、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造する場合には、例えば、側鎖(b)の構成要素となる活性末端重合体(I)を製造する際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0076】
側鎖(b)のガラス転移温度(Tg)は、共役ジエン単位の1,4-結合含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ、取り扱いが容易になる。
【0077】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、その製造に用いる重合触媒に由来する触媒残渣量が、金属換算で0~200ppmの範囲にあることが好ましい。例えば、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造するための重合触媒として、後述するような有機リチウム化合物等の有機アルカリ金属を用いた場合には、触媒残渣量の基準となる金属は、リチウム等のアルカリ金属になる。触媒残渣量が上記範囲にあることにより、加工等する際にタックが低下せず、また本発明のゴム組成物又はその組成物から得られる架橋物の耐熱性が向上する。共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の製造に用いる重合触媒に由来する触媒残渣量としては、金属換算で、より好ましくは0~150ppm、さらに好ましくは0~100ppmである。なお、触媒残渣量は、例えば誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)や偏光ゼーマン原子吸光分光光度計を用いることにより測定できる。
【0078】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の触媒残渣量をこのような特定の量とする方法としては、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を精製し、触媒残渣を十分に除去する方法などが挙げられる。精製する方法としては、水若しくは温水、又はメタノール、アセトンなどに代表される有機溶媒若しくは超臨界流体二酸化炭素による洗浄が好ましい。洗浄回数としては、経済的な観点から1~20回が好ましく、1~10回がより好ましい。また、洗浄温度としては、20~100℃が好ましく、40~90℃がより好ましい。また重合反応前に、重合の阻害を行うような不純物を蒸留や吸着剤により除去し、単量体の純度を高めた後に重合を行うことによっても、必要な重合触媒量が少なくてすむため、触媒残渣量を低減することができる。
【0079】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)は、ハロゲン含有量が1000ppm以下であることが好ましい。例えば、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造するための官能基変性共役ジエン系重合体(F)として、シリルクロリド変性共役ジエン系重合体を用いた場合には、基準となるハロゲンは塩素となる。ハロゲン含有量が上記範囲にあることにより、透明性、耐熱性、耐候性が良好となる傾向がある。共役ジエン系グラフト共重合体(A1)のハロゲン含有量としては、より好ましくは0ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは0ppm以上500ppm以下、特に好ましくは0ppm以上100ppm以下である。なお、ハロゲン含有量は、例えば燃焼イオンクロマトグラフィーを用いることにより測定できる。
【0080】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)のハロゲン含有量をこのような特定の量とする方法としては、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を製造するための原料である官能基変性共役ジエン系重合体(F)として、副生成物としてハロゲン化物が生成しないアルコキシシラン変性共役ジエン系重合体を用いる方法が挙げられる。
【0081】
<共役ジエン系グラフト共重合体(A2)>
上記共役ジエン系分岐共重合体(A)の中でも、共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a2)が、主鎖の1,4-結合含量とは異なる共役ジエン単位を含む重合体からなる側鎖(b2)と、主鎖(a2)に含まれる分岐部分となる単量体単位と結合した共役ジエン系グラフト共重合体(A2)が、他の好ましい一形態である。
該共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖(b2)の側鎖密度は、2.0モル%以上であることが好ましい。
また、前記分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まないことが好ましい。
前記分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b2)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではないことが好ましい。
【0082】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)中には、分岐部分となる単量体単位が含まれる。この分岐部分で主鎖(a2)が、側鎖(b2)と結合している。
なお、上記分岐部分が側鎖(b2)と結合とは、上記主鎖中に分岐部分となる単量体単位を構成する原子(典型的には炭素原子)の1つと、側鎖を構成する原子が、結合することを意味する。分岐部分と側鎖(b2)とを結合させる方法としては、以下共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法の一例として詳細に説明するが、例えば、主鎖(a2)となる重合体の分岐部分となる単量体単位に含まれるアニオン活性を有する炭素原子を含む部位をリチオ化し、そのリチオ化部分を起点として、単量体を付加重合させ側鎖(b2)を形成する方法が挙げられる。
【0083】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)は、分岐部分となる単量体単位がヘテロ原子を含まないことが好ましい。共役ジエン系グラフト共重合体(A2)が、上記分岐部分などの分岐点にヘテロ原子を含む場合、せん断安定性や熱安定性が悪化する傾向にある。
【0084】
例えば、Macromolecules,1997,30,5602に記載のグラフト重合体は、あらかじめ合成した主鎖の構成要素となる重合体を、ケイ素原子を含む化合物で変性して官能基変性重合体とし、該官能基変性重合体と側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法により、合成される。この官能基変性重合体に由来するケイ素原子等のヘテロ原子が、主鎖と側鎖を結ぶ分岐点に含まれる。また、特許第5089007号公報に記載のグラフト重合体は、主鎖の構成要素となる2つの活性末端を有する重合体と側鎖の構成要素となる1つの活性末端を有する重合体の混合物を調製し、この混合物に3以上の反応性部位を有するケイ素原子を含むカップリング剤を加えて反応させる方法により合成される。このカップリング剤に由来するケイ素原子等のヘテロ原子が主鎖と側鎖を結ぶ分岐点に含まれる。上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)では、好ましくは、主鎖(a2)に含まれる分岐部分にはヘテロ原子が含まれておらず、側鎖(b2)に直接結合している。かかる好ましい場合、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)は、上述の従来の文献に記載される重合体のように、主鎖と側鎖とが結合している部分(連結点)にはヘテロ原子が含まれてない。
【0085】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)では、主鎖(a2)に含まれる、分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b2)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基でないことが好ましい。ここでいう、芳香族基とは、芳香族ビニル化合物が有する、CH2=CR(Rは、水素、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基)以外の芳香環を含む基を意味する。
ここで「連結部分が、芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではない」とは、
主鎖に含まれる分岐部分となる単量体単位自体が、芳香族ビニル化合物以外の単量体(例えば共役ジエン)に由来する単量体単位であること、あるいは
主鎖に含まれる分岐部分となる単量体単位自体が、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位であっても、その芳香族ビニル化合物が有する芳香族基に、側鎖(b2)が結合していないこと、を意味する。
以下、具体例で説明をする。芳香族ビニル化合物が例えば、芳香族基中にアニオン活性が高い(有機リチウム化合物との反応性が高い)置換基を有する4-メチルスチレンの場合は、4-メチルスチレン由来のメチル基の部分の反応性が高く、このメチル基の部分に側鎖(b2)が結合してしまう。
一方、アニオン活性が高い置換基を芳香族基中には有さない芳香族ビニル化合物、例えばスチレンの場合は、主鎖(a2)の骨格となる、スチレンに由来する単量体単位の(-CH2-CH2-)部分に含まれる、ベンゼン環が結合するCH2に隣接するCH2の部分に側鎖(b2)が結合する。この場合、スチレン由来のベンゼン環には、側鎖(b2)が結合しておらず、主鎖(a2)に含まれる分岐部分中の連結部分が、芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基ではないことになる。
【0086】
【0087】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)では、上述のとおり、主鎖(a2)に含まれる、分岐部分となる単量体単位に含まれる側鎖(b2)と結合する連結部分は芳香族ビニル化合物に由来する芳香族基でないことが好ましい。連結部分が前記芳香族基である場合には、せん断安定性や熱安定性が悪化する傾向にある。
【0088】
例えば、Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,2007,45,3513、又は特許第5508066号公報に記載のグラフト重合体は、マクロモノマー(側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端に、芳香族基に結合したCH2=C-以外の重合性官能基を有する芳香族ビニル化合物を、直接反応させて得られるマクロモノマー)と主鎖の構成単位となる単量体とを重合する方法により合成される。このマクロモノマーに由来して、主鎖(a2)中の分岐部分に含まれる側鎖(b2)と結合する連結部分は、芳香族基となる。そして、上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)では、例えば以下詳述するその共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法の一例でも明らかなように、主鎖(a2)中の分岐部分に含まれる側鎖(b2)と結合する連結部分は芳香族基でないことが好ましい。
【0089】
共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、15以上であることが特に好ましい。共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数は、例えば、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、その工程(A’-1)におけるリチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と主鎖の構成単位となる共役ジエン系重合体の仕込み比より算出される。共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数が前記範囲内であると、本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を含む物から得られる、ダングリング鎖を含む物でのダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。
【0090】
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)は、側鎖(b2)の側鎖密度が1.6モル%以上であることが好ましく、2.0モル%以上であることがより好ましく、3.0モル%以上がさらに好ましく、4.5モル%以上がよりさらに好ましく、6.0モル%以上が特に好ましい。共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖密度が前記範囲内であると、本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を含む物から得られる、ダングリング鎖を含む物でのダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。
【0091】
本発明において、側鎖(b2)の側鎖密度は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数と主鎖(a2)の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(2)より求める。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数)/[(主鎖(a2)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
なお、主鎖(a2)のMnは、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法で共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合、主鎖の構成要素となるあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)の標準ポリスチレン換算のMnである。
【0092】
共役ジエン系グラフト共重合体(A2)中への重合体セグメント(α1)及び重合体セグメント(α2)の含まれ方は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はない。
例えば、(i)共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)が重合体セグメント(α1)であり、側鎖(b2)として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;
(ii)共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)が重合体セグメント(α2)であり、側鎖(b2)として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)を有する態様;
(iii)共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)が重合体セグメント(α1)及び(α2)とは異なる重合体セグメントであり、側鎖(b2)として少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α1)及び少なくとも1つ以上の重合体セグメント(α2)を有する態様;などが挙げられる。
なお、上記(i)の場合、側鎖として重合体セグメント(α1)が含まれる場合があり、上記(ii)の場合、側鎖として重合体セグメント(α2)が含まれる場合がある。
中でも、態様(i)が好ましい。
【0093】
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)は、その重合体を構成する全単量体単位のうち、40質量%以上が1,3-ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体単位であることが好ましい一態様である。1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位の合計含有量は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の全単量体単位に対して50~100質量%であることがより好ましく、60~100質量%であることがさらに好ましい。
【0094】
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)における、1,3-ブタジエン単位及びイソプレン単位以外の他の単量体単位の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。例えば、芳香族ビニル化合物単位が上記範囲以下であると、ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)の加工性が向上する傾向にある。
【0095】
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)は、共役ジエン単位を含む重合体からなる主鎖(a2)を有する。なお、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)に含まれる主鎖とは、主鎖を構成する共役ジエン単位を含む全単量体単位に由来する部分全体を指す。後述する上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法により製造する場合には、あらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)に由来する部分全体を指す。例えば、上記製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、そのあらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)にビニル結合をした1,3-ブタジエン単位が含まれる場合、重合体骨格(-(C-C)n-)中の炭素原子に接合する-CH=CH2部分までを含めて主鎖という。
【0096】
主鎖(a2)は、その重合体を構成する単量体単位として共役ジエン単位を含む。主鎖(a2)を構成する単量体単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、及び主鎖(a2)に含まれる単量体単位の具体例及び好適態様の説明は、共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメント(α1)及び(α2)に関する説明と同様である。
【0097】
主鎖(a2)の重量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上500,000以下がより好ましく、3,000以上100,000以下がさらに好ましい。主鎖(a2)のMwは、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法により製造する場合、あらかじめ合成した共役ジエン系重合体(M)のMwである。上記主鎖(a2)のMwが前記範囲内であると、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。
【0098】
主鎖(a2)の1,4-結合含量は主鎖(a2)が重合体セグメント(α1)となるか、重合体セグメント(α2)となるか、又はこれら以外の重合体セグメントとなるかに応じて適切な値となるようにすればよい。
【0099】
主鎖(a2)の1,4-結合含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、1,4-結合含量が50モル%以上であると、後述する主鎖(a2)のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の流動性、該共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を含むゴム組成物から得られるタイヤ、靴底などの物品の耐摩耗性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の固形ゴムに対する反応性に優れる傾向にある。
【0100】
なお、主鎖(a2)の1,4-結合含量は、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、例えば、主鎖(a2)の構成要素となるあらかじめ合成された重合体(M)を製造する際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0101】
主鎖(a2)のガラス転移温度(Tg)は、ブタジエン単位、イソプレン単位及びブタジエン単位、イソプレン単位以外の共役ジエン単位の1,4-結合含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。なお、本発明において、Tgは示差走査熱量測定(DSC)測定により求めた、DDSCのピークトップの値である。
【0102】
側鎖(b2)は、その重合体を構成する単量体単位として共役ジエン単位を含む。側鎖(b2)を構成する単量体単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、及び側鎖(b2)に含まれる単量体単位の具体例及び好適態様の説明は、共役ジエン系分岐共重合体(A)に含まれる重合体セグメント(α1)及び(α2)に関する説明と同様である。
【0103】
側鎖(b2)はその重合体セグメントが、共役ジエン単位1種のみからなる単独重合体セグメント、又は1つの共役ジエン単位とこの共役ジエンとは異なる他の単量体単位とを含む共重合体セグメントのいずれであってもよい。また、上記側鎖(b2)を構成する重合体は1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
【0104】
側鎖(b2)を構成し得る共役ジエン単位の比率は特に制限されず、目的に応じて設計することが可能であるが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。共役ジエン単位の比率が50質量%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の加工性が向上する傾向にある。
【0105】
側鎖(b2)を構成し得る芳香族ビニル化合物単位の比率は特に制限されず、目的に応じて設計することが可能であるが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。芳香族ビニル化合物単位の比率が50質量%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の力学特性が向上する傾向にある。
【0106】
側鎖(b2)の数平均分子量(Mn)は500以上であることが好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましく、3,000以上が特に好ましい。また、該Mnは、1,00,000以下であることが好ましく、50,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましく、15,000以下が特に好ましい。側鎖(b2)のMnは、例えば、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、後述する工程(A)におけるリチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と、工程(B)における側鎖の構成単位となる単量体の仕込み比より算出される。側鎖(b2)のMnが前記範囲内であると、ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。また、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。
【0107】
側鎖(b2)の1,4-結合含量は側鎖(b2)が重合体セグメント(α1)となるか、重合体セグメント(α2)となるか、又はこれら以外の重合体セグメントとなるかに応じて適切な値となるようにすればよい。側鎖(b2)の1,4-結合含量は、例えば、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、側鎖(b2)の1,4-結合含量は、1H-NMRスペクトルにより算出した共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の1,4-結合含量と、上述した主鎖(a2)の1,4-結合含量、及び主鎖、側鎖を構成する単量体単位の仕込み比より算出できる。
【0108】
側鎖(b2)の1,4-結合含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、1,4-結合含量が50モル%以上であると、後述する側鎖(b2)のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の流動性、該共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を含むゴム組成物から得られるタイヤ、靴底などの物品の耐摩耗性が優れる傾向がある。また、50モル%以上であると、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の固形ゴムに対する反応性に優れる傾向にある。
【0109】
なお、側鎖(b2)の1,4-結合含量は、後述する製造方法により共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を製造する場合には、上述した例えば、側鎖(b2)の構成要素となる活性末端重合体(I)を製造する際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0110】
側鎖(b2)のガラス転移温度(Tg)は、共役ジエン単位の1,4-結合含量、共役ジエン単位の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。
【0111】
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)における主鎖と側鎖の質量比は、1/99~90/10の範囲が好ましく、3/97~80/20の範囲がより好ましく、5/95~70/30の範囲がさらに好ましい。主鎖と側鎖の質量比が上記範囲であると、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を含む重合体組成物の加工性が向上する傾向にある。
【0112】
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)と同様、その製造に用いる重合触媒に由来する触媒残渣量が、金属換算で0~200ppmの範囲にあることが好ましく、0~150ppmであることがより好ましく、0~100ppmであることがさらに好ましい。なお、触媒残渣量は、例えば誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)や偏光ゼーマン原子吸光分光光度計を用いることにより測定できる。
【0113】
触媒残渣量の測定方法、触媒残渣量をこのような特定の量とする方法は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の場合と同様である。
【0114】
<ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度>
本発明で用いられる共役ジエン系分岐共重合体(A)、典型的には、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)又は(A2)では、該共役ジエン系分岐共重合体(A)の加硫物の動的粘弾性測定により得られるtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化し、強度が0.5以上であるデータのみを用いて最小二乗法によってガウス関数にフィッテイングしてなる近似曲線と、前記規格化した温度分散曲線の差分からなる曲線において、前記規格化した温度分散曲線において最大強度を示す温度よりも高温領域における最大強度が0.22以上であることが好ましい。
該加硫物は、加硫剤として硫黄を用いて、150℃、60分間加硫した場合の動的粘弾性測定により得られるtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化した際の80℃のtanδの値が0.06となるように硫黄の量を調整した加硫物である。
【0115】
上記加硫物は、下記の配合条件にて調整した共役ジエン系分岐共重合体(A)の未加硫物をプレス成形(厚さ2mm、温度:150℃、圧力:2MPa、時間:60分)することで得られる。その後、後述する動的粘弾性測定に必要な20mm×5mm×2mmの短冊片を切り出す。
・配合条件
共役ジエン系分岐共重合体(A)100質量部に対して、亜鉛華3.5質量部、ステアリン酸2質量部、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド1.2質量部、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン1質量部、及び硫黄を添加して混合する。硫黄の添加量は、後述する加硫物の動的粘弾性測定により得られるtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化した際の80℃のtanδの値が0.06となるように調整する。
【0116】
上記動的粘弾性測定は、株式会社ユービーエム製「Rheogel-E4000」を使用し、引張りモードにて、-100℃~150℃の温度範囲(昇温速度3℃/分)、周波数11Hzなる条件にて測定する。本条件にて得られたtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化し、上記80℃のtanδの値、及び後述するダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度を求める。
【0117】
ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度は、下記のフィッテイング条件により求めた近似曲線と、前記規格化した温度分散曲線の差分からなる曲線において、前記規格化した温度分散曲線において最大強度を示す温度よりも高温領域における最大強度である。
・フィッテイング条件
ガウス関数として、Y=exp(-[(X-u)
2/w
2])で表される関数を用いた。上記動的粘弾性測定により得られるtanδの温度分散曲線の最大強度が1となるように規格化した。最大強度に対して強度が0.5以上であるデータのみを用いて最小二乗法によって前記ガウス関数にフィッテイングさせた。なお、Yは規格化されたtanδの温度分散曲線の強度値、Xは温度、w及びuは変数である。uの初期値として最大強度値を示すときの温度を用いた。wの初期値は最小二乗法の計算のために任意の数値を用いた。
なお、
図1にtanδの最大強度が1となるように規格化した温度分散曲線((1),(2));この温度分散曲線で示されるデータのうち、強度が0.5以上であるデータのみを用いて最小二乗法によってガウス関数にフィッテイングしてなる近似曲線((1’),(2’));この温度分散曲線と近似曲線の差分からなる曲線((1”),(2”))の概念図を示す。
このうち、実線で示される場合((1)~(1”))が、規格化した温度分散曲線において最大強度を示す温度よりも高温領域における、前記差分からなる曲線の最大強度が0.22以上の場合であり、点線で示される場合((2)~(2”))が、規格化した温度分散曲線において最大強度を示す温度よりも高温領域における前記差分からなる曲線の最大強度が0.22未満の場合である。
【0118】
本発明において、加硫物の動的粘弾性測定により得られるダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度を規定している。この加硫は、本発明の共役ジエン系グラフト共重合体を含む物から、流動性に乏しい構造体(例えば、高分子架橋物に含まれる三次元ネットワーク構造部分、結晶性高分子に含まれる結晶構造部分、ブロック共重合体に含まれる常温では流合しない重合体ブロックに由来する相分離構造部分)と、その構造体にその一方が結合しながらも、他方がその構造体に結合していない重合体鎖(すなわちダングリング鎖)を含む物を作製し、これを使用する場合のダングリング鎖の緩和の指標となるtanδのピーク強度を測定するための手段である。上記共役ジエン系分岐共重合体(A)(典型的には、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)又は(A2))では、未加硫の状態で動的粘弾性測定をしても、高温領域においては、主鎖の流動によりtanδが大きく増加してしまうため、ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度を適切に評価、比較することは困難である。つまり、ダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度を適切に評価、比較するためには主鎖の運動を制限する必要があり、本発明では、加硫により主鎖の運動を制限した上で動的粘弾性測定を実施している。また、主鎖の流動によるtanδの増加とダングリング鎖の緩和に由来するtanδをより適切に切り分けて評価するためには、加硫の程度を同一にしなければならない。本発明者らの検討により、上述の通り、80℃のtanδの強度が一定となるように硫黄の量を調整した上で、硫黄で共役ジエン系分岐共重合体(A)を加硫することにより、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含む物から、流動性に乏しい構造体とダングリング鎖を含む物を作製した場合、その物のダングリング鎖の緩和に由来するtanδをより適切に評価できるようになった。
【0119】
上述の通り、上記共役ジエン系分岐共重合体(A)で上述の条件での加硫は、あくまで、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含む物から、その上記共役ジエン系分岐共重合体(A)に由来するダングリング鎖を含む物を作製する。この物を使用する場合、そのダングリング鎖の緩和の指標となるtanδのピーク強度を測定するための条件である。したがって、この測定条件が、上記共役ジエン系分岐共重合体(A)を含む物の使用方法を制約するものではない。共役ジエン系分岐共重合体(A)を含む物は、例えば、パーオキサイドによる架橋、UV架橋した三次元ネットワーク構造を含む物として、又は高分子量の他の樹脂と混合することによって、上記共役ジエン系分岐共重合体(A)(典型的には、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)又は(A2))に含まれる主鎖となり得る重合体セグメントの動きを制限する未架橋の組成物として、使用することが可能である。上述した加硫物の動的粘弾性測定において、ダングリング鎖の緩和に由来するtanδの温度分散曲線の強度に関する条件を満たす上記共役ジエン系分岐共重合体(A)を含むゴム組成物は、上述した、架橋物(架橋方法は硫黄であるか否かを問わず)、あるいは未架橋のゴム組成物であっても、優れた制振性能を発現し得る。
【0120】
上記共役ジエン系分岐共重合体(A)は、前記tanδの温度分散曲線の最大強度が1となる温度をT1としたとき、T1が-100~60℃の範囲であることが好ましい一態様であり、-95~50℃がより好ましく、-90~40℃がさらに好ましい。T1が前記範囲であると、共役ジエン系分岐共重合体(A)の低温特性に優れる傾向にある。
【0121】
上記共役ジエン系分岐共重合体(A)は、前記近似曲線と規格化した温度分散曲線の差分からなる曲線において、T1よりも高温領域における最大強度を示す温度をT2としたとき、下記式(1);
0<T2-T1≦80 (1)
の関係を満たすことが好ましい一態様である。T2-T1は、1℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましく、5℃以上であることが特に好ましい。また、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることが特に好ましい。T2-T1が前記範囲であると、後述するダングリング鎖の緩和に由来するtanδのピーク強度に優れる傾向にある。
【0122】
上記共役ジエン系分岐共重合体(A)の38℃で測定した溶融粘度は、0.1~2,000Pa・sが好ましく、0.1~1500Pa・sがより好ましく、0.1~1000Pa・sがさらに好ましい。共役ジエン系分岐共重合体(A)の溶融粘度が前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本発明において共役ジエン系分岐共重合体(A)の溶融粘度は、38℃においてブルックフィールド型粘度計により測定した値である。
【0123】
共役ジエン系分岐共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は5,000以上200,000以下であることが好ましい一態様であり、30,000以上200,000以下がより好ましく、100,000以上200,000以下がさらに好ましい。共役ジエン系分岐共重合体(A)のMwが上記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。また、共役ジエン系分岐共重合体(A)を含むゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)の加工性が向上する傾向にある。本発明においては、Mwが異なる2種以上の共役ジエン系分岐共重合体(A)を組み合わせて用いてもよい。また、2種以上の共役ジエン系分岐共重合体(A)を組み合わせて用いてもよい。
共役ジエン系分岐共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は5,000以上100,000以下であることが他の好ましい一態様であり、10,000以上100,000以下がより好ましく、30,000以上100,000以下がさらに好ましく、50,000以上100,000以下がよりさらに好ましい。共役ジエン系分岐共重合体(A)のMwが上記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。 また、共役ジエン系分岐共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は100,000超1000,000以下であることが他の好ましい一態様であり、100,000超500,000以下がより好ましく、100,000超300,000以下がさらに好ましく、100,000超200,000以下がよりさらに好ましい。共役ジエン系分岐共重合体(A)のMwが上記範囲内であると、本発明のゴム組成物又はその組成物から得られる架橋物の耐摩耗性に優れる傾向にある。
本発明においては、Mwが異なる2種以上の共役ジエン系分岐共重合体(A)を組み合わせて用いてもよい。また、2種以上の共役ジエン系分岐共重合体(A)を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
共役ジエン系分岐共重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は1.0~20.0が好ましく、1.0~10.0がより好ましく、1.0~5.0がさらに好ましく、1.0~2.0が特に好ましい。Mw/Mnが前記範囲内であると、共役ジエン系分岐共重合体(A)の粘度のばらつきが小さく、本発明のゴム組成物の作製時又は該ゴム組成物から得られるタイヤ、靴底などの物品の作製時の粘度変化が小さくなるためより好ましい。なお、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCの測定により求めた標準ポリスチレン換算のMw及び数平均分子量(Mn)の値から算出される MwとMnとの比 Mw/Mnを意味する。
【0125】
[共役ジエン系分岐共重合体(A)の製造方法]
共役ジエン系分岐共重合体(A)の製造方法は特に制限されない。共役ジエン系分岐共重合体(A)がグラフト共重合体である場合には、例えば、マクロモノマー(側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端に、重合性官能基を有する化合物を反応させて得られるマクロモノマー)と主鎖の構成単位となる単量体とを重合する方法、テトラメチルエチレンジアミン存在下であらかじめ合成した主鎖を構成する重合体と有機アルカリ金属化合物とを反応させることで主鎖をリチオ化した後に、側鎖の構成単位となる単量体を重合する方法、主鎖の構成要素となる2つの活性末端を有する重合体と側鎖の構成要素となる1つの活性末端を有する重合体の混合物を調製し、この混合物に3以上の反応性部位を有するカップリング剤を加えて反応させる方法、あらかじめ合成した主鎖の構成要素となる重合体を官能基で変性し、該官能基変性重合体と側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法などが挙げられる。これらの製造方法の中でも、共役ジエン系グラフト共重合体の主鎖、及び側鎖の重量平均分子量やビニル含量(1,4-結合含量)、側鎖の本数などを自由に制御できること、また、所望の官能基を簡便に導入できることから、上記主鎖の構成要素となる官能基変性重合体と側鎖の構成単位となる単量体を重合した重合体の活性末端とを反応させる方法が好ましい。
【0126】
<共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の製造方法(カップリング法)>
特に、共役ジエン系分岐共重合体(A)が共役ジエン系グラフト共重合体(A1)である場合には、上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の製造方法としては下記工程(A-1)及び工程(B)を含む製造方法が好ましい一形態である。
【0127】
(A-1)下記式(I)で表される活性末端重合体(I)と、下記式(II)で示される官能基を含む部分を分岐鎖として有する官能基変性共役ジエン系重合体(F)とを反応させて共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を作製する工程
【0128】
P-X (I)
(式(I)中、Pは共役ジエン単位を含む重合体セグメントを示し、Xはアニオン重合の活性末端を示す。)
【0129】
【化4】
(式(II)中、Vは、アルコキシ基又は水酸基を示し、ZはSi、Sn、Ge、Pb、P、B、又はAlであり、R
1は炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキル基、又は水素原子を示し、Nは前記Zの価数を示し、nは下記式(8)を満たす整数であり;
1≦n≦N-1 (8)
nが2以上の場合、Vは同一でも異なっていてもよく、N-nが2以上の場合、R
1は同一でも異なっていてもよく、分岐鎖が主鎖に対し、複数含まれる場合には、Zは同一でも異なっていてもよい。);及び
(B)得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を回収する工程。
【0130】
なお、官能基変性共役ジエン系重合体(F)の分岐鎖とは、官能基変性共役ジエン系重合体(F)の主鎖以外の部分を意味し、この主鎖とは、主鎖を構成する共役ジエン単位を含む全単量体単位に由来する部分全体を指す。例えば、後述する方法により官能基変性共役ジエン系重合体(F)を前駆体である未変性の共役ジエン系重合体(F')から製造する場合には、未変性の共役ジエン系重合体(F')に由来する部分全体を指す。例えば、その未変性の共役ジエン系重合体(F')にビニル結合をしたブタジエン単位が含まれる場合、重合体骨格(-(C-C)n-)中の炭素原子に接合する-CH=CH2部分(変性する化合物が付加した場合には、-CH-CH2-となる部分)までを含めて主鎖という。
【0131】
[工程(A-1)]
上記工程(A-1)で活性末端重合体(I)は、公知の重合方法を用いて製造することができる。例えば、重合末端に不活性な溶媒中、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物を開始剤として、必要に応じて極性化合物の存在下で、共役ジエンを含む単量体をアニオン重合させることにより、活性末端重合体(I)を得ることができる。
【0132】
活性末端重合体(I)に含まれるPは、共役ジエン単位を含む重合体セグメントである。この活性末端重合体のPが本発明で得られるグラフト共重合体の側鎖(b)となる。
【0133】
活性末端重合体(I)を構成する単量体単位となる単量体の具体例、好適態様等の説明、及び活性末端重合体(I)に含まれる単量体単位の具体例及び好適態様の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)に含まれる側鎖(b)に関する説明と同様である。
【0134】
アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましく、有機リチウム化合物がより好ましい。上記有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。
【0135】
上記溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0136】
上記アニオン重合の際には、極性化合物を添加してもよい。極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン単位のミクロ構造(1,4-結合含量、ビニル含量など)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0137】
上記アニオン重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0138】
上記活性末端重合体(I)は、最終的に、上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の側鎖(b)となる。上記活性末端重合体(I)のPの重量平均分子量(Mw)、1,4-結合含量、Tgの好適態様等の説明は、上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の側鎖(b)に関するものと同様である。
【0139】
上記工程(A-1)において、官能基変性共役ジエン系重合体(F)は、例えば、未変性共役ジエン系重合体(F')を後述する変性工程において官能基により変性することで得られる。前記未変性共役ジエン系重合体(F')の製造方法は特に制限されないが、例えば、乳化重合法、溶液重合法が好ましく、得られる重合体の分子量分布の観点から、溶液重合法がより好ましい。官能基変性共役ジエン系重合体(F)の官能基変性されている以外の部分が上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の主鎖(a)となる。
【0140】
未変性共役ジエン系重合体(F')を構成する単量体単位となる共役ジエンの具体例、好適例、及びその好適含有量、並びに、共役ジエン以外の他の単量体(芳香族ビニル化合物)の具体例、好適例、好適含有量等の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の主鎖(a)に関する説明と同様である。また、未変性共役ジエン系重合体(F')の重量平均分子量(Mw)、1,4-結合含量、Tgの好適態様等の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の主鎖(a)に関する説明と同様である。
【0141】
未変性共役ジエン系重合体(F')の製造方法の一例である上記乳化重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、所定量の共役ジエンを含む単量体を乳化剤の存在下に分散媒中に乳化分散し、ラジカル重合開始剤により乳化重合する。
【0142】
乳化剤としては、例えば炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩及びロジン酸塩などが挙げられる。長鎖脂肪酸塩としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸のカリウム塩又はナトリウム塩などが挙げられる。
【0143】
分散媒としては通常、水が使用される。重合時の安定性が阻害されない範囲で、分散媒はメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0144】
ラジカル重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムのような過硫酸塩、有機過酸化物、過酸化水素等が挙げられる。
【0145】
得られる未変性共役ジエン系重合体(F')の分子量を調整するため、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、チオグリコール酸、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0146】
乳化重合の温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類などにより適宜設定できるが、通常0~100℃の範囲、好ましくは0~60℃の範囲である。重合様式は、連続重合、回分重合のいずれでもよい。
【0147】
重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、イソプロピルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ヒドロキノンやベンゾキノン等のキノン系化合物、亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。
【0148】
重合反応停止後、必要に応じて老化防止剤を添加してもよい。重合反応停止後、得られたラテックスから必要に応じて未反応単量体を除去し、次いで、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩を凝固剤とし、必要に応じて硝酸、硫酸等の酸を添加して凝固系のpHを所定の値に調整しながら、上記未変性共役ジエン系重合体(F')を凝固させた後、分散媒を分離することによって重合体を回収する。次いで水洗、及び脱水後、乾燥することで、上記未変性共役ジエン系重合体(F')が得られる。なお、凝固の際に、必要に応じて予めラテックスと乳化分散液にした伸展油とを混合し、油展した未変性共役ジエン系重合体(F')として回収してもよい。
【0149】
未変性共役ジエン系重合体(F')の製造方法の一例である上記溶液重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、溶媒中で、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒、又はアニオン重合可能な活性金属若しくは活性金属化合物を開始剤として使用して、必要に応じて極性化合物の存在下で、共役ジエンを含む単量体を重合する。
【0150】
溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0151】
上記開始剤としては、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物が好ましく、アニオン重合可能な活性金属化合物がより好ましい。
【0152】
アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これらの中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
【0153】
アニオン重合可能な活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。これら有機アルカリ金属化合物の中でも有機リチウム化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物がより好ましい。
【0154】
上記開始剤の使用量は、未変性共役ジエン系重合体(F')及び官能基変性共役ジエン系重合体(F)の溶融粘度、分子量などに応じて適宜設定できるが、共役ジエンを含む全単量体100質量部に対して、通常0.01~3質量部の量で使用される。
【0155】
有機アルカリ金属化合物を開始剤として用いる場合には、上記有機アルカリ金属化合物は、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミンなどの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして使用することもできる。
【0156】
極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン単位のミクロ構造(1,4-結合含量、ビニル含量など)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0157】
溶液重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0158】
上記溶液重合の重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。得られた重合反応液をメタノール等の貧溶媒に注いで、未変性共役ジエン系重合体(F')を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記未変性共役ジエン系重合体(F')を単離できる。
【0159】
上記未変性共役ジエン系重合体(F')を官能基により変性することで、上記式(II)で示される官能基を含む部分を分岐鎖として有する官能基変性共役ジエン系重合体(F)を製造する方法としては特に制限されないが、好ましい構造の官能基を導入する観点から、例えば、未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合にメルカプト基(-SH)を有する化合物をラジカル付加反応させることにより、アルコキシシラン化合物に由来する官能基を導入する方法、未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合を白金化合物含有触媒及び必要に応じて用いられる助触媒の存在下でヒドロシリル化することで、アルコキシシラン化合物に由来する官能基を導入する方法などが挙げられる。これらの製造方法の中でも、変性試薬、触媒の入手性や、製造コストの観点からは、メルカプト基(-SH)を有する化合物をラジカル付加反応させる方法が好ましく、得られる官能基変性共役ジエン系重合体(F)の安定性の観点からは、ヒドロシリル化によりアルコキシシラン化合物に由来する官能基を導入する方法が好ましい。
【0160】
上記未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合にメルカプト基(-SH)を有する化合物をラジカル付加反応させることにより、アルコキシシラン化合物に由来する官能基を導入する方法としては、下記式(IV)で示されるシラン化合物(IV)を未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合にラジカル付加反応する方法が好ましい。
【0161】
【化5】
(式(IV)中、R
4は炭素数1~6の2価のアルキレン基を示し、R
5、及びR
6はそれぞれ独立に炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルキル基、又は水素原子を示し、nは1~3の整数であり、nが2以上の場合、R
5は同一でも異なっていてもよく、3-nが2以上の場合、R
6は同一でも異なっていてもよい。)
【0162】
上記シラン化合物(IV)としては、例えば、メルカプトメチレンメチルジエトキシシラン、メルカプトメチレントリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルメトキシジメチルシラン、2-メルカプトエチルエトキシジメチルシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、3-メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシエチルシラン、3-メルカプトプロピルジエトキシエチルシラン、3-メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、3-メルカプトプロピルエトキシジメチルシランなどが挙げられる。これらシラン化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0163】
上記シラン化合物(IV)のメルカプト基(-SH)が、未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合にラジカル付加反応することにより、シラン化合物(IV)に由来する官能基、具体的には下記式(V)で示される部分構造を官能基として有する官能基変性共役ジエン系重合体(F)が得られる。
【0164】
【化6】
(式(V)中、R
4、R
5、R
6、及びnの定義は式(IV)と同一である。)
【0165】
上記シラン化合物(IV)を、未変性共役ジエン系重合体(F')に付加させる方法は特に限定されず、例えば、未変性共役ジエン系重合体(F')中にシラン化合物(IV)、さらに必要に応じてラジカル発生剤を加えて、有機溶媒の存在下又は非存在下に加熱する方法を採用することができる。使用するラジカル発生剤には特に制限はなく、通常市販されている有機過酸化物、アゾ系化合物、過酸化水素等が使用できる。
【0166】
上記有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2.5-ヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、過酸化こはく酸、過酸化ベンゾイル及びその置換体、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、メタトルオイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチル-2-エチルヘキサノエート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシオクタノエート、t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレートなどが挙げられる。
【0167】
上記アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)、2,2'-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオンニトリル)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルなどが挙げられる。
上記ラジカル発生剤は、1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0168】
上記方法で使用される有機溶媒としては、一般的には炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒が挙げられる。これら有機溶媒の中でも、n-ブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒が好ましい。
上記有機溶媒は、1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0169】
さらに、上記方法により変性化合物を付加する反応を行う時には、副反応を抑制する観点等から老化防止剤を添加してもよい。
この時に用いる好ましい老化防止剤としては、例えば、2,6-ジt-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)(AO-40)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(AO-80)、2,4-ビス[(オクチルチオ)メチル]-6-メチルフェノール(Irganox1520L)、2,4-ビス[(ドデシルチオ)メチル]-6-メチルフェノール(Irganox1726)、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジt-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジt-ペンチルフェニルアクリレート(SumilizerGS)、2-tブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(SumilizerGM)、6-t-ブチル-4-[3-(2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イルオキシ)プロピル]-2-メチルフェノール(SumilizerGP)、亜りん酸トリス(2,4-ジt-ブチルフェニル)(Irgafos168)、ジオクタデシル3,3'-ジチオビスプロピオネート、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(ノクラック6C)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(LA-77Y)、N,N-ジオクタデシルヒドロキシルアミン(IrgastabFS042)、ビス(4-t-オクチルフェニル)アミン(Irganox5057)などが挙げられる。上記老化防止剤は、1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0170】
老化防止剤の添加量は、未変性共役ジエン系重合体(F')100質量部に対して0~10質量部が好ましく、0~5質量部がより好ましい。
【0171】
未変性共役ジエン系重合体(F')に上記シラン化合物(IV)を付加させる反応における温度は10~200℃が好ましく、50℃~180℃がより好ましい。また反応時間は1~200時間が好ましく、1~100時間がより好ましく、1~50時間がさらに好ましい。
【0172】
未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合を白金化合物含有触媒及び必要に応じて用いられる助触媒の存在下でヒドロシリル化することで、アルコキシシラン化合物に由来する官能基を導入する方法としては、未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合を、白金化合物含有触媒の存在下、好ましくは白金化合物含有触媒及び助触媒の存在下で、下記式(VI)で示されるシラン化合物(VI)によりヒドロシリル化する方法が好ましい。
【0173】
【化7】
(式(VI)中、R
7、及びR
8はそれぞれ独立に炭素数6~12のアリール基、又は炭素数1~12のアルキル基を示し、nは1~3の整数であり、nが2以上の場合、R
7は同一でも異なっていてもよく、3-nが2以上の場合、R
8は同一でも異なっていてもよい。)
【0174】
上記シラン化合物(VI)としては、例えば、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシランなどが挙げられる。これらシラン化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0175】
上記シラン化合物(VI)により、未変性共役ジエン系重合体(F')に含まれる炭素-炭素不飽和結合がヒドロシリル化反応されることにより、シラン化合物(VI)に由来する官能基、具体的には下記式(VII)で示される部分構造を官能基として有する官能基変性共役ジエン系重合体(F)が得られる。
【0176】
【化8】
(式(VII)中、R
7、R
8、及びnの定義は式(VI)と同一である。)
【0177】
上記ヒドロシリル化反応に用いられる白金化合物含有触媒としては、特に限定されないが、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン又はキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金等や、白金-炭素、白金-アルミナ、白金-シリカ等の担持触媒などが挙げられる。
ヒドロシリル化の際の選択性の面から、0価の白金錯体が好ましく、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン又はキシレン溶液がより好ましい。
【0178】
白金化合物含有触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性や、生産性等の点から、上記シラン化合物(VI)1モルに対し、含有される白金原子が1×10-7~1×10-2モルとなる量が好ましく、1×10-7~1×10-3モルとなる量がより好ましい。
【0179】
上記反応における助触媒としては、無機酸のアンモニウム塩、酸アミド化合物及びカルボン酸から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0180】
無機酸のアンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジ亜リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、ホウフッ化アンモニウムなどが挙げられる。これらの中でも、pKaが2以上の無機酸のアンモニウム塩が好ましく、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムがより好ましい。
【0181】
酸アミド化合物としては、例えば、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、アクリルアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、フタルアミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミドなどが挙げられる。
【0182】
カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メトキシ酢酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、乳酸、グリコール酸などが挙げられる。これらの中でも、ギ酸、酢酸、乳酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0183】
助触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性、選択性、コスト等の観点から上記シラン化合物(VI)1モルに対して1×10-5~5×10-1モルが好ましく、1×10-4~5×10-1モルがより好ましい。
【0184】
なお、上記ヒドロシリル化反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。使用可能な溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これら溶媒は、1種単独で用いられても、2種以上混合して用いられてもよい。
【0185】
上記ヒドロシリル化反応における反応温度は特に限定されるものではなく、通常0℃以上の温度、必要に応じて加熱条件下で行うことができるが、0~200℃が好ましい。適度な反応速度を得るためには加熱下で反応させることが好ましく、このような観点から、反応温度は40~110℃がより好ましく、40~90℃がさらに好ましい。また、反応時間も特に限定されるものではなく、通常1~60時間程度であるが、1~30時間が好ましく、1~20時間がより好ましい。
【0186】
上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)において、上記式(V)又は式(VII)で示される部分構造を有する官能基は1種単独で含まれていてもよく2種以上含まれていてもよい。したがって、官能基変性共役ジエン系重合体(F)は、上記シラン化合物(IV)及びシラン化合物(VI)からなる群から選ばれる1種の化合物により変性されたジエン系重合体であってもよく、また2種以上の化合物により変性されたジエン系重合体であってもよい。
【0187】
得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の透明性、熱安定性,耐候性の観点から、上記式(II)中のZは、Si、Snであることが好ましく、Siであることがより好ましい。
【0188】
得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の透明性、熱安定性,耐候性、後述するカップリング工程における反応性の観点から、上記式(II)中のVとしては、アルコキシ基が好ましく、炭素数1~5のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、及びエトキシ基が特に好ましい。
【0189】
上記式(II)中のnは上記式(1)を満たす整数であるが、後述するカップリング工程における反応性や、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の分岐点に結合する側鎖の本数の制御の観点から、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、Zの価数と同一であることが特に好ましい。
【0190】
官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりの上記式(II)で示される部分の平均個数は、1~50個が好ましく、2~30個がより好ましく、3~20個がさらに好ましい。
【0191】
官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりの上記式(II)中の官能基Vの平均個数は、2~150個が好ましく、4~90個がより好ましく、6~60個がさらに好ましい。
【0192】
官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりの上記式(II)中の官能基Vの平均個数は、官能基変性共役ジエン系重合体(F)に含まれる官能基Vの官能基当量(g/eq)と標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(9)より求める。
(官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりの上記式(II)中の官能基Vの平均個数)=[(数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)×(共役ジエン及び必要に応じて含まれる共役ジエン以外の他の単量体単位の平均分子量)]/(官能基Vの官能基当量) (9)
【0193】
なお、官能基変性共役ジエン系重合体(F)に含まれる官能基Vの官能基当量は、官能基V1個あたりに結合している共役ジエン及び必要に応じて含まれる共役ジエン以外の他の単量体の質量を意味する。官能基の当量は、1H-NMRを用いて官能基V由来のピークと重合体主鎖に由来するピークの面積比から算出する。なお、官能基V由来のピークとは、アルコキシ基及び水酸基由来のピークを指す。
【0194】
未変性共役ジエン系重合体(F')と上記シラン化合物(IV)又はシラン化合物(VI)との混合割合は、例えば、官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子当たりの式(II)に含まれる官能基Vの平均個数が所望の値になるように適宜設定すればよいが、例えば、未変性共役ジエン系重合体(F')と上記シラン化合物(IV)又はシラン化合物(VI)との質量比(未変性共役ジエン系重合体(F’)/シラン化合物(IV)又はシラン化合物(VI))が0.3~100となるように混合すればよい。
【0195】
官能基変性共役ジエン系重合体(F)のMw及び1,4-結合含量の好適範囲は、未変性共役ジエン系重合体(F')の場合と同一である。
【0196】
上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)の38℃で測定した溶融粘度は、0.1~2,000Pa・sが好ましく、0.1~1500Pa・sがより好ましく、0.1~1000Pa・sがさらに好ましい。官能基変性共役ジエン系重合体(F)の溶融粘度が前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。
【0197】
工程(A-1)において、活性末端重合体(I)と上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)を反応させることで、上記式(II)で示される部分中の官能基Vと前記活性末端重合体(I)の置換反応が起こり、分岐点であるヘテロ原子Zに側鎖となる前記活性末端重合体(I)が結合した共役ジエン系グラフト共重合体(A1)が形成される(以下、本反応をカップリング反応と称する)。該カップリング反応、及び後述する不活性化工程において未反応であった官能基V(アルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの残存する官能基)が共役ジエン系グラフト共重合体(A1)に存在する場合には、官能基Vがそのまま残存するか、又は加水分解されることで、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の分岐点に結合したアルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(c)が形成される。
【0198】
上述したような2種の重合体の反応により共役ジエン系グラフト共重合体を製造する場合、従来からよく用いられるシリルクロリド基を反応性の官能基として有する重合体を原料の1つとして使用すると、副生成物としてハロゲン化物が生成する。このハロゲン化物に由来して、得られる共役ジエン系グラフト共重合体の透明性、耐熱性、耐候性が低下する傾向にある。また、シリルクロリド基を反応性の官能基として有する重合体を合成するために使用するクロロシラン類は、非常に反応性が高く、また有害性も高いため、取り扱い性に問題がある。
【0199】
共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に直接結合する側鎖(b)の平均本数Wは、上記カップリング反応における活性末端重合体(I)と官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量の比により、所望の範囲に調整することができる。例えば、(活性末端重合体(I)の仕込み量(モル数))/(官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量(モル数))=10/1の場合、側鎖(b)の平均本数Wは10本となる。ただし、Wの上限は、官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりが有する官能基Vの個数である。
【0200】
(活性末端重合体(I)の仕込み量)/(官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量)のモル比は、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)1分子あたりの上記分岐点に直接結合する側鎖(b)の平均本数Wが所望の値となるように適宜設定すればよいが、例えば、2~200であることが好ましく、3~100であることがより好ましく、5~50であることがさらに好ましい。(活性末端重合体(I)の仕込み量)/(官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量)のモル比が2より小さいと、導入できる側鎖の本数が少なくなり、200より大きいと、後述するカップリング率が低下する傾向にある。
【0201】
上記カップリング反応は、通常、0~100℃の温度範囲で、0.5~50時間行う。官能基変性共役ジエン系重合体(F)は希釈して用いてもよく、希釈溶媒としては、活性末端に対して不活性で反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の飽和脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素が挙げられる。
また、カップリング反応の際に添加剤としてルイス塩基を加えてもよい。ルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N-メチルモルホリン等のアミン類などが挙げられる。これらルイス塩基は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0202】
上記カップリング反応においては、活性末端重合体(I)を合成した反応容器に上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)を添加してもよいし、逆に上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)に対して活性末端重合体(I)を添加してもよい。また、上述のように、活性末端重合体(I)、上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)のいずれも、必要に応じて溶媒で希釈して用いてもよい。また、上記活性末端重合体(I)は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよく、上記官能基変性共役ジエン系重合体(F)も、1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0203】
上記カップリング反応におけるカップリング率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。上記カップリング率が50%未満では、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の力学特性が低下するため好ましくない。カップリング率は、GPC測定で得られたカップリング未反応の活性末端重合体(I)に由来する成分のピーク面積と全てのピーク面積の総和を用いて下記式(10)より求める。
(カップリング率(%))=[{(全てのピーク面積の総和)-(活性末端重合体(I)に由来する成分のピーク面積)}/(全てのピーク面積の総和)]×100 (10)
【0204】
カップリング率は官能基変性共役ジエン系重合体(F)の添加量を多くしたり、ルイス塩基の添加量を多くしたり、反応温度を高くしたり、反応時間を長くしたりすることによって高めることができる。カップリング反応は、カップリング率が所望の範囲になるまで行うことができる。その後、メタノール、イソプロパノール等の重合停止剤を添加することで、カップリング反応を停止できる。
【0205】
上記分岐点に直接結合し得る、アルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(c)の個数は、上記カップリング反応における活性末端重合体(I)と官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量のモル比や、後述するアルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの残存する官能基(未反応の官能基V)の少なくとも一部を不活性化する工程における試薬の使用量や反応時間、及び必要に応じて使用される極性化合物の種類や添加量により、所望の範囲に調整することができる。
【0206】
[工程(A-2)]
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の製造方法では、上記分岐点に直接結合する官能基(c)の個数を所望の範囲に調整するために、工程(A-1)の後に、
(A-2)前記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)中のアルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの残存する官能基(未反応で存在する官能基V)の少なくとも一部を不活性化する工程(以下、不活性化工程と称する);
を含むことが好ましい一態様である。
回収工程(B)で加えられる水や酸により、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A1)に含まれるアルコキシ基が反応して水酸基を生成し比較的多くの水酸基が含まれるようになると、これら多量の水酸基同士が縮合反応を起こしやすくなると考えられるため、不活性化工程(A-2)は、回収工程(B)よりも前に行うことが好ましい。
【0207】
アルコキシ基及び水酸基を不活性化するために用いる試薬(以下、不活性化試薬と称することがある)としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム類;メチルナトリウム、エチルナトリウム、n-プロピルナトリウム、イソプロピルナトリウム、n-ブチルナトリウム、sec-ブチルナトリウム、t-ブチルナトリウム等のアルキルナトリウム類;メチルカリウム、エチルカリウム、n-プロピルカリウム、イソプロピルカリウム、n-ブチルカリウム、sec-ブチルカリウム、t-ブチルカリウム等のアルキルカリウム類;メチルマグネシウム臭化物、エチルマグネシウム臭化物、t-ブチルマグネシウム臭化物、t-ブチルマグネシウム塩化物、sec-ブチルマグネシウムヨウ化物等のアルキルマグネシウムハロゲン化物類;ジメチル銅リチウム、ジエチル銅リチウム、メチルエチル銅リチウム、メチルn-プロピル銅リチウム、エチルn-ブチル銅リチウム等のジアルキル銅リチウム類;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムジイソエチルアミド、リチウムジt-ブチルアミド等のリチウムアミド類;等のルイス塩基が挙げられる。これらの中でも、不活性化反応を速やかに進行させるには立体障害が小さいことが望ましいため、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、メチルリチウム、メチルマグネシウム臭化物、ジメチル銅リチウムが好ましい。
【0208】
工程(A-2)における不活性化試薬の使用量/工程(A-1)で得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1)中に含まれる基Vに由来するアルコキシ基及び水酸基の合計量のモル比は、0.5以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。また、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。不活性化試薬の量が少ない場合、上記分岐点に直接結合し得る官能基(c)の個数を所望の範囲に調整することができず、また、不活性化試薬の量が多い場合、経済性が悪化する傾向にある。
【0209】
上記工程(A-2)の不活性化反応は、通常、0~100℃の温度範囲で、0.1~50時間行う。不活性化試薬は希釈して用いてもよく、希釈溶媒としては、不活性化試薬に対して不活性で反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の飽和脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素が挙げられる。また、上記不活性化反応の際に添加剤としてルイス塩基を加えてもよく、ルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N-メチルモルホリン等のアミン類などが挙げられる。これらルイス塩基は、1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0210】
上記不活性化反応は、上記分岐点に直接結合し得る官能基(c)の個数が所望の範囲になるまで行うことができる。その後、メタノール、イソプロパノール等の重合停止剤を添加することで、不活性化試薬を失活できる。
【0211】
[工程(B)]
上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の製造方法では、
(B)得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を回収する工程;
を含む。
【0212】
工程(B)では、得られた本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を回収する。共役ジエン系グラフト共重合体(A1)の回収方法は特に制限はないが、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を含む溶液を工程(A-1)又は工程(A-2)で得ている場合は、例えば、得られた溶液をメタノール等の貧溶媒に注いで、共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記共役ジエン系グラフト共重合体(A1)を単離することにより回収できる。
【0213】
<共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法(マクロイニシエーター法)>
また、共役ジエン系分岐共重合体(A)が共役ジエン系グラフト共重合体(A2)である場合には、下記工程(A’-1)、工程(B’)、及び工程(C’)を含むマクロイニシエーター法による製造方法が好ましい一形態である。
(A’-1)極性化合物の存在下で共役ジエン単位を含む重合体(M)を有機リチウム化合物と反応させることにより、重合体(M)に含まれるアニオン活性部位をリチオ化する工程;及び
(B’)共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を作製する工程;及び
(C’)得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を回収する工程
【0214】
[工程(A’-1)]
上記工程(A’-1)における主鎖の構成要素となる共役ジエン単位を含む重合体(M)の製造方法は特に制限されないが、例えば、乳化重合法、溶液重合法が好ましく、得られる重合体の分子量分布の観点から、溶液重合法がより好ましい。共役ジエン単位を含む重合体(M)が本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)となる。
【0215】
共役ジエン単位を含む重合体(M)を構成する単量体単位となる共役ジエンの具体例、好適例、及びその好適含有量、並びに、共役ジエン以外の他の単量体(芳香族ビニル化合物)の具体例、好適例、好適含有量等の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)に関する説明と同様である。また、共役ジエン単位を含む重合体(M)の重量平均分子量(Mw)、ビニル含量、Tgの好適態様等の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の主鎖(a2)に関する説明と同様である。
【0216】
共役ジエン単位を含む重合体(M)の製造方法の一例である上記乳化重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、所定量の共役ジエンを含む単量体を乳化剤の存在下に分散媒中に乳化分散し、ラジカル重合開始剤により乳化重合する。
【0217】
乳化剤としては、例えば炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩及びロジン酸塩などが挙げられる。長鎖脂肪酸塩としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸のカリウム塩又はナトリウム塩などが挙げられる。
【0218】
分散媒としては通常、水が使用される。重合時の安定性が阻害されない範囲で、分散媒はメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0219】
ラジカル重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムのような過硫酸塩、有機過酸化物、過酸化水素等が挙げられる。
【0220】
得られる共役ジエン単位を含む重合体(M)の分子量を調整するため、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、チオグリコール酸、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン、α-メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0221】
乳化重合の温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類などにより適宜設定できるが、通常0~100℃の範囲、好ましくは0~60℃の範囲である。重合様式は、連続重合、回分重合のいずれでもよい。
【0222】
重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、イソプロピルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ヒドロキノンやベンゾキノン等のキノン系化合物、亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。
【0223】
重合反応停止後、必要に応じて老化防止剤を添加してもよい。重合反応停止後、得られたラテックスから必要に応じて未反応単量体を除去し、次いで、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩を凝固剤とし、必要に応じて硝酸、硫酸等の酸を添加して凝固系のpHを所定の値に調整しながら、上記共役ジエン単位を含む重合体(M)を凝固させた後、分散媒を分離することによって重合体を回収する。次いで水洗、及び脱水後、乾燥することで、上記共役ジエン単位を含む重合体(M)が得られる。なお、凝固の際に、必要に応じて予めラテックスと乳化分散液にした伸展油とを混合し、油展した共役ジエン単位を含む重合体(M)として回収してもよい。
【0224】
共役ジエン単位を含む重合体(M)の製造方法の一例である上記溶液重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、溶媒中で、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒、又はアニオン重合可能な活性金属若しくは活性金属化合物を開始剤として使用して、必要に応じて極性化合物の存在下で、共役ジエンを含む単量体を重合する。
【0225】
溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0226】
上記開始剤としては、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物が好ましく、アニオン重合可能な活性金属化合物がより好ましい。
【0227】
アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これらの中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
【0228】
アニオン重合可能な活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。これら有機アルカリ金属化合物の中でも有機リチウム化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物がより好ましい。
【0229】
上記開始剤の使用量は、共役ジエン単位を含む重合体(M)の溶融粘度、分子量などに応じて適宜設定できるが、共役ジエンを含む全単量体100質量部に対して、通常0.01~3質量部の量で使用される。
【0230】
有機アルカリ金属化合物を開始剤として用いる場合には、上記有機アルカリ金属化合物は、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミンなどの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして使用することもできる。
【0231】
極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン部位のミクロ構造(ビニル含量)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0232】
溶液重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0233】
上記溶液重合の重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。得られた重合反応液をメタノール等の貧溶媒に注いで、共役ジエン単位を含む重合体(M)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記共役ジエン単位を含む重合体(M)を単離できる。なお、リチオ化反応に影響を及ぼさない範囲において、重合停止後の重合反応液をそのままリチオ化反応に用いてもよい。また、必要に応じて、溶媒を一部除去したり、溶媒を追加して重合反応液を希釈してもよい。
【0234】
工程(A’-1)では、上述のようにして得られた重合体(M)に含まれるアニオン活性部位を、極性化合物の存在下、有機リチウム化合物と反応させることによりリチオ化する。
【0235】
上記工程(A’-1)で重合体(M)のリチオ化に用いる有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;が挙げられる。これら有機リチウム化合物の中でも有機モノリチウム化合物が好ましく、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムがより好ましく、sec-ブチルリチウムが特に好ましい。
【0236】
上記有機リチウム化合物の使用量は、上述した共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖(b2)の平均本数に応じて適宜設定できる。例えば、(有機リチウム化合物の仕込み量(モル数))/(共役ジエン単位を含む重合体(M)の仕込み量(モル数))=4/1の場合、側鎖(b2)の平均本数は4本となる。
【0237】
上述の通り、側鎖密度は下記式(2)より求める。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数)/[(主鎖(a2)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2)
すなわち、上記有機リチウム化合物の使用量は、目的とする側鎖密度となるように、主鎖(a2)の数平均分子量Mnと共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数を設計することで、自ずと決めることができる。
【0238】
上記工程(A’-1)で重合体(M)のリチオ化の際に用いる極性化合物は、リチオ化反応を促進するために用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。これら極性化合物の中でも、3級アミンが好ましく、テトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。極性化合物の使用量は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上が特に好ましい。また、100モル以下が好ましく、50モル以下がより好ましく、10モル以下が特に好ましい。0.01モル未満の場合は反応速度に劣る傾向にあり、100モル超の場合は経済性に劣る傾向にある。
【0239】
上記工程(A’-1)のリチオ化は、通常、重合体(M)を溶媒に溶解した状態で行う。その溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0240】
上記工程(A’-1)のリチオ化の反応温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。0℃未満では反応速度に劣る傾向にあり、100℃超の場合は分解等の副反応が増加する傾向にある。
【0241】
上記工程(A’-1)のリチオ化の反応時間は、反応の進行に応じて適宜設定できるが、0.01~100時間が好ましく、0.1~50時間がより好ましく、0.2~20時間が特に好ましい。
【0242】
工程(A’-1)におけるリチオ化後の重合体(M)の1H-NMR測定において、4.0~5.7ppmの範囲のピーク面積を100とした場合に、5.7~6.4ppmの範囲のピーク面積が、0.1~10の範囲であることが好ましく、0.3~5の範囲であることがより好ましく、0.5~4の範囲であることが特に好ましい。ピーク面積がこの範囲にあることにより、リチオ化反応が適正に進行していると言え、得られる共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖(b2)の平均本数が適正な範囲となる。
【0243】
[工程(A’-2)]
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法は、側鎖(b2)のビニル含量を所望の範囲に調整するために、工程(A’-1)の後に、
(A’-2)ルイス酸を添加する工程;
を含むことが好ましい一態様である。
【0244】
上記ルイス酸は、リチオ化反応を促進するために添加した上記極性化合物の作用を減らし、後述する工程(B’)における側鎖のビニル含量を所望の範囲に調整するために添加する。ルイス酸としては、上記工程(A’-1)にて生成したリチオ化点を失活させないアルキル金属化合物が好ましく、例えば、トリメチルアルミニウム、トリ-n-プロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-へキシルアルミニウム、及びトリオクチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム化合物;ブチルエチルマグネシウム、ジ-n-ブチルマグネシウム、及びジ-n-へキシルマグネシウム等のアルキルマグネシウム化合物;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジ-n-プロピル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、及びジ-n-ブチル亜鉛等のアルキル亜鉛化合物が挙げられる。これらアルキル金属化合物の中でも、アルキルアルミニウム化合物、若しくはアルキル亜鉛化合物が好ましく、アルキルアルミニウム化合物がより好ましく、トリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。
【0245】
上記ルイス酸の使用量は、所望の側鎖(b2)のビニル含量によって適宜調整できるが、例えば、上記工程(A’-1)に用いる有機アルカリ金属化合物1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上が特に好ましい。また、10モル以下が好ましく、5モル以下がより好ましく、1モル以下が特に好ましい。0.01モル未満の場合はルイス酸の添加効果に乏しく所望のビニル化度に調整することが困難であり、10モル超の場合は側鎖重合の重合速度が低下する傾向があり、また、経済性に劣る傾向にある。また、上記工程(A’-1)に用いる極性化合物1モルに対して、0.02モル以上が好ましく、0.1モル以上がより好ましく、0.2モル以上が特に好ましい。また、20モル以下が好ましく、10モル以下がより好ましく、2モル以下が特に好ましい。0.02モル未満の場合はルイス酸の添加効果に乏しく所望のビニル化度に調整することが困難であり、20モル超の場合は側鎖重合の重合速度が低下する傾向があり、また、経済性に劣る傾向にある。
【0246】
上記ルイス酸を添加するタイミングは、工程(A’-1)の後であれば、後述する工程(B’)の前であっても、また、工程(B’)の途中の任意のタイミングであってもよく、所望の側鎖(b2)のビニル含量によって任意に選択できる。
[工程(B’)]
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法は、
(B’)共役ジエン及び芳香族ビニル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体を添加して、重合体(M)中のリチオ化された部分から重合して、主鎖である重合体(M)に対し側鎖を形成し、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を作製する工程;
を含む。上記工程(B’)において重合した単量体が本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖(b2)となる。工程(B’)において重合される重合体を構成する単量体単位となる共役ジエンの具体例、好適例、及びその好適含有量、並びに、共役ジエン以外の他の単量体(芳香族ビニル化合物)の具体例、好適例、好適含有量等の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖(b2)に関する説明と同様である。また、工程(B’)において重合される重合体の重量平均分子量(Mw)、ビニル含量、Tgの好適態様等の説明は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の側鎖(b2)に関する説明と同様である。
【0247】
上記工程(B’)において、側鎖(b2)のビニル含量を所望の範囲に調整するために、極性化合物をさらに添加してもよい。また、ビニル含量を所望の範囲に調整するために、上述の通りルイス酸を添加してもよい。
【0248】
上記工程(B’)において使用可能な溶媒は、上記工程(A’-1)における溶媒の好適例と同様である。必要に応じて、工程(A’-1)の後の任意のタイミングで、溶媒をさらに添加してもよい。
【0249】
上記工程(B’)の重合温度としては、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が特に好ましい。0℃未満では重合速度に劣る傾向にあり、100℃超の場合は分解等の副反応が増加する傾向にある。
【0250】
上記工程(B’)の重合時間としては、反応の進行に応じて適宜設定できるが、0.01~100時間が好ましく、0.1~50時間がより好ましく、0.2~20時間が特に好ましい。
【0251】
上記工程(B’)における重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0252】
[工程(C’)]
本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の製造方法は、
(C’)得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を回収する工程;
を含む。
【0253】
工程(C’)では、得られた本発明の共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を回収する。共役ジエン系グラフト共重合体(A2)の回収方法は特に制限はないが、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を含む溶液を工程(B’)で得ている場合は、例えば、得られた溶液をメタノール等の貧溶媒に注いで、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記共役ジエン系グラフト共重合体(A2)を単離することにより回収できる。
【0254】
[固形ゴム(B)]
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、固形ゴム(B)をさらに含有していてもよい。本発明で用いる固形ゴム(B)とは、20℃において固形状で取り扱うことができるゴムをいい、固形ゴム(B)には、上記共役ジエン系分岐共重合体(A)は含まれない。固形ゴム(B)の100℃におけるムーニー粘度ML1+4は通常20~200の範囲にある。上記固形ゴム(B)としては、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」ともいう。)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリル共重合体ゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、及びウレタンゴム等が挙げられる。これら固形ゴム(B)の中でも、天然ゴム、SBR、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴムが好ましく、天然ゴム、及びSBRがさらに好ましい。これら固形ゴム(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0255】
上記固形ゴム(B)の数平均分子量(Mn)は、得られるゴム組成物及びその組成物から得られる架橋物における特性を十分に発揮させる観点から、80,000以上であることが好ましく、100,000~3,000,000の範囲内であることがより好ましい。なお、本明細書における数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0256】
上記天然ゴムとしては、例えばSMR(マレーシア産TSR)、SIR(インドネシア産TSR)、STR(タイ産TSR)等のTSR(Technically Specified Rubber)やRSS(Ribbed Smoked Sheet)等のタイヤ工業において一般的に用いられる天然ゴム、高純度天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、水酸基化天然ゴム、水素添加天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴムが挙げられる。中でも、品質のばらつきが少ない点、及び入手容易性の点から、SMR20、STR20やRSS#3が好ましい。これら天然ゴムは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0257】
SBRとしては、タイヤ用途に用いられる一般的なものを使用できるが、具体的には、スチレン含量が0.1~70質量%のものが好ましく、5~50質量%のものがより好ましく、15~35質量%のものがさらに好ましい。また、ビニル含量が0.1~60モル%のものが好ましく、0.1~55モル%のものがより好ましい。
【0258】
本発明において「ビニル含量」とは、重合体に含まれる、共役ジエン単位の合計100モル%中、1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位(1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)以外で結合をしている共役ジエン単位)の合計モル%を意味する。ビニル含量は、1H-NMRを用いて1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位由来のピークと1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位に由来するピークの面積比から算出できる。
【0259】
SBRの重量平均分子量(Mw)は100,000~2,500,000であることが好ましく、150,000~2,000,000であることがより好ましく、200,000~1,500,000であることがさらに好ましい。上記の範囲である場合、加工性と機械強度を両立することができる。なお、本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0260】
本発明において使用するSBRの示差熱分析法により求めたガラス転移温度は、-95~0℃であることが好ましく、-95~-5℃であることがより好ましい。ガラス転移温度を上記範囲にすることによって、SBRの粘度を取り扱いが容易な範囲とできる。
【0261】
本発明において用いることができるSBRは、スチレンとブタジエンとを共重合して得られる。SBRの製造方法について特に制限はなく、乳化重合法、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれも用いることができるが、これら製造方法の中でも、乳化重合法、溶液重合法が好ましい。
【0262】
乳化重合スチレンブタジエンゴム(以下、E-SBRともいう。)は、公知又は公知に準ずる通常の乳化重合法により製造できる。例えば、所定量のスチレン及びブタジエン単量体を乳化剤の存在下に乳化分散し、ラジカル重合開始剤により乳化重合することにより得られる。
【0263】
溶液重合スチレンブタジエンゴム(以下、S-SBRともいう。)は、通常の溶液重合法により製造でき、例えば、溶媒中でアニオン重合可能な活性金属を使用して、所望により極性化合物の存在下、スチレン及びブタジエンを重合する。
【0264】
溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は通常、単量体濃度が1~50質量%となる範囲で用いることが好ましい。
【0265】
アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これら活性金属の中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。さらにアルカリ金属の中でも、有機アルカリ金属化合物がより好ましく用いられる。
【0266】
有機アルカリ金属化合物としては、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。中でも有機リチウム化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物がより好ましい。有機アルカリ金属化合物の使用量は、要求されるS-SBRの分子量によって適宜決められる。有機アルカリ金属化合物は、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン等の第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして使用することもできる。
【0267】
極性化合物としては、アニオン重合において、反応を失活させず、ブタジエン部位のミクロ構造やスチレンの共重合体セグメント中の分布を調整するために通常用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物等が挙げられる。
【0268】
重合反応の温度は、通常-80~150℃、好ましくは0~100℃、さらに好ましくは30~90℃の範囲である。重合様式は、回分式あるいは連続式のいずれでもよい。また、スチレン及びブタジエンのランダム共重合性を向上させるため、重合系中のスチレン及びブタジエンの組成比が特定範囲になるように、反応液中にスチレン及びブタジエンを連続的あるいは断続的に供給することが好ましい。
【0269】
重合反応は、重合停止剤としてメタノール、イソプロパノール等のアルコールを添加して停止できる。重合反応停止後の重合溶液は、直接乾燥やスチームストリッピング等により溶媒を分離して、目的のS-SBRを回収できる。なお、溶媒を除去する前に、予め重合溶液と伸展油とを混合し、油展ゴムとして回収してもよい。
【0270】
上記SBRとしては、本発明の効果を損ねない範囲であれば、SBRに官能基が導入された変性SBRを用いてもよい。官能基としては、例えばアミノ基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0271】
変性SBRの製造方法としては、例えば、重合停止剤を添加する前に、重合活性末端と反応し得る四塩化錫、テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,4-トリレンジイソシアネート等のカップリング剤や、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N-ビニルピロリドン等の重合末端変性剤、又は特開2011-132298号公報に記載のその他の変性剤を添加する方法が挙げられる。この変性SBRにおいて、官能基が導入される重合体の位置については重合末端であってもよく、重合体セグメントの側鎖であってもよい。
【0272】
上記ブタジエンゴムとしては、例えば、四ハロゲン化チタン-トリアルキルアルミニウム系、ジエチルアルミニウムクロライド-コバルト系、トリアルキルアルミニウム-三弗化ホウ素-ニッケル系、ジエチルアルミニウムクロライド-ニッケル系等のチーグラー系触媒;トリエチルアルミニウム-有機酸ネオジム-ルイス酸系等のランタノイド系希土類金属触媒、又はS-SBRと同様に有機アルカリ金属化合物を用いて重合された、市販のブタジエンゴムを用いることができる。チーグラー系触媒により重合されたブタジエンゴムが、シス体含量が高く好ましい。また、ランタノイド系希土類金属触媒を用いて得られる超高シス体含量のブタジエンゴムを用いてもよい。
【0273】
ブタジエンゴムのビニル含量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。ビニル含量が50質量%を超えると転がり抵抗性能が悪化する傾向にある。ビニル含量の下限は特に限定されない。またガラス転移温度はビニル含量によって変化するが、-40℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましい。
【0274】
ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は90,000~2,000,000であることが好ましく、150,000~1,500,000であることがより好ましい。Mwが上記範囲にある場合、加工性と機械強度が良好となる。
【0275】
上記ブタジエンゴムは、本発明の効果を損ねない範囲であれば、その一部が多官能型変性剤、例えば四塩化錫、四塩化珪素、エポキシ基を分子内に有するアルコキシシラン、又はアミノ基含有アルコキシシランのような変性剤を用いることにより分岐構造又は極性官能基を有していてもよい。
【0276】
上記イソプレンゴムとしては、例えば、四ハロゲン化チタン-トリアルキルアルミニウム系、ジエチルアルミニウムクロライド-コバルト系、トリアルキルアルミニウム-三弗化ホウ素-ニッケル系、ジエチルアルミニウムクロライド-ニッケル系等のチーグラー系触媒;トリエチルアルミニウム-有機酸ネオジム-ルイス酸系等のランタノイド系希土類金属触媒、又はS-SBRと同様に有機アルカリ金属化合物を用いて重合された、市販のイソプレンゴムを用いることができる。チーグラー系触媒により重合されたイソプレンゴムが、シス体含量が高く好ましい。また、ランタノイド系希土類金属触媒を用いて得られる超高シス体含量のイソプレンゴムを用いてもよい。
【0277】
イソプレンゴムのビニル含量は好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。ビニル含量が50質量%を超えると転がり抵抗性能が悪化する傾向にある。ビニル含量の下限は特に限定されない。またガラス転移温度はビニル含量によって変化するが、-20℃以下であることが好ましく、-30℃以下であることがより好ましい。
【0278】
イソプレンゴムの重量平均分子量(Mw)は90,000~2,000,000であることが好ましく、150,000~1,500,000であることがより好ましい。Mwが上記範囲にある場合、加工性と機械強度が良好となる。
【0279】
上記イソプレンゴムは、本発明の効果を損ねない範囲であれば、その一部が多官能型変性剤、例えば四塩化錫、四塩化珪素、エポキシ基を分子内に有するアルコキシシラン、又はアミノ基含有アルコキシシランのような変性剤を用いることにより分岐構造又は極性官能基を有していてもよい。
【0280】
本発明のゴム組成物(例えば、タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に固形ゴム(B)が含まれる場合には、固形ゴム(B)100質量部に対する上記共役ジエン系分岐共重合体(A)の含有量は、0.1~100質量部が好ましく、0.5~60質量部がより好ましく、1~50質量部がさらに好ましく、2~40質量部がよりさらに好ましい。共役ジエン系分岐共重合体(A)の含有量が上記範囲内であると、本発明のゴム組成物又はその組成物の架橋物から得られるタイヤ、靴底などの物品では、アイスグリップ性能、耐摩耗性がより一層良好になる。
【0281】
[フィラー(C)]
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、フィラー(C)をさらに含有していてもよい。本発明のゴム組成物で用いるフィラー(C)としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラス繊維、繊維状フィラー、ガラスバルーン等の無機フィラー;樹脂粒子、木粉、及びコルク粉等の有機フィラーなどが挙げられる。このようなフィラーがゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に含まれることにより、機械強度、耐熱性、又は耐候性等の物性の改善、硬度の調整、ゴムの増量をすることができる。ゴム組成物、特にタイヤ用ゴム組成物において、機械強度の向上等の物性の改善などの観点からは、上記フィラー(C)の中でも、カーボンブラック及びシリカが好ましい。また、ゴム組成物を靴底用ゴム組成物として用いる場合には、上記フィラー(C)の中でもシリカが好ましい。
【0282】
上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックなどが挙げられる。架橋速度や機械強度向上の観点からは、これらカーボンブラックの中でも、ファーネスブラックが好ましい。これらカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0283】
前記カーボンブラックの平均粒径としては、分散性、機械強度、硬度などを向上させる観点から5~100nmが好ましく、5~80nmがより好ましく、5~70nmがさらに好ましい。なお、カーボンブラックの平均粒径は、透過型電子顕微鏡により粒子の直径を測定してその平均値を算出することにより求めることができる。
【0284】
上記ファーネスブラックの市販品としては、例えば、三菱化学株式会社「ダイヤブラック」、東海カーボン株式会社製「シースト」などが挙げられる。アセチレンブラックの市販品としては、例えば、電気化学工業株式会社製「デンカブラック」などが挙げられる。ケッチェンブラックの市販品としては、例えば、ライオン株式会社製「ECP600JD」などが挙げられる。
【0285】
上記カーボンブラックは、共役ジエン系分岐共重合体(A)又は固形ゴム(B)への濡れ性、分散性などを向上させる観点から、硝酸、硫酸、塩酸又はこれらの混合酸等による酸処理や、空気存在下での熱処理による表面酸化処理を行ってもよい。また、本発明のゴム組成物(特にタイヤ用ゴム組成物)及びこの組成物から得られる架橋物の機械強度向上の観点から、黒鉛化触媒の存在下に2,000~3,000℃で熱処理を行ってもよい。なお、黒鉛化触媒としては、ホウ素、ホウ素酸化物(例えば、B2O2、B2O3、B4O3、B4O5等)、ホウ素オキソ酸(例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等)及びその塩、ホウ素炭化物(例えば、B4C、B6C等)、窒化ホウ素(BN)、その他のホウ素化合物が好適に用いられる。
【0286】
上記カーボンブラックは、粉砕等により粒度を調整した後、用いることもできる。カーボンブラックの粉砕には、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル)や各種ボールミル(転動ミル、振動ミル、遊星ミル)、撹拌ミル(ビーズミル、アトライター、流通管型ミル、アニュラーミル)等が使用できる。
【0287】
上記シリカ(以下、シリカ(C1)ともいう。)としては、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等を挙げることができる。これらシリカの中でも、加工性、機械強度及び耐摩耗性を一層向上させる観点から、湿式シリカが好ましい。これらシリカ(C1)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0288】
シリカ(C1)の平均粒径は、加工性、転がり抵抗性能、機械強度、及び耐摩耗性を向上する観点から、0.5~200nmが好ましく、5~150nmがより好ましく、10~100nmがさらに好ましい。なお、シリカ(C1)の平均粒径は、透過型電子顕微鏡により粒子の直径を測定して、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0289】
得られるゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)及びその架橋物の転がり抵抗性能向上等の物性向上の観点からは、フィラー(C)としてはシリカ(C1)を含むことがより好ましい。
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に固形ゴム(B)及びシリカ(C1)を含む場合、固形ゴム(B)100質量部に対するシリカ(C1)の含有量は、5~200質量部が好ましく、20~200質量部がより好ましく、30~100質量部がさらに好ましい。フィラー(C)としてシリカ(C1)の含有量が上記範囲内であると、本発明のゴム組成物又はその組成物から得られる架橋物から得られるタイヤ、靴などの物品では、アイスグリップ性能、耐摩耗性がより一層良好になる。
【0290】
また、本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)に固形ゴム(B)及びシリカ(C1)を含み、フィラー(C)として、シリカ及びカーボンブラック以外のフィラーを用いる場合には、その含有量は、固形ゴム(B)100質量部に対して、20~120質量部が好ましく、20~90質量部がより好ましく、20~80質量部がさらに好ましい。
これらフィラー(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0291】
[その他の成分]
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、そのゴムを架橋するために、さらに架橋剤(D)を含有していてもよい。架橋剤(D)としては、例えば、硫黄、硫黄化合物、酸素、有機過酸化物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、キノン及びキノンジオキシム誘導体、ハロゲン化合物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、エポキシ化合物、金属ハロゲン化物及び有機金属ハロゲン化物、及びシラン化合物などが挙げられる。硫黄化合物としては、例えば、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィドなどが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、及び1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。これら架橋剤(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記架橋剤(D)は、架橋物の力学特性の観点から、固形ゴム(B)100質量部に対し、通常0.1~10質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.8~5質量部含有される。
【0292】
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、例えばゴムを架橋(加硫)するための架橋剤(D)として硫黄、硫黄化合物等が含まれている場合には、さらに加硫促進剤(E)を含有していてもよい。加硫促進剤(E)としては、例えば、グアニジン系化合物、スルフェンアミド系化合物、チアゾール系化合物、チウラム系化合物、チオウレア系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、アルデヒド-アミン系化合物、アルデヒド-アンモニア系化合物、イミダゾリン系化合物、及びキサンテート系化合物などが挙げられる。これら加硫促進剤(E)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記加硫促進剤(E)は、固形ゴム(B)100質量部に対し、通常0.1~15質量部、好ましくは0.1~10質量部含有される。
【0293】
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、例えばゴムを架橋(加硫)するための架橋剤(D)として硫黄、硫黄化合物等が含まれている場合には、さらに加硫助剤(F)を含有していてもよい。加硫助剤(F)としては、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸、亜鉛華等の金属酸化物、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩が挙げられる。これら加硫助剤(F)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記加硫助剤(F)は、固形ゴム(B)100質量部に対し、通常0.1~15質量部、好ましくは1~10質量部含有される。
【0294】
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)では、フィラー(C)としてシリカ(C1)を含有する場合は、シランカップリング剤を含有することが好ましい一態様である。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系化合物、メルカプト系化合物、ビニル系化合物、アミノ系化合物、グリシドキシ系化合物、ニトロ系化合物、クロロ系化合物等が挙げられる。
【0295】
スルフィド系化合物としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0296】
メルカプト系化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、及び2-メルカプトエチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0297】
ビニル系化合物としては、例えばビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
アミノ系化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、及び3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0298】
グリシドキシ系化合物としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0299】
ニトロ系化合物としては、例えば、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、及び3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
クロロ系化合物としては、例えば、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、及び2-クロロエチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
その他の化合物としては、例えば、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0300】
これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらシランカップリング剤の中でも、添加効果が大きい観点及びコストの観点から、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3-メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0301】
上記シランカップリング剤は、シリカ(C1)100質量部に対して好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部、さらに好ましくは1~15質量部含有される。シランカップリング剤の含有量が前記範囲内であると、分散性、カップリング効果、補強性、耐摩耗性が向上する。
【0302】
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、加工性、流動性等の改良を目的とし、必要に応じてシリコンオイル、アロマオイル、TDAE(Treated Distilled Aromatic Extracts)、MES(Mild Extracted Solvates)、RAE(Residual Aromatic Extracts)、パラフィンオイル、ナフテンオイル等のプロセスオイル、脂肪族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、C9系樹脂、ロジン系樹脂、クマロン・インデン系樹脂、フェノール系樹脂等の樹脂成分を軟化剤として含有していてもよい。本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)が上記プロセスオイルを軟化剤として含有する場合には、その含有量は、固形ゴム(B)100質量部に対して50質量部より少ないことが好ましい。
【0303】
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、耐候性、耐熱性、耐酸化性等の向上を目的として、必要に応じて老化防止剤、ワックス、酸化防止剤、滑剤、光安定剤、スコーチ防止剤、加工助剤、顔料や色素等の着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料等の添加剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、ラクトン系化合物、ヒドロキシル系化合物等が挙げられる。老化防止剤としては、例えば、アミン-ケトン系化合物、イミダゾール系化合物、アミン系化合物、フェノール系化合物、硫黄系化合物及びリン系化合物等が挙げられる。これら添加剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0304】
[ゴム組成物の製造方法]
本発明ゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)の製造方法は、上記各成分を均一に混合できれば特に限定されない。該ゴム組成物の製造に用いる装置としては、例えば、ニーダールーダー、ブラベンダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー等の接線式又は噛合式の密閉式混練機、単軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、及びローラーなどが挙げられる。上記ゴム組成物の製造は、通常70~270℃の温度範囲で行うことができる。
【0305】
[架橋物]
本発明のゴム組成物(例えばタイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)を架橋することにより、架橋物を得ることができる。該ゴム組成物の架橋条件は、その用途等に応じて適宜設定できる。例えば、硫黄又は硫黄化合物を架橋剤とし、上記ゴム組成物を金型により架橋(加硫)する場合には、架橋温度は通常120~200℃、加圧条件は通常0.5~2.0MPaとし、架橋(加硫)することができる。
【0306】
架橋物中からの、共役ジエン系分岐共重合体(A)の抽出率は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
なお、上記抽出率は、架橋物2gをトルエン400mL中に浸漬し、23℃で48時間後にトルエン中に抽出された共役ジエン系分岐共重合体(A)の量から算出することができる。
【0307】
本発明のタイヤ用ゴム組成物又は該ゴム組成物の架橋物は、タイヤの少なくとも一部として用いることもできる。このようにして得られるタイヤは、フィラー(C)の分散状態が理想的な状態となっている(例えば、ペイン効果が十分に低減している)ため、転がり抵抗性能に優れ、また耐摩耗性が良好である。
【0308】
上記タイヤ用ゴム組成物又は及び該ゴム組成物の架橋物を使用できるタイヤの部位としては、例えばトレッド(キャップトレッド、アンダートレッド)、サイドウォール、ランフラットタイヤ用ゴム補強層(ライナーなど)、リムクッション、ビードフィラー、ビードインシュレーション、ビードエイペックス、クリンチエイペックス、ベルト、ベルトクッション、ブレーカー、ブレーカークッション、チェーファー、チェーファーパッド、ストリップエイペックスなどが挙げられる。
【0309】
本発明の靴底用ゴム組成物又は該ゴム組成物の架橋物は、靴底の少なくとも一部として用いることもできる。
具体的には、ハイキングブーツ、サンダル、安全靴、登山靴、マラソンシューズ、地下足袋及び長靴等の履物用靴底として用いることができる。
【実施例】
【0310】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0311】
実施例及び比較例において使用した各成分は以下の通りである。
〔共役ジエン系分岐共重合体(A)〕
下記製造例1~5及び6~7で得た共役ジエン系グラフト共重合体(A1-1)~(A1-5)、(A'1-6)~(A'1-7)、(A1‐8)~(A1-12)、及び(A2-13)~(A2-20)
〔固形ゴム(B)〕
固形ゴム(B-1) 乳化重合スチレンブタジエンゴム:SBR1500(JSR株式会社製、スチレン含量:23.5質量%、ビニル含量:15モル%、Tg:-53℃)
固形ゴム(B-2) 天然ゴム:STR20(タイ産):VON BUNDIT社製(Tg -63℃)
〔シリカ(C1)〕
シリカ:ULTRASIL7000GR(エボニックジャパン株式会社製、湿式シリカ、平均粒径14nm)
〔シリカ(C1)以外のフィラー(C)〕
カーボンブラック:ダイヤブラックI(N220)(三菱化学株式会社製、平均粒径20nm)
〔シランカップリング剤〕
SI75(エボニックジャパン株式会社製)
〔架橋剤(D)〕
硫黄:ミュークロンOT-20(四国化成工業株式会社)
〔加硫促進剤(E)〕
加硫促進剤(E-1):ノクセラーCZ(大内新興化学工業株式会社製)
加硫促進剤(E-2):ノクセラーD(大内新興化学工業株式会社製)
加硫促進剤(E-3):ノクセラーTBT-N(大内新興化学工業株式会社製)
〔加硫助剤(F)〕
加硫助剤(F-1) ステアリン酸:ルナックS-20(花王株式会社製)
加硫助剤(F-2) 亜鉛華:酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製)
〔その他の成分〕
ワックス:サンタイトS(精工化学株式会社製)
老化防止剤:ノクラック6C(大内新興化学工業株式会社製)
TDAE:VivaTec500(H&R社製)
【0312】
以下の製造例において得られた共役ジエン系グラフト共重合体の物性は次の方法により評価した。
【0313】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、共役ジエン系グラフト共重合体、及びその製造の各段階における重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を標準ポリスチレン換算で求めた。
装置:東ソー株式会社製 GPC装置「HLC-8220」
分離カラム:東ソー株式会社製 「TSKgel SuperMultiporeHZ-M(カラム径=4.6mm、カラム長=15cm)」(2本を直列に繋いで使用)
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
注入量:10μl
濃度:1mg/1cc(共役ジエン系グラフト共重合体/THF)
【0314】
(2)1,4-結合含量、スチレン単位含有量
1H-NMRによって、共役ジエン系グラフト共重合体、及びその製造の各段階における重合体の1,4-結合含量、及びスチレン単位含有量を算出した。得られたスペクトルの1,4-結合で結合した共役ジエン単位由来の二重結合のピークと、1,4-結合以外で結合した共役ジエン単位由来の二重結合のピークとの面積比からビニル含量を算出し、スチレン単位に由来する芳香環のピークと、共役ジエン単位由来の二重結合のピークとの面積比からスチレン単位含有量を算出した。
装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置 「JNM-ECX400」
溶媒:重クロロホルム
測定温度:50℃
積算回数:1024回
【0315】
(3)重合体1分子あたりのSi原子(分岐点)の平均個数Y
共役ジエン系グラフト共重合体、及び官能基変性共役ジエン系重合体(F)1分子あたりのSi原子(分岐点)の平均個数Yは、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により測定した重合体のSi含量(質量%)と標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下式より求める。
(重合体1分子あたりのSi原子の平均個数)=[(Si含量(質量%))/100]×[(数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)×(共役ジエン及び必要に応じて含まれる共役ジエン以外の他の単量体単位の平均分子量)]/Siの原子量
【0316】
(4)共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子(分岐点)あたりの官能基(c)の平均個数(X/Y)
共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子(分岐点)あたりの官能基(c)(アルコキシ基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つ)の平均個数(X/Y)は、共役ジエン系グラフト共重合体の29Si-NMRを測定した結果から求められる。具体的には、官能基(c)が1個結合しているSi、官能基(c)が2個結合しているSiなどの積分値に官能基の平均個数を乗じたものを合計し、積分値の単純合計と比較することにより算出する。
【0317】
(5)共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの官能基(c)の平均個数X
共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの官能基(c)の平均個数Xは、共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子(分岐点)あたりの官能基(c)の平均個数と上記共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりのSi原子の個数を用いて下式より求める。
(共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの官能基(c)の平均個数X)=(共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子(分岐点)あたりの官能基(c)の平均個数)×(共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりのSi原子の平均個数)
【0318】
(6)共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数W
共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数Wは、上述したカップリング工程における、共役ジエン系グラフト共重合体の側鎖(b)の構成要素となる活性末端重合体(I)の活性末端あたりの仕込み量(モル数)と官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量(モル数)を用いて下式より求める。
(共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数)=(側鎖(b)の構成要素となる活性末端重合体(I)の活性末端あたりの仕込み量(モル数))/(官能基変性共役ジエン系重合体(F)の仕込み量(モル数))
【0319】
(7)共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子(分岐点)あたりの側鎖(b)の平均本数(W/Y)
共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子(分岐点)あたりの側鎖(b)の平均本数(W/Y)は、上記共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数と上記共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりのSi原子の平均個数を用いて下式より求める。
(共役ジエン系グラフト共重合体に含まれるSi原子あたりの側鎖(b)の平均本数(W/Y))=(共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数W)/(共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりのSi原子の平均個数Y)
【0320】
(8)共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたりの側鎖(b2)の平均本数
共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたりの側鎖(b2)の平均本数は、後述するあらかじめ合成した共役ジエン系重合体をテトラメチルエチレンジアミン存在下で有機アルカリ金属化合物と反応させることで主鎖をリチオ化した後に、側鎖の構成単位となる単量体を重合する方法で製造する場合には、リチオ化反応に使用する有機アルカリ金属化合物と主鎖の構成単位となる共役ジエン系重合体の仕込み比より算出した。
【0321】
(9)側鎖(b2)の側鎖密度
側鎖(b2)の側鎖密度は、共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数と主鎖(a2)の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を用いて下記式(2’)より算出した。
(側鎖密度)=(共役ジエン系グラフト共重合体(A2)1分子あたり側鎖(b2)の平均本数)/[(主鎖(a2)の数平均分子量Mn)/(スチレン単位の分子量)]×100 (2’)
【0322】
[製造例1]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1580g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)56gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、テトラヒドロフラン2.9gと、ブタジエン1250gを逐次添加して、1時間重合した。その後メタノール3.3gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、未変性共役ジエン系重合体(F'-1)を得た。
【0323】
(工程(2))
続いて、容量1Lのオートクレーブ中に、工程(1)で得られた未変性共役ジエン系重合体(F'-1)700gを仕込み、60℃で3時間撹拌をしながら窒素脱気をした。t-ブチルパーオキシピバレート0.9gと3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン51gを添加し、80℃で8時間反応させて、官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)を得た。得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の分析により、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(G-1)の主鎖(a)の重量平均分子量、1,4-結合含量、スチレン単位含有量を求めることができる。得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の重量平均分子量は26,000、1,4-結合含量は70モル%、スチレン単位含有量は0質量%、重合体1分子あたりのSi原子の平均個数は4個であった。得られた官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)にシクロヘキサン1750gを加えて濃度30質量%に希釈し、後述のカップリング反応で使用する官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の希釈溶液を得た。
【0324】
(工程(3))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン700g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)78gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、ブタジエン340gを逐次添加して、1時間重合し活性末端重合体(I-1)を得た。工程(3)における重合体溶液をサンプリングして分析することで、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(G-1)の側鎖(b)の重量平均分子量、1,4-結合含量、スチレン単位含有量を求めることができる。得られた活性末端重合体(I-1)の重量平均分子量は5,000、1,4-結合含量は90モル%、スチレン単位含有量は0質量%であった。
【0325】
(工程(4))
続いて、工程(3)で得た活性末端重合体(I-1)を含む溶液に、テトラヒドロフラン7.0g及び工程(2)で得た官能基変性共役ジエン系重合体(F-1)の希釈溶液1480gを添加し50℃で2時間カップリング反応をさせた。その後、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)190gを添加し6時間反応させて残存するアルコキシ基の一部を封止した。その後メタノール21gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。
【0326】
(工程(5))
得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系グラフト共重合体(A1-1)を得た。得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1-1)の重量平均分子量は46,000、Mw/Mnは1.5、スチレン単位含有量は0質量%、重合体1分子あたりのSi原子(分岐点)の平均個数は4個、重合体一分子あたりの官能基(c)の平均個数は0.4個、Si原子(分岐点)あたりの官能基(c)の平均個数は0.1個、重合体一分子あたりの側鎖(b)の平均本数は4本、Si原子あたり(分岐点)の側鎖(b)の平均本数は1本であった。実施例1において使用した各試薬の種類、量を表1に、得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1-1)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0327】
[製造例2~5、6~7]
工程(1)~(5)で使用する各試薬の種類、量を表1に記載されるように変更したこと以外は、製造例1と同じ方法によって、共役ジエン系グラフト共重合体(A1-2)~(A1-5)、(A'1-6)~(A'1-7)を得た。得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1-2)~(A1-5)、(A'1-6)~(A'1-7)の分子仕様、物性を表2に示す。
【0328】
【0329】
表1中、略字はそれぞれ下記を示す
SBL:sec-ブチルリチウム
THF:テトラヒドロフラン
t-BPOP:t-ブチルパーオキシピバレート
Bd:1,3-ブタジエン
MPTES:(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン
【0330】
【0331】
[製造例8~12]
工程(1)~(5)で使用する各試薬の種類、量を表3に記載されるように変更したこと以外は、製造例1と同じ方法によって、共役ジエン系グラフト共重合体(A1-8)~(A1-12)を得た。得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A1-8)~(A1-12)の分子仕様、物性を表4に示す。
【0332】
【0333】
表3中、略字はそれぞれ下記を示す
SBL:sec-ブチルリチウム
DTHFP:2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン
THF:テトラヒドロフラン
t-BPOP:t-ブチルパーオキシピバレート
Bd:1,3-ブタジエン
St:スチレン
MPTES:(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン
【0334】
【0335】
[製造例13]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン1590g及びsec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)60gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン1350gを逐次添加して、1時間重合した。その後メタノール3.5gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系重合体(M-1)を得た。得られた共役ジエン系重合体(M-1)の分析により、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)の主鎖(a2)の重量平均分子量、1,4-結合含量を求めることができる。得られた共役ジエン系重合体(M-1)の重量平均分子量は26,000、1,4-結合含量は90モル%であった。
【0336】
(工程(2))
続いて、十分に乾燥した5Lオートクレーブ中に、工程(1)で得られた共役ジエン系重合体(M-1)51gを仕込み、60℃で3時間撹拌をしながら重合体の窒素脱気、及びオートクレーブ内の窒素置換を行った。シクロヘキサン570gを仕込み、40℃に昇温した後、sec-ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)42g、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン4.1gを逐次添加して、40℃で1時間リチオ化反応を実施した。リチオ化反応終了後、シクロヘキサン1750gを添加して反応液を希釈し、再度40℃まで昇温した。その後、トリイソブチルアルミニウム(20.0質量%n-ヘキサン溶液)を34g添加した。
【0337】
(工程(3))
重合温度を40℃となるように制御しながら、1,3-ブタジエン550gを逐次添加して、2時間重合した。その後メタノール11gを添加して重合反応を停止させ、重合体溶液を得た。工程(3)における試薬の仕込み量、及び工程(3)における重合体溶液の分析により、後述する共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)の側鎖(b2)の数平均分子量、1,4-結合含量、スチレン単位含有量を求めることができる。共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)の側鎖(b2)の数平均分子量は15,000、1,4-結合含量は70モル%、スチレン単位含有量は0質量%であった。
【0338】
(工程(4))
得られた重合体溶液に水を添加して撹拌し、水で重合体溶液を洗浄した。撹拌を終了し、重合体溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合体溶液を70℃で24時間真空乾燥することにより、共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)を得た。得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)の重量平均分子量は326,000、Mw/Mnは1.5、共役ジエン系グラフト共重合体1分子あたりの側鎖(b)の平均本数は20本、側鎖密度は7.4モル%、分岐点にはヘテロ原子、及び芳香族ビニル化合物単位は含まれなかった。得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)の分子仕様、物性を表6に示す。
【0339】
[製造例14~20]
工程(1)~(4)で使用する各試薬の種類、量を表5に記載されるように変更したこと以外は、製造例13と同じ方法によって、共役ジエン系グラフト共重合体(A2-14)~(A2-20)を得た。得られた共役ジエン系グラフト共重合体(A2-13)~(A2-20)の分子仕様、物性を表6に示す。
【0340】
【0341】
表6中、略字はそれぞれ下記を示す
SBL:sec-ブチルリチウム
TMEDA:N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン
TIBA:トリイソブチルアルミニウム
Ip:イソプレン
Bd:1,3-ブタジエン
Ip:イソプレン
St:スチレン
【0342】
【0343】
実施例1~5及び比較例1~3
表7に示した配合割合(質量部)にしたがって、共役ジエン系分岐共重合体(A)、固形ゴム(B)、フィラー(C)、加硫助剤、シランカップリング剤及びその他の成分を、それぞれ密閉式バンバリーミキサーに投入して開始温度60℃、樹脂温度が140℃となるように6分間混練した後、ミキサー外に取り出して室温まで冷却した。次いで、この混合物を再度密閉式バンバリーミキサーに投入し、加硫剤及び加硫促進剤を加えて開始温度50℃、到達温度100℃となるように75秒間混練することでゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)を得た。
得られたゴム組成物をプレス成形(プレス条件:160℃、30分)して直径50mm、幅10mmのタイヤ形状の加硫ゴムサンプルを作製し、下記の方法に基づき、耐摩耗性能を評価した。評価結果を表7に示す。
【0344】
また、上記と同様にして得られたゴム組成物をプレス成形(プレス条件:160℃、60分)して加硫させ、直径80mm、幅16mmのタイヤ形状の加硫ゴムサンプルを作製し、下記の方法に基づき、氷上摩擦係数(μ)を評価した。
結果を表7に示す。
【0345】
(耐摩耗性)
加硫ゴムサンプルの耐摩耗性の評価を行った。
実施例1~5及び比較例1~3で得られた加硫ゴムサンプルの摩耗量を用いて測定した。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
なお、数値が小さいほど摩耗量が少なく耐摩耗性が良好である。
〔測定装置及び測定条件〕
・装置:株式会社上島製作所製 FPS摩耗試験機
・測定温度:35℃
・路面:セーフティウォーク240番
・速度:サンプル回転数80m/min固定
・荷重:40N
・Slip ratio:10%
・タルクFeed量:0.04cm3/sec
【0346】
(氷上摩擦係数(μ))
加硫ゴムサンプルのアイスグリップ性能の指標として氷上摩擦係数(μ)の評価を行った。
実施例1~5及び比較例1~3で得られた加硫ゴムサンプルの氷上摩擦係数を用いて測定した。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
タイヤと路面のSlip ratioを0から40%までの範囲で摩擦係数を測定し、得られた摩擦係数の最大値を、氷上摩擦係数(μ)とした。氷上摩擦係数(μ)の数値が高いほど、アイスグリップ性能は良好であることを示す。
なお、表7には、比較例3の数値を100とした際の相対値を示す。
〔測定装置及び測定条件〕
・装置:株式会社上島製作所製 RTM摩擦試験機
・測定温度:-10.0℃
・路面:氷
・速度:30km/hrs
・荷重:50N
・Slip ratio:0~40%
【0347】
実施例1~5のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、1,4-結合含量が高い重合体セグメントと1,4-結合含量が低い重合体セグメントを有し、かつこれら重合体セグメントの1,4-結合含量の差が本発明の要件を満たす共役ジエン系分岐共重合体を含有する。
これら実施例1~5のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、共役ジエン系分岐共重合体を全く含まない比較例3のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物と比較して耐摩耗性が同程度ないしに優れており、氷上摩擦係数で評価したアイスグリップ性能に優れていることが分かる。
一方、共役ジエン系分岐共重合体を含むが、その共役ジエン系分岐共重合体に含まれる重合体セグメントの1,4-結合含量が比較的低く、かつ1,4-結合含量の差が本発明の要件を満たさない共役ジエン系分岐共重合体を含む比較例2のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、比較例3で得られる架橋物と比較して、アイスグリップ性能に優れるものの、耐摩耗性には劣ることが分かる。
また、共役ジエン系分岐共重合体を含むが、その共役ジエン系分岐共重合体に含まれる重合体セグメントの1,4-結合含量が比較的高く、かつ1,4-結合含量の差が本発明の要件を満たさない共役ジエン系分岐共重合体を含む比較例1のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、比較例3で得られる架橋物と比較して、耐摩耗性は優れるものの、アイスグリップ性能は劣ることが分かる。
これらのことから、実施例1~5のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、耐摩耗性及びアイスグリップ性能が両立していることが分かる。
【0348】
【0349】
実施例6~19及び比較例4~6
表8~10に示した配合割合(質量部)にしたがって、共役ジエン系分岐共重合体(A)、固形ゴム(B)、フィラー(C)、加硫助剤、シランカップリング剤及びその他の成分を、それぞれ密閉式バンバリーミキサーに投入して開始温度60℃、樹脂温度が140℃となるように6分間混練した後、ミキサー外に取り出して室温まで冷却した。次いで、この混合物を再度密閉式バンバリーミキサーに投入し、加硫剤及び加硫促進剤を加えて開始温度50℃、到達温度100℃となるように75秒間混練することでゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)を得た。
得られたゴム組成物をプレス成形(プレス条件:160℃、30分)して直径50mm、幅10mmのタイヤ形状の加硫ゴムサンプルを作製し、下記の方法に基づき、耐摩耗性能を評価した。評価結果を表8、10に示す。
【0350】
また、上記と同様にして得られたゴム組成物をプレス成形(プレス条件:160℃、60分)して加硫させ、直径80mm、幅16mmのタイヤ形状の加硫ゴムサンプルを作製し、下記の方法に基づき、氷上摩擦係数(μ)を評価した。評価結果を表8、9に示す。
【0351】
上記と同様にして得られたゴム組成物をプレス成形(160℃、20分)して加硫ゴムシート(厚み2mm)を作製し、下記の方法に基づき、ウェットグリップ性能を評価した。評価結果を表9、10に示す。
【0352】
(耐摩耗性)
加硫ゴムサンプルの耐摩耗性の評価を行った。
実施例6~13、18、19及び比較例4、6で得られた加硫ゴムサンプルの摩耗量を用いて測定した。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
なお、数値が小さいほど摩耗量が少なく耐摩耗性が良好である。
〔測定装置及び測定条件〕
・装置:株式会社上島製作所製 FPS摩耗試験機
・測定温度:35℃
・路面:セーフティウォーク240番
・速度:サンプル回転数80m/min固定
・荷重:40N
・Slip ratio:表8は10%、表10は5%
・タルクFeed量:0.04cm3/sec
【0353】
(氷上摩擦係数(μ))
加硫ゴムサンプルのアイスグリップ性能の指標として氷上摩擦係数(μ)の評価を行った。
実施例6~17及び比較例4、5で得られた加硫ゴムサンプルの氷上摩擦係数を用いて測定した。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
タイヤと路面のSlip ratioを0から40%までの範囲で摩擦係数を測定し、得られた摩擦係数の最大値を、氷上摩擦係数(μ)とした。氷上摩擦係数(μ)の数値が高いほど、アイスグリップ性能は良好であることを示す。
なお、表8は比較例4を、表9は比較例5の数値を100とした際の相対値を示す。
〔測定装置及び測定条件〕
・装置:株式会社上島製作所製 RTM摩擦試験機
・測定温度:-10.0℃
・路面:氷
・速度:30km/hrs
・荷重:50N
・Slip ratio:0~40%
【0354】
(ウェットグリップ性能)
実施例14~19及び比較例5、6で作製したゴム組成物の加硫ゴムシートから縦40mm×横5mmの試験片を切り出し、GABO社製動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度0℃、周波数10Hz、静的歪み10%、動的歪み2%の条件で、tanδを測定し、ウェットグリップ性能の指標とした。各実施例及び比較例の数値は、表9は比較例5を、表10は比較例6の値を100とした際の相対値である。なお、数値が大きいほどゴム組成物のウェットグリップ性能が良好である。
【0355】
【0356】
実施例6~13のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、1,4-結合含量が高い重合体セグメントと1,4-結合含量が低い重合体セグメントを有し、かつこれら重合体セグメントの1,4-結合含量の差が本発明の要件を満たす共役ジエン系分岐共重合体を含有する。
これら実施例6~13のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、共役ジエン系分岐共重合体を全く含まない比較例4のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物と比較して耐摩耗性が同程度ないし優れており、氷上摩擦係数で評価したアイスグリップ性能に優れていることが分かる。
【0357】
【0358】
実施例14~17のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、1,4-結合含量が高い重合体セグメントと1,4-結合含量が低い重合体セグメントを有し、かつこれら重合体セグメントの1,4-結合含量の差が本発明の要件を満たす共役ジエン系分岐共重合体を含有する。
これら実施例14~17のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、共役ジエン系分岐共重合体を全く含まない比較例5のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物と比較して、ウェットグリップ性能若しくは氷上摩擦係数のどちらか一方を悪化させずに、もう一方の物性を向上させていることが分かる。
【0359】
【0360】
実施例18~19のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)は、1,4-結合含量が高い重合体セグメントと1,4-結合含量が低い重合体セグメントを有し、かつこれら重合体セグメントの1,4-結合含量の差が本発明の要件を満たす共役ジエン系分岐共重合体を含有する。
これら実施例18~19のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物は、共役ジエン系分岐共重合体を全く含まない比較例6のゴム組成物(タイヤ用ゴム組成物、靴底用ゴム組成物)から得られる架橋物と比較して、耐摩耗性が同程度で、ウェットグリップ性能に優れていることが分かる。