(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-25
(45)【発行日】2023-06-02
(54)【発明の名称】内壁部材の再生方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/02 20060101AFI20230526BHJP
C25D 11/02 20060101ALI20230526BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230526BHJP
【FI】
C23C4/02
C25D11/02
H01L21/302 101G
(21)【出願番号】P 2022541306
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2021024419
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水無 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 忠義
(72)【発明者】
【氏名】渡部 拓
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-224348(JP,A)
【文献】特開2007-258634(JP,A)
【文献】特開2010-095780(JP,A)
【文献】特開2007-227443(JP,A)
【文献】特開2009-185391(JP,A)
【文献】特開2004-190136(JP,A)
【文献】特開平10-321559(JP,A)
【文献】森田 正,真空部品向け溶射・再生表面処理技術,Journal of the Vacuum Society of Japan,日本,2017年,60巻, 第3号,P.102-104,Online ISSN:1882-4749,特に「2.4 除膜・洗浄処理」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-6/00
C25D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置においてプラズマ処理が行われる処理室の内壁に設けられる内壁部材の再生方法であって、
前記内壁部材は、
第1表面、前記第1表面よりも高い位置に位置する第2表面、および、前記第1表面と前記第2表面とを繋ぐ第1側面を有する基材と、
前記第1表面上および前記第1側面上に形成され、且つ、前記第1側面上に位置する第1端部を有する陽極酸化膜と、
前記第1端部を覆うように、前記第1表面上、前記第1側面上および前記第2表面上に形成された第1溶射膜であって、前記第1表面上に形成されている前記陽極酸化膜上に位置する第2端部を有する前記第1溶射膜と、
を備え、
(a)前記第1溶射膜から露出している前記陽極酸化膜をマスク材によって覆う工程、
(b)前記(a)工程後、前記第1溶射膜に対してブラスト処理を行うことで、前記第2表面上の前記第1溶射膜を除去すると共に、前記マスク材に覆われていない前記陽極酸化膜が前記第1溶射膜によって覆われるように、前記第1表面上および前記第1側面上の前記第1溶射膜の一部を残す工程、
(c)前記(b)工程後、残されている前記第1溶射膜上および前記第2表面上に、溶射法によって第2溶射膜を形成する工程、
(d)前記(c)工程後、前記マスク材を取り外す工程、
を有
し、
前記基材は、内周と外周との間で所定の厚さを有する円筒形状を成し、
前記第2表面は、前記基材の前記内周側から前記基材の前記外周側へ向かう方向において、前記第1表面よりも高い位置に位置する、内壁部材の再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の内壁部材の再生方法において、
前記(b)工程において、前記ブラスト処理は、前記第2表面から前記第1表面へ向かう方向であって、且つ、前記第1表面に対して所定の角度で傾斜した方向から、ブラスト粒子を投射することで行われる、内壁部材の再生方法。
【請求項3】
請求項1に記載の内壁部材の再生方法において、
前記(a)工程において、前記マスク材は、前記第2端部に接している、内壁部材の再生方法。
【請求項4】
請求項3に記載の内壁部材の再生方法において、
前記第2溶射膜は、前記第1表面上に形成されている前記陽極酸化膜上に位置する第3端部を有し、
前記第3端部の位置は、前記第1溶射膜の前記第2端部の位置と一致する、内壁部材の再生方法。
【請求項5】
請求項1に記載の内壁部材の再生方法において、
前記マスク材は、樹脂テープからなる、内壁部材の再生方法。
【請求項6】
請求項1に記載の内壁部材の再生方法において、
前記第1溶射膜および前記第2溶射膜は、同じ材料からなる、内壁部材の再生方法。
【請求項7】
請求項1に記載の内壁部材の再生方法において
、
前記第1表面、前記第1側面および前記第2表面は、前記基材の外周側に設けられている、内壁部材の再生方法。
【請求項8】
プラズマ処理装置においてプラズマ処理が行われる処理室の内壁に設けられる内壁部材の再生方法であって、
前記内壁部材は、
第1表面、前記第1表面よりも高い位置に位置する第2表面、および、前記第1表面と前記第2表面とを繋ぐ第1側面を有する基材と、
前記第1表面上、前記第1側面上および前記第2表面上に形成され、且つ、前記第1表面上に位置する第1端部を有する陽極酸化膜と、
前記第1端部を覆うように、前記第1表面上に形成された第1溶射膜であって、前記第1表面上に形成されている前記陽極酸化膜上に位置する第2端部を有する前記第1溶射膜と、
を備え、
(a)前記第1溶射膜から露出し、且つ、少なくとも前記第1表面上および前記第1側面上に形成されている前記陽極酸化膜を、マスク材によって覆う工程、
(b)前記(a)工程後、前記第1溶射膜に対してブラスト処理を行うことで、前記第1表面上の前記第1溶射膜を除去する工程、
(c)前記(b)工程後、前記マスク材から露出している前記第1表面上に、溶射法によって第2溶射膜を形成する工程、
(d)前記(c)工程後、前記マスク材を取り外す工程、
を有
し、
前記基材は、内周と外周との間で所定の厚さを有する円筒形状を成し、
前記第2表面は、前記基材の前記内周側から前記基材の前記外周側へ向かう方向において、前記第1表面よりも高い位置に位置する、内壁部材の再生方法。
【請求項9】
請求項8に記載の内壁部材の再生方法において、
前記(a)工程において、前記マスク材は、前記第2端部に接している、内壁部材の再生方法。
【請求項10】
請求項9に記載の内壁部材の再生方法において、
前記第2溶射膜は、前記第1表面上に位置する第3端部を有し、
前記第3端部の位置は、前記第1溶射膜の前記第2端部の位置と一致する、内壁部材の再生方法。
【請求項11】
請求項8に記載の内壁部材の再生方法において、
前記マスク材は、前記第1表面および前記第1側面の各々の形状に沿った形状を有する治具である、内壁部材の再生方法。
【請求項12】
請求項8に記載の内壁部材の再生方法において、
前記第1溶射膜および前記第2溶射膜は、同じ材料からなる、内壁部材の再生方法。
【請求項13】
請求項8に記載の内壁部材の再生方法において
、
前記第1表面、前記第1側面および前記第2表面は、前記基材の外周側に設けられている、内壁部材の再生方法。
【請求項14】
請求項8に記載の内壁部材の再生方法において、
前記(b)工程において、前記マスク材に覆われておらず、且つ、前記第1溶射膜によって覆われていた前記陽極酸化膜も除去され、前記第1端部の位置が後退する、内壁部材の再生方法。
【請求項15】
請求項14に記載の内壁部材の再生方法において、
(e)前記(d)工程後、前記内壁部材をプラズマに晒す工程、
(f)前記(e)工程後、前記第2溶射膜から露出し、且つ、少なくとも前記第1表面上および前記第1側面上に形成されている前記陽極酸化膜を、前記マスク材によって覆う工程、
(g)前記(f)工程後、前記第2溶射膜に対してブラスト処理を行うことで、前記第1表面上の前記第2溶射膜を除去する工程、
(h)前記(g)工程後、前記マスク材から露出している前記第1表面上に、溶射法によって第3溶射膜を形成する工程、
(i)前記(h)工程後、前記マスク材を取り外す工程、
を有し、
前記(i)工程後の前記第1端部の位置は、前記(f)工程前の前記第1端部の位置と一致する、内壁部材の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内壁部材の再生方法に関し、特に、プラズマ処理装置においてプラズマ処理が行われる処理室の内壁に設けられる内壁部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハを加工し、電子デバイスなどを製造する工程において、半導体ウェハの表面に積層された複数の膜層によって集積回路が形成される。この製造工程には、微細な加工が必要とされ、プラズマを用いたエッチング処理が適用されている。このようなプラズマエッチング処理による加工では、電子デバイスの高集積化に伴って、高い精度および高い歩留まりが要求されている。
【0003】
プラズマエッチング処理を行うためのプラズマ処理装置は、真空容器の内部にプラズマが形成される処理室を備え、処理室の内部において、半導体ウェハが収納される。処理室の内壁を構成する部材は、強度および製造コストに関する理由から、通常、アルミニウムまたはステンレスなどの金属製の材料を基材としている。更に、この処理室の内壁は、プラズマ処理の際に、プラズマに接触するまたはプラズマに面する。それ故、処理室の内壁を構成する部材では、基材の表面にプラズマ耐性の高い皮膜が配置される。上記皮膜によって、基材がプラズマから保護される。
【0004】
このような皮膜を形成する技術として、所謂、溶射法によって溶射膜を形成する方法が従来から知られている。溶射法では、大気または所定の圧力にされたガス雰囲気中でプラズマが形成され、皮膜用の材料の粒子がプラズマに投入されることで、半溶融状態の粒子が形成される。この半溶融状態の粒子を基材の表面に吹き付けるまたは照射することで、溶射膜が形成される。
【0005】
溶射膜の材料として、例えば、酸化アルミニウム、酸化イットリウム若しくはフッ化イットリウムなどのようなセラミクス材、または、これらを含む材料が用いられる。このような皮膜(溶射膜)によって基材の表面が覆われることで、処理室の内壁を構成する部材は、長期間に亘って、プラズマによる消耗が抑制され、プラズマと部材の表面との間の相互作用の量および性質の変化が抑制される。
【0006】
例えば特許文献1には、このようなプラズマ耐性を有した皮膜を備えた処理室の内壁の部材が開示されている。特許文献1では、上記皮膜の例として、酸化イットリウムが開示されている。
【0007】
一方で、溶射膜の表面は、長期間の使用の後に劣化し、溶射膜の粒子が、プラズマとの相互作用によって消耗され、溶射膜の膜厚が減少してしまうという問題がある。基材の表面が処理室の内部で露出すると、処理室の内部で処理されるウェハに、基材を構成する金属材料の粒子が付着し、ウェハに汚染が発生する恐れがある。それ故、使用によって劣化、損傷または消耗した溶射膜を有する部材の表面に、再度、溶射法によって溶射膜を再生することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術では、下記の点についての考慮が不十分であったので、各種の問題が生じていた。
【0010】
例えば、従来技術において、劣化した溶射膜の上に、再度、溶射法によって溶射膜を再生する場合、再溶射の前後で溶射膜の厚さを一定に保つことが難しい。
【0011】
また、基材がアルミニウムまたはその合金である場合、基材の表面には、陽極酸化処理によって形成されたアルマイト皮膜(陽極酸化膜)と、溶射法によって形成された皮膜(溶射膜)とが設けられる。そして、陽極酸化膜と溶射膜との間に、境界が形成される。すなわち、陽極酸化膜の端部を覆うように、陽極酸化膜上に溶射膜が形成される。その場合、劣化した溶射膜を除去した際に、溶射膜に覆われていた陽極酸化膜も除去されるので、陽極酸化膜の端部の位置が後退してしまう。それ故、溶射膜の再生を繰り返し行う度に、陽極酸化膜の端部の位置が後退するので、陽極酸化膜の面積が減少してしまう。
【0012】
一方で、陽極酸化膜の端部を残すように溶射膜を除去した場合、陽極酸化膜上には、劣化または消耗した古い溶射膜が残る。それ故、溶射膜の再生を繰り返し行う度に、残留した古い溶射膜が積層される。このような古い溶射膜の積層体は剥離し易いので、この積層体が、処理室の内部における異物の発生源となる恐れがある。
【0013】
本願の主な目的は、再溶射の前後で溶射膜の厚さを一定に保てる技術を提供することにある。また、本願の他の目的は、陽極酸化膜の面積の減少を防止すると共に、処理室の内部における異物の発生を抑制できる技術を提供することにある。
【0014】
その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0016】
一実施の形態における内壁部材の再生方法は、プラズマ処理装置においてプラズマ処理が行われる処理室の内壁に設けられる内壁部材の再生方法である。前記内壁部材は、第1表面、前記第1表面よりも高い位置に位置する第2表面、および、前記第1表面と前記第2表面とを繋ぐ第1側面を有する基材と、前記第1表面上および前記第1側面上に形成され、且つ、前記第1側面上に位置する第1端部を有する陽極酸化膜と、前記第1端部を覆うように、前記第1表面上、前記第1側面上および前記第2表面上に形成された第1溶射膜であって、前記第1表面上に形成されている前記陽極酸化膜上に位置する第2端部を有する前記第1溶射膜と、を備える。また、内壁部材の再生方法は、(a)前記第1溶射膜から露出している前記陽極酸化膜をマスク材によって覆う工程、(b)前記(a)工程後、前記第1溶射膜に対してブラスト処理を行うことで、前記第2表面上の前記第1溶射膜を除去すると共に、前記マスク材に覆われていない前記陽極酸化膜が前記第1溶射膜によって覆われるように、前記第1表面上および前記第1側面上の前記第1溶射膜の一部を残す工程、(c)前記(b)工程後、残されている前記第1溶射膜上および前記第2表面上に、溶射法によって第2溶射膜を形成する工程、(d)前記(c)工程後、前記マスク材を取り外す工程、を有する。
【0017】
一実施の形態における内壁部材の再生方法は、プラズマ処理装置においてプラズマ処理が行われる処理室の内壁に設けられる内壁部材の再生方法である。前記内壁部材は、第1表面、前記第1表面よりも高い位置に位置する第2表面、および、前記第1表面と前記第2表面とを繋ぐ第1側面を有する基材と、前記第1表面上、前記第1側面上および前記第2表面上に形成され、且つ、前記第1表面上に位置する第1端部を有する陽極酸化膜と、前記第1端部を覆うように、前記第1表面上に形成された第1溶射膜であって、前記第1表面上に形成されている前記陽極酸化膜上に位置する第2端部を有する前記第1溶射膜と、を備える。また、内壁部材の再生方法は、(a)前記第1溶射膜から露出し、且つ、少なくとも前記第1表面上および前記第1側面上に形成されている前記陽極酸化膜を、マスク材によって覆う工程、(b)前記(a)工程後、前記第1溶射膜に対してブラスト処理を行うことで、前記第1表面上の前記第1溶射膜を除去する工程、(c)前記(b)工程後、前記マスク材から露出している前記第1表面上に、溶射法によって第2溶射膜を形成する工程、(d)前記(c)工程後、前記マスク材を取り外す工程、を有する。
【発明の効果】
【0018】
一実施の形態によれば、再溶射の前後で溶射膜の厚さを一定に保つことができる。また、陽極酸化膜の面積の減少を防止すると共に、処理室の内部における異物の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1におけるプラズマ処理装置を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1における内壁部材を示す概念図である。
【
図3】実施の形態1における内壁部材を示す平面図である。
【
図4】実施の形態1における内壁部材を示す断面図である。
【
図5A】実施の形態1における内壁部材の基材を示す断面図である。
【
図5B】実施の形態1における内壁部材の再生方法を示す断面図である。
【
図5C】
図5Bに続く内壁部材の再生方法を示す断面図である。
【
図5D】
図5Cに続く内壁部材の再生方法を示す断面図である。
【
図6A】実施の形態2における内壁部材の基材を示す断面図である。
【
図6B】実施の形態2におけるマスク材を示す断面図である。
【
図6C】実施の形態2における内壁部材の再生方法を示す断面図である。
【
図6D】
図6Cに続く内壁部材の再生方法を示す断面図である。
【
図6E】
図6Dに続く内壁部材の再生方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0021】
また、本願で説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差し、互いに直交している。本願で用いられる「平面視」という表現は、X方向およびY方向によって構成される面をZ方向から見ることを意味する。
【0022】
(実施の形態1)
<プラズマ処理装置の構成>
以下に
図1を用いて、実施の形態1におけるプラズマ処理装置1の概要について説明する。
【0023】
プラズマ処理装置1は、円筒形状の真空容器2と、真空容器2の内部に設けられた処理室4と、処理室4の内部に設けられたステージ5とを備える。処理室4の上部は、プラズマ3が発生する空間である放電室を構成している。
【0024】
ステージ5の上方には、円板形状を成す窓部材6と、円板形状を成すプレート7とが設けられている。窓部材6は、例えば石英またはセラミクスのような誘電体材料からなり、処理室4の内部を気密に封止する。プレート7は、窓部材6から離間するように窓部材6の下方に設けられ、例えば石英のような誘電体材料からなる。また、プレート7には、複数の貫通穴8が設けられている。窓部材6とプレート7との間には、間隙9が設けられ、プラズマ処理を行う際に、間隙9には、処理ガスが供給される。
【0025】
ステージ5は、被処理材であるウェハ(基板)WFに対してプラズマ処理を行う際に、ウェハWFを設置するために用いられる。なお、ウェハWFは、例えばシリコンのような半導体材料からなる。ステージ5は、上方から見て処理室4の放電室と同心、または、同心と見なせる程度に近似した位置に、その上下方向の中心軸が配置された部材であり、円筒形状を成している。
【0026】
ステージ5と処理室4の底面との間の空間は、ステージ5の側壁と処理室4の側面との間の隙間を介して、ステージ5の上方の空間と連通している。そのため、ステージ5上に設置されたウェハWFの処理中に生じた生成物、プラズマ3またはガスの粒子は、ステージ5と処理室4の底面との間の空間を経由して、処理室4の外部へ排出される。
【0027】
また、詳細な図示はしないが、ステージ5は、円筒形状を成し、且つ、金属材料からなる基材を有する。上記基材の上面は、誘電体膜によって覆われている。誘電体膜の内部には、ヒータが設けられ、ヒータの上方には、複数の電極が設けられている。上記複数の電極には、直流電圧が供給される。この直流電圧によって、ウェハWFを上記誘電体膜の上面に吸着させ、ウェハWFを保持するための静電気力を、上記誘電体膜およびウェハWFの内部に生成することができる。なお、上記複数の電極は、ステージ5の上下方向の中心軸の周りに点対称に配置され、上記複数の電極には、それぞれ異なる極性の電圧が印加される。
【0028】
また、ステージ5には、同心円状または螺旋状状に多重に配置された冷媒流路が設けられている。また、上記誘電体膜の上面上にウェハWFが設置された状態において、ウェハWFの下面と誘電体膜の上面との間の隙間には、ヘリウム(He)などの熱伝達性を有したガスが供給される。そのため、上記基材および誘電体膜の内部には、上記ガスが通流する配管が配置されている。
【0029】
また、プラズマ処理装置1は、インピーダンス整合器10と、高周波電源11とを備える。ステージ5の上記基材には、インピーダンス整合器10を介して高周波電源11が接続される。ウェハWFのプラズマ処理中において、ウェハWFの上面上にプラズマ中の荷電粒子を誘引するための電界を形成するために、高周波電源11から上記基材へ高周波電力が供給される。
【0030】
また、プラズマ処理装置1は、導波管12と、マグネトロン発振器13と、ソレノイドコイル14と、ソレノイドコイル15とを備える。窓部材6の上方には、導波管12が設けられ、導波管12の一端部には、マグネトロン発振器13が設けられている。マグネトロン発振器13は、マイクロ波の電界を発振して出力できる。導波管12は、マイクロ波の電界が伝播するための管路であり、マイクロ波の電界は、導波管12を介して処理室4の内部に供給される。ソレノイドコイル14およびソレノイドコイル15は、導波管12および処理室4の周囲に設けられ、磁場発生手段として使用される。
【0031】
なお、導波管12は、方形導波管部と、円形導波管部とを備えている。方形導波管部は、矩形状の断面形状を成し、水平方向に延在している。方形導波管部の一端部には、マグネトロン発振器13が設けられている。方形導波管部の他端部には、円形導波管部が連結されている。円形導波管部は、円形状の断面形状を成し、上下方向に中心軸が延在するように構成されている。
【0032】
また、プラズマ処理装置1は、配管16と、ガス供給装置17とを備える。ガス供給装置17は、配管16を介して処理室4に接続されている。処理ガスは、ガス供給装置17から配管16を介して間隙9に供給され、間隙9の内部で拡散する。拡散した処理ガスは、貫通穴8からステージ5の上方へ供給される。
【0033】
また、プラズマ処理装置1は、圧力調整板18と、圧力検出器19と、高真空ポンプであるターボ分子ポンプ20と、粗引きポンプであるドライポンプ21と、排気配管22と、バルブ23~25とを備える。ステージ5と処理室4の底面の間の空間は、真空排気部として機能する。圧力調整板18は、円板形状のバルブであり、排気口の上方で上下に移動することで、排気口へガスが流入するための流路の面積を増減する。すなわち、圧力調整板18は、排気口を開閉するバルブの役目も兼用している。
【0034】
圧力検出器19は、処理室4の内部の圧力を検知するためのセンサである。圧力検出器19から出力された信号は、図示しない制御部に送信され、上記制御部において圧力の値が検出され、検出された値に応じて上記制御部から指令信号が出力される。上記指令信号に基いて、圧力調整板18が駆動され、圧力調整板18の上下方向の位置が変化し、排気の流路の面積が増減される。
【0035】
ターボ分子ポンプ20の出口は、配管を介してドライポンプ21に連結され、上記配管の途中にはバルブ23が設けられている。ステージ5と処理室4の底面の間の空間は、排気配管22に接続され、排気配管22には、バルブ24およびバルブ25が設けられている。バルブ24は、処理室4が大気圧から真空状態になるように、ドライポンプ21で低速に排気するためのスロー排気用のバルブであり、バルブ23は、ターボ分子ポンプ20で高速に排気するためのメイン排気用のバルブである。
【0036】
<プラズマ処理>
以下に、プラズマ処理の一例として、ウェハWFの上面上に予め形成された所定の膜に対して、プラズマ3を用いたエッチング処理を実行する場合について例示する。
【0037】
ウェハWFは、プラズマ処理装置1の外部からロボットアームのような真空搬送装置のアームの先端部に載せられ、処理室4の内部へ搬送され、ステージ5上に設置される。真空搬送装置のアームが処理室4から退室すると、処理室4の内部が密封される。そして、ステージ5の誘電体膜の内部の静電吸着用の電極に直流電圧が印加され、生成された静電気力によって、ウェハWFは、上記誘電体膜上で保持される。
【0038】
この状態で、ウェハWFと上記誘電体膜との間の隙間には、ヘリウム(He)などの熱伝達性を有するガスが、ステージ5の内部に設けられた配管を介して供給される。また、図示しない冷媒温度調整器によって所定の温度に調整された冷媒が、ステージ5の内部の冷媒流路に供給される。これにより、温度が調整された基材とウェハWFとの間で、熱の伝達が促進され、ウェハWFの温度が、プラズマ処理の開始に適切な範囲内の値に調整される。
【0039】
ガス供給装置17によって流量および速度が調整された処理ガスが、配管16を介して処理室4の内部に供給されると共に、ターボ分子ポンプ20の動作によって、排気口から処理室4の内部が排気される。両者のバランスによって、処理室4の内部の圧力が、プラズマ処理に適した範囲内の値に調整される。
【0040】
この状態で、マグネトロン発振器13からマイクロ波の電界が発振される。マイクロ波の電界は、導波管12内部を伝播し、窓部材6およびプレート7を透過する。更に、ソレノイドコイル14およびソレノイドコイル15によって生成された磁界が、処理室4に供給される。上記磁界とマイクロ波の電界との相互作用によって、電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)が生起される。そして、処理ガスの原子または分子が励起、電離または解離することによって、処理室4の内部にプラズマ3が生成される。
【0041】
プラズマ3が生成されると、高周波電源11からステージ5の基材へ高周波電力が供給され、ウェハWFの上面上にバイアス電位が形成され、プラズマ3中のイオンなどの荷電粒子がウェハWFの上面に誘引される。これにより、マスク層のパターン形状に沿うように、ウェハWFの所定の膜に対して、エッチング処理が実行される。その後、処理対象の膜の処理が、その終点に到達したことが検出されると、高周波電源11からの高周波電力の供給が停止され、プラズマ処理が停止される。
【0042】
更なるウェハWFのエッチング処理の必要が無い場合、高真空排気が行われる。そして、静電気が除かれてウェハWFの吸着が解除された後、真空搬送装置のアームが処理室4の内部へ進入し、処理済みのウェハWFがプラズマ処理装置1の外部へ搬送される。
【0043】
<処理室の内壁部材>
図1に示されるように、処理室4の内部には、内壁部材40が設けられている。内壁部材40は、例えば、誘電体であるプラズマ3の電位を安定させるためのアース電極として機能する。
【0044】
図2に示されるように、内壁部材40は、基材41と、基材41の表面を被覆する皮膜42とを備えている。基材41は、導電性材料からなり、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスまたはステンレス合金のような金属材料からなる。
【0045】
内壁部材40は、プラズマ処理中にプラズマ3に曝される。仮に、基材41の表面に皮膜42が無い場合、基材41がプラズマ3に曝されることによって、基材41が腐食または異物の発生源となり、ウェハWFが汚染される恐れがある。皮膜42は、ウェハWFの汚染を抑制するために設けられ、基材41よりもプラズマ3に対する耐性が高い材料からなる。皮膜42によって、内壁部材40にアース電極としての機能を維持させると共に、プラズマ3から基材41を保護することができる。
【0046】
なお、アース電極としての機能を有さない基材30においても、ステンレス合金またはアルミニウム合金などのような金属材料が用いられている。そのため、基材30の表面にも、プラズマ3に曝されることによって生じる腐食または異物の発生を抑制するために、プラズマ3に対する耐性を向上させる処理、または、基材30の消耗を低減させる処理が施されている。そのような処理は、例えば、不動態化処理、溶射膜の形成、または、PVD法若しくはCVD法による膜の形成である。
【0047】
なお、図示はしないが、プラズマ3による基材30の消耗を低減させるために、円筒形状を成す基材30の内壁の内側に、酸化イットリウムまたは石英などのようなセラミック製の円筒形状のカバーが配置されても良い。このようなカバーが、基材30とプラズマ3との間に配置されることによって、基材30とプラズマ3内の反応性の高い粒子との接触、または、基材30と荷電粒子との衝突が、遮断または低減される。これにより、基材30の消耗を抑制することができる。
【0048】
図3および
図4を用いて、内壁部材40の構成について説明する。
図3は、内壁部材40を示す平面図であり、
図4は、
図3に示されるA-A線に沿った断面図である。
【0049】
内壁部材40(基材41)は、概ね、内周と外周との間で所定の厚さを有する円筒形状を成している。また、内壁部材40は、上部40a、中間部40bおよび下部40cからなる。上部40aは、円筒の内径および外径が相対的に小さい箇所であり、下部40cは、円筒の内径および外径が相対的に大きい箇所である。中間部40bは、上部40aおよび下部40cを接続するための箇所であり、円筒の内径および外径が連続的に変化する円錐台形状を成している。
【0050】
内壁部材40は、ステージ5の外周を囲むように、処理室4の内壁に沿って設けられる。内壁部材40の内周側の表面(基材41の内周側の表面)には、皮膜42の一部として、溶射法によって溶射膜が形成される。また、処理室4の内部に内壁部材40が取り付けられた状態で、内壁部材40の外周側の表面(基材41の外周側の表面)には、皮膜42の一部として、陽極酸化処理によって陽極酸化膜が形成される。
【0051】
また、溶射膜は、基材41の内周側の表面だけでなく、上部40aの上端部を介して基材41の外周側の表面にも形成される。その理由は、プラズマ3の粒子が、上部40aにおいて、内壁部材40の内周側から内壁部材40の外周側へ回り込み、基材41の外周側の表面と相互作用を生起する恐れがあるからである。従って、プラズマ3の粒子が回り込むと想定される領域まで、基材41の外周側の表面に、溶射膜を形成する必要がある。
図4には、そのような領域が、領域50として示されている。
【0052】
図5A~
図5Dは、領域50を拡大して示した断面図である。実施の形態1における内壁部材40は、以下で説明するような、基材41と、陽極酸化膜42aと、溶射膜42bとを備えている。
図5Aは、皮膜42(陽極酸化膜42a、溶射膜42b)が形成される前の基材41を示し、
図5Bは、皮膜42が形成された後の基材41を示している。
【0053】
図5Aに示されるように、実施の形態1における基材41には、内壁部材40の内周側(基材41の内周側)から内壁部材40の外周側(基材41の外周側)へ向かう方向(X方向)において、段差が発生している。すなわち、基材41は、基材41の外周側において、表面FS1、表面FS1よりも高い位置に位置する表面FS2、および、表面FS1と表面FS2とを繋ぐ側面SS1を有する。なお、表面FS1と表面FS2との間の距離L1は、段差の高さ、および、側面SS1の長さに相当する。ここでは、距離L1は、例えば0.5mmである。
【0054】
図5Bに示されるように、陽極酸化膜42aは、表面FS1上および側面SS1上に形成されている。また、陽極酸化膜42aは、側面SS1上に位置する端部EP1を有する。陽極酸化膜42aは、溶射膜42bが形成される前に、陽極酸化処理によって形成される。基材41が、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合、陽極酸化膜42aは、アルマイト皮膜である。
【0055】
溶射膜42bは、端部EP1を覆うように、表面FS1上、側面SS1上および表面FS2上に形成されている。また、溶射膜42bは、表面FS1上に形成されている陽極酸化膜42a上に位置する端部EP2を有する。
【0056】
溶射膜42bは、例えばプラズマを用いた溶射法によって形成される。この溶射法では、大気圧下でプラズマを形成し、酸化イットリウム、フッ化イットリウまたはこれらを含む材料の粒子をプラズマ内に供給し、上記粒子を半溶融状態にする。この半溶融状態の粒子を基材41の表面FS1、FS2に吹き付けるまたは照射することで、溶射膜42bが形成される。
【0057】
なお、溶射膜42bの表面の凹凸は、例えば、算術平均粗さ(面粗さ)Raが8以下となるように構成されている。また、溶射膜42bの各粒子の大きさの平均(平均粒子径)は、例えば、体積基準のD50において10μm以上、50μm以下である。
【0058】
領域50において、基材41の表面FS1、側面SS1および表面FS2が、陽極酸化膜42aまたは溶射膜42bのうち少なくとも一方によって覆われていることで、プラズマ処理の際に、基材41がプラズマ3に暴露されることが防止される。
【0059】
<実施の形態1における内壁部材の再生方法>
以下に
図5B~
図5Dを用いて、内壁部材40の再生方法(内壁部材40の製造方法)に含まれる各工程について説明する。
【0060】
図5Bの内壁部材40は、所定の期間中に処理室4内に配置され、プラズマ3に曝される。プラズマ3に曝された溶射膜42bは、改質または消耗しているので、この溶射膜42bを取り除き、新たに溶射膜42bを再生する必要がある。
【0061】
まず、
図5Cに示されるように、溶射膜42bから露出している陽極酸化膜42aをマスク材100によって覆う。この際、マスク材100は、溶射膜42bの端部EP2に接している。また、マスク材100は、後述のブラスト処理によって除去されない特性を有する材料からなり、例えば樹脂テープである。
【0062】
次に、溶射膜42bに対してブラスト処理を行う。ブラスト処理は、表面FS2から表面FS1へ向かう方向であって、且つ、表面FS1に対して所定の角度θで傾斜した方向から、ブラスト粒子200を投射することで行われる。ブラスト粒子200が溶射膜42bの粒子に衝突し、物理的作用によって溶射膜42bが取り除かれる。また、投射されるブラスト粒子200の角度θが適切に選択されることで、溶射膜42bの一部を残すことができる。
【0063】
このようなブラスト処理によって、表面FS2上の溶射膜42bを除去すると共に、マスク材100に覆われていない陽極酸化膜42aが溶射膜42bによって覆われるように、表面FS1上および側面SS1上の溶射膜42bの一部を残す。このように、陽極酸化膜42aは、残存した溶射膜42bまたはマスク材100の何れかによって覆われているので、陽極酸化膜42aの全体が、ブラスト処理に晒されない。
【0064】
次に、
図5Dに示されるように、残されている溶射膜42b上および表面FS2上に、溶射法によって新たな溶射膜42bを形成する。新たな溶射膜42bを形成するための手法および条件は、
図5Bで説明したものと同じである。なお、半溶融状態の粒子300を基材41の表面FS1、FS2に吹き付ける方向は、表面FS1、FS2と垂直な方向である。次に、マスク材100を取り外す。このようにして、溶射膜42bを再生できるので、内壁部材40が、
図5Bの状態へと再生する。
【0065】
なお、
図5Dで新しく形成した溶射膜42bは、表面FS1上に形成されている陽極酸化膜42a上に位置する端部EP3を有する。そして、端部EP3の位置は、
図5Bの溶射膜42bの端部EP2の位置と一致している。
【0066】
また、最初に形成した溶射膜42bおよび新しく形成した溶射膜42bは、同じ材料からなる。ブラスト処理後に残されている溶射膜42bは、プラズマ処理時においてプラズマ3に直接曝されておらず、改質などがほぼ無い箇所である。そのため、残されている溶射膜42bと新たな溶射膜42bとは、同一の良質な溶射膜42bとして一体化する。
【0067】
その後、内壁部材40が再びプラズマ3に曝され、溶射膜42bに改質などが発生した場合、
図5B~
図5Dの各工程を繰り返すことで、溶射膜42bを再生し、内壁部材40を再生することができる。
【0068】
上述のように、従来技術では、溶射膜42bの再生を繰り返し行う度に、陽極酸化膜42aの端部EP1の位置が後退するので、陽極酸化膜42aの面積が減少してしまう問題があった。また、陽極酸化膜42aの端部EP1を残すように溶射膜42bを除去した場合、溶射膜42bの再生を繰り返し行う度に、残留した古い溶射膜42bが積層され、この積層体が、処理室の内部における異物の発生源となる問題があった。
【0069】
これに対して、実施の形態1によれば、陽極酸化膜42aの端部EP1の位置は、溶射膜42bの再生の前後で変化しない。従って、陽極酸化膜42aの面積の減少を防止すると共に、処理室4の内部における異物の発生を抑制することができる。また、
図5Dで新しく形成した溶射膜42bの端部EP3の位置は、
図5Bの溶射膜42bの端部EP2の位置と一致している。すなわち、再溶射の前後で、厚さまたは面積などの各種パラメータがほぼ同じである溶射膜42bを提供できる。
【0070】
(実施の形態2)
以下に
図6A~
図6Eを用いて、実施の形態2における内壁部材40と、内壁部材40の再生方法(内壁部材40の製造方法)とについて説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0071】
<実施の形態2における内壁部材>
図6A~
図6Eは、
図4の領域50を拡大して示した断面図である。実施の形態2における内壁部材40も、実施の形態1と同様に、基材41と、陽極酸化膜42aと、溶射膜42bとを備えている。これらを構成する材料、および、これらを形成するための手法などは、実施の形態1と同様である。
【0072】
図6Aは、皮膜42(陽極酸化膜42a、溶射膜42b)が形成される前の基材41を示し、
図6Bは、実施の形態2で使用されるマスク材101を示している。
図6Cは、皮膜42が形成された後の基材41を示している。
【0073】
図6Aに示されるように、実施の形態2における基材41でも、内壁部材40の内周側(基材41の内周側)から内壁部材40の外周側(基材41の外周側)へ向かう方向(X方向)において、段差が発生している。なお、表面FS1と表面FS2との間の距離L2は、段差の高さ、および、側面SS1の長さに相当する。ここでは、距離L2は、例えば5.0mmである。
【0074】
図6Bに示されるように、実施の形態2におけるマスク材101は、上記段差の形状に合致するように、予め作製されたL字形状の金属製部材である。すなわち、マスク材101は、表面FS1および側面SS1の各々の形状に沿った形状を有する治具であり、金属材料からなる。マスク材101のうち側面SS1に沿った箇所の距離L3は、距離L2よりも若干小さくなるように設計され、例えば4.5mmである。マスク材101のうち表面FS1に沿った箇所は、陽極酸化膜42aの端部EP1よりも側面SS1に近くなるように設計され、例えば2.0mmである。マスク材101の厚さL5は、例えば1.0mmである。
【0075】
図6Cに示されるように、実施の形態2における陽極酸化膜42aは、表面FS1上、側面SS1上および表面FS2上に形成されている。また、陽極酸化膜42aは、表面FS1上に位置する端部EP1を有する。溶射膜42bは、端部EP1を覆うように、表面FS1上に形成されている。また、溶射膜42bは、表面FS1上に形成されている陽極酸化膜42a上に位置する端部EP2を有する。
【0076】
実施の形態2でも、領域50において、基材41の表面FS1、側面SS1および表面FS2が、陽極酸化膜42aまたは溶射膜42bのうち少なくとも一方によって覆われていることで、プラズマ処理の際に、基材41がプラズマ3に暴露されることが防止される。
【0077】
<実施の形態2における内壁部材の再生方法>
以下に
図6C~
図6Eを用いて、内壁部材40の再生方法(内壁部材40の製造方法)に含まれる各工程について説明する。
【0078】
図6Cの内壁部材40は、所定の期間中に処理室4内に配置され、プラズマ3に曝される。プラズマ3に曝された溶射膜42bは、改質または消耗しているので、この溶射膜42bを取り除き、新たに溶射膜42bを再生する必要がある。
【0079】
まず、
図6Dに示されるように、溶射膜42bから露出し、且つ、少なくとも表面FS1上および側面SS1上に形成されている陽極酸化膜42aをマスク材101によって覆う。この際、マスク材101は、溶射膜42bの端部EP2に接している。
【0080】
次に、溶射膜42bに対してブラスト処理を行うことで、表面FS1上の溶射膜42bを除去する。ブラスト処理は、表面FS1と垂直な方向から、ブラスト粒子200を投射することで行われる。ブラスト粒子200が溶射膜42bの粒子に衝突し、物理的作用によって溶射膜42bが取り除かれる。ブラスト粒子200の投射範囲は、表面FS2に及ばないように、マスク材101を含む表面FS1上に設定される。
【0081】
ここで、マスク材101に覆われておらず、且つ、溶射膜42bによって覆われていた陽極酸化膜42aも、除去される。このため、陽極酸化膜42aの端部EP1の位置が、若干後退し、マスク材101に整合する位置へ移動する。
【0082】
次に、
図6Eに示されるように、マスク材101から露出している表面FS1上に、溶射法によって新たな溶射膜42bを形成する。新たな溶射膜42bを形成するための手法および条件は、
図5Bで説明したものと同じである。なお、半溶融状態の粒子300を基材41の表面FS1に吹き付ける方向は、表面FS1と垂直な方向である。次に、マスク材101を取り外す。このようにして、実施の形態2においても、溶射膜42bを再生できるので、内壁部材40が、
図6Cの状態へと再生する。
【0083】
なお、
図6Eで新しく形成した溶射膜42bは、表面FS1上に形成されている陽極酸化膜42a上に位置する端部EP3を有する。そして、端部EP3の位置は、
図6Cの溶射膜42bの端部EP2の位置と一致している。また、端部EP3の位置は、
図6Dで後退した陽極酸化膜42aの端部EP1の位置とも一致している。
【0084】
その後、内壁部材40が再びプラズマ3に曝され、溶射膜42bに改質などが発生した場合、
図6C~
図6Eの各工程を繰り返すことで、溶射膜42bを再生し、内壁部材40を再生することができる。
【0085】
実施の形態2では、マスク材101として、段差の形状に沿った形状の金属製部材である治具を適用している。そのため、マスク材101を表面FS1および側面SS1に宛がう、すなわち、マスク材101を段差に宛がうだけで、マスク材101の設置を迅速に行える。また、マスク材101の形状は不変であるので、常に、陽極酸化膜42aの端部EP1の位置を固定でき、新しく形成する溶射膜42bの端部EP3の位置を固定できる。
【0086】
図6Dで説明したように、1回目の溶射膜42bの再生時には、陽極酸化膜42aの端部EP1の位置が、若干後退する。しかし、2回目以降の溶射膜42bの再生時には、マスク材101の形状が不変であるので、端部EP1の位置は、変わらず、再溶射の前後で一致する。すなわち、
図6C~
図6Eの各工程を繰り返し、溶射膜42bの再生を繰り返した場合でも、常に、端部EP1の位置および端部EP3の位置が固定される。従って、実施の形態2でも、陽極酸化膜42aの面積の減少を防止すると共に、処理室4の内部における異物の発生を抑制することができる。また、再溶射の前後で、厚さまたは面積などの各種パラメータがほぼ同じである溶射膜42bを提供できる。
【0087】
以上、上記実施の形態に基づいて本発明を具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0088】
例えば、実施の形態1でも、マスク材100の代わりに、マスク材101のような形状が不変な治具を用いることもできる。しかしながら、プラズマ処理装置1に仕様によっては、内壁部材40が様々な形状を成している場合がある。その場合、それらに対応する治具を用意する必要がある。また、陽極酸化膜42aと溶射膜42bとが接する箇所が、治具を常に精度良く設置し易い箇所(例えば
図6D)になっているとは限らない。実施の形態1のように、樹脂テープのようなマスク材100であれば、新たな治具を用意する必要がないので、様々な形状の内壁部材40に適用し易くなる。
【0089】
すなわち、陽極酸化膜42aの端部EP1の位置および新たな溶射膜42bの端部EP3の位置を一致させる精度と、マスク材を設ける迅速性との観点においては、実施の形態2の方が、実施の形態1よりも優れている。一方で、マスク材の汎用性という観点においては、実施の形態1の方が、実施の形態2よりも優れている。
【符号の説明】
【0090】
1 プラズマ処理装置
2 真空容器
3 プラズマ
4 処理室
5 ステージ
6 窓部材
7 プレート
8 貫通穴
9 間隙
10 インピーダンス整合器
11 高周波電源
12 導波管
13 マグネトロン発振器
14 ソレノイドコイル
15 ソレノイドコイル
16 配管
17 ガス供給装置
18 圧力調整板
19 圧力検出器
20 ターボ分子ポンプ
21 ドライポンプ
22 排気配管
23~25 バルブ
30 基材
40 内壁部材(アース電極)
40a 上部
40b 中間部
40c 下部
41 基材
42 皮膜
42a 陽極酸化膜
42b 溶射膜
50 領域
100 マスク材(樹脂テープ)
101 マスク材(治具)
200 ブラスト粒子
300 半溶融状態の粒子
EP1~EP3 端部
FS1、FS2 表面
SS1 側面
WF ウェハ(被処理材)
【要約】
プラズマ処理が行われる処理室の内壁に設けられる内壁部材40は、基材41と、端部EP1を有する陽極酸化膜42aと、端部EP2を有する溶射膜42bとを備える。基材41は、表面FS1、表面FS1よりも高い位置に位置する表面FS2、および、側面SS1を有する。内壁部材40の再生方法は、(a)溶射膜42bから露出している陽極酸化膜42aをマスク材100によって覆う工程、(b)溶射膜42bに対してブラスト処理を行うことで、表面FS2上の溶射膜42bを除去すると共に、マスク材100に覆われていない陽極酸化膜42aが溶射膜42bによって覆われるように、表面FS1上および側面SS1上の溶射膜42bの一部を残す工程、(c)残されている溶射膜42b上および表面FS2上に、溶射法によって新たな溶射膜42bを形成する工程、(d)マスク材100を取り外す工程、を有する。