IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人滋賀医科大学の特許一覧

<>
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図1
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図2
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図3
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図4
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図5
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図6
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図7
  • 特許-内視鏡用マイクロ波照射器具 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】内視鏡用マイクロ波照射器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/18 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
A61B18/18 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019068494
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162998
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南辻 睦
(72)【発明者】
【氏名】谷 徹
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-017542(JP,A)
【文献】特開2016-087450(JP,A)
【文献】特開2007-325956(JP,A)
【文献】国際公開第2011/043340(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/056732(WO,A1)
【文献】特開2011-135988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー伝送用のケーブルと、該ケーブルに接続するマイクロ波照射部と、前記ケーブルを収納するシースと、を備えた内視鏡用マイクロ波照射器具であって、
前記ケーブルが、中心導体と、該中心導体を取り囲む筒状絶縁体と、該筒状絶縁体を取り囲む外部導体とを有する同軸ケーブルで構成されるとともに、
前記マイクロ波照射部が、前記外部導体に接続する固定刃と、前記中心導体に接続され前記固定刃に対し開閉動する可動刃とを有しており、
前記可動刃および前記固定刃の間には、絶縁材料で形成されるとともに前記可動刃を所定方向に可動に支持する絶縁支持部材と、前記固定刃と一体に形成されるとともに前記絶縁支持部材を前記所定方向と直交する方向の両側から内側に向けた方向の保持力により保持する両側保持部材とが、介装されており、
前記両側保持部材は、前記絶縁支持部材の前記所定方向と直交する方向の幅と略同じ距離だけ離間した対向内面をそれぞれ有して該対向内面の間に前記絶縁支持部材を前記同軸ケーブルに対して同軸に保持する一対の平行アーム部と、両平行アーム部の基端側部分を前記固定刃に一体に固定する環状部とを有していることを特徴とする内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項2】
前記環状部に略同一外径のコイルシースである前記シースが一体に連結されていることを特徴とする請求項に記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項3】
前記可動刃が、マイクロ波照射による焼灼対象組織の滑りぬけ防止用に前記可動刃の刃先に形成された歯部を有し、
前記固定刃が、マイクロ波照射による焼灼時の生体組織付着防止コーティングを有していることを特徴とする請求項1または2に記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【請求項4】
前記可動刃および前記固定刃が、それぞれ表面絶縁処理されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の内視鏡用マイクロ波照射器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用マイクロ波照射器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡を利用して高周波電流により生体組織の切断、止血等の処置を行う内視鏡用高周波処置具が用いられている。このような内視鏡用高周波処置具として、先端にハサミが設けられ、体腔または内臓の内腔内の病変部位を切除し、或いは生体組織の切断、切開等の処置を行うことのできるものがある。
【0003】
具体的には、ハサミを有する内視鏡用高周波処置具は、例えば、内視鏡の処置具案内管に通されるシースと、シースの近位端側(操作者に近い側)に設けられた操作部と、シースの遠位端側(操作者から遠い側)に設けられた処置部とを備えている。操作部を操作者が操作することにより、処置部が備えるハサミを構成する一対の刃部を開閉できるようになっている。刃部は高周波電極として用いられ、血管等の生体組織を把持した状態で高周波電流を流すことにより、該把持部近傍の組織を焼灼凝固させ、止血を行うことができるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、シースに進退自在に挿通された導電性の操作ワイヤと、操作ワイヤの遠位端部に配置された処置部と、シースの近位端側に設けられ、操作ワイヤを進退操作して処置部を操作する操作部と、を備えた内視鏡用高周波処置具が開示されている。この処置部には電極として用いられるハサミが設けられ、ハサミに高周波電圧が印加されるようになっている。ハサミは、その一対の刃部が回動可能なように保持枠に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-87450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、内視鏡用高周波処置具は、生体組織に高周波電流を流してジュール熱を発生させることにより生体組織を焼灼、切断等するものであるが、病変部位によっては高周波電流による生体組織の切断が適していない場合もある。電磁波等の非機械的な形態のエネルギーにより生体組織の焼灼、止血等までを適切に行い、生体組織の切断等は、機械的なハサミなどにより確実に行うことのできる内視鏡用処置具の開発が期待される。
【0007】
また、一般に内視鏡用高周波処置具が備えるハサミは、一対の刃部の相対的な動作位置が常に一定していることで安定して生体組織等をせん断することができる。しかしながら、特許文献1に記載の内視鏡用高周波処置具にあっては、金属製のハサミより強度的に弱い樹脂製の保持枠の一対の腕部の間に一対の刃部(ハサミ)を回動自在に支持する構成であり、切断時にハサミから受ける力により保持枠が撓んだり、位置がずれたりする問題があった。保持枠の撓みや位置ずれが生じると、一対の刃部の相対的な動作位置がグラつき、ハサミの切れ味が悪くなる懸念があった。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、可動刃と固定刃の相対的な動作位置を安定させることができ、可動刃と固定刃からなるハサミの良好な切れ味を維持できる内視鏡用マイクロ波照射器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、上記目的達成のため、エネルギー伝送用のケーブルと、該ケーブルに接続するマイクロ波照射部と、前記ケーブルを収納するシースと、を備えた内視鏡用マイクロ波照射器具であって、前記ケーブルが、中心導体と、該中心導体を取り囲む筒状絶縁体と、該筒状絶縁体を取り囲む外部導体とを有する同軸ケーブルで構成されるとともに、前記マイクロ波照射部が、前記外部導体に接続する固定刃と、前記中心導体に接続され前記固定刃に対し開閉動する可動刃とを有しており、前記可動刃および前記固定刃の間には、絶縁材料で形成されるとともに前記可動刃を所定方向に可動に支持する絶縁支持部材と、前記固定刃と一体に形成されるとともに前記絶縁支持部材を前記所定方向と直交する方向の両側から保持する両側保持部材とが、介装されていることを特徴とする。
【0010】
この構成により、固定刃と一体の両側保持部材で絶縁支持部材を介して可動刃を両側から所定方向可動に保持するので、可動刃と固定刃の相対的な動作位置を安定させることができ、可動刃と固定刃からなるハサミの良好な切れ味を維持できる。
【0011】
また、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具では、前記両側保持部材は、前記絶縁支持部材を前記同軸ケーブルに対して同軸に保持する一対の平行アーム部と、両平行アーム部の基端側部分を前記固定刃に一体に固定する環状部とを有する構成であってもよい。
【0012】
この構成により、絶縁支持部材の安定保持が可能な形状設定ができ、同軸ケーブルとの結合も容易である。
【0013】
また、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具では、前記両側保持部材は、前記固定刃に一体に固定する環状部を有し、前記環状部は、該環状部の遠位端側に開口した凹状部を有し、前記凹状部に前記絶縁支持部が嵌められた構成であってもよい。
【0014】
この構成により、絶縁支持部材を安定的に保持することができる。
【0015】
また、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記環状部に略同一外径のコイルシースである前記シースが一体に連結された構成であってもよい。
【0016】
この構成により、例えばステンレス鋼製のコイルシースとすることで、焼灼その他の処置に際する熱や腐食性物質等に対して安定した性状および動作を担保できる。また、マイクロ波照射部の回転方向の姿勢を調整する際に操作部から回転トルクを伝達しやすくなる。
【0017】
また、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記可動刃が、マイクロ波照射による焼灼対象組織の滑りぬけ防止用の歯部を有し、前記固定刃が、マイクロ波照射による焼灼時の生体組織付着防止コーティングを有した構成であってもよい。
【0018】
この構成により、焼灼対象となる生体組織の的確な保持を可能にし、かつ、焼灼時における電極への生体組織の付着を有効に防止できる。
【0019】
また、本発明に係る内視鏡用マイクロ波照射器具は、前記可動刃および前記固定刃が、それぞれ表面絶縁処理された構成であってもよい。
【0020】
この構成により、可動刃および固定刃がそれぞれ表面絶縁処理されるので、両刃間での短絡を防止できるとともに、他の導電性部分との接触による短絡も防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可動刃と固定刃の相対的な動作位置を安定させることができ、可動刃と固定刃からなるハサミの良好な切れ味を維持できる内視鏡用マイクロ波照射器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具の構成図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具のマイクロ波照射部の斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具のマイクロ波照射部の側面図である。
図5】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具のマイクロ波照射部の断面図であり、(a)は固定刃に対して可動刃が開いている状態を示し、(b)は固定刃に対して可動刃が閉じている状態を示す。
図6】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具のマイクロ波照射部の平面図である。
図7】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具のマイクロ波照射部の変形例を示す。
図8】本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具のマイクロ波照射部の別の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1は、内視鏡を利用して目標とする体内組織にマイクロ波を照射して加熱することで組織の焼灼、凝固、止血等を行うとともに、ハサミで組織の切断、切除等を行うものである。使用するマイクロ波は、例えば、振動数が2450MHzであり、従来の高周波処置具に用いられる高周波電流の周波数(数百MHz)より大きい。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1は、エネルギー伝送用の同軸ケーブル11と、同軸ケーブル11に接続するマイクロ波照射部30と、同軸ケーブル11を収納するコイルシース10と、操作部20と、を備えている。以下では、コイルシース10を単にシース10とも称する。なお、同軸ケーブル11が本発明のケーブルに対応し、コイルシース10が本発明のシースに対応する。
【0026】
図2に示すように、同軸ケーブル11は、中心導体12と、中心導体12を取り囲む筒状絶縁体13と、筒状絶縁体13を取り囲む外部導体14と、シース10等の他部材から電気的に絶縁するために外部導体14を覆う絶縁被覆部15と、を一体で有している。同軸ケーブル11は、シース10内に挿通され、シース10内を軸方向に一体で進退可能になっている。
【0027】
同軸ケーブル11の近位端11aには、マイクロ波用のコネクタ17が接続され、遠位端にはマイクロ波照射部30が接続されている。コネクタ17および同軸ケーブル11を介して、マイクロ波照射部30をマイクロ波電源装置(不図示)に接続できるようになっている。
【0028】
同軸ケーブル11の各構成部分のサイズ、材質は、内視鏡の処置具案内管内を挿通可能でかつ、所望のマイクロ波を効率的に伝送可能となるように設定される。限定するものではないが、例えば、中心導体12は、銅線、銅被覆鋼線などから構成され、その直径は0.2~0.4mmである。筒状絶縁体13は、例えば、直径が0.6~1.2mmである。外部導体14は、例えば、銅編組線から構成され、その厚みは0.08~0.2mmである。絶縁被覆部15の厚みは、例えば、0.05~0.1mmである。
【0029】
シース10は、可撓性を有する中空チューブからなり、本実施形態では導電性のコイルチューブを用いている。コイルチューブは、金属(ステンレス鋼)等からなる長尺丸線を螺旋状に巻回してなる丸線コイルチューブである。コイルチューブはこれに限定されず、金属(ステンレス鋼)等からなる長尺平板を螺旋状に巻回してなる平線コイルチューブを用いてもよいし、内面平コイルチューブを用いてもよい。
【0030】
また、シース10として、ワイヤーチューブを用いてもよい。ワイヤーチューブは、例えば金属(ステンレス鋼)等からなる複数本のワイヤー(ケーブル)を中空となるように螺旋状に撚ってなる中空撚り線からなるチューブである。また、シース10として、主としてワイヤーチューブを用い、その先端側(遠位端側)の一部のみをコイルチューブとしたものを用いてもよい。
【0031】
また、シース10は、絶縁性の樹脂から形成されたチューブを用いてもよい。シース10を形成する樹脂材料としては、電気絶縁材料であってよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂等を用いることができる。
【0032】
同軸ケーブル11は、シース10内に挿通され、シース10内でその軸線周りの回転および摺動(軸線方向に沿う方向のスライド移動)が可能となっている。
【0033】
同軸ケーブル11は、マイクロ波照射部30に設けられたハサミ31を開閉するためのスライド力を伝達し、およびハサミ31をその姿勢調整のためにシース軸線周りに回転させる回転力を伝達する動力伝達部材として機能するものである。
【0034】
また、その詳細は後述するが、同軸ケーブル11の近位端側の部分は操作部20から引き出され、その近位端にコネクタ17が取り付けられている。同軸ケーブル11の遠位端では、中心導体12が可動刃33に接続され、外部導体14が固定刃32に接続されている。コネクタ17に接続されたマイクロ波電源装置により生成されたマイクロ波は、同軸ケーブル11を通って可動刃33および固定刃32に送られる。同軸ケーブル11は、マイクロ波のエネルギーを伝送するエネルギー伝送部材として機能するものである。
【0035】
シース10は、同軸ケーブル11に対して相対的にスライド移動することで、ハサミ31の開閉のためのスライド力を伝達する動力伝達部材として機能するものである。また、詳細は後述するが、シース10の近位端は、操作部20のシース受け部22cに取り付けられ、遠位端は両側保持部材36に接続されており、電磁ノイズを遮断するシールドとしても機能するものである。
【0036】
図1に示すように、本実施形態に係る操作部20は、円筒状のスライダ部22と、スライダ部22内に近位端側から相対的にスライド可能、かつ軸周りに回転可能に挿入されたベース部21とを有している。ベース部21とスライダ部22は、主として絶縁性の樹脂から形成されている。スライダ部22の遠位端には、補強コイル16が同軸状に延びる状態に固定されている。シース10は、その近位端側の端部が補強コイル16に挿入され、この補強コイル16に一体に固定されている。すなわちシース10は補強コイル16を介してスライダ部22と一体となっている。
【0037】
スライダ部22は、ベース部21の遠位端側の端部にスライド可能に支持されている。ベース部21には、スライダ部22の内部において同軸ケーブル11の近位端から所定距離離れた部分が固定されている。このため同軸ケーブル11はベース部21と一体であって、スライダ部22に対し相対的に一体でスライド可能となっている。同軸ケーブル11の固定部から更に近位端側の部分は、外部のマイクロ波電源装置に接続するために、スライダ部22の近位端側から引き出されている。
【0038】
スライダ部22の近位端側の端部には、スライド方向に離間する一対の鍔部22aが形成されており、これら鍔部22aの間の周溝部22bを、例えば人差し指と中指で挟持することができるようになっている。
【0039】
また、ベース部21の近位端には、指輪部21aが軸周りに回転可能に支持されている。上述のようにスライダ部22の周溝部22bを人差し指と中指で挟持した状態で指輪部21aに親指を挿入することにより、ベース部21に対しスライダ部22をスライドさせる動作を片手で円滑に行うことができるようになっている。また、指輪部21aを回転させると同軸ケーブル11が一体に回転し、これによって後述するハサミ31も同軸ケーブル11と一体に回転させることができるようになっている。
【0040】
スライダ部22の遠位端側には樹脂製のシース受け部22cが設けられている。シース10の近位端はシース受け部22cの先端部に接続されている。シース10は、その軸線周りに回転可能となるようにシース受け部22cに支持されているとともに、シース受け部22cがスライド方向にスライドされた場合には一体的にスライドするようにシース受け部22cに支持されている。
【0041】
次に、マイクロ波照射部30について説明する。
【0042】
図3図6に示すように、マイクロ波照射部30は、外部導体14に接続する固定刃32と、中心導体12に接続され固定刃32に対し開閉動する可動刃33とを有している。固定刃32と可動刃33は、一対のマイクロ波電極として機能するとともに、生体組織を切断等するハサミ31を構成している。
【0043】
固定刃32は、ステンレス鋼等の金属からなる導電性の部材からなり、刃面32aと平坦な裏面32bとを有している。図3に示すように、刃面32aは、裏面32bに対して所定の鋭角を為し、刃先32cを形成している。裏面32bは、X-Z面(図3参照)に平行な平面をなし、可動刃33の平坦な裏面33bと平行になっている。固定刃32の先端下部には湾曲部32dを有し、体内組織を不用意に損傷しないようになっている。固定刃32の近位端部は、両側保持部材36の連結部36cの遠位端に接続されている。
【0044】
可動刃33は、ステンレス鋼等の金属からなる導電性の部材からなり、刃面33aと平坦な裏面33bとを有している。図3に示すように、刃面33aは、裏面33bに対して所定の鋭角を為し、刃先33cを形成している。裏面33bは、X-Z面(図3参照)に平行な平面をなし、固定刃32の裏面32bと平行になっている。可動刃33の先端上部には湾曲部33gが形成され、体内組織を不用意に損傷しないようになっている。可動刃33の近位端には、X-Z面に垂直な方向(すなわちY方向)に軸孔33fが形成され、軸孔33fに金属ピンなどの回転軸部37が挿通されている。回転軸部37は、絶縁支持部材34の一対の平行な支持アーム部34a、34aにより支持されている。具体的には、回転軸部37の両端部が、それぞれ支持アーム部34aに形成された軸孔34cに例えば圧入されて固定されている。これにより、可動刃33は、回転軸部37により支持されるとともに、回転軸部37を中心に回動できるようになっている。
【0045】
また、可動刃33の近位端側には、可動刃33に回動力を伝達するための突片33dが、設けられている。可動刃33の長手方向(刃先33cが延びる方向)と、突片33dが可動刃33の近位端から延びる方向は、概ね鈍角をなしている。突片33dには、可動刃33の軸孔33fから所定の距離だけ離れて取付孔33eが設けられている。取付孔33eに、同軸ケーブル11の中心導体12の先端部が通されて、中心導体12と可動刃33が電気的に導通された状態で連結されている。
【0046】
図3図6に示すように、可動刃33および固定刃32の間には、絶縁材料で形成されるとともに可動刃33を所定方向に可動に支持する絶縁支持部材34と、固定刃32と一体に形成されるとともに絶縁支持部材34を所定方向と直交する方向の両側から保持する両側保持部材36とが、介装されている。ここでの所定方向は、X-Z面内においてY方向に延びる回転軸部37を中心に回転する方向である。また、ここでの所定方向と直交する方向は、回転軸部37の軸方向、すなわちY方向である。
【0047】
絶縁支持部材34は、支持基部34bと、支持基部34bの遠位端に設けられた2つの支持アーム部34a、34aと、を有している。2つの支持アーム部34a、34aは、間隔をおいて平行に軸方向(X方向)に延びている。各支持アーム部34aには、可動刃33の裏面33bに平行な平面に垂直な方向(すなわちY方向)に延びる軸孔34cが形成されている。可動刃33の貫通した軸孔33fに通された回転軸部37は、その両端部が支持アーム部34aの軸孔34cに入れられて固定されている。2つの支持アーム部34a、34aの対向する内面は平行であり、内面間の距離は可動刃33のY方向の幅より僅かに大きくなっている。支持基部34bには、可動刃33の裏面33bに平行な平面に垂直な方向(すなわちY方向)に延びる取付孔34dが形成されている。
【0048】
絶縁支持部材34を形成する絶縁材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セラミックス等が挙げられる。
【0049】
両側保持部材36は、ステンレス鋼などの金属から形成されており、絶縁支持部材34を同軸ケーブル11に対して同軸に(または並行に)保持する一対の平行アーム部36a、36aと、両平行アーム部36aの基端側部分を固定刃32に一体に固定する環状部36bとを有している。
【0050】
環状部36bは円筒状であり、環状部36bの内径は、同軸ケーブル11の外部導体14の外径より大きく、環状部36bの外径は、内視鏡内を滑らかにスライドするように、シース10の外径と略同じである。
【0051】
図5に示すように、同軸ケーブル11は、遠位端側から順に、中心導体12が所定長さ分だけ露出し、筒状絶縁体13が所定長さ分だけ露出し、外部導体14が所定長さ分だけ露出している。環状部36bの内面は、同軸ケーブル11の露出した外部導体14の外面と電気的に導通状態で摺動するようになっている。
【0052】
環状部36bの近位端には、略同一外径のコイルシースであるシース10が一体に連結されている。金属製のコイルシースを用いることにより、内視鏡の処置具案内路に沿って曲げられた同軸ケーブル11に十分に追従して曲がることができるとともに、同軸ケーブル11の電磁シールドとしても機能する。また、コイルシースはある程度剛性が高いので、マイクロ波照射部30の回転方向の姿勢を調整する際に操作部20から回転トルクを伝達しやすくなる。
【0053】
一対の平行アーム部36aは、絶縁支持部材34のY方向の幅と略同じ距離だけ対向内面を離間して、環状部36bの遠位端から軸方向に平行に延びている。平行アーム部36aの先端部には、切欠き部36dが設けられ、絶縁支持部材34の軸孔34cに入れられた回転軸部37の端部が露出するようになっている。これにより、マイクロ波照射部30の組立てが容易になる。
【0054】
また、平行アーム部36aの基端部側には、絶縁支持部材34の固定に用いられる固定具38(例えば金属製ピン)を取り付けるための取付孔36eが設けられている。この取付孔36eに対応して、絶縁支持部材34の支持基部34bには固定具38の取付孔34dが形成されている。固定具38は、絶縁支持部材34の取付孔34dを通って両側保持部材36の取付孔36e内で例えばレーザ溶接などにより固定されることで、絶縁支持部材34を一対の平行アーム部36a、36aの間に固定するようになっている。
【0055】
また、両側保持部材36の環状部36bの遠位端からは、絶縁支持部材34に離間して対向するように、連結部36cが軸方向に延在している。連結部36cの遠位端には、固定刃32の近位端が接続されている。連結部36cのZ方向の高さは、固定刃32のZ方向の高さより小さく、連結部36cと絶縁支持部材34および平行アーム部36aとで挟まれた中空空間39に、同軸ケーブル11の中心導体12が延在している。
【0056】
図6に示すように、絶縁支持部材34は、その2つの支持アーム部34aの間に渡された回転軸部37により可動刃33を回動自在に支持している。この絶縁支持部材34は、回転軸部37の軸方向(Y方向)の両側から両側保持部材36の一対の平行アーム部36aにより保持されている。
【0057】
可動刃33および固定刃32は、それぞれ表面絶縁処理されている。具体的には、可動刃33および固定刃32のそれぞれの表面全体に、絶縁コーティング膜が被覆されている。絶縁コーティング膜の材質としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、セラミックスなどが用いられる。セラミックスとしては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などを例示することができる。
【0058】
絶縁コーティング膜の膜厚は、特に限定されないが、5~50μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。絶縁コーティング膜の成膜方法は、特に限定されないが、焼付け法、スプレー吹き付け法、浸漬法などを例示することができる。
【0059】
絶縁コーティング膜は、固定刃32および可動刃33の表面全体に付与しているが、これに限定されず、表面の一部に付与してもよい。
【0060】
また、固定刃32は、マイクロ波照射による焼灼時の生体組織付着防止コーティングを有していてもよい。生体組織付着防止コーティングとしては、例えば、フッ素樹脂などの低付着性の絶縁性被膜を設けることができる。この低付着性の絶縁性被膜の厚さに特に制限はないが、5~50μmであることが好ましい。低付着性の絶縁性被膜の成膜方法に特に制限はなく、例えば、焼き付け法、スプレー吹き付け法、浸漬法などを挙げることができる。
【0061】
生体組織付着防止コーティングは、絶縁コーティング膜と別に設けてもよいし、絶縁性と生体組織付着防止の機能を併せ持った1つのコーティング膜を設けてもよい。
【0062】
図7は、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1のマイクロ波照射部30の変形例であるマイクロ波照射部30Aを示す。図7に示すように、可動刃33に、マイクロ波照射による焼灼対象組織の滑りぬけ防止用の歯部33hを形成してもよい。歯部33hは、可動刃33の刃先33cの先端側に三角形状の歯を2~3個形成するようにしてもよいが、形状はこれに限定されず任意の形状とし得る。
【0063】
また、上記説明では、ハサミ31は固定刃32と可動刃33とを有する構成であったが、これに限定されず、ハサミが一対の可動刃を有する構成であってもよい。この場合には、絶縁支持部材により一対の可動刃を開閉動可能なように支持し、両側保持部材により絶縁支持部材を該開閉動の方向と直交する方向の両側から保持するようにするとよい。
【0064】
次に、マイクロ波照射器具1の動作について説明する。
【0065】
マイクロ波照射器具1は、図5(b)に示すように、マイクロ波照射部30のハサミ31が閉じた状態で内視鏡の処置具案内管(不図示)に挿入される。マイクロ波照射部30が体内の処置すべき生体組織の近傍に達したならば、操作部20のベース部21をスライダ部22内に押し込むように(図1において下側に)スライドさせて、シース10内で同軸ケーブル11を遠位端側にスライド移動させる。これに伴い、同軸ケーブル11の中心導体12が可動刃33の突片33dを押し、回転軸部37を支点とした回転力(図5において反時計回りの方向の回転力)を可動刃33に与える。回転力が与えられた可動刃33は、回転軸部37を支点に回動して固定刃32に対して開いた状態となる(図5(a)参照)。
【0066】
次いで、マイクロ波照射部30のハサミ31のシース軸線周りの回転方向の姿勢を調整する場合には、スライダ部22に対してベース部21を回転させることにより調整することができる。
【0067】
マイクロ波照射部30のハサミ31の姿勢調整が済んだならば、スライダ部22の位置をなるべく動かさないようにして、ベース部21をスライダ部22から引き出すように(図1において上側に)スライドさせて、シース10内で同軸ケーブル11を近位端側にスライド移動させる。これに伴い、同軸ケーブル11の中心導体12が可動刃33の突片33dを引き、回転軸部37を支点とした回転力(図5において時計回りの方向の回転力)を可動刃33に与える。回転力が与えられた可動刃33は、回転軸部37を支点に回動して固定刃32に対して閉じた状態に移行しようとする。この操作により、目標の生体組織を固定刃32と可動刃33とによって一時的に把持する。
【0068】
この状態で、マイクロ波電源装置をオンしてマイクロ波を供給することにより、中心導体12に接続された可動刃33と外部導体14に接続された固定刃32との間で照射されたマイクロ波が、固定刃32と可動刃33とにより把持された生体組織に照射され、生体組織を焼灼凝固させ、止血することができる。マイクロ波は、空気中よりも生体組織中に伝わりやすいので、目標とする生体組織に効果的にマイクロ波のエネルギーを与えることができる。
【0069】
マイクロ波を供給した後、或いは供給しつつ、ベース部21をスライダ部22から更に引き出すように(図1において上側に)スライドさせて、回転軸部37を支点に可動刃33を回動させ固定刃32に対して閉じた状態にする。このとき、固定刃32の裏面32bと可動刃33の裏面33bとが互いに平行な状態で当接しつつ、或いはごく僅かに離間して移動することで、固定刃32と可動刃33で挟まれた生体組織に剪断応力が与えられる。この操作により、止血した状態で目的の生体組織を切断することができる。
【0070】
切断処置が終了したならば、ハサミ31が閉じた状態で内視鏡の処置具案内管から抜き出して、一連の作業(処置)を終了する。
【0071】
次に、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1の作用効果について説明する。
【0072】
本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1は、固定刃32と一体の両側保持部材36で絶縁支持部材34を介して可動刃33を両側から所定方向(回転軸部37を中心とした回転方向)に可動に保持している。これにより、可動刃33と固定刃32の相対的な動作位置を安定させることができ、可動刃33と固定刃32からなるハサミ31の良好な切れ味を維持できる。
【0073】
また、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1では、両側保持部材36は、絶縁支持部材34を同軸ケーブル11に対して同軸に(または並行に)保持する一対の平行アーム部36aと、両平行アーム部36aの基端側部分を固定刃32に一体に固定する環状部36bとを有する構成である。この構成により、絶縁支持部材34の安定保持が可能な形状設定ができ、同軸ケーブル11との結合も容易である。
【0074】
また、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1は、両側保持部材36の環状部36bに略同一外径のコイルシース10が一体に連結された構成である。この構成により、例えばステンレス鋼製のコイルシースとすることで、焼灼その他の処置に際する熱や腐食性物質等に対して安定した性状および動作を担保できる。
【0075】
また、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1は、可動刃33が、マイクロ波照射による焼灼対象組織の滑りぬけ防止用の歯部33hを有し、固定刃32が、マイクロ波照射による焼灼時の生体組織付着防止コーティングを有していてもよい。この構成とすることで、焼灼対象となる生体組織の的確な保持を可能にし、かつ、焼灼時における電極への生体組織の付着を有効に防止できる。
【0076】
また、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1は、可動刃33および固定刃32が、それぞれ表面絶縁処理された構成である。この構成により、両刃間での短絡を防止できるとともに、他の導電性部分との接触による短絡も防止できる。
【0077】
(変形例)
上記実施形態では、両側保持部材36は、環状部36bから2つの平行アーム部36aが軸方向に延びた構成であるが、これに限定されない。図8は、本実施形態に係る内視鏡用マイクロ波照射器具1のマイクロ波照射部30の変形例であるマイクロ波照射部30Bを示す。
【0078】
図8に示すように、この変形例では、両側保持部材36が、固定刃32に一体に固定する環状部36bを有し、環状部36bが、該環状部36bの遠位端側に開口した凹状部36fを有し、凹状部36fに絶縁支持部材34が嵌められた構成である。この構成により、絶縁支持部材34をさらに安定的に保持することができる。
【0079】
上記実施形態では、ハサミ31は固定刃32と可動刃33とを有する構成であったが、これに限定されず、ハサミが一対の可動刃を有する構成であってもよい。この場合には、絶縁支持部材により一対の可動刃を開閉動可能なように支持し、両側保持部材により絶縁支持部材を該開閉動の方向と直交する方向の両側から保持するようにするとよい。
【0080】
以上述べたように、本発明は、可動刃と固定刃の相対的な動作位置を安定させることができ、可動刃と固定刃からなるハサミの良好な切れ味を維持できるという効果を有し、内視鏡用マイクロ波照射器具の全般に有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 内視鏡用マイクロ波照射器具
10 コイルシース(シース)
11 同軸ケーブル(ケーブル)
11a 近位端
12 中心導体
13 筒状絶縁体
14 外部導体
15 絶縁被覆部
16 補強コイル
17 コネクタ
20 操作部
21 ベース部
21a 指輪部
22 スライダ部
22a 鍔部
22b 周溝部
22c シース受け部
30、30A、30B マイクロ波照射部
31 ハサミ
32 固定刃
32a、33a 刃面
32b、33b 裏面
32c、33c 刃先
32d、33g 湾曲部
33 可動刃
33d 突片
33e、36e 取付孔
33f、34c 軸孔
33h 歯部
34 絶縁支持部材
34a 支持アーム部
34b 支持基部
34d 取付孔
36 両側保持部材
36a 平行アーム部
36b 環状部
36c 連結部
36d 切欠き部
36f 凹状部
37 回転軸部
38 固定具
39 中空空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8