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特許7286373物標検知装置、システム、プログラム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】物標検知装置、システム、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
G01S13/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019066052
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165784
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197697(JP,A)
【文献】特開2006-058135(JP,A)
【文献】特開平07-191133(JP,A)
【文献】特開平02-223884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の時間領域での差分信号を算出する差分信号算出部と、
前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知部と、を備え
前記移動物標検知部は、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、ビート周波数が同一でありビート位相が異なるときに、前記検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知する
ことを特徴とする物標検知装置。
【請求項2】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の時間領域での差分信号を算出する差分信号算出部と、
前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知部と、を備え
前記移動物標検知部は、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在することを検知したときに、前記差分信号又は前記ビート信号を周波数変換し、前記移動物標までの距離である移動物標距離を計測し、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知したときに、前記差分信号又は前記ビート信号の周波数変換を中止し、前記移動物標距離の計測を中止する
ことを特徴とする物標検知装置。
【請求項3】
前記移動物標検知部は、前記異なる送受信周期での前記移動物標距離が同一であるときに、前記検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知し、前記異なる送受信周期での前記移動物標距離が異なるときに、前記検知距離範囲内に移動する前記移動物標が存在することを検知する
ことを特徴とする、請求項に記載の物標検知装置。
【請求項4】
前記移動物標検知部は、前記差分信号又は前記ビート信号に対するサンプリング周波数及び変調周波数を調整し、前記移動物標距離に対する計測分解能及び計測範囲を調整する
ことを特徴とする、請求項又はに記載の物標検知装置。
【請求項5】
前記移動物標検知部は、所定距離範囲内に含まれない前記移動物標距離を破棄し出力せず、前記所定距離範囲内に含まれる前記移動物標距離を採用し出力する
ことを特徴とする、請求項からのいずれかに記載の物標検知装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする物標検知システム。
【請求項7】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の時間領域での差分信号を算出する差分信号算出ステップと、
前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知ステップと、
を順にコンピュータに実行させ
前記移動物標検知ステップは、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、ビート周波数が同一でありビート位相が異なるときに、前記検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知する
ことを特徴とする物標検知プログラム。
【請求項8】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の時間領域での差分信号を算出する差分信号算出ステップと、
前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知ステップと、
を順に備え
前記移動物標検知ステップは、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、ビート周波数が同一でありビート位相が異なるときに、前記検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知する
ことを特徴とする物標検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCWレーダを利用して、移動物標を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダを利用して、物標を検知する技術が、特許文献1等に開示されている。周波数掃引された送信信号と、物標から反射された受信信号と、の間のビート信号の周波数が低く/高く計測されるほど、物標距離が短く/長く計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-271429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、移動物標を検知するために、異なる送受信周期において、ビート信号を周波数変換し、物標距離のスペクトルを比較する。しかし、移動物標が存在するし、静止物標も存在するときには、物標距離のスペクトルにおいて、静止物標が移動物標に重畳するため、移動物標を静止物標と区別することが困難である。そして、移動物標が存在しないが、静止物標のみが存在するときでも、毎回の送受信周期において、ビート信号を周波数変換するため、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することが困難である。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、移動物標を検知するにあたり、移動物標を静止物標と区別し、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出し、差分信号の強度に基づいて、移動物標の存否を検知することとした。あえて、異なる送受信周期のビート信号を周波数変換し、物標距離のスペクトルに基づいて、移動物標の存否を検知する必要はない。ここで、移動物標については、異なる送受信周期のビート信号が時間変化するため、差分信号の強度が有限値となる。しかし、静止物標については、異なる送受信周期のビート信号が時間変化しないため、差分信号の強度がほぼ0となる。
【0007】
具体的には、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知部と、を備えることを特徴とする物標検知装置である。
【0008】
また、本開示は、以上に記載の物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする物標検知システムである。
【0009】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知ステップと、を順にコンピュータに実行させるための物標検知プログラムである。
【0010】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、前記差分信号の強度が所定信号強度以上であるときに、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知し、前記差分信号の強度が前記所定信号強度より低いときに、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知する移動物標検知ステップと、を順に備えることを特徴とする物標検知方法である。
【0011】
これらの構成によれば、移動物標を検知するにあたり、移動物標を静止物標と区別し、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することができる。
【0012】
また、本開示は、前記移動物標検知部は、前記異なる送受信周期の前記ビート信号間において、ビート周波数が同一でありビート位相が異なるときに、前記検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知することを特徴とする物標検知装置である。
【0013】
物標距離が変化しない回転/振動物標についても、異なる送受信周期のビート信号が時間変化するため、差分信号の強度が有限値となる。よって、差分信号の強度のみに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができない。しかし、この構成によれば、差分信号又はビート信号の周波数変換前に、異なる送受信周期のビート周波数が同一であることに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができる。
【0014】
また、本開示は、前記移動物標検知部は、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在することを検知したときに、前記差分信号又は前記ビート信号を周波数変換し、前記移動物標までの距離である移動物標距離を計測し、前記検知距離範囲内に前記移動物標が存在しないことを検知したときに、前記差分信号又は前記ビート信号の周波数変換を中止し、前記移動物標距離の計測を中止することを特徴とする物標検知装置である。
【0015】
この構成によれば、移動物標を検知したときのみ、差分信号又はビート信号を周波数変換するため、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することができる。
【0016】
また、本開示は、前記移動物標検知部は、前記異なる送受信周期での前記移動物標距離が同一であるときに、前記検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知し、前記異なる送受信周期での前記移動物標距離が異なるときに、前記検知距離範囲内に移動する前記移動物標が存在することを検知することを特徴とする物標検知装置である。
【0017】
物標距離が変化しない回転/振動物標についても、異なる送受信周期のビート信号が時間変化するため、差分信号の強度が有限値となる。よって、差分信号の強度のみに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができない。しかし、この構成によれば、差分信号又はビート信号の周波数変換後に、異なる送受信周期の移動物標距離が同一であることに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができる。
【0018】
また、本開示は、前記移動物標検知部は、前記差分信号又は前記ビート信号に対するサンプリング周波数及び変調周波数を調整し、前記移動物標距離に対する計測分解能及び計測範囲を調整することを特徴とする物標検知装置である。
【0019】
この構成によれば、差分信号又はビート信号のサンプリング周波数を低周波数に設定することにより、差分信号又はビート信号の周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離及び遠距離で向上させることができる。そして、差分信号又はビート信号の変調周波数を低周波数/高周波数に設定することにより、つまり、計測範囲の下限を近距離/遠距離に設定することにより、差分信号又はビート信号の周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離/遠距離で向上させることができる。
【0020】
また、本開示は、前記移動物標検知部は、所定距離範囲内に含まれない前記移動物標距離を破棄し出力せず、前記所定距離範囲内に含まれる前記移動物標距離を採用し出力することを特徴とする物標検知装置である。
【0021】
この構成によれば、近距離/遠距離のみを検知対象とするときに、又は、遠距離/近距離に雑音源があるときに、近距離/遠距離のみを採用し出力することができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、移動物標を検知するにあたり、移動物標を静止物標と区別し、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の物標検知システムの構成を示す図である。
図2】本開示の物標検知処理の手順を示す図である。
図3】本開示の物標検知処理の具体例を示す図である。
図4】本開示の物標検知処理の具体例を示す図である。
図5】本開示の物標検知処理の具体例を示す図である。
図6】本開示の物標検知処理の具体例を示す図である。
図7】本開示の移動物標検知部の構成を示す図である。
図8】本開示の移動物標距離の出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
本開示の物標検知システムの構成を図1に示す。物標検知システムSは、物標検知装置1及びFMCWレーダ送受信装置2から構成される。物標検知装置1は、ビート信号取得部11、差分信号算出部12及び移動物標検知部13から構成され、図2に示す物標検出プログラムをインストールされる。FMCWレーダ送受信装置2は、PLL回路21、発振器22、分配器23、増幅器24、ローパスフィルタ25、送信アンテナ26、受信アンテナ27、増幅器28、増幅器29、ミキサ回路30、キャリブレータ31I、31Q、A/D変換器32及び位相変調器33から構成される。
【0026】
PLL回路21は、物標検知装置1の制御信号により、発振器22を制御する。発振器22は、PLL回路21の制御信号により、周波数掃引された送信信号を生成する。分配器23は、増幅器24及び増幅器29に対して、周波数掃引された送信信号を分配する。増幅器24は、周波数掃引された送信信号を増幅する。ローパスフィルタ25は、周波数掃引された送信信号から、必要な低周波数成分のみを通過させ、不要な高周波数成分を除去する。送信アンテナ26は、周波数掃引された送信信号を照射する。
【0027】
受信アンテナ27は、物標Tから反射された反射信号を受信する。増幅器28は、物標Tから反射された反射信号を増幅する。増幅器29は、周波数掃引された送信信号を増幅する。ミキサ回路30は、周波数掃引された送信信号LOと、物標Tから反射された反射信号RFと、の間のビート信号のI、Q成分IF I、IF Qを出力する。キャリブレータ31I、31Qは、物標検知装置1の制御信号DC CALにより、ビート信号のI、Q成分IF I、IF Qから直流近傍の周波数成分を除去し、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL Qをダイナミックレンジ内に収める。A/D変換器32は、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL QをA/D変換し、ビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Qを出力する。位相変調器33は、物標検知装置1の制御信号DC CALにより、周波数掃引された送信信号及び物標Tから反射された反射信号の位相を変調し、ビート信号のI、Q成分IF I、IF Qから直流近傍の周波数成分を除去し、ビート信号のI、Q成分CAL I、CAL Qをダイナミックレンジ内に収める。
【0028】
本開示の物標検知処理の手順を図2に示す。本開示の物標検知処理の具体例を図3から図6までに示す。ビート信号取得部11は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Qを取得する(ステップS1)。
【0029】
差分信号算出部12は、異なる送受信周期のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Q間の差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを算出する(ステップS2)。なお、ステップS3については、図7を用いて後述する。次に、ステップS4からステップS11までについて、図3から図6までを用いて説明する。
【0030】
図3では、移動物標検知部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qの強度が所定信号強度以上であるときに(ステップS4においてYES)、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知する(ステップS5)。そして、移動物標検知部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Q又はビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Qの周波数変換を実行し、移動物標距離の計測を実行する(ステップS6)。
【0031】
一方で、移動物標検知部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qの強度が所定信号強度より低いときに(ステップS4においてNO)、検知距離範囲内に移動物標が存在しないことを検知する(ステップS7)。そして、移動物標検知部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Q又はビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Qの周波数変換を中止し、移動物標距離の計測を中止する(ステップS8)。なお、ステップS8が実行された後は、ステップS9からステップS14までは実行されない。
【0032】
具体的には、ビート信号取得部11は、第1、2送受信周期のそれぞれについて、受信開始時刻tR1、tR2から送信終了時刻tT1、tT2までのビート信号を取得する。ここで、移動物標については、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化する。一方で、静止物標については、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化しない。
【0033】
図3の中下段では、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のそれぞれのビート信号について、受信開始時刻tR1、tR2に対応する時刻を0とし、送信終了時刻tT1、tT2に対応する時刻をtとする。そして、差分信号算出部12は、以上のように受信開始時刻tR1、tR2に対応する時間原点を同一にしたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。
【0034】
図3の中段では、検知距離範囲内に移動物標が存在している。ここで、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化している。すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号において、移動物標距離に対応する周波数成分を維持している。よって、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が所定信号強度以上であり、検知距離範囲内に移動物標が存在することを検知することができる。そして、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の周波数変換を実行し、移動物標距離dM1の計測を実行することができる。
【0035】
図3の中段のように、移動物標速度が低速度であるときは、第1、2送受信周期の移動物標距離はほぼ等しく、第1、2送受信周期の距離スペクトルのピーク距離は分離されない。変形例として、移動物標速度が高速度であるときは、第1、2送受信周期の移動物標距離は大きく異なり、第1、2送受信周期の距離スペクトルのピーク距離は分離される。
【0036】
図3の下段では、検知距離範囲内に静止物標のみが存在している。ここで、第1、2送受信周期のビート信号は、時間変化していない。すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号において、静止物標距離に対応する周波数成分を除去している。よって、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が所定信号強度より低く、検知距離範囲内に移動物標が存在しないことを検知することができる。そして、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の周波数変換を中止し、静止物標距離dの計測を中止することができる。
【0037】
このように、移動物標を検知するにあたり、移動物標を静止物標と区別することができる。そして、移動物標を検知したときのみ、差分信号又はビート信号を周波数変換するため、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することができる。
【0038】
図4では、移動物標検知部13は、異なる送受信周期での移動物標距離が異なるときに(ステップS9においてNO)、検知距離範囲内に移動する移動物標が存在することを検知する(ステップS10)。ここで、移動物標として、人間又は車両等が挙げられる。
【0039】
図5では、移動物標検知部13は、異なる送受信周期での移動物標距離が同一であるときに(ステップS9においてYES)、検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知する(ステップS11)。ここで、回転/振動物標として、樹木、ポール、換気扇又は壁等が挙げられる。なお、ステップS11が実行された後は、ステップS12からステップS14までは実行されない。
【0040】
具体的には、ビート信号取得部11は、第1、2、3送受信周期のそれぞれについて、受信開始時刻tR1、tR2、tR3から送信終了時刻tT1、tT2、tT3までのビート信号を取得する。ここで、回転/振動物標については、第1、2、3送受信周期のビート信号は、時間変化する。一方で、移動物標についても、第1、2、3送受信周期のビート信号は、時間変化する。
【0041】
このように、物標距離が変化しない回転/振動物標についても、第1、2、3送受信周期のビート信号が時間変化するため、第1、2、3送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が有限値となる。よって、第1、2、3送受信周期のビート信号間の差分信号の強度のみに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができない。
【0042】
図4及び図5の中下段では、差分信号算出部12は、第1、2、3送受信周期のそれぞれのビート信号について、受信開始時刻tR1、tR2、tR3に対応する時刻を0とし、送信終了時刻tT1、tT2、tT3に対応する時刻をtとする。そして、差分信号算出部12は、以上のように受信開始時刻tR1、tR2、tR3に対応する時間原点を同一にしたうえで、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号及び第2、3送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する。
【0043】
図4の中下段では、検知距離範囲内に移動物標が存在している。ここで、第1、2、3送受信周期のビート信号は、時間変化している。すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号及び第2、3送受信周期のビート信号間の差分信号において、移動物標距離に対応する周波数成分を維持している。よって、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の強度及び第2、3送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が所定信号強度以上であり、検知距離範囲内に移動物標が存在すること又は回転/振動物標が存在することを検知することができる。そして、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期での移動物標距離dM1と、第2、3送受信周期での移動物標距離dM2と、が異なり、検知距離範囲内に回転/振動物標が存在するのではなく移動物標が存在することを検知することができる。
【0044】
図4の中下段のように、移動物標速度が低速度であるときは、隣接する送受信周期の移動物標距離はほぼ等しく、隣接する送受信周期の距離スペクトルのピーク距離は分離されないが、若干離れた送受信周期の距離スペクトルのピーク距離は分離される。変形例として、移動物標速度が高速度であるときは、隣接する送受信周期の移動物標距離は大きく異なり、隣接する送受信周期の距離スペクトルのピーク距離は分離されるため、若干離れた送受信周期の距離スペクトルのピーク距離を検知する必要はない。
【0045】
図5の中下段では、検知距離範囲内に回転/振動物標が存在している。ここで、第1、2、3送受信周期のビート信号は、時間変化している。すると、差分信号算出部12は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号及び第2、3送受信周期のビート信号間の差分信号において、回転/振動物標距離に対応する周波数成分を維持している。よって、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期のビート信号間の差分信号の強度及び第2、3送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が所定信号強度以上であり、検知距離範囲内に回転/振動物標が存在すること又は移動物標が存在することを検知することができる。そして、移動物標検知部13は、第1、2送受信周期での移動物標距離dと、第2、3送受信周期での移動物標距離dと、が同一であり、検知距離範囲内に移動物標が存在するのではなく回転/振動物標が存在することを検知することができる。
【0046】
このように、差分信号又はビート信号の周波数変換後に、異なる送受信周期の移動物標距離が同一であることに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができる。
【0047】
図3から図5まででは、移動物標検知部13は、第1、2(図4及び図5では、第3も含む。)送受信周期のビート信号間の差分信号の周波数変換を実行し、移動物標距離の計測を実行する。変形例として、移動物標検知部13は、第1、2(図4及び図5に応じて、第3も含む。)送受信周期のビート信号の各々の周波数変換を実行し、移動物標距離の計測を実行してもよい。図3から図5まででは、移動物標検知部13は、計算負荷、記憶容量及び消費電力を低減することができる。変形例では、移動物標検知部13は、移動物標距離が遠距離及び近距離のいずれの方向に時間変化したかを区別することができる。
【0048】
図3から図5まででは、差分信号算出部12は、第1、2(図4及び図5では、第3も含む。)送受信周期のビート信号間の差分信号を算出し、移動物標検知部13は、第1、2(図4及び図5では、第3も含む。)送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が所定信号強度以上である/所定信号強度より低いときに、検知距離範囲内に移動物標が存在する/存在しないことを検知する。変形例として、差分信号算出部12は、第1、2(図4及び図5に応じて、第3も含む。)送受信周期のビート信号間の除算信号を算出し、移動物標検知部13は、第1、2(図4及び図5に応じて、第3も含む。)送受信周期のビート信号間の除算信号の強度が時間変化する/時間変化しないときに、検知距離範囲内に移動物標が存在する/存在しないことを検知してもよい。
【0049】
図6では、移動物標検知部13は、異なる送受信周期のビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Q間において、ビート周波数が同一でありビート位相が異なるときに、検知距離範囲内に移動することなく回転する又は振動する回転/振動物標が存在することを検知する。ここで、回転/振動物標として、樹木、ポール、換気扇又は壁等が挙げられる。なお、図6が実行された後は、ステップS12からステップS14までは実行されない。
【0050】
具体的には、ビート信号取得部11は、第1、2、3、4送受信周期のそれぞれについて受信開始時刻tR1、tR2、tR3、tR4から送信終了時刻tT1、tT2、tT3、tT4までのビート信号を取得する。ここで、回転/振動物標については、第1、2、3、4送受信周期のビート周波数は、時間変化しないが、第1、2、3、4送受信周期のビート位相は、時間変化する。一方で、移動物標については、第1、2、3、4送受信周期のビート周波数は、時間変化するし、第1、2、3、4送受信周期のビート位相も、時間変化する。
【0051】
このように、物標距離が変化しない回転/振動物標についても、第1、2、3、4送受信周期のビート周波数は時間変化しないが、第1、2、3、4送受信周期のビート信号は時間変化するため、第1、2、3、4送受信周期のビート信号間の差分信号の強度が有限値となる。よって、第1、2、3、4送受信周期のビート信号間の差分信号の強度のみに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができない。
【0052】
図6の下段では、差分信号算出部12は、第1、2、3、4送受信周期のビート信号のそれぞれについて、受信開始時刻tR1、tR2、tR3、tR4に対応する時刻を0とし、送信終了時刻tT1、tT2、tT3、tT4に対応する時刻をtとする。ただし、差分信号算出部12は、受信開始時刻tR1、tR2、tR3、tR4に対応する時間原点を同一にしたうえで、第1、2、3、4送受信周期のビート信号間の差分信号を算出するわけではない。
【0053】
図6の下段では、検知距離範囲内に回転/振動物標が存在している。ここで、第1、2、3、4送受信周期のビート周波数は、時間変化していないが、第1、2、3、4送受信周期のビート位相は、時間変化している。すると、移動物標検知部13は、第1、2、3、4送受信周期のビート信号において、ある時刻でのI、Q成分が黒丸印のように時間変化していることを検知する。よって、移動物標検知部13は、検知距離範囲内に移動物標が存在するのではなく回転/振動物標が存在することを検知することができる。さらに、移動物標検知部13は、異なる送受信周期のビート信号において、ある時刻でのI、Q成分の時間変化に基づいて、回転/振動物標の回転/振動速度を計測することができる。
【0054】
このように、差分信号又はビート信号の周波数変換前に、異なる送受信周期のビート周波数が同一であることに基づいて、回転/振動物標を移動物標と区別することができる。
【0055】
本開示の移動物標検知部の構成を図7に示す。移動物標検知部13は、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Q(図7に図示。)又はビート信号のI、Q成分A/D I、A/D Q(図7に不図示。)に対するサンプリング周波数及び変調周波数を調整し、移動物標距離に対する計測分解能及び計測範囲を調整する(ステップS3)。
【0056】
具体的には、移動物標検知部13は、ミキサ回路131I、131Q、ローパスフィルタ132I、132Q、デシメータ/インタポレータ133I、133Q及び周波数変換器134から構成される。ミキサ回路131I、131Qは、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを所望の変調周波数で変調する。ローパスフィルタ132I、132Qは、差分信号のI、Q成分MOD I、MOD Qから、必要な低周波数成分のみを通過させる。デシメータ/インタポレータ133I、133Qは、差分信号のI、Q成分LPF I、LPF Qを所望のサンプリング周波数でサンプリングする。周波数変換器134は、差分信号のI、Q成分SAM I、SAM Qを周波数変換する。
【0057】
ここで、周波数計測分解能は、F/FFTである(Fはサンプリング周波数、FFTは周波数変換の次数。)。よって、距離計測分解能は、((F/FFT)×S×c)/(2×F)である(Sは掃引時間幅、cは光速、Fは掃引周波数幅。)。そして、最長計測距離は、((F/2)×S×c)/(2×F)である。
【0058】
よって、計測範囲を近距離に限定するならば、最長計測距離の数式中のサンプリング周波数Fを小さくすればよく、距離計測分解能を向上させることができる。しかし、計測範囲を遠距離に拡張するならば、最長計測距離の数式中のサンプリング周波数Fを大きくすればよいが、距離計測分解能を向上させることができない。そこで、計測範囲を遠距離に拡張するときに、距離計測分解能を向上させるために、計測範囲の下限を0から有限値へと変更したうえで、(計測範囲の下限からの)最長計測距離の数式中のサンプリング周波数Fを大きくし過ぎなければよい。そして、計測範囲の下限を0から有限値へと変更するために、ミキサ回路131I、131Qは、差分信号のI、Q成分SUB I、SUB Qを所望の変調周波数で変調し、ローパスフィルタ132I、132Qは、差分信号のI、Q成分MOD I、MOD Qから、必要な低周波数成分のみを通過させる。
【0059】
このように、差分信号又はビート信号のサンプリング周波数を低周波数に設定することにより、差分信号又はビート信号の周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離及び遠距離で向上させることができる。そして、差分信号又はビート信号の変調周波数を低周波数/高周波数に設定することにより、つまり、計測範囲の下限を近距離/遠距離に設定することにより、差分信号又はビート信号の周波数変換の次数を増大させなくても、計測分解能を近距離/遠距離で向上させることができる。
【0060】
本開示の移動物標距離の出力を図8に示す。移動物標検知部13は、所定距離範囲内に含まれない移動物標距離を破棄し出力しない(ステップS12においてNO及びステップS13)。一方で、移動物標検知部13は、所定距離範囲内に含まれる移動物標距離を採用し出力する(ステップS12においてYES及びステップS14)。
【0061】
図8の左欄では、近距離のみを検知対象(人間又は車両等。)とするとき、又は、遠距離に雑音源(樹木、ポール、換気扇又は壁等)があるときを示す。ここで、移動物標検知部13は、物標距離閾値dThより短距離の所定距離範囲内に含まれない移動物標距離dM2を破棄し出力しない。一方で、移動物標検知部13は、物標距離閾値dThより短距離の所定距離範囲内に含まれる移動物標距離dM1を採用し出力する。
【0062】
図8の右欄では、遠距離のみを検知対象(人間又は車両等。)とするとき、又は、近距離に雑音源(樹木、ポール、換気扇又は壁等)があるときを示す。ここで、移動物標検知部13は、物標距離閾値dThより遠距離の所定距離範囲内に含まれない移動物標距離dM1を破棄し出力しない。一方で、移動物標検知部13は、物標距離閾値dThより遠距離の所定距離範囲内に含まれる移動物標距離dM2を採用し出力する。
【0063】
このように、近距離/遠距離のみを検知対象とするときに、又は、遠距離/近距離に雑音源があるときに、近距離/遠距離のみを採用し出力することができる。
【0064】
例えば、エレベータ内外の換気扇の回転又は壁の振動を、エレベータ内外の人間の移動と区別することにより、エレベータの自動扉の誤開閉を防止することができる。或いは、非常階段内の換気扇の回転又は壁の振動を、非常階段内の人間の移動と区別することにより、非常階段の自動照明の誤点灯を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示の物標検知装置、システム、プログラム及び方法は、エレベータ内外の移動する人間又は非常階段内の移動する人間等を検知する用途において、適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
S:物標検知システム
T:物標
1:物標検知装置
2:FMCWレーダ送受信装置
11:ビート信号取得部
12:差分信号算出部
13:移動物標検知部
21:PLL回路
22:発振器
23:分配器
24:増幅器
25:ローパスフィルタ
26:送信アンテナ
27:受信アンテナ
28:増幅器
29:増幅器
30:ミキサ回路
31I、31Q:キャリブレータ
32:A/D変換器
33:位相変調器
131I、131Q:ミキサ回路
132I、132Q:ローパスフィルタ
133I、133Q:デシメータ/インタポレータ
134:周波数変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8