(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20230529BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/14 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20230529BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20230529BHJP
B01J 31/12 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/22
C08K3/14
C08K3/08
C08K3/04
C08K3/28
C08K5/5419
B01J31/12 Z
(21)【出願番号】P 2020051966
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】北沢 啓太
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-065330(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235492(WO,A1)
【文献】特開2018-131510(JP,A)
【文献】特開2005-064281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
H01L 23/34- 23/46
B01J 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、R
1SiO
3/
2(T単位)とR
1
2SiO
2/
2単位(D単位)からなる、熱可塑性オルガノポリシロキサン
(式中、R
1は炭素数1~10の非置換または置換の1価炭化水素基である。)
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が0.3~5となる量、
(C)白金族金属触媒を含有する有機化合物又は高分子化合物を芯物質とし、少なくとも1種の多官能性モノマーを重合してなる三次元架橋高分子化合物を壁物質としたマイクロカプセル構造を有するヒドロシリル化触媒微粒子:有効量
(D)金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱伝導性充填剤:組成物全体に対し10~95質量%となる量
を含む組成物であって、該組成物から形成された未硬化の塗布膜が、25℃では流動性がなく、40~100℃の温度で軟化、流動する性質を有するものであ
り、
さらに、(E)下記一般式(1)で表されるオルガノシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物:(A)成分100質量部に対して0.01~100質量部
を含有するものであることを特徴とする熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【化1】
(式中、R
2
は独立に炭素数1~20の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基であり、R
3
は独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数である。)
【請求項2】
前記(C)成分の平均粒子径が0.01~1,000μmであることを特徴とする請求項
1に記載の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記(C)成分を構成する多官能性モノマーが、1分子中に2個以上の重合性炭素-炭素二重結合を有する多官能性モノマーであることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記(C)成分を構成する多官能性モノマーが、1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能性モノマーであることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物に関する。詳細には、25℃付近では流動性がなく、40~100℃の温度で軟化、流動して熱境界面に対する密着性を向上させて、熱伝達効率を改善する熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIやICチップ等の電子部品は、使用中の発熱及びそれによる性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として様々な放熱技術が用いられている。一般的な放熱技術としては、発熱部の付近に冷却部材を配置し、両者を密接させたうえで冷却部材から効率的に除熱することにより放熱を行う技術が挙げられる。
【0003】
その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の悪い空気が介在することにより熱伝導率が低下し、発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。このような空気の介在を防ぎ、熱伝導率を向上させるため、熱伝導率がよく、部材の表面に追随性のある放熱材料、例えば放熱グリースや放熱シートが用いられている(特許文献1~11)。
【0004】
放熱グリースは厚さを薄くできるので電子部品と冷却部材の距離を小さくすることができ、さらに表面の微細な凹凸を埋めることにより大幅に熱抵抗を低減することができる。しかし、放熱グリースは取扱い性が悪く周囲を汚染したり、ヒートサイクルにより放熱グリースの流れ出し(ポンピングアウト)が発生して熱特性が低下する問題がある。
【0005】
放熱グリースのなかには、所望の厚みに圧縮後に付加硬化反応させることで、ポンピングアウトを発生しづらくするものも存在するが、実用上不利な特徴も存在する。例えば、半導体パッケージの熱対策として付加硬化型の放熱グリースが過去に多く提案されている(例えば特許文献12)。しかしそれらのほとんどは室温での保存性に乏しく、冷凍もしくは冷蔵保存が必須であるため、製品管理が困難である場合がある。
【0006】
一方、放熱シートは取扱い作業性や室温保存性に優れ、ヒートサイクル時も安定であるが、厚さを薄くすることが難しく、また電子部品や冷却部材表面の微細な凹凸に追従できないので接触熱抵抗が大きくなり、効率よく熱を伝導することができないという問題がある。
【0007】
そこで、放熱グリースの低熱抵抗化と放熱シートの取扱い作業性や室温保存性との両方の特性を有する熱伝導性部材として、室温付近では取扱い性の良い固体状であり、電子部品から発生する熱により軟化あるいは流動する熱軟化性熱伝導性シリコーン組成物が提案されている(特許文献13~14)。これらは熱により軟化あるいは流動することで、電子部品及び冷却部材表面の微細な凹凸を埋めることにより大幅に熱抵抗を低減することができるものの、ヒートサイクルによりポンピングアウトが発生して熱特性が低下する問題が依然残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第2938428号公報
【文献】特許第2938429号公報
【文献】特許第3580366号公報
【文献】特許第3952184号公報
【文献】特許第4572243号公報
【文献】特許第4656340号公報
【文献】特許第4913874号公報
【文献】特許第4917380号公報
【文献】特許第4933094号公報
【文献】特開2008-260798号公報
【文献】特開2009-209165号公報
【文献】特開2014-080546号公報
【文献】特許第3504882号公報
【文献】特許第3712943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した通り、熱軟化性熱伝導性シリコーン組成物は放熱グリースの低熱抵抗化と放熱シートの取扱い作業性や室温保存性との両方の特性を有する熱伝導性部材として有用である。しかしヒートサイクルによりポンピングアウトが発生して熱特性が低下する問題が依然課題として残っており、この点の改善が待たれていた。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、25℃付近では流動性がなく、40~100℃の温度で軟化、流動して熱境界面に対する密着性を向上させて、熱伝達効率を改善し、かつ良好な室温保存性を有し、付加硬化によりヒートサイクルによるポンピングアウトを抑制可能な熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、
(A)1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、R1SiO3/2(T単位)とR1
2SiO2/2単位(D単位)からなる、熱可塑性オルガノポリシロキサン
(式中、R1は炭素数1~10の非置換または置換の一価炭化水素基である)
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が0.3~5となる量、
(C)白金族金属触媒を含有する有機化合物又は高分子化合物を芯物質とし、少なくとも1種の多官能性モノマーを重合してなる三次元架橋高分子化合物を壁物質としたマイクロカプセル構造を有するヒドロシリル化触媒微粒子:有効量
(D)金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱伝導性充填剤:組成物全体に対し10~95質量%となる量
を含む組成物であって、該組成物から形成された未硬化の塗布膜が、25℃では流動性がなく、40~100℃の温度で軟化、流動する性質を有するものである、熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0012】
このような熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、25℃付近では流動性がなく、40~100℃の温度で軟化、流動して熱境界面に対する密着性を向上させて熱伝達効率を改善し、かつ良好な室温保存性を有し、付加硬化によりヒートサイクルによるポンピングアウトを抑制可能である。
【0013】
さらに、(E)下記一般式(1)で表されるオルガノシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物:(A)成分100質量部に対して0.01~100質量部を含有するものであることが好ましい。
【化1】
(式中、R
2は独立に炭素数1~20の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基であり、R
3は独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数である。)
【0014】
このような化合物は、本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の耐熱性を向上させる働きがある。
【0015】
また、前記(C)成分の平均粒子径が0.01~1,000μmであることが好ましい。
【0016】
このような平均粒子径であれば、(C)成分の分散性が良好なものとなる。
【0017】
また、前記(C)成分を構成する多官能性モノマーが、1分子中に2個以上の重合性炭素-炭素二重結合を有する多官能性モノマーであることが好ましい。
【0018】
このようなモノマーであれば、壁物質を形成するのに好ましい。
【0019】
さらに、前記(C)成分を構成する多官能性モノマーが、1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能性モノマーであるとより好ましい。
【0020】
このようなモノマーであれば、壁物質を形成するのにより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、25℃付近では流動性がなく、40~100℃の温度で軟化、流動して熱境界面に対する密着性を向上させて熱伝達効率を改善し、かつ良好な室温保存性を有し付加硬化によりヒートサイクルによるポンピングアウトを抑制可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
(A)成分
(A)成分は、1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、R1SiO3/2(T単位)とR1
2SiO2/2単位(D単位)からなる、熱可塑性オルガノポリシロキサンである。ここで上記R1は、炭素数1~10、好ましくは1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基である。このようなR1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert- ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキシニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも特にメチル基、フェニル基およびビニル基が好ましい。
【0024】
(A)成分はR1SiO3/2(T単位)とR1
2SiO2/2単位(D単位)からなるものであり、D単位とT単位で設計する。特に固形時の脆さを改善して取扱い時の破損等を防止できる強靱性に優れるものとするためT単位とD単位を導入することが有効である。ここで、T単位の置換基(R1)としては、メチル基およびフェニル基が好ましく、D単位の置換基としては、メチル基、フェニル基およびビニル基が好ましい。また、上記T単位とD単位の比率は、10:90~90:10であることが好ましく、20:80~80:20とすることが好ましい。
【0025】
また(A)成分の数平均分子量は500~20,000であることが好ましく、特に1,000~10,000であることが好ましい。シリコーン樹脂の数平均分子量が500以上であれば、熱軟化時の粘度が十分高くオイルブリードを抑制でき、20,000以下であれば熱軟化時の粘度が高くなりすぎず電子部品や放熱部品との良好な密着性が得られる。(A)成分の数平均分子量は、トルエンを溶媒としたGPC分析により導出した値である。なお(A)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、熱可塑性、即ち室温では固形であり温度を上げると軟化又は流動する性質のものである。(A)成分ではなく室温で流動性のあるオルガノポリシロキサンを用いた場合には、シリコーン組成物から形成された未硬化の塗布膜は25℃で流動するものとなってしまう。
【0027】
(B)成分
(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上、特に好ましくは3~100個、さらに好ましくは5~50個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子中のSiH基が、上述した(A)成分が有する脂肪族不飽和炭化水素基と白金族金属触媒の存在下で付加反応し、架橋構造を形成できるものであればよい。
【0028】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した有機基としては、脂肪族不飽和炭化水素基以外の1価炭化水素基が挙げられる。特には、炭素数1~12、好ましくは炭素数1~10の、非置換又は置換の1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等、及び、2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のエポキシ環含有有機基(グリシジル基又はグリシジルオキシ基置換アルキル基)が挙げられる。
【0029】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記性質を有するものであればその分子構造は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状、環状、一部分岐又は環状構造を有する直鎖状等が挙げられる。好ましくは直鎖状、環状である。
【0030】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、25℃の動粘度が1~1,000mm2/s、好ましくは10~100mm2/sであるものが好ましい。上記動粘度が1mm2/s以上であれば、シリコーン組成物の物理的特性が低下するおそれがなく、1,000mm2/s以下であれば、シリコーン組成物の伸展性が乏しいものとなるおそれがない。
【0031】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(B)成分中のSiH基の個数が0.3~5となる量であり、好ましくは0.5~3となる量であり、より好ましくは0.7~2.5となる量である。(B)成分の量が上記下限値未満では付加反応が十分に進行せず、架橋が不十分となる。また、上記上限値超では、架橋構造が不均一となったり、組成物の保存性が著しく悪化したりする。
【0033】
(C)成分
(C)成分はヒドロシリル化触媒微粒子であり、白金族金属触媒を含有する有機化合物又は高分子化合物を芯物質とし、少なくとも1種の多官能性モノマーを重合してなる三次元架橋高分子化合物を壁物質としたマイクロカプセル構造を有する。該構造とすることで室温下において、マイクロカプセル構造中の芯物質が組成物中へ拡散することを防ぎ、又はその速度を低下させ、室温下での優れた長期保存性を発現することができる。
【0034】
白金族金属触媒としては、付加反応に用いられる従来公知のものを使用することができる。例えば、白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系、オスミウム系、イリジウム系等の触媒が挙げられるが、中でも比較的入手しやすい白金又は白金化合物が好ましい。例えば、白金の単体、白金黒、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。白金族金属触媒は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
白金族金属触媒は、有機化合物又は高分子化合物に希釈された状態であるのが好ましい。有機化合物としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状シロキサン化合物等が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン等の炭化水素系高分子化合物、ジメチル系、メチル-フェニル系、フロロ系等の各種液状オルガノポリシロキサン化合物等が挙げられる。なお、これら有機化合物及び高分子化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
マイクロカプセル構造の壁物質を形成する三次元架橋高分子化合物の前駆体となる多官能性モノマーとしては、従来公知のものを使用することができるが、1分子中に2個以上の重合性炭素-炭素二重結合を有する多官能性モノマーであることが好ましい。例えば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能メタクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド等の多官能アクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド等の多官能メタクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられるが、中でも1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能性モノマーであることが好ましく、さらには比較的入手しやすく重合性の高い多官能アクリレート及び多官能メタクリレートが好ましい。なお、これら多官能性モノマーは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
芯物質である白金族金属触媒を含有する有機化合物又は高分子化合物と、壁物質である三次元架橋高分子化合物からなるヒドロシリル化触媒微粒子の製造方法は特に限定されず従来公知の方法を採用することができ、例えば、界面重合法やin-situ重合法等が挙げられ、重合反応は加熱や紫外線照射により加速することができ、熱重合開始剤や光重合開始剤を併用してもよい。
【0038】
本発明にかかるヒドロシリル化触媒微粒子を製造する工程の一例を以下に述べる。
【0039】
はじめに、白金族金属触媒を含有する有機化合物又は高分子化合物、多官能性モノマー、光重合開始剤の混合物を分散媒中に分散させた分散液を調製する。ここで、光重合開始剤としては、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン等が例示できる。また、分散媒としては、水、水にメタノールやエタノールといった水溶性有機溶剤を添加した混合物等が挙げられる。分散媒は任意の分散剤を含有してもよく、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0040】
続いて調製した分散液に紫外線を照射することで多官能性モノマーを重合し、壁物質となる三次元架橋高分子化合物を生成し、マイクロカプセル構造を有するヒドロシリル化触媒微粒子を得る。
【0041】
また、(C)成分のマイクロカプセル構造を有するヒドロシリル化触媒微粒子は、その構造中、白金族金属触媒を0.01~10質量%有することが好ましく、0.05~5質量%有することがより好ましく、0.1~3質量%有することがさらに好ましい。なお、上記白金原子含有量は、ICP-OES(Agilent730:アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて測定することができる。
【0042】
(C)成分の平均粒子径は、0.01~1,000μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05~500μmの範囲であり、さらに好ましくは0.1~100μmの範囲である。0.01μm以上であればヒドロシリル化触媒微粒子自身が凝集しにくく、シリコーン組成物への分散性が低下するおそれがなく、また1,000μm以下であればシリコーン組成物を加熱硬化させる際に白金族金属触媒の分散性が低下せず、組成物の一様な硬化が容易である。なお平均粒子径は、例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値(又はメジアン径)として求めることができる。
【0043】
(C)成分のヒドロシリル化触媒微粒子は、1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。(C)成分の配合量は、触媒としての有効量、即ち、付加反応を促進して本発明の付加硬化型シリコーン組成物を硬化させるために必要な有効量であればよい。特には、(A)成分に対し、白金族金属原子に換算した質量基準で0.1~500ppmであることが好ましく、より好ましくは1~200ppmである。触媒の量が上記下限値、0.1ppm以上であれば触媒としての十分な効果が得られる。また上記上限値、500ppm以下であれば添加量に見合うだけの触媒効果が得られるため経済的である。
【0044】
(D)成分
(D)成分は金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる1種以上の熱伝導性充填剤である。例えば、アルミニウム、銀、銅、金属ケイ素、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化セリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、ダイヤモンド、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、例えば2種の熱伝導性充填剤を組み合わせて用いる場合には、大粒子成分と小粒子成分といった粒径の異なる熱伝導性充填剤を組み合わせることで、充填性を向上することができる。
【0045】
この場合、大粒子成分の平均粒径は、好ましくは0.1~100μmの範囲、より好ましくは5~50μmの範囲、特には10~45μmの範囲が好ましい。0.1μm以上であれば得られる組成物の粘度が高くなりすぎることはなく、伸展性の乏しいものとなるおそれもなく、100μm以下であれば得られる組成物が不均一となるおそれがない。
【0046】
また、小粒子成分の平均粒径は、好ましくは0.01μm以上10μm未満の範囲、より好ましくは0.1~4μmの範囲がよい。0.01μm以上であれば得られる組成物の粘度が高くなりすぎることがなく、伸展性の乏しいものとなるおそれもなく、10μm以下であれば得られる組成物が不均一となるおそれがない。
【0047】
大粒子成分と小粒子成分の割合は特に限定されず、9:1~1:9(質量比)の範囲が好ましい。また、大粒子成分及び小粒子成分の形状は、球状、不定形状、針状等、特に限定されるものではない。
【0048】
なお、平均粒径は、例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積基準の平均値(又はメジアン径)として求めることができる。
【0049】
(D)成分の配合量は、組成物全体に対し10~95質量%であり、20~90質量%が好ましく、30~88質量%がより好ましく、特には50~85質量%とすることができる。95質量%より多いと、組成物が伸展性の乏しいものとなるし、10質量%より少ないと熱伝導性に乏しいものとなる。
【0050】
さらに、(D)成分(熱伝導性充填剤)の熱伝導率は10W/m・K以上であることが好ましく、20W/m・K以上であることがより好ましい。(D)成分の熱伝導率が10W/m・K以上であると、組成物は熱伝導性により優れたものとなる。
【0051】
(E)成分
(E)成分は、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物(部分加水分解縮合物、加水分解縮合物)である。
【化2】
(式中、R
2は独立に炭素数1~20の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基であり、R
3は独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数である。)
【0052】
(E)成分は、(D)成分の熱伝導性無機充填剤の表面を処理するために用いるものであるが、充填剤の高充填化を補助するばかりでなく、充填剤表面を覆うことにより充填剤同士の凝集を起こりにくくし、高温下でもその効果は持続するため、本熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の耐熱性を向上させる働きがある。
【0053】
上記一般式(1)中、R2としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基等を挙げることができるが、その具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(パーフルオロブチル)エチル基、2-(パーフルオロオクチル)エチル基、p-クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられる。aは1,2又は3であるが、特に1であることが好ましい。R3としては、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0054】
一般式(1)のオルガノシラン及び/又はその(部分)加水分解縮合物を配合する場合の添加量は、熱伝導性樹脂組成物からのオイルブリードや、ボイドの発生をより確実に防ぐ観点から、(A)成分100質量部に対して0.01~100質量部の範囲であり、好ましくは0.1~50質量部の範囲、さらに好ましくは1~30質量部の範囲である。
【0055】
その他の成分
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、組成物の硬度や粘度を調整するために、有機溶剤や付加反応性を有さないオルガノ(ポリ)シロキサンを含有してもよい。さらに、シリコーン組成物の劣化を防ぐために、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の、従来公知の酸化防止剤を必要に応じて含有してもよい。さらに、接着助剤、表面処理剤、離型剤、染料、顔料、難燃剤、沈降防止剤、又はチクソ性向上剤等を、必要に応じて配合することができる。
【0056】
熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法
次に、本発明における熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の製造方法について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を製造する方法は、従来のシリコーン組成物の製造方法に従えばよく、特に制限されるものでない。例えば、上記(A)~(D)成分、必要によりこれに加えて(E)成分、及びその他の成分を、あわとり練太郎(シンキー(株)の登録商標)、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリーミキサー(いずれも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機、もしくはヘラ等を用いた手混合にて混合する方法を採用することができる。
【0058】
熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、少なくとも上述の(A)~(D)成分を含む、流動性があってもよい、例えばペースト状の組成物である。該組成物から形成される塗布膜は、付加硬化させる前においては、25℃で流動性がなく(例えば固形状)40~100℃に加熱すると軟化、流動するという性質を有する。そして付加硬化させた後には塗布膜は強固なものとなり高い耐ポンピングアウト性を示すようになる。
【0059】
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、粘度が好ましくは10~1,000Pa・s、より好ましくは30~500Pa・s、さらに好ましくは50~300Pa・sを有する。粘度が、10Pa・s以上では、形状保持が容易となり、作業性が良くなる。また粘度が1,000Pa・s以下である場合には吐出や塗布が容易となる等、作業性が良くなる。上記粘度は、上述した各成分の配合を調整することにより得ることができる。本発明において、粘度はマルコム粘度計により測定した25℃の値である(ロータAで10rpm、ズリ速度6[1/s])。
【0060】
また本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性を有するものであれば特に限定されないが、通常、0.5~10W/m・Kの熱伝導率を有する。なお熱伝導率はホットディスク法で測定した25℃での値である。
【0061】
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物から形成される未硬化の塗布膜を軟化または流動させる場合の条件は特に制限されるものでないが、温度は通常40~100℃、好ましくは50~80℃であり、時間は通常30分~6時間、好ましくは1~2時間である。
【0062】
本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物から形成される未硬化の塗布膜を硬化する場合の硬化条件は特に制限されるものでないが、温度は通常80~200℃、好ましくは100~170℃であり、時間は通常10分~24時間、好ましくは30分~12時間、特に好ましくは1~6時間である。熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の硬化後の性状は特に制限されるものではなく、ゲル状、低硬度ゴム状、高硬度ゴム状等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、動粘度はウベローデ型オストワルド粘度計による25℃の値を示す。
【0064】
初めに、本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を調製するために以下の各成分を用意した。
【0065】
(A)成分
A-1:D25TΦ
55DVi
20 (軟化点:40~50℃ )
(D はMe2SiO2/2、TΦはPhSiO3/2、DViはViMeSiO2/2である)
【0066】
A-2(比較用):両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が590mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0067】
(B)成分
B-1:下記式(2)で表される、25℃における動粘度が20mm
2/sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化3】
【0068】
B-2:下記式(3)で表される、25℃における動粘度が36mm
2/sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化4】
【0069】
(C)成分
C-1:下記合成例1で得られたヒドロシリル化触媒微粒子
【0070】
[合成例1]C-1成分の調製
25mLガラス瓶に、グリセロールジメタクリラート7.5g、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体をジメチルポリシロキサン(25℃における動粘度=600mm2/s)に溶解した溶液(白金原子含有量:白金原子として1質量%)7.5g、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド0.075gを加え、激しく振とうすることでO/O型エマルションを調製した。300mLのポリプロピレン製カップに測りとった10質量%ポリビニルアルコール水溶液135gを、回転数1,400rpmに設定したホモミクサーで撹拌しながら先に調製したO/O型エマルションを添加し、回転数を6,000rpmとして遮光下で1時間室温撹拌し(O/O)/W型エマルションを調製した。続いて得られた(O/O)/W型エマルションに、波長365nmのUV-LEDから1時間紫外線を照射した。これを24時間遮光下で静置した後に上澄みをデカンテーションし、沈殿物をイオン交換水、イオン交換水/エタノール=50/50(質量比)、エタノール、エタノール/トルエン=50/50(質量比)、トルエンの順で洗浄・遠心分離し、凍結乾燥を3時間行なうことで、白色粉末状のヒドロシリル化触媒微粒子8.8g(収率=58%)を得た。ICP-OES(Agilent730:アジレント・テクノロジー(株)製)から定量した白金原子含有量は0.46質量%であり、レーザー回折/散乱式粒度測定装置(LA-750:(株)堀場製作所製)で測定した平均粒子径は3.0μmであった。
【0071】
C-2(比較用):白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を25℃における動粘度=600mm2/sのジメチルポリシロキサンに溶解した溶液(白金原子含有量:白金原子として1質量%)
【0072】
(D)成分
D-1:平均粒子径0.3μmの酸化亜鉛粉末(熱伝導率:25W/m・K)
D-2:平均粒子径1μmの破砕状アルミナ粉末(熱伝導率:32W/m・K)
D-3:平均粒子径10μmの球状アルミナ粉末(熱伝導率:32W/m・K)
D-4:平均粒子径45μmの球状アルミナ粉末(熱伝導率:32W/m・K)
D-5:平均粒子径70μmの球状アルミナ粉末(熱伝導率:32W/m・K)
【0073】
(E)成分
E-1:下記式(4)で表されるオルガノシラン
【化5】
【0074】
その他成分
(F)成分
F-1:イソパラフィン系溶剤(商品名:2028MU、出光昭和シェル製)
F-2:キシレン
【0075】
[実施例1~6、比較例1~4]
熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の調製
上記(A)~(F)成分を、下記表1及び2に示す配合量に従い、下記に示す方法で配合して熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を調製した。なお、SiH/SiVi(個数比)は、(A)成分中のアルケニル基の個数の合計に対する(B)成分中のSiH基の個数の合計の比である。
【0076】
5Lのプラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)に、(A)、(D)、(E)及び(F)成分を加え、70℃で1時間混合した。40℃以下になるまで冷却し、次に(C)及び(B)成分を加えて均一になるように混合し、熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
【0077】
上記方法で得られた各組成物について、下記の方法に従い、粘度及び熱伝導率を測定し、さらに軟化特性及び耐ポンピングアウト性を評価した。結果を表1及び2に併記する。
【0078】
[粘度]
各組成物の絶対粘度を、マルコム粘度計(タイプPC-1T)を用いて25℃で測定した(ロータAで10rpm、ズリ速度6[1/s])。
【0079】
[熱伝導率]
各組成物をキッチンラップで包み、熱伝導率を京都電子工業(株)製TPS-2500Sで測定した。
【0080】
[軟化特性試験]
アルミ板の上に、未硬化の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を厚み120μmで塗布した。塗布したアルミ板を60℃で1時間加熱した後、25℃まで冷却して流動性の有無を確認した。続いて再度60℃で1時間加熱した後、指触にて軟化状態を確認した。
【0081】
[耐ポンピングアウト性]
アルミ板の上に、未硬化の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を厚み120μmで□15mmに塗布し、60℃で1時間加熱した後、25℃まで冷却した。これにガラス板を乗せて、1.8kgf(17.65N)のクリップを二つ用いて固定し、60℃で1時間加熱密着した。この時点での組成物の面積をαとする。これを150℃で30分加熱硬化した後、-40℃/30分と150℃/30分とを反復する冷熱衝撃試験機に垂直置きし、500サイクル後に取り出した。この時点での面積をβとし、式β/αを定量した。また面積βのうち、組成物が存在しない領域の面積(=γ)を画像処理により定量し、式γ/βを定量した。すなわち、β/αの値及びγ/βの値が小さいほど耐ポンピングアウト性に優れると評価する。
【0082】
【0083】
【0084】
表1~2の結果より、本発明の要件を満たす実施例1~6の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物では、該組成物から形成された塗布膜は未硬化の状態では25℃付近では流動性がなく、かつ60℃で軟化するため、取扱い作業性と熱境界面に対する密着性が向上するものである。さらに、硬化後には耐ポンピングアウト性の指標となるβ/αの値及びγ/βの値が小さく、熱履歴による膨張・収縮に起因するシリコーン組成物の流れ出し(ポンピングアウト)が発生しづらいことが明らかである。すなわち、本発明の熱軟化性付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物では、優れた取扱い作業性と熱境界面に対する密着性、耐ポンピングアウト性が両立可能である。
【0085】
一方、比較例1~4のシリコーン組成物では、25℃付近で流動性を有し取扱い作業性が悪い、または、耐ポンピングアウト性の指標となるβ/αの値及びγ/βの値が大きいなど、優れた取扱い作業性と熱境界面に対する密着性、耐ポンピングアウト性の両立が不可能である。
【0086】
すなわち、比較例1では流動性のあるジメチルポリシロキサンを使用したため未硬化の塗布膜は25℃で流動性を示した。比較例2では(A)成分中のアルケニル基の個数の合計に対する(B)成分中のSiH基の個数の合計の比が小さいため十分な耐ポンピングアウト性が示されなかった。比較例3ではマイクロカプセル状になっていない白金触媒を用いたため製造中に硬化が起こった。比較例4ではアルミナ粉末が過剰であったためにペースト状にならず作業ができなかった。
【0087】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。