(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-26
(45)【発行日】2023-06-05
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置の運転方法およびプラズマ処理装置用部材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20230529BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20230529BHJP
C23C 4/04 20060101ALI20230529BHJP
C23C 4/18 20060101ALI20230529BHJP
H05H 1/46 20060101ALN20230529BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101D
C23C4/134
C23C4/04
C23C4/18
H05H1/46 C
(21)【出願番号】P 2022128314
(22)【出願日】2022-08-10
(62)【分割の表示】P 2018081089の分割
【原出願日】2018-04-20
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】池永 和幸
(72)【発明者】
【氏名】田村 智行
(72)【発明者】
【氏名】角屋 誠浩
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-197181(JP,A)
【文献】特開2017-150085(JP,A)
【文献】特開2017-31457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0326059(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
C23C 4/00-6/00
H05H 1/00-1/54
H01L 21/302
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内部に配置されその内部に処理対象の半導体ウエハを処理するためのプラズマが形成される処理室と、この処理室の内壁表面を構成する部材であって前記プラズマに曝される表面に皮膜を有した部材とを備えたプラズマ処理装置の運転方法であって、
前記部材の表面にフッ化イットリウム又はこれを含む材料を大気プラズマを用いて溶射して前記皮膜を形成した後に前記処理室内に当該部材を配置して、前記皮膜を前記処理室内に形成された前記プラズマに曝すことにより前記皮膜を構成するフッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさを50nm以下に、且つ当該結晶の全体に対する比率を60%以上にするプラズマ処理装置の運転方法。
【請求項2】
前記皮膜が、前記プラズマに曝されてその表面が280℃以上および350℃以下にされて前記フッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさが50nm以下に、かつ当該結晶の全体に対する比率が60%以上にされる請求項1に記載のプラズマ処理装置の運転方法。
【請求項3】
真空容器内部に配置されその内部でプラズマが形成される処理室と、この処理室内に配置された試料が当該処理室内に生成されたプラズマを用いて処理されるプラズマ処理装置の前記処理室の内壁表面を構成するプラズマ処理装置用部材であって、
前記プラズマに曝される表面にフッ化イットリウム、またはこれを含む材料が大気プラズマを用いて溶射されて予め形成された皮膜を備え、当該皮膜が形成された後に前記処理室内に配置されて前記プラズマに曝されて前記皮膜を構成するフッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさが50nm以下に、かつ当該結晶の全体に対する比率が60%以上にされるプラズマ処理装置用部材。
【請求項4】
前記皮膜が、前記プラズマに曝されてその表面が280℃以上および350℃以下にされて前記フッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさが50nm以下に、かつ当該結晶の全体に対する比率が60%以上にされる請求項3に記載のプラズマ処理装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内部の処理室内にプラズマを形成し当該処理室内に配置された処理対象の半導体ウエハ等の処理対象の試料を処理するプラズマ処理装置またはプラズマ処理装置用部材に係り、処理室内のプラズマに面する表面に保護皮膜を備えたプラズマ処理装置またはプラズマ処理装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハを加工して電子デバイスや磁気メモリを製造する工程において、当該ウエハ表面に回路構造を形成するための微細な加工にはプラズマを用いたエッチングが適用されている。このようなプラズマエッチングによる加工は、デバイスの高集積化に伴って益々高い精度や歩留まりが要求されている。
【0003】
プラズマエッチングに用いられるプラズマ処理装置では真空容器内部に処理室が配置され、処理室の内部部材は通常強度およびコストからアルミニウム、ステンレス等の金属から構成されている。さらに、この処理室の内部部材の表面は形成されるプラズマに曝されてこれと接触する或いは面することになるため、当該部材の表面には耐プラズマ性の高い皮膜が配置され、より長い期間にわたりその部材の表面がプラズマにより消耗されないように、あるいはプラズマと部材の表面との間の相互の作用の量や性質の変化が抑制されるように構成されていることが一般的である。
【0004】
このような耐プラズマ性を有した皮膜を備えたプラズマを用いる処理室内部部材の技術の例としては、特許4006596号公報(特許文献1)に開示のものが従来から知られていた。この特許文献1では、上記皮膜の例として酸化イットリウムの皮膜が示されている。
【0005】
一般に、酸化イットリウムを用いた皮膜は、プラズマ溶射、SPS溶射、爆発溶射、減圧溶射等の方法により、真空あるいは大気中の何れの雰囲気においても形成可能であることが知られている。例えば、大気プラズマ溶射法は、所定の粒径、例えば10~60μmの範囲内の径を有した原料粉を輸送ガスと伴にプラズマ炎に導入し、溶融または半溶融の状態にし、このような状態の原料粒子を被覆対象である基材の表面に溶射して製膜する技術である。一方で、この溶射による方法は形成された皮膜の表面における高さ、所謂凹凸の変動が大きいこと、さらには、溶融または半溶融した状態で相互に接着され冷えて固化された皮膜の粒同士の間に気孔が形成され、当該気孔にプラズマ中のガスや生成物の粒子が入り込んで汚染や異物を誘起する等の課題があった。
【0006】
このような問題に対しても、従来から多くの解決策が検討されている。例えば、特開2014-141390号公報(特許文献2)や特開2016-27624号公報(特許文献3)に開示のものが知られていた。これらの特許文献では、所謂、エアロゾルデポジション法が開示されている。この技術は、数μm程度の大きさの径を備えた原料粉を音速に近い速度で被覆対象の基材の表面に吹きつけて製膜して、8~50nmサイズの微結晶からなる層状の構造を皮膜として形成するものであって、上記大気プラズマ溶射法よりも表面の凹凸を小さくすることができるという特徴が知られている。
【0007】
酸化イットリウム製の皮膜は、フッ素系ガスのプラズマに曝されると、プラズマ中のフッ素等と反応し、皮膜が消耗する。そこで皮膜をフッ化イットリウムへの変更が検討されている。このフッ化イットリウム製の皮膜を大気圧下でプラズマを用いた溶射法によって形成することが特開2013-140950号公報(特許文献4)に開示されている。
【0008】
さらに、フッ化イットリウム皮膜の製膜においても、クラックの抑制、表面ラフネスの低減、耐圧向上などの検討が進められている。特開2017-190475号公報(特許文献5)には、プラズマに対して十分な耐食性を備え酸による洗浄時にも酸浸透による基材の損傷を効果的に防止できるイットリウム系のフッ化化合物の溶射皮膜を得ることのできる溶射材料としてフッ化イットリウム造粒粉と酸化イットリウム造粒粉との特定の混合比率の値の範囲が開示されている。また、特開2017-150085号公報(特許文献6)には、パーティクルの発生を抑制できるフッ化イットリウム製の溶射皮膜を製造する工程として、高速フレーム溶射法においてフレームを放出する溶射ガンのノズル、または大気圧プラズマ溶射法においてプラズマジェットを放出する溶射ガンのノズルの中心軸線に沿った方向において該溶射ガンのノズルから下流側に離れた位置あるいはノズルの先端位置に特定の範囲の平均粒径を有するフッ化イットリウムの粒子を含むスラリーを供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4006596号公報
【文献】特開2014-141390号公報
【文献】特開2016-27624号公報
【文献】特開2013-140950号公報
【文献】特開2017-190475号公報
【文献】特開2017-150085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の従来技術では、以下の点について考慮が不十分であったため問題が生じていた。すなわち、プラズマエッチングに用いるプラズマ処理装置に求められる加工の精度が高まるに伴って、装置の真空容器内部に配置された処理室内において処理中に生成される異物のサイズも小さくなっている。このように径がより小さい微粒子に対してもその発生を抑制することが求められている。
【0011】
材料としてフッ化イットリウムを用いた上記従来技術では、上記の腐食や微小なパーティクルの発生を十分に抑制できる溶射皮膜を生成する条件について十分に考慮されていなかった。また、特許文献2,3において微小なパーティクルの発生を抑制する処理室内壁を構成する部材の表面に配置された皮膜の条件について開示されているものの、溶射法を用いて皮膜を生成する際の満たすべき条件については考慮されていなかった。このため、従来の技術では、発生したパーティクルにより処理対象の試料の汚染が生起して処理の歩留まりが損なわれていた。
【0012】
本発明の目的は、パーティクルの発生を低減して処理の歩留まりを向上させたプラズマ処理装置の運転方法またはその内部部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、真空容器内部に配置されその内部に処理対象の半導体ウエハを処理するためのプラズマが形成される処理室と、この処理室の内壁表面を構成する部材であって前記プラズマに曝される表面に皮膜を有した部材とを備えたプラズマ処理装置の運転方法であって、前記部材の表面にフッ化イットリウム又はこれを含む材料を大気プラズマを用いて溶射して前記皮膜を形成した後に前記処理室内に当該部材を配置して、前記皮膜を前記処理室内に形成された前記プラズマに曝すことにより前記皮膜を構成するフッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさを50nm以下に、かつ当該結晶の全体に対する比率を60%以上にするプラズマ処理装置の運転方法より達成される。
【0014】
また、真空容器内部に配置されその内部でプラズマが形成される処理室と、この処理室内に配置された試料が当該処理室内に生成されたプラズマを用いて処理されるプラズマ処理装置の前記処理室の内壁表面を構成するプラズマ処理装置用部材であって、前記プラズマに曝される表面にフッ化イットリウム、またはこれを含む材料が大気プラズマを用いて溶射されて予め形成された皮膜を備え、当該皮膜が形成された後に前記処理室内に配置されて前記プラズマに曝されて前記皮膜を構成するフッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさが50nm以下に、かつ当該結晶の全体に対する比率が60%以上にされるプラズマ処理装置用部材により達成される。
【0015】
また、前記皮膜が、前記プラズマに曝されてその表面が280℃以上および350℃以下にされて前記フッ化イットリウムまたはこれを含む材料の直方晶の結晶の大きさが50nm以下に、かつ当該結晶の全体に対する比率が60%以上にされるプラズマ処理装置の運転方法あるいはプラズマ処理装置用部材により達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプラズマ処理装置またはその部材では、処理室内に配置された前記部材の表面の皮膜からの異物の発生を低減することか可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の表面に対するX線回折の強度を示すグラフである。
【
図3】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の異なる結晶相比率に対する当該皮膜からの異物の発生数の変化を示すグラフである。
【
図4】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の平均結晶子サイズの変化に伴う異物の発生数の変化を示すグラフである。
【
図5】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の表面に対する処理の時間の変化に対する平均結晶子サイズの変化を示すグラフである。
【
図6】
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の形成時の表面の温度の変化に対する直方晶の相比率及び平均結晶子サイズの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を以下、
図1乃至6を用いて説明する。
【0020】
図1に、プラズマ処理装置の概略断面図を示す。
図1は、本発明の実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0021】
本実施例のプラズマ処理装置は、円筒形部分を有した真空容器と円筒形部分上方または側方周囲にこれを囲んで配置されたプラズマ形成部と真空容器の下方に配置され真空容器内部を排気する真空ポンプを含む真空排気部とを備えている。真空容器の内部にはプラズマが形成される空間である処理室7が配置され真空排気部と連通可能に構成されている。
【0022】
処理室7の上部は周囲を円筒形を有した内壁に囲まれた空間であってプラズマ15が形成される放電室を構成する。
プラズマ15が生成される放電室の下方の処理室7内部には、被処理基板であるウエハ4がその上面上に乗せられて保持される試料台であるステージ6が配置されている。
【0023】
本実施例のステージ6は、上方から見て放電室と同心またはこれと見なせる適度に近似した位置にその上下方向の中心軸が配置された円筒形状を有した部材であって、真空排気部と連通される開口が配置された処理室7の底面とステージ6の下面の間には空間が開けられており、処理室7の上下方向について上端面と下端面との間の中間の位置にステージ6が保持されている。当該ステージ6下方の処理室7内部の空間は、ステージ6の側壁とその周囲を囲む処理室7の円筒形を有した内壁面との間のすき間を介して放電室に連通ており、ステージ6上面上方のウエハ4の処理中にウエハ4上面及び放電室に生じた生成物や放電室内のプラズマ、ガスの粒子が通って真空排気部により処理室7の外部に排出される排気の経路を構成する。
【0024】
本実施例のステージ6は円筒形を有した金属製の部材である基材を有し基材の上面を覆って配置された誘電体製の膜のが内部に配置されたヒータ(図示せず)と、基材内部に上記中心軸周りに同心または螺旋状に多重に配置された冷媒流路(図示せず)とが配置されている。さらに、ステージ6の上記誘電体製の膜の上面上にウエハ4が載せられた状態でウエハ4下面と誘電体膜上面とのの間のすき間にHe等の伝熱性を有したガスが供給される。このため、基材および誘電体製の膜の内部には伝熱性を有したガスが通流する配管が配置されている(図示せず)
【0025】
さらに、ステージ6の基材は、プラズマによるウエハ4の処理中にウエハ4上面上方にプラズマ中の荷電粒子を誘引するための電界を形成するための高周波電力が供給される高周波電源14がインピーダンス整合器13を介して同軸ケーブルにより接続されている。また、基材上方の誘電体膜内のヒータの上方には、ウエハ4を誘電体膜上面に吸着して保持するための静電気力を誘電体膜及びウエハ4の内部に生起するための直流電力が供給される膜状の電極が、ウエハ4またはステージ6の略円形の上面の上下方向の中心軸から径方向に複数の領域毎に中心軸周りに対称に配置され、各々に異なる極性が付与可能に構成されている。
【0026】
処理室7のステージ6上面の上方にはこれと対向して配置され、真空容器の上部を構成して処理室7内外を気密に封止する石英やセラミクス等の誘電体製の円板形状を有した窓部材3が備えられている。さらに、この窓部材3の下方であって処理室7の天井面を構成する位置には、窓部材3下面と間隙8をあけて配置され中央部に複数の貫通穴9を備えた石英等誘電体製の円板形状を有したシャワープレート2が備えられている。
【0027】
間隙8は、処理ガス供給配管50と連通するように真空容器に連結され、処理ガス供給配管50上の所定の箇所には、内部を開放または閉塞するバルブ51が配置されている。処理室7内部に供給される処理用のガス(処理ガス)は、処理ガス供給配管50の一端側に連結されたガス流量制御手段(図示せず)によりその流量または速度が調節され、バルブ51が開放した処理ガス供給配管50を通して間隙8内に流入した後、当該間隙8内部で拡散し貫通穴9から処理室7内にその上方から供給される。
【0028】
真空容器下方には、処理室7底面のステージ6の直下方であって上下方向の中心軸をほぼ同一にされて配置された排気用の開口である排気口を介して処理室7内部のガスや粒子を排出する真空排気部が配置されている。真空排気部は、排気口の上方で上下に移動して排気口へガスが流入する流路の面積を増減する円板状のバルブである圧力調整板16と、真空ポンプであるターボ分子ポンプ12とを備えている。さらに、真空排気部において、ターボ分子ポンプ12の出口は排気配管を介して粗引きポンプであるドライポンプ11に連結されて連通されると共に、排気配管上にはバルブ18が配置されている。
【0029】
本実施例の圧力調整板16は、排気口を開閉するバルブの役目も兼用している。真空容器には処理室7内部の圧力を検知するためのセンサである圧力検出器75が備えられて、圧力検知器75から出力された信号は、図示しない制御部に送信されて圧力の値が検出され、その値に応じて制御部圧力から出力された指令信号に基いて圧力調整板16が駆動されて上下方向の位置が変化して上記排気の流路の面積が増減される。排気配管10に接続されているバルブ17とバルブ19のうち、バルブ17は、処理室7を大気圧から真空にドライポンプ11でゆっくり排気するためのスロー排気用のバルブであり、バルブ19は、ドライポンプ11で高速に排気するためのメイン排気用のバルブである。
【0030】
処理室7を構成する真空容器上部の円筒形部分の上方及び側壁を囲む周囲には、プラズマを形成するために処理室7に供給される電界または磁界を形成する構成が配置されている。すなわち、窓部材3の上方には、処理室7内部に供給されるマイクロ波の電界が内側を伝播する管路である導波管21が配置され、その一端部にはマイクロ波の電界を発振して出力するマグネトロン発振器20が配置されている。導波管21は、縦断面が矩形状を有して水平方向にその軸が延在して前記一端部にマグネトロン発振器20が配置された方形導波管部及び方形導波管部の他端部に接続されて上下方向に中心軸が延在し横断面が円形を有した円形導波管部とを備えている。円形導波管部の下端部はその径が大きくされた円筒形を有して内部で特定のモードの電界が強化される空洞部が配置され、空洞部の上方及びその周囲、さらには処理室7の側周囲を囲んで磁場発生手段である複数段のソレノイドコイル22とソレノイドコイル23とが備えられている。
【0031】
このようなプラズマ処理装置において、未処理のウエハ4は、真空容器の側壁と接続された別の真空容器(図示せず)である真空搬送容器内部の搬送室内を当該搬送室内に配置されたロボットアーム等の真空搬送装置(図示せず)のアームの先端部に載せられて処理室7内に搬送されステージ6に受け渡されて上面上に載置される。真空搬送装置のアームが処理室7から退室すると処理室7内部が密封されるとともに、誘電体膜内の静電吸着用の電極に食流の電圧が印加されて生起された静電気力により当該誘電体膜上に保持される。この状態で、ウエハ4とステージ6上面を構成する誘電体膜上面との間のすき間にはHe等の熱伝達性を有したガスがステージ6内部に配置された配管を通して供給され、内部の冷媒流路に図示しない冷媒温度調節器で温度が所定の範囲に調節された冷媒が供給されることで温度が調節された基材とウエハ4との間での熱の伝達が促進されウエハ4の温度が処理の開始に適切な範囲内の値に調整される。
【0032】
ガス流量制御手段により流量又は速度が調節された処理ガスが処理ガス供給配管50を通り間隙8から貫通穴9を通して処理室7内に供給されると共に、ターボ分子ポンプ12の動作により排気口から処理室7内部が排気されて、両者のバランスにより、処理室7内部の圧力が処理に適した範囲内の値に調節される。この状態で、マグネトロン発振器20から発振されたマイクロ波の電界が導波管21内部を伝播して窓部材3及びシャワープレート2を透過して処理室7内部に放射される。さらに、ソレノイドコイル22,23で生成された磁界が処理室7に供給され、当該磁界とマイクロ波の電界との相互作用によって電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)が生起され、処理ガスの原子又は分子が励起され、電離、解離することにより処理室7内部にプラズマ15が生成される。
【0033】
プラズマ15が形成されると、基材に高周波電源14からの高周波電力が供給されてウエハ4上面上方にバイアス電位が形成され、プラズマ15中のイオン等の荷電粒子がウエハ4上面に誘引されて、ウエハ4上面上に予め形成された処理対象の膜層及びマスク層とを含む複数の膜層を有した膜構造の当該処理対象の膜層のエッチング処理が、マスク層のパターン形状に沿った進行する。図示しない検出器により、処理対象の膜層の処理がその終点に到達したことが検出されると、高周波電源14からの高周波電力の供給が停止され、プラズマ15が消化されて当該処理が停止される。
【0034】
ウエハ4のエッチング処理を更に進行させる必要が無いことが制御部により判定されると、高真空排気が行われる。さらに、静電気が除かれてウエハ4の吸着が解除された後、真空搬送装置のアームが処理室7に進入して処理済みのウエハ4が受け渡された後、アームの収縮に伴ってウエハ4が処理室7外の真空搬送室に搬出される。
【0035】
このような処理室7の内側壁面はプラズマ15に面してその粒子に曝される面である。一方、誘電体であるプラズマ15の電位を安定させる上では、処理室7内にプラズマと面してこれに接するアース用の電極として機能する部材が配置される必要がある。
【0036】
本実施例のプラズマ処理装置では、放電室を囲む処理室7の内側壁の下部の表面を覆ってステージ6上面上方でその周囲を囲んで配置されたリング状の部材であるアース電極40が、アース用の電極として機能を有することを目的として配置されている。このアース電極40は、導電性を有した材料から構成された母材とこの表面を被覆する皮膜とを備え、本実施例ではアース電極の母材は基材がステンレス合金やアルミニウム合金等の金属から構成されている。
【0037】
このようなアース電極40は、母材の表面に皮膜が無い場合には、当該箇所においてプラズマ15に曝されることによって、ウエハ4の汚染を生起する腐食や異物の発生源となる。そのため、汚染を抑制するために、アース電極40の表面は耐プラズマ性の高い材料からなる皮膜42が基材を覆って配置されている。当該内壁材を覆う皮膜42これによって、アース電極40のプラズマを介した電極として機能を維持しつつプラズマによるダメージを抑制することができる。
【0038】
なお、皮膜42は積層された膜であっても良い。本実施例では、フッ化イットリウムまたはこれを含む材料が大気プラズマを用いて所定の範囲内の表面粗さにされた母材の表面に溶射され、堆積した材料の多数の粒子が溶着されて一体に形成されたものを用いた。
【0039】
一方、アースとしての機能を有さない基材41においても、ステンレス合金やアルミニウム合金等の金属製の部材が用いられている。基材41の表面にも、プラズマ15に曝されることによって生じる腐食や金属汚染、異物の発生を抑制するため、不動態化処理、溶射、PVD,CVD等のプラズマに対する耐 性を向上したり消耗を低減する処理が施されている。
【0040】
なお、基材41がプラズマ15からの上記相互作用を低減するため、円筒形状を有した基材41の内壁面の内側であって放電室との間に、酸化イットリウムや石英等のセラミック製の円筒形のカバー(図示せず)が配置されても良い。このようなカバーが基材41とプラズマ15の間に配置されることによって、プラズマ15内の反応性の高い粒子との接触や荷電粒子の衝突が遮断あるいは低減され、基材41の消耗を抑制することができる。
【0041】
本実施例の皮膜42は、アルミニウム合金製の基材41上に下地として酸化イットリウムまたはこれを含んだ材料の粒子を大気プラズマを用いて溶射して膜を約100μmの厚さに形成し、当該酸化イットリウムから構成された下地膜上に、フッ化イットリウムまたはこれを含んだ材料粒子を大気プラズマを用いて溶射して約100μmの厚さの膜を形成した。
【0042】
当該フッ化イットリウムから構成された上層の膜の形成が終了した際の当該皮膜の表面の温度は約135℃であった。皮膜42を形成した後、フッ化イットリウムから構成された上層の膜の構成について測定した結果、直方晶の相比率が44%、平均結晶子サイズが27nmであった。
【0043】
フッ化イットリウムまたはこれを含む材料から構成された皮膜42の直方晶の比率は、X線回折を用いて測定した。X線回折は入射角を1°に固定して2θを15°~40°まで測定した。その結果を
図2に示す。
【0044】
図2は、
図1に示す実施例に係るアース電極40の皮膜42の表面のX線回析の強度を示すグラフである。本図に示す通り、皮膜42にはフッ化イットリウムとオキシフッ化イットリウムが含まれていた。
【0045】
低温相である直方晶のYF3、直方晶のY5O4F7は、2θ=31°付近にある符号203で示されるYF3Orthorhombic(210)面、2θ=32.5°付近にある符号204でしめされるY5O4F7Orthorhombic(0100)面からの回折X線の積分強度を求めた。また、高温相である六方晶のYF3、Y-O-F(指数付けから六方晶であることは確かであるが、詳細な結晶構造解析をしていないため、
Y-O-Fと表記する)は、それぞれ2θ=21°付近にある符号201で示されるYF3 Hexagonal(001)面、2θ=29°付近にある符号202で示されるY-O-FHexagonal(111)面からの回折X線の積分強度を求めた。求めた積分強度を用いRIR(Referece Intensity Ratio)法により、相比率を求めた。
【0046】
また、皮膜42のフッ化イットリウムから構成された上層の平均結晶子サイズもX線回折を用いて測定した。平均結晶子サイズは入射角を1.5°に固定して、2θを10°~100°まで測定した。各回折ピークの指数付けをして、半値幅を求め、Hall法により平均結晶子サイズを求めた。
【0047】
さらに、上記皮膜42の表面に処理を施したものについて異物の発生を評価した。この結果、異物の発生数が0個であった皮膜42の直方晶の相比率が64%、平均結晶子サイズは27nmであった。別の種類の表面処理を施したものについての異物の発生の評価では、直方晶の相比率が55%の皮膜42からの異物の生数は2.5個であった。
【0048】
次に、溶射の際の条件や異なる種類の表面への処理を施してフッ化イットリウムから構成された膜層の直方晶の比率を異ならせた複数の種類の皮膜42について、異物の発生数を評価した。その結果を
図3に示す。
図3は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置のアース電極の皮膜の異なる結晶相比率に対する当該皮膜からの異物の発生数の変化を示すグラフである。
【0049】
異物の発生数は、プラズマ処理装置内にアース電極40を設置し、基材41の内側のセラミック部品(図示せず)を石英製として、イットリウムを含む異物がアース電極40を発生源することが分かるようにしてカウントした。前述のエッチング処理を繰り返し、ウエハ上に残留した異物をSEM-EDXで分析し、イットリウムを含む異物を数えた。
【0050】
本図に示す通り、評価からは、溶射法によって形成されたフッ化イットリウムから構成された膜における直方晶の相比率がおよそ60%を超えてから異物の発生数が0個に漸近することが判った。発明者らは、このことからフッ化イットリウムから構成された膜における直方晶の相比率を60%以上となるように溶射法を用いて当該膜を形成するにすることで膜からの異物の発生を抑制できるという知見を得た。
【0051】
また、平均結晶子サイズの異なる内壁材皮膜42について異物の発生数を比較した。その結果を
図4に示した。
図4は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の平均結晶子サイズの変化に伴う異物の発生数の変化を示すグラフである。
【0052】
本図に示す通り、平均結晶子のサイズが小さくなるに伴って異物の発生も低減していることが判った。すなわち、皮膜42の結晶子のサイズを小さくするほど異物の発生数を抑制できるという知見が得られた。そこで、異物の発生数が変化する閾値となる平均結晶子サイズの値を求めるため、大きな平均結晶子サイズの皮膜42に表面処理を施し、表面処理を施した時間を変えた皮膜42の平均結晶子サイズの変化を調べた。その結果を
図5に示す。
【0053】
図5は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の表面に対する処理の時間の変化に対する平均結晶子サイズの変化を示すグラフである。本図に示す通り、表面を処理した時間が長くなるに伴って平均結晶子サイズが50nm以下の値まで小さくなり、その後は処理の時間の増大に対する平均結晶子サイズの低下の割合が緩やかになって、本例で45~50nmの間の値に漸近していることが判る。
【0054】
本発明の発明者らは、以上の結果から、このように、時間の時間の増加に対して平均結晶子サイズが45~50nmの値に低減して漸近していることから、皮膜42の平均結晶子サイズを50nm以下にすることで、皮膜42の表面が相互作用を受ける時間の累積値が増大しても結晶サイズの変化を抑制できる、という知見を得た。本実施例では、上記の通り、アース電極40の放電室に面してプラズマ15と接触する側の表面を覆うフッ化イットリウムを含んだ材料から構成された溶射による皮膜42について、その直方晶の相比率を60%以上、平均結晶子サイズを50nm以下となるように形成されている。このことで、フッ化イットリウムを含んだ材料から構成された当該皮膜42の上層の膜からの異物の発生が抑制される。
【0055】
上記の実施例では、アルミニウム合金製のアース電極40上に下地として酸化イットリウムを約100μm大気プラズマ溶射し、その上にフッ化イットリウムを材料として含む粒子を大気プラズマを用いて溶射して約100μmの厚さまで上層の膜を形成した。その形成の終了した際の上層の膜の表面の温度が135℃であった。本実施例に係る皮膜42の形成の別の例として、上層の膜を形成した後、表面温度が約67℃となるまで自然放熱させて冷却し、その後、大気プラズマを用いてフッ化イットリウムを含む粒子を大気プラズマを用いて薄い層を形成しても良い。
【0056】
この例では、皮膜42の上層の膜は、直方晶の相比率が34%、平均結晶子サイズが33nmであった。さらに、この皮膜42の上層の膜に表面の処理を施して、皮膜42の平均結晶子サイズを37nm、直方晶の相比率を68%とした。この皮膜42のからの異物の発生数を評価した結果、発生数は0.1個であった。
【0057】
当該評価において、X線測定に用いたX線はCu Kα線であり、回折線を得ている角度範囲での最大検出深さは、約5μmである。この例から、皮膜42の表面の数μm~5μmの厚さの範囲における結晶子の状態を適切なものにすることで、異物の発生を抑制できるがことを示唆している。フッ化イットリウムの材料を大気プラズマにより溶射する場合、15~30μm/passで皮膜が形成される。
【0058】
そこで、上記フッ化イットリウムを含む材料を大気プラズマにより溶射する場合の形成された膜の表面の温度に着目し、当該温度とフッ化イットリウムを含む材料から構成された膜の直方晶の相比率及び平均結晶子サイズとの相関を検討した。その結果を
図6に示す。
図6は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置に配置されたアース電極の皮膜の形成時の表面の温度の変化に対する直方晶の相比率及び平均結晶子サイズの変化を示すグラフである。
【0059】
本図において、平均結晶子サイズは左軸で●のマーカーで、直方晶の相比率は右軸に■のマーカーで、示されている。直方晶の相比率は表面の温度の増大に伴って大きくなっていることが判る。一方、平均結晶子サイズは130℃前後の値を極小としてその前後で大きくなっていることが判る。
【0060】
この結果は、フッ化イットリウムから構成された材料を大気プラズマによる溶射を用いて膜を形成する際の表面温度には、値が増大するに伴って直方晶の相比率が大きくなると共に平均結晶子サイズも大きくなる範囲が存在し、異物の発生を抑制できるフッ化イットリウムから構成された皮膜42の膜を形成できる温度の下限を直方晶の相比率で、上限を平均結晶子サイズで規定できることを示している。本実施例の
図6の例では、直方晶の相比率を60%以上にする温度の範囲として280℃以上を、平均結晶子サイズを50nm以下にする温度の範囲として350℃以下とした。
【0061】
アルミニウム合金製のアース電極40の母材の表面上に下地として酸化イットリウムを約100μmの厚さに大気プラズマを用いて溶射して下地膜を形成し、その上にフッ化イットリウムを材料として含む粒子を大気プラズマを用いて溶射して上層膜を形成した。上層膜の厚さが約100μmになった際の表面温度が約280℃であることを確認して、大気プラズマ溶射で最後の1層を製膜して皮膜42とした。その結果、直方晶の相比率が61%、平均結晶子サイズが41nmのフッ化イットリウム系材料の皮膜42を形成した。このアース電極40を備えたプラズマ処理装置を用いて複数枚のウエハ4を処理して、累計の処理時間が所定の値に到達するまでの間、異物の発生を評価した。異物数の時間推移を指数関数で最小二乗法フィッティングした結果、異物の発生は0.7個であった。
【0062】
また、別の例では、アルミニウム合金製のアース電極40上に下地として酸化イットリウムを大気プラズマにより溶射して約100μmの厚さに形成した後、その上にフッ化イットリウムを含む材料を大気プラズマを用いて約100μmの厚さまで溶射して上層の膜を形成した。当該上層の膜を形成中の当該膜の表面温度が約150℃を超えないように溶射により製膜した。
【0063】
次に、皮膜42の表面をハロゲンランプを用いた加熱する表面処理を施した。事前に、熱伝対を埋め込んだ同じ材料の別の皮膜を用いて、試料温度とランプ出力の相関を取得しておき、実際の皮膜の表面加熱では、350℃を超えないように、出力制御しつつ短時間加熱になるようにランプを走査した。
【0064】
焦点位置での空気の温度が約600℃、試料温度341℃の条件でハロゲンランプ2灯(出力0.45kW)を用いた光加熱と、冷風吹きつけによる急冷により、得られた皮膜42の直方晶の相比率が67%、平均結晶子サイズが45nmとなった。このアース電極40を用いて、所定処理時間の間、異物発生を評価したが、異物の発生は0個であった。実施例では、ハロゲンランプを用いたが、赤外線ランプや、レーザー光による加熱でも同様の効果が得られる。
【0065】
また、さらに別の実施例では、アルミニウム合金製のアース電極40上に下地として酸化イットリウムを約100μm大気プラズマ溶射し、その上に皮膜42としてフッ化イットリウム系材料を約100μm大気プラズマ溶射した。大気プラズマ溶射中に表面温度が約150℃を超えないように製膜した。得られた皮膜42表面を化学処理した結果、フッ化イットリウム系材料の皮膜42の直方晶の相比率は32%、平均結晶子サイズは31nmになった。
【0066】
そこで電子・イオンビームによる表面加熱を実施した。真空槽内にアース電極40を配置し、電子ビームを皮膜42表面に照射した。
【0067】
内壁材はセラッミクのため、電子ビームを照射すると、皮膜42表面にマイナス電荷が溜まり、チャージアップする。そのためArイオンガンを用いて同じ場所にArイオンビームを照射した。Arイオンガンは、照射ダメージを小さくするため、加速電圧を数10eVとして照射した。表面温度は赤外線温度計を用いて測定し、設定温度を340℃として、350℃を超えないように制御した。
【0068】
この追加加熱により、皮膜42は、直方晶の相比率が69%、平均結晶子サイズが50nmにすることができた。このアース電極40を用いて、所定処理時間の間、異物発生を評価したが、異物の発生は0個であった。
【符号の説明】
【0069】
2…シャワープレート、
3…窓部材、
4…ウエハ、
7…処理室、
6…ステージ、
8…間隙、
9…貫通穴、
11…ドライポンプ、
12…ターボ分子ポンプ、
13…インピーダンス整合器、
14…高周波電源、
15…プラズマ、
16…圧力調整板、
17…バルブ、
18…バルブ、
19…バルブ、
20…マグネトロン発振器、
21…導波管、
22…ソレノイドコイル、
23…ソレノイドコイル、
40…アース電極、
41…基材、
42…皮膜、
50…処理ガス供給配管、
51…バルブ、
75…高真空圧力検出器、
150…ガス供給制御装置、
201…YF3 Hexagonal(001)面、
202…Y-O-F Hexagonal(111)面、
203…YF3 Orthorhombic(210)面、
204…Y5O4F7 Orthorhombic(0100)面。