(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】車両用窓ガラス及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/32 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
H01Q1/32 A
(21)【出願番号】P 2018216002
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018022010
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】船津 聡史
【審査官】野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-114404(JP,A)
【文献】特表2002-522936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板に対向する側の第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する誘電体と、
前記ガラス板と前記第1の面との間に設けられる第1の電極と、
前記第1の電極との間に前記誘電体を挟むように前記第2の面の側に設けられる第2の電極と、
前記ガラス板と前記第1の面との間に設けられる導電膜と、
前記第1の電極に接続されるアンテナ素子とを備え、
前記導電膜は、ヒータ又は熱線反射膜を含み、
前記アンテナ素子は、AM放送の周波数帯の電波を少なくとも受信し、
前記導電膜は、前記アンテナ素子の周りの導体部分が除去された格子領域を含み、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の結合容量をC
c、前記アンテナ素子のアンテナ容量をC
a、前記第2の電極に接続されるアンプの入力容量をC
i、前記C
cを無限大にしたときの前記第2の電極からの出力電圧の値に比べてxデシベル低い値をν
xdB、前記アンテナ素子の受信電圧をν
aとするとき、
前記xは、3.0以下であり、
前記C
cは、式(1)を満たす、車両用窓ガラス。
【数1A】
【請求項2】
前記導電膜は、透明又は半透明な導体である、請求項
1に記載の車両用窓ガラス。
【請求項3】
前記第1の電極は、第1の内部電極と第2の内部電極を含み、
前記アンテナ素子は、前記第1の内部電極に接続される第1のアンテナ素子と、前記第2の内部電極に接続される第2のアンテナ素子と、を含み、
前記第1のアンテナ素子は、AM放送の周波数帯の電波を受信し、
前記第2のアンテナ素子は、HF帯よりも高い周波数帯の電波を受信する、請求項
1又は2に記載の車両用窓ガラス。
【請求項4】
前記誘電体の厚さ方向での平面視において、前記第1の電極と前記第2の電極とが重複する面積の比率は、前記第1の電極と前記第2の電極とのうち面積が大きい方の電極の面積に対して、0.46%以上である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項5】
前記大きい方の電極の面積は、1675mm
2以上である、請求項
4に記載の車両用窓ガラス。
【請求項6】
前記誘電体の厚さ方向での平面視において、前記第1の電極と前記第2の電極とが重複する面積は、366mm
2以上である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項7】
前記xは、1.0以下である、請求項1から
6のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項8】
前記xは、0.5以下である、請求項
7に記載の車両用窓ガラス。
【請求項9】
前記ガラス板は、前記第1の電極と前記第2の電極との少なくとも一方と、前記ガラス板の厚さ方向で重複する遮光膜を有する、請求項1から
8のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項10】
前記ガラス板が第1のガラス板であり、前記誘電体が第2のガラス板であり、
前記第1のガラス板と前記第2のガラス板とが中間膜を介して貼り合わされる合わせガラスの構造を有する、請求項1から
9のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項11】
前記第1の電極は、前記中間膜に接触する、請求項
10に記載の車両用窓ガラス。
【請求項12】
前記中間膜は、第1の層と第2の層とを有し、
前記第2の電極は、前記第1の層と前記第2の層との間に位置する、請求項
10又は11に記載の車両用窓ガラス。
【請求項13】
前記第1の電極と前記第2の電極の少なくとも一方は、車幅方向となる方向を長手方向とする直線部分を有する、請求項1から
12のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項14】
前記第1の電極と前記第2の電極とのうち面積が小さい方の電極は、車幅方向となる方向に24.4mm以上の長さを有する、請求項1から
13のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項15】
前記C
iは、10pF以上80pF以下である、請求項1から
14のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項16】
前記C
aは、20pF以上80pF以下である、請求項1から
15のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項17】
前記アンテナ素子は、前記導電膜に形成された、請求項1から
16のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項18】
前記導電膜に形成された前記アンテナ素子は、
前記格子領域とは異なる部分であって前記導電膜として残る部分である、請求項1から17のいずれか一項に記載の車両用窓ガラス。
【請求項19】
第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する誘電体と、
前記第1の面の側に又は前記誘電体の内部に設けられる第1の電極と、
前記第1の電極との間に前記誘電体の少なくとも一部を挟むように前記第2の面の側に設けられる第2の電極と、
前記第1の面の側に又は前記誘電体の内部に設けられる導電膜と、
前記第1の電極に接続されるアンテナ素子とを備え、
前記導電膜は、ヒータ又は熱線反射膜を含み、
前記アンテナ素子は、AM放送の周波数帯の電波を少なくとも受信し、
前記導電膜は、前記アンテナ素子の周りの導体部分が除去された格子領域を含み、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の結合容量をC
c、前記アンテナ素子のアンテナ容量をC
a、前記第2の電極に接続されるアンプの入力容量をC
i、前記C
cを無限大にしたときの前記第2の電極からの出力電圧の値に比べてxデシベル低い値をν
xdB、前記アンテナ素子の受信電圧をν
aとするとき、前記xは3.0以下であり、
前記C
cは、式(1)を満たす、アンテナ。
【数1B】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用窓ガラス及びアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナ素子とそのアンテナ素子に接続される内部電極とが2枚のガラス板の間に設けられるとともに、その内部電極に対向する外部電極が一方のガラス板の表面上に設けられるアンテナが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなアンテナでは、2枚のガラス板の間に挟まれるアンテナ素子からの受信信号は、内部電極と外部電極との間の容量結合を介して、外部電極から取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、周波数が比較的低いAM放送の周波数帯の電波を2枚のガラス板の間のアンテナ素子で受信し、受信して得られる信号を、容量結合を介して外部電極から取り出す場合、容量結合での結合ロスが大きく、十分な受信感度が得られないことがある。
【0005】
そこで、本開示は、AM放送の周波数帯の電波を受信して得られる信号を、容量結合を介して取り出す場合、十分な受信感度が得られる車両用窓ガラス及びアンテナを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
ガラス板と、
前記ガラス板に対向する側の第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する誘電体と、
前記ガラス板と前記第1の面との間に設けられる第1の電極と、
前記第1の電極との間に前記誘電体を挟むように前記第2の面の側に設けられる第2の電極と、
前記ガラス板と前記第1の面との間に設けられる導電膜と、
前記第1の電極に接続されるアンテナ素子とを備え、
前記導電膜は、ヒータ又は熱線反射膜を含み、
前記アンテナ素子は、AM放送の周波数帯の電波を少なくとも受信し、
前記導電膜は、前記アンテナ素子の周りの導体部分が除去された格子領域を含み、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の結合容量をCc、前記アンテナ素子のアンテナ容量をCa、前記第2の電極に接続されるアンプの入力容量をCi、前記Ccを無限大にしたときの前記第2の電極からの出力電圧の値に比べてxデシベル低い値をνxdB、前記アンテナ素子の受信電圧をνaとするとき、
前記xは、3.0以下であり、
前記Ccは、式(1)を満たす、車両用窓ガラスを提供する。
【0007】
【0008】
また、本開示は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する誘電体と、
前記第1の面の側に又は前記誘電体の内部に設けられる第1の電極と、
前記第1の電極との間に前記誘電体の少なくとも一部を挟むように前記第2の面の側に設けられる第2の電極と、
前記第1の面の側に又は前記誘電体の内部に設けられる導電膜と、
前記第1の電極に接続されるアンテナ素子とを備え、
前記導電膜は、ヒータ又は熱線反射膜を含み、
前記アンテナ素子は、AM放送の周波数帯の電波を少なくとも受信し、
前記導電膜は、前記アンテナ素子の周りの導体部分が除去された格子領域を含み、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の結合容量をCc、前記アンテナ素子のアンテナ容量をCa、前記第2の電極に接続されるアンプの入力容量をCi、前記Ccを無限大にしたときの前記第2の電極からの出力電圧の値に比べてxデシベル低い値をνxdB、前記アンテナ素子の受信電圧をνaとするとき、前記xは3.0以下であり、
前記Ccは、式(1)を満たす、アンテナを提供する。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、AM放送の周波数帯の電波を受信して得られる信号を、容量結合を介して取り出す場合、十分な受信感度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す分解斜視図である。
【
図2】第1の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す断面図である。
【
図3】第2の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す断面図である。
【
図4】第3の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す断面図である。
【
図5】第4の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す断面図である。
【
図6】第5の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す断面図である。
【
図7】第6の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す断面図である。
【
図8】アンテナからアンプまでの等価回路の一例を示す図である。
【
図9】結合ロスが3.0dBとなる、アンプの入力容量と結合容量との関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図10】結合ロスが2.0dBとなる、アンプの入力容量と結合容量との関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図11】結合ロスが1.0dBとなる、アンプの入力容量と結合容量との関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図12】結合ロスが0.5dBとなる、アンプの入力容量と結合容量との関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図13】容量結合部の2つの電極が平面視で重複する形態を示す図である。
【
図14】結合容量C
cが54pFとなるときの、電極形状毎の各部の寸法をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。なお、各形態において、平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、本発明の効果を損なわない程度のずれが許容される。また、アンテナ素子の角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。また、本発明が適用可能な車両用窓ガラスとして、車両の後部に取り付けられるリアガラスが好適である。しかしながら、本発明が適用可能な車両用窓ガラスは、例えば、車両の前部に取り付けられるフロントガラス、車両の側部に取り付けられるサイドガラス、車両の天井部に取り付けられるルーフガラスなどでもよい。
【0013】
また、各形態において、X軸に平行な方向(X軸方向)、Y軸に平行な方向(Y軸方向)、Z軸に平行な方向(Z軸方向)は、それぞれ、ガラス板の左右方向(横方向)、ガラス板の上下方向(縦方向)、ガラス板の表面に直角な方向(法線方向とも称する)を表す。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は、互いに直交する。
【0014】
図1は、第1の実施形態における車両用窓ガラスの一構成例を示す分解斜視図である。
図1において、Z軸方向の正側は、車外側を表し、Z軸方向の負側は、車内側を表す。窓ガラス100は、車外側に配置されるガラス板10と、車内側に配置されるガラス板20とが、中間膜40を介して貼り合わされる合わせガラスの構造を有する。
図1は、窓ガラス100の構成要素を、ガラス板10又はガラス板20の表面の法線方向に分離して示している。
【0015】
窓ガラス100は、車外側に配置されるガラス板10と、車内側に配置されるガラス板20と、合わせガラスの内部に配置される内部電極31及びアンテナ素子71と、合わせガラスの車内側の外面に配置される外部電極32とを備える。
【0016】
ガラス板10及びガラス板20は、透明な板状の誘電体である。ガラス板10及びガラス板20のいずれか一方又は両方は、半透明でもよい。ガラス板10は、第1のガラス板の一例であり、ガラス板20は、第2のガラス板の一例である。
【0017】
ガラス板10は、板面11と、Z軸方向において板面11とは反対側の板面12とを有する。板面11は、車内側の表面を表し、板面12は、車外側の表面を表す。特に、板面12は、合わせガラスの車外側の外面に相当する。
【0018】
ガラス板20は、ガラス板10の板面11に対向する側の板面21と、Z軸方向において板面21とは反対側の板面22とを有する。板面21は、車外側の表面を表し、板面22は、車内側の表面を表す。特に、板面22は、合わせガラスの車内側の外面に相当する。
【0019】
中間膜40は、ガラス板10とガラス板20との間に介在する透明又は半透明な誘電体である。ガラス板10とガラス板20とは、中間膜40によって接合される。中間膜40は、例えば、熱可塑性のポリビニルブチラールが挙げられる。なお、中間膜40の比誘電率は、2.8以上3.5以下が好ましい。
【0020】
内部電極31は、ガラス板10の板面11とガラス板20の板面21との間に設けられる導体である。内部電極31は、第1の電極の一例である。本実施形態での内部電極31は、車幅方向となるX軸方向を長手方向とし所定の幅を有する直線部分を有し、ガラス板20の一方の側縁の側から他方の側縁の側に向けてガラス板20のY軸方向の上縁に沿って延在する。また、本実施形態において、内部電極31は、ガラス板20の板面21に接触して形成されている。
【0021】
外部電極32は、誘電体であるガラス板20を内部電極31との間に挟むように、ガラス板20の板面22の側に設けられる導体である。外部電極32は、第2の電極の一例である。本実施形態での外部電極32は、車幅方向となるX軸方向を長手方向とし所定の幅を有する直線部分を有し、ガラス板20の一方の側縁の側から他方の側縁の側に向けてガラス板20のY軸方向の上縁に沿って延在する。また、本実施形態において、外部電極32は、ガラス板20の板面22に接触して形成されている。なお、「上縁に沿って延在する」とは、上縁に接する形態でも、上縁から離れた形態でもよい。
【0022】
アンテナ素子71は、ガラス板10の板面11とガラス板20の板面21との間に設けられ、内部電極31に接続される導体である。アンテナ素子71は、AM放送の周波数帯(例えば、500kHz以上1800kHz以下)の電波を少なくとも受信するように、その形状及び寸法は設計されている。アンテナ素子71は、AM放送の周波数帯(例えば、500kHz以上1800kHz以下)の電波を少なくとも受信するように形成されていれば、その形状及び寸法は、
図1の形態に限られない。
【0023】
例えば、アンテナ素子71は、AM放送の周波数帯を含むMF(Medium Frequency)帯の電波の受信に適するように形成される。あるいは、アンテナ素子71は、MF帯とHF(High Frequency)帯との両方の電波を受信する共用のアンテナ素子として形成されてもよい。なお、MF帯は、300kHz以上3MHz以下の周波数帯を表す。HF帯は、3MHz以上30MHz以下の周波数帯を表し、SW(Short Wave)帯とも称される。また、アンテナ素子71は、MF帯の電波と、FM放送波と、DAB(Digital Audio Broadcast)の放送波と、地上デジタルテレビ放送波とのうち、少なくとも1つの電波を受信する共用のアンテナ素子として形成されてもよい。
【0024】
図1は、アンテナ素子71が、ガラス板10とガラス板20との間に配置される導電膜50に形成される形態を示す。
図1の実施形態では、導電膜50は、中間膜40とガラス板20との間に配置される透明又は半透明な導体であり、例えば、Ag膜などの金属膜、ITO(酸化インジウム・スズ)膜などの金属酸化膜、または導電性微粒子を含む樹脂膜や、複数種類の膜を積層したものが挙げられる。導電膜50は、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂フィルムに蒸着処理等でコーティングされたものでもよい。
【0025】
図1の実施形態では、導電膜50のうち、アンテナ素子71となる導体部分の周りが除去される。これにより、アンテナ素子71となる導体部分が導電膜50として残るので、アンテナ素子71が導電膜50によって形成される。つまり、
図1の実施形態では、導電膜50は、アンテナ素子71を含むことを意味する。格子部56は、導電膜50のうち、アンテナ素子71となる導体部分の周りが除去され電気的に高抵抗化された領域を表す。
【0026】
導電膜50には、例えば、ヒータ55が形成されている。ヒータ55は、直流電圧が一対のバスバー51,52間に印加されることで窓ガラス100を加熱させて、窓ガラス100の融雪、融氷、防曇が可能となる。例えば、バスバー51は、フラットワイヤ53を介して直流電源の負極に接続され、バスバー52は、フラットワイヤ54を介して直流電源の正極に接続される。あるいは、導電膜50は、車外から到来する熱線を反射する導電性の熱線反射膜でもよいが、導電膜50の用途は、これらに限られない。
【0027】
導電膜50には、アンテナ素子71以外のアンテナ素子が少なくとも一つ以上形成されてもよい。例えば
図1には、アンテナ素子71以外に、アンテナ素子72,73が示されている。つまり、
図1の実施形態では、導電膜50は、アンテナ素子72,73を含むことを意味する。アンテナ素子72,73は、それぞれ、周波数がHF帯よりも高い周波数帯の電波を受信するように形成されている。周波数がHF帯よりも高い周波数帯の電波として、例えば、地上デジタルテレビ放送波、DAB(Digital Audio Broadcast)の放送波、FM放送波などが挙げられる。
【0028】
図1の実施形態では、アンテナ素子71は、内部電極31に接続され、アンテナ素子72は、内部電極34に接続され、アンテナ素子73は、内部電極36に接続されている。内部電極31,34,36は、それぞれ、導電膜50によって形成された部位でもよい。その場合、導電膜50は、内部電極31,34,36を含むことを意味する。しかしながら、内部電極31,34,36のうち少なくとも一つは、導電膜50とは別の導体により形成された部位でもよい。同様に、
図1の実施形態では、アンテナ素子71,72,73は、それぞれ、導電膜50によって形成された部位であるが、アンテナ素子71,72,73のうち少なくとも一つは、導電膜50とは別の導体により形成された部位でもよい。
【0029】
上記した別の導体として、例えば、アンテナ素子71,72,73のうち少なくとも一つは、導電性金属を含有するペースト(例えば、銀ペースト等)を、ガラス板20の板面21(又は、ガラス板10の板面11)にプリントして焼き付けることによって形成されてもよい。内部電極31,34,36のいずれかについても同様である。あるいは、アンテナ素子71,72,73のうち少なくとも一つは、ガラス板20とガラス板10との間に封入されるワイヤーによって形成されてもよい。
【0030】
アンテナ素子71が接続される内部電極31の少なくとも一部は、ガラス板20を挟んで外部電極32と対向している。外部電極32には、アンプ60の第1の入力部が接続されている。したがって、アンテナ素子71で受信して得られる信号は、内部電極31と外部電極32との間の容量結合を介してアンプ60の第1の入力部に入力される。
【0031】
同様に、アンテナ素子72が接続される内部電極34の少なくとも一部は、ガラス板20を挟んで外部電極33と対向している。外部電極33には、アンプ60の第2の入力部が接続されている。したがって、アンテナ素子72で受信して得られる信号は、内部電極34と外部電極33との間の容量結合を介してアンプ60の第2の入力部に入力される。
【0032】
同様に、アンテナ素子73が接続される内部電極36の少なくとも一部は、ガラス板20を挟んで外部電極35と対向している。外部電極35には、アンプ61の入力部が接続されている。したがって、アンテナ素子73で受信して得られる信号は、内部電極36と外部電極35との間の容量結合を介してアンプ61の入力部に入力される。
【0033】
また、ガラス板10は、可視光を遮光する遮光膜13を備えてもよい。遮光膜13は、ガラス板10の外周縁部に設けられている。遮光膜13は、内部電極31と外部電極32との少なくとも一方と、ガラス板10の厚さ方向で重複する。遮光膜13の具体例として、黒色セラミックス膜等のセラミックスが挙げられる。内部電極、外部電極、アンテナ素子及びバスバーのうち、ガラス板10の平面視で遮光膜13と重複する部分が存在する場合、窓ガラス100を車外側から見ると、その重複する部分が視認しにくくなるので、窓ガラス100や車両のデザイン性が向上する。とくに、後述するように、内部電極31と外部電極32は比較的大きな面積であるので、遮光膜13は、内部電極31と外部電極32のうち少なくとも一方と重複すればよく、内部電極31と外部電極32のうち面積が大きい方と重複すれば好ましく、両方と重複すればより好ましい。内部電極31と外部電極32のうち面積が大きい方の面積は、1675mm2以上であればよく、1682mm2以上が好ましく、1705mm2以上がより好ましく、1863mm2以上がさらに好ましい。
【0034】
図2~7は、本実施形態におけるアンテナ70が設けられる車両用窓ガラスの積層形態のバリエーションを示したものである。
図2は、
図1に示される形態の断面図に相当する。
【0035】
図2~4では、アンテナ素子71及び内部電極31は、ガラス板10とガラス板20との間に配置されている。内部電極31と外部電極32は、ガラス板20の厚さ方向(Z軸方向)での平面視で、ガラス板20を介して互いに重複するように配置されている。また、アンテナ素子71及び内部電極31は、ガラス板10とガラス板20との間に配置される中間膜40に接触している。
【0036】
内部電極31と外部電極32とが互いに重複する面積の比率(後述する「比率S」)は、その数値が大きい方が、重複部分からの電極の露出(はみ出し)を小さくできたり、遮光膜13と重複しやすくできたり、結合ロスを抑制できたりするので好ましい。後述するシミュレーション結果では、所定の面積を有する電極の条件下で、内部電極31と外部電極32のうち大きい方の電極の面積を基準としたときの、重なりの比率(後述する「比率S」)は、結合ロスを抑えるため1.5%以上が好ましい。また、内部電極31と外部電極32との間の結合ロスの抑制に加え、上記のように電極の露出(はみ出し)を抑えるには、重なりの比率(後述する「比率S」)は、10%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。
【0037】
図2は、アンテナ素子71及び内部電極31がガラス板20の板面21に形成される形態を示す。例えば、ガラス板20の板面21に蒸着処理をすることにより板面21にコーティングされた導電膜として、アンテナ素子71及び内部電極31が形成される。
【0038】
図3は、アンテナ素子71及び内部電極31がガラス板10の板面11に形成される形態を示す。例えば、ガラス板10の板面11に蒸着処理をすることにより板面11にコーティングされた導電膜として、アンテナ素子71及び内部電極31が形成される。
図3のように、内部電極31と外部電極32との間には、ガラス板20だけでなく、中間膜40が存在してもよい。
【0039】
図4は、アンテナ素子71及び内部電極31が、中間膜41と中間膜42との間に位置する形態を示す。中間膜41は、中間膜40が有する第1の層の一例であり、中間膜42は、中間膜40が有する第2の層の一例である。例えば、ガラス板10の板面11に接する中間膜41とガラス板20の板面21に接する中間膜42との間に挟まれる導電膜に、アンテナ素子71及び内部電極31が形成されている。
図4のように、内部電極31と外部電極32との間には、ガラス板20だけでなく、中間膜42が存在してもよい。
【0040】
また、
図5~7に示されるように、本開示に係る車両用窓ガラスは、合わせガラスに限らない。この場合、内部電極31と外部電極32との間に存在する誘電体は、厚さ方向(Z軸方向)での平面視でガラス板10と同じ大きさでなくてもよく、外部電極32を少なくとも形成できる程度の大きさの誘電体基板や誘電体フィルムなどであればよい。
【0041】
図5~7では、アンテナ素子71及び内部電極31は、ガラス板10と誘電体基板23との間に配置されている。内部電極31と外部電極32は、誘電体基板23の厚さ方向(Z軸方向)での平面視で、誘電体基板23を介して互いに重複するように配置されている。誘電体基板23は、例えば、樹脂製のプリント基板(例えば、FR4に銅箔を取り付けたガラスエポキシ基板)であり、誘電体フィルムと置換された形態でもよい。
【0042】
図5は、アンテナ素子71及び内部電極31がガラス板10の板面11に形成される形態を示す。例えば、ガラス板10の板面11に蒸着処理をすることにより板面11にコーティングされた導電膜として、アンテナ素子71及び内部電極31が形成される。誘電体基板23の板面22には、外部電極32が設けられている。外部電極32が内部電極31と対向するように、誘電体基板23は、アンテナ素子71及び内部電極31が形成される導電膜に接着層43によって接着される。
【0043】
図6は、アンテナ素子71及び内部電極31がガラス板10の板面11に形成される形態を示す。例えば、アンテナ素子71及び内部電極31が形成される導電膜が、板面11に接着層43aによって接着される。誘電体基板23の板面22には、外部電極32が設けられている。外部電極32が内部電極31と対向するように、誘電体基板23は、アンテナ素子71及び内部電極31が形成される導電膜に接着層43bによって接着される。
【0044】
図7は、アンテナ70の構成要素である誘電体基板23がガラス板10の板面11に接着層43によって接着される形態を示す。アンテナ70は、アンテナ素子71と内部電極31と外部電極32とが形成された誘電体基板23を備える。例えば、誘電体基板23は、アンテナ素子71及び内部電極31が形成された板面21と、内部電極31との間に誘電体基板23の少なくとも一部の誘電体部分を挟むように外部電極32が形成された板面22とを有する。アンテナ素子71と内部電極31との少なくとも一方は、誘電体基板23の内部に埋め込まれた形態で設けられてもよい。
【0045】
このように、本実施形態におけるアンテナ70及び窓ガラス100では、アンテナ素子71が接続される内部電極31の少なくとも一部は、誘電体(ガラス板や誘電体基板など)を挟んで外部電極32と対向している。よって、アンテナ素子71で受信して得られる信号は、内部電極31と外部電極32との間の容量結合を介して外部電極32から取り出される。外部電極32から取り出される信号は、外部電極32に導通可能に接続された導電性部材を介して、アンプ60(
図1参照)の(第1の)入力部に伝達される。この導電性部材の具体例として、AV線や同軸ケーブルなどの給電線が挙げられる。
【0046】
給電線として同軸ケーブルが使用される場合、同軸ケーブルの芯線(内部導体)は、外部電極32に接続され、同軸ケーブルの外部導体は、車体等のグランドに接続される。また、アンプ60を外部電極32に接続されるためのコネクタが使用されてもよく、当該コネクタは、例えば、外部電極32に実装される。コネクタにアンプ60が搭載されていてもよい。
【0047】
このように、アンテナ素子71で受信して得られる信号は、内部電極31と外部電極32との間の容量結合を介して外部電極32から取り出される。外部電極32には、アンプ60の(第1の)入力部が直接又は間接的に接続される。アンプ60は、外部電極32から取り出される信号を増幅し、増幅した信号を、車両に搭載される不図示の信号処理回路に出力する。
【0048】
ここで、アンテナ素子71からアンプ60までの等価回路は、
図8に示されるような回路で表すことができる。
図8において、内部電極31と外部電極32との間の結合容量をC
c、アンテナ素子71のアンテナ容量をC
a、外部電極32に接続されるアンプ60の入力容量をC
iとする。また、結合容量C
cを無限大にしたときの外部電極32からの出力電圧Vの値に比べてxデシベル低い値をν
xdB、アンテナ素子71の受信電圧をν
aとする。ただし、xは3.0以下である。このとき、C
cが下記の式(1)を満たすことにより、内部電極31と外部電極32との間の容量結合での結合ロスがxデシベル以下になる。
【0049】
【数1C】
C
aは、アンテナ素子71と車体等のグランドとの間の容量を表す。C
iは、アンプ60の入力部と車体等のグランドとの間の入力容量を表す。"結合容量C
cを無限大にしたとき"とは、内部電極31と外部電極32とが容量結合せずに導体により直結されたときを表す。つまり、内部電極31と外部電極32との間の容量結合での結合ロスが零になる状態を表す。なお、以下、"内部電極31と外部電極32との間の容量結合での結合ロス"のこと、を単純に"結合ロス"ともいう。
【0050】
Ccが無限大であるときが、容量結合での結合ロスがない理想的な状態である。Ccが大きくなるほど、容量結合での結合ロスが小さくなるので、Ciに印加される分圧電圧(アンプ60に入力される電圧)の結合ロスによる低下を抑制できる。したがって、式(1)を満たすCcに設定することにより、アンプ60に入力される電圧の結合ロスによる低下を抑制できる。よって、AM放送の周波数帯の電波を受信して得られる信号を、容量結合を介して取り出す場合、アンプ60に入力される電圧が確保されるので、十分な受信感度がアンプ60で得られる。なお、結合ロスxデシベルについて、xは、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。
【0051】
図9は、結合ロスが3.0dBとなる、アンプの入力容量C
iと結合容量C
cとの関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
図10は、結合ロスが2.0dBとなる、アンプの入力容量C
iと結合容量C
cとの関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
図11は、結合ロスが1.0dBとなる、アンプの入力容量C
iと結合容量C
cとの関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
図12は、結合ロスが0.5dBとなる、アンプの入力容量C
iと結合容量C
cとの関係を測定したシミュレーション結果の一例を示す図である。
図9~
図12で示される曲線は、下記の式(2)で表される。
【0052】
【数2】
図9で示される曲線は、ν
xdBについてx=3.0の場合を表し、
図10で示される曲線は、ν
xdBについてx=2.0の場合を表し、
図11で示される曲線は、式(2)内のν
xdBについてx=1.0の場合を表し、
図12で示される曲線は、ν
xdBについてx=0.5の場合を表す。AM放送波を受信する一般的なアンテナ素子のアンテナ容量の範囲は、20pF以上80pF以下であるので、
図9~
図12では、C
aは、最小値(=20pF)に設定した。また、一般的なアンプの入力容量の範囲は、10pF以上80pF以下である。
【0053】
したがって、例えば
図9に示されるように、入力容量C
iが10pFのアンプ60を使用する場合、結合容量C
cが16.2pF以上となるように設計することで、結合ロスを3.0dB以下にでき、アンプ60での受信感度が向上できる。また、例えば
図10に示されるように、入力容量C
iが10pFのアンプ60を使用する場合、結合容量C
cが25.7pF以上となるように設計することで、結合ロスを2.0dB以下にでき、アンプ60での受信感度が向上できる。また、例えば
図11に示されるように、入力容量C
iが10pFのアンプ60を使用する場合、結合容量C
cが54.6pF以上となるように設計することで、結合ロスを1.0dB以下にでき、アンプ60での受信感度が向上できる。また、例えば
図12において、入力容量C
iが10pFのアンプ60を使用する場合、結合容量C
cが112.5pF以上となるように設計することで、結合ロスを0.5dB以下にでき、アンプ60での受信感度がより向上できる。
【0054】
結合容量Ccは、誘電体の厚さ方向での平面視において、内部電極31と外部電極32とが重複する面積(以下、"重複面積A"とも称する)が大きいほど大きくなる。したがって、重複面積Aは、結合ロスを小さくする点で、大きい方が好ましい。しかし、ガラス板又は誘電体基板の広さの上限を考慮して、重複面積Aの上限値を計算すると、結合容量Ccの上限は、3500pF程度となる。
【0055】
図13は、容量結合部の2つの電極が平面視で重複する形態を示す図である。
図13において、内部電極31と外部電極32とのうち、面積が大きい方の電極を電極1とし、面積が小さい方の電極を電極2とする。
図14は、結合容量C
cが54pFとなるときの、電極形状毎の各部の寸法をシミュレーションした結果の一例を示す図である。結合容量C
cが54pF以上であれば、上述の通り、結合ロスを約1dB以下にできる。
図14は、
図13の電極1,2が長方形の場合(パターン#1とパターン#2)と正方形の場合(パターン#3)の3種類を示す。シミュレーションの前提条件として、電極1と電極2との間の誘電体は、その厚さを1.6mmとし、その比誘電率を8.0とした。電極2は、生産時のばらつきを考慮し、その外縁が電極1の外縁よりも内側に3mm小さくオフセットした形状とした。電極1の長さL1の最大値は、車両のリアガラスの車幅方向の最大幅を考慮し、1600mmとした。電極1の幅H1の最大値は、遮光膜13の最大幅を考慮し、50mmとした。電極1の面積をS1とし、電極2の面積S2とする。
【0056】
電極1が取り得る最大面積(面積S1の最大値)を80000mm2(=1600mm×50mm)とすると、結合容量Ccが16.2pF以上となる重複面積Aは、366mm2以上と計算された。これは、重複面積Aの比率Sが、電極1に対して、0.46%以上であればよいことになる。つまり、結合ロスを3.0dB以下にするには、重複面積Aが366mm2以上、あるいは、重複面積Aの比率Sが電極1に対して0.46%以上が好ましい。また、結合ロスを2.0dB以下にするには、シミュレーションによると、重複面積Aが582mm2以上、あるいは、重複面積Aの比率Sが電極1に対して0.73%以上が好ましい。結合ロスを1.0dB以下にするには、シミュレーションによると、重複面積Aが1220mm2以上、あるいは、重複面積Aの比率Sが電極1に対して1.5%以上が好ましい。また、結合ロスを0.5dB以下にするには、シミュレーションによると、重複面積Aが2520mm2以上、あるいは、重複面積Aの比率Sが電極1に対して3.1%以上が好ましい。
【0057】
ここで、重複面積Aが366mm2で電極2の幅H2を10mmとすると、電極2の長さL2は、36.6mmである。したがって、結合ロスを3.0dB以下にするには、電極2は、車幅方向となる方向に36.6mm以上の長さL2を有することが好ましい。また、重複面積Aが582mm2で電極2の幅H2を10mmとすると、電極2の長さL2は、58.2mmである。したがって、結合ロスを2.0dB以下にするには、電極2は、車幅方向となる方向に58.2mm以上の長さL2を有することが好ましい。また、重複面積Aが1220mm2で電極2の幅H2を50mmとすると、電極2の長さL2は、24.4mmである。したがって、結合ロスを1.0dB以下にするには、電極2は、車幅方向となる方向に24.4mm以上の長さL2を有することが好ましい。
【0058】
以上、車両用窓ガラス及びアンテナを実施形態により説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 ガラス板(第1のガラス板の一例)
13 遮光膜
20 ガラス板(第2のガラス板又は誘電体の一例)
21 板面(第1の面の一例)
22 板面(第2の面の一例)
23 誘電体基板(誘電体の一例)
31 内部電極(第1の電極の一例)
32 外部電極(第2の電極の一例)
40 中間膜
41 中間膜(第1の層の一例)
42 中間膜(第2の層の一例)
43 接着層
50 導電膜
51,52 バスバー
55 ヒータ
56 格子部
60,61 アンプ
70 アンテナ
71,72,73 アンテナ素子
100 窓ガラス