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特許7287253熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置
<図1>
  • 特許-熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置 図1
  • 特許-熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置 図2
  • 特許-熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置 図3
  • 特許-熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置 図4
  • 特許-熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20230530BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20230530BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
H01L21/324 Q
H01L21/68 N
C30B29/06 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019215638
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021086955
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】奥内 茂
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-041738(JP,A)
【文献】特開2018-190903(JP,A)
【文献】特開2018-113320(JP,A)
【文献】特開2004-214492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 21/683
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定すること、
ウェーハ載置部材の母材表面に設けられた酸化物膜の膜厚と熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度との相関を調べること、
前記相関から前記酸化物膜の膜厚と前記熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度との間の関係を示す近似直線または近似曲線を作成し、前記近似直線または前記近似曲線に基づいて前記目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる酸化物膜の膜厚の範囲を決定すること、
前記範囲内の膜厚の酸化物膜を母材表面上に有するウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置すること、および
前記ウェーハ載置部材上に載置された半導体ウェーハを、炉内雰囲気がアルゴン含有雰囲気の熱処理炉内で熱処理すること、
を含み、
前記母材表面は、炭素含有表面である、熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記表層部炭素濃度の目標範囲を、ゲート閾値電圧VThの目標値に基づき決定することを含む、請求項1に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記表層部炭素濃度の目標範囲は、2.0×1015~1.8×1016atoms/cmの範囲である、請求項1または2に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項4】
炭素含有表面を有する母材を含むウェーハ載置部材を熱酸化処理することにより、前記範囲の膜厚の酸化物膜を前記炭素含有表面上に形成することを更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記熱酸化処理は、半導体ウェーハが載置されていない前記ウェーハ載置部材を前記熱処理炉において熱酸化処理することである、請求項4に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記範囲の膜厚の酸化物膜が維持されることが見積もられるウェーハ載置部材の繰り返し使用回数の許容範囲を決定することを更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記母材表面は、炭化ケイ素表面である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記酸化物膜は、ケイ素酸化物膜である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱処理ウェーハの製造方法。
【請求項9】
熱処理炉と、
熱処理炉制御部と、
解析部と、
を含み、
前記熱処理炉は、炉内雰囲気をアルゴン含有雰囲気として、酸化物膜を母材表面上に有するウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置して半導体ウェーハの熱処理を行う熱処理炉であり、
前記母材表面は、炭素含有表面であり、
前記解析部は、
熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定し、
ウェーハ載置部材の母材表面に設けられた酸化物膜の膜厚と熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度との相関を調べ、
前記相関から前記酸化物膜の膜厚と前記熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度との間の関係を示す近似直線または近似曲線を作成し、前記近似直線または前記近似曲線に基づいて前記目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる酸化物膜の膜厚の範囲を決定し、
前記決定された膜厚の範囲を含む熱処理情報を作成し、
前記作成された熱処理情報を前記熱処理炉制御部に送信し、
前記熱処理炉制御部は、前記熱処理情報を受信し、受信した熱処理情報にしたがい前記熱処理炉に熱処理を実行させる熱処理実行信号を熱処理炉へ送信し、
前記熱処理炉は、前記熱処理実行信号を受信し、受信した熱処理実行信号にしたがい半導体ウェーハの熱処理を行う、熱処理装置。
【請求項10】
前記解析部は、前記表層部炭素濃度の目標範囲をゲート閾値電圧VThの目標値に基づき決定する、請求項9に記載の熱処理装置。
【請求項11】
前記表層部炭素濃度の目標範囲を、2.0×1015~1.8×1016atoms/cmの範囲で決定する、請求項9または10に記載の熱処理装置。
【請求項12】
前記解析部は、半導体ウェーハの熱処理前に、前記熱処理炉において炭素含有表面を有する母材を熱酸化処理して前記炭素含有表面上に前記範囲の膜厚の酸化物膜を形成する熱酸化処理情報を、前記熱処理炉制御部に送信し
前記熱処理炉制御部は、前記熱酸化処理情報を受信し、受信した熱酸化処理情報にしたがい前記熱処理炉に熱酸化処理を実行させる熱酸化処理実行信号を送信し、
前記熱処理炉は、前記熱酸化処理実行信号を受信し、受信した熱酸化処理実行信号にしたがい前記熱処理炉において炭素含有表面を有する母材を熱酸化処理して前記炭素含有表面上に前記範囲の膜厚の酸化物膜を形成する熱酸化処理を行う、請求項9~11のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【請求項13】
前記熱酸化処理は、半導体ウェーハが載置されていない前記ウェーハ載置部材を前記熱処理炉において熱酸化処理することである、請求項12に記載の熱処理装置。
【請求項14】
前記解析部は、前記範囲の膜厚の酸化物膜が維持されることが見積もられるウェーハ載置部材の繰り返し使用回数の許容範囲を決定し、
前記熱処理情報は、前記決定された許容範囲の繰り返し使用回数を含む、請求項9~13のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【請求項15】
前記母材表面は、炭化ケイ素表面である、請求項9~14のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【請求項16】
前記酸化物膜は、ケイ素酸化物膜である、請求項9~15のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【請求項17】
請求項9~16のいずれか1項に記載の熱処理装置を含む、熱処理ウェーハの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理ウェーハの製造方法、熱処理装置および熱処理ウェーハの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ(以下、単に「ウェーハ」とも記載する。)は、多くの場合、一種以上の熱処理を経て製造される。かかる熱処理は、通常、熱処理炉内で、ウェーハボート等と呼ばれるウェーハ載置部材上に熱処理対象のウェーハを載置して行われる(特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2006-521689号公報
【文献】特開2008-085028号公報
【文献】特開2010-177442号公報
【文献】特開2015-041738号公報
【文献】特開2018-113320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体ウェーハは、通常、半導体デバイスの基板として使用される。そのため半導体ウェーハには、基板として適用される半導体デバイスの用途等に応じた性能を有することが望まれる。そのような性能の付与または性能の向上のための処理として、半導体ウェーハに熱処理を行うことができる。
【0005】
以上に鑑み、本発明の一態様は、熱処理を経て、半導体デバイスの基板として望まれる性能を有する半導体ウェーハを製造するための新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定すること、
上記目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる範囲の膜厚の酸化物膜を母材表面上に有するウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置すること、および
上記ウェーハ載置部材上に載置された半導体ウェーハを、炉内雰囲気がアルゴン含有雰囲気の熱処理炉内で熱処理すること、
を含み、
上記母材表面は、炭素含有表面である、熱処理ウェーハの製造方法、
に関する。
【0007】
一形態では、上記熱処理ウェーハの製造方法は、上記表層部炭素濃度の目標範囲を、ゲート閾値電圧VThの目標値に基づき決定することを含むことができる。尚、「目標値に基づき決定する」とは、1つの値に基づき決定することと、数値範囲(目標範囲)に基づき決定することと、を包含する意味で用いられる。
【0008】
一形態では、上記表層部炭素濃度の目標範囲は、2.0×1015~1.8×1016atoms/cmの範囲であることができる。
【0009】
一形態では、上記熱処理ウェーハの製造方法は、炭素含有表面を有する母材を含むウェーハ載置部材を熱酸化処理することにより、上記範囲の膜厚の酸化物膜を上記炭素含有表面上に形成することを更に含むことができる。
【0010】
一形態では、上記熱酸化処理は、半導体ウェーハが載置されていない上記ウェーハ載置部材を上記熱処理炉において熱酸化処理することであることができる。
【0011】
一形態では、上記熱処理ウェーハの製造方法は、上記範囲の膜厚の酸化物膜が維持されることが見積もられるウェーハ載置部材の繰り返し使用回数の許容範囲を決定することを更に含むことができる。
【0012】
一形態では、上記母材表面は、炭化ケイ素表面であることができる。
【0013】
一形態では、上記酸化物膜は、ケイ素酸化物膜であることができる。
【0014】
また、本発明の一態様は、
熱処理炉と、
熱処理炉制御部と、
解析部と、
を含み、
上記熱処理炉は、炉内雰囲気をアルゴン含有雰囲気として、酸化物膜を母材表面上に有するウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置して半導体ウェーハの熱処理を行う熱処理炉であり、
上記母材表面は、炭素含有表面であり、
上記解析部は、
熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定し、
上記目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる酸化物膜の膜厚の範囲を決定し、
上記決定された膜厚の範囲を含む熱処理情報を作成し、
上記作成された熱処理情報を上記熱処理炉制御部に送信し、
上記熱処理炉制御部は、上記熱処理情報を受信し、受信した熱処理情報にしたがい上記熱処理炉に熱処理を実行させる熱処理実行信号を熱処理炉へ送信し、
上記熱処理炉は、上記熱処理実行信号を受信し、受信した熱処理実行信号にしたがい半導体ウェーハの熱処理を行う、熱処理装置、
に関する。
【0015】
一形態では、上記解析部は、上記表層部炭素濃度の目標範囲をゲート閾値電圧VThの目標値に基づき決定することができる。
【0016】
一形態では、上記表層部炭素濃度の目標範囲を、2.0×1015~1.8×1016atoms/cmの範囲で決定することができる。
【0017】
一形態では、上記解析部は、半導体ウェーハの熱処理前に、上記熱処理炉において炭素含有表面を有する母材を熱酸化処理して上記炭素含有表面上に上記範囲の膜厚の酸化物膜を形成する熱酸化処理情報を、上記熱処理炉制御部に送信することができ
上記熱処理炉制御部は、上記熱酸化処理情報を受信することができ、受信した熱酸化処理情報にしたがい上記熱処理炉に熱酸化処理を実行させる熱酸化処理実行信号を送信することができ、
上記熱処理炉は、上記熱酸化処理実行信号を受信することができ、受信した熱酸化処理実行信号にしたがい上記熱処理炉において炭素含有表面を有する母材を熱酸化処理して上記炭素含有表面上に上記範囲の膜厚の酸化物膜を形成する熱酸化処理を行うことができる。
【0018】
一形態では、上記熱酸化処理は、半導体ウェーハが載置されていない上記ウェーハ載置部材を上記熱処理炉において熱酸化処理することであることができる。
【0019】
一形態では、上記解析部は、上記範囲の膜厚の酸化物膜が維持されることが見積もられるウェーハ載置部材の繰り返し使用回数の許容範囲を決定することができ、
上記熱処理情報は、上記決定された許容範囲の繰り返し使用回数を含むことができる。
【0020】
一形態では、上記母材表面は、炭化ケイ素表面であることができる。
【0021】
一形態では、上記酸化物膜は、ケイ素酸化物膜であることができる。
【0022】
また、本発明の一態様は、上記熱処理装置を含む、熱処理ウェーハの製造装置に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、所望範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハを製造することが可能な熱処理ウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】半導体ウェーハを基板として含む半導体デバイスの一例の概略断面図である。
図2】熱処理ウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の測定結果を示す。
図4】熱処理におけるウェーハ載置部材の繰り返し使用回数に対して、各回の熱処理後のウェーハ載置部材の酸化物膜の膜厚をプロットしたグラフである。
図5】熱処理装置の一例の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の一態様を、図面を参照して説明することがある。但し、本発明は図面に示されている例に限定されるものではない。
【0026】
[熱処理ウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定すること、上記目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる範囲の膜厚の酸化物膜を母材表面上に有するウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置すること、および、上記ウェーハ載置部材上に載置された半導体ウェーハを、炉内雰囲気がアルゴン含有雰囲気の熱処理炉内で熱処理することを含み、上記母材表面は、炭素含有表面である、熱処理ウェーハの製造方法に関する。本発明および本明細書において、「熱処理ウェーハ」とは、熱処理が施された半導体ウェーハをいうものとする。
【0027】
先に示した特許文献1~5には、熱処理用のウェーハ載置部材として、SiC等の炭素含有表面を有する母材の表面に酸化物膜を形成したウェーハ載置部材が記載されている。かかるウェーハ載置部材について、例えば特許文献3の段落0026には、酸化物膜が、熱処理後のウェーハに母材起因の炭素汚染が生じることを抑制する役割を果たすことが記載されている。
一方、本発明者は、鋭意検討を重ねる中で、以下に記載するように、半導体ウェーハの表層部炭素濃度は、半導体ウェーハを基板として含む半導体デバイスのゲート閾値電圧VThと相関すると考えるに至った。この点は、特許文献1~5には何ら示唆されていない。
【0028】
半導体デバイスとして、基板としてシリコンウェーハを含み、図1に概略断面図を示す構造のnチャネル型MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を例に取ると、ゲート閾値電圧VThは、以下の式1により求められる。半導体デバイスの構造および使用環境(温度)が一定の場合、VThは、キャリア濃度Nにより規定される値である。ゲート閾値電圧Vthは、ソースとドレインとの間に規定のドレイン電流Iが流れ始めるときのゲート電圧であり、規定のドレイン電流Iは任意に設定することができ、例えば0.25~1mAの範囲に設定できる。
【0029】
【数1】
(式1中、VTh:ゲート閾値電圧、φfb:空乏層電位、Tox:ゲート酸化膜(SiO膜)の厚さ、εox:SiOの誘電率、εSi:シリコンの誘電率、q:クーロン定数、N:キャリア濃度)
【0030】
デバイス作製時のドーパント注入(イオンインプランテーション)時、半導体ウェーハの表層部に炭素が存在する場合、以下に記載するステップでCドナーが形成される。即ち、第一のステップとして、ドーパント元素(例えばB等)のイオンインプランテーションにより、空孔VとSi(格子間Si)とが形成される。次いで、第二のステップとして、Si(格子間Si)とC(格子間炭素)とが形成され、第三のステップとして、CとO(格子間酸素)とによってCドナーが形成される。Cドナーはキャリアを捕獲するため、Cドナーが多い場合にはキャリア濃度Nが低下し、その結果、VThの値は小さくなる(式1参照)。換言すれば、Cドナーが少ない場合にはキャリア濃度Nは高くなり、その結果、VThの値は大きくなる(式1参照)。このようにVThの値に影響を及ぼすCドナーの形成には、基板である半導体ウェーハ表層部の炭素が寄与し、形成されるCドナーの濃度は、半導体ウェーハ表層部の炭素濃度に依存する。したがって、半導体ウェーハ表層部の炭素濃度を制御することは、所望範囲のVThを示す半導体デバイスの作製を可能とすることにつながると、本発明者は考えている。
更に本発明者は、炉内雰囲気がアルゴン含有雰囲気の熱処理炉内で、炭素含有表面を有する母材を含むウェーハ載置部材上にウェーハを載置して熱処理を行う際、母材表面に設ける酸化物膜の膜厚と、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度との間には、相関が見られるという、従来知られていなかった新たな知見を得た。詳しくは、酸化物膜の膜厚が厚いほど熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度は低くなる傾向が見られ、酸化物膜の膜厚が薄いほど熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度は高くなる傾向が見られた。
本発明者は、以上の知見に基づき更に鋭意検討を重ねた結果、上記の本発明の一態様にかかる熱処理ウェーハの製造方法を完成させるに至った。
【0031】
図2は、本発明の一態様にかかる熱処理ウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。以下、上記熱処理ウェーハの製造方法について、図2を適宜参照し、更に詳細に説明する。
【0032】
<熱処理対象の半導体ウェーハ>
熱処理ウェーハを製造するために熱処理が施される半導体ウェーハとしては、シリコンウェーハ等の各種半導体ウェーハを挙げることができる。例えば、公知の方法で育成された半導体材料のインゴットから切り出したウェーハ(例えば、シリコン単結晶インゴットから切り出したシリコン単結晶ウェーハ)を、平坦化加工、鏡面研磨等の研磨加工、面取り加工等の加工処理や洗浄等の一種以上を処理を任意に施した後に熱処理炉へ導入して熱処理を行うことができる。半導体ウェーハの導電型は、p型であってもよく、n型であってもよい。尚、先に示した式1では、ToxはSiO膜の厚さであり、εoxはSiOの誘電率であり、εSiはシリコンの誘電率であるが、半導体ウェーハがシリコンウェーハ以外の場合、εSiは、ウェーハを構成する半導体材料の誘電率に置き換えればよく、Toxは、ウェーハ(基板)上に形成されゲート酸化膜の厚さに置き換えればよく、εoxは、ゲート酸化膜を構成する酸化物の誘電率に置き換えればよい。
【0033】
<ウェーハ表層部炭素濃度の目標範囲の決定>
上記熱処理ウェーハの製造方法では、表層部の炭素濃度が所望範囲である熱処理ウェーハを得るために、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲(「目標ウェーハ表層部炭素濃度範囲」とも記載する。)を設定する。本発明および本明細書において、半導体ウェーハの「表層部」とは、半導体ウェーハの表面から内部に亘る一部領域を意味し、半導体ウェーハの厚さを100%として、例えば0.1~1%の厚さの領域であることができる。半導体ウェーハの厚さは、例えば600~800μmであることができる。先に説明したように、半導体ウェーハ表層部の炭素濃度を制御することは、所望範囲のVThを示す半導体デバイスの作製を可能とすることにつながると考えられる。したがって、一形態では、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度を、ゲート閾値電圧VThの目標値に基づき決定することができる。詳しくは、熱処理後の半導体ウェーハを基板として含む半導体デバイス(MOSFET)のゲート閾値電圧VThの目標値に基づき、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定することができる。
【0034】
一例として、図1に示す半導体デバイスについて、目標VThおよびMOSFETのゲート酸化膜の厚さToxを設定すると、式1から、目標VThを実現するためのキャリア濃度(狙いキャリア濃度)を算出することができる(図2中、S1)。ここで、実製造工程で生じ得るVThのバラつきの許容範囲を任意に考慮して、目標キャリア濃度範囲を決定することができる(図2中、S2)。かかるバラつき許容範囲は、予備実験結果または公知の理論式に基づき設定可能である。この点は、後述の各種バラつき許容範囲についても同様である。
【0035】
先に説明したように、Cドナーはキャリアを捕獲するため、Cドナーが多い場合にはキャリア濃度は低下し、Cドナーが少ない場合にはキャリア濃度は高くなる。また、基板である半導体ウェーハ表層部の炭素濃度が高い場合にはCドナーが多くなり、ウェーハ表層部の炭素濃度が低い場合にはCドナーは少なくなる。そこで、以上の関係について、ウェーハ表層部炭素濃度とキャリア濃度との相関式または相関を示すグラフを、予備実験結果または公知の理論式に基づき作成しておくことができる。こうして作成された相関式またはグラフを使用して、目標キャリア濃度範囲を実現可能と見積もられるウェーハ表層部炭素濃度範囲(狙いウェーハ表層部炭素濃度範囲)を決定することができる(図2中、S3)。ここでも任意に、実製造工程で生じ得るウェーハ表層部炭素濃度のバラつきの許容範囲を考慮することができる。こうして、目標ウェーハ表層部炭素濃度範囲を決定できる(図2中、S4)。一例として、先に記載したように決定された目標キャリア濃度範囲について、例えば予備実験により求めたグラフから狙いウェーハ表層部炭素濃度範囲を1.0×1016atoms/cmに決定した場合、バラつきの許容範囲を±0.8×1016atoms/cmに設定すると、目標ウェーハ表層部炭素濃度範囲は、2.0×1015~1.8×1016atoms/cmの範囲に決定できる。
【0036】
<ウェーハ載置部材の準備>
(ウェーハ載置部材の母材)
上記熱処理ウェーハの製造方法において、熱処理時にウェーハが載置されるウェーハ載置部材は、母材として、炭素含有表面を有する部材を含む。かかる部材の一形態としては、炭素含有被膜を基材上に有し、この炭素含有被膜表面が上記炭素含有表面である部材を挙げることができる。また、上記部材の他の一形態としては、部材全体が炭素含有材料からなる部材を挙げることもできる。上記いずれの形態の部材においても、炭素含有表面に含まれる炭素の状態は問わない。炭素含有表面に含まれる炭素は、結晶状態の炭素であっても非晶質(アモルファス)の炭素(即ちガラス状炭素)であってもよい。炭素含有表面に、結晶状態の炭素とガラス状炭素とが含まれていてもよい。また、炭素含有表面の炭素含有率は特に限定されるものではない。上記部材の一形態である炭素含有被膜を基材上に有する部材において、炭素含有被膜は、蒸着、熱分解等の公知の成膜方法により基材上に成膜された各種炭素含有被膜であることができる。例えば、炭素含有蒸着膜としては、炭化ケイ素(SiC)蒸着膜が挙げられる。炭化ケイ素蒸着膜は、炭化ケイ素を蒸着源とする蒸着によって母材上に成膜することができる。蒸着法としては、CVD(chemical vapor deposition)法、真空蒸着法等の公知の方法が挙げられる。また、例えば、ガラス状炭素によって基材を被覆して炭素含有被膜(ガラス状炭素被膜)を形成する方法としては、基材に樹脂を含浸させるかまたは基材に樹脂を被覆した後に樹脂を高温で炭化する方法や、蒸着等によって基材上に成膜した炭素含有被膜をレーザー等で改質する方法等が挙げられる。炭素含有被膜の厚さは、例えば1μm~200μm程度であるが、上記範囲に限定されるものではない。上記の炭素含有被膜を有する基材は、炭素含有材料からなるものであっても、炭素を含まない材料からなるものであってもよい。炭素含有材料からなる基材としては、耐熱性、耐久性等の観点から焼結体が好ましい。焼結体とは、粉体を融点より低い温度で加熱して固めた固体材料である。焼結体の一例としては、黒鉛(炭素焼結体)、炭化ケイ素(SiC)焼結体等を挙げることができる。上記部材の他の一形態である部材全体が炭素含有材料からなる部材については、上記の基材に関する記載を参照できる。耐熱性等の観点から、ウェーハ載置部材の母材表面は、炭化ケイ素表面であることが好ましい。
【0037】
(母材表面に形成する酸化物膜の膜厚決定)
先に説明したように、本発明者の鋭意検討の結果、炉内雰囲気がアルゴン含有雰囲気の熱処理炉内で、炭素含有表面を有する母材を含むウェーハ載置部材上にウェーハを載置して熱処理を行う際、母材表面に設ける酸化物膜の膜厚と、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度との間には、相関が見られることが明らかとなった。一例として、図3は、本発明者により行われた実験結果を示すグラフであり、SiC製部材(SiCボート)の表面に酸化物膜(ケイ素酸化物膜)を設けた熱処理ボートを使用し、炉内雰囲気がアルゴン(Ar)100%雰囲気である熱処理炉内でシリコンウェーハ(厚さ775μm)に対して炉内温度1200℃で60分間熱処理を施した後、熱処理後のウェーハの表層部炭素濃度をSIMS法により測定した結果を示している。ここで表層部は、シリコンウェーハ表面から厚さ1μmまでの領域とする。尚、公知の通り、図3中、指数表示1.0E+15について、1.0E+15=1.0×1015である。その他の指数表示の数値についても同様である。図3に示されたグラフから、ウェーハ載置部材(熱処理ボート)の母材であるSiC製部材の表面に設けられた酸化物膜(ケイ素酸化物膜)の膜厚が厚くなるほど、このウェーハ載置部材上に載置されて熱処理されたウェーハの表層部炭素濃度が低くなる傾向があることが確認できる。例えば、図3に示されたグラフのように実験的に求められたグラフから、公知のフィッティング処理により近似直線または近似曲線を作成し、この直線もしくは曲線を用いて、またはこの曲線もしくは曲線を示す式を用いて、目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる酸化物膜の膜厚範囲(狙い膜厚範囲)を決定することができる(図2中、S5)。また、ここでも任意に、実際の酸化物膜形成時に生じ得る膜厚のバラつきの許容範囲を考慮することができる。こうして、目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる範囲の膜厚(目標膜厚)の範囲を決定できる(図2中、S6)。例えば、先に例示した目標ウェーハ表層部炭素濃度範囲2.0×1015~1.8×1016atoms/cmについては、図3に示したグラフから公知のフィッティング法により得た近似直線から、酸化物膜の狙い膜厚範囲を270nm以下と決定することができる。バラつきの許容範囲を±50nmと設定すると、酸化物膜の目標膜厚範囲は、例えば220~320nmの範囲に決定できる。熱処理対象の半導体ウェーハを載置するウェーハ載置部材としては、既に母材上に酸化物膜が形成されたウェーハ載置部材の中から、上記の目標膜厚範囲の膜厚の酸化物膜を備えたウェーハ載置部材を選択してもよく、以下に記載するように、目標膜厚範囲の膜厚の酸化物膜を形成するための酸化物膜形成工程を実施して、ウェーハ載置部材を準備してもよい(図2中、S7)。母材上に設けられる酸化物膜は、母材の炭素含有表面が炭化ケイ素表面の場合には、ケイ素酸化物膜(例えばSiO膜)であることができる。
【0038】
(母材表面への酸化物膜の形成)
母材表面への酸化物膜の形成は、乾式処理によって行ってもよく、湿式処理によって行ってもよい。均一性および緻密性に優れる酸化物膜の形成容易性の観点からは、酸化物膜は乾式処理により形成することが好ましく、熱酸化処理によって形成することがより好ましい。熱酸化処理は、酸化物膜を形成すべき対象物を酸化性雰囲気中で加熱する処理である。熱酸化処理によって形成される酸化物膜の膜厚は、熱酸化処理が行われる酸化性雰囲気の酸素含有率、加熱温度および処理時間によって制御できる。上記のように決定された目標膜厚範囲の膜厚の酸化物膜の形成が可能な範囲に、これらの熱酸化処理条件を設定すればよい。酸化性雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、雰囲気中の酸素含有率は、例えば80体積%~100体積%とすることができる。酸化性雰囲気に酸素以外のガスが含まれる場合、かかるガスとしては、例えば大気ガスまたは各種不活性ガスを挙げることができる。また、熱酸化処理における加熱温度は、酸化性雰囲気の雰囲気温度として、例えば1000℃以上(一例として1000~1300℃)とすることができる。加熱時間は、例えば30分間~180分間の範囲とすることができる。但し、熱酸化処理条件は、目標膜厚範囲の膜厚の酸化物膜の形成が可能な範囲に設定すればよく、上記で例示した範囲に限定されるものではない。一形態では、予備実験を行い、熱酸化条件と形成される酸化物膜の膜厚との対応関係を示すデータベースを作成し、このデータベースから、目的範囲の酸化物膜を形成可能な熱酸化条件を選択することができる。
【0039】
一形態では、ウェーハ載置部材の母材の熱酸化処理を、半導体ウェーハの熱処理が行われる熱処理炉内で行うことができる。好ましくは、酸化物膜形成後のウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置して熱処理が行われる熱処理炉と同一熱処理炉内で、母材の熱酸化処理を行うことができる。これにより、母材の熱酸化処理(酸化物膜の形成)に引き続き、同一熱処理炉内で半導体ウェーハの熱処理を行うことができる。熱処理炉内で母材に熱酸化処理を施す場合、その上に酸化物膜を形成すべき母材表面上には、半導体ウェーハ等の載置物は載置しないことが好ましい。これにより、母材表面に膜質および膜厚の均一性に優れる酸化物膜を形成することができる。
【0040】
ウェーハ載置部材の母材表面に形成された酸化物膜の膜厚に関して、アルゴン含有雰囲気の熱処理炉内で行われる半導体ウェーハの熱処理において、ウェーハ載置部材の酸化物膜は、通常、還元されることによって膜厚が減少する。この点について、図4は、炉内雰囲気がアルゴン(Ar)100%雰囲気である熱処理炉内でシリコンウェーハに対して炉内温度1200℃で60分間熱処理を施す熱処理を、同一ウェーハ載置部材を使用して繰り返す実験を行った際、ウェーハ載置部材の繰り返し使用回数に対して、各回の熱処理後のウェーハ載置部材の酸化物膜の膜厚をプロットしたグラフである。酸化物膜の膜厚は、公知の膜厚測定法によって求めた。図4に示されているように、繰り返し使用するほど、ウェーハ載置部材の酸化物膜の膜厚は減少する傾向が見られた。例えば、図4に示されたグラフのように実験的に求められたグラフから、公知のフィッティング処理により近似直線または近似曲線を作成し、この直線もしくは曲線を用いて、またはこの曲線もしくは曲線を示す式を用いて、先に記載のように決定された目標範囲の酸化物膜の膜厚が維持される繰り返し使用回数の許容範囲を決定し、この許容範囲内で、同一ウェーハ載置部材を繰り返し使用する回数を決定することができる(図2中、S8)。
【0041】
以上の工程によって、目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる範囲の膜厚の酸化物膜を母材表面(炭素含有表面)上に有するウェーハ載置部材を準備することができる。また、一形態では、上記のように、ウェーハ載置部材の繰り返し使用回数を決定することができる。
【0042】
<半導体ウェーハの熱処理>
上記熱処理ウェーハの製造方法において、半導体ウェーハの熱処理は、上記のウェーハ載置部材上に熱処理対象の半導体ウェーハを載置して行われる(図2中、S9)。詳しくは、半導体ウェーハの熱処理は、目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる範囲の膜厚の酸化物膜上に熱処理対象の半導体ウェーハを載置して行われる。これにより、表層部炭素濃度が目標範囲内の熱処理ウェーハを得ることができる。好ましくは、こうして得られた半導体ウェーハを基板として半導体デバイスを作製することができる。これにより、目標ゲート閾値電圧VThを示す半導体デバイスを容易に作製可能となる。
【0043】
上記熱処理ウェーハの製造方法において、半導体ウェーハの熱処理は、上記のウェーハ載置部材の酸化物膜上に熱処理対象の半導体ウェーハを載置して行われる点以外、アルゴン含有雰囲気での半導体ウェーハの熱処理に関する公知の方法によって行うことができる。アルゴン含有雰囲気での熱処理は、通常、アニール処理と呼ばれる熱処理であることができる。かかる熱処理によって、半導体ウェーハの表層部を改質すること(換言すると、改質層を形成すること)ができる。アルゴン含有雰囲気のアルゴン含有率は、例えば80体積%~100体積%であり、アルゴン以外のガスとしては、例えば各種不活性ガスが含まれ得る。熱処理温度は、熱処理炉内の雰囲気温度として、例えば1000℃以上(一例として1000~1200℃)であるが、熱処理により達成すべき改質の程度に応じて決定すればよく、上記範囲に限定されるものではない。熱処理時間も、熱処理により達成すべき改質の程度に応じて決定すればよい。熱処理は、市販の熱処理炉内または公知の構成の熱処理炉内で行うことができる。熱処理炉は、例えば、ガス制御部(例えばマスフローコントローラー等)、および温度制御部(例えばヒーター、温度計等)を含むことができ、ガス制御部によってガス種およびガス流量を制御することができ、温度制御部によって炉内雰囲気温度を制御することができる。同一熱処理炉内でウェーハ載置部材の熱酸化処理を行う場合には、半導体ウェーハの熱処理の前および/または後に、炉内雰囲気を酸化性雰囲気に置換する雰囲気ガス置換を行えばよい。
【0044】
熱処理後のウェーハは、洗浄、出荷前検査、梱包等の後工程の1種以上に任意に付された後、製品ウェーハとして出荷されることができる。
【0045】
[熱処理装置]
本発明の一態様は、熱処理炉と、熱処理炉制御部と、解析部と、を含む熱処理装置に関する。かかる熱処理装置は、上記熱処理ウェーハの製造方法において好適に使用することができる。
以下に、上記熱処理装置について、更に詳細に説明する。
【0046】
<解析部>
上記熱処理装置に含まれる解析部は、
(1)熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲の決定;
(2)上記目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる酸化物膜の膜厚の範囲の決定;
(3)上記決定された膜厚の範囲を含む熱処理情報の作成;
(4)上記作成された熱処理情報を上記熱処理炉制御部に送信;
の処理を実行する。処理(1)および処理(2)の詳細は、先に記載した通りである。処理(1)において、好ましくは、解析部は、先に記載したように、ゲート閾値電圧VThの目標値に基づき、熱処理後の半導体ウェーハの表層部炭素濃度の目標範囲を決定することができる。解析部は、1つまたは2つ以上のコンピュータにより構成することができ、コンピュータに搭載させた公知の計算ソフトによって、処理(1)の目標範囲の決定のための計算や処理(2)の膜厚範囲の決定のための計算を行うことができる。
【0047】
処理(3)は、処理(2)で決定された膜厚の範囲(即ち、目標範囲の濃度の炭素が表層部に導入された熱処理ウェーハが得られることが見積もられる酸化物膜の膜厚の範囲)を含む熱処理情報を作成する。かかる熱処理情報には、処理(2)で決定された膜厚の範囲の情報に加えて、熱処理時の熱処理炉におけるガス制御部により制御されるガス種およびガス流量の制御条件、温度制御部により制御される炉内雰囲気温度制御条件、炉内構造物の選択(例えば配管の種類の選択等)等の半導体ウェーハの熱処理条件に関する各種情報を含むことができる。これら熱処理情報は、処理(4)において、解析部から熱処理炉制御部に送信される。解析部と熱処理炉制御部との間の各種情報の送受信、および熱処理炉制御部と熱処理炉との間の各種情報の送受信は、有線通信または無線通信によって実行することができる。
【0048】
また、処理(3)において、解析部は、先に記載したようにウェーハ載置部材の繰り返し使用回数の許容範囲を決定することもできる。この場合、熱処理情報には、決定された許容範囲の繰り返し使用回数が含まれ得る。この繰り返し使用回数が、解析部から熱処理炉制御部に送信され、更に熱処理炉制御部から熱処理炉に送信される。
【0049】
一形態では、解析部は、
(5)半導体ウェーハの熱処理前に、熱処理炉において炭素含有表面を有する母材を熱酸化処理して上記炭素含有表面上に上記範囲の膜厚の酸化物膜を形成する熱酸化処理情報を、熱処理炉制御部に送信;
の処理を行うことができる。かかる処理(5)と上記の処理(1)~(4)の実行順序は特に限定されるものではなく、処理(5)は任意の順序で実行することができる。かかる熱酸化処理の詳細については、先の記載を参照できる。例えば、処理(5)では、先に記載したデータベースからの熱酸化処理条件の選択が行われ得る。処理(5)が実施される場合、熱処理炉制御部では、後述の処理(C)および(D)が行われ得る。
【0050】
<熱処理炉制御部>
上記熱処理装置に含まれる熱処理炉制御部は、
(A)解析部からの上記熱処理情報の受信;
(B)受信した熱処理情報にしたがい熱処理炉に熱処理を実行させる熱処理実行信号を熱処理炉へ送信;
の処理を実行する。熱処理炉制御部は、1つまたは2つ以上のコンピュータにより構成することができ、コンピュータに搭載させた公知の通信手段によって、処理(A)の受信および処理(B)の送信を行うことができる。この点は、下記の処理(C)の受信および処理(D)の送信についても同様である。
【0051】
解析部において先に記載した処理(5)が実施される場合、熱処理炉制御部では、
(C)解析部からの熱酸化処理情報の受信;
(D)受信した熱酸化処理情報にしたがい熱処理炉に熱酸化処理を実行させる熱酸化処理実行信号を送信;
を実行することができる。かかる処理(C)および処理(D)と上記の処理(A)および処理(B)との実行順序は特に限定されるものではなく、処理(C)および処理(D)は任意の順序で実行することができる。
【0052】
<熱処理炉>
上記熱処理装置に含まれる熱処理炉は、炉内雰囲気をアルゴン含有雰囲気として、酸化物膜を母材表面上に有するウェーハ載置部材上に半導体ウェーハを載置して半導体ウェーハの熱処理を行う熱処理炉である。ここでウェーハ載置部材の母材表面は、炭素含有表面である。かかる熱処理炉およびウェーハ載置部材については、先の記載を参照できる。
【0053】
熱処理炉は、熱処理炉制御部から熱処理実行信号を受信し、受信した熱処理実行信号にしたがい半導体ウェーハの熱処理を行う。
【0054】
また、解析部において処理(5)が実施され、熱処理炉制御部において処理(C)および処理(D)が実施される場合、熱処理炉は、熱処理炉制御部から熱酸化処理実行信号を受信し、受信した熱酸化処理実行信号にしたがい熱処理炉において炭素含有表面を有する母材を熱酸化処理して炭素含有表面上に上記範囲の膜厚の酸化物膜を形成する熱酸化処理を行うことができる。かかる熱酸化処理は、一形態では、先に記載したように、ウェーハ載置部材の母材表面(炭素含有表面)に半導体ウェーハ等の載置物を載置せずに行うことができる。
【0055】
図5は、上記熱処理装置の一例の構成を示す概略図である。図5中、熱処理装置1は、解析部10、熱処理炉制御部11および熱処理炉12を含む。
【0056】
解析部10は、プロセス条件入力部100、変化量入力部101および決定部102を有する。プロセス条件入力部100には、例えば、目標ゲート閾値電圧VThおよびそのバラつき許容範囲が入力される。変化量入力部101には、例えば、ウェーハ載置部材の母材表面(炭素含有表面)に設けられる酸化物膜の膜厚と熱処理後のウェーハ表層部の炭素濃度との相関に関する情報、ウェーハ載置部材の繰り返し使用回数と使用後のウェーハ載置部材の酸化物膜の膜厚との相関に関する情報等が入力される。これら情報の詳細については、先の記載を参照できる。計算部102は、プロセス条件入力部100および変化量入力部101から、各種情報を受信し、または取り出し、半導体ウェーハの熱処理条件やウェーハ載置部材の熱酸化条件を、公知の計算ソフトによる計算等によって決定することができる。
【0057】
決定部102から送信され、熱処理炉制御部11に受信され、更に熱処理炉12に受信される各種情報については、先に記載した通りである。熱処理炉12は、こうして受信された各種情報にしたがい、ガス制御部120によりガス種およびガス流量の制御を行い、温度制御部121により炉内雰囲気温度の温度制御を行い、また、炉内構造物122を選択することができる。
【0058】
図5には、1つの解析部に対して、熱処理炉制御部および熱処理炉がそれぞれ1つ含まれる例を示した。但し、上記熱処理装置は、かかる例に限定されるものではない。例えば、解析部は、半導体ウェーハの熱処理情報(更には任意にウェーハ載置部材の熱酸化処理情報)を2つ以上の複数の熱処理炉制御部に送信することもできる、また、例えば、1つの熱処理炉制御部から、2つ以上の複数の熱処理炉に各種情報が送信されてもよい。
【0059】
以上説明した熱処理装置については、熱処理ウェーハの製造方法に関する先の記載も参照できる。
【0060】
[半導体ウェーハの製造装置]
本発明の一態様は、上記熱処理装置を含む、熱処理ウェーハの製造装置に関する。
【0061】
上記製造装置は、少なくとも上記熱処理装置を含み、半導体ウェーハに各種処理を施すための1つ以上の装置を任意に含むことができる。かかる装置の一例としては、半導体材料のインゴットから切り出したウェーハ(例えば、シリコン単結晶インゴットから切り出したシリコン単結晶ウェーハ)の平坦化のための処理装置、鏡面研磨等の研磨加工を行うための研磨装置、面取り加工するための面取り加工装置、洗浄装置等を挙げることができる。
【0062】
以上説明した本発明の各種態様によれば、熱処理を経て、半導体デバイスの基板として望まれる性能を有する半導体ウェーハを製造することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の一態様は、半導体ウェーハの技術分野をはじめとする各種熱処理が行われる技術分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5