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特許7287488耐アルカリ性撥水部材及び該撥水部材の製造方法並びに撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性の向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】耐アルカリ性撥水部材及び該撥水部材の製造方法並びに撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性の向上方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20230530BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230530BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230530BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230530BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230530BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20230530BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/30 D
B32B27/00 101
B32B27/20 Z
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303B
B05D7/24 302L
B05D1/36 Z
B05D5/00 K
B05D5/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021554335
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038844
(87)【国際公開番号】W WO2021085149
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019198889
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 竜人
(72)【発明者】
【氏名】山根 祐治
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/035271(WO,A1)
【文献】特表2009-519149(JP,A)
【文献】特表2014-503380(JP,A)
【文献】特開2013-189007(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069642(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/016359(WO,A1)
【文献】特開2018-132751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
B32B 27/30
B32B 27/00
B32B 27/20
B05D 7/24
B05D 1/36
B05D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ質量平均分子量が5,000~100,000であり、かつ分子中のシラノール基量が0.001~0.05mol/gである、テトラアルコキシシランの加水分解・部分縮合物である分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有する膜厚1nm~5μmのシリカ層を有し、該シリカ層の外表面上に、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5~30nmの撥水撥油層を有する耐アルカリ性撥水部材。
【請求項2】
シリカナノ粒子の平均粒子径が30nm以下である請求項1に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【請求項3】
シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有するシリカ層が、さらに、平均粒子径が30nm以下の酸化チタンナノ粒子、白金ナノ粒子及び酸化スズナノ粒子から選ばれる1種又は2種以上のナノ粒子を0.1~49質量%含むものである請求項1又は2に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【請求項4】
加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物が、分子中に加水分解性基を少なくとも1個有するパーフルオロポリエーテル基含有有機ケイ素化合物である請求項1~のいずれか1項に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【請求項5】
加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物が、下記一般式(1)~(5)で表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1~のいずれか1項に記載の耐アルカリ性撥水部材。
(A-Rf)α-ZWβ (1)
Rf-(ZWβ2 (2)
Z’-(Rf-ZWβγ (3)
〔式中、Rfは独立に-(CF2d-O-(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t-(CF2d-で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、dは独立に0~8の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3~500の整数である。また、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。Aは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2~8価の有機基であり、Wは独立に末端に加水分解性シリル基を有する1価の有機基である。α、βはそれぞれ独立に1~7の整数であり、かつ、α+β=2~8の整数である。γは2~8の整数である。〕
A-Rf-Q-(Y)δ-B (4)
Rf-(Q-(Y)δ-B)2 (5)
(式中、Rf、Aは前記と同じであり、Qは独立に単結合又は2価の有機基であり、δは独立に1~10の整数であり、Yは独立に加水分解性シリル基を有する2価の有機基であり、Bは独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン原子である。)
【請求項6】
上記式(1)~(5)のいずれかで表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物が、下記に示すものから選ばれる1種又は2種以上である請求項に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
(式中、Meはメチル基であり、p1、q1、r1、s1、t1はそれぞれ独立に1~200の整数であり、かつ、p1、q1、r1、s1、t1の合計は3~500であり、p1、q1、r1、s1、t1が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【請求項7】
基材が、金属酸化物、金属、樹脂、セラミック、石英、ガラス、サファイヤ又はダイヤモンドである請求項1~のいずれか1項に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【請求項8】
シリカ層におけるシリカナノ粒子の含有量が60~99質量%である請求項1~のいずれか1項に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【請求項9】
基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物及び溶剤を含む分散液を湿式塗布する工程と、該分散液から該溶剤を乾燥除去させてシリカ層を形成する工程と、該シリカ層の外表面上に、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布する工程と、該溶液から該溶剤を乾燥除去させて加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を硬化させる工程とを含む請求項1~のいずれか1項に記載の耐アルカリ性撥水部材の製造方法。
【請求項10】
基材と加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5~30nmの撥水撥油層との間に、シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有する膜厚1nm~5μmのシリカ層を設けることを特徴とする撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性を向上させる方法。
【請求項11】
シリカ層におけるシリカナノ粒子の含有量が60~99質量%である請求項10に記載の撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性と耐摩耗性を有する撥水部材及び撥水部材の製造方法に関し、詳細には、基材と撥水撥油層との間に、シリカナノ粒子を主成分とするとともに分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を含むシリカ層を設けた耐アルカリ性撥水部材及び該撥水部材の製造方法並びに撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外観や視認性を良くするために、汚れを付き難くする技術や、汚れを落としやすくする技術の要求が年々高まってきており、特に眼鏡レンズ、スマートフォン、ウェアラブル端末、カーナビ、電子機器の筐体、キッチン台や水洗金具、輸送機器のボディーの表面は、皮脂や油汚れが付着しやすいため、撥水撥油層を設けることが望まれている。しかし、撥水撥油剤として用いられているフッ素基を有する化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さく、各種基材に対する非粘着性、非密着性を有するため、撥水撥油剤を基材に直接密着させることは難しい。このことは、濡れたスポンジや布、指等でこする動作によって撥水撥油層が剥がれやすい(耐摩耗性が低い)ことに繋がる。さらに、最近ではキッチンや水洗金具などの住設環境用途において、アルカリ性洗剤及びアルカリ性洗剤が溶けた水溶液が基材表面に付着することが想定される。そのため、アルカリ性条件下で撥水撥油層が劣化しないこと(耐アルカリ性)が求められることが多くなってきている。撥水撥油剤が基材に密着しにくいことは、耐アルカリ性が低くなることにも繋がる。以上のことから、撥水撥油剤を基材に密着させる技術は、幅広い用途展開を考える上で必要不可欠である。
【0003】
このような問題を解決するために、ガラス等の基材表面を撥水撥油処理できる処理剤として、例えば、特開2011-116947号公報(特許文献1)では、下記平均組成式で示されるフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物が開示されている。
【化1】
(式中Rf1は-Cd2dO-(dは1~6の整数であり、繰り返し単位ごとに異なっていてよい)の繰り返し単位5~100個を含む2価の直鎖型フルオロオキシアルキレン基、A及びBは、互いに独立に、Rf2基又は下記式
【化2】
で示される基から選ばれる基であり、Rf2はF、H、末端が-CF3基又は-CF2H基である1価のフッ素含有基であり、Qは2価の有機基であり、Zはシロキサン結合を有する2~7価のオルガノポリシロキサン残基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは加水分解性基であり、aは2又は3、bは1~6、cは1~5の整数であり、βは0又は1の整数)
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案されている処理剤は、ガラス等に代表されるシラノール基が多く存在する基板上では、比較的優れた耐久性を示すが、金属、金属酸化物や樹脂等に対しては、優れた密着性を得ることは難しい。
【0005】
密着性を向上する方法として、乾式法(蒸着法やスパッタ法)でSiO2層をプライマー層として設ける方法が開示されている(国際公開第2014/097388号:特許文献2)。この方法を用いると、耐摩耗性に優れた撥水撥油層を形成できることが示されているが、真空中で処理を行う必要があること、大型基板を塗工するには、大掛かりな装置が必要であることから、生産性、生産コストの点で応用範囲が限られている。
【0006】
一方、湿式法でプライマー層を設けることができるポリシラザン溶液が開示されている(国際公開第2010/038648号:特許文献3)。ポリシラザン溶液を塗布後、水分と反応してシリカガラスに転化することを利用している。この方法は、真空プロセスを用いないという点で乾式法より優れているが、撥水撥油層の密着性を安定させるには、長時間の高温加熱や加湿が必要であるため、生産性、コストの面で問題があり、応用できる基材が限られるという問題点がある。
なお、本発明に関連する従来技術として、上述した文献と共に下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-116947号公報
【文献】国際公開第2014/097388号
【文献】国際公開第2010/038648号
【文献】特開2007-197425号公報
【文献】特開2007-297589号公報
【文献】特開2007-297543号公報
【文献】特開2008-088412号公報
【文献】特開2008-144144号公報
【文献】特開2010-031184号公報
【文献】特開2010-047516号公報
【文献】特開2011-178835号公報
【文献】特開2014-084405号公報
【文献】特開2014-105235号公報
【文献】特開2013-253228号公報
【文献】特開2014-218639号公報
【文献】国際公開第2013/121984号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐アルカリ性と耐摩耗性に優れた撥水部材、及び各種基材に耐アルカリ性と耐摩耗性の優れた撥水撥油層を湿式法で形成する撥水部材の製造方法、並びに撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性を向上させる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物及び溶剤を含む分散液を湿式塗布する工程と、該分散液から該溶剤を乾燥除去させてシリカ層を形成する工程と、該シリカ層の外表面上に、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布する工程と、該溶液から該溶剤を乾燥除去させて加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を硬化させる工程とを含む製造方法などにより得られる、各種基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子を主成分とするとともに分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を含有する特定厚さのシリカ層と、該シリカ層の外表面上に、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の硬化物を主成分とする特定厚さの撥水撥油層とを設けた撥水部材は、耐アルカリ性、耐湿式摩耗性に優れた撥水撥油被膜を、安定して、簡便に各種基材に付与できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の耐アルカリ性撥水部材及び該撥水部材の製造方法並びに撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性の向上方法を提供する。
〔1〕
基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ質量平均分子量が5,000~100,000であり、かつ分子中のシラノール基量が0.001~0.05mol/gである、テトラアルコキシシランの加水分解・部分縮合物である分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有する膜厚1nm~5μmのシリカ層を有し、該シリカ層の外表面上に、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5~30nmの撥水撥油層を有する耐アルカリ性撥水部材。
〔2〕
シリカナノ粒子の平均粒子径が30nm以下である〔1〕に記載の耐アルカリ性撥水部材。

シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有するシリカ層が、さらに、平均粒子径が30nm以下の酸化チタンナノ粒子、白金ナノ粒子及び酸化スズナノ粒子から選ばれる1種又は2種以上のナノ粒子を0.1~49質量%含むものである〔1〕又は〔2〕に記載の耐アルカリ性撥水部材。

加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物が、分子中に加水分解性基を少なくとも1個有するパーフルオロポリエーテル基含有有機ケイ素化合物である〔1〕~〔〕のいずれかに記載の耐アルカリ性撥水部材。

加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物が、下記一般式(1)~(5)で表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種である〔1〕~〔〕のいずれかに記載の耐アルカリ性撥水部材。
(A-Rf)α-ZWβ (1)
Rf-(ZWβ2 (2)
Z’-(Rf-ZWβγ (3)
〔式中、Rfは独立に-(CF2d-O-(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t-(CF2d-で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、dは独立に0~8の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3~500の整数である。また、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。Aは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2~8価の有機基であり、Wは独立に末端に加水分解性シリル基を有する1価の有機基である。α、βはそれぞれ独立に1~7の整数であり、かつ、α+β=2~8の整数である。γは2~8の整数である。〕
A-Rf-Q-(Y)δ-B (4)
Rf-(Q-(Y)δ-B)2 (5)
(式中、Rf、Aは前記と同じであり、Qは独立に単結合又は2価の有機基であり、δは独立に1~10の整数であり、Yは独立に加水分解性シリル基を有する2価の有機基であり、Bは独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン原子である。)

上記式(1)~(5)のいずれかで表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物が、下記に示すものから選ばれる1種又は2種以上である〔〕に記載の耐アルカリ性撥水部材。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
(式中、Meはメチル基であり、p1、q1、r1、s1、t1はそれぞれ独立に1~200の整数であり、かつ、p1、q1、r1、s1、t1の合計は3~500であり、p1、q1、r1、s1、t1が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)

基材が、金属酸化物、金属、樹脂、セラミック、石英、ガラス、サファイヤ又はダイヤモンドである〔1〕~〔〕のいずれかに記載の耐アルカリ性撥水部材。

シリカ層におけるシリカナノ粒子の含有量が60~99質量%である〔1〕~〔〕のいずれかに記載の耐アルカリ性撥水部材。

基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物及び溶剤を含む分散液を湿式塗布する工程と、該分散液から該溶剤を乾燥除去させてシリカ層を形成する工程と、該シリカ層の外表面上に、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液を湿式塗布する工程と、該溶液から該溶剤を乾燥除去させて加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を硬化させる工程とを含む〔1〕~〔〕のいずれかに記載の耐アルカリ性撥水部材の製造方法。
10
基材と加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5~30nmの撥水撥油層との間に、シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有する膜厚1nm~5μmのシリカ層を設けることを特徴とする撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性を向上させる方法。
11
シリカ層におけるシリカナノ粒子の含有量が60~99質量%である〔10〕に記載の撥水部材の耐アルカリ性と耐摩耗性を向上させる方法。
【0011】
なお、本発明において、「直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基」とは、主鎖のパーフルオロオキシアルキレン構造を構成する2価のフルオロオキシアルキレン繰り返し単位同士が直鎖状に連結していることを意味するものであって、個々の2価フルオロオキシアルキレン単位それ自体は、例えば、-[CF(CF3)CF2O]-などの分岐構造を有するフルオロオキシアルキレン単位であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撥水撥油性に優れた防汚層表面が強固に密着した耐アルカリ性に優れた撥水部材(撥水撥油部材)を形成することができる。該撥水部材の製造方法は、真空プロセスや高温の加熱プロセスを必須とすることなく、湿式(刷毛塗り、スプレー、ディッピング、スピン、インクジェット)プロセスで形成することができ、様々な用途に適用することができる。例えば、表面に防汚性を有する物品、特には、電子機器の筐体、ウェアラブル端末、浴槽、水洗金具、キッチン用品及びサニタリー用品、輸送用機器のボディー等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明は、各種基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物及び溶剤を含む分散液(ナノシリカ分散剤)を湿式塗布した後、該分散液から該溶剤を乾燥除去させてシリカ層を形成し、該シリカ層の外表面上に、さらに加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物と溶剤を含む溶液(防汚コーティング剤)を湿式塗布した後に、該溶液から該溶剤を乾燥除去させると共に加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を硬化させて撥水撥油層を形成する工程を含む製造方法などによって製造される、各種基材の少なくとも片方の表面上に、シリカナノ粒子を50質量%以上含有し、かつ分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有する膜厚1nm~5μmのシリカ層を有し、さらにその外表面上に加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の硬化物を主成分とする膜厚0.5~30nmの撥水撥油層を有する耐アルカリ性撥水部材を提供するものである。
【0014】
本発明で適用される基材としては特に制限されないが、金属酸化物、金属、樹脂、セラミック、石英、ガラス、サファイヤ、ダイヤモンドが特に好適である。
【0015】
ここで、金属酸化物としては、SiO、SiO2、Al23、ITO、In23、SnO2、ZrO2、TiO2、Ti23、Ti47、Ti35、Nb25、Ta25、Y23、WO3、HfO2、La2Ti27等が挙げられる。
また、金属としては、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、クロム、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タングステン、白金、金、ステンレススチール、アルミニウム、アルミニウム合金、ジュラルミン、ハステロイ等が挙げられる。
【0016】
さらに、樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられ、具体的には次のものがよい。セルロイド、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、6-ナイロン、6,6-ナイロン、12-ナイロンなどの脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン(低密度又は高密度)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの飽和ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリメチルペンテン、アイオノマー、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、(変性)ポリフェニレンオキサイド、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、熱硬化性ポリウレタン、ポリイミド、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート(通称CR-39)の重合物、(ハロゲン化)ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレートの(共)重合物、(ハロゲン化)ビスフェノールAのウレタン変性ジ(メタ)アクリレートの(共)重合物、ジアクリレート化合物やビニルベンジルアルコールと不飽和チオール化合物等との共重合物などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0017】
セラミックとしては、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、フォルステライト、ステアタイト、コーディエライト、サイアロン、マシナブルセラミックス、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライト、ジルコン等が挙げられ、ガラスとしては、ソーダガラス、クラウンガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、結晶化ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、テンパックス、パイレックス、ネオセラム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、ガラスは、化学強化処理や物理強化処理されたものであってもよい。
【0018】
上記基材の少なくとも片方の表面上に形成するシリカ層は、シリカナノ粒子を50質量%以上含有するとともに、分子中にシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)を複数個有する有機ケイ素化合物を1質量%以上含有する膜厚1nm~5μmのものである。該シリカ層は、各種基材の表面に、シリカナノ粒子と分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤を含む分散液(ナノシリカ分散剤)を湿式塗布した後、該分散液から該溶剤を乾燥除去することにより形成できる。塗工される基材の表面の形状は平面だけでなく、3次元形状の基材でもよく、表面に凹凸があってもよい。
【0019】
シリカナノ粒子としては、平均粒子径(直径)が好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下である。シリカナノ粒子の平均粒子径が大きすぎると、基材表面とシリカナノ粒子との接触点が少なくなり、基材との密着性が悪くなる場合がある。平均粒子径の下限は、通常、0.1nm以上、好ましくは0.5nm以上程度であればよい。なお、本発明において平均粒子径は、例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積体積平均径D50(又はメジアン径)等として求めることができる(以下、同じ)。
【0020】
シリカナノ粒子は、基材と含フッ素層(撥水撥油層)の間のシリカ層において、含有量が50~99質量%、好ましくは60~99質量%である。含有量が50質量%より少ないと、シリカナノ粒子同士の接触が減るため、耐久性が悪くなる。
【0021】
分子中にシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)を複数個有する有機ケイ素化合物は、1分子中にシラノール基を好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは4個以上有するものである。分子中のシラノール基量が少なすぎると、被膜自体が弱くなる場合がある。なお、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物中のシラノール基量は0.0001~0.05mol/g、特に0.001~0.04mol/g、とりわけ0.005~0.03mol/gであることが好ましい。
【0022】
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物は、例えば、分子中にアルコキシ基等の加水分解性基を複数個有する(オルガノ)シラン化合物等の有機ケイ素化合物を加水分解・部分縮合することにより得ることができる。
【0023】
ここで、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物の前駆体である、加水分解・部分縮合する前の分子中に加水分解性基を複数個有する(オルガノ)シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の、分子中にアルコキシ基を2~4個、好ましくは3個又は4個有する(オルガノ)アルコキシシラン化合物や、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリクロロシラン、ジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のクロロシラン化合物などが挙げられ、これらを混合して用いてもよい。これらのうちで、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0024】
なお、本発明においては、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物として、上述した分子中に加水分解性基を複数個有する有機ケイ素化合物を加水分解した後に、部分的に(即ち、加水分解の結果生成したシラノール基の一部を)脱水縮合させて高分子量化させたものを用いることが好ましい。
【0025】
上記加水分解・部分縮合物は、質量平均分子量が、300~100,000であることが好ましく、5,000~50,000であることがさらに好ましい。質量平均分子量が小さすぎるとシリカ層の上に形成された撥水撥油層(含フッ素層)が優れた摩耗耐久性を発現できない場合があり、大きすぎると基材や撥水撥油層(含フッ素層)とシリカ層との密着が悪くなるため、結果的に撥水部材として耐摩耗性や耐アルカリ性などの性能が発現できない場合がある。なお、本発明において、質量平均分子量は、例えば、トルエンを展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算値として求めることができる(以下、同じ)。
【0026】
本発明に用いる分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物としては、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン化合物の加水分解・部分縮合物が特に好ましい。
【0027】
分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物は、基材と含フッ素層(撥水撥油層)の間のシリカ層において、含有量が1~50質量%、好ましくは1~40質量%である。含有量が1質量%より少ないと基材との優れた密着が得られず、シリカ層の上に形成された撥水撥油層(含フッ素層)の摩耗耐久性や耐アルカリ性をはじめとする性能が不十分となる。
【0028】
なお、シリカ層中のシリカナノ粒子の含有量が100質量%に近づくと、シリカ層中に空隙ができやすくなるため、他のナノ粒子をさらに添加混合することによって、シリカ層の密度を高めてもよい。
ここで、シリカナノ粒子及び分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物の混合物に任意成分としてさらに添加混合する粒子としては、平均粒子径が好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは1~10nmの、酸化チタン、酸化スズ、銀、白金、銅、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム等のナノ粒子や多成分酸化物のナノ粒子等が挙げられる。これらの中でも酸化チタンナノ粒子、白金ナノ粒子、酸化スズナノ粒子が好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。これらの粒子を用いる場合、シリカ層を構成する粒子(シリカナノ粒子及びその他のナノ粒子の合計)中、0.1~49質量%、特には1~25質量%含むことが好ましい。
【0029】
また、ナノシリカ分散剤には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、顔料、染料、分散剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤類を用いてもよい。
【0030】
シリカナノ粒子及び分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物の混合物を分散させる溶剤は、純水やメタノール、エタノール等のアルコール類が好ましいが、特に限定されるものではなく、基材との濡れ性や沸点から適宜選択すればよい。シリカナノ粒子と分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物と溶剤(及び場合によりその他のナノ粒子)を含む分散液中におけるシリカナノ粒子の濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.1~1質量%がさらに好ましい。濃度が低すぎると、未塗工部分が増えてしまい、濃度が高すぎると、シリカナノ粒子の2次凝集が起こる可能性がある。また、同様の分散液中における分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物の濃度は、0.001~1質量%が好ましく、0.01~0.1質量%がさらに好ましい。濃度が低すぎると、基材との密着が悪くなり摩耗耐久性が不十分となり、濃度が高すぎると、耐アルカリ性が不十分となる可能性がある。
【0031】
上記シリカナノ粒子、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物及び溶剤を含む分散液(ナノシリカ分散剤)は、湿式塗布、特には浸漬法、刷毛塗り、スピンコート法、スプレー塗装、流し塗りなどの方法で基材表面に塗布し、溶剤を乾燥除去させることでシリカ層を形成できる。シリカ層の密度を上昇させたい場合には、基材に影響を与えない温度範囲で、50~500℃で10分~24時間加熱するとよい。
【0032】
基材表面に形成されるシリカ層の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常1nm~5μmであり、好ましくは2nm~0.5μm、特に2nm~30nmである。なお、本発明において、膜厚はX線反射率法により測定できる(以下、同じ)。
【0033】
次に、形成したシリカ層表面に防汚コーティング剤を塗布して硬化し、撥水撥油層(防汚表面層)を形成する。防汚コーティング剤としては、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を主成分とするものである。該加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物としては、特開2007-197425号公報、特開2007-297589号公報、特開2007-297543号公報、特開2008-088412号公報、特開2008-144144号公報、特開2010-031184号公報、特開2010-047516号公報、特開2011-116947号公報、特開2011-178835号公報、特開2014-084405号公報、特開2014-105235号公報、特開2013-253228号公報、特開2014-218639号公報、国際公開第2013/121984号(特許文献1、4~16)に記載の加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を使用することができる。
【0034】
加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物に関してさらに具体的に説明する。
【0035】
本発明にかかる加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物(又は加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物)は、分子中に加水分解性基を少なくとも1個有する含フッ素有機ケイ素化合物であることが好ましく、該化合物は、1分子中に炭素数1~12個のアルコキシシリル基及びアルコキシアルコキシシリル基等の加水分解性基含有シリル基を有し、かつ、フッ素原子を有する有機ケイ素化合物であることがより好ましい。該加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物として、好ましくは、1価又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(パーフルオロポリエーテル基)を有する化合物であるのがよい。1価又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基とは、-Cj2jO-で示される1種又は2種以上の繰り返し単位が複数結合された(ポリ)フルオロオキシアルキレン構造(パーフルオロポリエーテル構造)を有する基である(該構造においてjは1以上、好ましくは1~6、より好ましくは1~4の整数である)。特には、該繰り返し単位を3~500個、好ましくは15~200個、さらに好ましくは20~100個、より好ましくは25~80個有するのがよい。
【0036】
上記繰り返し単位-Cj2jO-は、直鎖型及び分岐型のいずれであってもよい。例えば下記の単位が挙げられ、これらの繰り返し単位の2種以上が結合されたものであってもよい。
-CF2O-
-CF2CF2O-
-CF2CF2CF2O-
-CF(CF3)CF2O-
-CF2CF2CF2CF2O-
-CF2CF2CF2CF2CF2O-
-C(CF32O-
【0037】
上記(ポリ)フルオロオキシアルキレン構造は、特には、-(CF2d-O-(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t-(CF2d-で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、dは独立に0~8の整数、好ましくは0~5の整数、さらに好ましくは0~2の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数、好ましくはpは5~100の整数、qは5~100の整数、rは0~100の整数、sは0~50の整数、tは0~100の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3~500の整数、好ましくは10~100の整数である。なお、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。特には、下記構造で表すことができる。
【化28】
(式中、d’は独立に0~5の整数であり、p’、q’、r’、s’、t’はそれぞれ独立に1~200の整数であり、かつ、p’、q’、r’、s’、t’の合計は3~500である。p’、q’、r’、s’、t’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0038】
本発明にかかる加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物は、より好ましくは下記一般式(1)~(5)のいずれかで表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物(又は加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物)である。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(A-Rf)α-ZWβ (1)
Rf-(ZWβ2 (2)
Z’-(Rf-ZWβγ (3)
A-Rf-Q-(Y)δ-B (4)
Rf-(Q-(Y)δ-B)2 (5)
【0039】
式(1)~(5)中、Rfは独立に-(CF2d-O-(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t-(CF2d-で示される2価の直鎖状パーフルオロオキシアルキレンポリマー残基であり、dは独立に0~8の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数であり、かつ、p+q+r+s+t=3~500の整数である。また、p、q、r、s、tが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。Aは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2~8価の有機基であり、Wは独立に末端に加水分解性シリル基を有する1価の有機基である。α、βはそれぞれ独立に1~7の整数、好ましくは、αは1~3の整数、より好ましくは1、βは1~3の整数であり、かつ、α+β=2~8の整数、好ましくは2~4の整数である。γは2~8の整数、好ましくは2又は3である。
また、Qは独立に単結合又は2価の有機基であり、δは独立に1~10の整数であり、Yは独立に加水分解性シリル基を有する2価の有機基であり、Bは独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はハロゲン原子である。
【0040】
上記式(1)~(5)において、Rfは独立に上述した(ポリ)フルオロオキシアルキレン構造である-(CF2d-O-(CF2O)p(CF2CF2O)q(CF2CF2CF2O)r(CF2CF2CF2CF2O)s(CF(CF3)CF2O)t-(CF2d-であり、上記と同様のものが例示できる。
【0041】
上記式(1)及び(4)において、Aは独立にフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CH2F基である1価のフッ素含有基である。末端が-CF3基、-CF2H基もしくは-CH2F基である1価のフッ素含有基として、具体的には、-CF3基、-CF2CF3基、-CF2CF2CF3基、-CH2CF(CF3)-OC37基等が例示できる。Aとしては、中でも、-CF3基、-CF2CF3基、-CF2CF2CF3基が好ましい。
【0042】
上記式(1)~(3)において、Z、Z’は独立に単結合、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子もしくは硫黄原子を含んでいてもよく、フッ素置換されていてもよい2~8価の有機基である。該有機基は(L)eM(eは1~7の整数、好ましくは1~3の整数である)で表すことができる。
【0043】
ここで、Lは単結合、又は酸素原子、硫黄原子、もしくは2価の有機基であり、上記式(1)~(3)において、ZのLはいずれもRf基とM基(又はW基)との連結基であり、Z’のLはM基(又はRf基)とRf基との連結基である。2価の有機基として、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基、-Si[OH][(CH2fSi(CH33]-(fは2~4の整数)で示される基からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい非置換又は置換の炭素数2~12の2価有機基であり、より好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2~12の2価炭化水素基である。
【0044】
前記非置換又は置換の炭素数2~12の2価炭化水素基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)が挙げられる。さらに、これらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、ヨウ素等のハロゲン原子で置換した基であってもよい。中でも、非置換又は置換の炭素数2~4のアルキレン基又はフェニレン基が好ましい。
【0045】
Lの2価の有機基としては、例えば、下記構造で示される基、又はこれらの2種以上が結合した基が挙げられる。
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
(式中、fは2~4の整数であり、bは2~6の整数、好ましくは2~4の整数であり、u、vは1~4の整数であり、gは2~4の整数であり、Meはメチル基である。)
【0046】
また、Mは、単結合、又は窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、リン原子あるいはこれらを含む基、もしくは2~8価(上記(e+1)価)の有機基である。具体的には、単結合、-R1 2C-で示される2価の基、-R3 2Si-で示される2価の基、-NR4-で示される2価の基、-N=で示される3価の基、-P=で示される3価の基、-PO=で示される3価の基、-R1C=で示される3価の基、-R3Si=で示される3価の基、-N=で示される3価の基、-C≡で示される4価の基、-O-C≡で示される4価の基、及び-Si≡で示される4価の基から選ばれる基、又は2~8価のシロキサン残基であり、上記式(1)~(3)において、ZのMはいずれもL基(又はRf基)とW基との連結基であり、Z’のMはL基を介してRf基と(又はRf基同士を)連結する基である。
【0047】
上記において、R1は互いに独立に、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシル基、ケイ素原子数2~51個のジオルガノシロキサン構造を介在していてもよい炭素数1~3のオキシアルキレン基の繰り返し単位を有する基、又はR2 3SiO-で示されるシリルエーテル基であり、R2は互いに独立に、水素原子、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、フェニル基等のアリール基、又は炭素数1~3のアルコキシ基である。R3は互いに独立に、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、炭素数2又は3のアルケニル基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はクロル基である。R4は炭素数1~3のアルキル基、フェニル基等の炭素数6~10のアリール基である。Mがシロキサン残基の場合には、ケイ素原子数2~51個、好ましくはケイ素原子数2~13個、より好ましくはケイ素原子数2~11個、さらに好ましくはケイ素原子数2~5個の直鎖状、分岐状又は環状オルガノポリシロキサン構造を有することが好ましい。該オルガノポリシロキサンは、炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基、並びにC37-C36-等の非置換もしくはフッ素置換アルキル基又はフェニル基を有するものがよい。また、2個のケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi-(CH2n-Siを含んでいてもよい。前記式においてnは2~6の整数であり、好ましくは2~4の整数である。
【0048】
このようなMとしては、下記に示すものが挙げられる。
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
(式中、iは1~20の整数であり、cは1~50の整数であり、Meはメチル基である。)
【0049】
上記式(1)~(3)において、Wは独立に末端に加水分解性シリル基を有する1価の有機基であり、好ましくは下記式で表される加水分解性シリル基である。
【化40】
(式中、Rは炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に加水分解性基であり、aは2又は3であり、mは0~10の整数である。)
【0050】
上記式において、Xの加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~12、特に炭素数1~10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2~12、特に炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1~10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2~10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、アミノ基などが挙げられる。中でもメトキシ基及びエトキシ基が好適である。
また、Rは、炭素数1~4のメチル基、エチル基等のアルキル基、又はフェニル基であり、中でもメチル基が好適である。
aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から、3が好ましい。mは0~10の整数であり、好ましくは2~8の整数であり、より好ましくは2又は3である。
【0051】
式(1)~(3)において、(-)αZWβ、-ZWβで表される構造としては、下記の構造が挙げられる。
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
(式中、L、R、X、f、i、c及びaは上記の通りであり、m1は0~10の整数、好ましくは2~8の整数であり、m2は1~10の整数、好ましくは2~8の整数であり、Meはメチル基である。)
【0052】
上記式(4)及び(5)において、Qは独立に単結合又は2価の有機基であり、Rf基とY基との連結基である。該Qの2価の有機基として、好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基、-Si[OH][(CH2fSi(CH33]-(fは2~4の整数)で示される基からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい非置換又は置換の炭素数2~12の2価有機基であり、より好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2~12の2価炭化水素基である。
【0053】
前記非置換又は置換の炭素数2~12の2価炭化水素基としては、上記Lで例示した非置換又は置換の炭素数2~12の2価炭化水素基と同様のものを例示することができる。
【0054】
Qの2価の有機基としては、例えば、下記構造で示される基が挙げられる。
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
(式中、fは2~4の整数であり、bは2~6の整数、好ましくは2~4の整数であり、u、vは1~4の整数であり、gは2~4の整数であり、Meはメチル基である。)
【0055】
上記式(4)及び(5)において、Yは互いに独立に加水分解性シリル基を有する2価の有機基であり、好ましくは下記式で表される構造のものである。
【化50】
(式中、R、X及びaは上記の通りである。kは0~10の整数、好ましくは0~8の整数、より好ましくは0~2の整数である。hは1~6の整数、好ましくは1又は2であり、M’は非置換又は置換の3~8価、好ましくは3価又は4価の炭化水素基であり、該炭化水素基における炭素原子の一部又は全部がケイ素原子に置き換わっていてもよく、また、該炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がフッ素原子等のハロゲン原子に置き換わっていてもよい。)
【0056】
M’として、好ましくは下記構造で表される基である。
【化51】
(式中、M1は単結合、炭素数1~6の非置換もしくは置換の2価炭化水素基又はジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基であり、M2は-R1C=で示される3価の基又は-R3Si=で示される3価の基であり、R1、R3は上記と同じである。R5は水素原子又は炭素数1~6のメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基などの1価炭化水素基である。)
【0057】
1としては、単結合、フェニレン基、ジメチルシリレン基、テトラフルオロエチレン基等が例示できる。また、M2としては、下記に示すものが挙げられる。
【化52】
(式中、Meはメチル基である。)
【0058】
このようなYとしては、例えば下記の基が挙げられる。
【化53】
【0059】
【化54】
(式中、Xは上記と同じであり、k1は0~10の整数、好ましくは0~8の整数であり、k2は2~10の整数、好ましくは2~8の整数であり、Meはメチル基である。)
【0060】
上記式(4)及び(5)において、δは独立に1~10の整数、好ましくは1~4の整数である。
また、Bは互いに独立に、水素原子、炭素数1~4のメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基、又はフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等のハロゲン原子である。
【0061】
上記式(1)~(5)で表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物(加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物)として、例えば、下記構造が挙げられる。
【化55】
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【化60】
【化61】
【化62】
【化63】
【化64】
【化65】
【化66】
【化67】
【化68】
【化69】
【化70】
【化71】
【化72】
【化73】
【化74】
【化75】
【化76】
【化77】
【化78】
【化79】
(式中、Meはメチル基であり、p1、q1、r1、s1、t1はそれぞれ独立に1~200の整数であり、かつ、p1、q1、r1、s1、t1の合計は3~500であり、p1、q1、r1、s1、t1が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0062】
なお、本発明にかかる一般式(1)~(5)で表される加水分解性フッ素含有有機ケイ素化合物(加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物)は、上記加水分解性基(X)の一部又は全部が加水分解されている化合物(XがOH基である化合物)を含んでいてよく、これらOH基の一部又は全部が縮合している化合物を含んでいてもよい。
【0063】
加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物は、予め溶剤によって希釈しておくことが望ましく、このような溶剤としては、上記加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を均一に溶解させるものであれば特に限定されない。例えば、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(1,3-トリフルオロメチルベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)が挙げられる。これらの中でも、溶解性及び安定性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、フッ素変性エーテル系溶剤、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。上記溶剤は1種を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。溶剤は防汚コーティング剤(加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物と溶剤とを含む溶液)中における加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物の質量%が0.01~50質量%、好ましくは0.03~10質量%、さらに好ましくは0.05~1質量%になるように含有することが望ましい。
【0064】
加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を含有する防汚コーティング剤は、ウェット塗工法(刷毛塗り、スプレー、ディッピング、スピン、インクジェット)、蒸着法など公知の方法で基材に施与することができる。塗工条件等は従来公知の方法に従えばよいが、シリカ層をウェット塗工法で塗工することから、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物もウェット塗工法で塗工する方が効率的である。加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物は、室温(25℃)で1~24時間にて溶剤を乾燥除去すると共に硬化させることができるが、さらに短時間で硬化させるために30~200℃で10分~1時間加熱してもよい。硬化は加湿下(50~90%RH)で行うことが加水分解を促進する上で好ましい。
【0065】
なお、加水分解性含フッ素有機ケイ素化合物を含有する防汚コーティング剤を塗工する前に、基材上のシリカ層表面を、プラズマ処理、UV処理、オゾン処理等の洗浄や表面を活性化させる処理を施してもよい。
【0066】
本発明の耐アルカリ性撥水部材のフッ素層(撥水撥油層)の膜厚は、0.5~30nmであり、特に1~20nmが好ましい。その膜厚が厚すぎると処理剤が凝集して視認性が悪くなることがあり、薄すぎると表面特性、耐摩耗性が十分でない場合がある。
【0067】
このようにして得られた本発明の耐アルカリ性撥水部材は、撥水撥油層の耐アルカリ性と耐摩耗性を向上させることができる。
【0068】
このようにして得られた本発明の耐アルカリ性撥水部材としては、カーナビゲーション、タブレットPC、スマートフォン、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器等の筐体及びディスプレイ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルムなどの光学物品;槽、シャワーヘッドや蛇口(水洗金具)、洗面台、キッチンシンク等の水まわりの物品;サニタリー用品及びキッチン用品;自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー等;人工大理石等の外壁用建材;台所用建材;待合室;美術品など;コンパクトディスク、DVDなど;グリスフィルター、エアコンのドレン、その他、輸送用機器のボディー等が挙げられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0070】
[実施例1~7、比較例1~4]
〔シリカ層の形成〕
表1に示す組成の処理液をSUS304((株)スタンダードテストピース製、SUS304(BA)、厚さ1mm、幅50mm、長さ100mmの試験片基板)にDip塗工(30秒浸漬、2.5mm/秒で引上げ)し、150℃で30分乾燥させて、実施例1~7、比較例1,2のシリカ層及び比較例3のテトラエトキシシランの加水分解・部分縮合物層(プライマー層)を形成した基板を作製した。塗布膜厚は、蛍光X線Si検出量を測定し、推定した。
【0071】
【表1】

シリカナノ粒子(A):平均粒子径2nmのナノシリカ
シリカナノ粒子(B):平均粒子径10nmのナノシリカ
シリカナノ粒子(C):平均粒子径20nmのナノシリカ
TEOS(A):テトラエトキシシランの加水分解・部分縮合物(質量平均分子量:25,000、シラノール基量:0.01mol/g)
TEOS(B):テトラエトキシシラン
白金ナノ粒子(A):平均粒子径10nmのナノ白金
白金ナノ粒子(B):平均粒子径5nmのナノ白金
白金ナノ粒子(C):平均粒子径20nmのナノ白金
【0072】
ここで平均粒子径とはレーザー光回折法による粒度分布測定における累積体積平均径D50である。溶媒は、処理液1~9では純水、処理液10ではブタノールを用いた。
【0073】
さらに、下記の方法に基づき上記実施例1~7、比較例1,2のシリカ層及び比較例3のプライマー層を形成した基板に撥水撥油層を形成した。比較例4は、処理液を塗工せず、プライマー層を形成していない上記SUS304テストピース(試験片基板)に撥水撥油層を直接形成した。
【0074】
〔撥水撥油層の形成〕
下記に示す化合物1を固形分で0.1質量%になるようにフッ素変性エーテル系溶剤(Novec7200(3M社製、エチルパーフルオロブチルエーテル))で希釈した後、スプレー塗工装置((株)ティーアンドケー製、NST-51)で上記の各基板上にスプレー塗工した。その後、120℃で30分硬化させて、プライマー層を形成した(又は形成していない)基板の外表面上に撥水撥油層の硬化被膜を形成し、実施例1~7及び比較例1~4の試験体を作製した。蛍光X線装置((株)リガク製、ZSXmini2)によるF検出量から撥水撥油層の平均の膜厚を算出した。
【0075】
[化合物1]
【化80】
(Meはメチル基である。)
【0076】
表2に、シリカ層(片面)及び撥水撥油層の膜厚を示した。
【0077】
【表2】
【0078】
上記で得られた各試験体を用いて、以下の方法により各種評価を行った。これらの結果を表3に示す。
【0079】
〔撥水撥油性〕
接触角計(協和界面科学(株)製、DropMaster)を用いて、硬化被膜の水に対する接触角及びオレイン酸に対する接触角を測定した。
【0080】
〔マジック拭取り性〕
マジックインキ(ZEBRA(株)製、ハイマッキー)を硬化被膜上に塗布し、ベンコット(旭化成(株)製)で拭取りした際の拭取り性を、下記評価基準により評価した。
A:汚れを簡単に拭取れる。
B:汚れを拭取れる。
C:汚れを拭取り後に少しマジックインキが残る。
D:汚れを拭取れない。
【0081】
〔耐アルカリ性〕
0.4質量%水酸化ナトリウム水溶液中に上記基板を55℃下、4時間浸漬した。24時間経過後、上記基板を取り出し、水道水で洗浄した後ティッシュペーパーで水を拭取った。洗浄した基板の水に対する接触角を上記と同様の方法により測定するとともに、下記基準により硬化被膜の耐アルカリ性を評価した。
○:水接触角の低下が10°以下の範囲に収まる。
×:水接触角の低下が10°以下の範囲に収まらない。
【0082】
【表3】
【0083】
表3の結果から明らかなように、実施例1,2,3,4,5,6,7、比較例2は、耐アルカリ性試験後においても100°以上の優れた撥水性を示し、水接触角の初期からの低下が10°以下の範囲であったが、加水分解させていない(シラノール基を有さない)単量体のトリエトキシシラン(TEOS(B))を用いた比較例1、シリカナノ粒子を用いなかった比較例3,4は、耐アルカリ性試験後に撥水性が大幅に低下した。特に、比較例4は接触角の低下が著しく、耐アルカリ性が最も低いことが分かった。
また、平均粒子径が20nmのシリカナノ粒子を用いた場合(実施例3)や、トリエトキシシランの加水分解・脱水縮合化合物(TEOS(A))を用いなかった場合(比較例2)においては、平均粒子径が10nm以下であり、なおかつTEOS(A)を用いた実施例1,2,4,5,6,7と比較して、撥水性の低下が大きかった。シリカナノ粒子が小さい方が基材との密着性が良く、シラノール基を有するトリエトキシシランの加水分解・脱水縮合化合物を用いた方が基材との密着性が良いことを示唆している。さらに、白金ナノ粒子を添加しても(実施例5,6,7)、表面特性や耐摩耗性に大きな影響はなかったことから、各種ナノ粒子を混合することができる。
【0084】
〔耐摩耗性(耐湿式摩耗試験)〕
上記耐アルカリ性試験評価が○であった実施例1~7及び比較例2の基板を上記と同様の方法により再び新たに作製し、往復摩耗試験機(新東科学(株)製、HEIDON 30S)を用いて、以下の条件で硬化被膜の耐湿式摩耗試験を実施した。
耐湿式摩耗試験後の硬化被膜の水に対する接触角を、接触角計(協和界面科学(株)製、DropMaster)を用いて測定し、また、下記基準により評価した。結果を表4に示す。なお、耐湿式摩耗試験前の初期の撥水撥油性(水接触角及びオレイン酸接触角)とマジックインキ拭取り性の結果を表4に併記する。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(20mm×20mm×20mm)に、濡らしたスポンジを輪ゴムで固定した。
荷重:500g
擦り距離(片道):30mm
擦り速度:3,600mm/min
往復回数:500往復
○:水接触角の低下が10°以下の範囲に収まる。
×:水接触角の低下が10°以下の範囲に収まらない。
【0085】
【表4】
【0086】
表4の結果から明らかなように、実施例1,2,3,4,5,6,7は、耐湿式摩耗試験前後においても優れた撥水性を示したが、トリエトキシシランの加水分解・脱水縮合化合物(TEOS(A))を用いなかった比較例2は、耐湿式摩耗試験後に撥水性の低下が大きかった。
【0087】
以上の結果より、シリカナノ粒子と、分子中にシラノール基を複数個有する有機ケイ素化合物として、加水分解・脱水縮合させた有機ケイ素化合物を用いたシリカ層を形成した撥水部材とすることで、硬化被膜の耐アルカリ性、耐湿式摩耗性を向上させることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、撥水撥油性に優れた硬化被膜を有する耐アルカリ性撥水部材を得ることができる。さらに、上記硬化被膜は、耐アルカリ性、耐摩耗性を併せ持つ。このため、本発明の耐アルカリ性撥水部材は、特に、水や油脂の付着が想定される用途に非常に有効であり、電子機器の筐体や、キッチン周り等、日常的に使用し、触れることの多いものでも、長期間にわたって良好な防汚表面を維持することができる。