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特許7287768容器入りチーズの製造方法及びレトルト殺菌方法
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  • 特許-容器入りチーズの製造方法及びレトルト殺菌方法 図1
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  • 特許-容器入りチーズの製造方法及びレトルト殺菌方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】容器入りチーズの製造方法及びレトルト殺菌方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/14 20060101AFI20230530BHJP
   A23L 3/10 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
A23C19/14
A23L3/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018185061
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020054240
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津山 建
(72)【発明者】
【氏名】松永 典明
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-077108(JP,A)
【文献】特公昭58-010310(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第101406213(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0295050(US,A1)
【文献】国際公開第2015/005321(WO,A1)
【文献】特許第5374614(JP,B2)
【文献】特開2020-116321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器入りチーズをレトルト殺菌するための方法であって、
容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
前記殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、
前記レトルト釜を冷却しながら大気圧まで減圧する工程と
を含み、
前記殺菌工程後において、前記容器の内部の圧力と前記容器の外部の圧力との差が、0~0.008MPaである前記レトルト殺菌方法。
【請求項2】
前記殺菌工程における前記レトルト釜中の圧力と大気圧との差が0.085~0.165MPaである、請求項1に記載のレトルト殺菌方法。
【請求項3】
前記チーズが軟質チーズである、請求項1又は2に記載のレトルト殺菌方法。
【請求項4】
前記軟質チーズが、フレッシュチーズ、白カビチーズ、ウォッシュチーズ、又はシェーブルチーズである、請求項3に記載のレトルト殺菌方法。
【請求項5】
容器入りチーズを製造するための方法であって、
チーズを製造する工程と、
前記チーズを開口容器に入れ、開口部を樹脂フィルムで密封することにより、容器入りチーズを得る工程と、
前記容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
前記殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、
前記レトルト釜を冷却しながら大気圧まで減圧する工程と
を含み、
前記殺菌工程後において、前記容器の内部の圧力と前記容器の外部の圧力との差が、0~0.008MPaである、前記製造方法。
【請求項6】
前記殺菌工程における前記レトルト釜中の圧力と大気圧との差が0.085~0.165MPaである、請求項に記載の容器入りチーズの製造方法。
【請求項7】
前記チーズが軟質チーズである、請求項5又は6に記載の容器入りチーズの製造方法。
【請求項8】
前記軟質チーズが、フレッシュチーズ、白カビチーズ、ウォッシュチーズ、又はシェーブルチーズである、請求項7に記載の容器入りチーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器入りチーズの製造方法及びレトルト殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズを容器に収容した容器入りチーズは、従来、商品として広く流通している(例えば、特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-254953号公報
【文献】特開平11-348962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
商品としての容器入りチーズを製造するに際しては、商品として流通することができないラインアウト品を可能な限り少なくすることが求められる。このような要請に鑑み、本発明は、ラインアウト品が少なく製造安定性が向上した新規な容器入りチーズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、チーズを包装体(包装紙や包装フィルム等)で包装し、プラスチック製の容器に収容した容器入りチーズを製造する場合に、包装体からチーズが漏れてしまうラインアウト品があることを見出した。そして、この原因として、容器内外の差圧により、容器を密封しているトップシールがチーズを圧迫している可能性を着想して、容器内外の圧力を測定したところ、レトルト殺菌後の冷却開始時に容器の外の圧力が容器の中の圧力より高くなっていることを見出した。本発明者らは、以上の知見に基づき、本発明の容器入りチーズの製造方法及びレトルト殺菌方法を完成させた。
【0006】
本発明によれば、以下の容器入りチーズの製造方法等を提供できる。
1.容器入りチーズをレトルト殺菌するための方法であって、
容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
前記殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、
前記レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程と
を含む前記レトルト殺菌方法。
2.前記殺菌工程における前記レトルト釜中の圧力が0.085~0.165MPaである、1に記載のレトルト殺菌方法。
3.前記殺菌工程後において、前記容器の内部の圧力と前記容器の外部の圧力との差が、0~0.008MPaである、1又は2に記載のレトルト殺菌方法。
4.前記チーズが軟質チーズである、1~3のいずれかに記載のレトルト殺菌方法。
5.容器入りチーズを製造するための方法であって、
チーズを製造する工程と、
前記チーズを開口容器に入れ、開口部を樹脂フィルムで密封することにより、容器入りチーズを得る工程と、
前記容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
前記殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、
前記レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程と
を含む前記製造方法。
6.前記殺菌工程における前記レトルト釜中の圧力が0.085~0.165MPaである、5に記載の容器入りチーズの製造方法。
7.前記殺菌工程後において、前記容器の内部の圧力と前記容器の外部の圧力との差が、0~0.008MPaである、5又は6に記載の容器入りチーズの製造方法。
8.前記チーズが軟質チーズである、5~7のいずれかに記載の容器入りチーズの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ラインアウト品が少なく製造安定性が向上した新規な容器入りチーズの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例の方法におけるレトルト殺菌後の冷却減圧工程における容器内外の圧力を示す図である。
図2図2は、実施例の方法により製造した容器入りチーズについて、トップシールへのインク付着試験の結果を示す写真である。
図3図3は、比較例の方法におけるレトルト殺菌後の冷却減圧工程における容器内外の圧力を示す図である。
図4図4は、比較例の方法により製造した容器入りチーズについて、トップシールへのインク付着試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の容器入りチーズの製造方法等の好適な実施形態について、具体的に説明する。
【0010】
(容器入りチーズの製造方法)
本発明の容器入りチーズの製造方法は、チーズを製造する工程と、前記チーズを開口容器に入れ、開口部を樹脂フィルムで密封することにより、容器入りチーズを得る工程と、前記容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、前記殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、前記レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の容器入りチーズの製造方法によれば、容器入りチーズを密封するトップシールにより過度にチーズが圧迫されない容器入りチーズを製造することができる。トップシールによりチーズが圧迫されると、例えば、包装体からチーズが漏れだしたり、チーズが変形したりするラインアウト品が発生する原因となる。本発明の容器入りチーズの製造方法によれば、ラインアウト品が発生する可能性を低減することができ、その結果、容器入りチーズを安定的に製造することが可能となる。
【0012】
本発明の容器入りチーズの製造方法においては、レトルト殺菌後にレトルト釜を冷却する段階が特徴的である。
従来、容器入りチーズを製造する場合には、通常、レトルト殺菌時に均一に加熱殺菌するためにレトルト釜内において容器入りチーズに温水をかけ、レトルト殺菌後の冷却開始時には温水をレトルト釜から貯湯槽に戻すために、殺菌工程時のレトルト釜内圧力よりも加圧している。
これに対して、本発明では、レトルト殺菌後に、殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程とを行うものである。すなわち、本発明の方法では、従来の方法とは異なり、レトルト殺菌後にレトルト釜内を殺菌工程時の圧力より高く制御することはない。
【0013】
本発明の方法は、特殊な設備を導入することなく、レトルト殺菌後の圧力の調整によって、チーズを包む包装体(包装紙や包装フィルム等)からのチーズ漏れを低減することができる。本発明の方法は、特に軟質チーズを製造する際に有意義である。
【0014】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様においては、第一に、チーズを製造する工程を行う。
チーズを製造する工程は、従来既知の方法により行うことができる。
【0015】
本発明の容器入りチーズの製造方法は、製造するチーズが軟質チーズである場合に有益である。軟質チーズとしては、これらに限定されないが、例えば、フレッシュチーズ、白カビチーズ(例えば、カマンベールチーズ)、ウォッシュチーズ、シェーブルチーズ等が挙げられる。
【0016】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様においては、第二に、チーズを開口容器に入れ、開口部を樹脂フィルムで密封することにより、容器入りチーズを得る工程を行う。
【0017】
開口容器は、レトルト殺菌時において一定の形状を保持する剛性を有することを条件として、任意の材質、形状のものを使用することができる。具体的には、例えば、樹脂製の円筒形状の開口容器を使用することができる。
開口容器には、開口部からチーズが収容され、開口部が樹脂フィルムで密封されて、容器入りチーズが得られる。
収容されるチーズは、包装紙又は包装フィルムにより包装されていることが好ましい。
【0018】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様においては、第三に、容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱することにより殺菌する工程を行う。
【0019】
この工程は、いわゆるレトルト殺菌を行う工程である。レトルト殺菌は、当技術分野において既知の任意の条件で行うことができる。
【0020】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様において、殺菌工程におけるレトルト釜中の圧力は、好ましくは、0.085~0.165MPaであり、より好ましくは、0.100~0.150MPaであり、特に好ましくは、0.115~0.135MPaである。尚、本願明細書において圧力とは大気圧との差圧(いわゆるゲージ圧)のことであり、前記レトルト釜中の圧力とは、レトルト釜中で殺菌されている容器入りチーズの容器外の圧力をいう。
【0021】
レトルト殺菌は、容器入りチーズに対して所望の熱履歴を施すまで行えばよい。本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様において、殺菌工程は、例えば、容器入りチーズの中心部の温度が90℃に到達するまで行えばよい。
【0022】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様においては、殺菌工程後において、容器の内部の圧力と容器の外部の圧力との差は、好ましくは、0~0.008MPaであり、より好ましくは、0~0.005MPaであり、特に好ましくは、0~0.002MPaである。
【0023】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様においては、第四に、殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程を行う。
この圧力保持工程では、上記説明したレトルト殺菌工程における圧力を一定時間保持する。これにより、容器を密封しているトップシールがチーズを圧迫することを防ぎながら、チーズ製造に影響が出ない程度に、速やかにレトルト釜内の温水を貯湯槽に戻すことができる。
【0024】
すなわち、圧力保持工程におけるレトルト釜内の圧力は、殺菌工程におけるレトルト釜内の圧力と同じである。本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様において、圧力保持工程におけるレトルト釜内の圧力は、好ましくは、0.085~0.165MPaであり、より好ましくは、0.100~0.150MPaであり、特に好ましくは、0.115~0.135MPaである。
圧力保持工程は、一定時間行えばよく、好ましくは、1~10分間、より好ましくは、1~5分間、特に好ましくは、1~2分間行う。
【0025】
本発明の容器入りチーズの製造方法の一態様においては、第五に、レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程を行う。冷却減圧工程は、特に限定されず、常法により行うことができる。
【0026】
(容器入りチーズのレトルト殺菌方法)
本発明の容器入りチーズのレトルト殺菌方法は、容器入りチーズをレトルト釜に入れ、加熱する殺菌工程と、前記殺菌工程における圧力を一定時間保持する工程と、前記レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程とを含むことを特徴とする。
【0027】
本発明の容器入りチーズのレトルト殺菌方法の各工程は、上記説明した本発明の容器入りチーズの製造方法におけるレトルト殺菌工程以降の各工程とそれぞれ同様に行うことができる。
【実施例
【0028】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0029】
(容器入りチーズの製造)
原料乳としての生乳を75℃にて20秒間殺菌した後、32℃に冷却し、乳酸菌混合スターターを原料乳1gに対して4×10cfu/gとなるように接種した。32℃にて静置し、原料乳のpHが6.4になった時点でレンネットを添加し、さらに32℃にて静置し凝固させてチーズカードを得た。
【0030】
チーズカードを切断し、ホエイを排出した後、チーズカードを略円柱状の型枠に入れて成型した。型枠は、得られるチーズの直径が7.8cm、厚さが2.0cmとなる寸法のものを用いた。
【0031】
チーズカード製造の翌日、成型したチーズカードを塩水に浸漬させ、チーズカードの質量に対して目標塩分が1.1質量%になるように加塩した後に、白カビ菌体の希釈液を噴霧し、17℃、90%RHにて、7日間静置して一次熟成を行った。
【0032】
一次熟成終了後、チーズを6等分になるよう垂直にカットし、アルミ包装体で6個のチーズを1個ずつ包装して、8℃、60%RHにて、7日間静置して二次熟成を行った。
【0033】
二次熟成後のチーズをプラスチック製の開口容器(カップ)に入れ、容器の開口部をプラスチックフィルム(トップシール)で密封してから、レトルト殺菌処理を行った。カップは、6個のチーズを収容できる寸法のものを使用した。レトルト殺菌処理は、レトルト釜の中において、温度94℃、圧力0.125MPaにて、チーズの中心部が90℃になるまで行った。
【0034】
(トップシールへのインク付着試験)
密封した容器の内外の圧力差が原因で起こる、トップシールによるチーズの圧迫は、チーズ漏れを発生させるリスクにつながると考えられる。そこで、トップシールによるチーズの圧迫がみられないようなレトルト殺菌の条件を検討した。具体的には、包装したチーズをカップ(横断面が円形状)に入れ、チーズを包むアルミ包装体にインクを塗布してから、トップシール(円形状)によりカップを密封して容器入りチーズを得た。この容器入りチーズをレトルト殺菌した後、トップシールに付着したインク痕の、トップシールの円中心からの最大径を測定した。
【0035】
実施例
レトルト殺菌終了後、レトルト釜の中において、殺菌時圧力である0.125MPaで1分間保持した。その後、図1に示すとおり、レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧した。
図2に、インク付着試験の後のトップシールの写真を示す。試験の結果、図2に示すとおり、トップシールへのインクの付着は認められなかった。
【0036】
比較例
レトルト殺菌終了後、レトルト釜の中において、殺菌時圧力である0.125MPaから0.135MPaまで加圧した後、10分間保持した。その後、図3に示すとおり、レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧した。冷却及び減圧の過程は、実施例と同様に行い、有意な差はない。
図4に、インク付着試験の後のトップシールの写真を示す。試験の結果、図4に示すとおり、トップシールにはインク痕が付着していた。インク痕のトップシールの円中心からの最大径は32.60mmであり、トップシールによってチーズを圧迫し、その結果、チーズ漏れが発生する可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の方法によれば、容器入りチーズを製造する際、ラインアウト品が少なく安定して商品を供給することができる。本発明の方法は、容器入りチーズの工業的製造のためにすぐれた方法である。
図1
図2
図3
図4