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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】成膜システム、および、成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20230530BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20230530BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230530BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230530BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019107033
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020200499
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松崎 淳介
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-282219(JP,A)
【文献】特開2014-029844(JP,A)
【文献】特開2004-103512(JP,A)
【文献】特表2013-525947(JP,A)
【文献】登録実用新案第3042637(JP,U)
【文献】国際公開第2019/107052(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 14/04
H05B 33/10
H10K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象と成膜源との間に導電性のマスクを配置して前記対象に成膜する成膜装置と、
前記マスクに堆積した堆積物を前記マスクの通電加熱および誘導加熱の少なくとも一方を用いて前記マスクから除去するマスク洗浄装置と、を備え
前記マスク洗浄装置は、前記マスクの温度を測定する放射温度計をさらに備え、前記マスク洗浄装置は、前記放射温度計の測定結果が所定温度になるように前記マスクの加熱を行う
成膜システム。
【請求項2】
前記マスク洗浄装置は、前記マスクに堆積した前記堆積物を回収する回収部と、前記マスクから放出された前記堆積物が、前記マスク洗浄装置における前記回収部以外の部分に飛散することを抑制する回収補助部とをさらに備える
請求項1に記載の成膜システム。
【請求項3】
前記回収部は、前記マスクと対向する位置に配置され、
前記回収補助部は、前記回収部を冷却する冷却部であり、前記冷却部は、前記マスクから放出される前記堆積物が前記回収部に堆積するように前記回収部を冷却する
請求項に記載の成膜システム。
【請求項4】
前記マスク洗浄装置は、前記通電加熱によって前記マスクを加熱し、前記マスクに電気的に接続される通電端子を備え、
前記マスク洗浄装置は、前記通電端子を冷却する端子用冷却部をさらに備える
請求項1からのいずれか一項に記載の成膜システム。
【請求項5】
前記成膜装置が区画する空間は、前記マスク洗浄装置が区画する空間とは異なり、
前記堆積物が堆積した前記マスクを前記成膜装置から前記マスク洗浄装置に搬入し、前記堆積物が除去された前記マスクを前記マスク洗浄装置から前記成膜装置に搬出する搬送部をさらに備える
請求項1からのいずれか一項に記載の成膜システム。
【請求項6】
前記成膜源は、蒸着源である
請求項1からのいずれか一項に記載の成膜システム。
【請求項7】
成膜装置において、対象と成膜源との間に導電性のマスクを配置して前記対象に成膜することと、
前記マスクに堆積した堆積物を前記マスクの通電加熱および誘導加熱の少なくとも一方を用いて前記マスクから除去することと、を含み、
前記堆積物を前記マスクから除去することは、前記マスクの温度を測定する放射温度計の測定結果が所定温度になるように前記マスクの加熱を行うことを含む
成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜システム、および、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜のパターニングは、種々のデバイスを製造する工程において用いられている。デバイスは、例えば、表示装置、タッチパネル、半導体装置、および、太陽電池などである。薄膜のパターニングは、フォトリソグラフィー法およびリフトオフ法を用いて行われることが多い。新たな薄膜のパターニング法として、マスクを用いた蒸着法が提案されている。蒸着法による成膜は、例えば特許文献1に記載のような蒸着装置を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/025637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マスクを用いた蒸着法では、蒸着源が放出した蒸着物質は、マスクが有する開口を通じて基板に到達する。そのため、マスクのなかで開口を区画する部分には、蒸着物質が付着する。マスクを用いた成膜を繰り返し行うことによって、マスクには蒸着物質によって形成された堆積物が堆積する。堆積物は、開口の縁から開口内にはみ出すことによって、開口の形状を変えることがある。この場合には、マスクを用いた成膜によって所望とする形状を有した薄膜を形成することができない。そのため、堆積物が堆積したマスクを新しいマスクに交換する必要がある。マスクの交換によって、蒸着装置の稼働に要するランニングコストが嵩むため、マスクの利用効率を高めることが求められている。なお、こうした課題は、蒸着装置を備える成膜システムだけでなく、例えば、スパッタ装置およびCVD装置などのマスクを用いた成膜を行う成膜装置を備える成膜システムに共通する。
【0005】
本発明は、マスクの利用効率を高めることを可能とした成膜システム、および、成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための成膜システムは、対象と成膜源との間に導電性のマスクを配置して前記対象に成膜する成膜装置と、前記マスクに堆積した堆積物を前記マスクの通電加熱および誘導加熱の少なくとも一方を用いて前記マスクから除去するマスク洗浄装置と、を備える。
【0007】
上記課題を解決するための成膜方法は、成膜装置において、対象と成膜源との間に導電性のマスクを配置して前記対象に成膜することと、前記マスクに堆積した堆積物を前記マスクの通電加熱および誘導加熱の少なくとも一方を用いて前記マスクから除去することと、を含む。
上記各構成によれば、マスク洗浄部によって堆積物が除去されたマスクを再び成膜装置での成膜に用いることが可能であるため、マスクの利用効率を高めることが可能である。
【0008】
上記成膜システムは、前記マスク洗浄装置は、前記マスクの温度を測定する放射温度計をさらに備え、前記マスク洗浄装置は、前記放射温度計の測定結果が所定温度になるように前記マスクの加熱を行ってもよい。
【0009】
上記構成によれば、マスク洗浄装置がマスクを加熱する度合いをマスクの温度によって管理するため、マスクの温度を管理しない場合に比べて、対象に堆積した堆積物が除去される確度を高めることが可能である。
【0010】
上記成膜システムにおいて、前記マスク洗浄装置は、前記マスクに堆積した前記堆積物を回収する回収部と、前記回収部による前記堆積物の回収を補助する回収補助部とを備えてもよい。この構成によれば、マスクから放出された堆積物が、マスク洗浄部における回収部以外の部分に飛散することが抑えられる。
【0011】
上記成膜システムにおいて、前記回収部は、前記マスクと対向する位置に配置され、前記回収補助部は、前記回収部を冷却する冷却部であり、前記冷却部は、前記マスクから放出される前記堆積物が前記回収部に堆積するように前記回収部を冷却してもよい。この構成によれば、マスクから放出された堆積物が、冷却部が冷却している回収部に再堆積する。
【0012】
上記成膜システムにおいて、前記マスク洗浄装置は、前記通電加熱によって前記マスクを加熱し、前記マスクに電気的に接続される通電端子を備え、前記マスク洗浄装置は、前記通電端子を冷却する端子用冷却部をさらに備えてもよい。この構成によれば、マスクの通電加熱によって通電端子が加熱されることが抑えられる。これにより、加熱による通電端子の変形が抑えられる。
【0013】
上記成膜システムにおいて、前記成膜装置が区画する空間は、前記マスク洗浄装置が区画する空間とは異なり、前記堆積物が堆積した前記マスクを前記成膜装置から前記マスク洗浄装置に搬入し、前記堆積物が除去された前記マスクを前記マスク洗浄装置から前記成膜装置に搬出する搬送部をさらに備えてもよい。
【0014】
上記構成によれば、成膜装置が区画する空間とは異なる空間においてマスクの洗浄が行われるため、マスクの洗浄によってマスクから放出された堆積物によって、成膜装置内が汚染されることが抑えられる。
【0015】
上記成膜システムにおいて、前記成膜源は、蒸着源であってもよい。この構成によれば、蒸着法によって成膜を行う成膜システムにおいて、マスクの利用効率を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】成膜システムの一実施形態である蒸着システムにおける構成を模式的に示すシステム構成図。
図2】成膜方法の一実施形態である蒸着方法を説明するための工程図。
図3】成膜方法の一実施形態である蒸着方法を説明するための工程図。
図4】同実施形態の蒸着方法を説明するための工程図。
図5】同実施形態の蒸着方法を説明するための工程図。
図6】同実施形態の蒸着方法を説明するための工程図。
図7】成膜システムの変更例における構成を模式的に示すシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から図6を参照して、成膜システムおよび成膜方法の一実施形態を説明する。以下では、成膜システムの一例であるの蒸着システムの構成、および、成膜方法の一例である蒸着方法を順に説明する。
【0018】
[蒸着システムの構成]
図1を参照して蒸着システムの構成を説明する。
蒸着システム10は、成膜装置11とマスク洗浄装置12とを備えている。成膜装置11は、対象の一例である基板Sと成膜源の一例である蒸着源11Aとの間に導電性のマスクMを配置して基板Sに成膜する。マスク洗浄装置12は、成膜装置11から搬入するマスクMに堆積した堆積物をマスクMの通電加熱を用いてマスクMから除去して成膜装置11に搬出する。
【0019】
蒸着システム10は、成膜装置11、マスク洗浄装置12、および、搬出入装置13を備えている。搬出入装置13、成膜装置11、および、マスク洗浄装置12は、1つの方向に沿って記載の順に並んでいる。蒸着システム10は、搬出入装置13と成膜装置11とにわたる基板搬送部10Aと、成膜装置11とマスク洗浄装置12とにわたるマスク搬送部10Bとを備えている。
【0020】
成膜装置11は、蒸着源11Aと、基板搬送部10Aの一部と、マスク搬送部10Bの一部とを含む。基板搬送部10Aは、成膜装置11内における所定の位置に基板Sを配置することが可能に構成されている。なお、図1では図示が省略されているが、基板Sは基板Sを支持するトレイによって支持された状態で、基板搬送部10Aによって搬送される。基板搬送部10Aは、成膜装置11において、蒸着源11Aと対向する位置において基板Sを固定することが可能である。マスク搬送部10Bは、蒸着源11Aと基板Sとの間に導電性を有したマスクMを配置することが可能に構成されている。マスク搬送部10Bは、成膜装置11において、基板Sと対向する位置においてマスクMを固定することが可能である。成膜装置11は、マスクMの開口Maを通じて基板Sに成膜する。
【0021】
マスク洗浄装置12は、マスク搬送部10Bの他の一部と、加熱部12Aとを含む。マスク搬送部10Bは、成膜装置11からマスク洗浄装置12にマスクMを搬送する。加熱部12Aは、通電加熱によってマスクMを加熱する。マスク洗浄装置12は、マスクMに堆積した堆積物をマスクMの加熱によって除去する。マスク洗浄装置12は、マスクMの温度を例えば800℃以上に加熱する。
【0022】
通電加熱によれば、マスクMの内部において、電子が、例えばフォノン散乱などによって散乱することで、マスクMが発熱する。そのため、通電加熱は、減圧下では、輻射すなわち光子を利用したランプ加熱による加熱と比較して、熱効率が高い。なお、一般的なランプ加熱は、マスクM以外の部位も加熱してしまったり、堆積物やマスクMの表面において反射されたりするために、通電加熱よりも熱効率が低いとも言える。
【0023】
蒸着システム10によれば、マスク洗浄装置12によって堆積物が除去されたマスクMを再び成膜装置11での成膜に用いることが可能である。そのため、マスクMの利用効率を高めることが可能である。
【0024】
マスクMの融点またはガラス転移温度は、マスクMに堆積する堆積物の融点よりも高い。また、マスクMに堆積した堆積物の洗浄処理を行う雰囲気の圧力において平衡する蒸気圧における温度で比較した場合に、堆積物の温度は、マスクMの温度よりも低い。成膜物は、例えば、シリコン、酸化インジウム、銅、および、銀などによって形成される。この場合には、マスクMの主成分は、例えば、炭素、タングステン、モリブデン、および、タンタルのいずれかであることが好ましい。マスクMの主成分は、炭素であることがより好ましい。これにより、タングステンおよびタンタルのいずれかによってマスクMを形成する場合に比べて、マスクMの形状における精度を高めることが可能である。なお、典型的には、基板Sに有機物を堆積させる蒸着の場合に、マスクMを形成する材料は、ステンレス鋼およびインバーなどであってもよい。
【0025】
基板Sに対する成膜を行う際には、マスクMは基板Sに接触しているか、基板Sの近傍に位置している。マスクMは蒸着源11Aと基板Sとの間に位置しているため、蒸着源11Aから放出された蒸着材料の一部は、マスクMの開口Maを通じて基板Sに到達し、蒸着材料の他の一部は、マスクMに付着する。
【0026】
マスク洗浄装置12は、放射温度計12Bをさらに備えている。放射温度計12Bは、マスクMの温度を測定する。加熱部12Aは、放射温度計12Bの測定結果が所定温度になるようにマスクMの加熱を行う。このように、加熱部12AがマスクMを加熱する度合いをマスクMの温度によって管理するため、マスクMの温度を管理しない場合に比べて、マスクMに堆積した堆積物が除去される確度を高めることが可能である。
【0027】
例えば、所定温度は、マスクMに設定される目標温度である。目標温度は、堆積物が気化または昇華によってマスクMから除去され、かつ、マスクMの変形が抑えられる温度に設定される。加熱部12Aが放射温度計12Bの測定結果が目標温度になるようにマスクMの加熱を行うことによって、マスクMを変形させることなく、マスクMから堆積物を除去することが可能である。また、温度管理が可能であるため、マスクMの温度を融点またはガラス転移点以下の温度に制御することで、クリープ現象による変形をも抑えることが可能である。
【0028】
放射温度計12Bは、マスクMから放出される電磁波すなわち光を用いてマスクMの温度を測定する温度計である。そのため、放射温度計12Bによれば、マスク洗浄装置12内において、マスクMの位置に対する放射温度計12Bの位置の自由度を高めることができる。例えば、放射温度計12Bによれば、マスク洗浄装置12が備える真空槽の壁面が有する窓を通じてマスクMの温度を測定することが可能であるため、放射温度計12Bを大気中に設置することも可能である。
【0029】
マスク洗浄装置12は、回収部12Cと冷却部12Dとをさらに備えている。回収部12Cは、マスク洗浄装置12内において、マスクMと対向する位置に配置されている。冷却部12Dは、回収部12Cを冷却する。冷却部12Dは、マスクMから放出される堆積物が回収部12Cに堆積するように回収部12Cを冷却する。そのため、マスクMから放出された堆積物は、回収部12Cの周囲と回収部12Cとの温度差、および、回収部12Cの位置に起因して回収部12Cへ優先的に付着するため、マスク洗浄装置12における回収部12C以外の部分に飛散することが抑えられる。この際に、冷却部12Dは、回収部12Cによる堆積物の回収を補助する。また、回収部12Cに堆積した堆積物の量が所定量を超えた場合には、堆積物が堆積した回収部12Cを新しい回収部12Cに交換することによって、マスクMの堆積物を回収部12Cによって回収することが可能である。なお、マスクMに堆積した堆積物によっては、堆積物を回収部12Cに堆積させることによって、堆積物を蒸着材料として再利用することが可能でもある。
【0030】
例えば、回収部12Cの温度範囲は、蒸着システム10を用いた実験によって特定することが可能である。回収部12Cの温度範囲が特定された場合には、冷却部12Dは、回収部12Cの温度範囲に応じて予め定められた出力によって回収部12Cを冷却することによって、マスクMから放出される堆積物が回収部12Cに堆積するように回収部12Cを冷却することが可能である。
【0031】
加熱部12Aは、上述したように通電加熱によってマスクMを加熱する。加熱部12Aは、電源12A1と、マスクMに電気的に接続される通電端子12A2とを備えている。マスク洗浄装置12は、通電端子12A2を冷却する端子用冷却部12Eを備えている。そのため、マスクMの通電加熱によって通電端子12A2が加熱されることが抑えられる。これにより、加熱による通電端子12A2の変形が抑えられる。
【0032】
電源12A1は、例えば直流電源である。通電端子12A2は、例えば、マスクMの一部をマスクMの厚さ方向に沿って、あるいは、マスクMの幅方向に沿って挟むクランプである。通電端子12A2は、マスクMの一部を挟むことによってマスクMに電気的に接続される。なお、通電端子12A2がクランプである場合には、マスクMは、通電端子12A2が接続する被接続部を備えることが好ましい。被接続部は、マスクMのなかで成膜に用いられる部分に対して外側に位置することが好ましい。これにより、マスクMに通電端子12A2の接続が、マスクMのなかで成膜に用いられる部分の変形を生じさせることが抑えられる。
【0033】
本実施形態では、成膜装置11が区画する空間は、マスク洗浄装置12が区画する空間とは異なっている。ここで、マスクMに堆積する堆積物が、例えば、酸化物や窒化物などの無機物である場合には、継続的に気相を維持することが困難である。仮に、これらの物質を継続的に気相とするためには、マスクMを高温に維持する必要がある。こうした傾向は、堆積物がセラミックスである場合に特に顕著である。こうした堆積物の洗浄処理では、マスクMの周囲が堆積物によって汚染されやすい。そのため、本実施形態によるように、マスク洗浄装置12が区画する空間が、成膜装置11が区画する空間とは異なることが好ましい。
【0034】
マスク搬送部10Bは、洗浄後のマスクMをマスク洗浄装置12から成膜装置11に搬送することが可能に構成されている。こうした蒸着システム10によれば、洗浄後のマスクMを蒸着システム10の外部に搬出することなく、成膜装置11での成膜に再び用いることが可能である。
【0035】
蒸着システム10は、2つのゲートバルブ10Cをさらに備えている。搬出入装置13と成膜装置11との間、および、成膜装置11とマスク洗浄装置12との間の各々に、1つのゲートバルブ10Cが位置している。成膜装置11、マスク洗浄装置12、および、搬出入装置13の各々には、排気部11V,12V,13Vが接続されている。各排気部11V,12V,13Vは、その排気部11V,12V,13Vが接続された処理装置11,12,13内の気体を排気する。
【0036】
上述したゲートバルブ10Cが閉じられることによって、ゲートバルブ10Cを介して互いに接続された2つの処理装置において、気体の流通が遮断される。一方で、ゲートバルブ10Cが開けられることによって、ゲートバルブ10Cを介して互いに接続された2つの処理装置において、気体の流通が可能になる。そのため、2つのゲートバルブ10Cが閉じられた状態でマスク洗浄装置12が大気に開放された場合には、成膜装置11および搬出入装置13を大気に開放することなく、マスク洗浄装置12を大気に開放することが可能である。また、2つのゲートバルブ10Cが閉じられた状態で搬出入装置13が大気に開放された場合には、成膜装置11およびマスク洗浄装置12を大気に開放することなく、搬出入装置13を大気に開放することが可能である。
【0037】
搬出入装置13は、基板搬送部10Aにおいて、成膜装置11が備える部分とは異なる部分を備えている。すなわち、成膜装置11が基板搬送部10Aの一部を備え、搬出入装置13が基板搬送部10Aの他の一部を備えている。搬出入装置13は、成膜前の基板Sを蒸着システム10の外部から蒸着システム10の内部に搬入する。また、搬出入装置13は、成膜後の基板Sを蒸着システム10の内部から蒸着システム10の外部に搬出する。搬出入装置13が成膜前の基板Sを搬入するとき、および、搬出入装置13が成膜後の基板Sを搬出するときには、搬出入装置13と成膜装置11との間のゲートバルブ10Cが閉じられた状態で、搬出入装置13が大気に開放される。
【0038】
基板搬送部10Aは、成膜前の基板Sを搬出入装置13から成膜装置11に搬送する。また、基板搬送部10Aは、成膜後の基板Sを成膜装置11から搬出入装置13に搬送する。基板搬送部10Aが搬出入装置13と成膜装置11との間において基板Sを搬送するときには、搬出入装置13内が成膜装置11内と同程度に減圧された後に、ゲートバルブ10Cが開けられる。
【0039】
成膜装置11、マスク洗浄装置12、および、搬出入装置13には、ガス供給部11G,12G,13Gが接続されている。各ガス供給部11G,12G,13Gは、そのガス供給部11G,12G,13Gが接続された処理装置11,12,13内に、必要に応じて所定のガスを所定の流量で供給する。各ガス供給部11G,12G,13Gは、例えば不活性ガスを処理室内に供給する。不活性ガスは、例えば希ガスである。
【0040】
また、各ガス供給部11G,12G,13Gは、必要に応じて反応性ガスを処理装置11,12,13に供給してもよい。反応性ガスは、例えば酸素である。なお、当然のことながら、マスクMと反応するガスを供給することは、マスクの形状を変化させ、これによって、マスクMが有する機能の劣化に繋がるため好ましくない。例えば、マスクMが炭素から形成される場合には、反応性ガスとして酸素を供給することは好ましくない。
【0041】
また、各処理装置11,12,13内の圧力は、ガス供給部11G,12G,13Gおよび排気部11V,12V,13Vによって、例えば、1×10-3Pa以上1×10-4Pa以下に設定される。なお、堆積物の洗浄処理において、マスクMが配置される雰囲気の圧力は、ドライ真空ポンプによって達成することが可能な圧力、すなわち、1×10-1Pa以上1×10-2Pa以下であることが好ましい。
【0042】
雰囲気の圧力が1×10-1Pa以上1×10-2Pa以下であることによって、まず、気化した堆積物に起因する排気系での不具合を抑制することが可能である。すなわち、例えば、排気ラインにおいて堆積物が再堆積し、これに伴いバルブや真空ポンプの固着することが抑制される。なお、排気系がルーツ式ドライ真空ポンプ、スクリュー式ドライ真空ポンプ、および、クロー式ドライ真空ポンプのいずれかを備える場合には、上述した固着が生じにくいため、ポンプの固着を生じさせやすい堆積物の気体を排気することに適している。
【0043】
次に、洗浄処理時の圧力を上述の範囲にまで下げることによって、当該圧力において平衡する堆積物の蒸気圧における温度も下がることから、マスクMの目標温度が下がる。そのため、マスクMに堆積する堆積物によっては、タングステンなどの高価な高融点金属をマスクMの形成に用いなくてもよい。
【0044】
蒸着システム10は、制御部10Dをさらに備えている。制御部10Dは、蒸着システム10が備える各部の駆動を制御することによって、蒸着システム10に基板Sに対する成膜に関わる処理を行わせる。制御部10Dは、基板搬送部10A、マスク搬送部10B、各ゲートバルブ10C、各ガス供給部11G,12G,13G、各排気部11V,12V,13V、加熱部12A、放射温度計12B、および、冷却部12Dに電気的に接続されている。
【0045】
制御部10Dは、基板搬送部10Aに搬出入装置13と成膜装置11との間において基板Sを搬送させるための信号を生成し、生成した信号を基板搬送部10Aに出力する。基板搬送部10Aは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じた基板Sの搬送を行う。制御部10Dは、マスク搬送部10Bに成膜装置11とマスク洗浄装置12との間においてマスクMを搬送させるための信号を生成し、生成した信号をマスク搬送部10Bに出力する。マスク搬送部10Bは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じたマスクMの搬送を行う。
【0046】
制御部10Dは、各ゲートバルブ10Cに対して、各ゲートバルブ10Cを開放させるための信号、または、閉塞させるための信号を生成し、生成した信号を各ゲートバルブ10Cに出力する。各ゲートバルブ10Cは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じた動作を行う。制御部10Dは、各排気部11V,12V,13Vに対して、各排気部11V,12V,13Vの駆動を開始させるための信号、または、駆動を停止させるための信号を生成し、生成した信号を各排気部11V,12V,13Vに出力する。各排気部11V,12V,13Vは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じた動作を行う。
【0047】
制御部10Dは、各ガス供給部11G,12G,13Gに対して、各ガス供給部11G,12G,13Gの駆動を開始させるための信号、または、駆動を停止させるための信号を生成し、生成した信号を出力する。各ガス供給部11G,12G,13Gは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じた動作を行う。
【0048】
放射温度計12Bは、マスクMの温度についての測定結果を制御部10Dに出力する。制御部10Dは、放射温度計12Bが出力した測定結果を入力し、入力した測定結果に応じて、加熱部12Aの駆動を開始させるための信号、または、駆動を停止させるための信号を生成し、生成した信号を加熱部12Aに出力する。加熱部12Aは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じた動作を行う。制御部10Dは、冷却部12Dに対して、冷却部12Dの駆動を開始させるための信号、または、駆動を停止させるための信号を生成し、生成した信号を冷却部12Dに出力する。冷却部12Dは、制御部10Dが出力した信号を入力することによって、信号に応じた動作を行う。
【0049】
なお、制御部10Dは、自身が実行する全ての処理についてソフトウェア処理を行うものに限られない。たとえば、制御部10Dは、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(たとえば特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、制御部10Dは、1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは3)それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0050】
[蒸着方法]
図2から図6を参照して、蒸着方法を説明する。なお、図2から図6では、図示の便宜上、制御部10Dの図示が省略されている。
【0051】
蒸着方法は、基板Sに成膜すること、マスクMを成膜装置11からマスク洗浄装置12に搬入すること、堆積物をマスクMから除去すること、および、マスクMを搬出することを含んでいる。基板Sに成膜することでは、成膜装置11において、基板Sと蒸着源11Aとの間に導電性のマスクMを配置して対象に成膜する。堆積物をマスクMから除去することでは、マスクMに堆積した堆積物をマスクMの通電加熱を用いてマスクMから除去する。マスクを搬出することでは、マスク洗浄装置12から成膜装置11に堆積物が除去されたマスクMを搬出する。以下、図面を参照して蒸着方法をより詳しく説明する。
【0052】
図2が示すように、まず、基板Sが搬出入装置13を介して成膜装置11に搬送される。この際に、制御部10Dは、排気部11Vに搬出入装置13内を減圧させ、必要に応じてガス供給部13Gに所定の流量のガスを搬出入装置13内に供給させる。その後に、制御部10Dは、搬出入装置13と成膜装置11との間に位置するゲートバルブ10Cを開かせる。制御部10Dは、基板搬送部10Aに基板Sを搬出入装置13から成膜装置11に向けて搬送させる。次いで、制御部10Dは、成膜装置11のなかで蒸着源11AおよびマスクMと対向する位置において、基板搬送部10Aに基板Sを固定させる。
【0053】
そして、ゲートバルブ10Cが閉じられた後に、必要に応じてガス供給部11Gが成膜装置11内に所定の流量でガスを供給する。なお、成膜装置11内は、排気部11Vによって予め減圧されている。その後に、蒸着源11Aが蒸着材料を加熱することによって、蒸着材料を気化または昇華させる。この際に、制御部10Dは、ゲートバルブ10Cを閉じさせた後に、ガス供給部11Gに所定の流量でガスの供給を開始させる。次いで、制御部10Dは、蒸着源11Aに蒸着材料の加熱を開始させる。これにより、基板SにマスクMの開口Maに応じたパターンを有した薄膜Saが形成される。同時に、マスクMにおいて開口Maを区画する部分に堆積物Dが堆積する。
【0054】
図3が示すように、複数枚の基板Sに成膜が行われた後、マスクMが成膜装置11からマスク洗浄装置12に搬送される。この際に、制御部10Dは、成膜装置11とマスク洗浄装置12との間に位置するゲートバルブ10Cを開かせる。次いで、制御部10Dは、マスク搬送部10BにマスクMを成膜装置11からマスク洗浄装置12に搬送させる。次いで、制御部10Dは、マスク洗浄装置12のなかで加熱部12Aが有する通電端子12A2とマスクMとが接続可能な位置において、マスク搬送部10BにマスクMを固定させる。
【0055】
マスクMを成膜装置11からマスク洗浄装置12に搬送するタイミングは、例えば以下のように決定される。すなわち、制御部10Dは、成膜装置11が成膜処理を行った基板Sの枚数をカウントしている。そして、制御部10Dがこのカウント値が所定の数以上であると判断した場合に、制御部10Dは、マスク搬送部10BにマスクMを成膜装置11からマスク洗浄装置12に搬送させる。
【0056】
なお、マスクMが成膜装置11からマスク洗浄装置12に搬送される前に、制御部10Dが排気部12Vおよびガス供給部12Gの駆動を制御することによって、マスク洗浄装置12内が、成膜装置11と同程度に減圧されている。また、薄膜Saが形成された基板Sは、基板Sに対する薄膜Saの形成が終了した後から、成膜前の基板Sが蒸着システム10内に搬入されるまでの間に、搬出入装置13を介して蒸着システム10の外部に搬出されればよい。
【0057】
図4が示すように、マスク洗浄装置12において、マスクMが通電端子12A2に接続され、マスクMの通電加熱が行われる。これにより、マスクMに堆積した堆積物Dが昇華し、マスクMに対向する回収部12Cに堆積する。この際に、制御部10Dは、通電端子12A2をマスクMに接続させる。そして、制御部10Dは、電源12A1にマスクMに対する電圧の印加を開始させる。なお、制御部10Dは、放射温度計12Bの測定結果を入力する。制御部10Dは、入力した測定結果に基づき、マスクMの温度が所定温度になるように電源12A1の駆動を制御する。
【0058】
図5が示すように、マスクMに対する通電加熱が開始されてから所定の期間が経過した後に、マスクMに対する通電加熱が終了される。この際に、制御部10Dは、例えば、電源12A1がマスクMに対する電圧の印加を開始してからの時間をカウントする。そして、制御部10Dが、マスクMに対する電圧の印加を開始してから所定の時間が経過したと判断した場合に、制御部10Dは、電源12A1にマスクMに対する電圧の印加を終了させる。マスクMの通電加熱によって、マスクMに堆積した堆積物Dが除去される。
【0059】
図6が示すように、堆積物Dが除去されたマスクMは、マスク洗浄装置12から成膜装置11に搬送される。また、成膜前の基板Sが蒸着システム10内に搬入される。この際に、制御部10Dは、成膜装置11とマスク洗浄装置12との間に位置するゲートバルブ10Cを開かせる。次いで、制御部10Dは、マスク搬送部10BにマスクMをマスク洗浄装置12から成膜装置11に搬送させる。そして、制御部10Dは、成膜装置11のなかで蒸着源11Aと対向する位置において、マスク搬送部10BにマスクMを固定させる。
【0060】
また、制御部10Dは、搬出入装置13に基板Sが搬入された後に、排気部13Vに搬出入装置13内を減圧させ、かつ、必要に応じてガス供給部13Gに搬出入装置13内に所定の流量のガスを供給させる。そして、図2から図6を参照して説明した処理が、蒸着システム10において処理される基板Sの枚数分だけ繰り返される。
【0061】
上述した蒸着システム10によれば、例えば、以下の薄膜Saを形成することが可能である。蒸着システム10は、シリコン系太陽電池が備える電極として機能する薄膜Saを形成することや、タッチパネルが備える電極として機能する薄膜Saを形成することが可能である。シリコン系太陽電池の電極、および、タッチパネルの電極は、いずれも所定のパターンを有している。そのため、蒸着システム10において用いられるマスクMが、これら電極の形状に応じた開口を有することによって、蒸着システム10によって、各電極を形成することが可能である。
【0062】
以上説明したように、成膜システム、および、成膜方法の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)マスク洗浄装置12によって堆積物Dが除去されたマスクMを再び成膜装置11での成膜に用いることが可能である。そのため、マスクMの利用効率を高めることが可能である。
【0063】
(2)加熱部12AがマスクMを加熱する度合いをマスクMの温度によって管理するため、マスクMの温度を管理しない場合に比べて、マスクMに堆積した堆積物Dが除去される確度を高めることが可能である。また、成膜装置11へ搬出する際のマスクMの温度管理も可能である。
【0064】
(3)マスクMから放出された堆積物Dが、マスク洗浄装置12における回収部12C以外の部分に飛散することが抑えられる。
(4)マスクMの通電加熱によって通電端子12A2が加熱されることが抑えられるため、加熱による通電端子12A2の変形が抑えられる。
【0065】
(5)蒸着法によって成膜を行う蒸着システム10において、マスクMの利用効率を高めることが可能である。
【0066】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[加熱部]
・マスク洗浄装置12は、通電加熱によってマスクMを加熱する加熱部12Aに代えて、誘導加熱によってマスクMを加熱する加熱部を備えてもよい。あるいは、マスク洗浄装置12は、通電加熱によってマスクMを加熱する加熱部12Aと、誘導加熱によってマスクMを加熱する加熱部との両方を備えてもよい。この場合であっても、蒸着システム10が、マスクMを加熱する加熱部を備えるため、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。なお、誘導加熱によっても上述した通電加熱と同等の効果を得ることが可能である。
【0067】
また、熱効率の観点では、堆積物が導電性を有する場合には、誘導加熱によってマスクMを加熱することが、通電加熱によってマスクMを加熱するよりも有利である。通電加熱では、堆積物を加熱する経路がマスクMからの伝熱のみであるのに比べて、誘導加熱であれば、マスクMからの伝熱に加えて、堆積物の内部における電子の散乱によって、堆積物を直接加熱することが可能である。そのため、堆積物が導電性を有する場合には、誘導加熱を用いることが好ましい。
【0068】
[放射温度計]
・マスク洗浄装置12は、放射温度計12Bを備えていなくてもよい。この場合であっても、蒸着システム10が、マスクMに堆積した堆積物DをマスクMの加熱によって除去するマスク洗浄装置12を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。なお、マスク洗浄装置12が放射温度計12Bを備えていない場合には、制御部10Dは、予め実験などを通じて定められた所定の電圧を電源12A1に出力させることができる。
【0069】
・マスク洗浄装置12が放射温度計12Bを備えていない場合には、マスク洗浄装置12は、マスクMの抵抗を測定する抵抗測定器を備えてもよい。マスクMが導体である場合には、マスクMの温度が上昇することにともなって、マスクMの抵抗値も上昇する。そのため、マスクMの抵抗値からマスクMの温度を把握することが可能である。それゆえに、制御部10Dは、抵抗測定器の測定結果に基づいて加熱部12Aの駆動を制御することによって、抵抗測定器の測定結果から導かれるマスクMの温度が所定温度になるように加熱部12AにマスクMの加熱を行わせることが可能である。
【0070】
・マスク洗浄装置12は、放射温度計12Bの代わりに、例えば熱電対を用いた接触熱伝導を利用する接触式の温度計を備えてもよい。また、接触式の温度計を用いる場合には、温度計をマスクMに接触させずに、マスクMの近傍の温度を測定してもよい。この場合には、マスクMの近傍の温度をマスクMの温度として代用し、これによって、加熱部12Aを制御してもよい。なお、接触熱伝導を利用した温度計を用いる場合は、マスクMを固定または搬送する部材に熱電対を配置することによって、マスクMと熱電対との間の熱抵抗を下げることができ、結果として、熱応答性の高い制御を行うことが可能である。
【0071】
[回収部]
・マスク洗浄装置12は、回収部12Cを備えていなくてもよい。この場合には、回収部12Cを冷却する冷却部12Dは不要である。この場合であっても、蒸着システム10が、マスクMに堆積した堆積物DをマスクMの加熱によって除去するマスク洗浄装置12を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0072】
なお、マスク洗浄装置12が、マスク洗浄装置12内にてマスクMと対向する回収部12Cを備えない場合には、排気部12Vを回収部として機能させることも可能である。例えば、堆積物が有機物である場合は、マスクMの堆積物を洗浄するマスク洗浄装置12内に接続されたガス供給部12Gから、反応性ガス、または、堆積物に対する吸着性を有したキャリアガスを所定の流量で供給する。反応性ガスは、例えば酸素である。
【0073】
通電加熱によって加熱されたマスクMからの伝熱を受けて堆積物の温度は上昇し、活性化エネルギーを得た堆積物と、反応性ガスまたはキャリアガスとの反応が開始され、また促進される。これによって、反応生成物に変化した堆積物は気体となり、マスクMから離脱することによって、排気部12Vよって回収される。
【0074】
また、堆積物の温度が蒸気圧以上であれば、マスクMの表面だけでなく、気相中でも反応ガスと堆積物との反応が生じる。このように、ガス供給部12Gは、回収部の一例である排気部12Vによる堆積物の回収を補助する回収補助部の一例である。こうした構成によれば、マスクMの周囲に、マスクMから脱離した堆積物が再付着することを抑えることができ、また、堆積物が気体になることによって排気部12Vによって回収される。そのため、成膜装置11が区画する空間と、マスク洗浄装置12が区画する空間とが同一であっても、マスクMの洗浄に起因した汚染を生じることなく、マスクMの洗浄を行うことが可能である。
【0075】
なお、マスク洗浄装置12は、上述した排気部12Vと回収部12Cとの両方を備え、かつ、上述したガス供給部12Gと冷却部12Dとの両方を備えることが可能である。この場合には、マスクMの堆積物を化学的に行うこと、および、物理的に行うことが可能であるため、堆積物の洗浄に必要な時間を短くすることが可能である。また、この場合には、マスクMの洗浄ごとに回収部12Cに堆積する堆積物の量が減るため、回収部12Cに堆積した堆積物の量が所定量を超えるまでの時間を延長することができる。結果として、蒸着システム10を用いた処理の効率を向上させることができる。
【0076】
[冷却部]
・マスク洗浄装置12は、冷却部12Dを備えていなくてもよい。この場合であっても、マスクMから気化または昇華した堆積物Dは少なからず回収部12Cに付着するため、上述した(3)に準じた効果を得ることは可能である。
【0077】
・マスク洗浄装置12は、回収部12Cの温度を測定する放射温度計を備えてもよい。この場合には、制御部10Dは、放射温度計の測定結果を用いて冷却部12Dの駆動を制御することが可能である。すなわち、制御部10Dは、放射温度計の測定結果が所定温度になるように冷却部12Dに回収部12Cの冷却をさせることが可能である。
【0078】
[端子用冷却部]
・マスク洗浄装置12は、端子用冷却部12Eを備えていなくてもよい。この場合であっても、蒸着システム10が、マスクMに堆積した堆積物DをマスクMの加熱によって除去するマスク洗浄装置12を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0079】
[搬送部]
・蒸着システム10は、マスク搬送部10Bに加えて、マスク搬送部10Bとは別体のマスク配置部を備えてもよい。この場合には、マスク配置部は成膜装置11に位置し、かつ、基板Sと蒸着源11Aとの間にマスクMを配置することが可能であればよい。
【0080】
・蒸着システム10は、マスクMを成膜装置11からマスク洗浄装置12に向けて搬送する第1マスク搬送部と、第1マスク搬送部とは別体であって、かつ、マスクMをマスク洗浄装置12から成膜装置11に向けて搬送する第2マスク搬送部とを備えてもよい。
【0081】
・蒸着システム10は、基板搬送部10Aに加えて、基板搬送部10Aとは別体の基板配置部を備えてもよい。この場合には、基板配置部は成膜装置11に位置し、かつ、蒸着源11Aと対向する位置に基板Sを配置することが可能であればよい。
【0082】
・蒸着システム10は、基板Sを搬出入装置13から成膜装置11に向けて搬送する第1基板搬送部と、第1基板搬送部とは別体であって、かつ、基板Sを成膜装置11から搬出入装置13に向けて搬送する第2基板搬送部とを備えてもよい。
【0083】
[マスク洗浄装置]
・マスク洗浄装置12は、複数枚のマスクMを保管することが可能な保管部を備えてもよい。この場合には、蒸着システム10を大気に開放することなく、成膜に用いるマスクを第1のマスクから第2のマスクに交換することが可能である。また、1つのマスクMを洗浄している際に、他のマスクMを用いて基板Sに対する成膜を行うことも可能である。そのため、マスクMの洗浄を行う頻度を高めたり、蒸着システム10のメンテナンスのために成膜を行うことができない期間を短くしたりすることが可能である。なお、保管部に保管された複数のマスクMには、マスクMが有する開口のパターンが互いに異なるマスクMが含まれてもよい。この場合には、例えば、第1のパターンを有するマスクMを用いて第1のパターンを有する薄膜を基板Sに形成し、かつ、第2のパターンを有するマスクMを用いて第2のパターンを有する薄膜を基板Sに形成することが可能である。
【0084】
・マスク洗浄装置12は、成膜装置11とは異なる空間を区画しなくてもよい。すなわち、マスク洗浄装置12を構成する機能部は、成膜装置11に搭載されてもよい。これにより、マスクMを成膜装置11から移動させることなく、成膜装置11内においてマスクMの洗浄を行うことが可能である。そのため、蒸着システム10は、マスク搬送部10Bを備えなくてもよい。また、蒸着システム10が成膜装置11とは異なる空間を区画するマスク洗浄装置12を有しない分だけ、蒸着システム10の設置面積を小さくすることが可能である。
【0085】
この場合には、成膜装置11内に基板Sが位置する状態でマスクMの加熱を行ってもよいし、成膜装置11内に基板Sが位置しない状態でマスクMの加熱を行ってもよい。このうち、成膜装置11内に基板Sが位置する状態でマスクMの加熱を行う場合には、マスクMと基板Sとの距離が小さいため、マスクMからの輻射による基板Sの加熱を抑えることが好ましい。特に、基板Sが樹脂製などである場合には、マスクMの温度を正確に制御する必要がある。そのため、マスク洗浄装置12が放射温度計12Bを備えれば、マスクMの温度を管理することができる点で有利である。
【0086】
[蒸着システム]
・蒸着システム10には、複数のマスクMが適用されてもよい。この場合には、第1のマスクを用いて成膜装置11での成膜を行うことと、第2のマスクの洗浄をマスク洗浄装置12において行うこととを同時に行うことが可能である。そして、第1のマスクに堆積した堆積物の量に応じて、第1のマスクの洗浄をマスク洗浄装置12において行う際に、第2のマスクを用いて成膜装置11での成膜を行うことが可能である。
【0087】
・蒸着システム10は、搬出入装置に代えて、搬入装置と搬入装置とは異なる搬出装置とを備えてもよい。この場合には、蒸着システムにおいて、搬入装置、成膜装置11、マスク洗浄装置12、および、搬出装置が1つの方向に沿って並んでいればよい。
【0088】
・蒸着システム10は、搬出入装置13を備えていなくてもよい。この場合であっても、蒸着システム10が、マスクMの開口Maを通じて基板Sに成膜する成膜装置11と、マスクMに堆積した堆積物DをマスクMの加熱によって除去するマスク洗浄装置12とを備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることは可能である。
【0089】
・蒸着システム10は、搬出入装置13、成膜装置11、および、マスク洗浄装置12以外の処理室をさらに備えてもよい。蒸着システム10は、例えば、成膜装置11において行われる成膜処理よりも前に行われる処理を行うための処理装置、および、成膜処理よりも後に行われる処理を行うための処理装置などを備えてもよい。
【0090】
・蒸着システム10は、成膜装置11とマスク洗浄装置12とを含む1つの真空槽を備えてもよい。この場合には、蒸着源11Aから放出された蒸着材料が通電端子12A2や回収部12Cに付着したり、マスクMから昇華した堆積物Dが基板Sに付着したりすることが抑えられる程度に、基板Sの配置される位置と、マスクMが洗浄される際にマスクMが配置される位置とが離れていることが好ましい。
【0091】
図7が示すように、蒸着システムは、ロールツーロール方式の蒸着システムでもよい。
図7が示すように、蒸着システム20は、シート搬送部21とマスク搬送部22とを備えている。シート搬送部21は、成膜対象の一例であるシートShを搬送する。シートShは、例えば、帯状を有した樹脂シートである。マスク搬送部22は、帯状を有するマスクMを搬送する。
【0092】
シート搬送部21は、成膜ロール21A、巻出しロール21B、および、巻取りロール21Cを備えている。シート搬送部21は、巻出しロール21Bから巻き出されたシートShが、成膜ロール21Aを通って巻取りロール21Cによって巻き取られるようにシートShを搬送する。
【0093】
マスク搬送部22は、複数の搬送ロール22Aを備えている。本変更例では、マスク搬送部22は、4つの搬送ロール22Aを備えている。マスク搬送部22は、4つの搬送ロール22Aによって、帯状のマスクMを循環させている。マスク搬送部22は、帯状を有したマスクMの一部を成膜ロール21Aに沿って搬送されるシートShの一部に対向させるようにマスクMを搬送する。
【0094】
蒸着システム20は、蒸着源23を備えている。蒸着源23は、成膜ロール21Aと対向する位置に配置されている。蒸着源23は、成膜源の一例である。マスク搬送部22は、蒸着源23とシートShとの間にマスクMを配置する。本実施形態の蒸着システム20では、成膜ロール21A、マスク搬送部22、および、蒸着源23が、成膜装置を構成している。
【0095】
蒸着システム20は、加熱部24を備えている。加熱部24は、電源24Aと通電端子24Bとを備えている。加熱部24は、マスクMの搬送方向において、蒸着源23が蒸着物質を放出する位置とは異なる位置に配置されている。加熱部24は、通電加熱によってマスクMを加熱する。蒸着システム20は、上述した蒸着システム10と同様、放射温度計25、および、制御部20Aを備えている。本変更例では、マスク搬送部22、および、加熱部24が、マスク洗浄装置を構成している。なお、蒸着システム20は、上述した蒸着システム10と同様、冷却部、回収部、および、通電端子24Bを冷却する端子冷却部を備えることができる。
【0096】
このように、蒸着システム20も、マスクMを用いてシートShに成膜する成膜装置と、マスクMに堆積した堆積物をマスクMの加熱によって除去するマスク洗浄装置とを備えるため、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0097】
[成膜システム]
・成膜システムは、蒸着法とは異なる成膜方法を用いて基板に成膜する成膜装置を備えてもよい。例えば、成膜装置は、スパッタ装置でもよいし、CVD装置でもよい。
【符号の説明】
【0098】
10,20…蒸着システム、10A…基板搬送部、10B,22…マスク搬送部、10C…ゲートバルブ、10D,20A…制御部、11…成膜装置、11A,23…蒸着源、11G,12G,13G…ガス供給部、11V,12V,13V…排気部、12…マスク洗浄装置、12A,24…加熱部、12A1,24A…電源、12A2,24B…通電端子、12B,25…放射温度計、12C…回収部、12D…冷却部、12E…端子用冷却部、13…搬出入装置、21…シート搬送部、21A…成膜ロール、21B…巻出しロール、21C…巻取りロール、22A…搬送ロール、D…堆積物、M…マスク、Ma…開口、S…基板、Sa…薄膜、Sh…シート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7