(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-29
(45)【発行日】2023-06-06
(54)【発明の名称】着色が小さい糖液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/14 20060101AFI20230530BHJP
C13K 1/08 20060101ALI20230530BHJP
C12G 3/08 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
C12P19/14 Z
C13K1/08
C12G3/08 102
(21)【出願番号】P 2019554246
(86)(22)【出願日】2018-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2018042092
(87)【国際公開番号】W WO2019098221
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2017222842
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷沢 茂紀
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-061973(JP,A)
【文献】特開2014-129334(JP,A)
【文献】特開平08-056642(JP,A)
【文献】特開2017-012126(JP,A)
【文献】特開平6-261781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/14
C13K 1/08
C12G 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、及び前記水中における米とαアミラーゼとの反応物からなる糖液であって、該糖液における可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、該糖液におけるエキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上である、糖液:
ただし、米とαアミラーゼとの反応物を得る反応は、米、αアミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、90°C~150°Cの温度において1分~3.5分の時間にわたり行われる反応であり、
米、αアミラーゼ及び水から液化液又は乳化液を得る際の液化時間は15秒~30分であり、液化温度は55°C~80°Cである。
【請求項2】
請求項1に記載の糖液をさらに濃縮及び/又は保存の処理をして得られる糖液であって、該糖液における、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上であり、前記濃縮は濃縮前の糖液の体積の90%を下回らない体積にまで濃縮する濃縮であり、前記保存は55°C~70°Cにおける20分間~22時間の保存である、糖液。
【請求項3】
米が粳米又はビール米の米粉を含有する、請求項1又は2に記載の糖液。
【請求項4】
調味料又は飲食品の製造に用いられる、請求項1~3のいずれかに記載の糖液。
【請求項5】
調味料又は飲食品がみりんである請求項4に記載の糖液。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の糖液を用いる調味料又は飲食品の
製造方法。
【請求項7】
調味料又は飲食品がみりんである請求項6に記載の
製造方法。
【請求項8】
糖液の製造方法であって、
米、アミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、
90°C~
150°Cの温度において1分~3.5分の時間にわたり行われる反応により、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が全量に対して43重量%以上である反応物を生成し、
該反応物を糖液とする、製造方法:
ただし米、アミラーゼ及び水から液化液又は乳化液を得る際の液化時間は15秒~30分であり、液化温度は55°C~80°Cである。
【請求項9】
米とアミラーゼとの反応物である、請求項1~5のいずれかに記載の糖液の原料であって、(該反応物中のエキス分の量[重量%])/(該反応物中の可溶性タンパク質の量[w/v%])の値が2000以上である、前記原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米を原料とする、可溶性タンパク質の量が少なくエキス分に含まれる糖分の量が多い糖液、該糖液を用いる調味料又は飲食品、及び該糖液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調味料や飲食品の製造に原料として用いられる糖液は糖化液とも称され、澱粉含有材料の液化及び糖化により製造される。例えばみりん製造に使用する糖液の製造には、通常、米粒を用いて、酵素存在下、タンクを用いてポンプ送液により米粒と酵素を含む液を循環させながら加熱攪拌して、液化及び糖化が実施される。
かかる糖液一般についてはその製造方法も含め、すでに報告がなされている(特許文献1~6)。
特許文献1には生米と水の混合物を高温高圧処理した後、45~50°Cで酵素反応をする米糖化液の製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には澱粉、液化酵素、高濃度糖化液に対応する量の水を混練し、加熱処理した後、澱粉糖化酵素で処理する澱粉からの高濃度糖液の製法が開示されている。
特許文献3には液化酵素を添加する液化処理を2段階で行った後、糖化して得られる穀物の糖化液が開示されている。
特許文献4には糖化液から酸処理で生成する沈澱とアルカリ処理で生成する沈澱の両者を除去する水飴の製造方法が開示されている。
特許文献5には酵素液化作用を比較的高温にて短時間で行う屑米粉末から水飴を得る方法が開示されている。
特許文献6には特定のアミノ酸濃度を有する米糖化液及びその製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献7には蒸気を導入しつつ加熱加圧処理を行った原料穀物に直接発酵工程を施すことを特徴とする甘味調味料の製法が開示されている。
特許文献8~10にはみりんの製造方法等についての開示がある。また、糖液及びその製造方法に関する技術について、特許文献11に報告がなされている。
【0005】
澱粉含有材料として米を用いる場合、糖液の製造過程において米に含有される澱粉以外の物質も分解され、可溶性成分として糖液に含有される。かかる可溶性成分は最終製品である調味料や飲食品には不要な成分であるため、糖液における量は少ない方が製品の歩留まりがよくなり、製造効率やコストの面において好ましい。例えばみりんにおいては、エキス分に含まれる糖分以外の、例えば可溶性タンパク質等の可溶性成分は、みりん原酒又はみりん製造後のオリ(沈殿)として除去しなければならない。しかしながら、米を原料として糖液を製造する従来の技術は、糖をより多く含むエキス分を効率的に得ることが眼目とされている一方、糖分以外の可溶性成分を減らすことの検討は少なくとも十分にはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3655880号公報
【文献】特開平6-261781号公報
【文献】特開平4-218361号公報
【文献】特開平4-131051号公報
【文献】特公昭46-5781号公報
【文献】特開2014-180249号公報
【文献】特開平7-255454号公報
【文献】特開昭56-061973号公報
【文献】特開平03-195472号公報
【文献】特開2001-169746号公報
【文献】特願2016-101547明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、従来の糖液に比較して、エキス分に含まれる糖以外の可溶性成分の主たる構成成分、例えばタンパク質成分の量がより少なく、エキス分に含まれる糖の量がより多い糖液として、米とアミラーゼとの反応物自体及び反応媒質である水からなる糖液によれば、調味料又は飲食品の製造をより効率的に行うことが可能になり、当該製造に好適である可能性があると考えた。
米を原料とする糖液として、エキス分に含まれる糖以外の可溶性成分の量が少なく、エキス分に含まれる糖の量が多い、米とアミラーゼとの反応物及び反応媒質である水からなる糖液は、これまで得られていない。現在の糖液の製造方法では、材料の配合を複数回に分け時間間隔をおいて行う必要があり、また、濃縮などの追加の工程を要するため、エキス分に含まれる糖以外の可溶性成分の量が少なくエキス分に含まれる糖の量が多い反応物は得られないのである。澱粉分解酵素を通常より多量に用いればエキス分に含まれる糖以外の可溶性成分の量とエキス分に含まれる糖の量を改変できる可能性があるが、澱粉分解酵素をより多量に用いることにより改変される度合い自体が明らかではないことや澱粉分解酵素が高価格であるといったことが包含されると考えられる理由により、このような試みは十分になされているとはいえない。
本発明においては、従来の糖液よりエキス分に含まれる糖以外の可溶性成分の量が少なく、エキス分に含まれる糖の量が多い糖液として、米とアミラーゼとの反応物及び反応媒質である水からなるもの、又は該反応物を含むものから容易に得ることができるものを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み本発明者らは、米を原料とする糖液におけるエキス分に含まれる糖以外の可溶性成分のうち、ある成分の量がエキス分に含まれる糖の量に比較して顕著に少ない糖液によれば、上記課題が解決される可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
本発明は、少なくとも以下の各発明に関する:
[1]水、及び前記水中における米とαアミラーゼとの反応物からなる糖液であって、該糖液における可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、該糖液におけるエキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上である、糖液:
ただし、米とαアミラーゼとの反応物を得る反応は、米、αアミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、90°C~150°Cの温度において1分~3.5分の時間にわたり行われる反応であり、
米、αアミラーゼ及び水から液化液又は乳化液を得る際の液化時間は15秒~30分であり、液化温度は55°C~80°Cである。
[2][1]に記載の糖液をさらに濃縮及び/又は保存の処理をして得られる糖液であって、該糖液における、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上であり、前記濃縮は濃縮前の糖液の体積の90%を下回らない体積にまで濃縮する濃縮であり、前記保存は55°C~70°Cにおける20分間~22時間の保存である、糖液。
[3]米が粳米の米粉を含有する、前記[1]又は[2]に記載の糖液。
[4]調味料又は飲食品の製造に用いられる、前記[1]~[3]のいずれかに記載の糖液。
[5]調味料又は飲食品がみりんである前記[4]に記載の糖液。
[6]前記[1]~[4]のいずれかに記載の糖液を配合して得られる調味料又は飲食品。
[7]みりんである前記[6]に記載の調味料又は飲食品。
[8]糖液の製造方法であって、
米、アミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、約90°C~約150°Cの温度において約1分~約3.5分の時間にわたり行われる反応により、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が全量に対して43重量%以上である反応物を生成し、
該反応物を糖液とする、製造方法:
ただし米、アミラーゼ及び水から液化液又は乳化液を得る際の液化時間は15秒~30分であり、液化温度は55°C~80°Cである。
[9]米とアミラーゼとの反応物である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の糖液の原料であって、(該反応物中のエキス分の量[重量%])/(該反応物中の可溶性タンパク質の量[w/v%])の値が2000以上である、前記原料。
[10] 可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が全量に対して43重量%以上であり、オリ引きがなされる前のオリ嵩が35以下である、糖液:ただし前記オリ嵩は、前記糖液を鉛直方向に均一な形状の容器に充填し、凝集体とともに入れて攪拌した後3日間室内にて静置し、液面までの高さに対する生じるオリの高さの割合([%])で示されるオリ嵩である。
オリ引きとは、糖液に火入れを行った際に発生する微小固形物であるオリを除去するための操作であり、圧搾濾過機による圧搾や清澄タンクにおける自然分離等の操作を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、可溶性成分の主たる構成成分である可溶性タンパク質の量が少なくエキス分に含まれる糖の量が多い、調味料及び飲料品に用い得る糖液が、米とαアミラーゼとの反応物として提供される。したがって本発明によれば、糖液を用いる調味料又は飲食品の製造がより効率的に行うことが可能になる。また本発明により、かかる糖液を用いる調味料及び飲食品も提供される。
本発明により、可溶性タンパク質の量が少なくエキス分に含まれる糖の量が多い、米とαアミラーゼとの反応物をエキス分として用いる糖液を製造する方法も提供される。本発明の糖液を製造する方法には、短時間で酵素反応を行うための至適な温度を当該時間と組み合わせて採用した点において、従来の方法とは顕著な差異がある。
また、本発明の糖液を飲食品や調味料に用いると、従来の同種の飲食品や調味料の味・風味と同様な味・風味を与えることができる。従来の飲食品や調味料と変わらない味・風味を与えることは、例えばみりんのような同一製品の販売期間が長い製品においてはとくに重要なことである。
さらに本発明の糖液は従来の糖液、とくに濃縮やより長い加熱時間により製造される糖液に比較して、着色が顕著に小さい。したがって、本発明の糖液は、当該糖液を用いる製品の色の自由度を高めたり、不要な着色により製品の価値を下げることがないといった効果も奏する。
上述したような本発明と従来技術の差は少なくともエキス分に含まれる糖の量及び可溶性タンパク質の量の違いにある。一方本願発明の糖液は天然物である米(粳米)を原料としその分解物を構成成分とするため、糖分及び可溶性タンパク質以外にも極めて多種の構成成分が本願発明の糖液には含有され、これらの成分の少なくとも一部は糖液の好適な味・風味の素となっているばかりでなく、複数の成分が相乗的に作用して味・風味をかもし出していると考えられる。このような味・風味の素となっている成分を逐一特定及び/又は定量して本発明の糖液の構成を明らかにしようとすることは、当該作業には膨大な時間とコストがかかることや機器分析の検出限界等を考慮すれば、不可能であるか、少なくともおよそ実際的でない。
したがって、本願発明の特徴を物のさらなる構成又は特性により直接特定することは、不可能であるか、又は実際的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】オリ嵩の測定方法の例について説明する模式図である。
【
図2】本発明の、糖液の製造方法の概略を、製造に用いられる装置の模式図により示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明をより具体的に説明する。
本発明は、水、及び前記水中における米とαアミラーゼとの反応物からなる糖液であって、該糖液における可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、該糖液におけるエキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上である、糖液である。
ただし、米とαアミラーゼとの反応物を得る反応は、米、αアミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、90°C~150°Cの温度において1分~3.5分の時間にわたり行われる反応であり、
米、αアミラーゼ及び水から液化液又は乳化液を得る際の液化時間は15秒~30分であり、液化温度は55°C~80°Cである。
本発明の糖液の製造に用いられる液化液又は乳化液は、所望の糖液を得る原料として用い得るものであれば上述した規定以外の要件によって限定されるものではない。また、前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際の液化時間及び液化温度以外の条件も限定されず本技術分野において通常採用される条件であってよい。液化液又は乳化液の原料である水、米及びαアミラーゼとを混合する方法は限定されない。本明細書において「液化」とは、酵素反応により澱粉又は糖分を分解することをその性状の変化によって表したものであり、対象が澱粉の場合には、加熱により糊化した澱粉にアミラーゼが作用して分解する現象を表す。この場合の液化の結果、澱粉鎖は大まかに切断されて、水に溶ける状態まで短くなる。本明細書においては液化の程度に応じて適宜「乳化」や「乳化物」の語を代替して用いることがある。
本発明において米とアミラーゼとの反応物である糖液とは、液化により短くなった澱粉鎖がアミラーゼ(αアミラーゼ又はグルコアミラーゼであり、好ましくはαアミラーゼである)によりさらに短く切断されて得られる糖分を含む、水性の液体を意味する。該糖液において元の澱粉の大半はブドウ糖まで分解され、一部はオリゴ糖まで分解されている。本発明の糖液には、米とアミラーゼとの反応物自体を含む元の糖液を僅かに濃縮し所望の成分構成にしたものや、前記反応物自体に含まれるオリゴ糖をさらに分解して所望の成分構成にしたものも包含される。
本発明において用いられるαアミラーゼの種類は限定されず、αアミラーゼ800(HBI株式会社製)、コクラーゼG2(三菱ケミカルフーズ製)、クライスターゼU50(大和化成社製)、スピターゼCP(長瀬産業社製)等のαアミラーゼを用いることができる。
前記濃縮には、例えば濃縮前の糖液の体積の約90%を下回らない体積にまで濃縮する濃縮が包含される。かかる濃縮を行っても、可溶性タンパク質の量が200μg/mlを越えないようにすることはいうまでもない。
また、前記オリゴ糖のさらなる分解には、液化酵素(αアミラーゼ等)による、オリゴ糖の分解において採用される通常の温度(約55°C~約70°C)における約20分~約22時間の保存時における分解が包含される。なお、前記オリゴ糖のさらなる分解を行っても、エキス分の量及び可溶性タンパク質の量は実質的に変化しない。前記オリゴ糖のさらなる分解を行っても可溶性タンパク質の量が変わらない理由については、理論に束縛されるものではないが、本発明の糖液の原料である米をαアミラーゼにより90°C~150°Cの温度、1分~3.5分の時間で糖化を行うと可溶性成分はほぼすべて溶出して可溶化し、残りの成分は不可逆的に変性(不溶化)した状態となるため、後工程の分解において可溶化する成分は存在しないか又は存在しても少量であり、エキス分や可溶性タンパク質の量は増えないためであると考えられる。そもそも当該さらなる分解の目的は原料成分の分解によるエキス分の増大ではなく、軟化、すなわちオリゴ糖の分解とともに、調味料又は飲食品の製造に用いるまでの保存時に糖液が腐敗してしまうことを防ぐこと、にすぎず、約55°C~約70°Cにおける約20分~約22時間のさらなる分解であってもエキス分の量や可溶性タンパク質を増大させるような条件で行われるものではない。
【0012】
本発明における可溶性タンパク質とは、糖液の製造過程における高温条件下において水に溶解しているタンパク質を意味する。可溶性タンパク質は、みりん原酒又はみりんにおいてはオリ(沈殿物)を生じる原因となる可溶性成分の主たる構成成分である。
本発明におけるエキス分とは酒税法による可溶性固形分を意味し、主成分として糖分及び糖分以外の可溶性タンパク質等の成分から構成される。みりんに用いられる糖液のエキス分においては、糖分の主たる構成成分はブドウ糖とオリゴ糖である。
【0013】
本発明の糖液においては、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、該糖液におけるエキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上であり、従来の米から得られる糖液に比較して、可溶性タンパク質の量がエキス分に含まれる糖分の量に対して相対的に顕著に少ない。本発明の糖液においては、エキス分の量を多くすることによって、エキス分に含まれる糖分の量が十分に多くなっている。本発明の糖液において、エキス分全体における糖分の割合は約90重量%以上であり、みりん用の糖液においては約92重量%以上である。
本発明の糖液における可溶性タンパク質の量は、好ましくは180μg/ml以下であり、より好ましくは160μg/ml以下である。糖液における可溶性タンパク質の量として、一般に約400μg/ml以下であれば実用上問題はない。
本発明の糖液におけるエキス分の量は多いほど好適であるところ、製造効率や製造コストを勘案すると好ましくは糖液全体に対して43重量%~65重量%であり、より好ましくは45重量%~65重量%である。
【0014】
本発明の糖液の可溶性タンパク質の量は本技術分野における通常の方法であれば限定されないところ、BioRad社のプロテインアッセイ試薬を用いる比色分析法による測定が例示される。
本発明の糖液におけるエキス分の量の測定方法は、本技術分野における通常の方法であれば限定されないところ、国税庁所定分析法による測定方法が例示される。当該測定方法を表す国税庁所定分析法の記載をそのまま引用して記載すると、以下のとおりである:
「検体を2倍に希釈し7-3により測定した比重をSとし、7-4で測定したアルコール分の1/2を第2表により換算した比重(15/15°C)をAとし次式によって算出する。
E=[(S-A)×260+0.21]×2
(注)途中の計算においては小数点以下5けたを四捨五入し、E値において小数点以下2けたを切り捨てる。」。
上記における「7-3により測定した比重」は「A)浮ひょう法」又は「B)振動式密度計法」(いずれの測定方法についても、国税庁訓令第1号、昭和36年1月11日、平19国税庁訓令第6号、「国税庁所定分析法」、国税庁発行の第17頁に記載されている)により測定した比重である。
また上記における「7-4で測定したアルコール分」は上記「国税庁所定分析法」の第3頁~第8頁に記載の方法により測定したアルコール分である。
【0015】
本発明の糖液には、前記のとおり米とアミラーゼとの反応物自体を含む元の糖液を僅かに濃縮し、所望の成分構成にしたものが包含されるところ、本発明の糖液のうち、濃縮の工程を経ない、米とアミラーゼとの反応物中の糖分自体を糖分とするものは製造がより容易である点において好ましい。一方、本発明の糖液のうち、米とアミラーゼとの反応物自体を含む元の糖液を濃縮の工程に付して得られるものは、成分の量を調整できる点において好ましい。
【0016】
また本発明の糖液は、米とアミラーゼとの反応物自体における糖分及び/又は可溶性タンパク質の量を、糖分の添加及び/又は前記反応物自体の希釈により微調整して得てよい。前記糖分の添加には、ブドウ糖あるいはオリゴ糖等の糖分自体の添加やエキス分がより豊富な糖液との配合が包含される。前記希釈には、水等により、例えば希釈前の糖液の体積の約105%を越えない体積にまで希釈する希釈や、エキス分の濃度がより小さい他の糖液の配合が包含される。
本発明の糖液を前記反応物自体における糖分及び/又は可溶性タンパク質の量を、糖分の添加及び/又は前記反応物自体の希釈により微調整して得る場合、(該反応物中のエキス分の量[重量%])/(該反応物中の可溶性タンパク質の量[w/v%])の値が2000以上である前記反応物自体は、本発明の糖液の製造の前駆物質として有用である(本発明[9])。
上記2000以上の数値範囲は、可溶性タンパク質の量[μg/ml]について、糖液の重量をグラムに換えてw/v%に換算し、エキス分の量[重量%]の数値との比(エキス分の量[重量%]/可溶性タンパク質の量[%])を単純計算で求めたものである。当該比は、例えば本発明の糖液においては2250以上である(43/0.02=2250)。これに対し従来の糖液においては、当該比はせいぜい1500程度である。
【0017】
本発明の糖液の原材料である米の大きさや性状は限定されず、粒米、くず米、米粉または酒糠などであってよい。原材料として米粉を含有する本発明の糖液は好ましい(本発明[3])。また、米の種類として、粳米を用いる本発明の糖液も好ましい。
本発明においてはビール米も好適に用いられる。ビール米とは、大きさや色彩がある特定の基準を満たさない選別下くず米(選別基準は大きさ(1.7 mm又は1.8 mm)及び色彩(白さ))のうち、さらに大きさや白色度合いが不足しているものを指す。
【0018】
本発明に用いられるアミラーゼは、αアミラーゼ、グルコアミラーゼ又はプロテアーゼであり、これらのアミラーゼとして高温耐性のアミラーゼであればとくに制限なく用いられる。
【0019】
本発明[4]~[7]の糖液の用途について
本発明の糖液は、調味料又は飲食品の製造に用いられる。本発明の糖液は、従来の糖液、とくに濃縮やより長い加熱時間により製造される糖液に比較して、着色が顕著に小さいため、不要な着色により当該糖液を配合して得られる製品の価値を低下させることがない。 調味料の例としては、みりん、ドレッシング、めんつゆ・なべつゆ・だしつゆ等のつゆ類、焼き肉・焼き鳥・納豆等用のたれ類等の調味料などが挙げられる。
飲食品の例としては、例えば、(1)ハム、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの畜肉加工食品、(2)かまぼこ、ちくわ、つみれ、魚肉ソーセージなどの魚肉加工食品、(3)チーズ、チーズ加工品、ヨーグルトなどの乳製品、(4)果汁類、コーヒー飲料、紅茶飲料、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳、スポーツドリンク、栄養ドリンク、サイダーなどの清涼飲料水、ビール、清酒、梅酒、リキュール、甘酒などの酒飲料などの飲料、(5)ポタージュスープ、コンソメスープ、中華風スープなどのスープ類、(6)菓子パン、フランスパン、食パンなどのベーカリー食品、(7)コーンフレーク、玄米フレークなどのシリアル食品、(8)そば、うどんなどの麺類、(9)スパゲッティー、マカロニなどのパスタ類および(10)お好焼きミックス、蒸しパンミックスなどのプレミックス粉などの粉利用食品、(11)クッキー、パイなどの洋菓子類、(12)餅菓子、くずきり、白玉粉、羊羹等の和菓子類および(13)ゼラチン、寒天、ペクチン等を使用したゼリー類などのデザート食品などが挙げられる。
本発明の糖液を用いて調味料又は飲食品を調製する方法は限定されず、本発明の糖液を他の材料に配合する工程を含む、本技術分野における通常の方法によって製造することができる。例えばみりんを製造する場合、本発明の糖液に液糖、焼酎などのアルコール類及び米麹を仕込んで醪とし、圧搾の後115°C以上の温度で火入れを行い、オリ引き、ろ過を経て製造することができる。
【0020】
本発明の糖液は、調味料であるみりんの製造にとくに好適に用いられる。可溶性タンパク質の量がエキス分の量に比較して従来のものより顕著に小さいため、みりんの製造をより高い効率及び歩留まりで行えるからである(本発明[5]及び[6])。
【0021】
本発明により、オリ引きがなされていない糖液のオリ嵩が35以下であり、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が全量に対して43重量%以上である糖液も提供される(本発明[10])。当該糖液は、製造時の乳化及び消化の条件により規定されるものではなく、かかる糖液もみりんの効率的な製造を可能にするため好ましい。
本発明の糖液のうち、該糖液から常法により調製されるみりん原酒のオリ嵩の値([%])が、35以下であるものは好ましく30以下であるものはより好ましく、25以下であるものは一層より好ましい。ここでオリ嵩の値は、オリ引きがなされていない火入れ後の糖液(みりん原酒等)を、鉛直方向の形状が実質的に一定である容器に充填し、凝集体としてのカラギーナン(例えば0.5%液を0.24ml/100mlの量で)、及び任意に活性炭(量としては例えば0.3g/100ml)とともに入れて攪拌した後3日間室内にて静置し、生じるオリの高さの生成物の液面までの高さに対する割合([%])で示されるオリ嵩であってよい(
図1)。前記容器の全体の形状は限定されず、メスシリンダーのようなガラス製円筒形状の容器などを用いてよい。該容器の大きさも限定されず、内径約2.5cm~3.5cmであり、高さ18cm~23cmであってよく、内径が約3.2cm、高さが約20cmのものは好適に用いられる。内径が3.2cmであり、高さが20cmであるガラス製円筒形状の容器は最も好ましい。
糖液を鉛直方向の形状が実質的に一定である容器に充填する際には、容器の高さの約90%の高さ又は90%より高い高さまで充填することは好ましい。
内径が3.2cmであり、高さが20cmであるガラス製円筒形状の容器を用いた場合、従来の糖液におけるオリ嵩の値は約40であり、この場合の対応する可溶性タンパク質の量は約200μg/mlである。
【0022】
本発明は本発明の糖液を用いて得られる調味料又は飲食品にも関する(本発明[6])。本発明の糖液を用いて得られる調味料の例としては、みりん、ドレッシング、めんつゆ・なべつゆ・だしつゆ等のつゆ類、焼き肉・焼き鳥・納豆等用のたれ類等の調味料などが挙げられる。
本発明の糖液を用いて得られる飲食品の例としては、例えば、(1)ハム、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボールなどの畜肉加工食品、(2)かまぼこ、ちくわ、つみれ、魚肉ソーセージなどの魚肉加工食品、(3)チーズ、チーズ加工品、ヨーグルトなどの乳製品、(4)果汁類、コーヒー飲料、紅茶飲料、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳、スポーツドリンク、栄養ドリンク、サイダーなどの清涼飲料水、ビール、清酒、梅酒、リキュールなどの酒飲料などの飲料、(5)ポタージュスープ、コンソメスープ、中華風スープなどのスープ類、(6)菓子パン、フランスパン、食パンなどのベーカリー食品、(7)コーンフレーク、玄米フレークなどのシリアル食品、(8)そば、うどんなどの麺類、(98)スパゲッティー、マカロニなどのパスタ類および(10)お好焼きミックス、蒸しパンミックスなどのプレミックス粉などの粉利用食品、(11)クッキー、パイなどの洋菓子類、(12)餅菓子、くずきり、白玉粉、羊羹等の和菓子類および(13)ゼラチン、寒天、ペクチン等を使用したゼリー類などのデザート食品などが挙げられる。
【0023】
本発明の糖液を用いて得られる調味料又は飲食品のうち、みりんは好ましい(本発明[5]及び[7])。
【0024】
本発明の糖液の製造方法は限定されないところ、例えば米、アミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液(アミラーゼ及び水から得られるスラリー状の生成物のうち、比較的粘度が高いもの)に水蒸気を吹き込み、約90°C~約150°Cの温度において約1分~約3.5分の時間にわたり行われる反応により、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が全量に対して43重量%以上である反応物を生成し、該反応物を糖液とする、製造方法により製造される。
前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際のその他の条件は、実質的に本技術分野において通常採用される条件であれば限定されない。
上記反応物である糖液をさらに濃縮及び/又は保存の処理をして得られる糖液であって、該糖液における、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が糖液全体に対して43重量%以上であり、前記濃縮は濃縮前の糖液の体積の90%を下回らない体積にまで濃縮する濃縮であり、前記保存は、反応物自体に含まれるオリゴ糖に対するαアミラーゼを含む液化酵素による分解を伴う、55°C~70°Cにおける20分間~22時間の保存である糖液は、調味料又は飲食品の製造に用いるまで保存が可能であるため好ましい(本発明[2])。前記保存時には液化酵素の添加を行っても行わなくてもよい。添加を行う場合に、用いられる液化酵素として、αアミラーゼ以外の酵素を単独又はαアミラーゼとともに、添加して用いてよい。αアミラーゼ以外の酵素としては、プロテアーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼなどが挙げられるところ、これらに限定されない。添加される前記液化酵素(追加して添加されるαアミラーゼを含む)の総量はとくに限定されず、仕込まれた米の重量の約1/1000以下であってよい。
前記保存時に液化酵素の添加を行わない場合には、反応物と共存する、糖化に用いられたαアミラーゼによる反応物に対する分解が、僅かに行われる場合がある。
本発明の糖液のうち、米とアミラーゼとの反応物を得る反応が、米、アミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、約100°C~約150°Cの温度において約1分~2分、又は約90°C~約135°Cの温度において2分より長く約3.5分の時間にわたり行われる反応である糖液は好ましい。
上記温度は、反応時間に応じて変更してよく、反応時間がより長い場合には比較的低くしてよい。例えば、反応時間を約1分~約2分とした場合、当該温度を110°C以上にすることは好ましく、反応時間を約2分~約3分とした場合には、反応温度を比較的低くし、例えば130°C以下にすることは好ましい。 米とアミラーゼとの反応物を得る反応においては、米とアミラーゼ及び水の混合物全体が均一な反応条件に付されるようにすることは好ましい。当該反応を行うに際して、米とアミラーゼ及び水の混合物に対して剪断、送液、及び/又は攪拌を行うことは好ましい。
【0025】
本発明[8](糖液の製造方法)について
本発明は以下の、糖液の製造方法にも関する:
米、アミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、約90°C~約150°Cの温度において約1分~約3.5分の時間にわたり行われる反応により、可溶性タンパク質の量が200μg/ml以下であり、エキス分の量が全量に対して43重量%以上である反応物を生成し、
該反応物を糖液とする、製造方法。ここで米、アミラーゼ及び水から液化液又は乳化液を得る際の液化時間は15秒~30分であり、液化温度は55°C~80°Cである。
液化温度は常に一定ではなくてよく、液化の間に、液化の対象である米、アミラーゼ及び水よりなる混合物全体又は部分において、約55°C~約80°Cの範囲において変動してよい。液化の際には前記混合物を攪拌して液化を行うことは好ましい。攪拌の速度や頻度は限定されない。
かかる製造方法により製造される糖液により、本発明の糖液のみならず本発明の糖液の原料になり得る糖液も製造することができる。
【0026】
理論に束縛されるものではないが、本発明の製造方法により本発明の糖液が提供されるのは、米の成分の分解が短時間で行われるためタンパク質の熱変性の度合いが従来の方法より著しく小さいため、可溶性(水可溶性)タンパク質の生成も顕著に抑制されるためであると推測される。本発明の上記製造方法においては約1分~約3.5分の時間で酵素反応が行われるのに対し、従来の方法における酵素反応は消化タンクに米とともにアミラーゼを含む原料を温水内に該温水を攪拌・循環させながら投入し、投入開始後も消化タンク全体を加温し続け80°C程度まで温度を上昇させるため、酵素反応(消化)に要する時間は約2時間にも達する、本発明の方法よりはるかに長い時間である。
従来技術においてはエキス分を高めることを指向する方法は報告されているものの、水可溶性タンパク質の生成を抑制することについては検討さえされていなかった。本発明の製造方法は、極めて短時間のうちに酵素反応を行うための至適な温度を当該時間と組み合わせて採用したことに顕著な意義がある。
【0027】
本発明の製造方法のうち、米とアミラーゼとの反応物を得る反応が、米、アミラーゼ及び水から得た液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、約100°C~約150°Cの温度において約1分~2分、又は約90°C~約135°Cの温度において2分より長く約3.5分の時間にわたり行われる反応である方法は好ましい。
上記温度は、反応時間に応じて変更してよく、反応時間がより長い場合には比較的低くしてよい。例えば、反応時間を約1分~約2分とした場合、当該温度を110°C以上にすることは好ましく、反応時間を約2分~約3分とした場合には、反応温度を比較的低くし、例えば130°C以下にすることは好ましい。反応時間を約1.5分とし、当該温度を110°C~120°Cにすることはとくに好ましい。
【0028】
本発明の製造方法に用いられる機材のうち、糖化反応装置は、高粘度(約450cps以上)の材料についての酵素反応を、所望の温度及び時間で行わしめるものであれば限定されない。かかる機材としてロタサーム(RotaTherm:登録商標)、キッズクッカー(KID’s クッカー:登録商標)、及びいわゆるジェットクッカーが例示される。
ロタサームは、従来の方法においては液化する過程で粘度が急激に上がり、ポンプ送液が不可能となってしまう材料についても、好適な剪断効果等によりポンプ送液を行うことができるため好ましい。材料の量が比較的少ない場合には、キッズクッカーも好ましく用いられる。
なお、本発明の製造方法のうち、スチームジェットをあてるといった直接的な加熱方法、又は外部から加熱する間接的な加熱方法により、液化液又もしくは乳化液を瞬時に加熱し、急速に糊化・混合して液化液又は乳化液に含有される澱粉を分解する処理を含む方法は好ましい。上述したロタサーム、キッズクッカー及びジェットクッカーは、いずれもかかる処理を行うための機材として用いることができる。
本発明の製造方法において、高粘度である液化液又は乳化液を均一に加熱処理すること及び冷却水等により液化液又は乳化液の焦げ付きを防止することを含むことは好ましい。
【0029】
本発明の製造方法の非限定的な例を
図2に模式的に示した。すなわち、まず混合タンク1に米原料である米、液化酵素(αアミラーゼ等)及び温水(約50°C~約80°C)を投入して約55°C~約80°Cの温度において液化を行い液化液又は乳化液を得る。前記投入された温水は、適宜温度を調節して約55°C~約80°Cの温度範囲の所望の温度に維持する。前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際のその他の条件は、実質的に本技術分野において通常採用される条件であれば限定されない。上記その他の条件として、
・米と温水の混合割合(重量比)は米100に対して温水約90~約125
・液化酵素使用量は米重量の約1/5500~約1/2000
・液化時間は約15秒~約30分
が例示される。生成される液化物であるスラリー状物質、すなわち液化液又は乳化液の粘度は約450~約100,000cpsである。
ロタサームは、従来の方法においては液化する過程で粘度が急激に上がり、ポンプ送液が不可能となってしまう材料についても、好適な剪断効果等によりポンプ送液を行うことができるため好ましい。材料の量が比較的少ない場合には、キッズクッカーも好ましく用いられる。
液化時間と生成物である液化液又は乳化液の粘度は逆比例するところ、液化時間が比較的短い場合(例えば15秒~20秒である場合)には製造の効率を比較的高くできるという利点がある。また液化時間が比較的長い場合(例えば約10分~約30分である場合)には粘度が比較的低い混合物が得られるため、製造の際のハンドリング性に比較的優れるという利点がある。本発明の製造方法を実施する際に用いられる機器や製造のスケジュールに応じて、液化時間を改変することは好ましい。
前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際の上記液化時間として約15秒~約20分は好ましく、約15秒~約10分はより好ましい。
前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際の温度として、約55°C~約70°Cは好ましく、約55°C~約65°Cはより好ましいことは上述のとおりである。また、液化を行う際の温度は常に一定ではなくてよく、液化の間に、液化の対象である米、アミラーゼ及び水よりなる混合物全体又は部分において、約55°C~約80°Cの範囲において変動してよいこと、及び液化の際には前記混合物を攪拌して液化を行うことは好ましいことについても上述のとおりである。 前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際の上記米と温水の混合割合(重量比)として、米100に対して温水の約90~約125の割合は好ましく、米100に対して温水約103~約119の割合はより好ましい。水の量と生成物である液化液又は乳化液の粘度は逆比例する関係にある。したがって、水の量についても、本発明の製造方法を実施する際に用いられる機器や製造のスケジュールに応じて改変することは好ましい。
前記液化液又は乳化液を得るために液化を行う際の上記液化酵素(アミラーゼ)使用量として、米重量の約1/10000~約1/2000の量は好ましく、米重量の約1/3300~約1/2000の量はより好ましく、米重量の約1/3300~約1/3000の量は一層より好ましい。アミラーゼの量と生成物である液化液又は乳化液の粘度も逆比例する関係にある。したがって、アミラーゼの量についても、本発明の製造方法を実施する際に用いられる機器や製造のスケジュールに応じて改変することは好ましい。
【0030】
続いて前記液化液又は乳化液の液化を行う(
図2)。以下においては乳化液を例としてさらに説明する。
生成された上記乳化液を移送型ミル2の装填口から糖化反応装置3に入れる。同反応装置3には高温(約170°C)の水蒸気を複数箇所から糖化反応装置3内全体に水蒸気が送達されるように常時外部から吹き込まれ、所定の温度に加熱される。水蒸気を吹き込む量や速度はとくに限定されないところ、乳化液の量や粘度、反応温度及び乳化液が送達される速度などを考慮して適宜決定してよい。乳化液を攪拌しながら同反応装置3の装填口4から排出口5の方に移動させて液化を進行させ、糖液を生成する。かかる移動の際には、反応装置3内の温度は約90°C~約150°Cの範囲の所定の温度に保たれた後、排出口5からホールド配管6内に移動する。ホールド配管6内にて当該温度に保持されながら、酵素反応が約1分~約3.5分の範囲の所定の時間にわたり連続して行われることは好ましい。
【0031】
ホールド配管6を経た後の材料をバッファータンク8に入れ液化酵素(αアミラーゼ等)を含有する環境に付して軟化、すなわちオリゴ糖の分解、を必要に応じて行うことは好ましい。バッファータンク8における保持時間は約20分間~約22時間であり、保持温度は約55°C~約70°Cであってよい(以下において「保持」を「ホールド」と表記することがある)。なお、液化酵素はαアミラーゼを含む液化酵素である。該αアミラーゼは、ホールド配管6を経た後の材料、すなわち液化液又は乳化液に水蒸気を吹き込み、90°C~150°Cの温度において1分~3.5分の時間にわたり米とαアミラーゼとの反応を行う反応(該反応を、以下において「消化」と表記して同義の反応を意味することがある)による反応物、に含有されているもののみであってよく、さらに追加して添加してもよい。
液化酵素として、αアミラーゼ以外の酵素を単独又はαアミラーゼとともに、添加して用いてよい。αアミラーゼ以外の酵素としては、プロテアーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼなどが挙げられるところ、これらに限定されない。添加される前記液化酵素(追加して添加されるαアミラーゼを含む)の総量はとくに限定されず、仕込まれた米の重量の約1/10000~約1/1000であってよい。
前記液化酵素として、αアミラーゼ、プロテアーゼ及びグルコアミラーゼを添加し併せて用いる際のこれら各液化酵素の量は、それぞれ仕込まれた米の重量の約1/30000~約1/1000であってよい。 また、バッファータンク8において軟化させる前又は後に、必要に応じて蒸発タンク7内において排出口5から排出される反応物の濃縮を行ってもよい。
図2においては蒸発タンク7がバッファータンク8において軟化させる前に反応物の濃縮を行う態様を示したが、蒸発タンク7はバッファータンク8において軟化された反応物の濃縮を行う位置に配置されていてもよい。蒸発タンク7においてはホールド配管6又はバッファータンク8を経た後の反応物に含まれている気化成分が除去される。
【0032】
本発明の製造方法により製造される糖液は、調味料又は飲食品の製造に用いられてよく、とくにみりんの製造に好適に用いられる。
本発明の糖液を用いてみりんを製造する製造方法は、糖液として本発明の糖液を用いる以外は本技術分野における通常の工程が用いられる。
【0033】
以下に例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの記載によりいかなる意味においても制限されるものではない。
【実施例】
【0034】
<実施例A>本発明の糖液の製造(実施例1~5)
(材料と方法)原料として粳米の米粉を用いた。米粉の種類として、白米を全粒粉砕した米粉を用いた。
混合タンクに米原料、液化酵素(αアミラーゼ:αアミラーゼ800(HBI株式会社製))及び約60°Cの温水を投入し、55°Cに保温して液化を行った。米と温水の混合割合(体積比)は米100に対して温水90~125であり、液化酵素は米重量の1/5000~1/2000の量を仕込んだ。
乳化(液化)は30分間行った。生成された乳化液(スラリー)の粘度は約500cps~100,000cpsであった。
【0035】
生成された上記乳化液を糖化を行う反応器(ロタサーム、Goldpeg社製)に装填口から投入し糖化反応を行った。反応は110°Cの水蒸気を複数箇所から反応器内全体に水蒸気が送達されるように常時外部から吹き込み、乳化液を攪拌しながら同反応器の装填口から排出口に移動させて行った。移動の際には、反応器内の温度は上記各所定温度に保った。
反応時間(消化時間)は、1.5分とした。
糖化完了後、排出口から排出される生成物(反応物)を蒸発タンクに移送し、同タンク内において濃縮を行い、投入した水蒸気の約10%分に相当する水分を留去した。濃縮は処理液の液温が、約90°Cから約70°Cに低下する条件で行った。
上記の冷却の後、仕込まれた米粉の重量に対してプロテアーゼ(スミチームLP(新日本化学工業社製))を1/5500添加し、ホールドタンクにて60°Cで保持しつつ、18時間程度の保存(ホールド)を行った。
【0036】
(評価)エキス分の量[重量%]を国税庁所定分析法により測定・算出した。算出には下記の式を用いた:
E(エキス分の量[重量%])=[(S-A)×260+0.21]×2
上式において、Sは元の試料を1/2に希釈して得た検体の比重を、100mlのメスシリンダーに100mlの検体を入れて重量を測ることで求めた。Aは規定に従って測定したアルコール分の1/2を換算した比重(15/15°C)を、それぞれ表す。
なお、すべての参考例及び比較例において、アルコール分は含まれていなかった。そのためエキス分の量の算出に際しては、便宜的にA=1.000として計算を行った。
可溶性タンパク質の量[μg/mL]をBioRad社のプロテインアッセイ試薬を用いた比色分析法により測定した。
【0037】
(結果)結果を表1に示す。
同表に示されるように、本発明の糖液はエキス分が多く(43.0重量%~53.3重量%)、可溶性タンパク質の量が少なかった(37.4μg/mL~140.3μg/mL)。
【表1】
なお、実施例1及び実施例2についてはみりんとして仕込みを行ったみりん原酒についてオリ嵩の測定を行ったところ、オリ嵩はそれぞれ21.9%及び18.3%であった。なおオリ嵩の測定は、前述のとおり、ガラス円筒(内径3.2cm、高さ20cm)をみりん原酒(火入れ後、オリ引き前)によりほぼ充填し、活性炭(0.3g/100ml)及び凝集体であるカラギーナン(0.5%液を0.24ml/100ml)とともに入れて攪拌した後3日間室内にて静置し、生じるオリの高さの前記みりん原酒の液面までの高さに対する割合([%])を計算することにより行った。
【0038】
<実施例B>液化温度の改変
(材料と方法)原料として粳米の米粉を用いた。
混合タンクに米原料、液化酵素(αアミラーゼ)及び温水を投入し、55°C、65°C又は80°Cに保温して液化を行った。米と温水の混合割合(体積比)は米100に対して温水119であり、液化酵素は米重量の1/5000~1/3300の量を仕込んだ。
乳化(液化)は30分間行った。生成された乳化液(スラリー)の粘度は約500cpsであった。
【0039】
生成された上記乳化液を糖化を行う反応器(ロタサーム、Goldpeg社製)に装填口から投入し糖化反応を行った。反応は110°Cの水蒸気を複数箇所から反応器内全体に水蒸気が送達されるように常時外部から吹き込み、乳化液を攪拌しながら同反応器の装填口から排出口に移動させて行った。移動の際には、反応器内の温度は上記各所定温度に保った。
反応時間(消化時間)は、1.5分とした。
糖化完了後、排出口から排出される生成物(反応物)を蒸発タンクに移送し、同タンク内において濃縮を行い、投入した水蒸気の約10%分に相当する水分を留去した。濃縮は処理液の液温が、約90°Cから約70°Cに低下する条件で行った。
上記の冷却の後、仕込まれた米粉の重量に対してプロテアーゼ(スミチームLP(新日本化学工業社製))を1/5500添加するか(実施例8)又は添加せず(実施例6及び7)、ホールドタンクにて60°Cで保持しつつ、18時間程度の保存(ホールド)を行った。
(評価)実施例Aにおいて示した方法と同じ方法により評価を行った。
【0040】
(結果)結果を表2に示す。
同表に示されるように、本発明の糖液はエキス分が多く(44.7重量%~46.8重量%)、可溶性タンパク質の量が少なかった(3.1μg/mL~166μg/mL)。
以上の結果から、本発明の糖液について、液化の際の温度は少なくとも、55°C~80°Cであればよいことが確認された。
【表2】
【0041】
<実施例C>保持の影響がないことの確認
【0042】
(材料と方法)原料として粳米の米粉を用いた。酒造好適米を精米する工程で発生した米粉を用いた。
混合タンクに米原料、液化酵素(αアミラーゼ:αアミラーゼ800(HBI株式会社製))及び温水を投入し、55°Cに保温して液化を行った。米と温水の混合割合(体積比)は米100に対して温水119であり、液化酵素は米重量の1/5000の量を仕込んだ。
乳化(液化)は30分間行った。生成された乳化液(スラリー)の粘度は約500cpsであった。
【0043】
生成された上記乳化液を糖化を行う反応器(ロタサーム、Goldpeg社製)に装填口から投入し糖化反応を行った。反応は110°Cの水蒸気を複数箇所から反応器内全体に水蒸気が送達されるように常時外部から吹き込み、乳化液を攪拌しながら同反応器の装填口から排出口に移動させて行った。移動の際には、反応器内の温度は上記各所定温度に保った。
反応時間(消化時間)は、1.5分とした。
糖化完了後、排出口から排出される生成物(反応物)を蒸発タンクに移送し、同タンク内において濃縮を行い、投入した水蒸気の約10%分に相当する水分を留去した。濃縮は処理液の液温が、約90°Cから約70°Cに低下する条件で行った。
上記の冷却の後、液化酵素を添加せずにホールドタンクにて60°Cで保持しつつ、18時間程度の保存(ホールド)を行った。
(評価)実施例Aにおいて示した方法と同じ方法により評価を行った。サンプリングは18時間程度の保存の前と後の両方において行った。
【0044】
(結果)結果を表3に示す。
同表に示されるように、18時間の保存を経ても本発明の糖液において所望のエキス分の量及び可溶性タンパク質の量が達成されることが確認された。
【表3】
【0045】
<実施例D>液化時間及び保持時間の確認
(材料と方法)
原料として粳米の米粉を用いた。
混合タンクに米原料、液化酵素(αアミラーゼ:αアミラーゼ800(HBI株式会社製))及び70℃の温水を投入し、混合を行った。米と温水の混合割合(重量比)は米100に対して温水100であり、液化酵素は米重量の1/2000を添加した。
混合から加熱までの時間は15秒、10分又は20分であった。生成された乳化液(スラリー)の粘度は約10万cpsであった。
生成された上記乳化液を糖化を行う反応機(ロタサーム、Goldpeg社製)に装填口から投入し糖化反応を行った。反応は110℃のとなるように水蒸気を複数個所から反応器全体に水蒸気が送達されるように常時外部から吹き込み、乳化液を攪拌しながら同反応器の装填口から排出口に移動させて行った。移動の際には、反応器内の温度は上記各所定温度に保った。
反応時間(消化時間)は1.5分とした。
糖化完了後、排出口から排出される生成物(反応物)を蒸発タンクに移送し、同タンク
内において濃縮を行い、投入した水蒸気の約10%に相当する水分を留去した。濃縮は、
処理液の液温が約110℃から70℃に低下する条件で行った。
上記の冷却の後、米粉比でαアミラーゼを1/10000、グルコアミラーゼを1/10000、プロテアーゼを1/10000量をそれぞれ添加し、ホールドタンクにて65℃で保持しつつ、16時間程度又は22時間程度の保存(ホールド)を行った。
(評価)実施例Aにおいて示した方法と同じ方法により評価を行った。
【0046】
(結果)結果を表4に示す。
液化が30分より短い場合であっても、本発明の糖液は製造されることが明らかになった。
【表4】
【0047】
<実施例E>製造機器の変更:キッズクッカー(KID's クッカー:液体加熱滅菌装置)による糖液の製造
(材料と方法)生成された液化液(乳化液)の糖化を行う反応器として、キッズクッカー(大川原製作所製)を用いた以外は、上記各実施例と同様な方法により糖液の製造を行った。
【0048】
(評価)エキス分の量[重量%]を国税庁所定分析法により測定した。
(結果)結果を表5に示す。同表に表わされるように、キッズクッカーを用いる本発明の製造方法によってエキス分が高い糖液を作製することができた。
【表5】
【0049】
<実施例F>本発明の調味料(みりん)の製造及び評価
(材料と方法)実施例1及び実施例2に示した糖液を用い、通常の方法によりみりんを製造した。
(評価)上記のようにして製造されたみりんの色度を分光光度計(島津製作所製、UV-1600)を用いて測定した(OD430nm)。
【0050】
(結果)実施例1の糖液及び実施例2の糖液を用いて製造されたみりんの色度は、それぞれで0.163及び0.158であり、本発明の糖液を用いない従来のみりんの色度(約0.316)より顕著に小さかった。
本発明の糖液を用いて製造される調味料等の製品においては不要な着色がなく、製品の価値が低下しないことが明らかになった。このことは、本発明の糖液における着色が従来の糖液に比較して顕著に小さいことによるものであると考えられた。
【0051】
[実施例A-1]
(材料と方法)原料として粳米の米粉を用いた。
混合タンクに米原料、液化酵素(αアミラーゼ:αアミラーゼ800(HBI株式会社製))及び温水を投入し、80℃に加温して液化を行った。米と温水の混合割合(重量比)は米100に対して温水110であり、液化酵素は米重量の1/3300の量を仕込んだ。
乳化は10分間行った。生成された乳化液(スラリー)の粘度は約500cpsであった。
【0052】
生成された上記乳化液を糖化を行う反応器(ロタサーム、Goldpeg社製)に装填口から投入し糖化反応を行った。反応は110℃の水蒸気を複数箇所から反応器内全体に水蒸気が送達されるように常時外部から吹き込み、乳化液を攪拌しながら同反応器の装填口から排出口に移動させて行った。移動の際には、反応器内の温度は上記各所定温度に保った。
反応時間(消化時間)は、1.5分とした。
糖化完了後、排出口から排出される生成物(反応物)を蒸発タンクに移送し、同タンク内において濃縮を行い、投入した水蒸気の約10%分に相当する水分を留去した。濃縮は処理液の液温が、約90℃から約に低下する条件で行った。
【0053】
(評価)エキス分の量[重量%]を国税庁所定分析法により測定・算出した。算出には下記の式を用いた:
E(エキス分の量[重量%])=[(S-A)×260+0.21]×2
上式において、Sは元の試料を1/2に希釈して得た検体の比重を、100mlのメスシリンダーに100mlの検体を入れて重量を測ることで求めた。Aは規定に従って測定したアルコール分の1/2を換算した比重(15/15°C)を、それぞれ表す。
なお、すべての実施例及び比較例において、アルコール分は含まれていなかった。そのためエキス分の量の算出に際しては、便宜的にA=1.000として計算を行った。
可溶性タンパク質の量[μg/mL]をBioRad社のプロテインアッセイ試薬を用いた比色分析法により測定した。
さらに色度を分光光度計(島津製作所製、UV-1600)を用いて測定した(OD430nm)。
【0054】
[実施例A-2~A-4]
消化温度をそれぞれ順に120°C、130°C及び140°Cとした以外は実施例A-1と同様にして糖液を製造した。エキス分の量[重量%]、可溶性タンパク質の量[μg/mL]、及び色度[OD430nm]も実施例A-1と同様に測定した。
[実施例B-1~B-4]
消化時間を3.0分とした以外は、それぞれA-1~A-4と同様の手順により、実施例B-1~B-4の糖液を製造した。エキス分の量[重量%]、可溶性タンパク質の量[μg/mL]、及び色度[OD430nm]も実施例A-1~A-4と同様に測定した。
【0055】
[比較例]
消化温度を95°Cとした以外は実施例A-1と同様にして糖液を製造し、比較例1の糖液を得た。また、消化時間を3.0分とした以外は実施例A-4と同様にして糖液を製造し、比較例2の糖液を得た。
もち米及び粳米を原料として得た実製造液をそれぞれ比較例3及び4とした。
【0056】
(2)調味料(みりん原酒)
さらに各実施例及び比較例1~3の糖液を用いてみりん原酒を製造し、それぞれについてオリの発生をオリ嵩を測定して評価した。
オリ嵩の測定は、ガラス円筒(内径3.2cm、高さ20cm)をみりん原酒(火入れ後、オリ引き前)によりほぼ充填し、活性炭(0.3g/100ml)及び凝集体であるカラギーナン(0.5%液を0.24ml/100ml)とともに入れて攪拌した後3日間室内にて静置し、生じるオリの高さのみりん原酒の液面までの高さに対する割合([%])を計算することにより行った。
【0057】
(結果)結果を表6に示す。
同表に示されるように、本発明の糖液(実施例A-1~A-4及びB-1~B-4)はエキス分が多く(46.8重量%~53.0重量%)、可溶性タンパク質の量が少なかった(108.0μg/mL~141.3μg/mL)。とくに、消化時間がより短い(1.5分)実施例A-1~A-4が、エキス分の量が少なく、より好適であった。
これに対し比較例1においては、可溶性タンパク質の量が200μg/mLを僅かに下回った実施例B-1のみりん原酒のオリ嵩をはるかに上回るみりん原酒のオリ嵩を示したことから、可溶性タンパク質の量は200μg/mLより大きいと判断された。
比較例2の糖液はエキス分に含まれる糖の量が少なく、比較例3は可溶性タンパク質の量が多かった。しかし比較例2の糖液は、エキス分の量自体は42.0重量%であり43重量%に達しなかったが、エキス分の量の可溶性タンパク質の量に対する比は大きいため((A)/(B)×10000=2715)、本発明の糖液の材料として用い得る。
比較例4は色度が高かった(0.162)ことから、本発明の糖液より着色が大きく、また可溶性タンパク質の量が多いことが示唆された。
【表6】
【0058】
なお、当該みりんの味は、従来の方法により製造されたみりんと差はなかった。したがって、本発明の糖液は、みりんの製造に好適に用いられる。
【0059】
(考察)本発明の糖液は、みりんの原料とした場合に当該みりんにおけるオリの発生量を従来の糖液より顕著に減じることができることが明らかになった。
また本発明の製造方法により、本発明の糖液を高い効率により製造することができることも明らかになった。
【0060】
[例C-1] キッズクッカー(KID's クッカー:液体加熱滅菌装置)による糖液の製造
(材料と方法)原料として粳米の米粉を用いた。
混合タンクに米原料、液化酵素(αアミラーゼ:αアミラーゼ800(HBI株式会社製))及び温水を投入し、60°Cに加温して液化(乳化)を行った。米と温水の混合割合(重量比)は米100に対して温水110であり、液化酵素は米重量の1/3300の量を仕込んだ。
乳化は10分間行った。生成された乳化液(スラリー)の粘度は約500cpsであった。
【0061】
生成された上記液化液(乳化液)は糖化を行う反応器(キッズクッカー、大川原製作所製)に装填口から投入し糖化反応を行った。反応管内温度が110°Cになるように蒸気を2重管ジャケットに吹き込み、糖化の反応系を周囲から間接的に加温した。液化液は攪拌しながら同反応器の装填口から排出口に移動させて行った。移動の際には、反応管内の温度は上記各所定温度に保った。
反応時間(消化時間)は、1.5分とした。
【0062】
(評価)エキス分の量[重量%]を国税庁所定分析法により測定した。
【0063】
(結果)結果を表7に示す。同表に表わされるように、キッズクッカーを用いる本発明の製造方法によってエキス分が高い糖液を作製することができた。
本実施例の発明品は実施例A-1において採用したものと加熱温度、処理時間は同一であり、加熱装置のみが異なるだけである。このため加熱により生成する可溶性タンパク質の量は実施例A-1(52.6重量%)と同等であり、やや少ない程度であった。したがって、可溶性タンパク質の量についても、実施例A-1(121.6μg/ml)より少ない量になっている。
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、可溶性タンパク質の量が少なくエキス分の量が多い糖液として、産業に用い得るものかかる糖液を用いる調味料及び飲食品、ならびにそれらの製造方法が提供される。したがって本発明は、調味料産業及び飲食品産業ならびにこれらの産業に関連する産業の発展に貢献するところ大である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・混合タンク
2・・・移送型ミル
3・・・糖化反応装置
4・・・糖化反応装置の装填口
5・・・糖化反応装置の排出口
6・・・反応時間を維持するためのホールド配管
7・・・蒸発タンク
8・・・バッファータンク