(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】負極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20230531BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230531BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2019557226
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2018043507
(87)【国際公開番号】W WO2019107336
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017231692
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】加藤 愼治
(72)【発明者】
【氏名】清岡 隆一
(72)【発明者】
【氏名】黒木 勝仁
(72)【発明者】
【氏名】片野 聡
(72)【発明者】
【氏名】生熊 崇人
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-062974(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098070(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/002157(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0121981(US,A1)
【文献】WILAMOWSKA-ZAWLOCKA, Monika, et al.,Silicon oxycarbide ceramics as anodes for lithium ion batteries: influence of carbon content on lith,RSC ADV.,2016年10月27日,6,pp.104597-104607
【文献】KASPAR JAN et al.,Silicon oxycarbide/nano-silicon composite anodes for Li-ion batteries : Considerable influence of nano-crystalline vs. nano-amorphous silicon embedment on the electrochemical properties,Journal of Power Sources,Vol.269,2014年06月24日,p.164-p.172
【文献】S.J.WIDGEON et al.,29 Si and 13 C Solid-state NMR Spectroscopic Study of Nanometer-Scale Structure and Mass Fractal Characteristics of Amorphous Polymer Derived Silicon Oxycarbide Ceramics,CHEMISTRY OF MATERIALS,2010年12月14日,Vol.22, No.23,p.6221-p.6228
【文献】KASPER JAN et al.,Impact of the electrical conductivity on the lithium capacity of polymer-derived silicon oxycarbide (SiOC) ceramics,Electrochimica Acta,2016年08月27日,Vol.216,p.196-p.202
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/38
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素(0価を除く)と酸素と炭素からなる珪素系無機化合物(a)と、珪素(0価)(b)とを含む負極活物質であって、
前記珪素系無機化合物(a)の
29Si固体NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが+20ppm~-150ppmの範囲に複数のピークがあり、珪素(0価を除く)の化学結合状態(D単位〔SiO
2C
2〕、T単位〔SiO
3C〕、Q単位〔SiO
4〕)を示す当量構成比〔Q単位/(D単位+T単位+Q単位)〕が0.30以上0.80以下の範囲にあ
り、SiC
4
の結合構造単位に帰属するピークがあり、当量構成比〔SiC
4
結合/(SiC
4
結合構造単位+D単位+T単位+Q単位)〕が0.08~0.55の範囲にあることを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
大気中での、1000℃までの熱分解重量損失が5質量%以上60質量%以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
少なくとも、珪素(0価)の懸濁液と、ポリシロキサン化合物と、炭素源樹脂とを混合して分散後、乾燥することで前駆体(c)を得る工程1と、
前記工程1で得られた前駆体(c)を不活性雰囲気中、最高到達温度900℃以上1250℃以下の温度範囲で焼成することにより焼成物(d)を得る工程2を含むことを特徴 とする請求項1に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記工程2における不活雰囲気中での焼成を行う前に、前記工程1で得られた前駆体(c)を、酸素を含む雰囲気中200℃以上440℃以下の温度範囲で酸化処理することを特徴とする請求項
3に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記ポリシロキサン化合物が、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びにポリシロキサンセグメントと、該ポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとを有する複合樹脂であることを特徴とする請求項
3に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記炭素源樹脂が、芳香族炭化水素部位を含む樹脂であることを特徴とする請求項
3に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の負極活物質を含むことを特徴とする負極。
【請求項8】
請求項
7に記載の負極を有することを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の負極形成に用いられる負極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯電子機器の普及に伴い、小型・高容量二次電池の需要が高まっている。その中でもリチウムイオン二次電池(LIBと表記する場合がある)は、電気自動車(EV)への急速展開が進められており、産業上の利用範囲が広がり続いている。リチウムイオン二次電池の負極材として、炭素類の黒鉛活物質(天然、人工)が広く用いられているが、黒鉛の理論容量密度が低く(372mAh/g)、リチウムイオン二次電池構成技術の進化により、電池容量向上は限界に近づいている。
【0003】
このため、リチウムイオン二次電池の高容量・高エネルギー密度化のため、リチウムイオンと合金化される珪素およびそれらの酸化物を用いた珪素系材料からなる活物質が検討されている。その中、シリコンオキシカーバイド(以下、SiOCと表記する場合がある)は、SiとOとCからなるセラミックス骨格とフリー炭素から構成される材料であり、他種の高容量活物質に比べて優れた充放電のサイクル特性を有することで注目されている。しかし、構造上の制限により充放電容量と初回クーロン効率が共に低い弱点を抱えているため、SiOCは実用に至っていない。この課題解決のため、SiOCを珪素、珪素合金又は酸化珪素と複合化する手法が検討されている。例えば、特許文献1では、SiOCに対して珪素粒子、又は炭素で被覆した珪素粒子からなる活物質粒子を5~30体積%含有する複合粒子からなるリチウムイオン二次電池用負極材料が提案されている。また、珪素、珪素合金又は酸化珪素の微粒子を無機バインダーとしてのSiOCと複合化すると共に、球状又は鱗片上黒鉛を導入した珪素系無機酸化物複合体粒子も開示されている(特許文献2)。さらには、市販品のポリシラン(RD-684A)とナノシリコンn-Siとを混合し、焼成することでSiOC/n-Si複合材料を得る方法が開示されている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、導入された珪素や珪素合金は、充放電時に体積膨張・収縮の繰り返しによって微粉化が起きることで導電パスが切断されるため、サイクル特性の低下を招くことが知られている。上記の先行技術では、SiOC内の化学結合の検討が不十分であり、さらに添加相の珪素などとSiOCとの間にある構造・性能上の相関性が考慮されていないため、充放電特性の向上(充放電容量と初回クーロン効率とサイクル特性を同時に改善させることを指す)が限定的であった。
【文献】特開2016-139579号公報
【文献】特開2005-310759号公報
【文献】Jan Kaspar, et al., Silicon oxycarbide/nano-silicon composite anodes for Li-ion batteries: Considerable influence of nano-crystalline vs. nano-amorphous silicon embedment on the electrochemical properties. Journal of Power Sources, 269(2014), 164-172.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、優れた充放電特性(充放電容量、初回クーロン効率及びサイクル特性)を有する負極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、高容量化のための珪素粒子(0価珪素)活用を念頭に、充放電特性を最大限に向上させることができる珪素(0価)内包SiOC複合系活物質の構成に着目して鋭意検討を重ねた結果、珪素(0価)を内包した、珪素(0価を除く)と酸素と炭素からなる珪素系無機化合物の構造を有し、かつ、珪素(0価を除く)に特定の化学結合状態と、炭素に特定の化学結合状態と、を有することを特徴とする負極活物質が、優れた充放電特性を発揮することを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、珪素(0価を除く)と酸素と炭素からなる珪素系無機化合物(a)と、珪素(0価)(b)とを含む負極活物質であって、珪素系無機化合物(a)に存在する珪素(0価を除く)の化学結合状態(D単位〔SiO2C2〕、T単位〔SiO3C〕、Q単位〔SiO4〕)を示す当量構成比〔Q単位/(D単位+T単位+Q単位)〕が0.30以上0.80以下の範囲にあることを特徴とする負極活物質(以下、本発明の活物質と称する場合がある)に関する。
また、本発明の負極活物質を含む負極に関する。
また、本発明の負極活物質を含む負極を用いてなる電池に関する。
また、本発明の負極活物質の製造方法であって、少なくとも珪素(0価)の懸濁液と、ポリシロキサン化合物と、炭素源樹脂とを混合して分散後、乾燥することで前駆体(c)を得る工程1と、前記工程1で得られた前駆体(c)を不活性雰囲気中、最高到達温度900℃以上1250℃以下の温度範囲で焼成することにより焼成物(d)を得る工程2と、必要に応じ前記工程2で得られた焼成物(d)を粉砕および分級することで負極活物質を得る工程3を有することを特徴とする負極活物質の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
(1)優れた充放電特性を得ることができる。具体的には、充放電容量と初回クーロン効率とサイクル特性を同時に高いレベルで発現させることができる。
(2)珪素系無機化合物が優れた保護作用を果たすため、比較的大粒径の汎用珪素粒子(例えば300nm以下であれば使用可能)を用いた場合にも、得られた負極活物質が優れた充放電特性を示す。従って、汎用の粉砕技術により準備できる珪素(0価)粒子を用いた量産プロセスが適用できる。
【0008】
本発明がこのような顕著な効果を示すメカニズムは定かではないが、以下現時点で推定される事項を示す。
本発明でいう「珪素系無機化合物」は、上記背景技術で説明した「SiOC」であり、SiとOとCから構成される骨格構造とフリー炭素を共に含んだものである。それ自体が負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵・放出すると共に、珪素(0価)粒子を保護することを機能の一つとして有するものであるが、本発明の珪素系無機化合物は、SiとOとCから構成される骨格構造中にある珪素が特定の化学結合状態を有するため、珪素粒子(0価)との構造上のマッチング状態が良く;また、フリー炭素中の炭素が特定な化学結合状態で存在するため、炭素の結晶質/非晶質炭素構造のバランスが良くなり、珪素系無機化合物中においてSi-O-C骨格構造とフリー炭素が三次元的に絡み合い構造を有するため、電池負極で使用される際、当該化合物が充放電時に珪素(0価)の体積変化に柔軟に追従できると想定される。
その結果、本発明の負極活物質では、珪素系無機化合物が珪素(0価)粒子に対する有効な保護作用による導電パスの維持及び適度な体積緩衝作用を発揮するため、優れた充放電特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明は、
項1.珪素(0価を除く)と酸素と炭素からなる珪素系無機化合物(a)と、珪素(0価)(b)とを含む負極活物質であって、珪素系無機化合物(a)に存在する珪素(0価を除く)の化学結合状態(D単位〔SiO2C2〕、T単位〔SiO3C〕、Q単位〔SiO4〕)を示す当量構成比〔Q単位/(D単位+T単位+Q単位)〕が0.30以上0.80以下の範囲にある負極活物質(以下、本発明の負極活物質と称する場合がある)に関する。
項2.SiC4の結合構造単位に帰属するピークがあり、当量構成比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位+T単位+Q単位)〕が0.05~0.55の範囲にあることを特徴とする負極活物質。
項3.大気中、1000℃までの熱分解重量損失が5質量%以上60質量%以下の範囲にあることを特徴とする前記項1に記載の負極活物質に関する。
項4.本発明の負極活物質を含む負極に関する。
項5.本発明の負極活物質を含む負極を用いてなる電池に関する。
項6.本発明の負極活物質の製造方法であって、珪素(0価)の懸濁液と、ポリシロキサン化合物と、炭素源樹脂とを混合して分散後、乾燥することで混合体(c)を得る工程1と、前記工程1で得られた前駆体(c)を不活性雰囲気中、最高到達温度900℃以上1250℃以下の温度範囲で焼成することにより焼成物(d)を得る工程2と、必要に応じ前記工程2で得られた焼成物(d)を粉砕および分級することで負極活物質を得る工程3を有することを特徴とする負極活物質の製造方法に関する。
項7.前記項6中の工程2における不活性雰囲気中での焼成前に、工程1で得られた前駆体(c)を、酸素を含む雰囲気中200℃以上440℃以下の温度範囲で酸化処理することを特徴とする前記項5に記載の負極活物質の製造方法に関する。
項8.前記ポリシロキサン化合物が、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びにポリシロキサンセグメントと、該ポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとを有する複合樹脂であることを特徴とする前記項5に記載の負極活物質の製造方法に関する。
項9.前記炭素源樹脂が、芳香族炭化水素部位を含む樹脂であることを特徴とする前記項5に記載の負極活物質の製造方法に関する。
【0011】
本発明の負極活物質は、珪素系無機化合物(a)中の珪素が、特定の化学結合状態で存在することにより、柔軟な珪素系無機化合物中に珪素(0価)粒子が担持され、電池負極で使用される際、珪素(0価)粒子の膨張/収縮及び微粉化に起因した導電パスの切断が抑制されたものと推定される。また、珪素系無機化合物(a)中の炭素が特定の化学結合状態で存在することにより、通常のSiOCより高いリチウムイオン伝導率と優れた導電パスを有するため、担持されている珪素(0価)(b)の特性を長いサイクルにおいて発現することができると推定される。
【0012】
<珪素系無機化合物(a)の説明>
本発明の負極活物質に用いる珪素系無機化合物(a)は、珪素(0価を除く)と酸素と炭素からなる構造体であり、当該珪素系無機化合物(a)に存在する珪素(0価を除く)の化学結合状態を示す当量構成比〔Q単位/(D単位+T単位+Q単位)〕が0.30~0.80の範囲にあるよう調製され、上述のような優れた充放電特性を有する負極活物質を得ることができる。
【0013】
ここで、前記珪素(0価を除く)の当量構成比(珪素の化学結合状態の説明)において使用した構成単位は、珪素(0価除く)の化学結合状態の当業者に良く知られた表現方法であり、SiO2C2であるものをD単位、SiO3CであるものをT単位、SiO4であるものをQ単位として表現される。これらは29Siの固体NMR測定により容易に同定することができる。
【0014】
また、珪素系無機化合物(a)の珪素(0価を除く)の化学結合状態を示す当量構成比〔Q単位(SiO4)/(D単位(SiO2C2)+T単位(SiO3C)+Q単位(SiO4))〕がSiOCの化学構造に関与し、充放電特性を強く影響することが公知されている。Si-O-Cの骨格中に「C」相対量が増えることにつれ、即ち、SiO4に対してSiO3C、SiO2C2およびSiOC3構造の相対量が多くなることで良好なサイクル特性が得られるが、充放電容量や初回クーロン効率が低下する傾向がある。従って、SiO4構造の相対量が少ない場合(0.30未満)、充放電容量向上のためにより多量な珪素(0価)の添加が不可欠となり、充放電時に電極の大幅な体積膨張やサイクル特性の低下を回避することができない。
【0015】
一方、SiO4構造はリチウムイオンを吸蔵する機能は高いが、リチウムイオンとの反応により一部生じたLi2SiO4は化学的な安定性が高く、Li2SiO4サイトからリチウムイオンが放出されないため、不可逆容量の増大を招き、初回クーロン効率が低下する。また、Li2SiO4は電子伝導性が不良であり、導電性が低下する恐れもある。従って、珪素(0価を除く)の構成当量比〔Q単位/(D単位+T単位+Q単位)〕が0.8を超える場合には、充放電の可逆容量や初回クーロン効率の低下を招く。
【0016】
本発明の珪素系無機化合物(a)では、Si-O-C骨格構造とともにフリー炭素が存在する。フリー炭素は導電性に優れると同時に、含まれる炭素が特定な化学結合状態で存在すれば、炭素の結晶質/非晶質炭素構造のバランスが良くなり、珪素系無機化合物(a)中においてSi-O-C骨格構造とフリー炭素が三次元的に絡み合い構造が形成できるため、電池負極で使用される際、充放電時に珪素(0価)の体積変化に柔軟に追従できると考えられる。また、効果発現機構は明確でないが、一部のフリー炭素と珪素が反応したと推測しているSiC4結合成分が、当量構成比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位+T単位+Q単位)〕0.05~0.55の範囲にあることで、更に性能を向上させることが可能である。この理由は、反応性の高い珪素(0価)の周囲に存在し、副反応を抑制していると推測される。前記SiC4結合成分は、前述の29Si固体NMRスペクトルのSiC4結合構造単位に帰属するピーク(-20ppm付近)から算出できる。
【0017】
<珪素(0価)の説明>
本発明の負極活物質では、前記珪素系無機化合物(a)とともに珪素(0価)(b)を含有する。この珪素(0価)粒子の存在によって、負極の充放電容量と初回クーロン効率を向上させることができる。
【0018】
本発明で用いることができる珪素(0価)の一次粒子の大きさは、動的光散乱法で特定された平均粒径(重量分布)が20nm~500nmであり、粒径上限値に関しては、より好ましくは300nm、150nmがさらに好ましい。
【0019】
珪素(0価)粒子の表面上に酸化珪素の薄膜が存在しても良く、酸化珪素以外の金属酸化物に被膜されてもよい。この金属酸化物の種類については、特に限定されないが、酸化チタン、酸化マンガン、アルミナ、酸化亜鉛などが挙げられる。酸化物薄膜の厚みは、充放電時にリチウムイオンの伝道と電子の遷移を阻止することがなければ特に限定されないが、10nm以下であることが好ましい。また、珪素系無機化合物(a)との化学的親和性を高め、凝集を抑制する目的で珪素(0価)粒子の表面を有機系修飾基が結合されていてもよい。有機系修飾基としては、前記目的が達成できれば特に限定はないが、汎用のシランカップリングや後述するような分散剤を用いることができる。
【0020】
<熱分解重量損失についての説明>
本発明の負極活物質に用いる珪素系無機化合物(a)では、炭素の化学結合状態だけではなく、フリー炭素の存在量が充放電特性に対して大きな影響を与える。炭素の量が不十分であれば、導電性に劣り、充放電特性が悪化することがある。一方、炭素の量が多すぎると、フリー炭素自体の理論容量が低いため、活物質全体の充放電容量が低下する。
本発明の珪素系無機化合物では、Si-O-Cの骨格以外に存在するフリー炭素が大気中で熱分解されやすく、熱重量損失値によりフリー炭素の存在量を算出することができる。熱分解重量損失は、熱重量示差熱分析装置Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer(TG-DTA)を用いることで容易に同定される。一方、Si-O-C骨格中の「C」が非常に強い化学結合を有するために熱安定性が高く、酸化分解されることが非常に困難である。
【0021】
本発明でのフリー炭素が、ハードカーボンと類似する構造を有し、大気中・およそ600℃~900℃の温度範囲に熱分解されることに伴い、急激な重量減少が発生する。TG-DTA測定の最高温度は特に限定されないが、熱分解反応を徹底させるために、大気中、1000℃までの条件下でTG-DTA測定を行うのが好ましい。前述の理由により、得られた重量損失の値がフリー炭素の存在量を示す。本発明の炭素量としては、5質量%~60質量%の範囲が好ましい。
【0022】
<製法の説明>
本発明の負極活物質を製造する方法を以下説明する。
珪素(0価)の懸濁液と、ポリシロキサン化合物と、炭素源樹脂とを混合・分散後、乾燥することで前駆体(c)を得る工程1と、前記工程1で得られた前駆体(c)を不活性雰囲気中で焼成することにより焼成物(d)を得る工程2と、前記工程2で得られた焼成物(d)を粉砕することで負極活物質を得る工程3を経ることにより、本発明の負極活物質を製造することができる。
【0023】
<各工程の説明>
<工程1>
珪素(0価)の懸濁液を得る方法については、特に限定されず、市販の金属珪素微粒子を有機溶媒中に添加して懸濁液を得る方法でもよく、市販の金属珪素微粒子を粉砕加工後、有機溶媒中に珪素(0価)の懸濁液を得る方法でもよい。粉砕加工については、乾式粉砕でも良く、湿式粉砕法が加工時に珪素(0価)粒子の酸化反応を有効に阻止する効果があるため、そのまま懸濁液が得られる珪素(0価)粒子の粉砕に用いることが好ましい。粉砕装置については特に限定されないが、ジェットミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いることができる。
【0024】
本発明で用いられる珪素(0価)原料として、純度が97%以上のものが好ましく、99.0%以上がより好ましい。有機溶媒としては、特に限定されていないが、珪素(0価)と化学反応しなければ何れの炭化水素類溶剤を用いることもできる。例えば、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン;アルコール類のエタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール;芳香族のベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0025】
得られた珪素(0価)の懸濁液の濃度は特に限定されないが、5~40質量%の範囲にあり、10~30質量%に調製すればより好ましい。得られた珪素(0価)粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定されるものであり、20nm~500nmの範囲にあり、粒径上限値に関しては、300nmがより好ましく、150nmがさらに好ましい。
【0026】
また、本発明の負極活物質に用いる珪素(0価)の粉砕工程では、珪素(0価)粒子の凝集を防ぐために分散剤を用いても良い。分散剤の種類については、珪素(0価)粒子の粉砕後の凝集を防ぎ、粉砕効果が得られるならば特に限定されないが、高分子型のポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等;界面活性剤型の多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等;無機型のポリリン酸塩系等が挙げられる。
【0027】
さらに、上記の珪素(0価)粉砕工程において、シランカップリング剤を用いることもできる。シランカップリング剤は、分子内に有機材料と反応結合する官能基、及び珪素(0価)の酸化膜と反応結合する官能基を同時に有する有機ケイ素化合物であり、一般的にその構造は次のように示される:Y-R-Si-(X)3。ここで、Yは有機材料と反応結合する官能基であり、ビニル基、エポキシ基、アミノ基などがその代表例として挙げられる。Xは珪素(0価)の酸化膜と反応する官能基で、水、あるいは湿気により加水分解を受けてシラノールを生成し、このシラノールが珪素(0価)上の酸化膜と反応結合する。Xの代表例としてアルコキシ基、アセトキシ基、クロル原子などが挙げられる。
【0028】
また、分散剤やシランカップリング剤を使うと、珪素(0価)の表面が改質されることで、前駆体中の珪素(0価)粒子の分散性を向上させることができ、材料の均質化に好ましい効果を与える場合がある。
【0029】
本発明の負極活物質作製に使用されるポリシロキサン化合物としては、ポリカルボシラン、ポリシラザン、ポリシラン及びポリシロキサン構造を少なくとも1つ含む樹脂であれば特に限定はない。これら単独の樹脂であっても良く、これをセグメントとして有し、他の重合体セグメントと化学的に結合した複合型樹脂でも良い。複合化の形態がグラフト、ブロック、ランダム、交互などの共重合体がある。例えば、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントの側鎖に化学的に結合したグラフト構造を有する複合樹脂があり、重合体セグメントの末端にポリシロキサンセグメントが化学的に結合したブロック構造を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0030】
前記のポリシロキサンセグメントが、下記一般式(S-1)および/または下記一般式(S-2)で表される構造単位を有するものが好ましい。
【0031】
【0032】
【0033】
(前記一般式(S-1)及び(S-2)中、R1は芳香族炭化水素置換基又はアルキル基を表す。、R2及びR3は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
【0034】
前記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。 前記のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0035】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0036】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0037】
前記ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとしては、例えば、アクリル重合体、フルオロオレフィン重合体、ビニルエステル重合体、芳香族系ビニル重合体、ポリオレフィン重合体等のビニル重合体セグメントや、ポリウレタン重合体セグメント、ポリエステル重合体セグメント、ポリエーテル重合体セグメント等の重合体セグメント等が挙げられる。中でも、ビニル重合体セグメントが好ましい。
【0038】
前記ポリシロキサン化合物が、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントとが下記の構造式(S-3)で示される構造で結合した複合樹脂でもよく、三次元網目状のポリシロキサン構造を有してもよい。
【0039】
【0040】
(式中、炭素原子は重合体セグメントを構成する炭素原子であり、2個の珪素原
子はポリシロキサンセグメントを構成する珪素原子である)
【0041】
前記ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメントは、該ポリシロキサンセグメント中に重合性二重結合など加熱により反応が可能な官能基を有していてもよい。熱分解前にポリシロキサン化合物を加熱処理することにより、架橋反応が進行し、固体状とすることにより、熱分解処理を容易に行うことができる。
【0042】
前記重合性二重結合としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。重合性二重結合は、ポリシロキサンセグメント中に2つ以上存在することが好ましく3~200個存在することがより好ましく、3~50個存在することが更に好ましい。また、ポリシロキサン化合物として重合性二重結合が2個以上存在する複合樹脂を使用することによって、架橋反応が容易に進行させることができる。
【0043】
前記ポリシロキサンセグメントは、シラノール基および/または加水分解性シリル基を有してもよい。加水分解性シリル基中の加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、これらの基が加水分解されることにより加水分解性シリル基はシラノール基となる。前記熱硬化反応と並行して、シラノール基中の水酸基や加水分解性シリル基中の前記加水分解性基の間で加水分解縮合反応が進行することで、固体状のポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0044】
本発明で言うシラノール基とは珪素原子に直接結合した水酸基を有する珪素含有基である。本発明で言う加水分解性シリル基とは珪素原子に直接結合した加水分解性基を有する珪素含有基であり、具体的には、例えば、下記の一般式(S-4)で表される基が挙げられる。
【0045】
【0046】
(式中、R4はアルキル基、アリール基又はアラルキル基等の1価の有機基を、R5はハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基である。またbは0~2の整数である。)
【0047】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0048】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0049】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチ
ル基等が挙げられる。
【0050】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0051】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、第二ブトキシ基、第三ブトキシ基等が挙げられる。
【0052】
前記アシロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、ピバロイルオキシ、ペンタノイルオキシ、フェニルアセトキシ、アセトアセトキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ等が挙げられる。
【0053】
前記アリルオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられる。
【0054】
前記アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、2-ペテニルオキシ基、3-メチル-3-ブテニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0055】
上記一般式(S-1)および/または上記一般式(S-2)で示される構造単位を有するポリシロキサンセグメントとしては、例えば以下の構造を有するもの等が挙げられる。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
前記重合体セグメントは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて各種官能基を有していても良い。かかる官能基としては、例えばカルボキシル基、ブロックされたカルボキシル基、カルボン酸無水基、3級アミノ基、水酸基、ブロックされた水酸基、シクロカーボネート基、エポキシ基、カルボニル基、1級アミド基、2級アミド、カーバメート基、下記の構造式(S-5)で表される官能基等を使用することができる。
【0060】
【0061】
また、前記重合体セグメントは、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性二重結合を有していてもよい。
【0062】
本発明で用いるポリシロキサン化合物は、公知の方法で製造できるが、なかでも下記(1)~(3)に示す方法で製造することが好ましい。但し、これらに限定されるものではない。
【0063】
(1)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製しておき、この重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を含有するシラン化合物とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0064】
(2)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製する。また、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を含有するシラン化合物を加水分解縮合反応してポリシロキサンも予め調製しておく。そして、重合体セグメントとポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0065】
(3)前記重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を含有するシラン化合物と、ポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0066】
炭素源樹脂は、前記の前駆体作製時にポリシロキサン化合物との混和性が良く、また、不活性雰囲気中・高温焼成により炭化されることがあれば特に限定されないが、芳香族官能基を有する合成樹脂類や天然化学原料を用いることが好ましい、安価入手や不純物排除の観点からフェノール樹脂の使用がより好ましい。
【0067】
合成樹脂類としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。天然化学原料としては、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられる。
【0068】
前記の前駆体作製工程では、珪素(0価)懸濁液とポリシロキサン化合物と炭素源樹脂を均一に混合させた後、脱溶剤と乾燥を経て前駆体が得られる。原料の混合では、特に限定されないが、汎用な分散・混合の機能を有する装置を用いることができる。その中、攪拌機、超音波ミキサー、プリミックス分散機などが挙げられる。有機溶媒を溜去すことを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などを用いることができる。
【0069】
この前駆体の重量に対して、珪素(0価)の添加量を3~50質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を15~85質量%含有し、炭素源樹脂の固形分を3~70質量%に設定することが好ましく、珪素(0価)の固形分添加量を8~40質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を20~70質量%に、炭素源樹脂の固形分を3~60質量%に設定することがより好ましい。
【0070】
<工程2>
工程2は、前記の前駆体を不活性雰囲気中に高温焼成することで、熱分解可能な有機成分を完全分解させ、その他の主成分を焼成条件の精密制御により本発明の負極活物質に適した焼成物を得る工程である。具体的にいうと、原料のポリシロキサン化合物に存在する「Si-O」結合は、高温処理のエネルギーによって脱水縮合反応が進むことでSi-O-Cの骨格構造を形成すると共に、均一化分散されていた炭素源樹脂も炭化されることで、Si-O-C骨格を有する三次元構造体中にフリー炭素として転化される。
【0071】
上記工程2は前記の工程1で得られた前駆体を不活性雰囲気下、焼成のプログラムに沿って焼成するものである。最高到達温度は、設定する最高温度であり、焼成物の構造や性能に強く影響を与えるものである。本発明での最高到達温度が900℃~1250℃であることは好ましい、より好ましくは1000℃~1150℃。この温度範囲で焼成することにより、前述の珪素と炭素の化学結合状態を保有する材料の微細構造が良くでき、過高温焼成での珪素(0価)酸化も回避できることでより優れた充放電特性が得られる。
【0072】
焼成方法は、特に限定されないが、雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0073】
また、上記記載の前駆体焼成の前に、酸化処理を行っても良い。この酸化処理により、珪素(0価)の表面上に薄い酸化膜を付与させることができる。電池に用いられる時に電解液に対する珪素(0価)表面の暴露を防ぐことができ、電解液の分解を抑制する効果があることで、活物質のサイクル特性を向上させることができる。酸化処理条件については、大気中、200℃~440℃の温度範囲が好ましく、300℃~420℃がより好ましい。
【0074】
上記記載の不活性雰囲気は、特に限定されないが、酸化性ガスが含有しなければ良い。その中、窒素、アルゴンなどを用いることができるし、還元性雰囲気である窒素/水素の混合ガス、純水素、一酸化炭素なども用いることもできる。
【0075】
<工程3>
工程3は、上記の工程2で得られた焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することで本発明の負極活物質を得るものである。粉砕は目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。例えば焼成物が10mm以上の塊または凝集粒子となっていて、10μmの活物質を作製する場合はジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行い1mm程度の粒子にした後、グローミル、ボールミル等で100μmとし、ビーズミル、ジェットミル等で10μmまで粉砕する。粉砕で作製した粒子には粗大粒子が含まれる場合がありそれを取り除くため、また、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行う。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。尚、本焼成前に前駆体混合物を噴霧乾燥等により目標粒子径付近の形状に制御し、その形状で本焼成を行った場合は、もちろん粉砕工程を省くことも可能である。
【0076】
上記の製造法で得られた本発明の負極活物質の平均粒径(動的光散乱法)が500nm~50μmであることが好ましい、1μm~40μmがより好ましい、2~20μmであることがさらに好ましい。
【0077】
<負極の作製>
本発明の負極活物質は、上述の通りに優れた充放電特性を示すことから、これを電池負極として用いた時に、良好な充放電特性を発揮するものである。
具体的には、本発明の負極活物質と有機結着剤とを必須成分として、必要に応じてその他の導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ薄膜のようにして負極として用いることができる。
また、上記のスラリーに公知慣用されてる黒鉛など炭素材料を加えて負極を作製することもできる。この黒鉛など炭素材料としては、天然黒鉛、人工黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。
こうして得られる負極は、活物質として、本発明の負極活物質を含むことから、高容量かつ優れたサイクル特性を有し、さらに、優れた初回クーロン効率をも兼備する二次電池用負極となる。該負極は、例えば、前述の二次電池用負極活物質と、有機結着材であるバインダーとを、溶剤とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。
【0078】
上記有機結着剤としては、特に限定されないが、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR);エチレン性不飽和カルボン酸エステル(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、およびエチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等)からなる(メタ)アクリル共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの高分子化合物が挙げられる。
【0079】
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比率は、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、3~15質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
有機結着剤の含有比率が1質量%以上であることで密着性が良好で、充放電時の膨張・収縮によって負極構造の破壊が抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇が抑えられる。
【0081】
この際、本発明の負極活物質においては、化学安定性が高く、水性バインダーも採用することができる点で、実用化面においても扱い容易なものである。
【0082】
また、上記負極材スラリーには、必要に応じて、導電助材を混合してもよい。導電助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の負極活物質に対して1~15質量%程度とすればよい。
【0083】
また前記集電体の材質および形状については、特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0084】
上記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
【0085】
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0086】
前記集電体上に形成された負極層および集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、公知慣用されている水系のスチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR)などを用いた場合には100~130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150~450℃で熱処理することが好ましい。
【0087】
この熱処理により溶媒の除去、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間及び粒子と集電体間の密着性が向上できる。尚、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0088】
また、熱処理する後に、負極はプレス(加圧処理)しておくことが好ましい。本発明の負極活物質を用いた二次電池用負極では、電極密度が1.0~1.8g/cm3であることが好ましく、1.1~1.7g/cm3であることがより好ましく、1.2~1.6g/cm3であることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性及び電極の体積容量密度が向上する傾向があるが、密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することで珪素など体積膨張の抑制効果が弱くなるためサイクル特性が低下する。
【0089】
<フル電池の構成>
上述のように、本発明の負極活物質を用いた負極は、充放電特性に優れるため、二次電池であれば特に限定されないが、非水電解質二次電池と固体型電解質二次電池に用いることが好ましく、特に非水電解質二次電池の負極として用いた際に優れた性能を発揮するものである。
【0090】
本発明の電池は、既述の本発明の負極を用いてなることを特徴とする。例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。
【0091】
前記正極は、前記負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0092】
前記正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよく、特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
【0093】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0094】
前記電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
【0095】
本発明の電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。
尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本発明の珪素含有活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。前述したとおり、黒鉛系活物質(容量約340mAh/g前後)を主体とした合剤に少量添加し、既存負極容量を大きく上回る400~700mAh/g程度の負極容量に抑え、サイクル特性を向上させることは、もちろん可能である。
【0096】
<用途などその他説明>
本発明の負極活物質を用いた二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。
上述した本発明の負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
【0097】
<実施例>
「ポリシロキサン化合物の作製」
(合成例1:メチルトリメトキシシランの縮合物(m-1)の合成)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、メチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と略記する。)1,421質量部を仕込んで、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中にiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)0.17質量部と脱イオン水207質量部との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌して加水分解縮合反応させた。
【0098】
上記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40~60℃及び40~1.3kPaの減圧下(メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaで、最終的に1.3kPaとなるまで減圧する条件をいう。以下、同様。)で蒸留し前記反応過程で生成したメタノール及び水を除去することによって、数平均分子量1,000のMTMSの縮合物(m-1)を含有する液(有効成分70質量%)1,000質量部を得た。
【0099】
なお、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕により算出したものである。
【0100】
(合成例2:ポリシロキサン化合物(PS-1)の合成)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソプロピルアルコール(以下、「IPA」と略記する。) 150質量部、フェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」と略記する。) 105質量部、ジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」と略記する。) 277質量部を仕込んで80℃まで昇温した。
【0101】
次いで、同温度でメチルメタクリレート 21質量部、ブチルメタクリレート 4質量部、ブチルアクリレート 3質量部、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン 2質量部、IPA 3質量部及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート 0.6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ6時間で滴下し、滴下終了後、更に同温度で20時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が10,000のビニル重合体(a-1)の有機溶剤溶液を得た。
【0102】
次いで、Phoslex A-3 0.04質量部と脱イオン水 112質量部との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間攪拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a-1)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMS及びDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。次いで、この液に合成例1で得られたMTMSの縮合物(m-1)を含有する液 472質量部、脱イオン水 80質量部を添加し、同温度で10時間攪拌して加水分解縮合反応させたものを、合成例1と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノール及び水を除去し、次いで、IPA 250質量部を添加し、不揮発分が60.0質量%のポリシロキサン化合物(PS-1)の溶液1,000質量部を得た。
【0103】
(ハーフ電池の作製及び充放電特性の測定)
本発明の負極活物質を用いた評価用ハーフ電池を下記のように組立て、充放電特性を測定した。
負極活物質(8部)と導電助剤のアセチレンブラック(1部)と有機結着剤(1部、内訳:市販品SBR(0.75部)+CMC(0.25部)及び蒸留水(10部)を混合して、自転公転式の泡取り錬太郎で10分間攪拌することでスラリーを調製した。アプリケーターを用いて厚み20μmの銅箔へ塗膜後、110℃・減圧条件下で乾燥し、厚みが約40μmの電極薄膜を得た。直径14mmの円状電極に打ち抜け、20MPaの圧力下でプレスした。酸素濃度の低い(<10ppm)と水分含量の極低(露点―40°以下)であるグローボックス中においてLi箔を対極に、25μmのポリプロピレン製セパレータを介して本発明の電極を対向させ、電解液(キシダ化学、1mol/LのLiPF6、炭酸ジエチル:炭酸エチレン=1:1(容積比))を吸着させて評価用ハーフ電池(CR2032型)を作製した。
【0104】
二次電池充放電試験装置(北斗電工)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005~1.5Vに、充放電レートが0.1C(1~3回)と0.2C(4サイクル以後)にし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。初回クーロン効率とサイクル特性(本願では10サイクル時の容量維持率を指す)は以下のようにして求めた。
【0105】
初回クーロン効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)
容量維持率(10回目)=10回目の放電容量(mAh/g)/初回放電容量(mAh/g)
【0106】
(実施例1)
市販品単体シリコン粉末(高純度化学製、純度99.9%、平均粒径5μm)をMEK溶媒中に湿式粉砕することで、平均粒径が180nm、濃度が17重量%の珪素(0価)懸濁液を得た。ポリシロキサン化合物として合成例2に記載のPS-1と、炭素源樹脂としてフェノール樹脂(IF3300、DIC(株)製)と、上記で得られた珪素(0価)懸濁液を、各原料固形分(不揮発物)重さの構成比(ポリシロキサン化合物/炭素源樹脂/珪素(0価)=0.6/0.25/0.15)で混合し、均一に攪拌を行った。加熱乾燥で得られた前駆体の乾燥物を窒素雰囲気中、1100℃・2時間にて高温焼成することで黒色固形物を得、遊星型ボールミルの粉砕で黒色粉末活物質を作製した。 固体NMR(29Si、13C)の測定結果、Si元素化学結合状態の構成当量比(Q単位/(D単位+T単位+Q単位))が0.64 であり、SiC4当量比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位+T単位+Q単位)〕は0.16であった。1000℃まで/大気中にて熱分析(TG-DTA)の測定結果が25重量%の重量減少を示した。
【0107】
前記「ハーフ電池の作製及び充放電特性の測定」に記載のハーフ電池作製と測定方法と同様に、電池の作製と充放電特性の測定を行った。その測定結果は、初回放電容量が1290mAh/g;初回クーロン効率が74%;10サイクル後の容量維持率が70%との良好な充放電特性を示した。
【0108】
(実施例2~7)
実施例1と同様な作製法を用いることで、各原料の組成比(表1)で前駆体を作製して負極活物質を得た。得られた材料の構造解析データ(Si元素化学結合状態の構成当量比(Q単位/(D単位+T単位+Q単位))、SiC4当量比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位+T単位+Q単位)〕を表1に示す。
【0109】
(実施例8)
実施例4と同様な条件下で前駆体を調製後、窒素雰囲気中、1150℃・2時間にて焼成を行って活物質を得た。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0110】
(実施例9)
実施例1と同様な作製法を用いることで前駆体を調製した。大気中、350℃、2時間にて予備酸化処理後、1100℃・2時間にて高温焼成することで黒色固形物を得た。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0111】
(実施例10)
実施例1と同様な作製法を用いることで前駆体を調製した。大気中、400℃、2時間にて予備酸化処理後、1100℃・2時間にて高温焼成することで黒色固形物を得た。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0112】
(実施例11)
実施例6と同様な条件で前駆体を調製した。窒素雰囲気中、1200℃、2時間にて高温焼成を行った。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0113】
(実施例12)
実施例3と同様な条件で前駆体を調製した。窒素雰囲気中、1000℃、2時間にて高温焼成を行った。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0114】
(比較例1)
実施例6と同様な条件で前駆体を調製した。窒素雰囲気中、1250℃、2時間にて高温焼成を行った。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0115】
(実施例13~15、比較例2)
単体シリコンの粉砕粉末の平均粒径110nmを用い、表1記載の前駆体比率および焼成温度で処理し、各活物質を得た。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0116】
(実施例16~18)
単体シリコンの粉砕粉末の平均粒径110nmを用い、表1記載の前駆体比率、予備酸化処理、焼成温度で処理し、各活物質を得た。実施例1と同様に評価し、表1のデータを得た。
【0117】
表1-1
【0118】
【0119】
表1-2
【0120】
【0121】
上記表1-1は、各実施例の前駆体構成条件、表1-2は、分析結果及び充放電特性を示す。本明細書では、充放電特性優劣の判断基準は、慣用黒鉛系活物質(340mAh/g)以上の容量を有し、10サイクル時の容量維持率が60%以上である条件を満たすものが優れたもの(本発明)である。黒鉛系活物質との混合使用を考慮しても、前述評価条件で59%未満の特性であれば、十分なサイクル特性が得られないと判断した。
【0122】
(実施例19)
実施例1の条件で得られた粉末状負極活物質と黒鉛(日本黒鉛製、CGB10)との混合負極材(10:90、重量%)と導電助剤(アセチレンブラック)とバインダー(SBR,CMC)とを一定な構成比(混合負極材/導電助剤/CMC/SBR=89.5/3/2.5/5;重量%)にて蒸留水中に混合させることでスラリーを調製後、銅箔へ塗工して110℃で減圧乾燥。充放電特性の測定結果によると、初回充放電容量がそれぞれ510mAh/gと435mAh/gであり;初回クーロン効率が85%、10サイクル後の放電容量維持率が98%であった。実施例19の電池評価により、本発明の負極活物質が負極材として優れた充放電性能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の負極活物質は、珪素(0価を除く)と酸素と炭素からなる珪素系無機化合物(a)と、珪素(0価)(b)とを含む負極活物質であって、前記珪素系無機化合物(a)の29Si固体NMRスペクトルにおいてケミカルシフトが+20ppm~-150ppmの範囲に複数のピークがあり、珪素(0価を除く)の化学結合状態(D単位〔SiO2C2〕、T単位〔SiO3C〕、Q単位〔SiO4〕)を示す当量構成比〔Q単位/(D単位+T単位+Q単位)〕が0.30以上0.80以下の範囲にあることを特徴とする負極活物質であるので、それを含む負極と、正極及び電解質と組み合わせて、例えばリチウムイオン電池を構成することで、従来のそれに比べて、例えば、優れた充放電特性(充放電容量、初回クーロン効率、サイクル特性等)を有する。このため、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、モバイルパソコンなどの携帯電子機器、電気自動車、船舶、ハイブリッド自動車、航空機、ロケット、人工衛星等、小型化や軽量化が求められる各種用途に用いることができる。