(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】構造物の補強・補修方法、及び、構造物
(51)【国際特許分類】
B29C 73/04 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
B29C73/04
(21)【出願番号】P 2022576852
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012140
(87)【国際公開番号】W WO2022244432
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021083694
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】新地 智昭
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-057971(JP,A)
【文献】特開平09-184305(JP,A)
【文献】特開2000-334874(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054220(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
B29C 73/00-73/34
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の補強・補修方法において、
a)プリプレグを前記構造物の表面の形状に合わせて、積層・賦形する工程と、
b)前記積層・賦形した前記プリプレグを真空加圧する工程と、
c)前記真空加圧した前記プリプレグを加熱硬化し、前記プリプレグの硬化物を製造する工程と、
d)前記硬化物を、前記構造物の前記表面に接着する工程と、を含み、
前記プリプレグが、エチレン性不飽和基含有樹脂(A)、及び、重合開始剤(B)を含有する樹脂組成物、並びに、強化繊維(C)を含有し、
前記エチレン性不飽和基含有樹脂(A)が、ウレタン(メタ)アクリレート、及び/又は、エポキシ(メタ)アクリレートであり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートが、ポリイソシアネート化合物と、水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを含有する水酸基を有する化合物との反応物であり、前記ポリイソシアネート化合物が、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、及び、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種以上のポリイソシアネートであり、
前記重合開始剤(B)の10時間半減期温度が、60~75℃であ
り、
前記プリプレグが、120℃以下で、15分以内で硬化することを特徴とする構造物の補強・補修方法。
【請求項2】
前記プリプレグのゲルタイム(100℃)が、50~350秒であることを特徴とする請求項1記載の構造物の補強・補修方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物の溶融粘度(100℃)が、昇温速度15℃/分、及び、周波数1Hzの条件での動的粘弾性測定において、0.4~900Pa・sであることを特徴とする請求項1記載の構造物の補強・補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の補強・補修方法、及び、前記構造物の補強・補修方法により得られる構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維にて強化した強化繊維複合材料は、軽量でありながら、耐熱性や機械的強度に優れる特徴が注目され、自動車や航空機の筐体或いは各種部材をはじめ、様々な構造体用途での利用や、土木・建築材の補修用途で需要が拡大している。
【0003】
強化繊維複合材料の成形方法としては、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる中間材料を用いて、オートクレープ成形、プレス成形により、硬化・成形させる方法が用いられる。
【0004】
また、土木・建築材の補修用途では、炭素繊維シートを補修箇所に貼り付けて常温硬化の樹脂を含浸させるハンドレイアップ成形や、成形した強化繊維複合材料の成形板を補修箇所に接着材で貼り付ける成形方法が用いられている。
【0005】
前記プリプレグ用の樹脂としては、通常、常温での安定性と加熱等による硬化性を兼ね備えた樹脂であることが必要であるため、一般には、エポキシ樹脂組成物を始めとする熱硬化性樹脂が多用されている。しかしながら、エポキシ樹脂を用いたプリプレグは、硬化反応が遅いため、高い成形温度が必要となるとともに、常温でも徐々に硬化が進行してしまうため、硬化を遅延させるために冷蔵保管する必要があった。そこで、高い生産性と常温での安定性を実現できるラジカル重合性樹脂組成物の開発が進められている。
【0006】
また、既存あるいは新設の構造物の補強・補修方法として、その表面に熱硬化性樹脂が含浸されてなる補強繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりした後、常温硬化することで、構造物の補強・補修することが行われている(特許文献1参照)。
【0007】
また、近年、強化繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりした後、エポキシ樹脂等の接着含浸樹脂を含浸させながら、補強・補修する工法も実用化されているが、十分に構造物を補強するには強化繊維シートを何層も重ねて貼り付ける必要があり、工期に長期間を要する。また、施工現場にて強化繊維シートに樹脂を含浸させるため、作業者の熟練度等により、樹脂の含浸具合が異なるなどの補強・補修効果が安定して得られないといった課題が生じている。
【0008】
また、未硬化のマトリクス樹脂を連続繊維束に含浸させた繊維シートを接着した後に硬化させる工法もあるが、この工法では、マトリックス樹脂を熱硬化させる場合、高温、あるいは、低温で長時間の硬化が必要となり、高温では加熱装置や高温保持の必要性から現場施工が困難であり、低温硬化では工期に長期間を要する等の課題があった。
【0009】
更には、現場での樹脂の含浸を省略するため、工場生産した板状の繊維強化プラスチック材を、パテ状接着樹脂を用いて接着するFRPプレート接着工法も開発されている。しかしながら、こちらの工法では、板状の繊維強化プラスチック材を使用するため、凹凸や曲面を有する構造物の補強・補修に対して、対応できないといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、工期の短縮、作業性の向上に優れる構造物の補強・補修方法、及び、前記構造物の補強・補修方法を用いて得られる機械的強度に優れる構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、構造物に対して、特定のプリプレグを特定条件下で硬化させて得られる硬化物を、前記構造物と接着することで、プリプレグの速硬化性(短時間硬化性)や低温硬化性に基づく工期の短縮、作業性の向上、及び、前記硬化物を前記構造物の表面に接着し、一体化することにより、補強・補修に必要な機械的強度を有する構造物が得られる構造物の補強・補修方法を見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、構造物の補強・補修方法において、
a)プリプレグを前記構造物の表面の形状に合わせて、積層・賦形する工程と、
b)前記積層・賦形した前記プリプレグを真空加圧する工程と、
c)前記真空加圧した前記プリプレグを加熱硬化し、前記プリプレグの硬化物を製造する工程と、
d)前記硬化物を、前記構造物の前記表面に接着する工程と、を含み、
前記プリプレグが、エチレン性不飽和基含有樹脂(A)、及び、重合開始剤(B)を含有する樹脂組成物、並びに、強化繊維(C)を含有し、
前記重合開始剤(B)の10時間半減期温度が、60~75℃であることを特徴とする構造物の補強・補修方法に関する。
【0014】
本発明の構造物の補強・補修方法は、前記エチレン性不飽和基含有樹脂(A)が、ウレタン(メタ)アクリレート、及び/又は、エポキシ(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0015】
本発明の構造物の補強・補修方法は、前記ウレタン(メタ)アクリレートが、ポリイソシアネート化合物と、水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを含有する水酸基を有する化合物との反応物であることが好ましい。
【0016】
本発明の構造物の補強・補修方法は、前記ポリイソシアネート化合物が、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、及び、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種以上のポリイソシアネートであることが好ましい。
【0017】
本発明の構造物の補強・補修方法は、前記プリプレグのゲルタイム(100℃)が、50~350秒であることが好ましい。
【0018】
本発明の構造物の補強・補修方法は、前記プリプレグが、120℃以下で、かつ、15分以内で硬化することが好ましい。
【0019】
本発明の構造物の補強・補修方法は、前記樹脂組成物の溶融粘度(100℃)が、昇温速度15℃/分、及び、周波数1Hzの条件での動的粘弾性測定において、0.4~900Pa・sであることが好ましい。
【0020】
本発明は、前記構造物の補強・補修方法により得られることを特徴とする構造物に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の構造物の補強・補修方法は、構造物に対して、特定のプリプレグを用いて、特定条件下で、前記構造物と前記プリプレグを用いて得られる硬化物を一体化することで、作業性の向上、更に、補強・補修に必要な機械的強度が得られる構造物が得られ、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[プリプレグ]
本発明で用いられるプリプレグは、エチレン性不飽和基含有樹脂(A)、及び、重合開始剤(B)を含有する樹脂組成物、並びに、強化繊維(C)を含有し、前記重合開始剤(B)の10時間半減期温度が、60~75℃であることを特徴とする。前記プリプレグは、強化繊維(C)を使用することで、前記プリプレグより得られる硬化物と構造物が一体化し、優れた機械的強度が得られ、また、樹脂組成物に含有される重合開始剤(B)の半減期温度が前記範囲内であることで、施工に有利な低温硬化性と、速硬化性(短時間硬化性)を実現することができ、有用である。
【0023】
[エチレン性不飽和基含有樹脂(A)]
前記エチレン性不飽和基含有樹脂(A)は、特に制限されず、ポリマーであってもモノマーであっても構わないが、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、及び/又は、エポキシ(メタ)アクリレートであることが好ましく、更に、前記ウレタン(メタ)アクリレートやエポキシ(メタ)アクリレートと共に、スチレン化合物、単官能(メタ)アクリレート化合物、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物、ジ(メタ)アクリレート化合物、及び、不飽和ポリエステル等を含有することができる、これらは単独で用いることも、2種以上併用することもできる。これらのエチレン性不飽和基含有樹脂(A)を使用することで、得られるプリプレグは、作業性及び成形性に優れ、耐熱性等の各種物性に優れる成形品が得られることから、好ましい。
【0024】
[エポキシ(メタ)アクリレート]
前記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸無水物とを反応させて得ることができる。前記エポキシ(メタ)アクリレートを用いることで、得られるプリプレグは作業性及び成形性に優れ、耐熱性等の各種物性に優れる成形品が得られることから、好ましい。前記エポキシ(メタ)アクリレートに使用するエポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、及び、オキサゾリドン変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0025】
[ウレタン(メタ)アクリレート]
前記ウレタン(メタ)アクリレートが、ポリイソシアネート化合物と、水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有する水酸基を有する化合物との反応物であることが好ましい。前記ウレタン(メタ)アクリレートを用いることで、得られるプリプレグは、作業性及び成形性に優れ、耐熱性等の各種物性に優れる成形品が得られることから、好ましい。前記ウレタン(メタ)アクリレートとしては、耐熱性等の各種物性に優れる成形品が得られる観点から、例えば、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物からなるウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
前記ポリイソシアネート化合物としては、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、及び、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種以上のポリイソシアネートであることが好ましい。前記ポリイソシアネートを使用することで、得られるウレタン(メタ)アクリレートが耐熱性等の各種物性に優れる成形品が得られることから、好ましい。また、前記ポリイソシアネート化合物の中でも、前記ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを使用することで、前記強化繊維(C)の表面と親和性の高いポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートの芳香環多核体構造により、強化繊維(C)との密着性が向上したプリプレグ、及び、前記プリプレグを用いた硬化物が得られる。
【0027】
前記ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートは、下記一般式(1)で表されるものである。なお、これらのポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0028】
【0029】
前記ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含むポリイソシアネート化合物として用いることのできる市販品としては、東ソー株式会社製の「ミリオネート MR-100」、「ミリオネートMR-200」、万華ジャパン株式会社製の「WANNATE PM-200」、「WANNATE PM-400」、三井化学株式会社製の「コスモネートM-1500」、ダウケミカル株式会社製の「ボラネートM-595」等が挙げられる。
【0030】
前記ポリイソシアネート化合物としては、前記ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート以外に、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含有することができる。前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を使用することで、得られるウレタン(メタ)アクリレートの架橋密度を調整することができ、靭性に優れた硬化物が得られ、好ましい。
【0031】
前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)としては、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及び、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
また、前記ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、及び、前記ジフェニルメタンジイソシアネート以外には、前記ジフェニルメタンジイソシアネートのヌレート変性体、ビュレット変性体、ウレタンイミン変性体、ジエチレングリコールやジプロピレングリコール等の数平均分子量1000以下のポリオールで変性したポリオール変性体等のジフェニルメタンジイソシアネート変性体、トリレンジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート変性体、ビュレット変性体、アダクト体、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートなどを用いることができる。
【0033】
前記水酸基を有する化合物は、水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有することが好ましい。前記水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を使用することで、得られるウレタン(メタ)アクリレートは、作業性及び成形性に優れ、耐熱性等の各種物性に優れ、有用である。
【0034】
前記水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これらの水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0035】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、これらのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0036】
前記水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、前記水酸基を有する化合物中、耐熱性の観点から、35~75質量%の範囲であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0037】
前記水酸基を有する化合物は、本発明のプリプレグに用いられる樹脂組成物(固形分)中、耐熱性の観点から、30~80質量%の範囲であることが好ましく、35~75質量%であることがより好ましい。
【0038】
また、前記水酸基を有する化合物としては、得られる硬化物の靭性等がより向上することから、前記水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物以外のその他ポリオールを併用することが好ましい。
【0039】
前記その他ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、芳香族ジオールのアルキレンオキサイド付加物、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアルキレンポリオール等を使用することができる。これらのポリオールは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0040】
前記ウレタン(メタ)アクリレートの原料となる、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基(NCO)と前記水酸基を有する化合物の水酸基(OH)とのモル比(NCO/OH)は、プリプレグの硬さの安定性の観点から、0.7~1.2が好ましく、0.9~1.0がより好ましい。
【0041】
[その他のエチレン性不飽和基含有樹脂(A)]
前記ウレタン(メタ)アクリレートやエポキシ(メタ)アクリレートと共に含有(使用)することができるその他のエチレン性不飽和基含有樹脂(A)である前記スチレン化合物としては、スチレン、メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、前記単官能(メタ)アクリレート化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メチルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、フェニルフェノキシエチルアクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、フェニルメタクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート等が挙げられ、前記水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、前記ジ(メタ)アクリレート化合物としては、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、水素添加ビスフェノールAジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、9,9-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、イソソルバイドのエチレンオキサイド付加物のジメタクリレート、水素添加ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のジメタクリレート、トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物のトリメタクリレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物のテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物のヘキサメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、前記不飽和ポリエステルとしては、α,β-不飽和二塩基酸を含む二塩基酸成分と多価アルコ-ル成分、モノアルコール類の脱水縮合反応等によって、公知の方法で合成し、得られるものであり、好ましくは数平均分子量(Mn)が400~5000の範囲のものを用いることができる。
【0042】
前記不飽和ポリエステルを調整するにあたって使用される前記α,β-不飽和二塩基酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。飽和二塩基酸としては、例えばフタル酸、無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、ダイマー酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、またこれらのジアルキルエステル等の、芳香族二塩基酸、ハロゲン化飽和二塩基酸等を挙げることができる。上記飽和二基酸は、単独で使用しても、2種以上併用して用いても良く、また、全二塩基酸中、不飽和二塩基酸成分が70~100モル%に対し、飽和二塩基酸が0~30モル%であることが好ましい。多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコ-ル、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA、1,4-ブタンジオ-ル、2-メチル-1,4-ブタンジオール、2-エチル-1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA等に代表される2価フェノールとプロピレンオキシドまたはエチレンオキシドに代表されるアルキレンオキサイドとの付加物、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,2-シクロヘキサングリコール、1,3-シクロヘキサングリコール、1,4-シクロヘキサングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,6-デカリングリコール、2,7-デカリングリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等を挙げることができる。上記多価アルコールは、好ましくは、2種以上併用して用いられる。
【0043】
[重合開始剤(B)]
前記重合開始剤(B)としては、10時間半減期温度が、60~75℃であり、好ましくは60~70℃である。前記重合開始剤(B)であれば、特に制限されないが、例えば、常温(23℃)での安定性や、前記重合開始剤(B)を含有するプリプレグにより得られる硬化物の低温硬化性や成形時間短縮(速硬化性)の観点から、有機過酸化物が好ましい。
【0044】
前記有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド化合物、パーオキシエステル化合物、ハイドロパーオキサイド化合物、ケトンパーオキサイド化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカーボネート化合物、パーオキシケタール等が挙げられ、成形条件に応じて適宜選択できる。なお、これらの重合開始剤(B)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0045】
前記有機過酸化物の10時間半減期温度が、60~75℃の範囲内であれば、プリプレグの常温でのライフが長く、また加熱により短時間(15分以内)で硬化(速硬化性)ができ、施工時に有利な低温硬化性を有するため好ましく、本発明のプリプレグを使用することで、硬化性と成形性がより優れたものとなる。このような重合開始剤としては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-アミルパーオキシイソブチレート、tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジイソノナノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジコハク酸ペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジイル=ビス(2-エチルペルオキシヘキサノアート)、tert-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジエチルアセテート等が挙げられるが、これらの中でも、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジラウロイルパーオキサイド、ジコハク酸ペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジイル=ビス(2-エチルペルオキシヘキサノアート)、tert-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の10時間半減期温度が60~70℃である有機過酸化物が好ましく、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが特に好ましい。
【0046】
前記重合開始剤(B)の含有量としては、硬化特性と保存安定性が共に優れることから、本発明のプリプレグに用いられる樹脂組成物(固形分)中、0.3~3.0質量%の範囲が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましい。
【0047】
[樹脂組成物]
本発明のプリプレグに用いられる樹脂組成物の溶融粘度(100℃)としては、粘弾性測定装置(MCR302、株式会社アントンパール・ジャパン製、測定治具径25mm)を用いて、昇温速度15℃/分、及び、周波数1Hzの条件での動的粘弾性測定において、0.4~900Pa・sであることが好ましく、より好ましくは、1~450Pa・sである。前記溶融粘度が、前記範囲内であることにより、前記強化繊維(C)に前記樹脂組成物を塗工・含浸した際に、製品目付(質量)が安定し、得られるプリプレグの製品の品質が安定(製品安定性)し、有用となる。
【0048】
[強化繊維(C)]
前記強化繊維(C)としては、特に制限されないが、機械的強度や耐久性の観点から、炭素繊維が好ましく、より好ましくは、高強度の炭素繊維が得られることからポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの各種のものが使用でき、中でも、容易に高強度の炭素繊維が得られることから、ポリアクリロニトリル系のものが好ましい。
【0049】
前記強化繊維(C)の形状としては特に制限はなく、強化繊維フィラメントを収束させた強化繊維トウや、強化繊維トウを一方向に引き揃えた一方向材、製織した織物又は短く裁断した強化繊維からなる不織布等が挙げられるが、強化繊維として一方向材を用い、積層させ成形することで高い機械物性が得られるため好ましい。
【0050】
織物の場合は、平織、綾織、朱子織、若しくはノン・クリンプト・ファブリックに代表される、繊維束を一方向に引き揃えたシートや角度を変えて積層したようなシートをほぐれないようにステッチしたステッチングシート等が挙げられる。
【0051】
本発明のプリプレグ中の、前記強化繊維(C)の含有率は、得られる硬化物の機械的強度がより向上することから、35~85質量%の範囲が好ましく、45~75質量%の範囲がより好ましい。
【0052】
本発明のプリプレグの成分としては、上記した以外のものを使用してもよく、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、重合禁止剤、硬化促進剤、充填剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、補強材、光硬化剤等を含有することができる。
【0053】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、前記樹脂組成物を反応させて用いることで、未硬化あるいは半硬化の状態に形成したものであり、本発明のプリプレグを使用することで、得られる硬化物は、低温硬化性や速硬化性(短時間硬化性)などを実現でき、工期の短縮や作業性に優れたものとなり、好ましい。
【0054】
[プリプレグの製造方法]
前記プリプレグの製造方法として、特に制限されず、公知の方法を使用できるが、例えば、プラネタリーミキサー、液体混合装置などの公知の混合機を用いて、前記エチレン性不飽和基含有樹脂(A)(例えば、ポリイソシアネート化合物と、水酸基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有する水酸基を有する化合物との反応物であるウレタン(メタ)アクリレート)、重合開始剤(B)(例えば、有機過酸化物)、及び、その他成分(例えば、前記水酸基を有する化合物に相当するポリオール)を混合した樹脂組成物(溶液)に、強化繊維(C)(例えば、炭素繊維)を含浸させ、さらに、上面から離型紙または離型フィルムで挟み込み、圧延機によって圧延し、シートを得る工程(工程1)、続いて、前記ポリイソシアネート化合物の有するイソシアネート基と、前記水酸基を有する化合物(例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、更に、前記ポリオールなど)の有する水酸基とを反応させる工程(工程2)により、プリプレグを得ることができる。前記反応条件としては、反応温度は、40~80℃程度であり、反応時間は、1~30分程度である。また、工程1において、強化繊維(C)への含浸性を害しない範囲で、前記ポリイソシアネート、前記水酸基を有する化合物を、あらかじめ一部反応させたものを用いることもできる。更に、離型紙等で挟み込んだプリプレグを、10~50℃で、12時間~48時間熟成(エージング)(工程3)し、硬化物の調製に使用するプリプレグを得ることができる。
【0055】
本発明のプリプレグの厚みとしては、15~1000μmであることが好ましく、
20~500μmであることがより好ましい。前記厚みに調製することで、プリプレグを積層する際に、取り扱いが容易となり、樹脂組成物の含浸が良好になるため好ましい。
【0056】
前記プリプレグとしては、加熱温度が120℃以下で、かつ、加熱時間が15分以内で硬化することが好ましく、より好ましくは、115℃以下で、かつ、12分以内に硬化するプリプレグである。前記硬化における加熱温度及び加熱時間が、前記範囲内であることで、低温硬化性や速硬化性(短時間硬化性)などを実現でき、工期の短縮や作業性に優れたものとなり、好ましい。
【0057】
前記プリプレグのゲルタイム(100℃)としては、50~350秒であることが好ましく、より好ましくは、70~320秒である。前記ゲルタイムが、前記範囲内であることで、作業性や成形性に優れたものとなり、好ましい。
【0058】
[構造物]
本発明は、前記構造物の補強・補修方法により得られることを特徴とする構造物に関する。前記構造物は、前記プリプレグの硬化物が一体することで、機械的強度や、耐久性に優れ、好ましい。
【0059】
[構造物の補強・補修方法]
本発明は、構造物の補強・補修方法において、
a)プリプレグを前記構造物の表面の形状に合わせて、積層・賦形する工程と、
b)前記積層・賦形した前記プリプレグを真空加圧する工程と、
c)前記真空加圧した前記プリプレグを加熱硬化し、前記プリプレグの硬化物を製造する工程と、
d)前記硬化物を、前記構造物の前記表面に接着する工程と、を含むことを特徴とする構造物の補強・補修方法に関する。
【0060】
前記構造物の補強・補修方法として、より詳細に説明すると、まず、強化繊維を含む前記プリプレグを、構造物の表面の形状に合わせて、積層または賦形することで、前記表面の形状に整合するプリプレグを調製する(工程a))。
続いて、前記表面の形状に整合するプリプレグを、真空パック等に入れ、真空加圧することで、プリプレグの形状を維持しつつ、真空パックされたプリプレグを調製する(工程b))。
前記真空加圧したプリプレグを加熱することで、硬化反応を促進し、前記プリプレグの硬化物を調製する(工程c))。
得られた前記硬化物は、真空パック内に存在するため、前記硬化物を真空パックから取り出す。なお、真空パックし、硬化させることで、前記表面形状に整合する硬化物を得ることができる。
そして、補強や補修を必要とする構造物の前記表面に、前記表面の形状に整合する硬化物を、接着剤を用いて、接着(接合)し、構造物と硬化物とを一体化する(工程d))。
前記工程a)~d)を含む構造物の補強・補修方法により、例えば、欠陥や欠損箇所の表面形状に合わせて硬化物を接着することで、構造物の補強・補修を行うことができ、機械的強度に優れ、有用である。
また、従来のように、強化繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりした後、エポキシ樹脂等の接着含浸樹脂を含浸させる必要がないため、作業性に優れて工期を短縮でき、また、すでに樹脂が含浸したプリプレグを用いるため、安定した補強・補修効果が得られ、有用である。
【0061】
[接着剤]
前記接着剤として、公知の接着剤を使用でき、例えば、エポキシ樹脂などを用いた、2液タイプの接着剤を使用することができる。前記接着剤として、具体的には、スリーボンド製の常温硬化型2液性エポキシ接着剤や、コニシ製のエポキシ樹脂とシリコンポリマーを主成分とした2液混合型常温硬化接着剤などが挙げられる。
【0062】
[硬化物の作製]
前記プリプレグを用いて、最終硬化を行い、硬化物を調製する方法としては、プリプレグを複数枚用いて、構造物の表面の形状に合わせて、積層または賦形し、これを真空パックし、前記表面の形状に整合したプリプレグを真空パックごと加熱し、最終硬化を行うことで、複数枚のプリプレグが密着し、前記表面の形状に整合した硬化物(積層体)を調製することができる。また、真空パックの真空到達度は、-50kPa以下が好ましく、より好ましくは-90kPa以下である。
【0063】
前記プリプレグを用いて硬化物を得る方法としては、具体的には、前記プリプレグを2~30枚積層した後、-50kPa~-90kPaで真空パックし、加熱オーブン等を予め100℃~160℃に加熱し、前記加熱オーブン等に前記真空パックした積層したプリプレグを投入し、1~15分間加熱・保持することによって、前記表面の形状に整合したプリプレグを硬化させ、硬化物を得ることができる。その後、真空パック内から硬化物を取り出し、前記表面の形状に整合した硬化物を得る方法等が用いられる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げて、より詳細に説明する。
【0065】
[水酸基当量]
使用するポリオール等の水酸基当量(g/eq)の測定は、JIS K0070(1992)に規定される中和滴定法に準拠した方法で測定した値を用いた。なお、前記ポリオール等の水酸基当量として、耐熱性の観点から、50~400g/eqであることが好ましく、90~300g/eqであることがより好ましい。
【0066】
[樹脂組成物の溶融粘度(100℃)]
本発明で使用される樹脂組成物の100℃における溶融粘度としては、粘弾性測定装置(MCR302、株式会社アントンパール・ジャパン製、測定治具径25mm)を用い動的粘弾性測定により評価した。なお、前記動的粘弾性測定の測定条件としては、以下の条件で行った。
温度条件:室温(23℃)~150℃
昇温速度:15℃/分
周波数:1Hz
前記樹脂組成物の溶融粘度(100℃)としては、0.4~900Pa・sであることが好ましく、より好ましくは、1~450Pa・sである。
【0067】
[ゲルタイムの評価]
プリプレグの両面から、離型フィルムを剥がし、離型フィルムを剥がしたプリプレグのゲルタイムを、100℃と110℃おそれぞれにおいて、JASO M 406-87に規定される硬化特性試験に準拠した方法で5cm×5cmに切り出したサンプルを24枚積層して、積層したプリプレグを用いて、ゲルタイム(秒)を測定した。
100℃におけるゲルタイムとしては、好ましくは、50~350秒であり、より好ましくは、70~320秒である。
110℃におけるゲルタイムとしては、好ましくは、20~300秒であり、より好ましくは、30~200秒である。
【0068】
[成形性の評価]
プリプレグを20枚積層した後、真空パック装置を用いて真空パックし、予め100℃と110℃に加熱したオーブンにそれぞれ10分間入れて、それぞれ得られた硬化物の表面を下記の基準に基づき確認し、成形性を評価した。
○:膨れ、及び、未硬化部分なし
×:膨れ、または、未硬化部分あり
【0069】
[層間せん断強度の評価]
上記で得られた硬化物から、幅10mm、長さ22mmの試験片を切り出し、この試験片について、JIS K7078に従い、層間せん断強度(MPa)を測定し、下記の基準に基づき、硬化物の層間の接着性を評価した。
〇:50MPa以上
×:50MPa未満
【0070】
[実施例1]
(プリプレグ用樹脂組成物(1)の調製)
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)50質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)66質量部、ニューポールBPE-20(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;164g/eq)25質量部、ニューポールBPE-40(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;204g/eq)31質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社「カヤエステルTMPO-70」、1,1,3,3-テトラメチルブチルパ-オキシ-2-エチルヘキサノエート、10時間半減期温度65℃)3質量部を室温(23℃)で混合し、ポリエチレン製袋に入れ、45℃にて24時間エージングすることでプリプレグ用樹脂組成物(1)(100℃での溶融粘度:370Pa・s)を得た。
【0071】
(プリプレグ(1)の作製及び評価)
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)50質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)66質量部、ニューポールBPE-20(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;164g/eq)25質量部、ニューポールBPE-40(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;204g/eq)31質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社「カヤエステルTMPO-70」、1,1,3,3-テトラメチルブチルパ-オキシ-2-エチルヘキサノエート、10時間半減期温度65℃)3質量部を室温(23℃)で混合し、離型処理をしたポリエチレンテレフタレートフィルム(ニッパ社製、50μm、シリコン離型処理)の片面に塗布した後、ハンドレイアップ法により炭素繊維(三菱ケミカル社製「TRK979PQRW」)を炭素繊維含有量が50質量%となるように含浸させ、同じフィルムをかぶせた後、25℃1週間の条件にて、エージングさせることでプリプレグ(1)を作製した。このプリプレグ(1)のゲルタイムは、100℃で90秒、110℃で30秒であった。
【0072】
(硬化物の作成及び評価)
前記プリプレグ(1)を20枚積層した後、真空パック装置を用いて真空到達度-90kPaで真空パックし、予め100℃と110℃にそれぞれ加熱したオーブンに10分入れて、保持することによってプリプレグを硬化させ、硬化物を得た後、それぞれの温度による硬化物の成形性を評価した。
【0073】
[実施例2]
(プリプレグ用樹脂組成物(2)の調製)
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)50質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)66質量部、ニューポールBPE-20(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;164g/eq)25質量部、ニューポールBPE-40(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;204g/eq)31質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社「カヤエステルO」、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、10時間半減期温度72℃)3質量部を室温(23℃)で混合し、ポリエチレン製袋に入れ、45℃にて24時間エージングすることでプリプレグ用樹脂組成物(2)(100℃での溶融粘度:375Pa・s)を得た。
【0074】
(プリプレグ(2)の作製及び評価)
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)50質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)66質量部、ニューポールBPE-20(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;164g/eq)25質量部、ニューポールBPE-40(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;204g/eq)31質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社「カヤエステルO」、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、10時間半減期温度72℃)3質量部を室温(23℃)で混合し、離型処理をしたポリエチレンテレフタレートフィルム(ニッパ社製、50μm、シリコン離型処理)の片面に塗布した後、ハンドレイアップ法により炭素繊維(三菱ケミカル社製「TRK979PQRW」)を炭素繊維含有量が50質量%となるように含浸させ、同じフィルムをかぶせた後、25℃1週間の条件にて、エージングさせることでプリプレグ(2)を作製した。このプリプレグ(2)のゲルタイムは、100℃で300秒、110℃で110秒であった。
【0075】
(硬化物の作成及び評価)
プリプレグ(2)を20枚積層した後、真空パック装置を用いて真空到達度-90kPaで真空パックし、予め100℃と110℃にそれぞれ加熱したオーブンに10分入れて、保持することによってプリプレグを硬化させ、硬化物を得た後、それぞれの温度による硬化物の成形性を評価した。
【0076】
[比較例1]
(硬化物の作成及び評価)
前記プリプレグ(1)を20枚積層した後、ガラス板に貼り付けて、予め100℃と110℃にそれぞれ加熱したオーブンに10分入れて、保持することによってプリプレグを硬化させ、硬化物を得た後、それぞれの温度による硬化物の成形性を評価した。
【0077】
[比較例2]
(硬化物の作成及び評価)
前記プリプレグ(2)を20枚積層した後、ガラス板に貼り付けて、予め100℃と110℃にそれぞれ加熱したオーブンに10分入れて、保持することによってプリプレグを硬化させ、硬化物を得た後、それぞれの温度による硬化物の成形性を評価した。
【0078】
[比較例3]
(プリプレグ用樹脂組成物(R1)の調製)
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)50質量部、と、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)66質量部、ニューポールBPE-20(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;164g/eq)25質量部、ニューポールBPE-40(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;204g/eq)31質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社「トリゴノックス122-80C」、1,1-ジ(tert-アミルパーオキシ)シクロヘキサン、10時間半減期温度87℃)3質量部を室温(23℃)で混合し、ポリエチレン製袋に入れ、45℃にて24時間エージングすることでプリプレグ用樹脂組成物(R1)(100℃での溶融粘度:375Pa・s)を得た。
【0079】
(プリプレグ(R1)の作製及び評価)
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)50質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート50質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)66質量部、ニューポールBPE-20(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;164g/eq)25質量部、ニューポールBPE-40(三洋化成株式会社製:ビスフェノールAのEO付加物、水酸基当量;204g/eq)31質量部、及び、重合開始剤(化薬ヌーリオン株式会社「トリゴノックス122-80C」、1,1-ジ(tert-アミルパーオキシ)シクロヘキサン、10時間半減期温度87℃)3質量部を室温(23℃)で混合し、離型処理をしたポリエチレンテレフタレートフィルム(ニッパ社製、50μm、シリコン離型処理)の片面に塗布した後、ハンドレイアップ法により炭素繊維(三菱ケミカル社製「TRK979PQRW」)を炭素繊維含有量が50質量%となるように含浸させ、同じフィルムをかぶせた後、25℃1週間の条件にて、エージングさせることでプリプレグ(R1)を作製した。このプリプレグ(R1)のゲルタイムは、100℃及び110℃では硬化せず、測定・評価できなかったため、更に120℃、130℃、及び、140℃と昇温したところ、120℃では依然として硬化せず、130℃でのゲルタイムは80秒であり、140℃でのゲルタイムは50秒であった。
【0080】
(硬化物の作成及び評価)
プリプレグ(R1)を20枚積層した後、真空パック装置を用いて真空到達度-90kPaで真空パックし、予め100℃と110℃にそれぞれ加熱したオーブンに10分入れて、保持することによってプリプレグを硬化させ、硬化物を得た後、それぞれの温度による硬化物の成形性を評価した。
【0081】
【0082】
上記評価結果より、実施例1においては、所望のプリプレグを用いて、100℃で真空加圧する工程を経ることにより、硬化物の成形性や層間せん断強度に優れた硬化物を得られることが確認できた。また、実施例2においては、所望のプリプレグを用いて、有機過酸化の分解温度に応じた110℃で真空加圧する工程を経ることにより、硬化物の成形性や層間せん断強度に優れた硬化物を得られることが確認できた。
一方、比較例1及び比較例2は、それぞれ実施例1及び実施例2と同じプリプレグを使用したが、真空加圧する工程を行わなかったため、硬化物の成形性に劣り、層間せん断強度に劣ることが確認された。実施例2と比較例2では、プリプレグを100℃で加熱して硬化物(硬化板)を得ようと試みたが、有機過酸化物の10時間半減期温度が、実施例1と比較して高いため、低温硬化性に劣り、硬化物自体を得ることができなかった。
また、比較例3では、プリプレグを製造する際に使用する重合開始剤(B)の10時間半減期温度が所望の範囲に含まれず、高い温度を示すものを使用したため、120℃以下の硬化温度では有機過酸化の性能不足となり、ゲルタイムが測定できず、また、硬化物自体を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、特定のプリプレグを特定条件下で硬化させて得られる硬化物を、前記構造物と接着することで、プリプレグの速硬化性(短時間硬化性)や低温硬化性に基づく工期の短縮、作業性の向上、及び、前記硬化物を前記構造物の表面に接着し、一体化することにより、補強・補修に必要な機械的強度を有する構造物が得られることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に用いることができ、特に、住宅設備部材、建築土木部材等の使用に好適である。