IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社堀場製作所の特許一覧

特許7288345粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム
<>
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図1
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図2
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図3
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図4
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図5
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図6
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図7
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図8
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図9
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図10
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図11
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図12
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図13
  • 特許-粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】粒子径分布測定装置、粒子径分布測定方法、及び、粒子径分布測定装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20230531BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20230531BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230531BHJP
【FI】
G01N15/02 A
G01N21/49 Z
G06N20/00 130
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019096557
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020190508
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】名倉 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】菅澤 央昌
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-048700(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073737(WO,A1)
【文献】特開平06-074892(JP,A)
【文献】国際公開第2018/118934(WO,A1)
【文献】特開2010-271159(JP,A)
【文献】特開2008-122208(JP,A)
【文献】特開2002-243624(JP,A)
【文献】特開2005-208024(JP,A)
【文献】特開平05-045282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/02
G01N 21/49
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出器と、を備えた粒子径分布測定装置であって、
前記粒子径分布算出器が、
粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを機械学習により生成する粒子径分布モデル生成部と、
所定の理論演算式に基づいて粒子径分布を算出する理論演算部と、
前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力部とを備え、
前記粒子径分布出力部は、
前記粒子径分布モデルから粒子径分布を算出するものであり、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が所定の範囲内の場合に、前記粒子径分布モデルから得られた粒子径分布を出力し、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が前記所定の範囲外の場合に、前記理論演算部で算出された粒子径分布を出力する、粒子径分布測定装置。
【請求項2】
前記所定の範囲は、粒径パラメータ x = 2πr /λ = πd /λ (r:粒子径半径、d:粒子径直径、λ:光源波長)とした場合において、 0.05≦x≦ 0.5 を満たす粒子径分布の範囲である、請求項1記載の粒子径分布測定装置。
【請求項3】
前記粒子径分布出力部が、測定ごとに対応する粒子径分布を出力するように構成されており、
前記粒子径分布出力部から出力される各粒子径分布を一画面上に一覧表示する表示部をさらに備えた請求項1又は2記載の粒子径分布測定装置。
【請求項4】
前記粒子径分布モデル生成部が、非球状を有する粒子群による光の散乱パターンとそれに対応する粒子径分布を教師データとして機械学習するものであり、
前記粒子径分布モデル生成部が、粒子の形状及び粒子径分布を目的変数とする粒子径分布モデルを生成するように構成された請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粒子径分布測定装置。
【請求項5】
前記粒子径分布モデル生成部が、所定範囲の粒子径分布を有する粒子群による光の散乱パターンとそれに対応する粒子径分布のみを教師データとして機械学習するように構成された請求項1乃至4いずれかに記載の粒子径分布測定装置。
【請求項6】
前記光源から射出される光が青色の場合に、前記所定範囲の粒子径分布が、10nm以上100nm以下の粒子径分布である請求項5記載の粒子径分布測定装置。
【請求項7】
前記粒子径分布算出器が、
散乱パターン又は粒子径分布を説明変数とし、同一の試料について自身と他の粒子径分布測定装置で測定された測定値の器差を目的変数とする器差モデルを機械学習により生成する器差モデル生成部と、
前記器差モデルに基づいて、前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから、他の粒子径分布測定装置において測定される散乱パターンを出力する器差出力部とをさらに備える、請求項1乃至6いずれかに記載の粒子径分布測定装置。
【請求項8】
前記粒子径分布算出器が、
散乱パターン又は粒子径分布を説明変数とし、少なくとも屈折率を含む校正パラメータを目的変数とする校正パラメータモデルを機械学習により生成する校正パラメータモデル生成部と、
前記校正パラメータモデルと、測定された散乱パターン又は粒子径分布に基づいて設定すべき校正パラメータを出力する校正パラメータ出力部と、
前記校正パラメータ出力部から出力される校正パラメータ、所定の理論演算式、及び、前記検出器の出力に基づいて粒子径分布を算出する理論演算部とをさらに備えた請求項1乃至7いずれかに記載の粒子径分布測定装置。
【請求項9】
少なくとも散乱パターンを説明変数とし、粒子径分布測定装置の異常状態を目的変数とする異常状態モデルを機械学習により生成する異常状態モデル生成部と、
前記異常状態モデルと、測定された散乱パターンに基づいて発生している異常を出力する異常出力部と、をさらに備えた請求項1乃至8いずれかに記載の粒子径分布測定装置。
【請求項10】
分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出器と、を備えた粒子径分布測定装置であって、
前記粒子径分布算出器が、
機械学習により生成された粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを記憶するモデル記憶部と、
所定の理論演算式に基づいて粒子径分布を算出する理論演算部と、
前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力部とを備え、
前記粒子径分布出力部は、
前記粒子径分布モデルから粒子径分布を算出するものであり、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が所定の範囲内の場合に、前記粒子径分布モデルから得られた粒子径分布を出力し、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が前記所定の範囲外の場合に、前記理論演算部で算出された粒子径分布を出力する、粒子径分布測定装置。
【請求項11】
分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、を備えた粒子径分布測定装置を用いた粒子径分布測定方法であって、
前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出ステップを備え、
前記粒子径分布算出ステップが、
粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを機械学習により生成する粒子径分布モデル生成ステップと、
所定の理論演算式に基づいて粒子径分布を算出する理論演算ステップと、
前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力ステップとを備え、
前記粒子径分布出力ステップは、
前記粒子径分布モデルから粒子径分布を算出するものであり、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が所定の範囲内の場合に、前記粒子径分布モデルから得られた粒子径分布を出力し、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が前記所定の範囲外の場合に、前記理論演算ステップで算出された粒子径分布を出力する、粒子径分布測定方法。
【請求項12】
分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、を備えた粒子径分布測定装置に用いられるプログラムであって、
前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出器としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、
前記粒子径分布算出器が、
粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを機械学習により生成する粒子径分布モデル生成部と、
所定の理論演算式に基づいて粒子径分布を算出する理論演算部と、
前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力部とを備え、
前記粒子径分布出力部は、
前記粒子径分布モデルから粒子径分布を算出するものであり、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が所定の範囲内の場合に、前記粒子径分布モデルから得られた粒子径分布を出力し、
前記粒子径分布モデルにより算出された粒子径分布が前記所定の範囲外の場合に、前記理論演算部で算出された粒子径分布を出力する、粒子径分布測定装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒中に粒子群を含む試料に対して光を照射し、その散乱光に基づいて、粒子又は粒子群の特性について分析する粒子分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体を用いて製造される製品の品質を管理するために、粉体の粒子径分布を測定することがある。このような測定には、特許文献1で示されるようにMie散乱理論に基づいて粒子径分布を測定するレーザ回折散乱式の粒子径分布測定装置が用いられる。
【0003】
ところで、Mie散乱理論は粒子の形状が球状であることを前提とした理論であり、かつ、粒径パラメータx = 2πr /λ = πd /λ (r:粒子半径、d:粒子直径、λ:光源波長)と定義した場合、 x≒1の時に成り立つ理論である。
【0004】
したがって、球形でないサンプルを測定する場合や、x≒1の関係から徐々に外れて、レーザ回折散乱式の粒子径分布測定装置の検出下限に近づく場合には、理論に基づいた測定が困難になる。
【0005】
また、測定された散乱パターンの情報は粒子径分布の算出のためにしか用いられておらず、散乱パターンに現れているかもしれない有益な情報を十分に抽出できていない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-7546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、粒径パラメータxについてx≒1が成り立たないような場合でも粒子径分布を算出可能にしたり、散乱パターンから粒子径分布以外の情報を抽出できたりする粒子径分布測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る粒子径分布測定装置は、分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出器と、を備えた粒子径分布測定装置であって、前記粒子径分布算出器が、粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを機械学習により生成すると粒子径分布モデル生成部と、前記粒子径分布モデルに基づいて、前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る別の態様の粒子径分布測定装置としては、分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出器と、を備えた粒子径分布測定装置であって、前記粒子径分布算出器が、機械学習により生成された粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを記憶するモデル記憶部と、前記粒子径分布モデルに基づいて、前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力部と、を備えたものが挙げられる。
【0010】
このようなものであれば、測定された散乱パターンを機械学習により生成された粒子径分布モデルに入力して粒子径分布を得ているので、Mie散乱理論から外れてしまうような例えば粒子の形状が非球形状である場合や、粒径パラメータxがx≒1から外れるような測定条件の場合でも、粒子径分布を得ることができる。
【0011】
また、機械学習により粒子径分布モデルが作成されるので、例えば散乱パラメータに含まれている粒子径以外の情報の影響も加味することができ、より現実に近い粒子径分布を得ることも可能となる。
【0012】
粒子径分布の変化をリアルタイムで把握しやすしたり、測定条件の変化と粒子径分布との関係を比較しやすくしたりするには、前記粒子系分布出力部が、測定ごとに対応する粒子径分布を出力するように構成されており、前記粒子径分布出力部から出力される各粒子径分布を一画面上に一覧表示する表示部をさらに備えたものであればよい。
【0013】
粒子径分布の算出結果に対する粒子の形状の影響についても複雑な演算を行わずに短時間で補正を行ったり、粒子群における各形状の割合等を得られるようにしたりするには、前記粒子径分布モデル生成部が、非球状を有する粒子群による光の散乱パターンとそれに対応する粒子径分布を教師データとして機械学習するものであり、前記機械学習部が、粒子の形状及び粒子径分布を目的変数とする粒子径分布モデルを生成するように構成されたものであればよい。
【0014】
粒子径分布に関する理論演算だけでは実際の値を得にくい領域については機械学習により生成された粒子径分布モデルに基づいて粒子径分布を得て、理論演算が実際の結果と一致しやすい領域については通常の演算を行うようにして、粒子径の範囲によらず所定の測定精度を担保できるようにするには、前記粒子径分布モデル生成部が、所定範囲の粒子径分布を有する粒子群による光の散乱パターンとそれに対応する粒子径分布のみを教師データとして機械学習するように構成されたものであればよい。
【0015】
前記所定範囲の粒子径分布が、粒径パラメータ x = 2πr /λ = πd /λ (r:粒子径半径、d:粒子径直径、λ:光源波長)とした場合において、0.05≦x≦ 0.5を満たす粒子径分布であれば、従来のようにシミュレーションによりモデル構築を行った場合と比較して、粒子径分布を算出するためのモデル構築に要する時間を短縮できる。ただし、上記の範囲は、光源波長の温度による変化や、円周率の使用桁数で容易に変動するため、おおよその目安であることを付け加えておく。
【0016】
すなわち、粒径パラメータxがx≒1から外れるような条件では、例えばMaxwellの方程式を解いて理論散乱強度を算出するのが実質的に不可能であり、個別の粒子に関してシミュレーションを行って、測定されるであろう光強度を算出し、粒子径分布を算出するためのモデルを構築することが考えられる。しかしながら、このようなシミュレーションによるモデル構築およびそのモデルの妥当性確認は膨大な時間を要してしまう。一方、上述したような粒径パラメータxの範囲において機械学習により、粒子径分布モデルを作成すれば、シミュレーションによるモデル構築が難しい領域でも妥当なモデルを短時間で構築することが可能となる。
【0017】
機械学習により粒子径分布モデルを作成することで、例えばモデル構築に必要な計算時間の短縮等の恩恵を得られる具体的な粒子径の範囲としては、光源が青色(すなわち、光源波長が450nm程度)とすると、前記所定範囲の粒子径分布が、10nm以上100nm以下の範囲であるものが挙げられる。
【0018】
異なる粒子径分布測定装置間では同一の試料を測定したとしてもそれぞれ異なる粒子径分布が出力されることがある。このような器差を把握したり、各粒子径分布測定装置で得られた結果を他の粒子径分布測定装置で測定した場合の結果に変換したりすることを可能とするには、前記粒子径分布算出器が、散乱パターン又は粒子径分布を説明変数とし、同一の試料について自身と他の粒子径分布測定装置で測定された測定値の器差を目的変数とする器差モデルを機械学習により生成する器差モデル生成部をさらに備え、前記粒子径分布出力部が、前記器差モデルに基づいて、前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力するように構成されたものであればよい。このようなものであれば、古い粒子径分布測定装置から新しい粒子径分布測定装置に置き換えが行われた場合でも、器差を補正した粒子径分布を出力することで、それまでの測定結果との連続性を保つことが可能となる。
【0019】
散乱パターンと所定の理論式に基づいて粒子径分布を算出する場合、例えば試料の屈折率が必要になるが、試料の屈折率を明確に得ることが難しい場合もある。このような場合には、オペレータが適宜屈折率を変更しながら、粒子径分布の算出を複数回行って、最もそれらしい結果になっているものを探すといった校正作業が行われている。このような粒子径分布の算出における屈折率等の校正パラメータの選定はオペレータの経験に基づくものであり、手間と時間がかかるとともに不慣れなものにとっては非常に難しい。このような問題を解決するには、前記粒子径分布算出器が、散乱パターン又は粒子径分布を説明変数とし、少なくとも屈折率を含む校正パラメータを目的変数とする校正パラメータモデルを機械学習により生成する校正パラメータモデル生成部と、前記校正パラメータモデルと、測定された散乱パターン又は粒子径分布に基づいて設定すべき校正パラメータを出力する校正パラメータ出力部と、前記校正パラメータ出力部から出力される校正パラメータ、所定の理論演算式、及び、前記検出器の出力に基づいて粒子径分布を算出する理論演算部と、をさらに備えたものであればよい。
【0020】
例えばセルにおける汚れ等が原因となって、散乱パターンに影響が出ていたり、誤った粒子径分布が出力されていたりする場合には、自動的に粒子径分布測定装置が異常状態にあることをオペレータに対して通知できるようにするには、少なくとも散乱パターンを説明変数とし、粒子径分布測定装置の異常状態を目的変数とする異常状態モデルを機械学習により生成する異常状態モデル生成部と、前記異常状態モデルと、測定された散乱パターンに基づいて発生している異常を出力する異常出力部と、をさらに備えたものであればよい。
【0021】
例えば検出器の出力する信号が示す散乱パターンから短時間で粒子径分布を得られるようにするには、分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、を備えた粒子径分布測定装置を用いた粒子径分布測定方法であって、前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出ステップを備え、前記粒子径分布算出ステップが、粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを機械学習により生成すると粒子径分布モデル生成ステップと、前記粒子径分布モデルに基づいて、前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力ステップと、を備えた粒子径分布測定方法を用いればよい。
【0022】
既存の粒子径分布測定装置において使用されているプログラムを更新するだけで、本発明に係る粒子径分布測定装置と同様の効果を享受できるようにするには、分散媒と分散質である粒子群からなる試料が収容されるセルに対して光を射出する光源と、試料において散乱された光を検出する検出器と、を備えた粒子径分布測定装置に用いられるプログラムであって、前記検出器の出力信号に基づいて前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を算出する粒子径分布算出器としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、前記粒子径分布算出器が、粒子群による光の散乱パターンを少なくとも説明変数とし、粒子群の粒子径分布を少なくとも目的変数とする粒子径分布モデルを機械学習により生成すると粒子径分布モデル生成部と、前記粒子径分布モデルに基づいて、前記検出器の出力信号の示す散乱パターンから前記試料に含まれる粒子群の粒子径分布を出力する粒子径分布出力部と、を備えた粒子径分布測定装置用プログラムを用いればよい。
【0023】
なお、粒子径分布測定装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等といったプログラム記録媒体に記録されたものであっても構わない。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明に係る粒子径分布測定装置は、機械学習により生成された少なくとも散乱パターンを説明変数とし、少なくとも粒子径分布を目的変数とする粒子径分布モデルを生成しておき、測定された散乱パターンを粒子径分布モデルに入力して粒子径分布を得ているので、粒径パラメータx≒1から外れるような条件でもなる。また、機械学習によって散乱パターンに含まれている粒子径分布以外の情報についても加味し、補正や別の情報を抽出して出力するといったことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係る粒子径分布測定装置の全体構成を示す模式図。
図2】第1実施形態に係る粒子径分布測定装置の機能ブロック図。
図3】第1実施形態に係る粒子径分布測定装置の粒子径分布モデルの生成に関する工程を示すフローチャート。
図4】第1実施形態に係る粒子径分布測定装置の粒子径分布の出力に関する工程を示すフローチャート。
図5】第2実施形態に係る粒子径分布測定装置の機能ブロック図。
図6】第2実施形態に係る粒子径分布測定装置の器差モデルの生成に関する工程を示すフローチャート。
図7】第2実施形態に係る粒子径分布測定装置の粒子径分布の出力に関する工程を示すフローチャート。
図8】第3実施形態に係る粒子径分布測定装置の機能ブロック図。
図9】第3実施形態に係る粒子径分布測定装置の校正パラメータモデルの生成に関する工程を示すフローチャート。
図10】第3実施形態に係る粒子径分布測定装置の粒子径分布の出力に関する工程を示すフローチャート。
図11】第4実施形態に係る粒子径分布測定装置の機能ブロック図。
図12】第4実施形態に係る粒子径分布測定装置の異常状態モデルの生成に関する工程を示すフローチャート。
図13】第4実施形態に係る粒子径分布測定装置の異常状態の出力に関する工程を示すフローチャート。
図14】その他の実施形態に係る粒子径分布測定装置の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1実施形態に係る粒子径分布測定装置100について図1乃至図4を参照しながら説明する。なお、各実施形態において説明する各構成要件については対応するものには同じ符号を付すこととする。
【0027】
この粒子径分布測定装置100は、静的光散乱法(SLS)により、試料に含まれる粒子群の粒子径分布を測定するものである。すなわち、粒子径分布測定装置100は試料に対してレーザ光を照射した際に生じる散乱パターンから粒子径分布を出力するものである。ここで、第1実施形態における散乱パターンは散乱光の強度の角度依存性として測定される。
【0028】
具体的には粒子径分布測定装置100は、レーザ光が射出されるレーザ光源LSと、試料が収容されるセルCと、セルCの周囲に配置された複数の検出器D1、D2、D3からなる検出機構Dと、コンピュータCOMとを備えたものである。コンピュータCOMは、CPU、メモリ、A/D・D/Aコンバータ、入出力手段、ディスプレイ等を備えたものであり、メモリに格納されている粒子径分布測定装置用プログラムが実行されて、各種機器が協業することにより、各検出器D1、D2、D3の出力の一部または全部に基づいて粒子径分布を算出する粒子径分布算出器1と算出された粒子径分布をディスプレイに表示する表示部6としての機能を発揮する。
【0029】
検出機構Dは、散乱角とその散乱角において検出された光の強度を出力するものである。検出機構Dの各検出器で検出された各散乱光の強度はベクトルデータとしてコンピュータ内に格納される。
【0030】
粒子径分布算出器1は、少なくとも一部の粒子径の範囲では、機械学習により生成された粒子径分布モデルと、検出機構Dで測定された散乱パターンに基づいて粒子径分布を算出するものである。ここで、第1実施形態における粒子径分布モデルは、粒子群による光の散乱パターンを説明変数とし、粒子群の粒子径分布と粒子群の形状分布を目的変数とする。このような粒子径分布モデルに対して測定された散乱パターンを入力することにより、対応する粒子径分布と形状分布が出力される。言い換えると粒子径分布算出器1は少なくとも一部の粒子径の範囲においてAIを利用した散乱パターンのパターン認識により、理論演算式に基づく演算を行うことなく、粒子径分布を出力するように構成されている。
【0031】
図2の機能ブロック図に示すように、粒子径分布算出器1は、少なくとも理論演算部2、学習データ記憶部3、粒子径分布モデル生成部4、粒子径分布出力部5、からなる。
【0032】
理論演算部2は、従来と同様に例えばRayleigh散乱理論又はMie散乱理論に基づく理論演算式を用いて測定された散乱パターンから粒子径分布を算出するものである。理論演算部2では所定の結果を得るまでに反復計算が行われる。また、理論演算部2は、粒子群の形状分布についても例えば散乱パターンから有限要素解析等に基づいて算出する。
【0033】
学習データ記憶部3は、粒子径分布モデルを生成するために使用されるデータを多数記憶するものである。第1実施形態では学習データ記憶部3には、この粒子径分布測定装置100で測定された散乱パターンと、理論演算部2で算出された粒子径分布及び形状分布を対にしたデータが多数格納されている。すなわち、粒子径分布モデルを生成するための多数の教師データが学習データ記憶部3には記憶されている。また、第1実施形態では試料に含まれる粒子の形状は球状だけでなく、非球状のものもある。なお、教師データについては例えば粒子の形状や粒子径が既知の試料を用いて実際に散乱パターンを測定することで生成できる。
【0034】
粒子径分布モデル生成部4は、教師データに基づいて機械学習により粒子径分布測定モデルを生成する。ここで、学習アルゴリズムについては既存のアルゴリズムを用いることができ、例えばニューラルネットワークやディープラーニング等様々な手法を用いることができる。第1実施形態では粒子径分布モデルを生成するために用いる教師データは一部の粒子径の範囲に制限している。以下では図3のフローチャートを参照しながら、粒子径分布モデルの生成手順について説明する。
【0035】
粒子径分布モデル生成部4は、学習データ記憶部3に記憶されているデータが、粒子径分布が所定範囲内にあるかどうかをまず判定する(ステップS11)。ここで、所定範囲とは、Rayleigh散乱理論が適用可能な粒子径とMie散乱理論が適用可能な粒子径との間の範囲である。別の表現をすると、粒径パラメータ x = 2πr /λ = πd /λ (r:粒子径半径、d:粒子径直径、λ:光源波長)とした場合において、 所定範囲は、0.05≦x≦ 0.5 を満たす粒子径分布の範囲として定義される。さらに具体的にはレーザ光源LSから射出されるレーザ光が青色であり、波長λが例えば450nmもしくはその近傍の値において、所定範囲を10nm以上100nm以下の粒子径分布の範囲として設定している。すなわち、所定範囲は理論計算と実際の散乱パターンと粒子径分布との関係が一致しにくい範囲を定義する。
【0036】
粒子径分布の範囲が所定範囲内の場合には、粒子径分布モデル生成部4は教師データとしてそのデータを使用する(ステップS12)。一方、粒子径分布が所定範囲外のデータについては、粒子径分布モデル生成部4はそのデータを教師データとしては使用しない(ステップS13)。
【0037】
学習データ記憶部3に記憶されているデータのうち、粒子径が所定範囲のみ一部のデータのみを教師データとして粒子径分布モデル生成部4は、機械学習により粒子径分布モデルを生成する(ステップS14)。
【0038】
次に図2に示す粒子径分布出力部5と表示部6について説明する。粒子径分布出力部5は、機械学習により生成された粒子径分布モデルに基づいて、検出機構Dから得られた出力信号の示す散乱パターンから試料に含まれる粒子群の粒子径分布と形状分布を出力する。粒子径分布出力部5は散乱パターンが測定されるごとに粒子径分布モデルにその散乱パターンを入力して、対応する粒子径分布と形状分布を出力する。
【0039】
表示部6は、粒子径分布出力部5から出力される粒子径分布と形状分布又は理論演算部2で算出される粒子径分布と形状分布を一画面上に一覧表示するように構成されている。
【0040】
以下では図4のフローチャートを参照しながら、粒子径分布と形状分布の算出手順等について説明する。
【0041】
粒子径分布出力部5は、散乱パターンが測定されるごとにその散乱パターンを機械学習により生成された粒子径分布モデルに入力して、対応する粒子径分布と形状分布を出力する(ステップST11)。
【0042】
次に粒子径分布出力部5は、出力された粒子径分布が前述した所定範囲内であるかどうかを判定する(ステップST12)。粒子径分布が所定範囲内である場合には、粒子径分布出力部5は、粒子径分布モデルから得られた粒子径分布と形状分布を採用し、表示部6に対して出力する(ステップST13)。一方、粒子径分布が所定範囲外である場合には、粒子径分布出力部5は理論演算部2に対して測定された散乱パターンによる演算を実施させる。そして、理論演算部2で算出された粒子径分布と形状分布は表示部6に出力される(ステップST14)。
【0043】
表示部6は、粒子径分布モデルに基づく粒子径分布出力部5から出力される結果、又は、理論演算部2から出力される結果のいずれかを一覧表示する(ステップST15)。
【0044】
このように構成された第1実施形態の粒子径分布測定装置100であれば、理論演算と結果が一致しにくい範囲については機械学習により生成された粒子径分布モデルに基づいて粒子径分布と形状分布を得ることができる。
【0045】
このため、所定範囲については従来よりも短時間の演算でありながらも、実際の粒子径分布や形状分布を正確に得ることができる。すなわち、粒子径分布モデルの元になった教師データが所定範囲の粒子径を示すものに限定してモデル化を行っているので、機械学習により生成されるモデルに誤差が含まれにくくなっている。
【0046】
また、理論演算が精度良く成り立つ範囲については従来と同様に理論演算から粒子径分布及び形状分布を得るようにしているので、そのような範囲についても測定精度を担保することができる。
【0047】
加えて、機械学習によって散乱パターンのパターン認識により粒子径分布と形状分布が出力されるので、粒子の形状が非球状であっても粒子径分布に対する影響も補正されて得ることができる。
【0048】
第1実施形態の変形例について説明する。
【0049】
第1実施形態では粒子径が所定範囲の場合に、機械学習により粒子径分布モデルを生成し、そのモデルに基づいて粒子径分布及び形状分布を得るようにしていたが、すべての粒子径の範囲において粒子径分布モデルを生成しておき、常に粒子径分布モデルに基づいて散乱パターンから粒子径分布及び形状分布が出力されるようにしても構わない。
【0050】
また、粒子径分布モデルは、少なくとも散乱パターンを説明変数とするものであればよく、さらに別のパラメータを説明変数に加えても構わない。また、目的変数は粒子径分布のみに限定しても構わない。
【0051】
次に第2実施形態の粒子径分布測定装置100について図5乃至図7を参照しながら説明する。以下の説明では第1実施形態と異なっている部分について説明する。
【0052】
第2実施形態の粒子径分布測定装置100は、異なる装置間における器差を機械学習によってモデル化し、算出された粒子径分布を補正又は変換することができるように構成されたものである。
【0053】
図5の機能ブロック図に示すように、第2実施形態の粒子径分布算出器1は、器差モデル生成部7、器差出力部8、理論演算部2を備えている。
【0054】
器差モデル生成部7は、散乱パターンを説明変数とし、同一の試料について自身と他の粒子径分布測定装置で測定された測定値の器差を目的変数とする器差モデルを機械学習により生成する。ここで、学習データ記憶部3には、同一の試料について自身と他の粒子径分布測定装置において測定された散乱パターンが教師データとして記憶されている。以下では図6のフローチャートを参照しながら器差モデルの生成手順について説明する。
【0055】
まず、自身の粒子径分布測定装置100においてある試料について散乱パターンを測定する(ステップS21)。
【0056】
次に、他の粒子径分布測定装置においてステップS21と同一の試料について散乱パターンを測定する(ステップS22)。なお、ステップS21とステップS22については試料に含まれる粒子群の粒子径分布を変化させながら多数回繰り返され、多数の教師データが作成される。
【0057】
得られた多数の教師データに基づいて、器差モデル生成部7は自身の散乱パターンを入力、それに対応する別の粒子径分布測定装置における散乱パターンを測定値の器差として出力するモデルを器差モデルとして生成する(ステップS23)。
【0058】
次に器差出力部8及び理論演算部2について図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0059】
理論演算部2は、検出機構Dで測定されている散乱パターンにより理論演算で粒子径分布を算出する(ステップST21)。
【0060】
器差出力部8は、生成された器差モデルに対して検出機構Dで測定されている散乱パターンを入力し、他の粒子径分布測定装置であれば測定されていると考えられる散乱パターンを出力する(ステップST22)。
【0061】
次に理論演算部2は、器差出力部8から出力される他の粒子径分布測定装置において対応する散乱パターンから理論演算により他の粒子径分布測定装置100において出力されると考えらえる粒子径分布を算出する(ステップST23)。
【0062】
表示部6は、自身の測定結果である粒子径分布と、他の粒子径分布測定装置での測定結果である粒子径分布とを一覧表示する(ステップST24)。
【0063】
このような第2実施形態の粒子径分布測定装置100によれば、器差モデルに基づいてある装置と別の装置における測定結果の違いを同時に表示することができる。このため、同一メーカ内での器差やメーカの違いによる測定結果の違いを把握することが容易にできる。
【0064】
第2実施形態の変形例について説明する。
【0065】
器差モデルについては説明変数を自身で測定された散乱パターン、目的変数を粒子径分布の差としてもよい。このようなものであれば、散乱パターンから算出された粒子径分布に器差モデルから出力される粒子径分布の差を補正することで他の粒子径分布測定装置の測定結果に変換することができる。また、理論演算により散乱パターンから粒子径分布を算出するのではなく、機械学習から生成された粒子径分布モデルにより散乱パターンから粒子径分布を出力し、その結果を器差モデルから出力される粒子径分布の差で補正してもよい。加えて、器差モデルの説明変数は粒子径分布であってもかまわない。
【0066】
次に第3実施形態の粒子径分布測定装置100について図8乃至図10を参照しながら説明する。以下の説明では第1実施形態と異なっている部分について説明する。
【0067】
第3実施形態の粒子径分布測定装置100は、散乱パターンから理論演算により粒子径分布が算出される際に設定される屈折率等の校正パラメータを機械学習によりモデル化し、自動的に適切な値が設定されるようにしたものである。
【0068】
図8の機能ブロック図に示すように、第3実施形態の粒子径分布算出器1は、校正パラメータモデル生成部、校正パラメータ出力部10、理論演算部2を備えている。
【0069】
構成パラメータ生成部は、散乱パターンを説明変数とし、少なくとも屈折率を含む校正パラメータを目的変数とする校正パラメータモデルを機械学習により生成する。
【0070】
図9のフローチャートに示すように、モデル生成時においては、散乱パターンと、その散乱パターンに対して粒子径分布を理論演算により算出するために実際に設定された屈折率と、オペレータが判断した屈折率の適否結果と、を対にした教師データが収集される(ステップS31)。このように収集された教師データは、学習データ記憶部3には、多数記憶される。また、適否結果は算出された粒子径分布が実際の測定結果として妥当であるとオペレータにより判断された場合には適となり、妥当ではないとオペレータにより判断された場合には否となる。
【0071】
校正パラメータモデル生成部は、収集された教師データに基づいて、入力された散乱パターンに対応する屈折率を出力する校正パラメータモデルを機械学習により生成する(ステップS32)。
【0072】
図10のフローチャートに示すように、測定時において校正パラメータ出力部10は、検出機構Dにより測定された散乱パターンを校正パラメータモデルに入力し、対応する屈折率を理論演算部2に対して出力する(ステップST31)。
【0073】
理論演算部2は設定された屈折率と、測定された散乱パターンに基づいて理論演算により粒子径分布を算出する(ステップST32)。
【0074】
表示部6は散乱パターンの測定ごとに算出される粒子径分布を一覧表示する(ステップST33)。
【0075】
このように第3実施形態の粒子径分布測定装置100によれば、従来オペレータが経験と勘に基づいて試行錯誤により設定していた屈折率等の校正パラメータの設定を自動化できる。
【0076】
また、教師データにより散乱パターンごとに適した屈折率が最初から選ばれるので、屈折率を変更しながら複数回にわたって粒子径分布を算出する必要がなく、演算にかかる時間を大幅に短縮できる。
【0077】
第3実施形態の変形例について説明する。
【0078】
校正パラメータは屈折率に限られるものではなく、その他のパラメータであっても構わない。例えば試料の濃度や粘度等といった粒子径分布の算出結果に影響を与え得る可能性があり、それらの正確な値を得ることが難しいものにしてもよい。
【0079】
校正パラメータモデルについては、説明変数を粒子径分布にしてもよい。また、説明変数を散乱パターンと粒子径分布の両方にしてもよい。
【0080】
次に第4実施形態の粒子径分布測定装置100について図11乃至図13を参照しながら説明する。以下の説明では第1実施形態と異なっている部分について説明する。
【0081】
第4実施形態の粒子径分布測定装置100では、散乱パターンと粒子径分布測定装置100内における異常状態との間の関係を機械学習によりモデル化し、散乱パターンからどこに異常が発生しているかを検知できるようにしている。
【0082】
具体的には粒子径分布算出器1とは別に異常状態モデル生成部11と、異常出力部12としての機能を発揮するようにコンピュータCOMは構成されている。
【0083】
異常状態モデル生成部11は、少なくとも散乱パターンを説明変数とし、粒子径分布測定装置100の異常状態を目的変数とする異常状態モデルを機械学習により生成する。
【0084】
図12のフローチャートに示すように、モデル生成時においては散乱パターンと、その散乱パターンが測定されているときの粒子径分布測定装置100の異常状態と、を対にした教師データが収集されて学習データ記憶部3に記憶される(ステップS41)。ここで、異常状態についてはオペレータが判定している結果であって、例えば異状なし、セルの汚れなどの異常、光学系の異常等様々なものを含む。
【0085】
異常状態モデル生成部11は、教師データに基づいて入力された散乱パターンに対応する異常状態を出力する異常状態モデルを機械学習により生成する(ステップS42)。
【0086】
図13のフローチャートに示すように異常出力部12は、検出機構Dで測定された散乱パターンを生成された異常状態モデルに対して入力し、異常なし、あるいは、発生している異常状態のいずれかを出力する(ステップST41)。
【0087】
表示部6は、異常出力部12から出力されている粒子径分布測定装置100の状態を表示する(ステップST42)。
【0088】
このように第4実施形態の粒子径分布測定装置100であれば、散乱パターンに現れている粒子径分布以外の情報である異常状態に関する情報を機械学習により生成された異常状態モデルにより取得することができる。そして、発生している異常状態をオペレータに通知して対策を促すことが可能となる。
【0089】
第4実施形態の変形例について説明する。
【0090】
異常状態モデルの説明変数は散乱パターンではなく、粒子径分布であっても構わない。また、説明変数を散乱パターンと粒子径分布の両方にしてもよい。目的変数については、異常状態だけでなく、異常状態において正しい粒子径分布を算出するための補正係数を設定してもよい。
【0091】
その他の実施形態について説明する。
【0092】
第1実施形態において示したように粒子径分布測定装置100自体が、粒子径分布モデルを機械学習により生成するように構成されていなくてもよい。具体的には、図14に示すように第1実施形態の粒子径分布モデル生成部4の代わりにモデル記憶部41を備え、粒子径分布出力部5がモデル記憶部41に記憶されている粒子径分布モデルを参照して、測定された散乱パターンから粒子径分布を出力するように構成してもよい。ここで、モデル記憶部41に記憶されている粒子径分布モデルは、例えば粒子径分布測定装置100の工場出荷前等において機械学習により生成されたものである。このようなものであっても、第1実施形態とほぼ同様の効果を享受できる。
【0093】
各実施形態では、機械学習は教師データを用いて各モデルを生成していたが、教師なし学習により各モデルを生成するようにしても構わない。学習アルゴリズムについても、目的に応じて適宜選択してもよい。
【0094】
各実施形態では静的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を説明したが、動的光散乱法(DLS)に基づく粒子径分布測定装置に本発明を適用しても構わない。この場合、散乱パターンは散乱角に対する散乱光の強度を示すベクトルデータではなく、検出器から出力される信号の強度の時間変化を示すベクトルデータ、又は、遅れ時間に対する自己相関関数を示すベクトルデータとなる。
【0095】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0096】
100・・・粒子径分布測定装置
LS ・・・レーザ光源
D ・・・検出機構
D1、D2、D3 ・・・検出器
1 ・・・粒子径分布算出器
2 ・・・理論演算部
3 ・・・学習データ記憶部
4 ・・・粒子径分布モデル生成部
41 ・・・モデル記憶部
5 ・・・粒子径分布出力部
6 ・・・表示部
7 ・・・器差モデル生成部
8 ・・・器差出力部
9 ・・・校正パラメータモデル生成部
10 ・・・校正パラメータ出力部
11 ・・・異常状態モデル生成部
12 ・・・異常出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14