(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】安定性のアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
C07F7/08 C
(21)【出願番号】P 2021510031
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 US2019047683
(87)【国際公開番号】W WO2020041576
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-04-15
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517114182
【氏名又は名称】バーサム マテリアルズ ユーエス,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジー.リッジウェイ
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド エヌ.バーティス
(72)【発明者】
【氏名】シンチエン レイ
(72)【発明者】
【氏名】マドゥカー ビー.ラオ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブ ジェラルド マヨルガ
(72)【発明者】
【氏名】ニール オスターワルダー
(72)【発明者】
【氏名】マンチャオ シアオ
(72)【発明者】
【氏名】メイリャン ワン
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-052918(JP,A)
【文献】特開2005-071741(JP,A)
【文献】TETRAVINYLSILANE [online],更新日:2017年6月28日,検索日:2022年5月25日,https://www.guidechem.com/trade/tetravinylsilane-id3065493.html
【文献】Divinyldimethylsilane CAS NO.10519-87-6 [online],更新日:2016年6月6日,検索日:2022年5月25日,https://www.guidechem.com/trade/divinyldimethylsilane-cas-no-1-id3414096.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物を製造するための方法であって、
式R
nSiR
1
4-nを有し、式中、Rが直鎖若しくは分岐鎖のC
2~C
6アルケニル基、及び直鎖若しくは分岐鎖のC
2~C
6アルキニル基からなる群から選択され、R
1が水素、直鎖若しくは分岐鎖のC
1~C
10アルキル基及びC
3~C
10アリール基からなる群から選択され、nが1~4である、少なくとも1つのアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物を含む組成物を少なくとも一度蒸留する工程であって、蒸留の後に、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物が製造されてい
て、前記蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物が、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した場合に、100ppm(0.01wt%)より少ない、>1000amuの不純物を含む工程;並びに
前記蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物
をコンテナ中に収容する収容工程
であって、前記コンテナがステンレス鋼、ガラス又はクォーツで作られていて、前記ガラス又はクォーツが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の10%以下の透過を可能とする収容工程
を含
み、前記蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物が、50ppmより少ない水不純物及び10ppmより少ないハロゲン化物不純物を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物が、
【化1】
からなる群から選択される1つ又は複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物がテトラビニルシランを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記収容工程の前に、前記蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物に、安定剤化合物を添加する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記安定剤化合物が、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、プロピルエステル3,4,5-トリヒドロキシ-安息香酸、2-(1,1-ジメチルエチル)-1,4-ベンゼンジオール、ジフェニルピクリルヒドラジル、4-tert-ブチルカテコール、N-メチルアニリン、p-メトキシジフェニルアミン、ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、p-ヒドロキシジフェニルアミン、フェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート)メタン、フェノチアジン、アルキルアミドノイソ尿素、チオジエチレンビス(3,5,-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート、1,2,-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、環状ネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)、オキサリルビス(ベンジリデンヒドラジド)、原料種子油、小麦胚芽油、トコフェロール及びゴムからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の7%以下の透過を可能とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の1%以下の透過を可能とする、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の0%の透過を可能とする、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物を貯蔵するためのシステムであって、
ステンレス鋼、ガラス又はクォーツで作られたコンテナであって、前記ガラス又はクォーツが、コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の10%以下の透過を可能とするコンテナ;並びに
前記コンテナ中に含有されている、式R
nSiR
1
4-nを有し、式中、Rが直鎖若しくは分岐鎖のC
2~C
6アルケニル基、及び直鎖若しくは分岐鎖のC
2~C
6アルキニル基からなる群から選択され、R
1が水素、直鎖若しくは分岐鎖のC
1~C
10アルキル基、C
3~C
10環状アルキル基及びC
3~C
10アリール基からなる群から選択され、nが1~4であ
り、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した場合に、100ppm(0.01wt%)より少ない、>1000amuの不純物を有する、少なくとも1つの蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物
を含
み、50ppmより少ない水不純物及び10ppmより少ないハロゲン化物不純物が前記コンテナ中に含有されている、システム。
【請求項10】
前記少なくとも1つの蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物が、
【化2】
からなる群から選択される、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物がテトラビニルシランを含む、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コンテナ中に安定剤化合物がさらに含有されている、請求項
9に記載のシステム。
【請求項13】
前記安定剤化合物が、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、プロピルエステル3,4,5-トリヒドロキシ-安息香酸、2-(1,1-ジメチルエチル)-1,4-ベンゼンジオール、ジフェニルピクリルヒドラジル、4-tert-ブチルカテコール、N-メチルアニリン、p-メトキシジフェニルアミン、ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、p-ヒドロキシジフェニルアミン、フェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート)メタン、フェノチアジン、アルキルアミドノイソ尿素、チオジエチレンビス(3,5,-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート、1,2,-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、環状ネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)、オキサリルビス(ベンジリデンヒドラジド)、原料種子油、小麦胚芽油、トコフェロール及びゴムからなる群から選択される、請求項
12に記載のシステム。
【請求項14】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の7%以下の透過を可能とする、請求項
9に記載のシステム。
【請求項15】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の5%以下の透過を可能とする、請求項
14に記載のシステム。
【請求項16】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の2%以下の透過を可能とする、請求項
15に記載のシステム。
【請求項17】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の1%以下の透過を可能とする、請求項
16に記載のシステム。
【請求項18】
前記コンテナが、前記コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の0%の透過を可能とする、請求項
17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月23日に出願された米国仮出願第62/722090号、及び2019年8月21日に出願された米国特許出願第16/547468号明細書に基づく優先権を主張していて、それらの開示は参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、電気デバイス中に絶縁層として利用される、化学気相堆積(CVD)法によって調製された低誘電率材料の分野に関する。特に、本発明は、液体状態における自己重合によって引き起こされる不純物の析出に関するプロセスの問題を排除する、誘電材料に対する前駆体としての使用のための、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物に向けたものである。
【背景技術】
【0003】
アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物、例えばテトラビニルシラン(TVS)などは、炭化ケイ素(SiC)、シリコンオキシカーバイド(SiOC)及び炭窒化ケイ素(SiCN)の膜の堆積のための主要な候補として特定されてきた。従来の堆積プロセスにおいては、直接的な液体注入(DLI)技術が用いられて、正確に制御された量の前駆体化合物をプロセスツール堆積チャンバーに繰り返し輸送している。堆積プロセスは化学気相堆積(CVD)、原子層堆積(ALD)、プラズマ強化化学気相堆積(PECVD)、流動性化学気相堆積(FCVD)、プラズマ強化原子層堆積(PEALD)又はこれらの膜を堆積するための他の方法を含む場合がある。
【0004】
堆積の間、一定流量のアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物及びアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物類似前駆体を、液体質量流量制御器(LMFC)と、前駆体を揮発させる加熱気化注入システムとの組み合わせを使用して、プロセスツールに輸送することが必要であり、前駆体は、加熱された輸送ラインを通って注入器からプロセスチャンバーへ掃引される。このプロセスの間、非揮発性の残余物又は成分が、LMFC、注入器又は化学的な輸送ライン中に蓄積しないことが重要である。有機ケイ素前駆体化合物の不飽和部分は重合を生じやすく、有機ケイ素前駆体化合物は、周囲温度で、又は通常の処理、純化若しくは特定の化学物質の適用の間にしばしば直面する並の温度で、徐々に分解又は重合及び析出する。残余物/沈殿物のこのような蓄積は、プロセスチャンバーへの蒸気の流動における途絶をもたらし、このことは膜成長の再現性にひどく影響を与え、プロセスを大量製造(HVM)に値しないものとする。
【0005】
このような残余物の例は、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物中の不純物、例えばアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物に対してより低い揮発性を有する塩素含有不純物と、光吸収又は不純物を生じる他のフリーラジカルの存在のために、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物の自己開始重合から生じる、より高分子量の不純物との結果として注入器中に残された残余物を含む場合がある。このような例において、より高分子量の不純物は、不純物が注入器を通過するまで、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物中で可溶性のままであり、次いで濃化(thicken)又は濃縮(condense)のいずれかを始め、それらが蓄積する気体輸送ラインに落ちて、最後にはプロセスチャンバーへの気体の流動を妨害すると考えられる。
【0006】
このような途絶現象が生じるのを回避するために、低分子量及びより高分子量の不純物の両方についての所与の範囲にある落ちる不純物の濃度を有する、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物の適した組成物を得ることが必要である。従って、可能な限り純粋に製造された、かつ一度収容された後は経時的に純粋なままであるアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体化合物への要求がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物を製造するための方法を提供していて、方法は、式RnSiR1
4-nを有し、式中、Rが直鎖若しくは分岐鎖のC2~C6アルケニル基、直鎖若しくは分岐鎖のC2~C6アルキニル基から選択され、R1が水素、直鎖若しくは分岐鎖のC1~C10アルキル基、C3~C10環状アルキル基及びC3~C10アリール基から選択され、nが1~4から選択される数である、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物を含む組成物を少なくとも一度蒸留する工程であって、蒸留の後に、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物が製造されている工程と;蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物を、コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の10%以下の透過を可能とするコンテナ中に収容する収容工程とを含む。
【0008】
別の態様において、本発明は、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物を貯蔵するためのシステムを提供していて、システムは、コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の10%以下の透過を可能とするコンテナと;コンテナ中に含有された、式RnSiR1
4-nを有し、式中、Rが直鎖若しくは分岐鎖のC2~C6アルケニル基、直鎖若しくは分岐鎖のC2~C6アルキニル基から選択され、R1が水素、直鎖若しくは分岐鎖のC1~C10アルキル基、C3~C10環状アルキル基及びC3~C10アリール基から選択され、nが1~4から選択される数である、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物とを含む。
【0009】
本発明の種々の実施態様は、単独で又は互いに組み合わせて使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物を製造するための方法が説明されていて、方法は、式RnSiR1
4-nを有し、式中、Rが直鎖若しくは分岐鎖のC2~C6アルケニル基、直鎖若しくは分岐鎖のC2~C6アルキニル基から選択され、R1が水素、直鎖若しくは分岐鎖のC1~C10アルキル基、C3~C10環状アルキル基及びC3~C10アリール基から選択され、nが1~4から選択される数である、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物を含む組成物を少なくとも一度蒸留する工程であって、蒸留の後に、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物が製造されている工程と;蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物を、コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の10%以下の透過を可能とするコンテナ中に収容する収容工程とを含む。
【0011】
種々の実施態様の前駆体は、アルケニル(ビニル)及び/又はアルキニル基を含む。1つ又は複数の実施態様において、それらの意図される使用において、前駆体は反応性ラジカルにさらされて、堆積チャンバー中でラジカル誘導重合を開始する。
【0012】
1つの実施態様において、本発明の方法は、収容工程の前に、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物に安定剤化合物を添加する工程をさらに含む。
【0013】
粗製の(すなわち本発明による蒸留による純化の前の)アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物、例えば残余の塩化物又は他のハロゲン化物不純物を有する化合物などを含む組成物については、蒸留によって、塩化物含有成分の多くを、粗製のアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物から除去することができる。
【0014】
式R
nSiR
1
4-nを有するアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物についての例示的な化合物は以下:
【化1】
を含むがそれらに限定されない。
【0015】
特定の実施態様において、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物は、テトラビニルシラン(TVS)を含む。
【0016】
上の式において、及び明細書を通じて、用語「直鎖又は分岐鎖のアルキル」は、1~10、3~10又は1~6個の炭素原子を有する直鎖の官能基を表す。上の式において、及び明細書を通じて、用語「分岐鎖のアルキル」は、3~10又は3~6個の炭素原子を有する分岐鎖の官能基を表す。例示的な直鎖又は分岐鎖のアルキル基は、メチル(Me)、エチル(Et)、イソプロピル(Pri)、イソブチル(Bui)、sec-ブチル(Bus)、tert-ブチル(But)、イソペンチル、tert-ペンチル(am)、イソヘキシル及びネオヘキシルを含むがそれらに限定されない。特定の実施態様において、アルキル基は、それに結合した1つ又は複数の官能基、例えば、以下に限定するものではないが、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基又はそれらの組み合わせなどの官能基を有していてよい。他の実施態様において、アルキル基は、それに結合した1つ又は複数の官能基を有さない。アルキル基は、飽和であるか、又は代わりに不飽和であってよい。
【0017】
上の式において、及び明細書を通じて、用語「環状アルキル」は、3~10又は5~10個の原子を有する環状基を表す。例示的な環状アルキル基は、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロオクチル基を含むがそれらに限定されない。特定の実施態様において、環状アルキル基は、1つ又は複数の、C1~C10の直鎖、分岐鎖の置換基、又は酸素原子若しくは窒素原子を含有する置換基を有していてよい。この実施態様又は他の実施態様において、環状アルキル基は、1つ又は複数の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルコキシ基、例えばメチルシクロヘキシル基又はメトキシシクロヘキシル基を置換基として有していてよい。
【0018】
上の式において、及び明細書を通じて、用語「アリール」は、3~10個の炭素原子、5~10個の炭素原子又は6~10個の炭素原子を有する芳香族の環状官能基を表す。例示的なアリール基は、フェニル、ベンジル、クロロベンジル、トリル及びo-キシリルを含むがそれらに限定されない。
【0019】
上の式において、及び明細書を通じて、用語「アルケニル基」は、1つ又は複数の炭素-炭素の二重結合を有し、かつ2~12、2~10又は2~6個の炭素原子を有する基を表す。例示的なアルケニル基は、ビニル又はアリル基を含むがそれらに限定されない。
【0020】
用語「アルキニル基」は、1つ又は複数の炭素-炭素の三重結合を有し、かつ2~12又は2~6個の炭素原子を有する基を表す。
【0021】
上の式において、及び明細書を通じて、本明細書において使用されるとき、用語「不飽和の」は、官能基、置換基、環又はブリッジが、1つ又は複数の炭素二重結合又は三重結合を有することを意味する。不飽和の環の例は、以下に限定するものではないが、芳香族環、例えばフェニル環であってよい。用語「飽和の」は、官能基、置換基、環又はブリッジが、1つ又は複数の二重結合又は三重結合を有さないことを意味する。
【0022】
特定の実施態様において、式中のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及び/又は環状アルキル基のうち1つ又は複数は、「置換されている」か、又は例えば水素原子に代わって置換された1以上の原子若しくは原子の群を有していてよい。例示的な置換基は、酸素、硫黄、ハロゲン原子(例えばF、Cl、I又はBr)、窒素、アルキル基及びリンを含むがそれらに限定されない。他の実施態様において、式中のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族及び/又はアリール基のうち1つ又は複数は置換されていなくてよい。
【0023】
好ましくは、本発明による有機ケイ素化合物は、ハロゲン化物を実質的に有さない。本明細書において使用されるとき、用語「実質的に有さない」は、ハロゲン化物イオン(又はハロゲン化物)、例えば塩化物(すなわち塩化物含有種、例えばHCl又は少なくとも1つのSi-Cl結合を有する有機ケイ素化合物)、フッ化物、臭化物及びヨウ化物に関するとき、イオンクロマトグラフィー(IC)によって測定して(重量で)100ppmより少ない、好ましくはICによって測定して50ppmより少ない、より好ましくはICによって測定して10ppmより少ない、最も好ましくはICによって測定して0ppmであることを意味する。最終生成物中の有意なレベルの塩化物は、水分又は水の存在の下で、有機ケイ素前駆体中への、貯蔵又は使用の間のステンレス鋼コンテナからの金属の浸出を引き起こす場合があり、浸出した金属イオンは、有機ケイ素前駆体の重合に触媒作用を及ぼして、より高分子量の不純物を形成する場合がある。有機ケイ素化合物のゆるやかな分解は、半導体製造者にとって膜の仕様を適合させることを困難にする膜堆積プロセスに直接的に影響を与えることができる。加えて、貯蔵寿命又は安定性は、有機ケイ素化合物のより高い分解速度によって負に影響を受け、それによって1~2年の貯蔵寿命を保証することを困難にする。好ましくは、有機ケイ素化合物は、金属イオン、例えばLi+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Ni2+、Cr3+を実質的に有さない。本明細書において使用されるとき、用語「実質的に有さない」は、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Crに関するとき、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって測定した場合に(重量で)5ppmより少ない、好ましくは3ppmより少ない、より好ましくは1ppmより少ない、最も好ましくは0.1ppmより少ないことを意味する。好ましくは、有機ケイ素化合物は、水又は有機シラン化合物、例えば出発材料若しくは合成からくる副生成物のいずれかに由来する他のアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素化合物も実質的に有さず、本明細書において使用するとき、用語「実質的に有さない」は、水に関するとき、カールフィッシャー法によって分析して(重量で)100ppmより少ない、好ましくは50ppmより少ない、より好ましくは10ppmより少ないことを;全ての有機シラン不純物、例えばトリビニルクロロシランの合計は、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析して1.0wt%より少ない、好ましくは0.5wt%より少ない、好ましくは0.1wt%より少ないことを意味する。
【0024】
幾つかの実施態様において、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物に、安定剤化合物が添加される。例示的な安定剤化合物は、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(又はブチルヒドロキシトルエンを表すBHT)、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、3-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、プロピルエステル3,4,5-トリヒドロキシ-安息香酸、2-(1,1-ジメチルエチル)-1,4-ベンゼンジオール、ジフェニルピクリルヒドラジル、4-tert-ブチルカテコール、N-メチルアニリン、p-メトキシジフェニルアミン、ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、p-ヒドロキシジフェニルアミン、フェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル)-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート)メタン、フェノチアジン、アルキルアミドノイソ尿素、チオジエチレンビス(3,5,-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナメート、1,2,-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジン、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、環状ネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)、オキサリルビス(ベンジリデンヒドラジド)、並びに天然由来の抗酸化物、例えば原料種子油、小麦胚芽油、トコフェロール及びゴムを含む。安定剤化合物の機能は、アルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体の自己重合又はオリゴマー化を妨げることである。
【0025】
本開発の方法は、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物を、コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の10%以下の透過を可能とするコンテナ中に収容する収容工程を含む。本明細書において使用されるとき、本明細書において説明されるコンテナ中に収容された、蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物は「システム」といわれる。
【0026】
幾つかの実施態様において、コンテナは、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の7%以下の透過を可能とする。他の実施態様において、コンテナは、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の5%以下の透過を可能とする。他の実施態様において、コンテナは、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の3%以下の透過を可能とする。他の実施態様において、コンテナは、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の2%以下の透過を可能とする。さらに別の実施態様において、コンテナは、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の1%以下の透過を可能とする。さらに他の実施態様において、コンテナは、コンテナ中への290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の0%の透過を可能とする。
【0027】
固体媒体を通るUV光及び可視光の透過の割合は、当分野の当業者によって公知である任意の方法によって、例えばサンプルが一方から照射され、方向毎に、サンプルから出る光の強度が測定される紫外可視(UV-VIS)吸収分光法によって測定することができる。本発明によれば、商業的に入手可能な任意の紫外可視(UV-VIS)吸収機器を用いて、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の透過を測定することができる。
【0028】
コンテナを作る材料及びコンテナの壁構造体の厚さは、コンテナの壁構造体を通る290nm~450nmの波長を有する光の透過を実施可能に抑制する。幾つかの実施態様において、コンテナはステンレス鋼で作られる。ガラス又はクォーツコンテナが用いられる場合、コンテナは、290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の透過を妨げるのに十分に厚い壁を有するか、又はこのようなコンテナの壁が290nm~450nmの波長を有する紫外光及び可視光の透過を妨げる材料の層でカバーされているかのいずれかである。このような材料の例は、金属箔及び合成樹脂コーティングを含む。
【0029】
本発明において用いることができるコンテナの例は、参照によって本明細書に組み込まれるAir Products and Chemicals,Inc.(Allentown,PA)の米国特許第7124913号明細書において開示されている高純度薬剤容器である。
【0030】
好ましくは、本発明の蒸留されたアルケニル又はアルキニル含有有機ケイ素前駆体組成物で一度充填されたコンテナは、15℃~30℃の温度で、より好ましくは室温で貯蔵される。
【0031】
以下の実施例は、低いレベルの不純物、例えばより高分子量の種、水分及びハロゲン、例えば塩化物、を有するアルケニル及びアルキナルのブレンドを得ることの重要性を示す。
【実施例】
【0032】
例1
テトラビニルシラン(TVS)の2つの異なる供給源に由来するサンプルを、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって分析して、液体中に存在する、より高分子量(HMW)の種の濃度を決定した。下の表1は、>1wt%のHMW種(>1000原子質量単位(amu)、例えば1000~20000amuの分子量を有する種又はオリゴマー)を含有するTVSと、0.1wt%(1000ppm)のより高分子量の種(>1000amu)を含有するTVSとを示す比較サンプルを示している。TVSの2つの供給源は、DLIシステムを通る、CVDプロセスチャンバー中へのTVSの連続的な輸送への影響に対する有意な違いを有する。
【0033】
【0034】
例2:より高い濃度の1000以上のamuを有する不純物を有するTVSの影響
【0035】
Horiba STEC LF-410A液体流量メーターと、MV1000蒸気注入器とを有するVersum Materials DLI(直接的な液体注入)試験システムにおいて、流動試験を行った。840gのテトラビニルシラン(TVS)化学製品を、不活性雰囲気の下で、Versum materials Chemguard(商標)液体格納システムに移した。TVSの化学的アッセイは96wt%であり、HMW不純物は1.8wt%であり、塩化物含有量は97ppmであり、H2O含有量は1076ppmであった。注入器温度を100℃に設定した。注入器の下流ラインを110℃に加熱した。30pisgの圧力に設定したヘリウム気体を使用して、液体を蒸気注入器に押し出した。付加的な100sccmのヘリウムを、注入器境界面にわたる不活性キャリアガスとして使用した。液体流量を0.3g/minに設定した。液体流量を、PLCによって制御して、8minの間のオンと2minの間のオフとを周期的に切り替えた。ライン中の圧力及び液体流量は、初期には非常に安定であった。11hの化学製品流動サイクルの後、液体流速及びライン圧力は変動し始め、プロセスチャンバーへの化学製品の安定な流動における途絶を示した。試験の後、TVSコンテナをChemguardツールから取り外し、1kgのヘキサンを有するコンテナをChemguardに取り付けた。ヘキサン溶媒のフラッシングを、セットアップした同じツールを用いて行った。ヘキサンの流動は安定ではなく、注入器が部分的に詰まったことを確認した。流動試験を終えた後、注入器及び注入器の後に位置するチューブを、残余物について検査した。幾らかの量の茶色がかったポリマー材料を、注入器及び注入器の後に位置するチューブ中に見出した。ヘキサンのフラッシングは、高いHMW不純物レベルを有するTVSから形成されるオリゴマー/ポリマーは、ヘキサンを使用して可溶化することができないことも示す結果となった。理論によって拘束されるものではないが、これらの結果は、溶媒を蒸気化して、それによってオリゴマーを可溶化することができない場合に、オリゴマー/ポリマーがDLIシステムの範囲において蓄積して、化学製品のプロセスチャンバー中への不安定な流動をもたらすことを示唆する。
【0036】
比較例3:高純度TVS流動試験
【0037】
比較のために、蒸留された高純度TVS化学製品を用いて、Horiba STEC LF-410A液体流量メーターと、MV1000蒸気注入器とを有するVersum Materials DLI(直接的な液体注入)試験システムにおいて、流動試験を行った。860gの蒸留されたTVS化学製品を、不活性雰囲気の下で、Versum materials Chemguard液体格納システムに移した。TVSの化学的アッセイは99.5%であり、塩化物含有量は0.2ppmであり、H2O含有量は35ppmであった。注入器温度を100℃に設定した。注入器の下流ラインを110℃に加熱した。30pisgの圧力でヘリウム気体を使用して、液体を蒸気注入器に押し出した。付加的な100sccmのヘリウムを、注入器境界面にわたる不活性キャリアガスとして使用した。液体流量を0.3g/minに設定した。液体流量を、PLCによって制御して、8minの間のオンと2minの間のオフとを周期的に切り替えた。液体流速、ライン圧力及び注入器制御電圧は、27hの流動試験の後に化学製品の供給が尽きるまで、試験を通して安定であった。試験の後、TVSコンテナをChemguardツールから取り外し、ヘキサンを有するコンテナをChemguardに取り付けた。ヘキサンのフラッシングを、セットアップした同じツールを用いて行った。ヘキサンの流動は安定であり、DLIによる、ツールへの化学製品の輸送を妨げるオリゴマー/ポリマーがなかったことを示唆している。
【0038】
例4:TVSの安定性又は貯蔵寿命は、より高分子量の種の初期濃度によって影響を受ける。
【0039】
125℃でTVSサンプルを加熱することによって加速エージング試験を行って、不純物濃度が経時的にどれだけ増加し得るかを決定した。サンプルの加熱及び1~3日間の暴露の後に、GPCによって決定した、より高分子量(HMW)の不純物(例えば>1000amu)における増加が、表2から分かる。特定の理論によって拘束されることを意図するものではないが、この増加はTVSの自己重合の結果を示していると考えられる。この重合の結果は、上で議論される堆積チャンバー中への化学製品流量の観察された減少を示す。オリゴマー又は高分子量の不純物をGPCによって決定した。結果は、より低いHMW不純物濃度は、材料の寿命にわたって、よりゆるやかな増加をもたらすことを示していて、このことは化学製品輸送の不通のリスクを大いに減少させるはずである。
【0040】
【0041】
例5:ステンレス鋼の腐食に対する、TVSの水及び塩化物レベルの効果
【0042】
ステンレス鋼の腐食に対する、TVS(テトラビニルシラン)中の水及び塩化物の影響を評価するために実験を行った。異なるレベルの水及び塩化物を有するTVSを、電解研磨された316Lステンレス鋼チューブ中で加熱して、室温における延長された貯蔵条件を模擬した。
【0043】
異なる量の水及び塩化物を有するTVSの4つのサンプルを、分離したステンレス鋼チューブ中で、7日間、80℃で加熱した。80℃で一週間は、通常、周囲温度で1年の間に起こるエージングを模擬することを意図している。この実験の目的のために、加速エージングは、修正された10度則法を使用するアレニウスの原理に従うと仮定する。任意のエージング期間について、加速エージング温度で、相当する室温エージング期間を、以下の式:
【数1】
によって推定することができ、式中、t
rtは室温相当エージング期間、t
AAは加速エージング温度におけるエージング期間、T
AAは加速エージング温度(℃)、T
rtは室温(22℃)、Q
10は反応速度定数であり、本試験については2に設定する。加速エージング法のさらなる説明を、ASTM方法F1980-07において見出すことができる。
【0044】
試験サンプル#1は少ない塩化物及び少ない水を有し;サンプル#2は少ない塩化物及び多い水を有し;サンプル#3は多い塩化物及び少ない水を有し;サンプル#4は多い塩化物及び多い水を有していた。TVSのこれらの4つのサンプルを、それらのステンレス鋼金属含有量(Fe、Cr、Ni、Mn及びMo)について、熱処理の前及び後に、ICP-MS(誘導結合プラズマ-質量分析法)によって分析した。これらを、加熱の前及び後に、GC(ガスクロマトグラフィー)によってさらに分析して、TVS純度に対するエージングの影響を評価した。これらの4つのサンプルの概要及び分析結果が下の表3にある。
【0045】
TVSサンプル#1(少ない塩化物、少ない水)のエージングの後に、いずれのステンレス鋼金属においても増加は観察されなかった。このことは、TVSサンプル#2~4の場合には当てはまらなかった。TVSサンプル#2~4について、Ni、Cr及びMnにおける増加が観察され、そのサンプルの全ては多い塩化物か、多い水か、又は多い塩化物及び多い水を有していた。加熱の後のステンレス鋼金属含有量における増加は、室温における1年間の後の、ステンレス鋼容器におけるTVSの貯蔵の後に起こる腐食を示すものであった。GCによって測定した場合の全体の純度は、熱処理の後に有意には変化しなかった。塩化物又は水の含有量に関わらず、いずれのTVSサンプルのエージングの前/後で、色の変化は明らかには見られなかった。
【0046】
これらの実験は、ステンレス鋼金属、例えばFe、Cr、Ni、Mn及びMoの、TVS液体への浸出をもたらすステンレス鋼コンテナの腐食を回避するために、TVS中の少ない塩化物及び少ない水の重要性を説明している。
【0047】
表3:4つの試験サンプルについての分析結果の概要
【表3】
【0048】
本発明の特定の原理が、態様又は実施態様と関連して上で説明されたが、この説明は、単に例によってされていて、本発明の範囲の限定としてはされていないことが明確に理解される。