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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-30
(45)【発行日】2023-06-07
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230531BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
H01L21/302 101D
H05H1/46 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022506180
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006280
(87)【国際公開番号】W WO2022176147
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川那辺 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 真
(72)【発明者】
【氏名】田中 基裕
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-083896(JP,A)
【文献】特開2013-211270(JP,A)
【文献】特開2000-306890(JP,A)
【文献】特開2012-134235(JP,A)
【文献】特開2019-110028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波が透過する誘電体板を上方に具備し試料がプラズマ処理される処理室と、前記マイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、前記高周波電源から導波管を介して伝送されたマイクロ波を共振させ前記誘電体板の上方に配置された空洞共振器と、前記処理室内に磁場を形成する磁場形成機構とを備えるプラズマ処理装置において、
前記空洞共振器の内部に配置されたリング状導体と、前記空洞共振器の内部に配置され前記リング状導体の中央の開口に配置された円形導体とをさらに備え、
前記円形導体と前記リング状導体の間に形成されるスロットの幅は、マイクロ波の回折を抑制できる寸法以上の幅であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記円形導体は、前記誘電体板に形成された凹テーパ形状に嵌合する凸テーパ形状を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記円形導体の上面と側面は、曲面により接続されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記円形導体は、複数の貫通開口を有する金属板またはメッシュ構造を有する導体であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記円形導体と前記リング状導体とは連結されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
マイクロ波が透過する誘電体板を上方に具備し試料がプラズマ処理される処理室と、前記マイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、前記高周波電源から導波管を介して伝送されたマイクロ波を共振させ前記誘電体板の上方に配置された空洞共振器と、前記処理室内に磁場を形成する磁場形成機構とを備えるプラズマ処理装置において、
前記空洞共振器の内部に配置されたリング状導体と、前記空洞共振器の内部に配置され前記リング状導体の中央の開口に配置された円形導体とをさらに備え、
前記円形導体と前記リング状導体の間に形成されるスロットの幅は、前記マイクロ波の波長を基に規定された寸法の幅であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記円形導体の半径は、前記空洞共振器の上部に接続された円形導波管の半径より大きいことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記円形導体の半径は、前記空洞共振器の上部に接続された円形導波管の半径より大きいことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記リング状導体の内周の半径から前記円形導体の半径を減じた値は、前記マイクロ波の波長を円周率により除した値以上であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記処理室へガスを供給する複数のガス供給孔を中心部に有し前記誘電体板の下方に配置されたガス供給板をさらに備え、
前記空洞共振器の高さをHA、前記誘電体板と前記ガス供給板の厚みをHB、前記誘電体板と前記ガス供給板の比誘電率をεr、前記処理室の半径をRBとしたとき、前記リング状導体の半径RCは、
RC≦RB-HB/(εr(1+(HA/RB))-1)(1/2)
の関係式を満たすことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項に記載のプラズマ処理装置において、
前記処理室へガスを供給する複数のガス供給孔を中心部に有し前記誘電体板の下方に配置されたガス供給板をさらに備え、
前記円形導体および前記ガス供給板を前記円形導体の軸線方向に見たとき、前記円形導体の半径は、前記ガス供給孔の中で最外周に位置するガス供給孔に接する円の半径より大きいことを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造において、プラズマエッチング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマアッシング等のプラズマ処理が広く用いられている。プラズマ処理装置の一つであるエッチング装置においては、デバイス量産性の観点から、異方性加工と等方性加工とを一台の装置で行いたいとの要請がある。
【0003】
異方性の加工は、ウエハに垂直に入射するイオンを主体としたイオンアシスト反応で実現でき、等方性の加工は、等方的に拡散してウエハに入射するラジカルが主体となる化学反応で実現できる。一般に、低圧ではイオン密度が高くなってイオン主体のエッチングが促進され、高圧ではラジカル密度が高くなってラジカル主体のエッチングが促進される。したがって、このようなエッチング装置においては、0.1Pa程度の低圧から数十Paの高圧までの広範な圧力領域で処理を可能とすることが望ましい。更に、デバイス量産性を確保するためには、このような広範な圧力領域において、ウエハ面内で均一にエッチングを行うことが必要である。
【0004】
プラズマの生成方式として、ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式や、誘導結合方式や、容量結合方式などが知られている。ECRとは、電磁波発生源から導入される電磁波周波数と電磁コイルにより形成された磁場による電子のサイクロトロン周波数が一致したときに生じる共鳴現象である。プラズマは、ECRにより加速された高エネルギーの電子が、ガス分子に衝突して電離して生成される。ECR方式は、誘導結合方式や容量結合方式などのプラズマ生成方式では実現困難な1Pa以下の低圧領域においても、効率的かつ均一にプラズマを生成できることが一つの利点である。
【0005】
放電室内圧力が比較的低圧であれば、電子の平均自由行程が長いため、電子がECRにより十分に加速されてからガス分子と衝突電離し、ECRの条件を満たす等磁場面の近傍で効率的にプラズマが生成される。通常、ECRの条件を満たす等磁場面は放電室内に面状に広がるため、プラズマが生成される領域は放電室内で面状あるいはリング状に広がりを持つ。このため、比較的均一なプラズマ処理が実現できる。
【0006】
しかし、放電室内圧力が高くなれば、電子の平均自由行程が短いため、電磁波からエネルギーを受け取った電子は即座にガス分子と衝突して電離や解離をする。したがって、プラズマの生成領域は、ECRの条件を満たす等磁場面近傍ではなく、電磁波の入射するマイクロ波導入窓の直下かつ導波管の直下である放電室中心軸近傍に局在化することとなる。このため、高圧条件下ではエッチングレートが中心高の分布となり、不均一となりやすいという課題がある。
【0007】
放電室中心部へのプラズマ生成の局在化を抑制する先行技術として、例えば特許文献1に示すものが挙げられる。特許文献1のECR方式を用いたプラズマ処理装置は、放電室と電磁波伝送部との間に配置されたマイクロ波導入窓と、マイクロ波導入窓の下部に配置された電磁波反射板および補助反射板を有している。電磁波反射板と補助反射板との間に形成されたリング状電磁波放射口から電磁波を放電室内に入射させ、ECR面にリング状プラズマを生起させることにより、均一なプラズマを形成し、均一性が高いプラズマ処理を実現している。
【0008】
また、特許文献2は、無磁場でマイクロ波プラズマを生成する方式のプラズマ処理装置に関する。マイクロ波の伝搬する導波管と、処理容器内に導入されるマイクロ波導入窓と、導波管とマイクロ波導入窓との間に配置された円環状のリングスロットと、マイクロ波導入窓の処理容器側に配置され、マイクロ波導入窓を透過したマイクロ波の電界を遮蔽する遮蔽板とを備える。遮蔽板を設けることにより、処理容器内中央部のプラズマ密度を低減し、試料面内のプラズマ処理の不均一を低減している。
【0009】
また、特許文献3には、処理室内の第一のプラズマに加えて、マイクロ波導入窓内の空間の中央部に第二のプラズマを形成する方法が示されている。第二のプラズマ密度をカットオフ密度以上にすることで第二のプラズマが電磁波反射板のような役割を持ち、第二のプラズマを生成しないことで電磁波を透過させることができる。したがって、第二のプラズマ密度を調節することにより、多様な条件でプラズマ処理の不均一を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-148097号公報
【文献】特開2013-211270号公報
【文献】特開2019-110028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マイクロ波を用いたECRプラズマエッチング装置において、広範な圧力領域でエッチングレートなどのプラズマ処理の特性に関して、ウエハ面内で分布均一化を図ることは困難である。特に数Pa以上の高圧領域においては、その実現が困難であった。
【0012】
高圧時にプラズマ処理の均一化が難しい理由として、プラズマ生成の局在化と等方的な拡散が優位になることが挙げられる。放電室内圧力が高くなれば、電子の平均自由行程が短くなるため、電磁波からエネルギーを受け取った電子は、即座にガス分子と衝突して電離や解離をする。したがって、プラズマの生成領域は、電磁波の入射するマイクロ波導入窓の直下かつ導波管の直下である放電室中心軸近傍に局在化することとなる。
【0013】
また、放電室内圧力が高くなると、荷電粒子とガス分子との衝突が増加し、等方性の拡散が支配的になっていく。荷電粒子は処理室内の壁面に衝突すると消失するため、等方的な拡散が優位となると、プラズマ密度は壁面より遠い箇所、すなわち放電室中心部にて高くなる。
【0014】
すなわち、ウエハ面内のイオンフラックスは外周部よりも中心部の方が高い凸分布となり、その均一化は困難となる。このような不均一を改善する方法として上述した先行文献があるが、それぞれについて課題がある。
【0015】
特許文献1に記載の技術によれば、マイクロ波導入窓のプラズマ処理室側に電磁波遮蔽板が設置される。しかしながら、かかる従来技術では電磁波遮蔽板が高密度プラズマの近傍にあることから、スパッタリングによる金属汚染等を回避すべくセラミック溶射などの対策が必要になり、コスト高を招く。また、特許文献1に示すように、マイクロ波導入窓の下部に電磁波遮蔽板を設置することは実際的には非常に困難であるが、その実現方法について特許文献1には具体的に記載がない。
【0016】
例えば、電磁波遮蔽板をマイクロ波導入窓の下に固定する方法として、接着剤やネジを用いて固定する方法も考えられる。しかしながら、接着剤を用いた固定方法の場合、その接着剤が処理室内のラジカルやイオンにより反応して反応生成物が発生し、被処理基板に入射し、意図しない不具合が発生するリスクが高い。また、誘電体と電磁波遮蔽板の熱膨張差により、接着剤剥がれなどのリスクがある。一方、ネジを使った固定方法では、取付けや取外しの際に、物理的にネジとネジ穴が螺旋摺動する際に微小異物が発生するリスクがある。
【0017】
次に、特許文献2に記載の技術によれば、磁場を利用しないプラズマ処理装置において、円環状のリングスロットからマイクロ波が導入される。かかる従来技術は磁場を用いない方式に適用されたものであり、磁場を有する方式についての言及がなされていない。仮に有磁場方式のプラズマ処理装置に単純にリングスロット方式を採用した場合、マイクロ波がスロット部にて回折して導入窓の中心部にマイクロ波が回り込み、更にプラズマ処理室の中心部において選択的にマイクロ波が吸収されてプラズマ分布が中心部に局在化することがわかった。マイクロ波が中心部に回り込みにくくなる条件については、後述する。
【0018】
さらに、特許文献3に記載の技術によれば、カットオフ密度以上となった第二のプラズマを電磁波遮蔽板のように用いることができる。しかし、第二のプラズマの生成にマイクロ波が吸収されてしまうことで、第一のプラズマの効率的生成が困難になり、過大な電力の供給が必要となると考えられる。また、第二のプラズマの生成により、例えば石英窓が削れてしまい、第二のプラズマの生成領域が経時的に拡大することから、第二のプラズマ密度分布が経時的に変化し、結果としてプラズマ処理の特性が経時的に変化してしまうという問題が懸念される。
【0019】
本発明の目的は、広範な圧力領域において、高度に均一化されたプラズマ処理を実現できるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、代表的な本発明にかかるプラズマ処理装置の一つは、マイクロ波が透過する誘電体板を上方に具備し試料がプラズマ処理される処理室と、前記マイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、前記高周波電源から導波管を介して伝送されたマイクロ波を共振させ前記誘電体板の上方に配置された空洞共振器と、前記処理室内に磁場を形成する磁場形成機構とを備えるプラズマ処理装置において、
前記空洞共振器の内部に配置されたリング状導体と、前記空洞共振器の内部に配置され前記リング状導体の中央の開口に配置された円形導体とをさらに備え、
前記円形導体と前記リング状導体の間に形成されるスロットの幅は、マイクロ波の回折を抑制できる寸法以上の幅であることにより達成される。
また、代表的な本発明にかかるプラズマ処理装置の一つは、マイクロ波が透過する誘電体板を上方に具備し試料がプラズマ処理される処理室と、前記マイクロ波の高周波電力を供給する高周波電源と、前記高周波電源から導波管を介して伝送されたマイクロ波を共振させ前記誘電体板の上方に配置された空洞共振器と、前記処理室内に磁場を形成する磁場形成機構とを備えるプラズマ処理装置において、
前記空洞共振器の内部に配置されたリング状導体と、前記空洞共振器の内部に配置され前記リング状導体の中央の開口に配置された円形導体とをさらに備え、
前記円形導体と前記リング状導体の間に形成されるスロットの幅は、前記マイクロ波の波長を基に規定された寸法の幅であることにより達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、広範な圧力領域において、高度に均一化されたプラズマ処理を実現できるプラズマ処理装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の第一の実施形態に係るエッチング装置の断面図である。
図2図2は、マイクロ波導入窓周辺の拡大断面図である。
図3図3は、外側導体板外周部周辺の拡大断面図である。
図4図4は、空洞部周辺の拡大断面図である。
図5図5は、空洞部周辺の拡大断面図である。
図6図6は、本発明の空洞部周辺の拡大断面図である。
図7図7は、マイクロ波が中心方向に回り込む指標とWθ1/λとの関係を表す散布図である。
図8図8は、内側導波管半径R2とその時に必要な最小のWとの関係の計算結果を表す図である。
図9図9は、本発明の第一の実施例に係るエッチング装置においてマイクロ波を変化させたときのプラズマ密度分布の計算結果を表す図である。
図10図10は、スロットの幅が狭い場合のプラズマ密度分布の計算結果を表す図である。
図11図11は、本発明の第二の実施例に係る内側導体板の断面形状を表す拡大断面図である。
図12図12は、本発明の第三の実施例に係る空洞部周辺の拡大断面図である。
図13図13は、本発明の第三の実施例に係る内側導体板の上面図である。
図14図14は、本発明の第四の実施例に係るエッチング装置において、導体板の構造を表す上面図である。
図15図15は、本発明の第五の実施例に係るシャワープレート周辺の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を、図面を参照して以下に説明する。なお、本明細書において、マイクロ波を供給する側を上方とし、マイクロ波が供給される基板ステージ兼高周波電極(試料台)側を下方とする。
【0024】
[第一の実施形態]
図1に、本発明の第一の実施形態に係るプラズマ処理装置としてのエッチング装置の断面図を示す。プラズマ処理装置には、マイクロ波源1からマイクロ波が発振され、方形導波管2とアイソレータ3と自動整合器4と円矩形変換器5を介して、円形導波管6に伝送される。本実施形態では工業的によく用いられる2.45GHzのマイクロ波を使用する。
【0025】
アイソレータ3は、マイクロ波の反射波からマイクロ波源(高周波電源ともいう)1を保護するために用いられ、自動整合器4は負荷インピーダンスを調整し、反射波を抑制して効率的にマイクロ波を供給するために用いられる。円形導波管6より導入されたマイクロ波は、空洞部(空洞共振器ともいう)7に伝搬し、空洞部7内に同軸に設置される内側導体板(円形導体ともいう)8と外側導体板(リング状導体ともいう)9間の等幅であるリング状スロット(単にスロットともいう)28から、マイクロ波導入窓10とシャワープレート11を通ってプラズマ処理室12に供給される。マイクロ波導入窓10により、誘電体板を構成し、シャワープレート11により、ガス供給板を構成する。
【0026】
空洞部7は、マイクロ波を反射する材料として導体を用いて形成される。空洞部7の材質として、例えばアルミニウムが好適に用いられる。内側導体板8は、外側導体板9の中央の開口に配置されており、軸対称なマイクロ波伝搬を実現させるためにそれぞれ軸対称形状を有する。内側導体板8と外側導体板9とにより、処理室の上方に配置される誘電体板を構成する。
【0027】
本実施形態では、内側導体板8は円板であり、外側導体板9はリング状の円板である。内側導体板8と外側導体板9の材質は、導電性のある材質であれば良いが、装置内に印加されるコイル磁界の影響を受けないために非磁性体であることが望ましい。本実施形態では、内側導体板8と外側導体板9の材質としてアルミニウムが用いられる。
【0028】
プラズマ処理室12の周囲には電磁コイル(磁場形成機構ともいう)13が配設され、その外周にはヨーク14が配設されている。電磁コイル13に所定の電流を供給することにより、プラズマ処理室12内でECRに必要な磁束密度を満たすように調整された静磁場分布が形成される。ヨーク14は、装置外部への磁場の漏洩を防ぐ磁気シールドの役割を持つ。
【0029】
電磁コイル13とヨーク14で形成される磁力線は、プラズマ処理室12の上方から下方に向かって外周方向に広がる拡散磁場となる。2.45GHzのマイクロ波の場合、ECRに必要な磁束密度は875Gである。静磁場分布を調整して、875Gの等磁場面(ECR面)をプラズマ処理室12室内に入るように形成することで、プラズマ15が効率的に生成される。
【0030】
プラズマ処理室12の側壁をプラズマから保護するために、プラズマ処理室12の側壁内側に内筒16が設置される。プラズマ15の近傍に位置する内筒16は、プラズマ耐性の高い材料として石英により形成される。あるいは、プラズマ耐性が高い他の材料として、イットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いて内筒16を形成しても良い。
【0031】
マイクロ波導入窓10及びシャワープレート11は、マイクロ波を透過する材料として石英を用いて形成される。あるいは、マイクロ波を透過する材料であれば他の誘電体材料を用いてマイクロ波導入窓10及びシャワープレート11を形成しても良いし、またプラズマ耐性が高い材料として、イットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いてマイクロ波導入窓10及びシャワープレート11を形成しても良い。
【0032】
マイクロ波導入窓10とシャワープレート11の間には、ガス供給装置17からガスが供給される。ガス供給装置17には、マスフローコントローラによって所望の流量を供給する機能が含まれている。また、プラズマ処理に使用されるガス種は、被処理膜等に応じて適宜選択され、複数のガス種を所定の流量で組み合わせて供給される。
【0033】
シャワープレート11の中央部にはガス供給孔が複数設けられており、ガス供給装置17から供給されたガスは、このガス供給孔を介してプラズマ処理室12に供給される。プラズマ処理室12に供給されたガスは、コンダクタンス調節バルブ21を介してターボ分子ポンプ22により真空排気される。
【0034】
プラズマ処理室12の下部には、被処理基板(試料ともいう)18を載置する基板ステージ兼高周波電極19が備えられ、さらに基板ステージ兼高周波電極19の下部には絶縁板20が備えられている。基板ステージ兼高周波電極19には、バイアス電力を供給するために自動整合器23を介してバイアス電源24が接続されている。本実施形態では、バイアス電源24の周波数を400kHzとした。
【0035】
基板ステージ兼高周波電極19には、図示しない被処理基板18の吸着機構と温調装置が備えられており、被処理基板18に対して所望のエッチングを行うために、必要に応じて被処理基板18の温度が調節される。基板ステージ兼高周波電極19の外周部をプラズマ15から保護するために、サセプタ35とステージカバー36が設置される。サセプタ35及びステージカバー36には、プラズマ耐性の高い材料として石英を用いる。
【0036】
エッチングは、電磁コイル13によって形成される磁場と、マイクロ波源1から供給したマイクロ波とによって、プラズマ処理室12に導入されるガスをプラズマ化し、そこで生成したイオンやラジカルを被処理基板18に照射することにより行われる。
【0037】
内側導体板8の中心位置が装置の中心軸からずれると、マイクロ波の軸対称な供給が難しくなり、プラズマ処理の均一性に影響を及ぼす。したがって、必要に応じて内側導体板8の中心位置の中心軸からのずれを抑制する対応策を採用することが重要である。
【0038】
内側導体板8の具体的設置例を、図2を用いて説明する。図2は、マイクロ波導入窓10周辺の拡大断面図である。図2(A)に示す例において、マイクロ波導入窓10の上部の中央部に内側導体板8が設置され、外周部には外側導体板9が設置されている。図2(A)の例では、内側導体板8がマイクロ波導入窓10に固定されていないため、内側導体板8の設置時に、内側導体板8の中心位置がプラズマ処理室12の中心軸からずれる恐れがある。
【0039】
また、プラズマ処理時にはプラズマからの入熱によりプラズマ処理室12が加熱され、その周辺に熱が伝わり、マイクロ波導入窓10や内側導体板8や外側導体板9が高温になる場合がある。このため、プラズマ処理の過程で昇温と冷却を繰り返す結果、内側導体板8が熱膨張と熱収縮を繰り返してわずかに設置位置がずれ、このずれが蓄積される恐れがある。
【0040】
これに対し、内側導体板8の中心位置のずれを抑制するための構成を、図2(B)に示す。図2(B)に示す構成において、内側導体板8と外側導体板9間にスペーサ25が設置されている。この構成では、スペーサ25の存在により内側導体板8の位置ずれが抑制される。スペーサ25は、マイクロ波を伝搬する物質として、例えば石英を用いて形成される。
【0041】
内側導体板8や外側導体板9として用いられるアルミニウムの線膨張係数は、23.6×10-6[1/℃]であり、マイクロ波導入窓10やスペーサ25として用いられる石英の線膨張係数は、0.52×10-6[1/℃]であり、これら部材間で熱膨張差が比較的大きい。したがって、内側導体板8の側面とスペーサ25の側面の間に遊び(隙間)がない場合、内側導体板8とスペーサ25間の熱膨張差によりスペーサ25が内側導体板8に圧迫されて応力が発生する。石英は脆性材料であるため、スペーサ25に力がかかると割れて破損するリスクがある。
【0042】
しかしながら、熱膨張差を考慮して両者間に遊びを設けると、内側導体板8の設置時に遊びの分だけ設置位置がずれて、高精度な位置決めを行えない可能性がある。そこで、例えば、スペーサ25を内側導体板8の位置を調整するために用い、プラズマ処理する際にはスペーサ25を外して、図2(A)に示す構成に戻すこともできる。
【0043】
あるいは何らかの温調装置によって内側導体板8、スペーサ25、外側導体板9、マイクロ波導入窓10の温度調整を行って、上記遊びをなくす代わりに熱膨張を抑制することもできる。温調装置としては、例えば温度調節された空気を、内側導体板8と外側導体板9とマイクロ波導入窓10に吹き付ける吹付装置が用いられる。
【0044】
内側導体板8の位置ずれ抑制の別な対応策として、内側導体板8を固定することが考えられる。例えば、内側導体板8とマイクロ波導入窓10とを、接着剤を用いて接着しても良い。かかる場合、内側導体板8がマイクロ波導入窓10から剥がれないようにするためには、接着剤に内側導体板8とマイクロ波導入窓10の熱膨張差を吸収するバッファ層としての性質を持たせることが望ましい。
【0045】
また、スパッタリングや化学蒸着やメッキなどによってマイクロ波導入窓10の表面に導体膜をコーティングすることにより、内側導体板8を形成しても良い。かかる場合、接着の場合と同様に、内側導体板8とマイクロ波導入窓10の熱膨張差によって膜剥がれが生じるリスクがあるため、内側導体板8とマイクロ波導入窓10間に必要に応じてバッファ層を成膜することが望ましい。
【0046】
あるいは温調装置などによって、内側導体板8、スペーサ25、外側導体板9、マイクロ波導入窓10を温調して熱膨張を抑制すれば、上述したバッファ層は不要となる。また、内側導体板8として薄膜を成膜する場合には、マイクロ波を透過しないために表皮深さ以上の厚みにすることが望ましい。例えば、導体膜として銅を用いた場合、2.45GHzのマイクロ波に対する表皮深さは4.2μmであるため、少なくとも4.2μm以上の厚みの導体を成膜することが望ましい。
【0047】
内側導体板8の位置ずれを抑制する別の構成を、図2(C)に示す。図2(C)に示す構成においては、マイクロ波導入窓10の中心部に段差部を形成し、その段差部に内側導体板8を嵌合させている。段差部の破損リスクを低減するためには、マイクロ波導入窓10の段差部の径と内側導体板8の径は、両者の熱膨張差を考慮してわずかに遊びを設けることが望ましい。しかしながら先に述べたように、遊びを設けると、それに応じて内側導体板8設置時に位置ずれするリスクがある。これに対し、温調装置等で熱膨張を抑制することができれば、上記遊びを設ける必要はない。
【0048】
次に、マイクロ波導入窓10と内側導体板8の熱膨張差による段差部の破損リスクを低減し、位置ずれを抑制するための好適な構成を、図2(D)に示す。図2(D)に示す構成では、マイクロ波導入窓10の中央に段差部を有し、該段差部の外周面は、マイクロ波導入窓10に向かうに従って縮径する凹テーパ形状となっている。また、内側導体板8の外周部は、前記段差部の凹テーパ形状に対応する凸テーパ形状の面を持つ。
【0049】
該段差部が凹テーパ形状の面を持つため、内側導体板8が熱膨張により径方向外側に広がるとき、テーパ形状に沿って内側導体板8が上方に逃げ(シフトし)、部材に過度な応力が生じることを抑制できるため、その破損リスクを低減できる。また、マイクロ波導入窓10の段差部の凹テーパ形状の面と、内側導体板8外周部の凸テーパ形状の面が常に接触しているため、内側導体板8の中心軸からの位置ずれが抑制される。また、内側導体板8を上方に持ち上げるだけで取り外すことができるため、メンテナンス時の着脱が容易であるという利点もある。
【0050】
次に、外側導体板9の具体的設置例について説明する。外側導体板9の中心が装置の中心軸に対してずれた場合も、プラズマ処理の均一性に影響を及ぼすため、外側導体板9の中心軸からのずれを抑制する対応策を採用することが重要である。しかし、内側導体板8の場合とは異なり、外側導体板9の位置ずれリスクと熱膨張差による破損リスクは比較的低い。
【0051】
例えば、空洞部7の外周部と外側導体板9が同一材料である場合、熱膨張差を考える必要がなくなるため、空洞部7の外周部と外側導体板9に遊びを設ける必要はない。また、空洞部7と外側導体板9が線膨張係数の異なる異質の金属材料であった場合でも、両部材とも石英とは異なり脆性材料ではないため、たとえ熱膨張差により部材間に応力が生じても破損するリスクは小さい。そこで、空洞部7の外周部と外側導体板9外周を密着させれば、位置ずれリスクが小さくなる。
【0052】
以下、図3を用いて、外側導体板9の具体的設置例を説明する。図3は、外側導体板9の外周部周辺の拡大断面図であり、左側が外周方向、右側が中心方向を表す。図3(A)の例では、外側導体板9がマイクロ波導入窓10の上部に設置されており、空洞部7とマイクロ波導入窓10のいずれにも固定されていない状態にある。かかる場合、外側導体板9は高さ方向と回転方向の移動に対して自由度がある。
【0053】
次に、図3(B)の例では、空洞部7の内周にピン26が埋め込まれて径方向に突出しており、外側導体板9のピン溝にピン26を係合させる態様で、外側導体板9が設置される。ピン26は周方向に、例えば等間隔で複数個(好ましくは3個以上)設置される。この時、ピン26がピン溝の周方向の壁に拘束されることで、外側導体板9の回転方向の移動が制限される。
【0054】
図3(A)及び(B)の構成によれば、外側導体板9を上方に持ち上げて取り外すことができるため、メンテナンス時の着脱が容易であるという利点がある。
【0055】
図3(C)の例では、空洞部7の周壁にネジ27を挿入するための穴が貫通して形成され、外側導体板9の側面にはネジ穴が形成され、空洞部7の穴に挿通されたネジ27をネジ穴に螺合させることで、外側導体板9が固定される構成である。ネジ27は周方向に、例えば例えば等間隔で複数個(好ましくは3個以上)設置される。図3(C)の構成によれば、外側導体板9は高さ方向にも周方向にも固定される。
【0056】
図3(D)の例では、空洞部7と外側導体板9が一体構造となっている。かかる構成は、溶接や鋳造、削り出しなどで、空洞部7と外側導体板9を製作する必要があるため、製造コストが高くなるが、空洞部7に対する外側導体板9のずれはなくなる。
【0057】
なお、ピン26やネジ27の材質を導体とすれば、図3(B)、(C)、(D)に示す構成では、空洞部7と外側導体板9が電気的に導通するため同電位となる。そこで、例えば空洞部7を接地しておけば、外側導体板9の帯電を防ぐことができる。
【0058】
また、図3(A)、(B)に示す構成では、外側導体板9の下面とマイクロ波導入窓10の上面と密着させることができる。これに対し、図3(C)、(D)に示す構成では、寸法公差を考慮してマイクロ波導入窓10上面と外側導体板9下面の間でわずかに隙間を作ることが好ましい。かかる場合、寸法公差を厳格に管理しないと、外側導体板9がマイクロ波導入窓10を下方に押し付けてしまった場合に、マイクロ波導入窓10の破損につながる恐れがある。
【0059】
外側導体板9の帯電防止の必要性やメンテナンスの容易さを考慮して、図3で述べた外側導体板9の具体的設置例のいずれを採用しても良い。また、外側導体板9の設置の代表例として図3を用いて説明したが、位置ずれや破損リスク等、上述の考え方を考慮できていれば別の設置例を採用しても良い。
【0060】
上述したように、プラズマ処理室12内の圧力が高い場合において、マイクロ波がプラズマ処理室12の中心軸近傍に入射すると、プラズマ生成が中心に局在化する要因となる。中心軸近傍でのプラズマ生成の局在化を抑制するためには、プラズマ処理室12中心軸近傍に向かうマイクロ波の伝搬を抑制することが望ましい。言い換えると、円形導波管6を介して伝搬されるマイクロ波を、径方向外側に向けてプラズマ処理室12に入射させることが望ましい。
【0061】
図4は、本実施形態の空洞部7周辺を拡大して示す模式断面図である。内側導体板8は、円形導波管6から直接的にプラズマ処理室12中心軸上にマイクロ波が伝搬することを抑制する機能を持つ。円形導波管6からプラズマ処理室12の中心への直接的入射を抑制するために、内側導体板8の半径R2は円形導波管6の半径R1よりも大きくすることが望ましい。
【0062】
例えば、円形導波管6の半径R1を、2.45GHzのTE11モードのマイクロ波が好適に伝搬する半径として45mmとすると、R2>45mmとすることが好ましい。また、外側導体板9は、マイクロ波を径方向外側に向かってプラズマ処理室12に入射させるためのガイドとしての機能を持つ。
【0063】
本発明者らは、ガイドとしての機能を持たせるために好ましい外側導体板9の半径R3の条件を検討した。詳細な検討をするために、空洞部7の内壁やプラズマ15からの反射波なども考慮する必要があるが、今回の検討では簡単のために円形導波管6から直接的にマイクロ波導入窓10に入射するマイクロ波がプラズマ処理室12に入射する際に、径方向外向き成分を持って伝搬するか否かについて検討した。
【0064】
効率的にマイクロ波を径方向外向きにプラズマ処理室12に伝搬する条件は、スロット28の外周側を通過するマイクロ波が、マイクロ波導入窓10やシャワープレート11の側壁にて反射せずにプラズマ処理室12に入射することであると、本発明者らは見出した。円形導波管6から角度αでスロット28の外周部に向かうマイクロ波は、マイクロ波導入窓10にて角度βの方向に屈折する。そして、マイクロ波はシャワープレート11を透過し、プラズマ処理室12に導入される。このとき、スロット28外周を通過するマイクロ波が径方向外向き成分を持ってプラズマ処理室12に導入される条件は、以下の数式(1)で表される。
【0065】
【数1】
【0066】
ここで、R4はプラズマ処理室12の半径(内筒16の半径)であり、H2はマイクロ波導入窓10とシャワープレート11の厚みの和である。マイクロ波導入窓10とシャワープレート11間にはガス流路となる薄い層があるが、マイクロ波導入窓10やシャワープレート11に比べて十分薄いので無視した。また、図4の幾何学的な関係から、以下の数式(2)を得る。
【0067】
【数2】
【0068】
また、スネルの法則を用いて、α、βとマイクロ波導入窓10とシャワープレート11の比誘電率εrの関係式が、以下の式(3)で得られる。
【0069】
【数3】
【0070】
ここでは、マイクロ波導入窓10とシャワープレート11は同一材料の石英とした。数式(1)~(3)を整理すると、R3が満たすべき条件として、以下の数式(4)を得る。
【0071】
【数4】
【0072】
例えば、R2が100mm、H2が50mm、R4が250mm、εrが3.8のとき、数式(4)よりR3は230.5mm以下である必要がある。
【0073】
外側導体板9の内側の半径R3と内側導体板8の半径R2との差(スロット幅W)が狭いとき、スロット28を通過したマイクロ波がプラズマ処理室12中心軸方向に回折してしまう。すなわち、マイクロ波が回折せずに径方向外向き成分を持ってプラズマ処理室12に導入されるためにはスロット幅Wに適切な条件が存在する。この回折を抑制するためのスロット幅Wについて、以下に説明する。
【0074】
図5は、本実施形態の空洞部7周辺を拡大した模式断面図である。また、円形導波管6下端かつ中心軸からスロット28の中心に向かう線のなす角をθ1とすると、θ1は以下の数式(5)で表せる。
【0075】
【数5】
【0076】
回折が起こりにくくなる条件を概算するため、平面波が単スリットにθ1方向から入射する場合について考えた。図6はマイクロ波導入窓10周辺の拡大断面図である。R=0かつZ=H1の高さ位置から振幅A(θ1)で、角度θ1でスロット28の方向に向かうマイクロ波Φ(θ1)は、以下の数式(6)で表される。
【0077】
【数6】
【0078】
ここでfはマイクロ波の周波数、tは時間である。Φ(θ1)はスロット単位幅あたりの波の合成波の振幅であると考えると、スロット単位幅あたりのマイクロ波の振幅はA(θ1)/Wとなる。スロット28における図で右端から距離xにおける微小幅Δxを通るマイクロ波がスロット28にてθ2の方向に回折した場合、スロット28の図で右端を通過して回折するマイクロ波との光路差は、以下の数式(7)で表せる。
【0079】
【数7】
【0080】
ここで、λはマイクロ波の波長である。したがって、微小幅Δxを通るマイクロ波ΔΦ(θ2)は、数式(7)の光路差を考慮して以下の数式(8)で表せる。
【0081】
【数8】
【0082】
ΔΦ(θ2)をスリット幅全体で積分すれば、スロット28からθ2方向に回折するマイクロ波Φ(θ2)が、以下の数式(9)で求められる。
【0083】
【数9】
【0084】
ここで、Cは以下の数式(10)で表せる。
【0085】
【数10】
【0086】
電磁波の強度は波の振幅の2乗に比例することを用いると、数式(6)と数式(9)からθ2方向に回折する電磁波の強度I(θ2)はθ1方向から入射する電磁波の強度I(θ1)を用いて以下の数式(11)で表される。
【0087】
【数11】
【0088】
ここで、スロット28における回折によりプラズマ処理室12の中心軸側にマイクロ波が回り込む指標INDEXを、以下の数式(12)で定義する。
【0089】
【数12】
【0090】
この指標は、スロット28からプラズマ処理室12に入射する電磁波の強度に対して、プラズマ処理室12中心側に回折する電磁波の強度の比率を表す。つまり、プラズマ処理室12中心軸側へのマイクロ波の回折を抑制するためには、INDEXの値が小さいほど良い。
【0091】
ここで、空洞共振部の高さをHA、マイクロ波導入窓10とシャワープレート11の厚みをHB、マイクロ波導入窓10とシャワープレート11の比誘電率をεr、プラズマ処理室12の半径をRBとしたときに、外側導体板9の半径RCは、
RC≦RB-HB/(εr(1+(HA/RB))-1)(1/2)
を満たす。
【0092】
INDEXを計算した結果を図7に示す。INDEXとは、マイクロ波全成分のうち、内側に向かうマイクロ波成分の比率をいう。INDEXの計算はR2を20~200mm、H1を50~200mm、Wを10~190mm、λを60~180mmの範囲内で実施した。INDEXは概ねWθ1/λの関数として表され、Wθ1/λが大きいときに小さくなる。これは、スロット幅Wが大きいときやマイクロ波の導入角度θ1が大きいとき、マイクロ波の波長が小さいときにプラズマ処理室12中心側にマイクロ波が回り込みにくくなることを意味する。
【0093】
例えば、INDEXの基準を0.1とする。この基準はINDEXの最大値0.5に比べて80%低く、回折抑制の効果が十分見込める。図7からINDEXが0.1以下となるWθ1/λを読み取るとおおよそ以下の数式(13)の範囲となり、数式(13)を満たすように各種寸法を決定すれば良い。
【0094】
【数13】
【0095】
次に、本発明者らは、数式(5)と数式(13)より、横軸をR2としたときのWの最小値の関係を計算した。空洞部7の高さH1を変えて、それぞれ計算した結果を図8に表す。
【0096】
R2が大きくなると、Wの最小値は一定値に漸近する。これは、数式(5)よりR2が大きいとき、θ1がπ/2に漸近するためである。θ1<π/2を考慮すると、数式(13)のWは少なくともW≧λ/πを満たすことが望ましい。すなわち、外側導体板9の内周の半径から内側導体板8の半径を減じた値Wは、マイクロ波の波長λを円周率πにより除した値以上であると好ましい。例えば、λが120mmのとき、Wは少なくとも38mm以上となる。図8より、R2が小さい場合は、Wの最小値が大きくなる。
【0097】
例えば、R2を100mm、H1を100mmとしたときの最小のWを図8から読み取ると、Wの最小値は65mmである。また、数式(4)より、R3≦230.5mmとなり、W≦130.5mmとなる。以上を整理すると、65mm≦W≦130.5mmの範囲でWを選べば良いことがわかる。すなわち、本実施形態のスロットの幅は、マイクロ波の波長をもとに規定された寸法を有しており、またマイクロ波の回折を抑制できる寸法以上の幅であると好ましい。
【0098】
ここでは実施形態の一例として、R2を100mmに固定してWの範囲を求めたが、寸法を決める順序はこの限りではなく、適宜寸法を決めれば良い。また、本実施形態では回折を抑制するINDEXの基準を0.1としたが、必要に応じて更に小さい値を基準にして各寸法を決定しても良い。
【0099】
図9に、マイクロ波を変えたときのプラズマ処理室12内部のプラズマ密度分布の計算結果を示す。各寸法において、R1は45mm、R2は60mm、Wは100mm、H1は85mmとした。このときのWθ1/λは0.76であり、それに対応するINDEXを図7から読み取ると0.1以下となり、マイクロ波の回折を抑制できることが期待される。
【0100】
プラズマ密度は、マイクロ波の電磁場モデルとドリフト-拡散モデルの連成計算により見積もった。実際のプラズマ処理では複数種のガスが使われるが、簡単のためにArガスの場合のみ考慮した。圧力は4Paの高圧条件を用いた。
【0101】
図9に示すように、低マイクロ波ではプラズマ処理室12中央部にプラズマ密度が高い領域がある。そして、図9に示すコンター図下方のウエハの方向に向かうにつれて拡散していき、径方向に均一になることがわかる。そして、マイクロ波電力を高くすると、プラズマ密度が径方向外側に広がり、リング状のプラズマ分布となる。この結果から、本構成では、スロット28を通ったマイクロ波はプラズマ処理室12の中心部に回り込まず、効率的に径方向外側に伝搬してプラズマ生成をしていることが看取される。これは、内側導体板8により円形導波管6から中心部側へ直接向かうマイクロ波を抑制でき、外側導体板9により処理室内壁で反射したマイクロ波が中心部側へ向かうことを抑制できるためと考察される。また、プラズマの径方向分布はマイクロ波電力によって変化していることから、マイクロ波電力はプラズマの径方向分布、ひいてはエッチングレートの径方向分布を調整するノブとしての機能を持つ。
【0102】
次に、スロットの幅Wが狭い場合のプラズマ密度分布の計算結果を示す。かかる計算ではR1は45mm、R2は140mm、Wは20mm、H1は85mmとして実施した。このとき、Wθ1/λは0.18であり、それに対応するINDEXを図7から読み取ると約0.33である。本実施形態で基準としているINDEXの基準値0.1を大きく超えているため、マイクロ波はスロット28で回折し、マイクロ波がプラズマ処理室12中心軸にも導入されることが予想される。
【0103】
図10に、以上の条件によるプラズマ処理室12内部のプラズマ密度を表す。計算に用いたガス種、圧力、マイクロ波は図9の例と同一条件とした。図10より、明らかにマイクロ波導入窓10の直下及び中心軸近傍に局所的なプラズマが生成していることがわかる。
【0104】
図10から、スロット幅Wが狭いときにはスロット28を通ったマイクロ波がプラズマ処理室12中心部に回り込んでしまい、中心部において局所的にプラズマが生成されることがわかる。そして、図10のコンター図下方のウエハにおいても中心高のプラズマ分布となっていることがわかる。更にマイクロ波を変化させてもプラズマは中心部に局在化したままであり、図9のようにプラズマの径方向分布を調整するノブとしては機能していないことが明らかである。以上により、マイクロ波を径方向外側に供給するためには、スロット28等の寸法を適切に設定することが好ましい。なお、図10に示すスロット幅Wであっても、処理室内圧力によっては、プラズマ密度が径方向外側に広がり、リング状のプラズマ分布となる場合もある。
【0105】
[第二の実施形態]
第二の実施形態として、第一の実施形態のエッチング装置において、マイクロ波の回折を抑制するために好適な内側導体板8の形状について述べる。図11はマイクロ波導入窓10と内側導体板8の拡大断面図である。
【0106】
図2(D)を参照して説明したように、マイクロ波導入窓10には凹テーパ形状の外周面を持つ段差部があり、内側導体板8の外周下部は、その段差部に適合(嵌合)する凸テーパ形状となっている。本実施形態では、内側導体板8の外周上縁の断面が曲率を持った形状となっている。すなわち、内側導体板8の上面と側面とは、曲面8aを介して接続されている。一般に、電磁波の伝搬経路に鋭利な端部がある場合、ナイフエッジ回折として知られるように電磁波は回折しやすい。このようなナイフエッジ回折を抑制するためには、図11に示すように曲率を持たせて鋭利な角部を無くすことが有効である。
【0107】
[第三の実施形態]
第三の実施形態として、第一の実施形態のエッチング装置において、プラズマ処理室12や被処理基板18からの発光をモニタリングするのに好適な構成について述べる。図12は、空洞部7やマイクロ波導入窓10周辺構造の拡大断面図である。
【0108】
内側導体板8と外側導体板9には、無数の開口部が形成されている。内側導体板8と外側導体板9がマイクロ波を透過させないよう、開口部の開口径Dはマイクロ波の波長に対して十分小さく設定される。このため開口径Dは、例えばマイクロ波の波長の1/10以下とすれば十分である。これにより内側導体板8と外側導体板9の開口部を通してマイクロ波は透過しないが、プラズマ15や被処理基板18からの紫外光や可視光領域の光は通すことができる。
【0109】
あるいは、マイクロ波を反射し、光を透過する目的を満たすならば、内側導体板8と外側導体板9をITO電極等の透明導電膜としても良い。このとき、透明電極の厚みはマイクロ波を透過しないように表皮深さ以上の厚みにすることが好ましい。
【0110】
プラズマ15の発光をモニタリングするために、円矩形変換器5及び空洞部7上方には受光部29と光ファイバ30を介して発光分光器31が設置される。得られたプラズマ15の発光強度の径方向分布に基づき、プラズマ処理で用いるマイクロ波、電磁コイル13による外部磁場を調整し、所望のプラズマ15の径方向密度分布が得られるように調整する。あるいは、被処理基板18の被処理膜の表面の反射光と裏面の反射光による干渉光をモニタリングして被処理膜の膜厚分布をモニタリングしても良い。
【0111】
計測した膜厚分布に基づき、マイクロ波、外部磁場を調整し、被処理膜が所望の膜厚分布となるようにプラズマ処理をしても良い。本実施形態では発光を計測する箇所が2か所しかないが、必要に応じて計測箇所を増やしても良い。
【0112】
開口部を有する内側導体板8の構造例を、図13に示す。図13は、内側導体板8の上面図である。図13(A)において、内側導体板8は金属の細線を交差させて形成したメッシュ状(メッシュ構造)となっている。図13(B)において、内側導体板8は金属板に開口部(貫通開口)が無数に空いたパンチングメタルとなっている。
【0113】
図13(A)におけるメッシュ状の内側導体板8は、熱膨張に起因するマイクロ波導入窓10やスペーサ25の破損リスク低減に有効である。例えば、内側導体板8の外周部が図2(B)や(C)のように、マイクロ波導入窓10の段差部やスペーサ25で囲まれる場合を想定する。このとき、内側導体板8が熱膨張してもメッシュの細線の弾性によって内側導体板8が縮むことができるので、熱膨張による段差部の破損リスクが抑制される。
【0114】
図13(B)におけるパンチングメタルの内側導体板8では、熱膨張差による破損リスク低減のため、図2(D)記載のように段差部が斜めの凹テーパ形状の外周面を持ち、パンチングメタルの外周部が段差部に適合する凸テーパ形状の形状であることが望ましい。
【0115】
[第四の実施形態]
第四の実施形態において、第一の実施形態における内側導体板8と外側導体板9の異なる形態について述べる。図14は、第一の実施形態における内側導体板8と外側導体板9が一体となったような構造となっており、内側の円形領域33と支持部34と外側の円形領域37からなる導体板32となっている。換言すれば、導体板32は、支持部34を介して連結されることにより内側導体板と外側導体板とが一体化したものといえる。
【0116】
この構成では、内側の円形領域33が支持部34で固定されているため、第一の実施形態で述べたような内側導体板8の中心軸からのずれを考慮する必要がない。すなわち、マイクロ波導入窓10に内側導体板8をはめこむための段差部やスペーサが不要となる。
【0117】
また、第一の実施形態では内側導体板8が電気的に浮いてしまうが、本実施形態では導体板32が同電位になっており、導体板32の外周部と空洞部7を接触させ、空洞部7を接地すれば導体板32の帯電を防止できる。
【0118】
本実施形態では支持部34は4か所であるが、内側の円形領域33を支持する目的であれば4か所でなくても良い。また、支持部34は直線的な形状であるが、支持する目的を満たし、マイクロ波の透過を妨げないのであれば任意の形状で良い。
【0119】
[第五の実施形態]
第五の実施形態において、内側導体板8の半径とシャワープレート11のガス導入領域の好適な関係を説明する。図15はシャワープレート11周辺の拡大断面図である。内側導体板8の半径をR2、シャワープレート11のガス供給孔のあるガス導入領域(ガス供給孔の中で最外周に位置するガス供給孔に接する円)の半径をR5とする。
【0120】
マイクロ波の伝搬経路にシャワープレート11のガス供給孔がある場合、マイクロ波や処理圧力によってはガス孔内部で放電する場合がある。このとき、ウエハ上において局所的にエッチングレートが高くなり、プラズマ処理の均一性が悪化する場合がある。
【0121】
第一の実施形態で述べたように、マイクロ波はスロット28を介して径方向外側に向かってプラズマ処理室12に伝搬し、内側導体板8直下かつ内側導体板8の径より内側にはマイクロ波が伝搬しにくい。したがって、R5<R2とすれば、マイクロ波伝搬経路にシャワープレートのガス孔が存在しないため、ガス孔放電によるプラズマ処理均一性の悪化リスクが減少する。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、半導体ウエハ等の基板上の試料をエッチング等で処理するプラズマ処理装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1・・・マイクロ波源、 2・・・方形導波管、 3・・・アイソレータ、 4・・・自動整合器、 5・・・円矩形変換器、 6・・・円形導波管、 7・・・空洞部、 8・・・内側導体板(円形導体)、 9・・・外側導体板(リング状導体)、 10・・・マイクロ波導入窓、 11・・・シャワープレート、 12・・・プラズマ処理室、 13・・・電磁コイル(磁場形成機構)、 14・・・ヨーク、 15・・・プラズマ、 16・・・内筒、 17・・・ガス供給装置、 18・・・被処理基板(試料)、 19・・・基板ステージ兼高周波電極、 20・・・絶縁板、 21・・・コンダクタンス調節バルブ、 22・・・ターボ分子ポンプ、 23・・・自動整合器、 24・・・バイアス電源、 25・・・スペーサ、 26・・・ピン、 27・・・ネジ、 28・・・スロット、 29・・・受光部、 30・・・光ファイバ、 31・・・発光分光器、 32・・・導体板、 33・・・内側の円形領域、 34・・・支持部、 35・・・サセプタ、 36・・・ステージカバー
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