IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許-筋収縮による筋音を検出可能な装置 図1
  • 特許-筋収縮による筋音を検出可能な装置 図2
  • 特許-筋収縮による筋音を検出可能な装置 図3
  • 特許-筋収縮による筋音を検出可能な装置 図4
  • 特許-筋収縮による筋音を検出可能な装置 図5
  • 特許-筋収縮による筋音を検出可能な装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】筋収縮による筋音を検出可能な装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20230601BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20230601BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61B7/04 L
A61N1/36
A61B7/04 E
A61B5/11 110
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019105299
(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公開番号】P2020195719
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1. 発行日:平成30年11月21日 刊行物:日本機械学会 シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2018講演論文集(USBメモリに格納して配布) 公開者:竹井裕介、吉田学、竹下俊弘、小林健 内容:筋肉電気刺激・筋収縮モニタリング可能なスマートウェア 2. 発表日:平成30年11月21日(開催期間 平成30年11月21日~23日) 集会名:日本機械学会 シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2018 開催場所:京都テルサ(京都府京都市南区) 公開者:竹井裕介、吉田学、竹下俊弘、小林健 内容:講演番号 A-9 「筋肉電気刺激・筋収縮モニタリング可能なスマートウェア」の口頭発表資料
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】竹井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
(72)【発明者】
【氏名】吉田 学
(72)【発明者】
【氏名】竹下 俊弘
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217443(JP,A)
【文献】特開2015-066401(JP,A)
【文献】特開2004-141223(JP,A)
【文献】竹井裕介, 他,筋肉電気刺激&筋活動モニタリング可能なウェアラブルデバイス,第32回エレクトロニクス実装学会講演大会講演論文集(CD-ROM),2018年03月06日,p.188
【文献】Emiliano Ce, et al.,Changes in the electromechanical delay components during a fatiguing stimulation in human skeletal muscle: an EMG, MMG and force combined approach,European Journal of Applied Physiology,2017年01月,Vol.117, No.1,pp.95-107,<DOI:10.1007/s00421-016-3502-z>
【文献】UCHIYAMA, T., et al.,System Identification of Mechanomyograms Detected with an Acceleration Sensor and a Laser Displacement Meter,33rd Annual International Conference of the IEEE EMBS,2011年08月30日,pp.7131-7134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/00
A61B 5/11
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的な刺激を筋肉に与えて筋収縮による筋音を検出可能な装置であって、
電気的な刺激信号を与えた測定対象の筋肉において発生した筋音に応じた筋音信号を受信する入力手段と、
前記受信した筋音信号に含まれる、前記刺激信号を与えた時点から最初に受信する前記測定対象の速筋の筋収縮に対応する第1の筋音信号部分と、該第1の筋音信号部分よりも後に受信する前記測定対象の遅筋の筋収縮に対応する該第1の筋音信号部分よりもなだらかな変化を示す第2の筋音信号部分とを検出して、前記刺激信号を与えた時点から前記第1の筋音信号部分および第2の筋音信号部分の各々のピークを受信した時点までの反応時間または各々の該ピークの波高値に基づいて前記筋肉の状態を評価する解析手段と、を備える、前記装置。
【請求項2】
電気的な刺激を筋肉に与えて筋収縮による筋音を検出可能な装置であって、
電気的な刺激信号を与えた測定対象の筋肉において発生した筋音に応じた筋音信号を受信する入力手段と、
前記受信した筋音信号に含まれる、前記刺激信号を与えた時点から最初に受信する前記測定対象の速筋の筋収縮に対応する第1の筋音信号部分と、該第1の筋音信号部分よりも後に受信する前記測定対象の遅筋の筋収縮に対応する該第1の筋音信号部分よりもなだらかな変化を示す第2の筋音信号部分とを検出して、前記第1の筋音信号部分のピークと前記第2の筋音信号部分のピークとの波高値または前記刺激信号を与えた時点から前記第1の筋音信号部分および第2の筋音信号部分の各々のピークを受信した時点までの反応時間に基づいて筋組成を判定する解析手段と、を備える、前記装置。
【請求項3】
前記解析手段は、前記第1の筋音信号部分において、前記反応時間の短い第1のピークと該第1のピークよりも反応時間の長い第2のピークとの波高値の比率または該第1および第2のピークの各々の反応時間に基づいて速筋の筋組成を判定する、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記解析手段は、前記刺激信号を所定の間隔で連続的に与えた前記測定対象の筋肉から並行して取得した各刺激信号に対する前記筋音信号の前記第1の筋音信号部分のピークの波高値の経時的な変化に基づいて前記筋肉の疲労度を評価する、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記解析手段は、前記筋音信号の前記経時的な変化が減少している場合は疲労度が増加していると判定する、請求項4記載の装置。
【請求項6】
電気的な刺激を筋肉に与えて筋収縮による筋音を検出可能な装置であって、
電気的な刺激信号を与えた測定対象の筋肉において発生した筋音に応じた筋音信号を受信する入力手段と、
前記刺激信号を与えた時点から前記筋音信号のピークを受信した時点までの反応時間または該ピークの波高値に基づいて前記筋肉の状態を評価する解析手段と、を備え、
前記解析手段は、前記刺激信号を所定の間隔で連続的に与えた前記測定対象の筋肉から並行して取得した前記筋音信号の平均値、各刺激信号に対する前記筋音信号のピークの波高値、または各刺激信号に対する前記筋音信号の最大値と最小値との差の平均値の経時的な変化に基づいて前記筋肉のウォーミングアップ効果を評価する、前記装置。
【請求項7】
前記解析手段は、前記筋音信号の前記経時的な変化が増加している場合は前記ウォーミングアップ効果が表れていると判定する、請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記測定対象に装着する電極と、
前記電極に接続され、前記刺激信号を供給可能な信号供給手段と、
前記入力手段に接続され、前記筋肉の筋音を検出して前記筋音信号を該入力手段に出力する検出手段と、
前記信号供給手段に接続され、前記刺激信号を供給するタイミングを制御する制御手段と、を更に備える、請求項1~7のうちいずれか一項記載の装置。
【請求項9】
前記検出手段は、音響センサ、加速度センサおよびレーザ距離計のいずれかである、請求項8記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に電気的な刺激を与えそれに応じた筋収縮による筋音を検出可能な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康管理や医療技術の進展に伴い、人やペットの平均寿命が伸びている。しかし、筋力低下が原因で歩行中の転倒により骨折して歩行が困難になると体力低下や認知症の誘発等、健康上重大な問題が生じる。また、スポーツ界では、好成績を残すために様々な筋力トレーニングが行われている。
【0003】
他方、運動トレーニングや傷病後のリハビリテーションでは、対象者の意思の強弱が運動機能や筋力、筋疲労等の結果に影響して、運動トレーニングやリハビリテーションの客観的な困難である。
【0004】
筋肉は電気的な刺激に応じて活動するが、この活動状況を検知する方法としてこれまでは、筋肉の収縮によって生じる電気的な信号、いわゆる筋電を検知するのが一般的であった。しかし、筋電は数mV(ミリボルト)の電気信号に対して、筋肉を収縮させるために必要な電気刺激は数百V(ボルト)であり、最大で5桁も電圧の大きさが異なり、かつ両方とも皮膚表面の電位を計測する必要があるため、同時に計測することは非常に困難であった。
【0005】
このような状況において、筋肉の活動状況を知るために、筋肉が収縮する際に発生する圧力波が注目されている。この圧力波は、筋音図、あるいは筋音(Mechanomyogram(MMG))と呼ばれている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
本願発明者は、筋肉の定量的な質的評価として筋音に着目し、電気刺激信号を電極により皮膚表面に与えて、筋収縮に伴う筋音の高周波成分を解析する手法を発表している(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. Aoki, Y. Takei, N. Minh-Dung, T. Takahata, K. Matsumoto, I. Shimoyama, Proc. MEMS2016, pp.356-358
【文献】竹井裕介ら、日本機械学会 シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス 2017 講演論文集, No.17-43, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電気的な刺激を筋肉に与えて筋収縮により生じた筋音に基づいて筋肉の状態の評価を行うことが可能な装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、電気的な刺激を筋肉に与えて筋収縮による筋音を検出可能な装置であって、電気的な刺激信号を与えた測定対象の筋肉において発生した筋音に応じた筋音信号を受信する入力手段と、上記刺激信号を与えた時点から上記筋音信号のピークを受信した時点までの反応時間またはそのピークの波高値に基づいて上記筋肉の状態を評価する解析手段と、を備える、上記装置が提供される。
【0010】
上記態様によれば、電気的な刺激信号を与えた測定対象の筋肉において発生した筋音に応じた筋音信号を受信して、解析手段により刺激信号を与えた時点から筋音信号のピークを受信した時点までの反応時間または筋音信号のピークの電圧値に基づいて筋肉の状態を評価する。これにより、筋肉をコンピュータ断層撮影法(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)を直接用いずとも筋肉の状態を評価でき、非侵襲でかつ簡便に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置による筋音信号の測定例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置による体の異なる部位の筋音信号の測定例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置による異なる被検者の筋音信号の測定例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置によるウォーミングアップ前後の筋音信号の測定例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置によるトレーニング中の筋音信号の測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。なお、複数の図面間において共通する要素については同じ符号を付し、その要素の詳細な説明の繰り返しを省略する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置の概略構成図である。図1を参照するに、アクティブ筋音センシング装置10は、2つの電極11と、筋音センサ12と、電気刺激信号供給部13と、信号入力部14、15と、解析部16と、表示部18と、制御部20とを有する。アクティブ筋音センシング装置10は、電気刺激信号供給部13からパルス状の電圧を2つの電極11間に印加して、電極11が貼り付けられた測定対象(例えば上腕部)MOの筋肉に電気刺激信号を与えることで筋肉の収縮を発生させる。筋音センサ12は、筋肉の収縮時に発生する圧力波を検知して電気信号(筋音信号)に変換する。筋音信号は信号入力部14に入力される。電気刺激信号供給部13から電気刺激信号自体または電気刺激信号と同じタイミングで生成されたタイミング信号が信号入力部15に入力される(以下、総称して「タイミング信号」と称し、電気刺激信号自体の場合は、「電気刺激信号」と称することもある。)。解析部16においてタイミング信号(つまり電気刺激信号)と筋音信号との時間差、筋音信号の波高値等を計測して筋肉の状態の解析を行う。
【0014】
電極11は、ゲル電極を用いることができる。ゲル電極は、例えば、フレキシブル基板上に形成された導電性薄膜に導電性のゲルまたは導電材料を分散させたゲルを形成したものである。電極11は、柔軟な基材の表面に多数の導電性繊維を植毛したものでもよい。2つの電極11は、測定対象MOの筋肉表面の皮膚に接触させ、電気刺激信号供給部13に接続される。
【0015】
制御部20は、電気刺激信号供給部13に接続され、測定対象MOに与えるトレーニングのレシピ、すなわち、電気刺激信号のレシピを設定可能であり、その設定に基づいて電気刺激信号の電圧値、パルス幅、パルス時間間隔、パルス個数、供給時間等のレシピを電気刺激信号供給部13に送る。制御部20は、解析部16に接続され、トレーニングのレシピを送るとともに、解析部16およびアクティブ筋音センシング装置10全体の制御を行ってもよい。
【0016】
電気刺激信号供給部13は、制御部20からのレシピに基づいて、電極11に電気刺激信号を供給する。電気刺激信号供給部13は、例えば、電圧が例えば±50V、パルス幅が正負両極とも例えば150μ秒の1サイクルの矩形波を電気刺激信号として繰り返し発生可能な電源を用いることができる。電気刺激信号供給部13は、2つの電極11に接続され、2つの電極11間に電気刺激信号を印加する。
【0017】
筋音センサ12は、音響センサ、加速度センサまたはレーザ距離計を用いることができる。音響センサは、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電素子を有し、測定対象の筋肉の表面の皮膚に接触させて筋音を検出する。筋音センサ12は、感度が良好な点で、音響センサを用いることが好ましい。筋音センサ12は、2つの電極11に挟まれた測定対象MOの筋肉表面の皮膚に接触させて用いることができる。
【0018】
解析部16は、信号入力部14、15、計測部21、判定部22、筋音データ記憶部23、筋音-筋組成データ蓄積部24を有する。信号入力部14は、筋音センサ12の出力部が接続され、筋音センサ12から筋音信号が入力される。信号入力部15は、電気刺激信号供給部13に接続され、電気刺激信号が電極11に印加される時のタイミング信号が入力される。
【0019】
計測部21は、信号入力部14、15に接続され、電気刺激信号のタイミング信号と筋音信号とが入力される。計測部21は、電気刺激信号のタイミング信号、すなわち電気刺激信号から筋音信号のピークまでの時間および筋音信号のピークの波高値を少なくとも計測する。この時間は、電気刺激信号が与えられてから筋肉の収縮が行われるまでの時間である。本願明細書および特許請求の範囲では「反応時間」と称する。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置による筋音信号の測定例を示す図である。図2の横軸は時間を表し、縦軸は、左側が電気刺激信号であり、右側が筋音信号である。図2図1と合わせて参照するに、電気刺激信号が与えられた時点を基準として、筋音信号として、数十m秒後に比較的鋭い2つのピークを有する負値の第1信号部分S1と、数百m秒後になだらかなピークを有する負値の第2信号部分S2とが表れる。なお、筋音信号が負値のときは筋肉の収縮により筋肉が盛り上がり筋音センサ12の受信面が押されることを表している。第1信号部分S1は速筋の収縮によるものである。速筋は速く大きく収縮する。最初に表れるピークPAは速筋タイプA(白っぽい色の筋繊維が比較的多い。)の筋収縮に相当し、次に表れるピークPBは速筋タイプB(ピンク色の筋繊維が比較的多い。)の筋収縮と考えられる。第2信号部分S2は遅筋(赤色の筋繊維が多い)の筋収縮によるものである。なだらかなピークPCは、遅筋がゆっくりと収縮し、持続的な収縮ができることを示している。計測部21は、電気刺激信号が与えられた時点からピークPA、PBおよびPCまでの時間(反応時間)を計測する。計測部21は、時間に対する筋音信号の電圧値を計測し、また、ピークPA、PBおよびPCの波高値(電圧値)を計測する。計測部21はこれらの計測値である筋音データを筋音データ記憶部23に送って記憶してもよく、判定部22に送ってもよい。計測部21は、電気刺激信号の時間に対する電圧値を計測してもよい。なお、ピークPA、PBおよびPCの波高値は負値であるが、以下説明の便宜のため絶対値で表現することもある。
【0021】
第1信号部分S1のピークPAおよびPBの反応時間は5ミリ秒~70ミリ秒であり、第2信号部分S2のピークPCの反応時間は、70ミリ秒~200ミリ秒である。判定部22は、この反応時間に基づいて、筋音信号の各々のピークが速筋の筋収縮によるものか遅筋の筋収縮によるものかを判定してもよい。
【0022】
表示部18は、解析部16に接続され、トレーニングのレシピ、図2に示したような、電気刺激信号および筋音信号の波形、各ピークの反応時間、波高値およびその時間変化等を解析部16から受信して表示することができる。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置による身体の異なる部位の筋音の測定例を示す図である。図3は、ある被験者の(a)が右上腕部の測定例であり、(b)が右大腿部の測定例である。図3(a)および(b)を参照するに、ピークPA、ピークPBおよびピークPCの各々対応するピークを比較すると、波高値が右上腕部は右大腿部よりも大きくなっており、反応時間が右上腕部は右大腿部よりも短くなっている。コンピュータ断層撮影法(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)等の調査によれば、一般的に、上腕二頭筋遅筋速筋比率は、速筋:遅筋が60%:40%であり、大腿四頭筋遅筋速筋比率は、速筋:遅筋が30%:70%である。このような筋組成データを筋音データと関係づけたデータ(「筋音-筋組成データ」と称する。)を筋音-筋組成データ蓄積部24に予め記憶しておき、判定部22において、筋音信号のピークの波高値と反応時間と、筋音-筋組成データ蓄積部24からの筋音-筋組成データを参照することによって、筋音データに基づいて、被験者の筋組成を推測することができる。
【0024】
図4は、本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置による異なる被検者の筋音の測定例を示す図である。図4は、右上腕部の速筋の筋音(第1信号部分)について、(a)が被験者A、(b)が被験者Bの測定例である。図4(a)および(b)を参照するに、ピークPAとピークPBの波高値の比率が、被験者Aと被験者Bとでは明らかに異なっており、速筋タイプAと速筋タイプBとの筋量比が異なっていることが分かる。判定部22は、図4(a)に示すようにピークPAがピークPBよりも大きいので、速筋のタイプAがタイプBよりも筋量が多いと判定する。判定部22は、図4(b)に示すようにピークPAとピークPBとがほぼ波高値が等しいので、速筋のタイプAおよびタイプBは筋量が等しいと判定する。判定部22は、ピークPAおよびピークPBの波高値の比率に基づいて、被験者の識別を行ってもよく、各被験者の例えばトレーニングによる筋量比の変化を判定してもよい。
【0025】
アクティブ筋音センシング装置10は、電気刺激信号供給部13から電極11によって測定対象MOの筋肉に電気刺激信号を与えるのと並行して、筋音センサ12からの筋音信号を解析部16で解析することで、測定対象MOの筋肉のウォーミングアップ効果や疲労度を評価してもよい。判定部22は、筋音信号の時間平均、各刺激信号に対する筋音信号のピークPA、PBまたはPCの波高値、あるいは各刺激信号に対する筋音信号の最大値と最小値との差(すなわち、山を示すピークと谷を示すピークと波高値の差)の平均値の経時的な変化に基づいて筋肉の状態、例えばウォーミングアップ効果、疲労度等を評価してもよい。
【0026】
図5は、本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置によるウォーミングアップ前後の筋音の測定例を示す図である。
【0027】
被験者の右脚のヒラメ筋に電極11を貼付し、図5(a)は電気刺激信号を与えたウォーミングアップ初期と、図5(b)は電気刺激信号を右脚のヒラメ筋に1秒間隔でパルスを与えてウォーミングアップを行った後(「ウォーミングアップ後」と称する。)に、測定した例である。解析部16は、ウォーミングアップ中の筋音信号の波形と、計測部21からのピークPA、PB、およびPCの反応時間および波高値を筋音データ記憶部23に記憶する。判定部22は、ウォーミングアップ初期のピークPA、PB、およびPCの反応時間および波高値に対して、ウォーミングアップ中の測定値の変化に基づいて、筋肉のウォーミングアップの度合いを判定する。図5(a)および(b)を参照するに、ウォーミングアップ初期では、速筋の筋音(第1信号部分S1)について、ピークPA(ピークPBが重なっていると推察される。)の波高値が-0.057Vであったが、ウォーミングアップ後では、ピークPAが-0.307V、ピークPB-0.156Vとなり、波高値が各々5.4倍、2.7倍に増加している。ピークPCも-0.050Vから-0.074Vとなり、波高値が1.5倍に増加している。判定部22は、これらの波高値の比率に基づいて、ウォーミングアップ効果の度合いを判定してもよく、波高値の飽和の度合いに基づいて、ウォーミングアップの完了時を判定してもよい。
【0028】
図6は、本発明の一実施形態に係るアクティブ筋音センシング装置によるトレーニング中の筋音の測定例を示す図である。図6(a)は電気刺激信号によるトレーニング中の測定例であり、所定の間隔の電気刺激信号を1分間与えた後の測定例であり、(b)は、(a)の145秒後の測定例、(c)は、(b)の150.5秒後の測定例であり、電気刺激信号は、±40Vの50m秒の間隔で与えた。電極の配置および解析部の動作は、図5の場合と同様に行った。
【0029】
図6(a)~(c)を参照するに、筋音信号の時間平均を算出すると、図6(a)の時点では0.0090V、図6(b)の時点では0.0038V、図6(c)の時点では0.0028Vとなり、筋音信号の平均が次第に減少している。
各電気刺激信号に対する筋音信号の最大値(山として最も高いピークPAの波高値)の各々1秒間分を平均すると、図6(a)の時点では0.020V、図6(b)の時点では0.015V、図6(c)の時点では0.012Vとなり、次第に減少しており、筋収縮振幅が低下している。
【0030】
各電気刺激信号に対する筋音信号の最大値(山として最も高いピークPAの波高値)と最小値(谷として最も深いピークPA’の波高値)との差(すなわち最大振幅)の各々1秒間分を平均すると、図6(a)の時点では0.053V、図6(b)の時点では0.036V、図6(c)の時点では0.031Vとなり、次第に減少しており、筋収縮振幅が低下している。判定部22は、これらの結果の少なくとも一つに基づいて、筋疲労が増加していると判定する。
【0031】
判定部22は、筋肉の状態を適切に評価するため、制御部20を介して刺激信号供給部13に電気刺激信号を与える時間間隔を調整するように指示できる構成としてもよい。判定部22は、例えば、電気刺激信号に対して筋肉の反応時間が長くなる場合は、第1信号部分S1の山を示すピークPA(最大値)と引き続く谷を示す最小値が計測できるように、判定部22は、制御部20を介して刺激信号供給部13に電気刺激信号を与える時間間隔をより長くするように指示してもよい。
【0032】
図1に戻り、制御部20および判定部22は、CPU(central processing unit、プロセッサ)を用いることができる。筋音データ記憶部23および筋音-筋組成データ蓄積部24は、メモリを用いることができ、例えば、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリーメモリ)、ハードディスクドライブを用いることができる。メモリは、CPUにバスにより接続されたチップでもよく、CPUに含まれるメモリでもよい。計測部21は、オシロスコープを用いてもよく、CPU上で動作する計測ソフトウェアでもよい。表示部18は、ディスプレイを用いることができる。解析部16および制御部20は、CPU、メモリ、オシロスコープが一体化された装置でもよく、別々のユニットでもよく、特に限定されない。
【0033】
ユーザインタフェース55は、ユーザの操作用のデバイスのためのインタフェースで、入力用のキーボード(不図示)や操作用のマウス(不図示)等が制御部20または解析部16に接続される。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 アクティブ筋音センシング装置
11 電極
12 筋音センサ
13 電気刺激信号供給部
14、15 信号入力部
16 解析部
18 表示部
20 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6