(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】静電チャックシステム、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230601BHJP
C23C 16/458 20060101ALI20230601BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20230601BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20230601BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20230601BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230601BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230601BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C23C16/458
C23C14/50 A
C23C16/04
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2018239974
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0089588
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 一史
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0343580(US,A1)
【文献】特表2017-520122(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C23C 16/458
C23C 14/50
C23C 16/04
C23C 14/04
H10K 50/00
H05B 33/10
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着させる静電チャックシステムであって、
前記被吸着体を吸着させる吸着面と、電極部と、を有し、前記電極部に電圧が印加されることによって前記被吸着体を前記吸着面に吸着させる静電チャックと、
前記静電チャックに対し前記吸着面とは反対側に配置される磁力発生部であって、前記吸着面に平行な面内が複数の領域に区画され、前記複数の領域に対応する位置に配置された複数の電磁石モジュールを有する磁力発生部と、
前記複数の電磁石モジュールそれぞれの磁力を制御する磁力制御部と、
前記磁力発生部の磁力によって前記被吸着体の一部が吸引されて吸着起点が設定された後に、前記被吸着体を前記静電チャックに吸着させる電圧を前記電極部に印加する電圧印加部と、
を備えることを特徴とする静電チャックシステム。
【請求項2】
前記磁力制御部は、前記静電チャックに前記被吸着体を吸着させる際に、前記被吸着体のうち前記静電チャックに吸着させる部分に対応する位置に配置された電磁石モジュールを磁力発生状態になるように制御することを特徴とする請求項1に記載の静電チャックシステム。
【請求項3】
前記磁力制御部は、前記複数の電磁石モジュールそれぞれを順次に磁力発生状態になるように制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の静電チャックシステム。
【請求項4】
前記磁力制御部は、前記複数の電磁石モジュールそれぞれを、前記被吸着体を前記静電チャックに吸着させる方向に沿って順次に磁力発生状態になるように制御することを特徴とする請求項3に記載の静電チャックシステム。
【請求項5】
前記磁力発生部は、前記静電チャックによる前記被吸着体の吸着の際に、前記磁力制御部により前記複数の電磁石モジュールのうち一番先に磁力発生状態となる第1電磁石モジュールの磁力によって、前記被吸着体
の一部を前記静電チャック側に引き寄せることで、前
記吸着起点を設定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の静電チ
ャックシステム。
【請求項6】
前記磁力発生部は、前記静電チャックによる前記被吸着体の吸着の際に、前記磁力制御部の制御により前記第1電磁石モジュールに続いて順次に磁力発生状態となる前記複数の電磁石モジュールのうち他の電磁石モジュールそれぞれの磁力によって、前記被吸着体の他の部分をそれぞれ前記静電チャック側に順次に引き寄せることで、吸着の進行を所定の方向に誘導することを特徴とする請求項5に記載の静電チャックシステム。
【請求項7】
前記電圧印加部は、第1被吸着体を前記静電チャックに吸着させるための第1電圧と、前記第1被吸着体をはさんで第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させるための第2電圧と、を印加することを特徴とすることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の静電チャックシステム。
【請求項8】
基板にマスクを介して成膜を行う成膜装置であって、
第1被吸着体である基板と第2被吸着体であるマスクとを吸着させる静電チャックシステムを備え、
前記静電チャックシステムは、請求項1から7のいずれか一項に記載の静電チャックシステムであることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
前記静電チャックシステムは、
前記基板を前記静電チャックに吸着させた後、前記静電チャックに吸着した前記基板をはさんで前記マスクを前記静電チャックに吸着させる際に、
前記磁力制御部により前記複数の電磁石モジュールのうち一番先に磁力発生状態となる第1電磁石モジュールの磁力によって、前記マスク
の一部を前記静電チャック側に引き寄せることで、前
記吸着起点を設定し、
前記磁力制御部により前記第1電磁石モジュールに続いて順次に磁力発生状態となる前記複数の電磁石モジュールのうち他の電磁石モジュールそれぞれの磁力によって、前記マスクの他の部分をそれぞれ前記静電チャック側に順次に引き寄せることで、吸着の進行を所定の方向に誘導し、
該吸着進行方向に合わせて前記静電チャックによる前記マスクの吸着を進行させることを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
被吸着体を吸着させる方法であって、
静電チャックの電極部に第1電圧を印加して、
前記静電チャックの前記被吸着体を吸着する吸着面に第1被吸着体
を吸着させる第1吸着工程と、
前記電極部に
、前記第1電圧と同一又は異なる
、第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加して、前記静電チャックに前記第1被吸着体をはさんで
前記第2被吸着体を吸着させる第2吸着工程と、
を有し、
前記第2吸着工程は、
前記静電チャックに対し前記吸着面とは反対側に配置され、前記吸着面に平行な面内が複数の領域に区画され、前記複数の領域に対応する位置に配置された複数の電磁石モジュールを有する磁力発生部からの磁力によって、前記第2被吸着体
の一部を前記第1被吸着体側に引き寄
せて吸着起点を設定する吸引工程と、
前記磁力発生部の磁力により前記第2被吸着体の一部が吸引されて前記吸着起点が設定された後に、前記吸引工程で引き寄せられた前記第2被吸着体を前記第1被吸着体に接触させつつ、前記電極部に前記第2電圧を印加して、前記第2被吸着体を吸着させる吸着工程と、
を有することを特徴とする吸着方法。
【請求項11】
前記複数の電磁石モジュールそれぞれを順次に磁力発生状態になるように磁力制御部によって制御する工程を有することを特徴とする請求項10に記載の吸着方法。
【請求項12】
前記複数の電磁石モジュールそれぞれを、前記第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる方向に沿って順次に磁力発生状態になるように磁力制御部によって制御する工程を有する請求項11に記載の吸着方法。
【請求項13】
前記吸引工程は、前記磁力制御部の制御により前記複数の電磁石モジュールのうち一番先に磁力発生状態となる第1電磁石モジュールの磁力によって、前記第2被吸着体
の一部を前記第1被吸着体側に引き寄せることで、前記吸着工程で前
記吸着起点を設定する工程を含む請求項11又は12に記載の吸着方法。
【請求項14】
前記吸引工程は、さらに、前記磁力制御部の制御により前記第1電磁石モジュールに続いて順次に磁力発生状態となる前記複数の電磁石モジュールのうち他の電磁石モジュールそれぞれの磁力によって、前記第2被吸着体の他の部分を前記第1被吸着体側に順次に引き寄せることで、前記吸着工程での吸着の進行を所定の方向に誘導する工程を含む請求項13に記載の吸着方法。
【請求項15】
前記第2吸着工程は、前記静電チャックによる静電気力によって、前記静電チャックに前記第1被吸着体をはさんで前記第2被吸着体を吸着させることを特徴とする請求項10から14のいずれか一項に記載の吸着方法。
【請求項16】
基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
真空容器内にマスクを搬入する工程と、
前記真空容器内に基板を搬入する工程と、
静電チャックの電極部に第1電圧を印加して、前記基板を前記静電チャックの吸着面に吸着させる第1吸着工程と、
前記電極部に
、前記第1電圧と同一又は異なる
、前記マスクを前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加して、前記静電チャックに前記基板をはさんで前記マスクを吸着させる第2吸着工程と、
前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着した状態で、蒸着材料を蒸発させて前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程と、
を有し、
前記第2吸着工程は、
前記静電チャックに対し前記吸着面とは反対側に配置され、前記吸着面に平行な面内が複数の領域に区画され、前記複数の領域に対応する位置に配置された複数の電磁石モジュールを有する磁力発生部からの磁力によって、前記マスク
の一部を前記基板側に引き寄
せて吸着起点を設定する吸引工程と、
前記磁力発生部の磁力により前記マスクの一部が吸引されて前記吸着起点が設定された後に、前記吸引工程で引き寄せた前記マスクを前記基板に接触させつつ、前記電極部に前記第2電圧を印加して、前記マスクを吸着させる吸着工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項17】
前記複数の領域の電磁石モジュールそれぞれを順次に磁力発生状態になるように磁力制御部によって制御する工程を有することを特徴とする請求項16に記載の成膜方法。
【請求項18】
前記複数の電磁石モジュールそれぞれを、前記マスクを前記静電チャックに吸着させる方向に沿って順次に磁力発生状態になるように磁力制御部によって制御する工程を有する請求項17に記載の成膜方法。
【請求項19】
前記吸引工程は、前記磁力制御部の制御により前記複数の電磁石モジュールのうち一番先に磁力発生状態となる第1電磁石モジュールの磁力によって、前記マスク
の一部を前記基板側に引き寄せることで、前記吸着工程で前
記吸着起点を設定する工程を含む請求項17又は18に記載の成膜方法。
【請求項20】
前記吸引工程は、さらに、前記磁力制御部の制御により前記第1電磁石モジュールに続いて順次に磁力発生状態となる前記複数の電磁石モジュールのうち他の電磁石モジュールそれぞれの磁力によって、前記マスクの他の部分を前記基板側に順次に引き寄せることで、前記吸着工程での吸着の進行を所定の方向に誘導する工程を含む請求項19に記載の成膜方法。
【請求項21】
請求項16から20のいずれか一項に記載の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックシステム、成膜装置、吸着方法、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED:Organic Light Emitting Diode)を形成する際に、成膜装置の蒸発源から蒸発した蒸着材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に蒸着させることで、有機物層や金属層を形成する。
【0003】
上向蒸着方式(デポアップ)の成膜装置において、蒸発源は成膜装置の真空容器の下部に設けられ、基板は真空容器の上部に配置され、基板の下面に蒸着材料が蒸着される。このような上向蒸着方式の成膜装置の真空容器内において、基板はその下面の周辺部だけが基板ホルダによって保持されるので、基板がその自重によって撓み、これが蒸着精度が低下する1つの要因となっている。上向蒸着方式以外の方式の成膜装置においてもまた、基板の自重による撓みは生じる可能性がある。
【0004】
基板の自重による撓みを低減するための方法として、静電チャックを使う技術が検討されている。すなわち、基板の上面をその全体にわたって静電チャックで吸着することで、基板の撓みを低減することができる。
【0005】
特許文献1には静電チャックで基板及びマスクを吸着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許公開公報2007-0010723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の技術において、静電チャックで基板越しにマスクを吸着する場合、吸着後のマスクにしわが残ってしまう問題があった。
【0008】
本発明は、基板やマスク等の複数の被吸着体(第1被吸着体と第2被吸着体)のそれぞれをしわが残らないように良好に静電チャックに吸着させることを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による静電チャックシステムは、
被吸着体を吸着させる静電チャックシステムであって、
前記被吸着体を吸着させる吸着面と、電極部と、を有し、前記電極部に電圧が印加されることによって前記被吸着体を前記吸着面に吸着させる静電チャックと、
前記静電チャックに対し前記吸着面とは反対側に配置される磁力発生部であって、前記吸着面に平行な面内が複数の領域に区画され、前記複数の領域に対応する位置に配置された複数の電磁石モジュールを有する磁力発生部と、
前記複数の電磁石モジュールそれぞれの磁力を制御する磁力制御部と、
前記磁力発生部の磁力によって前記被吸着体の一部が吸引されて吸着起点が設定された後に、前記被吸着体を前記静電チャックに吸着させる電圧を前記電極部に印加する電圧印加部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態による成膜装置は、
基板にマスクを介して成膜を行うための成膜装置であって、
第1被吸着体である基板と第2被吸着体であるマスクとを吸着させるための静電チャックシステムを備え、
前記静電チャックシステムは、上述の静電チャックシステムであることを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態による吸着方法は、
被吸着体を吸着させる方法であって、
静電チャックの電極部に第1電圧を印加して、前記静電チャックの前記被吸着体を吸着する吸着面に第1被吸着体を吸着させる第1吸着工程と、
前記電極部に、前記第1電圧と同一又は異なる、第2被吸着体を前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加して、前記静電チャックに前記第1被吸着体をはさんで前記第2被吸着体を吸着させる第2吸着工程と、
を有し、
前記第2吸着工程は、
前記静電チャックに対し前記吸着面とは反対側に配置され、前記吸着面に平行な面内が複数の領域に区画され、前記複数の領域に対応する位置に配置された複数の電磁石モジュールを有する磁力発生部からの磁力によって、前記第2被吸着体の一部を前記第1被吸着体側に引き寄せて吸着起点を設定する吸引工程と、
前記磁力発生部の磁力により前記第2被吸着体の一部が吸引されて前記吸着起点が設定された後に、前記吸引工程で引き寄せられた前記第2被吸着体を前記第1被吸着体に接触させつつ、前記電極部に前記第2電圧を印加して、前記第2被吸着体を吸着させる吸着工程と、
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態による成膜方法は、
基板にマスクを介して蒸着材料を成膜する成膜方法であって、
真空容器内にマスクを搬入する工程と、
前記真空容器内に基板を搬入する工程と、
静電チャックの電極部に第1電圧を印加して、前記基板を前記静電チャックの吸着面に吸着させる第1吸着工程と、
前記電極部に、前記第1電圧と同一又は異なる、前記マスクを前記静電チャックに吸着させる第2電圧を印加して、前記静電チャックに前記基板をはさんで前記マスクを吸着させる第2吸着工程と、
前記静電チャックに前記基板及び前記マスクが吸着した状態で、蒸着材料を蒸発させて前記マスクを介して前記基板に蒸着材料を成膜する工程と、
を有し、
前記第2吸着工程は、
前記静電チャックに対し前記吸着面とは反対側に配置され、前記吸着面に平行な面内が複数の領域に区画され、前記複数の領域に対応する位置に配置された複数の電磁石モジュールを有する磁力発生部からの磁力によって、前記マスクの一部を前記基板側に引き寄せて吸着起点を設定する吸引工程と、
前記磁力発生部の磁力により前記マスクの一部が吸引されて吸着起点が設定された後に、前記吸引工程で引き寄せた前記マスクを前記基板に接触させつつ、前記電極部に前記第2電圧を印加して、前記マスクを吸着させる吸着工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態による電子デバイスの製造方法は、前記成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1被吸着体と第2被吸着体のそれぞれをしわが残らないように良好に静電チャックに吸着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1による成膜装置の模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1による静電チャックシステムの構成ブロック図である。
【
図4】
図4は、実施例1による静電チャックの模式的平面図である。
【
図5】
図5は、実施例1による静電チャックのマスク吸着工程における、磁力発生部、静電チャック及びマスクの配置関係を模式的に示した図である。
【
図6】
図6は、基板の静電チャックへの吸着工程の順序を示す工程図である。
【
図7】
図7は、マスクの静電チャックへの吸着工程の順序を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に望ましく適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、金属等の任意の材料を選択することができ、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミド等のフィルムが積層された基板であってもよい。また、蒸着材料としては、有機材料、金属材料(金属、金属酸化物等)等の任意の材料を選択してもよい。なお、以下の説明において説明する真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を備える成
膜装置にも、本発明を適用することができる。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL素子、薄膜太陽電池)、光学部材等の製造装置に適用可能である。特に、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機EL素子を形成する有機EL素子の製造装置は、本発明の好ましい適用例の1つである。
【0018】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、実施例1の電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0019】
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルを製作する。
【0020】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置1の間を繋ぐ中継装置と、を備える。
【0021】
クラスタ装置1は、基板Sに対する処理(例えば、成膜)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を備える。搬送室13は、
図1に示すように、複数の成膜装置11及びマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0022】
搬送室13内には、基板及びマスクを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Sを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との
間でマスクMを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板S又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0023】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ぶ)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Sの受け渡し、基板SとマスクMの相対位置の調整(アライメント)、マスクM上への基板Sの固定、成膜(蒸着)等の一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0024】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、2つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0025】
クラスタ装置1には、基板Sの流れ方向において上流側からの基板Sを当該クラスタ装置1に搬送するパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Sを下流側の他のクラスタ装置に搬送するためのバッファ室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Sを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の1つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Sを複数の成膜装置11の1つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファ室16に搬送する。
【0026】
バッファ室16とパス室15との間には、基板の向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファ室16から基板Sを受け取って基板Sを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Sの向きが同じになり、基板処理が容易になる。
【0027】
パス室15、バッファ室16、旋回室17は、クラスタ装置1間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置1の上流側及び/又は下流側に設置される中継装置は、パス室15、バッファ室16、旋回室17のうち少なくとも1つを備える。
【0028】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファ室16、旋回室17等は、有機EL素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
【0029】
実施例1では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバを有してもよく、これらの装置やチャンバ間の配置が異なってもよい。
【0030】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0031】
<成膜装置>
図2は、成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。成膜時に基板Sが水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、基板Sの短手方向(短辺に平行な方向)をX方向、長手方向(長辺に平行な方向)をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0032】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21の内部に設けられる、基板支持ユニット22と、マスク支持ユニット23と、静電チャック24と、蒸発源25と、を備える。
【0033】
基板支持ユニット22は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来る基板Sを受け取って保持する手段であり、基板ホルダとも呼ばれる。
【0034】
基板支持ユニット22の下方には、マスク支持ユニット23が設けられる。マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来るマスクMを受け取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0035】
マスクMは、基板S上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23の上に載置される。特に、スマートフォン用の有機EL素子を製造するために使われるマスクは、微細な開口パターンが形成された金属製のマスクであり、FMM(Fine Metal Mask)とも呼ばれる。
【0036】
基板支持ユニット22の上方には、基板を静電引力によって吸着し固定するための静電チャック24が設けられる。静電チャック24は、誘電体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極等の電気回路が埋設された構造を有する。静電チャック24は、クーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、グラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。静電チャック24は、グラジエント力タイプの静電チャックであることが好ましい。静電チャック24がグラジエント力タイプの場合、基板Sが絶縁性基板であっても、静電チャック24によって良好に吸着することができる。静電チャック24がクーロン力タイプの場合、金属電極にプラス(+)及びマイナス(-)の電圧が印加されると、誘電体マトリックスを通じて基板S等の被吸着体に金属電極と反対極性の分極電荷が誘導され、これら間の静電引力によって基板Sが静電チャック24に吸着固定される。静電チャック24は、1つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、1つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を備え、1つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもよい。
【0037】
実施例1では、このような静電チャック24を利用し、基板S(第1被吸着体)だけでなく、基板Sの下部に位置するマスクM(第2被吸着体)をも吸着し保持する。
【0038】
詳細には、実施例1では、静電チャック24に印加される電圧を制御して鉛直方向の下側に置かれた基板S(第1被吸着体)を先に静電チャック24で吸着及び保持する。その後、基板S(第1被吸着体)が吸着した静電チャック24に対して、印加される電圧を再び制御することによって、基板Sの下側(基板Sを挟んで静電チャック24と反対側)に位置するマスクM(第2被吸着体)も静電チャック24を使って基板S(第1被吸着体)越しにさらに吸着し保持する。
【0039】
このように静電チャック24を使用し基板S越しにマスクMを吸着する工程において、マグネット等の磁力発生手段を併用する。具体的には、静電チャック24の上方(吸着面とは反対側)に磁力発生手段としての磁力発生部33を設置し、静電チャック24でマスクMを基板S越しに吸着する際に、マスクMの一部を磁力発生部33によって引き寄せ、引き寄せられたマスクMの一部が静電チャック24による吸着の起点となるようにする。また、このような吸着起点の設定に加え、静電チャック24の上方に位置する磁力発生部33の磁力制御によって静電チャック24に対するマスクMの吸着進行方向も共に誘導制御する。これについては、
図5、
図7を参照して後述する。
【0040】
図2には示さなかったが、静電チャック24の吸着面とは反対側に基板Sの温度上昇を抑える冷却機構(例えば、冷却板)を設けることで、基板S上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成としてもよい。
【0041】
蒸発源25は、基板Sに成膜される蒸着材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源からの蒸発レートが一定になるまで蒸着材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)等を備える。蒸発源25は、点蒸発源や線形蒸発源等、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0042】
図2には示さなかったが、成膜装置11は、基板Sに蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を備える。
【0043】
真空容器21の上部外側(大気側)には、基板Zアクチュエータ26、マスクZアクチュエータ27、静電チャックZアクチュエータ28、位置調整機構29等が設けられる。これらのアクチュエータと位置調整機構は、例えば、モータとボールねじ、又はモータとリニアガイド等で構成される。基板Zアクチュエータ26は、基板支持ユニット22を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。マスクZアクチュエータ27は、マスク支持ユニット23を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。静電チャックZアクチュエータ28は、静電チャック24を昇降(Z方向移動)させるための駆動手段である。
【0044】
実施例1において、成膜装置11は、磁力発生部33を磁力印加位置と退避位置との間で昇降させるための磁力発生部駆動機構(不図示)を備える。
【0045】
位置調整機構29は、静電チャック24のアライメントのための駆動手段である。位置調整機構29は、静電チャック24全体を基板支持ユニット22及びマスク支持ユニット23に対して、X方向移動、Y方向移動、θ回転させる。なお、実施例1では、基板Sを吸着した状態で、静電チャック24をX、Y、θ方向に位置調整することで、基板SとマスクMの相対的位置を調整するアライメントを行う。
【0046】
真空容器21の外側上面には、上述した駆動機構の他に、真空容器21の上面に設けられた透明窓を介して、基板S及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラ20を設置してもよい。実施例1においては、アライメント用カメラ20は、矩形の基板S、マスクM及び静電チャック24の対角線に対応する位置、又は、矩形の4つのコーナー部に対応する位置に設置してもよい。
【0047】
実施例1の成膜装置11に設置されるアライメント用カメラ20は、基板SとマスクMとの相対的な位置を高精度で調整するのに使われるファインアライメント用カメラであり、その視野角は狭いが高解像度のカメラである。成膜装置11は、ファインアライメント用カメラ20の他に相対的に視野角が広くかつ低解像度のラフアライメント用カメラを有してもよい。
【0048】
位置調整機構29は、アライメント用カメラ20によって取得した基板S(第1被吸着体)及びマスクM(第2被吸着体)の位置情報に基づいて、基板S(第1被吸着体)とマスクM(第2被吸着体)を相対的に移動させて位置調整するアライメントを行う。
【0049】
成膜装置11は、制御部(不図示)を備える。制御部は、基板Sの搬送及びアライメント、蒸発源25の制御、成膜の制御等の機能を有する。制御部は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/O等を持つコンピュータによって構成可能である。この場合、制御部の機能はメモリ又はストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを使用してもよく、組込み型のコンピュータ又はPLC(Programmable Logic Controller)を使用
してもよい。制御部の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置毎に制御部が設置されていてもよく、1つの制御部が複数の成膜
装置を制御するように構成してもよい。
【0050】
<静電チャックシステム>
図3から
図5を参照して実施例1による静電チャックシステム30について説明する。
【0051】
図3は、実施例1の静電チャックシステム30の概念的なブロック図であり、
図4は、静電チャック24の模式的な平面図である。
【0052】
実施例1の静電チャックシステム30は、
図3に示したように、静電チャック24と、電圧印加部31と、電圧制御部32と、磁力発生部33と、磁力制御部35と、を備える。
【0053】
電圧印加部31は、静電チャック24の複数の電極部241~249に静電引力を発生させるための電圧を印加する。
【0054】
電圧制御部32は、静電チャックシステム30の吸着工程又は成膜装置11の成膜工程の進行に応じて、電圧印加部31から複数の電極部に加える電圧の大きさ、電圧の印加開始タイミング、電圧の維持時間、電圧の印加順序等を制御する。電圧制御部32は、静電チャック24の複数の電極部241~249への電圧印加を電極部毎に独立に制御することができる。実施例1では、電圧制御部32が成膜装置11の制御部とは別に構成されるが、本発明はこれに限定されず、電圧制御部32は成膜装置11の制御部に統合されてもよい。
【0055】
静電チャック24は、吸着面に被吸着体(例えば、基板S、マスクM)を吸着させるための静電引力を発生させる複数の電極部241~249を備える。実施例1の静電チャック24は、
図4に示したように、静電チャック24の長手方向(Y方向)及び/又は短手方向(X方向)に沿って、複数の電極部241~249を備える。
【0056】
複数の電極部241~249の各々は、静電引力を発生させるためにプラス(第1極性)及びマイナス(第2極性)の電圧が印加される電極対34を備える。各電極対34は、プラス電圧が印加される第1電極341と、マイナス電圧が印加される第2電極342と、を備える。
【0057】
第1電極341及び第2電極342は、
図4に示したように、それぞれ櫛形状を有する。第1電極341及び第2電極342は、それぞれ複数の櫛歯部と、複数の櫛歯部に連結される基部と、を備える。第1電極341及び第2電極342の基部は櫛歯部に電圧を供給し、複数の櫛歯部は、被吸着体との間で静電引力を生じさせる。1つの電極部において、第1電極341の櫛歯部の各歯と第2電極342の櫛歯部の各歯は交互に配置され互いに対向する。このように、第1電極341及び第2電極342の各櫛歯部が対向しかつ互いに入り組んだ構成とすることで、異なる電圧が印加される電極間の間隔を狭くすることができ、大きな不平等電界を形成し、グラジエント力によって基板Sを吸着することができる。
【0058】
実施例1においては、静電チャック24の電極部241~249の各々の第1電極341及び第2電極342が櫛形状を有する例を説明したが、本発明はそれに限定されず、被吸着体との間で静電引力を発生させることができる限り、多様な形状を持つことができる。
【0059】
実施例1の静電チャック24の複数の電極部は、複数の吸着部として機能する。実施例1の静電チャック24は、
図4に示したように、9つの電極部241~249に対応する
9つの吸着部を有するが、吸着部の個数はこれに限定されず、基板Sの吸着の制御に要求される精度に応じて種々の個数に設定できる。
【0060】
実施例1の静電チャック24の吸着部は、静電チャック24の長手方向(Y軸方向)及び短手方向(X軸方向)に複数設けられるが、これに限定されず、静電チャック24の長手方向又は短手方向のみ複数設けられてもよい。複数の吸着部は、物理的に1つのプレートが複数の電極部を持つことで構成されてもよく、物理的に分割された複数のプレートそれぞれが1つ又はそれ以上の電極部を持つことで構成されてもよい。例えば、
図4に示した実施例1において、複数の電極部の各々が複数の吸着部の各々に対応するように構成されてもよく、いくつかの電極部が1つの吸着部に対応するように構成されてもよい。
【0061】
例えば、電圧制御部32による電極部241~249への電圧の印加を制御することで、後述するように、基板Sの吸着進行方向(X方向)と交差する方向(Y方向)に配置された3つの電極部241、244、247が1つの吸着部に対応するようにすることができる。すなわち、3つの電極部241、244、247は、それぞれ独立に電圧制御が可能であるが、これら3つの電極部241、244、247に同じ電圧が印加されるように制御することで、これら3つの電極部241、244、247が1つの吸着部として機能するようにすることができる。複数の吸着部それぞれにおいて独立に基板の吸着が行われるという機能を実現するための具体的な物理的構造及び電気回路的構造は実施例1の構成に限られない。
【0062】
<磁力発生部>
実施例1の静電チャックシステム30は、静電チャック24で被吸着体、例えば、マスクMを基板S越しに吸着するとき、静電チャック24による吸着の起点を設定し、また、吸着の進行方向を誘導制御するために、静電チャック24の上方(吸着面とは反対側)に配置される磁力発生部33を備える。
【0063】
図5は、静電チャック24によるマスクM吸着工程における磁力発生部33の役割を説明するための図であり、吸着工程における磁力発生部33、静電チャック24、被吸着体としてのマスクM等の配置関係を模式的に示している。第1被吸着体である基板Sは、後述する電圧制御によってすでに静電チャック24に吸着している状態を示している。
【0064】
静電チャック24の上方に配置される磁力発生部33は、静電チャック24の吸着面に平行な面内で区画された複数の領域に対応する複数の電磁石モジュールで構成される。
図5の例では、磁力発生部33は、静電チャック24の吸着面に平行な面内で短辺方向(X方向)に沿って区画された3つの領域に対応する3つの電磁石モジュール33-1、33-2、33-3を有する。電磁石モジュール33-1、33-2、33-3の各々は、磁力制御部35によって電力供給が制御されることにより、磁力発生状態(ON)と磁力非発生状態(OFF)とを切り換え可能である。白色の矢印Aは、磁力発生状態に制御された電磁石モジュールによって生成される、磁力の大きさを模式的に表している。実施例1では、電磁石モジュールとして、通電したときに磁力発生(ON)状態となり、通電停止したときに磁力非発生(OFF)状態となる電磁石を例に説明するが、本発明はこれに限定はされない。電磁石モジュールは、通電したときに磁力非発生(OFF)状態となり、通電停止したときに磁力発生(ON)状態となる、永久磁石式電磁石(永電磁石)であってもよい。静電チャック24によるマスクMの吸着工程では、
図5(a)から
図5(c)の順に、磁力発生部33を構成する電磁石モジュール33-1、33-2、33-3の各々の磁力発生状態が順次にON/OFF制御されながら、吸着が行われる。
【0065】
磁力発生部33は、マスクMに磁力を印加可能な位置である磁力印加位置と、磁力印加位置よりマスクMから離れた退避位置(マスクMを吸引できないほどの小さい磁力が作用
するか、実質的に磁力が作用しない位置)との間を移動可能に設置される。
【0066】
まず、磁力発生部33を退避位置からマスクMに磁力を印加できる磁力印加位置まで下降させた状態で、磁力発生部33を構成する複数の電磁石モジュールのうち1つ(図示した例では、静電チャック24の短辺の一端側に位置する電磁石モジュール33-1)に対し磁力制御部35によって電力供給して磁力発生状態(ON)とし、残りの電磁石モジュール33-2、33-3に対しては磁力非発生状態(OFF)となるように制御する。
図5(a)はこのときの状態を表しており、磁力発生状態(ON)に制御された電磁石モジュール33-1の位置に対応する、マスクMの一端が、基板Sが吸着した静電チャック24側に磁力によって引き寄せられる。この磁力発生部33の磁力制御に合わせて、静電チャック24に対し、マスクMを基板S越しに吸着可能な電圧を印加すると、磁力によって静電チャック24側に引き寄せられた上記マスクMの一端側でまず吸着が開始する。つまり、磁力発生部33の磁力制御により、静電チャック24によるマスクMの吸着の起点が設定される。
【0067】
こうして、吸着の起点が設定され該当起点でまずマスクMの吸着が行われると、静電チャック24にマスク吸着電圧が印加されている状態では、マスクMにおける吸着起点に隣接した部位へと自然に吸着が進行していくことになる。
【0068】
しかしながら、実施例1では、吸着起点が設定された
図5(a)の状態から、マスクMの吸着が進行するにつれて、磁力発生部33を構成する複数の電磁石モジュール33-1、33-2、33-3の磁力発生状態を順次変更するように制御することにより、吸着の進行方向をより積極的に、かつ、精密に誘導制御する。
【0069】
具体的には、電磁石モジュール33-1によって発生した磁力によりマスクMの一端側が静電チャック24側に引き寄せられ、その位置を起点として静電チャック24への吸着が開始すると(
図5(a))、続いて、静電チャック24の上方中央部に位置する電磁石モジュール33-2を磁力発生状態(ON)に制御し、該電磁石モジュール33-2に対応するマスクMの部分を磁力により静電チャック24側に引き寄せて吸着を進行し(
図5(b))、最後に、静電チャック24の短辺の他端側の上方に位置する電磁石モジュール33-3を磁力発生状態(ON)にしてマスクMの他端側も磁力により静電チャック24側に引き寄せられた状態で、静電チャック24によるマスクMの吸着工程が終了するまで吸着を進めていく(
図5(c))。
【0070】
このように、マスクMを吸着可能な電圧を静電チャック24に印加した状態で、磁力発生部33によるマスクMの引き寄せ動作が並行して順次に行われることによって、静電チャック24に対するマスクMの吸着を誘導し、吸着の進行方向をより精密に制御することができ、マスクM吸着時にマスクにしわが生じることをより効果的に抑制することができる。
【0071】
実施例1においては、基板Sは非磁性体で構成されマスクMが磁性体で構成されているため、マスクMの引き寄せ動作のために複数の電磁石モジュールの一部を磁力発生状態とした場合に基板Sの全体に磁気回路が形成されることがなく、磁力発生状態になった電磁石モジュールの位置に対応するマスクMの一部分を磁力によって引き寄せることができる。また、マスクMの一部分を引き寄せるために静電チャック24に印加する電圧を操作する必要がないため、すでに静電チャック24に吸着している基板Sの吸着状態に影響を及ぼすことなくマスクMの引き寄せ動作を行うことができる。さらに、磁力発生部33による吸引力は静電チャック24による静電気的な吸引力よりも遠くまで作用させることが容易であるため、マスクMの引き寄せ動作を効果的に行うことができる。
【0072】
実施例1では、静電チャック24側にマスクMが引き寄せられ、基板S越しのマスクMの静電チャック24に対する吸着が完了した領域に対応する電磁石モジュールに対しては、再び磁力非発生状態(OFF)となるように制御する。しかしながら、マスクMの静電チャック24全面に対する吸着が完了するまで電磁石モジュールを磁力発生状態(ON)のまま維持し、マスクMの吸着が全面で完了した時点で複数の電磁石モジュール33-1、33-2、33-3を磁力非発生状態(OFF)に一括制御してもよい。
【0073】
また、磁力発生部33を構成する電磁石モジュールの数、及び静電チャック24の吸着面に平行な面内での電磁石モジュールの配置形態は、上記の構成に限定されない。例えば、複数の電磁石モジュールは、静電チャック24の吸着面に平行な面内で、静電チャック24の長辺方向(第2方向)に沿って配列されてもよく、対角方向に配列されてもよい。
【0074】
<静電チャックシステムによる吸着方法>
以下、
図6及び
図7を参照して、静電チャック24に基板S及びマスクMを吸着する方法について説明する。
【0075】
図6は、静電チャック24に基板Sを吸着する工程(第1吸着工程)を示す。
【0076】
実施例1においては、静電チャック24の下面に基板Sの全面が同時に吸着するのではなく、静電チャック24の第1辺(短辺)に沿って一端から他端に向かって順次に吸着が進行する。ただし、本発明はこれに限定されず、例えば、静電チャック24の対角線上の1つの角からこれと反対側の他の角に向かって基板Sの吸着が進行してもよい。
【0077】
静電チャック24の第1辺に沿って基板Sが順次に吸着されるようにするために、複数の電極部241~249に基板吸着のための第1電圧を静電チャック24の第1辺に沿った方向で順次印加するよう制御してもよいし、静電チャック24の第1辺に沿って静電チャック24と基板Sとの距離が漸増する状態で基板支持ユニット22が基板Sを支持するように基板支持ユニット22の構造や基板支持ユニット22を構成する弾性部材の弾性係数を設定すると共に、複数の電極部241~249に第1電圧を印加するタイミングは同時となるように制御してもよい。
【0078】
図6は、静電チャック24の複数の電極部241~249に印加する電圧の制御によって、基板Sを静電チャック24に順次に吸着させる例を示す。静電チャック24の長辺方向(Y方向)に沿って配置される3つの電極部241、244、247が第1吸着部41として機能し、静電チャック24の中央部の3つの電極部242、245、248が第2吸着部42として機能し、残り3つの電極部243、246、249が第3吸着部43として機能する。
【0079】
まず、
図6(a)に示したように、成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入され、基板支持ユニット22の支持部に載置される。これにより、基板Sは基板支持ユニット22によって支持される。
【0080】
続いて、静電チャック24が下降し、基板支持ユニット22の支持部に支持された基板Sに向かって移動する。
【0081】
静電チャック24が基板Sに十分に近接し又は接触すると、電圧制御部32は、静電チャック24の第1辺(短手)に沿って第1吸着部41を構成する電極部から第3吸着部43を構成する電極部への順番で順次に第1電圧V1が印加されるよう制御する。
【0082】
すなわち、まず第1吸着部41を構成する電極部に第1電圧が印加され(
図6(b))
、次いで、第2吸着部42を構成する電極部に第1電圧が印加され(
図6(c))、最終的に第3吸着部43を構成する電極部に第1電圧が印加されるように制御する(
図6(d))。
【0083】
第1電圧V1は、基板Sを静電チャック24に確実に吸着させるために十分な大きさの電圧に設定される。
【0084】
これにより、基板Sの静電チャック24への吸着は、基板Sの第1吸着部41に対応する側から基板Sの中央部を経て、第3吸着部43に対応する側に向かって進行していき(すなわち、X方向に基板Sの吸着が進行していき)、基板Sは、中央部にしわが残らず、平らに静電チャック24に吸着する(第1吸着工程)。
【0085】
基板Sの静電チャック24への吸着工程(第1吸着工程)が完了した後の所定の時点で、電圧制御部32は、
図6(e)に示したように、静電チャック24の電極部241~249に印加する電圧を、第1電圧V1から第1電圧V1より小さい第2電圧V2に下げる。
【0086】
第2電圧V2は、基板Sが静電チャック24に吸着された状態に維持するための吸着維持電圧であり、基板Sを静電チャック24に吸着させる際に印加した第1電圧V1より低い電圧である。静電チャック24に印加される電圧が第2電圧V2に下がると、基板Sに誘導される分極電荷量も、
図6(e)に示したように、第1電圧V1が加えられた場合に比べて減少するが、基板Sが一旦第1電圧V1によって静電チャック24に吸着された後は、第1電圧V1より低い第2電圧V2を印加することで基板Sが静電チャック24に吸着された状態を維持することができる。
【0087】
このように、静電チャック24の電極部241~249に印加される電圧を第2電圧V2に下げた後、静電チャック24に吸着した基板Sとマスク支持ユニット23に支持されたマスクMの相対位置を調整(アライメント)する。
【0088】
静電チャック24による基板Sの吸着の開始から基板Sのアライメントまでの間は、磁力発生部33は退避位置に保持しておいてもよい。これにより、磁力発生部33からの磁力をマスクMに実質的に作用させず、マスクMを引き寄せない状態で、基板Sの吸着やアライメントを行うことができる。
【0089】
続いて、
図7に示したように、静電チャック24に基板Sを介してマスクMを吸着させる。つまり、静電チャック24に吸着した基板Sの下面にマスクMを吸着させることにより、基板S越しにマスクMを静電チャック24に吸着させる。
【0090】
このため、まず、基板Sが吸着した静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かって下降させる。静電チャック24は、静電チャック24に印加された吸着保持電圧(第2電圧V2)による静電引力がマスクMに作用しない限界位置まで下降する(
図7(a))。
【0091】
静電チャック24が限界位置まで下降した状態で、磁力発生部33が退避位置から下降し、磁力印加位置に移動する(
図7(b))。磁力発生部33が磁力印加位置に移動した状態で磁力制御部35によって静電チャック24の一端側の上方の電磁石モジュール33-1を磁力発生状態(ON)に制御し、電磁石モジュール33-1に対応するマスクMの一端側の部分を静電チャック24に向かって上方に引き寄せる。これにより、以降行われるマスクMの静電チャック24への吸着の起点が設定される(吸引工程)。
【0092】
こうして、マスクMの一端側が磁力発生部33の電磁石モジュール33-1の磁力によって吸引されて吸着の起点が設定された状態で、電圧制御部32は、静電チャック24の第1吸着部41に対応する電極部241、244、247に第3電圧V3が印加されるよう制御する(
図7(c))。
【0093】
第3電圧V3は、第2電圧V2より大きく、基板S越しにマスクMが静電誘導によって帯電できる程度の大きさであることが好ましい。これによって、基板S越しにマスクMが静電チャック24に吸着される。特に、磁力発生部33の電磁石モジュール33-1によって設定されたマスクMの吸着起点においてマスクMが静電チャック24に最も近いため、この部分がまず静電チャック24に吸着される。
【0094】
ただし、本発明はこれに限定されず、第3電圧V3は、第2電圧V2と同じ大きさでもよい。第3電圧V3が第2電圧V2と同じ大きさでも、前述した通り、静電チャック24の限界位置までの下降及び磁力発生部33によるマスクMの吸引によって、静電チャック24又は基板SとマスクMと間の相対的な距離が縮まるので、基板Sに静電誘導された分極電荷によってマスクMにも静電誘導を起こすことができ、基板S越しにマスクMを静電チャック24に吸着できる程度の静電引力が得られる。
【0095】
第3電圧V3は、第1電圧V1より小さくしてもよく、工程時間(Tact)の短縮を考慮して第1電圧V1と同じ程度の大きさにしてもよい。
【0096】
磁力発生部33によってマスクMを吸引し、電圧制御部32によって静電チャック24の電極部241~249に所定の電圧を印加した後、基板Sが吸着された静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かってさらに下降させてもよい。これにより、基板SとマスクMとの間の相対的な距離を短縮し、マスクMの吸着を促進することができる。このとき、静電チャック24と共に磁力発生部33をさらに下降させてもよい。
【0097】
吸着が開始され、電磁石モジュール33-1に対応するマスクMの領域の吸着が完了すると、続いて、隣接した静電チャック24の中央部上方の電磁石モジュール33-2、さらに静電チャック24の他端側上方の電磁石モジュール33-3を順次に磁力発生状態(ON)に制御することによって、これら各電磁石モジュールに対応するマスクMの中央部及びマスクMの他端部が順次に静電チャック24側に引き寄せられる(
図7(d)、
図7(e))。
【0098】
この磁力発生部33の各電磁石モジュールの順次的な磁力制御に合わせて、電圧制御部32は、第3電圧V3を静電チャック24のマスクM吸引位置に対応する第2吸着部42を構成する電極部242、245、248、第3吸着部43を構成する電極部243、246、249に順次に印加する。
【0099】
つまり、静電チャック24の中央部上方の電磁石モジュール33-2が磁力発生状態(ON)に制御されるタイミングに合わせて、電磁石モジュール33-2の位置に対応する静電チャック24の第2吸着部42を構成する電極部に第3電圧V3が印加され(
図7(d))、静電チャック24の他端側上方の電磁石モジュール33-3が磁力発生状態(ON)に制御されるタイミングに合わせて、電磁石モジュール33-3の位置に対応する静電チャック24の第3吸着部43を構成する電極部に第3電圧V3が印加されるように制御する(
図7(e))。
【0100】
これにより、マスクMの静電チャック24への吸着は、マスクMの吸着の起点となるマスクMの第1吸着部41に対応する側から、マスクMの中央部を経て、第3吸着部43側
に向かって進行し(X方向にマスクMの吸着が進行し)、マスクMは、中央部にしわが残らずに、平らに静電チャック24に吸着する(第2吸着工程)。
【0101】
本発明は、
図7に示した実施例1に限定されず、例えば、第3電圧V3を静電チャック24全体にわたって同時に印加してもよい。すでに磁力発生部33の電磁石モジュール33-1によってマスクMの吸着起点が設定されているので、静電チャック24全体に同時に第3電圧V3が印加されても、静電チャック24に最も近いマスクMの吸着の起点で一番先に吸着が行われ、続いて、磁力発生部33の残りの電磁石モジュール33-2、33-3を磁力発生状態(ON)に順次磁力制御するにつれ、対応する位置のマスクMの部分が順次、静電チャック24側に引き寄せられるので、マスクMの吸着が第1辺に沿って順次に行われ、吸着が完了したマスクMにしわが残ることを抑制できる。
【0102】
このようにして、マスクMの全体が静電チャック24の静電引力によって基板Sをはさんで静電チャック24に吸着した後に、磁力発生部33を構成する電磁石モジュールの磁力発生状態を全てOFFに制御し、磁力発生部33を退避位置に上昇させる(
図7(f))。磁力発生部33を構成する電磁石モジュールが磁力非発生状態にOFFされ退避位置に上昇した後も、マスクMは静電チャック24による静電引力によって安定して吸着状態を維持することができる。
【0103】
本発明はこれに限定されず、磁力発生部33は、マスクMの吸着の起点が静電チャック24の静電引力によって吸着した後であれば、任意のタイミングで退避位置に上昇させてもよい。また、マスクM全体が静電チャック24の静電引力によって基板Sをはさんで静電チャック24に吸着した後も、磁力発生部33を退避位置に移動させず、磁力印加位置に配置したままにしてもよい。
【0104】
上述した実施例1によると、磁力発生部33は、静電チャック24の吸着面に平行な面内を複数の区画に分割するように配置された複数の電磁石モジュールで構成される。基板S越しにマスクMを静電チャック24に吸着させるマスク吸着工程において、磁力発生部33の発生する磁力によってマスクMの一部を吸引してマスクMの吸着の起点を形成する。磁力発生部33を構成する複数の電磁石モジュールの磁力発生状態をマスクMの吸着方向に沿って順次にONに磁力制御することにより、マスクMの吸引位置を順次移動させながら、静電チャック24にマスク吸着電圧を印加する。設定された吸着起点からマスクMが静電チャック24に順次に吸着される。これにより、しわを残さず、基板S越しにマスクMを静電チャック24に吸着させることができる。
【0105】
<成膜プロセス>
以下、実施例1による吸着方法を採用した成膜方法について説明する。
【0106】
真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが載置された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって成膜装置11の真空容器21内に基板Sが搬入される。
【0107】
真空容器21内に進入した搬送ロボット14のハンドが基板Sを基板支持ユニット22の支持部に載置する。
【0108】
続いて、静電チャック24が基板Sに向かって下降し、基板Sに十分に近接し又は接触した後に、静電チャック24に第1電圧V1を印加し、基板Sを吸着させる。
【0109】
基板の静電チャック24への吸着が完了した後に、静電チャック24に加える電圧を第1電圧V1から第2電圧V2に下げる。静電チャック24に加える電圧を第2電圧V2に下げても、以降の工程で静電チャック24による基板Sの吸着状態を維持することができ
る。
【0110】
静電チャック24に基板Sが吸着された状態で、基板SのマスクMに対する相対的な位置ずれを計測するために、基板SをマスクMに向かって下降させる。本発明の他の実施形態においては、静電チャック24に吸着した基板Sの下降の過程で基板Sが静電チャック24から脱落することを確実に防止するために、基板Sの下降の過程が完了した後(つまり、後述するアライメント工程が開始する直前)に、静電チャック24に加える電圧を第2電圧V2に下げてもよい。
【0111】
基板Sが計測位置まで下降すると、アライメント用カメラ20で基板SとマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板SとマスクMの相対的な位置ずれを計測する。本発明の他の実施形態では、基板SとマスクMの相対的位置の計測工程の精度をより高めるために、アライメントのための計測工程が完了した後(アライメント工程中)に、静電チャック24に加える電圧を第2電圧に下げてもよい。
【0112】
計測の結果、基板SのマスクMに対する相対的位置ずれが閾値を超えると判定された場合、静電チャック24に吸着した状態の基板Sを水平面内で(XYθ方向に)移動させて、基板SをマスクMに対して位置調整(アライメント)する。本発明の他の実施形態においては、このような位置調整の工程が完了した後に、静電チャック24に加える電圧を第2電圧V2に下げてもよい。これによって、アライメント工程全体(相対的な位置計測や位置調整)にわたって精度をより高めることができる。
【0113】
アライメント工程の後、静電チャック24をマスクMに向かって下降させて限界位置まで移動させる。限界位置では、第2電圧が印加された静電チャック24によってマスクMが帯電されず、実質的に静電チャック24の静電引力がマスクMに作用しない。従ってマスクMの意図しない位置が静電引力によって静電チャック24に吸着してしまうことが抑制される。
【0114】
このような状態で、磁力発生部33を下降させて磁力印加位置に移動させる。磁力発生部33が磁力印加位置にくると、磁力発生部33を構成する複数の電磁石モジュールのうち1つ(例えば、静電チャック24の短辺の一端側に位置する電磁石モジュール33-1)を磁力制御部35によって磁力発生状態(ON)とする。電磁石モジュール33-1の位置に対応するマスクMの一端側の部分が磁力によって上方に引き寄せられ静電チャック24側に吸引され、マスクMの吸着の起点が形成される。
【0115】
この状態で、磁力発生部33を構成する複数の電磁石モジュール33-2、33-3をマスクMの吸着方向(基板Sの短辺方向、X方向)に沿って順次に磁力発生状態(ON)に制御してマスクMの吸引位置を順次移動させる。複数の電磁石モジュールの順次磁力制御に合わせて、静電チャック24の電極部全体に第3電圧V3を印加し、又はマスクMの吸着起点に対応する第1吸着部を構成する電極部から第2吸着部を構成する電極部、第3吸着部を構成する電極部へ順次、第3電圧V3を印加する。これにより、マスクMの第1吸着部から第3吸着部に対応する各部分が順次、基板S越しに静電チャック24に吸着する。マスクMの吸着は、前述の吸着起点から順次行われるため、マスクMは、しわが残らずに、静電チャック24に吸着する。なお、上述のように、マスクMの吸着の起点が形成された後に、基板Sが吸着された静電チャック24を静電チャックZアクチュエータ28によりマスクMに向かってさらに下降させてもよい。
【0116】
第3電圧V3の印加によりマスクM全体が静電チャック24に吸着した後、磁力発生部33を磁力印加位置から上昇させて退避位置に移動させる。
【0117】
この後、静電チャック24の電極部241~249に印加する電圧を、静電チャック24に基板SとマスクMが吸着された状態を維持することができる第4電圧V4に下げる。これにより、成膜工程の完了後に基板S及びマスクMを静電チャック24から分離させるのにかかる時間を短縮することができる。
【0118】
続いて、蒸発源25のシャッタを開け、蒸着材料をマスクMを介して基板Sに蒸着させる。
【0119】
所望の厚さに蒸着した後、静電チャック24の電極部241~249に印加する電圧を第5電圧V5に下げてマスクMを分離し、静電チャック24に基板Sのみが吸着した状態で、静電チャックZアクチュエータ28により、基板Sを上昇させる。
【0120】
続いて、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、静電チャック24の電極部241~249にゼロ(0)又は逆極性の電圧を印加し、静電チャック24を基板Sから分離させて、静電チャック24を上昇させる。その後、蒸着が完了した基板Sを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
【0121】
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Sの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、本発明はこれに限定されず、基板Sが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Sの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0122】
<電子デバイスの製造方法>
次に、実施例1の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0123】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図8(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図8(b)は1画素の断面構造を表している。
【0124】
図8(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。実施例1にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組み合わせにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されない。
【0125】
図8(b)は、
図8(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、実施例1では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bに共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64
間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0126】
図8(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が1つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層が形成されことができる。
【0127】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0128】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び陽極64が形成された基板63を準備する。
【0129】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0130】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0131】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0132】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0133】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置に移動させて陰極68を成膜する。
【0134】
実施例1によると、基板S及びマスクMを静電チャック24に吸着させて保持するが、マスクMの吸着時、磁力発生部33によって吸着起点を形成し、磁力発生部33の磁力制御を通じて吸着進行方向を積極的に誘導制御することにより、マスクMがしわなく静電チャック24に吸着される。
【0135】
その後、基板をプラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0136】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、実施例1において、
成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0137】
実施例1は本発明の一例であり、本発明は実施例1の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適切に変形してもよい。
【符号の説明】
【0138】
24:静電チャック
30:静電チャックシステム
31:電圧印加部
32:電圧制御部
33:磁力発生部
33-1、33-2、33-3:電磁石モジュール
35:磁力制御部