(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用水系電解液及びこの水系電解液を含む蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20230601BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20230601BHJP
H01G 11/20 20130101ALI20230601BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20230601BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01G11/06
H01G11/20
H01G11/62
(21)【出願番号】P 2019051518
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正太
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
(72)【発明者】
【氏名】本田 常俊
(72)【発明者】
【氏名】秋草 順
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114141(WO,A1)
【文献】特開2008-222657(JP,A)
【文献】国際公開第2011/149095(WO,A1)
【文献】特表2015-535789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-0587、36-39
H01G11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を溶媒として含む蓄電デバイス用水系電解液において、
電解質が、ペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩であるか、前記非対称性イミドの
1種又は2種以上のナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩との混合塩であるか、又は前記非対称性イミドの
1種又は2種以上のナトリウム塩と前記対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸ナトリウム塩との混合塩であり、
前記
非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩及び前記混合塩の組成割合は、モル比で、(
前記非対称性イミドの
1種又は2種以上のナトリウム塩)
x(
前記対称性イミドのナトリウム塩)
y(
前記スルホン酸ナトリウム塩)
1-(x+y)であり(但し、xは0.1~1.0であり、yは0~0.9であり、x+y≦1.0である。)、
前記非対称性イミド
のナトリウム塩が、ナトリウム(ペンタフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C
2F
5SO
2)(CF
3SO
2)NNa)、ナトリウム(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C
3F
7SO
2)(CF
3SO
2)NNa)又はナトリウム(ノナフルオロブタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C
4F
9SO
2)(CF
3SO
2)NNa)であり、
前記対称性イミド
のナトリウム塩が、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CF
3SO
2)
2NNa)又はナトリウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド((C
2F
5SO
2)
2NNa)であり、
前記スルホン酸ナトリウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(CF
3SO
3Na)であり、
前記
蓄電デバイス用水系電解液の組成が、前記
非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩又は前記混合塩のナトリウム塩1モルに対して溶媒量が2モル以上6モル未満であることを特徴とする蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項2】
前記電解質が、ペルフルオロアルキル基を有する前記非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩であり、前記蓄電デバイス用水系電解液の組成が、前記非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩1モルに対して溶媒量が2モル以上3.5モル以下である、請求項1記載の蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項3】
前記電解質が、前記非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有する前記対称性イミドのナトリウム塩との前記混合塩であり、前記蓄電デバイス用水系電解液の組成が、前記混合塩のナトリウム塩1モルに対して溶媒量が2モル以上5.8モル以下である、請求項1記載の蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項4】
前記電解質が、前記非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩と前記対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有する前記スルホン酸ナトリウム塩との前記混合塩であり、前記蓄電デバイス用水系電解液の組成が、前記混合塩のナトリウム塩1モルに対して溶媒量が2モル以上3.0モル以下である、請求項1記載の蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項5】
前記
非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩の融点が、240℃以下である請求項
1又は2に記載の蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項6】
前記
蓄電デバイス用水系電解液中のフッ素イオン含有量が10ppm以下であり、前記
蓄電デバイス用水系電解液中の水素含有量が10ppm以下である請求項
1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項7】
前記蓄電デバイスが、ナトリウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ又はナトリウムイオンキャパシタである請求項
1~6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用水系電解液。
【請求項8】
請求項
1又は2に記載の蓄電デバイス用水系電解液の
前記電解質として用いられ、フッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水素含有量が10ppm以下である請求項1記載のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩。
【請求項9】
請求項
1又は3に記載の蓄電デバイス用水系電解液の
前記電解質として用いられ、フッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水素含有量が10ppm以下である、請求項1記載
の前記混合塩であって、ペルフルオロアルキル基を有する
前記非対称性イミドの
1種又は2種以上のナトリウム塩
とペルフルオロアルキル基を有する
前記対称性イミドのナトリウム塩との混合塩。
【請求項10】
請求項
1又は4に記載の蓄電デバイス用水系電解液の
前記電解質として用いられ、フッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水素含有量が10ppm以下である、請求項1記載
の前記混合塩であって、ペルフルオロアルキル基を有する
前記非対称性イミドの
1種又は2種以上のナトリウム塩
とペルフルオロアルキル基を有する
前記対称性イミドのナトリウム塩
とペルフルオロアルキル基を有する
前記スルホン酸ナトリウム塩との混合塩。
【請求項11】
請求項
1~7のいずれか一項に記載の
蓄電デバイス用水系電解液を含む蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃性の蓄電デバイス用水系電解液及びこの水系電解液を含む蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水系電解液を含む蓄電デバイスとして、ナトリウムを溶解した水溶液系二次電池が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1、段落[0018])参照)。特許文献1には、この水溶液系二次電池が、ナトリウムを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極と、ナトリウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、正極と負極との間に介在し、pH変化に対して緩衝作用を発現する緩衝物質を含み、ナトリウムを溶解した水溶液である電解液と、を備え、約1.25Vの電池電圧が得られることが記載されている。
【0003】
一方、水を溶媒として含む蓄電装置用電解液であって、前記電解液の組成がアルカリ金属塩1モルに対して溶媒量が4モル以下であることを特徴とする電解液及びアルカリ金属塩がリチウム塩又はナトリウム塩であることが開示されている(特許文献2(請求項1、段落[0028]、段落[0087]、請求項6)参照。)。この蓄電装置用電解液は、かかる高濃度のアルカリ金属塩を用いることにより、純水の電位窓(安定電位領域)を超える電位窓、好ましくは、2V以上の電位窓を有すること、及びこの実施例では電解液No.4の電位窓が3.2Vと算出されることが特許文献2に示される。
【0004】
更に、水系電解質として、濃度が3mol/L以上のナトリウムイオンと、[N(FSO2)2]-、SO3
2-、S2O3
2-及びSCN-よりなる群から選択される少なくとも1種類の第1アニオンとを含む 二次電池が開示されている(特許文献3(段落[0008]、段落[0012])参照)。特許文献3には、第1アニオンが、フルオロアルキル基を有する有機アニオンと比較して、分子量が小さく、水系溶媒への溶解度が高いため、水系電解質のNaイオン濃度を3mol/L以上にすることができ、その結果、水系電解質のイオン伝導度を向上することができ、水素発生過電圧を大きくすることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-54208号公報
【文献】国際公開第2016/114141号公報
【文献】特開2018-137107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の水溶液系二次電池では、水の分解電圧である1.2Vに制限されるため、得られる電池電圧1.25Vとなっている。過電圧を考慮しても水溶液系の電池では1.7Vが限界であり、より高い電圧が発生可能で高容量な蓄電デバイスは実現できなかった。また特許文献2には、電解液の組成として、リチウム塩又はナトリウム塩であるアルカリ金属塩が示されるが、ナトリウム塩についての実施例の記載はない。更に特許文献3の二次電池では、水素発生過電圧を大きくすることにより、その耐電圧を実現しているため、水の電気分解を完全に抑えることができず、有機アルカリ塩を用いた場合に比べて、クーロン効率が低いという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、蓄電デバイスのクーロン効率を高めることが可能な蓄電デバイス用水系電解液及びこの水系電解液を含む蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水系電解液の電解質として、特定のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩、特定のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドのナトリウム塩と特定のペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩との混合塩、又はこれらのナトリウム塩と特定のスルホン酸ナトリウム塩との混合塩を用いると、低水分比率でも、前記1種又は2種以上のナトリウム塩又は混合塩が水溶液になること、及び水を用いても水の電気分解が抑制されることを見出し、本発明に到達した。本明細書において、「非対称性イミド」とは構造において組成が対称でないイミドをいい、「対称性イミド」とは構造において組成が対称であるイミドをいう。
【0009】
本発明の第1の観点は、水を溶媒として含む蓄電デバイス用水系電解液において、電解質が、ペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩であるか、前記非対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩との混合塩であるか、又は前記非対称性イミドのナトリウム塩と前記対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸ナトリウム塩との混合塩であり、前記1種又は2種以上のナトリウム塩及び前記混合塩の組成割合は、モル比で、(非対称性イミドのナトリウム塩)x(対称性イミドのナトリウム塩)y(スルホン酸ナトリウム塩)1-(x+y)であり(但し、xは0.1~1.0であり、yは0~0.9であり、x+y≦1.0である。)、前記非対称性イミドナトリウム塩が、ナトリウム(ペンタフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C2F5SO2)(CF3SO2)NNa、以下、「化合物1」という。)、ナトリウム(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C3F7SO2)(CF3SO2)NNa、以下、「化合物2」という。)又はナトリウム(ノナフルオロブタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C4F9SO2)(CF3SO2)NNa、以下、「化合物4」という。)であり、前記対称性イミドナトリウム塩が、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CF3SO2)2NNa、以下、「化合物3」という。)又はナトリウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド((C2F5SO2)2NNa、以下、「化合物5」という。)であり、前記スルホン酸ナトリウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(CF3SO3Na、以下、「化合物8」という。)であり、前記電解液の組成が、前記1種又は2種以上のナトリウム塩又は前記混合塩のナトリウム塩1モルに対して溶媒量が2モル以上6モル未満であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記1種又は2種以上のナトリウム塩の融点が、240℃以下である蓄電デバイス用水系電解液である。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、水系電解液中のフッ素イオン含有量が10ppm以下であり、前記水系電解液中の水素含有量が10ppm以下である蓄電デバイス用水系電解液である。ここで、水系電解液中のフッ素イオンとは、ナトリウム塩の製造時に生じる副反応生成物が完全に除去されずに残存しているフッ素イオン、及び/又は反応生成物の分解により混入するフッ素イオンであり、イミドナトリウム塩に由来する。また水系電解液中の水素とは、ナトリウム塩が完全にフッ素化されずにイミドナトリウム塩の分子内に残存している水素原子である。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点のいずれかの観点に基づく発明であって、前記蓄電デバイスが、ナトリウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ又はナトリウムイオンキャパシタである蓄電デバイス用水系電解液である。
【0013】
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点のいずれかの観点の蓄電デバイス用水系電解液の電解質として用いられ、フッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水素含有量が10ppm以下である第1の観点のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩である。
【0014】
本発明の第6の観点は、第1ないし第4の観点のいずれかの観点の蓄電デバイス用水系電解液の電解質として用いられ、フッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水素含有量が10ppm以下である、第1の観点のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドのナトリウム塩と第1の観点のペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩との混合塩である。
【0015】
本発明の第7の観点は、第1ないし第4の観点のいずれかの観点の蓄電デバイス用水系電解液の電解質として用いられ、フッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水素含有量が10ppm以下である、第1の観点のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドのナトリウム塩と第1の観点のペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩と第1の観点のペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸ナトリウム塩との混合塩である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点の蓄電デバイス用水系電解液では、水系電解液の電解質として、特定のペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩、前記非対称性イミドのナトリウム塩と特定のペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩との混合塩、又は前記非対称性イミドのナトリウム塩と前記対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸ナトリウム塩との混合塩を用いて、前記1種又は2種以上のナトリウム塩及び混合塩の組成割合を、モル比で、(非対称性イミドのナトリウム塩)x(対称性イミドのナトリウム塩)y(スルホン酸ナトリウム塩)1-(x+y)に特定する(但し、xは0.1~1.0であり、yは0~0.9であり、x+y≦1.0である。)。こうすることにより、前記1種又は2種以上のナトリウム塩又は前記混合塩の溶解度が上昇し、低水分比率でも、前記1種又は2種以上のナトリウム塩又は混合塩のナトリウム塩が水溶液になるとともに、水の電気分解が抑制されることにより、特許文献2に示される実施例から示唆されるナトリウム電池のクーロン効率より高いクーロン効率にすることができる。
【0017】
本発明の第2の観点の蓄電デバイス用水系電解液では、前記非対称性イミド構造を有する1種又は2種以上のナトリウム塩の融点は、240℃以下という低温である。これは、非対称性イミド構造を有するナトリウム塩は、その非対称な分子構造により結晶性の低下が起こり、対称性イミド構造を有するナトリウム塩よりも融点が低下し、水への溶解性が高くなることによる。特に融点が240℃以下を有する非対称性イミドを有するナトリウム塩が、水への溶解性が高く水系電解液として有用である。
【0018】
本発明の第3の観点の蓄電デバイス用水系電解液では、水系電解液中のフッ素イオン含有量が10ppm以下であり、前記水系電解液中の水素含有量が10ppm以下であると、良好な溶融塩状態の形成が可能となり、更にフッ素イオンや水素のような不純物に由来する副反応が減少することから、ナトリウム電池にしたときに、クーロン効率をより高めることができる。
【0019】
本発明の第4の観点の蓄電デバイス用水系電解液では、ナトリウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ又はナトリウムイオンキャパシタに好適に用いることができる。
【0020】
本発明の第5の観点の特定の非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩又は本発明の第6の観点の特定の非対称性イミドのナトリウム塩と特定の対称性イミドのナトリウム塩との混合塩或いは第7の観点の特定の非対称性イミドのナトリウム塩と特定の対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸ナトリウム塩との混合塩は、フッ素イオンや水素のような不純物が少ないため、蓄電デバイス用水系電解液の電解質として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】化合物1と化合物3の混合塩である実施例1-2~1-7、化合物1のナトリウム塩である実施例1-1、及び化合物3のナトリウム塩である比較例1についてのナトリウム塩の各組成比と、溶解に必要なナトリウム塩のモル数に対する水のモル数の比を示した図である。
【
図2】化合物2と化合物3の混合塩である実施例3-2~3-8、化合物2のナトリウム塩である実施例3-1、及び化合物3のナトリウム塩である比較例1についてのナトリウム塩の各組成比と、溶解に必要なナトリウム塩のモル数に対する水のモル数の比を示した図である。
【
図3】化合物2と化合物5の混合塩である実施例4-2~4-6及び化合物2のナトリウム塩である実施例4-1についてのナトリウム塩の各組成比と、溶解に必要なナトリウム塩のモル数に対する水のモル数の比を示した図である。
【
図4】実施例1-3の電解液について3極式電気化学セルを用いてリニアスープボルタムグラム測定を行い、その電位窓を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
〔電解液〕
(1)溶媒
本実施形態の蓄電デバイス用電解液(以下、単に「電解液」ということがある。)は、水系電解液であることを特徴とする。従って、本実施形態の蓄電デバイス用水系電解液において用いられる溶媒は水である。ただし、溶媒を、水及びその他の非水溶媒を含む混合溶媒とすることも可能である。そのような非水溶媒は、水に可溶なものであり、例えば、メタノール等のアルコール類、並びに、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、又は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。かかる混合溶媒の場合でも、水の割合は体積比で90%以上であることが好ましい。
【0024】
(2)電解質としてのナトリウム塩
本実施形態の蓄電デバイス用水系電解液において電解質として用いられるナトリウム塩は、(i)ペルフルオロアルキル基を有する非対称性イミドの1種又は2種以上のナトリウム塩であるか、又は(ii)前記非対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有する対称性イミドのナトリウム塩との混合塩であるか、或いは(iii)前記非対称性イミドのナトリウム塩と前記対称性イミドのナトリウム塩とペルフルオロアルキル基を有するスルホン酸ナトリウム塩との混合塩である。前記1種又は2種以上のナトリウム塩及び混合塩の組成割合をモル比で表すと、(非対称性イミドのナトリウム塩)x(対称性イミドのナトリウム塩)y(スルホン酸ナトリウム塩)1-(x+y)である(但し、xは0.1~1.0であり、yは0~0.9であり、x+y≦1.0である。)。即ち、前記1種又は2種以上のナトリウム塩及び前記混合塩の組成割合は、対称性イミドのナトリウム塩と非対称性イミドのナトリウム塩を合計したモル数を1モルとしたときに、非対称性イミドのナトリウム塩が、0.1モル~1.0モルである。その組成は、好ましくは、モル比で、非対称性イミドのナトリウム塩:対称性イミドのナトリウム塩=0.3:0.7~1.0:0であり、更に好ましくは0.5:0.5~1.0:0である。非対称性イミドのナトリウム塩が前記モル比の下限値未満では、水溶液にならないため、ナトリウム塩1モルに対して溶媒量が6モル以上必要となる。
【0025】
前記非対称性イミドナトリウム塩は、化合物1であるナトリウム(ペンタフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C2F5SO2)(CF3SO2)NNa)であるか、又は化合物2であるナトリウム(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C3F7SO2)(CF3SO2)NNa)であるか、或いは化合物4であるナトリウム(ノナフルオロブタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C4F9SO2)(CF3SO2)NNa)である。また前記対称性イミドアニオンは、化合物3であるナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CF3SO2)2NNa)であるか、又は化合物5であるナトリウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド((C2F5SO2)2NNa)である。
【0026】
前記化合物1~5以外の非対称性イミドナトリウム塩及び対称性イミドナトリウム塩には、以下の表1に示すナトリウム塩がある。表1には、化合物1~5のナトリウム塩と、化合物6~7のナトリウム塩と、前記化合物8のスルホン酸ナトリウム塩とを、それぞれの融点及びそれぞれの呼称(化合物1~化合物8)とともに示す。ナトリウム塩の融点はTG-DTA(ネッチジャパン製 TG-DTA2000SA)による測定値である。表1から明らかなように、化合物1、2及び4の非対称性イミドナトリウム塩の融点が240℃以下であり、それ以外のナトリウム塩の融点は240℃を超える。
【0027】
【0028】
また本実施形態の蓄電デバイス用水系電解液は、高濃度のナトリウム塩を含むことを特徴とする。これによって、従来は、水系電解液では可逆的に作動し得なかった電極構成においても、高い電圧を発生する二次電池などの蓄電デバイスを実現することができる。前記電解液中におけるナトリウム塩と溶媒の混合比は、前記1種又は2種以上のナトリウム塩又は前記混合塩のナトリウム塩1モルに対して溶媒が2モル以上6モル未満であり、好ましくは、溶媒が2.8モル以上5.2モル以下である。本実施形態の蓄電デバイス用電解液は、かかる高濃度のナトリウム塩を用いることにより、純水の電位窓(安定電位領域)を超える電位窓を有し、好ましくは、2.0V以上の電位窓を有する。
【0029】
また本実施形態の蓄電デバイス用水系電解液中の前記混合塩のナトリウム塩の融点が低いものが好ましい。非対称性イミド構造を有するナトリウム塩は、その非対称な分子構造により、結晶性の低下が起こり、対称性イミド構造を有するナトリウム塩よりも融点が低下し、水への溶解性が高くなる。特に融点が240℃以下を有する非対称性イミドを有するナトリウム塩が、水への溶解性が高く、水系電解液として有用である。更に水系電解液中のフッ素イオン含有量が10ppm以下であり、水系電解液中の水素含有量が10ppm以下であることが好ましい。こうすることにより良好な溶融塩状態の形成が可能となり、更にフッ素イオンや水素のような不純物に由来する副反応が減少することから、ナトリウム電池のクーロン効率がより一層高まる。前記フッ素イオン含有量が10ppmを超えると、また前記水素含有量が10ppmを超えると、良好な溶融塩の形成が阻害され、フッ素イオンや水素のような不純物に由来する副反応が増加することから、ナトリウム電池のクーロン効率が低下し易い。
【0030】
上述したナトリウム塩に加えて、当該技術分野において公知の支持電解質を含むことができる。そのような支持電解質は、例えば、二次電池がナトリウムイオン二次電池である場合には、NaPF6、NaBF4、NaClO4、NaNO3、NaCl、Na2SO4及びNa2S等及びこれらの任意の組み合わせから選択されるものが挙げられる。
【0031】
(3)その他の成分
また本実施形態の蓄電デバイス用電解液は、その機能の向上等の目的で、必要に応じて他の成分を含むこともできる。他の成分としては、例えば、従来公知の過充電防止剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性及びサイクル特性を改善するための特性改善助剤が挙げられる。
【0032】
当該電解液が過充電防止剤を含有する場合、電解液中の過充電防止剤の含有量は、0.01質量%~5質量%であることが好ましい。電解液に過充電防止剤を0.1質量%以上含有させることにより、過充電による蓄電デバイスの破裂・発火を抑制することが更に容易になり、蓄電デバイスをより安定に使用できる。
【0033】
〔蓄電デバイス〕
本実施形態の蓄電デバイスは、正極及び負極と、本実施形態の水系電解液を備えるものである。蓄電デバイスとしては、ナトリウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ又はナトリウムイオンキャパシタが例示できる。
【0034】
(1)負極
本実施形態の蓄電デバイスにおける負極としては、当該技術分野において公知の電極構成を用いることができる。例えば、蓄電デバイスがナトリウムイオン二次電池の場合には、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含む電極が挙げられる。このような負極活物質としては、公知のナトリウムイオン二次電池用負極活物質を用いることができ、例えば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)等の炭素質材料が挙げられる。更に他の例として、ナトリウム元素を有する合金や金属酸化物のような金属化合物が挙げられる。ナトリウム元素を有する合金としては、例えばナトリウムアルミニウム合金、ナトリウムスズ合金、ナトリウム鉛合金、ナトリウムケイ素合金等が挙げられる。またナトリウム元素を有する金属化合物としては、例えばチタン酸ナトリウム(Na2Ti3O7又はNa4Ti5O12)等のナトリウム含有チタン酸化物やリン酸チタン酸ナトリウム(NaTi2(PO4)3)等が挙げられる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ナトリウムイオン二次電池の場合の負極活物質としては、リン酸チタン酸ナトリウムが好ましい。
【0035】
蓄電デバイスが電気二重層キャパシタの場合は、分極性電極材料を負極に含む。分極性電極材料としては、通常の電気二重層キャパシタに用いられるものであればよく、種々の原料から製造した活性炭を例示できる。活性炭は、比表面積の大きなものが好ましい。
【0036】
蓄電デバイスがナトリウムイオンキャパシタの場合は、ナトリウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料を負極に含む。当該材料として、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛含有材料を例示できる。またナトリウムイオンなどのカチオンを挿入及び脱離して一定電位でレドックス容量を示す、チタン酸ナトリウムなどの材料を用いてもよい。負極活物質にナトリウムを含まない材料を用いる場合、金属ナトリウムやナトリウムを多く含む化合物を負極もしくは正極に添加し、これらからナトリウムを負極活物質に予めドープしたものを使用してもよい。
【0037】
蓄電デバイスが二次電池の場合、前記負極は、負極活物質のみを含有するものであっても良く、負極活物質の他に、導電性材料及び結着材(バインダ)の少なくとも一方を含有し、負極合材として負極集電体に付着させた形態であるものであっても良い。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極とすることができる。一方、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及び結着材(バインダ)を有する負極とすることができる。粉末状の負極活物質を用いて負極を形成する方法としては、ドクターブレード法や圧着プレスによる成型方法等を用いることができる。蓄電デバイスがキャパシタの場合も同様である。
【0038】
導電性材料としては、例えば、炭素材料、金属繊維等の導電性繊維、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料を使用することができる。炭素材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等を使用することができる。また芳香環を含む合成樹脂、石油ピッチ等を焼成して得られたメソポーラスカーボンを使用することもできる。
【0039】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂、或いは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを好ましく用いることができる。負極集電体としては、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、チタン、白金、ステンレススチール等の金属を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。
【0040】
(2)正極
本実施形態の蓄電デバイスの正極としては、当該技術分野において公知の電極構成を用いることができる。例えば、蓄電デバイスがナトリウムイオン二次電池の場合には、正極活物質としては、コバルト酸ナトリウム(NaCoO2)、マンガン酸ナトリウム(NaMnO2)、ニッケル酸ナトリウム(NaNiO2)、バナジン酸ナトリウム(NaVO2)。鉄酸ナトリウム(NaFeO2)等の1種類以上の遷移金属を含むナトリウム含有遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄ナトリウム(NaFePO4)、或いはリン酸バナジウムナトリウム(Na2VP2O7)フッ化リン酸バナジウムナトリウム(NaV2(PO4)2F3)フッ化リン酸鉄ナトリウム(Na2FePO4F)等の1種類以上の遷移金属を含むナトリウム含有リン酸化合物等が挙げられる。当該正極には、導電性材料や結着剤を含有してもよい。
【0041】
また正極活物質として酸素や酸化ナトリウムなどの酸素含有金属塩を採用してもよい。そして、かかる正極活物質を具備する正極は、かかる正極活物質における酸素の酸化還元反応を促進する触媒を含有してもよい。好ましい正極活物質としては、ナトリウムを過剰に含有する遷移金属酸化物(当該遷移金属は、例えばマンガン、コバルト、鉄、ニッケル、銅である。)を例示できる。また大気中の酸素を効率よくレドックスさせて容量を取り出すための反応場を作り出すために、正極内に活性炭などの高比表面積材料を用いることもできる。
【0042】
蓄電デバイスがキャパシタの場合は、分極性電極材料を正極に含有する。分極性電極材料としては、負極で説明したものを採用すればよい。また分極性電極材料には、ポリアセンなどの導電性高分子や2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)のようにアニオンの吸脱着により容量が大きくなるようなレドックスキャパシタに使われる材料を用いても良い。またナトリウムイオンなどのカチオンを挿入及び脱離して3V以上の一定電位でレドックス容量を示す、スピネル構造のマンガン酸ナトリウムやオリビン構造のリン酸鉄ナトリウムなどの材料を含んでもよい。
【0043】
導電性材料及び結着剤としては、前記負極と同様のものを用いることができる。
【0044】
正極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、チタン、白金、ステンレススチール等の金属を主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体等を使用することができる。金属は、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレススチール等である。
【0045】
(3)セパレータ
本実施形態の蓄電デバイスにおいて用いられるセパレータとしては、正極層と負極層とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シートや、不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等の多孔質絶縁材料等を挙げることができる。
【0046】
(4)形状等
本実施形態の蓄電デバイスの形状は、正極、負極、及び電解液を収納することができれば特に限定されるものではないが、例えば、円筒型、コイン型、平板型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0047】
また蓄電デバイスを収納するケースは、大気開放型のケースであっても良く、密閉型のケースであっても良い。
【0048】
なお、本実施形態の電解液及び二次電池は、二次電池としての用途に好適ではあるが、一次電池として用いることを除外するものではない。
【実施例】
【0049】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0050】
<実施例1-1>
非対称性イミドとして、フッ素イオンを7ppm及び水素を3ppmそれぞれ含む「化合物1」1.0モルの単独塩に水3.5モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0051】
<実施例1-2>
対称性イミドとして、表1に「化合物3」として示されるナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CF3SO2)2NNa)を用いた。実施例1-1と同じ「化合物1」0.9モルと、フッ素イオンを9ppm及び水素を1ppmそれぞれ含む「化合物3」0.1モルとを混合した混合塩に水3.2モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0052】
<実施例1-3>
実施例1-1と同じ「化合物1」0.8モルと、対称性イミドとして、フッ素イオンを9ppm及び水素を1ppmそれぞれ含む「化合物3」0.2モルとを混合した混合塩に水3.1モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0053】
<実施例1-4>
実施例1-1と同じ「化合物1」0.7モルと、実施例1-2と同じ「化合物3」0.3モルとを混合した混合塩に水3.9モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0054】
<実施例1-5>
実施例1-1と同じ「化合物1」0.6モルと、実施例1-2と同じ「化合物3」0.4モルとを混合した混合塩に水4.4モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0055】
<実施例1-6>
実施例1-1と同じ「化合物1」0.4モルと、実施例1-2と同じ「化合物3」0.6モルとを混合した混合塩に水4.8モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0056】
<実施例1-7>
実施例1-1と同じ「化合物1」0.2モルと、実施例1-2と同じ「化合物3」0.8モルとを混合した混合塩に水5.4モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0057】
<比較例1>
実施例1-2と同じ対称性イミド構造のナトリウム塩である「化合物3」1モルの単独塩に水6.3モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0058】
図1に、化合物1と化合物3の混合塩である実施例1-2~1-7、化合物1の単独塩である実施例1-1、及び化合物3の単独塩である比較例1のナトリウム塩の各組成比と溶解に必要なそれぞれの水分量を示す。
図1において、縦軸は(水のモル数)/(全ナトリウム塩のモル数)を示し、横軸は化合物1と化合物3の合計量に対する化合物1のモル比を示す。
図1から、実施例1-2~1-7の混合塩又は実施例1-1の非対称性イミド構造の単独塩では、(水のモル数)/(全ナトリウム塩のモル数)が3.1~5.4で水溶液になることが実証された。一方、比較例1の対称性イミド構造の単独塩では(水のモル数)/(全ナトリウム塩のモル数)が6.3にならないと水溶液にならないことが実証された。
【0059】
<実施例2>
実施例1-1と同じ「化合物1」0.65モルと、実施例1-2と同じ「化合物3」0.21モルと、スルホン酸ナトリウム塩として、フッ素イオンを4ppm及び水素を1ppmそれぞれ含む「化合物8」0.14モルとを混合した混合塩に水3.0モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0060】
<実施例3-1>
非対称性イミドとして、フッ素イオンを5ppm及び水素を7ppmそれぞれ含む「化合物2」1モルの単独塩に水3.5モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0061】
<実施例3-2>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.8モルと、実施例1-2と同じ「化合物3」0.2モルとを混合した混合塩に水2.8モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0062】
<実施例3-3>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.5モルと実施例1-2と同じ「化合物3」0.5モルとを混合した混合塩に水4.0モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0063】
<実施例3-4>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.3モルと実施例1-2と同じ「化合物3」0.7モルとを混合した混合塩に水4.7モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0064】
<実施例3-5>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.1モルと実施例1-2と同じ「化合物3」0.9モルとを混合した混合塩に水5.8モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0065】
<実施例3-6>
非対称性イミドとして、フッ素イオンを32ppm及び水素を8ppmそれぞれ含む「化合物2」0.2モルと、対称性イミドとして、フッ素イオンを2ppm及び水素を15ppmそれぞれ含む「化合物3」0.8モルとを混合した混合塩に水5.2モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0066】
<実施例3-7>
実施例3-6と同じ「化合物2」0.7モルと実施例3-6と同じ「化合物3」0.3モルとを混合した混合塩に水3.2モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0067】
<実施例3-8>
実施例3-6と同じ「化合物2」0.1モルと実施例3-6と同じ「化合物3」0.9モルとを混合した混合塩に水4.3モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0068】
図2に、化合物2と化合物3の混合塩である実施例3-2~3-8、化合物2の非対称性イミド構造の単独塩である実施例3-1、及び化合物3の前述した対称性イミド構造の単独塩である比較例1のナトリウム塩の各組成比と溶解に必要なそれぞれの水分量を示す。
図2の縦軸は
図1と同じである。横軸は化合物2と化合物3の合計量に対する化合物2のモル比を示す。
図2から、実施例3-2~3-8の混合塩又は実施例3-1の非対称性イミド構造の単独塩では、(水のモル数)/(全ナトリウム塩のモル数)が2.8~5.8で水溶液になることが実証された。一方、比較例1の対称性イミド構造の単独塩では(水のモル数)/(全ナトリウム塩のモル数)が6.3にならないと水溶液にならないことが実証された。
【0069】
<実施例4-1>
非対称性イミドとして、フッ素イオンを5ppm及び水素を7ppmそれぞれ含む「化合物2」1モルの単独塩に水3.50モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0070】
<実施例4-2>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.9モルと、フッ素イオンを7ppm及び水素を3ppmそれぞれ含む「化合物5」0.1モルとを混合した混合塩に水3.00モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0071】
<実施例4-3>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.8モルと実施例4-2と同じ「化合物5」0.2モルとを混合した混合塩に水2.50モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0072】
<実施例4-4>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.7モルと実施例4-2と同じ「化合物5」0.3モルとを混合した混合塩に水2.25モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0073】
<実施例4-5>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.5モルと実施例4-2と同じ「化合物5」0.5モルとを混合した混合塩に水3.00モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0074】
<実施例4-6>
実施例3-1と同じ「化合物2」0.3モルと実施例4-2と同じ「化合物5」0.7モルとを混合した混合塩に水3.50モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0075】
図3に、化合物2と化合物5の混合塩である実施例4-2~4-6及び化合物2の非対称性イミド構造の単独塩である実施例4-1のナトリウム塩の各組成比と溶解に必要なそれぞれの水分量を示す。
図3の縦軸は
図1と同じである。横軸は化合物2と化合物5の合計量に対する化合物2のモル比を示す。
図3から、実施例4-2~4-6の混合塩又は実施例4-1の非対称性イミド構造の単独塩では、(水のモル数)/(全ナトリウム塩のモル数)が2.25~3.50で水溶液になることが実証された。
【0076】
<実施例5>
非対称性イミドとして、表1に「化合物4」として示されるナトリウム(ノナフルオロブタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C4F9SO2)(CF3SO2)NNa)0.3モルと、対称性イミドとして、実施例4-2と同じ「化合物5」0.7モルとを混合した混合塩に水5.00モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0077】
<実施例6>
非対称性イミドとして、フッ素イオンを7ppm及び水素を3ppmそれぞれ含む「化合物1」0.5モルと、非対称性イミドとして、フッ素イオンを5ppm及び水素を7ppmそれぞれ含む「化合物2」0.5モルとを混合した混合塩に水2.5モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0078】
<比較例2>
対称性イミドとして、表1に「化合物6」として示されるナトリウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド((C3F7SO2)2NNa)と、対称性イミドとして、実施例1-2と同じ「化合物3」を用いた。「化合物6」0.8モルと、「化合物3」0.2モルとを混合した混合塩に水8.6モルを加え、50℃で加熱溶融し、室温におけるナトリウム塩の飽和水溶液としての電解液を調製した。
【0079】
<評価試験>
前記実施例1-1~実施例1-7、比較例1、実施例2、実施例3-1~実施例3-8、実施例4-1~実施例4-6、実施例5.実施例6及び比較例2の26種類の電解液中のフッ素イオン含有量と、水素含有量と、これらの電解液を用いたコイン型ナトリウムイオン二次電池のクーロン効率(充放電効率)をそれぞれ測定した。以下、各測定方法について述べる。
【0080】
(1)フッ素イオン含有量
化合物1~8のそれぞれのフッ素イオン含有量、及び電解液中のフッ素イオン含有量はイオンクロマトグラフ(サーモ社製 ICS-2100)により測定した。
【0081】
(2)水素含有量
化合物1~8のそれぞれの水素含有量、及び電解液中の水素含有量は1H-NMR(ブルカー社製 AV400M)の測定結果より、その濃度を算出した。
【0082】
(3)クーロン効率
測定に用いた二次電池の構成は次の通りである。正極は、85質量%のNaCoO2、9質量%のPVDF及び6質量%のアセチレンブラックを含む正極合材層と、チタン製の集電体とにより構成した。負極は、85質量%のNa4Ti5O12、5質量%のPVDF及び10質量%のアセチレンブラックを含む負極合材層と、アルミニウム製の集電体とにより構成した。セパレータはガラス繊維不織布フィルターを用いた。25℃の温度で1.7V~2.8Vの範囲で、二次電池の充放電を10サイクル行った。
【0083】
以下の表2及び表3に、26種類の電解液について、混合塩又は非対称性イミド構造のナトリウム塩を構成するナトリウム塩の種類と比率、ナトリウム塩1モルに対する水のモル量、フッ素イオン含有量の合計及び水素含有量の合計、並びに26種類の電解液を用いた二次電池のクーロン効率をそれぞれ示す。混合塩又は非対称性イミド構造のナトリウム塩を構成するナトリウム塩の種類と比率は、ナトリウム塩1及びナトリウム塩2として、またスルホン酸ナトリウム塩の種類と比率は、ナトリウム塩3として、それぞれ示した。
【0084】
【0085】
【0086】
表2及び表3から明らかなように、比較例1では、非対称性イミドのナトリウム塩を用いず、対称性イミドのナトリウム塩のみを用いた(1モル)ため、ナトリウム塩1モルに対する水のモル量はそれぞれ6.3モル必要であった。これらの電解液を用いた二次電池のクーロン効率は96.2%とそれほど高くなかった。
【0087】
比較例2では、対称性イミドのナトリウム塩として、化合物6のナトリウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド((C3F7SO2)2NNa)と化合物3を用いたため、ナトリウム塩1モルに対する水のモル量は8.6モル必要であった。これらの電解液を用いた二次電池のクーロン効率は95.6%とそれほど高くなかった。
【0088】
これに対して実施例1-1~実施例1-7、実施例2、実施例3-1~実施例3-8、実施例4-1~実施例4-6、実施例5及び実施例6では、ナトリウム塩が本発明の第1の観点の要件を備えた単独塩又は混合塩であって、その組成割合が本発明の第1の観点の要件を備えるため、ナトリウム塩1モルに対する水のモル量は2モル以上6モル未満であった。そのため、これらの電解液を用いた二次電池のクーロン効率は96.9%~98.1%と高かった。
【0089】
(4)電位窓の確認
実施例1-3の電解液について、以下の3極式電気化学セルを用いてリニアスープボルタムグラム測定を行い、その電位窓を確認した。測定温度は25℃、掃引速度は0.1mV/秒とした。
作用極及び対極:白金
参照電極:Ag/AgCl(飽和KCl)
以上の結果を
図4に示す。
図4の結果から、実施例1-3の電解液の電位窓が白金電極の場合、2.6Vと算出され、白金電極とアルミ電極の組合せでは、3.2Vと算出された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の水系電解液は、ナトリウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ又はナトリウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスに利用することができる。