(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-31
(45)【発行日】2023-06-08
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20230601BHJP
F16L 39/00 20060101ALI20230601BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230601BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230601BHJP
【FI】
C23C14/50 E
C23C14/50 J
F16L39/00
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2019184395
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 透
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-069590(JP,U)
【文献】特開2000-002340(JP,A)
【文献】特開2006-336034(JP,A)
【文献】特開2003-130234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
F16L 39/00
H05B 33/10
H10K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室において被成膜物に成膜を行う成膜装置であって、
被成膜物を支持する被成膜物支持部と、
前記被成膜物支持部と接続されて回転する回転部と、前記回転部の周囲に設けられ前記成膜室に固定された固定部と、を有するロータリージョイントと、
を備え、
前記固定部は、液体が供給される供給口と、液体が排出される排出口と、を有し、
前記回転部は、前記供給口から供給された液体を前記被成膜物支持部へ供給する供給流路と、前記被成膜物支持部から排出された液体を前記排出口へ排出する排出流路と、を有し、
前記供給口、前記供給流路、前記被成膜物支持部、前記排出流路、前記排出口の順に液体が流れる液体流路が構成される成膜装置において、
前記排出口から排出された液体を前記供給口に供給する循環経路と、
前記固定部に設けられたドレイン口と、
前記ドレイン口から排出されたドレイン液
から不純物を除去する除去機構と、
前記除去機構から送出された前記ドレイン液を前記供給口まで供給する経路と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記排出口から排出された前記液体は、三方弁を介して、前記ドレイン口から排出された前記ドレイン液が供給される前記経路に合流する
ことを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記除去機構から送出された前記ドレイン液は、前記循環経路に合流する
ことを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記不純物を除去した前記ドレイン液と前記排出口から排出された前記液体とが合流する箇所に逆方向の流れを規制する逆止弁を備えている
ことを特徴とする請求項
3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記除去機構は、前記循環経路に配置されており、
前記排出口から排出された前記液体と、前記ドレイン口から排出された前記ドレイン液は、前記除去機構において合流し、前記不純物を除去されて前記供給口に供給される
ことを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記除去機構は、前記液体の温度を調節する温度調節機構に含まれている
ことを特徴とする請求項
5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記除去機構は、前記成膜室のある場所とは別の場所に設置されている
ことを特徴とする請求項
5に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記除去機構は、前記ドレイン液が収容されるドレイン液容器を有し、
前記ドレイン液容器において、前記液体と前記不純物の比重差に基づいて、前記不純物が前記液体から分離される
ことを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記ドレイン液容器には、前記不純物が分離された前記液体を、再利用のために前記循環経路に送出するための送出口が設けられている
ことを特徴とする請求項
8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記ドレイン液容器には、収容されている前記液体の液面の高さを検知するレベルセンサが設けられており、かつ、吸込口から吸い込んだ前記液体を再利用のために送出するポンプを有しており、
前記除去機構は、前記液面の高さが、前記吸込口の高さから所定の距離だけ高い閾値高さ以下の場合には、前記液体の送出を行わない
ことを特徴とする請求項
8に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記液体は、前記被成膜物の温度を調節するための液体であり、
前記不純物は、前記ロータリージョイントに用いられるグリースの成分である
ことを特徴とする請求項
1に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記グリースの基油として、前記液体に対して不溶性の材料を用いる
ことを特徴とする請求項
11に記載の成膜装置。
【請求項13】
前記液体と前記グリースとの比重が異なる
ことを特徴とする請求項
11に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記液体は、フルオロカーボンを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項15】
成膜装置の成膜室において被成膜物に成膜を行う成膜方法であって、
前記成膜装置は、被成膜物を支持する被成膜物支持部、ならびに、前記被成膜物支持部と接続されて回転する回転部、および、前記回転部の周囲に設けられ前記成膜室に固定された固定部を有するロータリージョイントを備えており、
前記固定部は、液体が供給される供給口および液体が排出される排出口を有し、前記回転部は、前記供給口から供給された液体を前記被成膜物支持部へ供給する供給流路、および、前記被成膜物支持部から排出された液体を前記排出口へ排出する排出流路を有し、前記供給口、前記供給流路、前記被成膜物支持部、前記排出流路、前記排出口の順に液体が流れる液体流路が構成されており、
前記成膜装置はさらに、前記排出口から排出された液体を前記供給口に供給する循環経
路、前記固定部に設けられたドレイン口を有しており、
前記ドレイン口から排出されたドレイン液
から不純物を除去する除去機構から送出された前記ドレイン液を前記供給口まで供給するステップを含む
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項16】
成膜装置の成膜室において被成膜物に成膜材料が成膜される、電子デバイスの製造方法であって、
前記成膜装置は、被成膜物を支持する被成膜物支持部、ならびに、前記被成膜物支持部と接続されて回転する回転部、および、前記回転部の周囲に設けられ前記成膜室に固定された固定部を有するロータリージョイントを備えており、
前記固定部は、液体が供給される供給口および液体が排出される排出口を有し、前記回転部は、前記供給口から供給された液体を前記被成膜物支持部へ供給する供給流路、および、前記被成膜物支持部から排出された液体を前記排出口へ排出する排出流路を有し、前記供給口、前記供給流路、前記被成膜物支持部、前記排出流路、前記排出口の順に液体が流れる液体流路が構成されており、
前記成膜装置はさらに、前記排出口から排出された液体を前記供給口に供給する循環経路、前記固定部に設けられたドレイン口を有しており、
前記ドレイン口から排出されたドレイン液
から不純物を除去する除去機構から送出された前記ドレイン液を前記供給口まで供給するステップを含む
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法および電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの一種として、有機材料の電界発光を用いた有機EL素子を備えた有機EL装置が注目を集めている。かかる有機EL装置の製造の際には、成膜室を有する成膜装置において、基板上に金属電極材料や有機材料などの成膜材料を付着させて成膜を行う工程がある。
【0003】
成膜装置の成膜室内では、容器内に収容された蒸着材料を加熱したり、ターゲットにスパッタリングを行ったりすることで、成膜材料を飛翔させて基板に付着させて、基板上に膜を形成する。その際、均一な膜を形成する等の目的から、成膜室内で基板を回転させながら成膜を行う場合がある。また、成膜室内が高温となる場合に、成膜室内で基板を支持する部材の内部に冷却液が入る空間を設けておき、当該空間と成膜室の外部の間で冷却液を循環させることで、基板を冷却して成膜材料の品質劣化を防止する場合がある。
【0004】
特許文献1(特開2006-336034号公報)には、真空の成膜室内で基板を回転させながら成膜する装置が開示されている。この装置では、成膜室の内部と外部を貫通するように回転体が配置されている。回転体の成膜室内部側の端部には、内部に流体路が形成された基板ホルダが設けられており、回転体の回転に伴って基板を回転させることができる。また回転体は、成膜室の外部に配置され、成膜室に対して固定された外枠部材(筐体)により支持されている。外枠部材には、冷却液の供給口と排出口が設けられており、成膜室外部に配置された恒温槽と接続されている。また、外枠部材と回転体の間には、供給口と排出口にそれぞれ対応する位置に、環状の流体路が設けられている。
【0005】
特許文献1では、このようなロータリージョイント構成により、回転体が回転しながらでも、成膜室外部の恒温槽と基板ホルダ内部の流体路の間での冷却液の循環が可能となっている。すなわち、恒温槽から外枠部材の供給口に供給された冷却液は、環状流体路を経て回転体内部の供給路に流入し、基板ホルダ内の流体路まで到達する。続いて冷却液は、基板ホルダ内の流体路から回転体内部の排出路に流入し、環状流体路を経て外枠部材の排出口から排出されたのち、再び恒温槽に到達する。このように、基板ホルダ内の流体路には常に温度調節された冷却液が循環しているので、成膜に好ましい基板温度を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような成膜装置においては、成膜を行っている間は基本的に、常時冷却液を循環させる必要がある。その結果、ロータリージョイントにおける各部材の接続部分において(特に回転力が作用する回転体と筐体の間から)、冷却液が漏出するという問題がある。かかる冷却液の漏れは、回転体と筐体の間に磁気シールやOリングなどのシール部材を配置したとしても、ある程度発生してしまう。冷却液としてフッ素系不活性液体などの比較的高価な材料を用いた場合、漏出による損失がコスト面に及ぼす影響が大きい。
【0008】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、成膜装置のロータリージョイントに用いる液体を有効に利用するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
成膜室において被成膜物に成膜を行う成膜装置であって、
被成膜物を支持する被成膜物支持部と、
前記被成膜物支持部と接続されて回転する回転部と、前記回転部の周囲に設けられ前記成膜室に固定された固定部と、を有するロータリージョイントと、
を備え、
前記固定部は、液体が供給される供給口と、液体が排出される排出口と、を有し、
前記回転部は、前記供給口から供給された液体を前記被成膜物支持部へ供給する供給流路と、前記被成膜物支持部から排出された液体を前記排出口へ排出する排出流路と、を有し、
前記供給口、前記供給流路、前記被成膜物支持部、前記排出流路、前記排出口の順に液体が流れる液体流路が構成される成膜装置において、
前記排出口から排出された液体を前記供給口に供給する循環経路と、
前記固定部に設けられたドレイン口と、
前記ドレイン口から排出されたドレイン液から不純物を除去する除去機構と、
前記除去機構から送出された前記ドレイン液を前記供給口まで供給する経路と、
を有することを特徴とする成膜装置である。
【0010】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
成膜装置の成膜室において被成膜物に成膜を行う成膜方法であって、
前記成膜装置は、被成膜物を支持する被成膜物支持部、ならびに、前記被成膜物支持部と接続されて回転する回転部、および、前記回転部の周囲に設けられ前記成膜室に固定された固定部を有するロータリージョイントを備えており、
前記固定部は、液体が供給される供給口および液体が排出される排出口を有し、前記回転部は、前記供給口から供給された液体を前記被成膜物支持部へ供給する供給流路、および、前記被成膜物支持部から排出された液体を前記排出口へ排出する排出流路を有し、前記供給口、前記供給流路、前記被成膜物支持部、前記排出流路、前記排出口の順に液体が流れる液体流路が構成されており、
前記成膜装置はさらに、前記排出口から排出された液体を前記供給口に供給する循環経路、前記固定部に設けられたドレイン口を有しており、
前記ドレイン口から排出されたドレイン液から不純物を除去する除去機構から送出された前記ドレイン液を前記供給口まで供給するステップを含む
ことを特徴とする成膜方法である。
【0011】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
成膜装置の成膜室において被成膜物に成膜材料が成膜される、電子デバイスの製造方法であって、
前記成膜装置は、被成膜物を支持する被成膜物支持部、ならびに、前記被成膜物支持部と接続されて回転する回転部、および、前記回転部の周囲に設けられ前記成膜室に固定された固定部を有するロータリージョイントを備えており、
前記固定部は、液体が供給される供給口および液体が排出される排出口を有し、前記回転部は、前記供給口から供給された液体を前記被成膜物支持部へ供給する供給流路、および、前記被成膜物支持部から排出された液体を前記排出口へ排出する排出流路を有し、前記供給口、前記供給流路、前記被成膜物支持部、前記排出流路、前記排出口の順に液体が流れる液体流路が構成されており、
前記成膜装置はさらに、前記排出口から排出された液体を前記供給口に供給する循環経路、前記固定部に設けられたドレイン口を有しており、
前記ドレイン口から排出されたドレイン液から不純物を除去する除去機構から送出された前記ドレイン液を前記供給口まで供給するステップを含む
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成膜装置のロータリージョイントに用いる液体を有効に利用するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1の成膜装置の概略構成を示すブロック図
【
図2】成膜装置に用いるロータリージョイントの構成を示す模式断面図
【
図3】実施形態2の成膜装置の概略構成を示すブロック図
【
図4】実施形態3の成膜装置の概略構成を示すブロック図
【
図5】背景となる技術にかかる成膜装置の概略構成を示すブロック図
【
図6】成膜装置を含む、有機電子デバイスの製造システムを示す図
【
図7】有機電子デバイスの製造方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定するものではない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がないかぎりは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
本発明は、蒸着やスパッタリングにより被成膜物に蒸着材料の膜を形成するための、成膜装置および成膜方法、蒸着装置および蒸着方法、ならびに、電子デバイスの製造方法、などに、好ましく適用される。本発明はまた、成膜方法、蒸着方法、成膜装置または蒸着装置の制御方法や、これらの方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0016】
本発明は、例えば、被成膜物である基板の表面や、基板表面に形成された別の材料の膜の上に、所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属などの任意の材料を選択できる。なお、被成膜物は、平板状の基板に限られない。例えば、凹凸や開口のある機械部品に成膜してもよい。また、成膜材料として、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択できる。有機膜だけではなく金属膜を成膜することも可能である。本発明の技術は、例えば、有機電子デバイス(例えば、有機EL素子を用いた有機EL装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。
【0017】
以下の実施形態では、成膜装置の一例として、成膜材料として蒸発源の容器に収容された有機材料を用いる蒸着装置を挙げて説明する。
【0018】
[従来の漏出液の処理]
まず、
図5のブロック図を参照して、本発明の背景となる成膜装置の構成と、従来の漏出液処理方法について説明する。
成膜装置100は、概略、成膜室1、それに接続されたロータリージョイント11、冷却液80を循環させるポンプ50、ドレイン液容器70、および制御部110を備える。
詳しくは後述するが、ポンプ50は、冷却液80を循環経路51(51a)に送出し、
ロータリージョイント11の供給口31に供給する。供給された冷却液80は、回転体内部の供給流路を経由して成膜室内部に配置された基板ホルダ内に到達し、該基板ホルダ内の流路を通りながら基板を冷却する。冷却液80は、続いて、回転体内部の排出流路を経由してロータリージョイント11の排出口33から排出される。そして、循環経路51(51b)を介してポンプ50に戻る。
【0019】
一方、ロータリージョイント11の各部材の接続部分、特に回転体と筐体の接続部分から漏出した冷却液80は、筐体に設けられたドレイン口37から排出され、ドレイン液81としてドレイン経路71に流出する。ドレイン液81はドレイン液容器70に収容され、適切なタイミングで回収される。このように従来、ロータリージョイントを用いる成膜装置においては、冷却液の循環経路とドレイン液の排出経路が別れており、タンクに収容されたドレイン液は別途回収されていた。
【0020】
[実施形態1]
<成膜装置の構成>
図1および
図2を参照しつつ、本実施形態にかかる成膜装置の構成を説明する。
図1は、成膜装置の概略構成を示すブロック図である。
図2は、成膜装置に用いるロータリージョイントの構成と、成膜室内部の構成を示す模式断面図である。
【0021】
成膜装置100は、概略、成膜室1、それに接続されたロータリージョイント11、冷却液80を循環させるポンプ50、ドレイン液容器70、および制御部110を備える。ドレイン液容器70は、ドレイン液81を回収し収容するタンクである。
【0022】
成膜室1の内部は真空雰囲気か、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。成膜室1の内部には基板ホルダ3(被成膜物支持部)と蒸発源2が配置されている。基板ホルダ3は、搬送ロボットにより成膜室内部に搬入された基板5(被成膜物)を、マスク6とともに支持する。基板ホルダ3は、搬入された基板5およびマスク6を水平に保持する。基板ホルダ3は、基板5やマスク6を挟持するためのクランプ機構や、載置するための受け爪などの支持具を備えていることが好ましい。さらに成膜装置100は、基板5とマスク6を位置合わせして基板ホルダ3に支持させるためのアライメント機構を設けてもよい。アライメント機構としては、成膜室内部に設けられたクランプ機構や支持機構と、成膜室外部に設けられたXYθアクチュエータなどの駆動機構を用いるとよい。
【0023】
上述した通り、基板5としてはガラス、樹脂、金属などの任意の材料を使用できる。マスク6は、基板上に(または、先に基板5に形成された膜の上に)形成される所定の薄膜パターンに対応する開口パターンをもつマスクである。ただし、形成する膜の種類によっては、必ずしもマスク6は必要ない。成膜室内部には他に、成膜の状況を確認するための蒸着モニタを設けてもよい。
【0024】
本実施形態では、成膜源として蒸発源2を用いる。蒸発源2は、内部に蒸着材料を収容するための坩堝等の容器と、ヒータ等の加熱装置を備える。ヒータによって加熱された蒸着材料が飛翔して、マスク6を介して基板5に到達して堆積することにより、所定のパターンに応じた層が形成される。蒸発源2は、成膜の内容に応じて選択できる。例えば、ノズルの有無、点状や線状など蒸発源の種類、基板5と平行な面内で蒸発源を移動させる移動機構の有無など、任意のものを利用してよい。
【0025】
なお、スパッタ法により成膜を行う場合、成膜源として、ターゲットと磁石を含み、電圧印加に応じてターゲットから成膜材料を飛翔させる磁石ユニットを用いてもよい。
図示例での基板5は、成膜室1の上部に、被成膜面が重力方向に垂直となるように配置されている。そして、蒸発源2から蒸着材料が上方に飛翔する、いわゆるデポアップの構
成となっている。しかし、基板5が下方に配置されるデポダウンの構成でもよいし、基板5の被成膜面が重力方向と平行な構成でもよい。
【0026】
冷却液80は、基板5を冷却するための液体である。ここでは冷却液と呼んでいるが、本発明の構成は、冷却の場合に限られず、温度維持や加熱など、液体の温度調整全般に適用できる。蒸着材料の種類にもよるが、成膜室内部は非常に高温となるため、冷却液80としては反応性が低く化学的に不活性な材料が好ましい。例えば、フルオロカーボンとも呼ばれる、炭素-フッ素結合を持つ有機フッ素化合物を好適に使用できる。有機フッ素化合物の例として、3M社のフロリナート(商標)や、ソルベイ社のガルデン(商標)などが挙げられる。ただしこれらの液体には限定されない。
【0027】
制御部110は、成膜装置100の制御、例えば基板5やマスク6の搬出入およびアライメント、成膜の開始や終了のタイミング制御、温度制御を行う。本実施形態の制御部110は、流路のポンプや弁を制御することにより、冷却液の流量、流速、経路などを制御してもよい。なお、複数の制御手段を組み合わせて制御部110を構成してもよい。複数の制御手段とは、蒸発源の加熱制御手段、アライメント制御手段、搬出入制御手段などである。制御部110は、不図示の制御線により他のブロックと接続され、情報通信が可能となっている。
【0028】
制御部110は、例えば、プロセッサ、メモリ、入出力手段(I/O)、UIなどを有するコンピュータにより構成される。この場合、制御部110の機能は、メモリに保存されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部110の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。
本実施形態の成膜装置100が、成膜システムに含まれる複数の成膜装置の一つである場合、成膜装置ごとに制御部を設けてもよいし、単一の制御部が成膜システム全体を制御してもよい。
【0029】
<ロータリージョイントの構成>
図2に示すように、ロータリージョイント11は概略、筐体30、筐体30によって外周を支持された回転体20(回転部)、成膜室内部において基板5を支持する基板ホルダ3を有する。回転体20は、成膜室1の上壁に設けられた貫通孔に挿通されており、その下端部は成膜室内部の基板ホルダ3に接続されている。回転体20は、筐体30に対して軸回りに回転可能である。成膜中に回転体20が回転することにより、共に基板ホルダ3も回転し、基板5への均一な成膜が可能になる。
【0030】
一方、筐体30(固定部)は成膜室1に対して位置関係が固定されているため、回転体20とその周囲の筐体30の間にベアリング40を設けることで、回転体20がスムーズに回転するようにしている。通常、ベアリング40には潤滑性向上や摩擦防止のために、潤滑剤(グリース)が用いられている。詳しくは後述するが、グリースの材質としては、冷却液80との反応性が低いものが好ましい。これは、摺動部で漏出した冷却液80は、増ちょう剤と分離したグリースの基油(ベースオイル)と混ざってドレイン液81となるが、このドレイン液81からグリースに由来する成分を容易に除去可能とするためである。すなわち、グリースの基油は、冷却液80と接触反応を起こさず、溶け合わない、不溶性のものを用いる。例えば冷却液80が有機フッ素化合物である場合、グリースを選定する際に、基油がフッ素系のものを避けて、鉱油系のもの等を用いるとよい。また、比重差に基づいて冷却液と基油を分離する場合、両者の比重が異なるようにする。
【0031】
筐体30には、冷却液80の供給口31と、環状供給流路32が設けられている。供給
口31は外部から冷却液80を導入するポートである。環状供給流路32は、筐体30の内周面に回転体20と対向するように設けられた環状の流路である。環状供給流路32は、回転体内部の供給流路22に接続されている。なお、環状供給流路32を回転体20の側に設けても構わない。かかる構成により、回転体20が回転しながらでも、供給口31から導入された冷却液80が、環状供給流路32と供給流路22を介して基板ホルダ内の流路4に到達することができる。
【0032】
筐体30にはまた、冷却液80の排出口33と、環状排出流路34が設けられている。排出口33は外部に冷却液80を排出するポートである。環状排出流路34は、筐体30の内周面に回転体20と対向するように設けられた環状の流路である。環状排出流路34は、回転体内部の排出流路23に接続されている。なお、環状排出流路34を回転体20の側に設けても構わない。かかる構成により、回転体20が回転しながらでも、基板ホルダ内の流路4から流れてきた冷却液80が、排出流路23と環状排出流路34を介して排出口33に到達することができる。環状供給流路32、供給流路22、基板ホルダ内の流路4、排出流路23、および環状排出流路34は、まとめて、液体を供給口から排出口まで導く液体流路であると言える。
【0033】
環状供給流路32および環状排出流路34が位置するのは、それぞれ別の部材である筐体30と回転体20の摺動面であるため、冷却液80が摺動面に漏れ出す場合がある。筐体30と回転体20の接する面には、磁気シールやOリングなどのシール部材39が設けられているが、冷却液80の漏出を完全に防止することは難しい。
そこで、ロータリージョイント11の高さ方向における適当な位置に、ドレイン口35,37と、環状ドレイン流路36,38が設けられている。ここでは2つのドレイン口を設けたが、数はこれには限定されない。これにより、摺動面から漏出したドレイン液81が、ドレイン口35,37から外部に排出される。
【0034】
なお
図1では、簡潔化のために、一方のドレイン口37のみを示した。しかし、ドレイン口35からのドレイン液81をドレイン液容器70まで輸送する別の経路があると考えても良い。あるいは、ドレイン口35からのドレイン液81が、ドレイン口37からのドレイン経路に合流すると考えても良い。
【0035】
<本実施形態での冷却液とドレイン液の経路>
図1を参照して、本実施形態に特徴的な冷却液とドレイン液の移動について説明する。成膜装置100の動作が開始されると、制御部110は、成膜室1に基板5とマスク6を搬入してアライメントを行い、ヒータに蒸発源2を加熱させる。そして、ポンプ50を駆動して冷却液80を循環させる。
【0036】
ポンプ50から循環経路51(51a)に送出された冷却液80(80a)は、供給口31に導入される。上述したように、ロータリージョイント11内部において、冷却液80は基板5の冷却に用いられる。そして、排出口33から循環経路51(51b)に冷却液80(80b)が送出される。なお、循環経路上に、冷却液80の温度を維持するための温調機構や恒温槽を設けてもよい。このように、通常、冷却液80は循環経路上で循環しながら移動している。
【0037】
一方、筐体30と回転体20の摺動面などから漏出した冷却液80は、ドレイン口37から排出され、ドレイン経路71(71a)に流入してドレイン液81となる。ドレイン液81には、冷却液80の成分と不純物成分が含まれている。不純物の成分として例えば、ベアリング40などに用いられるグリースから分離した基油が挙げられる。ドレイン液81は、ドレイン液容器70に収容される。
ドレイン液81の収容をスムーズに行うために、ドレイン液容器70への流入口を、ド
レイン口37よりも垂直方向において低い位置に設けて重力による流入を可能にしてもよい。あるいは、ドレイン経路71(71a)にポンプ等の輸送機構を設けてもよい。なお、
図1には示していないものの、ドレイン口35から排出されたドレイン液もドレイン液容器70に流入している。
【0038】
<ドレイン液からの不純物の除去と冷却液の再利用>
本実施形態では、ドレイン液容器70は、ドレイン液81から不純物を除去する除去機構としても機能する。不純物82は、例えば、ロータリージョイント11のベアリング40に用いられるグリースの基油である。本実施形態のドレイン液容器70は、ドレイン液81に含まれる冷却液80と不純物82の比重差を利用して、両者を垂直方向で上下に分離する。
なお、ドレイン液81から不純物82を取り除けるのであれば、その方法は問わない。例えば遠心分離により短時間で不純物82を除去してもよい。また、フィルタ等を用いた濾過分離を行っても良い。また、ドレイン液81中に、不純物82とは反応するが冷却液80とは反応しない成分を混合し、反応生成物を比重差やフィルタを利用して取り除いてもよい。
【0039】
そしてドレイン液容器70は、容器の下方に分離された冷却液80(80c)を、再利用送出口72からドレイン経路71(71b)に送出する。このときも、液体が重力により送出されるように再利用送出口72とドレイン経路71(71b)の位置関係を決定すると良い。あるいは、液体送出用のポンプを設けてもよい。また、再利用送出口72からの液体送出状態を制御するためのシャッタや流量制御弁を設けてもよい。制御部110が、ドレイン液容器70の内部状態や循環経路51における液流の状態に基づいて、シャッタの開閉や流量制御弁の開度を制御することも好ましい。
【0040】
送出された冷却液80(80c)は、ドレイン経路71(71b)から三方弁75を介して循環経路51(51a)に合流する。制御部110が三方弁75の開閉や開度を制御して、循環する冷却液(80a,80b)と再利用される冷却液80cの比率を変更したり、ロータリージョイント11に流入する液量を調整したりすることも好ましい。
【0041】
以上述べたように、
図1の構成を持つ成膜装置100によれば、ロータリージョイント11から漏出したドレイン液81を回収し、ドレイン液81から不純物を除去して冷却液80(80c)を生成できる。そのため、漏出した冷却液80を有効な再利用が可能になるため、成膜装置100の運用コストを低減できる。
【0042】
[実施形態2]
図3を参照しながら、実施形態2について説明する。本実施形態では、循環する冷却液80とドレイン液81の合流に関する構成が実施形態1と異なる。付加的に、成膜装置100の各ブロックの配置や、冷却液80の温度維持のための構成のバリエーションについても説明する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同じ符号を付し、説明を簡略化する。
【0043】
図3の構成では、成膜室1とチラー90が別のフロアに設置されている。成膜装置100は実施形態1と同様の構成と機能を有する。成膜装置100は装置フロアに設置されており、装置フロア床部121に固定されている。なお、本実施形態でも簡略化のためにドレイン口35を省略している。ドレイン口35からのドレイン経路は、ドレイン口37からのドレイン経路に合流しても良いし、ドレイン液容器70に接続してもよい。
【0044】
チラー90は、冷却液80の温度を管理しながら循環させるための機構であり、ポンプ50とドレイン液容器70を含んでいる。本実施形態のドレイン液容器70は、温度セン
サおよび熱交換機構を含む、温度調節機構を備えている。温度調節機構が温度センサの検出値に基づいて熱交換機構を制御することで、冷却液80の温度が一定に維持される。本実施形態では、チラー90は、装置フロアより下の設備フロアに設置されており、設備フロア床部122に固定されている。この構成により、冷却液80(80b)やドレイン液81がスムーズに下方のチラー90に移動できる。
なお、ドレイン液容器70とは別に恒温槽を設けてもよい。また、本実施形態では基板5の温度の過剰上昇を抑制する目的で冷却液80を用いているため「チラー(chiller)」と称呼しているが、温度調節機構の目的は冷却に限られない。
【0045】
<本実施形態での冷却液とドレイン液の経路>
本実施形態での各液体の移動について、実施形態1との相違点を中心に説明する。
成膜装置100の動作が開始されると、制御部110はチラー90のポンプ50を駆動して冷却液80の循環を開始させる。冷却液80(80a)は、循環経路51(51a)を介して供給口31に導入される。続いて冷却液80は、基板5を冷却した後、排出口33から循環経路51(51b)に流出する。そして、ドレイン液容器70に収容される。
【0046】
一方、漏出した冷却液80と不純物82が混ざったドレイン液81は、ドレイン経路71(71a)を経由してドレイン液容器70に収容される。
図3ではドレイン液81を容器内の液面の上方から流入させており、これにより不純物82を上澄みとして分離しやすくしている。一方、冷却液80(80b)の導入口は、容器の下方に設けている。これにより、上澄みの不純物82との混合を避けている。
【0047】
<不純物の除去>
本実施形態では、チラー90内部の容器において、循環する冷却液80(80b)とドレイン液81が合流する。容器内で冷却液80と不純物82が比重に基づいて分離され、循環経路51(51c)に流入して、再利用される冷却液80(80c)となる。これ以降は循環経路51に復帰する。
【0048】
本実施形態にかかる成膜装置100によれば、ロータリージョイント11から漏出したドレイン液中の冷却液80を再利用し、コストを低減するという、実施形態1と同様のメリットを享受できる。さらに、成膜装置100に設けられているチラー90の構成を利用して不純物除去を実施できる。
【0049】
[実施形態3]
図4を参照しながら、実施形態3について説明する。上記実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、説明を簡略化する。本実施形態では、ドレイン液81からの不純物の除去工程に特徴がある。
【0050】
図4の構成では、成膜室1とドレイン液容器70が同じ装置フロアに設置され、ドレイン液容器70からの再利用のための冷却液80cと、循環する冷却液80bが、途中で合流しつつ下方の設備フロアに配置されたチラー90に導入される。ただし、各ブロックの配置はこれに限定されない。チラー90は実施形態2と同様に温度調節機構と輸液機構を備える装置である。
【0051】
図4においては、ドレイン液容器70にはドレイン液81のみが供給される。ドレイン液容器70は、レベルセンサ95と、第2のポンプ97を有する。レベルセンサ95は、容器中のドレイン液81の液面の高さを示す液面情報を検知して制御部110に送信する。レベルセンサ95は液面情報を取得できれば良く、静電容量式、光センサ式、フロート式など方式を問わない。
レベルセンサ95として、より好ましくは、分離された冷却液80と不純物の境界面の
高さ情報を取得できるものを用いる。
【0052】
第2のポンプ97は、不純物82と分離された冷却液80(80c)を容器の下方から汲み出し、ドレイン経路71(71c)に送出する。本実施形態では冷却液80の方が不純物82よりも比重が大きいことを前提としているため、汲み出し位置を容器の下方としている。しかし、冷却液80(80c)を分離状態を維持したまま汲み出せるのであれば、汲み出し位置やポンプの方式を問わない。ドレイン経路71(71c)は、循環経路51(51b)と合流する。本実施形態ではさらに、合流位置に、ドレイン液容器70側からチラー90側への液体の流入と、ロータリージョイント11側からチラー90側への液体の流入を可能にし、逆方向の流れを規制する、逆止弁77を設けている。
【0053】
<本実施形態での冷却液とドレイン液の経路>
本実施形態での各液体の移動について、上記各実施形態との相違点を中心に説明する。
制御部110は、チラー90内のポンプを駆動して冷却液80を循環させる。冷却液80(80a)は、循環経路51(51a)を介して供給口31に導入される。続いて冷却液80は、基板5を冷却した後、排出口33から循環経路51(51b)に流出し、チラー90に到達する。
【0054】
一方、漏出した冷却液80と不純物82が混ざったドレイン液81は、ドレイン経路71(71a)を経由してドレイン液容器70に収容される。
【0055】
<不純物の除去>
ドレイン液容器70内では、比重差を利用して冷却液80と不純物82が分離され、冷却液80は容器の下方に滞留する。第2のポンプ97は、冷却液80を汲み上げてドレイン経路71(71c)に送出する。再利用のために送出された冷却液80(80c)は、逆止弁77を介して循環経路中の冷却液80(80b)に合流する。
【0056】
ここで、制御部110は、レベルセンサ95が検知した液面情報に基づいて、第2のポンプ97による液体送出を制御する。具体的には、冷却液80の送出が続くと第2のポンプ97の吸込口付近に不純物82の層が接近し、汲み上げられてしまうおそれがあるため、液面が所定の高さを下回った場合は汲み上げを停止するか、流量を少なくする。
【0057】
ここで、分離された冷却液80と不純物82の境界面の高さをLBとする。また、不純物82の液面、すなわちドレイン液81全体の液面の高さをLAとする。
また、容器の底面の高さをh0とする。また、第2のポンプ97の吸込口の高さをh1とする。また、吸込口高さh1から所定の距離だけ高い閾値高さをh2とする。閾値高さh2は、ドレイン液81の流入等の影響で対流や波が発生し、境界面LBが変動した場合でも、第2のポンプ97の吸込口に不純物82が流入しない程度の距離とする。
【0058】
制御部110による液面制御をより精度良く行うためには、レベルセンサ95として、分離された冷却液80と不純物82の境界面LBの高さを検知可能なものを用いることが好ましい。その場合、制御部は、境界面LBの高さが閾値高さより高い場合に第2のポンプ97を駆動し、閾値高さ以下となった場合に、第2のポンプ97の駆動を停止する。これにより、再利用のための冷却液80(80c)への不純物82の混入を防止できる。
【0059】
一方、レベルセンサ95が、ドレイン液全体の液面高さLAのみを測定可能な場合もある。その場合、制御部110は液面高さLAから境界面高さLBを推測し、閾値高さh2と比較してポンプ駆動を制御する。推測方法としては、例えば、予め、通常の使用状態において漏出するドレイン液81の時間あたりの液量と、ドレイン液81中のグリース由来の基油の割合と、成膜装置100の処理が開始してからの時間に基づいて、不純物82の
層の厚さを求める方法がある。
以上の記載は一例であり、レベルセンサ95の検出値に基づいてポンプ駆動を制御できるのであれば、方法は問わない。
【0060】
本実施形態にかかる成膜装置100によれば、ロータリージョイント11から漏出したドレイン液中の冷却液80を再利用し、コストを低減するという、実施形態1、2と同様のメリットを享受できる。さらに、従来のドレイン液回収タンクにレベルセンサ95と第2のポンプ97を付加するという比較的簡易な構成で、循環経路51に不純物82を混入させることなく、冷却液80を再利用できる。
【0061】
[実施形態4]
本実施形態では、有機ELディスプレイ等を製造するための電子デバイス製造装置に、上記各実施形態の成膜装置を適用する方法について説明する。
図6は、電子デバイスの製造装置500の一部を模式的に示す平面図である。電子デバイスの製造装置500は、電子デバイス製造において、基板の前処理から成膜・封止までの工程を自動で行う。なお、図示したような、搬送室の周囲に複数の処理室を配置したクラスタ型の構成に代えて、複数の処理室を工程順に配置したインライン型の構成を採用してもよい。
【0062】
搬送室510の周囲には、前処理室511、有機処理室512、金属処理室513、測定室514が放射状に配置されている。なお、
図6は簡略化した図であり、処理室の種類や数はこれに限られない。例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層などの処理室を設けてもよいし、R(赤),G(緑),B(青)などの色ごとに発光層の処理室を設けてもよい。搬送室510には、基板5を保持し搬送する搬送ロボット519が設けられている。搬送ロボット519は、例えば、多関節アームに、基板を保持するロボットハンドが取り付けられた構造をもつロボットであり、各処理室および測定室への基板の搬入と搬出を行う。
【0063】
電子デバイスの製造プロセスは概略次のとおりである。まず、基板5が前処理室511に搬入され、洗浄等の前処理が行われる。その後基板は、成膜材料の種類に応じて、搬送ロボット519により有機処理室512や金属処理室513に搬送される。各処理室では、蒸発源からの蒸着やスパッタリングにより、蒸着材料が基板に付着して膜が形成される。次いで、基板5が測定室514に搬入される。測定室内では、膜厚や成膜の均一性などが測定される。
【0064】
成膜を行う各処理室にはそれぞれ成膜装置が設けられている。搬送ロボットとの基板の受け渡し、基板とマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板の固定、成膜(蒸着)などの一連のプロセスは、成膜装置によって自動で行われる。また、測定室における測定の工程も自動化が可能である。さらに測定後の処理として、乾燥剤や接着剤を塗布した封止ガラスによる封止処理が行われてもよい。完成したパネルは製造装置から自動搬出され、次の工程(例えばディスプレイパネルのアセンブル工程)へと供給される。ただし、上記の構成は一例であり、本発明の成膜装置やそれを含んだ電子デバイス製造装置の構成を限定するものではない。
【0065】
以上の電子デバイス製造装置や、それを用いた電子デバイス製造方法によれば、成膜装置において基板の温度調節が良好に行われているので、良好に成膜がなされる。その結果、品質の良い電子デバイスを製造可能となる。
【0066】
[実施形態5]
<有機電子デバイスの製造方法>
本実施形態では、蒸発源装置を備える成膜装置を用いた有機電子デバイスの製造方法の
一例を説明する。以下、有機電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図7(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図7(b)は一つの画素の断面構造を表している。
【0067】
図7(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0068】
図7(b)は、
図7(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板5上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。
【0069】
発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,62G,62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層Pが設けられている。
【0070】
次に、電子デバイスとしての有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板5を準備する。
【0071】
次に、第1電極64が形成された基板5の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0072】
次に、絶縁層69がパターニングされた基板5を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。ここで、本ステップでの成膜や、以下の各レイヤーの成膜において用いられる成膜装置は、上記各実施形態のいずれかに記載された成膜装置である。
【0073】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板5を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板5の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0074】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層65は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0075】
電子輸送層65までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極68を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層Pを成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0076】
絶縁層69がパターニングされた基板5を成膜装置に搬入してから保護層Pの成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0077】
本実施形態に係る成膜方法または電子デバイスの製造方法によれば、成膜時の温度調節が適切に行われるので、良好な成膜が可能となる。
【符号の説明】
【0078】
100:成膜装置、1:成膜室、3:基板ホルダ、5:基板、11:ロータリージョイント、20:回転体、30:筐体、31:供給口,32:供給流路、33:排出口,34:排出流路、35,37:ドレイン口、80:冷却液、81:ドレイン液