(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-01
(45)【発行日】2023-06-09
(54)【発明の名称】水性樹脂組成物、皮膜、及び、透湿性防水布帛
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20230602BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230602BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20230602BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20230602BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20230602BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C08L75/04
B32B27/40
C08F220/18
C08K5/29
C08L33/08
C08L33/14
(21)【出願番号】P 2020545206
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048231
(87)【国際公開番号】W WO2020153023
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2020-08-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019007721
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】曾 雅怡
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】井上 政志
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L75/00-75/16
C08L33/00-33/26
C08K3/00-13/08
D06N3/00-3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ウレタン樹脂(X)(末端不飽和基を有するものを除く。)25~40質量%、
ポリオキシエチレン基を有し、酸価が10~50mgKOH/gの範囲であり、
ポリオキシエチレン基の含有量が0.3~1.5mol/kgの範囲であり、かつ、水酸基価が10~80mgKOH/gの範囲であるアクリル樹脂(Y)、架橋剤(Z)、及び、水(V)50~80質量%を含有する水性樹脂組成物であり、
前記架橋剤(Z)が、ポリイソシアネート架橋剤(z1)とカルボジイミド架橋剤(z2)とを併用するものであり、
更に前記架橋剤(Z)の使用量が、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)及び前記アクリル樹脂(Y)の合計100質量部に対して、0.01~50質量部である水性樹脂組成物を原料とする皮膜を有することを特徴とする透湿性防水布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物、皮膜、及び、透湿性防水布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、その機械的強度や風合いの良さから、透湿性衣料の製造に広く利用されている。この用途においては、これまでN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を含有する溶剤系のウレタン樹脂が主流であった。しかしながら、欧州でのDMF規制、中国や台湾でのVOC排出規制の強化、大手アパレルメーカーでのDMF規制などを背景に、透湿性衣料を構成するウレタン樹脂の脱DMF化が求められている。
【0003】
このような時代の推移に対応するため、ウレタン樹脂が水に分散等したウレタン樹脂組成物が広く検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、前記透湿性衣料のうち、機能性シューズや透湿防水衣料においては、優れた透湿性が必須であるが、透湿性に優れる水系のウレタン材料は未だ見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、水を含有する樹脂組成物において、優れた透湿性、及び、耐水溶出性を有する樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アニオン性ウレタン樹脂(X)、オキシエチレン基を有し、酸価が10~50mgKOH/gの範囲であり、かつ、水酸基価が10~80mgKOH/gの範囲であるアクリル樹脂(Y)、架橋剤(Z)、及び、水(V)を含有することを特徴とする水性樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、前記水性樹脂組成物の乾燥皮膜、及び、それを有する透湿性防水布帛を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性樹脂組成物は、水を含有する環境対応型の材料であり、高い透湿性を有し、水への耐溶出性に優れる皮膜を形成することができる。よって、本発明の水性樹脂組成物は、透湿性防水布帛に用いられる材料として特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性樹脂組成物は、アニオン性ウレタン樹脂(X)、特定のアクリル樹脂(Y)、架橋剤(Z)、及び、水(V)を含有するものである。
【0010】
前記水性樹脂組成物は、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)が有するアニオン性基と、前記アクリル樹脂(Y)が有する特定量のカルボキシル基及び水酸基と、架橋剤(Z)とが架橋することによって、優れた耐水溶出性を発現することができる。また、前記アクリル樹脂(Y)がオキシエチレン基を有することにより、高い透湿性を発現することができる。
【0011】
なお、本発明の水性樹脂組成物における「水性」とは、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)や前記アクリル樹脂(Y)が水(V)に分散等したものであり、樹脂組成物が水(V)中で安定に存在するものを示す。
【0012】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)は、アニオン性基を有するウレタン樹脂であり、例えば、アニオン性基を有する化合物(x1)、ポリオール(x2)、及び、ポリイソシアネート(x3)の反応物を用いることができる。
【0013】
前記アニオン性基を有する化合物(x1)としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-吉草酸等のカルボキシル基を有する化合物;3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2,6-ジアミノベンゼンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルスルホン酸、N-2-アミノエタン-2-アミノスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-β-アラニン、これらの塩等のスルホニル基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記アニオン性基を有する化合物(x1)の使用率としては、アニオン性ウレタン樹脂(X)を構成する原料中、0.1~20質量%の範囲であることが好ましく、0.5~10質量%の範囲がより好ましい。
【0015】
前記ポリオール(x2)は、前記化合物(x1)以外の水酸基を2個以上有するものであり、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記ポリオール(x2)の数平均分子量としては、例えば、500~100,000の範囲が挙げられる。前記ポリオール(x2)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す
【0017】
前記ポリオール(x2)には、必要に応じて、数平均分子量が500未満(好ましくは、50~450の範囲)の鎖伸長剤を併用してもよい。なお、前記鎖伸長剤の数平均分子量は、化学式から算出される化学式量を示す。
【0018】
前記鎖伸長剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤;エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記ポリイソシアネート(x3)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の製造方法としては、例えば、アニオン性基を有する化合物(x1)、ポリオール(x2)、ポリイソシアネート(x3)、及び、必要に応じて鎖伸長剤を一括に仕込み反応させる方法;アニオン性基を有する化合物(x1)、ポリオール(x2)、及び、ポリイソシアネート(x3)を反応させてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得、次いで、該ウレタンプレポリマーと前記鎖伸長剤を反応させる方法等が挙げられる。
【0021】
前記ポリオール(x2)と前記アニオン性基を有する化合物(x1)と鎖伸長剤が有する水酸基及びアミノ基と、前記ポリイソシアネート(x3)が有するイソシアネート基とのモル比[NCO/(OH+NH)]としては、1.1~3の範囲であることが好ましく、1.2~2の範囲がより好ましい。
【0022】
上記反応は、いずれも、例えば、50~100℃で30分~10時間行うことが挙げられる。
【0023】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)を製造する際には、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)に残存するイソシアネート基を失活させてもよい。前記イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。前記アルコールの使用量としては、アニオン性ウレタン樹脂(X)100質量部に対し、0.001~10質量部の範囲が挙げられる。
【0024】
また、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物などを用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記有機溶剤は、最終的には蒸留法等によって除去されることが好ましい。
【0025】
前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価としては、前記架橋剤(Z)との架橋性を向上し、より一層優れた耐水溶出性が得られる点から、5~35mgKOH/gの範囲であることが好ましく、10~20mgKOH/gの範囲がより好ましい。なお、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0026】
前記水性樹脂組成物中における前記アニオン性ウレタン樹脂(X)(=固形分)の含有率としては、25~40質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
前記アクリル樹脂(Y)は、オキシエチレン基を有し、酸価が10~50mgKOH/gの範囲であり、かつ、水酸基が20~80mgKOH/gの範囲であるものである。
【0028】
前記アクリル樹脂(Y)としては、具体的には、オキシエチレン基を有する(メタ)アクリルモノマー(y1)、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー(y2)、及び、カルボキシル基を有する(メタ)アクリルモノマー(y3)を原料とする(メタ)アクリルモノマー組成物の重合物を用いることが好ましい。なお、本発明において、前記(メタ)アクリルモノマーとは、アクリルモノマー、及び/又は、メタクリルモノマーを示す。
【0029】
前記オキシエチレン基を有する(メタ)アクリルモノマー(y1)としては、例えば、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を用いることができる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー(y2)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等を用いることができる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記カルボキシル基を有する(メタ)アクリルモノマー(y3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、プロピル(メタ)アクリル酸、イソプロピル(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸等を用いることができる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記(メタ)アクリルモノマー(y1)~(y3)の使用比率(質量比)としては、前記アクリル樹脂(Y)の酸価、及び、水酸基を本願で規定する範囲に調整しやすい点、及び、より一層優れた耐水溶出性が得られる点から、(y1)/(y2)/(y3)=(20~60)/(5~18.5)/(1.5~6)の範囲であることが好ましく、(25~40)/(6~10)/(1.8~4)の範囲がより好ましい。
【0033】
前記(メタ)アクリルモノマー組成物としては、前記(メタ)アクリルモノマー(y1)~(y2)以外のものを併用することもでき、例えば、アミド基を有する(メタ)アクリルモノマー(y4)、スルホン酸基を有する(メタ)アクリルモノマー、4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリルモノマー、アミノ基を有する(メタ)アクリルモノマー、シアノ基を有する(メタ)アクリルモノマー、イミド基を有する(メタ)アクリルモノマー、メトキシ基を有する(メタ)アクリルモノマー、芳香環を有する(メタ)アクリルモノマー、;これら以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(y5);スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニル化合物などを用いることができる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた皮膜強度、水分散安定性、及び、耐水溶出性が得られる点から、アミド基を有する(メタ)アクリルモノマー(y4)、及び/又は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(y5)を用いることが好ましい。
【0034】
前記アミド基を有する(メタ)アクリルモノマー(y4)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等を用いることができる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記アミド基を有する(メタ)アクリルモノマー(y4)を用いる場合の使用率としては、(メタ)アクリルモノマー組成物中20~60質量%の範囲であることが好ましく、25~40質量%の範囲がより好ましい。
【0036】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(y5)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、3-メチルブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート;イソボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレートなどを用いることができる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(y5)を用いる場合の使用率としては、(メタ)アクリルモノマー組成物中5~18.5質量%の範囲であることが好ましく、6~10質量%がより好ましい。
【0038】
前記アクリル樹脂(Y)の製造方法としては、公知のラジカル重合を使用することができ、例えば、前記(メタ)アクリルモノマー組成物、重合開始剤、及び必要に応じて有機溶剤を添加し、例えば40~90℃の範囲の温度下で混合撹拌、又は静置し、例えば1~20時間でラジカル重合を進行させる方法が挙げられる。前記製造時に有機溶剤を用いた場合には、最終的には留去されることが好ましい。
【0039】
前記重合開始剤としては、例えば、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス-(2-アミノジプロパン)2塩酸塩、2,2’-アゾビス-(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)2塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル吉草酸ニトリル)等のアゾ化合物などを用いることができる。これらの重合開始剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記重合開始剤の使用量としては、例えば、(メタ)アクリルモノマー100質量部に対して、0.001~5質量部の範囲である。
【0040】
前記アクリル樹脂(Y)のオキシエチレン基の含有量としては、高いレベルでの透湿性を維持し、より一層優れた水分散安定性、及び、耐水溶出性が得られる点から、0.3~1.5mol/kgの範囲であることが好ましく、1.0~1.2mol/kgの範囲がより好ましい。
【0041】
前記アクリル樹脂(Y)の酸価としては、より一層優れた耐水溶出性が得られる点から、10~30mgKOH/gの範囲であることが好ましい。なお、前記アクリル樹脂(Y)の酸価の測定方法は、実施例にて記載する。
【0042】
前記アクリル樹脂(Y)の水酸基価としては、より一層優れた耐水溶出性が得られる点から、10~40mgKOH/gの範囲であることが好ましい。なお、前記アクリル樹脂(Y)の水酸基価の測定方法は、実施例にて記載する。
【0043】
前記水性樹脂組成物中における前記アクリル樹脂(Y)(=固形分)の含有率としては、30~60質量%の範囲であることが好ましい。
【0044】
前記架橋剤(Z)としては、例えば、ポリイソシアネート架橋剤(z1)、カルボジイミド架橋剤(z2)、エポキシ架橋剤、メラミン架橋剤等を用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)、及び、アクリル樹脂(Y)との架橋性が向上する点から、ポリイソシアネート架橋剤(z1)、及び/又は、カルボジイミド架橋剤(z2)を用いることが好ましく、より一層優れた耐水溶出性が得られる点から、ポリイソシアネート架橋剤(z1)とカルボジイミド架橋剤(z2)とを併用することがより好ましい。
【0045】
前記ポリイソシアネート架橋剤(z1)とカルボジイミド架橋剤(z2)とを併用する場合における、それらのモル比[(z1)/(z2)]としては、40/60~80/20の範囲であることが好ましく、50/50~70/30の範囲がより好ましい。
【0046】
前記ポリイソシアネート架橋剤(z1)としては、例えば、トリレンジイソシアネート、クロロフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネート;これらのトリメチロールプロパン付加物;これらのイソシアヌレート体;これらのビュレット体;水分散性を有するポリイソシアネート架橋剤などを用いることができる。これらの中でも、より一層優れた水分散安定性、及び、耐水溶出性が得られる点から、水分散性を有するポリイソシアネート架橋剤を用いることが好ましい。
【0047】
前記水分散性を有するポリイソシアネート架橋剤としては、例えば、前記ポリイソシアネートと界面活性剤とを混合し、乳化させたものを用いることができる。前記界面活性剤としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等のアニオン性基を有する界面活性剤;第三級アミノ基等のカチオン性基を有する界面活性剤;ポリオキシアルキレン基等のノニオン性基を有する界面活性剤などを用いることができる。これらの中でも、より一層優れた水分散安定性、及び、耐水溶出性が得られる点から、アニオン性基を有する界面活性剤を用いることが好ましい。
【0048】
前記水分散性を有するポリイソシアネート架橋剤としては、例えば、「アクアネート100」、「アクアネート110」、「アクアネート200」、「アクアネート210」(以上、東ソー株式会社製)、「バイヒジュールTPLS-2032」、「SBU-イソシアネートL801」、「バイヒジュールVPLS-2319」、「バイヒジュール3100」、「VPLS-2336」、「VPLS-2150/1」、「バイヒジュール305」、「バイヒジュールXP-2655」(以上、住化バイエルウレタン株式会社製)、「タケネートWD-720」、「タケネートWD-725」、「タケネートWD-220」(以上、三井化学株式会社製)、「レザミンD-56」(大日精化工業株式会社製)等を市販品として入手することができる。
【0049】
前記カルボジイミド架橋剤(z2)としては、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミドメチオジド、N-tert-ブチル-N’-エチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメソ-p-トルエンスルホネート、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トリルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物;カルボジイミド化触媒の存在下でポリイソシアネートの公知の縮合反応により得られるカルボジイミド化合物;ポリイソシアネート及びポリアルキレンオキサイドを原料とするカルボジイミド化合物などを用いることができる。これらのカルボジイミド化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記好ましいカルボジイミド架橋剤(z2)としては、例えば、日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトSV-02」、「カルボジライトV-10」、「カルボジライトSW-12G」、「カルボジライトE-02」、「カルボジライトE-03A」、「カルボジライトE-05」等を市販品として入手することができる。
【0051】
前記架橋剤(z)の使用量としては、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)及びアクリル樹脂(Y)の合計100質量部に対して、0.01~50質量部の範囲であることが好ましく、 1~10質量部の範囲がより好ましい。
【0052】
前記水(v)としては、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。前記水(v)の含有率としては、水性樹脂組成物中50~80質量%の範囲が好ましい。
【0053】
本発明の水性樹脂組成物は、前記アニオン性ウレタン樹脂(X)、前記アクリル樹脂(Y)、前記架橋剤(Z)、及び、前記水(V)を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
【0054】
前記その他の添加剤としては、例えば、中和剤、架橋剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、顔料、染料、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記水性樹脂組成物により皮膜を形成する方法としては、例えば、前記水性樹脂組成物を基材上に塗布し、例えば40~150℃の範囲の温度で、例えば1~30分間乾燥させる方法が挙げられる。
【0056】
前記基材としては、例えば、プラスチック基材;不織布、織布、編み物等の繊維基材を使用することができる。これらの中でも、良好な柔軟性が得られる点から、繊維基材を用いることが好ましい。前記繊維基材を構成するものとしては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、絹、羊毛、それらの混紡繊維等を使用することができる。前記基材の表面には、必要に応じて制電加工、離型処理加工、撥水加工、吸水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮断加工等の処理が施されていてもよい。
【0057】
前記皮膜の厚さとしては、例えば、5~100μmの範囲が挙げられる。
【0058】
以上、本発明の水性樹脂組成物は、水を含有する環境対応型の材料であり、高い透湿性を有し、水への耐溶出性に優れる皮膜を形成することができる、よって、本発明の水性樹脂組成物は、透湿性防水布帛に用いられる材料として特に好適に使用することができる。
【0059】
前記透湿性防水布帛の製造方法としては、例えば、前記皮膜を公知の接着剤を用いて、繊維基材に接着させる方法;繊維基材上に前記水性樹脂組成物を直接塗布して乾燥させる方法等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0061】
[合成例1]アクリル樹脂(Y-1)組成物の合成
攪拌機、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応装置に、N,N-ジメチルアクリルアミド(以下、「DMAA」と略記する。)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製「AM-90G」、オキシエチレン基の平均付加モル数が9モル、以下「AM-90G」と略記する。)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」と略記する。)、及び、アクリル酸(以下、「AA」と略記する。)を、この順にモル比で30/60/7/3となるように仕込み、アクリルモノマーの合計量に対して、1-プロポキシ-2-プロパノールを50質量%、和光純薬工業株式会社製アゾ系重合開始剤「V-601」を2質量%加え、6時間反応させた。その後、トリエチレルアミンをアクリルモノマーの合計量に対して、3.8質量%加え、アクリル樹脂のカルボキシル基を中和した後、イオン交換水を加え、次いで1-プロポキシ-2-プロパノールを減圧留去することで、アクリル樹脂(Y-1)組成物(固形分;50質量%、酸価;23.36mgKOH/g、水酸基価;30.18mgKOH/g)を得た。
【0062】
[合成例2~7、比較合成例1~3]
アクリルモノマーの種類及びモル比を表1~2に示す通りに変更した以外は、合成例1と同様にして、アクリル樹脂(Y-2)~(Y-7)、(YR-1)~(YR-3)組成物(同固形分)を得た。
【0063】
[実施例1]評価用皮膜の作製
アニオン性ウレタンディスパージョン(DIC株式会社製「ハイドランWLS-250」、固形分;35質量%、ウレタン樹脂の酸価;10mgKOH/g、以下「PUD」と略記する。)100質量部、増粘剤(DIC株式会社製「ハイドラン アシスター T10」)1質量部、合成例1で得られたアクリル樹脂(Y-1)10質量部、ポリイソシアネート架橋剤(住化バイエルウレタン株式会社製「バイヒジュールXP-2655」、スルホン酸基を有する界面活性剤を用いた自己乳化型ポリイソシアネート架橋剤、以下「NCO」と略記する。)8質量部、カルボジイミド架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-02-L2」、以下「NCN」と略記する。)0.6質量部を混合した配合液を、フラット離型紙(リンテック株式会社製「EK-100D」)上に乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布し、70℃で2分間、さらに120℃で2分間乾燥させることで、評価用皮膜を得た。
【0064】
[実施例2~7、比較例1~5]
用いるアクリル樹脂(Y)の種類を表1~2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして評価用皮膜を得た。
【0065】
[数平均分子量の測定方法]
実施例等で用いたポリオール等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0066】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0067】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0068】
[アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価の測定方法]
実施例及び比較例で用いたアニオン性ウレタンディスパージョンを乾燥し、乾燥固化した樹脂粒子の0.05g~0.5gを、300mL三角フラスコに秤量し、次いで、テトラヒドロフランとイオン交換水との質量割合[テトラヒドロフラン/イオン交換水]が80/20の混合溶媒約80mLを加えそれらの混合液を得た。
次いで、前記混合液にフェノールフタレイン指示薬を混合した後、あらかじめ標定された0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で滴定し、滴定に用いた水酸化カリウム水溶液の量から下記計算式(1)に従い、アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価(mgKOH/g)を求めた。
計算式 A=(B×f×5.611)/S (1)
式中、Aは樹脂の固形分酸価(mgKOH/g)、Bは滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウム水溶液の量(mL)、fは0.1mol/L水酸化カリウム水溶液のファクター、Sは樹脂粒子の質量(g)、5.611は水酸化カリウムの式量(56.11/10)である。
【0069】
[アクリル樹脂(Y)の酸価の測定方法]
前記[アニオン性ウレタン樹脂(X)の酸価の測定方法]において、前記アニオン性ウレタンディスパージョンを、アクリル樹脂(Y)組成物に変更した以外は、同様にしてアクリル樹脂(Y)の酸価を測定した。
【0070】
[アクリル樹脂(Y)の水酸基価の測定方法]
アクリル樹脂(Y)の水酸基価は、試料1gに含まれる水酸基をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数である。前記アクリル樹脂(Y)の水酸基価は、JISK1557-1:2007のA法(アセチル化法)に準拠して測定、算出した。
【0071】
[透湿性の評価方法]
得られた評価用皮膜を、JISL1099:2012のA-1法(塩化カルシウム法)に準拠して透湿度(g/m2/24h)を測定し、以下のように評価した。
「A」:透湿度が3,000(g/m2/24h)以上である。
「B」:透湿度が2,000(g/m2/24h)以上3,000(g/m2/24h)未満である。
「C」:透湿度が1,000(g/m2/24h)未満である。
【0072】
[耐水溶出性の評価方法]
評価用サンプルの厚さを30μmにしたものを、5cm×5cmに裁断し、25℃のイオン交換水に24時間浸漬した後、取り出したフィルムの重量変化により以下に評価した。
水溶出率(%)=(浸漬前のフィルムの重さ(g)-浸漬後のフィルムの重さ(g))/(浸漬前のフィルムの重さ(g))×100 (2)
「A」:水溶出率が2以下
「B」:水溶出率が2以上8未満
「C」:水溶出率が8以上
【0073】
【0074】
【0075】
なお、表中の略語は以下のものである。
「HEA」:2-ヒドロキシエチルアクリレート
「MMA」;メチルメタクリレート
「EA」;エチルアクリレート
「BA」;ブチルアクリレート
また、表中の酸価、及び、水酸基の単位は、いずれもmgKOH/gである。
【0076】
本発明の水性樹脂組成物は、透湿性、及び、耐水溶出性に優れる皮膜が得られることが分かった。
【0077】
一方、比較例1は、アクリル樹脂(Y)を用いない態様であるが、透湿性が不良であった。
【0078】
比較例2は、オキシエチレン基を有しないアクリル樹脂を用いた態様であるが、透湿性が不良であった。
【0079】
比較例3は、水酸基価が0であるアクリル樹脂を用いた態様であるが、耐水溶出性が不十分であった。
【0080】
比較例4は、酸価が0であるアクリル樹脂を用いた態様であるが、耐水溶出性が不十分であった。
【0081】
比較例5は、架橋剤(Z)を用いない態様であるが、耐水溶出性が不良であった。