(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】油脂組成物及び糖分解酵素の活性低下抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20230605BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20230605BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20230605BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230605BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20230605BHJP
A21D 13/00 20170101ALN20230605BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D9/007
A23D7/00 500
A23D9/00 502
A21D2/26
A21D13/00
(21)【出願番号】P 2018180226
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野口 修
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】豊口 柚実子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 耕一
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068128(JP,A)
【文献】特開平09-322770(JP,A)
【文献】特開平11-046686(JP,A)
【文献】特開平11-221001(JP,A)
【文献】特開2018-064500(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152099(WO,A1)
【文献】特開2015-156855(JP,A)
【文献】新製品発売のお知らせ 製パン酵素『デナベイク(R)EXTRA』を長瀬産業から10月に発売,プレスリリース,2016年,URL:<https://www.nagase.co.jp/assetfiles/news/20160927.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00- 17/00
A23D 7/00- 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
AGRICOLA/BIOSIS/EMBASE/FSTA/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、及びへミセルラーゼから選ばれる1種又は2種、ならびに、ホエー蛋白濃縮物を
0.1~1.0質量%含有する油脂組成物
であって、該油脂組成物100g中の該エキソマルトテトラオヒドロラーゼの酵素活性が500~10000U、該へミセルラーゼの酵素活性が200~2500Uである、油脂組成物。
(ただし、大豆粉と、乳蛋白質またはその分解物を含有する粉末油脂と、アミラーゼおよびヘミセルラーゼから選ばれる少なくとも1種を含む糖分解酵素とを含有し、該大豆粉に対する該粉末油脂の質量比が0.5以上であるベーカリー製品用改質剤、ならびに、ヘミセルラーゼと、下記条件(1)~(4)を満たす脂質蛋白質複合体とを含有する、ベーカリー用油中水型乳化油脂組成物を除く。(1)脂質蛋白質複合体を構成する蛋白質として乳蛋白質を含有する。(2)上記乳蛋白質中のカゼイン蛋白質の含有量が40~95質量% である。(3)上記乳蛋白質中のカゼイン蛋白質がミセル態カゼイン蛋白質を含有する。(4)脂質蛋白質複合体を構成する脂質としてリン脂質を含有する。)
【請求項2】
前記油脂組成物が、油中水型の乳化油脂組成物である請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、及びへミセルラーゼから選ばれる1種又は2種を含有する油脂組成物にホエー蛋白濃縮物を
0.1~1.0質量%含有することによる、前記油脂組成物の製造時の加熱による該エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、及び該へミセルラーゼから選ばれる1種又は2種の活性低下抑制方法
であって、該油脂組成物100g中の該エキソマルトテトラオヒドロラーゼの酵素活性が500~10000U、該へミセルラーゼの酵素活性が200~2500Uである、活性低下抑制方法。(ただし、前記油脂組成物は、ヘミセルラーゼと、下記条件(1)~(4)を満たす脂質蛋白質複合体とを含有する、ベーカリー用油中水型乳化油脂組成物を除く。(1)脂質蛋白質複合体を構成する蛋白質として乳蛋白質を含有する。(2)上記乳蛋白質中のカゼイン蛋白質の含有量が40~95質量% である。(3)上記乳蛋白質中のカゼイン蛋白質がミセル態カゼイン蛋白質を含有する。(4)脂質蛋白質複合体を構成する脂質としてリン脂質を含有する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖分解酵素、及び乳蛋白を含有する油脂組成物、並びに、糖分解酵素を含有する油脂組成物中に、乳蛋白を添加する糖分解酵素の活性低下抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀粉含有食品の老化防止、品質改良を図る方法の一つとして、穀粉含有生地の製造時にアミラーゼ、プロテアーゼなどの酵素を添加することが広く行われている。前記酵素は、穀粉へ分散しやすいよう澱粉やデキストリンなどを加えて穀粉と同じ形態の粉末や顆粒状に加工された酵素製剤として使用されることが多い。製パン用の酵素製剤を例にとれば、市販されているものの多くは粉末、顆粒状であり、それらを穀粉に混ぜて用いる形態となっている。しかし、粉末や顆粒状の酵素製剤は、穀粉に対する使用量が非常に少ないため、酵素製剤が穀粉生地中に均一に分散せず、偏在するという問題があった。また粉末、顆粒は飛散しやすく、人が吸引したり、他の製品に混入する可能性もあり、必ずしも使い勝手が良好なものではなかった。
【0003】
こうした酵素製剤を生産現場で簡便に使いやすくする工夫の一つとして、穀粉含有生地の原材料の一つであるマーガリン、ショートニングのような油脂組成物に酵素を添加した商品が開発されている。しかし、酵素の種類によっては、熱により失活(酵素活性の低下)を受けやすいものがあり、油脂組成物に酵素を添加してマーガリンやショートニングを製造する工程で、油脂を加熱融解する工程が含まれると、酵素の失活により穀粉含有食品の老化防止等の効果が得られない、穀粉含有食品の品質が安定しない等の問題があった。また、酵素は比較的高価な原料であるため、酵素の失活の割合を考慮して、製造時に酵素を増量すると、穀粉含有食品の品質の不安定さが増すばかりでなく、原料コストが増加する問題もあった。
【0004】
油脂組成物中の酵素活性を保持する方法として、平均粒径0.5~10μmに微粒子化した酵素を、油脂に対して0.05~50重量%分散させた酵素剤組成物(特許文献1)や、澱粉及び澱粉加水分解物を含有しない酵素含有油中水型乳化油脂組成物(特許文献2)が報告されている。しかし、油脂組成物に酵素を添加してマーガリンやショートニングを製造する工程で、加熱による酵素失活を抑制する方法については、検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-322770号公報
【文献】特開2011-62086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、糖分解酵素を含有するマーガリンやショートニングの製造時に、加熱による酵素活性の低下が抑制された油脂組成物を提供することである。また、糖分解酵素を含有する油脂組成物中に、乳蛋白を添加することにより、製造時の加熱による糖分解酵素の活性低下抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酵素を含有する油脂組成物の加熱による酵素の活性低下を抑制するため
に鋭意検討を重ね、油脂組成物中に乳蛋白を含有させることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は下記のものを提供する。
【0008】
(1)糖分解酵素、及び乳蛋白を含有する油脂組成物。
(2)前記乳蛋白が、ホエー蛋白濃縮物である(1)に記載の油脂組成物。
(3)前記糖分解酵素が、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、及びへミセルラーゼから選ばれる1種又は2種である(1)又は(2)に記載の油脂組成物。
(4)前記油脂組成物が、油中水型の乳化油脂組成物である(1)~(3)のいずれか1つに記載の油脂組成物。
(5)糖分解酵素を含有する油脂組成物に乳蛋白を添加することによる、製造時の加熱による糖分解酵素の活性低下抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糖分解酵素を含有するマーガリンやショートニングの製造時に、加熱による酵素活性の低下が抑制された油脂組成物が提供される。また、糖分解酵素を含有する油脂組成物中に、乳蛋白を添加することにより、製造時の加熱による糖分解酵素の活性低下の抑制方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[油脂組成物]
本発明の油脂組成物は、糖分解酵素と乳蛋白とを含有し、ベーカリー食品生地を製造する際に使用されるマーガリン、ショートニングのような形態として供給されるものをいう。ここで、前記ベーカリー食品生地とは、具体的にはパン生地、菓子生地等が挙げられる。本発明の油脂組成物は、好ましくは、製菓用及び/又は製パン用の油脂組成物である。
本発明の油脂組成物は、好ましくは、可塑性油脂組成物である。また、本発明の油脂組成物は、好ましくは、油中水型の乳化油脂組成物である。
【0011】
[油脂]
本発明の油脂組成物は、油脂を含有する。本発明に使用する油脂としては、食用として使用される油脂であれば特に限定されない。例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン酸菜種油、キャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、落花生油、ゴマ油、オリーブ油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油等の各種動植物性油脂が挙げられる。また、上記の各種動植物性油脂から選択された1種又は2種以上の動植物性油脂を必要に応じて加工(水素添加、エステル交換、分別等)をして得られる各種加工油脂を本発明における油脂として使用してもよい。上記の任意の油脂は、単独で使用してもよく、2種以上の油脂を適宜配合して混合油として使用してもよい。
【0012】
[糖分解酵素]
本発明の糖分解酵素は、パン生地、菓子生地等で使用できる酵素であれば特に限定されず、動物、植物や、カビ、細菌のような微生物などを由来する糖分解酵素が使用できる。本発明の糖分解酵素は、具体的には、α-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、へミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。本発明の糖分解酵素は、好ましくは、エキソマルトテトラオヒドロラーゼ、及びへミセルラーゼから選ばれる1種又は2種であり、より好ましくは、エキソマルトテトラオヒドロラーゼである。
【0013】
本発明のヘミセルラーゼとは、へミセルロース(キシラン、アラビノキシラン、アラビナン、マンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルコマンナン等)を基質として加水分解する酵素の総称である。
本発明にヘミセルラーゼを使用する場合、酵素製剤を使用することもできる。ヘミセルラーゼ酵素製剤1g中のヘミセルラーゼの酵素活性(U)は、好ましくは1000~2500U、より好ましくは1300~2200U、さらにより好ましくは1500~2000Uである。市販のヘミセルラーゼ酵素製剤としては、例えば、天野エンザイム社製のヘミセルラーゼ「アマノ」90、ノボザイムズジャパン社製のペントパンを使用することができる。
【0014】
ヘミセルラーゼの酵素活性(U)は、1分間に1μmolのキシロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1Uと定義される。ヘミセルラーゼの酵素活性(U)は、Megazyme社製のXylazyme AX Tabletsを用いて測定することができる。具体的には、MES緩衝液(pH6.0)中で染色キシラン基質と酵素反応させ、反応停止後に、酵素分解によって生じた染色断片を吸光度測定する。また、乳化物中のヘミセルラーゼの酵素活性(U)は、油相を45℃以下の品温で完全に溶解後、遠心分離により得られた水相に対して、上記の方法で測定する。
【0015】
本発明の油脂組成物100g中に含有されるヘミセルラーゼは、酵素活性として15~2500Uであることが好ましく、25~2200Uであることがより好ましく、200~2000Uであることがさらにより好ましく、250~1800Uであることが最も好ましい。ヘミセルラーゼの添加量が上記範囲にあると、ベーカリー食品生地に本発明の油脂組成物を使用した場合、該ベーカリー食品生地に対してヘミセルラーゼが作用した際に、ベーカリー食品生地の物性変化が少なく、通常のベーカリー食品生地と同じ感覚で取り扱いできる。
【0016】
本発明のエキソマルトテトラオヒドロラーゼとは、デンプンを基質とし、α-1,4-D-グルコシド結合を非還元末端からグルコースを4分子ごとに加水分解する酵素の総称である。
本発明にエキソマルトテトラオヒドロラーゼを使用する場合、酵素製剤を使用することもできる。エキソマルトテトラオヒドロラーゼ酵素製剤1g中のエキソマルトテトラオヒドロラーゼの酵素活性(U)は、好ましくは10,000~25,000U、より好ましくは12,000~20,000U、さらにより好ましくは14,000~18,000Uである。市販のエキソマルトテトラオヒドロラーゼ酵素製剤としては、例えば、ダニスコ社製のPOWERFresh3150またはPOWERFresh4150、ナガセケムテックス(株)製のデナベイクEXTRAを使用することができる。
【0017】
エキソマルトテトラオヒドロラーゼの酵素活性(U)は、1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量を1Uと定義される。エキソマルトテトラオヒドロラーゼの酵素活性(U)は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)に記載の測定方法に準拠して行うことができる。具体的には、クエン酸緩衝液(pH6.5)中でマルトペンタオース基質と酵素反応させ、反応停止後に、酵素分解によって生じたグルコース量を測定する。また、乳化物中のエキソマルトテトラオヒドロラーゼの酵素活性(U)は、油相を60℃以下の品温で完全に溶解後、遠心分離により得られた水相に対して、上記の方法で測定する。
【0018】
本発明の油脂組成物100g中に含有されるエキソマルトテトラオヒドロラーゼは、酵素活性として100~50000Uであることが好ましく、500~25000Uであることがより好ましく、1000~10000Uであることがさらにより好ましく、1200~5000Uであることが最も好ましい。エキソマルトテトラオヒドロラーゼの添加量が上記範囲にあると、ベーカリー食品生地に本発明の油脂組成物を使用した場合、該ベーカリー食品生地に対してエキソマルトテトラオヒドロラーゼが作用した際に、ベーカリー食品生地の物性変化が少なく、通常のベーカリー食品生地と同じ感覚で取り扱いできる。
【0019】
[乳蛋白]
本発明の乳蛋白は、乳を酸などで処理して沈殿分離したもので、パン生地、菓子生地等で使用できるものであれば、特に限定されず使用できる。本発明の乳蛋白は、具体的には、カゼイン及びその塩類、ホエー蛋白及びその濃縮物、ラクトアルブミン、乳ペプチド等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。本発明の乳蛋白は、好ましくは、ホエー蛋白濃縮物、より好ましくは乳由来の蛋白質を75%以上含有するホエー蛋白濃縮物である。ここで、ホエー蛋白濃縮物とは、乳清から乳糖を除去することにより蛋白質を濃縮したものを指す。市販の乳蛋白としては、例えば、協同乳業(株)製のキョウプロ、を使用することができる。
【0020】
本発明の油脂組成物中の乳蛋白の含有量は、好ましくは0.1~1.0質量%、より好ましくは0.15~0.7質量%、さらにより好ましくは0.2~0.6質量%、最も好ましくは0.2~0.5質量%である。乳蛋白の含有量が上記の範囲にあると、加熱による酵素の活性低下が、より抑制された油脂組成物を得ることができる。
また、本発明の油脂組成物中の乳蛋白の含有量は、糖分解酵素の酵素活性(1000U)当たり、好ましくは0.002~10質量%、より好ましくは0.006~1.4質量%、さらに好ましくは0.02~0.6質量%、よりさらに好ましくは0.04~0.4質量%、最も好ましくは0.1~0.3質量%である。糖分解酵素の酵素活性に対する乳蛋白の含有量が上記の範囲にあると、加熱による酵素の活性低下が抑制された油脂組成物を得ることができる。
【0021】
[他の原料]
本発明の油脂組成物は、必要に応じて、糖分解酵素、乳蛋白、及び油脂以外の成分として、水、食塩、乳化剤、香料、酵素、糖類、呈味成分、増粘剤、抗酸化剤、色素等が含まれていてもよい。これらの成分の種類及び配合量等は本発明の効果を阻害しない範囲で適宜調整できる。
【0022】
[油脂組成物の製造方法]
本発明の油脂組成物の製造方法は、特に制限されず、公知の油脂組成物の製造条件及び製造方法に基づいて製造できる。例えば、公知の方法に従い、本発明における糖分解酵素、乳蛋白、及び油脂を加熱混合し、適宜撹拌することで本発明の油脂組成物を製造できる。前記乳蛋白は、前記糖分解酵素と同時に前記油脂中に混合するか、または、前記糖分解酵素を前記油脂中に混合するよりも前に混合することが好ましい。
また、本発明の油脂組成物は、糖分解酵素の酵素活性の失活開始温度以下の品温で製造することが好ましい。具体的には、失活開始温度が60℃の糖分解酵素を含有する場合は、60℃以下の品温で製造することが好ましい。また、複数種の糖分解酵素を含有する場合は、酵素活性の失活開始温度が最も低い酵素の失活開始温度以下の品温で製造することが好ましい。なお、失活開始温度とは、酵素が失活し始める温度を指す。
なお、本発明の油脂組成物が、可塑性を有する乳化油脂組成物である場合は、糖分解酵素を添加する工程から急冷可塑化の工程までを、糖分解酵素の失活開始温度以下の品温で製造することが好ましい。
【0023】
本発明の油脂組成物は、油相と水相とを油中水型に乳化させた油脂組成物(つまり、乳化油脂組成物)であってもよく、油相からなるものであってもよい。前記乳化油脂組成物としては、マーガリン、ファットスプレッド等が挙げられる。前記油相からなる油脂組成物としては、ショートニングタイプ等が挙げられる。本発明の油脂組成物は、油中水型の乳化油脂組成物であることが好ましく、マーガリン及びファットスプレッドであることが特に好ましい。
本発明の油脂組成物が油中水型の乳化油脂組成物である場合、糖分解酵素、及び乳蛋白を含有する水相と、油脂を含有する油相とを別々に調製した後、混合乳化して製造することが好ましい。
【0024】
本発明の油脂組成物が可塑性を有する場合、油相の調製後又は油相と水相との混合乳化後に、冷却を行い、該油脂組成物を可塑化させることが好ましい。冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、さらに好ましくは-5℃/分以上である。前記油脂組成物の冷却は、徐冷却より急冷却の方が好ましい。冷却のために使用する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、マーガリン製造機(ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等)、プレート型熱交換機等が挙げられる。また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせを、冷却のために使用する機器として使用してもよい。
【0025】
[糖分解酵素の活性低下抑制方法]
本発明の糖分解酵素の活性低下抑制方法は、上記で説明した本発明の乳蛋白を、糖分解酵素を含有する油脂組成物に配合することを含む。これにより、糖分解酵素を含有する油脂組成物(マーガリン、ショートニングタイプ等)の製造時に、加熱による該酵素の活性低下を抑制できる。
具体的には、本発明の油脂組成物がショートニングタイプの場合、本発明における乳蛋白を、糖分解酵素と同時に油脂中に混合するか、または、糖分解酵素を油脂中に混合するよりも前に添加し、該酵素の失活開始温度以下の品温で加熱混合することで、該酵素の活性低下を抑制できる。また、本発明の油脂組成物がマーガリンの場合、本発明における糖分解酵素、及び乳蛋白を含有する水相と、油脂を含有する油相とを別々に調製した後、該酵素の失活開始温度以下の品温で混合乳化することで、該酵素の活性低下を抑制できる。
【0026】
本発明の糖分解酵素の活性低下抑制方法における乳蛋白の配合量は、該酵素の活性低下を抑制できる限りにおいて制限されないが、糖分解酵素の酵素活性(1000U)当たり、好ましくは0.002~10質量%、より好ましくは0.006~1.4質量%、さらに好ましくは0.02~0.6質量%、よりさらに好ましくは0.04~0.4質量%、最も好ましくは0.1~0.3質量%である。糖分解酵素の酵素活性に対する乳蛋白の含有量が上記の範囲にあると、加熱による酵素の活性低下を、効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0028】
[乳蛋白によるヘミセルラーゼ活性低下抑制の確認試験]
加熱による、油脂組成物中のヘミセルラーゼの活性の経時的な残存率を確認した。試験は、実際のマーガリン、又はショートニング製造時の加熱温度と加熱時間を想定した条件で行った。
【0029】
(ヘミセルラーゼ含有油中水型乳化油脂組成物の製造)
表1の配合に基づき、パーム油を45℃で融解して油相を調製した。次に水に乳蛋白と食塩を溶解させた後、ヘミセルラーゼ製剤を分散させ水相を調製した。得られた油相と水相とを混合・乳化して油中水型の乳化油脂組成物(実施例1)を得た。また、同様にして乳蛋白の代わりに脱脂粉乳を含有する油中水型の乳化油脂組成物(比較例1)、及び乳蛋白を含有しない油中水型の乳化油脂組成物(比較例2)も得た。
【0030】
表1中の各材料の詳細は下記のとおりである。
パーム油:日清オイリオグループ(株)製造品
ヘミセルラーゼ製剤:天野エンザイム(株)製、商品名「ヘミセルラーゼ「アマノ」90(力価:1700U/g)」、失活開始温度40℃
乳蛋白:協同乳業(株)製、商品名「キョウプロE-35」(ホエー蛋白濃縮物)、蛋白含量79質量%
脱脂粉乳:高梨乳業(株)製、商品名「タカナシ脱脂粉乳」、蛋白含量34質量%
【0031】
【0032】
(油中水型の乳化油脂組成物のヘミセルラーゼ活性の測定)
上記で製造した各油中水型の乳化油脂組成物を、品温40℃で撹拌しながら180分間保持し、0分(開始時)、30分後、60分後、120分後、及び180分後のヘミセルラーゼ活性を測定した。ヘミセルラーゼ活性の測定は、前記の測定ポイントで乳化油脂組成物をサンプリングし、遠心分離により得られた水相に対して、上記の測定方法で実施した。
次に、30~180分後の各測定値を、0分(開始時)の測定値で除し、100分率でヘミセルラーゼ活性の残存率(%)を求めた。結果を表2に示す。なお、0分(開始時)の乳化油脂組成物100g中のヘミセルラーゼ活性(U)は、実施例1が1268U、比較例1が1283U、比較例2が1227Uであった。
【0033】
【0034】
表2の結果より、実施例1は、180分後の残存率が97%であり、比較例1、及び比較例2に比べて、酵素活性の低下が著しく抑制された。
【0035】
[乳蛋白によるエキソマルトテトラオヒドロラーゼ活性低下抑制の確認試験]
加熱による、乳化油脂組成物中のエキソマルトテトラオヒドロラーゼの活性の経時的な残存率を確認した。試験は、実際のマーガリン、又はショートニング製造時の加熱温度と加熱時間を想定した条件で行った。
【0036】
(エキソマルトテトラオヒドロラーゼ含有油中水型乳化油脂組成物の製造)
表3の配合に基づき、パーム油を60℃で融解して油相を調製した。次に水にエキソマルトテトラオヒドロラーゼ製剤を分散させた後、乳蛋白と食塩を溶解して水相を調製した。得られた油相と水相とを品温60℃を保ちながら混合・乳化して油中水型の乳化油脂組成物(実施例2)を得た。また、同様にして乳蛋白の代わりに脱脂粉乳を含有する油中水型の乳化油脂組成物(比較例3)、及び、乳蛋白を含有しない油中水型の乳化油脂組成物(比較例4)も得た。
【0037】
表3中の各材料の詳細は下記のとおりである。
パーム油:日清オイリオグループ(株)製造品
エキソマルトテトラオヒドロラーゼ製剤:ダニスコ社製、商品名「POWERFresh3150(力価:17000U/g)」、失活開始温度60℃
乳蛋白:協同乳業(株)製、商品名「キョウプロE-35」(ホエー蛋白濃縮物)、蛋白含量79質量%
脱脂粉乳:高梨乳業(株)製、商品名「タカナシ脱脂粉乳」、蛋白含量34質量%
【0038】
【0039】
(油中水型乳化油脂組成物のエキソマルトテトラオヒドロラーゼ活性の測定)
上記で製造した各油中水型の乳化油脂組成物を、品温60℃で撹拌しながら180分間保持し、0分(開始時)、30分後、60分後、120分後、及び180分後のエキソマルトテトラオヒドロラーゼ活性を測定した。エキソマルトテトラオヒドロラーゼ活性の測定は、前記の測定ポイントで乳化油脂組成物をサンプリングし、遠心分離により得られた水相に対して、上記の測定方法で実施した。
次に、30~180分後の各測定値を、0分(開始時)の測定値で除し、100分率でエキソマルトテトラオヒドロラーゼ活性の残存率(%)を求めた。結果を表4に示す。なお、0分(開始時)の乳化油脂組成物100g中のエキソマルトテトラオヒドロラーゼ活性(U)は、実施例2が1730U、比較例3が1680U、比較例4が1670Uであった。
【0040】
【0041】
表4の結果より、実施例2は、180分後の残存率が99%であり、比較例3、及び比較例4に比べて酵素活性の低下が著しく抑制された。
【0042】
[食パンの製造(70%中種法)]
上記で調製した油中水型の乳化油脂組成物(実施例2、及び比較例4)を急冷混捏して可塑性油脂組成物(マーガリン)を得た。次に、表5の生地配合及び表6の工程に基づき、ワンローフ型食パン(実施例3、及び比較例5)を製造した。以下、表中の「穀粉%」とは、穀粉の質量(本例では強力粉の総量)を100とした場合の、穀粉に対する、穀粉以外の材料の割合を示す。また、表中の「油脂組成物」は、上記で製造した実施例2、又は比較例4の可塑性油脂(マーガリン)を指す。
【0043】
【0044】
【0045】
(食パンのボリュームの測定)
上記で製造したワンローフ型食パンについて、焼成から1日後の各食パンにつき、8個ずつの容積を超高速レーザー体積計測機・非接触CCDスリットレーザースキャニング方式(商品名:Selnac-WinVM2000、株式会社アステック社製)を用いて容積(ボリューム)と重量とを測定し、容積を重量で除して比容積を求めた。測定結果(平均値)を表7に示す。
【0046】
【0047】
上記の結果より、実施例2の油脂組成物を配合して製造した食パン(実施例3)は、比較例4の油脂組成物を配合して製造した食パン(比較例5)に比べて、ボリュームの大きいものであった。