(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】流量センサの補正装置、流量測定システム、流量制御装置、補正装置用プログラム、及び、補正方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/696 20060101AFI20230605BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20230605BHJP
【FI】
G01F1/696 Z
G01F1/00 W
(21)【出願番号】P 2019124029
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】岡野 浩之
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構と、前記出力信号の示す値、及び、感度係数に基づいてセンサ出力値xを算出するセンサ出力算出部と、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数を記憶する関数記憶部と、前記センサ出力算出部で算出されるセンサ出力値xと流量特性関数に基づいて流量値yを算出する流量算出部と、を備えた流量センサについて流量特性関数を補正する補正装置であって、
前記感度係数が初期値に設定されている初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)を記憶する感度補正値関数記憶部と、
前記感度係数を初期値、及び、前記感度補正値関数m(x)に基づいて設定し、前記流量センサの感度を調整する感度設定部と、
前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yに応じて決定される関数補正値n、及び、標準流量特性関数f(x)に基づいて、補正後流量特性関数g(x)を算出する関数算出部と、
前記関数算出部で算出された補正後流量特性関数g(x)又は当該補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を前記関数記憶部に流量特性関数として記憶させる関数修正部と、を備えたことを特徴とする補正装置。
【請求項2】
前記感度補正値関数m(x)が、センサ出力値xが小さいほど前記感度補正値mが大きく設定されている請求項1記載の補正装置。
【請求項3】
前記流路に実際に流れている感度基準流量値F1と、前記感度基準流量値F1に対応する初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力xと、前記感度基準流量値F1に対応する初期状態の前記流量センサから出力される流量値yである感度調整前流量値S1と、の組からなる感度調整用データを複数組記憶する感度調整用データ記憶部と、
複数組の感度調整用データに基づいて、感度基準流量値F1と流量値yとの差に応じて各センサ出力xに対応する感度補正値mを算出し、複数組のセンサ出力xと感度補正値mから前記感度補正値関数m(x)を算出し、前記感度補正値関数記憶部に記憶させる補正関数出力部と、をさらに備えた請求項1又は2記載の補正装置。
【請求項4】
前記流路に実際に流れているスパン基準流量値F2と、前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yと、の組からなるスパン調整用データを記憶するスパン調整用データ記憶部をさらに備え、
前記関数算出部が、前記スパン調整用データに基づいて、前記スパン基準流量値F2を前記流量値yで割った値を前記関数補正値nとして前記標準流量特性関数f(x)に乗じて、補正後流量特性関数g(x)を算出するように構成されている請求項1乃至3いずれかに記載の補正装置。
【請求項5】
前記スパン基準流量値F2が前記流量センサにおいて設定されている流量値yのスパンである請求項4記載の補正装置。
【請求項6】
前記関数修正部が、
流体の熱伝導率λと、所定のセンサ出力値xにおける感度補正値mに基づいてガス種補正係数kを算出するガス種補正値算出部と、
前記補正後流量特性関数g(x)にガス種補正係数kを乗じて前記最終流量特性関数h(x)を算出し、前記関数記憶部に当該最終流量特性関数h(x)を記憶させる最終出力部と、を備えた請求項1乃至5いずれかに記載の補正装置。
【請求項7】
前記ガス種補正値算出部が、所定のセンサ出力値xにおける感度補正値mの関数である傾きa(m)を算出し、以下の式に基づいてガス種補正係数kを算出するように構成されている請求項6記載の補正装置。
k=a(m)×(1/λ)^(1/2)+b
ここで、λは前記流路に流れる流体の熱伝導率、bは所定の切片である。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の補正装置
と、
前記補正装置が出力した前記最終流量特性関数h(x)に基づいて流量値yを出力するように構成された流量センサ
と、を備えた流量測定システム。
【請求項9】
請求項8記載の
流量測定システムを備えた流量制御装置。
【請求項10】
流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構と、前記出力信号の示す値、及び、感度係数に基づいてセンサ出力値xを算出するセンサ出力算出部と、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数を記憶する関数記憶部と、前記センサ出力算出部で算出されるセンサ出力値xと流量特性関数に基づいて流量値yを算出する流量算出部と、を備えた流量センサについて流量特性関数を補正する補正装置用プログラムであって、
前記感度係数が初期値に設定されている初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)を記憶する感度補正値関数記憶部と、
前記感度係数を初期値、及び、前記感度補正値関数m(x)に基づいて設定し、前記流量センサの感度を調整する感度設定部と、
前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yに応じて決定される関数補正値n、及び、標準流量特性関数f(x)に基づいて、補正後流量特性関数g(x)を算出する関数算出部と、
前記関数算出部で算出された補正後流量特性関数g(x)又は当該補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を前記関数記憶部に流量特性関数として記憶させる関数修正部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする補正装置用プログラム。
【請求項11】
流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構と、前記出力信号の示す値、及び、感度係数に基づいてセンサ出力値xを算出するセンサ出力算出部と、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数を記憶する関数記憶部と、前記センサ出力算出部で算出されるセンサ出力値xと流量特性関数に基づいて流量値yを算出する流量算出部と、を備えた流量センサについて流量特性関数を補正する補正方法であって、
前記感度係数が初期値に設定されている初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)を記憶することと、
前記感度係数を初期値、及び、前記感度補正値関数m(x)に基づいて設定し、前記流量センサの感度を調整することと、
前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yに応じて決定される関数補正値n、及び、標準流量特性関数f(x)に基づいて、補正後流量特性関数g(x)を算出することと、
前記補正後流量特性関数g(x)又は
前記補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を前記関数記憶部に流量特性関数として記憶させることと、を備えたことを特徴とする補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量センサにおいてセンサ出力値xを流量値yに変換する流量特性関数を補正するための流量センサの補正装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば熱式流量センサは、流量と物体から奪われる熱量との間には所定の関係があることを利用して流量を測定できるように構成されている。具体的にはセンサ機構として流路に2つの電気抵抗素子を設けておき、各電気抵抗素子の温度が一定に保たれるように電圧を制御し、その時の各電圧値から流量と所定の関係を有するセンサ出力値xが算出される(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、各センサ出力値xから流量値yへ換算するために入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数が用いられる。この流量特性関数は流量センサの器差の影響を受け、流量センサごとに固有のものとなる。したがって、例えば複数の流量センサのセンサ特性を平均化した標準流量特性関数f(x)をそのまま使用すると算出される流量値yと実際に流れている流量値yとの間に誤差が生じてしまう。このため、標準流量特性関数f(x)を実際の流量センサの実流量特性関数F(x)に近づけるための補正が行われている。
【0004】
例えば標準流量特性関数f(x)は、
図6(a)に示されるようにゼロ点からスパン点までの間において実質的に直線性(リニアリティ)が保たれているようなものである。
【0005】
次に
図6(b)に示されるように実際の流量センサにおいてN
2などの標準ガスを規定流量値で流した場合のセンサ出力値xがサンプル値として測定される。規定流量値は例えば前記標準流量特性関数f(x)のスパン点におけるスパン流量値が設定される。さらに前記標準流量特性関数f(x)に前記サンプル値を入力して算出流量値が算出され、規定流量値を算出流量値で割った値である関数補正値nを前記標準流量特性関数f(x)に乗じて傾きが調整された最終流量特性関数h(x)が算出される。
【0006】
しかしながら、
図6(c)に示すよう実際の実流量特性関数F(x)の直線性が悪い場合に上述したような補正を行うと、ゼロ点からスパン点の間において前記最終流量特性関数h(x)は実際の流量値yよりも小さい値の流量値yを出力することになる。つまり、スパン流量値以外では流量誤差が発生することになる。
【0007】
また、実流量特性関数F(x)の直線性が悪くなってしまう原因は本願発明者らが検討したところ以下のような理由があると考えらえる。すなわち、熱式流量センサCMはセンサ機構の細管P内に流体を流すために
図7(a)に示すように分流素子DEにより流体の一部がバイパス流路BLから分流される。この分流素子DEは、
図7(b)に示すように微細な穴DE1が多数形成された薄板円板DE2を軸方向に多数枚積層して形成される。このような微細な穴DE1は例えばエッチング等の加工方法により作成されるが、その大きさはすべての穴で揃えることは難しく、どうしても加工精度にばらつきが発生する。さらに薄板円板DE2が多数枚積層されるので、加工精度がうまく打ち消されるように薄板円板DE2の組み合わせが選択された場合には、前記標準流量特性関数f(x)に近い特性を流量センサは示す。一方、加工精度が悪い薄板円板DE2がたまたま複数選択されると、流量センサCMの特性には非線形性が大きく発生することがある。
【0008】
このように極端に特性の悪い熱式流量センサになってしまった場合には、上述したような従来の実流量特性関数F(x)に近づけるための補正を行っても、例えば熱式流量センサとしての精度基準を満たすことができない。このため、特性の悪い分流素子DEが搭載されてしまうと、マスフローコントローラ全体としての流量調整に関する歩留まりが悪化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、実際の流量センサにおけるセンサ出力値xと流量値yとの間の直線性の精度をより良くし、流量特性関数の補正を可能とする補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る補正装置は、流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構と、前記出力信号の示す値、及び、感度係数に基づいてセンサ出力値xを算出するセンサ出力算出部と、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数を記憶する関数記憶部と、前記センサ出力算出部で算出されるセンサ出力値xと流量特性関数に基づいて流量値yを算出する流量算出部と、を備えた流量センサについて流量特性関数を補正する補正装置であって、前記感度係数が初期値に設定されている初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)を記憶する感度補正値関数記憶部と、前記感度係数を初期値、及び、前記感度補正値関数m(x)に基づいて設定し、前記流量センサの感度を調整する感度設定部と、前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yに応じて決定される関数補正値n、及び、標準流量特性関数f(x)に基づいて、補正後流量特性関数g(x)を算出する関数算出部と、前記関数算出部で算出された補正後流量特性関数g(x)又は当該補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を前記関数記憶部に流量特性関数として記憶させる関数修正部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る補正方法は、流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構と、前記出力信号の示す値、及び、感度係数に基づいてセンサ出力値xを算出するセンサ出力算出部と、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数を記憶する関数記憶部と、前記センサ出力算出部で算出されるセンサ出力値xと流量特性関数に基づいて流量値yを算出する流量算出部と、を備えた流量センサについて流量特性関数を補正する補正方法であって、前記感度係数が初期値に設定されている初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)を記憶することと、前記感度係数を初期値、及び、前記感度補正値関数m(x)に基づいて設定し、前記流量センサの感度を調整することと、前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yに応じて決定される関数補正値n、及び、標準流量特性関数f(x)に基づいて、補正後流量特性関数g(x)を算出することと、前記関数算出部で算出された補正後流量特性関数g(x)又は当該補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を前記関数記憶部に流量特性関数として記憶させることと、を備えたことを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、前記感度係数が初期値に設定されている初期状態における前記流量センサの実流量特性関数F(x)の直線性が悪い場合には、センサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)に基づいて、直線性のよい新たな感度調整後実流量特性関数G(x)に変更できる。このため、補正後流量特性関数g(x)は、感度調整後実流量特性関数G(x)とほぼ全体で合致させることができ、センサ出力値xの全域にわたって流量誤差が発生しないようにすることができる。
【0014】
さらに、感度補正値関数m(x)を用いることにより、センサ出力値xごとに異なる感度係数を設定できるようになるので、例えば誤差が大きい所には感度補正値mを大きくし、誤差が小さいところには感度補正値mを小さくするといったきめ細やかな感度補正が可能となる。したがって、センサ出力値xによらず一定の比率で感度係数を補正した場合では補正しきれないような特性を有する流量センサであっても精度基準に入れることができるようになる。この結果、流量特性関数を補正して標準的な精度が実現できるので、例えば流量センサの組み入れられる流量制御装置全体としての流量特性に関する調整の歩留まりを向上させることができるようになる。
【0015】
最終流量特性関数h(x)が記憶された補正後の流量センサにおいて、センサ出力値x又は流量値yが規定されているレンジを大きく超えた出力が発生しないようにしつつ、感度調整後実流量特性関数G(x)の直線性を良くして補正後流量特性関数g(x)を一致させやすくするには、流量特性関数前記感度補正値関数m(x)が、センサ出力値xが小さいほど前記感度補正値mが大きく設定されていればよい。
【0016】
実際の測定値に基づいて補正前の流量センサごとの特性に合わせた前記感度補正値関数m(x)を設定できるようにするには、前記流路に実際に流れている感度基準流量値F1と、前記感度基準流量値F1に対応する初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力xと、前記感度基準流量値F1に対応する初期状態の前記流量センサから出力される流量値yである感度調整前流量値S1と、の組からなる感度調整用データを複数組記憶する感度調整用データ記憶部と、複数組の感度調整用データに基づいて、感度基準流量値F1と流量値yとの差に応じて各センサ出力xに対応する感度補正値mを算出し、複数組のセンサ出力xと感度補正値mから前記感度補正値関数m(x)を算出し、前記感度補正値関数記憶部に記憶させる補正関数出力部と、をさらに備えていればよい。
【0017】
感度調整後の実流量特性関数G(x)に対して補正後流量特性関数g(x)をセンサ出力値xのレンジ全体で一致させるには、前記流路に実際に流れているスパン基準流量値F2と、前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yと、の組からなるスパン調整用データを記憶するスパン調整用データ記憶部をさらに備え、前記関数算出部が、前記スパン調整用データに基づいて、前記スパン基準流量値F2を前記流量値yで割った値を前記関数補正値nとして前記標準流量特性関数f(x)に乗じて、補正後流量特性関数g(x)を算出するように構成されていればよい。
【0018】
最も重要な流量値yであるスパン流量値については前記流量センサから誤差なく出力されるようにして、信頼性をより高められるようにするには、前記スパン基準流量値F2が前記流量センサにおいて設定されている流量値yのスパンであればよい。
【0019】
本願発明者らが鋭意検討を行ったところ、前記流路に流れる流体の種類によって発生する測定誤差の大きさは、前記感度補正値mと相関があることを初めて見出した。このように感度補正が行われたことにより個別に発生するガス種の違いによる誤差についても補正できるようにするには、前記関数修正部が、流体の熱伝導率λと、所定のセンサ出力値xにおける感度補正値mに基づいてガス種補正係数kを算出するガス種補正値算出部と、前記補正後流量特性関数g(x)にガス種補正係数kを乗じて前記最終流量特性関数h(x)を算出し、前記関数記憶部に当該最終流量特性関数h(x)を記憶させる最終出力部と、を備えたものであればよい。
【0020】
ガス種の違いによる補正を個別の流量センサにおいて実際にその流体を流し、実測値を得て、ガス種補正係数kを得るといった作業を省略できるように、既知の値から算出できるようにする具体的な態様としては、前記ガス種補正値算出部が、所定のセンサ出力値xにおける感度補正値mの関数である傾きa(m)を算出し、以下の式に基づいてガス種補正係数kを算出するように構成されているものが挙げられる。
k=a(m)×(1/λ)^(1/2)+b
ここで、λは前記流路に流れる流体の熱伝導率、bは所定の切片である。
【0021】
本発明に係る補正装置により記憶された前記最終流量特性関数h(x)に基づいて流量値yを出力するように構成された流量センサであれば、センサ出力値xのレンジ全域において流量誤差を低減し、正確な流量値yを出力する事が可能となる。この結果、例えば流量センサの組み入れられる流量制御装置全体としての流量特性に関する調整の歩留まりを向上させることができる。
【0022】
本発明に係る流量センサを備えた流量制御装置であれば、センサ出力値xのレンジにおける流量制御精度を非常に高いものとすることができる。
【0023】
既存の補正装置において使用されているプログラムを更新することにより本発明に係る補正装置と同様の効果を享受できるようにするには、流路に流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構と、前記出力信号の示す値、及び、感度係数に基づいてセンサ出力値xを算出するセンサ出力算出部と、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする流量特性関数を記憶する関数記憶部と、前記センサ出力算出部で算出されるセンサ出力値xと流量特性関数に基づいて流量値yを算出する流量算出部と、を備えた流量センサについて流量特性関数を補正する補正装置用プログラムであって、前記感度係数が初期値に設定されている初期状態の前記流量センサから出力されるセンサ出力値xに応じて少なくとも一部の感度補正値mが異なる値に設定されている感度補正値関数m(x)を記憶する感度補正値関数記憶部と、前記感度係数を初期値、及び、前記感度補正値関数m(x)に基づいて設定し、前記流量センサの感度を調整する感度設定部と、前記感度補正値関数m(x)によって感度が補正された前記流量センサから出力される流量値yに応じて決定される関数補正値n、及び、標準流量特性関数f(x)に基づいて、補正後流量特性関数g(x)を算出する関数算出部と、前記関数算出部で算出された補正後流量特性関数g(x)又は当該補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を前記関数記憶部に流量特性関数として記憶させる関数修正部と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする補正装置用プログラムを用いればよい。
【0024】
なお、補正装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0025】
このように本発明に係る流量センサの補正装置によれば、例えば前記感度補正値関数m(x)によって初期状態の直線性の悪い実流量特性関数F(x)についてセンサ流量値xごとにきめ細やかに感度調整できる。この結果、非常に直線性のよい感度調整後の実流量特性関数G(x)にし、標準流量特性関数f(x)、及び、関数補正値nに基づいてこの関数G(x)に対して補正後流量特性関数g(x)を合致させることができるので、センサ出力値xのレンジのほぼ全域にわたって流量誤差を低減できるようになる。また、前記感度補正値関数m(x)を使用することにより、従来であれば補正が不可能だった流量センサについても補正が可能となり、例えば流量センサの組み入れられる流量制御装置全体としての流量特性に関する調整の歩留まりを向上させることができる
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る補正装置を示す模式図。
【
図2】同実施形態における感度調整結果を示すグラフ。
【
図3】同実施形態における感度調整工程における感度補正値関数m(x)の一例を示すグラフ。
【
図4】同実施形態における関数補正の結果を示すグラフ。
【
図5】同実施形態におけるガス種と流量誤差と感度補正値mとの間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
本実施形態の流量補正装置100は、
図1に示すように例えば熱式の流量センサについて工場出荷時に器差を反映してセンサ出力値xのレンジ全体において流量誤差を低減する補正を行うために用いられるものである。
【0029】
ここで、補正対象となる熱式の流量センサは熱式のマスフローコントローラMFCの一部を構成するものである。すなわち、マスフローコントローラMFCは、
図1に示すように流路CHに対して設けられたバルブVと、流路内の流量を測定する流量センサCMと、流量センサCMからの出力に基づいてバルブVの開度を制御するバルブ制御部VCと、を備え、これらが1つの筐体によりパッケージ化されたものである。
【0030】
補正対象となる流量センサCMの詳細について説明する。
【0031】
図1に示すようにこの流量センサCMは、流路CHに流れる流体の流量に応じた出力信号を出力するセンサ機構M1と、センサ機構M1からの出力に基づいて流量の算出を行う演算部CALと、からなる。
【0032】
センサ機構M1は、流体の流れる流路から分岐し、再び合流するように設けられたU字状の細管と、細管に巻き回されて設けられた一対の電気抵抗線Ru、Rdと、からなる。各電気抵抗線Ru、Rdはその温度が一定になるように定温度回路(図示しない)と接続されている。細管内を流れる流体により上流側の電気抵抗線Ruから下流側の電気抵抗線Rdへと熱が運ばれるため、上流側の電気抵抗線Ruに印加される上流側電圧は下流側の電気抵抗線Rdに印加される下流側電圧よりも高い値となる。上流側電圧と下流側電圧との差は、流体の流量と所定の関係があるためこれらの値に基づいて演算部CALにおいて流量が算出される。この実施形態ではセンサ機構M1は、上流側電圧及び下流側電圧に基づいて以下のような演算値FIの値を示す出力信号を出力するように構成してある。
【0033】
FI=(Vu-Vd)/(Vu+Vd)
【0034】
ここで、FIはセンサ機構M1の出力信号の示す値、Vuは上流側電圧、Vdは下流側電圧である。
【0035】
演算部CALは、例えばCPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等を備えたコンピュータであって、メモリに格納された流量算出用プログラムが実行されることにより各機器と協業して少なくともセンサ出力算出部M2、関数記憶部M3、流量算出部M4としての機能を実現する。
【0036】
センサ出力算出部M2は、センサ機構M1から出力される出力信号の示す値と、設定されている感度係数とに基づいてセンサ出力値xを算出する。より具体的には、センサ出力算出部M2は、センサ機構M1の出力信号が示す値FIに対して設定されている感度係数ampを乗じるように構成してある。なお、感度係数ampは初期値として(100%)に設定してある。なお、ここで言う初期値とは本実施形態の流量補正装置100によって流量センサCMの流量誤差の補正が行われる前の状態において流量センサCMに暫定的に設定されている値である。
【0037】
すなわち、センサ出力算出部M2は以下のような演算を行うことになる。
【0038】
x=FI×amp
【0039】
ここで、xはセンサ出力値、FIはセンサ機構M1の出力信号の示す値、ampは感度係数である。この実施形態ではampは固定値ではなく、ampが1に設定されている初期状態のセンサ出力x、すなわち、FIの値に応じて異なる値を設定できるように構成されている。
【0040】
関数記憶部M3は、入力をセンサ出力値x、出力を流量値yとする予め定められた流量特性関数を記憶するものである。なお、本実施形態では関数記憶部M3には標準流量特性関数f(x)をデフォルトの流量特性関数として記憶させてある。この標準流量特性関数f(x)は、補正対象となる熱式の流量センサと同じ構成を有する複数の流量センサにおいてセンサ出力値xと流量値yとの間の関係を実測してそれぞれ作成した流量特性関数を平均化したものである。すなわち、標準流量特性関数f(x)は各熱式流量センサにおいて発生する偶然発生する器差を平均化したものである。
【0041】
流量算出部M4は、センサ出力算出部M2で算出されるセンサ出力値xと関数記憶部M3にその時点で記憶されている流量特性関数に基づいて流量値yを算出するように構成されている。
【0042】
次にバルブ制御部VCによるマスフローコントローラMFCの流量制御について説明する。
【0043】
バルブ制御部VCは、2種類のフィードバック制御を切り替えて行えるように構成されている。すなわち、バルブ制御部VCは、センサ出力値xをフィードバックするセンサ出力値制御と、流量値yをフィードバックする流量値制御の2種類のいずれかを実行できる。センサ出力値制御は主に補正装置100による補正のために必要な値を得るために用いられるモードである。このモードでは、目標値として与えられた目標センサ出力値xと、センサ出力算出部M2から出力されるセンサ出力値xとの偏差が小さくなるようにバルブVの開度が制御される。一方、流量値制御は主に実際の流量制御のために用いられるモードである。このモードでは目標値として与えられた目標流量値と、流量算出部M4から出力される流量値との偏差が小さくなるようにバルブVの開度が制御される。
【0044】
また、補正装置100により補正対象となる熱式の流量センサCMの補正を行う際には、マスフローコントローラMFCの上流側又は下流側に基準となる基準流量センサBMが設けてある。この基準流量センサBMはその出力される値が所定の精度で保証されている例えば圧力式の流量センサである。すなわち、補正装置100は、補正対象である熱式の流量センサから出力されるセンサ出力値x、流量値yと、基準となる基準流量センサBMの示す流量値yとに基づいて補正対象である熱式の流量センサCMを補正するように構成してある。
【0045】
次に補正装置100の詳細について説明する。以下では補正対象の流量センサCMにおける関数記憶部M3に数式として最初に設定されている流量特性関数を標準流量特性関数f(x)と記載し、補正対象の流量センサCMが本来備えている実際の流量特性関数である感度が調整される前の実流量特性関数F(x)又は感度が調整された後の実流量特性関数G(x)とは区別する。なお、感度が調整される前の実流量特性関数F(x)又は感度が調整された後のG(x)は未知の関数であり、補正対象の流量センサCMごとの器差が反映されている。この補正装置100による補正は、補正対象の流量センサCMに設定されている標準流量特性関数f(x)を感度調整後の実流量特性関数G(x)に近づけることを目的とする。本実施形態のこの補正はまず、センサ出力算出部M2に設定されている感度係数を変更することにより実際の流量特性関数F(x)の直線性を改善する。その後、標準流量特性関数f(x)を感度調整後の実流量特性関数G(x)に対して一致させるように補正している。
【0046】
より具体的には補正装置100は、例えばCPU、メモリ、入出力手段等を備えたコンピュータにおいてメモリに格納された補正装置用プログラムが実行されて各種機器が協業することによりその機能が実現されるものである。
【0047】
すなわち、補正装置100は少なくとも感度調整用データ記憶部1と、補正関数出力部21と、感度補正値関数記憶部23と、感度設定部23と、スパン調整用データ記憶部3と、関数算出部4と、関数修正部5としての機能を発揮するものである。
【0048】
各部の詳細について補正装置100による補正方法とともに説明する。なお、補正のために補正対象の流量センサCMから流量値yを得る際に流路に流れている流体は例えば窒素ガス等の標準ガスである。
【0049】
また、前提として標準流量特性関数f(x)は、
図2(a)に示されるようにセンサ出力値xのレンジ内においてほぼ直線性が担保されているような関数である。
【0050】
このような標準流量特性関数f(x)に対して、初期状態の実流量特性関数F(x)は直線性が悪く、例えば各センサ出力値xに対応する流量値yが大きくなる場合がある。以下では初期状態の実流量特性関数F(x)が標準流量特性関数f(x)に対して上側に凸となるような関数である場合に基づいて説明する。
【0051】
まず、マスフローコントローラMFCをセンサ出力値xのフィードバック制御により動作させ、初期状態の補正対象の流量センサCMから目標センサ出力値xが出力されるように流量制御を行う。ここでは、目標センサ流量値yとしてスパンに対してx1、x2、x3の複数のセンサ出力値xが得られるように流量制御を行う。この際、流路CHに実際に流れているそれぞれの流量値は基準流量センサBMにより測定され、感度基準流量値F1(F1(x1)、F1(x2)、F1(x3))として感度調整用データ記憶部1に記憶される。また、流路CHにそれぞれの感度基準流量値F1(F1(x1)、F1(x2)、F1(x3))が流れている時に補正対象である流量センサCMから出力される流量値yも感度調整前流量値S1(S1(x1)、S1(x2)、S1(x3))として感度調整用データ記憶部1に記憶される。具体的には感度調整用データ記憶部1は流量センサCMから得られるセンサ出力値x及び感度調整前流量値F1と、基準流量センサBMから得られる感度基準流量値F1をそれぞれ組にした複数の感度調整用データとして記憶する。
【0052】
言い換えると、感度調整用データ記憶部1には、
図2(a)に示されるように感度調整前の実流量特性関数F(x)上の複数点と、標準流量特性関数f(x)上の対応する複数点について測定された値が記憶される。
【0053】
感度設定部23は、補正対象の流量センサCMにおける感度係数を初期値に対して感度補正値mが乗じられた状態に設定し、流量センサCMの感度を調整する。この実施形態では、感度設定部23はセンサ出力値xに応じてそれぞれ異なる感度補正値mを乗じた状態に設定する。
【0054】
より具体的には、補正関数出力部21は、各感度調整用データについて感度基準流量値F1と感度調整前流量値S1との差に応じて感度補正値mを算出する。例えば差が大きいほど感度補正値mは大きい値が算出される。この差と感度補正値mとの間の関係は例えば実験的に決定される。この実施形態では
図3のグラフに示されるように3つのセンサ出力値xに対応して算出された3つの感度補正値mに基づいて、2次関数による線形補完により感度補正値関数m(x)が算出される。補正関数出力部21は、算出された感度補正値関数m(x)を感度補正値関数記憶部22に記憶させる。感度設定部23は、この感度補正関数m(x)を使用して、各センサ出力xに応じた感度補正値mを乗じるように補正対象の流量センサCMの感度係数を変更する。
【0055】
図2(b)に示されるように初期状態の実流量特性関数F(x)はセンサ出力値軸方向にセンサ出力値xごとにm(x)倍された感度調整後状態の実流量特性関数G(x)へと変化することになる。
【0056】
この例では、直線性の悪い初期状態の実流量特性関数F(x)はセンサ出力値軸方向に拡大され、その単位センサ出力値x当たりの流量値yの増加量は小さくなる。ここで、各センサ出力xに応じた感度補正値mがそれぞれ別々に設定されているので、感度調整後の実流量特性関数G(x)は、初期状態の実流量特性関数F(x)と比較して直線性が改善されたものとなる。一方、標準流量特性関数f(x)については感度係数が変更されてもそのグラフ形状は変化せず当初のままである。したがって、感度補正値関数m(x)によって感度調整後の実流量特性関数G(x)の直線性は、標準流量特性関数f(x)の直線性とほぼ同じものとなる。
【0057】
次に感度調整後状態における補正対象の流量センサCMの補正手順についてさらに説明する。
【0058】
図4(a)に示されるように今度は感度調整後のマスフローコントローラMFCにより、センサ出力値xが100%となるように流量制御を行い、その時に基準流量センサBMで測定される流量であるスパン基準流量値F2と、感度調整後状態における補正対象の流量センサCMから出力される流量値yである感度調整後流量値S2と、がスパン調整用データ記憶部3に記憶される。これらの2つの流量値を用いて標準流量特性関数f(x)についてy軸方向の拡大縮小が行われる。言い換えると標準流量特性関数f(x)が、センサ出力値xのレンジ内において感度調整後状態の実流量特性関数G(x)に対してほぼ一致するようにスパン補正が行われる。
【0059】
より具体的には関数算出部4が、関数補正値nを標準流量特性関数f(x)に乗じた補正後流量特性関数g(x)を算出する、ここで関数補正値nは、スパン基準流量値F2を感度調整後流量値S2で割った値である。このようにして算出された補正後流量特性関数g(x)は、
図4(b)に示されるように感度調整後状態の実流量特性関数F(x)と0~100%のセンサ出力値xにおいてほぼ一致する。このように算出された補正後流量特性関数g(x)は、補正のために用いられた窒素ガスが流路に流れている場合には、センサ出力値xのレンジ全体で流量誤差を低減することができる。なお、関数補正値nはセンサ出力値xが100%の時の流量値yに基づいて算出されるものに限られない。例えば、センサ出力値xが80%等のその他の値の場合における流量値yに基づいて決定してもよい。また、上述してきたように定めた感度補正値関数m(x)及び関数補正値nについては、実際に補正のために流路に流した窒素ガスの流量を算出する際だけでなく、その他の種類の流体の流量を算出する場合にも同じ値を使用することもできる。
【0060】
最後に関数修正部5は、算出された補正後流量特性関数g(x)又は当該補正後流量特性関数g(x)に基づく最終流量特性関数h(x)を流量センサCMの関数記憶部M3に流量特性関数として記憶させる。本実施形態では、関数修正部5は、標準ガスである窒素ガスが流れている場合に使用される流量特性関数として、補正後流量特性関数g(x)を関数記憶部M3に記憶させる。
【0061】
一方、上述した補正方法において標準ガスとして用いられていた窒素ガスとは異なるガスが流路CHに流される場合には、標準ガスに基づいて算出された補正後流量特性関数g(x)と感度調整後状態の実流量特性関数F(x)とは完全には一致せず、流量誤差が発生する。
【0062】
そこで、関数修正部5は補正後流量特性関数g(x)を設定している場合に生じるガス種による流量誤差を補正した最終流量特性関数h(x)を関数記憶部M3に記憶させるように構成している。
【0063】
具体的には関数修正部5は、流体の熱伝導率λと、所定のセンサ出力値xにおける感度補正値mに基づいてガス種補正係数kを算出するガス種補正値算出部51と、補正後流量特性関数g(x)にガス種補正係数kを乗じて前記最終流量特性関数h(x)を算出し、関数記憶部M3に当該最終流量特性関数h(x)を記憶させる最終出力部52と、を備えている。
【0064】
ガス種補正値について詳述する。流量センサCMには様々な器差があり、初期状態の実流量特性関数F(x)が標準流量関数f(x)から大きく外れており、
図5(a)のグラフに示すように感度補正値mとして大きな値が設定されているものほど、ガス種による流量誤差が大きく発生する。言い換えると、分流素子として加工精度が高く構成されて感度補正値mが小さい場合には、ガス種が変更されても流量誤差が発生しにくい。
図5(a)からわかるように、ガス種の熱伝導率をλとした場合、発生する流量誤差は(1/λ)^(1/2)に対して比例しているとともに、その傾きは
図5(b)に示すように感度補正値mの大きさに比例することが本願発明者らの鋭意検討の結果見出された。
【0065】
ガス種補正値算出部51はこのような知見に基づいたものであり、例えばセンサ出力値xが10%の時の感度補正値m(10%)について予め複数の流量センサCMから得られたデータから作成された傾きa(m)の関数に基づいて
図5(a)のグラフにおける(1/λ)^(1/2)に対するスパン値での流量誤差の近似直線における傾きaを算出する。そして、ガス種補正値算出部51は、算出された傾きaを用いて以下の式からガス種補正係数kを算出する。
【0066】
k=a(m)×(1/λ)^(1/2)+b
【0067】
ここで、λは前記流路に流れる流体の熱伝導率、bは所定の切片である。この例では、bは標準ガスである窒素ガスの熱伝導率λが代入されたときにk=0となることを利用して求められる値である。このようにして、算出されたガス種補正係数kについては別途実測することなく、設定できる。
【0068】
このように構成された補正装置100によれば、感度係数を調整することにより標準流量特性関数f(x)を合わせ込む対象である実流量特性関数F(x)自体を変化させて、直線性を良くした上でスパン補正を行うことができる。
【0069】
この感度係数の調整の際にセンサ出力値xの値に応じてそれぞれ異なる感度調整値mが設定されているので、極端に直線性の悪い特性を有している流量センサCMであったとしても、標準流量特性関数f(x)を合わせ込みやすい感度調整後の実流量特性関数G(x)を設定できる。
【0070】
したがって、従来よりもセンサ出力値xと流量値yとの間の直線性の精度を改善して、センサ出力値xの標準のレンジである0~100%の範囲内において感度調整後の実流量特性関数G(x)とほぼ一致する補正後流量特性関数g(x)を得ることができる。この結果、例えば流量センサCMの組み入れられるマスフローコントローラMFC全体としての流量特性に関する調整の歩留まりを向上させることができる。
【0071】
その他の実施形態について説明する。
【0072】
関数補正値nについては、実施形態に示した定め方に限られない。最小二乗法等のアルゴリズムにより関数補正値nを決定してもよい。この場合、少なくとも2組のセンサ出力値xと流量値yの測定データを得ておき、最適化すればよい。
【0073】
感度補正値関数m(x)については2次関数に限られるものではなく、さらに高次の関数であってもよい。また、感度補正値関数m(x)が階段関数として定義されるものであってもよい。
【0074】
加えて、感度補正値mについては初期値に乗じるものに限られず、加えるものであっても構わない。同様に関数補正値nについても標準流量特性関数f(x)に乗じるものに限られず、加えるものであっても構わない。標準流量特性関数f(x)については実施形態のように実験的に求められるものに限られず、例えば理論式等であっても構わない。
【0075】
補正対象の流量センサは、実施形態に記載した熱式のものに限られない。その他の測定原理に基づくものに対して補正を行うために実施形態の補正装置及び補正方法を用いても構わない。
【0076】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の組み合わせや変形を行っても構わない。
【符号の説明】
【0077】
100・・・補正装置
1 ・・・感度調整用データ記憶部
21 ・・・補正関数出力部
22 ・・・感度補正値関数記憶部
23 ・・・感度設定部
3 ・・・スパン調整用データ記憶部
4 ・・・関数算出部
5 ・・・関数修正部
51 ・・・ガス種補正値算出部
52 ・・・最終出力部