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特許7289997GLP-1分泌制御剤のスクリーニング方法、GLP-1分泌制御剤、糖尿病、肥満、食後高血糖、神経変性疾患、低血糖、脂肪過多、若しくは膵島細胞症の予防又は改善用組成物、GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進方法、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法、GPR84アゴニストの、疾患の治療薬を製造するための使用、GLP-1分泌促進剤、経口摂取用組成物
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  • 特許-GLP-1分泌制御剤のスクリーニング方法、GLP-1分泌制御剤、糖尿病、肥満、食後高血糖、神経変性疾患、低血糖、脂肪過多、若しくは膵島細胞症の予防又は改善用組成物、GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進方法、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法、GPR84アゴニストの、疾患の治療薬を製造するための使用、GLP-1分泌促進剤、経口摂取用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-02
(45)【発行日】2023-06-12
(54)【発明の名称】GLP-1分泌制御剤のスクリーニング方法、GLP-1分泌制御剤、糖尿病、肥満、食後高血糖、神経変性疾患、低血糖、脂肪過多、若しくは膵島細胞症の予防又は改善用組成物、GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進方法、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法、GPR84アゴニストの、疾患の治療薬を製造するための使用、GLP-1分泌促進剤、経口摂取用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/23 20060101AFI20230605BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230605BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20230605BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALN20230605BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230605BHJP
【FI】
A61K31/23
A61P3/04
A61P3/10
A61P25/00
A61P43/00 111
A23L33/12
C12Q1/06
C12N5/071
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022571843
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2022002650
(87)【国際公開番号】W WO2022201832
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021047568
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100169317
【弁理士】
【氏名又は名称】濱野 愛
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】大植 隆司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 美樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 愼二
(72)【発明者】
【氏名】山内 明子
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/102041(WO,A2)
【文献】国際公開第2020/009111(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218381(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159546(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/158355(WO,A1)
【文献】特開2015-107064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
A23L 33/00
A61K 31/00
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR84アゴニストを有効成分として含み、
前記GPR84アゴニストが中鎖脂肪酸であり、
前記中鎖脂肪酸がトリアシルグリセロールの形態であり、かつ、
前記トリアシルグリセロールが、炭素数10の中鎖脂肪酸のみを構成脂肪酸とするトリアシルグリセロール、並びに、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールからなる群から選択される1以上である、
GLP-1分泌促進剤。
【請求項2】
前記トリアシルグリセロールが、
炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールであり、
前記炭素数8の中鎖脂肪酸、及び炭素数10の中鎖脂肪酸の質量比が、前記炭素数8の中鎖脂肪酸:炭素数10の中鎖脂肪酸=30:70~75:25である、
請求項1に記載のGLP-1分泌促進剤。
【請求項3】
前記GPR84アゴニスト以外の有効成分であり、かつ、GLP-1分泌促進効果を有する有効成分をさらに含む、請求項1又は2に記載のGLP-1分泌促進剤。
【請求項4】
空腹時に投与される、請求項1から3のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤。
【請求項5】
糖尿病、肥満、食後高血糖、及び神経変性疾患の予防又は改善、
糖尿病に伴う神経障害の改善、
グルカゴン分泌抑制、
胃排泄及び/又は胃腸分泌の抑制、
食欲及び/又は摂食の抑制、並びに
膵β細胞の増殖促進からなる群から選択される1以上の目的のために用いられる、
請求項1から4のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤。
【請求項6】
中鎖脂肪酸を含む、胃排泄及び/又は胃腸分泌の抑制のための組成物であって、
前記中鎖脂肪酸がトリアシルグリセロールの形態であり、
前記トリアシルグリセロールが、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールであり、かつ、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸の質量比が、炭素数8の中鎖脂肪酸:炭素数10の中鎖脂肪酸=30:70である、
組成物。
【請求項7】
中鎖脂肪酸を含む、食欲及び/又は摂食の抑制のための組成物であって、
前記中鎖脂肪酸がトリアシルグリセロールの形態であり、
前記トリアシルグリセロールが、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールであり、かつ、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸の質量比が、炭素数8の中鎖脂肪酸:炭素数10の中鎖脂肪酸=30:70である、
組成物。
【請求項8】
医薬品、医薬部外品又は食品の形態である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
経口摂取用組成物である、請求項6又は7に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP-1分泌制御剤のスクリーニング方法、GLP-1分泌制御剤、糖尿病、肥満、食後高血糖、神経変性疾患、低血糖、脂肪過多、若しくは膵島細胞症の予防又は改善用組成物、GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進方法、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法、GPR84アゴニストの、疾患の治療薬を製造するための使用、GLP-1分泌促進剤、経口摂取用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国においては糖尿病患者数の増加が懸念されている。実際、糖尿病治療薬の市場規模は、抗がん剤に次いで日本国内で2番目に大きな市場である(2019年度)。
【0003】
糖尿病治療薬は種々開発されており、例えば、グルカゴン様ペプチド-1(Glucagon-like peptide-1、以下「GLP-1」ともいう。)の分泌を促進させることができる薬剤等が挙げられる。
【0004】
GLP-1とは消化管ホルモンの1つであり、摂食等による血糖値増加により、小腸のL細胞から分泌されるものである。分泌されたGLP-1は、膵臓β細胞表面のGLP-1受容体に結合し、β細胞内からインスリンを分泌させる。したがって、GLP-1はインスリン分泌促進をもたらし、その結果血糖値を正常化することで糖尿病を治療し得る。
【0005】
GLP-1分泌促進剤として機能する物質としては、様々なものが知られている(例えば、特許文献1及び2等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-63956号公報
【文献】特開2016-138070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、新規なGLP-1分泌促進剤に対するニーズが依然として存在する。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、新規なGLP-1分泌促進剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor、以下「GPCR」ともいう。)の1つである「GPR84」のリガンドが、GPR84への結合を介したGLP-1分泌促進機能を有する、という新規な知見を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0010】
(1) 被験物質と、GPR84発現細胞とを接触させ、前記GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する第1の測定工程と、
前記被験物質と接触させない点以外は、前記第1の測定工程と同条件でGPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する第2の測定工程と、
前記第1の測定工程の測定結果と、前記第2の測定工程の測定結果とを比較する比較工程と、
を含み、
前記比較工程において、前記第1の測定工程の測定値が、前記第2の測定工程の測定値よりも高い場合又は低い場合、前記被験物質をGLP-1分泌制御剤として同定する、GLP-1分泌制御剤のスクリーニング方法。
【0011】
(2) 前記第1の測定工程において、被験物質と、GPR84発現細胞との接触を、中鎖脂肪酸の存在下で行う、(1)に記載のスクリーニング方法。
【0012】
(3) (1)又は(2)に記載されたスクリーニング方法により同定された、GLP-1分泌制御剤。
【0013】
(4) (3)に記載のGLP-1分泌制御剤を含む、糖尿病、肥満、食後高血糖、神経変性疾患、低血糖、脂肪過多、若しくは膵島細胞症の予防又は改善用組成物。
【0014】
(5) GPR84アゴニストと、GPR84発現細胞と接触させる工程を含む、GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進方法。
【0015】
(6) GPR84アゴニスト候補物質と、GPR84発現細胞と、をインビトロで接触させる接触工程と、
前記接触工程の前後において、前記GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する測定工程と、
前記測定工程後、前記接触工程前のGLP-1分泌量よりも前記接触工程後のGLP-1分泌量を増加させたGPR84アゴニスト候補物質をGLP-1分泌促進剤として同定する同定工程と、
を含む、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法。
【0016】
(7) 哺乳動物(ただし、ヒトを除く。)に、GPR84アゴニスト候補物質を投与する投与工程と、
前記投与工程の前後において、哺乳動物から生物学的試料を取得する試料取得工程と、
前記投与工程の前後で得られた前記生物学的試料におけるGLP-1量を測定する測定工程と、
前記測定工程後、前記投与工程前のGLP-1分泌量よりも前記投与工程後のGLP-1分泌量を増加させたGPR84アゴニスト候補物質をGLP-1分泌促進剤として同定する同定工程と、
を含む、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法。
【0017】
(8) 前記生物学的試料が血液である、(7)に記載の製造方法。
【0018】
(9) 前記同定工程で同定されたGLP-1分泌促進剤と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む組成物を作製する組成物作製工程をさらに含む、(6)から(8)のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
(10) 前記同定工程後、前記GPR84アゴニスト候補物質の構造を分析する構造分析工程をさらに含む、(6)から(9)のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
(11) 前記同定工程後、前記GPR84アゴニスト候補物質を合成する合成工程をさらに含む、(6)から(10)のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
(12) 前記GLP-1分泌量が生物活性GLP-1量である、(6)から(11)のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
(13) 前記GPR84アゴニスト候補物質がヒトGPR84のアゴニストである、(6)から(12)のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
(14) 前記GPR84アゴニスト候補物質が経口投与可能な物質である、(6)から(13)のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
(15) 前記GPR84アゴニスト候補物質が選択的GPR84アゴニストである、(6)から(14)のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
(16) 前記選択的GPR84アゴニスト候補物質が、EC50が10μM未満である、(15)に記載の製造方法。
【0026】
(17) 前記GPR84アゴニスト候補物質が低分子化合物である、(6)から(16)のいずれかに記載の製造方法。
【0027】
(18) 前記GPR84アゴニスト候補物質が中鎖脂肪酸である、(6)から(17)のいずれかに記載の製造方法。
【0028】
(19) GPR84アゴニストの、疾患の治療薬を製造するための使用であって、
前記疾患が、糖尿病、肥満、食後高血糖、及び神経変性疾患からなる群から選択される1以上である、使用。
【0029】
(20) GPR84アゴニストを有効成分として含む、GLP-1分泌促進剤。
【0030】
(21) 前記GPR84アゴニストが中鎖脂肪酸である、(20)に記載のGLP-1分泌促進剤。
【0031】
(22) 前記中鎖脂肪酸の炭素数が9~12である、(21)に記載のGLP-1分泌促進剤。
【0032】
(23) 前記中鎖脂肪酸が、トリアシルグリセロールの構成脂肪酸、及び/又は遊離脂肪酸の形態である、(21)又は(22)に記載のGLP-1分泌促進剤。
【0033】
(24) 前記中鎖脂肪酸がトリアシルグリセロールの形態であり、かつ、
前記トリアシルグリセロールが、炭素数10の中鎖脂肪酸のみを構成脂肪酸とするトリアシルグリセロール、並びに、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールからなる群から選択される1以上である、
(21)に記載のGLP-1分泌促進剤。
【0034】
(25) 前記トリアシルグリセロールが、
炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールであり、
前記炭素数8の中鎖脂肪酸、及び炭素数10の中鎖脂肪酸の質量比が、前記炭素数8の中鎖脂肪酸:炭素数10の中鎖脂肪酸=30:70~75:25である、
(24)に記載のGLP-1分泌促進剤。
【0035】
(26) 前記GPR84アゴニスト以外の有効成分であり、かつ、GLP-1分泌促進効果を有する有効成分をさらに含む、(20)から(25)のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤。
【0036】
(27) 空腹時に投与される、(20)から(26)のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤。
【0037】
(28) 糖尿病、肥満、食後高血糖、及び神経変性疾患の予防又は改善、
糖尿病に伴う神経障害の改善、
グルカゴン分泌抑制、
胃排泄及び/又は胃腸分泌の抑制、
食欲及び/又は摂食の抑制、並びに
膵β細胞の増殖促進からなる群から選択される1以上の目的のために用いられる、
(20)から(27)のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤。
【0038】
(29) (20)から(28)のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤を含む、糖尿病、肥満、食後高血糖、若しくは神経変性疾患の予防又は改善用組成物。
【0039】
(30) 医薬品、医薬部外品又は食品の形態である、(29)に記載の予防又は改善用組成物。
【0040】
(31) (20)から(28)のいずれかに記載のGLP-1分泌促進剤を含む、経口摂取用組成物。
【0041】
(32) 1日当たり1g以上の中鎖脂肪酸が摂取されるように投与される、(31)に記載の経口摂取用組成物。
【0042】
(33) 空腹時に投与される、(31)又は(32)に記載の経口摂取用組成物。
【0043】
(34) 飲料、調味料、又はその他の食品の形態である、(31)から(33)のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、新規なGLP-1分泌促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】中鎖脂肪酸がGLP-1分泌に及ぼす影響を示す図である。
図2】中鎖脂肪酸がインスリン分泌に及ぼす影響を示す図である。
図3】中鎖脂肪酸がGLP-1分泌に及ぼす影響を示す図である。
図4】トリアシルグリセロールがGLP-1分泌に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0047】
<GLP-1分泌促進剤>
本発明のGLP-1分泌促進剤は、GPR84アゴニストを有効成分として含む。
【0048】
上述のとおり、GLP-1分泌促進剤としてはこれまで様々なものが知られていたものの、本発明者らは、これまで全く機能の知られていないGPR84がGLP-1の分泌と関連していることを初めて見出した。すなわち、GPR84アゴニストとGPR84との結合を介して、GLP-1の分泌が促進されることを本発明者らが初めて特定した。
したがって、今後、GPR84は、糖尿病治療薬の有望な開発ターゲットとなり得る。
【0049】
従来、GPR84は、脳、下垂体、骨髄等に多く発現していることや、中鎖脂肪酸等によって活性化されることが知られていた。しかし、GPR84の下流シグナルはこれまで明らかにされたことはなく、GPR84の機能は不明のままであった。したがって、上記知見はGPR84の機能を初めて解明した点に重要な意義がある。
特に、GPR84は、消化管(小腸等)における発現量があまり多くないため、消化や代謝との関連はこれまで全く想定されていなかった。そのため、GPR84が、消化管ホルモンであるGPL-1の分泌に大きく関与しているという点は極めて意外な結果である。したがって、本発明における好ましい態様において、「GPR84」とは、消化管で発現している細胞(特に、小腸内分泌細胞)において発現しているGPR84を包含する。
【0050】
本発明において「GLP-1分泌促進剤」とは、当該分泌促進剤を投与した場合に、当該分泌促進剤を投与しない場合と比較して、生体内のGLP-1分泌量を増加させることができる剤を意味する。
本発明において「GLP-1分泌促進効果」とは、ある物質(本発明においてはGPR84アゴニスト)を投与した場合に、当該物質を投与しない場合と比較して、生体内のGLP-1分泌量を増加することを意味する。
生体内のGLP-1分泌量は、市販のGLP-1 ELISAキット等によって特定できる。
【0051】
本発明において「GPR84アゴニスト」とは、Gタンパク質共役型受容体84(GPR84)と結合可能であり、かつ、生体内物質と同様の細胞内情報伝達系を作動させる物質を意味する。
ある物質がGPR84アゴニストであるかどうかは、後述する本発明のスクリーニング方法によって特定できる。
【0052】
本発明において、GLP-1分泌促進剤の「有効成分」とは、GLP-1分泌促進効果を有する生理活性物質を意味する。
【0053】
(GPR84アゴニストの例)
GPR84アゴニストの例としては、特に限定されないが、例えば中鎖脂肪酸(Medium Chain Fatty Acid、以下「MCFA」ともいう。)、Embelin、6-OAU(6-n-octylaminouracil)、DIM(3,3’-diindolylmethane)等が挙げられる。GPR84アゴニストは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、本発明の効果が得られやすいという観点から、GPR84アゴニストとしては中鎖脂肪酸が好ましい。
【0054】
MCFAは、炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸であり、通常の食品等(例えば、食用油脂や乳製品等)に含まれる油脂成分である。したがって、GPR84アゴニストが中鎖脂肪酸である場合、安全性が高いGLP-1分泌促進剤が得られやすい。
【0055】
GLP-1分泌促進効果が高いという観点から、MCFAの炭素数は、9~12が好ましく、10又は12がより好ましく、10が最も好ましい。MCFAの炭素数が10であると、該MCFAがトリアシルグリセロールの形態である場合、該トリアシルグリセロールがヒトの体温下で液状となるため吸収されやすい。
【0056】
具体的なMCFAとしては、カプロン酸(n-ヘキサン酸)、カプリル酸(n-オクタン酸)、カプリン酸(n-デカン酸)、ラウリン酸が挙げられる。これらのうち、カプリン酸(n-デカン酸)、ラウリン酸が好ましい。
【0057】
MCFAは、例えば、パーム核油やヤシ油を加水分解した後に精製することにより得られる。また、MCFAとして、市販品や試薬を使用することもできる。
【0058】
MCFAの形態としては特に限定されず、中鎖脂肪酸そのもの(遊離脂肪酸、フリー体)であってもよく、生体内で中鎖脂肪酸に変換される脂肪酸前駆体(例えば、塩、エステル(後述するアシルグリセロール等))であってもよく、これらの混合物であってもよい。
本発明において、MCFAは、アシルグリセロール(特に、トリアシルグリセロール)の構成脂肪酸、及び/又は遊離脂肪酸の形態であることが好ましい。
【0059】
MCFAは、通常、脂肪酸前駆体、より具体的には、MCFAとグリセリンとがエステル結合したアシルグリセロールの形態で体内に摂取される。摂取されたアシルグリセロールは、消化管内で分解吸収されMCFAを放出し、肝臓でエネルギー化されることが知られる。
【0060】
アシルグリセロールは、脂肪酸とグリセリンとがエステル結合した構造を有し、グリセリンに結合する脂肪酸の数の違いにより、3種の形態(モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、及びトリアシルグリセロール)のいずれかで存在する。本発明におけるアシルグリセロールは上記3種の形態のいずれであってもよいが、その構成脂肪酸のうちの少なくとも1つがMCFAであることを要する。
なお、構成脂肪酸の全てがMCFAであるトリアシルグリセロールは中鎖脂肪酸トリグリセリド(Medium Chain Triglyceride、MCT)とも呼ばれる。
【0061】
本発明におけるアシルグリセロールとしては、通常の食品形態に近いという観点から、トリアシルグリセロールが好ましい。また、本発明において、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールを構成する脂肪酸は、同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。異なる種類の脂肪酸から構成されるアシルグリセロールの場合、各々の脂肪酸のグリセリンへの結合位置は、特に限定されない。また、アシルグリセロールの構成脂肪酸として、MCFA以外の脂肪酸(例えば、炭素数14~22の長鎖脂肪酸等)が含まれていてもよい。
【0062】
MCFAがトリアシルグリセロールの形態である場合、該トリアシルグリセロールが、炭素数10の中鎖脂肪酸のみを構成脂肪酸とするトリアシルグリセロール、並びに、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールからなる群から選択される1以上であることが好ましい。
【0063】
MCFAがトリアシルグリセロールの形態である場合、該トリアシルグリセロールが、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリアシルグリセロールであり、かつ、炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸の質量比が、炭素数8の中鎖脂肪酸:炭素数10の中鎖脂肪酸=30:70~75:25であることが好ましい。炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸の質量比が上記の範囲にあると、GLP-1分泌の促進効果がより得られやすい。
【0064】
本発明におけるアシルグリセロールの全構成脂肪酸において、MCFAが占める割合の下限値は、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。上限値は好ましくは100質量%以下である。MCFAの割合が上記の範囲にあると、GLP-1分泌の促進効果がより得られやすい。
【0065】
アシルグリセロールの製造方法は特に限定されないが、例えば、パーム核油やヤシ油由来のMCFAとグリセリンとをエステル化反応することで得られる。エステル化反応は、例えば、加圧下で無触媒かつ無溶剤にて反応させる方法、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を用いて反応させる方法、及び、触媒としてリパーゼを用いて反応させる方法等が挙げられる。
【0066】
本発明のGLP-1分泌促進剤に含まれるMCFAの含量は、ガスクロマトグラフィー法により特定できる。
【0067】
(その他の成分)
本発明のGLP-1分泌促進剤は、GPR84アゴニストからなるものであってもよいが、GPR84アゴニストとともに、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、GPR84アゴニストの作用を阻害しない限り特に限定されない。このような成分としては、GPR84アゴニスト以外の有効成分、抗酸化剤、乳化剤、長鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。
【0068】
GPR84アゴニスト以外の有効成分としては、本発明の効果をより奏しやすくなるという観点から、GLP-1分泌促進効果を有する有効成分が好ましい。このような成分としては、グルコース、アミノ酸等が挙げられる。
【0069】
本発明のGLP-1分泌促進剤に含まれるGPR84アゴニストの配合量の下限値は、GLP-1分泌促進剤全体に対して好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。上限値は好ましくは100質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。GPR84アゴニストの配合量が上記の範囲にあると、GLP-1分泌の促進効果がより得られやすい。
【0070】
(GLP-1分泌促進剤の用法等)
本発明のGLP-1分泌促進剤は、GLP-1の濃度を高めようとする任意の対象や場面において使用できる。
【0071】
例えば、本発明のGLP-1分泌促進剤は、空腹時に投与してもよい。本発明のGLP-1分泌促進剤を空腹状態の対象に投与することで、投与後の摂食時における急激な血糖値の増加等を防ぐことができる。
【0072】
本発明において「空腹」とは、摂食後、消化が進行し血糖値低下や脂肪分解が生じる時点を意味し、例えば、摂食後1~3時間後の時点を包含する。
【0073】
例えば、本発明のGLP-1分泌促進剤は、以下のいずれか1以上の目的のために用いられてもよい。
糖尿病、肥満、食後高血糖、及び神経変性疾患の予防又は改善
糖尿病に伴う神経障害の改善
グルカゴン分泌抑制
胃排泄及び/又は胃腸分泌の抑制
食欲及び/又は摂食の抑制
膵β細胞の増殖促進
【0074】
本発明において「予防」とは、例えば、疾患や症状の発症の抑制又は遅延等を意味する。
【0075】
本発明において「改善」とは、例えば、疾患や症状の進行の遅延、並びに、症状の緩和、軽減、改善及び治癒等を意味する。
【0076】
本発明において「糖尿病」とは、1型糖尿病及び2型糖尿病のいずれも包含する。
【0077】
本発明において「肥満」とは、生体内の脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態を意味し、例えば、体格指数(BMI)が25以上であることを包含する。
【0078】
本発明において「食後高血糖」とは、摂食後の血糖値の異常な増加を意味し、例えば、摂食後2~3時間以降に血糖値が140mg/dl以上である状態が継続することを包含する。
【0079】
本発明において「神経変性疾患」とは、インスリン分泌の異常に伴う神経変性疾患を意味し、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等が挙げられる。
【0080】
本発明において「糖尿病に伴う神経障害」とは、例えば、高血糖により手足の神経に異常をきたし、足の先や裏、手の指に痛みやしびれ等の感覚異常があらわれる合併症が挙げられる。
【0081】
本発明において「グルカゴン分泌抑制」とは、本発明のGLP-1分泌促進剤による、血中グルカゴン濃度の低下を意味する。
【0082】
本発明において「胃排泄の抑制」とは、胃で消化された食事が十二指腸へ排出されることの防止又は遅延を意味する。
【0083】
本発明において「胃腸分泌の抑制」とは、食事を消化吸収するための酵素やホルモンの分泌量を調整すること(例えば、分泌量を低下させること)を意味する。
【0084】
本発明において「食欲及び/又は摂食の抑制」とは、本発明のGLP-1分泌促進剤の投与による、食欲及び/又は摂食量の低下を意味する。
【0085】
本発明において「膵β細胞の増殖促進」とは、本発明のGLP-1分泌促進剤の投与による、膵β細胞の産生量の増加を意味する。
【0086】
本発明のGLP-1分泌促進剤の投与対象は特に限定されない。例えば、単離された任意の細胞、単離された任意の組織、あるいは生体のいずれであってもよい。
細胞や組織の由来や、生体の種類は特に限定されず、哺乳類(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、イヌ、ネコ等)、魚類、爬虫類等であってもよい。
【0087】
<本発明のGLP-1分泌促進剤を含む組成物>
上述のとおり、本発明のGLP-1分泌促進剤は様々な目的に使用できるため、組成物に配合することで、所望の予防又は改善効果を奏する組成物が得られる。
例えば、本発明のGLP-1分泌促進剤を含む組成物(以下、「本発明の組成物」又は「GLP-1分泌促進用組成物」ともいう。)は、糖尿病、肥満、食後高血糖、若しくは神経変性疾患の予防又は改善用組成物であり得る。
【0088】
GPR84アゴニストがMCFAである場合、本発明の組成物は、副作用の懸念が少なく、継続摂取に適した組成物として好ましく利用できる。かかる場合、摂取期間としては特に限定されないが、例えば3日以上に設定できる。摂取は、数時間おきに行ってもよいし、間隔(例えば、1日~数日)をあけて行ってもよい。
【0089】
本発明の組成物の形態としては特に限定されないが、医薬品、医薬部外品又は食品のいずれの形態であってもよい。
【0090】
(医薬品、医薬部外品)
本発明における医薬品としては、経口投与用医薬組成物又は非経口投与用医薬組成物のいずれであってもよい。これらのうち、継続的に摂取しやすいという観点から、経口投与用医薬組成物が好ましい。
【0091】
経口投与用医薬組成物の形態としては、例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等の製剤が挙げられる。非経口投与用医薬組成物の形態としては、注射剤、輸液剤等の製剤が挙げられる。
【0092】
本発明における医薬品には、本発明のGLP-1分泌促進剤とともに薬理上及び製剤上許容し得る添加物を配合してもよい。「薬理上及び製剤上許容し得る添加物」としては、通常、製剤分野において賦形剤等として常用され、かつ、本発明のGLP-1分泌促進剤に含まれる有効成分と反応しない物質を使用できる。
【0093】
本発明における医薬品の投与量は、投与目的(予防又は治療)、投与方法、投与期間、その他の諸条件(例えば、患者の症状、年齢、体重)に応じて、適宜設定できる。
【0094】
本発明における医薬部外品の態様は、上記医薬品に準じる。
【0095】
(食品)
本発明における食品としては、サプリメントや、一般食品、動物用食品、動物用飼料が挙げられる。
【0096】
サプリメントの形態は特に限定されず、固形製剤又は液体製剤のいずれでもよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、内服液、糖衣錠、丸剤、細粒剤、シロップ剤、エリキシル剤等の製剤が挙げられる。
【0097】
一般食品の形態は特に限定されず、例えば、
ベーカリー製品・菓子類(パン、ケーキ、クッキー、ビスケット、ドーナツ、マフィン、スコーン、チョコレート、スナック菓子、ホイップクリーム、アイスクリーム、アイスクリームミックス、菓子バー、チョコレートバー、高脂肪バー、UHTデザート、低温殺菌デザート等)、
飲料類(果汁飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク等)、
調味料及び加工食品(ドレッシング、ソース、マヨネーズ、バター、マーガリン、調製マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、ベーカリーミックス等)、
乳製品(チーズスプレッド、プロセスチーズ、乳製品デザート、フレーバーミルク、発酵乳製品、チーズ、バター、コンデンスミルク製品、ヨーグルト、クリーム等)、
スープ類、炒め油、フライ油、フライ食品、加工肉製品、冷凍食品、フライ食品、麺、レトルト食品、流動食、嚥下食、大豆製品、低温殺菌液状卵、ゲル、ジェリー、フィリング(脂肪ベース又は含水フィリング)
等が挙げられる。
【0098】
本発明の組成物を一般食品の製造のために使用する場合は、GPR84アゴニストは、MCTの形態であることが好ましい。かかる場合、MCTを原材料に追加するか、原材料の油脂をMCTに置き換えて使用することが好ましい。
【0099】
本発明における食品の摂取量は、摂取目的(予防又は治療)、摂取期間、その他の諸条件(例えば、摂食者の症状、年齢、体重)に応じて、適宜設定できる。
【0100】
<経口摂取用組成物>
本発明のGLP-1分泌促進剤は、好ましくは経口投与される。したがって、本発明のGLP-1分泌促進剤は、経口摂取用組成物として好ましく調製できる。
【0101】
本発明の経口摂取用組成物の構成や用途は、上記<本発明のGLP-1分泌促進剤を含む組成物>と同様のものを採用できる。
【0102】
本発明の経口摂取用組成物は、好ましくは1日当たり1g以上の中鎖脂肪酸が摂取されるように投与される。1日当たり1g以上投与されることで、GLP-1分泌の促進効果がより得られやすい。
【0103】
本発明の経口摂取用組成物は、好ましくは空腹時に投与される。空腹時に投与されることで、食後血糖値の上昇抑制効果がより得られやすい。
【0104】
本発明の経口摂取用組成物は、好ましくは飲料、調味料、又はその他の食品の形態(例えば、上記<本発明のGLP-1分泌促進剤を含む組成物>と同様の形態)である。
【0105】
<GLP-1分泌制御剤のスクリーニング方法>
上述のとおり、本発明は、GPR84へのGPR84アゴニストの結合を介して、GLP-1の分泌が促進されるという新規な知見に基づく。
したがって、本発明は、GPR84への結合性を基準とした、被験物質がGLP-1分泌制御剤であり得るかどうかについてのスクリーニング方法も包含する。
【0106】
具体的に、本発明のスクリーニング方法は、
被験物質と、GPR84発現細胞とを接触させ、該GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する第1の測定工程と、
被験物質と接触させない点以外は、第1の測定工程と同条件でGPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する第2の測定工程と、
第1の測定工程の測定結果と、第2の測定工程の測定結果とを比較する比較工程と、
を含む。
そして、比較工程において、第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値よりも高い場合又は低い場合、被験物質をGLP-1分泌制御剤として同定する。
【0107】
(第1の測定工程)
第1の測定工程においては、被験物質と、GPR84発現細胞とを接触させ、該GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する。
【0108】
本発明において「被験物質」としては任意の物質を用いることができる。被験物質としては、例えば、タンパク質、ペプチド、脂肪酸等が挙げられる。また、被験物質としては、化学的に合成された低分子化合物等も含み得る。
【0109】
本発明において「GPR84発現細胞」とは、細胞の任意の部分(細胞表面等)にGPR84を発現している細胞であれば特に限定されない。
GPR84発現細胞としては、例えば、腸管内分泌細胞株(STC-1細胞、GLUTag細胞)等が挙げられる。
GPR84発現細胞の由来は特に限定されないが、例えば、哺乳類(ヒト、マウス、ラット、ウサギ等)が挙げられる。
【0110】
本発明のスクリーニング方法において用いるGPR84発現細胞は、単離された細胞や該細胞を含む単離された組織(脳、骨髄、消化管等)であってもよく、該細胞を有する生体(ただし、ヒトを除く。)であってもよい。
【0111】
本発明のスクリーニング方法において用いるGPR84発現細胞が単離細胞である場合、好ましい例は、単離された腸管内分泌細胞株(STC-1細胞、GLUTag細胞)である。単離された腸管内分泌細胞株としては、ヒト由来の細胞株を用いることが好ましい。
【0112】
本発明のスクリーニング方法において用いるGPR84発現細胞が単離組織である場合、好ましい例は、単離された組織(脳、骨髄、消化管等)である。
単離された組織としては、ヒト由来の組織を用いることが好ましい。
【0113】
本発明のスクリーニング方法において用いるGPR84発現細胞が生体である場合、好ましい例は、ヒト以外の哺乳類(マウス、ラット、ウサギ等)である。
【0114】
被験物質と、GPR84発現細胞とを接触させる方法は特に限定されない。
GPR84発現細胞として単離細胞や組織を用いる場合は、例えば、細胞培養培地中で、GPR84発現細胞を、被験物質の存在下で培養する方法が挙げられる。培養条件等は、従来知られる条件を採用できる。
GPR84発現細胞として生体を用いる場合は、例えば、被験物質を投与(経口投与等)する方法が挙げられる。
【0115】
GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量の測定方法は特に限定されないが、測定対象の種類に応じて選択でき、例えば、ホルモンについて従来知られる測定方法(ELISA等)を採用できる。
測定対象は、培養後培地や、生物学的試料(後述)が挙げられる。
【0116】
第1の測定工程における測定対象は、生物活性GLP-1量であってもよい。
【0117】
第1の測定工程においては、被験物質と、GPR84発現細胞との接触を、中鎖脂肪酸の存在下で行ってもよい。これにより、GPR84発現細胞におけるGPR84に中鎖脂肪酸が結合した状態で、中鎖脂肪酸のリガンド活性に影響を与える機能をも有するGLP-1分泌制御剤をスクリーニングすることができる。
被験物質と、GPR84発現細胞との接触を、中鎖脂肪酸の存在下で行う方法としては、中鎖脂肪酸を添加した細胞培養培地中で、GPR84発現細胞を、被験物質の存在下で培養する方法が挙げられる。培養条件等は、従来知られる条件を採用できる。
【0118】
本発明において「中鎖脂肪酸のリガンド活性に影響を与える機能を有する物質」とは、例えば、以下が挙げられる。
(1)GPR84に対し、中鎖脂肪酸とは異なる部位に結合し、GPR84が細胞内へ送り出すシグナルを強める物質又は弱める物質
(2)中鎖脂肪酸とGPR84との結合によって生じる細胞内シグナル伝達系(GLP-1分泌経路)において、任意のシグナルを強める物質又は弱める物質
【0119】
(第2の測定工程)
第2の測定工程においては、被験物質と接触させない点以外は、第1の測定工程と同条件でGPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する。
したがって、第2の測定工程における使用細胞、培養条件、測定条件等は、第1の測定工程におけるものと共通する。
【0120】
(比較工程)
比較工程では、第1の測定工程の測定結果と、第2の測定工程の測定結果とを比較する。比較工程において、第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値よりも高い場合又は低い場合、被験物質をGLP-1分泌制御剤として同定する。
【0121】
第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値よりも高い場合、被験物質はGLP-1分泌促進剤として同定される。
本発明において「第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値よりも高い」とは、第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値と比較して、例えば2倍以上高いことを意味する。
【0122】
第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値よりも低い場合、被験物質はGLP-1分泌抑制剤として同定される。
本発明において「第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値よりも低い」とは、第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値と比較して、例えば1/2倍以下低いことを意味する。
【0123】
第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値と同等である場合、被験物質はGLP-1分泌に影響しない剤として同定される。
本発明において「第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値と同等である」とは、第1の測定工程の測定値が、第2の測定工程の測定値と比較して、例えば1/2倍超であるか、又は2倍未満であることを意味する。
【0124】
本発明は、上記スクリーニング方法により同定された、GLP-1分泌制御剤も包含する。
また、本発明は、上記スクリーニング方法により同定されたGLP-1分泌制御剤を含む、糖尿病、肥満、食後高血糖、神経変性疾患、低血糖、脂肪過多、若しくは膵島細胞症の予防又は改善用組成物も包含する。
【0125】
<GLP-1分泌の促進方法>
上述のとおり、本発明は、GPR84へのGPR84アゴニストの結合を介して、GLP-1の分泌が促進されるという新規な知見に基づく。
したがって、本発明は、GPR84アゴニスト(中鎖脂肪酸等)と、GPR84発現細胞と接触させる工程を含む、GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進方法も包含する。
【0126】
本発明において「GPR84発現細胞におけるGLP-1分泌の促進」とは、GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量が、GPR84アゴニストと接触させない場合と比較して増加することを意味する。このような増加効果は、主に、GPR84発現細胞のGLP-1分泌経路の活性化による。
【0127】
<GLP-1分泌促進用組成物の製造方法>
上述のとおり、本発明は、GPR84へのGPR84アゴニストの結合を介して、GLP-1の分泌が促進されるという新規な知見に基づく。
したがって、本発明は、GPR84への結合性を基準として同定されたGPR84アゴニストを用いた、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法も包含する。
【0128】
具体的に、本発明のGLP-1分泌促進用組成物の製造方法は、以下の2態様を包含する。
【0129】
<製造方法-1>
本発明のGLP-1分泌促進用組成物の製造方法について、第1の態様は以下のとおりである。
GPR84アゴニスト候補物質と、GPR84発現細胞と、をインビトロで接触させる接触工程と、
接触工程の前後において、GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する測定工程と、
測定工程後、接触工程前のGLP-1分泌量よりも接触工程後のGLP-1分泌量を増加させたGPR84アゴニストをGLP-1分泌促進剤として同定する同定工程と、
を含む、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法。
【0130】
(接触工程)
接触工程においては、GPR84アゴニスト候補物質と、GPR84発現細胞と、をインビトロで接触させる。
【0131】
本発明において「GPR84アゴニスト候補物質」としては任意の物質を用いることができる。GPR84アゴニスト候補物質としては、例えば、タンパク質、ペプチド、脂肪酸等が挙げられる。
【0132】
GPR84アゴニスト候補物質は、ヒトGPR84のアゴニストであってもよい。ヒトGPR84のアゴニストとしては、中鎖脂肪酸、タンパク質、ペプチド、中鎖脂肪酸以外の脂肪酸等が挙げられる。
【0133】
GPR84アゴニスト候補物質は、経口投与可能な物質であってもよい。このような物質としては、中鎖脂肪酸、タンパク質、ペプチド、中鎖脂肪酸以外の脂肪酸等が挙げられる。
【0134】
GPR84アゴニスト候補物質は、選択的GPR84アゴニストであってもよい。選択的GPR84アゴニストとしては、タンパク質、ペプチド、脂肪酸等が挙げられる。
【0135】
選択的GPR84アゴニスト候補物質は、EC50が10μM未満であってもよい。
【0136】
GPR84アゴニスト候補物質は、低分子化合物であってもよい。
本発明において「低分子化合物」とは、分子量が200以下である任意の化合物を意味する。
【0137】
GPR84アゴニスト候補物質は、中鎖脂肪酸であってもよい。中鎖脂肪酸は、上記(GPR84アゴニストの例)で挙げたものであってもよい。
【0138】
GPR84アゴニスト候補物質と、GPR84発現細胞とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、細胞培養培地中で、GPR84発現細胞を、GPR84アゴニスト候補物質の存在下で培養する方法が挙げられる。培養条件等は、従来知られる条件を採用できる。
【0139】
(測定工程)
測定工程においては、接触工程の前後において、GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量を測定する。
すなわち、接触工程に供する前のGPR84発現細胞の培養培地中のGLP-1濃度、及び、接触工程に供した後のGPR84発現細胞の培養培地中のGLP-1濃度をそれぞれ測定する。
接触工程の前におけるGPR84発現細胞からのGLP-1分泌量は、好ましくは接触工程の30分前以内に回収した培養培地について測定する。
接触工程の後におけるGPR84発現細胞からのGLP-1分泌量は、好ましくは接触工程の60分後以内に回収した培養培地について測定する。
接触工程の前、及び後の培養培地の回収時間が上記の範囲にあると、測定の繰り返し精度がより向上する。
【0140】
GPR84発現細胞からのGLP-1分泌量の測定方法は特に限定されないが、測定対象の種類に応じて選択でき、例えば、ホルモンについて従来知られる測定方法(ELISA等)を採用できる。
【0141】
測定工程における測定対象は、生物活性GLP-1量であってもよい。
【0142】
(同定工程)
同定工程では、測定工程後、接触工程前のGLP-1分泌量よりも接触工程後のGLP-1分泌量を増加させたGPR84アゴニストをGLP-1分泌促進剤として同定する。
本発明において「接触工程前のGLP-1分泌量よりも接触工程後のGLP-1分泌量を増加させた」とは、接触工程後の測定値が、接触工程前の測定値と比較して、例えば2倍以上高いことを意味する。
【0143】
<製造方法-2>
本発明のGLP-1分泌促進用組成物の製造方法について、第2の態様は以下のとおりである。
哺乳動物(ただし、ヒトを除く。)に、GPR84アゴニスト候補物質を投与する投与工程と、
投与工程の前後において、哺乳動物から生物学的試料を取得する試料取得工程と、
生物学的試料におけるGLP-1量を測定する測定工程と、
測定工程後、投与工程前のGLP-1分泌量よりも投与工程後のGLP-1分泌量を増加させたGPR84アゴニスト候補物質をGLP-1分泌促進剤として同定する同定工程と、
を含む、GLP-1分泌促進用組成物の製造方法。
【0144】
以下、<製造方法-1>と共通する事項は記載を適宜省略する。
【0145】
(投与工程)
投与工程では、哺乳動物に、GPR84アゴニスト候補物質を投与する。
【0146】
哺乳動物としては、特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ等が挙げられる。但し、ヒトは除かれる。
【0147】
投与工程におけるGPR84アゴニスト候補物質の投与量は特に限定されないが、500~2000mg/kg体重であってもよい。
【0148】
投与工程におけるGPR84アゴニスト候補物質の投与方法は特に限定されないが、例えば、経口投与であってもよい。
【0149】
(試料取得工程)
試料取得工程では、投与工程の前後において、哺乳動物から生物学的試料を取得する。
すなわち、投与工程に供する前の哺乳動物、及び投与工程に供した後の哺乳動物のそれぞれから、同種の生物学的試料を取得する。
【0150】
本発明において「生物学的試料」とは、生体から単離できる任意の物質を意味する。
具体的な生物学的試料としては、特に限定されないが、血液(血漿、血清)等が挙げられる。これらのうち、試料の扱いやすさから血液が好ましい。
【0151】
投与工程の前における生物学的試料は、好ましくは投与工程の60分前以内に取得する。
投与工程の後における生物学的試料は、好ましくは投与工程の120分後以内に取得する。
投与工程の前、及び後の生物学的試料の取得時間が上記の範囲にあると、測定の繰り返し精度がより向上する。
【0152】
(測定工程)
測定工程では、投与工程の前後で得られた生物学的試料におけるGLP-1量を測定する。
GLP-1量の測定方法は特に限定されないが、生物学的試料の種類に応じて選択でき、例えば、ホルモンについて従来知られる測定方法(ELISA等)を採用できる。
【0153】
測定工程における測定対象は、生物活性GLP-1量であってもよい。
【0154】
(同定工程)
同定工程では、測定工程後、投与工程前のGLP-1分泌量よりも投与工程後のGLP-1分泌量を増加させたGPR84アゴニスト候補物質をGLP-1分泌促進剤として同定する。
本発明において「投与工程前のGLP-1分泌量よりも投与工程後のGLP-1分泌量を増加させた」とは、投与工程後の測定値が、投与工程前の測定値と比較して、例えば2倍以上高いことを意味する。
【0155】
<製造方法-1及び2におけるさらなる工程>
同定工程後、上記製造方法-1及び2のいずれにおいても、以下の工程のいずれか1以上をさらに設けてもよい。下記の工程の順序は特に限定されない。
【0156】
(組成物作製工程)
組成物作製工程では、同定工程で同定されたGLP-1分泌促進剤と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む組成物を作製する。
この工程により、流通可能なGLP-1分泌促進用組成物を作製できる。
【0157】
組成物の形態や組成については、上記<本発明のGLP-1分泌促進剤を含む組成物>で挙げたものを採用できる。
【0158】
(構造分析工程)
構造分析工程では、同定工程後、GPR84アゴニスト候補物質の構造を分析する。
この工程は、GPR84アゴニスト候補物質の構造が未知である場合に有用である。
【0159】
構造分析の方法は特に限定されないが、X線解析、質量分析等が挙げられる。
【0160】
(合成工程)
合成工程では、同定工程後、GPR84アゴニスト候補物質を合成する。
この工程により、GLP-1分泌促進剤の有効成分であるGPR84アゴニストを、所望の量作製することができる。
【0161】
合成方法は特に限定されないが、微生物培養等が挙げられる。
【0162】
なお、GPR84アゴニスト候補物質の構造が未知である場合、構造分析工程を行ってから合成工程を行うことが好ましい。
【0163】
<GPR84アゴニストの使用>
上述のとおり、本発明は、GPR84へのGPR84アゴニストの結合を介して、GLP-1の分泌が促進されるという新規な知見に基づく。GLP-1の分泌の促進は、種々の疾患の治療効果をもたらす。
したがって、本発明は、GPR84アゴニストの、疾患の治療薬を製造するための使用であって、該疾患が、糖尿病、肥満、食後高血糖、及び神経変性疾患からなる群から選択される1以上である、使用も包含する。
【実施例
【0164】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0165】
<試験1>中鎖脂肪酸がGLP-1分泌に及ぼす影響の検討-1
以下の方法で細胞培養試験(in vitro試験)を行い、腸内分泌細胞(STC-1細胞)に対して各種中鎖脂肪酸(カプリン酸又はラウリン酸、いずれもフリー体)を投与することによる、各中鎖脂肪酸がGLP-1分泌に及ぼす影響を検討した。
なお、上記中鎖脂肪酸はGPR84アゴニストに相当する。
【0166】
(1)試料の調製
各種中鎖脂肪酸試料を以下の方法で作製した。なお、対照としてジメチルスルホキシド試料もあわせて準備した。
【0167】
(1-1)対照試料
ジメチルスルホキシド(商品名「Dimethyl Sulfoxide」、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、対照試料として用いた。
【0168】
(1-2)カプリン酸試料
上記(1-1)と同様のジメチルスルホキシド(1ml)に、カプリン酸(商品名「Decanoic Acid <Capric Acid>」、ニュー チェック プレップ社製)172mgを添加し、1000mMのカプリン酸試料を得た。
ジメチルスルホキシド(0.9ml)に、1000mMのカプリン酸試料(0.1ml)を添加し、100mMのカプリン酸試料を得た。
ジメチルスルホキシド(0.9ml)に、100mMのカプリン酸試料(0.1ml)を添加し、10mMのカプリン酸試料を得た。
なお、ジメチルスルホキシドにカプリン酸を添加する際には、加温しながら混合し、カプリン酸濃度が均一な試料を調製した。
【0169】
(1-3)ラウリン酸試料
上記(1-1)と同様のジメチルスルホキシド(1ml)に、ラウリン酸(商品名「Dodecanoic Acid <Lauric Acid>」、ニュー チェック プレップ社製)200mgを添加し、1000mMのラウリン酸試料を得た。
ジメチルスルホキシド(0.9ml)に、1000mMのラウリン酸試料(0.1ml)を添加し、100mMのラウリン酸試料を得た。
ジメチルスルホキシド(0.9ml)に、100mMのラウリン酸試料(0.1ml)を添加し、10mMのラウリン酸試料を得た。
なお、ジメチルスルホキシドにラウリン酸を添加する際には、加温しながら混合し、ラウリン酸濃度が均一な試料を調製した。
【0170】
(2)STC-1細胞の調製
STC-1細胞(商品名「STC-1」、American Type Culture Collection社製)を培地中で、5% CO、37℃にて48時間培養し、細胞培養試験用STC-1細胞を得た。
なお、培地として、15% ウマ血清(商品名「Horse Serum, New Zealand origin」、Gibco社製)、及び、5% ウシ胎児血清(商品名「Fetal Bovine Serum (FBS) Standard, Origin South America」、コスモ・バイオ社製)を含むDMEM培地(商品名「ダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)」、シグマアルドリッチ社製)を用いた。
【0171】
(3)細胞培養試験
STC-1細胞の培養培地を無血清培地に交換し(300μl/well)、30分間のスタベーション処理を行った後、さらに該無血清培地を新たな無血清培地に交換し(300μl/well)、各wellに、各試料のいずれかを0.3μlずつ添加した。
試料投与から30分後に、3μL DPP4阻害薬(商品名「DPP IV I nhibitor」、シグマアルドリッチ社製)をあらかじめ入れておいた1.5mlチューブに培地を回収し、混合した。次いで、各チューブを、4℃、1,000×gで5分間遠心し、上清を新しい1.5mlチューブに回収した。
【0172】
(4)GLP-1濃度の測定
回収した上清中のGLP-1濃度(nM)を測定した。なお、GLP-1濃度の測定は、市販のキット(商品名「Glucagon Like Peptide-1 (Active) ELISA」、シグマアルドリッチ社製)を用いてELISA法により行った。
【0173】
細胞培養試験の結果を図1及び表1に示す。なお、図1及び表1のデータにおいて、GLP-1濃度の測定値は、「平均値±標準誤差」で表した。試行間の有意差検定には、Dunnet検定を用い、危険率5%未満の場合に有意差ありと判断した(p<0.05)。また、図1及び表1中の試料濃度は、細胞培養試験における培地中濃度を示す。
【0174】
図1及び表1に示されるとおり、カプリン酸、及びラウリン酸のいずれも、STC-1細胞からのGLP-1分泌を促進した。
このような促進効果は、各中鎖脂肪酸濃度が高くなるほど顕著になる傾向にあった。
また、カプリン酸と比較して、ラウリン酸の方がGLP-1分泌の促進効果が高い傾向にあった。
【0175】
【表1】
【0176】
<試験2>中鎖脂肪酸がインスリン分泌に及ぼす影響の検討
以下の方法で糖負荷試験を行い、マウスへの各種中鎖脂肪酸(カプリン酸又はラウリン酸、いずれもフリー体)の投与が、糖負荷時血漿インスリン分泌に及ぼす影響を検討した。
なお、上記中鎖脂肪酸はGPR84アゴニストに相当する。
【0177】
(1)試料の調製
各種中鎖脂肪酸試料、及び、糖負荷のためのグルコース液を以下の方法で作製した。なお、対照としてカルボキシメチルセルロース試料もあわせて準備した。
【0178】
(1-1)対照試料
PBS(商品名「Phosphate Buffered Salts Tablets」、タカラバイオ株式会社製)10錠を蒸留水に溶解させ、全量を1000mlに調整した。作製した溶液10mlに、カルボキシメチルセルロース(商品名「カルボキシメチルセルロースナトリウム」、富士フイルム和光純薬株式会社製)50mgを添加及び混合し、対照試料を得た。
なお、カルボキシメチルセルロースは、医薬品等の担体として知られる成分である。
【0179】
(1-2)カプリン酸試料
PBS(商品名「Phosphate Buffered Salts Tablets」、タカラバイオ株式会社製)10錠を蒸留水に溶解させ、全量を1000mlに調整した。作製した溶液10mlに、カルボキシメチルセルロース(商品名「カルボキシメチルセルロースナトリウム」、富士フイルム和光純薬株式会社製)50mgを添加及び混合し、担体溶液を得た。
得られた担体溶液に、カプリン酸(商品名「デカン酸」、富士フイルム和光純薬株式会社製)2gを添加し、加温しながら混合することで、カプリン酸試料を得た。
【0180】
(1-3)ラウリン酸試料
上記(1-2)と同様に担体溶液を得た。
得られた担体溶液に、ラウリン酸(商品名「ドデカン酸」、シグマアルドリッチ社製)2gを添加し、加温しながら混合することで、ラウリン酸試料を得た。
【0181】
(1-4)グルコース液
PBS(商品名「Phosphate Buffered Salts Tablets」、タカラバイオ株式会社製)10錠を蒸留水に溶解させ、全量を1000mlに調整した。作製した溶液10mlに、グルコース(商品名「D(+)-グルコース」、富士フイルム和光純薬株式会社製)2.5gを添加し、グルコース液を得た。
【0182】
(2)糖負荷試験
以下の方法に基づき、各群のマウスに、対照試料、カプリン酸試料、及びラウリン酸試料のいずれかを投与した後、グルコース液をさらに投与する糖負荷試験を行った。
【0183】
(2-1)マウスの準備
7~9週齢のC57BL/6雄性マウスを日本エスエルシー株式会社より購入した。
各マウス(計15匹)は、1週間馴化飼育した後、体重の平均値が均一になるように3群(対照試料投与群、カプリン酸試料投与群、及びラウリン酸試料投与群)に分けた。
【0184】
なお、マウスの飼育は、温度24±1℃、湿度50±10%、12時間明暗サイクル(8:00~20:00照明)の環境下にて、プラスチックケージ内で行った。水、及び固形飼料(商品名「マウス・ラット・ハムスター用 CLEA Rodent Diet CE-2」、日本クレア株式会社製)は自由摂取とした。ただし、糖負荷試験前日は、17:00から絶食を行い、試験当日は10:00から投与を開始した。
【0185】
(2-2)試料の投与及び糖負荷
各群のマウスに、各試料(対照試料、カプリン酸試料、及びラウリン酸試料のいずれか)投与60分後に、グルコース液を投与した。なお、投与時点のマウスは8~10週齢だった。
【0186】
各試料(対照試料、カプリン酸試料、ラウリン酸試料、及びグルコース液)は、ゾンデを用いてマウスに経口投与した。
【0187】
各試料の投与量は、以下のように設定した。
対照試料、カプリン酸試料、ラウリン酸試料:マウスの体重1kg当たりそれぞれ1000mg
グルコース液:マウスの体重1kg当たり2.5g
【0188】
(3)血漿インスリン濃度の測定
各群について、グルコース液投与30分後の時点で、下大静脈から採血を行った。
得られた血液から従来知られる方法で血漿を調製し、血漿インスリン濃度(pg/ml)を測定した。なお、血漿インスリン濃度の測定は、市販のキット(商品名「レビス(商標) インスリン-マウス(RTU)」、富士フイルムワコーシバヤギ株式会社製)を用いてELISA法により行った。
【0189】
試験結果を図2及び表2に示す。なお、図2及び表2のデータにおいて、血漿インスリン濃度の測定値は、「平均値±標準誤差」で表した。試行間の有意差検定には、Dunnet検定を用い、危険率5%未満の場合に有意差ありと判断した(p<0.05)。
【0190】
【表2】
【0191】
図2及び表2に示されるとおり、カプリン酸、及びラウリン酸のいずれも、血漿インスリン濃度を顕著に増加させた。
また、カプリン酸と比較して、ラウリン酸の方が血漿インスリン濃度の増加効果が高い傾向にあった。
【0192】
<試験3>中鎖脂肪酸がGLP-1分泌に及ぼす影響の検討-2
以下の方法で投与試験を行い、マウスへの各種中鎖脂肪酸(カプリン酸又はラウリン酸、いずれもフリー体)の投与が、血漿GLP-1分泌に及ぼす影響を検討した。
なお、上記中鎖脂肪酸はGPR84アゴニストに相当する。
【0193】
(1)試料の調製
上記<試験2>と同様に、対照試料(カルボキシメチルセルロース)、カプリン酸試料、及びラウリン酸試料を準備した。
【0194】
(2)投与試験
以下の方法に基づき、各群のマウスに、対照試料、カプリン酸試料、及びラウリン酸試料のいずれかを投与した。
【0195】
(2-1)マウスの準備
本試験では、2種のマウス、すなわち、野生型マウス、及びGPR84ノックアウトマウスを準備した。
野生型マウスとしては、7~9週齢のC57BL/6雄性マウス(日本エスエルシー株式会社より購入)を18匹用いた。
GPR84ノックアウトマウスは、C57BL/6を用いて、Wangらの方法(Pharmacological Research Volume 164,February 2021,105406)に準拠して、12匹作製した。また、GPR84ノックアウトマウスの週齢は、野生型マウスの週齢と揃えた。
各マウスは、1週間馴化飼育した後、体重の平均値が均一になるように6群(野生型マウス、及びGPR84ノックアウトマウスのそれぞれにつき、対照試料投与群、カプリン酸試料投与群、及びラウリン酸試料投与群)に分けた。
【0196】
なお、マウスの飼育は、温度24±1℃、湿度50±10%、12時間明暗サイクル(8:00~20:00照明)の環境下にて、プラスチックケージ内で行った。水、及び固形飼料(商品名「マウス・ラット・ハムスター用 CLEA Rodent Diet CE-2」、日本クレア株式会社製)は自由摂取とした。ただし、糖負荷試験前日は、17:00から絶食を行い、試験当日は10:00から投与を開始した。
【0197】
(2-2)試料の投与
各群のマウスに、尾静脈からの採血後、各試料(対照試料、カプリン酸試料、及びラウリン酸試料のいずれか)を投与した。なお、投与時点のマウスは8~10週齢だった。
【0198】
各試料(対照試料、カプリン酸試料、及びラウリン酸試料)は、ゾンデを用いてマウスに経口投与した。
各試料の投与量は、いずれも、マウスの体重1kg当たりそれぞれ1000mgに設定した。
【0199】
(3)血漿GLP-1濃度の測定
各試料投与120分後に、尾静脈から採血を行った。
試料投与前後に得られた血液から従来知られる方法で血漿を調製し、血漿GLP-1濃度(pM)を測定した。なお、血漿GLP-1濃度の測定は、市販のキット(商品名「Glucagon Like Peptide-1 (Active) ELIS」、シグマアルドリッチ社製)を用いてELISA法により行った。
【0200】
試験結果を図3及び表3に示す。なお、図3及び表3のデータは、各試料投与前における血漿GLP-1濃度の平均値を「1」とした場合の相対値(Relative GLP-1)として示し、「相対値の平均値±標準誤差」で表した。試行間の有意差検定には、Dunnet検定を用い、危険率5%未満の場合に有意差ありと判断した(p<0.05)。
【0201】
図3及び表3中、「WT」とは野生型マウスを意味し、「GPR84KO」とはGPR84ノックアウトマウスを意味する。
【0202】
【表3】
【0203】
図3及び表3の「WT」に示されるとおり、カプリン酸、及びラウリン酸のいずれも、血漿GLP-1濃度を顕著に増加させた。
また、カプリン酸と比較して、ラウリン酸の方が血漿GLP-1濃度の増加効果が高い傾向にあった。
【0204】
これに対し、図3及び表3の「GPR84KO」に示されるとおり、GPR84ノックアウトマウスにおいては、中鎖脂肪酸の種類や、中鎖脂肪酸の投与の有無を問わず、血漿GLP-1濃度に変化が認められなかった。
このことから、カプリン酸、及びラウリン酸による血漿GLP-1濃度の増加効果は、GPR84を介してもたらされることがわかった。
また、上記<試験2>で確認された血漿インスリン濃度の増加は、GPR84を介した血漿GLP-1濃度の増加によるものと推察された。
【0205】
なお、データは示していないが、上記<試験2>同様の試験を、GPR84ノックアウトマウスを用いて行ったところ、カプリン酸、及びラウリン酸のいずれも、血漿インスリン濃度を増加させた。しかし、その増加効果は野生型マウスを用いた場合よりも低かった。
この結果及び上記<試験3>の結果に基づくと、GPR84ノックアウトマウスにおいては、インスリン分泌シグナル伝達経路(生体内に複数存在することが知られる。)のうち、GLP-1濃度の増加を介した経路が遮断される一方、その他の経路は正常に機能し、全体のインスリン分泌量としては野生型マウスと比較して減少したものと推察された。
【0206】
<試験4>トリアシルグリセロールがGLP-1分泌に及ぼす影響の検討
以下の方法で糖負荷試験を行い、マウスへのトリアシルグリセロールの投与が、糖負荷時血漿GLP-1分泌に及ぼす影響を検討した。
【0207】
(1)試料の調製
各種トリアシルグリセロール試料、及び、糖負荷のためのグルコース液を以下の方法で作製した。なお、対照としてPBS溶液もあわせて準備した。
【0208】
(1-1)対照試料
PBS(商品名「Phosphate Buffered Salts Tablets」、タカラバイオ株式会社製)10錠を蒸留水に溶解させ、全量を1000mlに調整し、PBS溶液(対照試料)を得た。
【0209】
(1-2)TriC10試料
上記(1-1)と同様に得たPBS溶液(10ml)に、カルボキシメチルセルロース(商品名「カルボキシメチルセルロースナトリウム」、富士フイルム和光純薬株式会社製)50mgを添加及び混合し、担体溶液を得た。
得られた担体溶液に、構成脂肪酸の全てがカプリン酸であるトリアシルグリセロール(商品名「Tridecanoin <Tricaprin>」、ニュー チェック プレップ社製)2gを添加し、加温しながら混合することで、TriC10試料を得た。
【0210】
(1-3)MCT(75:25)試料
上記(1-2)と同様に担体溶液を得た。
得られた担体溶液に、構成脂肪酸がカプリル酸及びカプリン酸のみであり、かつ、その質量比がカプリル酸:カプリン酸=75:25である中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(商品名「O.D.O」、日清オイリオグループ株式会社製)2gを添加及び混合することで、MCT(75:25)試料を得た。
【0211】
(1-4)MCT(30:70)試料
上記(1-2)と同様に担体溶液を得た。
得られた担体溶液に、構成脂肪酸がカプリル酸及びカプリン酸のみであり、かつ、その質量比がカプリル酸:カプリン酸=30:70である中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(商品名「日清MCT C10R」、日清オイリオグループ株式会社製)2gを添加及び混合することで、MCT(30:70)試料を得た。
【0212】
(1-5)グルコース液
PBS(商品名「Phosphate Buffered Salts Tablets」、タカラバイオ株式会社製)10錠を蒸留水に溶解させ、全量を1000mlに調整した。作製した溶液10mlに、グルコース(商品名「D(+)-グルコース」、富士フイルム和光純薬株式会社製)2.5gを添加し、グルコース液を得た。
【0213】
(2)糖負荷試験
以下の方法に基づき、各群のマウスに、対照試料、TriC10試料、MCT(75:25)試料、及びMCT(30:70)試料のいずれかを投与した後、グルコース液をさらに投与する糖負荷試験を行った。
【0214】
(2-1)マウスの準備
7~9週齢のC57BL/6雄性マウスを日本エスエルシー株式会社より購入した。
各マウス(計12匹)は、1週間馴化飼育した後、体重の平均値が均一になるように4群(対照試料投与群、TriC10試料投与群、MCT(75:25)試料投与群、及びMCT(30:70)試料投与群)に分けた。
【0215】
なお、マウスの飼育は、温度24±1℃、湿度50±10%、12時間明暗サイクル(8:00~20:00照明)の環境下にて、プラスチックケージ内で行った。水、及び固形飼料(商品名「マウス・ラット・ハムスター用 CLEA Rodent Diet CE-2」、日本クレア株式会社製)は自由摂取とした。ただし、糖負荷試験前日は、17:00から絶食を行い、試験当日は10:00から投与を開始した。
【0216】
(2-2)試料の投与及び糖負荷
各群のマウスに、各試料(対照試料、TriC10試料、MCT(75:25)試料、及びMCT(30:70)試料のいずれか)投与60分後に、グルコース液を投与した。なお、投与時点のマウスは8~10週齢だった。
【0217】
各試料(対照試料、TriC10試料、MCT(75:25)試料、MCT(30:70)試料、及びグルコース液)は、ゾンデを用いてマウスに経口投与した。
【0218】
各試料の投与量は、以下のように設定した。
対照試料、TriC10試料、MCT(75:25)試料、MCT(30:70)試料:マウス1匹当たりそれぞれ300μl
グルコース液:マウスの体重1kg当たり2.5g
【0219】
(3)血漿GLP-1濃度の測定
各群について、グルコース液投与30分後の時点で、下大静脈から採血を行った。
得られた血液から従来知られる方法で血漿を調製し、血漿GLP-1濃度(pM)を測定した。なお、血漿GLP-1濃度の測定は、市販のキット(商品名「Glucagon Like Peptide-1 (Active) ELISA」、シグマアルドリッチ社製)を用いてELISA法により行った。
【0220】
試験結果を図4及び表4に示す。なお、図4及び表4のデータにおいて、血漿GLP-1濃度の測定値は、「平均値±標準誤差」で表した。
【0221】
図4及び表4に示されるとおり、いずれのトリアシルグリセロールも、血漿GLP-1濃度を増加させた。
この結果から、中鎖脂肪酸は、フリー体ではなく、トリアシルグリセロールの形態で投与しても本発明の効果が奏されることがわかった。
【0222】
【表4】
図1
図2
図3
図4