(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、硬化性組成物、硬化物、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20230606BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230606BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08G59/20
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2022566870
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043092
(87)【国際公開番号】W WO2022118723
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020200933
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】青山 和賢
(72)【発明者】
【氏名】矢本 和久
(72)【発明者】
【氏名】秋元 源祐
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037487(JP,A)
【文献】特開平11-060681(JP,A)
【文献】特公平02-012225(JP,B2)
【文献】特開2007-039551(JP,A)
【文献】特開2011-026385(JP,A)
【文献】特開2000-044775(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037584(WO,A1)
【文献】特開2018-138681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェノール化合物(P1)のグリシジルエーテル化物(E1)、及び、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とするフェノール性水酸基含有樹脂(P2)のグリシジルエーテル化物(E2)を含有
し、前記グリシジルエーテル化物(E1)と前記グリシジルエーテル化物(E2)との合計質量に対する前記グリシジルエーテル化物(E1)の割合が、20質量%以上、40質量%以下であるエポキシ樹脂。
【化1】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【請求項2】
前記グリシジルエーテル化物(E1)と前記グリシジルエーテル化物(E2)との合計質量に対する前記グリシジルエーテル化物(E1)の割合が、25質量%以上、40質量%以下である請求項1記載のエポキシ樹脂。
【請求項3】
ビフェノール化合物(P1)、及び、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とするフェノール性水酸基含有樹脂(P2)の混合物のグリシジルエーテル化物(E3)を含有
し、前記ビフェノール化合物(P1)と前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)との合計質量に対する前記ビフェノール化合物(P1)の割合が、20質量%以上、40質量%以下であるエポキシ樹脂。
【化2】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【請求項4】
前記ビフェノール化合物(P1)と前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)との合計質量に対する前記ビフェノール化合物(P1)の割合が、25質量%以上、40質量%以下である請求項3記載のエポキシ樹脂。
【請求項5】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が、1分子中にナフタレン環構造を3つ有する化合物(A)を含有する請求項1~4の何れか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項6】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)中の前記化合物(A)の含有量が、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のチャート図の面積比から算出される値で5~50%である請求項5に記載のエポキシ樹脂。
【請求項7】
ICI粘度計で測定した150℃における溶融粘度が、0.01~5dPa・sである請求項1~6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂、及び、エポキシ樹脂用硬化剤を含有する硬化性組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項10】
請求項8に記載の硬化性組成物を含有する半導体封止材料。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体封止材料の硬化物を含む半導体装置。
【請求項12】
補強基材、及び、前記補強基材に含浸した請求項8に記載の硬化性組成物の半硬化物を有するプリプレグ。
【請求項13】
請求項12に記載のプリプレグ、及び、銅箔の積層体である回路基板。
【請求項14】
請求項8に記載の硬化性組成物を含有するビルドアップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂、硬化性組成物、硬化物、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂及びその硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物は、高耐熱性、耐湿性、低粘性等の諸物性に優れる点から、半導体封止材料やプリント回路基板等の電子部品、導電ペースト等の導電性接着剤、その他接着剤、複合材料用マトリックス、塗料、フォトレジスト材料、及び、顕色材料等で広く用いられている。
【0003】
これらの各種用途のうち、半導体封止材料の分野では、BGA、CSPといった半導体パッケージの表面実装化が進展しているが、表面実装するために、半導体パッケージがリフロー工程で高温に曝されるため、封止用の樹脂材料には、高耐熱性が求められている。
【0004】
さらに、近年の電子機器の小型化・薄型化や一括封止プロセスにて発生する半導体封止材の反りを低減するため、高靭性が付与された樹脂材料が求められている。
【0005】
また、上記各性能に加え、半導体封止材料は樹脂材料にシリカ等の無機充填剤を充填させて用いることから、充填剤の充填率を高めるために、樹脂材料が低粘度で流動性に優れることも求められている。
【0006】
かかる要求特性に応える半導体封止材料としては、例えば、アラルキル変性ポリ(オキシナフタレチレン)型エポキシ樹脂を使用することが開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される前記エポキシ樹脂は、得られる硬化物の耐熱性に優れるものの、エポキシ樹脂自体の溶融粘度が高く、前記エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物は流動性や成形性に劣るものであり、反りの低減などについても、明らかにされていない。
【0008】
このように、半導体封止材料の分野において、とりわけ低粘度で流動性や成形性に優れたエポキシ樹脂組成物や前記エポキシ樹脂組成物により得られ、高耐熱性で、高靭性を十分に具備した硬化物を得ることができる半導体封止用のエポキシ樹脂組成物は、得られていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、溶融粘度が低く、流動性、及び、成形性に寄与できるエポキシ樹脂、前記エポキシ樹脂を含有する硬化性組成物、前記硬化性組成物を用いて得られ、高耐熱性、及び、高靭性に優れた硬化物、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、優れた流動性、及び、成形性に寄与できるエポキシ樹脂、前記エポキシ樹脂を含有する硬化性組成物、前記硬化性組成物を用いて得られ、高耐熱性、及び、高靭性に優れた硬化物、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルムを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ビフェノール化合物(P1)のグリシジルエーテル化物(E1)、及び、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とするフェノール性水酸基含有樹脂(P2)のグリシジルエーテル化物(E2)を含有するエポキシ樹脂に関する。
【0013】
【化1】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【0014】
また、本発明は、ビフェノール化合物(P1)、及び、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とするフェノール性水酸基含有樹脂(P2)の混合物のグリシジルエーテル化物(E3)を含有するエポキシ樹脂に関する。
【0015】
【化2】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【0016】
本発明のエポキシ樹脂は、前記ビフェノール化合物(P1)と前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)との合計質量に対する前記ビフェノール化合物(P1)の割合が、0.5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂は、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が、1分子中にナフタレン環構造を3つ有する化合物(A)を含有することが好ましい。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂は、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)中の前記化合物(A)の含有量が、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のチャート図の面積比から算出される値で5~50%であることが好ましい。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂は、ICI粘度計で測定した150℃における溶融粘度が、0.01~5dPa・sであることが好ましい。
【0020】
本発明は、前記エポキシ樹脂、及び、エポキシ樹脂用硬化剤を含有する硬化性組成物に関する。
【0021】
本発明は、前記硬化性組成物の硬化物に関する。
【0022】
本発明は、前記硬化性組成物を含有する半導体封止材料に関する。
【0023】
本発明は、前記半導体封止材料の硬化物を含む半導体装置に関する。
【0024】
本発明は、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した前記硬化性組成物の半硬化物を有するプリプレグに関する。
【0025】
本発明は、前記プリプレグ、及び、銅箔の積層体である回路基板に関する。
【0026】
本発明は、前記硬化性組成物を含有するビルドアップフィルムに関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエポキシ樹脂は、低粘度で、流動性、及び、成形性に優れ、また、前記エポキシ樹脂を含む硬化性組成物の硬化物は、高耐熱性、及び、高靭性に優れることから、特に、半導体封止材料等の電材用樹脂材料として、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】合成例1で得られたフェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)のGPCチャートである。
【
図2】実施例1で得られたエポキシ樹脂(1)のGPCチャートである。
【
図3】実施例2で得られたエポキシ樹脂(2)のGPCチャートである。
【
図4】実施例3で得られたエポキシ樹脂(3)のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、ビフェノール化合物(P1)のグリシジルエーテル化物(E1)、及び、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とするフェノール性水酸基含有樹脂(P2)のグリシジルエーテル化物(E2)を含有するエポキシ樹脂に関する。
【0030】
【化3】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【0031】
また、本発明は、ビフェノール化合物(P1)、及び、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とするフェノール性水酸基含有樹脂(P2)の混合物のグリシジルエーテル化物(E3)を含有するエポキシ樹脂に関する。
【0032】
【化4】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【0033】
<ビフェノール化合物(P1)>
前記ビフェノール化合物(P1)としては、特に制限されないが、例えば、2,2’-ビフェノール、2,4’-ビフェノール、3,3’-ビフェノール、4,4’-ビフェノール、及びこれらの芳香環上に脂肪族炭化水素基やアルコキシ基、ハロゲン原子等が1つないし複数置換した各種の化合物等が挙げられる。前記ビフェノール化合物(P1)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記脂肪族炭化水素基は、直鎖型及び分岐型のいずれでもよく、構造中に不飽和結合を有していてもよい。中でも、硬化物における耐熱性に優れる効果が一層顕著なものとなることから、炭素原子数1~4のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。前記アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。前記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。特に、最終的に得られるエポキシ樹脂の溶融粘度を好ましい値に調整しやすいことから、4,4’-ビフェノール及びその芳香環上に置換基を有するが好ましく、4,4’-ビフェノールがより好ましい。
【0035】
<フェノール性水酸基含有樹脂(P2)>
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)は、ジヒドロキシアレーン化合物(α)と、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるアラルキル化剤(β)とを反応原料とする。
【0036】
【化5】
[上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R
1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar
1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。]
【0037】
上記一般式(1-1)及び(1-2)中、Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。Ar1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかを表す。
【0038】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)は、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)の分子間脱水反応により生じる(ポリ)アリーレンエーテル構造を有する成分を含有する。また、前記アラルキル化剤(β)により、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)中の芳香環の一部又は全部にアラルキル基が導入される。その結果、、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)のグリシジルエーテル化物(E2)は、分子中のグリシジルエーテル基同士の距離が比較的長く、かつ、芳香環濃度が高くなることから、得られる硬化物における耐熱性と靱性とを高いレベルで兼備することができる。
【0039】
前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)は、芳香環上に2つのヒドロキシ基を有する化合物であればよく、その具体的な構造は、特に限定されず、多種多様なものを用いることができる。具体例としては、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン、これらの芳香環上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基等の置換基を1つないし複数有する化合物等が挙げられる。本発明では、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)として、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
前記ジヒドロキシベンゼンにおいて、2つのヒドロキシ基の置換位置は特に限定なく、オルソ位、パラ位、メタ位のいずれであってもよい。また、前記ジヒドロキシナフタレンにおいて、2つのヒドロキシ基の置換位置は特に限定なく、例えば、1,2-位、1,4-位、1,5-位、1,6-位、1,7-位、2,3-位、2,6-位、2,7位のいずれであってもよい。
【0041】
前記ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記脂肪族炭化水素基は、直鎖型及び分岐型のいずれでもよく、構造中に不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。前記アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基等が挙げられる。
【0042】
前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)の中でも、得られる硬化物における耐熱性と靱性とに優れる効果が一層顕著になることから、ジヒドロキシナフタレン及びその芳香環上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基等の置換基を1つないし複数有する化合物が好ましく、ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。前記ジヒドロキシナフタレン上のヒドロキシ基の位置は、1,6-位又は2,7-位であることが好ましく、2,7-位であることがより好ましい。また、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)として、複数種を併用する場合には、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)に占めるジヒドロキシナフタレン及びその芳香環上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基等の置換基を1つないし複数有する化合物の割合が、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0043】
前記アラルキル化剤(β)は、前記一般式(1-1)又は(1-2)で表される分子構造を有する。本発明では、前記アラルキル化剤(β)として、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
前記一般式(1-1)及び(1-2)中、前記Xは、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基のいずれかを表す。前記ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基等が挙げられる。中でも、反応性に優れる点から、ハロゲン原子又は水酸基が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0045】
前記一般式(1-1)及び(1-2)中、前記R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素原子数1~4のアルキル基のいずれかを表す。中でも、反応性に優れる点から、水素原子が好ましい。
【0046】
前記一般式(1-1)及び(1-2)中、前記R2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、メチル基を表す。中でも、反応性に優れる点から、水素原子が好ましい。
【0047】
前記一般式(1-1)及び(1-2)中、前記Ar1は、フェニル基、ナフチル基、これらの芳香核上にハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基を1つないし複数有する構造部位のいずれかである。
【0048】
前記ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。前記脂肪族炭化水素基は、直鎖型及び分岐型のいずれでもよく、構造中に不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。前記アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基等が挙げられる。中でも、硬化物における耐熱性と靱性とに優れる効果が一層顕著になることから、前記Ar1は、フェニル基又はナフチル基であることが好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0049】
前記アラルキル化剤(β)として複数種を併用する場合には、前記アラルキル化剤(β)に占める前記Ar1がフェニル基である化合物の割合が、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0050】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)は、反応原料の一部として、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)及び前記アラルキル化剤(β)以外の成分を用いてもよい。この場合、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)の反応原料の総質量に占める前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)と前記アラルキル化剤(β)との合計質量が80質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0051】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)の製造方法としては、例えば、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)及び前記アラルキル化剤(β)を含む反応原料を、酸触媒条件下で反応させる方法が挙げられる。また、反応は必要に応じて溶媒中で行ってもよい。
【0052】
前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)と前記アラルキル化剤(β)との反応割合は、流動性に優れるエポキシ樹脂となることから、両者のモル比[(α)/(β)]が、1/0.1~1/10の範囲であることが好ましく、1/0.1~1/1の範囲であることがより好ましい。
【0053】
前記酸触媒は、例えば、リン酸、硫酸、塩酸などの無機酸、シュウ酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロメタンスルホン酸等の有機酸、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化第2錫、塩化第2鉄、ジエチル硫酸などのフリーデルクラフツ触媒が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0054】
前記酸触媒として無機酸や有機酸を用いる場合には、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)100質量部に対し0.01~3質量部の範囲で用いることが好ましい。前記酸触媒としてフリーデルクラフツ触媒を用いる場合には、前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)1モルに対し、0.5~2モルの範囲で用いることが好ましい。
【0055】
前記溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、セロソルブ、ブチルカルビトール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の混合溶媒としても良い。これら溶媒を使う場合には、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)の反応原料の総質量に対し、20~300質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0056】
前記ジヒドロキシアレーン化合物(α)と前記アラルキル化剤(β)との反応は、60~180℃程度の温度条件下で行うことが出来、反応時間は、おおよそ1~24時間程度である。反応中に生じた水等を適宜留去することにより、より効率的に反応を進めることができる。反応終了後は、アルカリ金属水酸化物等のアルカリ化合物を用いて反応系中を中和する、或いは水推薦するなどした後、乾燥させるなどして、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)を得ることが出来る。
【0057】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)の水酸基当量は、硬化物における耐熱性及び靱性に優れる効果が一層顕著となることから、100~400g/当量の範囲であることが好ましく、110~300g/当量の範囲であることが好ましい。また、その軟化点は60~140℃の範囲であることが好ましい。
【0058】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)の一例として、例えば、ジヒドロキシアレーン化合物(α)として、2,7-ジヒドロキシナフタレンを、前記アラルキル化剤(β)として、ベンジルアルコールを用いた場合、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が含有する各成分の具体的な構造は、例えば、下記構造式(2-1)~(2-18)のいずれかで表されるものなどが挙げられる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)は、硬化物における耐熱性及び靱性に優れる効果が一層顕著となることから、前記構造式(2-6)~(2-8)や(2-10)、(2-11)で表されるような、1分子中にナフタレン環構造を3つ有する化合物(A)を含有することが好ましい。
【0063】
また、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)中の前記化合物(A)の含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のチャート図の面積比から算出される値で5~50%であることが好ましく、10~45%であることがより好ましい。なお、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、後述する実施例に記載の測定条件で測定したものである。
【0064】
本発明のエポキシ樹脂は、前記ビフェノール化合物(P1)のグリシジルエーテル化物(E1)、及び、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)のグリシジルエーテル化物(E2)を含有するものであれば、その製法は特に限定されず、どのように製造されたものでもよい。
【0065】
本発明のエポキシ樹脂の製造方法としては、例えば、(1)前記ビフェノール化合物(P1)をエピハロヒドリンと反応させてグリシジルエーテル化したグリシジルエーテル化物(E1)を合成し、別途、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)をエピハロヒドリンと反応させてグリシジルエーテル化したグリシジルエーテル化物(E2)を合成し、これらを混合(含有)したものを本発明のエポキシ樹脂とすることができる。
【0066】
また、(2)前記ビフェノール化合物(P1)と、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)との混合物に、エピハロヒドリンを加え、前記ビフェノール化合物(P1)と前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)のそれぞれとエピハロヒドリンを反応させることにより、前記グリシジルエーテル化物(E1)と前記グリシジルエーテル化物(E2)とを含有するグリシジルエーテル化物(E3)を合成し、これを含有したものを本発明のエポキシ樹脂とすることができる。
【0067】
特に、上記(2)の製造方法は、簡便性、及び、作業性に優れるため、好ましい。
【0068】
前記(1)のエポキシ樹脂の製造方法において、前記ビフェノール化合物(P1)とエピハロヒドリンとの反応、及び、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)とエピハロヒドリンとの反応は、例えば、塩基性触媒の存在下、通常20~150℃、好ましくは、30~80℃の範囲で0.5~10時間反応させる方法などが挙げられる。
【0069】
前記エピハロヒドリンとしては、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、β-メチルエピクロルヒドリン等が挙げられる。エピハロヒドリンの添加量は、前記ビフェノール化合物(P1)、または、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が有する水酸基の合計1モルに対して、過剰に用いられるが、通常、1.5~30モルであり、好ましくは、2~15モルの範囲である。
【0070】
前記塩基性触媒としては、例えば、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、及び、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。中でも、触媒活性に優れる点からアルカリ金属水酸化物が好ましく、具体的には、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等がより好ましい。また、これら塩基性触媒は、固形の状態で使用してもよいし、水溶液の状態で使用してもよい。前記塩基性触媒の添加量は、前記ビフェノール化合物(P1)、または、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が有する水酸基の合計1モルに対して、0.9~2モルの範囲であることが好ましい。
【0071】
前記ビフェノール化合物(P1)、及び、前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)と、エピハロヒドリンとの反応は、有機溶媒中で行ってもよい。用いる有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、1、3-ジオキサン、ジエトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいし、また、極性を調製するために、適宜、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記エピハロヒドリンとの反応終了後は、過剰のエピハロヒドリンを留去することにより、粗生成物を得ることができる。必要に応じて、得られた粗生成物を再度有機溶剤に溶解させ、塩基性触媒を加えて再度反応させることにより、加水分解性ハロゲンを低減させてもよい。反応で生じた塩は濾過や水洗等により除去することができる。また、有機溶媒を用いた場合には、留去して樹脂固形分のみを取り出してもよいし、そのまま溶液として用いてもよい。
【0073】
前記(1)のエポキシ樹脂の製造方法において、前記グリシジルエーテル化物(E1)と前記グリシジルエーテル化物(E2)との質量比は特に限定されないが、流動性に優れ、かつ、硬化物における高い靭性特性や低吸湿性に優れるエポキシ樹脂となることから、両者の合計質量に対する前記グリシジルエーテル化物(E1)の割合が、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。また、その上限値は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
前記(2)のエポキシ樹脂の製造方法において、前記ビフェノール化合物(P1)、と前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)との混合物中の両者の質量比は、流動性に優れ、かつ、硬化物における高い靭性特性や低吸湿性に優れるエポキシ樹脂となることから、両者の合計質量に対する前記ビフェノール化合物(P1)の割合が、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。また、その上限値は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
前記ビフェノール化合物(P1)と前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)との混合物とエピハロヒドリンとの反応は、前記(1)のエポキシ樹脂の製造方法と同様の方法にて行うことができる。前記エピハロヒドリンの添加量は、前記ビフェノール化合物(P1)及び前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が有する水酸基の合計1モルに対し、過剰に用いられるが、通常、1.5~30モル、好ましくは、2~15モルの範囲である。また、前記(1)のエポキシ樹脂の製造方法と同様、塩基性触媒を使用することができ、前記塩基性触媒の添加量は、前記ビフェノール化合物(P1)及び前記フェノール性水酸基含有樹脂(P2)が有する水酸基の合計1モルに対して、0.9~2モルの範囲であることが好ましい。
【0076】
本発明のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、140~400g/当量であることが好ましく、140~350g/当量であることがより好ましい。ここでのエポキシ当量の測定は、JIS K 7236に基づいて測定されるものである。
【0077】
本発明のエポキシ樹脂は、ICI粘度計で測定した150℃における溶融粘度が、0.01~5dPa・sであることが好ましく、0.01~2dPa・sであることがより好ましく、0.01~1dPa・sであることが更に好ましい。前記エポキシ樹脂の溶融粘度が前記範囲内であると、低粘度で流動性に優れるため、得られる硬化物の成形性が優れることから好ましい。ここでの溶融粘度は、ASTM D4287に準拠し、ICI粘度計にて測定されるものである。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂は、低粘度で流動性に優れるものとなることから、数平均分子量(Mn)が200~1500の範囲であることが好まし200~800の範囲であることがより好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は250~2000の範囲であることが好ましく、250~800の範囲であることがより好ましい。また、分散度(Mw/Mn)としては、1~3の範囲であることが好ましい。本発明において、エポキシ樹脂の分子量や分散度は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、後述する実施例に記載の測定条件で測定したものである。
【0079】
本発明のエポキシ樹脂の具体例として、以下の構造式で表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0080】
【化9】
[上記式中、nは0~10の整数である。]
【0081】
<硬化性組成物>
本発明は、前記エポキシ樹脂、及び、エポキシ樹脂用硬化剤を含有する硬化性組成物に関する。前記硬化性組成物が、前記エポキシ樹脂を含有することで、得られる硬化物は、耐熱性や靱性に優れるものとなり、好ましい。
【0082】
本発明の硬化性組成物は、前記エポキシ樹脂のエポキシ基と架橋反応が可能なエポキシ樹脂用硬化剤を、特に制限なく使用できる。前記硬化剤としては、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、活性エステル樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。前記硬化剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
前記フェノール硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェニロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール性水酸基含有化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール性水酸基含有化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール性水酸基含有化合物)等の多価フェノール性水酸基含有化合物が挙げられる。中でも、成形性の観点から、フェノールノボラック樹などがより好ましい。なお、前記フェノール性水酸基を含有する化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
前記アミン硬化剤としては、ジエチレントリアミン(DTA)、トリエチレンテトラミン(TTA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ジプロプレンジアミン(DPDA)、ジエチルアミノプロピルアミン(DEAPA)、N-アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン(MDA)、イソフオロンジアミン(IPDA)、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3-BAC)、ピペリジン、N,N,-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン等の脂肪族アミン;m-キシレンジアミン(XDA)、メタンフェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ベンジルメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の芳香族アミン等が挙げられる。
【0085】
前記酸無水物硬化剤としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0086】
前記エポキシ樹脂の使用量に対する前記硬化剤の使用量としては、例えば、官能基当量比(例えば、フェノール硬化剤の水酸基当量/エポキシ樹脂のエポキシ当量)として、特に制限されるものではないが、得られる硬化物の機械的物性等が良好である点から、前記エポキシ樹脂及び必要に応じて併用されるその他のエポキシ樹脂とのエポキシ基の合計1当量に対して、硬化剤中の活性基が0.5~1.5当量になる量が好ましく、0.8~1.2当量であることがより好ましい。
【0087】
なお、前記硬化性組成物には、前記エポキシ樹脂、及び、前記硬化剤以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を併用することができる。例えば、前記エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリマレイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、トリアジン含有クレゾールノボラック樹脂、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ジアリルビスフェノールやトリアリルイソシアヌレート等のアリル基含有樹脂、ポリリン酸エステル、リン酸エステル-カーボネート共重合体等が挙げられる。これらの他の樹脂は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
<溶媒>
本発明の硬化性組成物は、無溶剤で調製しても構わないし、溶媒を含んでいてもよい。前記溶媒は、硬化性組成物の粘度を調整する機能等を有する。
【0089】
前記溶媒の具体例としては、特に制限されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等のエステル系溶剤;セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
前記溶媒の使用量としては、硬化性組成物の全質量に対して、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましい。溶媒の使用量が10質量%以上であると、ハンドリング性に優れることから好ましい。一方、溶媒の使用量が90質量%以下であると、経済性の観点から好ましい。
【0091】
<添加剤>
本発明の硬化性組成物は、必要に応じて、硬化促進剤、難燃剤、無機充填剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、着色剤、乳化剤等の種々の添加剤を配合することができる。
【0092】
<硬化促進剤>
前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、尿素系硬化促進剤等が挙げられる。なお、前記硬化促進剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
前記リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の有機ホスファイト化合物;エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムジシアナミド、ブチルフェニルホスホニウムジシアナミド、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩等のホスホニウム塩等が挙げられる。
【0094】
前記アミン系硬化促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(4-ジメチルアミノピリジン、DMAP)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-ノネン-5(DBN)等が挙げられる。
【0095】
前記イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン等が挙げられる。
【0096】
前記グアニジン系硬化促進剤としては、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-ブチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド等が挙げられる。
【0097】
前記尿素系硬化促進剤としては、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロルフェニル)-1,1-ジメチル尿素等が挙げられる。
【0098】
前記硬化促進剤のうち、特に半導体封止材料用途として使用する場合には、硬化性、耐熱性、電気特性、耐湿信頼性等に優れる点から、リン系化合物ではトリフェニルホスフィン、第3級アミンでは1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデセン(DBU)を用いることが好ましい。
【0099】
前記硬化促進剤の使用量は、所望の硬化性を得るために適宜調整できるが、前記エポキシ樹脂と硬化剤の混合物の合計量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましい。前記硬化促進剤の使用量が前記範囲内にあると、硬化性、及び、絶縁信頼性に優れ、好ましい。
【0100】
<難燃剤>
前記難燃剤としては、特に制限されないが、無機リン系難燃剤、有機リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等が挙げられる。なお、難燃剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
前記無機リン系難燃剤としては、特に制限されないが、赤リン;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム;リン酸アミド等が挙げられる。
【0102】
前記有機リン系難燃剤としては、特に制限されないが、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、モノイソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ブチルピロホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート、(2-ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート等のリン酸エステル;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィンオキシド等ジフェニルホスフィン;10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(1,4-ジオキシナフタレン)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフェニル-1,4-ジオキシナフタリン、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール等のリン含有フェノール;9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロオキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状リン化合物;前記リン酸エステル、前記ジフェニルホスフィン、前記リン含有フェノールと、エポキシ樹脂やアルデヒド化合物、フェノール化合物と反応させて得られる化合物等が挙げられる。
【0103】
前記ハロゲン系難燃剤としては、特に制限されないが、臭素化ポリスチレン、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラブロモビスフェノールAビス(ジブロモプロピルエーテル)、1,2、-ビス(テトラブロモフタルイミド)、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、テトラブロモフタル酸等が挙げられる。
【0104】
前記難燃剤の使用量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましい。
【0105】
<無機充填剤>
前記無機充填剤としては、特に制限されないが、シリカ、アルミナ、ガラス、コーディエライト、シリコン酸化物、硫酸バリウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マンガン、ホウ酸アルミニウム、炭酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、カーボンブラック等が挙げられる。これらのうち、シリカを用いることが好ましい。この際、シリカとしては、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が用いられうる。中でも、無機質充填剤をより多く配合することが可能となることから、前記溶融シリカが好ましい。前記溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、且つ、硬化性組成物の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いることが好ましい。更に、球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。なお、前記無機充填剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
また、前記無機充填剤は、必要に応じて表面処理されていてもよい。この際、使用されうる表面処理剤としては、特に制限されないが、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等が使用されうる。表面処理剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0107】
前記無機充填剤の使用量は、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤の混合物の合計量100質量部に対して、0.5~95質量部であることが好ましい。前記無機充填剤の使用量が前記範囲内にあると、難燃性、及び、絶縁信頼性に優れ、好ましい。
【0108】
また、本発明の特性を損なわない範囲であれば、前記無機充填剤に加えて、有機充填剤を配合することができる。前記有機充填剤としては、例えば、ポリアミド粒子等が挙げられる。
【0109】
<硬化物>
本発明は、前記硬化性組成物の硬化物に関する。前記エポキシ樹脂を用いることで、前記エポキシ樹脂を含有する前記硬化性組成物から得られる硬化物は、高耐熱及び高靱性を発揮でき、好ましい態様となる。
【0110】
前記硬化性組成物を硬化反応させた硬化物を得る方法としては、例えば、加熱硬化する際の加熱温度は、特に制限されないが、通常、100~300℃であり、加熱時間としては、1~24時間である。
【0111】
本発明の硬化物は、ガラス転移温度(Tg)が、160℃以上であることが好ましい。前記ガラス転移温度(Tg)の測定方法は、本願実施例における評価方法と同様である。
【0112】
また、本発明の硬化物は、シャルピー衝撃強度が6.5J/cm2以上であることが好ましく、7.3J/cm2以上であることがより好ましく、7.8J/cm2以上であることが特に好ましい。シャルピー衝撃強度の測定方法は、本願実施例における評価方法と同様である。
【0113】
<半導体封止材料>
本発明は、前記硬化性組成物を含有する半導体封止材料に関する。前記硬化性組成物を用いて得られる半導体封止材料は、前記エポキシ樹脂を使用するため、低粘度で流動性に優れ、更に硬化物における耐熱性及び靱性が改善されているため、製造工程における加工性や成形性に優れ、好ましい態様となる。
【0114】
前記半導体封止材料に用いられる前記硬化性組成物には、無機充填剤を含有することができる。なお、前記無機充填剤の充填率としては、前記硬化性組成物100質量部に対して、例えば、無機充填剤を0.5~95質量部の範囲で用いることができる。
【0115】
前記半導体封止材料を得る方法としては、前記硬化性組成物に、更に任意成分である添加剤とを必要に応じて、押出機、ニ-ダ、ロ-ル等を用いて均一になるまで充分に溶融混合する方法などが挙げられる。
【0116】
<半導体装置>
本発明は、前記半導体封止材料の硬化物を含む半導体装置に関する。前記硬化性組成物を用いて得られる半導体封止材料を用いて得られる半導体装置は、前記エポキシ樹脂を使用するため、低粘度で流動性に優れ、更に、硬化物における耐熱性と靱性とが改善されているため、製造工程における加工性や成形に優れ、好ましい態様となる。
【0117】
前記半導体装置を得る方法としては、前記半導体封止材料を注型、または、トランスファー成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに室温(20℃)~250℃の温度範囲で、加熱硬化する方法が挙げられる。
【0118】
<プリプレグ>
本発明は、補強基材、及び、前記補強基材に含浸した前記硬化性組成物の半硬化物を有するプリプレグに関する。上記硬化性組成物からプリプレグを得る方法としては、後述する有機溶媒を配合して、ワニス化した硬化性組成物を、補強基材(紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布など)に含浸したのち、用いた溶媒種に応じた加熱温度、好ましくは50~170℃で加熱することによって、得る方法が挙げられる。この時用いる硬化性組成物と補強基材の質量割合としては、特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20~60質量%となるように調製することが好ましい。
【0119】
ここで用いる有機溶媒としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、その選択や適正な使用量は用途によって適宜選択し得るが、例えば、下記のようにプリプレグからプリント回路基板をさらに製造する場合には、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶媒を用いることが好ましく、また、不揮発分が40~80質量%となる割合で用いることが好ましい。
【0120】
<回路基板>
本発明は、前記プリプレグ、及び、銅箔の積層体である回路基板に関する。上記硬化性組成物からプリント回路基板を得る方法としては、上記プリプレグを、常法により積層し、適宜銅箔を重ねて、1~10MPaの加圧下に170~300℃で10分~3時間、加熱圧着させる方法が挙げられる。
【0121】
<ビルドアップフィルム>
本発明は、前記硬化性組成物を含有するビルドアップフィルムに関する。本発明のビルドアップフィルムを製造する方法としては、上記硬化性組成物を、支持フィルム上に塗布し、硬化性組成物層を形成させて多層プリント配線板用の接着フィルムとすることにより製造する方法が挙げられる。
【0122】
硬化性組成物からビルドアップフィルムを製造する場合、該フィルムは、真空ラミネート法におけるラミネートの温度条件(通常70~140℃)で軟化し、回路基板のラミネートと同時に、回路基板に存在するビアホール、あるいは、スルーホール内の樹脂充填が可能な流動性(樹脂流れ)を示すことが肝要であり、このような特性を発現するよう上記各成分を配合することが好ましい。
【0123】
ここで、多層プリント配線板のスルーホールの直径は、通常0.1~0.5mm、深さは通常0.1~1.2mmであり、通常この範囲で樹脂充填を可能とするのが好ましい。なお回路基板の両面をラミネートする場合はスルーホールの1/2程度充填されることが望ましい。
【0124】
上記した接着フィルムを製造する方法は、具体的には、ワニス状の上記硬化性組成物を調製した後、支持フィルム(Y)の表面に、このワニス状の組成物を塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶媒を乾燥させて硬化性組成物からなる組成物層(X)を形成させることにより製造することができる。
【0125】
形成される組成物層(X)の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とすることが好ましい。回路基板が有する導体層の厚さは通常5~70μmの範囲であるので、樹脂組成物層の厚さは10~100μmの厚みを有するのが好ましい。
【0126】
なお、本発明における組成物層(X)は、後述する保護フィルムで保護されていてもよい。保護フィルムで保護することにより、樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。
【0127】
上記した支持フィルム及び保護フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び保護フィルムはマッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。
【0128】
支持フィルムの厚さは特に限定されないが、通常10~150μmであり、好ましくは25~50μmの範囲で用いられる。また保護フィルムの厚さは1~40μmとするのが好ましい。
【0129】
上記した支持フィルム(Y)は、回路基板にラミネートした後に、或いは加熱硬化することにより絶縁層を形成した後に、剥離される。接着フィルムを加熱硬化した後に支持フィルム(Y)を剥離すれば、硬化工程でのゴミ等の付着を防ぐことができる。硬化後に剥離する場合、通常、支持フィルムには予め離型処理が施される。
【0130】
<その他の用途>
本発明の硬化性組成物により得られる硬化物は、硬化物における耐熱性や靱性などに優れることから、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、及び、ビルドアップフィルム等の用途だけでなく、ビルドアップ基板、接着剤、レジスト材料、繊維強化樹脂のマトリクス樹脂など、各種用途にも好適に使用可能であり、用途においては、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0131】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの範囲に限定されるものではない。なお、物性・特性の測定・評価は、以下の通り実施し、評価結果を下記表1、及び、表2に示した。
【0132】
<軟化点>
JIS K7234(環球法)に準拠して、軟化点(℃)を測定した。
【0133】
<エポキシ当量の測定>
JIS K 7236に基づいて測定した。
【0134】
<150℃における溶融粘度測定法>
ASTM D4287に準拠し、ICI粘度計にて測定した。
【0135】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定>
以下に示す条件により、GPC測定を行い、得られたGPCチャートを評価して、得られたエポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び、分散度(Mw/Mn)を算出した。
測定装置:東ソー株式会社製「HLC-8320 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL-L」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK-GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPCワークステーション EcoSEC-WorkStation」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 :前記「GPCワークステーション EcoSEC―WorkStation」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0136】
(合成例1:フェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)の合成)
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、2,7-ジヒドロキシナフタレン160g(1.0モル)、ベンジルアルコール27.0g(0.25モル)を仕込み、室温条件下、窒素を吹き込みながら撹拌した。次いで、p-トルエンスルホン酸・一水和物2.7gを添加した。その後、油浴中で発熱に注意しながら150℃まで加熱し、分留管を用いて生成する水を抜き出した後、更に5時間反応させた。反応終了後、メチルイソブチルケトン1000gを加え、反応生成物を溶解させた後、分液ロートに移した。洗浄水が中性を示すまで水洗した後、加熱減圧条件下で有機層から溶媒を除去し、目的のフェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)240gを得た。得られたフェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)の軟化点は97℃、水酸基当量は146g/当量であった。また、フェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)の、1分子中にナフタレン環構造を3つ有する化合物(A)の含有量は33%であった。フェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)のGPCチャートを
図1に示した。なお、前記化合物(A)の含有量は、GPCチャートの面積比より算出した。
【0137】
なお、上記で得られたフェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)中に含まれる化合物(A)は、以下の構造式で表されるものであった。
【0138】
【0139】
(実施例1:エポキシ樹脂(1)の合成)
温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例1で得られたフェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)180.0g、4,4’-ビフェノール60.0g、エピクロルヒドリン1157g、n-ブタノール347g、水58gを仕込み溶解させた。60℃に昇温した後、20質量%水酸化ナトリウム水溶液480gを5時間かけて滴下した。その後、同条件で0.5時間撹拌を続けた。その後、未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留によって留去させ、粗生成物を得た。得られた粗生成物にメチルイソブチルケトン600gを加えて溶解させた。この溶液に5質量%水酸化ナトリウム水溶液33gを添加し、80℃で2時間反応させた。反応混合物に水180gを加え、水洗した。洗浄液のpHが中性となるまで、水洗を3回繰り返した。次いで、系内を共沸させて脱水し、精密濾過を経た後、溶媒を減圧下で留去し、エポキシ樹脂(1)を得た。得られたエポキシ樹脂(1)のエポキシ当量は197g/当量、150℃における溶融粘度は0.2dPa・s、数平均分子量(Mn)は314、重量平均分子量(Mw)は372、分散度(Mw/Mn)は1.2であった。エポキシ樹脂(1)のGPCチャートを
図2に示した。
【0140】
上記で得られたエポキシ樹脂(1)は、以下の構造式で表されるエポキシ樹脂を含有するものであった。
【0141】
【化11】
[上記式中、nは、0~10の整数である。]
【0142】
(実施例2:エポキシ樹脂(2)の合成)
実施例1において、フェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)192.0g、4,4’-ビフェノール48.0gへと変更する以外は実施例1と同様に反応を行い、エポキシ樹脂(2)を得た。得られたエポキシ樹脂(2)のエポキシ当量は203g/当量、150℃における溶融粘度は0.3dPa・s、数平均分子量(Mn)は319、重量平均分子量(Mw)は381、分散度(Mw/Mn)は1.2であった。GPCチャートを
図3に示した。
【0143】
上記で得られたエポキシ樹脂(2)は、以下の構造式で表されるエポキシ樹脂を含有するものであった。
【0144】
【化12】
[上記式中、nは、0~10の整数である。]
【0145】
(実施例3:エポキシ樹脂(3)の合成)
実施例1において、フェノール性水酸基含有樹脂(P2-1)232.8g、4,4’-ビフェノール7.2gへと変更する以外は実施例1と同様に反応を行い、エポキシ樹脂(3)を得た。得られたエポキシ樹脂(3)のエポキシ当量は213g/当量、150℃における溶融粘度は0.4dPa・s、数平均分子量(Mn)は336、重量平均分子量(Mw)は412、分散度(Mw/Mn)は1.2であった。GPCチャートを
図4に示した。
【0146】
上記で得られたエポキシ樹脂(3)は、以下の構造式で表されるエポキシ樹脂を含有するものであった。
【0147】
【化13】
[上記式中、nは、0~10の整数である。]
【0148】
(比較合成例1:フェノール性水酸基含有樹脂(1’)の合成)
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、o-クレゾール432.4g(4.0モル)、2-メトキシナフタレン158.2g(1.0モル)、41質量%ホルムアルデヒド水溶液179.3g(2.45モル)を仕込み、シュウ酸9.0gを加えて、100℃まで昇温し100℃で3時間反応させた。ついで、水を分留管で捕集しながら、41質量%ホルムアルデヒド水溶液73.2g(1.0モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて150℃まで昇温し、同温度で2時間反応させた。反応終了後、メチルイソブチルケトン1500gを加え、分液ロートに移した。洗浄水が中性を示すまで水洗した後、加熱減圧条件下で、有機層から未反応のo-クレゾールと2-メトキシナフタレン、及びメチルイソブチルケトンを除去し、フェノール性水酸基含有樹脂(1’)を得た。得られたフェノール性水酸基含有樹脂(1’)の軟化点は76℃、水酸基当量は164g/当量であった。
【0149】
(比較例1:エポキシ樹脂(1’)の合成)
温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、比較合成例1で得たフェノール性水酸基含有樹脂(1’)137.1g(水酸基0.84当量)、4,4’-ビフェノール15.3g(水酸基当量0.16当量)、エピクロルヒドリン463g(5.0モル)、n-ブタノール139g、テトラエチルベンジルアンモニウムクロライド2gを仕込み溶解させた。70℃に昇温した後、20質量%水酸化ナトリウム水溶液220g(1.1モル)を5時間かけて滴下した。その後、同条件で0.5時間撹拌を続けた。未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留によって留去し、粗生成物を得た。得られた粗生成物にメチルイソブチルケトン1000gとn-ブタノール350gとを加え溶解させた。この溶液に10質量%水酸化ナトリウム水溶液10gを添加して80℃で2時間反応させた後、洗浄液のPHが中性となるまで水150gで水洗を3回繰り返した。系内を共沸させて脱水し、精密濾過を経た後に、溶媒を減圧条件下で留去してエポキシ樹脂(1’)176gを得た。得られたエポキシ樹脂(1’)のエポキシ当量は230g/当量、150℃における溶融粘度は0.3dPa・s、数平均分子量(Mn)は426、重量平均分子量(Mw)は666、分散度(Mw/Mn)は1.6であった。
【0150】
【0151】
(実施例4~6、及び、比較例2:エポキシ樹脂組成物の調製)
各成分を表2に示す組成で配合し、溶融混練を行い、各エポキシ樹脂組成物を得た。表2中の各成分の詳細は、以下の通りである。
硬化剤:フェノールノボラック型フェノール樹脂(DIC株式会社製「TD-2131」、水酸基当量104g/当量)
硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製「TPP」)
【0152】
<耐熱性評価>
上記各エポキシ樹脂組成物を、硬化物の厚さが2.4mmになるように常圧プレス中で150℃、10分間の条件で硬化させた後、アフターキュアを175℃、5時間することで評価用硬化物を得た。
この硬化物をダイヤモンドカッターで5mm×54mmの大きさに切り出し、これを耐熱性評価の試験片とした。耐熱性評価は、粘弾性測定装置(レオメトリック社製「固体粘弾性測定装置RSAII」、レクタンギュラーテンション法:周波数1Hz、昇温速度3℃/分)を用い、弾性率変化が最大となる(tanδ変化率が最も大きい)温度をガラス転移温度(Tg)(℃)とし、耐熱性を評価した。
【0153】
<靭性評価>
各エポキシ樹脂組成物を用いて、JIS K 6911に準拠し、175℃×120秒間、成型圧6.9MPaの条件で、トランスファー成型し、更にポストキュアとして、175℃で5時間の処理を行い、シャルピー衝撃強度試験用の試験片を作成した。得られた試験片をPendulum Impact Tester Zwick 5102を用いて、シャルピー衝撃強度(J/cm2)を測定し、靭性を評価した。
【0154】
【0155】
上記表1、及び、表2の評価結果より、全ての実施例において得られたエポキシ樹脂は、低粘度で高流動性に優れ、良好な成形性に寄与でき、前記エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物(硬化性組成物)を用いて得られた硬化物は、ガラス転移温度が高く、高耐熱性であり、シャルピー衝撃試験においても高い値を示し、高靭性であることが確認でき、高耐熱性と高靭性の両立を図ることが確認できた。
【0156】
一方、上記表1、及び、表2の評価結果より、比較例1では、所望のフェノール性水酸基含有樹脂を使用せずにエポキシ樹脂(1’)を合成し、これを使用したエポキシ樹脂組成物(硬化性組成物)を用いた比較例2では、実施例と比較して、耐熱性、及び、靭性に劣る結果となった。