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特許7290213内部欠陥の検出方法及び内部欠陥の検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】内部欠陥の検出方法及び内部欠陥の検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20230606BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20230606BHJP
   G01L 1/25 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
G01N23/207
G01L1/00 G
G01L1/25
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018234397
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020094967
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 雅
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130588(JP,A)
【文献】特開2017-161981(JP,A)
【文献】特開平06-180271(JP,A)
【文献】特開2006-194782(JP,A)
【文献】特開2017-187400(JP,A)
【文献】特開2016-162381(JP,A)
【文献】小川雅,加工時に生じる非弾性ひずみの影響を考慮した固有ひずみ法による残留応力推定手法の提案,日本機械学会論文集(A編),2013年,Vol.79 No.804,pp.202-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01L 1/00-5/28
G01N 3/00-3/62
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工材の既知の固有ひずみ分布から、前記加工材の表面の残留応力分布を算出する算出ステップと、
前記加工材の表面の残留応力分布を計測する計測ステップと、
前記算出ステップで算出した残留応力分布の計算値と、前記計測ステップで計測した残留応力分布の実測値とを比較し、内部欠陥の有無を判定する判定ステップと、
を有し、
前記算出ステップでは、前記加工材の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した前記加工材の表面の残留応力分布を算出し、
前記判定ステップでは、更に、前記算出ステップで算出した残留応力分布の中から、前記計測ステップで計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、前記内部欠陥の位置及び大きさを推定する内部欠陥の検出方法。
【請求項2】
加工材の既知の固有ひずみ分布から、前記加工材の表面の残留応力分布を算出する算出部と、
前記加工材の表面の残留応力分布を計測する計測部と、
前記算出部で算出した残留応力分布の計算値と、前記計測部で計測した残留応力分布の実測値とを比較し、内部欠陥の有無を判定する判定部と、
有し、
前記算出部では、前記加工材の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した前記加工材の表面の残留応力分布を算出し、
前記判定部では、更に、前記算出部で算出した残留応力分布の中から、前記計測部で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、前記内部欠陥の位置及び大きさを推定する内部欠陥の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部欠陥の検出方法及び内部欠陥の検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の非破壊検査方法を示すものとして、超音波探傷装置(特許文献1参照)や、放射線を用いた検査システム(特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-61760号公報
【文献】特開2017-219382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献に係る非破壊検査方法は、検査対象の内部の空洞を特定する方法である。
【0005】
しかしながら、溶接による接合時に生じる未溶着部のような欠陥で空洞が生じない場合は、従来の非破壊検査方法により検出することは困難であった。
【0006】
本発明は、加工材に、空洞のない未溶着部等の内部欠陥が存在する場合に、その存在を非破壊で検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に係る内部欠陥の検出方法は、加工材の既知の固有ひずみ分布から、前記加工材の表面の残留応力分布を算出する算出ステップと、前記加工材の表面の残留応力分布を計測する計測ステップと、前記算出ステップで算出した残留応力分布の計算値と、前記計測ステップで計測した残留応力分布の実測値とを比較し、内部欠陥の有無を判定する判定ステップと、を有する。
【0008】
この内部欠陥の検出方法は、力学的境界条件、幾何学的境界条件、材料特性のうち、どれか1つが未知である場合に、その未知の情報を他の情報を元に推定する方法である。具体的には、力学的境界条件として、残留応力の原因である固有ひずみが既知であり、材料特性(材質)がわかっている場合、加工材の残留応力分布は幾何学的境界条件に依存する。本方法は、計測した残留応力の値から未溶着部等の内部欠陥の有無を推定する。
【0009】
加工材が、溶接された接合材である場合において、溶接揺動のない接合により固有ひずみ分布が溶接線方向に均一となる場合には、溶接時に接合材の端の一部を抜き取って固有ひずみ分布を調べることにより、接合材全体の固有ひずみ分布が明らかとなる。このため、接合材全域の残留応力分布を知ることができる。また、各種溶接方法と固有ひずみ分布との関係がデータベースとして得られている場合は、溶接条件に対する固有ひずみ分布がわかる。算出ステップでは、このような既知の固有ひずみ分布から、加工材の表面の残留応力分布を得ることができる。
【0010】
計測ステップにおいて、加工材の表面の残留応力分布は、例えば市販の可搬型X線回折装置を用いることで、例えば溶接の現場でも非破壊に計測することができる。
【0011】
判定ステップでは、既知である固有ひずみ分布から求めた加工材の表面の残留応力分布の計算値と、計測した残留応力分布の実測値が等しい場合に、加工材に未溶着部等の内部欠陥がなく、正しく接合されていると判定できる。また、既知である固有ひずみ分布から求めた加工材の表面の残留応力分布の計算値と、計測した残留応力分布の実測値にギャップがある場合には、どこかに未溶着部などの内部欠陥があると判定できる。
【0012】
このように、この内部欠陥の検出方法によれば、内部欠陥の有無の判定を非破壊に行うことができる。
【0013】
第2の態様は、第1の態様に係る内部欠陥の検出方法において、前記算出ステップでは、前記加工材の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した前記加工材の表面の残留応力分布を算出し、前記判定ステップでは、更に、前記算出ステップで算出した残留応力分布の中から、前記計測ステップで計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、前記内部欠陥の位置及び大きさを推定する。
【0014】
この内部欠陥の検出方法では、算出ステップにおいて、加工材の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した加工材の表面の残留応力分布を算出する。
【0015】
判定ステップでは、算出ステップで算出した残留応力分布の中から、計測ステップで計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算を行う。これにより、内部欠陥の位置及び大きさを推定することができる。
【0016】
第3の態様に係る内部欠陥の検出装置は、加工材の既知の固有ひずみ分布から、前記加工材の表面の残留応力分布を算出する算出部と、前記加工材の表面の残留応力分布を計測する計測部と、前記算出部で算出した残留応力分布の計算値と、前記計測部で計測した残留応力分布の実測値とを比較し、内部欠陥の有無を判定する判定部と、を有する。
【0017】
この内部欠陥の検出装置は、力学的境界条件、幾何学的境界条件、材料特性のうち、どれか1つが未知である場合に、その未知の情報を他の情報を元に推定する。具体的には、力学的境界条件として、残留応力の原因である固有ひずみが既知であり、材料特性(材質)がわかっている場合、加工材の残留応力分布は幾何学的境界条件に依存する。本検出装置は、計測した残留応力分布の実測値から未溶着部等の内部欠陥の有無を推定する。
【0018】
加工材が、溶接された接合材である場合において、溶接揺動のない接合により固有ひずみ分布が溶接線方向に均一となる場合には、溶接時に接合材の端の一部を抜き取って固有ひずみ分布を調べることにより、接合材全体の固有ひずみ分布が明らかとなる。このため、接合材全域の残留応力分布を知ることができる。また、各種溶接方法と固有ひずみ分布との関係がデータベースとして得られている場合は、溶接条件に対する固有ひずみ分布がわかる。算出部では、このような既知の固有ひずみ分布から、加工材の表面の残留応力分布を得ることができる。
【0019】
計測部としては、例えば市販の可搬型X線回折装置を用いることができる。この計測部により、加工材の表面の残留応力分布を非破壊に計測することができる。
【0020】
判定部では、既知である固有ひずみ分布から求めた加工材の表面の残留応力分布の計算値と、計測した残留応力分布の実測値が等しい場合に、加工材に未溶着部等の内部欠陥がなく、正しく接合されていると判定できる。また、既知である固有ひずみ分布から求めた加工材の表面の残留応力分布の計算値と、計測した残留応力分布の実測値にギャップがある場合には、どこかに未溶着部などの内部欠陥があると判定できる。
【0021】
このように、この内部欠陥の検出装置によれば、内部欠陥の有無の判定を非破壊に行うことができる。
【0022】
第4の態様は、第3の態様に係る内部欠陥の検出装置において、前記算出部では、前記加工材の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した前記加工材の表面の残留応力分布を算出し、前記判定部では、更に、前記算出部で算出した残留応力分布の中から、前記計測部で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、前記内部欠陥の位置及び大きさを推定する。
【0023】
この内部欠陥の検出装置では、算出部において、加工材の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した加工材の表面の残留応力分布を算出する。
【0024】
判定部では、算出部で算出した残留応力分布の中から、計測部で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算を行う。これにより、内部欠陥の位置及び大きさを推定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、加工材に、空洞のない未溶着部等の内部欠陥が存在する場合に、その存在を非破壊で検出できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】内部欠陥の検出装置を示すブロック図である。
図2】(A)は、表面側に余盛が形成された接合材を示す斜視図である。(B)は、余盛が削り落とされ、表面側が平坦に加工された接合材を示す斜視図である。(C)は、図2(B)の接合材を溶接部の中心で切断した片側を示す斜視図である。
図3図2(C)に示される接合材のFEMモデル図である。
図4】接合材における表面の残留応力の計測位置を示す平面図と、接合材の端面を示すFEMモデル図である。
図5図4の各計測点における、残留応力分布の実測値と計算値との差の二乗平均平方根を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図面において、矢印FRは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示し、矢印RHは車両右方向を示している。
【0028】
図1において、本実施形態に係る内部欠陥の検出装置10は、算出部11と、計測部12と、判定部13とを有している。
【0029】
算出部11は、加工材の一例としての溶接された接合材14の既知の固有ひずみ分布から、接合材14の表面14Aの残留応力分布を算出する、例えばコンピュータである。算出部11は、例えば有限要素法(FEM)を用いて、接合材14に内部欠陥の一例としての溶接欠陥がない場合の残留応力分布を算出する。これだけでなく、算出部11は、任意の位置及び大きさの溶接欠陥を想定した接合材14の表面14Aの残留応力分布の計算値を算出可能とされている。この場合、算出部11は、溶接欠陥の位置及び大きさを変化させながら、それぞれの条件での残留応力分布を求める。
【0030】
接合材14の固有ひずみ分布は、例えば、溶接欠陥がない接合材14の端の一部14B(図2(B))を抜き取って調べることで得ることができる。各種溶接方法と固有ひずみ分布との関係がデータベースとして得られている場合は、溶接条件に対する固有ひずみ分布を容易に得ることができる。
【0031】
図2において、本実施形態における接合材14は、例えば2枚の金属板16,18が突合せ溶接されたものである。図2(A)では、溶接部20に直線状に延びる溶接ビードが形成され、接合材14の表面14A側に余盛が形成されている。図2(B)は、この余盛が削り落とされ、接合材14の表面14A側が平坦に加工された状態を示している。図2(C)は、図2(B)の接合材14が溶接部20の中心(一点鎖線L)で切断された片側、例えば金属板18側を示している。
【0032】
なお、溶接された接合材14には、溶融溶接材、抵抗スポット溶接材、レーザースポット溶接材、プロジェクション溶接材、シーム溶接材が含まれる。
【0033】
溶接欠陥とは、内部欠陥の一例であり、例えば溶接部20に空洞を伴わずに形成される未溶着部や、溶接部20に生じた空洞(空隙)等の溶接が不十分な部位である。本実施形態では、溶接欠陥の一例を未溶着部として説明する。
【0034】
計測部12は、接合材14の表面14Aの残留応力分布を計測する部位である。計測部12は、例えば市販の可搬型X線回折装置であってもよいし、固定型のX線回折装置であってもよい。
【0035】
判定部13は、算出部11で算出した残留応力分布の計算値と、計測部12で計測した残留応力分布の実測値とを比較し、溶接欠陥の有無を判定する、例えばコンピュータである。判定部13は、更に、算出部11で溶接欠陥の位置及び大きさを変化させながら算出した多くの残留応力分布の中から、計測部12で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、溶接欠陥の位置及び大きさを推定してもよい。
【0036】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。本実施形態に係る内部欠陥の検出装置10は、力学的境界条件、幾何学的境界条件、材料特性のうち、どれか1つが未知である場合に、その未知の情報を他の情報を元に推定する。具体的には、力学的境界条件として、残留応力の原因である固有ひずみが既知であり、材料特性(材質)がわかっている場合、接合材14の残留応力分布は幾何学的境界条件に依存する。本検出装置は、計測した残留応力分布の実測値から、未溶着部等の溶接欠陥の有無を推定する。
【0037】
溶接揺動のない接合材14においては、固有ひずみ分布が溶接線方向に概ね均一となることがあるため、この場合には溶接時に接合材14の端の一部14B(図2(B))を抜き取って固有ひずみ分布を調べることにより、接合材14全体の固有ひずみ分布が明らかとなる。このため、接合材14全域の残留応力分布を知ることができる。また、各種溶接方法と固有ひずみ分布との関係がデータベースとして得られている場合は、溶接条件に対する固有ひずみ分布を容易に得ることができる。算出部11では、このような既知の固有ひずみ分布から、接合材14の表面14Aの残留応力分布を得ることができる。
【0038】
計測部12としては、例えば市販の可搬型X線回折装置を用いることができる。可搬型X線回折装置は、溶接の現場で計測を行う場合に好適である。なお、固定式のX線回折装置を用いてもよい。この計測部12により、接合材14の表面14Aの残留応力分布を非破壊に計測することができる。
【0039】
判定部13では、既知である固有ひずみ分布から求めた接合材14の表面14Aの残留応力分布の計算値と、計測した残留応力分布の実測値が等しい場合に、接合材14に未溶着部等の欠陥がなく、正しく接合されていると判定できる。また、既知である固有ひずみ分布から求めた接合材14の表面14Aの残留応力分布の計算値と、計測した残留応力分布の実測値にギャップがある場合には、どこかに未溶着部などの溶接欠陥があると判定できる。
【0040】
なお、算出部11において、接合材14の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの溶接欠陥を想定した接合材14の表面14Aの残留応力分布を算出してもよい。この場合、溶接欠陥の位置及び大きさを変化させながら、それぞれの条件での残留応力分布を求める。
【0041】
また、判定部13では、算出部11で溶接欠陥の位置及び大きさを変化させながら算出した多くの残留応力分布の中から、計測部12で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算を行ってもよい。これにより、溶接欠陥の有無だけでなく、その位置及び大きさを推定することができる。
【0042】
このように、内部欠陥の検出装置10によれば、接合材14における溶接欠陥の有無の判定を非破壊に行うことができる。一例として、スポット溶接材は、溶接面の反対側から見た際、目視では適切に溶着されているかどうかわからない場合がある。しかしながら、本実施形態によれば、スポット溶接材についても、適切に溶着されているかどうか非破壊で検査することができ、未溶着部がある場合にその位置及び大きさまで推定できる。
【0043】
(内部欠陥の検出方法)
図1において、内部欠陥の検出方法は、溶接された接合材14の既知の固有ひずみ分布から、接合材14の表面14A(図2)の残留応力分布を算出する算出ステップS1と、接合材14の表面14Aの残留応力分布を計測する計測ステップS2と、算出ステップS1で算出した残留応力分布の計算値と、計測ステップS2で計測した残留応力分布の実測値とを比較し、内部欠陥の有無を判定する判定ステップS3と、を有する。
【0044】
算出ステップS1では、接合材14の既知の固有ひずみ分布から、任意の位置及び大きさの内部欠陥を想定した接合材14の表面14Aの残留応力分布を算出してもよい。また、判定ステップS3では、更に、算出ステップS1で算出した残留応力分布の中から、計測ステップS2で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、内部欠陥の位置及び大きさを推定してもよい。
【0045】
(試験例)
図3は、図2(C)に示される接合材14のFEMモデルを示している。図4は、接合材14の表面14Aにおける残留応力の計測位置22と、接合材14の端面のFEMモデルを示している。接合材14は、長さが110mm、片側の幅が40mm、厚さが5mmである。x軸、y軸及びz軸の原点が接合材14の底面側、左側、手前側の角に設定されるとして、表面14Aから見て0≦y≦8mmの範囲が溶接部20に相当する。これらの図に基づいて、内部欠陥の検出方法の具体例について述べる。
【0046】
ここで、未溶着部24(図4)が25mm≦x≦30mm、y=8mm、3mm≦z≦4mmの位置に生じていることが未知であるとする。接合材14の固有ひずみ分布は既知である。算出ステップS1(図1)において、例えばy=8mm、3mm≦z≦4mm、15mm≦x≦100mm(5mm刻み)の位置に未溶着部が生じている場合の接合14の表面14A(y=10mm、z=5mm)の残留応力分布をそれぞれ算出する。この残留応力は、x方向の複数の計測位置22で算出する。具体的には、x=10mm、x=20mm、x=30mm、x=40mm、x=50mm、x=60mm、x=70mm、x=80mm、x=90mm及びx=100mmの位置で、残留応力を算出する。その計算値は、表1及び表2に示される通りである。表1及び表2においてσxはx軸方向の残留応力を示し、σyはy軸方向の残留応力を示している。
【0047】
一方、計測ステップS2(図1)において、残留応力分布を測定し、各々の計測位置22の実測値を求める。残留応力の計算値と実測値とは、互いに比較することができる。判定ステップS3において、実測値が未溶着部なしの計算値と異なっていれば、接合材14に未溶着部が存在することが推定できる。また、判定ステップS3において、計算値と実測値の差の二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)を得ることも可能である。算出ステップS1(図1)において、未溶着部が生じていると考えられる箇所を変えた場合、つまり未溶着部の位置条件を変えた場合の残留応力分布を多数計算しておき、実測値との違い(RMS)が一番小さい位置条件を選ぶことにより、未溶着部の位置を推定することができる。
【0048】
図5には、未溶着部の位置を15mm≦x≦20mm(x=17.5mm)、20mm≦x≦25mm(x=22.5mm)、25mm≦x≦30mm(x=27.5mm)、30mm≦x≦35mm(x=32.5mm)、35mm≦x≦40mm(x=37.5mm)、40mm≦x≦45mm(x=42.5mm)のように変化させた際のy=10mm、z=5mmの位置における残留応力分布の実測値と計算値との差のRMSが示されている。この図では、25mm≦x≦30mm(x=27.5mm)において、RMSが 0 MPaとなっている。つまり、25mm≦x≦30mm、y=8mm、3mm≦z≦4mmの位置に未溶着部が生じているとした場合の計算値が、実測値に最も近いことになる。これより、未溶着部24の位置は、25mm≦x≦30mm(x=27.5mm)、y=8mm、3mm≦z≦4mmであることがわかる。
【0049】
このように、算出部11で溶接欠陥の位置及び大きさを変化させながら算出した多くの残留応力分布の中から、計測部12で計測した残留応力分布の実測値に近いものを見つけ出す最適計算により、溶接欠陥の位置及び大きさを推定することができる。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
本実施形態は、幾何学的境界条件を決定するアプローチであるため、必ずしも未溶着部の検出だけに留まるものではなく、内部形状の未知な構造物の寸法評価にも応用することができる。例えば、次の通りである。
【0053】
(溶接構造物の品質評価)
新幹線の台車や航空機材料など、人命に直結する分野では安全性に対する要求が高い。そのため、比較的高度な品質保証が要求される。溶接部に未溶着部が存在すると、未溶着部は一種のき裂とみなすことができるため、き裂により応力が拡大され、き裂進展速度が比較的大きくなるという問題がある。本実施形態により、品質を非破壊に評価することができることで、新幹線や自動車などの高度な安全性が要求される構造物に対して、より一層の信頼性を確保することができる。
【0054】
(工業製品の内部欠陥の非破壊検出)
本実施形態は、残留応力の原因となる非弾性ひずみ分布が既知の場合に、対象物の幾何学境界条件を求める方法であり、内部形状についても特定することができる。また、本実施形態によれば、接合材の形状に依存せずに溶接欠陥を検出可能であるので、超音波計測が比較的困難な形状であっても、検査が可能である。更に、部材の表面からはわからない内部の剥離についても、超音波計測は難しいと考えられるが、本実施形態によればその検出が可能である。また、溶接部に生じた空隙についても特定することも可能である。
【0055】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の実施形態は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0056】
加工材は溶接された接合材14に限られず、圧接材、表面改質材、塑性加工材、局所入熱加工材(撓鉄)、熱処理材、強加工材等も含まれる。圧接材には、摩擦攪拌接合材、重ね抵抗溶接材、突き合わせ抵抗溶接材が含まれる。表面改質材には、ピーニング加工材、浸炭材、窒化材、溶射材、スパッタ皮膜材が含まれる。塑性加工材には、冷間加工材、熱間加工材が含まれる。そして、熱処理材には、焼き入れ材、焼き戻し材、焼きなまし材が含まれる。上記実施形態では、このような各種加工材の内部欠陥を検出することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 内部欠陥の検出装置
11 算出部
12 計測部
13 判定部
14 接合材(加工材)
14A 表面
24 未溶着部(内部欠陥)
S1 算出ステップ
S2 計測ステップ
S3 判定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5