(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】炭化ケイ素コーティング体を製造するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20230606BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20230606BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20230606BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C23C16/42
C30B29/36 A
C30B25/18
C04B41/87 G
C04B41/87 V
(21)【出願番号】P 2020535525
(86)(22)【出願日】2018-12-22
(86)【国際出願番号】 US2018067422
(87)【国際公開番号】W WO2019133561
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-08-26
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゲルシオ, ピーター ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ウェストファル, ポール
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー, カーク アレン
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-302577(JP,A)
【文献】特開2001-048667(JP,A)
【文献】Chemical vapour deposition of silicon carbide by pyrolysis of methylchlorosilanes,Journal of Materials Science Letters,1997年,VOL.16,pp.33-36
【文献】Dimetyldichlorosilane and the Direct Symthesis of Methylchlorosilanes. The Key to the Silicones Industry,Organometallics,2001年,VOL.20,pp.4978-4992
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C30B 29/36
C30B 25/18
C04B 41/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6%以上で12%未満の多孔度を含む開放気孔率を有するグラファイトを基板として使用し、ジメチルジクロロシランをシリコン源として、H
2をパージガスとして使用して、実質的に四面体のSiC結晶を含む実質的に化学量論的な炭化ケイ素を多孔性グラファイト基板上に形成する化学気相堆積(CVD)法で、炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスであって、CVD処理が大気圧下において1000~1200℃の範囲の温度で実施される、プロセス。
【請求項2】
ジメチルジクロロシラン以外の追加のシラン源の使用ならびに/またはメタンガスおよび/もしくはアルゴンの付加が排除される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
CVD処理が少なくとも30分間実施される、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ジメチルジクロロシランが、H
2とのガス状混合物中で反応チャンバに通される、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
ジメチルジクロロシランとH
2との混合物が、ジメチルジクロロシランを含むタンクにH
2ガスを導入し、タンクを通してH
2をバブリングし、タンクの頂部から押し出すことによりジメチルジクロロシランとH
2との混合物を反応チャンバに通すことによって得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
ジメチルジクロロシランが、
>0~1.000重量%のシロキサン不純物含有量を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
ジメチルジクロロシランが、
<150ppb wt.のMn金属元素;および/または
≦40ppb wt.のCu金属元素;および/または
≦40ppb wt.のZn金属元素
の含有量を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
多孔性グラファイト基板が9~11.5%の多孔度を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
多孔性グラファイト基板が、10~30μmの表面ポア直径を有するポアを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
実質的に四面体のSiC結晶を有する実質的に化学量論的な炭化ケイ素を、多孔性グラファイト基板の表面上および多孔性グラファイト基板のポア内に堆積させて、多孔性グラファイト表面からグラファイト基板内に延びる、SiC表面コーティングと緊密に連結されたテンドリルの形態の、緊密に連結された結晶性SiC材料を形成するために、ジメチルジクロロシラン前駆体材料が使用される、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
グラファイト基板上および/またはグラファイト基板のポア内に堆積されたSiC中の遊離Siの量が
、7重量%以下の遊離Siを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
高温用途のための物品、サセプタおよびリアクタ、半導体材料、ウエハを製造するための工程をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
堆積されたSiCが、少なくとも90%の実質的に化学量論的な四面体の結晶性SiCを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン源としてジメチルジクロロシラン(DMS)を用いる化学気相堆積法でグラファイト基板上に炭化ケイ素(SiC)を堆積させることによりSiCコーティング体を製造するための新規のプロセスに関する。本発明のさらなる態様は、本発明の新規のプロセスによって得ることができる新規の炭化ケイ素コーティング体、ならびに高温用途のための物品、サセプタおよびリアクタ、半導体材料、ならびにウエハを製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCコーティング体は様々な技術分野において重要な製品であり、応用材料およびリアクタ、半導体材料、チップ製造などのためのサセプタおよびウエハといった高温用途に特に有用である。
【0003】
特に、高温用途において、および高精度装置において適用されるとき、SiCコーティング体(SiCコーティング品)を提供することが特に重要であり、それは、下層の基板へのSiCコーティング層の緊密な連結(接着)といった優れた機械的性質を示す。さらに、SiCコーティング体の高いエッチング抵抗性、耐衝撃性、破壊靭性および/または耐亀裂性は、特に有益である。コーティング体の耐酸化性を提供するためには、SiCコーティング層を均質かつ連続的に塗布し、コーティングされた基板面上に不浸透性コーティング層を提供することがさらに必要である。
【0004】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、ここに記載される新しいプロセスを用いて、下に位置するグラファイト基板の表面をコーティングする層としてSiCを堆積させることが可能であるだけでなく、多孔性グラファイト基板のポアの中へ成長する、改善された堆積SiC材料から形成されるSiCテンドリルの形成を達成することが可能であることを見出した。これにより、改善された物理的および機械的特性を有するSiCコーティンググラファイト物品が提供される。特に、改善されたSiC材料から形成された、多孔性グラファイト内に延びるテンドリルの形成は、以下により詳細に記載されるように、有意に改善された機械的特性を提供する。
【0005】
化学気相堆積(CVD)によってSiCコーティングを様々な基板上に塗布するための異なる方法が存在し、これには、CVD法(CVD前駆体とも呼ばれる)においてシラン源としてDMSを使用する方法、およびグラファイトを含む炭素質基板上へのSiCの堆積が含まれる。
【0006】
GB1,128,757は、SiCを調製するための方法を記載しており、水素と炭素含有化合物とケイ素含有化合物との混合物、または水素と炭素およびケイ素の両方を含有する化合物との混合物のいずれかを使用して、加熱された表面上に結晶化された炭化ケイ素を、主にベータ-炭化ケイ素の緻密で実質的に不浸透性の膜として形成するCVD法を記載している。特に、この方法は、化学量論的炭化ケイ素を形成するように制御される。炭素およびケイ素の両方を含有する化合物として、この文献はとりわけ、DMSからの化学量論的SiC形成を制御するための特定のプロセス条件を提供せずに、DMSに言及している。コーティングされた基板中に延びるSiCテンドリルの形成を達成するための特定のプロセス条件はもちろん、テンドリルの形成についても記載がない。
【0007】
同様に、JP2000-302576は、CVD法を用いてSiCコーティンググラファイト材料を調製するための方法を記載しており、特に、可能なCVD前駆体としてDMSを挙げている。しかしながら、その中では、SiCは、グラファイト基板の表面上にのみ堆積され、Si含有ガスによる多孔性グラファイト基板の浸透は、均一な層を形成することの困難さ、および浸透した中間層の追加のコーティングのための追加コストのために、不利であると議論されている。CVD前駆体としてDMSを使用するための特定のプロセス条件は開示されておらず、コーティングされた基板中に延びるテンドリル形成の可能性についていかなる教示も見出すことができない。
【0008】
EP0935013A1およびEP1072570A1は共に、グラファイト基板上にSiCコーティングを堆積させ、その後基板を除去する方法を記載している。その結果、前記文献はいずれも、緊密に連結されたSiCコーティング層を形成するために、多孔性グラファイト中に延びるSiCテンドリルの形成を教示していない。さらに、前記文献はいずれも、本発明の効果を達成するための具体的なプロセス条件を記載していない。特に、EP0935013は、CVDプロセスのための極めて高い温度条件を教示している。両方の文献は、一般に、CVD前駆体としてDMSを使用する可能性に言及しているが、いずれも、DMSを使用することにより実質的に化学量論的なSiC、すなわちSi:Cが1:1である比率を有するSiCを堆積させるための適切なプロセス条件を教示していない。
【0009】
米国特許第9,371,582号は、マイクロ波プラズマ化学気相成長法(MPECVD)を用いてSiCを堆積させる方法を教示している。前記極めて特定のプラズマベースのプロセスは、本発明に記載されるプロセス条件とは著しく異なり、したがって、本発明において判明したように、それによって同様の効果を達成することができると結論付けることはできない。
【0010】
EP0294047A1は、半導体材料の調製に使用される炭素質表面を前処理することによって、半導体材料中の炭素含有量を最小化するプロセスに関するものであり、CVD、およびCVD前駆体として例えばDMSを用いて、SiCでグラファイト試料をコーティングする一般的な可能性に言及している。コーティングされた基板中に延びるSiCテンドリルの形成を達成するための特定のプロセス条件は記載されていない。
【0011】
EP0121797A2は、CVDによる出発基板上への不浸透性で均一なSiCコーティング層の堆積を含む炭素-ケイ素複合品の調製を記載している。実施例6は、基板繊維を膜で包むためのCVD前駆体としてのDMSの使用に言及している。実施例9は、中間基板を形成するための基板として成形粒状黒鉛中およびその上にメチルクロロシランを使用するCVDによるSiCコーティングの堆積に言及している。コーティングされた多孔質グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルの形成を達成するための特定のプロセス条件は記載されていない。
【0012】
米国特許第4,976,899号は、例えばメタンおよび水素の存在下でDMSを使用する周知の化学気相堆積(CVD)法によって、変形可能な樹脂および炭素ベースのマトリックス中に埋め込まれた、炭素およびSiCでコーティングされた強化炭素繊維を含む多孔性複合マトリックス上へのSiCの堆積を記載している。その中では、複合マトリックスは、樹脂基板の多孔性構造に浸透して含浸させることのできるSiCコーティング層によって覆われる。その中で適用されるSiCコーティング層は亀裂を呈し、層は、必要とされる耐熱性および耐酸化性を十分に満たすコーティング品を提供するために、さらなる外側コーティング層(例えば、アルミニウムまたは窒化ハフニウムコーティング)およびさらなる外側アルミナコーティングまたはホウケイ酸ガラスを適用することによって、充填され、続いてシールされなければならない。均質にコーティングされた多孔性グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルの形成を達成するための特定のプロセス条件は記載されていない。
【0013】
米国特許第3,925,577号は、シリコンの融点未満の温度での気相反応によって多孔性グラファイト体上にシリコン層を堆積させること、続いて、適用されたシリコン層を有するグラファイト部材を、シリコンを溶融させてグラファイトのポアに浸透させ、シリコンをインシトゥでグラファイトと反応させて炭化ケイ素層を形成させる温度まで加熱すること、および気相反応によって、下に位置する、直前に反応させた炭化ケイ素層の上に、炭化ケイ素のシール層をさらに堆積させることを含む、コーティングされた等方性グラファイト部材の製造プロセスを記載している。その中で使用されるグラファイトは、部材体積の約18%~25%に等しい多孔性を示すように規定され、これは、とりわけ、所望の強度特性を有する炭化ケイ素コーティングされた等方性微粒子グラファイトを提供するために必須であると記載されている。規定されたグラファイト特性から逸脱することは、高温用途において分離した、亀裂が入った、または剥落したコーティングを示す複合体をもたらすと言われている。そこに記載されているプロセスは、熱処理された等方性グラファイト部材を表面洗浄し、それによってすべての遊離表面粒子を除去し、その後、グラファイト物品をSiCコーティング工程に供する必須の工程を含む。そこに記載されるCVD法は、水素およびメタンの存在下で、CVD前駆体として四塩化ケイ素を使用して実施される。アルゴンが、不活性ガスとして存在していてもよい。CVD前駆体またはシラン源としてのDMSの使用は言及されていない。コーティングされた多孔性グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルの形成により本発明の改善されたSiCコーティング品を達成するための特定のプロセス条件は記載されていない。
【0014】
米国特許出願公開第2012/040139号および対応する米国特許第9,145,339号は、溶融シリコンを多孔性基板材料中に浸透させることによってSiCを堆積させる極めて類似したプロセスを記載している。前記基板は、25~45%の多孔度を有すると記載されている。多孔性基板中に溶融シリコンを浸透させるには、大きなポアが必要であり、これは上述の米国特許第3,925,577号と類似した、高い多孔度に反映される。しかしながら、大きなポアと高い多孔度は、グラファイト基板の機械的特性および強度に対して有害である。さらに、溶融シリコンを用いることにより、結晶性の高いSiCは得られず、単にアモルファスSiCが得られるだけであり、このことは以下の
図9に見ることができる。
【0015】
また、米国特許出願公開第2018/002236号(およびJP2002-003285、それに引用された先行文献1)は、少なくとも15%の好ましい多孔度を有する比較的高い多孔度12~20%の多孔性基板上にSiCを堆積させるプロセスに関する。この文献には、多孔性が15~50%でない限り、基板の深部にSiCをCVD法により堆積させることができないと記載されている。両方の文献において、CVD前駆体としてのDMSは、一般的にのみ言及されている。両文献は、米国特許出願公開第2018/002236号の実施例における多孔度16%の基板上にSiCを堆積させるためのメチルトリクロロシラン(MTS)の使用といった、異なるCVD前駆体材料についてのみ特定のプロセス条件を記載している。引用されたJP2002-003285の実施例において、CVD前駆体はまた、特定の多孔度が特定されていないメチルトリクロロシランである。そこに記載されたプロセスでは、本発明による改善された結晶性SiC材料を、より低い多孔性を有するグラファイト基板内に堆積させることは不可能である。本発明によるテンドリルも、そこに記載されるプロセスで形成することはできない。
【0016】
米国特許第3,406,044号は、トリクロロシランの化学気相堆積を使用することにより炭酸材料上にシリコンを適用することを含む、耐熱エレメントを調製するためのプロセスを記載している。そこに適用されるプロセスでは、シリコン層が基板に適用され、それが多孔性基板に浸透し、その中で一定量までSiCに変換される。そこに記載されるプロセスでは、シリコン層が適用され、これはSiCを、一定量、但し約9%という比較的少量で含む。さらにそこには、適用されたSiCコーティングが大量にグラファイト基板のポアに浸透することはなく、グラファイトの表面上にむしろ気密性の不浸透性コーティングを形成することが記載されている。CVD前駆体としてのDMSの使用は言及されていない。コーティングされた多孔性グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルの形成により本発明の改善されたSiCコーティング品を達成するための特定のプロセス条件は記載されていない。
【0017】
米国特許第3,622,369号は、CVD法においてメタンのような炭化ガスと共にメチルジクロロシランおよび水素を使用して、抵抗加熱されたワイヤ上に化学量論的炭化ケイ素を堆積させるプロセスを記載している。シラン源としてのメチルジクロロシランと水素およびメタンとの前記特定の混合物の使用により、炭化ケイ素フィラメントの形成が生じることが記載されている。しかしながら、その中には、そのようなSiCフィラメントが多孔性グラファイト基板中に成長しうることも、そのようなフィラメントがメタンガスを添加することなく水素の存在下でDMSのような他のCVC前駆体材料といった異なるCVD反応条件下で形成されうることも記載されていない。特に、コーティングされた多孔性グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルの形成を伴う、本発明の改善されたSiCコーティング品を達成するためのプロセス条件は記載されていない。
【0018】
GB1,021,662は、その多孔性と浸透性を低下させることを目的として 多孔体を処理することにより、化学気相堆積により多孔性基板のポアに有機ケイ素化合物を充填する方法を記載している。そこに記載されている多孔体は、主に炭化ケイ素体に関するが、グラファイト、アルミナおよび他の多孔性無機体も挙げられている。多孔性の低下は、有機ケイ素化合物の化学気相堆積を使用して多孔体のポア内にSiCを堆積させることによって行われる。1:1のSiC:C比を提供する好ましい有機ケイ素化合物が使用される。ジメチルジクロロシラン自体は、このような1:1の比を提供するのに適さないため、この有機ケイ素化合物は、SiCl4のようなケイ素生成化合物と組み合わせてのみ、可能なCVD前駆体として言及されている。さらに、1つの具体的実施例のみが、炭素基板上へのSiCの堆積を記載している。それは実施例3であり、この場合、CH3SiCl3の存在下でCVDを行うことによって、18%の多孔性を有するエレクトログラファイト片上にSiCが堆積される。前記実施例3によれば、多孔性を15%に低下させることができ、これは、ポア充填が低度にしか達成できないことを示している。コーティングされた多孔性グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルの形成により本発明の改善されたSiCコーティング品を達成するための特定のプロセス条件は記載されていない。
【0019】
D. Cagliostro and S. Riccitiello (J. Am. Ceram. Soc., 73 (3) 607 - 14; 1990) は、パージガスとしてアルゴンを使用するCVD法におけるジメチルジクロロシラン(DMS)の熱分解生成物の分析を記載している。前記公報は、CVDプロセスで形成された断片の揮発性、輸送特性および反応速度が、多孔性媒体に浸透し、その中で凝縮し、および/またはそれをコーティングする能力に影響を及ぼし、したがって、形態、高密度化および/または機械的特性に影響を及ぼすことを教示している。これは、極めて特定のプロセス条件が、ここに記載される驚くべき効果を達成するために重要であるという本発明の知見を明らかに支持している。例えば、CVD前駆体、パージガス、温度、圧力および堆積時間といったCVD条件の特定の選択が、CVDプロセスにおける結果に著しく影響を及ぼすことが分かっている。
【0020】
Byung Jin Choi (Journal of Materials Science Letters 16, 33 - 36; 1997) は、これを確認する。そこでは、異なるCVD前駆体を使用し、様々なCVD条件(例えば、異なる温度)を適用するCVD法で堆積したSiCの構造の変化が調査された。とりわけ、DMSは、異なる温度でCVD前駆体として使用され、化学量論的SiCの形成が観察された。しかしながら、そこに見られるように、適用されたCVD条件下では、そこに示されるようにアモルファスSiCのみが堆積され(
図7a)、XRDパターン(
図3)に見られるように、変化する温度は、SiCおよび副産物の形成に大きく影響する。さらに、前記文献は、多孔性基板上にSiCを堆積させることを記載しておらず、したがって、多孔性基板中に延びるSiCテンドリルの形成を記載していない。
【発明の概要】
【0021】
本発明の1つの目的は、従来技術のプロセスの欠点を回避する、SiCでコーティングされたグラファイト基板を含む物品を調製することを可能にする新規のプロセスを提供することであった。
【0022】
本発明のさらなる目的は、SiCコーティング品を提供することができるプロセスであって、SiCコーティングが、下に位置するグラファイト基板上に緊密に連結された層を形成するプロセスを提供することであった。
【0023】
本発明のさらなる目的は、SiCコーティングにおける亀裂およびスポーリングの形成を回避するプロセスを提供することであった。
【0024】
本発明のさらなる目的は、必要とされるプロセス工程を可能な限り減少させることによって、費用効率および時間効率のよい方法でSiCコーティンググラファイト基板物品を調製するためのプロセスを提供することであった。
【0025】
本発明のさらなる目的は、例えば発生する亀裂をシールするために追加のコーティングまたはシール層を適用する必要がないように、一方では十分な機械的抵抗および強度を呈し、他方では最大の連続性および均質性も示すSiCコーティングを有するグラファイト基板ベースの物品を調製するためのプロセスを提供することであった。
【0026】
本発明のさらなる目的は、ここに記載されるような所望の改善された特性を有する、新規かつ改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0027】
本発明の特定の目的は、優れた機械的強度を有し、改善された特性および特性を有するSiCがその上に堆積され、下に位置するグラファイト基板と緊密に連結された層を形成するSiCコーティングを含む、新規の改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。本発明のさらなる目的は、SiC堆積および浸透、SiC結晶性、密度、純度、Si:C比および/または強度に関して改善されたSiC特性を有する、新規の改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0028】
本発明のさらなる目的は、粒径、密度および/または多孔性に関して改善されたグラファイト特性を有する、新規の改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0029】
本発明のさらなる目的は、本質的に純粋なSiCコーティングを有する改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0030】
本発明のさらなる目的は、改善されたSiC材料がその上および/またはその中に堆積された、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0031】
本発明のさらなる目的は、高結晶化度および/または高度の四面体結晶化度を有し、および/または低量のアモルファスSiCを含む、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0032】
本発明のさらなる目的は、SiCコーティング中の遊離Siの含有量が著しく低い、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0033】
本発明のさらなる目的は、グラファイト基板とSiCコーティング層との間に改善された平均熱膨張係数を有する改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0034】
本発明のさらなる目的は、SiC層中に改善された残留圧縮荷重を有する、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0035】
本発明のさらなる目的は、改善された耐衝撃性を有する改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0036】
本発明のさらなる目的は、改善された破壊靭性を有する改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0037】
本発明のさらなる目的は、改善された剥脱(exfoliation)、剥離(peeling)および/または反り抵抗を有する改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0038】
本発明のさらなる目的は、グラファイト基板とSiCコーティング層との間に改善された接着性を有する、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0039】
本発明のさらなる目的は、SiCコーティング層の外側(上側)表面のサイズと、多孔性グラファイト基板中に延びるSiCテンドリルによって形成されている界面層のサイズとの間に改善された関係を呈する、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0040】
本発明のさらなる目的は、多層SiCコーティングを有する改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0041】
本発明のさらなる目的は、異なる多孔性および/または密度の少なくとも2つのSiC層が存在する、そのような多層SiCコーティングを有する、改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0042】
本発明のさらなる目的は、このような多層SiCコーティングをさらに有する、ここに記載される改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を提供することであった。
【0043】
本発明のさらなる目的は、このような改善されたSiCコーティンググラファイト基板本体を調製するための新規プロセスを提供することであった。
【0044】
本発明のさらなる目的は、化学量論的SiCをCVD法で基板上に堆積させるための新規方法を提供することであった。
【0045】
本発明のさらなる目的は、メタンガスを添加することなく、化学量論的SiCをCVD法で基板上に堆積させるための新規方法を提供することであった。
【0046】
本発明のさらなる目的は、特にここに記載される使用および用途のための、改善されたグラファイト基板を提供することであった。
【0047】
本発明のさらなる目的は、改善された純度を有する、このような改善されたグラファイト基板を提供することであった。
【0048】
本発明のさらなる目的は、改変された表面多孔性を有する、このような改善されたグラファイト基板を提供することであった。
【0049】
本発明のさらなる目的は、拡大された表面ポア直径を有する小さいポアを有する、このような改善されたグラファイト基板を提供することであった。
【0050】
本発明のさらなる目的は、特定の塩素含有量を有する、このような改善されたグラファイト基板を提供することであった。
【0051】
本発明のさらなる目的は、このような改善されたグラファイト基板を調製するための新規方法を提供することであった。
【0052】
本発明のさらなる目的は、特にここに記載される使用および用途のための、改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板を提供することであった。
【0053】
本発明のさらなる目的は、改善された純度を有するそのような活性化グラファイト基板を提供することであった。
【0054】
本発明のさらなる目的は、特定の塩素含有量を有するそのような活性化グラファイト基板を提供することであった。
【0055】
本発明のさらなる目的は、このような活性化グラファイト基板を調製するための新規方法を提供することであった。
【0056】
本発明のさらなる目的は、パージガスとしてアルゴンを使用することなく、CVD法で基板上にSiCを堆積させるための新規方法を提供することであった。
【0057】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、これらの目的が、以下に詳細に記載される本発明による新規方法によって解決されうることを見出した。
【0058】
本発明の好ましい実施態様
独立請求項は、本発明の上記目的の少なくとも1つを解決するための本発明の実施態様を記載する。従属請求項は、本発明の上記目的の少なくとも1つを解決することに寄与する、さらなる好ましい実施態様を提供する。
【0059】
[1]開放気孔率を有するグラファイトを基板として使用し、ジメチルジクロロシランをシリコン源として、H2をパージガスとして使用して、1:1のSi:C比を有しかつ実質的に四面体のSiC結晶を含む実質的に化学量論的な炭化ケイ素を多孔性グラファイト基板上に形成する、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスであって、CVD処理が、大気圧下において1000~1200℃の範囲の温度で実施される、プロセス。
【0060】
[2]ジメチルジクロロシラン以外の追加のシラン源の使用ならびに/またはメタンガスおよび/もしくはアルゴンの付加が排除される、実施態様[1]に記載のプロセス。
【0061】
[3]CVD処理が少なくとも30分の期間にわたって実施される、実施態様[1]または[2]に記載のプロセス。
【0062】
[4]CVD処理が、>30分かつ<12時間、好ましくは>45分かつ<10時間、より好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは<10時間、好ましくは<8時間、好ましくは<6時間、好ましくは<4時間、好ましくは<3時間、最も好ましくは1~2時間以内の期間にわたって実施される、実施態様[1]から[3]のいずれかに記載のプロセス。
【0063】
[5]ジメチルジクロロシランが、H2とのガス状混合物中において反応チャンバに通される、実施態様[1]から[4]のいずれかに記載のプロセス。
【0064】
[6]ジメチルジクロロシランとH2との混合物が、ジメチルジクロロシランを含むタンクにH2ガスを導入し、タンクを通してH2をバブリングし、タンクの頂部から押し出すことによりジメチルジクロロシランとH2との混合物を反応チャンバに通すことによって得られる、実施態様[1]から[5]のいずれかに記載のプロセス。
【0065】
[7]DMSとH2との混合物の総流量が25~200slpm、好ましくは40~180slpm、より好ましくは60~160slpmでCVD処理が実施される、実施態様[1]から[6]のいずれかに記載のプロセス。
【0066】
[8]ジメチルジクロロシランが、>0~2.000重量%、好ましくは>0~1.500重量%、好ましくは>0~<1.040重量%、好ましくは>0~1.000重量%、好ましくは>0~0.900重量%、好ましくは>0~0.850重量%、好ましくは>0~0.800重量%、好ましくは>0~0.750重量%、好ましくは>0~0.700重量%、好ましくは>0~0.600重量%、好ましくは>0~0.500重量%のシロキサン不純物含有量を含む、実施態様[1]から[7]のいずれかに記載のプロセス。
【0067】
[9]ジメチルジクロロシランが、
<150ppb wt.、好ましくは<100ppb wt.、好ましくは<50ppb wt.、好ましくは<40ppb wt.、好ましくは<30ppb wt.、好ましくは<20ppb wt.のMn金属元素;および/または
<50ppb wt.、好ましくは<45ppb wt.、好ましくは≦40ppb wt.、好ましくは≦35ppb wt.、好ましくは≦30ppb wt.、好ましくは≦25ppb wt.のCu金属元素;および/または
<50ppb wt.、好ましくは<45ppb wt.、好ましくは≦40ppb wt.、好ましくは≦35ppb wt.、好ましくは≦30ppb wt.、好ましくは≦25ppb wt.のZn金属元素
の含有量を含む、実施態様[1]から[8]のいずれかに記載のプロセス。
【0068】
[10]CVDプロセスが1000~<1200℃、好ましくは1100~1150℃の範囲の温度で実施される、実施態様[1]から[9]のいずれかに記載のプロセス。
【0069】
[11]多孔性グラファイト基板が、6%~15%、好ましくは≧6%~<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6%~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度の開放気孔率を有する、実施態様[1]から[10]のいずれかに記載のプロセス。
【0070】
[12]多孔性グラファイト基板が、10~30μmの表面ポア直径を有するポアを含む、実施態様[1]から[11]のいずれかに記載のプロセス。
【0071】
[13]多孔性グラファイト基板が、0.4-5.0μm、好ましくは1.0~4.0μmの平均ポアサイズ(ポア直径)を有し、最大30μm、好ましくは最大20μm、好ましくは最大10μmの表面ポア直径を有するポアを含む、実施態様[1]から[12]のいずれかに記載のプロセス。
【0072】
[14]多孔性グラファイト基板が、≧1.50g/cm3、好ましくは≧1.70g/cm3、好ましくは≧1.75g/cm3の密度を有する、実施態様[1]から[13]のいずれかに記載のプロセス。
【0073】
[15]多孔性グラファイト基板が、拡大された表面ポアを有する改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板である、実施態様[1]から[14]のいずれかに記載のプロセス。
【0074】
[16]実質的に四面体のSiC結晶を有する実質的に化学量論的な炭化ケイ素を、多孔性グラファイト基板の表面上および多孔性グラファイト基板のポア内に堆積させて、多孔性グラファイト表面からグラファイト基板内に延び、SiC表面コーティングと緊密に連結されたテンドリルの形態の、緊密に連結された結晶性SiC材料を形成するために、ジメチルジクロロシラン前駆体材料が使用される、実施態様[1]から[15]のいずれかに記載のプロセス。
【0075】
[17]堆積されたSiCが、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の実質的に化学量論的な四面体の結晶性SiCを含む、実施態様[1]から[16]のいずれかに記載のプロセス。
【0076】
[18]グラファイト基板上および/またはグラファイト基板のポア内に堆積されたSiC中の遊離Siの量が、約7重量%以下、好ましくは約5重量%以下、より好ましくは約3重量%以下の遊離Siを含む、実施態様[1]から[17]のいずれかに記載のプロセス。
【0077】
[19]<10μm、好ましくは≦7μm、好ましくは≦5μm、好ましくは≦4μm、好ましくは≦3μm、好ましくは≦2μmの平均粒径を有するグラファイト基板のポア内に実質的に四面体の結晶性SiCを堆積させるように制御される、実施態様[1]から[18]のいずれかに記載のプロセス。
【0078】
[20]≧10μm、好ましくは≧10~30μmの平均粒径を有するグラファイト基板の表面上に実質的に四面体の結晶性SiCを堆積させるように制御される、実施態様[1]から[19]のいずれかに記載のプロセス。
【0079】
[21]少なくとも50μm、好ましくは少なくとも75μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは75~200μmの長さでグラファイト基板中に延びるテンドリルの形態の、実質的に四面体の結晶性SiCを、グラファイト基板のポア内に堆積させるように制御される、実施態様[1]から[20]のいずれかに記載のプロセス。
【0080】
[22]ポア内および/またはグラファイト基板の表面上に、少なくとも2.50g/cm3の密度を有するSiCを堆積させるように制御される、実施態様[1]から[21]のいずれかに記載のプロセス。
【0081】
[23]実施態様[1]から[22]のいずれかに記載のプロセスにより得ることのできる炭化ケイ素コーティング体。
【0082】
[24]高温用途のための物品、サセプタおよびリアクタ、半導体材料、ウエハを製造するためのさらなる工程を含む、実施態様[1]から[22]のいずれかに記載のプロセス。
【発明を実施するための形態】
【0083】
I.定義
以下の説明では、与えられる範囲は下限閾値および上限閾値を含む。したがって、パラメータAの「XおよびYの範囲内」または「XとYの間の範囲内」という意味での定義は、Aが、X、Yの任意の値、およびXとYの間の任意の値でありうることを意味する。パラメータAの「Yまで」または「少なくともX」という意味での定義は、したがって、AがYおよびYを下回る任意の値でありうること、またはAがそれぞれXおよびXを上回る任意の値でありうることを意味する。
【0084】
本発明によれば、数値に関する用語「約」は、±10%、好ましくは±8%、好ましくは±5%、好ましくは±3%、±2%、±1%の分散を含むことを意味する。
【0085】
本発明によれば、記載された特徴に関する「実質的に」という用語は、この特徴が、その完全かつ絶対的な実現に限定されることなく、有意なレベルで、および/または優勢に実現されることを意味する。
【0086】
本発明において、式(CH3)2SiCl2を有する用語「ジメチルジクロロシラン」は、通常、DMSと略される。DMS((CH3)2SiCl2)は、クロロジメチルシランとも表記できる。
【0087】
本発明の意味では、「テンドリル」という用語は、特定の長さを有し、多孔性基板の表面からポア内に延び、それによって多孔性基板の表面上に延びる外側SiC層と多孔性基板との間に深部に到達するアンカー状またはフック状の固体連結を提供する、堆積されたSiC材料を表す。本発明の意味において、テンドリルは、根状または網状の形態を示し、細長く分枝状の外観を有し、グラファイト中に形成された結び目状のボイドを有する木の根のように見える。それらは、アモルファスSiCの含有量が少ない実質的に四面体のSiC結晶を、少なくとも50μmの長さで延びる緊密に連結した結晶性SiC材料に成長させることによって形成される。これは、例えば、
図5a、5b、6aおよび6b(テンドリル形成)および
図10に示されるSEM評価によって、または
図11に示される従来の方法によるXRDパターン(実質的に四面体のSiC結晶構造)を介して決定することができる。
【0088】
本発明によるプロセスで得られる結晶化度/結晶を指す用語「結晶化度」または「結晶」は、通常、本明細書に記載の「ベータSiC」および/または「(実質的に)四面体の結晶」を意味する。
【0089】
【0090】
本発明の意味において、「多孔性」は、通常、「開放気孔率」に関し、そうでなければSiCテンドリルを多孔性グラファイト基板中に成長させることは不可能であろう。
【0091】
走査型電子顕微鏡(SEM)測定は、本発明において、例えば、多孔度、ポア改変、SiC粒子サイズ、界面層厚などの決定方法として言及されるとき、好ましくは、室温(約24℃)でPhenom Pro(5kV、10kVおよび15kV)を使用するSEMシステムに関する。
【0092】
II.プロセス
本発明の第1の態様は、グラファイト基板上にシラン源としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用する化学気相堆積においてSiCを堆積させることにより炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関する。
【0093】
1.グラファイト基板の調製プロセス
本発明のプロセスの一態様は、前記プロセスにおいてグラファイト基板として使用されるグラファイト部材の調製に関する。
【0094】
SiCコーティング要素の基礎またはコアを形成するグラファイト基板は、任意の適切なグラファイト要素から、例えば、所望のサイズおよび形状に切断することによって調製することができる。
【0095】
好ましくは、少なくとも99%の純度を有するグラファイトが使用される。
【0096】
次いで、グラファイトは、特に、特定の表面構造を適用するための表面処理(グラファイトの機械加工)といったさらなる処理に供されてもよい。表面構造は、可変設計が可能であり、顧客のニーズと希望に応じて適用することができる。表面構造は、当技術分野で知られている従来の方法を使用して適用することができる。
【0097】
このようにして前処理されたグラファイト部材は、いわゆるグラファイト予備生成物を形成する。
【0098】
本発明によれば、開放気孔率を有するグラファイト基板を使用することが特に好ましい。
【0099】
グラファイト基板は、好ましくは0.4~5.0μmの範囲の平均ポアサイズ(ポア直径)を有する小さいポアを含むことが好ましい。小さいポアを有するグラファイト基板は、好ましくは、<10μmの表面ポア直径を有するポアを含む。これは、実質的にまたは支配的な量のポアが、<10μmのポアサイズまたは直径を呈することを意味する。適切なグラファイト予備生成物の例示的な実施態様を
図7a~cに示す。
【0100】
≧6%かつ<15%の多孔度を有するグラファイト基板を使用することがさらに好ましい。好ましくは、本発明のプロセスに使用されるグラファイトは、約6%~約13%、好ましくは約11%~約13%の多孔度を有する。6%~15%、好ましくは≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6%~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度の開放気孔率を有するグラファイト基板がさらにより好ましい。
【0101】
さらに好ましくは、微粒子タイプ、高微粒子(super fine)タイプおよび/または超微粒子(ultra fine)タイプのグラファイト基板が使用される。このようなグラファイトの粒子タイプは、特に微粒子サイズを有するグラファイトを示す。好ましくは、グラファイト基板は、<0.05mmの平均粒径を含み、より好ましくは粒径は、≦0.04mm、好ましくは≦0.03mm、好ましくは≦0.028mm、好ましくは≦0.025mm、好ましくは≦0.02mm、好ましくは≦0.018mm、好ましくは≦0.015mmである。
【0102】
グラファイト基板は、好ましくは≧1.50g/cm3、好ましくは≧1.70g/cm3、好ましくは≧1.75g/cm3の密度を有する。
【0103】
粒径、ポア径/ポア直径、および多孔度は、既知の方法、例えば、特に上記のようなSEM(走査型電子顕微鏡)測定を用いて決定することができる。
【0104】
また、多孔性は、グラファイト基板の単位重量当たりのポアの量[cm3/g]とバルク密度[g/cm3]との積を算出することによっても求めることができる。したがって、多孔性は、体積に基づいて[vol/vol]で表すことができる。
【0105】
(バルク)密度は、グラファイト試料の質量を前記試料の体積で除すことにより得ることができる。
【0106】
単位重量当たりのポアの量はさらに、周知の条件下で、従来の装置を使用して、または例えば米国特許出願公開第2018/0002236号に記載されているように、水銀ポロシメーターを用いて測定することができる。
【0107】
前記所望の多孔度および/または密度は、グラファイト予備生成物を調製するために使用されるグラファイト中に既に存在していてよい。所望の特性はまた、ここに記載されるように、本発明のプロセス工程において調節することができる。
【0108】
上記の特徴は、グラファイト基板およびSiCコーティンググラファイト体の機械的強度に関して有利である。多孔性が上昇すると基板の密度は減少し、これは基板材料を弱め、高温用途においてまたは高温CVDプロセスの間に、亀裂および欠陥または摩耗をもたらしうる。
【0109】
しかしながら、多孔度およびポアサイズが小さすぎる場合、シラン源をポア内に深く導入してその中にSiCテンドリルを形成することが困難になる。したがって、本発明のさらなる目的は、良好な機械的および物理的強度と安定性との間に適切なバランスと、使用されるグラファイト基板材料のポア内に深くSiCを導入するための適性とを見出し、基板の機械的特性を劣化させることなくグラファイト基板のポア内に深く高品質のSiCを堆積させ、高温用途のための改善されたSiCコーティング品を提供することを可能にする適切なプロセス条件を特定することである。
【0110】
2.グラファイトの精製
さらなるプロセス工程は、グラファイト予備生成物のさらなる前処理に関する。そこでは、グラファイト予備生成物は、精製および塩素化手順に供される。したがって、グラファイト予備生成物の個々の元素は、炉内に積み重ねられ、約2000℃に達するまで加熱下で窒素ガスでパージされる。塩素ガスを炉内にパージして、グラファイト予備生成物の塩素化を実施する。原則として、塩素化処理によって金属元素不純物を除去するためにグラファイトのような炭素質材料を精製する方法は、例えば、米国特許第2,914,328号、国際公開第94/27909号、EP1522523A1、EP1375423または米国特許第4,892,788号に周知である。既知の塩素化処理では、グラファイト材料中の窒素含有量を低減することを特に目的として、パージガスとしてアルゴンがしばしば使用される。前記文献のいずれも、精製された基板の多孔性に対する、そこに記載されるプロセス条件の影響を記載していない。
【0111】
しかしながら、本発明の発明者らは、本発明の1つの特定の態様において、極めて特異なプロセス条件を適用することにより、精製されたグラファイト部材だけでなく、改変された表面多孔性を有するグラファイト部材も調製することができることを見出した。改変された表面多孔性を有するこのような精製されたグラファイト部材は、本発明によるCVD法におけるグラファイト基板としての使用に特に適していることが判明し、例えばこのような改変されたグラファイト部材は、ここに記載されるグラファイト基板のポア内におけるSiCテンドリルの形成を特に促進した。特に、グラファイトが、基板の最大機械的強度を維持するために小さいポアと低い多孔度とを有することと、しかし同時に、SiC堆積のためにポア内に深くシリコン原料を導入すること、およびグラファイト内部にテンドリルを形成することを可能にする十分な多孔性を有することとの間にバランスを保つ態様の下で、本発明による精製および活性化工程から得られる活性化および改変された表面多孔性は、驚くほど有効であることが判明した。
【0112】
したがって、本発明の一態様は、改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材を製造するためのプロセスに関する。このようなプロセスは、特定のプロセス工程、すなわち
a)開放気孔率を有し、0.4~5.0μmの範囲の平均ポア径(ポア直径)を有するポアを含み、<10μmの表面ポア直径を有するポアを含み、<0.05mmの平均粒径を有するグラファイト部材(例えば、上述のグラファイト予備生成物)を提供する工程;
b)炉内の酸素含有量が約5.0%になるまで、炉内でグラファイト部材を窒素でパージする工程;
c)炉内の多孔性グラファイト部材を少なくとも約1000℃の温度に加熱する工程;
d)酸素含有量が≦0.5%になるまで、窒素によるパージおよび多孔性グラファイト部材の加熱を継続する工程;
e)多孔性グラファイト部材に直接塩素化処理を施す工程、そのために
f)>1500℃に温度を上昇させて塩素ガスのパージを開始する工程;
g)多孔性グラファイト部材を塩素雰囲気中で≧1700℃の温度に加熱する工程
を含むプロセス。
【0113】
驚くべきことに、そのような特定のプロセス条件で、改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材を提供することが可能であることが判明した。前記表面多孔性の改変は、工程a)によるグラファイト部材、すなわち工程b)~g)による処理の前のグラファイト部材の表面多孔性と比較して明らかになる。改変は、例えば、上記のように、および工程a)による、すなわち工程b)~g)による処理の前のグラファイト部材の多孔性を示す
図7a、7bおよび7cと、工程b)~g)の後のグラファイト部材の改変された表面多孔性を明確に示す
図8a、8bおよび8cとに示すように、顕微鏡写真またはSEM(走査型電子顕微鏡)測定によって決定することができる。記載の方法では、例えば、工程a)で使用されたグラファイト基板と比較して拡大された平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含む、改変された多孔性を有するグラファイト基板を得るために、表面ポアを拡大することによって表面多孔性が改変される。
【0114】
特に、工程a)で使用されるグラファイト基板と比較して拡大された平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含み、≧10μmの表面ポア直径を有するポアを含む、改変された多孔性を有するグラファイト基板を得ることができる。
【0115】
好ましくは、工程a)で使用されるグラファイト基板と比較して、1.2~2.0倍、好ましくは1.2倍、好ましくは1.3倍、好ましくは1.5倍、好ましくは2.0倍に拡大された平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含む、改変された多孔性を有するグラファイト基板を得ることができる。
【0116】
好ましくは、≧10μm、好ましくは≧10μm~最大30μmの表面ポア直径を有するポアを含む、改変された多孔性を有するグラファイト基板を得ることができる。
【0117】
好ましくは、工程a)で使用されるグラファイト基板と比較して、2.0倍、好ましくは3.0倍、好ましくは4.0倍、好ましくは5.0倍、好ましくは6.0倍、好ましくは7.0倍、好ましくは8.0倍、好ましくは9.0倍、好ましくは10.0倍に拡大された拡大表面ポア直径を有するポアを含む、改変された多孔性を有するグラファイト基板を得ることができる。
【0118】
好ましくは、前記改変は、グラファイトポアの表面ポア直径の拡大をもたらし、これは、ポアの入口が延長され、したがって、多孔性グラファイト部材のポアの内側に深くSiガスを導くことを支持する一種の入口または漏斗または円錐が提供されることを意味する。これは、Siガスに対する入口が大きく、それでもグラファイトの全体的な多孔性は材料の機械的安定性および強度を維持するために小さいままであるという利点を有する。
【0119】
したがって、本発明による拡大された表面ポアの直径はまた、基板の内側のポアの直径に対して基板の表面で拡大されることを意味しうる。
【0120】
したがって、プロセス工程b)~d)は、上述の表面多孔性の改変を達成するように制御される。
【0121】
特に、このような表面多孔性の改変は、工程a)によるグラファイト部材の開放ポア直径と比較して、グラファイト表面における開放ポア直径を拡大することを含む。このような特定のプロセス条件では、グラファイト表面における平均ポア直径は、少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%増加させることができる。特に、グラファイト表面における平均開放ポア直径は、60%を上回って、例えば60~100%増加させることができる。このような表面多孔性の改変は、改変された表面構造を提供し、これは、本発明によるCVD法で使用されるとき、グラファイト部材のポア内に成長して延びるSiCテンドリルの形成を促進し、支持する。
【0122】
工程b)では、炉内の酸素含有量が約3.0%、好ましくは約2.5%になるまで窒素をパージすることが好ましい。工程b)における酸素含有量が、工程c)において多孔性グラファイト部材を加熱する前にここに規定されたものよりも高い場合、グラファイトは燃え尽き、ポア構造は少なくとも部分的に破壊される。工程b)における酸素含有量が、工程c)において多孔性グラファイト部材を加熱する前にここに規定されたものよりも低い場合、表面多孔性の十分な改変を達成することができない。
【0123】
酸素含有量は、酸素/一酸化炭素計Bacharach Model 0024-7341を用いて制御することができる。
【0124】
好ましくは、工程c)およびd)における温度は、>1000と1500℃の間、好ましくは1000と1200℃の間である。
【0125】
工程d)において、窒素によるパージおよび加熱は、好ましくは、酸素含有量が≦0.3%、好ましくは≦0.2%、好ましくは≦0.1%に減少するまで継続される。
【0126】
また、所望の低酸素含有量に達するまでグラファイト部材を加熱し始めることなく窒素でパージし、次いで、上記工程c)に規定したように多孔性グラファイト部材を加熱し始めることも可能である。
【0127】
プロセス工程b)~d)は、規定された酸素含有量が達成されるまで実施される。
【0128】
理論に拘束されるものではないが、炉内に存在する、その反応性について知られているパージガス窒素および酸素残留物は、燃焼中に反応して窒素酸化物(NOx)を形成すると想定され、したがって、多孔性グラファイト部材の精製をさらにもたらすと想定される。
【0129】
ここに記載される特定のプロセスの一態様では、所望の低酸素含有量が達成されるまでパージされ、任意で加熱されたグラファイト部材は、工程f)で規定されるようにグラファイト部材を加熱し始めることにより塩素化プロセスに直接供される。
【0130】
工程f)および/またはg)において、塩素ガスは、好ましくは5~20、好ましくは7~10slpmslpm(標準リットル/分)の塩素ガスでパージされる。塩素ガスの流れを制御するための流量計は、Sierra Instruments Digital MFCの流量計とすることができる。
【0131】
好ましくは、工程e)~g)の塩素化処理は、約1~4時間、好ましくは1~3時間の期間にわたって行われる。
【0132】
工程g)において、温度を≧1700℃に上昇させる。温度は≧2000℃に上げてもよい。好ましくは、工程e)~g)の塩素化処理は、2600℃以下の温度で実施され、好ましくは、工程g)の温度は、>1800かつ≦2600℃、好ましくは1800~2500℃に上昇させる。
【0133】
好ましくは、塩素化処理は、多孔性グラファイト部材中の塩素含有量を、少なくとも約20.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約40.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約60.00ppb wt.の量に調節するように制御される。
【0134】
さらなる態様において、多孔性グラファイト部材中の塩素含有量は、少なくとも約30.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約40.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約50.00ppb wt.の量に調節される。
【0135】
さらなる態様では、多孔性グラファイト部材中の塩素含有量は、約20.00~250.00ppb wt.、好ましくは約30.00~250.00ppb wt.、好ましくは約40.00~250.00ppb wt.、好ましくは約50.00~250.00ppb wt.の範囲の量に調節される。
【0136】
さらなる態様では、多孔性グラファイト部材中の塩素含有量は、約20.00~250.00ppb wt.、好ましくは約20.00~200.00ppb wt.、好ましくは約20.00~175.00ppb wt.、好ましくは約20.00~165.00ppb wt.の範囲の量に調節される。
【0137】
このような塩素含有量の調節は、プロセス工程e)~g)を含む上記のプロセスにおいて特に好ましい。
【0138】
そこでは、調節され、上記で規定された塩素含有量は、特に、多孔性グラファイト部材のより深い領域で、表面領域においてだけでなく、達成される。極めて詳細には、本発明による塩素化処理では、上記で規定された好ましい塩素含有量が、多孔性グラファイト部材内において、特に主表面下≧50μmの深さで達成されうる。グラファイト部材の深部での塩素化含有量は、所望の純度を達成し、グラファイト部材中に塩素を導入するために好ましい。
【0139】
前記調節は、特に、前述の好ましい塩素化処理条件で達成することができる。
【0140】
理論に拘束されるものではないが、グラファイト部材に塩素を導入することは、捕捉された塩素の一種のリザーバを提供し、これは、ここに記載されるような以下のプロセス工程、例えば、ここに記載されるCVD法において、さらなる精製を達成することができると想定される。グラファイト部材中に残留塩素を導入して保存するために、ここに規定されるグラファイト部材の特定の多孔度および/または密度が有利であると想定される。このような比較的緻密なグラファイト材料は、グラファイト部材中での塩素の捕捉を支持すると想定される。
【0141】
本発明によれば、塩素化処理は、精製された多孔性グラファイト部材、例えば、上記のプロセス工程g)から得られるグラファイト部材であって、以下の量で以下の不純物元素
カルシウム<100.00ppb wt.、
マグネシウム<100.00ppb wt.、
アルミニウム<100.00ppb wt.、
チタン<20.00ppb wt.、
クロム<200.00ppb wt.、
マンガン<20.00ppb wt.、
銅<100.00ppb wt.、
鉄<20.00ppb wt.、
コバルト<20.00ppb wt.、
ニッケル<20.00ppb wt.、
亜鉛<100.00ppb wt.、
モリブデン<300.00ppb wt..;
のうちの1つ以上を含み、好ましくは、以下の量で以下の不純物元素
カルシウム<50.00ppb wt.、
マグネシウム<50.00ppb wt.、
アルミニウム<50.00ppb wt.、
チタン<10.00ppb wt.、
クロム<100.00ppb wt.、
マンガン<10.00ppb wt.、
銅<50.00ppb wt.、
鉄<10.00ppb wt.、
コバルト<10.00ppb wt.、
ニッケル<10.00ppb wt.、
亜鉛<50.00ppb wt.、
モリブデン<150.00ppb wt.
のうちの1つ以上を含む。
【0142】
本発明によれば、塩素化処理は、≧98%、好ましくは≧99%の純度を有する多孔性部材を提供するために実施される。
【0143】
本発明による精製プロセスは、好ましくは、不純物の総量が≦10.00ppm wt.、好ましくは≦5.00ppm wt.、好ましくは≦4.00ppm wt.の多孔性グラファイト部材を提供する。
【0144】
上記の精製のプロセスまたは精製および表面改変のプロセスは、多孔性グラファイト部材をアニールし、それによって多孔性グラファイト部材を>1000℃の温度に維持して多孔性グラファイト部材内の応力を低減する工程をさらに含むことができる。
【0145】
その結果得られる精製された多孔性グラファイト部材は、表面洗浄に供することにより、処理されたグラファイト部材の表面からダストおよび遊離粒子を除去することができる。
【0146】
グラファイトの既知の塩素化処理では、パージガスとしてアルゴンを使用することが極めて普通である。本発明の発明者らは、驚くべきことに、特にグラファイトのポア内に延びるテンドリルの形成が意図されるここに記載のCVD方法で使用される精製グラファイト部材の調製のために、アルゴンがパージガスとして適切でないことを見出した。これに対して、本発明者らは、グラファイト部材を精製するプロセスにおいてパージガスとしてアルゴンを用いた場合に、テンドリルの生成が生じないことを見出した。本発明のさらなる態様では、したがって、アルゴンの非存在下で精製および塩素化プロセスを実施することが好ましい。
【0147】
3.塩素化グラファイトの活性化
さらなるプロセス工程は、グラファイト予備生成物、または上記の精製済み塩素化グラファイト部材のさらなる前処理に関する。その中で、上記のグラファイト予備生成物または精製済み塩素化グラファイト部材は、活性化手順に供される。本発明の発明者らは、驚くべきことに、本発明のさらなる一態様において、極めて特定のプロセス条件の適用が、(さらに)改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト部材を調製するために適切であることを見出した。改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト部材は、以下に記載されるCVD法において使用されるとき、グラファイトのポア内に延びるSiCテンドリルの形成をさらに容易にし、かつ支持するため、本発明によるCVD法におけるグラファイト基板としての使用に特に適していることが判明した。
【0148】
したがって、本発明のさらなる態様は、改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板を製造するためのプロセスに関する。このようなプロセスは、特定のプロセス工程、すなわち
i)開放気孔率を有し、0.4~5.0μmの範囲の平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含み、かつ<10μmの表面ポア直径を有するポアを含み、かつ<0.05mmの平均粒径を有するグラファイト基板をプロセスチャンバ内に配置する工程;
ii)プロセスチャンバ内の酸素含有量が約5.0%になるまで、プロセスチャンバ内でグラファイト基板を窒素でパージする工程;
iii)炉内の多孔性グラファイト基板を少なくとも約1000℃の温度に加熱する工程;
iv)窒素によるパージを続け、酸素含有量が≦0.5%になるまで多孔性グラファイト基板を>1000℃の温度に加熱する工程
を含む。
【0149】
このようなプロセスは、グラファイトで覆われたプロセスチャンバ内で実施することができる。プロセスチャンバは、処理されるグラファイト要素を取り付けることができる保持要素を含むことができる。グラファイト要素と保持要素との間の1つ以上の接触点をできるだけ小さく保つことが好ましい。プロセスチャンバは、加熱されてもよい。原則として、このようなプロセスチャンバは既知である。
【0150】
前記プロセスは、工程iv)に続いて、活性化多孔性グラファイト基板内の応力を低減するために、活性化多孔性グラファイト基板を>1000℃の温度に維持することによって、活性化多孔性グラファイト基板をアニールする工程v)をさらに含むことができる。
【0151】
活性化された多孔性グラファイト基板から、表面ダストまたは遊離粒子を洗浄することができる。しかしながら、前記活性化プロセスによって得られた活性化多孔性グラファイト基板は、以下に記載されるような化学気相堆積処理に直接供されることが特に好ましい。したがって、前記プロセスは、好ましくは、工程iv)または任意の工程v)に続いて、活性化多孔性グラファイト基板を直接CVD処理に供するさらなる工程vi)を含む。ここでは、例えば米国特許第3,925,577号に記載されているような、活性化処理とCVD処理との間の洗浄工程を省略することが特に好ましい。
【0152】
したがって、本発明のさらなる態様は、改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板を製造するためのプロセスに関し、このプロセスは以下の特定のプロセス工程を含む。
i)開放気孔率を有し、0.4~5.0μmの範囲の平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含み、かつ<10μmの表面ポア直径を有するポアを含み、かつ<0.05mmの平均粒径を有するグラファイト基板をプロセスチャンバ内に配置する工程;
ii)プロセスチャンバ内の酸素含有量が約5.0%になるまで、プロセスチャンバ内でグラファイト基板を窒素でパージする工程;
iii)炉内の多孔性グラファイト基板を少なくとも約1000℃の温度に加熱する工程;
iv)窒素によるパージを続け、酸素含有量が≦0.5%になるまで多孔性グラファイト基板を>1000℃の温度に加熱する工程;
v)工程iv)から得られる活性化多孔性グラファイト基板を>1000℃の温度で任意にアニールして、活性化多孔性基板中の応力を低減する工程;
vi)工程iv)またはv)の活性化多孔性グラファイト基板を、事前の洗浄工程なしでCVD処理に直接供する工程。
【0153】
本発明の一態様では、ダストまたは遊離粒子を除去することなくCVDプロセスに直接供されているこのような活性化多孔性グラファイト基板は、表面上に一種の粉末層を含むことができ、このような表面粉末層は、主に炭素粉末または炭素ダストを含む。工程iv)またはv)から得られる多孔性グラファイト基板は、1~15μm、好ましくは2~10μm、好ましくは3~7μm、好ましくは>1μm、好ましくは>2μmの厚さを有するこのような表面粉末層を含むことができる。したがって、工程vi)においてCVD処理に直接供されている活性化多孔性グラファイト基板は、好ましくは、それぞれの表面粉末層を呈する。
【0154】
このような遊離粉末層は、驚くべきことに、CVDプロセスにおけるSiCコーティングに良い影響を及ぼすことが判明した。理論に拘束されるものではないが、緩い粉末層は、結晶性SiCの成長を強化し、SiC形成をさらに促進する改善された核形成表面を提供すると考えられる。
【0155】
上述の活性化プロセスの工程ii)では、好ましくは、プロセスチャンバ内の酸素含有量が約3.0%、好ましくは約2.5%になるまで、窒素がパージされる。工程iv)では、窒素によるパージおよび加熱は、好ましくは、酸素含有量が≦0.3%、好ましくは≦0.2%、好ましくは≦0.1%に減少するまで継続される。
【0156】
酸素含有量は、酸素/一酸化炭素計Bacharach Model 0024-7341を用いて制御することができる。
【0157】
上述の精製プロセスと同様に、工程ii)における酸素含有量が、工程iii)において多孔性グラファイト部材を加熱する前にここで規定されるものよりも高いことが重要である。より高い酸素含有量では、グラファイトは燃え尽きることがあり、ポア構造は少なくとも部分的に破壊される。工程ii)における酸素含有量が、工程iii)において多孔性グラファイト部材を加熱する前にここで規定したものよりも低い場合、グラファイト基板の十分な活性化を達成することができない。
【0158】
好ましくは、工程iii)およびiv)における温度は、>1000と1500℃の間、好ましくは1000と1200℃の間である。
【0159】
プロセス工程ii)~iv)は、規定された酸素含有量が達成されるまで実施される。
【0160】
極めて好ましくは、上記のような精製済み塩素化グラファイト部材は、本活性化処理に供される。したがって、前記活性化プロセスにおいて、工程i)のグラファイト基板が、少なくとも約20.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約40.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約60.00ppb wt.の塩素含有量を呈することが特に好ましい。
【0161】
さらなる態様では、工程i)で使用される多孔性グラファイト基板中の塩素含有量は、少なくとも約30.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約40.00ppb wt.、好ましくは少なくとも約50.00ppb wt.である。
【0162】
さらなる態様では、工程i)で使用される多孔性グラファイト基板中の塩素含有量は、約20.00~250.00ppb wt.、好ましくは約30.00~250.00ppb wt.、好ましくは約40.00~250.00ppb wt.、好ましくは約50.00~250.00ppb wt.の範囲である。
【0163】
さらに別の態様では、i)の工程で使用される多孔性グラファイト基板中の塩素含有量は、約20.00~250.00ppb wt.、好ましくは約20.00~200.00ppb wt.、好ましくは約20.00~175.00ppb wt.、好ましくは約20.00~165.00ppb wt.の範囲である。
【0164】
極めて詳細には、前記好ましい塩素含有量は、多孔性グラファイト基板の内部に、特に主表面の下≧50μmの深さに存在する。
【0165】
上述のように、このような塩素含有量がグラファイト基板の内部に封入されたグラファイト基板を使用することは、本活性化処理中にさらなる精製を達成するために有利である。
【0166】
上記の理由のために、活性化プロセスの工程i)の多孔性グラファイト基板は、好ましくは、特に上記で規定された小さい平均ポアサイズ(直径)および低い多孔度といった、上記で規定されたポア特性を有する。
【0167】
上記の理由のために、活性化プロセスの工程i)の多孔性グラファイト基板は、好ましくは、上記で規定された多孔度を有する。
【0168】
上記の理由のために、活性化プロセスの工程i)の多孔性グラファイト基板は、好ましくは、上記で規定された粒径および/または密度を有する。
【0169】
ここに記載される活性化処理において処理されている多孔性グラファイト基板は、上記のように、捕捉された塩素含有量までさらに精製することができる。したがって、上述のプロセスから得られる活性化多孔性グラファイト基板は、以下の量で以下の不純物元素
カルシウム<100.00ppb wt.、
マグネシウム<100.00ppb wt.、
アルミニウム<100.00ppb wt.、
チタン<20.00ppb wt.、
クロム<200.00ppb wt.、
マンガン<20.00ppb wt.、
銅<100.00ppb wt.、
鉄<20.00ppb wt.、
コバルト<20.00ppb wt.、
ニッケル<20.00ppb wt.、
亜鉛<100.00ppb wt.、
モリブデン<300.00ppb wt.
のうちの1つ以上を含み、好ましくは、以下の量で以下の不純物元素
カルシウム<50.00ppb wt.、
マグネシウム<50.00ppb wt.、
アルミニウム<50.00ppb wt.、
チタン<10.00ppb wt.、
クロム<100.00ppb wt.、
マンガン<10.00ppb wt.、
銅<50.00ppb wt.、
鉄<10.00ppb wt.、
コバルト<10.00ppb wt.、
ニッケル<10.00ppb wt.、
亜鉛<50.00ppb wt.、
モリブデン<150.00ppb wt.
のうちの1つ以上を含む。
【0170】
活性化多孔性グラファイト基板は、≧98%、好ましくは≧99%の純度を有しうる。
【0171】
活性化多孔性グラファイト基板は、さらに、≦10.00ppm wt.、好ましくは≦5.00ppm wt.、好ましくは≦4.00ppm wt.の総不純物量を有していてもよい。
【0172】
活性化多孔性グラファイト基板を直接化学気相堆積処理に供する場合、このようなCVD処理を同一のプロセスチャンバ内で行うことができる。次いで、プロセスチャンバ内の温度が>1000℃であり、かつプロセスチャンバ内の酸素含有量が1.5%未満である場合、H2の導入を既に開始することができる。例えば、1.5%未満の酸素含有量がプロセスチャンバ内で到達される場合、以下に記載されるCVD法のプロセス工程2)を既に開始することができる。
【0173】
前記活性化プロセスを用いて、上記で規定された拡大表面ポア直径を有する上記表面ポア改変を達成することができる。
【0174】
そのように処理されたグラファイト基板は、ここに記載されるDMSを使用するCVD法においてSiCテンドリル形成を支持し、ここに記載されるCVD法のための改善された基板を提供するのに特に適していることが判明した。
【0175】
4.化学気相堆積(CVD)による多孔性グラファイト基板上への炭化ケイ素(SiC)の堆積
さらなるプロセス工程は、多孔性グラファイト基板上へのSiCの堆積に関する。好ましい多孔性グラファイト基板は、上記精製プロセスから得られる精製済み塩素化グラファイト部材、ならびに上記の活性化プロセスから得られる活性化グラファイト基板であり、これは、改変された拡大表面多孔性を示す。
【0176】
本発明のプロセスの重要な要素は、多孔性グラファイト基板のポアをSiCで充填した界面層の形成、およびそれに続く多孔性グラファイト基板上に外側炭化ケイ素層を形成するためのSiCの堆積であり、これはジメチルジクロロシランの化学気相堆積によって達成される。原理的に、化学気相堆積(「CVD」、化学気相堆積「CVPD」としても知られる)は、特に半導体産業において薄膜を製造するために高品質で高性能の固体材料を製造するために使用される周知の技術である。典型的には、基板は、基板表面上で反応および/または分解して所望の堆積物を生成する1つ以上の揮発性前駆体に曝される。CVDは、シリコン、二酸化シリコン、窒化シリコン、並びに炭化シリコンを堆積するために一般的に使用される。そこでは、多種多様なオルガノシランを、揮発性CVD前駆体として使用することができ、これには、例えばメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン(SiCl4)、ジメチルジクロロシラン、ならびにハロゲン原子によって置換されていてもよいアリールシランを含む、モノ-、ジ-、トリ-およびテトラメチルシランおよびクロロシランといった1つ以上のハロゲン原子によって置換されていてもよい単純なオルガノシランが含まれる。炭化ケイ素を堆積させるための最も一般的なCVD前駆体は、トリクロロシラン、テトラクロロシランおよびメチルトリクロロシランである。
【0177】
例えば、共に上記で引用したD. Cagliostro and S. Riccitiello (1990)及びByung Jin Choi (1997)によって記載されているように、堆積されたSiC材料の特性および品質ならびにCVDプロセスにおけるその挙動は、選択された有機シラン前駆体材料の種類および適用される特定のCVDプロセス条件に強く依存する。例えば、D. CagliostroおよびS. Riccitiello (1990) によって記載されているように、前駆体材料から形成された断片の揮発性、輸送特性および反応動力学は、多孔性媒体に浸透し、多孔性媒体中で凝縮し、および/または多孔性媒体をコーティングする能力に影響を及ぼし、したがって、形態、高密度化および/または機械的特性に影響を及ぼす。上記で引用した米国特許出願公開第2018/002236号にさらに記載されているように、多孔性基板材料の適切な選択は、ポア内へのSiの浸透を達成するために重要である。多孔性が低すぎると、多孔性基板のより深い領域へのSi原料の導入が損なわれ、反対に多孔性が高すぎると基板の機械的強度が劣化する。Byung Jin Choi (1997)は、特定のプロセス条件(例えば、CVD温度)を変化させることによって、および異なる有機シランCVD前駆体材料を使用することによって、堆積されたSiC材料の特性および品質に対する影響をさらに説明している。
【0178】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、ここに記載される有利な生成物特性が、CVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用することによって、本発明の新規のプロセスにより達成されうることを見出した。本発明の新規のプロセスにおいて、例えば、より一般的なテトラクロロシラン、トリクロロシランまたはメチルトリクロロシラン(MTS、トリクロロメチルシラン)の代わりに、CVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を特に選択することにより、多孔性グラファイト上に堆積されたSiC材料の改善された特性を達成して、ここに記載される改善されたSiCコーティング品を形成することが可能であることが判明した。新規の改善されたSiCコーティング品は、例えば、特定のSiC粒と結晶サイズ、およびアモルファスSiCの量が低減された実質的に四面体の結晶性を有する以下に記載される改善されたSiC材料によって特徴付けられ、これは堆積されたSiCの強度および硬度、特定のSiCテンドリル形成およびここに記載されるポア充填度を改善し、記載される厚さの界面層と、SiCテンドリルと緊密に連結する改善された外側SiCコーティング層が形成され、したがって改善された機械的性質、均質性および連続性などがもたらされる。
【0179】
したがって、本発明のさらなる一態様は、新規の改善されたSiCコーティング、およびしたがって新規の改善されたSiCコーティング体を提供するために適した、極めて特定のCVDプロセス条件を有するCVDプロセスに関する。
【0180】
具体的には、本発明者らは、開放気孔率を有するグラファイト基板上にSiCを堆積させるために、パージガスとしてのH
2の存在下で、シラン源またはCVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用する特定のCVD条件のみが、多孔性グラファイト基板の多孔性構造内に成長し、したがってグラファイト基板内に延びるSiCテンドリルの形成をもたらすことを見出した。このようなSiCテンドリルは、実質的に四面体のSiC結晶(例えば
図10に示されるような)によって特徴付けられ、これは多孔性グラファイト基板中に少なくとも50μmの長さで延びる根状テンドリルの形態の、緊密に連結された結晶性SiC材料を形成する。上述のように、本発明のCVDプロセスの特定条件下で堆積された改善されたSiC材料は、四面体結晶(例えば
図10参照)を形成する結晶性ベータSiC(例えば、
図11参照)として主として形成されること、および非常に鋭いベータSiCピーク(111)を有する
図11のXRDパターンによって示される、低量のアモルファスSiCを含むことを特徴とする。SiCテンドリルは、例えば
図6b(参照符号(7)に示されるように、上に位置するSiC表面コーティングとさらに緊密に連結される。これにより、SiC表面層とグラファイト基板との連結性が向上し、剥離(exfoliation)、剥離(peeling)、または反りが低減される。
【0181】
これにより、SiCコーティング層の下層基板への緊密な連結(接着)、高いエッチング抵抗、耐衝撃性、破壊靭性および/またはSiCコーティングの耐亀裂性、ならびにコーティング体の耐酸化性、ならびにSiCコーティングの均質性の改善といった強化された機械的特性を有する多孔性グラファイト基板上に、SiCコーティングを堆積させることができる。
【0182】
したがって、本発明のさらなる態様は、炭化ケイ素(SiC)コーティング体(またはコーティング品)を製造するためのプロセスに関し、このようなプロセスは、
1)6%~15%の多孔度の開放気孔率を有し、10~30μmの表面ポア直径を有するポアを含む多孔性グラファイト基板をプロセスチャンバ内に配置する工程;
2)パージガスとしてのH2の存在下において、大気圧下で、プロセスチャンバ内の多孔性グラファイト基板を1000~1200℃の範囲の温度に加熱する工程;
3)ジメチルジクロロシラン(DMS)とH2との混合物を少なくとも30分間プロセスチャンバ内に導入する工程;
4)注入相において、化学気相堆積(CVD)によってグラファイト基板の開放ポア内に結晶性SiC粒子を堆積させ、多孔性グラファイト基板内に少なくとも50μmの長さで延びるテンドリルの形態の連結された結晶性SiC材料が形成されるまで、結晶性SiC粒子を実質的に四面体のSiC結晶に成長させる工程;
5)任意で、第1の成長相において実質的に四面体のSiC結晶を含む厚さ50μmまでのSiC表面層がグラファイト基板の表面上に堆積されるまで化学気相堆積を継続する工程;
6)工程5)で得られたコーティング体を冷却する工程
を含む。
【0183】
好ましくは、工程2)において、温度は1000~<1200℃、より好ましくは1100~1150℃である。
図9に示すように、CVDプロセスにおける適切な温度範囲の選択は、結晶成長の速度および均質核形成の速度に影響を及ぼすことによって、SiC結晶化に影響を及ぼす。最適温度範囲(
図9の斜線領域)では、結晶成長と均質核形成との間の均衡が適切にバランスされ、ここで規定される結晶サイズおよびテンドリルの形成を有する実質的に四面体の結晶性SiCを達成することができる。
図9は、さらに、高すぎる温度は融解および準安定な材料(アモルファスSiC)の形成につながることを示している。うまくバランスのとれた結晶成長速度と均質核形成とを有する適切な温度範囲は、特にCVD前駆体として使用される有機シラン源の選択といったさらなるプロセス条件に応じて個別に決定されなければならない。
【0184】
圧力条件も、結晶成長速度と均質核形成の前記バランスに影響を及ぼす。低圧は、低い堆積速度を支持し、より少ない核およびより大きい核に有利である。本発明者らは、大気圧がここに記載される効果を達成するために適していることを見出した。
【0185】
本発明者らはさらに、テンドリルの形成が、CVD堆積時間に依存することを見出した。したがって、工程3)において、ジメチルジクロロシラン(DMS)とH2との混合物を、プロセスチャンバに>30分間導入する。好ましくは、ジメチルジクロロシラン(DMS)とH2との混合物は、>30分かつ<12時間、好ましくは>45分かつ<10時間、より好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは<10時間、好ましくは<8時間、好ましくは<6時間、好ましくは<4時間、好ましくは<3時間、最も好ましくは1~2時間以内にわたり導入される。より短い時間内で、本発明によるテンドリルの形成を達成することはほとんど不可能である。プロセスの経済性を考慮すると、より長い時間は不利になる。
【0186】
本発明のプロセスにおいて、化学気相堆積(CVD)は、DMSとH2との混合物の総流量が25~200slpm、好ましくは40~180slpm、より好ましくは60~160slpmで実施されることがさらに好ましい。
【0187】
SiCテンドリルをグラファイトのポア内に堆積させるだけでなく、SiC充填ポアを有するグラファイト基板の表面の上にSiCコーティングを堆積させることが特に好ましい。したがって、工程5)(必須ではないが)も実施されることが好ましい。確かに、工程5)は、例えば、堆積時間および/またはDMSの量を変化させることによって、所望の厚さのSiC表面層を達成するように制御することができる。
【0188】
さらに、驚くべきことに、SiCテンドリルの形成は、工程2)の前に、N2でプロセスチャンバをパージし、≧1000℃、好ましくは1000~1500℃の温度に加熱し、次いで工程2)を直接実施することにより、多孔性グラファイト基板を前処理および活性化する予備調整工程が含まれる場合、有意に改善または促進されうることが判明した。原則として、このような前処理工程は、上記のグラファイト活性化プロセスに極めて類似している。上述したように、活性化プロセスおよびCVD法は、好ましくは、組み合わされて、同じプロセスチャンバ内で実行される。したがって、このような予備調整工程は、好ましくは、プロセスチャンバ内の酸素含有量が約5.0%になるまでプロセスチャンバを窒素でパージすることと、続いて、酸素含有量が≦0.5%、好ましくは≦0.3%、好ましくは≦0.2%、好ましくは≦0.1%になるまで、プロセスチャンバを少なくとも約1000℃、好ましくは>1000~1500℃、好ましくは1000と1200℃の間の温度に加熱することとを含む。
【0189】
酸素含有量は、酸素/一酸化炭素計Bacharach Model 0024-7341を用いて制御することができる。
【0190】
上述のように、さらに驚くべきことに、CVDによってSiCでコーティングされるグラファイト基板の、特定のポアサイズ/ポア直径および多孔度を有する特定の多孔性は、下に位置する基板へのSiCコーティング層の緊密な連結(接着)、SiCコーティングの高い耐エッチング性、耐衝撃性、破壊靭性および/または耐亀裂性、ならびにコーティング体の耐酸化性といった、所望の優れた機械的特性を有するコーティング品を達成するために重要な役割を果たすことが判明した。したがって、SiCでコーティングされるグラファイト基板は、6%~15%の小さい多孔度を有する開放気孔率を呈するべきであり、さらに、SiCの浸透を容易にするために、約10~30μmの拡大された表面ポア直径を有する十分な量のポアを含むべきである。
【0191】
≧6%かつ≦15%の多孔性を呈する本発明のプロセスにおいてSiCでコーティングされるグラファイト基板は、所望の特性を有するSiCコーティング品を達成するために特に適していることが判明した。
【0192】
好ましくは、本発明のプロセスにおいてSiCでコーティングされるグラファイト基板は、>6%~<15%の多孔性、または約6%~約14%、約6%~約13%、約6%~<13%の範囲の多孔性、または>6%~約15%、約7%~約15%、約8%~15%、約9%~約15%、約10%~約15%、約11%~約15%の多孔性、または≧11%~約13%の範囲の多孔性を示す。最も好ましいのは、≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度である。このような好ましい範囲は、同様に、精製および塩素化プロセスならびに活性化プロセスにおける好ましい範囲であり、上記の両方が、同様に、以下に記載の生成物をもたらす。
【0193】
上記理由のために、多孔性グラファイト基板は、0.4-5.0μm、好ましくは1.0~4.0μmの平均ポアサイズ(ポア直径)といった小さいポアを有し、約10μm~最大30μm、好ましくは最大20μm、好ましくは最大10μmの拡大された表面ポア直径を有するポアを含むことがさらに好ましい。
【0194】
上記の理由から、多孔性グラファイト基板は、≧1.50g/cm3、好ましくは≧1.70g/cm3、好ましくは≧1.75g/cm3の密度を有することがさらに好ましい。
【0195】
上記の理由のために、工程1)で使用される多孔性グラファイト基板は、上記に詳細に記載される拡大された表面ポアを有する改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板であることがさらに好ましい。
【0196】
上述のように、本発明による多孔度、ポアサイズ/直径、または拡大された表面多孔性および密度は、上述のように、例えば、特にSEM測定による多孔性の決定を含む既知の方法によって決定することができる。
【0197】
本発明において使用される「テンドリル」という用語は、多孔性基板の表面からポア内に延びるように成長し、したがって多孔性基板の表面からそのより深い領域内に、例えば、上記に既述したようにテンドリル状、根状、または延伸した寸法で延び、そのようにして多孔性基板の表面上に延びる外側SiC層と多孔性基板との深部到達アンカーまたはフック状固体連結を提供する、堆積されたSiC材料を意味する。十分な固定を達成するために、テンドリルは、少なくとも50μmの平均長さが達成されるまで、ポアの中に成長させられる。
【0198】
好ましくは、工程4)は、少なくとも75μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは75~200μmの平均長さで延びるテンドリルの形態の、連結された結晶性SiC材料が形成されるまで実施される。
【0199】
本発明のプロセスの工程4)の注入相における、グラファイト基板のポア内に延びるテンドリルの形成は、いわゆる「界面層」の形成をもたらす。本発明において使用される「界面層」という用語は、多孔性グラファイト基板と、前記多孔性グラファイト基板の表面上に堆積されたSiCコーティング層との間に、例えば、工程5)および/または以下に記載される工程8)において位置し、多孔性グラファイトによって形成されるゾーンまたは領域を表し、ここでポアが、ここに記載される堆積されたSiC、すなわちSiCテンドリルで充填される。したがって、本発明のSiCコーティング品またはコーティング体の界面層は、ポア内に延びるSiCテンドリルを有する多孔性グラファイト基板の多孔性グラファイト材料を含む。
【0200】
好ましくは、工程4)は、少なくとも100μmの厚さを有する界面層が形成されるまで実施される。
【0201】
前記界面層は、多孔性グラファイト基板の表面から概ね垂直下方に向かって多孔性グラファイト基板内に延び、したがって界面層または領域を形成する。前記界面層は、好ましくは、>100μm、より好ましくは少なくとも200μm、より好ましくは約200~約500μmの厚さを有する。
【0202】
本発明の工程3)において、加熱された多孔性グラファイト基板は、多孔性グラファイト基板の中および上に炭化ケイ素を堆積させるために化学気相堆積に供される。そこで、工程3)によるDMSとH2との混合物は、好ましくは、H2ガスをDMSタンクに導入し、タンク内のDMSを通してH2をバブリングし、混合物をタンクの頂部から押し出すことによってDMSとH2との混合物をプロセスチャンバに通すことによって得られる。
【0203】
好ましくは、化学気相堆積(CVD)は、DMSとH2との混合物の総流量が、25~200slpm、好ましくは40~180slpm、より好ましくは60~160slpmで実施される。より好ましくは、25~45slpmの量の混合物をプロセスチャンバ内に導入する。
【0204】
好ましくは、H2は、DMSタンクを通るように導かれ、DMSと合流する。さらなる量のH2が直接プロセスチャンバにパージされ、そこでDMSとH2との混合物と合流する。
【0205】
DMS/H2混合物の流れを制御するための流量計は、Sierra Instruments Digital MFCの流量計とすることができる。
【0206】
DMSの導入の前に、加熱およびH2でのパージのさらなる工程を実施してもよい。
【0207】
上述のように、アルゴンは、CVD法においても一般的なパージガスであるが、本発明者らは、本発明のCVDプロセス(またはここに記載される任意の他のプロセス)においてパージガスとしてアルゴンを使用するとき、テンドリル形成が起こらないことを見出した。したがって、このプロセスは、好ましくはアルゴンの非存在下で実施される。
【0208】
本発明のCVDプロセスの好ましいさらなる工程e)において、SiC層は、ジメチルジクロロシランとH2との混合物の化学気相堆積を継続することによって、第1の成長相において多孔性グラファイト基板上にさらに成長し、それによりグラファイト基板表面を覆う。上述のように、このようなSiCコーティングの厚さは変更することができるが、最大50μmの表面層が好ましい。
【0209】
好ましくは、プロセス工程5)は、少なくとも30μm、好ましくは少なくとも35μm、好ましくは少なくとも40μm、より好ましくは少なくとも45μmの厚さのSiC表面層がグラファイト基板の表面上に堆積されるまで実施される。
【0210】
このようにコーティングされたSiCグラファイト基板は、SiCコーティングおよび多孔性グラファイト基板内の応力を低減するために、コーティングされた多孔性グラファイト基板を>1000℃の温度に維持することによって、コーティングされた多孔性グラファイト基板をアニールするさらなる工程に供されてもよい。
【0211】
このようなアニーリング工程は、上記の予備調整工程に続いて実施することもできる。
【0212】
したがって、このようなアニーリング工程は、
- 工程2)の前に、および/または、存在する場合には上述した予備調整工程に続いて、
- および/または工程6)の前に
実施することができる。
【0213】
グラファイト基板要素の保持要素上での位置決めに起因して、前記接触点は、CVDプロセスにおいてSiCでコーティングされない。したがって、全表面にわたって均質で連続的なSiCコーティングを達成するために、以下のプロセス工程7)および8)を工程6)に続いて実施することができる:
7)工程6)により得られたコーティング体の位置を変更する工程、および
8)工程2)を繰り返し、第2の成長相においてジメチルジクロロシラン(DMS)とH2との混合物をプロセスチャンバ内に導入し、それにより、化学気相堆積(CVD)によって工程6から得られる多孔性グラファイト基板の表面上に結晶性SiC粒子を堆積させ、外側SiC表面層が形成されるまで、結晶性SiC粒子を実質的に四面体のSiC結晶に成長させる工程。
【0214】
好ましくは、工程8)による第2の成長相は、注入相および第1の成長相と同じCVD条件を適用して実施される。したがって、原則として、第1の成長相について上記で規定されたものと同じことが当てはまる。
【0215】
上記のアニーリング工程は、工程8)の前および/または冷却工程6)の前に行うこともできる。同様の冷却工程が、工程8)の第2の成長相の後に実施される。冷却工程に続いて、コーティング体は、好ましくは、品質検査および任意で精製に供され、それによって遊離粒子および/または突出結晶が除去される。
【0216】
しかしながら、好ましくは、本発明によるCVDプロセスは、工程5)の第1の成長相においてグラファイト基板上に堆積されたSiC層が、工程8)の第2の成長相においてグラファイト基板上に堆積されたSiC層よりも、同じ条件下で、特に同じDMS量および同じ堆積時間で厚くなるように制御される。これは、例えば、工程2)の前に上述の予備調整工程を実施することによって達成することができる。工程1)の多孔性グラファイトに同量のDMSを同じ時間で適用すると、SiCコーティングを構築する前にSiCテンドリルを形成するためにDMSをコーティングすることが必要とされ、これにはコーティング層の構築の前にある程度の時間を要するので、これは驚くべきことであると考えられなければならない。理論に拘束されることなく、予備調整工程は、グラファイト基板の活性化表面を提供し、これがSiC結晶の結晶化点を提供し、したがってポア内およびグラファイト表面上におけるSiC形成を加速および容易化すると想定される。このような予備調整工程は、上述のプロセス工程i)~v)を含むことができる。上記プロセス工程i)~v)でグラファイト基板上に形成された表面粉末層は、上記工程1)でCVD処理を施したグラファイト基板の活性化表面として作用するものと想定される。グラファイト表面上の粉末は、SiC結晶のための前記結晶化点を提供し、SiC形成を加速および容易化しうる。
【0217】
いわゆる「注入相」では、多孔性グラファイト基板の開放ポア内に極めて小さなSiC粒子が形成され、それが実質的に四面体の結晶性を有するベータ-SiCのSiC結晶に成長してポア内にいわゆる「テンドリル」を形成することができる。
【0218】
ポアを充填した後、小さなSiC粒子はグラファイト基板の上面に堆積し、いわゆる「成長相」において外側SiC層の形成を開始する。小さなSiC粒子は、SiC結晶に成長して外側SiC層を形成することができる。
【0219】
本発明によれば、用語「SiC粒子」または「SiC粒子」は、ジメチルジクロロシランを使用することによって工程4)および5)および8)において化学気相堆積で形成および堆積される、主に炭化ケイ素を含む非常に小さい結晶粒子を指す。本発明によるこのようなSiC粒子は結晶性であり、<2μmの平均粒径を呈する。
【0220】
上記に規定されたSiC粒子とは対照的に、本発明によれば、「SiC結晶」という用語は、より大きな結晶性SiC粒子を指し、それは堆積したSiC粒子を成長させることによって工程4)および5)および8)で形成される。本発明によるこのようなSiC結晶は、同様に、主に炭化ケイ素を含み、≧2μmの平均粒径を呈する。好ましくは、本発明によるSiC結晶は、>2μmの平均粒径を呈する。本発明によるSiC結晶は、30μm以下の平均粒径を呈すことがさらに好ましい。より好ましくは、本発明によるSiC結晶は、約≧2~≦30μmの範囲の平均粒径を呈する。
【0221】
本発明による平均粒径は、上記のSEMのような既知の方法によって測定することができる。
【0222】
したがって、本発明のプロセスのさらなる態様では、工程4)の注入相は、注入相の間にポア内に形成される、特に≦7μm、具体的には≦5μm、または≦4μm、または≦3μm、または≦2μmといった、<10μmの平均粒径を有する(結晶性)SiC粒子の形成が観察されうるように制御される。さらに、工程3)の注入相は、SiC粒子の成長を可能にすることにより、注入相の間にポア内に形成される30μm以下(≧2~≦30μm)、好ましくは20μm以下(≧2~≦20μm)、好ましくは10μm以下(≧2~≦10μm)の平均粒径を有するSiC結晶が形成されるように制御される。
【0223】
本発明のさらなる態様では、工程5)および8)の第1および第2の成長相は、成長相の間に、グラファイト基板の表面上に、特に≦7μm、具体的には≦5μm、または≦4μm、または≦3μm、または≦2μmといった、<10μmの平均粒径を有する(結晶性)SiC粒子の形成が観察されうるように制御され、SiC粒子が、成長相の間に、グラファイト基板上に、30μm以下の平均粒径、好ましくは≧2~≦30μm、好ましくは20μm以下(≧2~≦20μm)、好ましくは10μm以下(≧2~≦10μm)の平均粒径を有するSiC結晶を形成するように成長可能となって、外側SiC層を形成する。
【0224】
また、一定量のSiC粒子が、注入相の間にグラファイト表面上に既に形成されていてもよい。
【0225】
好ましくは、ポア内の実質的に四面体のSiC結晶は、<10μm、好ましくは≦7μm、好ましくは≦5μm、好ましくは≦4μm、好ましくは≦3μm、好ましくは≦2μmの平均粒径を呈する。
【0226】
好ましくは、成長相において表面コーティング層として形成される実質的に四面体のSiC結晶は、より大きな粒径、好ましくは≧10μm、好ましくは≧10~30μmの平均粒径を呈する。これはおそらく、小さいポアサイズにより得られる空間によって、ポア内部の結晶成長が制限されるためである。
【0227】
さらに、驚くべきことに、本発明の選択されたプロセス条件により、堆積されたSiCが、Si:C比が1:1である実質的に化学量論的なSiCであることが分かった。
【0228】
さらに、本発明によるプロセスは、好ましくは、SiCの理論密度(3.21g/cm3)に従う密度またはそれに極めて近い密度を有するSiCを、ポア内および/またはグラファイト基板の表面上に堆積させるように制御される。好ましくは、堆積されたSiCは、少なくとも2.50g/cm3の密度を有し、好ましくは、堆積されたSiCは、2.50~3.21g/cm3の範囲、より好ましくは、3.00~3.21g/cm3の範囲の密度を有する。
【0229】
本発明によるプロセスにおいて、CVD堆積は、好ましくは、界面層内に形成されるテンドリルの密度(面積当たりのテンドリルの量)が≧6%かつ≦15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6~≦12%、より好ましくは9~11.5%になるまで実施される。
【0230】
本発明のさらなる態様によれば、堆積されたSiC材料での比較的高度のポア充填が、上述のような所望の優れた機械的特性を達成するために有利でありうることが判明した。したがって、本発明のプロセスの好ましい実施態様では、工程4)の注入相は、グラファイト基板の開放ポアの壁の少なくとも約70%が、堆積されたSiC材料でコーティングされるまで実施される。明確にするために、これは、開放多孔性基板の70%または多孔性基板のポアの総量の70%がSiCで充填されるべきであることを規定しているのでも、ポアの体積の70%がSiCで充填されることを規定するものでもないことに留意されたい。本発明によるポア充填度は、好ましくはその少なくとも70%が堆積されたSiCコーティングでコーティングされる開放ポアの内壁のコーティング度に関する。
【0231】
より好ましくは、工程4)の注入相は、開放ポアの内壁の少なくとも約75%、80%、85%、90%が、堆積されたSiC材料でコーティングされるまで実施される。
【0232】
さらなる態様では、本発明によるCVD法を用いて、SiCは、多孔性グラファイト基板上、およびその開放ポア内に堆積させることができ、コーティングされたグラファイトの主表面下約10μmの深度まで、≧80%の上記規定によるポア充填度(すなわち、ポアの内壁のSiCコーティングの度合い)を有する。
【0233】
本発明によるCVD法を用いて、SiCは、多孔性グラファイト基板上、およびその開放ポア内に堆積させることができ、コーティングされたグラファイトの主表面下約50~約10μmの間の深度に、常に≧60%の上記規定によるポア充填度(すなわち、ポアの内壁のSiCコーティング度)を有する。
【0234】
本発明によるCVD法を用いて、SiCは、多孔性グラファイト基板上およびその開放ポア内に堆積させることができ、コーティングされたグラファイトの主表面下約100~約50μmの間の深度に、約50%の上記規定によるポア充填度(すなわち、ポアの内壁のSiCコーティング度)を有する。
【0235】
本発明によるCVD法を用いて、SiCは、多孔性グラファイト基板上およびその開放ポア内に堆積させることができ、コーティングされたグラファイトの主表面下約200~約1000μmの間の深度に、約40%の上記規定によるポア充填度(すなわち、ポアの内壁のSiCコーティングの度合い)を有する。
【0236】
≧100μmの深さでは、上記規定によるポア充填度は最大50%である。
【0237】
≧200μmの深さでは、上記規定によるポア充填度は最大40%である。
【0238】
本発明によるポア充填度は、上記のSEM測定によって決定することができる。
【0239】
上述のように、本発明のプロセスのさらなる態様は、多孔性基板中のSiCコーティングのためのアンカーのように作用する、いわゆるテンドリルの形成に関する。
【0240】
本発明のプロセスは、特に、工程5)および8)において、SiCコーティング層を、均質かつ連続的な、本質的に不浸透性の層の形態で、グラファイト基板の表面上に堆積させるように制御される。このことは、SiCコーティング層が、特に、本質的に、亀裂、孔、スポーリングまたは他の顕著な表面欠陥がないように堆積され、コーティング表面領域の全体にわたって本質的に連続的な厚さを呈することを意味する(保持部材に起因する第1の成長相におけるコーティングの不足に関係なく)。
【0241】
本発明によるプロセスでは、工程4)でポア中におよび/または工程5)および/または8)で表面上に堆積されたSiC材料は、少なくとも90重量%の純炭化ケイ素(SiC)を含む。好ましくは、工程4)、5)および/または8)において堆積されるSiC材料は、少なくとも91重量%、少なくとも92重量%、少なくとも93重量%、少なくとも94重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも96重量%の炭化ケイ素(SiC)を含む。より好ましくは、工程4)、5)および/または8)で堆積されるSiC材料は、堆積されたSiC材料の総重量に対していずれの場合も少なくとも97重量%のSiCを含む。
【0242】
本発明のプロセスの工程4)、5)および/または8)において堆積されるSiC材料は、約10重量%以下、約9重量%以下、約8重量%以下、約7重量%以下、約6重量%以下、約5重量%以下、または約4重量%以下の遊離Siをさらに含む。より好ましくは、工程4)、5)および/または8)において堆積されるSiC材料は、いずれの場合も堆積されたSiC材料の総重量に対して約3重量%以下の遊離Siを含む。
【0243】
本発明によるプロセスにおいて、工程4)、5)および/または8)において堆積されるSiC材料は、好ましくは高純度を含む。
【0244】
驚くべきことに、本発明のプロセス条件下では、少量のアモルファスSiCしか形成されない。
【0245】
前述の量の(純粋な)SiCおよび遊離Siは、グラファイト基板のポア内に堆積され、テンドリルおよび界面層を形成し、および/または第1および第2の成長相においてグラファイト基板の表面上に堆積し、共に外側SiC層を形成するSiC材料に関連する。したがって、ここで、工程4)、5)、および/または8)におけるCVD堆積SiC材料を含むいずれかの状況で使用されて、例えば、「SiC層」、「SiCコーティング」、「SiCコーティング体(品)」、「SiC(ポア)充填」、「SiC粒子」、または「SiC結晶」の意味でSiCに言及するとき、必ずしも純粋なSiCを意味するわけではなく、規定された量で上記の成分を含むことができ、例えば、特に遊離SiCおよび純粋なSiC以外のさらなる不純物がその中に存在してもよいSiC材料を意味する。
【0246】
原則として、本発明のプロセスは、任意の適切なグラファイト基板に適用することができる。好ましくは、ここに記載のグラファイト基板が使用される。
【0247】
本発明のプロセスは、SiCコーティング体(またはコーティング品)を冷却する工程6)をさらに含む。
【0248】
本発明のさらなる態様において、本発明者らは、驚くべきことに、CVD前駆体として使用されるDMSの純度が、ここに記載されるSiCテンドリルの形成、結晶化度(品質)および長さに影響を及ぼしうることを見出した。特に、本発明者らは、驚くべきことに、CVD前駆体として使用されるDMS中のシロキサン不純物の含有量が、所望のSiC品質、結晶形成、ひいてはテンドリル形成に著しい影響を及ぼすことを見出した。また、Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、MoおよびWからなる群から選択される金属元素のようなある種の金属不純物の含有量が、所望のSiCテンドリル形成に影響を及ぼすことが分かった。極めて詳細には、Mn、Cuおよび/またはZnから選択される金属元素不純物の特定の含有量の存在は、所望のSiCテンドリル形成に有意な影響を有することが分かった。より詳細には、特定の含有量のシロキサン不純物の存在は、Mn、Cuおよび/またはZnから選択される金属元素不純物の1つ以上の特定の含有量と共に、所望のSiCテンドリル形成に有意に影響を及ぼすことが分かった。
【0249】
理論に拘束されるものではないが、以下に規定されるように、特定量のこのようなシロキサン不純物の存在は、グラファイトの多孔性に関しておよび望ましくない(有毒な)金属不純物の減少に対し、良い効果を有すると想定される。シロキサン不純物は、特定量の酸素を反応系に導入する。グラファイト基板の活性化に関連して既に上述したように、系中の酸素含有量は、適用された加熱条件下で表面多孔性に影響を及ぼすことが分かった。CVDプロセスでは、特定量のシロキサン不純物に由来する酸素が付加的な表面ポア改変効果を呈し、これは選択されたプロセス条件下でシランを活性化グラファイトのポア内に深く導くのに役立つと想定される。
【0250】
さらに、シロキサン不純物に由来する酸素が、DMS中の望ましくない金属不純物を捕捉し、したがって不活性化し、次いで、それがタンクの底部に落下し、それによって望ましくない金属含有物からDMSが「精製」されることが想定される。
【0251】
特定量のシロキサン不純物は、DMSタンク、蒸発器および/または蒸気伝導導管システム内に沈殿物またはゲルの形成をもたらすことが観察された。このようなゲル形成は、特定量のこのようなシロキサン不純物および上記の金属元素不純物の1つ以上が存在するとき、例えば、特に特定量のこのようなシロキサン不純物およびMn、Cuおよび/またはZnが存在するときに起こりうる。また、残留水分または残留水分含有量は、このようなゲル形成にさらなる影響を及ぼしうる。以下に規定されるCVD法に使用されるDMS前駆体材料中のこのようなシロキサン不純物の量は、ここに記載される所望のSiC結晶化度、SiC品質およびSiCテンドリル形成の観点から有利であることが分かった。
【0252】
したがって、本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、および
(B)DMSとは異なっており、かつシロキサン化合物またはシロキサン化合物の混合物である少なくとも1つのさらなる成分
を含み、
ここで、さらなる成分(B)の含有量は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料に対して>0~2.00重量%である。
【0253】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、>0~1.500重量%、好ましくは>0~<1.040重量%、好ましくは>0~1.000重量%、好ましくは>0~0.900重量%、好ましくは>0~0.850重量%、好ましくは>0~0.800重量%、好ましくは>0~0.750重量%、好ましくは>0~0.700重量%、好ましくは>0~0.600重量%、好ましくは>0~0.500重量%のシロキサン化合物(B)の含有量を含む。
【0254】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、>0~0.500重量%以下、好ましくは>0~0.450重量%以下、好ましくは>0~0.400重量%以下、好ましくは>0~0.375重量%以下のシロキサン化合物(B)の含有量を含む。
【0255】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、>0~1.000重量%、好ましくは>0~0.850重量%、好ましくは>0~0.800重量%、好ましくは>0~0.750重量%、好ましくは≦0.725重量%、好ましくは≦0.710重量%、好ましくは>0~<700重量%の1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを含む。
【0256】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、>0~0.200重量%、好ましくは>0~0.150重量%、好ましくは>0~0.140重量%、好ましくは>0~0.130重量%、好ましくは>0~0.120重量%、好ましくは>0~<0.110重量%、好ましくは>0~<0.100重量%の1,3-ジクロロ-1,1、-1,1,5,5-ヘキサメチルトリシロキサンを含む。
【0257】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、>0~0.200重量%、好ましくは>0~0.190重量%、好ましくは>0~0.180重量%、好ましくは>0~0.170重量%、好ましくは>0~0.160重量%、好ましくは>0~<0.150重量%のオクタメチルシクロテトラシロキサンを含む。
【0258】
また、金属元素不純物は、例えば上述したように、SiCテンドリルの形成および長さに影響を及ぼすことがある。
【0259】
したがって、本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、および
(C)Na、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、MoおよびWからなる群から選択される金属元素
を含み、金属元素(C)の含有量は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料に対して、≦30.00ppm wt.、好ましくは≦25.00ppm wt.、好ましくは≦20.00ppm wt.である。
【0260】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、および
(C)Mnから選択される金属元素
を含み、Mn金属元素(C)の含有量は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料に対して、<150ppb wt.、好ましくは<100ppb wt.、好ましくは<50ppb wt.、好ましくは<40ppb wt.、好ましくは<30ppb wt.、好ましくは<20ppb wt.、好ましくは、Mnの含有量は、>0~40ppb wt.である。
【0261】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、および
(C)Cuから選択される金属元素
を含み、Cu金属元素(C)の含有量は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料に対して、<50ppb wt.、好ましくは<45ppb wt.、好ましくは≦40ppb wt.、好ましくは≦35ppb wt.、好ましくは≦30ppb wt.、好ましくは≦25ppb wt.であり、好ましくは、Cuの含有量は>0と25ppb wt.の間である。
【0262】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、および
(C)Znから選択される金属元素
を含み、Zn金属元素(C)の含有量は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料に対して、<50ppb wt.、好ましくは<45ppb wt.、好ましくは≦40ppb wt.、好ましくは≦35ppb wt.、好ましくは≦30ppb wt.、好ましくは≦25ppb wt.であり、好ましくはZnの含有量は、>0と25ppb wt.の間である。
【0263】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、および
(C)前記金属元素Mn、CuおよびZn
を含み、Mn、CuおよびZn金属元素(C)の含有量は、前記態様で規定される通りである。
【0264】
本発明のさらなる特定の態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を使用して、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、
(A)主成分としてのジメチルジクロロシラン(DMS)、
(B)DMSとは異なっており、かつ上述の態様のいずれかに規定される、シロキサン化合物またはシロキサン化合物の混合物である少なくとも1つのさらなる成分、および
(C)上記で規定された金属元素のうちの1種以上、好ましくはMn、CuおよびZn
を含み、シロキサン成分(複数可)(B)の含有量は、上記態様のいずれかで規定される通りであり、金属元素(C)、例えば好ましくはMn、CuおよびZnの含有量は、上記態様のいずれかで規定される通りである。
【0265】
さらなる態様において、規定された純度を有するDMSは、パージガスとしてH2を使用して実施される化学気相堆積法において特に使用される。好ましくは、その場合、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、H2との混合物中で反応チャンバに通される。さらに、その場合、ジメチルジクロロシラン前駆体材料とH2との混合物は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料を含むタンクにH2ガスを導入し、タンクを通してH2をバブリングし、タンクの頂部から混合物を押し出すことによって、ジメチルジクロロシラン前駆体材料とH2との混合物を反応チャンバに通すことによって得られる。
【0266】
さらなる態様では、ジメチルジクロロシラン前駆体材料は、以下の含有量の元素のうちの1つ以上によってさらに特徴付けられる:
カルシウム<60.00ppb wt.、
マグネシウム<10.00ppb wt.、
アルミニウム<12.00ppb wt.、
チタン<1.00ppb wt.、
クロム<60.00ppb wt.、
鉄<25000ppb wt.、
コバルト<1.00ppb wt.、
ニッケル<30.00ppb wt.、
亜鉛<40.00ppb wt.,
モリブデン<10.00ppb wt.。
【0267】
本発明のさらなる態様は、ジメチルジクロロシラン前駆体材料が、≧6%かつ≦15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは11~13%の多孔度で開放気孔率を有する多孔性グラファイト基板上に、より好ましくは、6%~15%、好ましくは≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6%~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度で開放気孔率を有する多孔性グラファイト基板上に、炭化ケイ素を堆積させるために使用される、ここに記載されるプロセスに関する。
【0268】
これにより、実質的に四面体の結晶性SiCの連結された結晶性SiC材料を含むこと、特に、ここに記載される少なくとも50μmの長さで延びるテンドリルの形態の、実質的に四面体の結晶性SiCの連結された結晶性SiC材料を含むことを特徴とする、炭化ケイ素コーティング体を得ることができる。
【0269】
規定されたDMS純度は、上記のCVDプロセスにおいて同様に適切であり、好ましい。
【0270】
本発明の発明者らは、さらに、ここに記載されるCVD条件および基板材料の特定の選択により、テンドリルの形態の、基板上において1:1のSi:C比によって特徴付けられる本質的に化学量論的SiCを堆積させるようにCVD法を制御することが可能であることを見出した。
【0271】
したがって、本発明のさらなる態様は、基板として開放気孔率を有するグラファイトを使用し、シリコン源としてジメチルジクロロシランを使用し、パージガスとしてH2を使用して、実質的に化学量論的な炭化ケイ素を形成する、化学気相堆積(CVD)法で炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、このCVDプロセスは、大気圧下で1000~1200℃の範囲の温度で、好ましくは1000~<1200℃、好ましくは1100~1150℃の範囲の温度で実施される。
【0272】
CVDプロセスは、好ましくは、少なくとも30分、好ましくは>30分かつ<12時間、好ましくは>45分かつ<10時間、より好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは<10時間、好ましくは<8時間、好ましくは<6時間、好ましくは<4時間、好ましくは<3時間、最も好ましくは1~2時間以内にわたり実施される。
【0273】
好ましくは、CVDプロセスは、DMSとH2との混合物の総流量が25~200slpm、好ましくは40~180slpm、より好ましくは60~160slpmで実施される。
【0274】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、本発明のプロセス条件下において、実質的に化学量論的な炭化ケイ素が堆積されることを見出した。前記実質的に化学量論的な炭化ケイ素は、さらに好ましくは、<10μm、特に≦7μm、さらに詳細には≦5μmまたは≦4μmまたは≦3μmまたは≦2μmの平均粒径を有する(結晶性)SiC粒子の形態で堆積される。前記SiC粒子は、最大30μm(≧2~≦30μm)、好ましくは20μm以下(≧2~≦20μm)、好ましくは10μm以下(≧2~≦10μm)の平均粒径を有するSiC結晶を形成するように成長しうる。
【0275】
好ましくは、ポア内の、実質的に化学量論的なSiC結晶は、<10μm、好ましくは≦7μm、好ましくは≦5μm、好ましくは≦4μm、好ましくは≦3μm、好ましくは≦2μmの平均粒径を呈する。
【0276】
好ましくは、表面コーティング層として形成される実質的に化学量論的なSiC結晶は、より大きな粒径、好ましくは≧10μm、好ましくは≧10~30μmの平均粒径を呈する。これはおそらく、小さいポアサイズにより得られる空間によって、ポア内部の結晶成長が制限されるためである。
【0277】
しかしながら、粒子および結晶が小さい程形成されるSiCコーティングの密度が上昇するため、より小さな粒子及び結晶サイズでSiCを堆積させることが好ましく、それに対して粒子および結晶が大きい程形成されるSiCコーティングの密度は低下する。したがって、実質的に化学量論的な炭化ケイ素の堆積が望まれる。堆積されたSiC中の遊離Siの量は、好ましくは、本明細書に規定される範囲内に制御され、それによって、上記で規定される所望の粒子および結晶サイズが達成される。
【0278】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、メタンガスを添加せずに、および/またはアルゴンを使用せずに実施され、したがって、メタンおよび/またはアルゴンの存在が排除されることが好ましい。このことは、メタンガスまたはアルゴンの存在が、DMSを使用するとき、化学量論的SiCの形成に悪影響を及ぼすので、重要である。
【0279】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、ジメチルジクロロシランの他に追加のシラン源を使用せずに実施される。有利なSiC特性ならびに結晶サイズおよび品質は、唯一のオルガノシラン源としてDMSを用いて達成することができる。
【0280】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、ジメチルジクロロシランをH2との気体混合物中で反応チャンバに通すことによって実施される。
【0281】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、ジメチルジクロロシランを含有するタンクにH2ガスを導入し、タンクを通してH2をバブリングし、タンクの頂部から混合物を押し出すことによって、ジメチルジクロロシランとH2との混合物を反応チャンバに通すことによって得られるジメチルジクロロシランとH2との混合物を使用することによって実施される。
【0282】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、>0~2.000重量%、好ましくは>0~1.500重量%、好ましくは>0~<1.040重量%、好ましくは>0~1.000重量%、好ましくは>0~0.900重量%、好ましくは>0~0.850重量%、好ましくは>0~0.800重量%、好ましくは>0~0.750重量%、好ましくは>0~0.700重量%、好ましくは>0~0.600重量%、好ましくは>0~0.500重量%といった(全)シロキサン不純物の特定の含有量を含むDMSを使用して実施される。
【0283】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、
<150ppb wt.、好ましくは<100ppb wt.、好ましくは<50ppb wt.、好ましくは<40ppb wt.、好ましくは<30ppb wt.、好ましくは<20ppb wt.のMn金属元素;および/または
<50ppb wt.、好ましくは<45ppb wt.、好ましくは≦40ppb wt.、好ましくは≦35ppb wt.、好ましくは≦30ppb wt.、好ましくは≦25ppb wt.のCu金属元素;および/または
<50ppb wt.、好ましくは<45ppb wt.、好ましくは≦40ppb wt.、好ましくは≦35ppb wt.、好ましくは≦30ppb wt.、好ましくは≦25ppb wt.のZn金属元素
の含有量を含むDMSを使用して実施される。
【0284】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、前駆体材料としてのジメチルジクロロシランからSiCを多孔性グラファイト基板上に堆積させることによって実施される。
【0285】
核形成および所望の化学量論的な実質的に四面体のSiC結晶の形成に良い影響を及ぼす(トリガする)ために、多孔性基板が有利である。理論に拘束されるものではないが、多孔性基板表面は、所望の品質での堆積されるSiCの核形成および結晶化を促進および支持する適切な基礎を提供すると想定される。
【0286】
したがって、多孔性表面を使用してSiCをその上に堆積させ、それによりここに記載される所望の効果を達成することが有利であることが判明した。
【0287】
基板の多孔性特性は、SiCコーティング基板の上記特性を達成するために、ここに記載されるように選択することができる。上述のように、多孔性グラファイト基板は、最大30μm、好ましくは10~30μmの表面ポア直径を有するポアを含むことが好ましい。
【0288】
そのさらなる態様において、前記プロセスは、特に、≧6%かつ≦15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは11%~13%の多孔度の開放気孔率を有する多孔性グラファイト基板を使用して実施される。6%~15%、好ましくは≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6%~<12%、より好ましくは9~11.5%の小さい多孔度の開放気孔率を有するグラファイト基板を使用することが特に有利であることが判明した。
【0289】
好ましくは、ここに記載されるいずれかの多孔性グラファイトが使用される。
【0290】
実質的に四面体のSiC結晶を有する実質的に化学量論的な炭化ケイ素を、多孔性グラファイト基板の表面上および多孔性グラファイト基板のポア内に堆積させて、多孔性グラファイト表面からグラファイト基板内に延び、SiC表面コーティングと緊密に連結されたテンドリルの形態の、緊密に連結された結晶性SiC材料を形成するために、ジメチルジクロロシラン前駆体材料が使用される、ここに記載されるCVDプロセスを使用することが特に好ましい。
【0291】
そのさらなる態様において、前記プロセスでは、グラファイト基板上に堆積されたSiC中の遊離Siの量は、約7重量%以下、好ましくは約5重量%以下、より好ましくは約3重量%以下の遊離Siを含む。
【0292】
本発明の発明者らは、さらに驚くべきことに、ここに記載される特定のCVD条件下において、SiC粒子の粒径が、反応チャンバに導入されるDMSの量と相関することを見出した。驚くべきことに、導入されるDMSの量が少ない程、形成される粒子および結晶は小さくなり、それに対し、驚くべきことに、導入されるDMSの量が多い程、形成される粒子および結晶は大きくなる。さらに、粒子および結晶が小さい程、形成されるSiCコーティングの密度は上昇し、粒子および結晶が大きい程、形成されるSiCコーティングの密度は低下する。このことを用いて、CVD堆積を、様々な密度を有する多層SiCコーティングを提供するように制御することができる。
【0293】
したがって、本発明のさらなる態様は、異なる密度を有する少なくとも2つのSiC層を含む炭化ケイ素(SiC)コーティング体を製造するためのプロセスに関し、このプロセスは、
A)開放気孔率を有する多孔性グラファイト基板をプロセスチャンバ内に配置する工程;
B)パージガスとしてのH2の存在下において、大気圧下で、プロセスチャンバ内の多孔性グラファイト基板を1000~1200℃の範囲の温度に加熱する工程;
C)第1の堆積相において、ジメチルジクロロシラン(DMS)とH2との混合物を第1の量のDMSと共にプロセスチャンバ内に導入することによって、グラファイト基板の表面上に結晶性SiC粒子を堆積させる工程;
D)DMSの量を増加または減少させ、第2の堆積相において、DMSとH2との混合物を第2の量のDMSと共にプロセスチャンバ内に導入することによって、工程C)のSiCコーティンググラファイト基板上に結晶性SiC粒子を堆積させる工程;
E)任意で工程D)を1回以上繰り返し、それにより、1つ以上の追加の堆積相において、DMSとH2との混合物を1つ以上のさらなる量のDMSと共にプロセスチャンバ内に導入することによって、SiCコーティンググラファイト基板上に結晶性SiC粒子を堆積させる1つ以上の追加の工程を実施する工程;
F)工程E)で得られたコーティング体を冷却する工程
を含むプロセス。
【0294】
さらなる態様では、前記プロセスは、工程C)の前に、
B-2)ジメチルジクロロシラン(DMS)とH2との混合物を少なくとも30分間プロセスチャンバ内に導入し、注入相において、化学気相堆積(CVD)によってグラファイト基板の開放ポア内に結晶性SiC粒子を堆積させ、多孔性グラファイト基板内に少なくとも50μmの長さで延びるテンドリルの形態の連結された結晶性SiC材料が形成されるまで、結晶性SiC粒子をSiC結晶に成長させる工程
をさらに含む。
【0295】
さらなる態様では、前記プロセスは、工程F)に続いて、以下の工程G)およびH):
G)工程F)で得られたコーティング体の位置を変更する工程;および
H)工程C)を繰り返し、任意で工程D)およびE)を繰り返し、それによって、工程F)で得られた多孔性グラファイト基板の表面に結晶性SiC粒子を化学気相堆積(CVD)によって堆積させ、1つ以上のさらなるSiC層が形成されるまで、結晶性SiC粒子を実質的に四面体のSiC結晶に成長させ;続いて工程H)で得られたコーティング体を冷却する工程
を含む。
【0296】
任意の工程E)における前記プロセスのさらなる態様では、DMSの量を徐々に増加させる。
【0297】
工程D)における前記プロセスのさらなる態様では、DMSの第2の量は、工程C)における第1の量の2倍である。
【0298】
工程E)における前記プロセスのさらなる態様では、第3の堆積相は、工程C)における第1の量の3倍である第3の量のDMSを用いて実施される。
【0299】
工程E)における前記プロセスのさらなる態様では、第3および第4の堆積相は、第3および第4の量のDMSを用いて実施され、DMSの第4の量は、工程C)における第1の量の4倍である。
【0300】
前記プロセスのさらなる態様では、堆積相中のDMS量は、減少させた量のDMSを導入することによって、より小さな粒径を有するより小さなSiC結晶が形成されるように、および、増加させた量のDMSを導入することによって、より大きな粒径を有するより大きなSiC結晶が形成されるように、制御される。
【0301】
前記プロセスのさらなる態様では、堆積相中に堆積されるSiCコーティングの厚さは、個々の堆積相を期間を変化させて実施することによって変化する。
【0302】
前記プロセスのさらなる態様では、工程A)の多孔性グラファイト基板は、≧6%かつ≦15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは11~13%の多孔度を有する。より好ましくは、工程A)の多孔性グラファイト基板は、≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度を有し、および/または10~30μmの表面ポア直径を有するポアを含む。
【0303】
より好ましくは、ここに記載されるいずれかの多孔性グラファイト基板が使用される。
【0304】
前記プロセスのさらなる態様では、DMSとH2との混合物は、H2ガスをDMSタンクに導入し、タンク内のDMSを通してH2をバブリングし、混合物をタンクの頂部から押し出すことによってプロセスチャンバに通すことによって得られる。
【0305】
前記プロセスのさらなる態様では、CVD堆積に使用されるジメチルジクロロシランは、好ましくは>0~2.00重量%、好ましくは>0~1.500重量%、好ましくは>0~<1.040重量%の、上記で規定されたシロキサン不純物の含有量を有することを特徴とする。
【0306】
前記プロセスのさらなる態様では、CVD堆積に使用されるジメチルジクロロシランは、上記で規定された金属元素不純物、好ましくは上記で規定されたMn、CuおよびZn不純物の含有量を有することを特徴とする。
【0307】
より好ましくは、CVD堆積に使用されるジメチルジクロロシランは、上記で詳細に規定されたシロキサンおよび金属不純物の含有量を有することを特徴とする。
【0308】
前記プロセスのさらなる態様では、工程B-2)は、少なくとも75μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは75~200μmの長さで延びるテンドリルの形態の、連結された結晶性SiC材料が形成されるまで実施される。
【0309】
前記プロセスのさらなる態様では、工程B-2)の注入相は、SiC充填ポアを有する多孔性グラファイトを含み、少なくとも50μm、好ましくは少なくとも75μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは少なくとも150μm、好ましくは少なくとも200μm、より好ましくは約200~約500μmの厚さを有する界面層が形成されるまで実施され、界面層は、グラファイト基板と、工程C)~E)および工程H)において形成されるSiC表面層との間に位置する。
【0310】
好ましくは、プロセスは、工程C)、D)、E)およびH)のうちの1つ以上において、≧10μm、好ましくは≧10~30μmの平均粒径を有する実質的に四面体の結晶性SiCを堆積させるように制御される、および/または、工程B-2)において、<10μm、好ましくは≦7μm、好ましくは≦5μm、好ましくは≦4μm、好ましくは≦3μm、好ましくは≦2μmの平均粒径を有するグラファイト基板のポア内に、実質的に四面体の結晶性SiCを堆積させるように制御される。
【0311】
好ましくは、SiC堆積は、1000~<1200℃、好ましくは1100~1150℃の範囲の温度で実施される。
【0312】
好ましくは、工程B-2)の注入相は、>30分~<12時間、好ましくは>45分~<10時間、より好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは<10時間、好ましくは<8時間、好ましくは<6時間、好ましくは<4時間、好ましくは<3時間、最も好ましくは1~2時間の期間にわたって実施される。
【0313】
ここで堆積されるSiC材料は、上述ものと同様の結晶性、粒子/結晶サイズおよび純度などを特徴とする。しかしながら、異なる工程で堆積されるSiCの密度は変化する。
【0314】
したがって、本発明のプロセスを用いて、グラファイト基板の1つ以上の選択された表面領域が外側SiCコーティング層でコーティングされたSiCコーティング品を提供することが可能である。また、工程E)および/またはH)において、多孔性グラファイト基板の完全な表面上ではなく、基板の表面の選択された別個の領域のみにSiCコーティングを堆積させることが可能である。これは例えば、確立されたコーティング技法において一般に使用される一種のマスクを使用することによって達成することができる。
【0315】
III.製品
本発明のさらなる態様は、本発明のプロセスによって得ることのできる製品に関し、この製品は、中間部品(例えば、グラファイト基板)ならびにSiCコーティング品を含む。
【0316】
1.精製グラファイト部材
本発明のさらなる態様は、上記のプロセスによって得ることのできる、改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材に関する。
【0317】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような精製グラファイト部材は、上記に規定された塩素含有量を有し、好ましくは上記に規定された多孔性グラファイト部材中に存在する。
【0318】
好ましくは、本発明の改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材は、拡大された平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含み、≧10μmの拡大された表面ポア直径を有するポアを含む。
【0319】
グラファイトの粒径は、通常、プロセスによって影響されず、したがって、本発明による改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材は、<0.05mm、好ましくは≦0.04mm、好ましくは≦0.03mm、好ましくは≦0.028mm、好ましくは≦0.025mm、好ましくは≦0.02mm、好ましくは≦0.018mm、好ましくは≦0.015mmの平均粒径を有する。
【0320】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような精製グラファイト部材は、≧6%および≦15%、好ましくは約6%~約13%、好ましくは約11%~約13%の多孔度の開放気孔率を有する。より好ましくは、精製グラファイト部材は、6%~15%、好ましくは≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6%~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度の開放気孔率を有する。
【0321】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような精製グラファイト部材は、上記で規定された密度を有する。
【0322】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような精製グラファイト部材は、上記で規定された純度を有する。
【0323】
ここに記載される改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材は、好ましくは、炭化ケイ素コーティンググラファイト物品における基板として使用されうる。
【0324】
ここで、改変された表面多孔性は、上記に詳細に記載されるように特徴付けることができる。
【0325】
特に、ここに規定される改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材は、好ましくはパージガスとしてH2を用いて、シラン源またはCVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用する、特にここに記載されるCVD法といった、その上に炭化ケイ素を堆積させるための化学気相堆積(CVD)法における基板として適している。
【0326】
より詳細には、ここに規定される改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材は、好ましくはパージガスとしてH2を用いて、シラン源またはCVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用する、特にここに記載されるCVD法といった、精製グラファイト基板のポア内に炭化ケイ素を堆積させるための化学気相堆積(CVD)法における基板として適している。
【0327】
ここで規定される改変された表面多孔性を有する精製グラファイト部材は、上記で説明された理由により、活性化された基板のポア内に炭化ケイ素を堆積させて、少なくとも50μmの長さで延びるテンドリルの形態の連結された実質的に四面体の結晶性SiC材料を形成するための化学気相堆積(CVD)法における基板として特に適している。
【0328】
ここに記載される精製グラファイト部材上にSiCを堆積させることによって、1つ以上の表面上におよび/または1つ以上の選択された別個の表面領域上に炭化ケイ素層を有するグラファイト部材を提供することが可能である。
【0329】
したがって、上記に記載される改変された表面多孔性を有するこのような精製グラファイト部材は、高温用途のための物品、サセプタおよびリアクタ、半導体材料、ウエハを製造するために特に適している。
【0330】
2.活性化グラファイト基板
本発明のさらなる態様は、上記のプロセスによって得ることのできる、改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板に関する。
【0331】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、上記に規定された塩素含有量を有し、好ましくは上記に規定された多孔性グラファイト基板中に存在する。
【0332】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、拡大された表面ポア直径を有する上記の表面ポア改変を呈する。
【0333】
特に、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、拡大された平均ポアサイズ(ポア直径)を有するポアを含み、≧10μm、好ましくは≧10μm~最大30μmの表面ポア直径を有するポアを含む。
【0334】
上記説明と同様に、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、<0.05mm、好ましくは≦0.04mm、好ましくは≦0.03mm、好ましくは≦0.028mm、好ましくは≦0.025mm、好ましくは≦0.02mm、好ましくは≦0.018mm、好ましくは≦0.015mmの平均粒径を有する。
【0335】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、≧6%かつ≦15%、好ましくは約6%~約13%、好ましくは約11%~約13%、さらに好ましくは6%~15%、好ましくは≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6%~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度の開放気孔率を有する。
【0336】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、上記で規定された密度を有する。
【0337】
好ましくは、改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、上記で規定された純度を有する。
【0338】
ここに記載される改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板は、好ましくは、炭化ケイ素コーティンググラファイト物品における基板として使用されうる。
【0339】
特に、ここに規定される改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板は、好ましくはパージガスとしてH2を用いて、シラン源またはCVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用する、特にここに記載されるCVD法といった、その上に炭化ケイ素を堆積させるための化学気相堆積(CVD)法における基板として適している。
【0340】
特に、ここに規定される改変された表面多孔性を有する活性化グラファイト基板は、活性化グラファイト基板のポア内に炭化ケイ素を堆積させるための、好ましくは、少なくとも50μmの長さで延びるテンドリルの形態の連結された実質的に四面体の結晶性SiC材料を形成するための、化学気相堆積(CVD)法、例えば特に、好ましくはパージガスとしてH2を用いて、シラン源またはCVD前駆体としてジメチルジクロロシラン(DMS)を使用する、ここに記載されるCVD法における基板として適している。
【0341】
ここに記載される活性化グラファイト基板上にSiCを堆積させることによって、1つ以上の表面上におよび/または1つ以上の選択された別個の表面領域上に炭化ケイ素層を有するグラファイト基板を提供することが可能である。
【0342】
したがって、上記に記載される改変された表面多孔性を有するこのような活性化グラファイト基板は、高温用途のための物品、サセプタおよびリアクタ、半導体材料、ウエハを製造するために特に適している。
【0343】
IV.炭化ケイ素コーティング体
本発明のさらなる態様は、上記のプロセスから得られる炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)を包含する。
【0344】
好ましくは、本発明のさらなる態様は、
I)6%~15%の多孔度を有する多孔性グラファイト基板;
II)少なくとも1つのSiCコーティング層;
および
III)グラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間に位置する界面層であって、多孔性グラファイトを含み、10μmの平均表面ポア直径を有するポアを有し、ポアが、少なくとも1つのSiCコーティング層II)から多孔性グラファイト基板中に延びる、少なくとも50μmの長さのテンドリルの形態の連結された結晶性SiC材料で充填されている、界面層
を備える炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0345】
本発明のさらなる態様は、界面層III)内のポアが、少なくとも75μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは75~200μmの長さで延びるテンドリルの形態の連結された結晶性SiC材料で充填される、上記の炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。ポア充填の規定に関しては、上記の説明を参照されたい。
【0346】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間に位置する界面層III)が、少なくとも100μm、好ましくは>100μm、より好ましくは少なくとも200μm、さらにより好ましくは約200~約500μmの厚さを呈する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0347】
本発明のさらなる態様は、多孔性グラファイト基板I)が、>6%~<15%の多孔性、または約6%~約14%、約6%~約13%、約6%~<13%の範囲の多孔性、または>6%~約15%、約7%~約15%、約8%~15%、約9%~約15%、約10%~約15%、約11%~約15%の範囲の多孔性、または≧11%~約13%の範囲の多孔性を呈する、上記の炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。さらにより好ましいのは、≧6%かつ<15%、より好ましくは6%~13%、より好ましくは6~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔度である。
【0348】
前記多孔度は、グラファイトの構造に関連し、前記ポアは、ここに記載されるSiCで充填される。しかしながら、単なるグラファイト多孔性は、CVD法によって影響されたり変化したりせず、本発明の多孔度は、したがって、「SiC充填多孔性」と考えることができる。
【0349】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つのSiCコーティング層II)が>90重量の炭化ケイ素(SiC)を含む、上記の炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。好ましくは、SiCコーティング層は、少なくとも91重量%、少なくとも92重量%、少なくとも93重量%、少なくとも94重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも96重量%の炭化ケイ素を含む。より好ましくは、SiCコーティング層は、いずれの場合も、SiCコーティング層の総重量に対して、少なくとも97重量%の炭化ケイ素(SiC)を含む。上記で説明したように、前記炭化ケイ素は、好ましくは実質的に四面体の結晶性SiCである。
【0350】
本発明のさらなる態様は、少なくとも1つのSiCコーティング層II)が、約10重量%以下、約9重量%以下、約8重量%以下、約7重量%以下、約6重量%以下、約5重量%以下、または約4重量%以下の遊離Siをさらに含む、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。より好ましくは、SiCコーティング層は、いずれの場合も、SiCコーティング層の総重量に対して、約3重量%以下の遊離Siを含む。
【0351】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板I)を覆うSiCコーティング層II)が、均質かつ連続的で、本質的に不浸透性のSiC層である、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0352】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板を覆うSiCコーティング層II)が、亀裂、孔、スポーリング、または他の顕著な表面欠陥を本質的に有さない、および/またはコーティングされた表面領域全体にわたって本質的に連続的な厚さを呈する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0353】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間に位置する界面層III)が、多孔性グラファイトによって形成され、ポアはSiCの充填物を含み、グラファイトの開放ポアの壁の少なくとも70%がSiCで充填される、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。ポア充填の規定に関しては、上記の説明を参照されたい。ここに説明されるように、本発明によるポア充填度は、好ましくはその少なくとも70%が堆積されるSiCコーティングでコーティングされた開放ポアの、内壁のコーティング度に関する。
【0354】
より好ましくは、界面層III)は、開放ポアの壁の少なくとも約75%、80%、85%、90%のポア充填度を有する。ポア充填度は、上述のように決定することができる。
【0355】
本発明のさらなる態様は、界面層III)の充填されたポア内のSiC結晶の平均粒径が、<10μm、例えば好ましくは>2~<10μmであり、および/または外側コーティング層ii)のSiC結晶の平均粒径が、30μm以下、好ましくは≧10~30μmである、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0356】
グラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間に位置する界面層III)が、多孔性グラファイトによって形成され、ポアが、延長テンドリルの形態の連結された実質的に四面体の結晶性SiC材料の充填物を含み、前記SiC材料が、>90重量%の炭化ケイ素(SiC)を含む、本発明のさらなる態様は、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。好ましくは、界面層III)のポア内の前記SiC材料は、少なくとも91重量%、少なくとも92重量%、少なくとも93重量%、少なくとも94重量%、少なくとも95重量%、または少なくとも96重量%の炭化ケイ素を含む。より好ましくは、界面層III)のポア内のSiC材料は、いずれの場合も、ポア充填物中のSiC材料の総重量に対して、少なくとも97重量%のSiCを含む。
【0357】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間に位置する界面層III)が多孔性炭素によって形成され、ポアが、延長テンドリルの形態の連結された実質的に四面体の結晶性SiC材料の充填物を含み、前記SiC材料が、約10重量%以下、約9重量%以下、約8重量%以下、約7重量%以下、約6重量%以下、約5重量%以下、または約4重量%以下の遊離Siをさらに含む、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。より好ましくは、界面層III)のポア内のSiC材料は、いずれの場合も、ポア充填物中のSiC材料の総重量に対して、約3重量%以下の遊離Siを含む。
【0358】
本発明のさらなる態様は、ポア内および/またはグラファイト基板の表面上のSiCが、1:1のSiC:C比を有する実質的に化学量論的なSiCである、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0359】
本発明のさらなる態様は、ポア内および/またはグラファイト基板の表面上のSiCが、3.21g/cm3のSiCの理論密度に近い密度を有する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。好ましくは、堆積されたSiCは、少なくとも2.50g/cm3、好ましくは2.50~3.21g/cm3の範囲、より好ましくは3.00~3.21g/cm3の範囲の密度を有する。
【0360】
本発明のさらなる態様は、界面層中のテンドリルの密度(面積当たりのテンドリルの量)が、≧6%かつ≦15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6~≦12%、より好ましくは9~11.5%である、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0361】
本発明のさらなる態様は、界面層中のテンドリルの、均質で、高密度の、および/または均一な分布を含む、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0362】
本発明のさらなる態様は、テンドリルが表面コーティング層のSiCと(緊密に)連結される、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0363】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板の1つ以上の選択された別個の表面領域上にSiC層II)および任意で界面層III)を含む、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。
【0364】
本発明の炭化ケイ素コーティング体の界面層は、コーティング体全体についてグラファイト基板とSiCコーティング層との間に熱膨張係数(CTE)平均をつくる。例えば、基板とSiC層との間のCTE不整合は、多孔性基板の約20%がSICで充填されている炭化ケイ素コーティング体において約20%減少されうる。したがって、本発明のさらなる態様は、グラファイト基板とSiCコーティング層との間の熱膨張係数が改善された、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体に関する。本発明によるCTEは、既知の方法により決定することができる。
【0365】
本発明のさらなる態様は、SiC層における改善された残留圧縮荷重、好ましくは190MPaより高く、好ましくは50MPaより高い残留圧縮荷重を有する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。本発明による残留圧縮荷重は、既知の方法によって決定することができる。
【0366】
本発明のさらなる態様は、改善された耐衝撃性を有する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。本発明による耐衝撃性は、既知の方法により決定することができる。
【0367】
本発明のさらなる態様は、改善された破壊靭性を有する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。本発明による破壊靭性は、既知の方法により測定することができる。
【0368】
本発明のさらなる態様は、改善された剥脱(exfoliation)、剥離(peeling)および/または反り抵抗を有する、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。耐剥離性(強度)は、例えば、米国特許出願公開第2018/0002236号に記載されている既知の方法によって決定することができる。
【0369】
本発明のさらなる態様は、グラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間の接着性が改善された、ここに記載される炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)に関する。本発明によるグラファイト基板I)とSiCコーティング層II)との間の接着性は、既知の方法によって決定することができる。
【0370】
本発明のさらなる態様は、SiCコーティング層の外側(上部)表面のサイズと界面層のサイズとの間の改善された関係を呈する、ここに記載される炭化ケイ素コーティングされた物体(または物品)に関する。本発明による界面層のサイズとSiCコーティング層の外側(上側)表面のサイズとの間の関係は、既知の方法によって決定することができる。
【0371】
本発明のさらなる態様は、
I‐A)6%~15%の多孔度を有し、10~30μmの表面ポア直径を有するポアを含む多孔性グラファイト基板、および
II‐A)多孔性グラファイト基板を覆う異なる密度の少なくとも2つのSiCコーティング層;および任意で
III‐A)グラファイト基板とSiCコーティング層との間に位置する界面層であって、多孔性グラファイトと、少なくとも1つのSiCコーティング層から多孔性グラファイト基板中に少なくとも50μmの長さで延びるテンドリルの形態の、緊密に連結された実質的に四面体の結晶性SiC物質で充填されたポアとを含む界面層
を備える炭化ケイ素コーティング体に関する。
【0372】
このような多層SiCコーティング品のさらなる態様では、少なくとも2つのSiCコーティング層II-A)は、異なる結晶サイズによって特徴付けられる。
【0373】
このような多層SiCコーティング品のさらなる態様では、グラファイト基板は、≧6%かつ≦15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは11~13%、より好ましくは≧6%かつ<15%、好ましくは6%~13%、より好ましくは6~<12%、より好ましくは9~11.5%の多孔性を有する。
【0374】
好ましくは、グラファイト基板は、最大30μmの表面ポア直径を有するポアを含む。
【0375】
好ましくは、グラファイト基板は、0.4-5.0μm、好ましくは1.0~4.0μmの平均ポアサイズ(ポア直径)を有しかつ最大30μm、好ましくは最大20μm、好ましくは最大10μmの表面ポア直径を有するポアを含み、好ましくは10~30μmの表面ポア直径を有するポアが存在する。
【0376】
好ましくは、グラファイト基板は、<0.05mm、好ましくは<0.04mm、好ましくは<0.03mm、好ましくは<0.028mm、好ましくは<0.025mm、好ましくは<0.02mm、好ましくは<0.018mm、好ましくは<0.015mmの平均粒径を有する。
【0377】
好ましくは、グラファイト基板は、≧1.50g/cm3、好ましくは≧1.70g/cm3、好ましくは≧1.75g/cm3の密度を有する。
【0378】
このような多層SiCコーティング品のさらなる態様では、界面層III-A)が存在し、この界面は、少なくとも75μm、好ましくは少なくとも100μm、好ましくは75~150μmの長さでグラファイト基板中に延びるテンドリルの形態の、緊密に連結された実質的に四面体の結晶性SiC材料で充填されたポアを有する。
【0379】
V.使用
本発明のさらなる態様は、精製、塩素化、および/または活性化されたグラファイト部材、ならびに高温用途のための物品、サセプタおよびリアクタ、半導体材料、ウエハなどを製造するための、ここに記載される方法によって得ることのできる様々な炭化ケイ素コーティング体(またはコーティング品)の使用に関する。
【0380】
本発明を、添付図面および以下の実施例によってさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0381】
【
図1】グラファイト基板(1)およびその界面層(3)中のSiCテンドリル(4)、ならびにSiCコーティング層(2)を有する、本発明による炭化ケイ素コーティング体を680倍に拡大したSEM画像を示す。界面層(3)は約200μmの厚さを有し、すなわちSiCテンドリル(4)が、多孔性グラファイト基板(1)中に少なくとも50μmの長さで延びていることが分かる。SiCコーティング層(2)は、約50μmの厚さを有している。
【
図2】異なる密度の多層SiCコーティングを有する炭化ケイ素コーティング体を1250倍に拡大したSEM画像を示す。異なるSiCコーティング層は、約43μmの厚さの第1のSiC層(2-A)、約7μmの厚さの第2のSiC層(2-B)、および約50μmの厚さの第3のSiC層(2-C)を有する異なる厚さを呈している。画像はさらに、界面層(3)の開放ポア(5)の内壁のSiCコーティングの形態のSiCポア充填物を有するテンドリル(4)を示す。
【
図3】多孔性グラファイト基板(1)上にほぼ100μm厚のSiCコーティング層(2)を有するが、テンドリルおよび界面層が形成されていない炭化ケイ素コーティング体のSEM画像を示す。グラファイト基板(1)の開放ポア(6)がよく見えている。
【
図4】多孔性グラファイト基板(1)上に50μmを上回る厚さのSiCコーティング層(2)を有するが、パージガスとしてのアルゴンの使用に起因してテンドリルおよび界面層が形成されていない炭化ケイ素コーティング体を510倍に拡大したSEM画像を示す。グラファイト基板(1)の開放ポア(6)がよく見えている。
【
図5a】SiCテンドリル(4)の上面を500倍に拡大したSEM画像を示す。したがって、グラファイト基板は空気中で焼失して、テンドリルの形態および分布が見えており、テンドリルの分布は極めて均一かつ緻密である。
【
図5b】SiCテンドリル(4)の上面を500倍に拡大したSEM画像を示す。したがって、グラファイト基板は空気中で焼失して、テンドリルの形態および分布が見えており、テンドリルの分布は極めて均一かつ緻密である。
【
図6a】SiCコーティング層(2)と極めて強固に連結するSiCテンドリル(4)の断面を390倍に拡大したSEM像を示す。
【
図6b】SiCコーティング層(2)と極めて強固に連結するSiCテンドリル(4)の断面を2000倍に拡大したSEM像を示す。
【
図7a】ポアのポアサイズ/直径が<10μmである極めて小さいポアを有する、本発明の精製および活性化プロセス前の多孔性グラファイト材料(予備生成物)を2000倍に拡大したSEM画像を示す。
【
図7b】ポアのポアサイズ/直径が<10μmである極めて小さいポアを有する、本発明の精製および活性化プロセス前の多孔性グラファイト材料(予備生成物)を2000倍に拡大したSEM画像を示す。
【
図7c】本発明の精製および活性化プロセス前の前記多孔性グラファイト材料(予備生成物)のポア分布および平均ポアサイズを示す。
【
図8a】本発明の活性化プロセス後の多孔性グラファイト材料を2000倍に拡大したSEM画像を示す。大きく拡大された表面ポアを有する改変された表面多孔性が明確に示されており、ここでは、≧10μmのポアサイズ/直径を有する有意な量の拡大ポアが含まれている。
【
図8b】本発明の活性化プロセス後の多孔性グラファイト材料を2000倍に拡大したSEM画像を示す。大きく拡大された表面ポアを有する改変された表面多孔性が明確に示されており、ここでは、≧10μmのポアサイズ/直径を有する有意な量の拡大ポアが含まれている。
【
図8c】本発明の活性化プロセス後の前記多孔性グラファイト材料のポア分布および平均ポアサイズを示す。活性化プロセス前のグラファイト材料と比較して増加した多孔度および増加した平均ポアサイズが示されている。
【
図9】臨界温度依存性と、CVDプロセスにおけるSiCの核形成、成長、および結晶形成に及ぼすその影響とを示している。
【
図10】本発明の改善されたSiC材料の上面を3500倍に拡大したSEM画像を示す。実質的に四面体の結晶化度および最大10~30μmの結晶サイズがよく見えている。
【
図11】本発明の改善されたSiC材料のXRDパターンを示す。極めてシャープなβ-SiC結晶化度ピークを示し、非常にわずかな副産物ピークまたはアモルファスSiCを示し、これは、本発明のプロセスにおいて形成されたSiCの高い純度および結晶化度を確認するものである。
【符号の説明】
【0382】
(1)多孔性グラファイト基板
(2)SiCコーティング層
(2-A)、(2-B)、(2-C)密度の異なるSiCコーティング層
(3)界面層
(4)開放ポア内に形成されたテンドリル
(5)開放ポアの内壁上のSiCコーティング
(6)グラファイト基板内の開放ポア
(7)テンドリルとコーティング層との間の緊密な連結
(8)四面体結晶
【実施例】
【0383】
VI.実施例
実施例1-グラファイト部材の活性化および塩素化、ならびにテンドリル形成
多孔性グラファイト部材を活性化し、精製し、本発明に記載される塩素化処理を行った。
【0384】
塩素化されたグラファイト部材において、以下の塩素含有量を測定した:
【0385】
拡大された表面多孔性を有する活性化グラファイトの形成は、
図8a~cと比較して
図7a~cに示されている。SEMは、上記のように調製した。
【0386】
塩素化グラファイト部材は、ここに記載されるCVD堆積法において多孔性グラファイト基板(1)として使用された。
【0387】
CVD法では、
図1、2、3、4、5a、5b、6aおよび6bに示すように、本発明によるSiCテンドリル(4)が、適切に塩素化されたグラファイト基板のポア(6)内に形成された。
【0388】
ここに記載されるSiCの特性および品質は、
図10および
図11に示されている。
【0389】
実施例2-パージガスの影響
パージガスとしてH2を使用して、本発明のプロセスを用いて炭化ケイ素コーティング体を調製した。
【0390】
比較例として、パージガスとしてアルゴンを使用した。
【0391】
図1および
図4から明らかなように、アルゴンの使用は、テンドリル(4)の形成をもたらさない。
【0392】
実施例3-多層SiCコーティング
本発明のプロセスを用いて炭化ケイ素コーティング体を調製し、その際、様々な密度(2-A)、(2-B)、(2-C)などを有する多層SiCコーティングを調製するためにDMSの量を変化させた。
【0393】
その場合、堆積相においてキャリアガスとしてH
2を使用して、以下のDMS量を実験室サイズの試験リアクタのプロセスチャンバ内に導入した:
【0394】
第1~第4堆積相において堆積されたSiCコーティングは、変化する結晶サイズを示した。同サイズは、DMS量の増加と共に増加し、それに伴ってSiCコーティング層の密度は低下した。
【0395】
DMS量の変化によるSiC多層構造を示すさらなる実施例を
図2に示す。
【0396】
実施例4-DMS純度(シロキサン)
様々なシロキサン不純物のDMSを用いる本発明のプロセスにより、炭化ケイ素コーティング体を調製した。
【0397】
以下の量のシロキサン不純物を含むDMSを使用した:
【0398】
サンプルAおよびBによるDMSでは、本発明によりSiCテンドリルの形成が起こった。
【0399】
サンプルCによるDMSでは、SiCテンドリルの十分な形成は起こらなかった。
【0400】
さらに、以下の範囲が、所望のテンドリル形成に関して有効であることが分かった:
「-」開放ポア内にテンドリル形成がないか、または不十分であることを表す
「+」開放ポア内における中程度から低度のテンドリル形成を表す
「++」開放ポアにおける最適なテンドリル形成に適切であることを表す
【0401】
実施例5-DMS純度(Mn)
様々なマンガン不純物のDMSを用いる本発明のプロセスにより、炭化ケイ素コーティング体を調製した。
【0402】
【0403】
サンプルAおよびBによるDMSでは、本発明によりSiCテンドリルの形成が起こった。
【0404】
サンプルCによるDMSでは、SiCテンドリルの十分な形成は起こらなかった。
【0405】
さらに、以下の範囲が、所望のテンドリル形成に関して有効であることが分かった:
「-」開放ポア内にテンドリル形成がないか、または不十分であることを表す
「+」開放ポア内における中程度から低度のテンドリル形成を表す
「++」開放ポアにおける最適なテンドリル形成に適切であることを表す
【0406】
実施例6-DMS純度(Cu)
様々な銅不純物のDMSを用いる本発明のプロセスにより、炭化ケイ素コーティング体を調製した。
【0407】
【0408】
サンプルAおよびBによるDMSでは、本発明によりSiCテンドリルの形成が起こった。
【0409】
サンプルCによるDMSでは、SiCテンドリルの十分な形成は起こらなかった。
【0410】
さらに、以下の範囲が、所望のテンドリル形成に関して有効であることが分かった:
「-」開放ポア内にテンドリル形成がないか、または不十分であることを表す
「+」開放ポア内における中程度から低度のテンドリル形成を表す
「++」開放ポアにおける最適なテンドリル形成に適切であることを表す
【0411】
実施例7-DMS純度(Zn)
様々な亜鉛不純物のDMSを用いる本発明のプロセスにより、炭化ケイ素コーティング体を調製した。
【0412】
【0413】
サンプルAおよびBによるDMSでは、本発明によりSiCテンドリルの形成が起こった。
【0414】
サンプルCによるDMSでは、SiCテンドリルの十分な形成は起こらなかった。
【0415】
さらに、以下の範囲が、所望のテンドリル形成に関して有効であることが分かった:
「-」開放ポア内にテンドリル形成がないか、または不十分であることを表す
「+」開放ポア内における中程度から低度のテンドリル形成を表す
「++」開放ポアにおける最適なテンドリル形成に適切であることを表す
【0416】
実施例8-DMS純度(シロキサン+Mn+Cu+Zn)
Mn、CuおよびZn金属不純物の存在下において総シロキサン含有量の以下の範囲が、所望のテンドリル形成に関して有効であることが分かった:
「-」開放ポア内にテンドリル形成がないか、または不十分であることを表す
「+」開放ポア内における中程度から低度のテンドリル形成を表す
「++」開放ポアにおける最適なテンドリル形成に適切であることを表す