(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/00 20210101AFI20230606BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20230606BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230606BHJP
B22F 12/50 20210101ALI20230606BHJP
【FI】
B22F10/00
F24F5/00 Z
B33Y30/00
B22F12/50
(21)【出願番号】P 2021009493
(22)【出願日】2021-01-25
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2020026502
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 亮
(72)【発明者】
【氏名】尾山 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 真二
(72)【発明者】
【氏名】富岡 孝文
(72)【発明者】
【氏名】野村 祐司
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/034874(WO,A1)
【文献】特表2017-529290(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065605(WO,A1)
【文献】特開2002-274608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に密閉空間を有し、前記密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置可能な保管庫本体と、
前記密閉空間にパージガスを供給するパージガス供給経路と、
前記パージガス供給経路に位置し、前記密閉空間への前記パージガスの流量を調整する流量調節器と、
前記密閉空間を加熱する加熱器と、
前記密閉空間の温度を測定する温度測定器と、
前記温度測定器の測定値に応じて前記加熱器の出力を調整する温度調節器
と、
前記密閉空間の雰囲気ガスを排気ガスとして前記保管庫本体の外側に排出する排気経路と、を備える、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項2】
前記排気経路に位置する酸素濃度測定器と、
前記排気経路に位置する水分濃度測定器と、をさらに備える、請求項1に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項3】
前記流量調節器と、前記酸素濃度測定器および前記水分濃度測定器の一方又は両方とが、有線又は無線の電気信号線により接続される、請求項2に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項4】
前記酸素濃度測定器による測定値、及び前記水分濃度測定器による測定値の一方又は両方を表示する、表示器をさらに備える、請求項2又は3に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項5】
前記加熱器の表面に位置する、接触防止板をさらに備える、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫を用いる、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法であって、
保管庫本体の内側の密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置し、
前記密閉空間に所要の流量でパージガスを供給し、
前記密閉空間の温度を所要の温度とする、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【請求項7】
前記密閉空間の酸素濃度を3体積%以下に維持し、
前記密閉空間の露点温度を-30℃以下に維持する、請求項6に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造技術(「Additive Manufacturing」と称される)は、任意の形状の構造物を短時間で製造できるため、航空機産業及び医療等の先端技術分野で有望な技術として注目されている。
【0003】
付加製造技術を利用する製造装置の一例として、造形ステージに貯蔵された金属からなる原料粉末をレーザー等で焼結する金属3Dプリンタが知られている。金属3Dプリンタは、焼結された金属層を造形ステージ上で順次積層し、精度よく金属造形物を製造できる。
【0004】
金属3Dプリンタで使用される原料粉末(以下、単に、「金属3Dプリンタ用原料粉末」という場合がある)として、アルミニウム合金、チタン合金、鉄系合金、ニッケル基合金が存在する。これらの原料粉末は、保管容器に入れた状態で保管されるが、大気中で保管すると、例えばアルミニウム合金からなる原料粉末は大気中で徐々に酸化されてしまう。また、保管容器は防湿性能が低く、例えば数日で大気中と同程度となるまで原料粉末が吸湿してしまう。例えば、アルミニウム合金からなる原料粉末を用いた場合、金属層の造形時に水分が存在すると、熱処理工程後などに造形物に変形が生じる。また、チタン合金からなる原料粉末を用いた場合、金属層の造形時に酸素や水分が存在すると、造形物の機械特性が悪化する。
【0005】
上述したように、金属層の造形時に存在する酸素および水分は、原料粉末に付着しているものが影響するため、金属3Dプリンタ用原料粉末では保管環境が重要である。したがって、金属3Dプリンタ用原料粉末は、酸素および水分を除去可能な保管庫で保存することが好ましい。
【0006】
除湿機能を有する保管庫として、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1には、密閉キャビネット内を自動的に除湿して、電子部品や精密機器、化学薬品等を所要の湿度状態で保管可能な除湿処理技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された保管庫は、除湿機能を有しているが、パージガスの流量制御機能や昇温機能を有していないため、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供することが困難であった。また、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管には、比較的高価なアルゴンガスをパージガスとして使用することがあり、パージガスの消費量の低減が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供することが可能な金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 内側に密閉空間を有し、前記密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置可能な保管庫本体と、
前記密閉空間にパージガスを供給するパージガス供給経路と、
前記パージガス供給経路に位置し、前記密閉空間への前記パージガスの流量を調整する流量調節器と、
前記密閉空間を加熱する加熱器と、
前記密閉空間の温度を測定する温度測定器と、
前記温度測定器の測定値に応じて前記加熱器の出力を調整する温度調節器と、を備える、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[2] 前記密閉空間の雰囲気ガスを排気ガスとして前記保管庫本体の外側に排出する排気経路と、
前記排気経路に位置する酸素濃度測定器と、
前記排気経路に位置する水分濃度測定器と、をさらに備える、前項[1]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[3] 前記流量調節器と、前記酸素濃度測定器および前記水分濃度測定器の一方又は両方とが、有線又は無線の電気信号線により接続される、前項[2]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[4] 前記酸素濃度測定器による測定値、及び前記水分濃度測定器による測定値の一方又は両方を表示する、表示器をさらに備える、前項[2]又は[3]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[5] 前記加熱器の表面に位置する、接触防止板をさらに備える、前項[1]乃至[4]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[6] 前項[1]乃至[5]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫を用いる、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法であって、
保管庫本体の内側の密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置し、
前記密閉空間に所要の流量でパージガスを供給し、
前記密閉空間の温度を所要の温度とする、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
[7] 前記密閉空間の酸素濃度を3体積%以下に維持し、
前記密閉空間の露点温度を-30℃以下に維持する、前項[6]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法によれば、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫における、保管庫本体の背面板の構成を示す断面模式図である。
【
図3】実施例1および比較例1の、保管庫内の酸素濃度の推移を示す図である。
【
図4】実施例1および比較例1の保管庫におけるパージガスの消費量を示す図である。
【
図5】実施例1および比較例1の保管庫における、保管環境(露点-30℃)に到達するまでのパージガスの消費量を示す図である。
【
図6】実施例2及び比較例2の保管庫内の露点の推移を示す図である。
【
図7】実施例2及び比較例2の、保管粉末の吸着水分量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫について、それを用いる金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法とともに図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
<金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫>
先ず、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成の一例を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫(以下、単に「保管庫」という場合がある)1は、キャビネット(保管庫本体)2、ヒータ(加熱器)3、パージガス供給経路L1、排気経路L2、流量調節器4、酸素濃度測定器5、水分濃度測定器6、ヒータカバー(接触防止板)7、温度測定器8A、温度調節器8B、及びモニタ(表示器)9を備えて、概略構成されている。
【0015】
本実施形態の保管庫1は、適切な酸素濃度及び水分濃度に維持された環境中で、金属3Dプリンタ用原料粉末(以下、単に「原料粉末」という場合がある)を保管するものである。そして、金属3Dプリンタでの造形時、保管庫1から原料粉末を取り出して使用する。
【0016】
保管対象となる原料粉末は、金属3Dプリンタに使用可能であれば、特に限定されない。このような原料粉末としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、鉄系合金、ニッケル基合金等が挙げられる。
【0017】
原料粉末は、保管容器Qに収容されて保管される。ここで、保管容器Qは、樹脂製又は金属製の、容器本体と蓋とから構成される。原料粉末は、容器本体に収容され、蓋をした状態で保管してもよいし、蓋をしない状態で保管してもよい。
【0018】
キャビネット(保管庫本体)2は、内側に密閉空間Pを有する直方体の収納庫である。キャビネット2は、背面板2A、天板、底板、一対の側面、及び図示略の開閉扉を有する。背面板2Aには、鉛直方向に高さが異なる複数の棚2Bが設けられている。キャビネット2は、密閉空間Pを仕切る棚2Bに、原料粉末を収容する保管容器Qを1以上載置できる。
【0019】
開閉扉は、密閉空間Pに原料粉末を収容する保管容器Qの入出庫が可能な開口を形成できるものであれば、特に限定されない。開閉扉としては、片側開き、観音開き、スライド式等が挙げられる。
開閉扉は、閉塞した際、保管庫1が設置された環境から密閉空間Pに酸素および水分が透過しない程度に封止(シール)されることが好ましい。
また、開閉扉には、開放した際、信号が発信されるようにセンサーを設けることが好ましい。
【0020】
キャビネット2の容量(換言すると、密閉空間Pの体積)は、特に限定されるものではなく、保管容器Qの保管量に応じて適宜選択することができる。キャビネット2の容量としては、100~2000Lとすることができ、実用性および粉末容器搬出入の観点から、300~1500Lとすることが好ましく、600~1200Lとすることがより好ましい。
【0021】
キャビネット2の材質は、断熱、保温効果を有するものであれば、特に限定されない。キャビネット2の材質としては、例えば、鉄系材料および樹脂性材料等が挙げられる。これらの中でも、耐荷重および導電性等の観点から、ステンレス、スチール等の金属板とウレタン樹脂等の断熱材との積層構造体を用いることが好ましい。
【0022】
ヒータ(加熱器)3は、キャビネット2の密閉空間Pを所要の温度となるまで加熱、または所要の温度に保温する。ヒータ3は、背面板2Aの全面に位置する。ここで、ヒータ3を設ける位置は、密閉空間Pに面する場所であれば、特に限定されない。このような位置として、例えば、天板、底板、一対の側面、及び図示略の開閉扉が挙げられる。また、ヒータ3は、背面板2A、及び一対の側面というように、2か所以上に設けられてもよいし、背面板2Aの全面ではなく一部のみに設けられていてもよい。
【0023】
ヒータ3は、密閉空間Pを所要の温度まで加熱、または所要の温度に保温できるものであれば、特に限定されない。ヒータ3としては、例えば、ラバーヒータ、シース型ヒータ等が挙げられる。これらの中でも、背面板2Aへの取り付けやすさや、作業者の安全の観点から、ラバーヒータを用いることが好ましい。
【0024】
ヒータカバー(接触防止板)7は、ヒータ3の表面に位置する。これにより、作業者が保管庫1に保管容器Qを収容する際、及び保管庫1から保管容器Qを取り出す際、あやまってヒータ3に直接触れることを防止できる。
【0025】
ここで、
図2は、本実施形態の保管庫1においてキャビネット2の背面板2Aの構成を示す断面模式図である。
図2に示すように、背面板2Aの断面は、庫内側から庫外側へ向かって、ヒータカバー7、ヒータ3、ウレタン樹脂等の断熱材10、及び金属板11の積層構造となっている。また、ヒータ3への給電は、断熱材10に埋設された導線12によって行う構成となっている。これにより、電気接点およびヒータ3の加熱部分は、キャビネット2の密閉空間P内に露出しない。
【0026】
温度測定器8Aは、
図1に示すように、密閉空間Pの温度を測定するために、キャビネット2内に配置されている。具体的には、棚2Bの載置面付近に設けられている。また、温度測定器8Aの数は、特に限定されない。複数の温度測定器8Aをキャビネット2内に配置することで、密閉空間Pの温度分布を測定できる。これにより、密閉空間P内の温度分布を適切に調整できる。
【0027】
温度測定器8Aは、密閉空間Pの温度を測定できるものであれば、特に限定されない。温度測定器8Aとしては、例えば、例えば、山里産業製Kシース熱伝対等が挙げられる。
【0028】
温度調節器8Bは、温度測定器8Aの測定値に応じてヒータ3の出力を調整する。温度調節器8Bとしては、例えば、オムロン株式会社製温調節等が挙げられる。
【0029】
温度調節器8Bと温度測定器8Aとは、有線又は無線の電気信号線E3によって接続されている。また、温度調節器8Bとヒータ3とは、有線又は無線の電気信号線E4によって接続されている。これにより、温度調節器8Bは、密閉空間Pの温度の測定値を電気信号として温度測定器8Aから受信し、受信した測定値に基づいて密閉空間Pを加熱又は保温する制御信号をヒータ3に送信できる。
【0030】
パージガス供給経路L1は、キャビネット2内の密閉空間Pにパージガスを供給するガス供給配管である。
パージガスの種類は、原料粉末と反応しないものであれば、特に限定されない。パージガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。また、パージガスは、原料粉末に含まれる水分除去の観点から、水分含有量が少なく、乾燥していることが好ましい。具体的には、パージガスの露点は、-50℃以下が好ましく、-60℃以下がより好ましい。本実施形態の保管庫1に適用するパージガスとしては、露点-50℃以下の窒素ガスが好ましい。
【0031】
パージガス供給経路L1は、密閉空間Pに開口する吹き出し口L1a,L1bを有する。
吹き出し口L1a,L1bは、密閉空間Pの底部付近に所定の間隔をあけて配置されている。密閉空間Pの底部付近からパージガスを導入することで、密閉空間Pの雰囲気ガスを下側から上側へ対流させることができる。
また、吹き出し口L1a,L1bは、吹き出したパージガスが背面板2Aに配置されたヒータ3に当たる向きに調整されている。パージガスをヒータ3に吹き付けることで、加温されたパージガスを密閉空間Pに供給できる。
【0032】
流量調節器4は、パージガス供給経路L1に位置し、密閉空間Pへのパージガスの流量を調整する。流量調節器4は、パージガスの流量調整が可能であれば、特に限定されない。流量調節器4としては、例えば、株式会社フジキン製マスフローコントローラー等が挙げられる。
【0033】
流量調節器4は、有線又は無線の電気信号線E1により、酸素濃度測定器5と電気的に接続されている。これにより、流量調節器4と酸素濃度測定器5との間で、電気信号線E1を介して、電気信号を送受信できる。
【0034】
流量調節器4は、有線又は無線の電気信号線E2により、水分濃度測定器6と電気的に接続されている。これにより、流量調節器4と水分濃度測定器6との間で、電気信号線E1を介して、電気信号を送受信できる。
【0035】
排気経路L2は、密閉空間Pと連通し、密閉空間Pの雰囲気ガスを排気ガスとしてキャビネット2の外側に排出する排気配管である。排気経路L2の接続位置は、キャビネット2の上方寄りとなっている。これにより、排気経路L2が、密閉空間Pに配置された吹き出し口L1a,L1bと密閉空間Pを挟んで反対側に位置するため、密閉空間Pの雰囲気ガスの下側から上側への対流が促進される。
【0036】
酸素濃度測定器5は、排気経路L2に位置し、密閉空間Pから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の酸素濃度を測定する。酸素濃度測定器5は、酸素濃度の測定が可能であれば、特に限定されない。酸素濃度測定器5としては、例えば、ミッシェル社製酸素濃度計等が挙げられる。
【0037】
酸素濃度測定器5は、有線又は無線の電気信号線M1により、モニタ9と電気的に接続されている。これにより、酸素濃度測定器5とモニタ9との間で、電気信号線M1を介して、電気信号を送受信できる。
【0038】
水分濃度測定器6は、排気経路L2に位置し、密閉空間Pから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の水分濃度を測定する。水分濃度測定器6は、水分濃度の測定が可能であれば、特に限定されない。水分濃度測定器6としては、例えば、ミッシェル社製露点計等が挙げられる。
【0039】
水分濃度測定器6は、有線又は無線の電気信号線M2により、モニタ9と電気的に接続されている。これにより、水分濃度測定器6とモニタ9との間で、電気信号線M2を介して、電気信号を送受信できる。
【0040】
本実施形態の保管庫1は、流量調節器4と、酸素濃度測定器5および水分濃度測定器6の一方又は両方とが、有線又は無線の電気信号線E1,E2によりそれぞれ接続されるため、密閉空間Pから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の酸素濃度及び水分濃度の測定値に応じて密閉空間Pに供給するパージガスの流量を制御できる。
【0041】
モニタ(表示器)9は、酸素濃度測定器5による酸素濃度の測定値、及び水分濃度測定器6による水分濃度の測定値の一方又は両方を表示する。モニタ9は、酸素濃度及び水分濃度の測定値を表示可能であれば、特に限定されない。モニタ9としては、例えば、キャビネット2の外側に配置されたタッチパネル、PCのモニタ、タブレット、携帯電話等が挙げられる。これらの中でも、モニタ9として無線通信が可能なタブレットを用いることで、遠隔監視が可能となるため好ましい。
【0042】
<金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫方法>
次に、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法について説明する。
本実施形態の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法(以下、単に「保管方法」という場合がある)は、上述した保管庫1を用いて行う。
【0043】
本実施形態の保管方法では、キャビネット2の内側の密閉空間Pに原料粉末を収容する保管容器Qを1以上載置し、密閉空間Pを所要の温度となるようにヒータ3によって加熱しながら、パージガス供給経路L1から密閉空間Pに所要の流量でパージガスを供給する。
【0044】
具体的には、先ず、キャビネット2の開閉扉を開けて、いずれかの棚2Bの載置面上に保管容器Qを1以上載置する。次いで、キャビネット2の開閉扉を閉じた後、パージガス供給経路L1から流量調節器4を介して密閉空間Pにパージガスを供給し、排気経路L2から密閉空間P内の雰囲気ガスを排気ガスとしてキャビネット2の外側へ排出する。排気経路L2から雰囲気ガスを排出する際、酸素濃度測定器5によって雰囲気ガス中の酸素濃度を、水分濃度測定器6によって雰囲気ガス中の水分濃度をそれぞれ測定する。
【0045】
ここで、本実施形態の保管方法では、密閉空間P内の酸素濃度が5体積%以上では、ヒータ3の昇温機能をOFFとする。これにより、粉塵爆発の危険性を排除できる。
次に、酸素濃度測定器5による雰囲気ガス中の酸素濃度が5体積%未満となった際、ヒータ3の昇温機能をONにして、キャビネット2内の密閉空間Pの加熱を開始する。
【0046】
なお、キャビネット2内の密閉空間Pの加熱する際、パージガス供給経路L1の吹き出し口L1a,L1bから噴出するパージガスをヒータ3の表面に当てながら密閉空間P内に供給することで、効率的な昇温効果が得られる。
【0047】
また、密閉空間P内の温度は、温度測定器8Aによって測定し、その測定値を参照して温度調節器8Bによってヒータ3の出力を制御する。
密閉空間P内の温度は、所要の温度に維持される。密閉空間P内の温度としては、原料粉末の保管容器Qの耐熱性の観点から、室温(25℃)~110℃とすることができる。
また、原料粉末の乾燥促進の観点から、密閉空間P内の温度は、40~100℃が好ましく、40~80℃がより好ましく、40~60℃がさらに好ましい。
さらに、作業者の安全確保の観点から、密閉空間P内の温度は、25~50℃がもっとも好ましい。
【0048】
次に、本実施形態の保管方法では、排気経路L2を流れる雰囲気ガス中の酸素濃度及び水分濃度を酸素濃度測定器5及び水分濃度測定器6によってそれぞれ測定し、それらの測定値を参照してパージガスの供給量を制御する。これにより、密閉空間Pの酸素濃度を所要の値以下に維持でき、密閉空間Pの水分濃度を所要の値以下に維持できる。
【0049】
パージガスの供給量は、キャビネット2の容量に応じて適宜選択できる。パージガスの供給量としては、5~100L/minとすることができ、5~50L/minが好ましく、5~100L/minがより好ましい。
パージガスの供給量を50L/min以上とすることで、パージ時間短縮の効果が得られる。また、パージガスの供給量を10L/min以下とすることで、庫内雰囲気保持時のガス節約の効果が得られる。
【0050】
密閉空間Pの酸素濃度は、6体積%以下であればよく、3体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましい。密閉空間Pの酸素濃度を3体積%以下とすることで、保管中における原料粉末の酸化を抑制できる。
【0051】
密閉空間Pの水分濃度は、露点温度-30℃以下であればよく、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。密閉空間Pの水分濃度が、露点温度-30℃以下とすることで、吸湿した原料粉末の水分を除去できる効果や、吸湿を抑制できる効果が得られる。
【0052】
次に、本実施形態の保管方法では、原料粉末の保管中、密閉空間Pの酸素濃度及び水分濃度の所要の値以下に維持する。具体的には、排気経路L2を流れる雰囲気ガス中の酸素濃度及び水分濃度を酸素濃度測定器5及び水分濃度測定器6によってそれぞれ測定し、それらの測定値を参照してパージガスの供給量を制御する。これにより、密閉空間Pの酸素濃度及び水分濃度を所要の値以下に維持する際、パージガスの使用量を低減できる。
【0053】
次に、本実施形態の保管方法は、金属3Dプリンタによる造形を行う際、保管庫1から原料粉末を収容する保管容器Qを取り出す。
ここで、本実施形態の保管方法では、キャビネット2内の密閉空間Pの酸素濃度が16体積%以下で開閉扉を開放しようとした場合、開閉扉がロックされ、警報を鳴らし、パージガス供給経路L1から空気を供給する措置をとる。また、開閉扉を開放すると自動的にパージガスの供給が停止する措置をとる。これらの措置により、作業者の安全が確保される。
【0054】
また、本実施形態の保管方法では、原料粉末の保管中、排気経路L2を流れる雰囲気ガス中の酸素濃度及び水分濃度を酸素濃度測定器5及び水分濃度測定器6によってそれぞれ測定し、それらの測定値をインターネット等の無線回線を介して記録・監視できる。これにより、金属3Dプリンタで作製した造形物に用いた原料粉末のトレーサビリティを確保できる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供できる。
また、本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、最適な雰囲気下で原料粉末を保管できるため、金属3Dプリンタで使用する原料粉末の品質を維持することができ、造形物の性能維持に寄与する。
【0056】
本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、最適な雰囲気下で原料粉末を保管できるため、原料粉末の酸化を抑制できる。これにより、原料粉末の廃棄量を低減できる。
また、本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、保管庫1で保管することで、吸湿した原料粉末を乾燥できる。これにより、金属3Dプリンタによる造形物の性能維持に寄与する。
【0057】
本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、パージガスの流量を制御することで、パージガスの供給量の最適化を図ることができるため、パージガスの使用量を低減できる。
【0058】
なお、本実施形態の保管庫1では、キャビネット2内の密閉空間Pを加熱する手段としてヒータ3を有し、パージガスを供給する際、パージガスをヒータ3の表面に吹き付けながら供給する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、パージガス供給経路L1に、パージガスを加熱する加熱器を有する構成であってもよい。また、キャビネット2内の密閉空間Pを高温のパージガスを供給することで加熱し、ヒータ3によって密閉空間Pを保温する構成であってもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を用いた検証試験によって、本発明の効果を具体的に説明する。なお、本発明は、検証試験の内容に限定されない。
【0060】
(実施例1)
実施例1の保管庫として、上述した実施形態の保管庫1を用いた。保管庫1の仕様、及び運転条件は、以下の通り。
・保管庫1の容量:1190L
・パージガス:窒素ガス(露点-50℃)
・パージガス供給量:0~25L/min(自動調節)
・酸素濃度設定値:3体積%
・温度設定値:50℃
【0061】
(比較例1)
比較例1の保管庫の仕様、及び運転条件は、以下の通り。
・保管庫の容量:1190L
・パージガス:窒素ガス(露点-50℃)
・パージガス供給量:25L/min(定量供給)
・酸素濃度設定値:なし
・温度設定値:なし
【0062】
<検証試験1>
環境雰囲気中に開放された保管庫の扉を閉めて、パージガスの供給を開始し、庫内の酸素濃度を24時間制御した際の庫内の酸素濃度の推移とパージガスの消費量を比較した。
図3に、実施例1および比較例1の保管庫内の酸素濃度の推移を示す。また、
図4に、実施例1および比較例1の保管庫におけるパージガスの消費量を示す。
図3及び
図4に示すように、実施例1の保管庫によれば、パージガスの流量制御によって庫内雰囲気を任意の酸素濃度(3体積%)で保持することができ、パージガスの消費量を比較例1の保管庫よりも節約できることを確認した。
【0063】
<検証試験2>
環境雰囲気中に開放された保管庫の扉を閉めて、パージガスの供給を開始し、庫内の雰囲気が許容される保管環境(露点、及び酸素濃度)に到達するまでの時間とパージガスの消費量を比較した。
以下の表1に、許容される保管環境(露点、及び酸素濃度)に到達するまでの時間を示す。また、
図5に、実施例1および比較例1の保管庫における、許容される保管環境(露点-30℃)に到達するまでのパージガスの消費量を示す。
表1に示すように、実施例1の保管庫によれば、庫内の露点、あるいは酸素濃度が目標値となるまで、パージガスの流量を一時的に増加させることができるため、許容される保管環境(露点、及び酸素濃度)に到達するまでの時間を比較例1の保管庫よりも短縮できた。
また、
図5に示すように、実施例1の保管庫によれば、許容される保管環境(露点-30℃)に到達するまでの時間を短縮できるため、比較例1の保管庫と比較して、当該保管環境に到達するまでのパージガスの消費量を大幅に削減できることを確認した。
【0064】
【0065】
(実施例2)
実施例2の保管庫として、実施例1と同じものを使用した。保管庫1の仕様、及び運転条件は、以下の通り。
・保管庫1の容量:1190L
・パージガス:窒素ガス(露点-74℃)
・パージガス供給量:5~50L/min(自動調節)
・露点設定値:-70℃
・温度設定値:なし
【0066】
(比較例2)
比較例2の保管庫の仕様、及び運転条件は、以下の通り。
・保管庫の容量:1190L
・パージガス:なし
・露点設定値:なし
・温度設定値:なし
【0067】
<検証試験3>
環境雰囲気中に開放された保管庫の扉を閉めて、パージガス供給を開始し、庫内の露点を24時間制御した際の庫内の露点の推移を比較した。
図6に、実施例2及び比較例2の保管庫内の露点の推移を示す。また、
図7に、実施例2及び比較例2の、保管粉末の吸着水分量を示す。
図6に示すように、実施例2の保管庫によれば、露点-74℃のパージガスを供給することによって、比較例2の保管庫と比較して、到達露点を大幅に低減できることを確認した。
【0068】
また、
図7に示すように、実施例2及び比較例2の保管庫によれば、未開封の金属粉末(参考例)の水分吸着量を基準(100%)とした場合、保管金属粉末の水分吸着量はそれぞれ107%、116%であった。したがって、実施例2の保管庫では、比較例2の保管庫と比較して、保管金属粉末の水分吸着量を6%程度抑制できることを確認できた。
【符号の説明】
【0069】
1・・・金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫(保管庫)
2・・・キャビネット(保管庫本体)
3・・・ヒータ(加熱器)
4・・・流量調節器
5・・・酸素濃度測定器
6・・・水分濃度測定器
7・・・ヒータカバー(接触防止板)
8A・・・温度測定器
8B・・・温度調節器
9・・・モニタ(表示器)
10・・・断熱材
11・・・金属板
12・・・導線
E1~E4・・・電気信号線
M1,M2・・・電気信号線
P・・・密閉空間
L1・・・パージガス供給経路
L2・・・排気経路
Q・・・保管容器