(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】再充電可能なリチウムイオン電池用正極物質の前駆体としてのコバルト酸化物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230606BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230606BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G51/00 A
(21)【出願番号】P 2021532947
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 IB2019060606
(87)【国際公開番号】W WO2020128714
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-09
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】キョンセ・ソン
(72)【発明者】
【氏名】アルム・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヒソク・ク
(72)【発明者】
【氏名】ジンウク・キム
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-072050(JP,A)
【文献】特開2004-220897(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108212035(CN,A)
【文献】特表2014-523383(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052210(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/162165(WO,A1)
【文献】特表2017-531901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質の調製に使用するためのコバルト酸化物前駆体粉末であって、前記コバルト酸化物前駆体粉末が、式Co
1-yA
yO
xを有する粒子を含み、式中、1<x≦4/3であり、0≦y≦0.05であり、Aが、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群からの少なくとも1つの元素を含み、前記コバルト酸化物前駆体粉末が、Fd-3m結晶構造を有し、前記粒子が、D50≧15μm、及び少なくとも100MPaかつ最大170MPaの圧縮強度を有する、コバルト酸化物前駆体粉末。
【請求項2】
15μm<D50<25μmである、請求項1に記載のコバルト酸化物前駆体粉末。
【請求項3】
AがMnを含む、請求項1又は2に記載のコバルト酸化物前駆体粉末。
【請求項4】
前記コバルト酸化物前駆体粉末が、0.80以上かつ1.00以下の円形度を有する粒子を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のコバルト酸化物前駆体粉末。
【請求項5】
前記コバルト酸化物前駆体粉末が、粒子に50MPaの圧力を加えた後のD10の変化が60%未満である粒子を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のコバルト酸化物前駆体粉末。
【請求項6】
0<yである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコバルト酸化物前駆体粉末。
【請求項7】
請求項1に記載のコバルト酸化物前駆体粉末を製造するための方法であって、
- コバルト塩粒子を含む組成物を、乾燥不活性雰囲気中で少なくとも300℃~450℃以下の温度で2~5時間加熱して、中間コバルト前駆体粒子を含む組成物を形成する工程と、
- 前記中間
コバルト前駆体粒子を含む組成物を、乾燥酸化性雰囲気中で少なくとも300℃~600℃以下の温度で2~5時間加熱して、コバルト酸化物前駆体粒子を含む粉末を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項8】
前記コバルト塩がCo(OH)
2又はCoCO
3である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コバルト塩粒子が、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群からの少なくとも1つの元素を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥不活性雰囲気が窒素である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥酸化性雰囲気が乾燥空気である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記乾燥不活性雰囲気中での加熱と、前記乾燥酸化性雰囲気中での加熱とが、同じ温度で行われる、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記乾燥不活性雰囲気中での加熱と、前記乾燥酸化性雰囲気中での加熱とが、350℃~450℃の同じ温度で行われる、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
再充電可能な層状リチウムコバルト酸化物系電池における正極活物質のためのコバルト酸化物前駆体粉末が本明細書に記載される。記載されるコバルト酸化物前駆体粉末は、比較的高い機械的強度並びに比較的大きな平均粒径を有する粒子を含み、これは有利には、コバルト酸化物前駆体粉末から調製された正極活物質を有する電池の高エネルギー密度及び循環機能をもたらすことができる。コバルト酸化物前駆体粉末は、第1の乾燥非酸化性雰囲気及び第2の乾燥酸化性雰囲気下で連続加熱プロセス工程によって調製することができる。
【背景技術】
【0002】
(再充電可能な)リチウムイオン電池(lithium ion batteries、LIB)のカテゴリとして層状リチウムコバルト酸化物系の再充電可能な電池は、それらの高い体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度、並びにそれらの長いサイクル寿命に起因して、ノート型パソコン、携帯電話、カメラ、及び他の多様なポータブル電子デバイスに現在使用されている。加えて、(以下、「LCO」と称される、ドープされた又は非ドープの)層状LiCoO2物質は、その高い理論容量及び良好な熱安定性のために、LIB用の正極物質として好ましい。
【0003】
更に、ポータブル用途に対する需要の増加を満たすために、より高いエネルギー密度を有する電池が必要とされる。
【0004】
LCOを製造するために、コバルト系前駆体、例えば、炭酸コバルト(CoCO3)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)、又はコバルト酸化物(Co3O4)が一般に使用される。炭酸コバルト(CoCO3)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、及びオキシ水酸化コバルト(CoOOH)は、本明細書においてコバルト塩又はコバルト塩前駆体と総称される。
【0005】
一般的な生産プロセスにおいて、コバルト前駆体は、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3)又は水酸化リチウム(LiOH)などのリチウム源前駆体、及びAl、Mg、又はTiなどの1つ以上のドーパントと混合される。混合物をセラミック匣鉢(又はトレイ)上に置き、高温(例えば、1000℃)で数時間加熱して、焼結された凝集LCO化合物を作製する。焼結された凝集LCO化合物を粉砕装置を用いて粉砕し、最終的なLCO化合物を得る。
【0006】
ポータブル用途にとって重要な電池特性は、電池のエネルギー密度である。エネルギー密度は、電気エネルギーを貯蔵するための電池サイズを決定する。2種類のエネルギー密度、すなわち、質量エネルギー密度及び体積エネルギー密度がある。電池内の正極物質の種類は、電池内のエネルギー密度を決定する。体積エネルギー密度は、より小さい電子デバイスに対する消費者の要求により、ポータブル用途において特に重要である。したがって、より高い体積粉末密度を有する正極物質を含めるために、ポータブル電子デバイスで使用するための電池が有利である。正極物質に圧力を加えることによって体積エネルギー密度を増加させることが可能である。しかしながら、正極物質に過剰な圧力を加えることは、物質が配置される電池のサイクル寿命に悪影響を及ぼし得る。したがって、体積エネルギー密度を改善するための実行可能な代替オプションが望ましい。
【0007】
本明細書に記載のコバルト前駆体は、上記の問題に対処することができるが、コバルト前駆体は、先行技術から、例えば、米国特許出願公開第2017/062807号(以下、「US’807」と称する)、同第2016/322633号(「US’633」)、同第2012/134914号(「US’914」)、同第2007/099087号(「US’087」)、国際公開第2018/162165号(「WO’165」)、及び国際公開第2018/052210号(WO’210)から既知である。例えば、記載されたコバルト前駆体粉末から生成された正極物質は、容易に製造されながら高い体積密度並びにより良好なサイクル寿命を有することができ、これは、記載されたコバルト前駆体粉末から生成された正極物質が、標準的な焼結条件下で得ることができることを意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0009】
実施形態1:本発明の第1の態様では、正極活物質の調製に使用するためのコバルト酸化物前駆体粉末は、式Co1-yAyOxを有する粒子を含み、式中、1<x≦4/3であり、0≦y≦0.05であり、Aは、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群からの少なくとも1つの元素を含む。粒子は、D50≧15μm、及び少なくとも100MPaかつ最大で170MPaの圧縮強度を有する。この態様の特徴では、15μm<D50<25μmである。実施形態1に係るコバルト酸化物前駆体粉末は、Fd-3m結晶構造を有する粒子組成物を有する。好ましくは、AはMnを含む。
【0010】
より好ましくは、この実施形態1では、コバルト酸化物前駆体粉末は、0.80以上かつ1.00以下の円形度を有する粒子を有する。
【0011】
実施形態1に係る実施形態2:第1の態様の更なる特徴では、50MPaの圧力を加えた後の粒子のD10の変化は、60%未満、好ましくは30%未満、10%超、好ましくは5%超である。
【0012】
実施形態1又は2に係る実施形態3:第1の態様の別の特徴では、粉末中の粒子に対するモル比Li/(Co+A)は、5%未満で変動する。
【0013】
実施形態1~3のいずれか1つに係る実施形態4:第1の態様の別の特徴では、粉末中の粒子に対するモル比Li/(Co+A)は、3%未満で変動する。
【0014】
実施形態1~3のいずれか1つに係る実施形態4:本発明の第2の態様では、カソード活物質粉末は、第1の態様のコバルト酸化物前駆体粉末から調製される。第2の態様に関して、カソード活物質は、50サイクル後に少なくとも40%の残存容量(QR%)を有する。第2の態様の更に別の特徴では、207MPaの圧力を加えた後のカソード物質粒子のD10の変化は、30%未満である。更なる特徴では、粉末は、3.7g/cm3を超える押圧密度を有する。
【0015】
実施形態5:本発明の第3の態様では、第1の態様に関連した実施形態1~4のいずれか1つに係るコバルト酸化物前駆体粉末を製造するための方法は、コバルト塩粒子(Co(OH)2又はCoCO3など)を含む組成物を提供する工程であって、コバルト塩粒子が、任意に、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群から少なくとも1つの元素を含む、提供する工程と、コバルト塩粒子を含む組成物を、乾燥不活性雰囲気中、好ましくは乾燥窒素又は窒素系雰囲気中で約300℃~約450℃の温度で約2~5時間加熱して、中間コバルト前駆体粒子を含む組成物を形成する工程と、中間前駆体粒子を含む組成物を、乾燥酸化性雰囲気(乾燥空気など)中で約300℃~約600℃の温度で約2~5時間加熱して、コバルト酸化物前駆体粒子を含む粉末を形成する工程と、を含む。
【0016】
実施形態5に係る実施形態6:第3の態様の特徴では、乾燥不活性雰囲気中(例えば、乾燥窒素又は窒素系雰囲気中)で加熱すること、及び乾燥酸化性雰囲気中で加熱することが、同じ温度で行われる。この特徴に関して、温度は、約350℃~約450℃、約400℃~約450℃、又は約400℃であってもよい。
【0017】
実施形態5又は6に係る実施形態7:第3の態様の別の特徴では、乾燥不活性雰囲気中(例えば、乾燥窒素又は窒素系雰囲気中)で加熱すること、及び乾燥酸化性雰囲気中で加熱することが、異なる温度で行われる。第3の態様の更に別の特徴では、乾燥不活性雰囲気中(例えば、乾燥窒素又は窒素系雰囲気中)で加熱すること、及び乾燥酸化性雰囲気中で加熱することが、同じ炉内で行われる。あるいは、乾燥不活性雰囲気中(例えば、乾燥窒素又は窒素系雰囲気中)で加熱すること、及び乾燥酸化性雰囲気中で加熱することが、異なる炉内で行われてもよい。
【0018】
この態様の更なる特徴では、乾燥不活性雰囲気中(例えば、乾燥窒素又は窒素系雰囲気中)での加熱が、約2~4時間、約2.5~3.5時間、又は約3時間行われる。更に別の特徴では、乾燥酸化性雰囲気中での加熱が、約2~4時間、約2.5~3.5時間、又は約3時間行われる。乾燥酸化性雰囲気は、空気を含んでもよい。
【0019】
実施形態8:第5の態様では、本発明は、第1の態様に関連した実施形態1~7のいずれか1つに係る前駆体粉末を提供する工程と、Li含有前駆体粉末を提供し、Li含有前駆体粉末を前駆体粉末と混合する工程と、混合物を、酸素含有雰囲気中で、少なくとも900℃かつ最大1200℃の温度で焼結することにより、リチウムコバルト酸化物系活物質粉末を得る工程と、を含む、二次電池用のリチウムコバルト酸化物系活物質粉末を製造する方法を包含する。この態様の特徴では、焼結温度は、y>0のときに少なくとも1000℃、又はy=0のときに最大950℃のいずれかである。
【0020】
この態様の特徴では、第1の態様及びLi含有前駆体粉末に関連した実施形態1~7のいずれか1つに係る前駆体粉末は、Li対(Co+A)のモル比>1.00で混合される。
【0021】
実施形態9:本発明の第6の態様は、正極活物質の調製に使用するためのコバルト酸化物前駆体粉末を包含し、前駆体組成物は、式Co1-yAyOxを有するFd-3m粒子を含み、式中、1<x≦4/3であり、0≦y≦0.05であり、Aは、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群から少なくとも1つの元素を含み、粒子は、D50≧15μmを有し、好ましくは、D50が≦25μmであり、コバルト酸化物前駆体粉末は、
-コバルト塩粒子を含む組成物を、乾燥不活性雰囲気中、好ましくは乾燥窒素又は窒素系雰囲気中で、約300℃~約450℃の温度で約2~5時間加熱して、中間コバルト前駆体粒子を形成する工程と、
-中間前駆体粒子を乾燥酸化性雰囲気中で、約300℃~約600℃の温度で約2~5時間加熱して、コバルト酸化物前駆体粉末を形成する工程と、を含むプロセスから得られる圧縮強度を有する。
【0022】
実施形態10:第7の態様では、本発明は、二次電池用のリチウムコバルト酸化物系活物質粉末を包含し、リチウムコバルト酸化物系活物質粉末は、ID10”≧-35.00%、好ましくは≧-32.00%を有する。
【0023】
本発明の枠組みでは、300℃~600℃の温度で乾燥(空気、酸化性、窒素又はN2)雰囲気下で加熱(又は熱処理)することを焙焼と称する。900℃~1200℃の温度での焼成処理(又は酸素含有雰囲気下での加熱)中のコバルト前駆体とリチウム源との間の反応は、焼結と称する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】サイクル数の関数としてのLCO1、及びLCO2.1~LCO2.3の残存容量を示すグラフであり、x軸はサイクル数であり、y軸は残存容量である。
【
図2A】EX1及びLCO1のPSD曲線を示すグラフであり、x軸は粒径であり、y軸は体積である。
【
図2B】CEX1.1及びLCO2.1のPSD曲線を示すグラフであり、x軸は粒径であり、y軸は体積である。
【
図3】ICP分析のためのリチウム化後に、例示的なLCO生成物粒子がトレイ内で選択された様々な場所を示す概略図である。
【
図4】
図3に示されるトレイ内で選択されたLCO生成物のLi/M’比を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実行を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、実施形態を詳細に記載する。本発明は、これらの特定の実施形態に関して記載するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではないことが理解されるだろう。それとは対照的に、本発明は、以下の発明を実施するための形態及び添付図面を考慮することから明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0026】
本明細書に記載のFd-3mコバルト前駆体粉末は、1<x≦4/3及び0≦y≦0.5である式Co1-yAyOxによって特徴付けられる。Aは、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群のうちの1つ以上の金属のいずれかを含む。コバルト前駆体は、少なくとも15μm(好ましくは20μm以下)の平均粒径、及び少なくとも100MPaかつ最大170MPaの圧縮強度を有する。
【0027】
LCO化合物の前駆体としての本発明に係るコバルト前駆体粉末の使用は、複数の利益及び利点を有する。本発明に係るコバルト前駆体を使用して調製したLCO化合物のサイクル寿命及びエネルギー密度は優れている。加えて、前駆体酸化物は、水酸化物又は炭酸系前駆体に対する前駆体の所与の体積/質量に対するより高いCo負荷を可能にするため、本発明に係る前駆体のコバルト含有量が高いことにより、LCO生成のコストが削減される。
【0028】
コバルト前駆体粉末の物理的特性は、コバルト前駆体粉末を使用して調製されたLCO化合物のサイクル寿命の改善を可能にする。この成果は、本発明に係る前駆体粉末から調製されたLCO化合物が、前駆体のD50≧15μm、及び少なくとも100MPaかつ最大170MPaの圧縮強度を維持することから達成される。例えば、コバルト前駆体粉末は、有利に高い(すなわち、少なくとも100MPaの)圧縮強度を有する。LCO化合物の量産プロセスでは、コバルト前駆体並びにLCO化合物は、機械的応力を継続的に受ける。例えば、生成プロセスにおける第1の工程は、コバルト前駆体をリチウム源(例えば、Li2CO3)と、任意に、高混合エネルギーを伴う工業用ミキサー内でドーパントとを混合することである。コバルト前駆体の圧縮強度が十分でない場合、コバルト前駆体の粒子は、混合工程中にひび割れるか又は完全に破壊される。ひび割れたコバルト前駆体は、ひび割れしたLCO粒子を含むLCO化合物をもたらし得る。多くの場合、ひび割れしたLCO粒子は、粉末輸送プロセス中、電極プロセス中、又は体積変化による電池のサイクリング中に完全に破壊される。電池内のLCO粒子の破壊された部分は、電気化学的反応に関与しないため、電池使用中の容量低下をもたらす。したがって、コバルト前駆体粉末の機械的強度は、電池性能にとって非常に重要である。これは、コバルト前駆体粉末の圧縮強度が少なくとも100MPaであるべきである理由である。
【0029】
しかしながら、170MPaより高い圧縮強度を有するコバルト前駆体粉末は望ましくない。コバルト前駆体粒子は、一般的に、内部細孔を有さずに高密度である。焼結プロセス中(前駆体のリチウム化工程において)のコバルト前駆体とリチウム源との反応は、リチウムイオンがコバルト前駆体の十分な結晶バルクを通って移動するべきであるため、比較的遅い。したがって、コバルト前駆体が、170MPaより高い圧縮強度を有するときにより高い焼結温度又はより長い焼結時間が推奨され、170MPaより高い圧縮強度を有するコバルト前駆体のリチウム化から生じるカソード物質の製造プロセスを高価にし、実行不可能にする。更に、D50≧15μm、及び少なくとも100MPaかつ最大170MPaの圧縮強度を有する記載した前駆体粉末から調製されたLCO化合物は、そのようなサイズ及び強度特徴を有さないLCO化合物に対して優れた体積密度を有し、したがって、エネルギー密度が改善される。
【0030】
炭酸コバルト前駆体(例えば、CoCO3)又は水酸化コバルト前駆体(例えば、Co(OH)2)などのコバルト塩前駆体は、高い機械的強度を有することができる。しかしながら、これらは、LCO化合物のコバルト前駆体としての欠点を有する。最初に、コバルト酸化物と比較して、CoCO3又はCo(OH)2をコバルト前駆体として使用する場合、生成スループットは比較的低くなり得る。CoCO3及びCo(OH)2のコバルト含有量は、それぞれ49.6%及び63.4%であり、CoO及びCo3O4のコバルト含有量は、それぞれ78.6%及び73.4%である。コバルト含有量の比較を考えると、等しい前駆体体積で、コバルト酸化物前駆体は、炭酸コバルト又は水酸化コバルト前駆体よりも多くのLCO化合物を生成する。加えて、CoCO3及びCo(OH)2前駆体(コバルト酸化物前駆体とは対照的に)により調製されるLCO化合物の電気化学的特性は劣っている。CoCO3及びCo(OH)2をリチウム化プロセスにおいてLi源と反応させると、CO2及びH2Oが副生成物として生成される。これらの副生成物が混合物から移動すると、Liも再構成され得、それによって最終的なLCO化合物中のLiの不均質な分布が得られる。Liの不均質分布は、比較的少ないLi含有量を有するLCO粒子をもたらし得る。より少ないLiを有するLCO粒子は、比較的低い機械的強度及び劣悪な電気化学的特性を有する。したがって、CoO又はCo3O4などのコバルト酸化物は、LCO化合物用のコバルト前駆体として好ましい。
【0031】
更に、正極物質の表面上のドーピング又はコーティングは、高い容量及び改善された安定性を提供することができる。例えば、ドープされたLiCo1-yAyO2酸化物(A=Mn、Al、Ti、Mg、Cr、Ni、Fe、Cu、Fe、Bなど)は、興味深い構造的及び電気化学的特性を示す。例えば、MnをドープされたLiCoO2(LiCo0.8Mn0.2O2)は、J Solid State Electrochem(2000)4:205に示されるように、動的可逆性及びサイクル安定性の顕著な改善を示した。ドープ又はコーティングされたコバルト酸化物前駆体は、ドープ又はコーティングされた表面を有する正極物質をもたらすことができる。
【0032】
更に、コバルト前駆体としては、平均粒径が少なくとも15μmのCoO又はCo3O4などのコバルト酸化物が好ましい。コバルト前駆体の粒径は、生成プロセス及びそれから作製されるLCO化合物の性能に影響を及ぼす。コバルト酸化物前駆体の平均粒径が少なくとも15μmである場合、上記のコバルト酸化物の利益を高めることができる。例えば、比較的大きな粒径は、LCOの高いスループット及び高い体積密度を可能にする。逆に、コバルト酸化物前駆体の平均粒径が小さすぎると、LCO生成のスループットが低すぎて、高い体積密度を有する生成物を生成する。
【0033】
以下の実施例に示すように、15μm未満の粒径を有するコバルト酸化物前駆体を使用して調製されたLCO化合物の性能は、LCO化合物が同じプロセスを使用して生成されるとき、少なくとも15μmの粒径を有するコバルト酸化物前駆体を使用して調製されたLCO化合物の性能よりも劣っている。
【0034】
例示的な実施形態では、コバルト酸化物前駆体は、以下のように調製することができる。
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,972,843号に記載の沈殿プロセスを使用して、少なくとも15μmの平均粒径を有するCoCO3及びCo(OH)2を調製することができる。Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrなどのドーパントを、沈殿中に加えることができる。CoCO3及びCo(OH)2は、コバルト酸化物前駆体の原料である。
【0035】
所望のサイズを有する沈殿原料(例えば、CoCO3及びCo(OH)2)は、選択された条件下で焙焼されて、コバルト酸化物前駆体を調製することができる。ドーパントは、焙焼中に加えてもよい。
【0036】
原料の平均粒径及び焙焼プロセス中の条件は、コバルト酸化物前駆体の物理的特性に影響を及ぼし、したがって、それから得られるLCO化合物の電気化学的特性に影響を及ぼす。粒径に関して、沈殿中に調製された原料粒子の平均粒径は、粒子の形態が焙焼後に比較的変化しないままであるため、得られるコバルト酸化物の平均粒径を決定する。しかしながら、粒子サイズの一部の縮小は、焙焼後に予想され得る。
【0037】
電気化学的性能に関して、コバルト酸化物前駆体の機械的強度は、焙焼プロセス中の動作条件に依存する。具体的には、以下の実施例に示されるように、原料が非酸化性雰囲気中で焙焼され(又は乾燥雰囲気中で加熱又は焼結され)、その後に酸化性雰囲気が続くとき、得られるコバルト酸化物の機械的強度は高い。例示的な実施形態では、記載された連続大気が焙焼プロセス中に使用されるとき、非酸化性雰囲気(例えば、N2)中の低酸素分圧により、原料(例えば、Co(OH)2)中のコバルトが還元され、それによって、コバルト酸化物中間体(例えば、CoO)が生成される。次いで、酸化性雰囲気(例えば、O2)中の高酸素分圧により、コバルト酸化物中間体中のコバルトが酸化されることによって、Co3O4を生成する。
【0038】
焙焼プロセスの温度は、少なくとも300℃及び最大800℃であるべきである。温度が300℃未満である場合、還元及び酸化は起こらない。温度が800℃より高い場合、コバルト酸化物は、過剰に焼結し得る。例えば、焙焼温度は、約300~700℃、約300~600℃、約300~500℃、又は約350~450℃であってもよい。更なる実施例では、焙焼温度は、約300℃、325℃、350℃、375℃、400℃、425℃、450℃、475℃、500℃、525℃、550℃、575℃、又は600℃であってもよい。非酸化性雰囲気の焙焼温度は、酸化性雰囲気の焙焼温度と同じであってもよい。あるいは、非酸化性雰囲気の焙焼温度は、酸化性雰囲気の焙焼温度とは異なってもよい。
【0039】
焙焼時間は、炉に導入される粉末の少なくとも実質的に全てを還元及び酸化するのに十分な長さであるべきである。したがって、焙焼時間は、粉末の量及び炉の種類などの要因に依存する。一般に、静的炉の焙焼時間は、少なくとも1時間、最大で15時間である。例えば、焙焼時間は、約1~10時間、約1~8時間、約2~6時間、又は約2~4時間であり得る。更なる実施例では、焙焼時間は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、又は15時間であってもよい。非酸化性雰囲気中の焙焼時間は、酸化性雰囲気中の焙焼時間と同じであってもよい。あるいは、非酸化性雰囲気中の焙焼時間は、酸化性雰囲気中の焙焼時間とは異なってもよい。
【0040】
コバルト含有原料が、最初に非酸化性雰囲気中で焙焼され、その後、酸化性雰囲気中で焙焼される焙焼プロセスによって調製されたコバルト酸化物は、単一の種類の雰囲気を有する焙焼プロセスによって調製されたコバルト酸化物よりも高い機械的強度を有する。更に、得られるLCO化合物(すなわち、記載された2雰囲気の連続焙焼プロセスによって調製されたコバルト酸化物前駆体を使用して作製されたもの)は、優れた電気化学的特性を有する。実際に、15μm未満の平均粒径を有するが、記載された2雰囲気の連続焙焼プロセスによって調製されるコバルト酸化物前駆体は、同様のサイズ及び組成を有するが単一の雰囲気焙焼プロセスによって調製されるコバルト酸化物前駆体よりも高い機械的強度を有する。それにもかかわらず、15μm未満の平均粒径を有するコバルト酸化物前駆体を使用して(製造方法を問わず)調製されたLCO化合物は、より高い機械的強度にもかかわらず、劣った電気化学的特性及び体積密度を有する。
【0041】
動作的には、2つの異なる連続雰囲気を使用した焙焼は、様々な炉構成を使用して実行することができる。例えば、2つの切断された炉を使用して、2雰囲気の連続焙焼をもたらすことができる。切断された炉では、第1の焙焼は、特定の温度及び時間について非酸化性雰囲気を用いる炉内で行うことができる。第2の焙焼は、特定の温度及び時間について酸化性雰囲気を用いる後続の別個の炉内で行うことができる。あるいは、雰囲気が第1の焙焼のための非酸化性雰囲気から第2の焙焼のための酸化性雰囲気に変化される単一炉も使用することができる。
【0042】
実施例では、以下の分析方法を使用する。
【0043】
A)X線回折測定
正極物質のX線回折(XRD)パターンは、1.5418Åの波長で放射されるCu Kα放射線源(40kV、40mA)を使用して、Rigaku X線回折計(Ultima IV)を用いて収集した。機器の構成は、1°のソーラースリット(Soller slit、SS)、10mmの発散高さ制限スリット(divergent height limiting slit、DHLS)、1°の発散スリット(divergence slit、DS)、及び0.3mmの受光スリット(reception slit、RS)に設定した。ゴニオメータの直径は、158mmであった。XRDでは、回折パターンは、1分毎に1°のスキャン速度及びスキャン毎に0.02°のステップサイズで、15~85°(2θ)の範囲で得た。コバルト前駆体中のCo3O4及びCoOのようなコバルト酸化物の定量的相分析を、TOPASソフトウェアを用いて行った。
【0044】
B)SEM分析
正極物質の形態は、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscopy、SEM)技術によって分析した。この測定は、25℃の9.6×10-5Paの高真空環境下で、JEOL JSM7100F走査型電子顕微鏡装置を用いて実施する。試料の画像(各粒子の少なくとも2つ)を1000倍の倍率で記録して、物質の円形度を実証した。SEM画像に基づいて、平均粒径を有する10個の代表的な粒子を選択し、次いで、粒子の円形度を次のように計算した。
【0045】
【0046】
代表的な前駆体粒子の表面積(A)及び周辺部(P)は、周知のImageJ-basedソフトウェアを使用することによって得られる(セクション30.2~30.7-”Set measurement” of the ImageJ user guide、https://imagej.nih.gov/ij/docs/guide/user-guide.pdf又はhttps://imagej.nih.gov/ij/docs/guide/146-30.htmlを参照されたい)。
【0047】
上述のように、円形度の計算は、以下の測定を意味する。
i) a)粒子のSEM画像の外側境界を決定することによって、b)個々のセグメントベースの選択への外側境界を分解することであって、これらの各セクションが個々の外周を有する、分解することによって、かつc)個々の外周の長さの値を追加して粒子の外周の値を得ることによって決定される外周、及び
ii) 外側境界によって画定された表面に含まれる複数の画素領域を追加することによって計算される領域。
【0048】
1.00の円形度とは、粉末試料を表す粒子が球形状を有することを意味する。
【0049】
1.00より低い円形度とは、粉末試料を表す粒子が非球形状を有することを意味する。
【0050】
0より高く1より低い円形度とは、楕円形状を意味する。
【0051】
C)粒子強度測定
圧縮強度の測定を使用することによって、前駆体粒子の強度を調査した。加えて、粒径分布(particle size distribution、PSD)の変化を、50MPaなどの特定の圧力を適用する前後に測定した。
【0052】
C1)粒子押圧試験(particle pressing test、PPT)
圧力を加えた後のPSDの変化を調査することによって、粒子強度を分析した。最初に、前駆体粉末を、直径「d」が1.3cmのステンレス鋼ペレットダイに入れた。50MPaの一軸圧を適用した。次いで、得られたペレットを指又は乳鉢で穏やかに解き、PSD測定のための固まっていない粉末(以下、Eで記載)を得た。
【0053】
C2)圧縮強度測定
前駆体粒子の圧縮強度を評価するために、マイクロ圧縮試験機(Shimadzu、MCT-W500-E)を使用した。平均粒径を有する10個の代表的な粒子を選択した。代表的な粒子のそれぞれを、それが破壊されるまで連続的に増加させた力で押圧した。各粒子を破壊するために適用された力の最小値を、その粒子の圧縮強度(MPa)と見なした。
【0054】
D)ペレット密度測定値(pellet density measurement、PDM)
押圧密度(pressed density、PD)は、次のように測定した:3gの粉末を、直径「d」が1.3cmのペレットダイに充填した。207MPaの一軸圧力をペレットに30秒間加えた。負荷を緩和した後、押圧したペレットの厚さ「t」を測定した。次いで、押圧密度を、以下のように計算した。
【0055】
【0056】
押圧後、粉末を、E)PSD測定によって更に調べた。
【0057】
E)粒径分布測定
粒子押圧試験又はPD測定前後に、粉末を水性媒体に分散させた後、Hydro MV湿式分散アクセサリを装着させたMalvern Mastersizer 3000を使用して、粉末の粒径分布(PSD)を分析した。水性媒体中の粉末の分散を向上させるために、十分な超音波照射及び撹拌を施し、適切な界面活性剤を投入した。本明細書において使用される際、D10、D50、及びD90は、累積体積%分布の10%、50%、及び90%における粒径として定義される。
【0058】
粒子押圧試験前及び後に、D10を測定した。押圧前から50MPa下での押圧後のD10の変化を以下のように計算した。
【0059】
【0060】
PD測定前及び後にD10を測定した。207MPa下での押圧前から押圧後までのD10の変化を以下のように計算した。
【0061】
【0062】
D10の変化は、粉末への損傷、したがって、50MPa又は207MPaの圧力下で押圧された後の粉末の強度を定量化するための基準として使用することができる。
【0063】
F)誘導結合プラズマ分析
粉末試料の組成は、Agillent ICP 720-ESを使用する誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)法を使用して決定した。三角フラスコ中で、2gの粉末試料を10mLの高純度塩酸に溶解させた。前駆体を完全に溶解させるため、フラスコをガラスでカバーし、ホットプレート上で加熱した。室温まで冷却した後、溶液を100mLのメスフラスコに移し、蒸留(DI)水でフラスコを3~4回すすいだ。その後、メスフラスコの100mLの標線までDI水を充填し、続いて、完全に均質化させた。5mLピペットで溶液を5mL取り出し、2回目の希釈のために50mLメスフラスコに移した。メスフラスコの50mLの標線まで10%塩酸を充填した後、均質化させた。最後に、50mL溶液をICP測定のために使用した。
【0064】
コバルト酸化物前駆体の式Co1-yAyOx中のx及びyは、ICP分析における粉末試料の総重量に対する元素Co及び元素Aの重量比によって得られる。例えば、コバルト酸化物前駆体の総重量に対して71.32%のCo及び2.06%のMnを有するコバルト酸化物前駆体は、Co0.97Mn0.03O4/3(x=4/3及びy=0.03)の一般式を有する。
【0065】
G)コインセル試験
G1)コインセルの調製
正極の調製に関しては、重量比90:5:5の配合で、電気化学的活性物質、コンダクタ(スーパーP、Timcal)、及びバインダ(KF#9305、Kureha)を溶媒(NMP、三菱)中に含有するスラリーを、高速ホモジェナイザにより調製した。均質化したスラリーを、ギャップが230μmであるドクターブレードコータを使用して、アルミニウム箔の片面上に塗り広げた。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃において乾燥させて、次いで、カレンダ加工工具を使用して押圧した。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去した。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てた。セパレータ(Celgard 2320)を、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に配置した。EC/DMC(1:2)中1MのLiPF6を、電解質として使用して、セパレータと電極との間に滴下した。次いで、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止した。
【0066】
G2)試験方法1
従来の「一定カットオフ電圧(constant cut-off voltage)」試験である本発明のコインセル試験は、表1に示すスケジュールに従った。
各セルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を使用して、25℃でサイクルした。コインセル試験手順は、4.50~2.75V/Li金属窓範囲における185mA/gの1C電流定義を使用した。
CQ1(mAh/g)及びDQ1(mAh/g)は、それぞれ第1のサイクルの充電及び放電容量であった。
【0067】
【0068】
G3)試験方法2
コインセル試験手順は、225mA/gの1C電流定義を使用した。この試験方法は、4.60~2.75V/Li金属窓範囲内の0.2Cにおけるサイクル寿命の評価であった。表2は、コインセル試験スケジュールを示す。
【0069】
残存容量(QR、単位%)を以下のように計算する。
【0070】
【0071】
DQ1(mAh/g)は、第1のサイクルの放電容量である。DQ50(mAh/g)は、第50のサイクルの放電容量である。
【0072】
【0073】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0074】
実施例1及び比較例1
Co0.97Mn0.03(OH)2を、コバルト-硫酸マンガン、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを混合した大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)中の共沈プロセスによって調製した。沈殿したスラリーの粒径が23μmに達したとき、沈殿プロセスを停止した。得られた水酸化コバルト原料をCEX1.1と呼ぶ。
【0075】
次いで、コバルト原料CEX1.1の一部を、炉内でN2雰囲気下で3時間400℃で焙焼して、CEX1.2を生成した。コバルト原料CEX1.1の異なる部分を、炉内で乾燥空気雰囲気下で400℃で3時間焙焼して、CEX1.3を生成した。加えて、CEX1.2を再び乾燥空気下で400℃で3時間焙焼して、EX1を生成した。CEX1.2及びCEX1.3は共に、(US’633の前駆体のような)100MPa未満の圧縮強度を有する。最後に、コバルト原料CEX1.1の一部を、炉内で乾燥空気雰囲気下で600℃で3時間焙焼して、CEX1.4を生成した。CEX1.4は、CO(OH)2を700℃及び600℃(すなわち、T℃>450℃)で加熱することによって得られるUS’807及びUS’087に開示されているコバルト前駆体に対応する。CEX1.4はまた、空気中で800℃~900℃の(すなわち、T℃>450℃での)加熱処理から得られるWO’220に開示されているコバルト前駆体と同等である。以下の表3は、前駆体の焙焼条件の概要を提供する。
【0076】
例示的なLCO生成物を生成するために、EX1及びLi2CO3を、1.02のLi対M’(M’=Co及びMn)(Li/M’)のモル比で混合した。次いで、混合物を、炉内で乾燥空気下で1085℃で15時間焼結した。焼結温度は、EX1におけるMnが強力な焼結阻害剤として作用するため、本発明に係る非ドープCo3O4を加熱処理(約940℃)するためのものよりもはるかに高かった。WO’165のEX1-P(すなわち、CEX3による)の非ドープ前駆体は、より高い焼結温度980℃で処理され、これは、Co3O4前駆体のカソード物質粉末への焼結のアップスケール加工の観点から重要なギャップである、少なくとも40℃の差を意味する。
【0077】
焼結した凝集したLCO化合物を粉砕した。その結果、Li1.02Co0.97Mn0.03O2が形成され、これはLCO1と呼ばれる。LCO2.1、LCO2.2、及びLCO2.3のLCO化合物を、EX1の代わりにコバルト前駆体として、それぞれCEX1.1、CEX1.2、及びCEX1.3を使用したことを除いて、LCO1と同じ手順によって調製した。EX1、CEX1.1、CEX1.2、CEX1.3、及びCEX1.4の分析結果を表4に示す。LCO1、LCO2.1、LCO2.2、及びLCO2.3の分析結果を表5に示す。
【0078】
比較例2
沈殿スラリーの粒径が7μmに達したときに沈殿を停止させたことを除いて、EX1に使用した同じ方法を使用して、CEX2を調製した。
EX1の代わりにCEX2をコバルト前駆体として使用したことを除いて、LCO1と同じ手順を使用して、LCO3を調製した。
CEX2及びLCO3の分析結果も、それぞれ表4及び表5に示される。
【0079】
比較例3
CEX3は、WO’165に開示されているコバルト酸化物(Co3O4)である。
【0080】
実施例2
CoCO3をコバルト原料として使用したことを除いて、EX1に使用した同じ方法を使用して、EX2を調製した。CoCO3は26.0μmのD50を有する。
EX2をEX1の代わりにコバルト前駆体として使用したことを除いて、LCO1と同じ手順を使用して、LCO4を調製する。更に、EX2をLCO4に変換する焼結温度は940℃である。
EX2及びLCO4の分析結果も、それぞれ表4及び表5に示される。
【0081】
【0082】
【0083】
表4に示すように、非焙焼Co0.97Mn0.03(OH)2(CEX1.1)は、最も高い圧縮強度を有した。コバルト源がN2又は乾燥空気中で400℃又は600℃で焙焼された場合、得られた粉末は、より低い粒子強度を有した。
【0084】
N2雰囲気中での焙焼の連続焙焼処理によって得られた2つのコバルト酸化物粉末試料は、その後、乾燥空気雰囲気(EX1、CEX2、及びEX2)中での焙焼が続き、焙焼された他の試験試料よりも高い粒子強度を有した。EX1粒子はCEX2粒子よりも大きかった。すなわち、EX1は18.3μmのD50を有し、CEX2は7.9μmのD50を有した。
【0085】
【0086】
EX1から製造されたLCO1は、最良の性能を有していた。具体的には、LCO1は、表5に示すように、50回目のサイクル(QR)後に高い初期放電容量及び最高残存容量を示した。
図1はまた、LCO1の優れた性能を示す。
図1は、サイクル数の関数としてのLCO1、及びLCO2.1~LCO2.3の残存容量を示すグラフであり、x軸はサイクル数であり、y軸は残存容量である。
図1は、LCO1が、多くのサイクル後に高い残存容量を有することを示す。具体的には、LCO1は、40サイクル後に最も高い残存容量を有する。
【0087】
EX1の高い粒子強度は、LCO1の優れた電池性能に寄与した。
図2Aは、EX1及びLCO1のPSD曲線の比較を提供する。図から分かるように、EX1とLCO1との間のPSD曲線の差は非常にわずかであり、EX1の高い圧縮強度は、LCO1の調製プロセス中に発生する粒子の損傷を非常に少なくできることを示している。また、表4に示すように、EX1は、コバルト原料の焙焼プロセス後であっても球状粒子の維持を示す、0.89の円形度(EX1を生成するために焙焼されたコバルト原料の円形度と非常に類似している)を有した。
【0088】
前駆体粒子の組成はまた、得られるLCO物質の電気化学的特性に影響を及ぼし得る。以下の実施例は、この点を例示する。
【0089】
図2Bは、CEX1.1及びLCO2.1のPSD曲線の比較を提供する。
図2Bに示すように、CEX1.1が比較的高い圧縮強度を有していたという事実にもかかわらず、CEX1.1及びLCO2.1の粒径分布には比較的大きな差があった。加えて、LCO2.1は、比較的低い電気化学的特性を有した。
【0090】
図3は、LCO1及びLCO2.1を製造するためにリチウム化プロセス中に使用されるトレイの概略モデルを示す。リチウム化プロセス後、LCO1及びLCO2.1粉末の例示的な試料を、トレイの「a」部分から「e」部分まで採取し、それらのLi/M’比をICP分析により分析した。
【0091】
試料のICP分析結果を
図4に示す。図から分かるように、LCO2.1試料のLi/M’比は、トレイ全体にわたって変化した(すなわち、一定ではなかった)。試料粒子は、トレイ全体にわたる平均Li/M’比に基づいて、Li/M’比が約15%変化したことを示した。粉末全体にわたるLi/M’比の変化率を約5%未満、好ましくは約3%未満に維持することが望ましい。上記のように、前駆体は(コバルト酸化物とは対照的に)水酸化コバルトであったため、リチウム化反応中に副生成物としてH
2Oを生成することにより、不均質なLi分布を生じた。Liの不均質な分布は、比較的少ないLi含有量を有するいくつかのLCO粒子をもたらし得る。より少ないLiを有するLCO粒子は、比較的低い機械的強度及び劣不十分な電気化学的特性を有するため、全体としてLCO粉末の電気化学的性能の低下につながる。対照的に、LCO1試料のLi/M’比は、トレイ全体にわたって比較的一定かつ比較的均一であった。試料用LCO1粒子は、Li/M’比がトレイ全体にわたって2%未満変化したことを示した。LCO1粉末中の比較的均質なLi分布は、良好な電気化学的性能を促進する。したがって、コバルト前駆体(水酸化物対酸化物)の組成は、得られる電極物質の性能に悪影響を及ぼした。
【0092】
表5に見られるように、7.9μmのD50を有するコバルト酸化物によって調製されたLCO3は、劣った電気化学的特性及び低い体積密度を有していた。
【0093】
940℃で非ドープのCo3O4(EX2)を使用して調製されたLCO4は、EX1からのLCO1よりも高い初期放電容量を示す。
【0094】
上記LCO1、2.1~2.3、3及び4の全ては、R-3m結晶構造を有する粒子を含む。
【0095】
条項
本発明は、以下の項によって更に定義される。
【0096】
1. 正極活物質の調製に使用するためのコバルト酸化物前駆体粉末であって、前駆体組成物が、式Co1-yAyOxを有する粒子を含み、式中、1<x≦4/3であり、0≦y≦0.05であり、好ましくは0<y≦0.05であり、Aが、Ni、Mn、Al、Mg、Ti、及びZrからなる群から少なくとも1つの元素、好ましくはMnを含み、粒子組成物が、Fd-3m結晶構造を有し、粒子が、D50≧15μm、及び少なくとも、好ましくは100MPa超、かつ最大170MPaの圧縮強度を有する、コバルト酸化物前駆体粉末。
【0097】
2. 条項1に記載のコバルト酸化物前駆体粉末から調製されたカソード活物質。
【0098】
3. 3.7g/cm3以上の押圧密度を有する、条項2に記載のカソード物質。
【0099】
4. 物質が、少なくとも192mAh/gのDQ1を有する、条項2又は3に記載のカソード活物質。
【0100】
5. 50サイクル後、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%の残存容量(QR%)を有する、条項4に記載のカソード活物質。
【0101】
6. Y>0であるか、又は、y>0かつAがMnを含む、条項5に記載のカソード活物質。
【0102】
7. 請求項1に記載のコバルト酸化物前駆体粉末を製造するための方法であって、
- コバルト塩粒子(Co(OH)2、CoHO2又はCoCO3など)を含む組成物を、乾燥不活性雰囲気中、特に乾燥窒素系雰囲気中で、少なくとも300℃~450℃以下の温度で2~5時間加熱して、中間コバルト前駆体粒子を含む組成物を形成する工程と、
- 中間前駆体粒子を含む組成物を、乾燥酸化性雰囲気中で少なくとも300℃~600℃以下の温度で2~5時間加熱して、コバルト酸化物前駆体粒子を含む粉末を形成する工程と、を含む、方法。
【0103】
8. 二次電池用リチウムコバルト酸化物系活物質粉末を製造する方法であって、
- 請求項1に記載の前駆体粉末を提供する工程と、
- Li含有前駆体粉末を提供して、Li含有前駆体粉末を、条項1に記載の前駆体粉末と混合する工程と、
- 混合物を酸素含有雰囲気中で、少なくとも900℃かつ最大1200℃の温度で5~20時間焼結することにより、リチウムコバルト酸化物系活物質粉末を得る工程と、を含む、方法。
【0104】
9. 条項1に記載の前駆体粉末及びLi含有前駆体粉末が、Li対(Co+A)のモル比>1.00で混合される、条項8に記載の方法。
【0105】
10. 条項2~6のいずれか一項に記載のリチウムコバルト酸化物系活物質粉末を製造するための方法であって、
- 条項1に記載の前駆体粉末を提供する工程と、
- Li含有前駆体粉末を提供して、Li含有前駆体粉末を、条項1に記載の前駆体粉末と混合して混合物を得る工程と、
- 混合物を酸素含有雰囲気中で、少なくとも900℃かつ最大1200℃の温度で5~20時間焼結することにより、リチウムコバルト酸化物系活物質粉末を得る工程と、を含む、方法。
【0106】
11. 条項1に記載の前駆体粉末及びLi含有前駆体粉末が、Li対(Co+A)のモル比>1.00で混合される、条項10に記載の方法。