(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】アダプター分子、当該アダプター分子と生体分子とが結合した生体分子-アダプター分子複合体、生体分子分析装置及び生体分子分析方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20230606BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20230606BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2021546100
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2019036512
(87)【国際公開番号】W WO2021053745
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 満
(72)【発明者】
【氏名】柳 至
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503517(JP,A)
【文献】米国特許第09017937(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0035260(US,A1)
【文献】特表2015-505458(JP,A)
【文献】特開2010-230614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12M
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノポアを有する薄膜を介して対向した第1の液槽と第2の液槽のうち、第1の液槽内に;解析対象の生体分子と、当該生体分子の少なくとも一方末端に対して直接的又は間接的に結合した一本鎖のヌクレオチドからなるアダプター分子であって、分子モータが結合しうる分子モータ結合部と、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部との組を複数有するアダプター分子とを含む生体分子-アダプター分子複合体と;アダプター分子における分子モータ結合部に結合しうる分子モータと;アダプター分子におけるプライマー結合部にハイブリダイズしうるプライマーと;を含む電解質溶液が充填され、第2の液槽内に電解質溶液が充填された状態で、第1の液槽と第2の液槽の間に電圧を印加して、第1の液槽側を負又はグランド電位とし第2の液槽を正電位とする電位勾配を形成する工程と、
上記第2の液槽と上記第1の液槽との間を上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを介して移動する際に生ずる信号を測定する工程とを備え、
上記信号を測定する工程では、ナノポアに最も近い上記分子モータが、上記プライマー結合部にハイブリダイズしたプライマーから相補鎖を合成することで、上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第2の液槽から上記第1の液槽に向かって移動させ上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを通過する際に生ずる信号を測定し、その後、相補鎖を有する上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第1の液槽から上記第2の液槽に向かって移動させることで当該相補鎖を引き剥がし、再びナノポアに最も近い上記分子モータが相補鎖を合成することで、上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第2の液槽から上記第1の液槽に向かって移動させ信号を測定することを繰り返すことを特徴とする、生体分子の分析方法。
【請求項2】
上記アダプター分子は、上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする請求項1記載の生体分子の分析方法。
【請求項3】
上記アダプター分子は、上記生体分子と直接的又は間接的に結合する端部とは反対側の端部に、上記生体分子の解析装置におけるナノポアの径より大径の脱落防止部を備えることを特徴とする請求項1記載の生体分子の分析方法。
【請求項4】
上記アダプター分子における上記生体分子と直接的又は間接的に結合する端部とは反対側の端部は、一本鎖核酸領域からなり、
上記脱落防止部は、上記一本鎖核酸領域に結合可能な分子又は上記一本鎖核酸領域内における相補領域で形成されるヘアピン構造であることを特徴とする請求項3記載の生体分子の分析方法。
【請求項5】
上記アダプター分子は、
互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、
当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結した、末端が3’末端であって上記分子モータ結合部及び上記プライマー結合部の複数組を有する一本鎖核酸領域とを備えることを特徴とする請求項1記載の生体分子の分析方法。
【請求項6】
上記アダプター分子は、
互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、
当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域とを備え、
上記分子モータ結合部及び上記プライマー結合部の複数組は、これら一対の一本鎖核酸領域のうち3’末端を有する一本鎖核酸領域内にあることを特徴とする請求項1記載の生体分子の分析方法。
【請求項7】
上記アダプター分子は、上記一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域は、立体構造形成領域を有することを特徴とする請求項6記載の生体分子の分析方法。
【請求項8】
上記アダプター分子は、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対して相補的な塩基配列を有する立体構造形成抑制オリゴマーを備えることを特徴とする請求項7記載の生体分子の分析方法。
【請求項9】
上記立体構造形成抑制オリゴマーは、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対してハイブリダイズしており、立体構造形成抑制オリゴマーがハイブリダイズした部分より末端側が一本鎖であることを特徴とする請求項8記載の生体分子の分析方法。
【請求項10】
上記一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域は、分子モータとの結合力が上記生体分子よりも低い分子モータ離脱誘導部を有することを特徴とする請求項6記載の生体分子の分析方法。
【請求項11】
ナノポアを有する薄膜を介して対向した第1の液槽と第2の液槽のうち、第1の液槽内に;解析対象の生体分子と、当該生体分子の少なくとも一方末端に対して直接的又は間接的に結合したアダプター分子であって、分子モータとの結合力が上記生体分子よりも低い分子モータ離脱誘導部を有するアダプター分子とを含む生体分子-アダプター分子複合体と;当該生体分子-アダプター分子複合体における分子モータ結合部に結合しうる分子モータと;当該生体分子-アダプター分子複合体におけるプライマー結合部にハイブリダイズしうるプライマーと;を含む電解質溶液が充填され、第2の液槽内に電解質溶液が充填された状態で、第1の液槽と第2の液槽の間に電圧を印加して、第1の液槽側を負又はグランド電位とし第2の液槽を正電位とする電位勾配を形成する工程と、
上記第2の液槽と上記第1の液槽との間を上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを介して移動する際に生ずる信号を測定する工程とを備え、
上記信号を測定する工程では、上記分子モータが、上記プライマー結合部にハイブリダイズしたプライマーから相補鎖を合成することで、上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第2の液槽から上記第1の液槽に向かって移動させ、上記生体分子-アダプター分子複合体における分子モータ離脱誘導部で当該分子モータが乖離することを特徴とする、生体分子の分析方法。
【請求項12】
上記アダプター分子における上記分子モータ離脱誘導部は、ホスホジエステル結合を有しない炭素鎖又は脱塩基配列部であることを特徴とする請求項11記載の生体分子の分析方法。
【請求項13】
上記アダプター分子は、上記分子モータ離脱誘導部よりも5’末端側に一本鎖のヌクレオチドからなる立体構造形成領域を更に有することを特徴とする請求項11記載の生体分子の分析方法。
【請求項14】
上記アダプター分子は、
互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、
当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結した、末端が5’末端であって上記分子モータ離脱誘導部を有する一本鎖核酸領域とを備えることを特徴とする請求項11記載の生体分子の分析方法。
【請求項15】
上記アダプター分子は、
互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、
当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域とを備え、
上記分子モータ離脱誘導部は、これら一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域内にあることを特徴とする請求項11記載の生体分子の分析方法。
【請求項16】
上記アダプター分子は、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対して相補的な塩基配列を有する立体構造形成抑制オリゴマーを備えることを特徴とする請求項13記載の生体分子の分析方法。
【請求項17】
上記立体構造形成抑制オリゴマーは、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対してハイブリダイズしており、立体構造形成抑制オリゴマーがハイブリダイズした部分より末端側が一本鎖であることを特徴とする請求項16記載の生体分子の分析方法。
【請求項18】
上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、上記生体分子の解析装置におけるナノポアの径より大径の脱落防止部を備えることを特徴とする請求項15記載の生体分子の分析方法。
【請求項19】
上記脱落防止部は、上記一本鎖核酸領域に結合可能な分子又は上記一本鎖核酸領域内における相補領域で形成されるヘアピン構造であることを特徴とする請求項18記載の生体分子の分析方法。
【請求項20】
上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、分子モータが結合しうる分子モータ結合部を備えることを特徴とする請求項15記載の生体分子の分析方法。
【請求項21】
上記分子モータ結合部を備える一本鎖核酸領域は、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部を備えることを特徴とする請求項20記載の生体分子の分析方法。
【請求項22】
上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする請求項21記載の生体分子の分析方法。
【請求項23】
上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、分子モータが結合しうる分子モータ結合部と、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部との組を複数有することを特徴とする請求項15記載の生体分子の分析方法。
【請求項24】
上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする請求項23記載の生体分子の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸等の生体分子の分析に使用されるアダプター分子、当該アダプター分子を結合した生体分子-アダプター分子複合体、生体分子分析装置及び生体分子分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や核酸分子などの生体分子は、それぞれアミノ酸やヌクレオチドといったモノマーが連結した構造を有する。これら生体分子のタンパク質については、エドマン法を自動化した装置(ペプチドシークエンサ又はプロテインシークエンサと呼称される)を用いてモノマー配列が決定される。核酸分子のモノマー配列(塩基配列)を決定する装置としては、サンガー法やマキサム・ギルバート法を適用した第1世代シーケンサ、パイロシークエンス法や、ブリッジPCR法と1塩基合成(sequence-by-synthesis、SBS)技術を組み合わせた方法を用いた第2世代シーケンサが知られている。
【0003】
一方、次世代DNAシーケンサの分野では、伸長反応や蛍光ラベルを行うことなく、DNAの塩基配列を電気的に直接計測する方法が注目されている。具体的には、試薬を用いることなくDNA鎖を直接計測し、塩基配列を決定する、いわゆるナノポアDNAシーケング方式に関する研究開発が活発に進められている。
【0004】
このナノポアDNAシーケンシング方式では、薄膜に形成された細孔(以下「ナノポア」という。)をDNA鎖が通過することで生じる封鎖電流を計測することにより、塩基配列を計測する。すなわち、DNA鎖に含まれる個々の塩基種の違いにより封鎖電流が変化するので、封鎖電流量を計測することで塩基種を順次同定することができる。この方式では、上述した各種シーケンサと異なり、DNA鎖を鋳型とした酵素による増幅反応や蛍光体等の標識物を付加する必要もない。このため、ナノポアDNAシーケンシング方式は、従来の各種シーケンサと比較して高スループットで、低ランニングコストであり、且つ長塩基のDNA解読が可能となる。
【0005】
このナノポアDNAシーケンシング方式は、一般的に、電解質溶液が満たされている第1及び第2の液槽と、その第1及び第2の液槽を仕切り、ナノポアを有する薄膜と、第1及び第2の液槽に設けられる第1及び第2の電極とを備えた生体分子分析用デバイスにより実現される。生体分子分析用デバイスは、アレイデバイスとして構成することもできる。アレイデバイスは、薄膜によって仕切られる液室の組を複数個備えるデバイスをいう。例えば、第1の液槽を共通槽とし、第2の液槽を複数個の個別槽とすることができる。この場合、共通槽と個別槽の各々に電極を配置する。
【0006】
この構成において、第1の液槽と第2の液槽の間に電圧が印加され、且つナノポアにはナノポア径に応じたイオン電流が流れる。また、ナノポアには、印加した電圧に応じた電位勾配が形成される。生体分子を第1の液槽に導入すると、拡散現象及びこの発生した電位勾配に応じて、生体分子がナノポアを介し第2の液槽へ送られる。イオン電流の大きさは一次近似としてナノポアの断面積に比例する。DNAがナノポアを通過すると、DNAがナノポアを封鎖し、有効断面積が減少するため、イオン電流が減少する。この電流を封鎖電流と呼ぶ。封鎖電流の大きさを元に、DNAの1本鎖と2本鎖との差異や、塩基の種類を判別する。
【0007】
また、その他にも、ナノポアの内側面等にプローブ電極対を対向して設け、電極間に電圧をかけることにより、ナノポアを通過する際のDNAとプローブ電極間のトンネル電流を測定し、トンネル電流の大きさから塩基の種類を判別する方式も知られている。
【0008】
ナノポアDNAシーケンシング方式の課題の1つとして、ナノポアを通過するDNAの搬送制御が挙げられる。DNA鎖に含まれる個々の塩基種の違いを封鎖電流量で計測するには、計測時の電流ノイズ及びDNA分子の揺らぎの時定数から、DNAのナノポア通過速度を1塩基辺り100μs以上にする必要があると考えられている。しかし、DNAのナノポア通過速度は通常1塩基当たり1μs以下と速く、各塩基由来の封鎖電流を十分に計測することが困難である。
【0009】
搬送制御法の一つとして、DNAポリメラーゼが相補鎖合成反応をする際や、ヘリカーゼが二本鎖DNAを解く際に鋳型となる一本鎖DNAを送り制御する力を利用する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。DNAポリメラーゼは、鋳型となるDNAに結合して、鋳型DNAに相補結合したプライマーの端部から相補鎖合成反応を行う。第1の液槽において、DNAポリメラーゼがナノポア近傍で相補鎖合成反応を行うことで、ナノポアを介して鋳型DNAを第2の液槽に搬送する。このDNAポリメラーゼやヘリカーゼを分子モータと呼ぶ。
【0010】
また、特許文献1に記載されるように、ナノポアを介して第1の液槽と第2の液槽の間を、解析対象の一本鎖DNAを往復運動させることで計測精度を向上させることができる。すなわち、解析対象の一本鎖DNAを第1の液槽と第2の液槽の間で往復運動させて、複数回計測することで単回測定において生じたエラーを補正することができる。このとき、特許文献1に記載されるように、解析対象の一本鎖DNAにおける一方端部に第一ストッパ分子(ナノポア径より大)を結合することで、当該一本鎖DNAの他方端部からナノポアを介して第2の液槽に一本鎖DNAを移動させ、第2の液槽内で一本鎖DNAの他方端部に対して第二ストッパ分子(ナノポア径より大)を結合させる。これにより、一本鎖DNAの一方端部が第1の液槽内に留まり、他方端部が第2の液槽内に留まることができ、往復運動に際して一本鎖DNAがナノポアから抜け落ちることが防止できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Gerald M Cherf et al.、Nat.Biotechnol.30,No.4,p.344-348、2012
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、第1の液槽及び第2の液槽間に、ナノポアを介して生体分子を往復運動させることで、読み取り精度の向上が図られている。ところが、ナノポアを介した往復運動、すなわち生体分子の搬送制御は技術的に非常に困難であり、生体分子をより簡便かつ確実に往復運動させる技術が求められていた。
【0014】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、ナノポアを介して解析対象の生体分子をより簡便かつ確実に往復運動させることができるアダプター分子、当該アダプター分子と生体分子とが結合した生体分子-アダプター分子複合体、生体分子分析装置及び生体分子分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
【0016】
(1)解析対象の生体分子に対して直接的又は間接的に結合することができ、一本鎖のヌクレオチドからなる立体構造形成領域を有するアダプター分子。
【0017】
(2)互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結した、上記立体構造形成領域を有する一本鎖核酸領域とを備えることを特徴とする(1)記載のアダプター分子。
【0018】
(3)互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域とを備え、上記立体構造形成領域は、これら一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域内にあることを特徴とする(1)記載のアダプター分子。
【0019】
(4)上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対して相補的な塩基配列を有する立体構造形成抑制オリゴマーを備えることを特徴とする(1)記載のアダプター分子。
【0020】
(5)上記立体構造形成抑制オリゴマーは、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対してハイブリダイズしており、立体構造形成抑制オリゴマーがハイブリダイズした部分より末端側が一本鎖であることを特徴とする(4)記載のアダプター分子。
【0021】
(6)上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、上記生体分子の解析装置におけるナノポアの径より大径の脱落防止部を備えることを特徴とする(3)記載のアダプター分子。
【0022】
(7)上記脱落防止部は、上記一本鎖核酸領域に結合可能な分子又は上記一本鎖核酸領域内における相補領域で形成されるヘアピン構造であることを特徴とする(6)記載のアダプター分子。
【0023】
(8)上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、分子モータが結合しうる分子モータ結合部を備えることを特徴とする(3)記載のアダプター分子。
【0024】
(9)上記分子モータ結合部を備える一本鎖核酸領域は、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部を備えることを特徴とする(8)記載のアダプター分子。
【0025】
(10)上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする(9)記載のアダプター分子。
【0026】
(11)解析対象の生体分子に対して直接的又は間接的に結合することができ、一本鎖のヌクレオチドからなるアダプター分子であって、分子モータが結合しうる分子モータ結合部と、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部との組を複数有するアダプター分子。
【0027】
(12)上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする(11)記載のアダプター分子。
【0028】
(13)上記生体分子と直接的又は間接的に結合する端部とは反対側の端部に、上記生体分子の解析装置におけるナノポアの径より大径の脱落防止部を備えることを特徴とする(11)記載のアダプター分子。
【0029】
(14)上記脱落防止部は、上記一本鎖核酸領域に結合可能な分子又は上記一本鎖核酸領域内における相補領域で形成されるヘアピン構造であることを特徴とする(13)記載のアダプター分子。
【0030】
(15)互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結した、末端が3’末端であって上記分子モータ結合部及び上記プライマー結合部の複数組を有する一本鎖核酸領域とを備えることを特徴とする(11)記載のアダプター分子。
【0031】
(16)互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域とを備え、上記分子モータ結合部及び上記プライマー結合部の複数組は、これら一対の一本鎖核酸領域のうち3’末端を有する一本鎖核酸領域内にあることを特徴とする(11)記載のアダプター分子。
【0032】
(17)上記一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域は、立体構造形成領域を有することを特徴とする(16)記載のアダプター分子。
【0033】
(18)上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対して相補的な塩基配列を有する立体構造形成抑制オリゴマーを備えることを特徴とする(17)記載のアダプター分子。
【0034】
(19)上記立体構造形成抑制オリゴマーは、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対してハイブリダイズしており、立体構造形成抑制オリゴマーがハイブリダイズした部分より末端側が一本鎖であることを特徴とする(18)記載のアダプター分子。
【0035】
(20)上記一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域は、分子モータとの結合力が上記生体分子よりも低い分子モータ離脱誘導部を有することを特徴とする(16)記載のアダプター分子。
【0036】
(21)解析対象の生体分子に対して直接的又は間接的に結合することができ、分子モータとの結合力が上記生体分子よりも低い分子モータ離脱誘導部を有するアダプター分子。
【0037】
(22)上記分子モータ離脱誘導部は、ホスホジエステル結合を有しない炭素鎖又は脱塩基配列部であることを特徴とする(21)記載のアダプター分子。
【0038】
(23)上記分子モータ離脱誘導部よりも5’末端側に一本鎖のヌクレオチドからなる立体構造形成領域を更に有することを特徴とする(21)記載のアダプター分子。
【0039】
(24)互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、
当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結した、末端が5’末端であって上記分子モータ離脱誘導部を有する一本鎖核酸領域とを備えることを特徴とする(21)記載のアダプター分子。
【0040】
(25)互いに相補的な塩基配列からなり、上記解析対象の生体分子に直接的又は間接的に結合する一方端部を有する二本鎖核酸領域と、当該二本鎖核酸領域における上記一方端部と異なる他方端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域とを備え、上記分子モータ離脱誘導部は、これら一対の一本鎖核酸領域のうち5’末端を有する一本鎖核酸領域内にあることを特徴とする(21)記載のアダプター分子。
【0041】
(26)上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対して相補的な塩基配列を有する立体構造形成抑制オリゴマーを備えることを特徴とする(23)記載のアダプター分子。
【0042】
(27)上記立体構造形成抑制オリゴマーは、上記立体構造形成領域の少なくとも一部に対してハイブリダイズしており、立体構造形成抑制オリゴマーがハイブリダイズした部分より末端側が一本鎖であることを特徴とする(26)記載のアダプター分子。
【0043】
(28)上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、上記生体分子の解析装置におけるナノポアの径より大径の脱落防止部を備えることを特徴とする(25)記載のアダプター分子。
【0044】
(29)上記脱落防止部は、上記一本鎖核酸領域に結合可能な分子又は上記一本鎖核酸領域内における相補領域で形成されるヘアピン構造であることを特徴とする(28)記載のアダプター分子。
【0045】
(30)上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、分子モータが結合しうる分子モータ結合部を備えることを特徴とする(25)記載のアダプター分子。
【0046】
(31)上記分子モータ結合部を備える一本鎖核酸領域は、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部を備えることを特徴とする(30)記載のアダプター分子。
【0047】
(32)上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする(31)記載のアダプター分子。
【0048】
(33)上記一対の一本鎖核酸領域のうち、端部が3’末端である一本鎖核酸領域は、分子モータが結合しうる分子モータ結合部と、当該分子モータ結合部より3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部との組を複数有することを特徴とする(25)記載のアダプター分子。
【0049】
(34)上記分子モータ結合部と上記プライマー結合部との間に、上記分子モータが結合できないスペーサを有することを特徴とする(33)記載のアダプター分子。
【0050】
(35)解析対象の生体分子と、当該生体分子の少なくとも一方末端に対して直接的又は間接的に結合した(1)乃至(10)いずれかに記載のアダプター分子とを含む生体分子-アダプター分子複合体。
【0051】
(36)解析対象の生体分子と、当該生体分子の少なくとも一方末端に対して直接的又は間接的に結合した(11)乃至(20)いずれかに記載のアダプター分子とを含む生体分子-アダプター分子複合体。
【0052】
(37)解析対象の生体分子と、当該生体分子の少なくとも一方末端に対して直接的又は間接的に結合した(21)乃至(34)いずれかに記載のアダプター分子とを含む生体分子-アダプター分子複合体。
【0053】
(38)ナノポアを有する薄膜と、上記薄膜を介して対向した第1の液槽及び第2の液槽と、上記第1の液槽に上記(35)、(36)又は(37)記載の生体分子-アダプター分子複合体を含む電解質溶液が充填されるとともに、上記第2の液槽に電解質溶液が充填された状態で第1の液槽と第2の液槽の間に電圧を印加する電圧源と、上記第1の液槽と上記第2の液槽との間に所望の電位勾配を形成するよう上記電圧源を制御する制御装置とを備える生体分析装置。
【0054】
(39)ナノポアを有する薄膜を介して対向した第1の液槽と第2の液槽のうち、第1の液槽内に上記(35)記載の生体分子-アダプター分子複合体を含む電解質溶液が充填され、第2の液槽内に電解質溶液が充填された状態で、第1の液槽と第2の液槽の間に電圧を印加して、第1の液槽側を負又はグランド電位とし第2の液槽を正電位とする電位勾配を形成する工程と、上記第2の液槽内において上記アダプター分子の立体構造形成領域が立体構造を形成する工程と、上記第2の液槽と上記第1の液槽との間を上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを介して移動する際に生ずる信号を測定する工程とを備え、上記電位勾配を形成する工程では、生体分子-アダプター分子複合体における立体構造形成領域が上記ナノポアを介して上記第2の液槽内に導入され、電位勾配により上記生体分子-アダプター分子複合体が上記第1の液槽から上記第2の液槽に向かって移動することを特徴とする、生体分子の分析方法。
【0055】
(40)ナノポアを有する薄膜を介して対向した第1の液槽と第2の液槽のうち、第1の液槽内に上記(36)記載の生体分子-アダプター分子複合体と、アダプター分子における分子モータ結合部に結合しうる分子モータと、アダプター分子におけるプライマー結合部にハイブリダイズしうるプライマーとを含む電解質溶液が充填され、第2の液槽内に電解質溶液が充填された状態で、第1の液槽と第2の液槽の間に電圧を印加して、第1の液槽側を負又はグランド電位とし第2の液槽を正電位とする電位勾配を形成する工程と、上記第2の液槽と上記第1の液槽との間を上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを介して移動する際に生ずる信号を測定する工程とを備え、上記信号を測定する工程では、ナノポアに最も近い上記分子モータが、上記プライマー結合部にハイブリダイズしたプライマーから相補鎖を合成することで、上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第2の液槽から上記第1の液槽に向かって移動させ上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを通過する際に生ずる信号を測定し、その後、相補鎖を有する上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第1の液槽から上記第2の液槽に向かって移動させることで当該相補鎖を引き剥がし、再びナノポアに最も近い上記分子モータが相補鎖を合成することで、上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第2の液槽から上記第1の液槽に向かって移動させ信号を測定することを繰り返すことを特徴とする、生体分子の分析方法。
【0056】
(41)ナノポアを有する薄膜を介して対向した第1の液槽と第2の液槽のうち、第1の液槽内に上記(37)記載の生体分子-アダプター分子複合体と、当該生体分子-アダプター分子複合体における分子モータ結合部に結合しうる分子モータと、当該生体分子-アダプター分子複合体におけるプライマー結合部にハイブリダイズしうるプライマーとを含む電解質溶液が充填され、第2の液槽内に電解質溶液が充填された状態で、第1の液槽と第2の液槽の間に電圧を印加して、第1の液槽側を負又はグランド電位とし第2の液槽を正電位とする電位勾配を形成する工程と、上記第2の液槽と上記第1の液槽との間を上記生体分子-アダプター分子複合体が上記ナノポアを介して移動する際に生ずる信号を測定する工程とを備え、上記信号を測定する工程では、上記分子モータが、上記プライマー結合部にハイブリダイズしたプライマーから相補鎖を合成することで、上記生体分子-アダプター分子複合体を上記第2の液槽から上記第1の液槽に向かって移動させ、上記生体分子-アダプター分子複合体における分子モータ離脱誘導部で当該分子モータが乖離することを特徴とする、生体分子の分析方法。
【発明の効果】
【0057】
本発明に係るアダプター分子、当該アダプター分子と生体分子とが結合した生体分子-アダプター分子複合体、生体分子分析装置及び生体分子分析方法によれば、特徴的なアダプター分子を使用することで、生体分子-アダプター分子をナノポア内に確実に往復運動させることができる。これにより、生体分子の正確な分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】本発明を適用したアダプター分子を利用する生体分子分析装置を概略的に示す構成図である。
【
図2】本発明を適用したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体の構成を示す構成図である。
【
図3】
図2に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図4】
図3に示す工程の続きであって、本発明を適用したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図5】
図4に示す工程の続きであって、本発明を適用したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図6】本発明を適用したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分子モータを用いて分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図7】
図6に示す工程の続きであって、本発明を適用したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分子モータを用いて分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図8】
図7に示す工程の続きであって、本発明を適用したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分子モータを用いて分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図9】本発明を適用した他のアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体の構成を示す構成図である。
【
図10】
図9に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図11】
図10に示す工程の続きであって、本発明を適用した他のアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図12A】
図11に示す工程の続きであって、本発明を適用した他のアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図12B】
図12Aに示した状態から生体分子-アダプター分子複合体を反対方向に移動させた状態を模式的に示す構成図である。
【
図13】本発明を適用した更に他のアダプター分子の構成を示す構成図である。
【
図14A】
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図14B】
図14Aに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15A】
図14Bに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15B】
図15Aに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15C】
図15Bに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15D】
図15Cに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15E】
図15Dに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15F】
図15Eに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図15G】
図15Fに示す工程の続きであって、
図13に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図16】本発明を適用した他のアダプター分子を利用する生体分子分析装置を概略的に示す構成図である。
【
図17】本発明を適用した他のアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体の構成を示す構成図である。
【
図18】
図17に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図19】
図18に示す工程の続きであって、
図17に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図20】
図19に示す工程の続きであって、
図17に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図21】
図20に示す工程の続きであって、
図17に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図22】本発明を適用した更に他のアダプター分子の構成を示す構成図である。
【
図23】
図22に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図24】
図23に示す工程の続きであって、
図22に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図25】
図24に示す工程の続きであって、
図22に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図26】
図25に示す工程の続きであって、
図22に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図27】
図26に示す工程の続きであって、
図22に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図28】本発明を適用した更に他のアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図29】
図28に示す工程の続きであって、生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図30】
図29に示す工程の続きであって、生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図31】
図30に示す工程の続きであって、生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図32】
図31に示す工程の続きであって、生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図33】
図32に示す工程の続きであって、生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図34】
図33に示す工程の続きであって、生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図35】本発明を適用した更に他のアダプター分子を利用する生体分子分析装置を概略的に示す構成図である。
【
図36】本発明を適用した更に他のアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体の構成を示す構成図である。
【
図37】
図36に示した生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図38】
図37に示す工程の続きであって、
図36に示した生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図39】
図38に示す工程の続きであって、
図36に示した生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図40】本発明を適用した更に他のアダプター分子の構成を示す構成図である。
【
図41】
図40に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図42】
図41に示す工程の続きであって、
図40に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図43】
図42に示す工程の続きであって、
図40に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図44】
図43に示す工程の続きであって、
図40に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図45】
図44に示す工程の続きであって、
図40に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図46】本発明を適用した更に他のアダプター分子の構成を示す構成図である。
【
図47】
図46に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図48】
図47に示す工程の続きであって、
図46に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図49】
図48に示す工程の続きであって、
図46に示したアダプター分子を含む生体分子-アダプター分子複合体を分析する工程を模式的に示す構成図である。
【
図50】本発明を適用した更に他のアダプター分子の構成を示す構成図である。
【
図51】参考例1で測定した経過時間と封鎖電流との関係を示す特性図である。
【
図52】テロメア構造を有しないアダプターと、テロメア構造を有するアダプターを計測した際のイオン電流変化を示す特性図である。
【
図53】テロメア構造を有する一本鎖を計測溶液に融解させてナノポアの封鎖電流を計測した結果を示す特性図である。
【
図54】テロメア構造を有するアダプター分子を生体分子にライゲーションし、他の末端にストレプトアビジンを有するサンプルを用いて封鎖電流を測定した結果を示す特性図である。
【
図55】テロメア構造を有するアダプター分子を生体分子にライゲーションし、他の末端にストレプトアビジンを有する他のサンプルを用いて封鎖電流を測定した結果を示す特性図である。
【
図56a】分子モータの存在下で分子モータ離脱誘導部を有する鋳型(SAなし)を用いてナノポア通過信号を観察した結果を示す特性図である。
【
図56b】分子モータの存在下で分子モータ離脱誘導部を有する鋳型(SA有り)を用いてナノポア通過信号を観察した結果を示す特性図である。
【
図57】隣り合うプライマー結合部位の間隔を代えたアダプター分子について分子モータの存在下/非存在下で電気泳動を行った結果を示す写真である。
【
図58】プライマー結合部及び分子モータ結合部を複数組有するアダプター分子を用いて、分子モータ存在下でナノポア通過信号を観察した結果を示す特性図であり、(a)は計測された封鎖信号の代表図であり、(b)はDotplot解析の結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明に係るアダプター分子、生体分子-アダプター分子複合体、生体分子の分析装置及び分析方法を、図面を参照して詳細に説明する。たたし、これら図面は、本発明の原理に則った具体的な実施形態を示すものであって、それらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0060】
なお、以下、全ての実施形態において説明する生体分子分析装置は、いわゆる封鎖電流方式で生体分子の分析に用いられる、当該分野で公知の生体分子分析装置を適用することができる。従来公知の生体分子分析装置としては、例えば、米国特許第5795782号、“Scientific Reports 4, 5000, 2014, Akahori, et al.”、“Nanotechnology 25(27):275501, 2014, Yanagi et al.”、“Scientific Reports, 5, 14656, 2015, Goto et al.”、“Scientific Reports 5, 16640, 2015”等に開示されている装置を挙げることができる。
【0061】
[第1-1の実施形態]
図1に、アダプター分子と解析対象の生体分子とが直接的又は間接的に連結されてなる生体分子-アダプター分子複合体を分析する生体分子分析装置100の一構成例を示す。
図1に示した生体分子分析装置100は、封鎖電流方式にてイオン電流を測定する生体分子分析用デバイスであり、ナノポア101が形成された基板102と、基板102を挟んで基板102と接するように配置され、その内部に電解質溶液103が満たされた一対の液槽104(第1の液槽104A及び第2の液槽104B)と、第1の液槽104A及び第2の液槽104Bの各々に接する一対の電極105(第1の電極105A及び第2の電極105B)とを備える。測定時には、一対の電極105の間に電圧源107から所定の電圧が印加され、一対の電極105の間に電流が流れる。電極105の間に流れる電流の大きさは、電流計106により計測され、その計測値はコンピュータ108により分析される。
【0062】
電解質溶液103には、例えばKCl、NaCl、LiCl、CsClが用いられる。電解質溶液103は、第1の液槽104A及び第2の液槽104Bにおいて同じ組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。なお、第1の液槽104Aには、詳細を後述する生体分子-アダプター分子複合体等を含む電解質溶液103が充填されている。また、第1の液槽104A及び第2の液槽104B内の電解質溶液103には、生体分子の安定化のため、緩衝剤を混在させることも可能である。緩衝剤としては、TrisやEDTAやPBSなどが用いられる。第1の電極105A及び第2の電極105Bは、例えばAg、AgCl、Ptといった導電性を有する材料から作製することができる。
【0063】
第1の液槽104A内に充填された電解質溶液103には、解析対象の生体分子109に対して第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111が結合してなる生体分子-アダプター分子複合体112が含まれる。第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111は、解析対象の生体分子109の端部に連結することができる、ヌクレオチドや疑似ヌクレオチド、ペプチド核酸等がから構成される核酸分子である。第1のアダプター分子110は、解析対象の生体分子109の一方端部に連結され、第2の液槽104B内において立体構造を形成する。第2のアダプター分子111は、生体分子109と連結される端部とは反対側の端部に脱落防止部113を備えている。
【0064】
ここで、第1のアダプター分子110が第2の液槽104B内で形成する立体構造とは、特に限定されないが、ナノポア101の直径より大きな外形を有する立体構造を意味する。立体構造の具体例としては、特に限定されないが、ヘアピン構造、グアニン四重鎖(G-quadruplex若しくはG4、Gカルテット)構造(例えばテロメア構造)、DNAナノボール構造、DNAオリガミ構造等を挙げることができる。また、当該立体構造は、一分子内でハイブリダイゼーションや、キレート構造を形成してできる構造でもよい。さらに、詳細を後述するが、当該立体構造にはナノポア101近傍において計測電圧が印加されるため、立体構造を維持する耐圧が計測電圧以上とすることが好ましい。ただし、立体構造を維持する耐圧が計測電圧未満であっても、タンパク質等を結合させることで耐圧を強化することも可能である。
【0065】
図1に示したような一本鎖DNAからなる生体分子-アダプター分子複合体112は、解析対象の二本鎖DNAを一本鎖に変性した後、それぞれ一本鎖の第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111を連結することで調製することができる。或いは、
図2(A)に示すように、解析対象の二本鎖DNAの一方端部に第1のアダプター分子110を連結するとともに他方端部に第2のアダプター分子111を連結し、その後、二本鎖DNAを変性することで一本鎖DNAからなる生体分子-アダプター分子複合体112を調製しても良い(
図2(C))。このとき、第1のアダプター分子110は、上述した立体構造を形成する立体構造形成領域114を分子中に有している。すなわち、立体構造形成領域114は、上述したような、ヘアピン構造、グアニン四重鎖構造、DNAナノボール構造或いはDNAオリガミ構造といった立体構造を形成するのに必要な塩基配列を含む領域である。
【0066】
また、
図2(C)に示すように、立体構造形成領域114は、第2の液槽104B内に導入され立体構造を形成するまでの間に立体構造を形成することを防止するための立体構造形成抑制オリゴマー115を有することが好ましい。立体構造形成抑制オリゴマー115は、立体構造形成領域114の少なくとも一部にハイブリダイズすることで、立体構造形成領域114が立体構造を形成することを防止できる。立体構造形成抑制オリゴマー115は、立体構造形成領域114全体に対してハイブリダイズできるヌクレオチド鎖でも良いし、立体構造形成領域114の一部であって立体構造の形成を防止するに足る部分にハイブリダイズできるヌクレオチド鎖であってもよい。例えば立体構造形成領域114がG四重鎖構造である場合、四重鎖を構成するグアニン残基に対してハイブリダイズできるヌクレオチド鎖を立体構造形成抑制オリゴマー115とすることができる。立体構造形成抑制オリゴマー115の塩基長としては、10数個~表個程度とすることができ、15~60塩基長とすることがより好ましい。
【0067】
また、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111は、
図2(B)に示すように、少なくとも、解析対象の二本鎖DNAと連結する端部にそれぞれ二本鎖領域116及び117を備える構成であっても良い。なお、図示しないが、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111は、全体を二本鎖としてもよい。これらいずれの場合でも、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111を解析対象の二本鎖DNAに連結した後、一本鎖に変性することで、一本鎖DNAからなる生体分子-アダプター分子複合体112を調製することができる(
図2(C))。
【0068】
図2(B)には示していないが、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111における二本鎖領域116及び117は、生体分子109と連結する端部が3’突出末端(例えば、dT突出末端)とすることが好ましい。当該端部を3’dT突出末端とすることで、アダプター分子110と生体分子109とを連結する際に、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111のヘテロダイマーやホモダイマーの形成を防止することができる。
【0069】
さらにまた、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111において、二本鎖領域116及び117の長さ及び塩基配列は、特に限定されず、任意の長さ及び任意の塩基配列とすることができる。例えば、二本鎖領域116及び117の長さとしては、5~100塩基長とすることができ、10~80塩基長とすることができ、15~60塩基長とすることができ、20~40塩基長とすることができる。
【0070】
また、図示しないが、第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111と生体分子109とは間接的に連結しても良い。間接的に連結するとは、所定の塩基長の核酸断片を介して第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111と生体分子109とを連結すること、生体分子109の種類に応じて導入される官能基を介して第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111と生体分子109とを連結することを含む意味である。
【0071】
なお、解析対象の生体分子109が二本鎖DNA断片である場合、二本鎖DNA断片の一方の鎖を基準とし、基準とした鎖における5’末端に第1のアダプター分子110を結合し、当該鎖における3’末端に第2のアダプター分子111を結合する。ただし、これは逆でもよく、当該鎖における3’末端に第1のアダプター分子110を結合し、当該鎖における5’末端に第2のアダプター分子111を結合してもよい。
【0072】
ここで、第2のアダプター分子111における脱落防止部113とは、第1の液槽104Aに存在する一本鎖の生体分子-アダプター分子複合体112がナノポア101を介して第2の液槽104Bに抜け落ちるのを防止する機能を有する構成を意味する。したがって、脱落防止部113として使用可能な分子としては、例えば、アビジン、ストレプトアビジンやDigoxigein(DIG)に対する抗DIG抗体とビーズとの複合体等を使用することができる。
【0073】
また、脱落防止部113は、ナノポア101の大きさ(直径)よりも十分大きいものとすることが好ましい。例えば、ナノポア101の径に対する脱落防止部113の大きさとしては、生体分子109の進行を止めることができる大きさであればよいが、例えば1.2~50倍程度とすることが望ましい。より詳細には、生体分子109として一本鎖DNAを測定する場合、その直径が大凡1.5nmであるため、ナノポア101の直径として1.5nm~2.5nm程度とすれば、ストレプトアビジン(径は大凡5nm)を脱落防止部113として使用することができる。なお、ストレプトアビジンを末端に結合させる際には、当該末端にビオチンを結合させておく。末端のビオチン化は市販のキットを使用することができる。また、ストレプトアビジンとしては、特に限定されないが、例えば、ビオチンとの結合部位を1箇所となるように変異を導入した変異型ストレプトアビジンでもよい。
【0074】
基板102は、基材120と、基材120の一主面に形成された薄膜121とから構成されている。ナノポア101は、薄膜121に形成されている。また、基板203は、図示しないが、絶縁層を有してもよい。基材120は、電気的絶縁体の材料、例えば無機材料及び有機材料(高分子材料を含む)から形成することができる。基材120を構成する電気的絶縁体材料の例としては、シリコン(ケイ素)、ケイ素化合物、ガラス、石英、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ケイ素化合物としては、窒化ケイ素、酸化ケイ素、炭化ケイ素等、酸窒化ケイ素が挙げられる。特に、基材120は、これらの任意の材料から作製することができるが、例えばケイ素又はケイ素化合物であってよい。なお、ナノポア101は、中心に細孔を有するタンパク質が埋め込まれた両親媒性分子層からなる脂質二重層(バイオポア)であってもよい。
【0075】
基板102のサイズ及び厚さは、ナノポア101を設けることができるものであれば特に限定されるものではない。基板102は、当技術分野で公知の方法により作製することが可能で、あるいは市販品として入手することも可能である。例えば、基板102は、フォトリソグラフィ又は電子線リソグラフィ、及びエッチング、レーザブレーション、射出成形、鋳造、分子線エピタキシー、化学蒸着(CVD)、誘電破壊、電子線若しくは収束イオンビーム等の技術を用いて作製することができる。なお、基板102は、表面への標的外の分子の吸着を避けるために、コーティングしてもよい。
【0076】
基板102は、少なくとも1つのナノポア101を有する。ナノポア101は、具体的には薄膜121に設けられるが、場合により、薄膜121及び基材120に設けてもよい。ここで、「ナノポア」及び「ポア」とは、ナノメートル(nm)サイズ(すなわち、1nm以上、1μm未満の直径を有する貫通孔であり、基板102を貫通して第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとを連通する孔である。
【0077】
基板102は、ナノポア101を設けるための薄膜121を有することが好ましい。すなわち、ナノサイズの孔を形成するのに適した材料及び厚さの薄膜121を基板120上に形成することによって、ナノポア101を簡便かつ効率的に基板102に設けることができる。ナノポア101形成の容易性から、薄膜121の材料は、例えば酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸窒化ケイ素(SiON)、金属酸化物、金属ケイ酸塩、二硫化モリブデン(MoS2)、グラフェン等が好ましい。薄膜121の厚さは、1Å(オングストローム)~200nm、好ましくは1Å~100nm、より好ましくは1Å~50nm、例として約5nmである。また、薄膜121(及び場合によっては基板102全体)は、実質的に透明であってもよい。ここで「実質的に透明」とは、外部光をおよそ50%以上、好ましくは80%以上透過できることを意味する。また薄膜は、単層であっても複層であってもよい。
【0078】
なお、薄膜121上には、絶縁層を設けることも好ましい。絶縁層の厚みは好ましくは5nm~50nmである。絶縁層には任意の絶縁体材料を使用できるが、例えばケイ素又はケイ素化合物(窒化ケイ素、酸化ケイ素等)を使用することが好ましい。
【0079】
ナノポア101のサイズは、分析対象の生体高分子の種類によって適切なサイズを選択することができる。ナノポアは、均一な直径を有していてもよいが、部位により異なる直径を有してもよい。基板102の薄膜121に設けるナノポアは、最小直径部、すなわちナノポア101の有する最も小さい直径が、直径100nm以下、例えば0.9nm~100nm、好ましくは0.9nm~50nm、例えば0.9nm~10nmであり、具体的には1nm以上5nm以下、3nm以上5nm以下等であることが好ましい。なお、ナノポア101は、基材120に形成された1μm以上の直径を有するポアと連結していてもよい。
【0080】
また、解析対象の生体分子が一本鎖の核酸(DNA)である場合には、一本鎖DNAの直径が大凡1.4nmであることから、ナノポア101の直径としては1.4nm~10nm程度であることが好ましく、1.4nm~2.5nm程度であることがより好ましく、具体的にはおおよそ約1.6nmとすることができる。解析対象の生体分子が二本鎖の核酸(DNA)である場合には、二本鎖DNAの直径が大凡2.6nmであることから、ナノポア101の直径としては3nm~10nm程度であることが好ましく、3nm~5nm程度であることがより好ましい。さらに、ナノポア101の直径は、解析対象の生体高分子(例えばタンパク質、ポリペプチド、糖鎖等)の外径寸法に応じて、適宜設定することができる。
【0081】
ナノポア101の深さ(長さ)は、薄膜121又は基板102全体の厚さを調整することにより調整することができる。ナノポア101の深さは、解析対象の生体分子を構成するモノマー単位の長さと揃えることが好ましい。例えば、解析対象の生体分子として核酸を選択する場合には、ナノポア101の深さは、塩基1個程度の大きさ、例えば約0.3nm程度とすることが好ましい。一方で、ナノポアの深さは、生体分子を構成するモノマー単位の2倍以上、3倍以上、5倍以上の大きさとすることができる。例えば、生体分子が核酸から構成されている場合には、ナノポアの深さは、塩基3個以上の大きさ、例えば約1nm以上であっても解析できる。これにより、ナノポアのロバスト性を維持しつつ、高精度な解析が可能となる。また、ナノポアの形状は、基本的には円形であるが、楕円形や多角形とすることも可能である。
【0082】
さらに、ナノポア101は、基板102に少なくとも1つ設けることができ、複数のナノポア101を設ける場合に、規則的に配列してもよいしランダムに配置しても良い。ナノポア101は、当技術分野で公知の方法により、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)の電子ビームを照射することにより、ナノリソグラフィー技術又はイオンビームリソグラフィ技術等を使用することにより形成することができる。
【0083】
なお、
図1に例示した装置は、一対の液槽104Aと104Bとの間に1つのナノポア101を有しているが、これはあくまでも一例であり、一対の液槽104Aと104Bとの間に複数のナノポア101を有する構成とすることもできる。また、他の例としては、基板102に複数個のナノポア101を形成し、複数個のナノポア101の各々の領域を隔壁で分離して構成されるアレイデバイスとすることも可能である。当該アレイデバイスにおいては、第1の液槽104Aを共通槽とし、第2の液槽104Bを複数個の個別槽とすることができる。この場合、共通槽と個別槽のそれぞれに電極を配置することができる。
【0084】
ナノポアを有する薄膜を複数枚備えるアレイ型の装置構成の場合には、ナノポアを有する薄膜を規則的に配列することが好ましい。複数の薄膜を配置する間隔は、使用する電極、電気測定系の能力に応じて、0.1μm~10μm、好ましくは0.5μm~4μmとすることができる。
【0085】
なお、薄膜中にナノポアを形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば透過型電子顕微鏡などによる電子ビーム照射や電圧印加による絶縁破壊などを用いることができる。例えば“Itaru Yanagi et al., Sci. Rep. 4, 5000 (2014)”に記載されている方法を使用することができる。
【0086】
一方、第1の電極105A及び第2の電極105Bとしては、特に限定されず、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の白金族、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル等;グラファイト、例えばグラフェン(単層又は複層のいずれでもよい)、タングステン、タンタル等から作製することができる。
【0087】
以上のように構成された生体分子分析装置では、第1の液槽104A内に生体分子-アダプター分子複合体112を含む電解質溶液103が充填された状態で、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位又はグランド電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成すると、
図3に示すように、第1のアダプター110の末端(5’末端)がナノポア101方向に移動する(
図3中矢印Aの方向)。そして、
図4に示すように、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電位勾配により、生体分子-アダプター分子複合体112はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する(
図4中矢印Aの方向)。この
図3の状態から
図4の状態へと推移する際、立体構造形成領域114にハイブリダイズしていた立体構造形成抑制オリゴマー115がナノポア101を通過することができずに引き剥がされる(Unziped)。その結果、第2の液槽104B内に導入された立体構造形成領域114が立体構造(
図4の例ではG四重鎖構造)を形成する。
【0088】
また、生体分子分析装置は、第1のアダプター110に立体構造を形成した生体分子-アダプター分子複合体112を、ナノポア101を介して第1の液槽104Aから第2の液槽104Bへ移動させるが、電圧勾配を逆にすることで、
図5に示したように、同生体分子-アダプター分子複合体112を、ナノポア101を介して第2の液槽104Bから第1の液槽104Aへ移動させることができる(
図5中矢印Bの方向)。すなわち、
図4に示したように、第1の液槽104Aを負電位又はグランド電位とし、第2の液槽104Bを正電位として形成された電圧勾配によって図中矢印[A]で示す方向に生体分子-アダプター分子複合体112を移動させることができる。逆に、
図5に示したように、第2の液槽104Bを負電位又はグランド電位とし、第1の液槽104Aを正電位として形成された電圧勾配によって図中矢印[B]で示す方向に生体分子-アダプター分子複合体112を移動させることができる。このように、生体分子分析装置は、第1のアダプター110に立体構造を形成した生体分子-アダプター分子複合体112を第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間で往復運動させることができる。このとき、第1のアダプター110に立体構造が形成されているため、
図5中矢印Bの方向に生体分子-アダプター分子複合体112が移動したときに、当該立体構造により生体分子-アダプター分子複合体112がナノポア101から脱落することを防止できる。
【0089】
なお、第1の液槽104A及び第2の液槽104Bの間に形成する電圧勾配とは、負に帯電した核酸分子を移動させるため、いずれか一方を正電位とすれば良く、他方は負電位又はグランド電位とすれば良い。以下の説明において、第1の液槽104A及び第2の液槽104Bのいずれか一方を正電位とし、他方を負電位とすると記載する場合、負電位とする側はグランド電位としても良いことは勿論である。
【0090】
また、
図1の生体分子分析装置は、測定部106にて一対の電極105A及び105Bの間に流れるイオン電流(封鎖信号)を測定し、コンピュータ108が測定されたイオン電流(封鎖信号)の値に基づいて生体分子-アダプター分子複合体112の配列情報を取得ことができる。なお、
図1には示していないが、ナノポア101内に電極を設けることでトンネル電流を取得してトンネル電流に基づいて配列情報を取得すること、又はトランジスタ特性変化を検出することでも生体分子109の配列情報を得ることが可能である。
【0091】
ここで、より詳細に塩基配列情報の決定方法を説明する。塩基にはATGCの4種類があるが、これらの塩基がナノポア101を通過するとその種類ごとに固有のイオン電流(封鎖電流)の値が観測される。そこで、予め、既知の配列を用いてナノポア101通過時のイオン電流を計測しておき、当該既知の配列に対応した電流値をコンピュータ108におけるメモリに記憶させておく。そして、解析対象の生体-アダプター分子複合体111を構成する塩基が順次、ナノポア101を通過する際に測定された電流値を、メモリに格納した既知の配列に対応した電流値と比較することで、解析対象の生体-アダプター分子複合体111を構成する塩基の種類を順次決定することができる。ここで、予めイオン電流を計測しておく既知の配列とは、ナノポア101の深さ(長さ)に相当する塩基数(例えば、2塩基の配列、3塩基の配列、又は5塩基の配列)とすることができる。
【0092】
また、生体分子109の塩基配列決定方法としては、生体分子109に蛍光体を標識し、ナノポア101近傍で励起させ、その発光蛍光を検出しても良い。さらに、参考文献1(NANO LETTERS(2005),Vol.5,pp.421-424)に記載されている、ハイブリダイゼーションベースでの生体分子109の塩基配列を決定する方法を適用することもできる。
【0093】
上述した塩基配列情報の決定方法によって、
図4に示した状態から
図5に示した状態となるように、生体分子-アダプター分子複合体112を、ナノポア101を介して第1の液槽104Aから第2の液槽104Bへ移動させる際に生体分子109の塩基配列情報を取得することができる。また、生体分子-アダプター分子複合体112を、ナノポア101を介して第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間を往復運動する際に生体分子109の塩基配列情報を取得することができる。
【0094】
なお、生体分子-アダプター分子複合体111を往復運動させる際、
図4の矢印[A]方向に移動するときのみ生体分子109の塩基配列情報を取得しても良いし、
図5の矢印[B]方向に移動するときのみ生体分子109の塩基配列情報を取得しても良いし、
図4の矢印[A]方向及び
図5の矢印[B]方向の両方で生体分子109の塩基配列情報を取得しても良い。
図4の矢印[A]方向に移動するときは、生体分子109の5’末端から3’末端に向かって塩基配列情報を決定し、
図5の矢印[B]方向に移動するときは、生体分子109の3’末端から5’末端に向かって塩基配列情報を決定することとなる。いずれの場合でも、生体分子109について複数セットの塩基配列情報を取得することができ、塩基配列情報の正確性を向上させることができる。言い換えると、生体分子-アダプター分子複合体111を往復運動させることで、生体分子109の塩基配列を複数回読み取ることができ、読み取り精度を向上させることができる。
【0095】
また、上述した往復運動における印加電圧の切替えは、例えば、一定時間で自動的に切り替える方法を挙げることができる。この場合、コンピュータ108に電圧切替えのタイミングをプログラムしておき、当該プログラムに従って電圧源107を制御することで、当該タイミングで印加電圧を切替え、上述したような往復運動を行うことができる。
【0096】
或いは、上述した往復運動に際して読み取った塩基配列情報を用いて印加電圧の切替えを行うこともできる。例えば、第1のアダプター分子110に特徴的な配列や、塩基(AGCT)とは異なる封鎖電流を生じさせる領域を組み入れ、この特徴的な配列や当該領域の信号を読み取った段階で電圧を切り替える方法が挙げられる。塩基とは異なる封鎖電流を生じさせる領域とは、例えば、ペプチド核酸や人工核酸等の疑似核酸を含む領域を挙げることができる。上記特徴的な配列や、塩基とは異なる封鎖電流を生じさせる領域の信号を読み取ることで、生体分子109について塩基配列の読取りが終わり、ナノポア101に生体分子-アダプター分子複合体112の端部が近接していることを認識できる。よって、このタイミングで印加電圧を切替えることで、生体分子-アダプター分子複合体112の端部がナノポア101に接する前に、生体分子-アダプター分子複合体112を反対方向に移動させることができる。特に、第2の液槽104B内において、生体分子-アダプター分子複合体112の末端近傍に立体構造が形成されているため、生体分子-アダプター分子複合体112が
図5の矢印B方向に移動する際にナノポア101から脱落することを確実に防止できる。これにより、上述した往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列を複数回読み取ることができ、読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0097】
以上のように、第1のアダプター分子110を使用することで、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に形成した電圧勾配によって、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間を生体分子-アダプター分子複合体112を確実に往復運動させることができる。なお、上述の例では、生体分子109として二本鎖核酸(DNAやRNA)を例示したが、生体分子109としてはタンパク質(ペプチド鎖)や糖鎖であっても同様の原理によって分析対象とすることができる。
【0098】
なお、以上の説明では、
図3~5に示したように、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に形成した電圧勾配を制御することによって、生体分子-アダプター分子複合体112を往復運動させたが、生体分子-アダプター分子複合体112の移動制御はこの方式に限定されるものではない。いわゆる分子モータを用いることで生体分子-アダプター分子複合体112を第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間で移動させることができる。ここで、分子モータとは、生体分子-アダプター分子複合体112上を移動することができるタンパク質分子を意味する。このような機能を有する分子モータとしては、特に限定されないが、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、リボソーム及びヘリカーゼを挙げることができる。特に、本実施の形態では、分子モータとして、一本鎖DNAを鋳型として相補鎖を5’末端から3’末端方向に合成するDNAポリメラーゼを使用することが好ましい。
【0099】
具体的には、
図6に示すように、生体分子-アダプター分子複合体112を含む第1の液槽104A内に分子モータ130及びプライマー131を存在させると、第2のアダプター分子111にプライマー131がハイブリダイズするとともに分子モータ130がその下流に結合する。言い換えると、プライマー131は、第2のアダプター分子111にハイブリダイズするように設計する。ここで、プライマー131は、特に限定されないが、例えば5~40塩基長、好ましくは15~35塩基長、より好ましくは18~25塩基長の一本鎖ヌクレオチドとすることができる。
【0100】
次に、
図7に示すように、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に形成した電圧勾配によって、生体分子-アダプター分子複合体112が矢印Aの方向に移動し、分子モータ130がナノポア101に到達する。ここで分子モータ130の寸法Dmはナノポア101の直径Dnよりも大きいため(Dm>Dn)、分子モータ130がナノポア101の入口(第1の液槽104A側)に到達すると、ナノポア101を通過して出口側(第2の液槽104B側)に進むことはできず、ナノポア101の入口に止まる。
【0101】
そして、
図8に示すように、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、生体分子-アダプター分子複合体112が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、生体分子-アダプター分子複合体112が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、生体分子-アダプター分子複合体112は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向(
図8中矢印Bの方向)に搬送される。このとき、上述したように、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体112の塩基配列情報を取得することができる。
【0102】
このように分子モータ130を用いて生体分子-アダプター分子複合体112の搬送を制御することで、ナノポア通過速度を1塩基辺り100μs以上にすることができ、各塩基由来の封鎖電流を十分に計測することが可能となる。
【0103】
このように、
図6~8に示すように、分子モータ130を利用して生体分子-アダプター分子複合体112の搬送を制御する方法においても、生体分子-アダプター分子複合体112の端部近傍に立体構造が形成されているため、生体分子-アダプター分子複合体112が
図8の矢印B方向に移動する際にナノポア101から脱落することを確実に防止できる。
【0104】
[第1-2の実施形態]
本実施の形態では、
図1等に示した第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111と異なる、
図9に示すようなアダプター分子200を説明する。なお、
図9に例示的に示すアダプター分子200及びこれを用いた生体分子解析装置において、
図1等に示した第1のアダプター分子110及び第2のアダプター分子111と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0105】
図9に示したアダプター分子200は、生体分子109に直接的に結合する二本鎖核酸領域201と、二本鎖核酸領域201における生体分子109と結合した端部と異なる端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域202A及び202Bとを備える。なお、一本鎖核酸領域202Aは3’末端に結合した脱落防止部113を有し、一本鎖核酸領域202Bは5’末端を有する。また、
図9に示したアダプター分子200は、一本鎖核酸領域202Bに立体構造形成領域114を有している。さらに、
図9に示したアダプター分子200は、立体構造形成領域114にハイブリダイズした立体構造形成抑制オリゴマー115を有することが好ましい。
図9に示した例では、脱落防止部113が3’末端を有する一本鎖核酸領域202Aの端部に配置され、一本鎖核酸領域202Bに立体構造形成領域114が配置されている。しかし、脱落防止部113は、一本鎖核酸領域202Aの端部ではなく、5’末端を有する一本鎖核酸領域202Bの端部に配置され、一本鎖核酸領域202Aに立体構造形成領域114を配置してもよい。
【0106】
なお、第1の液槽104A内に充填された電解質溶液103に生体分子109、アダプター分子200及びDNAリガーゼを添加することで、第1の液槽104A内に充填された電解質溶液103内で生体分子-アダプター分子複合体203を形成することができる。
【0107】
また、図示しないが、アダプター分子200と生体分子109とは間接的に連結しても良い。間接的に連結するとは、所定の塩基長の核酸断片を介してアダプター分子200と生体分子109とを連結すること、生体分子109の種類に応じて導入される官能基を介してアダプター分子200と生体分子109とを連結することを含む意味である。
【0108】
さらに、アダプター分子200は、二本鎖核酸領域201における生体分子109と連結する端部が3’突出末端(例えば、dT突出末端)とすることが好ましい。当該端部を3’dT突出末端とすることで、アダプター分子200と生体分子109とを連結する際にアダプター分子200のダイマー形成を防止することができる。
【0109】
さらにまた、アダプター分子200において、二本鎖核酸領域201の長さ及び塩基配列は、特に限定されず、任意の長さ及び任意の塩基配列とすることができる。例えば、二本鎖核酸領域201の長さとしては、5~100塩基長とすることができ、10~80塩基長とすることができ、15~60塩基長とすることができ、20~40塩基長とすることができる。
【0110】
さらにまた、アダプター分子200において、一本鎖核酸領域202A及び202Bの長さ及び塩基配列は特に限定されず、任意の長さ及び任意の塩基配列とすることができる。なお、一本鎖核酸領域202A及び202Bは、互いに同じ長さであっても良いし、異なる長さであっても良い。一本鎖核酸領域202A及び202Bは、互いに共通する塩基配列を有していても良いし、互いに非相補的であれば全く異なる塩基配列を有していても良い。非相補的であるとは、一本鎖核酸領域202A及び202Bの塩基配列全体において相補的な配列の割合が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下であることを意味する。
【0111】
一本鎖核酸領域202A及び202Bの長さとしては、例えば、10~200塩基長とすることができ、20~150塩基長とすることができ、30~100塩基長とすることができ、50~80塩基長とすることができる。また、立体構造形成領域114を有する一本鎖核酸領域202Bは、立体構造形成領域114よりも5’末端側の塩基配列(例えば20塩基長)を90%以上がチミンからなる塩基配列、好ましくは100%チミンからなる塩基配列とすることができる。立体構造形成領域114よりも5’末端側の塩基配列におけるチミンの割合をこの範囲とすることで、高次構造の形成を防止できナノポア101に導入しやすい形状とすることができる。
【0112】
以上のように構成された、
図9に示したアダプター分子200を有する生体分子-アダプター分子複合体203は、
図1に示した生体分子分析装置により分析することができる。先ず、
図10に示すように、第1の液槽104A内に、生体分子-アダプター分子複合体203を含む電解質溶液103が充填された状態で、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成すると、脱落防止部113を有しない一本鎖核酸領域202Bの端部がナノポア101内に臨む。そして、さらに電圧勾配により、
図11に示すように、生体分子-アダプター分子複合体203はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。この
図10の状態から
図11の状態へと推移する際、生体分子-アダプター分子複合体203における二本鎖の核酸(アダプター分子200における二本鎖核酸領域201と生体分子109、立体構造形成領域114と立体構造形成抑制オリゴマー115)が引き剥がされる(Unziped)。
【0113】
このように、アダプター分子200を使用することによって、二本鎖の核酸である生体分子109に対して煩雑な変性処理(例えば熱処理)を行うことなく、ナノポア101を通過しうる一本鎖の核酸とすることができる。すなわち、アダプター分子202を使用することによって二本鎖の核酸を容易に引き剥がすことができる。そして、立体構造形成領域114を有する一本鎖核酸領域202Bが第2の液槽104Bに導入されると、立体構造形成領域114において立体構造が形成される。
【0114】
また、生体分子分析装置は、
図11に示したように、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体203を、ナノポア101を介して第1の液槽104Aから第2の液槽104Bへ移動させるが、電圧勾配を逆にすることで、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体203を、ナノポア101を介して第2の液槽104Bから第1の液槽104Aへ移動させることができる。すなわち、
図12Aに示したように、第1の液槽104Aを負電位とし、第2の液槽104Bを正電位として形成された電圧勾配によって図中矢印[A]で示す方向に生体分子-アダプター分子複合体203を移動させることができる。逆に、
図12Bに示したように、第2の液槽104Bを負電位とし、第1の液槽104Aを正電位として形成された電圧勾配によって図中矢印[B]で示す方向に生体分子-アダプター分子複合体203を移動させることができる。このように、生体分子分析装置は、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電圧勾配を制御することで、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体203を第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間で往復運動させることができる。
【0115】
特に、第2の液槽104B内において、生体分子-アダプター分子複合体203の末端近傍に立体構造が形成されているため、生体分子-アダプター分子複合体203が
図12Bの矢印B方向に移動する際にナノポア101から脱落することを確実に防止できる。これにより、上述した往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列を複数回読み取ることができ、読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0116】
[第1-3の実施形態]
本実施の形態では、
図1及び
図9等に示した第1のアダプター分子110、第2のアダプター分子111及びアダプター分子200と異なる、
図13に示すようなアダプター分子300を説明する。なお、
図13に例示的に示すアダプター分子300及びこれを用いた生体分子解析装置において、
図1及び
図9等に示した第1のアダプター分子110、第2のアダプター分子111及びアダプター分子200と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0117】
図13に示すアダプター分子300は、生体分子109に結合する二本鎖核酸領域201と、二本鎖核酸領域201における生体分子109と結合する端部と異なる端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域301A及び301Bと、一本鎖核酸領域301Aの末端に配された脱落防止部113とを備える。なお、一本鎖核酸領域301Aは3’末端を有し、一本鎖核酸領域301Bは5’末端を有する。また、
図13に示したアダプター分子300は、一本鎖核酸領域301Bに立体構造形成領域114を有している。さらに、
図13に示したアダプター分子300は、立体構造形成領域114にハイブリダイズした立体構造形成抑制オリゴマー115を有することが好ましい。
【0118】
図13に示すアダプター分子300における一本鎖核酸領域301Aは、分子モータが結合しうる分子モータ結合部302を有している。また、
図13に示すアダプター分子300における一本鎖核酸領域301Aは、分子モータ結合部302の3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部303を有している。プライマー結合部303は、使用するプライマーの塩基配列と相補的な配列を有していればよく、具体的な塩基配列に限定されない。ここで、プライマーとは、特に限定されないが、例えば5~40塩基長、好ましくは15~35塩基長、より好ましくは18~25塩基長の一本鎖ヌクレオチドとすることができる。したがって、プライマー結合部303は、10~40塩基長、好ましくは15~35塩基長、より好ましくは18~25塩基長の領域であってプライマーの塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる領域とすることができる。
【0119】
さらに、
図13に示すアダプター分子300における一本鎖核酸領域301Aは、分子モータ結合部302とプライマー結合部303との間にスペーサ304を有している。ここでスペーサ304とは、分子モータが結合できない領域、すなわちAGCTからなる塩基を含まない領域を意味する。スペーサ304としては、特に限定されないが、塩基を含まない、直鎖状連結体とすることができる。特にスペーサ304の長さは、少なくとも2塩基に相当する長さ、すなわち約0.6×2nm以上とすることが好ましい。換言すると、スペーサ304により、分子モータ結合部302とプライマー結合部303との間を2塩基以上(約0.6×2nm以上)離間させることができる。スペーサ304を構成する材料としては、Integrated DNA Technologies社が提供するC3 Spcer、PC spacer、Spacer9、Spacer18及びdSpacer等のDNA鎖中に配置できる材料を挙げることができる。その他にも、スペーサ304としては直鎖状炭素鎖、直鎖状アミノ酸、直鎖脂肪酸及び直鎖状糖鎖等を使用することができる。
【0120】
さらにまた、
図13に示すアダプター分子300は、二本鎖核酸領域201における所定の領域を標識配列(図示せず)とすることができる。標識配列とは、バーコード配列やインデックス配列とも呼称され、アダプター分子300に固有の塩基配列を意味する。例えば、標識配列のみが相違する複数のアダプター分子300を用意しておくことで、標識配列に基づいて使用したアダプター分子300の種類を特定することができる。
【0121】
以上のように構成されたアダプター分子300を用いた生体分子109の分析方法を、
図14A及びB並びに
図15A~Gを用いて説明する。
【0122】
先ず、生体分子109の両端部にそれぞれアダプター分子300を結合した生体分子-アダプター分子複合体305を準備する。第1の液槽104A内に、当該生体分子-アダプター分子複合体305、分子モータ130、プライマー131及び立体構造形成抑制オリゴマー115を含む電解質溶液を充填する。これにより、
図14Aに示すように、アダプター分子300における分子モータ結合部302に分子モータ130が結合し、プライマー結合部303にプライマー131がハイブリダイズし、一本鎖核酸領域301Bの立体構造形成領域114に立体構造形成抑制オリゴマー115がハイブリダイズする。
【0123】
次に、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、一本鎖核酸領域301Bがナノポア101方向に移動し、立体構造形成抑制オリゴマー115がハイブリダイズしていない5’末端領域がナノポア101内に導入される。そして、
図14Bに示すように、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電位勾配により、生体分子-アダプター分子複合体305はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。このとき、生体分子-アダプター分子複合体305における二本鎖の核酸(アダプター分子300における二本鎖核酸領域201と生体分子109、立体構造形成抑制オリゴマー115と立体構造形成領域114)が引き剥がされる(Unziped)。
【0124】
このように、アダプター分子300を使用した場合でも、二本鎖の核酸である生体分子109に対して煩雑な変性処理(例えば熱処理)を行うことなく、ナノポア101を通過しうる一本鎖の核酸とすることができる。すなわち、アダプター分子300を使用した場合でも二本鎖の核酸を容易に引き剥がすことができる。なお、
図14A及びBに示した状態では、プライマー131と分子モータ130とがスペーサ304の長さ離間しているため、プライマー131の3’末端を起点とした、分子モータ130による相補鎖合成反応は開始されない。そして、立体構造形成領域114を有する一本鎖核酸領域301Bが第2の液槽104Bに導入されると、立体構造形成領域114において立体構造が形成される。
【0125】
そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、
図15Aに示すように、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305がナノポア101を通過し、その後、分子モータ130がナノポア101に到達する。一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305は負電荷を帯びているため、さらに下流方向に進み、スペーサ304を中心に形状変化を起こす。すると、分子モータ130は、プライマー131の3’末端と接触し、結合する(
図15B)。これにより、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。なお、
図15A~Hにおいて白抜きの矢印は負極から正極に向かう電位勾配を意味している。
【0126】
そして、
図15Cに示すように、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向(
図15C中矢印Mの方向)に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体305の塩基配列情報を取得することができる。
【0127】
そして、
図15Dに示すように、生体分子-アダプター分子複合体305の一本鎖核酸領域301Bに形成された立体構造がナノポア101に到達すると、分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止する。分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止した段階で、第2の液槽104B内をより強い正電位とする。その結果、
図15Eに示すように、生体分子-アダプター分子複合体305が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する(
図15E中矢印Mの方向)。このとき、分子モータ130によって合成された生体分子-アダプター分子複合体305の相補鎖306が生体分子-アダプター分子複合体305から引き剥がされる(Unziped)とともに、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体305から乖離する。
【0128】
なお、第2の液槽104B内をより強い正電位とするタイミングは、一定時間で自動的に切り替える方法や、読み取った塩基配列情報を用いて切り替える方法とすることもできる。あるいは、立体構造がナノポア101に近接すると封鎖電流の減少が計測できるため、封鎖電流の減少を検知した段階で第2の液槽104B内をより強い正電位としてもよい。これらいずれの方法でも、一本鎖核酸領域301Bに立体構造を形成させることで、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305全体がナノポア101を通過することを防止することができる。
【0129】
そして、次に、
図15Fに示すように、第1の電極105A及び第2の電極105Bに印加する電圧を反転し、第1の液槽104Aを正電位とし第2の液槽104Bを負電位とする電位勾配を形成する。これにより、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体305を、ナノポア101を介して第2の液槽104Bから第1の液槽104A方向へ移動させることができる。
【0130】
その後、
図15Gに示すように、第1の液槽104Aに充填された電解質溶液103に分子モータ130及びプライマー131を添加し、プライマー結合部303にプライマー131をハイブリダイズさせ、分子モータ結合部302に分子モータ130を結合させる。その後、第1の電極105A及び第2の電極105Bに印加する電圧を再び反転し、第1の液槽104Aを負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、プライマー131がハイブリダイズし、分子モータ130が結合した生体分子-アダプター分子複合体305を、第2の液槽104B方向へ移動させる。そして、
図15Bに示したように、スペーサ304を中心とした形状変化が生じ、分子モータ130にプライマー131の3’末端と接触する状態を形成する。すなわち、
図15A~Gを繰り返すことによって、分子モータ130による搬送動作毎にシーケンシングすることができる。
【0131】
なお、参考文献(Nat Nanotechnol.2010.November;5(11):798-806)によれば、分子モータ130を用いた計測(ナノポア101の直径1.4nm)では、少なくとも80mV以上の電圧をかけながら計測することが示唆されている。この場合、参考文献(Nature physics,5,347-351,2009.)によれば、大凡24pNの力がかかること示唆されている。したがって、本実施形態において、脱落防止部113は、80mVの電圧で測定する場合には24pN以上の結合力で一本鎖核酸領域301Aに結合することが好ましい。
【0132】
特に、第2の液槽104B内において、生体分子-アダプター分子複合体305の末端近傍に立体構造が形成されているため、生体分子-アダプター分子複合体305が第2の液槽104Bから第1の液槽104Aの方向に移動する際にナノポア101から脱落することを確実に防止できる。これにより、上述した往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列を複数回読み取ることができ、読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0133】
[第2-1の実施形態]
本実施形態では、第1-1~3の実施形態で示したアダプター分子と異なり、複数のプライマー結合部位および当該プライマー結合部位に対応する分子モータ結合部を有するアダプター分子について説明する。本実施形態で説明するアダプター分子等において、第1-1~3の実施形態で示したアダプター分子と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0134】
図16は、本実施形態に係るアダプター分子400を有する生体分子-アダプター分子複合体401を分析する生体分子分析装置100を示している。生体分子分析装置100は、生体分子-アダプター分子複合体401を分析する装置であって、封鎖電流方式にてイオン電流を測定する生体分子分析用デバイスである。生体分子分析装置100は、ナノポア101が形成された基板102と、基板102を挟んで基板102と接するように配置され、その内部に電解質溶液103が満たされた一対の液槽104(第1の液槽104A及び第2の液槽104B)と、第1の液槽104A及び第2の液槽104Bの各々に接する一対の電極105(第1の電極105A及び第2の電極105B)とを備える。測定時には、一対の電極105の間に電圧源107から所定の電圧が印加され、一対の電極105の間に電流が流れる。電極105の間に流れる電流の大きさは、電流計106により計測され、その計測値はコンピュータ108により分析される。
【0135】
本実施形態に示すアダプター分子400は、
図17(A)及び(B)に示すように、分子モータ130が結合しうる分子モータ結合部402と、当該分子モータ結合部402より3’末端側にプライマー131がハイブリダイズしうるプライマー結合部403との組を複数有している。なお、アダプター分子400としては、
図17(A)に示すように、一本鎖DNAからなるものでも良いし、
図17(B)に示すように、解析対象の生体分子109が二本鎖DNAである場合、当該生体分子109と連結する端部を二本鎖DNAとしても良い。また、アダプター分子400は、一方端部(例えば3’末端)に脱落防止部113を備えることが好ましい。
【0136】
ここで、分子モータ結合部402とプライマー結合部位403との組合せの数は、複数(2以上)であれば特に限定されないが、例えば2~10組とすることができ、2~5組とすることがより好ましい。これら分子モータ結合部402とプライマー結合部位403との組合せの数は、生体分子109の塩基配列を読み取る回数に対応する。このため、生体分子109の塩基配列を読み取る回数を予め決定しておき、この回数に対応するように、分子モータ結合部402とプライマー結合部位403との組合せの数を設定することもできる。
【0137】
以上のように構成されたアダプター分子400を用いた生体分子109の分析方法を、
図18~21を用いて説明する。
【0138】
先ず、生体分子109の一方端部にアダプター分子400を結合した生体分子-アダプター分子複合体401を準備する。第1の液槽104A内に、当該生体分子-アダプター分子複合体401、分子モータ130及びプライマー131を含む電解質溶液を充填する。これにより、アダプター分子400における複数の分子モータ結合部402にそれぞれ分子モータ130が結合し、複数のプライマー結合部403にそれぞれプライマー131がハイブリダイズする。
【0139】
次に、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、
図18に示すように、生体分子-アダプター分子複合体401におけるアダプター分子400が結合していない端部がナノポア101方向に移動し、ナノポア101内に導入される。そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電位勾配により、生体分子-アダプター分子複合体401はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。図示しないが、第2の液槽104Bの電解質溶液103に脱落防止部113を添加することで、第2の液槽104Bに移動した生体分子-アダプター分子複合体401の端部に脱落防止部113を付加することができる。
【0140】
そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、
図19に示すように、生体分子-アダプター分子複合体401がナノポア101を通過し、その後、生体分子109に最も近い位置にある分子モータ130がナノポア101に到達する。この状態で、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。
【0141】
そして、
図20に示すように、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、生体分子-アダプター分子複合体401が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、生体分子-アダプター分子複合体401が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、生体分子-アダプター分子複合体401は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向(
図20中矢印Bの方向)に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体401の塩基配列情報を取得することができる。
【0142】
そして、
図20に示すように、生体分子-アダプター分子複合体401における第2の液槽104Bに位置する端部に結合した脱落防止部113がナノポア101に到達すると、分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止する。分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止した段階で、第2の液槽104B内をより強い正電位とする。その結果、
図21に示すように、生体分子-アダプター分子複合体401が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する(
図21中矢印Aの方向)。このとき、分子モータ130によって合成された生体分子-アダプター分子複合体401の相補鎖404が生体分子-アダプター分子複合体401から引き剥がされる(Unziped)とともに、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体401から乖離する。
【0143】
なお、第2の液槽104B内をより強い正電位とするタイミングは、一定時間で自動的に切り替える方法や、読み取った塩基配列情報を用いて切り替える方法とすることもできる。あるいは、脱落防止部113がナノポア101に近接すると封鎖電流の減少が計測できるため、封鎖電流の減少を検知した段階で第2の液槽104B内をより強い正電位としてもよい。これらいずれの方法でも、脱落防止部113により生体分子-アダプター分子複合体401全体がナノポア101を通過し、脱落することを防止できる。
【0144】
そして、相補鎖404及び分子モータ130が引き剥がされた後、
図21に示すように、生体分子109に最も近い位置にある次の分子モータ130がナノポア101に到達する。この状態で、分子モータ130は、プライマー131の3’末端から相補鎖合成反応を開始する。すなわち、
図20に示したように、次の分子モータ130によって生体分子-アダプター分子複合体401が電位勾配に逆らって再び第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体401の塩基配列情報を再び取得することができる。
【0145】
以上のようにアダプター分子400に結合した分子モータ130及びプライマー131の組の数に応じて複数回、塩基配列情報を取得することができる。このアダプター分子400を使用した場合には、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に印加した電圧を反転させる制御や、一回の測定後に再び分子モータ130及びプライマー131を結合させる工程を行うことなく、上述した一連の処理によって生体分子109の塩基配列情報を複数回取得することができる。すなわち、このアダプター分子400を使用した場合には、非常に簡便な操作による往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列に対する読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0146】
[第2-2の実施形態]
本実施形態では、
図16等に示したアダプター分子400とは異なる、
図22に示すアダプター分子500について説明する。アダプター分子500において、第1-1~3の実施形態で示したアダプター分子やアダプター分子400と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0147】
図22に示したアダプター分子500は、生体分子109に直接的に結合する二本鎖核酸領域501と、二本鎖核酸領域501における生体分子109と結合する端部と異なる端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域502A及び502Bとを備える。また、
図22に示したアダプター分子500は、一本鎖核酸領域502Aに複数組の分子モータ結合部503及びプライマー結合部504を有している。一本鎖核酸領域502Bは5’末端を有し、一本鎖核酸領域502Aは3’末端を有している。なお、一本鎖核酸領域502Aの末端には脱落防止部113を備えることが好ましい。
【0148】
また、一本鎖核酸領域502Bの長さ及び塩基配列は、特に限定されず、任意の長さ及び任意の塩基配列とすることができる。なお、一本鎖核酸領域502A及び502Bは、互いに同じ長さであっても良いし、異なる長さであっても良い。ここで、一本鎖核酸領域502A及び502Bが互いに非相補的であるとは、一本鎖核酸領域502A及び502Bの塩基配列全体において相補的な配列の割合が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下であることを意味する。
【0149】
一本鎖核酸領域502Bの長さとしては、例えば、10~200塩基長とすることができ、20~150塩基長とすることができ、30~100塩基長とすることができ、50~80塩基長とすることができる。一例としては、特に、5’末端を有する一本鎖核酸領域502Bは、90%以上がチミンからなる塩基配列、好ましくは100%チミンからなる塩基配列とすることができる。5’末端を有する一本鎖核酸領域502Bにおけるチミンの割合をこの範囲とすることで、高次構造の形成を防止できナノポア101に導入しやすい形状を維持することができる。
【0150】
なお、第1の液槽104A内に充填された電解質溶液103に生体分子109、アダプター分子500及びDNAリガーゼを添加することで、
図23に示すように、第1の液槽104A内に充填された電解質溶液103内で生体分子-アダプター分子複合体505を形成してもよい。
【0151】
また、図示しないが、アダプター分子500と生体分子109とは間接的に連結しても良い。間接的に連結するとは、所定の塩基長の核酸断片を介してアダプター分子500と生体分子109とを連結すること、生体分子109の種類に応じて導入される官能基を介してアダプター分子500と生体分子109とを連結することを含む意味である。
【0152】
さらに、アダプター分子500は、二本鎖核酸領域501における生体分子109と連結する端部が3’突出末端(例えば、dT突出末端)とすることが好ましい。当該端部を3’dA突出末端とすることで、アダプター分子500と生体分子109とを連結する際にアダプター分子500のダイマー形成を防止することができる。
【0153】
さらにまた、アダプター分子500において、二本鎖核酸領域501の長さ及び塩基配列は、特に限定されず、任意の長さ及び任意の塩基配列とすることができる。例えば、二本鎖核酸領域501の長さとしては、5~100塩基長とすることができ、10~80塩基長とすることができ、15~60塩基長とすることができ、20~40塩基長とすることができる。
【0154】
以上のように構成された、
図22に示したアダプター分子500を有する生体分子-アダプター分子複合体505は、
図16に示した生体分子分析装置により分析することができる。先ず、図示しないが、第1の液槽104A内に、生体分子-アダプター分子複合体505、分子モータ130及びプライマー131を含む電解質溶液103が充填される。これにより、
図23に示すように、第1の液槽104A内において生体分子-アダプター分子複合体505に、複数組の分子モータ130及びプライマー131が結合する。この状態で、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成すると、一本鎖核酸領域502Bの端部(一本鎖の核酸)がナノポア101内に臨む。そして、さらに電圧勾配により、
図24に示すように、生体分子-アダプター分子複合体505はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。この
図23の状態から
図24の状態へと推移する際、生体分子-アダプター分子複合体505における二本鎖の核酸(アダプター分子500における二本鎖核酸領域501と生体分子109)が引き剥がされる(Unziped)。
【0155】
このように、アダプター分子500を使用することによって、二本鎖の核酸である生体分子109に対して煩雑な変性処理(例えば熱処理)を行うことなく、ナノポア101を通過しうる一本鎖の核酸とすることができる。すなわち、アダプター分子500を使用することによって二本鎖の核酸を容易に引き剥がすことができる。そして、
図24に示したように、第2の液槽104Bの電解質溶液103に脱落防止部113を添加することで、第2の液槽104Bに移動した生体分子-アダプター分子複合体505の端部に脱落防止部113を付加することができる。
【0156】
そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、
図24に示すように、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体505がナノポア101を通過し、その後、生体分子109に最も近い位置にある分子モータ130がナノポア101に到達する。この状態で、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。
【0157】
そして、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体505が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、生体分子-アダプター分子複合体505が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、生体分子-アダプター分子複合体505は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体505の塩基配列情報を取得することができる。
【0158】
そして、
図25に示すように、生体分子-アダプター分子複合体505における第2の液槽104Bに位置する端部に結合した脱落防止部113がナノポア101に到達すると、分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止する。分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止した段階で、第2の液槽104B内をより強い正電位とする。その結果、
図26に示すように、生体分子-アダプター分子複合体50が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する。このとき、分子モータ130によって合成された生体分子-アダプター分子複合体505の相補鎖506が生体分子-アダプター分子複合体505から引き剥がされる(Unziped)とともに、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体505から乖離する。
【0159】
なお、第2の液槽104B内をより強い正電位とするタイミングは、一定時間で自動的に切り替える方法や、読み取った塩基配列情報を用いて切り替える方法とすることもできる。あるいは、脱落防止部113がナノポア101に近接すると封鎖電流の減少が計測できるため、封鎖電流の減少を検知した段階で第2の液槽104B内をより強い正電位としてもよい。これらいずれの方法でも、脱落防止部113により生体分子-アダプター分子複合体505全体がナノポア101を通過し、脱落することを防止できる。
【0160】
そして、相補鎖506及び分子モータ130が引き剥がされた後、
図26に示すように、生体分子109に最も近い位置にある次の分子モータ130がナノポア101に到達する。この状態で、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。すなわち、
図27に示したように、次の分子モータ130によって生体分子-アダプター分子複合体505が電位勾配に逆らって再び第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体505の塩基配列情報を再び取得することができる。
【0161】
以上のようにアダプター分子500に結合した分子モータ130及びプライマー131の組の数に応じて、生体分子109の塩基配列情報を複数回取得することができる。このアダプター分子500を使用した場合には、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に印加した電圧を反転させる制御や、一回の測定後に再び分子モータ130及びプライマー131を結合させる工程を行うことなく、上述した一連の処理によって複数回、生体分子109の塩基配列情報を取得することができる。すなわち、このアダプター分子500を使用した場合には、非常に簡便な操作による往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列に対する読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0162】
[第2-3の実施形態]
本実施形態では、
図16等に示したアダプター分子400、
図22等に示したアダプター分子500とは異なるアダプター分子について説明する。本項において、第1-1~3の実施形態で示したアダプター分子やアダプター分子400又は500と同じ構成については同じ符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0163】
図28に示すようにアダプター分子600は、生体分子109に結合する二本鎖核酸領域601と、二本鎖核酸領域601における生体分子109と結合する端部と異なる端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域601A及び601Bとを備える。一本鎖核酸領域601Aは3’末端を有し、一本鎖核酸領域601Bは5’末端を有する。なお、一本鎖核酸領域601Aの3‘末端は脱落防止部113とを備えることが好ましい。また、
図28に示したアダプター分子600は、一本鎖核酸領域601Bに立体構造形成領域114を有している。さらに、
図28に示したアダプター分子600は、立体構造形成領域114にハイブリダイズした立体構造形成抑制オリゴマー115を有することが好ましい。
【0164】
図28に示すアダプター分子600における一本鎖核酸領域601Aは、分子モータ130が結合しうる複数の分子モータ結合部602を有している。また、
図28に示すアダプター分子600における一本鎖核酸領域601Aは、分子モータ結合部602の3’末端側にプライマー131がハイブリダイズしうる複数のプライマー結合部603を有している。すなわち、
図28に示したアダプター分子600は、一本鎖核酸領域601Aに複数組の分子モータ結合部602及びプライマー結合部503を有している。
【0165】
さらに、
図28に示すアダプター分子600における一本鎖核酸領域601Aは、複数組の分子モータ結合部602とプライマー結合部603との間のそれぞれにスペーサ604を有している。ここでスペーサ604とは、分子モータ130が結合できない領域、すなわちAGCTからなる塩基を含まない領域を意味する。スペーサ604としては、特に限定されないが、塩基を含まない、直鎖状連結体とすることができる。特にスペーサ604の長さは、少なくとも2塩基に相当する長さ、すなわち約0.6×2nm以上とすることが好ましい。換言すると、スペーサ604により、分子モータ結合部602とプライマー結合部603との間を2塩基以上(約0.6×2nm以上)離間させることができる。スペーサ604を構成する材料としては、Integrated DNA Technologies社が提供するC3 Spcer、PC spacer、Spacer9、Spacer18及びdSpacer等のDNA鎖中に配置できる材料を挙げることができる。その他にも、スペーサ604としては直鎖状炭素鎖、直鎖状アミノ酸、直鎖脂肪酸及び直鎖状糖鎖等を使用することができる。
【0166】
さらにまた、
図28に示すアダプター分子600は、二本鎖核酸領域601における所定の領域を標識配列(図示せず)とすることができる。標識配列とは、バーコード配列やインデックス配列とも呼称され、アダプター分子600に固有の塩基配列を意味する。例えば、標識配列のみが相違する複数のアダプター分子600を用意しておくことで、標識配列に基づいて使用したアダプター分子600の種類を特定することができる。
【0167】
なお、
図28に示したアダプター分子600は、生体分子109と連結した生体分子-アダプター分子複合体605を形成しており、分子モータ130及びプライマー131が結合した状態を示している。
図28に示した状態で、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、
図29に示すように、一本鎖核酸領域601Bがナノポア101方向に移動し、立体構造形成抑制オリゴマー115がハイブリダイズしていない5’末端領域がナノポア101内に導入される。そして、
図30に示すように、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電位勾配により、生体分子-アダプター分子複合体605はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。このとき、生体分子-アダプター分子複合体605における二本鎖の核酸(アダプター分子600における二本鎖核酸領域601と生体分子109、立体構造形成抑制オリゴマー115と立体構造形成領域114)が引き剥がされる(Unziped)。
【0168】
このように、アダプター分子600を使用した場合でも、二本鎖の核酸である生体分子109に対して煩雑な変性処理(例えば熱処理)を行うことなく、ナノポア101を通過しうる一本鎖の核酸とすることができる。すなわち、アダプター分子600を使用した場合でも二本鎖の核酸を容易に引き剥がすことができる。なお、
図30に示した状態では、プライマー131と分子モータ130とがスペーサ604の長さ離間しているため、プライマー131の3’末端からの分子モータ130による相補鎖合成反応は開始されない。そして、立体構造形成領域114を有する一本鎖核酸領域601Bが第2の液槽104Bに導入されると、立体構造形成領域114において立体構造が形成される。
【0169】
そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、
図30に示すように、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体605がナノポア101を通過し、その後、分子モータ130がナノポア101に到達する。一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体605は負電荷を帯びているため、さらに下流方向に進み、スペーサ604を中心に形状変化を起こす。すると、分子モータ130は、プライマー131の3’末端と接触し、結合する(
図31)。これにより、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。
【0170】
そして、
図32に示すように、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体605が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体605が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、生体分子-アダプター分子複合体605は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向(
図32中矢印Bの方向)に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体605の塩基配列情報を取得することができる。
【0171】
そして、
図32に示すように、生体分子-アダプター分子複合体605の一本鎖核酸領域601Bに形成された立体構造がナノポア101に到達すると、分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止する。分子モータ130による搬送動作及びシーケンシングが停止した段階で、第2の液槽104B内をより強い正電位とする。その結果、
図33に示すように、生体分子-アダプター分子複合体605が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する(
図33中矢印Aの方向)。このとき、分子モータ130によって合成された生体分子-アダプター分子複合体605の相補鎖606が生体分子-アダプター分子複合体605から引き剥がされる(Unziped)とともに、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体605から乖離する。
【0172】
なお、第2の液槽104B内をより強い正電位とするタイミングは、一定時間で自動的に切り替える方法や、読み取った塩基配列情報を用いて切り替える方法とすることもできる。あるいは、立体構造がナノポア101に近接すると封鎖電流の減少が計測できるため、封鎖電流の減少を検知した段階で第2の液槽104B内をより強い正電位としてもよい。これらいずれの方法でも、一本鎖核酸領域601Bに立体構造を形成させることで、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体605全体がナノポア101を通過することを防止することができる。
【0173】
そして、
図33に示すように、生体分子109に最も近い位置にある次の分子モータ130がナノポア101に到達する。そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、負電荷を帯びた生体分子-アダプター分子複合体605は、さらに下流方向に進み、スペーサ604を中心に形状変化を起こす。すると、分子モータ130は、プライマー131の3’末端と接触し、結合する(
図31参照)。これにより、分子モータ130は、プライマー131の3’末端から再び相補鎖合成反応を開始する。すなわち、
図34に示したように、次の分子モータ130によって生体分子-アダプター分子複合体605が電位勾配に逆らって再び第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体605の塩基配列情報を再び取得することができる。
【0174】
以上のようにアダプター分子600に結合した分子モータ130及びプライマー131の組の数に応じて、生体分子109の塩基配列情報を複数回取得することができる。このアダプター分子600を使用した場合には、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に印加した電圧を反転させる制御や、一回の測定後に再び分子モータ130及びプライマー131を結合させる工程を行うことなく、上述した一連の処理によって複数回、生体分子109の塩基配列情報を取得することができる。すなわち、このアダプター分子600を使用した場合には、非常に簡便な操作による往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列に対する読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0175】
特に、このアダプター分子600を使用した場合には、第2の液槽104B内において、生体分子-アダプター分子複合体605の末端近傍に立体構造が形成されているため、生体分子-アダプター分子複合体605が第2の液槽104Bから第1の液槽104Aの方向に移動する際にナノポア101から脱落することを確実に防止できる。これにより、上述した往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列の読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0176】
[第3-1の実施形態]
本実施形態では、第1-1~3の実施形態で示したアダプター分子及び第2-1~3の実施形態で示したアダプター分子と異なり、生体分子と分子モータとの結合力と比較して、分子モータとの結合力が低い分子モータ離脱誘導部を有するアダプター分子ついて説明する。本実施形態で説明するアダプター分子等において、第1-1~3の実施形態で示したアダプター分子及び第2-1~3の実施形態で示したアダプター分子と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0177】
図35は、本実施形態に係るアダプター分子700を有する生体分子-アダプター分子複合体701を分析する生体分子分析装置100を示している。生体分子分析装置100は、生体分子-アダプター分子複合体701を分析する装置であって、封鎖電流方式にてイオン電流を測定する生体分子分析用デバイスである。生体分子分析装置100は、ナノポア101が形成された基板102と、基板102を挟んで基板102と接するように配置され、その内部に電解質溶液103が満たされた一対の液槽104(第1の液槽104A及び第2の液槽104B)と、第1の液槽104A及び第2の液槽104Bの各々に接する一対の電極105(第1の電極105A及び第2の電極105B)とを備える。測定時には、一対の電極105の間に電圧源107から所定の電圧が印加され、一対の電極105の間に電流が流れる。電極105の間に流れる電流の大きさは、電流計106により計測され、その計測値はコンピュータ108により分析される。
【0178】
アダプター分子700は、
図36(A)及び(B)に示すように、分子中に分子モータ離脱誘導部702を有している。分子モータ離脱誘導部702は、生体分子109と分子モータ130との結合力と比較して、分子モータ130との結合力が低いという特徴の領域である。分子モータ離脱誘導部702としては、特に限定されないが、ホスホジエステル結合を有しない炭素鎖又は脱塩基配列からなる領域とすることができる。ここでDNAポリメラーゼ等の分子モータ130は、ヌクレオチドがホスホジエステル結合で結合した核酸に結合する。よって、分子モータ離脱誘導部702としては、核酸と異なる構造、すなわち一例として、モノマーがホスホジエステル結合で連結した構造を除く鎖状構造とすることができる。分子モータ離脱誘導部702としては、塩基を有しない構造とすることがより好ましい。一例として分子モータ離脱誘導部702は、iSpC3系の脱塩基から構成することができる。この場合、分子モータ結合(例えばポリメラーゼ)の大きさ以下でリン酸基が配置されるため、平均的な分子モータの物理寸法以上長さでリン酸基不在領域を持つことが好ましい。例として、iSp9やiSp18を使用することができる。また、分子モータ離脱誘導部702は、これらのうち複数種類が規則的又はランダムに連結したものでもよい。さらに、分子モータ離脱誘導部702は、上述したような脱塩基から構成されるものに限定されず、任意の長さの炭素鎖、任意の長さのポリエチレングリコール(PEG)でもよい。また、分子モータ離脱誘導部702は、ポリメラーゼによる伸長反応を抑制及び離脱可能とするのであれば、リン酸基を有する修飾塩基であってもよい。このような例としては、Nitroindoleを挙げることができる。Nitroindoleを分子モータ離脱誘導部702に使用することで、ポリメラーゼの伸長反応を止めることができる。
【0179】
なお、アダプター分子700としては、
図36(A)に示すように、一本鎖DNAからなるものでも良いし、
図36(B)に示すように、解析対象の生体分子109が二本鎖DNAである場合、当該生体分子109と連結する端部を二本鎖DNAとしても良い。
【0180】
アダプター分子700は、解析対象の生体分子109の一方端部に連結される。生体分子109の他方端部には、分子モータ130が結合される分子モータ結合部703と、プライマー131がハイブリダイズできるプライマー結合部704を備えるアダプター分子705(以下、分子モータ結合用アダプター分子705と称す)が連結される。分子モータ結合用アダプター分子705は、生体分子109と連結する端部とは反対側の端部(例えば3’末端)に脱落防止部113を備えることが好ましい。
【0181】
図36(A)及び(B)に示す例では、生体分子109の5’末端にアダプター分子700を連結し、生体分子109の3’末端に分子モータ結合用アダプター分子705を連結する構成とした。
図36(A)及び(B)に示した何れのアダプター分子700及び分子モータ結合用アダプター分子705を使用しても良く、二本鎖領域を一本鎖とすることで、
図36(C)に示すように、一本鎖の生体分子-アダプター分子複合体701を作製することができる。
【0182】
以上のように構成されたアダプター分子700を用いた生体分子109の分析方法を、
図37~39を用いて説明する。
【0183】
先ず、生体分子109の一方端部にアダプター分子700を結合し、他方端部に分子モータ結合用アダプター分子705を結合した生体分子-アダプター分子複合体701を準備する。第1の液槽104A内に、当該生体分子-アダプター分子複合体701、分子モータ130及びプライマー131を含む電解質溶液を充填する。これにより、分子モータ結合用アダプター分子705における分子モータ結合部703に分子モータ130が結合し、プライマー結合部704にプライマー131がハイブリダイズする。
【0184】
次に、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、生体分子-アダプター分子複合体701におけるアダプター分子700の端部がナノポア101方向に移動し、ナノポア101内に導入される。そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電位勾配により、生体分子-アダプター分子複合体701はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。図示しないが、第2の液槽104Bの電解質溶液103に脱落防止部113を添加することで、第2の液槽104Bに移動した生体分子-アダプター分子複合体401の端部に脱落防止部113を付加することができる。
【0185】
そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、
図37に示すように、生体分子-アダプター分子複合体701がナノポア101を通過し、その後、分子モータ結合部703に結合した分子モータ130がナノポア101に到達する。この状態で、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。
【0186】
そして、
図38に示すように、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、生体分子-アダプター分子複合体701が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、生体分子-アダプター分子複合体701が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、生体分子-アダプター分子複合体701は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向(
図38中矢印Bの方向)に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体701の塩基配列情報を取得することができる。
【0187】
そして、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体701を第1の液槽104A方向に搬送し続け、
図39に示すように、分子モータ130が分子モータ離脱誘導部702の位置に来ると、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体701から乖離する。分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体701から乖離すると、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、相補鎖706を有する生体分子-アダプター分子複合体701が第2の液槽104B方向に移動し、相補鎖706が生体分子-アダプター分子複合体701から引き剥がされる(Unzipped)。
【0188】
以上のように、アダプター分子700を使用することで、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体701から容易に乖離するため、第2の液槽104B内をより強い正電位として分子モータ130を強制的に乖離するとともに合成された相補鎖を引き剥がすといった処理が不要となる。さらに、アダプター分子700を使用することで、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体701から容易に乖離して、その後、生体分子-アダプター分子複合体701が第2の液槽104B方向に移動するため、アダプター分子700の端部に脱落防止部113を有してなくとも、生体分子-アダプター分子複合体701の脱落を防止することができる。
【0189】
また、図示しないが、合成された相補鎖706を引き剥がした後、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間を逆の電位勾配とする(第1の液槽104Aを正電位、第2の液槽104Bを負電位)ことにより、生体分子-アダプター分子複合体701を第1の液槽104A方向に移動させ、再び、分子モータ結合用アダプター分子705の所定の位置に分子モータ130及びプライマー131を結合させることができる。その後、
図37~39に示した工程に従って再び、生体分子109の塩基配列情報を取得することができる。
【0190】
以上のようにアダプター分子700を使用した場合には、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電圧勾配を制御して分子モータ130を乖離し、相補鎖706を引き剥がす処理が不要となり、非常に簡便な操作による往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列に対する読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0191】
[第3-2の実施形態]
本実施の形態では、
図36(A)及び(B)に示したアダプター分子700及び分子モータ結合用アダプター分子705と異なる、
図40に示すようなアダプター分子800を説明する。なお、
図40に例示的に示すアダプター分子800及びこれを用いた生体分子解析装置において、
図36(A)及び(B)に示したアダプター分子700及び分子モータ結合用アダプター分子705と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0192】
図40に示したアダプター分子800は、生体分子109に直接的に結合する二本鎖核酸領域801と、二本鎖核酸領域801における生体分子109と結合した端部と異なる端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域802A及び802Bとを備える。なお、一本鎖核酸領域802Aは3’末端に結合した脱落防止部113を有し、一本鎖核酸領域802Bは5’末端を有する。また、
図40に示したアダプター分子800は、一本鎖核酸領域802Bに立体構造形成領域114を有している。さらに、
図40に示したアダプター分子800は、立体構造形成領域114にハイブリダイズした立体構造形成抑制オリゴマー115を有することが好ましい。さらにまた、アダプター分子800は、一本鎖核酸領域801Bにおいて、立体構造形成領域114よりも二本鎖核酸領域801に近い位置に分子モータ離脱誘導部702を有している。
【0193】
図40に示すアダプター分子800における一本鎖核酸領域801Aは、分子モータが結合しうる分子モータ結合部803を有している。また、
図40に示すアダプター分子800における一本鎖核酸領域801Aは、分子モータ結合部803の3’末端側にプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合部804を有している。プライマー結合部804は、使用するプライマーの塩基配列と相補的な配列を有していればよく、具体的な塩基配列に限定されない。ここで、プライマーとは、特に限定されないが、例えば10~40塩基長、好ましくは15~35塩基長、より好ましくは18~25塩基長の一本鎖ヌクレオチドとすることができる。したがって、プライマー結合部303は、10~40塩基長、好ましくは15~35塩基長、より好ましくは18~25塩基長の領域であってプライマーの塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる領域とすることができる。
【0194】
さらに、
図40に示すアダプター分子800における一本鎖核酸領域802Aは、分子モータ結合部803とプライマー結合部804との間にスペーサ805を有している。ここでスペーサ805とは、分子モータが結合できない領域、すなわちAGCTからなる塩基を含まない領域を意味する。スペーサ805としては、特に限定されないが、塩基を含まない、直鎖状連結体とすることができる。特にスペーサ805の長さは、少なくとも2塩基に相当する長さ、すなわち約0.6×2nm以上とすることが好ましい。換言すると、スペーサ805により、分子モータ結合部803とプライマー結合部804との間を2塩基以上(約0.6×2nm以上)離間させることができる。スペーサ805を構成する材料としては、Integrated DNA Technologies社が提供するC3 Spcer、PC spacer、Spacer9、Spacer18及びdSpacer等のDNA鎖中に配置できる材料を挙げることができる。その他にも、スペーサ805としては直鎖状炭素鎖、直鎖状アミノ酸、直鎖脂肪酸及び直鎖状糖鎖等を使用することができる。
【0195】
さらにまた、
図40に示すアダプター分子800は、二本鎖核酸領域801における所定の領域を標識配列(図示せず)とすることができる。標識配列とは、バーコード配列やインデックス配列とも呼称され、アダプター分子800に固有の塩基配列を意味する。例えば、標識配列のみが相違する複数のアダプター分子800を用意しておくことで、標識配列に基づいて使用したアダプター分子800の種類を特定することができる。
【0196】
以上のように構成されたアダプター分子800を用いた生体分子109の分析方法を、
図41~45を用いて説明する。
【0197】
先ず、生体分子109の両端部にそれぞれアダプター分子800を結合した生体分子-アダプター分子複合体806を準備する。第1の液槽104A内に、当該生体分子-アダプター分子複合体806、分子モータ130、プライマー131及び立体構造形成抑制オリゴマー115を含む電解質溶液を充填する。これにより、
図41に示すように、アダプター分子800における分子モータ結合部803に分子モータ130が結合し、プライマー結合部804にプライマー131がハイブリダイズし、一本鎖核酸領域802Bの立体構造形成領域114に立体構造形成抑制オリゴマー115がハイブリダイズする。
【0198】
次に、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、一本鎖核酸領域802Bの先端がナノポア101方向に移動し、立体構造形成抑制オリゴマー115がハイブリダイズしていない5’末端領域がナノポア101内に導入される。そして、
図42に示すように、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電位勾配により、生体分子-アダプター分子複合体806はナノポア101を介して(通って)第2の液槽104Bへ移動する。このとき、生体分子-アダプター分子複合体806における二本鎖の核酸(アダプター分子800における二本鎖核酸領域801と生体分子109、立体構造形成抑制オリゴマー115と立体構造形成領域114)が引き剥がされる(Unziped)。
【0199】
このように、アダプター分子800を使用した場合でも、二本鎖の核酸である生体分子109に対して煩雑な変性処理(例えば熱処理)を行うことなく、ナノポア101を通過しうる一本鎖の核酸とすることができる。すなわち、アダプター分子800を使用した場合でも二本鎖の核酸を容易に引き剥がすことができる。なお、
図41及び42に示した状態では、プライマー131と分子モータ130とがスペーサ805の長さ離間しているため、プライマー131の3’末端を起点とした分子モータ130による相補鎖合成反応は開始されない。そして、立体構造形成領域114を有する一本鎖核酸領域802Bが第2の液槽104Bに導入されると、立体構造形成領域114において立体構造が形成される。
【0200】
そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、
図42に示すように、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体806がナノポア101を通過し、その後、分子モータ130がナノポア101に到達する。一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体806は負電荷を帯びているため、さらに下流方向に進み、スペーサ805を中心に形状変化を起こす。すると、分子モータ130は、プライマー131の3’末端と接触し、結合する(
図43)。これにより、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。
【0201】
そして、
図44に示すように、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体805が電位勾配によって第2の液槽104B側に移動する力よりも、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体805が分子モータ130によって引き上げられる力が強いため、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体805は電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体806の塩基配列情報を取得することができる。
【0202】
そして、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体806を第1の液槽104A方向に搬送し続け、
図45に示すように、一本鎖核酸領域802Bに形成された立体構造がナノポア101に到達するとともに分子モータ130が分子モータ離脱誘導部702の位置に来ると、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体806から乖離する。そして、図示しないが、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体806から乖離すると、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、相補鎖807を有する生体分子-アダプター分子複合体806が第2の液槽104B方向に移動し、相補鎖807が生体分子-アダプター分子複合体805から引き剥がされる(Unzipped)。
【0203】
アダプター分子800を使用した場合も、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体806から容易に乖離するため、第2の液槽104B内をより強い正電位として分子モータ130を強制的に乖離するとともに合成された相補鎖807を引き剥がすといった処理が不要となる。さらに、アダプター分子800を使用した場合、生体分子-アダプター分子複合体806における第2の液槽104B内の端部近傍に立体構造が形成されるため、生体分子-アダプター分子複合体806のナノポア101からの脱落をより確実に防止することができる。
【0204】
また、図示しないが、合成された相補鎖807を引き剥がした後、第1の電極105A及び第2の電極105Bに印加する電圧を反転し、第1の液槽104Aを正電位とし第2の液槽104Bを負電位とする電位勾配を形成する。これにより、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体806を、ナノポア101を介して第2の液槽104Bから第1の液槽104A方向へ移動させることができる。その後、第1の液槽104Aに充填された電解質溶液103に分子モータ130及びプライマー131を添加し、プライマー結合部804にプライマー131をハイブリダイズさせ、分子モータ結合部803に分子モータ130を結合させる。その後、第1の電極105A及び第2の電極105Bに印加する電圧を再び反転し、第1の液槽104Aを負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、プライマー131がハイブリダイズし、分子モータ130が結合した生体分子-アダプター分子複合体806を、第2の液槽104B方向へ移動させる。そして、
図43に示したように、スペーサ805を中心とした形状変化が生じ、分子モータ130にプライマー131の3’末端と接触する状態を形成する。すなわち、
図41~45を繰り返すことによって、分子モータ130による搬送動作毎にシーケンシングすることができる。
【0205】
以上のようにアダプター分子800を使用した場合には、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間の電圧勾配を制御して分子モータ130を乖離し、相補鎖807を引き剥がす処理が不要となり、非常に簡便な操作による往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列に対する読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0206】
[第3-3の実施形態]
本実施の形態では、
図36(A)及び(B)に示したアダプター分子700及び
図40に示したアダプター分子800と異なる、
図46に示すようなアダプター分子900を説明する。なお、
図46に例示的に示すアダプター分子900及びこれを用いた生体分子解析装置において、
図36(A)及び(B)に示したアダプター分子700及び
図40に示したアダプター分子800と同じ構成については同じ符号を付すことで、本項においては詳細な説明を省略する。
【0207】
図46に示すアダプター分子900は、生体分子109に結合する二本鎖核酸領域901と、二本鎖核酸領域901における生体分子109と結合する端部と異なる端部と連結し、互いに非相補的な塩基配列からなる一対の一本鎖核酸領域901A及び901Bを備える。一本鎖核酸領域901Aは3’末端を有し、一本鎖核酸領域901Bは5’末端を有する。なお、図示しないが、一本鎖核酸領域901Aの末端には脱落防止部(
図40等における脱落防止部113)を備えることも可能である。なお、
図46に示したアダプター分子900において、一本鎖核酸領域901Bは、分子モータ離脱誘導部702を有している。
【0208】
図46に示すアダプター分子900における一本鎖核酸領域901Aは、分子モータ130が結合しうる複数の分子モータ結合部902を有している。また、
図46に示すアダプター分子900における一本鎖核酸領域901Aは、分子モータ結合部902の3’末端側にプライマー131がハイブリダイズしうる複数のプライマー結合部903を有している。すなわち、
図46に示したアダプター分子900は、一本鎖核酸領域901Aに複数組の分子モータ結合部902及びプライマー結合部903を有している。
【0209】
さらに、
図46に示すアダプター分子900における一本鎖核酸領域901Aは、複数組の分子モータ結合部902とプライマー結合部903との間のそれぞれにスペーサ904を有している。ここでスペーサ904とは、分子モータ130が結合できない領域、すなわちAGCTからなる塩基を含まない領域を意味する。スペーサ904としては、特に限定されないが、塩基を含まない、直鎖状連結体とすることができる。特にスペーサ904の長さは、少なくとも2塩基に相当する長さ、すなわち約0.6×2nm以上とすることが好ましい。換言すると、スペーサ904により、分子モータ結合部902とプライマー結合部903との間を2塩基以上(約0.6×2nm以上)離間させることができる。スペーサ904を構成する材料としては、Integrated DNA Technologies社が提供するC3 Spcer、PC spacer、Spacer9、Spacer18及びdSpacer等のDNA鎖中に配置できる材料を挙げることができる。その他にも、スペーサ904としては直鎖状炭素鎖、直鎖状アミノ酸、直鎖脂肪酸及び直鎖状糖鎖等を使用することができる。
【0210】
さらにまた、
図46に示すアダプター分子900は、二本鎖核酸領域901における所定の領域を標識配列(図示せず)とすることができる。標識配列とは、バーコード配列やインデックス配列とも呼称され、アダプター分子900に固有の塩基配列を意味する。例えば、標識配列のみが相違する複数のアダプター分子900を用意しておくことで、標識配列に基づいて使用したアダプター分子900の種類を特定することができる。
【0211】
以上のように構成されたアダプター分子900を用いた生体分子109の分析方法を、
図47~49を用いて説明する。
【0212】
先ず、
図46に示したアダプター分子900を生体分子109の両端部にそれぞれ結合した生体分子-アダプター分子複合体905を準備する。生体分子-アダプター分子複合体905を分子プローブ130及びプライマー131とともに第1の液槽10Aに充填する。この状態で、第1の電極105A及び第2の電極105Bの間に電圧を印加して、第1の液槽104A側を負電位とし第2の液槽104Bを正電位とする電位勾配を形成する。これにより、
図47に示すように、一本鎖核酸領域901Bがナノポア101方向に移動し、二本鎖の核酸(アダプター分子900における二本鎖核酸領域901と生体分子109)が引き剥がされる(Unziped)。また、
図47に示すように、生体分子-アダプター分子複合体905における生体分子109に最も近い位置にある分子モータ130がナノポア101に到達する。この状態で、分子モータ130は、プライマー131の3’末端を起点として、5’末端から3’末端の方向に相補鎖合成反応を開始する。
【0213】
このように、アダプター分子900を使用した場合でも、二本鎖の核酸である生体分子109に対して煩雑な変性処理(例えば熱処理)を行うことなく、ナノポア101を通過しうる一本鎖の核酸とすることができる。すなわち、アダプター分子900を使用した場合でも二本鎖の核酸を容易に引き剥がすことができる。
【0214】
そして、分子モータ130による相補鎖合成反応が進行すると、一本鎖となった生体分子-アダプター分子複合体905が電位勾配に逆らって第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体905の塩基配列情報を取得することができる。
【0215】
そして、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体905を第1の液槽104A方向に搬送し続け、
図48に示すように、分子モータ130が一本鎖核酸領域901Bに形成された分子モータ離脱誘導部702の位置に来ると、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体905から乖離する。そして、図示しないが、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体905から乖離すると、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、相補鎖906を有する生体分子-アダプター分子複合体905が第2の液槽104B方向に移動し、相補鎖906が生体分子-アダプター分子複合体905から引き剥がされる(Unzipped)。
【0216】
アダプター分子900を使用した場合も、分子モータ離脱誘導部702によって、分子モータ130が生体分子-アダプター分子複合体905から容易に乖離するため、第2の液槽104B内をより強い正電位として分子モータ130を強制的に乖離するとともに合成された相補鎖906を引き剥がすといった処理が不要となる。
【0217】
そして、生体分子109に最も近い位置にある次の分子モータ130がナノポア101に到達する。そして、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bの間の電位勾配により、負電荷を帯びた生体分子-アダプター分子複合体905は、さらに下流方向に進み、
図49に示すように、スペーサ904を中心に形状変化を起こし、分子モータ130がプライマー131の3’末端と接触し、結合する。これにより、分子モータ130は、プライマー131の3’末端から再び相補鎖合成反応を開始する。すなわち、次の分子モータ130によって生体分子-アダプター分子複合体905が電位勾配に逆らって再び第1の液槽104A方向に搬送される。このとき、ナノポア101を通過する生体分子-アダプター分子複合体905の塩基配列情報を再び取得することができる。
【0218】
以上のようにアダプター分子900に結合した分子モータ130及びプライマー131の組の数に応じて、生体分子109の塩基配列情報を複数回取得することができる。このアダプター分子900を使用した場合には、第1の液槽104Aと第2の液槽104Bとの間に印加した電圧を反転させる制御や、一回の測定後に再び分子モータ130及びプライマー131を結合させる工程を行うことなく、上述した一連の処理によって複数回、生体分子109の塩基配列情報を取得することができる。すなわち、このアダプター分子900を使用した場合には、非常に簡便な操作による往復運動に伴って、生体分子109の塩基配列に対する読み取り精度を確実に向上させることができる。
【0219】
ところで、以上で説明したアダプター分子900は、
図50に示すように、一本鎖核酸領域901Bに立体構造形成領域114と、立体構造形成領域114にハイブリダイズした立体構造形成抑制オリゴマー115とを有していてもよい。立体構造形成領域114は、一本鎖核酸領域901Bにおいて、分子モータ離脱誘導部702よりも末端側に位置している。立体構造形成領域114及び立体構造形成抑制オリゴマー115を有するアダプター分子900を使用した場合、
図47~49に示した状態において、第2の液槽104B内で立体構造形成領域114が立体構造を形成する。生体分子-アダプター分子複合体905における第2の液槽104B内の端部近傍に立体構造が形成されると、生体分子-アダプター分子複合体905のナノポア101からの脱落をより確実に防止することができる。
【実施例】
【0220】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔参考例〕
特開2010-230614公報に開示されたように、解析対象のDNA鎖の両末端をストレプトアビジン(SA)のようなナノポア径よりも大きな分子を結合させて、電圧制御を行うことによる手段をとることが可能な場合もある。しかし、本方式の場合、第2の液槽104B(transチャンバとも称す)側のSAは、DNA鎖をナノポア通過させた後に結合させる必要がある。ナノポアを通過した一分子のDNA鎖に対して第2の液槽104B側に溶解したSA一分子と結合させるには、結合まで十分な時間待機するか、十分な濃度のSAを溶解する必要がある。
【0221】
本参考例では、第2の液槽104B内でDNA鎖に対してSAを結合させる実験を行った結果を示す。第2の液槽104Bの塩濃度は1MのKCl及び3MのKClで実施した。生体分子として一本鎖DNA80merの両末端にビオチン修飾されたものを用いた。予め片方のビオチンにのみSAが結合可能とする濃度比で一本鎖DNAとSAを反応させ、ナノポアを通過させた。
【0222】
生体分子109が存在しない状態で計測される電流値を基準(ポア電流)とし、電流値の減少の有無からナノポアへのDNAのトラップや、通過、離脱を判断した。
図51の上段は第2の液槽104B側に計測溶液のみを入れる場合の結果を示す。SA結合ssDNAをチャンバに導入し、計測開始直後、DNA由来のイオン電流の減少(封鎖電流)が確認された。その封鎖電流は解消されることなくナノポアを閉塞し続けた。これはDNAの末端に結合したSAがナノポア径以上の直径を有するために通過することができずナノポアにトラップされていることを示す。ここで、電圧を反転すると、ポア径由来の電流値に回復する。第2の液槽104Bに存在するDNAの末端は一本鎖のままであるため、電気泳動により第1の液槽104A側に抜けたと考えられる。
【0223】
ここで、第2の液槽104Bに終濃度9μMとなるようにSAを溶解した。DNAは同様にSAが一個結合した濃度で反応させ、ナノポア計測に用いた。DNAを第1の液槽104Aに導入すると、同様にポアの閉塞現象が確認される。ここで閉塞直後に電圧反転をすると、第2の液槽104BにSAを導入していなかったときと同様にポア電流に回復する現象が見られた。一方で、閉塞確認後10分待機してから電圧を反転すると、計測されたイオン電流はポア電流に戻らず閉塞し続けることが確認された(
図51下段)。
【0224】
SA付DNA由来の閉塞が確認されてから、電圧反転するまでの時間を変えていったところ、少なくとも10分の待機時間が必要であり、また10分以上待機しても必ずしも結合できるわけでもなかった。すなわち、第2の液槽104B内においてDNA鎖の末端にSAを結合させるための時間が長く、測定の効率化を阻害する要因であることがわかった。また、DNA鎖の末端に対するSAの結合が完了したか否かを判断する基準も曖昧であることが判明した。
【0225】
〔実施例1〕
本実施例では、
図13に示したアダプター分子300を実際に設計し、立体構造形成領域114による立体構造の有効性を評価した。
【0226】
具体的には、生体分子109及びプライマー131として表1に示した配列のDNAを設計した。「Z」で示される位置にはiSpC3をスペーサ304として配置した。また、脱落防止部113としてはストレプトアビジンを使用した。加えて、立体構造形成領域114の配列は表1に示したテロメア配列を用いた。二本鎖領域201及びそれに続く一本鎖核酸領域301A及び301Bを表のように設計した。
【0227】
【表1】
図52は、以上のように設計したアダプター分子300を結合した生体分子109において、立体構造形成領域114が立体構造を形成することで、脱落防止部113と、当該立体構造の間で生体分子109を往復搬送することが可能となるか否かを確認するための実験のデータを示している。この実験では、ナノポア計測に通常使われている塩濃度の溶液にナノポア101を有する薄膜102で分離された第1の液槽104A、第2の液槽104B内のバッファ溶液に設定した。ここではポリメラーゼ及びプライマーの結合は行わなかった。
【0228】
ここではSAが結合することにより、ナノポアが閉塞されることは上記〔参考例〕で示した実験により確認されたため、テロメア構造によりナノポア101が閉塞することを確認した。
図52は、立体構造形成領域114のテロメア構造を有しないアダプターと、テロメア構造を有するアダプターを計測した際のイオン電流変化を示す。
図52(a)に、テロメア構造がない場合、
図52(b)にテロメア構造がある場合に取得された信号を示す。テロメア構造がない時には、通過信号、すなわち自発的に封鎖信号がベース電流に回復する様子が観察された。一方、テロメア構造を有するサンプルを用いた際には、封鎖信号確認後、自発的にベース電流に戻ることがなかった。また、その後、電圧を反転することにベース電流に戻ることが確認された。
【0229】
図53に、一本鎖であり、テロメア構造を有するものを計測溶液に融解させてナノポア計測した結果を示す。結果、0.1Vでは閉塞しつづける信号が確認された。
図52(b)で確認されたナノポアの閉塞はアダプター分子内に形成されたテロメア構造由来であることが言える。一方で、計測電圧を上昇していくと、通過信号となる様子も確認された。これはテロメア構造の耐圧が0.2V付近にあることを示している。
【0230】
以上の結果をもとに、SA及びテロメア構造を脱落防止部113とした生体分子のナノポアへのトラップが可能であることを確認する実験には0.1V印加電圧を用いることとした。
【0231】
図54には、立体構造形成領域114としてテロメア構造を有するアダプター分子を生体分子にライゲーションしたサンプルを用いて生体分子がナノポアにトラップ可能か確認した結果を示す。一本鎖核酸領域301Aの末端にはSAが結合できるように、上記ライゲーションの後にSAを混在させて37度でインキュベーションした。サンプル導入から約25秒後に、イオン電流が減少したままベース電流に回復しなくなる現象が確認された。30秒待機した後に、印加電圧を反転したが、電流値がベース電流に戻らなかった。更に約5秒後、印加電圧を戻すが、ベース電流に戻ることなく電圧反転前の電流値が取得された。これらの動作を3度繰り返すが、ベース電流に戻ることはなかった。
【0232】
図55にも同様の異なるポア及び異なるサンプルで実施した実験例を掲載する。同様に導入したサンプルが閉塞する前に電圧反転を行っても、ベース電流が確認されるのみであるが(<30秒)、一旦閉塞が確認されると、ベース電流にもどることなく、閉塞電流が維持される。
【0233】
以上のことから以下のことが推察される。
図54上段の模式図で示したように、一本鎖核酸領域301Aに結合したSAと、一本鎖核酸領域301Bがナノポア101を通過したことにより形成された立体構造の間で一本鎖DNA(生体分子109)がナノポアに留まり続けたことを示していると考えられる。以上のことから、第一の制御鎖に結合した脱落防止部113と、立体構造形成領域114で形成された立体構造の間で、迅速に往復運動を可能とする構成が実現できたと結論付けられた。
【0234】
〔実施例2〕
本実施例では、生体分子と分子モータとの結合力と比較して、分子モータとの結合力が低い分子モータ離脱誘導部を有するアダプター分子を設計し、当該分子モータ離脱誘導部により分子モータの乖離が可能か検討した。
【0235】
具体的には、表2に示すように、プライマー131として「Primer Oligo 23 nt」を設計し、3種類の分子モータ離脱誘導部を有するアダプター分子を設計した。
【0236】
【表2】
表2において、Xは分子モータ離脱誘導部を示している。Zで示される位置はiSpC3からなるスペーサである。
【0237】
表2に記載のプライマー131及びアダプター分子を用いて、分子モータ存在下でナノポア通過信号を観察した結果を
図56a及びbに示した。また、本実施例では、代表的に鋳型としてiSp18x4_T20_Deb18を用いた。アダプター分子にはXで示す位置に分子モータ離脱誘導部が存在する。分子モータ離脱誘導部を有しない鋳型を用いてナノポア通過信号を観察した際と同様、プライマーのunzip信号と考えられる封鎖時間が1ms以下の早い通過信号及びポリメラーゼによる搬送由来の信号と考えられる封鎖時間が1~100msの通過信号が確認された。ここで、dNTP非存在下で確認される信号、すなわちポリメラーゼが鋳型に結合したままナノポアでトラップされるような信号、換言すればナノポアがポリメラーゼで閉塞されその状態が維持される信号は確認されなかった。
図56aで用いた一本鎖にSAをにつけた結合させた分子を用いて、同様の計測を行ったところ、閉塞が維持される信号が確認された(
図56b)。
【0238】
これらの結果から、以下のことが推察される。
図56aの結果は、模式図で示したように、プライマーから伸長反応を開始した分子モータが、分子モータ脱離誘導鎖に到達したところで一本鎖から離脱し、合成鎖の引き剥がしが開始され、鋳型がナノポアを通過する状態と考えられる。
図56bの結果は、鋳型の末端にSAが結合しているため、
図56aの結果から想定された鋳型がナノポアを通過する際にSAにトラップされて通過が実現しなかったものと考えられる。なお、閉塞確認後、電圧を反転すると、ベース電流に戻ることが確認されていることからも、SAによって一本鎖がトラップされている状態が実現されていると考えられる。
【0239】
以上のことから、分子モータ離脱誘導部を配設することで鋳型から積極的に分子モータの搬送を止め、鋳型である一本鎖DNAとの結合を解除することが可能であることが示された。
【0240】
〔実施例3〕
本実施例では、
図17に示したアダプター分子400のように、プライマー結合部位及び分子モータ結合部の組を複数有する場合、隣り合うプライマー結合部位の好ましい間隔を検討した。
【0241】
具体的には、プライマー結合部位とその下流にスペーサ(脱塩基からなる領域)とを有する構成において、隣り合うプライマー結合部位の間隔を15塩基長、25塩基長、35塩基長又は75塩基長としてアダプター分子を設計した。設計したアダプター分子及び分子モータ(ポリメラーゼ)を含むバッファ溶液を調製し、分子モータをアダプター分子に結合させた後に電気泳動を行った。
【0242】
その結果を
図57に示した。
図57中、「polymerase:+」「「polymerase:-」は、分子モータとしてのポリメラーゼをバッファ溶液中に存在した状態での実験であるか(+)、又はそうでないのか(-)を示している。いずれの条件でもポリメラーゼをアダプター分子に結合させると、アニールのみの時に現れていたバンド位置とは異なる位置に新たなバンドが表れる。
図57に示すように、本実施例で設計したアダプター分子については全て、ポリメラーゼ存在下で新たなバンドが観察できた。このことから、隣り合うプライマー結合部位の間隔を15塩基長、25塩基長、35塩基長又は75塩基長としても、分子モータであるポリメラーゼが結合できることが明らかとなった。
【0243】
〔実施例4〕
本実施例では、
図46に示したアダプター分子900のように、生体分子と分子モータとの結合力と比較して、分子モータとの結合力が低い分子モータ離脱誘導部を有し、プライマー結合部、分子モータ結合部、プライマー結合部と分子モータ結合部の間にスペーサを有する組合せを複数有するアダプター分子を設計し、対象分子の繰り返し搬送制御が可能か確認した。
【0244】
具体的には、表3に示すように、プライマー131として「Primer Oligo 23 nt」を設計し、アダプター分子として、「Primer Oligo 23 nt」が3箇所結合するように「Tandem primer template」を設計した(配列番号10)。解析対象分子の長さは69merとした。また、隣り合うプライマー結合部位の間隔は15merとした。
【0245】
【表3】
表3において、Xは分子モータ離脱誘導部を示している。Zで示される位置はiSpC3からなるスペーサである。
【0246】
表3に記載のプライマー131及びアダプター分子を用いて、分子モータ存在下でナノポア通過信号を観察した結果を
図58に示した。
図58(a)は計測された封鎖信号の代表図である。電流値が特に高くなっている部分は、ナノポアの抵抗が最も低くなっていることを示しており、「Tandem primer template」の中のiSpC3の部分を示していると考えられる。
【0247】
ここで、取得された波形の中に、同一領域を読み取った波形が反映されていることを調べるため、Dotplot解析を行った。Dotplotでは、各レベルに当てられた電流値で形成された波形の、例えば10レベルずつの波形の区切りを動的伸縮法による解析を行い、その結果、類似度が高くなるほどハイスコアを出力するようにしている(
図58(b))。
図58(b)では、対角線は同一箇所の類似度を表しているため完全一致のスコアを出力している。一方で、例えば、80~100レベルと120~140レベルは、異なる場所間であるがよく一致していることを示している。
【0248】
取得された波形に対してレベル抽出を行い、前述の手法を用いて、30レベルずつの波形区切りで互いに類似度の高い場所の探索を行った。レベル抽出は、任意時間ウインドウにおける電流値の平均を代表電流値として定義した。取得されたDotplotは
図58(b)のようになった。
図58(b)が示しているのは、総レベル数200に対して、0~60レベル、60~120レベル、120~200レベルが類似していることを大まかに示している。また、二巡目のレベル80~110と、110~140も類似していることが示される。
【0249】
今回設計した配列が目的のとおりに繰り返して解析されたとすると、読み取り対象領域が3回繰り返えされることになる。加えて、3回目の繰返しのところでプライマー部分を2回読むことになるため、類似波形として出力された二本目の線がずれることになる。実際に、
図58(b)に示したように、今回のDotplot解析ではそのことが反映された出力となっている。この結果から設計通り3回の繰り返し解析が実現されたことを示している。
【0250】
以上のことから、プライマー結合部を複数用意し、かつ分子モータ離脱誘導部を配置することで、ポリメラーゼによる搬送とポリメラーゼの脱離とunzipとの繰り返しを、電圧の制御をすることなく、プライマーが結合した数だけ自動的に繰り返えすことができ、対象分子の高精度な解析が可能となることが示された。
【0251】
〔参考例2〕
本参考例2では、本発明が適用されるナノポアを半導体微細加工技術により作製する手順を説明する。まず、厚さ725μmの8インチSiウエハの表面に、Si3N4/SiO2/Si3N4をそれぞれ膜厚12nm/250nm/100nmでその順に成膜する。また、Siウエハの裏面に、Si3N4を112nm成膜する。
【0252】
次に、Siウエハ表面最上部のSi3N4を500nm四方で反応性イオンエッチングにより除去する。同様に、Siウエハ裏面のSi3N4を1038μm四方で反応性イオンエッチングにより除去する。裏面については更に、エッチングにより露出したSi基板をTMAH(Tetramethylammonium hydroxide)により更にエッチングする。Siエッチングの間は、表面側のSiOのエッチングを防ぐため、ウエハ表面を保護膜(ProTEKTMB3primer and ProTEKTMB3, Brewer Science, Inc.)で覆うのが好ましい。中間層のSiOはポリシリコンであってもよい。
【0253】
次に、当該保護膜を取り除いた後、500nm四方で露出しているSiO層をBHF溶液(HF/NH4F=1/60、8分間)で取り除く。これにより、膜厚12nmの薄膜Si3N4が露出した仕切り体が得られる。ポリシリコンが犠牲層に選択された場合はKOHによるエッチングにより薄膜が露出される。この段階では、薄膜にナノポアは設けられていない。
【0254】
ナノポアの形成は、例えば以下の手順で行うことができる。仕切り体を生体分子分析用デバイス等にセットする前に、Ar/O2 plasma(SAMCO Inc., Japan)により、10W、20sccm、20Pa、45secの条件で、Si3N4薄膜を親水化する。次に、生体分子分析用デバイスに仕切り体をセットする。その後、薄膜を挟む上下の液槽を、1MのKCl、1mMTris-10mM EDTA、pH7.5溶液で満たし、各液槽のそれぞれに電極を導入する。
【0255】
電圧の印加は、ナノポアの形成時だけでなく、ナノポアが形成された後にナノポアを介して流れるイオン電流の計測時にも行われる。ここでは、下側に位置する液槽をcis槽と呼び、上側に位置する液槽をtrans槽と呼ぶ。また、cis槽側の電極に印加する電圧Vcisを0Vに設定し、trans槽側の電極に電圧Vtransを印加する。電圧Vtransは、パルス発生器(例えば41501B SMU AND Pulse Generator Expander, Agilent Technologies, Inc.)により発生する。
【0256】
パルス印加後の電流値は、電流計(例えば4156B PRECISION SEMICONDUCTOR ANALYZER, Agilent Technologies, Inc.)で読み取ることができる。パルス電圧の印加前に形成されたナノポアの直径に応じて電流値条件(閾値電流)を選択し、順次、ナノポアの直径を大きくしつつ、目的とする直径を得ることができる。
【0257】
ナノポアの直径は、イオン電流値から見積もった。条件選択の基準は表4の通りである。
【0258】
【表4】
ここで、n番目のパルス電圧印加時間tn(ただし、n>2の整数。)は、次式で決定される。
【0259】
【数1】
以上のように、具体的な方法によって、所望の開口径を有するナノポアを適宜作製できることが示された。ナノポアの形成は、パルス電圧を印加する方法以外に、TEMによる電子線照射によっても行うことができる(A. J. Storm et al., Nat. Mat. 2 (2003))。
【配列表】