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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】走査電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/28 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
H01J37/28 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021558117
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045622
(87)【国際公開番号】W WO2021100171
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上薗 巧
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 忠信
(72)【発明者】
【氏名】板橋 洋憲
(72)【発明者】
【氏名】神尾 誠人
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームの照射制御コマンドを生成する管理用計算機と、
前記照射制御コマンドに基づいて制御信号を生成する制御ブロックと、
前記制御信号に基づいて前記電子ビームの照射方向を制御するビーム照射制御デバイスと、
を備え、
前記管理用計算機は、
ユーザが選択したスキャン種類及び前記ユーザが設定したスキャンパラメータに基づき、基本的な波形を定義する基本波形定義コマンドを波形組み合わせコマンドにより組み合わせて照射制御コマンドを生成し、
前記スキャン種類ごとに前記基本波形定義コマンドおよび前記波形組み合わせコマンドをテンプレート化したコマンドテンプレートを格納する、
走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記管理用計算機は、前記電子ビームの走査方向ごとに前記照射制御コマンドを生成する、
走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項に記載の走査電子顕微鏡において、
前記基本波形定義コマンドは、一定の出力値を所定時間継続して出力する前記制御信号を定義するコマンドを含む、
走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項に記載の走査電子顕微鏡において、
前記基本波形定義コマンドは、所定の時間が経過するごとに出力値が増加する前記制御信号を定義するコマンドを含む、
走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項に記載の走査電子顕微鏡において、
前記基本波形定義コマンドは、所定の時間が経過するごとに出力値が減少する前記制御信号を定義するコマンドを含む、
走査電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、半導体デバイスやエレクトロニクス、先端材料、生物、製薬などの幅広い分野で使用されている。走査電子顕微鏡は、高い分解能、画質や使い勝手の向上、低価格化、高度化、多様な試料に対する多様な条件での観察に耐えられる性能等が求められる。
【0003】
現在の走査電子顕微鏡では、SEMユーザは装置メーカにより予め設定された複数の観察条件から、観察に適した観察条件を選択し試料の観察を行うことが一般的である。また、観察条件を変更できるとしても一部のみであり、SEMの基本的な走査方向や走査順序を変更することは出来ない。
【0004】
例えば、特許文献1には、電子ビームを偏向器で偏向させて照射対象に照射する電子ビーム照射装置における、電子ビームの照射エリアを調整する方法が開示されている。具体的には、電子ビームの照射エリア調整には、電子ビーム照射レシピに基づいて前記偏向器を制御することにより照射された電子ビームに対応した電流を検出する調整プレートに対して照射位置を変えながら電子ビームを照射する電子ビーム照射ステップと、前記調整プレートから検出される電流を取得する電流取得ステップと、取得された電流値に対応する画像データを形成する画像形成ステップと、形成された画像データに基づいて、電子ビームの照射エリアが適切か否かの判定を行う判定ステップと、照射エリアが不適切と判定された場合に、前記電子ビーム照射レシピを更新するレシピ更新ステップと、が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-133243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すでに述べた通り、走査電子顕微鏡には、多様な試料に対する多様な条件に耐えられる性能等が求められる。しかしながら、時間の制約から、電子ビームの制御はハードウェアで実現されており、予め設定された走査条件でしか試料の観察を行うことができない。新たな条件で画像取得等を行う場合には、ハードウェアの改変が必要となるため、TAT(Turn Around Time)が長くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、TATの増大を抑えつつ所望の走査条件で試料の観察を行うことが可能な走査電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による走査電子顕微鏡は、電子ビームの照射制御コマンドを生成する管理用計算機と、照射制御コマンドに基づいて制御信号を生成する制御ブロックと、制御信号に基づいて電子ビームの照射方向を制御するビーム照射制御デバイスと、を備える。管理用計算機は、ユーザが選択したスキャン種類及び前記ユーザが設定したスキャンパラメータに基づき、基本的な波形を定義する基本波形定義コマンドを波形組み合わせコマンドにより組み合わせて照射制御コマンドを生成し、前記スキャン種類ごとに前記基本波形定義コマンドおよび前記波形組み合わせコマンドをテンプレート化したコマンドテンプレートを格納する
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0011】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、TATの増大を抑えつつ所望の走査条件で試料の観察を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す図である。
図2】照射制御コマンドおよび対応するスキャン波形を対比して例示する図である。
図3】波形組み合わせコマンドおよび対応するスキャン波形を対比して例示する図である。
図4】コマンドテンプレートの一例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態2に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態3に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。なお、実施例において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
(実施の形態1)
<走査電子顕微鏡の構成>
【0014】
図1は、本発明の実施の形態1に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す図である。図1の走査電子顕微鏡1は、走査電子顕微鏡本体10、制御ブロック20、管理用計算機30を備えている。
【0015】
走査電子顕微鏡本体10は、検査用の試料が収容される試料室10Bに、鏡筒10Aが載置された構成となっている。鏡筒10Aには、試料18に向けて電子ビームを照射する電子銃12、電子ビームの照射方向の制御を行うビーム照射制御デバイス14等が収容される。ビーム照射制御デバイス14は、制御ブロック20から送信される制御信号に基づき電子ビームの制御を行う。ビーム照射制御デバイス14には、例えば、偏向器、絞り、対物レンズ等(いずれも図示は省略)が含まれる。ビーム照射制御デバイス14による電子ビームの制御方法については、後で詳しく説明する。
【0016】
また、鏡筒10Aには、電子ビームの照射により試料18から放出される二次電子を検出し、二次電子に基づく検出信号を出力する検出器16等が収容される。ここで言う二次電子には反射電子等も含まれる。検出器16からの検出信号に基づき、SEM画像等の検査画像の生成、試料18のサイズの測定、電気特性の計測等が行われる。検出信号に基づく処理は、図示しない演算回路等で実行される。なお、検出器16は、試料室10Bに設置されてもよい。また、複数の検出器16が、鏡筒10A、試料室10Bに分かれて設置されてもよい。
【0017】
試料室10Bには、ステージ19、試料18等が収容される。試料18は、ステージ19上に載置される。試料18は、例えば、半導体デバイスや複数の半導体デバイスを含む半導体ウェーハ等である。ステージ19には、図示しないステージ駆動機構が設けられている。ステージ駆動機構により、試料18を試料室10B内で移動させることが可能になっている。
【0018】
管理用計算機30は、図1に示すように、スキャン種類選択部31、スキャンパラメータ入力部33、照射制御コマンド変換部35を有する。スキャン種類選択部31、スキャンパラメータ入力部33、照射制御コマンド変換部35は、例えばCPU等のプロセッサにおいてプロクラムを実行することで実現される。また、スキャン種類選択部31、スキャンパラメータ入力部33、照射制御コマンド変換部35は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて構成されてもよい。
【0019】
スキャン種類選択部31は、電子ビームのスキャン種類の選択を行う機能ブロックである。スキャンパラメータ入力部33は、スキャン種類選択部31で選択されたスキャン種類のパラメータ(スキャンパラメータ)の設定処理を行う機能ブロックである。
【0020】
スキャン種類選択部31およびスキャンパラメータ入力部33による各処理は、例えば図1に示すようなGUI画面(入力画面)40の操作に基づき行われる。GUI画面40は、図示しないディスプレイに表示され、ユーザによるキーボードやマウス等の入力装置による入力操作やタッチ操作を受け付ける。
【0021】
GUI画面40は、例えば、スキャン種類の選択が行われるスキャン種類選択領域41、すべてのスキャン種類間で共通の共通パラメータの設定が行われる共通パラメータ設定領域42、スキャン種類ごとの個別パラメータを設定する個別パラメータ設定領域43を含む。スキャン種類選択領域41は、スキャン種類選択部31に対応している。共通パラメータ設定領域42および個別パラメータ設定領域43は、スキャンパラメータ入力部33に対応している。GUI画面40におけるスキャン種類の選択やパラメータの設定は、対応する項目へのチェックやパラメータの数値入力等により行われる。
【0022】
スキャン種類選択領域41において選択されるスキャン種類としては、例えば、「ラスター」、「フラット」、「スネーク」等が挙げられる。「ラスター」とは、ラインを飛ばすことなく、隣りのラインを順次走査するスキャン種類である。「フラット」とは、個別パラメータ設定領域43で設定されるライン間隔分だけラインを飛ばしながら順次走査するスキャン種類である。
【0023】
「スネーク」とは、例えば、左から右への走査と、右から左への走査とを交互に行うスキャン種類である。図1の例では、左から右へ1ライン分の走査を行うと、数ライン空けて別のラインに対し右から左へ走査し、さらに別のラインに対し左から右へ走査を行うという動作が繰り返し行われる。具体的に述べると、左から右へ走査した後、このラインより図示下方のラインに対し右から左へ走査が行われる。そして、右から左への走査が行われると、このラインより図示上方のラインに対し左から右へ走査が行われる。
【0024】
「ラスター」および「フラット」では、各ラインにおける走査方向は同じである。これに対し、「スネーク」では、走査方向が交互に入れ替わる。なお、図1には、走査方向がX方向の場合が示されているが、走査方向がY方向であっても構わない。
【0025】
共通パラメータ設定領域42で設定される共通パラメータとしては、例えば、走査電子顕微鏡で取得する検査画像の大きさ(画像サイズ)や、検査画像の各画素に対応する領域に電子ビームが照射される時間(画素滞在時間)、電子ビームの周期と走査電子顕微鏡に入力される交流電源の周期との同期の選択(電源同期)等がある。また、図1に示す「ライン積算」とは、例えば、同一ラインへの走査回数を示し、「フレーム積算」とは、画像サイズに対応する全域への走査回数を示す。
【0026】
個別パラメータ設定領域43で設定される個別パラメータとしては、例えば、ビーム操作方法「フラット」における「ライン間隔」等がある。「ライン間隔」とは、画像データをライン毎に取得していく際に、画像データを取得したラインと、次に画像データを取得するラインとの間隔を規定する値である。すなわち、「フラット」では、「ライン間隔」分だけラインと飛ばしながら順次走査が行われる。
【0027】
照射制御コマンド変換部35は、スキャン種類選択領域41において選択されたスキャン種類および共通パラメータ設定領域42において設定されたパラメータに基づき、電子ビームの制御に関わる照射制御コマンドを生成する機能ブロックである。照射制御コマンド変換部35は、例えば、電子ビームの制御に関わる要素を互いに異なる走査方向(例えばX方向、Y方向の2方向)ごとに生成し、方向ごとの要素を照射制御コマンドに変換する。照射制御コマンドの具体例については後で詳しく説明する。照射制御コマンド変換部35は、生成した照射制御コマンドを制御ブロック20へ送信する。なお、生成された照射制御コマンドは、管理用計算機30内の図示しないメモリに格納されてもよい。
【0028】
制御ブロック20は、管理用計算機30で生成された照射制御コマンドに基づき、電子ビームを制御する制御信号を生成する機能ブロックである。制御ブロック20は、図1に示すように、メモリ書き込み制御部21、コマンド格納メモリ23、スキャン波形生成部25を有する。
【0029】
メモリ書き込み制御部21は、例えば、照射制御コマンド変換部35から照射制御コマンドを受信しコマンド格納メモリ23へ格納する。なお、メモリ書き込み制御部21は、制御ブロック20内の各要素に対する制御も行うことが可能である。
【0030】
スキャン波形生成部25は、コマンド格納メモリ23に格納された照射制御コマンドを読み出し、照射制御コマンドに基づくスキャン波形を制御信号26として生成する。その際、スキャン波形生成部25は、ビーム照射制御デバイス14に含まれる構成要素ごとに制御信号26を生成してもよい。スキャン波形生成部25は、生成した制御信号26をビーム照射制御デバイス14へ送信する。ビーム照射制御デバイス14は、スキャン波形生成部25から受信した制御信号26に基づき電子ビームの照射方向の制御を行う。
【0031】
メモリ書き込み制御部21およびスキャン波形生成部25は、CPU等のプロセッサでプロクラムを実行することで実現されてもよいし、FPGAやASICで構成されてもよい。コマンド格納メモリ23は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリでもよいし、照射制御コマンドを一時的に保持するだけでよい場合にはSRAM(Static Random Access Memory)やDRAM(Dynamic RAM)等の揮発性メモリでもよい。
<照射制御コマンドおよびスキャン波形の具体例>
【0032】
次に、照射制御コマンドの具体例について説明する。図2は、照射制御コマンドおよび対応するスキャン波形を対比して例示する図である。照射制御コマンドは、電子ビームの照射方向に関わる基本的な波形を定義する基本波形定義コマンド(例えば図2(a)~図2(c)の各コマンド)、および波形を組み合せる波形組み合わせコマンド(例えば図2(d)のコマンド)に分類される。基本波形定義コマンドで定義されるスキャン波形は、コマンドごとに異なる。また、それぞれの基本波形定義コマンドでは、スキャン波形調整用のパラメータの指定も行われる。
【0033】
図2(a)には、基本波形定義コマンドとして「SET」コマンドが示されている。「SET」コマンドは、一定の出力値を所定時間継続して出力するスキャン波形を定義するコマンドである。「SET」コマンドでは、スキャン波形の継続時間(t)、スキャン波形の出力値(v)、スキャン波形を識別するための波形識別ラベル(label)がパラメータとしてそれぞれ指定される。
【0034】
図2(b)には、基本波形定義コマンドとして「INC」コマンドが示されている。「INC」コマンドは、所定の時間が経過するごとに出力値が増加するスキャン波形を定義するコマンドである。「INC」コマンドでは、出力の初期値を規定するスキャン波形の継続時間(t)、出力初期値(s)、出力値の変化量(増加量)を規定する出力値変化量(v_s)、出力値が変化するタイミングを規定する出力値変更時間(t_s)、スキャン波形を識別するための波形識別ラベル(label)がパラメータとしてそれぞれ指定される。
【0035】
「INC」コマンドにより生成されるスキャン波形は、図2(b)に示すように、出力初期値(s)で出力されると、継続時間(t)が経過するまで、出力値変更時間(t_s)が経過するごとに出力値が出力値変化量(v_s)分だけ増加し続ける波形となる。
【0036】
図2(c)には、基本波形定義コマンドとして「DEC」コマンドが示されている。「DEC」コマンドは、所定の時間が経過するごとに出力値が減少するスキャン波形を定義するコマンドである。「DEC」コマンドでは、スキャン波形の継続時間(t)、出力の初期値を規定する出力初期値(s)、出力値の変化量(減少量)を規定する出力値変化量(v_s)、出力値が変化するタイミングを規定する出力値変更時間(t_s)、スキャン波形を識別するための波形識別ラベル(label)がパラメータとしてそれぞれ指定される。
【0037】
「DEC」コマンドにより生成されるスキャン波形は、図2(c)に示すように、出力初期値(s)で出力されると、継続時間(t)が経過するまで、出力値変更時間(t_s)ごとに出力値が出力値変化量(v_s)分だけ減少し続ける波形となる。
【0038】
図2(d)には、波形組み合わせコマンドとして「REP」コマンドが示されている。「REP」コマンドでは、組み合わせを行うスキャン波形の波形識別ラベル(label)、および組み合わせたスキャン波形の繰り返し回数(count)がパラメータとして指定される。例えば照射制御コマンド変換部35において「REP」コマンドが実行されると、「REP」コマンドで指定されたものと同一の波形識別ラベルのコマンドが呼び出され、呼び出されたコマンドが組み合わされる。そして、組み合わされたコマンドが、指定された繰り返し回数分繰り返される。このように、「REP」コマンドでは、所望のスキャン種類となるように複数の基本波形定義コマンドが組み合わされる。
【0039】
図3は、波形組み合わせコマンドおよび対応するスキャン波形を対比して例示する図である。図3には、1ラインずつ走査するラスタースキャンを実現する時の、X方向の照射制御コマンドおよび対応するスキャン波形が対比して示されている。コマンドCOM11~COM13は基本波形定義コマンド、コマンドCOM14は波形組合せコマンドである。
【0040】
コマンドCOM11では、「SET」コマンドが定義されている。コマンドCOM11では、パラメータとして、継続時間t=100、出力値v=100、波形識別ラベルlabel=raster_xがそれぞれ指定されている。
【0041】
コマンドCOM12では、「INC」コマンドが定義されている。コマンドCOM12では、パラメータとして、継続時間t=800、出力初期値s=100、出力値変化量v_s=1、出力値変更時間t_s=1、波形識別ラベルlabel=raster_xがそれぞれ指定されている。
【0042】
コマンドCOM13では、「SET」コマンドが定義されている。コマンドCOM13では、パラメータとして、継続時間t=100、出力値v=100、波形識別ラベルlabel=raster_xがそれぞれ指定されている。
【0043】
コマンドCOM14では、「REP」コマンドが定義されている。コマンドCOM14では、パラメータとして、波形識別ラベルlabel=raster_x、繰り返し回数count=600がそれぞれ指定されている。
【0044】
図3では、画像サイズ800×600の範囲を走査する場合の例が示されている。コマンドCOM11~COM13により、各ラインにおけるX方向の800画素分のスキャン波形が定義され、コマンドCOM14により、600ライン分のスキャン波形が定義される。なお、コマンドCOM13は、コマンドCOM11と同じ内容である。このため、コマンドCOM14では、同じ「SET」コマンドが2回参照されてもよい。
【0045】
図3のスキャン波形について詳しく述べる。まず、時刻0-100では「SET」コマンドであるコマンドCOM11に基づきスキャン波形が生成される。この間、スキャン波形の出力値は100である。次に、時刻100-900では「INC」コマンドであるコマンドCOM12に基づきスキャン波形が生成される。この間、スキャン波形の出力値は、時間が1経過するごとに、出力値が1ずつ増加し続ける。したがって、継続時間800(時刻900)が経過すると、スキャン波形の出力値は900である。そして、時刻900-1000では「SET」コマンドであるコマンドCOM13に基づきスキャン波形が生成される。この間、スキャン波形の出力値は100である。ここまでで、1ライン分のスキャン波形が生成される。以下、時刻600,000まで、これと同じスキャン波形が600ライン分生成される。
【0046】
このように、基本波形定義コマンドと、波形組合せコマンドとを組み合わせることで、ラスタースキャン実現に必要なコマンド数が削減されている。なお、実際には、Y方向の制御を行うスキャン波形が別途生成される場合もある。
【0047】
照射制御コマンド変換部35は、選択されたスキャン種類、指定された各スキャンパラメータに基づき照射制御コマンドを生成するが、照射制御コマンドの生成を効率化するため、スキャン種類ごとに、基本波形定義コマンドおよび波形組合せコマンドを予めテンプレート化しておいてもよい。
【0048】
図4は、コマンドテンプレートの一例を示す図である。コマンドテンプレート100には、スキャン種類を示すスキャン種類列110と、スキャン種類ごとに実行されるコマンドを示すコマンド列120とが含まれる。
【0049】
例えば、「ラスター」スキャン、X方向の「フラット」スキャンには、コマンドCOM21~COM24が対応している。コマンドCOM21~COM23は基本波形定義コマンドであり、コマンドCOM24は波形組み合わせコマンドである。なお、コマンドCOM21~COM24におけるA1~A9、labelAは各コマンドのパラメータである。
【0050】
また、例えば、Y方向の「フラット」スキャンには、コマンドCOM31~COM36、…、COM39が対応している。コマンドCOM31~COM36等は基本波形定義コマンドであり、コマンドCOM39は波形組み合わせコマンドである。なお、コマンドCOM31~COM36、COM39におけるB1~B17、labelB等はパラメータである。
【0051】
また、例えば、X方向の「スネーク」スキャンには、コマンドCOM41~COM46が対応している。コマンドCOM41~COM45は基本波形定義コマンドであり、コマンドCOM46は波形組み合わせコマンドである。なお、コマンドCOM41~COM46におけるC1~C17、labelCはパラメータである。
【0052】
なお、図4はあくまで一例であり、コマンドテンプレートは、図4に限定されるものではない。ユーザは、所望のスキャン種類を実現するため、任意のコマンドテンプレートを適宜作成することが可能である。また、同一のスキャン種類について、図4とは、異なるコマンドテンプレートが別途用意されてもよい。これらのコマンドテンプレートは、例えば管理用計算機30内の図示しないメモリに格納される。
【0053】
コマンドテンプレートを用いる場合、照射制御コマンド変換部35は、ユーザによりスキャン種類が選択されると、コマンドテンプレート100を参照して選択されたスキャン種類に対応する各コマンドをメモリから読み出す。そして、照射制御コマンド変換部35は、読み出したコマンドに対し、ユーザにより指定されたスキャンパラメータを適用することで、照射制御コマンドを生成する。
<電子ビーム照射後の処理>
【0054】
スキャン波形生成部25は、照射制御コマンドに基づいてスキャン波形である制御信号を生成し、ビーム照射制御デバイス14へ送信する。電子ビームが照射されると、SEM画像が生成される。その際、生成されたSEM画像に、ユーザにより設定されたパラメータ等の各種情報が表示されるようにしてもよい。これにより、設定されたパラメータと、取得画像とを紐付けることが可能となる。あるいは、SEM画像のデータと、パラメータ等の各種情報とが関連付けて格納されるようにしてもよい。
<本実施の形態による主な効果>
【0055】
本実施の形態によれば、照射制御コマンド変換部35は、管理用計算機は、ユーザが選択したスキャン種類及びユーザが設定したスキャンパラメータに基づき照射制御コマンドを生成する。そして、スキャン波形生成部25は、照射制御コマンドに基づいて制御信号を生成する。この構成によれば、スキャン波形の設定を装置構成を変更せずに行うことができるので、TATの増大を抑えつつ所望の走査条件で試料の観察を行うことが可能となる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、照射制御コマンド変換部35は、電子ビームの走査方向ごとに照射制御コマンドを生成する。この構成によれば、照射制御コマンドを簡略化することが可能となる。
【0057】
また、本実施の形態によれば、照射制御コマンド変換部35は、基本的な波形を定義する基本波形定義コマンドを波形組み合わせコマンドにより組み合わせて照射制御コマンドを生成する。基本波形定義コマンドは、一定の出力値を所定時間継続して出力する制御信号を定義するコマンドを含む。また、基本波形定義コマンドは、所定の時間が経過するごとに出力値が増加する制御信号を定義するコマンドを含む。また、基本波形定義コマンドは、所定の時間が経過するごとに出力値が減少する制御信号を定義するコマンドを含む。この構成によれば、必要となる基本波形定義コマンドの個数の増大を抑えることが可能となる。
【0058】
管理用計算機30は、スキャン種類ごとに基本波形定義コマンドおよび波形組合せコマンドをテンプレート化したコマンドテンプレート100を格納する。この構成によれば、照射制御コマンドの生成時、基本波形定義コマンドの組み合わせを演算により算出する必要がなくなるので、照射制御コマンド生成に関わる負荷が軽減される。
【0059】
管理用計算機30は、ユーザによる入力操作を受け付けるGUI画面40を表示する。この構成によれば、ユーザはGUI画面40を見ながらスキャン種類の選択及びスキャンパラメータの設定を行うことが可能となる。
(実施の形態2)
【0060】
以下の実施の形態では、GUI画面40上でスキャン波形の設定が直接行われる場合について説明する。まず、実施の形態2では、例えばX方向(第1方向)のスキャン波形の設定が直接行われる。なお、以下では、前述の実施の形態と重複する箇所については、原則として説明を省略する。
【0061】
図5は、本発明の実施の形態2に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す図である。本実施の形態では、管理用計算機30の構成が図1とは異なる。図5の管理用計算機30は、スキャン波形入力部137、照射制御コマンド変換部35を有する。スキャン波形入力部137は、例えば図5に示すGUI画面40で設定されたスキャン波形の入力処理を行う機能ブロックである。スキャン波形入力部137は、CPU等のプロセッサにおいてプロクラムを実行することで実現される。また、スキャン波形入力部137は、FPGAやASIC等のハードウェアで構成されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて構成されてもよい。
【0062】
図5のGUI画面40は、ユーザによるスキャン波形の設定に関わる入力操作を受け付ける。GUI画面40には、スキャン波形の設定画面がグラフィカルに表示される。GUI画面40は、1方向のスキャン波形を設定可能なスキャン波形設定領域(第1スキャン波形設定領域)141を含む。
【0063】
スキャン波形設定領域141は、設定用のスキャン波形を表示するスキャン波形表示領域142、スキャン波形の一部を拡大表示するスキャン波形拡大表示領域143を含む。図5に示すように、スキャン波形拡大表示領域143には、パラメータ設定領域144、145が含まれる。パラメータ設定領域144では、例えば、スキャン時におけるX方向の画素飛ばし量の設定が行われる。パラメータ設定領域145では、例えば1画素当たりの画素滞在時間の設定が行われる。
【0064】
スキャン波形表示領域142には、パラメータ設定領域146~151が含まれる。パラメータ設定領域146では、プリスキャンを行う画素数の設定が行われる。パラメータ設定領域147では、ポストスキャンを行う画素数の設定が行われる。パラメータ設定領域148では、スキャン前の待機時間の設定が行われる。パラメータ設定領域149では、スキャン後の待機時間の設定が行われる。パラメータ設定領域150では、スキャンを行う画素数の設定が行われる。例えば1ラインの画素数が800画素であれば、図5のように、パラメータ設定領域150には「800」が設定される。パラメータ設定領域151では、X方向のスキャンの繰り返し回数が設定される。例えば、600ライン分のスキャンを行う場合、パラメータ設定領域150には「800」が設定される。
【0065】
ユーザは、GUI画面40のスキャン波形設定領域141を見ながらスキャン波形の各パラメータを入力することで、スキャン波形の設定を容易に行うことができる。
【0066】
スキャン波形入力部137は、GUI画面40から入力された各パラメータを照射制御コマンド変換部35へ送信する。照射制御コマンド変換部35は、GUI画面40から受信した各パラメータに基づき照射制御コマンドを生成する。スキャン波形入力部137に入力されたパラメータは、照射制御コマンドのパラメータである。このため、照射制御コマンド変換部35は、これらのパラメータを照射制御コマンド形式に変換するだけで照射制御コマンドを生成することができる。すなわち、照射制御コマンド変換部35は、ユーザが設定したスキャン波形に基づいて照射制御コマンドを生成する。照射制御コマンド生成後の処理は、実施の形態1と同様であるので、以下の説明は省略する。
【0067】
本実施の形態によれば、照射制御コマンド変換部35は、ユーザが設定したスキャン波形に基づいて照射制御コマンドを生成する。この構成によれば、ユーザは直感的かつ容易にスキャン波形を自在に設定することが可能となる。また、任意のスキャン条件における画像取得を容易に行うことが可能となる。
【0068】
また、本実施の形態によれば、GUI画面40は、X方向のスキャン波形を設定可能なスキャン波形設定領域141を含む。この構成によれば、GUI画面40の煩雑化を抑え、快適にスキャン波形の設定作業を行うことが可能となる。
(実施の形態3)
【0069】
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、2方向分のスキャン波形の設定が直接行われる。図6は、本発明の実施の形態3に係る走査電子顕微鏡の構成の一例を示す図である。図6の装置構成は、GUI画面40の構成を除いて図5と同様である。
【0070】
GUI画面40は、例えばX方向のスキャン波形を設定可能なスキャン波形設定領域141、および、例えばY方向のスキャン波形を設定可能なスキャン波形設定領域(第2スキャン波形設定領域)161を含む。このように、本実施の形態では、X方向およびY方向(第1方向とは異なる第2方向)のスキャン波形を設定可能な2つのスキャン波形設定領域141、161が並べて表示される。
【0071】
スキャン波形設定領域161は、Y方向の設定用のスキャン波形を表示するスキャン波形表示領域162、Y方向のスキャン波形の一部を拡大表示するスキャン波形拡大表示領域163を含む。図6に示すように、スキャン波形拡大表示領域163には、パラメータ設定領域164、165が含まれる。パラメータ設定領域164では、例えば、スキャン時におけるY方向のライン飛ばし量の設定が行われる。パラメータ設定領域165では、スキャン時における1ライン滞在時間の設定が行われる。すなわち、パラメータ設定領域165では、1ラインに要するスキャン時間の設定が行われる。
【0072】
スキャン波形表示領域162には、パラメータ設定領域166~170が含まれる。パラメータ設定領域166では、プリスキャンを行うライン数の設定が行われる。パラメータ設定領域167では、ポストスキャンを行うライン数の設定が行われる。パラメータ設定領域168では、スキャン前の待機時間の設定が行われる。パラメータ設定領域169では、スキャン後の待機時間の設定が行われる。パラメータ設定領域170では、スキャンを行うライン数の設定が行われる。例えば600ライン分のスキャンを行う場合、図6のように、パラメータ設定領域170には「600」が設定される。
【0073】
また、GUI画面40は、スキャン波形確認領域180を含む。スキャン波形確認領域180には、スキャン軌道確認領域181、スキャン波形表示領域(第1スキャン波形表示領域)184、スキャン波形表示領域(第2スキャン波形表示領域)186が含まれる。
【0074】
スキャン軌道表示領域181は、2次元のスキャン軌道を表示する領域である。スキャン軌道表示領域181は、図6のように静止画像でスキャン軌道を表示してもよいし、し電子ビームの照射位置を移動させる動画像によりスキャン軌道を表示してもよい。
【0075】
スキャン波形表示領域184は、スキャン波形設定領域141で設定されたX方向のスキャン波形(第1スキャン波形)を表示する領域である。スキャン波形表示領域186は、スキャン波形設定領域161で設定されたY方向のスキャン波形(第2スキャン波形)を表示する領域である。このように、本実施の形態では、X方向およびY方向のスキャン波形が並べて表示される。
【0076】
ユーザは、GUI画面40のスキャン波形設定領域141、161、スキャン波形確認領域180を見ながらスキャン波形の各パラメータを入力することで、スキャン波形の設定を容易に行うことができる。
【0077】
なお、スキャン波形設定領域141、161とスキャン波形確認領域180とを別画面で表示するようにしてもよい。例えば、スキャン波形設定領域141、161がGUI画面40に表示されているときには、スキャン波形確認領域180への表示切換スイッチが表示されてもよい。これとは逆に、スキャン波形確認領域180がGUI画面40に表示されているときには、スキャン波形設定領域141、161への表示切換スイッチが表示されてもよい。
【0078】
本実施の形態によれば、GUI画面40は、X方向のスキャン波形を設定可能なスキャン波形設定領域141と、Y方向のスキャン波形を設定可能なスキャン波形設定領域161とを含む。
【0079】
X方向、Y方向のスキャンパラメータの入力を別々の画面で行うと、全体軌道のイメージが把握するのが困難だが、本実施の形態のGUI画面40によれば、X方向およびY方向のスキャンパラメータの入力と入力結果を同時に確認することが可能となる。
【0080】
また、本実施の形態によれば、GUI画面40は、スキャン波形設定領域141に対応するスキャン波形表示領域184と、スキャン波形設定領域161に対応するスキャン波形表示領域186とを含む。この構成によれば、設定されたスキャンパラメータとスキャン波形とが同時に表示されるので、スキャン波形のイメージを容易に把握することが可能となる。
【0081】
また、本実施の形態によれば、GUI画面40は、2次元のスキャン軌道を表示するスキャン軌道表示領域181を含む。この構成によれば、スキャン軌道が可視化されるので、スキャン軌道の設定を容易に行うことが可能となる。
【0082】
また、X方向およびY方向のスキャン波形に代えて、X方向及びY方向のスキャン波形から座標情報を計算し、時間ごとにスキャン位置(電子ビーム照射位置)を2次元平面状に描画することも可能である。この場合、図6のスキャン軌道表示領域181にスキャン位置を表示すればよい。これにより、ユーザは、XY平面での走査軌道を容易に把握できることが可能となる。
【0083】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本発明を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる場合がある。
【符号の説明】
【0084】
1…走査電子顕微鏡、10…走査電子顕微鏡本体、14…ビーム照射制御デバイス、20…制御ブロック、21…メモリ書き込み制御部、23…コマンド格納メモリ、25…スキャン波形生成部、26…制御信号、30…管理用計算機、31…スキャン種類選択部、33…スキャンパラメータ入力部、35…照射制御コマンド変換部、40…GUI画面、41…スキャン種類選択領域、42…共通パラメータ設定領域、43…個別パラメータ設定領域、141、161…スキャン波形設定領域、180…スキャン波形確認領域、181…スキャン軌道表示領域、184、186…スキャン波形表示領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6