(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-05
(45)【発行日】2023-06-13
(54)【発明の名称】金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法
(51)【国際特許分類】
B22F 12/80 20210101AFI20230606BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20230606BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20230606BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230606BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20230606BHJP
【FI】
B22F12/80
B01D53/22
B01D53/04 110
B33Y30/00
B33Y40/10
(21)【出願番号】P 2022101704
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2022-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 亮
(72)【発明者】
【氏名】尾山 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】浅井 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】村山 侃
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-130870(JP,A)
【文献】特開2002-274608(JP,A)
【文献】実開平06-033813(JP,U)
【文献】特表2001-500669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 12/80
B01D 53/22
B01D 53/04
B33Y 30/00
B33Y 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に密閉空間を有し、前記密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置可能な保管庫本体と、
前記密閉空間に、空気を原料とするパージガスを供給するパージガス供給経路と、
前記パージガス供給経路に位置し、前記空気から酸素及び水分を除去する酸素水分除去装置と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の一次側に位置する第1開閉弁と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の二次側に位置する第1流量調整器と、
前記第1開閉弁の一次側で前記パージガス供給経路から分岐し、前記第1流量調整器の二次側で前記パージガス供給経路に合流するバイパス経路と、
前記バイパス経路に位置する第2開閉弁と、
前記バイパス経路に位置する第2流量調整器と、
前記密閉空間の酸素濃度を測定する酸素濃度測定器と、
前記密閉空間の水分濃度を測定する水分濃度測定器と、
前記第1開閉弁、前記第1流量調整器、前記第2開閉弁、前記第2流量調整器、前記酸素濃度測定器、及び前記水分濃度測定器と、信号の送受信が可能な制御装置と、
を備える、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項2】
内側に密閉空間を有し、前記密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置可能な保管庫本体と、
前記密閉空間に、空気を原料とするパージガスを供給するパージガス供給経路と、
前記パージガス供給経路に位置し、前記空気から酸素及び水分を除去する酸素水分除去装置と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の二次側に位置する第3開閉弁と、
前記酸素水分除去装置の二次側、かつ前記第3開閉弁の一次側で前記パージガス供給経路から分岐
し、開閉弁を有する排出経路と、
を備える、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項3】
内側に密閉空間を有し、前記密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置可能な保管庫本体と、
前記密閉空間に、空気を原料とするパージガスを供給するパージガス供給経路と、
前記パージガス供給経路に位置し、前記空気から酸素及び水分を除去する酸素水分除去装置と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の二次側に位置する第3開閉弁と、
前記酸素水分除去装置の二次側、かつ前記第3開閉弁の一次側で前記パージガス供給経路から分岐する排出経路と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の一次側に位置する第1開閉弁と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の二次側に位置する第1流量調整器と、
前記第1開閉弁の一次側で前記パージガス供給経路から分岐し、前記第1流量調整器の二次側で前記パージガス供給経路に合流するバイパス経路と、
前記バイパス経路に位置する第2開閉弁と、
前記バイパス経路に位置する第2流量調整器と、
前記密閉空間の酸素濃度を測定する酸素濃度測定器と、
前記密閉空間の水分濃度を測定する水分濃度測定器と、
前記第1開閉弁、前記第1流量調整器、前記第2開閉弁、前記第2流量調整器、前記酸素濃度測定器、及び前記水分濃度測定器と、信号の送受信が可能な制御装置と、をさらに備える
、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項4】
前記酸素水分除去装置が、ガス分離膜、又はガス吸着材が充填された充填筒である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項5】
前記密閉空間を加熱する加熱器と、
前記密閉空間の温度を測定する温度測定器と、をさらに備える、請求項1
~3のいずれか1項に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項6】
前記パージガス供給経路の吹き出し口が、前記密閉空間の下方に開口する、請求項5に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項7】
前記密閉空間の雰囲気ガスを排気ガスとして前記保管庫本体の外側に排出する排気経路をさらに備え、
前記排気経路に、前記酸素濃度測定器及び前記水分濃度測定器の少なくとも一方又は両方が位置する、請求項1又は3に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
【請求項8】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫を用いる、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法であって、
保管庫本体の内側の密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置し、
空気を原料とし、前記空気から酸素及び水分を除去したパージガスを前記密閉空間に供給する、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【請求項9】
前記密閉空間の水分濃度及び酸素濃度が所要の閾値を下回った後、前記パージガスの供給を停止する、請求項8に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【請求項10】
前記パージガスの供給を停止した後、所要の時間が経過するごとに前記パージガスを前記密閉空間に供給し、前記密閉空間の水分濃度及び酸素濃度を測定する、請求項9に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【請求項11】
前記密閉空間の水分濃度及び酸素濃度のうち、少なくとも一方が閾値を上回った場合、前記パージガスの供給を再開する、請求項10に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【請求項12】
前記密閉空間の温度を所要の温度とする、請求項8に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【請求項13】
前記密閉空間の酸素濃度を3体積%以下に維持し、
前記密閉空間の露点温度を-40℃以下に維持する、請求項8に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造技術(「Additive Manufacturing」と称される)は、任意の形状の構造物を短時間で製造できるため、航空機産業及び医療等の先端技術分野で有望な技術として注目されている。
【0003】
付加製造技術を利用する製造装置の一例として、造形ステージに貯蔵された金属からなる原料粉末をレーザー等で焼結する金属3Dプリンタが知られている。金属3Dプリンタは、焼結された金属層を造形ステージ上で順次積層し、精度よく金属造形物を製造できる。
【0004】
金属3Dプリンタで使用される原料粉末(以下、単に、「金属3Dプリンタ用原料粉末」という場合がある)として、アルミニウム合金、チタン合金、鉄系合金、ニッケル基合金、ハイエントロピー合金等が存在する。これらの原料粉末は、保管容器に入れた状態で保管されるが、大気中で保管すると、ほとんどの金属種は大気中の酸素により酸化が進行する。酸化した原料粉末を用いると、造形物への酸素固溶量が上昇し、造形特性に影響を及ぼす。また、保管容器は防湿性能が低く、例えば数日で大気中と同程度となるまで原料粉末が吸湿してしまう。例えば、アルミニウム合金からなる原料粉末を用いた場合、金属層の造形時に水分が存在すると、熱処理工程後などに造形物に変形が生じる。また、チタン合金からなる原料粉末を用いた場合、金属層の造形時に酸素や水分が存在すると、造形物の機械特性が悪化する。
【0005】
上述したように、金属層の造形時に存在する酸素および水分は、原料粉末に付着しているものが影響するため、金属3Dプリンタ用原料粉末では保管環境が重要である。したがって、金属3Dプリンタ用原料粉末は、酸素および水分を除去可能な保管庫で保存することが好ましい。
【0006】
酸素および水分を除去可能な保管庫として、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1には、パージガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用い、保管庫内の水分濃度及び酸素濃度を調整して金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された保管庫は、パージガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを用いるため、不活性ガスの供給設備及び供給能力が必要であり、保管庫の設置場所が限定されるという課題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、設置場所の制約を受けることなく、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供することが可能な金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 内側に密閉空間を有し、前記密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置可能な保管庫本体と、
前記密閉空間に、空気を原料とするパージガスを供給するパージガス供給経路と、
前記パージガス供給経路に位置し、前記空気から酸素及び水分を除去する酸素水分除去装置と、を備える、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[2] 前記酸素水分除去装置が、ガス分離膜、又はガス吸着材が充填された充填筒である、[1]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[3] 前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の一次側に位置する第1開閉弁と、
前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の二次側に位置する第1流量調整器と、
前記第1開閉弁の一次側で前記パージガス供給経路から分岐し、前記第1流量調整器の二次側で前記パージガス供給経路に合流するバイパス経路と、
前記バイパス経路に位置する第2開閉弁と、
前記バイパス経路に位置する第2流量調整器と、
前記密閉空間の酸素濃度を測定する酸素濃度測定器と、
前記密閉空間の水分濃度を測定する水分濃度測定器と、
前記第1開閉弁、前記第1流量調整器、前記第2開閉弁、前記第2流量調整器、前記酸素濃度測定器、及び前記水分濃度測定器と、信号の送受信が可能な制御装置と、をさらに備える、[1]又は[2]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[4] 前記密閉空間を加熱する加熱器と、
前記密閉空間の温度を測定する温度測定器と、をさらに備える、[1]乃至[3]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[5] 前記パージガス供給経路の吹き出し口が、前記密閉空間の下方に開口する、[4]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[6] 前記密閉空間の雰囲気ガスを排気ガスとして前記保管庫本体の外側に排出する排気経路をさらに備え、
前記排気経路に、前記酸素濃度測定器及び前記水分濃度測定器の少なくとも一方又は両方が位置する、[3]乃至[5]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[7] 前記パージガス供給経路の前記酸素水分除去装置の二次側に位置する第3開閉弁と、
前記酸素水分除去装置の二次側、かつ前記第3開閉弁の一次側で前記パージガス供給経路から分岐する排出経路と、をさらに備える、[1]乃至[6]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫。
[8] 密閉空間に金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器を1以上載置し、
空気を原料とし、前記空気から酸素を除去したパージガスを前記密閉空間に供給する、金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
[9] 前記密閉空間の水分濃度及び酸素濃度が所要の閾値を下回った後、前記パージガスの供給を停止する、[8]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
[10] 前記パージガスの供給を停止した後、所要の時間が経過するごとに前記パージガスを前記密閉空間に供給し、前記密閉空間の水分濃度及び酸素濃度を測定する、[9]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
[11] 前記密閉空間の水分濃度及び酸素濃度のうち、少なくとも一方が閾値を上回った場合、前記パージガスの供給を再開する、[10]に記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
[12] 前記密閉空間の温度を所要の温度とする、[8]乃至[11]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
[13] 前記密閉空間の酸素濃度を3体積%以下に維持し、
前記密閉空間の露点温度を-40℃以下に維持する、[8]乃至[12]のいずれかに記載の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫、および金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法によれば、設置場所の制約を受けることなく、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の保管庫に適用可能な制御装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法の一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫について、それを用いる金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法とともに図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
<金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫>
先ず、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫の構成の一例を示す模式図である。
図2は、本実施形態の保管庫に適用可能な制御装置の構成の一例を示す図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫(以下、単に「保管庫」という場合がある)1は、キャビネット(保管庫本体)2、ヒータ(加熱器)3、温度測定器4、パージガス供給経路L1、排気経路L2、バイパス経路L3、開閉弁(第1開閉弁)5、酸素水分除去装置6、開閉弁(第3開閉弁)7、流量調整器(第1流量調整器)8、酸素濃度測定器9、水分濃度測定器10、開閉弁(第2開閉弁)11、流量調整器(第2流量調整器)12、及び制御装置13を備えて、概略構成されている。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の保管庫1は、適切な酸素濃度及び水分濃度に維持された環境中で、金属3Dプリンタ用原料粉末(以下、単に「原料粉末」という場合がある)を保管するものである。そして、金属3Dプリンタでの造形時、保管庫1から原料粉末を取り出して使用する。
【0017】
保管対象となる原料粉末は、金属3Dプリンタに使用可能であれば、特に限定されない。このような原料粉末としては、例えば、アルミニウム合金、チタン合金、鉄系合金、ニッケル基合金、ハイエントロピー合金等が挙げられる。
【0018】
原料粉末は、保管容器Sに収容されて保管される。ここで、保管容器Sは、樹脂製又は金属製の、容器本体と蓋とから構成される。原料粉末は、容器本体に収容され、蓋をした状態で保管してもよいし、蓋をしない状態で保管してもよい。
【0019】
キャビネット(保管庫本体)2は、内側に密閉空間2Aを有する直方体の収納庫である。キャビネット2の構造は特に限定されない。キャビネット2としては、背面板、天板、底板、一対の側面、及び開閉扉を有するものを適用できる。密閉空間2Aには、鉛直方向に高さが異なる複数の棚2B(
図1中には、一つのみ記載)が設けられており、複数の棚2Bによって密閉空間2Aが仕切られている。キャビネット2は、それぞれの棚2Bに、原料粉末を収容する保管容器Sを1以上載置できる。
【0020】
開閉扉は、密閉空間2Aに原料粉末を収容する保管容器Sの入出庫が可能な開口を形成できるものであれば、特に限定されない。開閉扉としては、片側開き、観音開き、スライド式等が挙げられる。
開閉扉は、閉塞した際、保管庫1が設置された環境から密閉空間2Aに酸素および水分が透過しない程度に封止(シール)されることが好ましい。
また、開閉扉には、開放した際、信号が発信されるようにセンサーを設けることが好ましい。
【0021】
キャビネット2の容量(換言すると、密閉空間2Aの体積)は、特に限定されるものではなく、保管容器Sの保管量に応じて適宜選択することができる。キャビネット2の容量としては、100~2000Lとすることができ、実用性および粉末容器搬出入の観点から、300~1500Lとすることが好ましく、600~1200Lとすることがより好ましい。
【0022】
キャビネット2の材質は、断熱、保温効果を有するものであれば、特に限定されない。キャビネット2の材質としては、例えば、鉄系材料および樹脂性材料等が挙げられる。これらの中でも、耐荷重および導電性等の観点から、ステンレス、スチール等の金属板とウレタン樹脂等の断熱材との積層構造体を用いることが好ましい。
【0023】
ヒータ(加熱器)3は、キャビネット2の密閉空間2Aを所要の温度となるまで加熱、または所要の温度に保温する。ヒータ3は、背面板の全面に位置する。ここで、ヒータ3を設ける位置は、密閉空間2Aに面する場所であれば、特に限定されない。このような位置として、例えば、天板、底板、一対の側面、及び図示略の開閉扉が挙げられる。また、ヒータ3は、背面板、及び一対の側面というように、2か所以上に設けられてもよいし、背面板の全面ではなく一部のみに設けられていてもよい。
【0024】
ヒータ3は、密閉空間2Aを所要の温度まで加熱、または所要の温度に保温できるものであれば、特に限定されない。ヒータ3としては、例えば、ラバーヒータ、シース型ヒータ等が挙げられる。これらの中でも、背面板への取り付けやすさや、作業者の安全の観点から、ラバーヒータを用いることが好ましい。
【0025】
ヒータ3の表面には、ヒータカバー(接触防止板)を設けることが好ましい。これにより、作業者が保管庫1に保管容器Sを収容する際、及び保管庫1から保管容器Sを取り出す際、あやまってヒータ3に直接触れることを防止できる。
【0026】
温度測定器4は、
図1に示すように、密閉空間2Aの温度を測定するために、キャビネット2内に配置されている。具体的には、棚2Bの載置面付近に設けられている。また、温度測定器4の数は、特に限定されない。複数の温度測定器4をキャビネット2内に配置することで、密閉空間2Aの温度分布を測定できる。これにより、密閉空間2A内の温度分布を適切に調整できる。
【0027】
温度測定器4は、密閉空間2Aの温度を測定できるものであれば、特に限定されない。温度測定器4としては、例えば、例えば、山里産業製Kシース熱伝対等が挙げられる。
【0028】
図2に示すように、ヒータ3及び温度測定器4と制御装置13とは、有線又は無線の信号線によって接続されている。これにより、制御装置13は、密閉空間2Aの温度の測定値を電気信号として温度測定器4から受信し、受信した測定値に基づいて密閉空間2Aを加熱又は保温する制御信号をヒータ3に送信できる。
【0029】
図1に示すように、パージガス供給経路L1は、キャビネット2内の密閉空間2Aにパージガスを供給するガス供給配管である。
本実施形態の保管庫1は、空気を原料とするパージガスを用いる。換言すると、本実施形態の保管庫1は、パージガスの原料として空気を用いる。
【0030】
原料空気は、空気圧縮機(コンプレッサ)によって加圧された圧縮空気であることが好ましい。また、原料空気は、水分が除去された乾燥空気(ドライエア)であることが好ましい。さらに、原料空気は、微小不純物(パーティクル)が除去された高純度空気(クリーンエア)であることが好ましい。
【0031】
具体的には、後述する酸素水分除去装置6としてガス分離膜モジュールを用いる場合、原料空気として、クリーンドライエア(CDA)を用いることが好ましい。これにより、原料空気に含まれるパーティクルが除去されているため、ガス分離膜の性能低下を抑制でき、ガス分離膜モジュールを長期間使用できる。さらに、原料空気の水分濃度が低いため、ガス分離膜モジュールから得られるパージガス(不活性ガス)の水分濃度を低減できる。
【0032】
パージガス供給経路L1は、密閉空間2Aの下方に開口する吹き出し口L1a,L1bを有する。
吹き出し口L1a,L1bは、密閉空間2Aの下方(底部付近)に所定の間隔をあけて配置されている。密閉空間2Aの底部付近からパージガスを導入することで、密閉空間2Aの雰囲気ガスを下側から上側へ対流させることができる。換言すると、密閉空間2Aの雰囲気ガスを撹拌することができる。
また、吹き出し口L1a,L1bは、吹き出したパージガスが背面板に配置されたヒータ3に当たる向きに調整されている。パージガスをヒータ3に吹き付けることで、加温されたパージガスを密閉空間2Aに供給できる。
【0033】
パージガス供給経路L1には、分岐点Pの二次側、かつ合流点Qの一次側に、開閉弁(第1開閉弁)5、酸素水分除去装置6、開閉弁(第3開閉弁)7、及び流量調整器(第1流量調整器)8がこの順で位置する。
【0034】
開閉弁(第1開閉弁)5は、パージガス供給経路L1において酸素水分除去装置6の一次側に位置し、パージガス供給経路L1の流路の開放状態又は閉止状態を選択する。開閉弁5を開放状態とすることで、開閉弁5の二次側の酸素水分除去装置6に原料空気を供給できる。一方、開閉弁5の閉止状態とすることで、開閉弁5の二次側への原料空気の供給を停止できる。開閉弁5は、流路の開閉状態を選択できるものであれば、特に限定されない。開閉弁5としては、例えば、電磁弁を適用できる。
【0035】
酸素水分除去装置6は、パージガス供給経路L1に位置し、導入された原料空気から酸素及び水分を除去した窒素ガスをパージガスとして導出する。換言すると、酸素水分除去装置6は、空気を原料とするパージガスの製造装置である。
【0036】
酸素水分除去装置6は、原料空気から酸素及び水分を除去可能であれば、特に限定されない。酸素水分除去装置6としては、例えば、ガス分離膜を有するガス分離膜モジュール、ガス吸着材が充填された充填筒が挙げられる。これらの中でも、電源を用いることなく原料空気から酸素を除去可能な、ガス分離膜モジュール及びガス吸着材が充填された充填筒が好ましい。酸素水分除去装置6は、前段にガス分離膜モジュール、後段にガス吸着材が充填された充填筒を組み合わせた構成でもよい。
【0037】
ガス分離膜としては、例えば、ポリイミド樹脂製中空糸膜や炭素膜が挙げられる。
また、上述したガス分離膜を有するガス分離膜モジュールとしては、例えば、宇部興産株式会社製「NM-C07F」が挙げられる。
【0038】
酸素のガス吸着材としては、例えば、過マンガン酸カリウム、Cu-Zu系又はMn系のガス吸着材が挙げられ、具体的には、日揮触媒社製社製「N-112」、NEケムキャット社製「Ni3288E」が挙げられる。水分のガス吸着材としては、例えば、シリカゲルが挙げられ、具体的には、住化アルケム社製「NKHD24」、東ソー社製「ゼオラムF9、ゼオラムF9HA、ゼオラムA3」が挙げられる。
【0039】
酸素水分除去装置6から導出されるパージガスは、原料粉末の酸化抑制の観点から、酸素含有量および水分含有量が少ない(酸素濃度および露点温度が低い)ことが好ましい。具体的には、パージガスの酸素濃度は、3体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましい。本実施形態の保管庫1に適用するパージガスとしては、酸素濃度3体積%以下の窒素ガスが好ましい。パージガスの露点温度は、-50℃以下が好ましく、-60℃以下がより好ましい。本実施形態の保管庫1に適用するパージガスとしては、露点温度-50℃以下の窒素ガスが好ましい。
【0040】
開閉弁(第3開閉弁)7は、パージガス供給経路L1において酸素水分除去装置6の二次側に位置し、パージガス供給経路L1の流路の開放状態又は閉止状態を選択する。開閉弁7を開放状態とすることで、開閉弁7の二次側のパージガス供給経路L1にパージガスを供給できる。一方、開閉弁7の閉止状態とすることで、開閉弁7の二次側へのパージガスの供給を停止できる。開閉弁7は、流路の開閉状態を選択できるものであれば、特に限定されない。開閉弁7としては、上述した開閉弁5と同様に、電磁弁を適用できる。
【0041】
流量調整器(第1流量調整器)8は、パージガス供給経路L1において酸素水分除去装置6の二次側に位置し、密閉空間2Aへのパージガスの流量を調整する。流量調整器8は、パージガスの流量調整が可能であれば、特に限定されない。流量調整器8としては、例えば、株式会社フジキン製マスフローコントローラー等が挙げられる。
【0042】
図2に示すように、パージガス供給経路L1に位置する、開閉弁5、開閉弁7、及び流量調整器8は、有線又は無線の信号線により、制御装置13と電気的に接続されている。これにより、開閉弁5、開閉弁7、及び流量調整器8と制御装置13との間で、信号線を介して、制御信号を送受信できる。
【0043】
図1に示すように、排気経路L2は、密閉空間2Aと連通し、密閉空間2Aの雰囲気ガスを排気ガスとしてキャビネット2の外側に排出する排気配管である。排気経路L2の接続位置は、キャビネット2の上方寄りとなっている。これにより、排気経路L2が、密閉空間2Aに配置された吹き出し口L1a,L1bと密閉空間2Aを挟んで反対側に位置するため、密閉空間2Aの雰囲気ガスの下側から上側への対流が促進される。
【0044】
酸素濃度測定器9は、排気経路L2に位置し、密閉空間2Aから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の酸素濃度を測定する。換言すると、酸素濃度測定器9は、密閉空間2Aから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の酸素濃度を測定することで、密閉空間2Aの酸素濃度を間接的に測定する。
酸素濃度測定器9は、酸素濃度の測定が可能であれば、特に限定されない。酸素濃度測定器9としては、例えば、ミッシェル社製酸素濃度計等が挙げられる。
【0045】
水分濃度測定器10は、排気経路L2に位置し、密閉空間2Aから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の水分濃度を測定する。換言すると、水分濃度測定器10は、密閉空間2Aから排気経路L2に排出された雰囲気ガス中の水分濃度を測定することで、密閉空間2Aの水分濃度を間接的に測定する。
水分濃度測定器10は、水分濃度の測定が可能であれば、特に限定されない。水分濃度測定器10としては、例えば、ミッシェル社製露点計等が挙げられる。
【0046】
図2に示すように、酸素濃度測定器9及び水分濃度測定器10と制御装置13とは、有線又は無線の信号線によって接続されている。これにより、酸素濃度測定器9及び水分濃度測定器10と制御装置13との間で、密閉空間2Aの酸素濃度及び水分濃度の測定値を電気信号として送受信できる。
【0047】
図1に示すように、バイパス経路L3は、開閉弁5の一次側の分岐点Pでパージガス供給経路L1から分岐し、流量調整器8の二次側の合流点Qでパージガス供給経路L1に合流するガス供給配管である。換言すると、バイパス経路L3は、パージガス供給経路L1に流れる原料空気を、酸素水分除去装置6を迂回(バイパス)して、酸素水分除去装置6の二次側に供給するガス供給配管である。バイパス経路L3によれば、キャビネット2内の密閉空間2Aに原料空気を含むパージガスを供給できる。
【0048】
バイパス経路L3には、分岐点Pの二次側、かつ合流点Qの一次側に、開閉弁(第2開閉弁)11及び流量調整器(第2流量調整器)12がこの順で位置する。
【0049】
開閉弁11は、バイパス経路L3に位置し、バイパス経路L3の流路の開放状態又は閉止状態を選択する。開閉弁11を開放状態とすることで、開閉弁11の二次側に原料空気を供給できる。一方、開閉弁11の閉止状態とすることで、開閉弁11の二次側への原料空気の供給を停止できる。開閉弁11は、流路の開閉状態を選択できるものであれば、特に限定されない。開閉弁11としては、例えば、電磁弁を適用できる。
【0050】
流量調整器12は、バイパス経路L3に位置し、バイパス経路L3を介してパージガス供給経路L1に供給する原料空気の流量を調整する。換言すると、密閉空間2Aへのパージガスの流量を調整する。流量調整器12は、原料空気の流量調整が可能であれば、特に限定されない。流量調整器12としては、例えば、株式会社フジキン製マスフローコントローラー等が挙げられる。
【0051】
図2に示すように、バイパス経路L3に位置する、開閉弁11及び流量調整器12は、有線又は無線の信号線により、制御装置13と電気的に接続されている。これにより、開閉弁11及び流量調整器12と制御装置13との間で、信号線を介して、制御信号を送受信できる。
【0052】
図1に示すように、本実施形態の保管庫1において、キャビネット2内の密閉空間2Aに導入されるパージガスは、原料粉末に含まれる水分除去の観点から、水分含有量が少なく、乾燥していることが好ましい。具体的には、パージガスの露点は、-50℃以下が好ましく、-60℃以下がより好ましい。本実施形態の保管庫1に適用するパージガスとしては、露点-50℃以下の窒素ガスが好ましい。
【0053】
図2に示すように、制御装置13は、ヒータ3、温度測定器4、開閉弁5、開閉弁7、流量調整器8、酸素濃度測定器9、水分濃度測定器10、開閉弁11、及び流量調整器12と、有線又は無線の信号線により電気的に接続されている。
これにより、制御装置13と、温度測定器4、酸素濃度測定器9、及び水分濃度測定器10との間で、密閉空間2Aの温度、酸素濃度、及び水分濃度の測定値を電気信号として送受信できる。また、制御装置13と、ヒータ3、開閉弁5、開閉弁7、流量調整器8、開閉弁11、及び流量調整器12との間で、制御信号を電気信号として送受信できる。
【0054】
制御装置13は、上述した送受信機能を有するものであれば、特に限定されない。制御装置13としては、PLC(プログラマブルロジックコントローラー)、PC、タブレット等の携帯端末等を適用できる。
【0055】
以上より、本実施形態の保管庫1は、密閉空間2Aの酸素濃度及び水分濃度の測定値に応じて、密閉空間2Aに供給するパージガスの流量、及びパージガスの組成(酸素濃度)を制御できる。
【0056】
また、本実施形態の保管庫1は、密閉空間2Aの水分濃度及び温度の測定値に応じて、密閉空間2Aに位置するヒータ3の出力を制御できる。
【0057】
<金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫方法>
次に、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法について説明する。
図3は、本発明を適用した一実施形態である金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法の一例を示すフロー図である。
本実施形態の金属3Dプリンタ用原料粉末の保管方法(以下、単に「保管方法」という場合がある)は、上述した保管庫1を用いて行う。
【0058】
本実施形態の保管方法は、キャビネット2の内側の密閉空間2Aに原料粉末を収容する保管容器Sを1以上載置し、パージガス供給経路L1から密閉空間2Aに所要の流量で、空気を原料とし、前記空気から酸素及び水分を除去したパージガスを供給する。
以下、
図3を参照しながら、本実施形態の保管方法について、具体的に説明する。
【0059】
図3に示すように、保管庫1の運転を開始(START)する。
先ず、ステップS1に示すように、原料粉末の入庫又は出庫を行う。
具体的には、原料粉末の入庫では、キャビネット2の開閉扉を開けて、いずれかの棚2Bの載置面上に保管容器Sを1以上載置する。一方、原料粉末の出庫では、キャビネット2の開閉扉を開けて、いずれかの棚2Bに載置されている1以上の保管容器Sを保管庫1から取り出す。
【0060】
なお、既に原料粉末が保管されている場合、キャビネット2の開閉扉を開けた際に、密閉空間2Aのパージガスが流出することにより、作業者が酸欠になる可能性がある。その際、バイパス経路L3の開閉弁11を開放状態とし、流量調整器12を制御して原料空気をパージガス供給経路L1に供給し、パージガスとして保管庫1の密閉空間2Aに供給することが好ましい。これにより、保管庫1を開けた際に、パージガスとともに原料空気も流出するため、作業者の酸欠を防ぐことができる。
【0061】
次に、ステップS2に示すように、保管庫1の密閉空間2Aにパージガスを供給する。
具体的には、キャビネット2の開閉扉を閉じた後、開閉弁5,7を開放状態、開閉弁11を閉止状態として、パージガス供給経路L1から密閉空間2Aにパージガスを供給する。また、流量調整器8によって、供給量を制御しながらパージガスを供給する。同時に、排気経路L2から密閉空間2A内の雰囲気ガスを排気ガスとしてキャビネット2の外側へ排出する。
【0062】
次に、ステップS3に示すように、保管庫1の密閉空間2Aの水分濃度、及び酸素濃度が所要の閾値以下であるかどうかを判定する。
具体的には、排気経路L2から雰囲気ガスを排出する際、酸素濃度測定器9によって雰囲気ガス中の酸素濃度を、水分濃度測定器10によって雰囲気ガス中の水分濃度をそれぞれ測定し、密閉空間2Aの水分濃度、及び酸素濃度が所要の閾値以下であるかどうかを判定する。
【0063】
判定の結果、密閉空間2Aの水分濃度及び酸素濃度のいずれか一方が所要の閾値よりも大きい場合(NO判定)、ステップS2に戻り、パージガスの供給量を制御する。
ここで、ステップS2において、パージガスの供給量は、水分濃度の測定値に応じて変化させてもよい。例えば、密閉空間2Aの水分濃度が所要の閾値よりも高い場合、バージガスの流量は、保管庫1の密閉空間2Aの雰囲気ガスを1~60分で全て置換できるような高流量とすることが好ましい。高流量のパージガスを供給することで、保管庫1の密閉空間2Aに存在する水分、特に原料粉末の表面に吸着する水分を素早く除去することができる。
【0064】
このように、密閉空間2Aの不純物濃度の測定値に応じて、保管庫1の密閉空間2Aに供給するパージガスの流量、及び組成比(酸素濃度)を制御することにより、保管庫1の密閉空間2Aの雰囲気を一早く所望の状態にすることができる。
【0065】
密閉空間2Aの酸素濃度は、6体積%以下であればよく、3体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましい。密閉空間2Aの酸素濃度を3体積%以下とすることで、保管中における原料粉末の酸化を抑制できる。
【0066】
密閉空間2Aの水分濃度は、露点温度-40℃以下であればよく、-50℃以下が好ましく、-60℃以下がより好ましい。密閉空間2Aの水分濃度が、露点温度-40℃以下とすることで、吸湿した原料粉末の水分を除去できる効果や、吸湿を抑制できる効果が得られる。
【0067】
これに対して、ステップS3の判定の結果、密閉空間2Aの水分濃度及び酸素濃度の両方の測定値が所要の閾値以下となった場合(YES判定)、ステップS4に進み、パージガスの供給を停止する。具体的には、開閉弁5,7,11を閉止状態とする。これにより、本実施形態の保管方法によれば、エネルギー消費量を低減できる。また、酸素水分除去装置6への負荷を軽減できるため、酸素水分除去装置6の寿命を長くすることができる。
【0068】
次に、ステップS5に示すように、所要の時間が経過した後、密閉空間2Aにパージガスを供給する。同時に、排気経路L2から密閉空間2A内の雰囲気ガスを排気ガスとしてキャビネット2の外側へ排出する。
【0069】
ここで、パージガスの供給量は、保管庫1の密閉空間2Aの雰囲気ガスを1~60分で全て置換できるような流量とすることが好ましい。短時間で庫内の酸素濃度及びス分濃度を測定する観点から、保管庫1の密閉空間2Aの雰囲気ガスを1~10分で全て置換できるような流量とすることがより好ましい。
【0070】
また、パージガスは、密閉空間2Aの下方に開口する複数の吹き出し口L1a,L1bから密閉空間2Aに供給されることが好ましい。これにより、保管庫1の密閉空間2Aを広範囲に撹拌できるため、後述するステップS6において安定した水分濃度、及び酸素濃度の測定値を得ることができる。
【0071】
次に、ステップS6に示すように、保管庫1の密閉空間2Aの水分濃度、及び酸素濃度が所要の閾値以下であるかどうかを判定する。
具体的には、上述したステップS3と同様に、排気経路L2から雰囲気ガスを排出する際、酸素濃度測定器9によって雰囲気ガス中の酸素濃度を、水分濃度測定器10によって雰囲気ガス中の水分濃度をそれぞれ測定し、密閉空間2Aの水分濃度、及び酸素濃度が所要の閾値以下であるかどうかを判定する。
【0072】
判定の結果、密閉空間2Aの水分濃度及び酸素濃度のいずれか一方が所要の閾値よりも大きい場合(NO判定)、ステップS2に戻り、パージガスの供給を再開する。
【0073】
一方、判定の結果、密閉空間2Aの水分濃度及び酸素濃度の両方の測定値が所要の閾値以下である場合(YES判定)、パージガスの供給を停止する。具体的には、開閉弁5,7,11を閉止状態とする。これにより、エネルギー消費量を低減できる。また、酸素水分除去装置6への負荷が軽減するため、酸素水分除去装置6の寿命を長くすることができる。
【0074】
次に、ステップS7に示すように、保管庫1の運転を停止するかどうかを判定する。
判定の結果、保管庫1の運転を停止せずに継続する場合(NO判定)、ステップS5に戻り、パージガスの供給停止後、所要の時間が経過した後に再びパージガスを密閉空間2Aに供給し、密閉空間2Aの水分濃度及び酸素濃度を測定する。
【0075】
本実施形態の保管方法によれば、保管庫1の密閉空間2Aの不純物濃度が所要の閾値以下となった際にパージガスの供給を停止した後、所要の時間が経過するごとにパージガスを密閉空間2Aに供給し、密閉空間2Aの水分濃度及び酸素濃度を測定することで、保管庫1の消費エネルギー量を低減するとともに、原料粉末の好適な保管環境を維持できる。また、酸素水分除去装置6への負荷を軽減できるため、酸素水分除去装置6の寿命を長くすることができる。
【0076】
また、本実施形態の保管方法によれば、酸素濃度測定器9及び水分濃度測定器10はいずれも排気経路L2に位置するため、密閉空間2Aへのパージガスの供給を停止すると排気ガスが流れないために保管庫1の密閉空間2Aの不純物濃度を正確に測ることができないおそれがあるが、所要の時間が経過するごとにパージガスを密閉空間2Aに供給することで、保管庫1の密閉空間2Aの不純物濃度を正確に測ることができる。
【0077】
なお、パージガスの供給を停止した後、庫内の不純物濃度を計測するためのパージガスの供給間隔は、特に限定されるものではなく、保管庫1の密封性能や容積等に応じて適宜選択することができる。
【0078】
一方、ステップS7の判定の結果、保管庫1の運転を停止する場合(YES判定)、保管庫1の運転を終了(END)する。
【0079】
(変形例1)
本実施形態の保管方法は、上述したステップS2のパージガス供給時において、水分濃度が所要の閾値より高い間のみ、保管庫1の密閉空間2Aを加熱しながらパージガスを供給してもよい。
【0080】
ヒータ3による保管庫1の密閉空間2Aの加熱は、水分濃度が所要の閾値以下となったときに停止する。
【0081】
なお、原料粉末の保管環境維持の観点から、上述したステップS5~ステップS7の間、保管庫1の密閉空間2Aの温度を維持するために、必要に応じてヒータ3により保管庫1の密閉空間2Aの加熱を行ってもよい。
【0082】
本実施形態の保管方法の変形例1によれば、ステップS2のパージガス供給時において、水分濃度が所要の閾値より高い間のみ、保管庫1の密閉空間2Aを加熱した状態でパージガスを供給することで、原料粉末からの水分の脱離・除去を促すことができる。
また、ステップS2のパージガス供給時において、水分濃度が所要の閾値以下では、ヒータ3の出力を小さくできるため、原料粉末の保管時のエネルギー消費量を低減できる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、空気を原料とするパージガスを用いるため、設置場所の制約を受けることなく、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供できる。特に、高圧ガス保安法の規制により、不活性ガスを供給するためのユーテリティ設備を整備できない場合であっても、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供できる。
【0084】
また、本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、最適な雰囲気下で原料粉末を保管できるため、金属3Dプリンタで使用する原料粉末の品質を維持することができ、造形物の性能維持に寄与する。
【0085】
本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、最適な雰囲気下で原料粉末を保管できるため、原料粉末の酸化を抑制できる。これにより、原料粉末の廃棄量を低減できる。
また、本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、保管庫1で保管することで、吸湿した原料粉末を乾燥できる。これにより、金属3Dプリンタによる造形物の性能維持に寄与する。
【0086】
本実施形態の保管庫1および保管方法によれば、パージガスの流量を制御することで、パージガスの供給量の最適化を図ることができるため、パージガスの使用量を低減できる。また、空気を原料とするパージガスを用いるため、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス供給源が不要となるため、原料粉末の保管の際のランニングコストを低減できる。
【0087】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した実施形態の保管庫1によれば、酸素水分除去装置6の一次側及び二次側にそれぞれ開閉弁5,7を設ける構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、
図4に示すように、酸素水分除去装置6の二次側、かつ開閉弁7の一次側のパージガス供給経路L1の分岐点Rから、排出経路L4が分岐する構成の保管庫21としてもよい。
【0088】
上述した実施形態の保管庫1の場合、上述したステップS4のパージガス供給停止時に、酸素水分除去装置6(ガス分離膜モジュール)から酸素及び水分を多く含むガスを排気する排気経路(図示せず)からガスが流出することにより酸素水分除去装置6内の圧力が低下し、酸素水分除去装置6へ大気の巻き込みが生じる場合がある。その結果、パージガスの供給を再開する際に、酸素濃度が高いパージガスを保管庫21内へ供給してしまうことがある。
【0089】
図4に示す保管庫21によれば、酸素水分除去装置6の二次側に開閉弁14を有する排出経路L4を備えるため、上述したステップS4のパージガス供給停止時に、開閉弁7を閉止し、開閉弁14を開放状態とすることができる。これにより、酸素水分除去装置6への大気の巻き込みを抑制するために、酸素水分除去装置6から導出されるパージガスを排出経路L4から一定期間排気し、パージすることができる。したがって、保管庫21によれば、パージガスの供給を再開する際に、清浄なパージガスのみを保管庫21内へ供給することができる。
【0090】
また、上述した本実施形態の保管庫1では、キャビネット2内の密閉空間2Aを加熱する手段としてヒータ3を有し、パージガスを供給する際、パージガスをヒータ3の表面に吹き付けながら供給する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、パージガス供給経路L1に、パージガスを加熱する加熱器を有する構成であってもよい。また、キャビネット2内の密閉空間2Aを高温のパージガスを供給することで加熱し、ヒータ3によって密閉空間2Aを保温する構成であってもよい。
【0091】
また、上述した本実施形態の保管庫1では、パージガスの原料空気としてクリーンドライエア(CDA)を用いる場合を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、保管庫1の設置環境にクリーンドライエアの供給設備がない場合、パージガス供給経路L1に、原料空気を圧縮して供給する空気圧縮機、空気中のパーティクルを除去するフィルタ、及び空気中の水分を除去する水分除去装置を設ける構成としてもよい。
【0092】
また、上述した本実施形態の保管庫1では、パージガスの発生装置として、パージガス供給経路L1に1つの酸素水分除去装置6が位置する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、パージガス供給経路L1が2以上に分岐し、分岐した経路のそれぞれに酸素水分除去装置6が位置する構成としてもよい。このように複数本を並列で設けることにより、使用中の酸素水分除去装置6の機能が低下した際、予備の酸素水分除去装置6に切り替えることで、保管庫1を連続的に運転することができる。
【0093】
また、上述した本実施形態の保管庫1では、原料空気をパージガスの一部として保管庫1の密閉空間2Aに供給可能なバイパス経路L3が、パージガス供給経路L1から分岐した後、再び合流する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、バイパス経路L3は、パージガス供給経路L1から分岐した後、パージガス供給経路L1に合流せずに、直接、保管庫1の密閉空間2Aに接続する構成であってもよい。さらに、バイパス経路L3は、パージガス供給経路L1から分岐したものでなく、最初からパージガス供給経路L1と並列な経路であってもよい。
【0094】
また、上述した本実施形態の保管庫1では、酸素濃度測定器9及び水分濃度測定器10が排気経路L2に位置する構成を一例として説明したが、これに限定されない。酸素濃度測定器9及び水分濃度測定器10は、保管庫1の密閉空間2Aに位置する構成としてもよい。
【0095】
また、上述した本実施形態の保管庫1では、測定値及び制御信号の送受信を行う機能が制御装置13に集約された構成を一例として説明したが、二以上の要素、あるいは位置に分割された構成であってもよい。
さらに、本実施形態の保管庫1では、ヒータ3、開閉弁5、開閉弁7、流量調整器8、開閉弁11、及び流量調整器12が、温度測定器4、酸素濃度測定器9、及び水分濃度測定器10との間で信号を直接送受信する機能を有する場合には、制御装置13が省略された構成としてもよい。
【符号の説明】
【0096】
1・・・金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫(保管庫)
2・・・キャビネット(保管庫本体)
2A・・・密閉空間
3・・・ヒータ(加熱器)
4・・・温度測定器
5・・・開閉弁(第1開閉弁)
6・・・酸素水分除去装置
7・・・開閉弁(第3開閉弁)
8・・・流量調整器(第1流量調整器)
9・・・酸素濃度測定器
10・・・水分濃度測定器
11・・・開閉弁(第2開閉弁)
12・・・流量調整器(第2流量調整器)
L1・・・パージガス供給経路
L2・・・排気経路
L3・・・バイパス経路
L4・・・排出経路
S・・・保管容器
【要約】
【課題】設置場所の制約を受けることなく、金属3Dプリンタ用原料粉末に適した保管環境を提供する。
【解決手段】内側に密閉空間2Aを有し、密閉空間2Aに金属3Dプリンタ用原料粉末を収容する保管容器Sを1以上載置可能な保管庫本体2と、密閉空間2Aに、空気を原料とするパージガスを供給するパージガス供給経路L1と、パージガス供給経路L1に位置し、空気から酸素を除去する酸素水分除去装置6と、を備える金属3Dプリンタ用原料粉末の保管庫1を選択する。
【選択図】
図1