(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】固体撮像素子及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
H04N 25/77 20230101AFI20230607BHJP
H04N 25/10 20230101ALI20230607BHJP
H04N 25/773 20230101ALI20230607BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
H04N25/77
H04N25/10
H04N25/773
H01L27/146 A
H01L27/146 E
(21)【出願番号】P 2019022815
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
【審査官】松永 隆志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05892222(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0131480(US,A1)
【文献】国際公開第2018/224910(WO,A1)
【文献】特開平07-067043(JP,A)
【文献】富田 康弘 ほか6名,エネルギー弁別型X線カラースキャナー,映像情報メディア学会技術報告 ,2004年09月24日,第28巻 第53号,p. 17~20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 23/00-25/79
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アバランシェ電荷増倍をする光電変換部と、
前記光電変換部で生成する電荷量に対応した電圧値としきい値電圧とを比較してパルスを発生し、前記パルスをカウントしてパルス数を出力するアナログ/デジタル変換回路を含む信号読み出し回路とを、画素ごとに備えた固体撮像素子において、
前記信号読み出し回路は、互いに前記しきい値電圧の異なる
第1乃至第3のアナログ/デジタル変換回路を
備えており、
前記第1のアナログ/デジタル変換回路は、赤と緑と青のフォトン数をカウントし、
前記第2のアナログ/デジタル変換回路は、緑と青のフォトン数をカウントし、
前記第3のアナログ/デジタル変換回路は、青のフォトン数をカウントする
ことを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項2】
請求項1に記載の固体撮像素子において、
前記アナログ/デジタル変換回路は、前記光電変換部に入射した前記しきい値電圧に対応する波長より短い波長のフォトン数をカウントするフォトン数カウント回路として機能することを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体撮像素子において、
前記信号読み出し回路は、前記電荷量に対応した電圧値を発生する電圧発生部と、前記電圧値をリセットするリセット手段と、前記電圧値と互いに異なる前記しきい値電圧を比較する複数のコンパレータと、前記コンパレータが出力するパルスをそれぞれカウントする複数のカウンタ回路とを備えていることを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の固体撮像素子において、
前記光電変換部は、結晶セレン膜を備えることを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項5】
請求項
1乃至4のいずれか一項に記載の固体撮像素子において、
さらに、前記第1のアナログ/デジタル変換回路及び前記第2のアナログ/デジタル変換回路の出力から、赤のフォトン数を算出し、前記第2のアナログ/デジタル変換回路及び前記第3のアナログ/デジタル変換回路の出力から、緑のフォトン数を算出する、ことを特徴とする、固体撮像素子。
【請求項6】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の固体撮像素子と、前記固体撮像素子の出力から波長別のフォトン数を算出するフォトン数計算部と、前記フォトン数計算部の出力から画像を生成する画像処理部とを備える、撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子及び撮像装置に関し、特に、可視光全域において高感度な撮像が可能な固体撮像素子及び撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像デバイスの性能は急速に進歩し、低ノイズ化技術においても、回路の読み出しノイズが既に1電子を下回るような段階にまで進んでいる。更にノイズの低減が進みS/N(signal/noise)比が改善できれば、シングルフォトンを検出できるようになり、入射したフォトン数をデジタル的に数えられる究極の感度の撮像デバイスが実現できる。
【0003】
S/N比を改善するためには、ノイズ(N)を低減する以外に信号(S)を大きくするというアプローチも考えられる。これまでに、膜内でのアバランシェ電荷増倍を利用した信号増幅により撮像デバイスを高感度化し、低照度下でも高画質な撮影が可能なことが実証されている(非特許文献1、2)。効率良く増倍率を高めることで高いS/N比が得られれば、シングルフォトンカウンティングを実現できる可能性がある。
【0004】
また、シングルフォトンカウンティングを実現するためには、複数のフォトンが同時に画素に到達しないよう、撮像デバイスの読み出しの高速化が求められる。近年、読み出し回路の高速化も進められており、8Kセンサーのような多画素でも高速撮影を可能にする技術や、読み出し回路を3次元的に積層し、信号を列並列ではなく画素並列で処理することで、画素数に無関係に読み出しを高速化できる技術が報告されている(非特許文献3、特許文献1)。光電変換膜の積層によるアバランシェ電荷増倍を利用した信号増幅と、読み出し回路の高速化を合わせることで、高感度・高画質の撮像デバイス(固体撮像素子及び撮像装置)が実現できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】谷岡健吉他、「アバランシェ増倍α-Se光導電膜を用いた高感度HARP撮像管」、テレビジョン学会誌、(1990年)、vol.44, no.8, pp.1074-1083
【文献】K.Tanioka et. al, “An Avalanche-Mode Amorphous Selenium Photoconductive Layer for Use as a Camera Tube Target” IEEE Electron Device Lett., (1987年), vol.8, no.9, pp.392-394
【文献】T. Arai et. al,“A 1.1-μm 33-Mpixel 240-fps 3-D-Stacked CMOS Image Sensor With Three-Stage Cyclic-Cyclic-SAR Analog-to-Digital Converters”, IEEE Trans. Electron Devices, (2017年), vol.64, no.12, pp.4492-5000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
撮像デバイスには、高感度化・高画質化とともにカラー化が求められているが、単板固体撮像素子のカラー化に関しては、一般的にはベイヤー配列に配置されたカラーフィルターによってR,G,Bに分光することで実現されている。しかし、カラーフィルターを用いた場合は各画素では特定の色以外の光を利用することができず、また、カラー画像を構成するためR,G,Bの3種類の画素が必要となるため、撮像デバイスの感度及び集積度の低下をもたらしている。
【0008】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、カラーフィルターを用いることなく分光を可能とし、また、シングルフォトンカウンティングを可能とする、高感度・高画質の固体撮像素子及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る固体撮像素子は、アバランシェ電荷増倍をする光電変換部と、前記光電変換部で生成する電荷量に対応した電圧値としきい値電圧とを比較してパルスを発生し、前記パルスをカウントしてパルス数を出力するアナログ/デジタル変換回路を含む信号読み出し回路とを、画素ごとに備えた固体撮像素子において、前記信号読み出し回路は、互いに前記しきい値電圧の異なる第1乃至第3のアナログ/デジタル変換回路を備えており、前記第1のアナログ/デジタル変換回路は、赤と緑と青のフォトン数をカウントし、前記第2のアナログ/デジタル変換回路は、緑と青のフォトン数をカウントし、前記第3のアナログ/デジタル変換回路は、青のフォトン数をカウントすることを特徴とする。
【0010】
また、前記固体撮像素子は、前記アナログ/デジタル変換回路が、前記光電変換部に入射した前記しきい値電圧に対応する波長より短い波長のフォトン数をカウントするフォトン数カウント回路として機能することが望ましい。
【0011】
また、前記固体撮像素子は、前記信号読み出し回路が、前記電荷量に対応した電圧値を発生する電圧発生部と、前記電圧値をリセットするリセット手段と、前記電圧値と互いに異なる前記しきい値電圧を比較する複数のコンパレータと、前記コンパレータが出力するパルスをそれぞれカウントする複数のカウンタ回路とを備えていることが望ましい。
【0013】
また、前記固体撮像素子は、前記光電変換部が、結晶セレン膜を備えることが望ましい。
【0014】
また、前記固体撮像素子は、さらに、前記第1のアナログ/デジタル変換回路及び前記第2のアナログ/デジタル変換回路の出力から、赤のフォトン数を算出し、前記第2のアナログ/デジタル変換回路及び前記第3のアナログ/デジタル変換回路の出力から、緑のフォトン数を算出する、ことが望ましい。
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る撮像装置は、前記の固体撮像素子と、前記固体撮像素子の出力から波長別のフォトン数を算出するフォトン数計算部と、前記フォトン数計算部の出力から画像を生成する画像処理部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カラーフィルターを用いることなく分光を可能とし、また、シングルフォトンカウンティングを可能とし、撮像デバイス(固体撮像素子及び撮像装置)の高感度化・高画質化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の固体撮像素子の光電変換部の例を示す図である。
【
図2】入射光の波長による電荷生成の相違を説明する図である。
【
図3】結晶セレンの可視光での吸収係数を示す図である。
【
図4】1フォトン入射時の波長による電荷量の増倍率の相違を示す図である。
【
図5】本発明の固体撮像素子の一画素の信号読み出し回路の例を示す図である。
【
図6】パルス発生のタイミングチャートの例を示す図である。
【
図7】本発明の固体撮像素子の画素アレイの例を示す図である。
【
図8】本発明の固体撮像素子の実装構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明は、低照度下でも高画質な撮影が可能な、膜内でのアバランシェ電荷増倍を利用した信号増幅を行う光電変換部と、光電変換信号を画素並列で処理することが可能な信号読み出し回路との組み合わせにより、撮像デバイスの高感度化・高画質化・カラー化を実現する。
【0020】
[光電変換部]
図1に、本発明の固体撮像素子の光電変換部の例を示す。固体撮像素子100は、信号読み出し回路基板1上に、可視光領域に感度を有する光電変換膜を積層した光電変換部2を設けた構造を備えている。画素に到達した1フォトンは光電変換部2内で電荷に変換された後、アバランシェ増倍により複数の電荷に増幅される。1度の読み出し時間内に、複数のフォトンが同時に到達した場合、各フォトンを分離することができないため、ここでは、シングルフォトン検出を前提とする。
【0021】
図1の光電変換部2は、例えば、金属画素電極3と、酸化ガリウム(Ga
2O
3)膜4と、テルル(Te)膜5と、結晶セレン(c-Se)膜6と、ITO(Indium Tin Oxide)等からなる透明電極7との積層体からなる。n型半導体である酸化ガリウム4と、p型半導体である結晶セレン6との組み合わせにより、ヘテロ接合のpnフォトダイオードが構成される。なお、半導体を結晶セレン(c-Se)膜の単層膜として、画素電極又は透明電極との間でショットキー接合ダイオードを構成してもよい。
【0022】
次に、
図1に示す光電変換部2の製造方法の概要について説明する。まず、信号読み出し回路基板1上の金属画素電極3上に、例えばスパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、真空蒸着法などにより、酸化ガリウム膜4を形成する。その後、例えば真空蒸着法やスパッタリング法などにより、テルル膜5を形成する。テルル膜5は後の熱処理工程において、下層膜と結晶セレン膜6との接着力を向上させ、結晶セレン膜6の膜剥がれを防止する機能を有する。次に、例えば真空蒸着法やスパッタリング法などにより、アモルファスセレン膜を形成する。光電変換膜の厚さは、可視光の吸収率やアバランシェ増倍率等を考慮して適宜な厚さとすることができるが、セレン膜の場合は300~500nmが望ましい。その後、本実施形態では、例えば、100℃~220℃の温度で30秒~1時間熱処理する。このことにより、アモルファスセレン膜が結晶化され、結晶セレン膜6となる。熱処理温度および熱処理時間が上記範囲内であると、結晶性の良好な結晶セレン膜6が得られる。最後に真空蒸着法やスパッタリング法により透明電極7を形成する。
【0023】
固体撮像素子の動作時には、光電変換部2でアバランシェ電荷増倍を生じるように、画素電極3と透明電極7との間に電圧を加え、半導体膜中に107V/m程度の電界を発生させる。
【0024】
なお、本実施形態では、光電変換部の材料として結晶セレン(c-Se)を利用したが、この他にも、可視光領域に吸収を有する半導体である、アモルファスセレン(a-Se)、CIGS(CuInGaSe)、結晶シリコン(c-Si)、アモルファスシリコン(a-Si)、カドミウムテルル(CdTe)、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム燐(InP)、硫化銅(Cu2S)等の材料について利用可能性がある。
【実施例】
【0025】
以下に示す方法により、
図1に示す固体撮像素子の光電変換部2を作製した。
【0026】
信号読み出し回路基板1上に各信号読み出し回路と接続する金属画素電極3を形成した。この金属画素電極3は、Auを被着してパターニングし、画素単位に独立した電極とした。基板1上の金属画素電極3(Au)上に、スパッタリング法により膜厚20nmの酸化ガリウム膜4を形成した。酸化ガリウム膜4は、成膜時に酸素分圧を1.5×10-2Paとし、RFパワー100Wで成膜した。次に、真空蒸着法により膜厚1nmのテルル膜5を成膜した。続いて、テルル膜5上に真空蒸着法により、膜厚300nmのアモルファスセレン膜を形成した。その後、電極3と酸化ガリウム膜4とテルル膜5とアモルファスセレン膜との形成された基板を、200℃で1分熱処理し、膜厚300nmの結晶セレン膜6を形成した。最後にスパッタリング法により膜厚30nmのITO膜からなる透明電極7を形成した。
【0027】
なお、金属画素電極3が画素単位で分離されており、アバランシェ電荷増倍は膜の厚さ方向に生じるため、酸化ガリウム膜4、テルル膜5、セレン膜6、及び透明電極7は、画素分離する必要が無く、基板1上に一様に形成することができる。
【0028】
図2は、入射光の波長による電荷生成の相違を説明する図である。より詳細には、赤(R),緑(G),青(B)に相当する異なるエネルギーを有するフォトンが、光電変換部2内で吸収および電荷に変換され、膜内を走行中に増倍される様子を示す。なお、光電変換部2は、アバランシェ電荷増倍の大部分が生じる結晶セレン6と、透明電極7と画素電極3のみを、簡略化して記載している。また、
図3に、結晶セレンの可視光での吸収係数を示す。
【0029】
入射光のエネルギーの違いによって結晶セレン膜6の吸収係数が異なる(
図3)ことから、光の膜内での侵入長が異なる。
図2で示すように、短波長側の光の方が、膜6の表面に近い側で吸収され電荷に変換されるため、画素電極3で読み出されるまでの膜内での電荷走行距離は長くなる。したがって、走行距離が長いほどアバランシェ効果の影響が強く生じ、電荷増倍率が高くなる。実際、非特許文献1では、膜厚の異なる光電変換膜において、電荷走行距離の違いから、同一電界で比較した場合、膜厚の厚い試料の方が増倍率は高いことが示されている。電荷走行距離の違いによる増倍率の違いを利用すると、短波長光(B)は増倍率が高く、長波長光(R)は増倍率が小さい、というように波長ごとに増倍率が異なることになる。
【0030】
図4に、1フォトン入射時の波長による電荷量の増倍率の相違を示す。グラフの横軸に光電変換膜に印加される電界を、縦軸に増倍された電荷量をとる。ある電界まではアバランシェ電荷増倍が生じないため、波長による電荷量の相違はないが、アバランシェ電荷増倍が生じる電界以上の条件では、波長による光電変換膜中の走行距離の差が、電荷増倍率の違いとなり、電荷量の差として検出される。この波長ごとの増倍率の違いを電荷量の違いとして分別することで、カラーフィルターを使用せずにR,G,Bの分光が可能となる。
【0031】
入射光の波長の違いによる増倍されたキャリア数の違いは、次のように推定される。結晶セレン膜内では、緑色の波長(550nm)の光の侵入長(100%吸収されるまでの侵入長)は青色の波長(450nm)の光の約2倍、赤色の波長(650nm)の光の侵入長は青色の波長の光の約3倍となる。走行距離と増倍率の関係から、各波長において発生するキャリア数をおおよそ見積もると、1個のフォトンが入射した場合、赤色光で20個、緑色光で100個、青色光で200個のキャリアが生成される。このキャリア数の違いを、信号読み出し回路で設定したしきい値で判別することで分光が可能となる。
【0032】
[信号読み出し回路]
図5に、本発明の固体撮像素子の一画素の信号読み出し回路の例を示す。信号読み出し回路は、光電変換部2で光電変換され増倍された電荷(信号電荷)を蓄積するフローティングディフュージョン(FD)10、フローティングディフュージョン10をリセットするリセットトランジスタ(T
RST)20、アンプ(Amp)30、コンパレータ(Comp1~Comp3)41~43、偶数個のインバータ51
1~51
2nからなるインバータチェーン50、及びカウンタ61~63を備える。
【0033】
アンプ(Amp)30の入力は、フローティングディフュージョン10の電極11(信号検出電圧VFD)に接続され、出力端31(出力電圧値VC)は、各コンパレータ41~43のマイナス(-)入力に接続される。また、各コンパレータ41~43のプラス(+)入力には、互いに異なるしきい値電圧(VTH1~VTH3)が入力される。
【0034】
フローティングディフュージョン(FD)10とアンプ(Amp)30は、光電変換部2で生成する電荷量に対応した電圧値VCを発生する電圧発生部として機能する。また、リセットトランジスタ(TRST)20は、フローティングディフュージョン10をリセットするとともに、電圧値VCをリセットするリセット手段である。
【0035】
なお、アンプ(Amp)30はオプションであり、アンプ30を用いずにフローティングディフュージョン10を直接コンパレータ41~43の入力端子に接続しても良い。ただし、コンパレータ41~43に接続することで、フローティングディフュージョン10の容量が実質的に大きくなり、信号電荷に対して信号検出電圧VFDが小さくなってしまうため、アンプ30を配置することが望ましい。アンプ30は、ソースフォロアアンプ等を用いることができる。また、後述のとおり、インバータチェーン50は遅延回路として機能しており、他の回路部分又は代替回路で十分な遅延時間が確保できるのであれば、省略又は置換してもよい。
【0036】
信号読み出し回路の内、リセットトランジスタ(TRST)20、コンパレータ(Comp1)41、及びインバータチェーン50は、パルス発生回路を構成し、出力VOUT1として光電変換部2で生成する電荷量(本発明では光電変換部2に入射したフォトン数)に対応する数のパルスを出力する。そして、カウンタ61が発生したパルス数をカウントし、カウント数をデジタル信号として出力する。すなわち、信号読み出し回路は、1bit型アナログ/デジタル(A/D)変換回路を構成しており、これはフォトン数カウント回路として機能する。
【0037】
同様に、コンパレータ42,43からも、電荷量としきい値に基づいてパルスが発生し、カウンタ62,63が発生したパルス数をそれぞれカウントし、カウント数をデジタル信号として出力する。本実施形態では、コンパレータとカウンタの組合せからなるアナログ/デジタル変換回路(フォトン数カウント回路)を3系統含む信号読み出し回路となっている。
【0038】
図6に、パルス発生のタイミングチャートの例を示す。まず、フローティングディフュージョン(FD)10の電位(信号検出電圧)V
FD がリセット電圧V
RSTにリセットされた状態からスタートする。V
FDがV
RSTの時のアンプ30の出力電圧V
CをV
C0とする。
【0039】
あるエネルギーを持った1フォトンが光電変換部2に入射し、光電変換および電荷増倍を経て、電荷がフローティングディフュージョン10に蓄積された時のVFDに対応した、アンプ30の出力電圧VCを考える。1フォトンが赤Rの波長の場合のVCをVR、緑Gの波長の場合のVCをVG、青Bの波長の場合のVCをVBとする。なお、本実施形態の回路構成では、リセット電圧VRSTでフローティングディフュージョン10にチャージされていた電荷が、フォトンにより生じた電荷により消滅(放電)されるから、出力電圧VCは低くなる。ここで、コンパレータ41~43のしきい値電圧VTH1~VTH3を、
VC0 > VTH1 > VR
VR > VTH2 > VG
VG > VTH3 > VB
となるように設定する。
【0040】
時刻T1でR、時刻T2でG、時刻T3でBのフォトンが、それぞれ到来したとする。このとき、
図2に示されるように、各フォトンが光電変換および電荷増倍を経て、V
Cを変化させる。(
図6では、電荷走行による若干のタイムラグは無視して、電圧がしきい値電圧に達したときをT1,T2,T3と記載している。)
【0041】
時刻T1において、VCがVRに変化する途中で、VTH1 > VCとなるため、コンパレータ41の出力がHighになり、さらにインバータチェーン50の出力電圧が反転し(インバータ51は偶数個であるのでインバータチェーン50の入力と出力は同じ)、VOUT1がHighレベルになる。なお、VTH1 > VCとなった時刻T1とVOUT1がHighレベルになった時刻とがずれているのは、インバータチェーン50による遅延効果である。そして、HighレベルになったVOUT1がリセットトランジスタ20のゲート電極に印加され、リセットトランジスタ20がONするため、フローティングディフュージョン10の電圧VFDがVRSTにリセットされる。すると、アンプ30の出力電圧VCがVC0に戻り、コンパレータ41の出力がLowとなる。さらにインバータチェーン50の出力電圧が反転し、出力VOUT1もLowレベルに戻る。この動作により、出力電圧VOUT1にパルス信号が発生する。なお、このとき、コンパレータ42,43はしきい値電圧を越えないため、出力電圧VOUT1とVOUT2には変化が生じない。
【0042】
時刻T2においては、VCがVGに変化する途中で、VTH1 > VC及びVTH2 > VCとなるため、コンパレータ41,42の出力がHighになり、VOUT1とVOUT2がHighレベルとなる。その後、リセットトランジスタ20がONし、アンプ30の出力電圧VCがVC0に戻り、時刻T1のときと同様に、出力VOUT1とVOUT2がLowレベルに戻る。この動作により、出力電圧VOUT1とVOUT2にパルス信号が発生する。
【0043】
時刻T3においては、VCがVBに変化する途中で、VTH1 > VC、VTH2 > VC、及びVTH3 > VCとなるため、コンパレータ41~43の出力が順次Highになり、VOUT1とVOUT2とVOUT3がHighレベルとなる。その後、同様に、リセットトランジスタ20がONし、アンプ30の出力電圧VCがVC0に戻り、出力VOUT1とVOUT2とVOUT3がLowレベルに戻る。この動作により、出力電圧VOUT1とVOUT2とVOUT3にパルス信号が発生する。
【0044】
VOUT1、VOUT2、VOUT3のパルス信号を1フレーム期間中にR+G+Bカウンタ61、G+Bカウンタ62、Bカウンタ63でそれぞれ数える。カウンタ61からは、1フレーム期間中に入射した[Rのフォトン数+Gのフォトン数+Bのフォトン数]が得られ、カウンタ62からは、[Gのフォトン数+Bのフォトン数]が得られ、カウンタ63からは、[Bのフォトン数]が得られる。そして、1フレームごとにカウンタ値を読み出した後、カウンタ61~63をリセットする。
【0045】
よって、コンパレータ41~43とカウンタ61~63からなるアナログ/デジタル変換回路は、それぞれ、コンパレータ41~43のしきい値電圧(VTH1~VTH3)に対応する波長より短い波長のフォトンが光電変換部2に入射されたとき、フォトン数をカウントすることができる。
【0046】
フォトンが入射したか否かを検出するには、VOUT1のパルス信号だけを検出すればよいことから、VOUT1のみをリセットトランジスタ20に接続すればよい。コンパレータ(Comp1)41の後段に配置するインバータチェーン50は、回路の遅延を設けて、パルス信号における一定のパルス立ち上がり時間(コンパレータ31によるVTH1 > VCの検出から、VOUT1がHighとなるまでの時間)を確保している。一定のパルス立ち上がり時間を確保できれば、必ずしもインバータチェーン50を用いなくともよく、例えば、VOUT1のノードに抵抗や容量成分を付加して遅延させる構成なども考えられる。GとBのフォトンが入射した際には、VOUT1よりもVOUT2とVOUT3のパルス発生が少しだけ遅れるため、VOUT2とVOUT3のパルス発生が行われる前に、VOUT1のパルス発生によりフローティングディフュージョン10がVRSTにリセットされてVCがVC0に戻ることを避ける必要があることから、VOUT1、VOUT2、VOUT3間のパルス発生タイミングの差分よりもコンパレータ41・インバータチェーン50の遅延時間を長く設定する必要がある。
【0047】
本実施形態では、3系統のアナログ/デジタル変換回路、すなわち3系統のフォトン数カウント回路(3つのコンパレータ41~43と3つのカウンタ61~63)により、R,G,Bのフォトンを区別して検出したが、アナログ/デジタル変換回路(フォトン数カウント回路)は、任意に複数系統設定することができる。2系統であれば、短波長と長波長に区別できる。さらに、4系統、5系統としてしきい値電圧を異ならせれば、それだけ波長を細分化して検出できる。
【0048】
図7に、本発明の固体撮像素子の画素アレイの例を示す。
図7は、固体撮像素子100を平面視した図であって、光電変換部2とカウンタ61~63は積層形成されている。画素アレイの周囲に行および列走査のための垂直シフトレジスタ70及び水平シフトレジスタ80が配置されており、1フレーム期間終了後に行選択線71と信号読み出し線81を用いて、XYアドレス方式で各画素のR+G+Bカウンタ61、G+Bカウンタ62、Bカウンタ63の値を読み出す。シフトレジスタ70の行選択線71は、各画素のR+G+Bカウンタ61、G+Bカウンタ62、Bカウンタ63の3つを同時に選択しており、信号読み出し線81からは3本の読み出し線により3チャンネル分の信号が並列に出力される。全画素のカウンタ値を出力した後、全画素のカウンタ値をリセットして、次のフレームの露光を開始する。
【0049】
Rのフォトン数、Gのフォトン数、Bのフォトン数を得るには、カウンタ値を用いて、それぞれ
Rのフォトン数 = (R+G+Bカウンタの値)-(G+Bカウンタの値)
Gのフォトン数 = (G+Bカウンタの値)-(Bカウンタの値)
Bのフォトン数 = (Bカウンタの値)
と算出することで、求められる。このフォトン数計算処理は、固体撮像素子100の内部で行うことも、また、固体撮像素子100の外部で行うこともできる。
【0050】
図8は、本発明の固体撮像素子の実装構造の一例を示す図である。
図8の固体撮像素子100は、画素を構成する各回路要素を異なる基板に形成し、それを3次元積層したものである。
【0051】
図8において、固体撮像素子100は、光電変換層(受光層)110と、パルス発生回路層120と、カウンタ回路層130と、制御回路層140とから、構成されている。各層は、画素単位で分割されており(図では例えば16分割)、分割されたそれぞれの区画は縦方向に接続され(接続配線は図示せず)、全体で固体撮像素子100が構成されている。
【0052】
すなわち、光電変換部2を最上層の受光層110に形成し、フローティングディフュージョン10、リセットトランジスタ20、アンプ30、コンパレータ41~43、及びインバータチェーン50を2層目のパルス発生回路層120に形成し、カウンタ61~63をカウンタ回路層130に形成する。そして、最下層の制御回路層140には、走査回路や必要な制御回路等を形成して、各回路を縦方向に接続し、例えば最下層140から出力(例えば、画素ごとの各カウンタ値)を取り出すことができる。なお、制御回路層140において、上述のフォトン数計算処理を行うこともできる。
【0053】
このように、カウンタ回路や制御回路を光電変換部とは別の基板に形成して3次元積層して、画素ごとに3次元的に配線することで、高精細な固体撮像素子を実現できる。
【0054】
図9は、本発明の撮像装置のブロック図の例である。
図9の撮像装置400は、固体撮像素子100と、フォトン数計算部200と、画像処理部300とを備えている。
【0055】
固体撮像素子100は、例えば、
図5で示された信号読み出し回路を備える固体撮像素子であり、光(フォトン)が入射され、画素ごとのR+G+Bカウンタの値、G+Bカウンタの値、及びBカウンタの値が出力される。
【0056】
フォトン数計算部200は、固体撮像素子100から各カウンタ値が入力され、内部で上述のフォトン数計算処理を行い、各画素におけるRフォトン数、Gフォトン数、Bフォトン数を出力する。
【0057】
画像処理部300は、フォトン数計算部200から入力された、各波長別のフォトン数に基づいて画像処理を行い、入射された光の画像を出力する。
【0058】
このように、シングルフォトンカウンティングに基づく撮像装置を実現できる。
【0059】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 信号読み出し回路基板
2 光電変換部
3 金属画素電極
4 酸化ガリウム膜
5 テルル膜
6 結晶セレン膜
7 透明電極
10 フローティングディフュージョン
20 リセットトランジスタ
30 アンプ
41~43 コンパレータ
50 インバータチェーン
51 インバータ
61~63 カウンタ
70 垂直シフトレジスタ
71 行選択線
80 水平シフトレジスタ
81 信号読み出し線
100 固体撮像素子
110 光電変換層
120 パルス発生回路層
130 カウンタ回路層
140 制御回路層
200 フォトン数計算部
300 画像処理部
400 撮像装置