(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-06
(45)【発行日】2023-06-14
(54)【発明の名称】酸化第一錫の溶解方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/14 20060101AFI20230607BHJP
C07F 7/22 20060101ALI20230607BHJP
C07C 309/04 20060101ALN20230607BHJP
【FI】
C25D21/14 E
C07F7/22 N
C07C309/04
(21)【出願番号】P 2021536616
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2020018453
(87)【国際公開番号】W WO2021019862
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019142457
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019188074
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 幸一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-143366(JP,A)
【文献】特開2017-020102(JP,A)
【文献】特開2013-079186(JP,A)
【文献】特開2010-133012(JP,A)
【文献】特開2014-001410(JP,A)
【文献】特開2009-149979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-3/66
C25D 13/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化第一錫をメタンスルホン酸水溶液中で溶解して、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する方法であって、
酸化第一錫のモル数をAとし、メタンスルホン酸のモル数をBとした場合に、
B/2Aの値が、
1.00~1.09の範囲にあり、
酸化第一錫が、メタンスルホン酸水溶液中へ全て溶解した場合に、Sn
2+イオンとして存在する錫の含有量が、300~450g/Lの範囲であ
って、
メタンスルホン酸水溶液の温度を30~50℃に維持し、
メタンスルホン酸水溶液中へ、酸化第一錫粉末を投入して、攪拌して溶解することによって、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する、製造方法。
【請求項2】
B/2Aの値が、
1.01~1.05の範囲にある、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
メタンスルホン酸水溶液中へ、酸化第一錫粉末を
1分間~10分間をかけて続けて投入して、攪拌して溶解することによって、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する、
請求項1~2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
酸化第一錫のモル数Aが、溶解のために使用される酸化第一錫の全量のモル数であり、
メタンスルホン酸のモル数Bが、溶解のために使用されるメタンスルホン酸の全量のモル数である、
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の製造方法によって製造されたメタンスルホン酸錫水溶液を、錫めっき液へ添加する工程、
を含む、錫めっき液へ錫イオンを補給する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の錫イオンの補給方法によって、錫イオンが補給された錫めっき液を製造する方法。
【請求項7】
Sn
2+イオンとして存在する錫の含有量が、
420g/Lよりも大きく450g/L以下の範囲にある、メタンスルホン酸錫水溶液。
【請求項8】
メタンスルホン酸錫水溶液が、錫めっき液への錫イオン補給用メタンスルホン酸錫水溶液である、
請求項7に記載のメタンスルホン酸錫水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタンスルホン酸水溶液へ酸化第一錫を溶解してメタンスルホン酸錫水溶液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錫めっきを行うにあたって、陽極を金属錫ではなく不溶性電極(白金、貴金属酸化物等)を使用する場合がある。その際、めっき液から消耗する錫イオン補給として、しばしば二価錫イオン溶液の添加が行われる。この二価錫イオン溶液として、酸化第一錫がメタンスルホン酸水溶液中へ溶解したメタンスルホン酸錫溶液が使用される。このメタンスルホン酸錫溶液は、錫イオン補給のための溶液であるから、錫イオン濃度が高いほうがよい。
【0003】
特許文献1(特開2003-96590号公報)は、実施例において、メタンスルホン酸錫の濃度が錫として100g/Lであり、メタンスルホン酸の濃度が150g/Lである溶液を開示している。
【0004】
特許文献2(特開2005-314799号公報)は、実施例において、Sn2+イオンの濃度が20g/Lであり、メタンスルホン酸の濃度が30mL/Lである溶液を開示している。
【0005】
特許文献3(特開2010-163667号公報)は、実施例において、メタンスルホン酸錫の濃度が錫として15g/Lであり、メタンスルホン酸の濃度が遊離酸として115g/Lである溶液を開示している。
【0006】
特許文献4(特許第5104253号公報)は、実施例の比較試験1において25℃メタンスルホン酸300mLにSnO:20gを溶解したことを開示している。
【0007】
特許文献5(特許第5458555号公報)は、実施例1において25℃メタンスルホン酸300mLにSnO:20gを溶解したことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-96590号公報
【文献】特開2005-314799号公報
【文献】特開2010-163667号公報
【文献】特許第5104253号公報
【文献】特許第5458555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、メタンスルホン酸錫溶液は、錫イオン補給のための溶液であるから、錫イオン濃度が高いほうがよい。しかし、先行技術において開示されたメタンスルホン酸錫溶液中の錫イオン濃度は、いずれも低い。
【0010】
したがって、本発明の目的は、メタンスルホン酸水溶液中へ酸化第一錫を溶解する方法であって、高い錫イオン濃度を達成可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行ってきた。そして、後述する方法によってメタンスルホン酸水溶液中へ酸化第一錫を溶解すると、これまでよりも高い錫イオン濃度を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0012】
したがって、本発明は次の(1)を含む。
(1)
酸化第一錫をメタンスルホン酸水溶液中で溶解して、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する方法であって、
酸化第一錫のモル数をAとし、メタンスルホン酸のモル数をBとした場合に、
B/2Aの値が、1.0~1.4の範囲にある、製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、錫イオン補給用に好適に使用可能なメタンスルホン酸錫溶液であって、高い錫イオン濃度を有するメタンスルホン酸錫溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、MSA1.03倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【
図2】
図2は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、MSA1.11倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【
図3】
図3は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、98%MSA1.03倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【
図4】
図4は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、MSA1.01倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【
図5】
図5は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、MSA1.05倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【
図6】
図6は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、MSA1.3倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【
図7】
図7は、メタンスルホン酸(以下MSA)水溶液中への酸化第一錫の溶解実験において、MSA1.4倍、MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍を対比して、SnO投入量から予想されるSn濃度(g/L)と、実際に達成されたSn濃度(g/L)との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0016】
[メタンスルホン酸錫水溶液の製造]
本発明によれば、酸化第一錫をメタンスルホン酸水溶液中で溶解して、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する方法であって、酸化第一錫のモル数をAとし、メタンスルホン酸のモル数をBとした場合に、B/2Aの値が、1.0~1.4の範囲にある製造方法によって、高い錫イオン濃度を有するメタンスルホン酸錫水溶液を製造することができる。
【0017】
[B/2Aの値]
溶解に使用する酸化第一錫のモル数をAとし、溶解に使用するメタンスルホン酸のモル数をBとする。この場合に、目標とする錫濃度を達成するために必要となる錫のモル数を決定すれば、溶解反応での化学量論比に従って、反応に必要となるメタンスルホン酸のモル数が定まる。
SnO+2CH3SO3H→Sn(CH3SO3)2+H2O
【0018】
そこで、必要となる錫のモル数から化学量論比に従って定まった、反応に必要となるメタンスルホン酸のモル数に対して、1.0倍のモル数のメタンスルホン酸を使用するときに、B/2Aの値は、1.0となる。同様に、必要となる錫のモル数から化学量論比に従って定まった、反応に必要となるメタンスルホン酸のモル数に対して、1.1倍のモル数のメタンスルホン酸を使用するときには、B/2Aの値は、1.1となる。このように、B/2Aの値は、反応の化学量論比に従って必要となるメタンスルホン酸のモル数に対して、何倍のメタンスルホン酸のモル数を使用したかを示す指標である。本願では、このB/2Aの値がnであるときに、MSA n倍と表記することがある。
【0019】
好適な実施の態様において、溶解に使用する酸化第一錫のモル数Aとは、溶解のために使用される酸化第一錫の全量のモル数であり、溶解に使用するメタンスルホン酸のモル数Bとは、溶解のために使用されるメタンスルホン酸の全量のモル数である。
【0020】
よく知られているように、ある物質を溶液中の化学反応によって溶解させたい場合には、化学反応の相手方となる溶液の溶質の濃度をより高濃度にすれば、目的とする物質もより高濃度に溶解することが期待される。これまで、メタンスルホン酸の水溶液へ、酸化第一錫を溶解する場合においても、メタンスルホン酸の濃度を高くするほど、より高い錫イオン濃度が達成できると、一般に考えられてきた。
【0021】
ところが、後述する実施例の実験の結果によって示されるように、化学量論的に必要となる理論反応量よりも過剰となるメタンスルホン酸の濃度をむしろ低くした領域内に、高い錫イオン濃度を達成できる濃度条件があることを、本発明者は見いだした。この知見によれば、酸化第一錫のモル数をAとし、メタンスルホン酸のモル数をBとした場合に、B/2Aの値を上記範囲内とした場合に、メタンスルホン酸の濃度をさらに高くした場合よりも、化学量論的な理論反応量に近づけた方がより高い錫イオン濃度を達成することができる。
【0022】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.40の範囲、好ましくは1.01~1.40の範囲、あるいは1.02~1.40の範囲、あるいは1.03~1.40の範囲とすることができる。
【0023】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.30の範囲、好ましくは1.01~1.30の範囲、あるいは1.02~1.30の範囲、あるいは1.03~1.30の範囲とすることができる。
【0024】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.20の範囲、好ましくは1.01~1.20の範囲、あるいは1.02~1.20の範囲、あるいは1.03~1.20の範囲とすることができる。
【0025】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.15の範囲、好ましくは1.01~1.15の範囲、あるいは1.02~1.15の範囲、あるいは1.03~1.15の範囲とすることができる。
【0026】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.12の範囲、好ましくは1.01~1.12の範囲、あるいは1.02~1.12の範囲、あるいは1.03~1.12の範囲とすることができる。
【0027】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.11の範囲、好ましくは1.01~1.11の範囲、あるいは1.02~1.11の範囲、あるいは1.03~1.11の範囲とすることができる。
【0028】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.10の範囲、好ましくは1.01~1.10の範囲、あるいは1.02~1.10の範囲、あるいは1.03~1.10の範囲とすることができる。
【0029】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.09の範囲、好ましくは1.01~1.09の範囲、あるいは1.02~1.09の範囲、あるいは1.03~1.09の範囲とすることができる。
【0030】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.08の範囲、好ましくは1.01~1.08の範囲、あるいは1.02~1.08の範囲、あるいは1.03~1.08の範囲とすることができる。
【0031】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.07の範囲、好ましくは1.01~1.07の範囲、あるいは1.02~1.07の範囲、あるいは1.03~1.07の範囲とすることができる。
【0032】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.06の範囲、好ましくは1.01~1.06の範囲、あるいは1.02~1.06の範囲、あるいは1.03~1.06の範囲とすることができる。
【0033】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.05の範囲、好ましくは1.01~1.05の範囲、あるいは1.02~1.05の範囲、あるいは1.03~1.05の範囲とすることができる。
【0034】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.04の範囲、好ましくは1.01~1.04の範囲、あるいは1.02~1.04の範囲、あるいは1.03~1.04の範囲とすることができる。
【0035】
好適な実施の態様において、B/2Aの値は、例えば1.00~1.03の範囲、好ましくは1.01~1.03の範囲、あるいは1.02~1.03の範囲とすることができる。
【0036】
[酸化第一錫]
使用される酸化第一錫には、特に制限はなく、市販の酸化第一錫を使用することができる。好適な実施の態様において、酸化第一錫は、粉末の形態とすることができる。粉末の形態としては、溶解の操作に適していれば特に制限なく使用することができるが、例えば平均粒径が、1μm~100μmの範囲の粉末を使用することができる。
【0037】
[メタンスルホン酸]
使用されるメタンスルホン酸には、特に制限はなく、市販のメタンスルホン酸を使用することができる。好適な実施の態様において、メタンスルホン酸は、メタンスルホン酸水溶液の形態で使用することができる。好適な実施の態様において、メタンスルホン酸水溶液におけるメタンスルホン酸の濃度は、上述のように、目標とする溶解後の錫イオン濃度と、B/2Aの値に依存して決定される。
【0038】
[酸化第一錫粉末の投入と攪拌]
好適な実施の態様において、メタンスルホン酸水溶液中へ、酸化第一錫粉末を投入して、攪拌して溶解することによって、メタンスルホン酸錫水溶液を製造することができる。投入と攪拌は、公知の手段を使用して行うことができる。投入と攪拌の操作は、酸化第一錫粉末が溶解するまで行われる。溶解は、黒色の酸化第一錫粉末が溶解によって無色透明となるために、目視によって検出することができる。好適な実施の態様において、投入と攪拌の操作は、その全体量にも依存するが、例えば0.1分間~60分間、あるいは1分間~30分間、あるいは1分間~10分間をかけて行うことができる。好適な実施の態様において、溶解の際の溶液の温度は、特に制限はないが、例えば10~80℃の範囲、あるいは例えば20~60℃の範囲とすることができる。
【0039】
[メタンスルホン酸錫水溶液]
本発明によれば、酸化第一錫をメタンスルホン酸水溶液中で溶解して、メタンスルホン酸錫水溶液を製造することができる。得られたメタンスルホン酸錫水溶液は、高い濃度の錫を、Sn2+イオンの形態で含有する。
【0040】
好適な実施の態様において、メタンスルホン酸錫水溶液中において、Sn2+イオンとして存在する錫の含有量が、例えば200~450g/Lの範囲、好ましくは250~450g/Lの範囲、好ましくは300~450g/Lの範囲、好ましくは350~450g/Lの範囲、あるいは200~430g/Lの範囲、好ましくは250~430g/Lの範囲、好ましくは300~430g/Lの範囲、好ましくは350~430g/Lの範囲とすることができる。
【0041】
好適な実施の態様において、メタンスルホン酸錫水溶液中のメタンスルホン酸の含有量は、上述したB/2Aの値と、錫の含有量とから、決定される。好適な実施の態様において、メタンスルホン酸錫水溶液中において、メタンスルホン酸イオンとして存在するメタンスルホン酸の含有量が、例えば0.1~100g/Lの範囲、あるいは0.1~70g/Lの範囲、あるいは0.1~50g/Lの範囲、あるいは0.1~40g/Lの範囲、あるいは0.1~30g/Lの範囲、あるいは0.1~25g/Lの範囲、あるいは0.1~20g/Lの範囲とすることができる。
【0042】
[錫めっき液への錫イオンの補給]
好適な実施の態様において、本発明によって製造されるメタンスルホン酸錫水溶液は、Sn2+イオンとして存在する錫の含有量が、高い含有量となっている。錫めっきを行うにあたって、陽極を金属錫ではなく不溶性電極(白金、貴金属酸化物等)を使用する場合には、めっき液から錫イオンが消耗するから、このような錫めっき液への錫イオンの補給のために、Sn2+イオンが高濃度であるという特性を活かして、好適に使用することができる。したがって、本発明は、本発明によって製造されるメタンスルホン酸錫水溶液を、錫めっき液へ添加して、錫めっき液へ錫イオンを補給する方法を含む。さらに、本発明は、このように錫イオンが補給された錫めっき液を製造する方法を含む。
【0043】
[好適な実施の態様]
好適な実施の態様において、本発明は、次の(1)以下を含んでもよい。
(1)
酸化第一錫をメタンスルホン酸水溶液中で溶解して、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する方法であって、
酸化第一錫のモル数をAとし、メタンスルホン酸のモル数をBとした場合に、
B/2Aの値が、1.0~1.4の範囲にある、製造方法。
(2)
酸化第一錫が、酸化第一錫粉末である、(1)に記載の製造方法。
(3)
B/2Aの値が、1.01~1.4の範囲にある、(1)~(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4)
メタンスルホン酸水溶液中へ、酸化第一錫粉末を投入して、攪拌して溶解することによって、メタンスルホン酸錫水溶液を製造する、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)
酸化第一錫が、メタンスルホン酸水溶液中へ全て溶解した場合に、Sn2+イオンとして存在する錫の含有量が、300~450g/Lの範囲である、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)
酸化第一錫のモル数Aが、溶解のために使用される酸化第一錫の全量のモル数であり、
メタンスルホン酸のモル数Bが、溶解のために使用されるメタンスルホン酸の全量のモル数である、(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)
(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたメタンスルホン酸錫水溶液を、錫めっき液へ添加する工程、
を含む、錫めっき液へ錫イオンを補給する方法。
(8)
(7)に記載の錫イオンの補給方法によって、錫イオンが補給された錫めっき液を製造する方法。
(9)
Sn2+イオンとして存在する錫の含有量が、300~450g/Lの範囲にある、メタンスルホン酸錫水溶液。
(10)
メタンスルホン酸錫水溶液が、錫めっき液への錫イオン補給用メタンスルホン酸錫水溶液である、(9)に記載のメタンスルホン酸錫水溶液。
【実施例】
【0044】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[例1:酸化第一錫の溶解による高濃度メタンスルホン酸錫溶液の調整]
高濃度メタンスルホン酸錫溶液を調整するために、メタンスルホン酸水溶液中へ酸化第一錫粉末を投入して、溶解する操作を、以下のように条件を設定して行った。
酸化第一錫粉末として、市販の酸化第一錫粉末(JX金属商事株式会社製 HK0040 活性酸化第一錫)を用意した。
メタンスルホン酸水溶液として、市販のメタンスルホン酸水溶液(JX金属商事株式会社製、製品名:NSP-A700M、メタンスルホン酸濃度68質量%)を用意した。
【0046】
[目標錫濃度と酸化第一錫使用量の決定]
調整する高濃度メタンスルホン酸錫溶液の液量を100mLとした。
目標とする高濃度の錫濃度(Sn2+イオン濃度)として、複数の濃度(例えば、300g/L)を設定した。
【0047】
上記の目標とする各錫濃度を達成するために、必要となるSn量を算出した。
例えば、100mL中に錫濃度を300g/Lとするために必要となるSn量は、30gである。
【0048】
上記の各錫濃度を達成するために、必要となる酸化第一錫粉末の質量をそれぞれ決定した。
例えば、100mL中に錫濃度を300g/Lとするために必要となる酸化第一錫粉末の質量はこれが湿潤品であってSn品位86%となる場合に、30.0g÷0.86=34.88→約34.9gとなる。
【0049】
[MSA使用量の決定]
酸化第一錫(以下SnOと記す場合がある)は、メタンスルホン酸(CH3SO3H、)と、次のように反応して溶解する。
SnO+2CH3SO3H→Sn(CH3SO3)2+H2O
このように、SnO:MSA=1:2のモル比で、SnOはMSAへ溶解する。
【0050】
そこで、目標とする各錫濃度を達成するために必要となる錫量の値から錫のモル数が定まれば、上記の化学量論比に従って、反応に必要なメタンスルホン酸のモル数が定まる。このように定まった必要なメタンスルホン酸のモル数に対して、1.0倍のモル数のメタンスルホン酸を使用するときに、本願では、使用するメタンスルホン酸量をMSA1.0倍と表記することがある。同様に、上記の溶解反応において、化学量論比に従って必要となるメタンスルホン酸のモル数に対して、1.1倍のモル数のメタンスルホン酸を使用するときに、本願では、使用するメタンスルホン酸量をMSA1.1倍と表記することがある。これらのMSA1.0倍、MSA1.1倍等を総称して、本願では、MSA n倍と表記することがある。
【0051】
目標とする各錫濃度を達成するために必要となる錫量に対応して設定される上記のMSA量について、必要となる錫量のそれぞれに対して複数のMSA量を設定して、それぞれのMSA量の値を用いた場合に、酸化第一錫がどのように溶解するかを検討した。設定した各MSA量(例えば、MSA1.0倍、MSA1.1倍等)に相当するMSA量を算出した。
例えば、錫量30gに対してMSA1.0倍とする場合、MSAの溶液の濃度が68%である場合に比重が1.38となり、錫原子量118.7、MSA分子量96.1であるから、MSAの溶液の投入量は、30.0g÷118.7×192.2÷1.38÷0.98×1.0=51.76mL→約51.8mLと算出される。
【0052】
[純水添加量の決定]
上記の手順によって算出された、投入すべき酸化第一錫粉末の各質量、使用されるべきMSAの液体の各体積に加えて、上記の目標とする各錫濃度を達成するためには、適宜、純水の添加が必要となった。この純水の添加にあたっては、100mLからMSAの液体の各体積を引いた値を、純水添加量の最大値の概算としていったん算出しておき、酸化第一錫の投入に先立って、使用される純水の大部分を予めMSAを液体へ混合して使用し、さらに酸化第一錫の投入後に最終的に100mLとなるようにメスアップして調整することで、反応後の溶液を所定の体積(100mL)とした。
【0053】
[溶解の操作]
所定の体積のMSAの液体へ、純水を適宜添加した後に自然冷却で約30℃とした。
このMSA水溶液へ、所定の質量の酸化第一錫粉末を順に添加しながら攪拌して、全体で3分間をかけて溶解した。この間の温度は約30~50℃の範囲へ維持されていた。黒色の酸化第一錫粉末が、全量溶解すれば、その時点で溶解終了時間とした。3分間をかけても溶解しなかった場合にも、さらに溶解操作を継続して、5分間の経過時に溶解操作の終了であることとした。
溶解操作の終了後に、メタンスルホン酸錫溶液(MSA-Sn溶液)を回収して、適宜純水を添加してメスアップし、規定液量(100mL)へと調整した。得られた規定液量のメタンスルホン酸錫溶液について、ヨウ素でんぷん反応による酸化還元滴定で錫濃度(Sn2+イオン濃度)を測定した。
【0054】
[例2:高濃度のメタンスルホン酸水溶液した酸化第一錫の溶解による高濃度メタンスルホン酸錫溶液の調整]
例1で用いたメタンスルホン酸水溶液に代えて、より高濃度のメタンスルホン酸水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級、メタンスルホン酸濃度98質量%)を使用して、MSA1.03倍となる条件で、同様に実験を行った。
【0055】
[例1及び例2による結果]
例1及び例2の実験によって得られた結果を、
図1~
図7に示す。グラフの各点は、上記の手順によって設定した酸化第一錫粉末の使用量、メタンスルホン酸の使用量の組みあわせによる溶解実験によって得られた測定値を示している。
図1~
図7のグラフの横軸は、投入した酸化第一錫粉末の全量が溶解するとして計算した溶液中のSn
2+イオン濃度[g/L]である。
図1~
図7のグラフの縦軸は、実際に得られた溶液を滴定して測定したSn
2+イオン濃度[g/L]である。例えば、
図1に記載されたMSA1.03倍とは、上述したメタンスルホン酸量においてMSA1.03倍量の場合を意味し、投入した酸化第一錫がメタンスルホン酸と反応してメタンスルホン酸錫となる場合の化学量論比から必要となるメタンスルホン酸のモル数に対して、1.03倍のモル数のメタンスルホン酸が使用された場合を意味する。MSA1.5倍、MSA2.0倍、MSA2.5倍、MSA3.0倍も同様である。
図3に記載された98%MSA1.03倍とあるデータは、例2によって高濃度(98質量%)のメタンスルホン酸濃度で実験を行った場合の結果であり、特に記載のないデータは、いずれも例1によって実験を行った場合の結果である。
図1~
図7では、対比のために、比較例のデータについてはいずれも同内容を記載している。
【0056】
図1のグラフからわかるように、MSA1.03倍とした場合には、メタンスルホン酸水溶液中に投入した酸化第一錫は、投入した全量がそのまま溶解して、450[g/L]にまで至る高濃度のSn
2+イオン濃度のメタンスルホン酸錫水溶液が得られた。この結果は、
図3のグラフからわかるように、例2によって98質量%の高濃度MSAを用いた場合(98%MSA1.03倍)においても、同様であった。また、
図2、
図6、
図7のグラフからわかるように、例1において、MSA1.11倍とした場合、MSA1.3倍とした場合、MSA1.4倍とした場合においても、同様であった。さらに、
図4のグラフからわかるように、例1において、MSA1.01倍とした場合には、特に優れた溶解性を示していた。また、
図5のグラフからわかるように、例1において、MSA1.05倍とした場合においても、同様であった。
【0057】
一方で、
図1~
図7のグラフからわかるように、MSA1.5倍とした場合には、メタンスルホン酸水溶液中に投入した酸化第一錫は、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が300[g/L]付近までは投入した全量がそのまま溶解していたが、それを超えるとむしろ溶解しなくなるばかりか溶解量が減少して、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が400[g/L]付近となるまで投入するとメタンスルホン酸錫水溶液のSn
2+イオン濃度は50[g/L]程度にまで減少した。
【0058】
また、
図1~
図7のグラフからわかるように、MSA2.0倍とした場合には、メタンスルホン酸水溶液中に投入した酸化第一錫は、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が200[g/L]付近までは投入した全量がそのまま溶解していたが、それを超えるとむしろ溶解しなくなるばかりか溶解量が減少して、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が300[g/L]付近となるまで投入するとメタンスルホン酸錫水溶液のSn
2+イオン濃度は50[g/L]程度にまで減少した。
【0059】
図1~
図7のグラフからわかるように、MSA2.5倍とした場合にも、メタンスルホン酸水溶液中に投入した酸化第一錫は、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が200[g/L]付近までは投入した全量がそのまま溶解していたが、それを超えるとむしろ溶解しなくなるばかりか溶解量が減少して、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が230[g/L]付近となるまで投入するとメタンスルホン酸錫水溶液のSn
2+イオン濃度は100[g/L]程度にまで減少した。
【0060】
図1~
図7のグラフからわかるように、MSA3.0倍とした場合には、メタンスルホン酸水溶液中に投入した酸化第一錫は、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が100[g/L]付近までは投入した全量がそのまま溶解していたが、それを超えるとむしろ溶解しなくなるばかりか溶解量が減少して、投入量から予想されるSn
2+イオン濃度が190[g/L]付近となるまで投入するとメタンスルホン酸錫水溶液のSn
2+イオン濃度は
40[g/L]程度にまで減少した。
【0061】
酸化第一錫はメタンスルホン酸錫水溶液を溶媒として溶解するのであるから、一定量の水溶液に溶解する酸化第一錫を増加させるためには、化学量論比として必要となるモル数よりもメタンスルホン酸錫を過剰量に用意することで、十分な酸化第一錫の溶解が期待できるはずであると実験前には予想された。ところが、この予想に反して、十分な過剰量のメタンスルホン酸の存在は、むしろ酸化第一錫の溶解を阻害してしまい、より少ない酸化第一錫の投入によって得られるSn2+イオン濃度よりも、むしろ低いSn2+イオン濃度しか達成できなくなること、高いSn2+イオン濃度を達成するためにはむしろ化学量論比における当量を満たした上でできるだけそれに近い量となるようにメタンスルホン酸錫濃度を低く維持することが望ましいこと、そして例えばMSA1.03倍という低いメタンスルホン酸錫濃度を採用すると、Sn2+イオン濃度:450[g/L]という高濃度を容易に達成できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、錫イオン補給用に好適に使用可能な酸化第一錫溶液であって、高い錫イオン濃度を有する酸化第一錫溶液を提供することができる。本発明は産業上有用な発明である。