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  • 特許-透明導電膜の製造方法および透明導電膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】透明導電膜の製造方法および透明導電膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20230608BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20230608BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20230608BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230608BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230608BHJP
【FI】
H01B13/00 503B
H01B1/24 A
H01B1/04
H01B5/14 A
B82Y40/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019008664
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020119707
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岸 直希
(72)【発明者】
【氏名】小澤 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】大曽根 淳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】曽我 哲夫
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137088(JP,A)
【文献】特開2007-254212(JP,A)
【文献】特開2015-210955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 1/24
H01B 1/04
H01B 5/14
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと1-シクロヘキシル-2-ピロリドンからなる分散液を用いた透明導電膜の製造方法において、分散液の調製温度が0~30℃であり、調製後の保存温度が0~20℃であり、前記カーボンナノチューブの濃度が0.25重量%~0.30重量%であることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記保存温度の変化幅は3℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは単層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
成膜法はバーコーティング法、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法及びスロットダイコーティング法からなる群から選択される少なくても1種類であることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載の透明導電膜の製造方法において、さらに前記透明導電膜に正孔ドープを行うことを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液を用いたカーボンナノチューブの透明導電膜の製造方法および透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のタッチパネル、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの市場拡大もあり、これらの素子に用いる透明導電膜が重要技術となっている。
【0003】
このため、カーボンナノチューブやグラフェン等の炭素材料を用いた透明導電膜の開発が活発になっている。カーボンナノチューブを含有する透明導電膜が知られている。カーボンナノチューブ透明導電材料は、従来の酸化物系透明導電膜に比べ耐屈曲性に優れるため、特にフレキシブルデバイス用途への展開が期待されている。
【0004】
出願人は、特許文献1において、分散剤除去プロセスの必要ないカーボンナノチューブの透明導電膜の製造方法とその製造法よる透明導電膜を開示しているが、製造方法の初期の工程である分散液の調製や、その後の分散液の保存については改善の余地を残していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-137088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分散液の調製時にはカーボンナノチューブの凝集を抑制し、調製後の保存では透明導電膜の成膜に適し保存性に優れた分散液による透明導電膜の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)カーボンナノチューブと1-シクロヘキシル-2-ピロリドンからなる分散液を用いた透明導電膜の製造方法において、分散液の調製温度と調製後の保存温度が室温未満以下であることを特徴とする透明導電膜の製造方法である。
なお、室温とは、30℃に対して温度の変化を考慮した30℃以上の適宜な温度のことである。
(2)前記調製温度が0~30℃、前記保存温度が0~20℃であることを特徴とする(1)に記載の透明導電膜の製造方法である。
ただし、温度の調節・管理上、調製温度と保存温度の上限と下限について、上限を例えば1℃上回る場合や、下限を例えば1℃下回る場合なども含む。
(3)前記保存温度の変化幅は3℃以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の透明導電膜の製造方法である。
(4)前記カーボンナノチューブの濃度は0.20重量%超~0.30重量%であることを特徴とする(1)~(3)の何れか1つに記載の透明導電膜の製造方法である。
(5)前記カーボンナノチューブは単層であることを特徴とする(1)~(4)の何れか1つに記載の透明導電膜の製造方法である。
(6)成膜法はバーコーティング法、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法及びスロットダイコーティング法からなる群から選択される少なくても1種類であることを特徴とする(1)~(5)の何れか1つに記載の透明導電膜の製造方法である。
(7)(1)~(6)の何れか1つに記載の透明導電膜の製造方法において、さらに前記透明導電膜に正孔ドープを行うことを特徴とする透明導電膜の製造方法である。
(8)(1)~(7)何れか1つに記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする透明導電膜である。
【発明の効果】
【0008】
本発明による分散液の製造方法によれば、分散液の調製時にはカーボンナノチューブの凝集を抑制し、調製後の保存では透明導電膜の成膜に適し保存性に優れた分散液による透明導電膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一つの実施態様である透明導電膜を、ガラス基板上に成膜したものを示した図である。
図2】調製した分散液の単層カーボンナノチューブの濃度と粘度の関係を示した図である。
図3】ガラス基板上に成膜した透明導電膜に通電して、LEDが点燈する様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
図1に示すように、本発明の透明導電膜(1)は、基板として用いたガラス基板(2)上に均一に成膜されている。また、透明導電膜(1)は後述するように、ガラス基板(2)に近い透明性を有している。ガラス基板(2)への透明導電膜(1)の成膜は、透明導電膜(1)の分散液をガラス基板(2)に、例えばバーコーターを使用して塗布することによって行う。
【0012】
分散液の製造方法において、その初期の工程として、分散液の調製の工程と分散液の保存の工程がある。出願人はそれらの工程において、温度管理を行うことにより、カーボンナノチューブの凝集を抑制した保存性の優れた分散液とし、透明導電膜の成膜に適した分散液となることを見出して、本発明を完成した。
【0013】
まず、分散液の調製(以下、「作製」と言う場合がある)は、カーボンナノチューブと1-シクロヘキシル-2-ピロリドンを含む混合液とし、続いて超音波処理を施すことによって行う。ここで、分散液を調製するとき、温度管理としてその調製温度の上限は、分散過程において同時に発生する再凝集を抑制するため室温未満以下である。一方、下限は1-シクロヘキシル-2-ピロリドンが凍結しない0℃である。
【0014】
さらに、再凝集を防ぎ成膜に適した分散状態とするには調製温度は0~30℃が好ましく、0~25℃がさらに好ましい。そのように温度管理をすることによって、混合液中でブラウン運動を行っているカーボンナノチューブ同士が絡まり合い再凝集することを抑制し、透明導電膜の成膜に適した分散液になると考えられる。
【0015】
ついで、分散液の保存は、調製した分散液を所定の容器に収めて保存することになるが、その保存時にも、調製時と同様に、混合液中でもカーボンナノチューブ同士が絡まり合い再凝集することを防ぐため、保存温度に対して温度管理することが重要である。
【0016】
温度管理として保存温度の上限は、保存時における再凝集を防ぐため室温未満以下である。一方、下限は1-シクロヘキシル-2-ピロリドンが凍結しない0℃である。さらに、保存温度としては、再凝集を防ぎ、成膜に適した粘度を維持するために、0~20℃が好ましく、0~10℃がさらに好ましい。
【0017】
一方、調製した分散液の保存温度の変化幅は、保存状態を維持するため、3℃以下が好ましく、2℃以下がより好ましく、1℃以下がさらに好ましい。
【0018】
分散液中のカーボンナノチューブの濃度は、成膜に適した粘度を得るため0.2重量%超~0.3重量%(以下、単に「%」と言う場合がある)であることが好ましい。
【0019】
カーボンナノチューブの種類としては、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブが挙げられる。分散液は、どの種類のカーボンナノチューブでも使用することができるが、透明導電膜としてのシート抵抗が小さく、一般的に供給されている観点から、単層カーボンナノチューブが好ましい。
基板の材質としてはガラス、合成樹脂等が挙げられる。このうち合成樹脂としてはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0020】
成膜方法としては、バーコーティング法、スピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法及びスロットダイコーティング法等がある。直接広い面に塗布することができ、汎用的なウェットプロセス機器を利用することができるため、バーコーティング法が好ましい。またバーコーティング法は、連続量産方法であるロールツーロール法に適用が可能である。
【0021】
透明導電膜の導電性を高めるため、透明導電膜に正孔ドープを行うことが好ましい。正孔ドープは、正孔ドープ剤となる化合物を適宜な溶媒に溶解した溶液に、例えば透明導電膜を浸漬し、その後乾燥することによって行うことができる。正孔ドープ剤となる化合物としては、テトラシアノキノジメタンなどの電子受容性の高い有機分子および硝酸をはじめとする酸等があるが、正孔ドーピングの効果と安定性の観点から、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(Tetrafluorotetracyanoquinodimethane、F4TCNQ)が好ましい。
【実施例
【0022】
(分散液の調製)
表1は、1-シクロヘキシル-2-ピロリドンに単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン製)を加えて混合し、超音波処理を行う分散液の調製工程について、調製時の条件(分散液容器すなわち分散液の温度、単層カーボンナノチューブ濃度)とその結果(分散液の凝集の状態、成膜の状態)まとめたものである。
表1では、温度管理を行ったもので単層カーボンナノチューブ濃度0.25%(分散液1、実施例1)、温度管理を行わなかったもので単層カーボンナノチューブ濃度0.15%(比較例1)、温度管理を行わなかったもので単層カーボンナノチューブ濃度0.25%(比較例2)を示した。
【0023】
【表1】
【0024】
表1から以下のことが分かった。すなわち単層カーボンナノチューブ濃度が0.25%で温度管理を行った分散液は、凝集が少ない調製(作製)が可能で、成膜は均一な成膜が可能であった。一方、単層カーボンナノチューブ濃度が0.25%であっても、温度管理を行わなかった分散液(比較例2)は、分散液については凝集が進み、均一な成膜ができなかった。また、単層カーボンナノチューブ濃度が0.15%で、温度管理を行わなかった分散液(比較例1)では、ほぼ均一な薄膜が得られていた。しかしながら部分的に膜厚が不均一となることがあった。
【0025】
(分散液の保存)
表2は、分散液1を用いて、調製後の保存温度の条件とその結果をまとめたものである。表2は保存期間が0~18日(最長)であり、分散液の保存温度をそれぞれ0℃(-1~1℃)(実施例2)、5℃(4~6℃)(実施例3)、10℃(9~11℃)(実施例4)、15℃(14~16℃)(実施例5)、20℃(19~21℃)(実施例6)、30℃(29~31℃)(比較例3)で温度管理を行った。成膜はガラス基板上に巻き線径75μmのワイヤーバーを用いたバーコーティング法により行い、コーティング後120℃10分間の加熱処理を行った。
【0026】
【表2】
【0027】
表2において、成膜の欄に記載の「〇」は「均一に成膜されていた」こと、「△」は「成膜できていない領域が存在していた」こと、「×」は「部分的にしか成膜できていなかった」ことをそれぞれ表す。
【0028】
表2から次のことが分かった。すなわち温度管理(0℃、5℃、10℃:実施例2、3、4)した場合は、分散液作製後18日でも均一に成膜が可能であった。また、15℃で温度管理した場合(実施例5)では、12日後は均一に成膜ができており、18日後でも「均一に成膜されていた」~「成膜できていない領域が存在していた」であった。20℃で温度管理した場合(実施例5)は、5日経過後で均一な成膜が可能であり、8日経過後で「成膜できていない領域が存在していた」であった。一方、30℃で温度管理した場合(比較例3)では、2日後にすでに成膜できていない領域が存在しており、3日後では「部分的にしか成膜できていなかった」であった。
【0029】
表3は、分散液の調製(作製)時・保存時の温度管理を行って、分散液中の単層カーボンナノチューブ濃度を0.15%(参考比較例1)、0.20%(参考比較例1)、0.25%(分散液1、実施例1)、0.30%(分散液2、実施例7)、0.32%(参考比較例3)、0.35%(参考比較例4)として分散液を用意し、それらの分散液の分散や凝集、及びそれらの分散液による成膜性を調べた結果である。成膜はガラス基板上に巻き線径75μmのワイヤーバーを用いたバーコーティング法により行い、コーティング後120℃10分間の加熱処理を行った。その結果、最適なカーボンナノチューブ濃度は0.25%~0.30%であることが分かった。
なお、調製時の温度は分散開始時8℃、分散終了時25℃であり、調整後すぐに成膜を行った。
【0030】
【表3】
【0031】
分散液の調製(作製)時・保存時の温度管理を行って、さらに分散液中の単層カーボンナノチューブ濃度を0.10%(参考比較例5)とした分散液を用意した。それと分散液中の単層カーボンナノチューブ濃度0.15%(参考比較例1)、0.20%(参考比較例1)、0.25%(分散液1、実施例1)、0.30%(分散液2、実施例7)、0.32%(参考比較例3)、0.35%(参考比較例4)を用いて、分散液の粘度測定を行った。粘度測定は音叉型振動式粘度計を用いて行った。
その結果を図2に示す。図2から、単層カーボンナノチューブ濃度が0.20%~0.30%であるとき、分散液の粘度は45~70mPa・sであった。
【0032】
ガラス基板4上に調製した分散液1を滴下し、バーコーターを用いたバーコーティング法により、ガラス基板4上の透明導電膜1(実施例8)を成膜した。バーコーターのワイヤーバーの巻線の線径は250μmのものを用いた。ガラス基板5上の透明導電膜1にF4TCNQ(テトラフルオロテトラシアノキノジメタン)による正孔ドープを行い、その後乾燥して、ガラス基板上の正孔ドープした透明導電膜3(実施例9)を作製した。乾燥条件は120℃10分間であった。
【0033】
正孔ドープは、F4TCNQ(東京化成工業製)をエタノールに溶解して0.05%とした溶液を、ガラス基板上の透明導電膜1に滴下し、その後120℃10分間で乾燥することにより行った。滴下量は200μLとした。
【0034】
ガラス基板4上の透明導電膜1とガラス基板5上の正孔ドープした透明導電膜3?のそれぞれの光透過率とシート抵抗を測定したところ、表4のようになった。光透過については、波長550nmにおいて正孔ドープ処理前で85%、正孔ドープ処理後で82%と共に高い値であった。一方、シート抵抗については、正孔ドープ処理前で2400Ω/sq.であったものが、正孔ドープ処理後で450Ω/sq.となり、1/5以下の低い値を示した。
【0035】
【表4】
【0036】
表4の測定値について、光透過率の測定は、紫外可視近赤外分光光度計を用いて行った。また、シート抵抗の測定は四探針法により行った。
【0037】
図3に示したように、ガラス基板上の透明導電膜3の両端をクリップ5で挟み、可変抵抗8を介し電池7(約1.5V×3本)を電源として通電すると、LED6が青色に点燈した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
カーボンナノチューブの凝集を抑制し、透明導電膜の成膜に適した分散液により、フレキシブルデバイス用途へ展開可能なカーボンナノチューブについて、分散剤除去プロセスが不要な透明導電膜の製造方法として、本発明の利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1、3:透明導電膜
2、4、5:ガラス基板
5:クリップ
6:LED
7:電池
8:可変抵抗
図1
図2
図3