(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-07
(45)【発行日】2023-06-15
(54)【発明の名称】有機修飾金属酸化物ナノ粒子、その製造方法、EUVフォトレジスト材料およびエッチングマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20230608BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20230608BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230608BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230608BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230608BHJP
【FI】
C01G25/00
G03F7/004 ZNM
G03F7/20 503
G03F7/20 521
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2021566862
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040226
(87)【国際公開番号】W WO2021131299
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2019233067
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】陶 究
(72)【発明者】
【氏名】片岡 ▲祥▼
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216858(JP,A)
【文献】特開2017-147314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004 - 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の金属と、前記複数個の金属に結合した複数の酸素とを備えるコアと、
前記コアに配位している飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である第一修飾基と、
前記コアに配位し、前記第一修飾基よりサイズが小さい無機陰イオンおよび/または前記第一修飾基より分子量が小さい飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である第二修飾基と、
を有
し、
一般式M
6
O
4
(OH)
4
X
n
Y
12-n
で表され、金属が酸素で架橋された構造をコアに持つ、有機修飾金属酸化物ナノ粒子。
(ただし、Mは前記金属であって、Zr、Hf、およびTiから選択される一種以上であり、Xは前記第一修飾基で、Yは前記第二修飾基で、1≦n≦11である。)
【請求項2】
前記第一修飾基が、炭素数3以上の飽和カルボン酸カルボキシレート配位子であり、
前記第二修飾基が、硝酸イオンおよび/または酢酸カルボキシレート配位子である、請求項1に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子。
【請求項3】
前記金属がZrである、請求項1
又は2に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子と、溶媒とを含有するEUVフォトレジスト材料。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法であって、
オキシ硝酸金属および/またはオキシ酢酸金属と飽和カルボン酸を、親水性液体中で反応させる反応工程を有する、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記飽和カルボン酸が、イソ酪酸であり、
前記反応工程は、オキシ硝酸金属および/またはオキシ酢酸金属とイソ酪酸とを、親水性液体中で反応させる、請求項
5に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程が大気雰囲気下で行われる、請求項
6に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記オキシ硝酸金属がオキシ硝酸ジルコニウムであり、前記オキシ酢酸金属がオキシ酢酸ジルコニウムである、請求項
5または
6に記載の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
被エッチング層上に請求項
4に記載のEUVフォトレジスト材料を塗布し、乾燥させてレジスト膜を得る成膜工程と、
前記レジスト膜に所定のパターンでEUV光を照射する露光工程と、
前記露光工程でEUV光を照射していない部分を除去してエッチング開口部を形成する現像工程と、
を有するエッチングマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセス等で用いられるフォトレジスト材料に使用できる有機修飾金属酸化物ナノ粒子、その製造方法、EUVフォトレジスト材料およびエッチングマスクの製造方法に関する。
本願は、2019年12月24日に、日本に出願された特願2019-233067号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
最近、半導体の回路パターンの細線化が進み、極端紫外光(EUV光)を利用したリソグラフィーの研究開発が加速している。パターンの細線化にともない、パターン形成に用いるレジスト膜が薄くなっている。このため、エッチング時の耐性を備えるレジスト材料が求められている。エッチング耐性を備えるレジスト材料として、金属酸化物などの無機物と有機物の複合材料が検討されている。
【0003】
メタクリル酸等の不飽和カルボン酸で有機修飾されたジルコニウムやハフニウムなどの金属の酸化物のナノ粒子をネガ型のレジスト材料に用いる方法が提案されている(特許文献1および特許文献2)。この金属酸化物のナノ粒子は金属酸化物をコアに持つため、この金属酸化物のナノ粒子を含むレジスト材料は、有機物のレジスト材料と比較してエッチング時の耐性が高いこと、さらに、メタクリル酸の反応性が高いためEUV光に対する感度が高いことが特徴である。また、この金属酸化物のナノ粒子の構造の対称性が高いため、この金属酸化物のナノ粒子を含むレジスト材料の現像時に、金属酸化物のナノ粒子がウェハ上に不溶解物として残存する可能性が低い。
【0004】
また、ジルコニウムやハフニウムなどの金属とメタクリル酸などのカルボン酸に代表される有機物の錯体(単量体や塩)をレジスト材料に用いる方法も提案されている(特許文献3から特許文献5)。このレジスト材料は、有機物の錯体自体のサイズが小さいため、ナノ粒子コアを含むレジスト材料と比較して細線化に適している。しかしながら、このレジスト材料は、ナノ粒子をコアとしたレジスト材料と比べて、形成した膜中の有機物の割合が高くなる。このため、このレジスト材料は、エッチング時の耐性が低い。さらに、この有機物の錯体の構造の対称性が低いため、この有機物の錯体を含むレジスト材料の現像時に、有機物の錯体がウェハ上に不溶解物として残存する可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-173537号公報
【文献】特開2015-157807号公報
【文献】特開2015-108781号公報
【文献】特開2012-185484号公報
【文献】特開2001-72716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記をふまえると、コア径を極力小さく制御した有機修飾金属酸化物ナノ粒子の合成が、細線パターンを形成するレジスト材料の開発に重要となる。通常、コア径が小さい有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、極低湿度環境で、ジルコニウム等の金属のアルコキシドとメタクリル酸等の有機物を、非水溶媒中で混合して製造する。しかしながら、アルコキシドが安価ではない上、極低湿度環境を実現するために高価なグローブボックス等の設備導入とその維持が必要である。このため、コア径が小さい有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、製造コストに課題がある。
【0007】
さらに、レジスト材料のEUV露光時の反応機構については、カルボン酸を使用した際は脱炭酸が進行していることは分かってきているものの詳細な機構や露光操作における重要な因子が必ずしも明らかになっておらず、レジスト材料による解像度と感度の制御法の確立が求められている。感度については、材料自体とレジスト液への添加剤などの反応などを利用したり、現像液に適切な溶媒を選定したりすることで高めることは可能である。一方で解像度は材料自体のサイズや構造に大きく左右される。
また、一方で、成膜後にはレジスト液に含まれていた溶媒除去のために加熱乾燥操作を必要とする。メタクリル酸等の不飽和カルボン酸は重合しやすいため、感度は高いものの全体のプロセスを考えた場合、成膜後の安定性が低下することから、必ずしも適しているとは言えない。一種類の不飽和カルボン酸のみを配位子とした場合、脱炭酸や重合などにより体積収縮、局所的な粒子凝集が起こりやすいため、線幅にばらつきを生じ、結果として解像度の低下を招く。材料自体の構造制御、より具体的には、不飽和結合を持たないカルボン酸を含む複数の配位子による修飾とその組成制御によって、レジスト液へのナノ粒子の溶解性を維持しつつ、解像度と感度の調整が達成できれば、より多角的なレジスト材料の調整方法の検討が可能となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、簡易な方法で製造でき、レジスト材料の解像度や感度を高めることができる有機修飾金属酸化物ナノ粒子、その製造方法、EUVフォトレジスト材料およびエッチングマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
レジスト材料にEUV光を照射したときに、このレジスト材料に含まれる金属酸化物とカルボン酸などの配位子から構成される有機修飾金属酸化物ナノ粒子の反応性、つまり感度と、形成されたレジストパターンの解像度は、ナノ粒子コアの構成元素と配位するカルボン酸等の配位子の種類、構成元素やサイズ、分子量によって大きく異なる。本発明者らは、第一修飾基としてレジスト液や現像液用溶媒への親和性(溶解性)が高い飽和カルボン酸、第二修飾基として第一修飾基よりサイズ(分子量)が小さい配位子(例えば無機陰イオン)といった少なくとも2種類の修飾基を金属酸化物コア部に配位させることで、加熱乾燥時の配位子の重合を回避しつつ、成膜時により密に個々の有機修飾金属酸化物ナノ粒子を充填した膜を形成させることにより、EUV光照射時の体積収縮や粒子凝集などによって生じるばらつき、すなわち膜内の構造分布を抑制することができ、レジスト膜の解像度が向上することを見出した。
【0010】
また、EUV光照射時の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の反応性は、配位子の構造や種類に大きく依存する。本発明者らは、修飾基を2種類以上とし、第一修飾基で必要とされるナノ粒子のレジスト液への高溶解性やEUV光照射後におけるEUV非照射部の現像液用溶媒への高溶解性を保持し、第二修飾基で粒子間距離をより密に維持しつつEUV光照射後のEUV照射部の現像液用溶媒への低溶解性を保持し、これら配位子の組成を適切に制御することで、EUV光に対するレジスト膜の高感度、換言すればEUV光照射後のEUV照射部の現像液への低溶解性を発現できることを見出した。
【0011】
本発明の有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、複数個の金属と、複数個の金属に結合した複数の酸素とを備えるコアと、コアに配位している飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である第一修飾基と、コアに配位し、第一修飾基よりサイズが小さい無機陰イオンおよび/または第一修飾基より分子量が小さい飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である第二修飾基とを有する。本発明のEUVフォトレジスト材料は、本発明の有機修飾金属酸化物ナノ粒子と、溶媒を含有する。
【0012】
本発明の有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、オキシ硝酸金属および/またはオキシ酢酸金属と飽和カルボン酸を、親水性液体中で反応させる反応工程を有する。本発明のエッチングマスクの製造方法は、被エッチング層上に本発明のEUVフォトレジスト材料を塗布し、乾燥させてレジスト膜を得る成膜工程と、レジスト膜に所定のパターンでEUVを照射する露光工程と、露光工程でEUVを照射していない部分を除去してエッチング開口部を形成する現像工程とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機修飾金属酸化物ナノ粒子、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法、およびEUVフォトレジスト材料によれば、簡易な方法で製造でき、解像度や感度が高いレジスト材料が得られる。また、本発明のエッチングマスクの製造方法によれば、マスクの細線化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1で得られたシリコンウェハーのSEM画像である。
【
図2】
図2は、比較例1で得られたシリコンウェハーのSEM画像である。
【
図3】
図3は、実施例1の成膜時と加熱乾燥及びEUV露光時における、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の状態の変化を示す模式図である。
【
図4】
図4は、比較例1の成膜時と加熱乾燥及びEUV露光時における、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の状態の変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。
【0016】
本発明の実施形態に係る有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、コアと、第一修飾基と、第二修飾基とを備えている。コアは、複数個の金属と、複数個の金属に結合した複数の酸素とを有している。コアは、金属酸化物を含む。コアは、金属酸化物結晶に加えて、複数の金属が複数の酸素で架橋された構造のクラスターを含むことができる。また、コアは、クラスターで構成されるのが好ましい。金属酸化物結晶と金属酸化物クラスターは、金属と酸素の結合物である点で共通するが、金属酸化物結晶は個々の粒子が、それ自体で金属と酸素が三次元的に規則正しく並んで一定の大きさ(例えば3nm~4nm)を持って結晶構造を形成しており、一方、金属酸化物クラスターは個々の粒子が金属錯体構造を有する分子であり個別粒子自体は結晶構造を持たない点で異なる。複数個の金属は、同一種で構成されてもよいし、異種で構成されてもよい。第一修飾基は、コアに配位している飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である。第二修飾基は、コアに配位し、第一修飾基よりサイズが小さい無機陰イオンおよび/または第一修飾基より分子量が小さい飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である。
【0017】
有機修飾金属酸化物ナノ粒子が汎用のレジスト液用の溶媒であるプロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(PGMEA)に溶けやすく、かつEUV光を照射したときの有機修飾金属酸化物ナノ粒子の反応性が向上する観点からは、第一修飾基が、炭素数3以上の飽和カルボン酸カルボキシレート配位子であることが好ましく、イソ酪酸カルボキシレート配位子であることがより好ましい。なお、金属は、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、およびTi(チタン)から選択された一種以上であることが好ましく、Zrであることがより好ましい。第二修飾基は、硝酸イオンおよび/または酢酸カルボキシレート配位子であることが好ましい。
【0018】
第一修飾基は、イソ酪酸カルボキシレート配位子に限らず、酪酸カルボキシレート配位子、吉草酸カルボキシレート配位子、カプロン酸カルボキシレート配位子等の他の飽和カルボン酸カルボキシレート配位子であってもよい。
また、第二修飾基が、第一修飾基よりサイズが小さい無機陰イオンである場合、当該第二修飾基は、硝酸イオンに限らず、塩化物イオン、水酸化物イオン等の他の無機陰イオンであってもよい。第二修飾基が、第一修飾基より分子量が小さい飽和カルボン酸カルボキシレート配位子である場合、当該第二修飾基は、酢酸カルボキシレート配位子に限らず、ギ酸カルボキシレート配位子、プロピオン酸カルボキシレート配位子等の他の飽和カルボン酸カルボキシレート配位子であってもよい。
【0019】
本実施形態の有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、一般式M6O4(OH)4XnY12-nで表され、金属が酸素で架橋された構造をコアに持つことが好ましい。ここで、Mは金属であって、Zr、Hf、およびTiから選択された一種以上であり、Xは第一修飾基で、Yは第二修飾基で、1≦n≦11である。また、XとYの割合を表し、X/(X+Y)×100で規定されるZが、5mоl%≦Z≦95mоl%の関係を満たすことが好ましい。
【0020】
第一修飾基の一例であるイソ酪酸カルボキシレート配位子のサイズは、約0.53nmであり、第二修飾基の一例である硝酸イオンのサイズは、約0.33nmである。第一修飾基、第二修飾基のそれぞれのサイズは、例えば3D分子モデル描画ソフトで当該分子を作製し、両端原子間の距離から求めることができる。上記値を比較することで、上記第二修飾基である無機陰イオンのサイズが、上記第一修飾基であるカルボン酸カルボキシレート配位子のサイズよりも小さいことを確認することができる。
【0021】
本発明の実施形態に係るEUVフォトレジスト材料は、本実施形態の有機修飾金属酸化物ナノ粒子と、溶媒を含有する。溶媒としては、酢酸ブチル、PGMEA、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。本実施形態のEUVフォトレジスト材料は、カルボン酸などの分散剤や安定剤や光酸発生剤などの光応答剤等をさらに含有していてもよい。
【0022】
本発明の実施形態に係る有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、オキシ硝酸金属および/またはオキシ酢酸金属と飽和カルボン酸を、親水性液体中で反応させる反応工程を有する。飽和カルボン酸は、イソ酪酸が好ましい。但し、酪酸、吉草酸、カプロン酸等の他の飽和カルボン酸であってもよい。親水性液体としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトンなどが挙げられる。反応工程は大気雰囲気下で行うことができる。このため、極低湿度環境を実現するための設備が不要である。
【0023】
オキシ硝酸金属を用いる有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法の一例を記載する。オキシ硝酸金属の水溶液にイソ酪酸を加え、必要に応じて攪拌し、生成したナノ粒子を分離回収し、乾燥させる。こうして、簡易な方法で本実施形態の有機修飾金属酸化物ナノ粒子が得られる。Xがイソ酪酸カルボキシレートであり、Yが硝酸イオンであるとき、有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、50mоl%≦Z≦90mоl%の関係を満たすことが好ましい。また、オキシ硝酸金属がオキシ硝酸ジルコニウムであることが好ましい。
【0024】
また、オキシ酢酸金属を用いる有機修飾金属酸化物ナノ粒子の製造方法の一例を記載する。オキシ酢酸金属の水溶液にイソ酪酸を加え、必要に応じて攪拌し、生成したナノ粒子を分離回収し、乾燥させる。こうして、簡易な方法で本実施形態の有機修飾金属酸化物ナノ粒子が得られる。Xがイソ酪酸カルボキシレートであり、Yが酢酸カルボキシレートであるとき、有機修飾金属酸化物ナノ粒子は、50mоl%≦Z≦90mоl%の関係を満たすことが好ましい。また、オキシ酢酸金属がオキシ酢酸ジルコニウムであることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係るエッチングマスクの製造方法は、成膜工程と、露光工程と、現像工程とを備えている。成膜工程では、被エッチング層上に本実施形態のEUVフォトレジスト材料を塗布し、乾燥させてレジスト膜を得る。被エッチング層の種類は特に制限がない。被エッチング層としては、シリコン層、シリコン酸化物層、またはシリコン窒化物層が例示できる。
【0026】
露光工程では、レジスト膜に所定のパターンでEUV光を照射する。現像工程では、露光工程でEUV光を照射していない部分を除去してエッチング開口部を形成する。現像工程では、例えば、酢酸ブチル等の現像液にレジスト膜を浸して、EUV光を照射しなかった部分を現像液に溶かして除去する。本実施形態のEUVフォトレジスト材料を用いることにより、エッチングマスクの線幅を、例えば20nm以下にできる。このため、マスクの細線化を図ることができ、被エッチング層の微細なエッチングが可能となる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
5M硝酸水溶液3mLにオキシ硝酸ジルコニウム1.2gを溶解させて、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液を調製した。このオキシ硝酸ジルコニウム水溶液2mLにイソ酪酸1mLを加えて、5分間攪拌した後、室温で5日間静置した。得られた生成物を分離回収し、室温で1日真空乾燥して白色粉末を得た。この白色粉末の元素分析(パーキンエルマー社製、装置名「全自動元素分析装置 2400II」)の結果、炭素および窒素の含有量はそれぞれ23.0wt%および3.3wt%であり、物質量比(いわゆるmol比)では、イソ酪酸:硝酸=66:34≒7.9:4.1であった。この白色粉末の熱重量分析(リガク社製、装置名「示差熱天秤 Thermo plus EVO2」)の結果、重量減少率は52%であった。さらに、この白色粉末のIR分析(日本分光社製、装置名「フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-4600」)の結果、イソ酪酸のカルボキシ基由来の吸収ピーク(1530cm-1および1430cm-1)が確認できた。
【0028】
PGMEA5.0gに、この白色粉末0.3gを溶解させた。遠心分離および孔径0.2μmのフィルターを用いて、溶解しなかった白色粉末を除去した。この除去後の溶液(EUV露光用溶液A)の動的光散乱分析(マルバーン社製、装置名「ゼータサイザーナノS」)の結果、この白色粉末の体積基準平均粒径は約2nmであった。この結果より、得られた白色粉末は、ジルコニウムと酸素で構成されるコアに対してイソ酪酸と硝酸が配位した有機修飾金属酸化物ナノ粒子であると確認できた。
【0029】
動的光散乱分析の結果から得られた粒径約2nmの値は、周囲の配位子を含んだ分散体の直径であることから、コアは、金属酸化物結晶ではなく、ジルコニウムが酸素で架橋したクラスターであることが確認できた。また、熱重量分析の結果から分析後の残存物(ZrO2)の割合は48%であった。IR分析、動的光散乱分析、元素分析、熱重量分析の結果から、白色粉末は、ZrO2換算含有率が46%であって、ジルコニウムが酸素で架橋された構造のクラスターZr6O4(OH)4(C4H7O2)7.9(NO3)4.1であることが確認できた。
【0030】
このEUV露光用溶液Aをシリコンウェハー上に滴下し、1500rpmで60秒間回転させて成膜し、その後、80℃で60秒間加熱してレジスト膜Aを得た。分光エリプソメーター(ホリバ・ジョバンイボン社製、装置名「UVISEL」)でレジスト膜Aの膜厚を測定したところ、約20nmであった。所定のパターンを通して、12mJ/cm2~76mJ/cm2の照射量でレジスト膜AをEUV露光した後(キヤノン社製、装置名「高NA微小領域EUV露光装置」)、酢酸ブチルに30秒間浸して現像し、レジスト膜AのEUV非照射部を除去した。
【0031】
現像後のシリコンウェハーをSEM観察した。照射量70mJ/cm
2でEUV露光したときの現像後のシリコンウェハーのSEM画像を
図1に示す。
図1に示すように、このシリコンウェハー(濃色部)上に残ったエッチングマスクである不溶化されたレジスト膜A(淡色部)の線幅は19nmであり、後述する比較例1と比べてレジスト膜Aの線幅が狭く、線幅のばらつきも小さく、解像度の高いナノパターニング形成が確認できた。
【0032】
(比較例1)
グローブボックス内で、85%ジルコニウムブトキシド1-ブタノール溶液1.40gにメタクリル酸1.02gを加えて攪拌し、約3週間静置してZr6O4(OH)4(MAA)12の単結晶を得た。この単結晶を減圧濾過により回収し、室温で1日真空乾燥し、粉砕して白色粉末を得た。この白色粉末の元素分析の結果、炭素含有量は36wt%であった。この白色粉末の熱重量分析の結果、重量減少率は57%であった。
【0033】
また、この白色粉末のIR分析(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製、装置名「NICOLET 6700」)の結果、メタクリル酸のカルボキシ基由来の吸収ピーク(1558cm-1)およびC=Cの伸縮振動バンドの吸収ピーク(1647cm-1)と、ビニル基CHの面外変角振動バンドの吸収ピーク(827cm-1)が確認できた。さらに、この白色粉末のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS)(ブルカー社製、装置名「autoflex speed」)の結果、m/z1702が存在し、メタクリル酸が配位したジルコニア6量体分子量とほぼ一致した。以上より、得られた白色粉末が、Zr6O4(OH)4(MAA)12であることを確認できた。
【0034】
PGMEA3.0gに、この白色粉末0.09gを溶解させた。遠心分離および孔径0.45μmのフィルターを用いて、溶解しなかった白色粉末を除去した。この除去後の溶液の動的光散乱分析の結果、この白色粉末の体積基準平均粒径は約2nmであった。この結果より、得られた白色粉末は、ジルコニウムと酸素で構成されるコアに対してメタクリル酸が配位した有機修飾金属酸化物ナノ粒子であると確認できた。この溶液にPGMEAをさらに添加して倍希釈し、EUV露光用溶液Bを得た。シリコンウェハー上にEUV露光用溶液Bを滴下し、1500rpmで60秒間回転させて成膜し、その後、80℃で60秒間加熱してレジスト膜Bを得た。分光エリプソメーターでレジスト膜Bの膜厚を測定したところ、約20nmであった。
【0035】
所定のパターンを通して、28mJ/cm2~60mJ/cm2の照射量でレジスト膜BをEUV露光した後、酢酸ブチルに30秒間浸して現像し、レジスト膜BのEUV非照射部を除去した。
【0036】
現像後のシリコンウェハーをSEM観察した。照射量46mJ/cm
2でEUV露光したときの現像後のシリコンウェハーのSEM画像を
図2に示す。
図2に示すように、このシリコンウェハー(濃色部)上に残ったエッチングマスクである不溶化されたレジスト膜B(淡色部)の線幅は21nmであり、線幅に大きなばらつきが見られた。
【0037】
図3は、実施例1の成膜時と加熱乾燥及びEUV露光時における、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の状態の変化を示す模式図である。実施例1では、ジルコニウムと酸素で構成されるコアに対して、第一修飾基であるイソ酪酸と第二修飾基である硝酸とが配位した有機修飾金属酸化物ナノ粒子が得られた。本構成を有するナノ粒子では、飽和カルボン酸であるイソ酪酸と無機陰イオンである硝酸とがコアに配位しているため、レジスト膜Aの成膜時に、有機修飾金属酸化物ナノ粒子が密に且つほぼ均一に充填される。このため、成膜後のレジスト液に含まれていた溶媒除去のための加熱乾燥時に配位子の重合が起こり難く、その後のEUV露光時において、配位子が分解した際の粒子凝集等に因る膜内の粒子充填構造の乱れが少ないと推察される。よって、解像度の高いナノパターンが形成されたと考えられる。
【0038】
また、第一修飾基であるイソ酪酸は、EUV露光用溶液Aにおける有機修飾金属酸化物ナノ粒子のレジスト液への高溶解性や、EUV露光後におけるEUV非照射部の酢酸ブチルへの高溶解性に寄与する。また、第二修飾基である硝酸は、隣接する有機修飾金属酸化物ナノ粒子の粒子間距離を小さく保つことでナノ粒子の密な粒子充填構造の維持に寄与し、加えてEUV露光後におけるEUV照射部の酢酸ブチルへの低溶解性に寄与すると推察される。実施例1では、2種類の配位子であるイソ酪酸及び硝酸の適切な組成(Z=65.8mol%)により、比較例1と同程度か或いはそれ以上の高感度が発現されたと考えられる。
【0039】
図4は、比較例1の成膜時と加熱乾燥及びEUV露光時における、有機修飾金属酸化物ナノ粒子の状態の変化を示す模式図である。比較例1では、ジルコニウムと酸素で構成されるコアに対して、メタクリル酸が配位した有機修飾金属酸化物ナノ粒子が得られたと考えられる。本構成を有するナノ粒子では、不飽和カルボン酸であるメタクリル酸のみがコアに配位しているため、レジスト膜Bの成膜時に、有機修飾金属酸化物ナノ粒子が実施例1と比較して疎に充填される。よって、成膜後の加熱乾燥時のメタクリル酸の重合やEUV露光時の分解に因って体積収縮や粒子凝集が進行し、膜内の粒子充填構造にばらつきが生じたと推察される。その結果、解像度の低いナノパターンが形成されたと考えられる。